(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】励磁波形決定装置、モータ駆動装置、励磁波形決定方法、モータ駆動方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 23/04 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
H02P23/04 ZHV
(21)【出願番号】P 2023559414
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2022024809
(87)【国際公開番号】W WO2023084830
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021185783
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】上川畑 正仁
(72)【発明者】
【氏名】本間 励
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-27766(JP,A)
【文献】特開2020-48384(JP,A)
【文献】特表2006-515148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を決定する励磁波形決定装置であって、
前記励磁波形の1または複数の候補解を含む候補解群を設定する候補解設定部と、
前記候補解群に含まれる前記候補解を前記モータに供給した場合に前記モータのステータに生じる電磁力を、電磁界解析を実行することにより算出する電磁界解析部と、
前記電磁界解析部による前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記励磁波形を決定する励磁波形決定部と、
を備え、
前記候補解設定部は、
前記励磁波形の基本波を特定する情報である基本波条件、および前記基本波に重畳する高調波を特定する情報である高調波重畳条件に基づいて、初期の前記候補解群を設定する初期候補解設定部と、
入力された前記候補解群から新たな候補解群を設定する候補解更新部と、を有し、
前記励磁波形決定部は、前記初期の候補解群または前記新たな候補解群のうちから前記励磁波形を決定する励磁波形決定装置。
【請求項2】
前記励磁波形決定部は、
前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記候補解によって前記ステータに生じる電磁力の値を評価するための電磁力評価指標を含む評価指標の値を算出する評価部と、
前記評価部により算出された前記評価指標の値に基づいて、前記励磁波形を決定する決定部と、
を有する、請求項1に記載の励磁波形決定装置。
【請求項3】
前記電磁力評価指標は、前記電磁界解析部により算出された、前記候補解によって前記ステータに生じる電磁力である電磁力計算値と、前記基本波の励磁信号を前記モータのステータコイルに供給した場合に前記ステータに生じる電磁力である電磁力基準値と、の差を評価する指標である、請求項2に記載の励磁波形決定装置。
【請求項4】
前記電磁力基準値を、電磁界解析を実行することにより算出する基準値算出部をさらに備える、請求項3に記載の励磁波形決定装置。
【請求項5】
前記電磁界解析部は、前記電磁界解析を実行することにより、さらに、前記候補解群に含まれる前記励磁波形の前記候補解を前記モータのステータコイルに供給した場合に前記モータに生じるトルクを算出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の励磁波形決定装置。
【請求項6】
前記励磁波形決定部は、
前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記候補解によって前記モータに生じるトルクの値を評価するためのトルク評価指標を含む評価指標の値を算出する評価部と、
前記評価部により算出された前記評価指標の値に基づいて、前記励磁波形を決定する決定部と、を有し、
前記トルク評価指標は、前記電磁界解析部により算出された、前記候補解によって前記モータに生じるトルクであるトルク計算値と、前記基本波の励磁信号の振幅に対応するトルクであるトルク基準値と、の差を評価する指標である、請求項5に記載の励磁波形決定装置。
【請求項7】
前記高調波重畳条件は、前記高調波の次数を特定する情報である高調波次数を含み、
前記高調波次数をn(nは2以上の整数)とすると、前記初期の候補解群は、nおよびn未満の次数の高調波が基本波に重畳された前記候補解を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の励磁波形決定装置。
【請求項8】
前記候補解更新部は、メタヒューリスティックス手法により、前記新たな候補解を設定する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の励磁波形決定装置。
【請求項9】
前記電磁界解析部は、前記候補解群に含まれる前記候補解を前記モータのステータコイルに供給した場合に前記ステータに生じる電磁力を、電磁界解析を実行することによりそれぞれ算出することを、前記基本波条件ごとに実行し、
前記励磁波形決定部は、前記電磁界解析部による前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記励磁波形を決定することを、前記基本波条件ごとに実行する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の励磁波形決定装置。
【請求項10】
モータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータの運転時の運転条件を取得する運転条件取得部と、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の励磁波形決定装置により前記基本波条件ごとに決定された前記励磁波形を特定する情報のうち、前記運転条件取得部により取得された前記モータの運転時の運転条件に対応する前記励磁波形を特定する情報を取得する励磁波形取得部と、
前記励磁波形取得部により取得された前記励磁波形を特定する情報に基づいて、前記モータを励磁するための励磁信号を生成する励磁信号生成部と、
を備えるモータ駆動装置。
【請求項11】
モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を決定する励磁波形決定方法であって、
前記励磁波形の1または複数の候補解を含む候補解群を設定する候補解設定工程と、
前記候補解群に含まれる前記候補解を前記モータに供給した場合に前記モータのステータに生じる電磁力を、電磁界解析を実行することにより算出する電磁界解析工程と、
前記電磁界解析工程による前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記励磁波形を決定する励磁波形決定工程と、
を備え、
前記候補解設定工程は、
前記励磁波形の基本波を特定する情報である基本波条件、および前記基本波に重畳する高調波を特定する情報である高調波重畳条件に基づいて、初期の前記候補解群を設定する初期候補解設定工程と、
入力された前記候補解群から新たな候補解群を設定する候補解更新工程と、を有し、
前記励磁波形決定工程は、前記初期の候補解群または前記新たな候補解群のうちから前記励磁波形を決定する励磁波形決定方法。
【請求項12】
モータを駆動するモータ駆動方法であって、
前記モータの運転時の運転条件を取得する運転条件取得工程と、
請求項11に記載の励磁波形決定方法により前記基本波条件ごとに決定された前記励磁波形を特定する情報のうち、前記運転条件取得工程により取得された前記モータの運転時の運転条件に対応する前記励磁波形を特定する情報を取得する励磁波形取得工程と、
前記励磁波形取得工程により取得された前記励磁波形を特定する情報に基づいて、前記モータを励磁するための励磁信号を生成する励磁信号生成工程と、
を備えるモータ駆動方法。
【請求項13】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の励磁波形決定装置の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励磁波形決定装置、モータ駆動装置、励磁波形決定方法、モータ駆動方法、およびプログラムに関し、特に、モータを励磁するために用いて好適なものである。本願は、2021年11月15日に日本に出願された特願2021-185783号に基づき優先権を主張し、それらの内容を全てここに援用する。
【背景技術】
【0002】
運転中のモータが振動すると騒音が発生する虞がある。また、ハイブリッド車や電気自動車において動力源となるモータが振動すると乗り心地に影響を与える虞がある。したがって、回転電機の振動を抑制することが望まれる。モータの振動を抑制するために、モータの構造を変更することが考えられる。しかしながら、例えば、既設のモータの構造を変更する場合には、回転電機を取り替える等の大掛かりな作業が必要になる。そこで、モータを励磁するためにモータのステータコイルに供給される励磁信号を制御することが行われる。
【0003】
非特許文献1には、トルクリップルの発生を抑制するために、オープン巻線構造のPMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)に流す励磁電流として、基本波電流に第3次高調波電流を重畳した励磁電流を用いることが記載されている。また、特許文献1には、n相交流の駆動電流に流す励磁電流として、n相交流の各相の基本電流がB×cosθ+C×sinθとして表される場合に、当該基本電流に対し、p=6m±1(mは自然数)として、e×cos(pθ)+f×sin(pθ)として表される高次電流を加算した励磁電流を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】本田一成、赤津観共著、「第3次高調波電流制御を用いたオープン巻線構造PMSMの駆動手法検討」、電気学会論文誌D、Vol.141、No.1、pp.35-45、2021年1月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術においては、基本波に重畳させる高周波の次数として、同期モータのトルクリップルを低減することができる次数を、理論的な考察に基づいて予め特定し、特定した次数の高調波成分のみを基本波電流に重畳させる。また、特許文献1に記載の技術おいては、基本波に重畳させる高周波の次数として、同期モータの半径方向の電磁力を低減することができる次数を、現象論的な考察の結果に基づいて予め特定し、特定した次数の高調波成分のみを基本波電流に重畳させる。したがって、非特許文献1および特許文献1に記載の手法で得られる励磁電流は、モータの振動を抑制するのに十分な励磁電流とは言い難く、より最適な励磁電流がある可能性がある。実際に非特許文献1には、PMSMのトルクリップルの第6次高調波成分については十分に抑制することはできるが、PMSMの振動を十分に抑制することができないことが示されている。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、モータの振動を効果的に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の励磁波形決定装置は、モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を決定する励磁波形決定装置であって、前記励磁波形の1または複数の候補解を含む候補解群を設定する候補解設定部と、前記候補解群に含まれる前記候補解を前記モータに供給した場合に前記モータのステータに生じる電磁力を、電磁界解析を実行することにより算出する電磁界解析部と、前記電磁界解析部による前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記励磁波形を決定する励磁波形決定部と、を備え、前記候補解設定部は、前記励磁波形の基本波を特定する情報である基本波条件、および前記基本波に重畳する高調波を特定する情報である高調波重畳条件に基づいて、初期の前記候補解群を設定する初期候補解設定部と、入力された前記候補解群から新たな候補解群を設定する候補解更新部と、を有し、前記励磁波形決定部は、前記初期の候補解群または前記新たな候補解群のうちから前記励磁波形を決定する。
本発明のモータ駆動装置は、モータを駆動するモータ駆動装置であって、前記モータの運転時の運転条件を取得する運転条件取得部と、前記励磁波形決定装置により前記基本波条件ごとに決定された前記励磁波形を特定する情報のうち、前記運転条件取得部により取得された前記モータの運転時の運転条件に対応する前記励磁波形を特定する情報を取得する励磁波形取得部と、前記励磁波形取得部により取得された前記励磁波形を特定する情報に基づいて、前記モータを励磁するための励磁信号を生成する励磁信号生成部と、を備える。
【0009】
本発明の励磁波形決定方法は、モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を決定する励磁波形決定方法であって、前記励磁波形の1または複数の候補解を含む候補解群を設定する候補解設定工程と、前記候補解群に含まれる前記候補解を前記モータに供給した場合に前記モータのステータに生じる電磁力を、電磁界解析を実行することにより算出する電磁界解析工程と、前記電磁界解析工程による前記電磁界解析の実行結果に基づいて、前記励磁波形を決定する励磁波形決定工程と、を備え、前記候補解設定工程は、前記励磁波形の基本波を特定する情報である基本波条件、および前記基本波に重畳する高調波を特定する情報である高調波重畳条件に基づいて、初期の前記候補解群を設定する初期候補解設定工程と、入力された前記候補解群から新たな候補解群を設定する候補解更新工程と、を有し、前記励磁波形決定工程は、前記初期の候補解群または前記新たな候補解群のうちから前記励磁波形を決定する。
本発明のモータ駆動方法は、モータを駆動するモータ駆動方法であって、前記モータの運転時の運転条件を取得する運転条件取得工程と、前記励磁波形決定方法により前記基本波条件ごとに決定された前記励磁波形を特定する情報のうち、前記運転条件取得工程により取得された前記モータの運転時の運転条件に対応する前記励磁波形を特定する情報を取得する励磁波形取得工程と、前記励磁波形取得工程により取得された前記励磁波形を特定する情報に基づいて、前記モータを励磁するための励磁信号を生成する励磁信号生成工程と、を備える。
【0010】
本発明のプログラムは、励磁波形決定装置の各部としてコンピュータを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、励磁波形決定装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、モータ駆動装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、モータの構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、励磁電流の時間波形の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、励磁波形決定方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、モータ駆動方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、励磁波形決定装置のハードウェアの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
なお、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0013】
本実施形態のモータ駆動システムは、励磁波形決定装置100と、モータ駆動装置200と、を備える。
図1は、励磁波形決定装置100の機能的な構成の一例を示す図である。
図2は、モータ駆動装置200の機能的な構成の一例を示す図である。励磁波形決定装置100およびモータ駆動装置200のハードウェアは、例えば、プロセッサ(例えばCPU)、記憶装置(例えば主記憶装置および補助記憶装置)、および各種のインタフェース装置を備える情報処理装置、または専用のハードウェアを用いることにより実現しても良い。なお、本実施形態では、励磁波形決定装置100およびモータ駆動装置200を別のハードウェアで実現する場合を例示する。しかしながら、励磁波形決定装置100およびモータ駆動装置200を1つのハードウェア(1つの装置)で実現しても良い。
【0014】
[励磁波形決定装置100]
まず、励磁波形決定装置100が有する機能の一例を説明する。励磁波形決定装置100は、モータMを励磁するためにモータMのステータコイルに供給する励磁信号の時間波形である励磁波形を決定する。本実施形態では、励磁波形として励磁電流の時間波形を決定する場合を例示する。しかしながら、励磁波形として励磁電圧の時間波形を決定しても良い。励磁波形は、電気角一周期の各時刻における値が特定されればよい。例えば、励磁波形を、電気角一周期の各時刻における値とする場合、当該値から、各電気角周期の各時刻における値が導出される。また、例えば、電気角半周期の各時刻における値から、残りの電気角半周期の各時刻における値を導出する場合、励磁波形は、電気角半周期の各時刻における値とすれば良い。
【0015】
<モータM>
図3は、モータMの構成の一例を示す図である。
図3において、x、y、zの傍らに示す矢印線および記号は、x-y-z直交座標系におけるx座標、y座標、z座標の向きを示す。なお、白丸(〇)の中に黒丸(●)を付した記号は、z座標の向きを示す。z軸の正の方向は、紙面の奥側から手前側に向かう方向である。また、
図3において、r、θ、zの傍らに示す矢印線および記号は、円筒座標系におけるr座標、θ座標、z座標の向きを示す。また、各座標の原点は、例えば、モータMの回転軸線0(中心線)である。しかしながら、
図3では、表記の都合上、各座標を、モータMの回転軸線0から離れた位置に示す。
【0016】
図3において、モータMは、ロータ310と、ステータ320と、を備える。
ロータ310は、ロータコア311と、永久磁石312a~312dと、を備える。ロータコア311は、例えば、平面形状が同じ複数の電磁鋼板を積み重ねることにより構成される。なお、ロータコア311は、軟磁性体板の一例である電磁鋼板を用いるものに限定されない。ロータコア311は、例えば、圧粉磁心、アモルファスコア、およびナノ結晶コアであっても良い。
ロータコア311には、モータMの回転軸に平行な方向(z軸方向)において貫通する貫通穴311a~311iが形成されている。
【0017】
貫通穴311aの中心の位置は、モータMの回転軸線0の位置と同じである。貫通穴311aには、回転軸(シャフト)が設置される。
貫通穴311b~311eは、貫通穴311aを取り巻くように、モータMの周方向(θ方向)において間隔を有して配置される。貫通穴311b~311eの形状および大きさは同じである。貫通穴311b~311eには、永久磁石312a~312dが設置される。貫通穴311b~311eに永久磁石312a~312dが配置された状態で、永久磁石312a~312dの両側方に空隙が形成される。当該空隙は、貫通穴311b~311eの一部の領域である。
【0018】
貫通穴311f~311iは、貫通穴311b~311eよりもモータMの外周側(r軸の正の方向側)の領域に配置される。貫通穴311f~311iの形状および大きさは同じである。貫通穴311f~311iには、例えば、ロータコア311を固定するための不図示のリベット等が設置される。
【0019】
円形に対して以上のような貫通穴311a~311iに対応する穴が形成された形状を有する複数の電磁鋼板を、当該穴の位置が合うようにして積み重ねて固定したものがロータコア311である。なお、貫通穴311a~311i以外の貫通穴がロータコア311に形成されていても良い。また、貫通穴311b~311eのうちの少なくとも1つの貫通穴に代えて、当該貫通穴とは形状、大きさ、および位置のうちの少なくとも1つが異なる別の貫通穴がロータコア311に形成されていても良い。また、所謂スキューを施してロータコア311を構成しても良い。
【0020】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322と、を備える。ステータコア321は、例えば、平面形状が同じ複数の電磁鋼板を積み重ねることにより構成される。なお、ステータコア321は、軟磁性体板の一例である電磁鋼板を用いるものに限定されない。ステータコア321は、例えば、圧粉磁心、アモルファスコア、およびナノ結晶コアであっても良い。ステータコア321は、複数のティース部321aと、ヨーク部321b(コアバック部)と、を有する。なお、
図3では、表記の都合上、複数のティース部のうちの1つのみに符号321aを付している。
【0021】
複数のティース部321aは、モータMの周方向において等間隔となるように配置される。複数のティース部321aの形状および大きさは同じである。ヨーク部321bは、概ね中空円筒形状を有する。複数のティース部321aおよびヨーク部321bは、ヨーク部321bの内周側の端面と、複数のティース部321aの外周側の端面と、が一致するように配置される。ただし、複数のティース部321aおよびヨーク部321bは、一体となっている(境界線がない)。
【0022】
また、スロット321cにステータコイル322が配置される。スロット321cは、モータMの周方向において間隔を有した状態で隣り合う2つのティース部321aの間の領域である。なお、
図3では、表記の都合上、1つのステータコイルにのみ符号322を付している。
【0023】
円形に対して、以上のような複数のティース部321aおよびヨーク部321b(スロット)に対応する形状が形成されるように加工された複数の電磁鋼板を、それらの輪郭(内縁および外縁)が合うようにして積み重ねて固定したものがステータコア321である。なお、所謂スキューを施してステータコア321を構成しても良い。
【0024】
なお、
図3から明らかなように、本実施形態では、モータMが、インナーロータ型のIPM(Interior Permanent Magnet)モータである場合を例示する。しかしながら、モータMは、インナーロータ型のIPMモータに限定されない。例えば、モータMは、同期モータ以外のモータであっても良いし、アウターロータ型のモータであっても良い。また、モータMは、ラジアルギャップ型のモータに限定されず、アキシャルギャップ型のモータであっても良い。
【0025】
<条件取得部101>
条件取得部101は、励磁波形決定装置100で励磁波形を決定するための計算に必要な各種の条件を取得する。条件取得部101は、少なくとも、基本波条件BCと、高調波重畳条件HCとを取得する。また、条件取得部101は、モータMの運転条件を取得しても良い。
基本波条件BCは、基本波(正弦波)を特定するための情報である。基本波条件BCは、例えば、基本波の振幅と、基本波の周波数(基本周波数)とを含む。また、基本波条件BCには、進角が含まれていても良い。
【0026】
モータMの運転条件は、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値を含む。モータMの速度指令値は、モータMの回転速度の指令値である。モータMのトルク指令値は、モータMのトルクの指令値である。条件取得部101が取得するモータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値は、モータMの回転速度およびトルクとして想定される値(想定値)である。モータMの回転速度は、基本周波数に対応する。モータMのトルクは、励磁電流の振幅および進角に対応する。そこで、条件取得部101は、基本波条件BCに含まれる振幅と、周波数とを、モータMの運転条件から算出することで取得しても良い。本実施形態では、条件取得部101が、基本波条件BCをモータMの運転条件から算出することで取得する場合を例示する。
【0027】
なお、例えば、モータMの回転速度、トルク、および進角と、基本波の振幅、基本周波数、および進角と、を相互に関連付けて記憶するルックアップテーブルを励磁波形決定装置100に予め記憶させておいても良い。このようにする場合、条件取得部101は、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値に対応する情報として、基本波の振幅、基本周波数、および進角を、当該ルックアップテーブルから読み出す。なお、進角が固定されている場合には、当該ルックアップテーブルに進角は記憶されていてもされていなくても良い。
【0028】
高調波重畳条件HCは、基本波に重畳する高調波を特定する情報である。本実施形態では、高調波重畳条件HCには、励磁波形に含まれる基本波に対して重畳される高調波の次数を特定する情報である高調波次数nが含まれる場合を例示する。また、本実施形態では、高調波次数nとして、2以上の正の整数値nが条件取得部101で取得される場合を例示する。また、本実施形態では、高調波次数nが取得された場合、2以上n以下の各次数の高調波が基本波に重畳される場合を例示する。例えば、高調波次数nとして3(n=3)が取得された場合、基本波に対して第2次高調波と第3次高調波とが重畳される。ただし、高調波次数nは、このようにして定められるものに限定されない。例えば、nの値を1つずつ設定しても良い。例えば、高調波次数nとして3(n=3)が取得された場合、基本波に対して第3次高調波のみが重畳されるようにしても良い。また、3および5(n=3、5)が取得された場合、基本波に対して第3次高調波と第5次高調波とが重畳されるようにしても良い。このように本実施形態では、基本波に対して重畳する高調波の次数(高調波次数n)として任意の次数を設定することが可能である。
【0029】
また、高調波重畳条件HCには、各高調波の振幅を特定する情報が含まれていても良い。しかしながら、本実施形態では、後述する候補解設定部103において各高調波の振幅を設定する。したがって、各高調波の振幅を特定する情報は、高調波重畳条件HCに含まれないものとする。
【0030】
また、高調波重畳条件HCは、基本波に重畳する高調波を特定する情報であれば、必ずしも高調波次数nを含んでいなくても良い。例えば、高調波重畳条件HCには、高調波次数nに代えてまたは加えて、高調波次数nを特定することが可能な情報が含まれていても良い。高調波次数nを特定することが可能な情報は、例えば、n次の高調波周波数(基本波周波数のn倍の周波数)である。高調波重畳条件HCは、周波数解析(フーリエ変換)を行わなくても高調波次数nを特定することが可能な情報であるのが好ましい。計算負荷を低減することができるからである。例えば、高調波次数nと、n次の高調波周波数と、のうち、少なくとも一方が高調波重畳条件HCに含まれる場合、当該高調波重畳条件HCは、周波数解析を行わなくても高調波次数nを特定することが可能な情報を含む。ただし、高調波重畳条件HCは、周波数解析(フーリエ変換)を行うことにより高調波次数nを特定することが可能になる情報であっても良い。例えば、高調波重畳条件HCには、変調条件が含まれていても良い。変調条件は、基本波を変調するために用いられる情報である。変調条件は、例えば、変調率と、電気角一周期当たりのパルスの数と、のうち少なくとも一方を含む。
【0031】
また、基本波条件BCおよび高調波重畳条件HCは、周波数解析(フーリエ変換)を行わなくても基本周波数および高調波周波数がそれぞれ特定される情報であるのが好ましい。計算負荷を低減することができるからである。例えば、基本波条件BCが、基本周波数を含み、かつ、高調波重畳条件HCが、高調波次数nを含む場合、基本波条件BCおよび高調波重畳条件HCは、周波数解析行わなくても基本周波数および高調波周波数がそれぞれ特定される情報を含む。
【0032】
条件取得部101は、基本波条件BCおよび高調波重畳条件HC以外にも、後述する電磁界解析を実行するために必要な情報を取得する。条件取得部101は、例えば、モータMの形状、大きさ、および物性値等を取得する。
【0033】
条件取得部101が取得する各種の条件の取得形態として、励磁波形決定装置100のユーザインタフェースのオペレータOPによる入力操作が例示される。しかしながら、条件取得部101が取得する各種の条件の取得形態は、オペレータOPによる入力操作に限定されない。例えば、条件取得部101は、各種の条件を、外部装置からの受信、または、可搬型記憶媒体からの読み出しによって取得しても良い。
【0034】
<基準値算出部102>
基準値算出部102は、条件取得部101により取得された、基本波条件BCに基づいて、基本波の励磁電流でモータMを励磁した場合にモータMのステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力である電磁力基準値を算出する。ここで、電磁力基準値をFsと表記する。また、基準値算出部102は、条件取得部101により取得された、基本波条件BCに基づいて、基本波の励磁電流でモータMを励磁した場合にモータMに生じるトルクであるトルク基準値を算出する。ここで、トルク基準値をTsと表記する。
【0035】
ここで、電磁力基準値Fsを算出する理由を説明する。
後述するように電磁界解析部104は、基本波に高調波を重畳させた励磁電流でモータMを励磁した場合にモータMのステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力である電磁力計算値を算出する。ここで、電磁力計算値をFcと表記する。モータMに生じる騒音の主要な要因は、ステータ320(ステータコア321)の振動である。ステータ320の振動は、モータMのステータ320に生じる電磁力により直接的に評価される。そして、電磁力計算値Fcが電磁力基準値Fsよりも小さくなっていればいるほど、基本波を励磁電流とした場合に比べてモータMの騒音は低減する。そこで、本実施形態では、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差(差の大きさ)を評価することとした。このことから、本実施形態では、基準値算出部102は、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差を評価するために電磁力基準値Fsを算出する。
【0036】
次に、トルク基準値Tsを算出する理由を説明する。
後述するように電磁界解析部104は、基本波に高調波を重畳させた励磁電流でモータMを励磁した場合にモータMに生じるトルク計算値を算出する。ここで、トルク計算値をTcと表記する。前述したように電磁力計算値Fcが電磁力基準値Fsよりも小さくなっていればいるほど、モータMの騒音は低減する。しかしながら、基本波に高調波を重畳させることにより、励磁電流の実効値が小さくなることが理由で、想定されるトルクをモータMが出力することができない場合が生じる虞がある。このような観点から、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差が大きく乖離しないのが好ましい。このことから、本実施形態では、基準値算出部102は、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差を評価するためにトルク基準値Tsを算出する。
【0037】
基準値算出部102は、前述したようにして特定した基本波の励磁電流でモータMを励磁した場合のモータMの各部における磁束密度(ベクトル)Bを、数値解析による電磁界解析を実行することにより算出する。本実施形態では、数値解析の一例である非線形非定常有限要素法が電磁界解析に用いられる場合を例示する。また、本実施形態では、モータMの計算モデルに対して設定した要素(メッシュ)のそれぞれにおける磁束密度Bおよび渦電流密度(ベクトル)Jeが算出される場合を例示する。なお、差分法など、有限要素法以外の数値解析の手法(離散化手法)が電磁界解析に用いられても良い。
【0038】
有限要素法を用いた電磁界解析の手法としてA-φ法を用いる手法がある。この場合、電磁界解析を行うための基礎方程式は、マクスウェルの方程式(Maxwell)に基づき以下の(1)式~(4)式で与えられる。尚、各式において、→は、ベクトルであることを表す。
【0039】
【0040】
(1)式~(4)式において、μは、透磁率であり、Aは、ベクトルポテンシャルであり、σは、導電率であり、J0は、励磁電流密度であり、Jeは、渦電流密度であり、Bは、磁束密度である。(1)式および(2)式を連立して解くことにより、ベクトルポテンシャルAとスカラーポテンシャルφが求められる。その後、(3)式および(4)式から、磁束密度Bと、渦電流密度Jeと、が要素のそれぞれに対して求められる。なお、(1)式では、表記を簡素化するため、透磁率のx成分μx、y成分μy、z成分μzが等しい場合(μx=μy=μzの場合)の式を示す。
【0041】
本実施形態では、基準値算出部102は、ステータコア321に対して設定された各要素における磁束密度Bに基づいて、ステータコア321に生じる電磁力Fを算出する。また、基準値算出部102は、ロータコア311とステータコア321との間のエアギャップに対して設定された各要素における磁束密度Bに基づいて、モータMに生じるトルクTを算出する。電磁力FおよびトルクTは、例えば、公知の節点力法を用いることにより算出される。節点力法では、磁束密度Bに基づいてマクスウェル応力テンソルが算出され、マクスウェル応力テンソルを用いてr方向、θ方向、z方向の電磁力Fr、Fθ、Fzを成分として含む電磁力(ベクトル)Fが算出される。また、θ方向の電磁力Fθを用いることによりトルク(ベクトル)Tが算出される。なお、電磁力FおよびトルクTを算出する方法は、節点力法に限定されず、その他の公知の手法であっても良い。
【0042】
なお、ここでは、三次元解析が実行される場合を例示したが、必ずしも三次元解析が実行される必要はない。例えば、モータMを回転軸線0(z軸方向)に垂直に切った断面に対する二次元解析が実行されても良い。
また、電磁界解析を行う手法自体は一般的な手法である。したがって、電磁界解析の詳細な説明を省略する。
また、トルク基準値Tsは、基本波の振幅に対応するので、基本波から算出することも可能である。したがって、必ずしも電磁界解析の結果を用いてトルク基準値Tsを算出する必要はない。
【0043】
<候補解設定部103>
候補解設定部103は、条件取得部101により取得された基本波条件および高調波重畳条件(高調波次数n)に基づいて、励磁波形の1または複数の候補解を設定する。ここで、基本波条件をBCと表記する。また、高調波重畳条件をHCと表記する。
本実施形態では、候補解設定部103は、初期候補解設定部103aと、候補解更新部103bと、を有する。
初期候補解設定部103aは、条件取得部101により取得された基本波条件BCおよび高調波重畳条件HC(高調波次数n)に基づいて、1または複数の候補解からなる初期の候補解群を生成する。候補解更新部103bは、入力された候補解群から新たな候補解群を設定する。例えば、nおよびn未満の次数の高調波が基本波に重畳された励磁波形が候補解として設定される。ここで、初期の候補解群をISと表記する。また、新たな候補解群をUSと表記する。
【0044】
また、本実施形態では、初期候補解設定部103aおよび候補解更新部103bは、メタヒューリスティックス手法の一例である実数値遺伝的アルゴリズムに従って、複数の候補解(初期の候補解群ISおよび新たな候補解群US)を設定する。ただし、遺伝的アルゴリズム以外のメタヒューリスティックス手法による最適化計算が実行されても良い。遺伝的アルゴリズム以外のメタヒューリスティックス手法として、例えば、山登り法(hill climbing)、タブーサーチ(tabu search)、焼きなまし法(Simulated Annealing)、およびアントコロニー最適化手法(Ant Colony Optimization)がある。
【0045】
候補解群(初期の候補解群ISおよび新たな候補解群US)に含まれる候補解の数は、最適化計算のアルゴリズムにより定まる数としても良いし、ユーザによる数や計算時間等の指定により定まるようにしても良い。高調波重畳条件HCに含まれる高調波次数nにより特定される高調波の次数の数が1つである場合、初期候補解設定部103aおよび候補解更新部103bは、当該次数の高調波の時間波形に基本波の時間波形を重畳させた時間波形を候補解の1つとする。高調波重畳条件HCに含まれる高調波次数nにより特定される高調波の次数の数が2以上である場合、初期候補解設定部103aおよび候補解更新部103bは、当該2以上の数の高調波の時間波形を加算した時間波形に基本波の時間波形を重畳させた時間波形を候補解の1つとする。1つの候補解には、電気角一周期の各時刻における値(電流値)を特定する情報が含まれる。
【0046】
初期候補解設定部103aは、高調波次数nにより特定される次数を高調波の次数として設定する。また、初期候補解設定部103aは、高調波の次数以外のパラメータを、例えば、ランダムに設定する。初期候補解設定部103aは、高調波の次数および高調波の次数以外のパラメータに基づいて、初期の候補解を算出する。初期候補解設定部103aは、高調波の次数および高調波の次数以外のパラメータの内容を異ならせることにより、複数の初期の候補解を算出する。初期候補解設定部103aは、複数の初期の候補解を初期の候補解群ISとして設定する。また、候補解更新部103bは、遺伝的アルゴリズムの2回目以降の繰り返し処理における候補解を新たな候補解として設定する。この際、候補解更新部103bは、例えば、候補解更新部103bに入力される現在の候補解群に含まれる複数の候補解のうち、後述する評価部105aにより算出される(5)式の評価関数Jの値が小さいものから順に所定数の候補解を新たな候補解USとして選択する。このとき、候補解更新部103bは、後述する評価部105aにより算出される(6)式の制約式を満たす候補解のみを選択する。すなわち、候補解更新部103bは、(6)式の制約式を満たす候補解を、(5)式の評価関数Jの値が小さいものから順に並べ、並べた候補解を評価関数Jの値が小さいものから順に所定数だけ選択する。
【0047】
そして、候補解更新部103bは、交叉や突然変異を実行する。候補解更新部103bは、選択した所定数の候補解と、交叉や突然変異により生成した候補解と、を新たな候補解群US(次の世代の候補解群)として設定する。交叉や突然変異により生成される新たな候補解群USも、条件取得部101により取得された基本波条件BCおよび高調波重畳条件HC(高調波次数n)に基づいて生成される。前述したように1つの候補解には、電気角一周期の各時刻における値(電流値)が含まれる。
【0048】
本実施形態では、以上のような候補解が励磁電流の時間波形の候補解である場合を例示する。
図4は、励磁電流401の時間波形一例を示す図である。
図4に示すように、励磁電流401の時間波形(励磁波形)は、基本波に高調波が重畳された時間波形となる。
【0049】
<電磁界解析部104>
電磁界解析部104は、候補解設定部103で設定された候補解群(初期の候補解群ISおよび新たな候補解群US)に含まれる励磁波形(励磁電流)の各候補解でモータMを励磁した場合のモータMにおける磁束密度Bおよび渦電流密度Jeを、マクスウェル(Maxwell)の方程式に基づく電磁界解析を実行することにより導出する。そして、電磁界解析部104は、ステータコア321に対して設定された各要素における磁束密度Bに基づいて、ステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力Fを電磁力計算値Fcとして算出する。また、電磁界解析部104は、ロータコア311とステータコア321との間のエアギャップに対して設定された各要素における磁束密度Bに基づいて、モータMに生じるトルクTをトルク計算値Tcとして算出する。磁束密度B、渦電流密度Je、電磁力、およびトルクの算出方法の一例は、<基準値算出部102>の項で説明した通りであるので、ここでは、当該算出方法の詳細な説明を省略する。
なお、本実施形態では、電磁力基準値Fsおよび電磁力計算値Fcが、電磁力のベクトル(周方向の成分と半径方向の成分とにより定まるベクトル)で表される場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、電磁力基準値Fsおよび電磁力計算値Fcは、半径方向の成分のみを用いて表されてもよい。
【0050】
<励磁波形決定部105>
励磁波形決定部105は、電磁界解析部104による電磁界解析の実行結果に基づいて、候補解設定部103により設定された初期の候補解群ISまたは新たな候補解群USのうちから励磁波形を決定する。つまり、励磁波形決定部105が、初期の候補解群ISから励磁波形を決定(選択)できる場合には、候補解設定部103は、新たな候補解群USを設定することはない。一方、励磁波形決定部105が、初期の候補解群ISから励磁波形を決定できない場合には、候補解設定部103は、初期の候補解群ISを更新していくことで新たな候補解群USを順次生成する。励磁波形決定部105は、候補解設定部103によって順次生成された新たな候補解群USのうちから励磁波形を決定(選択)する。本実施形態では、励磁波形決定部105は、評価部105aと、決定部105bと、を有する。
【0051】
<<評価部105a>>
評価部105aは、電磁界解析部104による電磁界解析の実行結果に基づいて、ステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力の値を評価するための電磁力評価指標を含む評価指標の値を算出する。また、本実施形態では、評価部105aは、評価指標としてさらに、電磁界解析部104による電磁界解析の実行結果に基づいて、ステータ320(ステータコア321)に生じるトルクの値を評価するためのトルク評価指標の値を算出する。
前述したように、本実施形態では、電磁界解析部104により算出された電磁力計算値Fcが、基準値算出部102により算出された電磁力基準値Fsよりも小さくなっていればいるほど、モータMの騒音が低減することから、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差を評価する指標を電磁力評価指標とする場合を例示する。また、本実施形態では、電磁界解析部104により算出されたトルク計算値Tcが、基準値算出部102により算出されたトルク基準値Tsと大きく乖離しない方が好ましいことから、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差を評価する指標をトルク評価指標とする場合を例示する。
【0052】
ここで、電磁力はベクトルとして算出されるので、電磁力計算値Fcの大きさを|Fc|と表記する。同様に、、電磁力基準値Fsの大きさを|Fs|と表記する。また、トルクもベクトルとして算出されるので、トルク計算値Tcの大きさを|Tc|と表記する。同様に、トルク基準値Tsの大きさを|Ts|と表記する。本実施形態では、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差が、以下の(5)式の評価関数Jの値で評価される場合を例示する。また、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差が、以下の(6)式の制約式で評価される場合を例示する。
【0053】
【0054】
(5)式において、min.は、Jの最小値を算出することを示す記号である。また、(6)式において、εは、予め設定される正の値である。εの値が大き過ぎると、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差が大きい候補解が選ばれ易くなる。一方、εの値が小さ過ぎると、求解不能(いわゆる解なし)になる虞がある。εは、このような観点から予め設定される。
本実施形態では、(5)式の右辺の値と(6)式の左辺の値が評価指標の値の一例である。また、(5)式の右辺が電磁力評価指標の一例であり、(6)式の左辺がトルク評価指標の一例である。
【0055】
以上のようにして評価部105aにより評価指標の値が算出されると、前述したように候補解更新部103bは、(6)式の制約式を満足する候補解を、(5)式の評価関数Jの値が小さいものから順に並べ、並べた候補解を評価関数Jの値が小さいものから順に所定数だけ選択する。そして、候補解更新部103bは、交叉や突然変異を実行する。候補解更新部103bは、選択した所定数の候補解と、交叉や突然変異により生成した候補解と、を新たな候補解群US(次の世代の候補解群)として設定する。
【0056】
候補解更新部103b、電磁界解析部104、および評価部105aにおける処理は、所定の計算終了条件を満足するまで繰り返し実行される。候補解更新部103bは、所定の計算終了条件を満足したときの候補解を決定部105bに出力する。ここで、所定の計算終了条件を満足したときの候補解をESと表記する。本実施形態では、実数値遺伝的アルゴリズムによる最適化計算が実行される場合を例示する。したがって、計算終了条件としては、例えば、所定数の世代交代が行われたことや、前回と今回とでの候補解の差が所定の条件になったこと(例えば、前回と今回とでの候補解が変わらなくなったこと)等、遺伝的アルゴリズムの手法で一般的に採用されている条件が用いられる。
なお、遺伝的アルゴリズム自体は公知の技術で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0057】
<<決定部105b>>
決定部105bは、評価部105aにより算出された評価指標の値に基づいて、励磁波形を決定する。
決定部105bは、所定の計算終了条件を満足したときの候補解ESのうち、(5)式の評価関数Jの値が最小である候補解を最適解とし、当該候補解から特定される励磁波形を励磁波形の最適解として算出(決定)する。励磁波形の最適解には、電気角一周期の各時刻における値(電流値)を特定する情報が含まれる。以下の説明では、励磁波形の最適解に含まれる、電気角一周期の各時刻における値(電流値)を特定する情報を、最適波形特定情報とも呼ぶ。
【0058】
<基本波条件BC(モータMの運転条件)ごとの処理>
基準値算出部102、候補解設定部103、電磁界解析部104、および励磁波形決定部105による処理は、条件取得部101により取得された1または複数の基本波条件BCごとに実行される。前述したように基本波条件BCには、基本波の振幅および周波数(基本周波数)が含まれる。また、基本波条件BCには、進角が含まれていても良い。モータMの回転速度は、基本周波数に対応する。モータMのトルクは、励磁電流の振幅および進角に対応する。したがって、基準値算出部102、候補解設定部103、電磁界解析部104、および励磁波形決定部105による処理を、1または複数の基本波条件BCごとに実行することは、モータMの1または複数の運転条件(回転数、トルクなど))ごとに実行することに対応する。なお、条件取得部101により取得された基本波条件BC(モータMの運転条件)が1つである場合には、基準値算出部102、候補解設定部103、電磁界解析部104、および励磁波形決定部105による処理は、当該基本波条件BC(運転条件)に対してのみ実行されれば良い。
【0059】
<出力部106>
出力部106は、決定部105bにより決定された励磁波形の最適解(最適波形特定情報)を出力する。最適波形特定情報の出力形態として、モータ駆動装置200への送信が例示される。励磁波形決定装置100とモータ駆動装置200との通信は、有線通信であっても、無線通信であっても良い。また、最適波形特定情報の出力形態は、モータ駆動装置200への送信に限定されない。例えば、出力部106は、最適波形特定情報を、励磁波形決定装置100の内部または外部の記憶媒体に記憶しても良いし、コンピュータディスプレイに表示しても良い。
【0060】
[モータ駆動装置200]
次に、モータ駆動装置200が有する機能の一例を説明する。モータ駆動装置200は、励磁波形決定装置100で決定された励磁波形に基づいて、モータMを駆動する。
<励磁波形記憶部201>
励磁波形記憶部201は、励磁波形決定装置100で決定された最適波形特定情報を、モータMの運転条件ごとに記憶する。前述したようにモータMの運転条件は、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値を含む。なお、励磁波形記憶部201は、モータ駆動装置200の外部にあっても良い。また、励磁波形決定装置100は、1または複数の基本波条件BCごとに最適波形特定情報を決定する。前述したように、1または複数の基本波条件BCごとに最適波形特定情報を決定することは、1または複数のモータMの運転条件ごとに最適波形特定情報を決定することと等価である。したがって、励磁波形決定装置100で決定された最適波形特定情報を、モータMの運転条件ごとに記憶することは、励磁波形決定装置100で決定された最適波形特定情報を、基本波条件BCごとに記憶することと等価である。
【0061】
<運転条件取得部202>
運転条件取得部202は、モータMの運転時の運転条件として現在の運転条件とは異なる新たな運転条件を取得する。モータMの運転開始時には、現在の運転条件はないものとする。したがって、運転条件取得部202は、モータMの運転開始時には、モータMの運転開始時の運転条件を新たな運転条件として取得する。前述したように、モータMの運転条件は、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値を含む。運転条件取得部202は、例えば、モータMの運転時の運転条件を制御装置210から取得する。ここで、モータMの運転時の運転条件をOCと表記する。制御装置210は、例えば、モータMのトルクの実測値と目標値との差に応じたトルク指令値を生成しても良いし、モータMの回転速度の実測値と目標値との差に応じた速度指令値を生成しても良い。なお、運転条件取得部202は、必ずしも、モータMの運転時の運転条件OCを制御装置210から取得する必要はない。例えば、モータMの運転時の運転条件OCが予め設定(スケジューリング)されていても良い。このような場合、運転条件取得部202は、当該設定された運転条件を、例えば、モータ駆動装置200のユーザインタフェースのオペレータによる入力操作に基づいて取得しても良い。
【0062】
<励磁波形取得部203>
励磁波形取得部203は、励磁波形記憶部201に記憶されている、モータMの運転条件ごとの最適波形特定情報のうち、運転条件取得部202により取得された、モータMの運転時の運転条件OCに対応する最適波形特定情報を取得する。
【0063】
<励磁信号生成部204>
励磁信号生成部204は、励磁波形取得部203により取得された最適波形特定情報に基づいて、モータMを励磁するための励磁電流を生成する。例えば、モータ駆動装置200がPWM(Pulse Width Modulation)制御を実行する場合、励磁信号生成部204は、例えば、以下の処理を実行する。まず、励磁信号生成部204は、最適波形特定情報に基づいて変調波を生成する。そして、励磁信号生成部204は、生成した変調波と所定の搬送波(例えば三角波)とを比較することによりパルス信号を生成して、モータMのステータコイル322に供給する。なお、励磁電流の生成方法は、PWM制御による方法に限定されず、その他の公知の方法(例えば、PAM(Pulse Amplitude Modulation)制御による方法)であっても良い。また、励磁信号生成部204は、最適波形特定情報で特定される励磁電流をそのままモータMに供給しても良い。また、励磁信号生成部204は、最適波形特定情報により特定される励磁電流を、モータMのインピーダンスを用いて、励磁電圧に変換してモータMに供給しても良い。
【0064】
[フローチャート]
次に、
図5のフローチャートを参照しながら、励磁波形決定装置100を用いた本実施形態の励磁波形決定方法の一例を説明する。
図5のフローチャートは、例えば、励磁波形決定装置100のプロセッサが、励磁波形決定装置100の記憶装置に記憶されているプログラムを実行することを含む処理によって実現しても良い。
まず、ステップS501において、条件取得部101は、励磁波形決定装置100で励磁波形を決定するための計算に必要な各種の条件を取得する。この条件には、基本波条件BCと、高調波重畳条件HCと、が含まれる。本実施形態では、条件取得部101が、モータMの運転条件に基づいて基本波条件BCを算出することで基本波条件BCを取得する場合を例示する。モータMの運転条件には、モータMの速度指令値と、モータMのトルク指令値と、が含まれる。
次に、ステップS502において、条件取得部101は、ステップS501で取得した基本波条件BC(モータMの運転条件)のうち、本ステップS502で未選択の基本波条件BCを1つ選択する。
【0065】
次に、ステップS503において、基準値算出部102は、ステップS502で選択された基本波条件BCから特定される基本波の励磁電流でモータMを励磁した場合にモータMのステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力である電磁力基準値Fsと、当該基本波の励磁電流でモータMを励磁した場合にモータMに生じるトルクであるトルク基準値Tsと、を、モータMに対する電磁界解析を実行することにより算出する。
【0066】
次に、ステップS504において、初期候補解設定部103aは、励磁波形の複数の候補解からなる候補解群の初期値である初期の候補解群ISを設定する。
次に、ステップS505において、電磁界解析部104は、ステップS504で設定された候補解により特定される励磁波形(励磁電流)でモータMを励磁した場合にモータMのステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力である電磁力計算値Fcと、当該励磁波形(励磁電流)でモータMを励磁した場合にモータMに生じるトルクであるトルク計算値Tcと、を、モータMに対する電磁界解析を実行することにより算出する。電磁界解析部104は、以上の電磁力計算値Fcおよびトルク計算値Tcの算出を、初期の候補解群ISに含まれる候補解のそれぞれについて実行する。
【0067】
次に、ステップS506において、評価部105aは、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差を評価する評価指標の値と、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差を評価する評価指標の値と、を算出する。具体的に評価部105aは、(5)式の評価関数J(=|Fc|-|Fs|)の値と、(6)式の左辺(||Ts|-|Tc||)の値と、を算出する。
【0068】
次に、ステップS507において、候補解更新部103bは、候補解群を更新して新たな候補解群USを設定する。具体的に候補解設定部103は、(6)式の制約式を満足する候補解を、(5)式の評価関数Jの値が小さいものから順に並べ、並べた候補解を評価関数Jの値が小さいものから順に所定数だけ選択する。そして、候補解更新部103bは、交叉や突然変異を実行する。候補解更新部103bは、選択した所定数の候補解と、交叉や突然変異により生成した候補解と、を新たな候補解群US(次の世代の候補解群)として設定する。
【0069】
次に、ステップS508において、決定部105bは、計算終了条件を満足するか否かを判定する。この判定の結果、計算終了条件を満足しない場合(ステップS508でNOの場合)、ステップS505の処理が再び実行される。この場合、ステップS505においては、ステップS504で設定された初期の候補解群ISではなく、ステップS507で更新された新たな候補解群USが用いられる。
【0070】
ステップS508の判定の結果、計算終了条件を満足する場合(ステップS508でYESの場合)、ステップS509の処理が実行される。ステップS509において、決定部105bは、計算終了条件を満足したときの候補解ESのうち、(5)式の評価関数Jの値が最小である候補解を最適解とし、当該候補解から特定される励磁波形を励磁波形の最適解として算出(決定)する。そして、決定部105bは、励磁波形の最適解に含まれる、電気角一周期の各時刻における値(電流値)を特定する情報を、最適波形特定情報として生成する。
【0071】
次に、ステップS510において、出力部106は、ステップS509で生成された最適波形特定情報をモータ駆動装置200に出力する。
次に、ステップS511において、励磁波形決定装置100は、ステップS501で取得された基本波条件BC(モータMの運転条件)の全てについて、最適波形特定情報を生成したか否かを判定する。この判定の結果、ステップS501で取得された基本波条件BC(モータMの運転条件)の全てについて、最適波形特定情報を生成していない場合(ステップS511でNOの場合)、ステップS502の処理が再び実行される。そして、ステップS501で取得された基本波条件BC(モータMの運転条件)の全てについて、最適波形特定情報が生成されると(ステップS511でYESの場合)、
図5のフローチャートによる処理は終了する。
【0072】
次に、
図6のフローチャートを参照しながら、モータ駆動装置200を用いた本実施形態のモータ駆動方法の一例を説明する。なお、ここでは、モータMの運転条件として想定される全ての運転条件に対応する基本波条件BCついての最適波形特定情報が、
図6のフローチャートが開始される前に、励磁波形記憶部201に記憶されているものとする。
図6のフローチャートは、例えば、モータ駆動装置200のプロセッサが、モータ駆動装置200の記憶装置に記憶されているプログラムを実行することを含む処理によって実現しても良い。
【0073】
まず、ステップS601において、運転条件取得部202は、モータMの運転時の運転条件OCとして現在の運転条件とは異なる運転条件を取得したか否かを判定する。この判定の結果、モータMの運転時の運転条件OCを取得していない場合(ステップS601でNOの場合)、運転条件取得部202は、モータMの運転時の運転条件OCが取得されるまで待機する。そして、モータMの運転時の運転条件OCが取得されると(ステップS601でYESの場合)、ステップS602の処理が実行される。
【0074】
ステップS602において、モータ駆動装置200は、モータMの運転時の運転条件OCに基づいて、モータMの運転を終了するか否かを判定する。この判定の結果、モータMの運転を終了しない場合(ステップS602でNOの場合)、ステップS603の処理が実行される。ステップS603において、励磁波形取得部203は、励磁波形記憶部201に記憶されている、基本波条件BC(モータMの運転条件)ごとの最適波形特定情報のうち、運転条件取得部202により取得されたモータMの運転時の運転条件OCに対応する最適波形特定情報を取得する。
【0075】
次に、ステップS604において、励磁信号生成部204は、ステップS603で取得された最適波形特定情報に基づいて、モータMを励磁するための励磁電流を生成し、モータMに供給する。
【0076】
前述したステップS602の判定の結果、モータMの運転を終了する場合(ステップS60
2でYESの場合)、ステップS605の処理が実行される。ステップS605において、励磁信号生成部204は、励磁電流のモータMへの供給を停止する。ステップS605の処理が終了すると、
図6のフローチャートによる処理は終了する。
【0077】
<励磁波形決定装置100のハードウェア>
次に、励磁波形決定装置100のハードウェアの一例について説明する。
図7において、励磁波形決定装置100は、CPU701、主記憶装置702、補助記憶装置703、通信回路704、信号処理回路705、画像処理回路706、I/F回路707、ユーザインタフェース708、ディスプレイ709、およびバス710を有する。
【0078】
CPU701は、励磁波形決定装置100の全体を統括制御する。CPU701は、主記憶装置702をワークエリアとして用いて、補助記憶装置703に記憶されているプログラムを実行する。主記憶装置702は、データを一時的に格納する。補助記憶装置703は、CPU701によって実行されるプログラムの他、各種のデータを記憶する。
【0079】
通信回路704は、励磁波形決定装置100の外部との通信を行うための回路である。通信回路704は、励磁波形決定装置100の外部と無線通信を行っても有線通信を行ってもよい。
【0080】
信号処理回路705は、通信回路704で受信された信号や、CPU701による制御に従って入力した信号に対し、各種の信号処理を行う。
画像処理回路706は、CPU701による制御に従って入力した信号に対し、各種の画像処理を行う。この画像処理が行われた信号は、例えば、ディスプレイ709に出力される。
ユーザインタフェース708は、オペレータOPが励磁波形決定装置100に対して指示を行う部分である。ユーザインタフェース708は、例えば、ボタン、スイッチ、およびダイヤル等を有する。また、ユーザインタフェース708は、ディスプレイ709を用いたグラフィカルユーザインタフェースを有していてもよい。
【0081】
ディスプレイ709は、画像処理回路706から出力された信号に基づく画像を表示する。I/F回路707は、I/F回路707に接続される装置との間でデータのやり取りを行う。
図7では、I/F回路707に接続される装置として、ユーザインタフェース708およびディスプレイ709を示す。しかしながら、I/F回路707に接続される装置は、これらに限定されない。例えば、可搬型の記憶媒体がI/F回路707に接続されてもよい。また、ユーザインタフェース708の少なくとも一部およびディスプレイ709は、励磁波形決定装置100の外部にあってもよい。
【0082】
なお、CPU701、主記憶装置702、補助記憶装置703、信号処理回路705、画像処理回路706、およびI/F回路707は、バス710に接続される。これらの構成要素間の通信は、バス710を介して行われる。また、モータ駆動装置200のハードウェアは、例えば、<励磁波形決定装置100のハードウェア>の欄および
図7において、励磁波形決定装置100をモータ駆動装置200に置き替えたもので実現しても良い。したがって、モータ駆動装置200のハードウェアの詳細な説明を省略する。また、励磁波形決定装置100およびモータ駆動装置200のハードウェアは、前述した励磁波形決定装置100およびモータ駆動装置200の機能を実現することができれば、
図7に示すハードウェアに限定されない。例えば、CPU701に代えてまたは加えてGPUがプロセッサとして用いられても良い。
【0083】
[計算例]
次に、計算例を説明する。本計算例では、インナーロータ型のIPMモータを計算対象のモータとして数値解析を実行した。IPMモータの代表的な仕様は以下の通りである。
ステータの外径 :140mm
ロータの外径 :88.4mm
高さ(コアの積厚) :24mm
ステータのスロット数:48
極数 :8
表1に本計算例の結果を示す。なお、表1において、電磁力およびトルクの値は、それぞれの最大値を1とする相対値として無次元化した値である。
【0084】
【0085】
表1において、opt(発明例)は、本実施形態の手法で算出した励磁波形の最適解(励磁電流)でIPMモータを励磁したことを示す。sin(比較例)は、励磁波形の最適解を算出したときに用いた基本波(励磁電流)でIPMモータを励磁したことを示す。本計算例の説明において、本実施形態の手法で算出した励磁波形の最適解(励磁電流)を、opt電流とも呼ぶ。また、励磁波形の最適解を算出したときに用いた基本波(励磁電流)を、sin電流とも呼ぶ。
【0086】
回転数は、IPMモータ(ロータ)の回転数である。電磁力は、ステータコアに生じる電磁力である。トルクは、IPMモータに生じるトルクである。低減率は、opt電流でIPMモータを励磁した場合にIPMモータに生じる電磁力の、sin電流でIPMモータを励磁した場合にIPMモータに生じる電磁力に対する低減率である。具体的に低減率は、(sin-opt)÷sin×100の計算を実行することにより算出される。この計算式において、optは、opt電流でIPMモータを励磁した場合にIPMモータに生じる電磁力である。sinは、sin電流でIPMモータを励磁した場合にIPMモータに生じる電磁力である。
【0087】
表1から、条件1~条件4のいずれにおいても、opt(発明例)の方がsin(比較例)よりも電磁力が低減することが分かる。また、条件1のように、回転数およびトルクが小さく、IPMモータの振動が大きくならないような運転条件では、電磁力の低減効果は大きくならないことが分かる。また、条件1、2を比較すると、トルクが大きいほど、電磁力の低減効果が大きいことが分かる。また、条件1、3、4を比較すると、回転数が高いほど、電磁力の低減効果が大きいことが分かる。以上より、本計算例では、トルクおよび回転数が大きいほど、電磁力の低減効果が大きくなることを期待することができることが分かる。
【0088】
このため、出力部106(
図1)は、回転数やトルクに基づいて、励磁波形を出力しても良い。具体的には、出力部106は、所定の出力条件を満たす場合に、計算終了条件を満足したときの候補解ESを出力しても良い。所定の出力条件は、例えば、以下の3つの条件のうちから定められた条件である。1つ目の条件は、モータMの回転数が所定の回転数以上であるという回転数条件である。2つ目の条件は、モータMのトルクが所定のトルク以上であるというトルク条件である。3つ目の条件は、前記回転数条件および前記トルク条件の双方を満たすという条件(モータMの回転数が所定の回転数以上かつモータMのトルクが所定のトルク以上であるという条件)である。また、出力部106は、所定の出力条件を満たさない場合には候補解を出力しなくても良く、例えば、出力条件を満たさないことを示す情報を出力しても良い。例えばこのようにすれば、モータ駆動装置200(
図2)は、前記回転数条件および前記トルク条件の少なくとも一方の条件に応じた範囲で、励磁波形決定装置100が決定した励磁波形を利用することが可能となる。よって、モータ駆動装置200は、モータMを駆動するに際し、モータMの振動抑制効果が高い場合に限って、励磁波形決定装置100が決定した励磁波形を利用するということもできる。例えば、励磁信号生成部204によってPWMインバータなどのインバータを用いて励磁波形を生成するに際し、生成すべき励磁波形が複雑になる場合がある。この場合、インバータのスイッチングが増え、損失が増える可能性がある。したがって、モータ駆動装置200は、モータMの振動抑制効果が小さい場合、またはほぼ無いような場合には、モータMの駆動を通常の励磁波形で行うことが可能となる。なお、例えば、励磁波形決定装置100は、前記トルク条件を満たすか否かを、基準値算出部102から出力されるトルク基準値T
sに基づいて確認しても良い。このようにすれば、励磁波形決定装置100は、例えば、前記トルク条件を満たさない候補解を最適解の候補から除外することができる。したがって、励磁波形決定装置100の負荷軽減が可能となる。また、励磁波形取得部203は、運転条件取得部202から得る運転条件と、前記トルク条件および前記回転数条件のうちの少なくとも一方と、に基づいて、励磁波形記憶部201の情報を利用するか否かを決定しても良い。また、励磁波形記憶部201の情報を利用しない場合、励磁波形取得部203は、公知の通常処理により励磁波形を算出しても良いし、公知の通常処理を行う他の機能部(不図示)が生成した励磁波形を取得しても良い。
【0089】
[まとめ]
以上のように本実施形態では、励磁波形決定装置100は、励磁波形に含まれる基本波に重畳される高調波を特定する情報である高調波重畳条件HCに基づいて、励磁波形の1または複数の候補群として初期の候補解群ISおよび新たな候補解群USを設定する。励磁波形決定装置100は、設定した励磁波形の1または複数の候補解群に含まれる候補解をモータMに流した場合にステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力を、電磁界解析を実行することによりそれぞれ算出する。励磁波形決定装置100は、電磁界解析の実行結果に基づいて励磁波形を決定する。したがって、モータMの振動を効果的に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することができる。
【0090】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、電磁界解析の実行結果に基づいて、ステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力の値を評価するための電磁力評価指標を含む評価指標の値を算出し、算出した評価指標の値に基づいて、励磁波形を決定する。したがって、客観的な指標値に基づいて励磁波形を決定することができる。よって、モータMの振動をより確実に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することができる。
【0091】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、ステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力の値を評価するための電磁力評価指標の値として、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差を評価する評価指標の値を用いて、励磁波形を決定する。したがって、モータMのステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力を、モータMを基本波で励磁した場合に比べてどれくらい低減させられるのかを評価した結果に基づいて励磁波形を決定することができる。
【0092】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、電磁界解析を実行することにより電磁力基準値Fsを算出する。したがって、モータMを基本波で励磁した場合にモータMのステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力として正確な電磁力を用いることができる。
【0093】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、候補解をモータMのステータコイル322に供給した場合の、ステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力およびモータMに生じるトルクを、電磁界解析を実行することによりそれぞれ算出する。したがって、ステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力だけでなくモータMに生じるトルクも考慮して、励磁波形を決定することができる。よって、モータMの振動をより効果的に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することができる。
【0094】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、モータMに生じるトルクの値を評価するためのトルク評価指標の値として、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差を評価する評価指標の値を用いて、励磁波形を決定する。したがって、基本波に対して実効値が大きく乖離しない励磁波形を決定することができる。
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、電磁界解析を実行することによりトルク基準値Tsを算出する。したがって、モータMを基本波で励磁した場合にモータMに生じるトルクとして正確なトルクを用いることができる。
【0095】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、励磁波形に含まれる基本波に重畳される高調波の次数を特定する情報である高調波次数n(nは2以上の整数)を含む高調波重畳条件HCを取得し、nおよびn未満の次数の高調波が基本波に重畳された候補解を設定する。したがって、高調波の次数を特定の次数に限定せずに励磁波形の候補を設定することができる。よって、モータMの振動をより効果的に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することができる。
【0096】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、メタヒューリスティックス手法により新たな候補解を設定する。したがって、理論的な考察や現象論的な考察を行わなくてもモータMの振動を効果的に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することができる。
【0097】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100は、基本波条件BCごとに励磁波形を決定する。したがって、基本波条件BCに対応するモータMの運転条件が変わる場合でも、それぞれの運転条件においてモータMの振動を効果的に抑制することができる励磁信号の時間波形を決定することができる。
【0098】
また、本実施形態では、モータ駆動装置200は、励磁波形決定装置100により基本波条件BCごとに決定された励磁波形を特定する最適波形特定情報のうち、モータMの運転時の運転条件OCに対応する最適波形特定情報を取得する。モータ駆動装置200は、取得した最適波形特定情報に基づいて、モータMを励磁するための励磁信号を生成する。したがって、モータMの運転時の運転条件OCに関わらず、モータMの振動を効果的に抑制することができる。
【0099】
[変形例]
本実施形態では、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差を、(5)式の評価関数Jの値で評価する場合を例示する。また、本実施形態では、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差を、(6)式の制約式を用いて評価する場合を例示した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差、および、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差は、以下の(7)式を用いて評価されても良い。
【0100】
【0101】
(7)式において、w1、w2は、正の値を有する重み係数である。重み係数w1、w2は、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差の評価と、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差の評価とのバランスをとるための、予め設定される係数である。例えば、電磁力計算値Fcと電磁力基準値Fsとの差が、トルク計算値Tcとトルク基準値Tsとの差よりも重要である場合には、重み係数w1の値を重み係数w2の値よりも大きくする。(7)式の評価関数Jを用いる場合には(6)式の制約式は不要である。
【0102】
また、(5)式および(7)式では、最適化問題が評価関数Jの最小値を求める最小化問題である場合を例示した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、評価関数Jは、(5)式および(7)式の右辺全体に(-1)を乗算した評価関数であっても良い。このようにする場合、最適化問題は、評価関数Jの最大値を求める最大化問題になる。
【0103】
また、本実施形態では、励磁波形決定装置100(候補解設定部103)が候補解として複数の候補解を設定する場合を例示した。しかしながら、励磁波形決定装置100(候補解設定部103)が設定する候補解の数は1であっても良い。このようにする場合、例えば、励磁波形決定装置100は、候補解の励磁波形をモータMに供給した場合にステータ320(ステータコア321)に生じる電磁力やトルクが閾値よりも低い場合に、当該候補解をモータMに供給する励磁波形として決定してもよい。
【0104】
なお、本発明の実施形態で説明した、励磁波形決定装置、モータ駆動装置、励磁波形決定方法、およびモータ駆動方法などを、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。なお、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、非一時的な記録媒体を表す。非一時的な記録媒体は、例えば、当該記録媒体に対して外部からの電力の供給がなくてもデータを記録し続けることができる記録媒体である。非一時的な記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。また、本発明の実施形態は、PLC(Programmable Logic Controller)により実現されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されてもよい。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、例えば、モータを駆動することに利用することができる。