(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】めっき鋼材
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20241218BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20241218BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20241218BHJP
C23C 2/02 20060101ALN20241218BHJP
C23C 2/26 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C23C2/06
C22C18/00
C22C18/04
C23C2/02
C23C2/26
(21)【出願番号】P 2024545086
(86)(22)【出願日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2024014675
【審査請求日】2024-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2023064063
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】光延 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】浦中 将明
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/056863(WO,A1)
【文献】特開2001-355053(JP,A)
【文献】特開昭55-021564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、
前記鋼材の上のめっき層と、を備え、
前記めっき層の化学組成が、質量%で、
Al:6.0~30.0%、
Mg:3.0~15.0%、
Fe:0.01~15.00%、
Si:0~2.0%、
Ca:0~2.00%を含有し、
LaまたはCeのうちの1種または2種を合計で0.005~0.500%含有し、
Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Nb:0~1.00%、Zr:0~1.00%、Ni:0~1.000%、Mn:0~1.00%、Mo:0~1.00%、Ag:0~1.00%、Li:0~1.00%、B:0~0.500%、Y:0~0.50%、P:0~0.50%、Sr:0~0.50%、Co:0~0.500%、Bi:0~0.500%、In:0~0.50%、V:0~0.500%、W:0~0.50%の元素群のうちの1種または2種以上の元素を含有するとともに、これらの元素の合計が0~5.0%とされ、
残部:Zn及び不純物からなり、
前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(1)を満足する、めっき鋼材。
0.15≦I(100)
Zn/{I(002)
Zn+I(101)
Zn+I(100)
Zn}≦3.00 …(1)
ただし、式(1)におけるI(100)
Znはη-Zn相の(100)の回折強度であり、I(002)
Znはη-Zn相の(002)の回折強度であり、I(101)
Znはη-Zn相の(101)の回折強度であり、I(100)
Znはη-Zn相の(100)の回折強度である。
【請求項2】
前記めっき層のAlおよびMgがそれぞれ、Al:10.0~25.0%、Mg:4.5~15.0%である、請求項1に記載のめっき鋼材。
【請求項3】
前記めっき層におけるLaまたはCeのうちの1種または2種の合計が0.010~0.500%であり、
前記めっき層を平面視した場合の表面組織の200μm×200μm視野中におけるLaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の1種以上の個数が1個以上である、請求項1または請求項2に記載のめっき鋼材。
【請求項4】
前記めっき層におけるLaまたはCeのうちの1種または2種の合計が0.050~0.500%であり、
前記めっき層を平面視した場合の表面組織の200μm×200μm視野中におけるLaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の1種以上の個数が3個以上である、請求項1
または2に記載のめっき鋼材。
【請求項5】
前記めっき層を平面視した場合の表面組織に含まれる〔α/MgZn
2共晶組織〕の面積率が5~70%である、請求項1
または2に記載のめっき鋼材。
【請求項6】
前記めっき層を平面視した場合の表面組織に含まれる〔α/MgZn
2
共晶組織〕の面積率が5~70%である、請求項3に記載のめっき鋼材。
【請求項7】
前記めっき層を平面視した場合の表面組織に含まれる〔α/MgZn
2
共晶組織〕の面積率が5~70%である、請求項4に記載のめっき鋼材。
【請求項8】
前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(2)を満足する、請求項1
または2に記載のめっき鋼材。
0.25≦I(100)
Zn
/{I(002)
Zn
+I(101)
Zn
+I(100)
Zn
}≦3.00 …(2)
【請求項9】
前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(2)を満足する、請求項3に記載のめっき鋼材。
0.25≦I(100)
Zn
/{I(002)
Zn
+I(101)
Zn
+I(100)
Zn
}≦3.00 …(2)
【請求項10】
前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(2)を満足する、請求項4に記載のめっき鋼材。
0.25≦I(100)
Zn
/{I(002)
Zn
+I(101)
Zn
+I(100)
Zn
}≦3.00 …(2)
【請求項11】
前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(2)を満足する、請求項5に記載のめっき鋼材。
0.25≦I(100)
Zn
/{I(002)
Zn
+I(101)
Zn
+I(100)
Zn
}≦3.00 …(2)
【請求項12】
前記めっき層のSnが、質量%で、Sn:0.05~0.50%であり、
前記めっき層のX線回折測定結果によってMg
2Sn相が検出される、請求項1
または2に記載のめっき鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき鋼材に関する。本願は、2023年4月11日に、日本に出願された特願2023-064063号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
Al及びMgを含有するZnめっき層が表面に形成された鋼材(Zn-Al-Mg系めっき鋼材)は、優れた耐食性を有する。そのため、例えば建材などの耐食性を求められる構造部材の材料として、Zn-Al-Mg系めっき鋼材は幅広く用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、鋼板と、鋼板の表面に形成されためっき層と、を備え、めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、めっき層に、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、パターン部及び非パターン部は、それぞれ、第1領域、第2領域のうちの1種または2種を含み、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差の絶対値が、30%以上であり、第1領域は、配向率が3.5以上の領域であり、第2領域は、配向率が3.5未満の領域であるめっき鋼板が記載されている。
【0004】
特許文献2には、鋼板と、4質量%以上22質量%以下のAlと、1質量%以上5質量%以下のMgとを含有し、残部がZn及び不可避的不純物を含むめっき層とを備え、めっき層の表面に平行なめっき層の断面における、Al相の(200)面のX線回折強度I(200)とAl相の(111)面のX線回折強度I(111)との比である回折強度比I(200)/I(111)が、0.8以上であるZn-Al-Mg系めっき鋼板が記載されている。
【0005】
近年、屋根や壁材などに使用される建材用途のめっき鋼材には、地鉄が露出した場合に、地鉄における赤錆の発生を抑制する耐赤錆性と、地鉄の腐食深さの増大を抑制する地鉄防食性と、に優れることが求められている。しかし、先行技術において、耐赤錆性と地鉄防食性の両方を向上することについてはほとんど検討されていない。
【0006】
特許文献1は、Zn相の(0002)面の回折ピーク強度I0002と(10-11)面の回折ピーク強度I10-11との強度比が3.5以上の領域を第1領域とし、強度比が3.5未満の領域を第2領域とした場合に、パターン部における第1領域の面積率と非パターン部における第1領域の面積率との差を30%以上とすることで、めっき層の表面に文字やデザイン等を意図的に現すことができるとしているが、耐赤錆性および地鉄防食性は検討されていない。
【0007】
特許文献2では、めっき層中のAl相の方位を制御することで、めっき層の外観を、キメが細かく、かつ平滑な光沢部が多い梨肌の外観としているが、耐赤錆性および地鉄防食性は検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2021-85086号公報
【文献】国際公開第2011/001662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐赤錆性および地鉄防食性に優れるめっき鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鋼材と、
前記鋼材の上のめっき層と、を備え、
前記めっき層の化学組成が、質量%で、
Al:6.0~30.0%、
Mg:3.0~15.0%、
Fe:0.01~15.00%、
Si:0~2.0%、
Ca:0~2.00%を含有し、
LaまたはCeのうちの1種または2種を合計で0.005~0.500%含有し、
Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Nb:0~1.00%、Zr:0~1.00%、Ni:0~1.000%、Mn:0~1.00%、Mo:0~1.00%、Ag:0~1.00%、Li:0~1.00%、B:0~0.500%、Y:0~0.50%、P:0~0.50%、Sr:0~0.50%、Co:0~0.500%、Bi:0~0.500%、In:0~0.50%、V:0~0.500%、W:0~0.50%の元素群のうちの1種または2種以上の元素を含有するとともに、これらの元素の合計が0~5.0%とされ、
残部:Zn及び不純物からなり、
前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(1)を満足する、めっき鋼材。
0.15≦I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}≦3.00 …(1)
ただし、式(1)におけるI(100)Znはη-Zn相の(100)の回折強度であり、I(002)Znはη-Zn相の(002)の回折強度であり、I(101)Znはη-Zn相の(101)の回折強度であり、I(100)Znはη-Zn相の(100)の回折強度である。
[2] 前記めっき層のAlおよびMgがそれぞれ、Al:10.0~25.0%、Mg:4.5~15.0%である、[1]に記載のめっき鋼材。
[3]前記めっき層におけるLaまたはCeのうちの1種または2種の合計が0.010~0.500%であり、
前記めっき層を平面視した場合の表面組織の200μm×200μm視野中におけるLaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の1種以上の個数が1個以上である、[1]または[2]に記載のめっき鋼材。
[4] 前記めっき層におけるLaまたはCeのうちの1種または2種の合計が0.050~0.500%であり、
前記めっき層を平面視した場合の表面組織の200μm×200μm視野中におけるLaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の1種以上の個数が3個以上である、[1]乃至[3]の何れか一項に記載のめっき鋼材。
[5] 前記めっき層を平面視した場合の表面組織に含まれる〔α/MgZn2共晶組織〕の面積率が5~70%である、[1]乃至[4]の何れか一項に記載のめっき鋼材。
[6] 前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(2)を満足する、[1]乃至[5]請求項5の何れか一項に記載のめっき鋼材。
0.25≦I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}≦3.00 …(2)
[7] 前記めっき層のSnが、質量%で、Sn:0.05~0.50%であり、
前記めっき層のX線回折測定結果によってMg2Sn相が検出される、[1]乃至[6]の何れか一項に記載のめっき鋼材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐赤錆性および地鉄防食性に優れるめっき鋼材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態であるめっき鋼材の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
めっき層の犠牲防食性は、地鉄よりもイオン化傾向が高い元素(例えばZn、Mg等)を含むめっき層を鋼材表面に形成し、地鉄に対してめっき層を優先的に腐食させることによって達成される。
【0014】
そこで、本発明者らが、Al及びMgを含有するZnめっき層の犠牲防食性を向上させるために鋭意検討した。めっき層に含まれるη-Zn相は六方晶の結晶構造をとり、そこには様々な結晶方位面が含まれる。これら結晶方位面の耐食性は全ての方位面において一様ではない。例えば、η-Zn相の(002)面は、Znの原子密度が比較的高い稠密な結晶方位面であるため、Zn自体が比較的溶けにくく、Zn自体の耐食性は比較的高いと考えられる。一方、η-Zn相の(100)面は、Znの原子密度が(002)面よりも低い結晶方位面であるため、Zn自体が比較的溶けやすく、Zn自体の耐食性は低いものの、Znの腐食に伴って生成する腐食生成物によって地鉄が防食されるので、地鉄に対する犠牲防食性は高いと考えられる。従って、めっき層の表面と平行にη-Zn相の(100)面を配向させれば、Al及びMgを含有するZnめっき層の犠牲防食性、具体的には耐赤錆性および地鉄防食性を向上できると考えた。
【0015】
そこで、本発明者らは、めっき層に含まれるη-Zn相の(100)面をめっき層の表面と平行に配向させることを試みた。Al及びMgを含有するZnめっき層は、溶融状態から凝固する際、最初にα相が晶出し、次いでMgZn2相やη-Zn相が晶出し、更には、α相、MgZn2相およびη-Zn相を含む三元共晶組織が生成する。このとき、デンドライト状のα相が多く晶出すると、η-Zn相を含む三元共晶組織が、ランダムな方向に配向することが分かった。そこで、鋼材の表面を粗面化させるとともにめっき層にLaまたはCeの一方または両方を含有させ、さらに冷却条件を制御したところ、α相の晶出が抑制されるとともに、めっき層と地鉄との界面付近を起点として三元共晶組織の晶出が進み、その結果、三元共晶組織に含まれるη-Zn相の(100)面が、めっき層の表面と平行になるように配向することを見出した。
【0016】
以下、本発明の実施形態であるめっき鋼材について説明する。本実施形態のめっき鋼材は、鋼材と、鋼材の表面に配されためっき層と、を備え、めっき層の化学組成が、質量%で、Al:6.0~30.0%、Mg:3.0~15.0%、Fe:0.01~15.00%、Si:0~2.0%、Ca:0~2.00%を含有し、LaまたはCeのうちの1種または2種を合計で0.005~0.500%含有し、Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Nb:0~1.00%、Zr:0~1.00%、Ni:0~1.000%、Mn:0~1.00%、Mo:0~1.00%、Ag:0~1.00%、Li:0~1.00%、B:0~0.500%、Y:0~0.50%、P:0~0.50%、Sr:0~0.50%、Co:0~0.500%、Bi:0~0.500%、In:0~0.50%、V:0~0.500%、W:0~0.50%の元素群のうちの1種または2種以上の元素を含有するとともに、これらの元素の合計が0~5.0%とされ、残部:Zn及び不純物からなり、めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、下記式(1)を満足する、めっき鋼材である。ここでいう鋼材の表面とは、めっき層と鋼材との界面のことである。
【0017】
0.15≦I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}≦3.00 …(1)
【0018】
ただし、式(1)におけるI(100)Znはη-Zn相の(100)面の回折強度であり、I(002)Znはη-Zn相の(002)面の回折強度であり、I(101)Znはη-Zn相の(101)面の回折強度であり、I(100)Znはη-Zn相の(100)面の回折強度である。
【0019】
以下の説明において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。化学組成の元素の含有量は、元素濃度(例えば、Zn濃度、Mg濃度等)と表記することがある。「耐赤錆性」とは、鋼材むき出し部(例えばめっき鋼材の切断端面部、加工時のめっき層割れ部、およびめっき層の剥離により、鋼材が露出する箇所)での鋼材の赤錆の発生を抑制する性質を示す。「地鉄防食性」とは、鋼材むき出し部で鋼材が腐食した場合の腐食深さの増大を抑制する性質を示す。「平面部耐食性」とは、めっき層(具体的にはZn-Al-Mg合金層)自体の腐食し難い性質を示す。「めっき層」とは、いわゆる溶融亜鉛めっき処理によって製造されためっき皮膜を意味する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るめっき鋼材1は、鋼材11を有する。鋼材11の形状には、特に制限はない、鋼材11の一例は鋼板である。また、鋼材11は例えば、鋼管、土木建築材(柵渠、コルゲートパイプ、排水溝蓋、飛砂防止板、ボルト、金網、ガードレール、止水壁等)、家電部材(エアコンの室外機の筐体等)、自動車部品(足回り部材等)などの、成形加工された素地鋼材であってもよい。成形加工は、例えば、プレス加工、ロールフォーミング、曲げ加工などの種々の塑性加工手法である。
【0021】
鋼材11の材質には、特に制限はない。鋼材11は、例えば、一般鋼、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、一部の高合金鋼(Ni、Cr等の強化元素含有鋼等)などの各種の鋼材とすることができる。鋼材11を、JIS G 3302:2010に記載されている熱延鋼板、熱延鋼帯、冷延鋼板、及び冷延鋼帯などとしてもよい。鋼板の製造方法(熱間圧延方法、酸洗方法、冷延方法等)、及びその具体的な製造条件等についても、特に制限されない。
【0022】
また、めっき原板となる鋼材11は、鋼材11の表面にプレめっきされたプレめっき鋼材であってもよい。プレめっき鋼材の例は、鋼材11上にNiめっきを有するNiプレめっき鋼材を例示できる。プレめっき鋼材は、例えば、電解処理または置換めっきによって得られる。電解処理は、種々のプレめっき成分の金属イオンを含む硫酸浴又は塩化物浴に、素地鋼材を浸漬して電解処理することにより実施される。置換めっきは、種々のプレめっき成分の金属イオンを含み、硫酸でpH調整した水溶液に、素地鋼材を浸漬して、金属を置換析出させることにより実施される。
【0023】
本実施形態に係るめっき鋼材1は、鋼材11の上にめっき層12を有する。本実施形態に係るめっき鋼材1のめっき層12は、後述する化学組成に起因して、主にZn-Al-Mg合金層から構成される。また、本実施形態に係るめっき鋼材1のめっき層12は、鋼材11とZn-Al-Mg合金層との間にFe-Al系界面合金層を含んでもよい。つまり、めっき層12は、Zn-Al-Mg合金層の単層構造であってもよく、Zn-Al-Mg合金層とFe-Al系界面合金層とを含む積層構造であってもよい。また、Fe-Al系界面合金層にはNiが含まれていてもよい。
【0024】
本実施形態に係るめっき層の化学組成は、Znと、その他の合金元素とから構成される。めっき層の化学組成について、以下に詳細に説明する。なお、濃度の下限値が0%である元素は、本実施形態に係るめっき鋼材の課題を解決するために必須ではないが、特性の向上などを目的としてめっき層に含まれることが許容される任意元素である。
【0025】
<Al:6.0~30.0%>
Alは、Znとの固溶体であるα相を形成し、平面部耐食性、犠牲防食性及び加工性の向上に寄与する。従って、Al濃度は6.0%以上とする。Al濃度を10.0%以上、12.0%以上、又は15.0%以上としてもよい。一方、Alが過剰である場合、Mg濃度およびZn濃度が相対的に低下して、耐赤錆性および地鉄防食性が劣化する。よって、Al濃度は30.0%以下とする。Al濃度を28.0%以下、25.0%以下、又は20.0%以下としてもよい。
【0026】
<Mg:3.0~15.0%>
Mgは、平面部耐食性、耐赤錆性および地鉄防食性を確保するために必須の元素である。従って、Mg濃度は、3.0%以上とする。Mg濃度を4.5%以上または6.0%以上としてもよい。一方、Mg濃度が過剰であると、加工性、特にパウダリング性が劣化し、更に平面部耐食性が劣化する場合がある。よって、Mg濃度は15.0%以下とする。Mg濃度を12.0%以下、10.0%以下、8.0%以下としてもよい。
【0027】
<Fe:0.01%~15.00%>
Feがめっき層に0.01%以上含有されてもよい。Fe濃度が15.00%以下であれば、めっき層の性能に悪影響がないことが確認されている。Fe濃度を例えば0.05%以上、0.10%以上、0.50%以上、又は1.00%以上としてもよい。Fe濃度を例えば10.00%以下、5.00%以下、2.00%以下または1.00%以下としてもよい。Feは、鋼材から混入する場合があるため、Fe濃度は0.05%以上でもよい。
【0028】
<Si:0%~2.0%>
Si濃度は0%であってもよい。一方、Siは、平面部耐食性の向上に寄与する。従って、Si濃度を0.05%以上、0.1%以上、0.2%以上、又は0.5%以上としてもよい。一方、Si濃度が過剰であると、平面耐食性、耐赤錆性および地鉄防食性が劣化する。従って、Si濃度は2.0%以下とする。Si濃度を1.5%以下、1.0%以下、又は0.5%以下としてもよい。
【0029】
<Ca:0%~2.00%>
Ca濃度は0%であってもよい。一方、Caは、平面部耐食性を付与するのに最適なMg溶出量を調整することができる元素である。従って、Ca濃度は0.05%以上、0.10%以上、又は0.50%以上であってもよい。一方、Ca濃度が過剰であると、平面部耐食性及び加工性が劣化する。従って、Ca濃度は2.00%以下とする。Ca濃度を1.00%以下、0.50%以下、又は0.10%以下としてもよい。
【0030】
<LaまたはCeのうちの1種または2種の合計:0.005~0.500%>
LaおよびCeは、いずれか一方または両方がめっき層に含有されることで、耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。LaおよびCeの合計が0.005%未満であると耐赤錆性および地鉄防食性を向上できない。また、LaおよびCeの合計が0.500%を超えると平面部耐食性が劣化する。よって、LaまたはCeのうちの1種または2種の合計を0.005~0.500%とする。La、Ceの合計は0.008%以上でもよく、0.010%以上でもよく、0.050%以上でもよい。また、La、Ceの合計は0.200%以下でもよく、0.100%以下でもよい。La、Ceが含有されることで、めっき層が凝固する際にα相の晶出が抑制され、これにより、三元共晶組織に多く含まれるη-Zn相の(100)面が、めっき層の表面と平行になるように配向されやすくなる。そのため、耐赤錆性および地鉄防食性が向上すると考えられる。
【0031】
更に、本実施形態に係るめっき層には、Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Nb:0~1.00%、Zr:0~1.00%、Ni:0~1.000%、Mn:0~1.00%、Mo:0~1.00%、Ag:0~1.00%、Li:0~1.00%、B:0~0.500%、Y:0~0.50%、P:0~0.50%、Sr:0~0.50%、Co:0~0.500%、Bi:0~0.500%、In:0~0.50%、V:0~0.500%、W:0~0.50%の元素群のうちの1種または2種以上の元素が含有されてもよい。これらの元素の合計は0~5.0%とされる。合計が5.0%を超えると、平面耐食性、耐赤錆性および地鉄防食性が低下する場合がある。また、これらの元素は任意添加元素であるので、合計量は0%でもよい。
【0032】
<Sb、Pb:それぞれ0~0.50%>
Sb、Pbの濃度は0%でもよい。一方、Sb、Pbは、耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、Sb、Pbそれぞれの濃度を0.05%以上、0.10%以上、又は0.15%以上としてもよい。一方、Sb、Pbの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従って、Sb、Pbそれぞれの濃度は0.50%以下とする。Sb、Pbそれぞれの濃度を0.40%以下、0.30%以下、又は0.25%以下としてもよい。
【0033】
<Cu、Ti、Cr、Nb、Zr、Mn、Mo、AgおよびLi:それぞれ0~1.00%>
Cu、Ti、Cr、Nb、Zr、Mn、Mo、AgおよびLiの濃度はそれぞれ0%でもよい。一方、これらは耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、Cu、Ti、Cr、Nb、Zr、Mn、Mo、AgおよびLiそれぞれの濃度を0.05%以上、0.08%以上、又は0.10%以上としてもよい。一方、Cu、Ti、Cr、Nb、Zr、Mn、Mo、AgおよびLiの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従ってCu、Ti、Cr、Nb、Zr、Mn、Mo、AgおよびLiそれぞれの濃度は、1.00%以下とする。Cu、Ti、Cr、Nb、Zr、Mn、Mo、AgおよびLiそれぞれの濃度を0.80%以下、0.70%以下、又は0.60%以下としてもよい。
【0034】
<Ni:0~1.000%>
Niの濃度はそれぞれ0%でもよい。一方、これらは耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、Niの濃度を0.050%以上、0.080%以上、又は0.100%以上としてもよい。一方、Niの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従ってNiの濃度は、1.000%以下とする。Niの濃度を0.800%以下、0.700%以下、又は0.600%以下としてもよい。
【0035】
<Sn:0~1.00%>
Sn濃度は0%であってもよい。一方、Snは、Mgと金属間化合物を形成し、めっき層の耐赤錆性およびは地鉄防食性を向上させる元素である。従って、Sn濃度を0.01%以上、0.05%以上、0.10%以上としてもよい。ただし、Sn濃度が過剰であると、平面耐食性が劣化する。従って、Sn濃度は1.00%以下とする。Sn濃度を0.50%以下、0.30%以下、又は0.20%以下としてもよい。
【0036】
<B:0~0.500%>
Bの濃度は0%でもよい。一方、Bは、耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、Bの濃度それぞれを0.100%以上、0.150%以上、又は0.200%以上としてもよい。一方、Bの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従って、Bの濃度それぞれを、0.500%以下とする。Bの濃度それぞれを0.400%以下、0.300%以下としてもよい。
【0037】
<Y、PおよびSr:それぞれ0~0.50%>
Y、PおよびSrそれぞれの濃度は0%でもよい。一方、Y、PおよびSrは、耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、Y、PおよびSrの濃度それぞれを0.10%以上、0.15%以上、又は0.20%以上としてもよい。一方、Y、PおよびSrの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従って、B、Y、PおよびSrの濃度それぞれを、0.50%以下とする。Y、PおよびSrの濃度それぞれを0.40%以下、0.30%以下としてもよい。
【0038】
<Co、Bi、V:それぞれ0~0.500%>
Co、Bi、Vそれぞれの濃度は0%でもよい。一方、Co、Bi、Vは、耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、Co、Bi、Vの濃度それぞれを0.100%以上、0.150%以上、又は0.200%以上としてもよい。一方、Co、Bi、Vの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従って、Co、Bi、Vの濃度それぞれを、0.500%以下とする。Co、Bi、Vの濃度それぞれを0.400%以下、0.300%以下としてもよい。
【0039】
<In、W:それぞれ0~0.50%>
In、Wそれぞれの濃度は0%でもよい。一方、In、Wは、耐赤錆性および地鉄防食性の向上に寄与する。従って、In、Wの濃度それぞれを0.10%以上、0.15%以上、又は0.20%以上としてもよい。一方、In、Wの濃度が過剰であると、平面部耐食性が劣化する。従って、In、Wの濃度それぞれを、0.50%以下とする。In、Wの濃度それぞれを0.40%以下、0.30%以下としてもよい。
【0040】
<残部:Zn及び不純物>
本実施形態に係るめっき層の成分の残部は、Zn及び不純物である。Znは、平面部耐食性、耐赤錆性および地鉄防食性をめっき層にもたらす元素である。本実施形態において、不純物とは、製造環境等から混入されるもの、及び、本実施形態に係るめっき鋼材の特性に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、めっき層には、素地鋼材とめっき浴との相互の原子拡散によって、不純物として、Fe以外の成分も微量混入することがある。
【0041】
めっき層の化学成分は、次の方法により測定する。例えば、30mm×30mmのサイズにめっき鋼材を切断し、測定用試料を得る。次に、鋼材の腐食を抑制するインヒビター(朝日化学工業社製、イビット710K)0.06質量%を加えた10%塩酸水溶液を用いて、測定用試料のめっき層を剥離溶解した酸液を得る。次に、得られた酸液をICP分析する。これにより、めっき層の化学組成を得ることができる。なお、めっき鋼材の切断に際し、めっき鋼材の端部、溶接部を避けることが好ましい。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。例えば、10体積%のHClがある。なお、上述の手段により化学組成の測定を3回行い、それらの平均をめっき層の化学組成とする。
【0042】
次に、めっき層の金属組織について説明する。
【0043】
めっき層には、α相およびMgZn2相が含有される。α相は、微細なAl相と微細なZn相とを含有する相である。α相およびMgZn2相はその一部がラメラ状の二元共晶組織(〔α相/MgZn2の共晶組織〕)を形成する場合がある。〔α相/MgZn2の共晶組織〕が含まれると、めっき層の平面部耐食性がより向上する。ただし、α相およびMgZn2相が過剰に析出することによってめっき層中に〔α相/MgZn2の共晶組織〕が多く含まれるようになると、η-Zn相の割合が相対的に少なくなり、耐赤錆性および地鉄防食性が低下する。よって〔α相/MgZn2の共晶組織〕は、面積率で、70%以下の範囲でもよく、5~70%の範囲でもよく、10~70%の範囲でもよい。〔α相/MgZn2の共晶組織〕は0%でもよく、0%超でもよい。
【0044】
また、本実施形態のめっき層には、α相およびMgZn2相のほかに、η-Zn相が含まれる。η-Zn相は、その少なくとも一部が、α相およびMgZn2相とともに三元共晶組織を形成する。また、η-Zn相は、塊状のη-Zn相としてめっき層中に含まれていてもよい。
【0045】
また、めっき層に0.05~0.5%のSnが含有される場合、めっき層中にはMg2Sn相が確実に含まれるようになる。Mg2Sn相はSn量が0.05%以下の場合でも含まれる場合がある。Mg2Sn相は少量であるため、X線回折測定によってその存在が確認される。めっき層中にMg2Sn相が含有されることにより、めっき鋼材の耐赤錆性がより向上する。
【0046】
X線回折測定は、Cu管球のKα線を用い、23.4±0.3°にピークが検出された場合、Mg2Sn相が存在すると判断する。X線回折装置(Rigaku社製、型番RINT-TTR III)を用い、X線出力50kV、300mA、銅ターゲット、ゴニオメーターTTR(水平ゴニオメータ)、Kβフィルターのスリット幅0.05mm、長手制限スリット幅2mm、受光スリット幅8mm、受光スリット2開放、とし、測定条件としてスキャンスピード5deg./min、ステップ幅0.01deg、スキャン軸2θ(5~90°)としてX線回折測定を実施する。
【0047】
更に、めっき層には、後述するように、LaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の1種以上が含まれる場合がある。
【0048】
めっき層には、上記以外の相を残部として含有してもよい。例えば、Al-Ca-Si相などが含まれてもよい。
【0049】
次に、η-Zn相の結晶方位について説明する。
本実施形態のめっき層では、めっき層のX線回折測定結果から得られるX線回折強度が、下記式(1)の関係を満足する必要がある。下記式(1)を満足する場合に、η-Zn相の(100)面がめっき層の表面と平行になるように配向され、耐赤錆性および地鉄防食性がともに向上する。より好ましくは、下記式(2)を満足するとよい。I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}が0.15未満では、η-Zn相の(100)面の配向が十分ではなく、耐赤錆性および地鉄防食性が不十分になる。また、I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}が3.00を超えると、平面部耐食性が低下するおそれがある。
【0050】
0.15≦I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}≦3.00 …(1)
【0051】
0.25≦I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}≦3.00 …(2)
【0052】
ただし、式(1)、式(2)におけるI(100)Znはη-Zn相の(100)面の回折強度であり、I(002)Znはη-Zn相の(002)面の回折強度であり、I(101)Znはη-Zn相の(101)面の回折強度であり、I(100)Znはη-Zn相の(100)面の回折強度である。
【0053】
また、めっき層にLaまたはCeのうちの1種または2種が合計で0.01~0.50%含まれる場合に、めっき層を平面視した場合の表面組織の200μm×200μm視野中に、LaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相のいずれか1種以上が合計で1個以上含まれることが好ましい。より好ましくは、これらの金属間化合物相のいずれか1種以上が200μm×200μm視野中に3個以上含まれるとよい。金属間化合物相のいずれか1種以上が200μm×200μm視野中に10個以下含まれるとよい。
【0054】
LaCe含有金属間化合物相はLaおよびCeを含む金属間化合物相であり、La含有金属間化合物相はLaを含む金属間化合物相であり、Ce含有金属間化合物相はCeを含む金属間化合物相である。これら金属間化合物相に含まれるLa、Ce以外の元素は、Al、Ca、Si、Mg、Znが挙げられる。例えば、これら金属間化合物相として、Al-Ca-Si-Mg-Zn-(La,Ce)相、Ca-Zn-(La,Ce)相などが含まれる場合がある。なお、(La,Ce)の表記は、LaまたはCeの一方または両方であることを意味する。このような金属間化合物相が含まれる場合、η-Zn相の(100)面が、めっき層の表面と平行に強く配向するようになり、耐赤錆性および地鉄防食性がより一層向上する。
【0055】
〔α相/MgZn2の共晶組織〕の面積率の測定方法は以下の通りである。まず、めっき層の表面を、機械研磨により平坦に調整する。次に、コロイダル研磨により、めっき層の表面に化学研磨を施し、この表面が鏡面状態になるまで研磨する。
研磨後のめっき層の表面をSEM観察する。具体的には、倍率5000倍で(縦200μm、横200μmの領域)、SEM-EDSを用いて元素分布像を撮影する。この元素分布像において、MgとZnとが共存する相をMgZn2相と特定する。また、AlおよびZnを含む相をα相と特定する。α相の多くはデンドライト状の形態を示す。そして、α相とMgZn2相とを含む〔α相/MgZn2の共晶組織〕を特定した後、視野中に含有される〔α相/MgZn2の共晶組織〕の面積率を、画像解析ソフトを用いた二値化により算出する。
【0056】
式(1)および式(2)におけるI(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}の測定方法は以下の通りである。まず、めっき層の表面を機械研磨し、必要に応じて化学研磨することで、めっき層の表面を鏡面状態にする。次いで、例えば、X線回折装置(Rigaku社製(型番RINT-TTR III)を用い、X線出力50kV、300mA、銅ターゲット、ゴニオメーターTTR(水平ゴニオメータ)、Kβフィルターのスリット幅0.05mm、長手制限スリット幅2mm、受光スリット幅8mm、受光スリット2開放、をとし、測定条件としてスキャンスピード5deg./min、ステップ幅0.01deg、スキャン軸2θ(5~90°)としてX線回折測定を実施する。そして、η-Zn相の(100)面の回折強度(38.993±0.2°の範囲における最大強度)、(002)面の回折強度(36.297±0.2°の範囲における最大強度)、(101)面の回折強度(43.232±0.2°の範囲における最大強度)をそれぞれ計測する。回折強度はバックグラウンド強度を除いた強度とする。得られた回折強度から、I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}を求める。
【0057】
また、めっき層中にMg2Sn相が含まれるかどうかは、上記のX線回折測定を行う際に、Mg2Snに特有の回折ピークが現れるかどうかで判断する。
【0058】
更に、めっき層の表層組織におけるLaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の個数の測定方法は以下の通りである。まず、めっき層の表面を機械研磨し、必要に応じて化学研磨することで、めっき層の表面を鏡面状態にする。次に、めっき層表面において、縦200μm、横200μmの矩形の観察視野を設定する。この観察視野に対して、SEM-EDSを用いて元素分布像を撮影する。この元素分布像において、LaまたはCeの一方または両方を含む相を、LaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相のいずれか1種と特定する。そして、これらの金属間化合物の個数を計数する。
【0059】
めっき層の片面当たりの付着量は、例えば20~300g/m2の範囲内とすればよい。片面当たりの付着量を20g/m2以上とすることにより、めっき鋼材の平面耐食性、耐赤錆性および地鉄防食性を一層高めることができる。一方、片面当たりの付着量を300g/m2以下とすることにより、めっき鋼材の加工性を一層高めることができる。
【0060】
次に、本実施形態のめっき鋼材の製造方法を説明するが、本実施形態に係るめっき鋼材の製造方法は特に限定されない。例えば以下に説明する製造条件によれば、本実施形態に係るめっき鋼材を得ることができる。
【0061】
本実施形態のめっき鋼材の製造方法では、めっき原板として、表面に凹凸が形成された鋼材を用いる。この鋼材を還元雰囲気中で焼鈍し、焼鈍直後の鋼材を溶融めっき浴に浸漬してから引き上げることで、鋼材の表面にめっき層を形成する。次いで、めっき層の温度が浴温から340℃になるまで平均冷却速度15℃/秒以上で冷却し、次いで、340~320℃の範囲を、流束15000(L/min/m2)以上で冷却ガスを吹き付けつつ平均冷却速度7℃/秒以下で冷却する。
【0062】
めっき原板となる鋼材表面の粗さは、基準長さL0あたりの粗さ曲線の曲線長さLpの比(Lp/L0)を1.08以上とする。鋼材表面の粗さ(Lp/L0)を1.08以上とすることで、めっき層と鋼板との界面近くに、三元共晶組織を晶出させるための核生成サイトを形成する。(Lp/L0)の上限は3.00以下であることが好ましく、2.50以下でもよい。基準長さL0は、めっき層を断面視した場合のめっき層の長手方向の長さであり、曲線長さLpは、めっき層を断面視した場合に、基準長さL0に対する粗さ曲線の曲線長さ、すなわち、めっき層の表面の輪郭線の全長である。
【0063】
鋼材表面の粗さの調整は、特に制限はないが、例えば、ロール表面を所望の粗さに調整した圧延ロールまたは調質圧延用のロールによって、めっき原板を圧延してロールの表面形状を転写することにより、調整してもよい。また、酸洗によって調整してもよい。
【0064】
(Lp/L0)の測定は、例えば、株式会社キーエンス製の形状測定レーザマイクロスコープ(型番:VK-8700)を用いて測定する。測定条件としては、例えば、スキャンエリア:200μm×200μm、測定モード:レーザーコンフォーカル、測定品質:高精度、ピッチ:0.75μm、ダブルスキャン:ON、光学ズーム:1倍、対物レンズ名:Plan、γ係数:0.45、オフセット:0%として、測定を行う。なお、(Lp/L0)の測定に用いる測定装置は、上記の例に限定されるものではない。
【0065】
めっき原板となる鋼材に対する焼鈍は、還元雰囲気中で行う。還元雰囲気および焼鈍条件は特に限定されない。この焼鈍によって、鋼材表面に存在する酸化物をできる限り除去する。
【0066】
次いで、焼鈍直後の鋼材を、溶融めっき浴に浸漬する。溶融めっき浴の化学組成は、上述しためっき層の化学組成が得られるように、適宜調整すればよい。また、溶融めっき浴の温度も特に限定されず、溶融めっきを実施可能な温度を適宜選択することができる。例えば、めっき浴温を、めっき浴の融点より約20℃以上高い値としてもよい。
【0067】
次に、鋼材を溶融めっき浴から引き上げる。鋼材の引き上げ速度の制御を介して、めっき層の付着量を制御することができる。必要に応じて、めっき層が付着した鋼材にワイピングを行って、めっき層の付着量を制御してもよい。めっき層の付着量は特に制限されず、例えば上述した範囲内とすることができる。
【0068】
次いで、めっき層を冷却する。冷却は、まず、めっき層の温度が浴温から340℃になるまで、平均冷却速度15℃/秒以上で冷却を行う。めっき層の温度が浴温から340℃になるまでの平均冷却速度は30℃/秒以下であってもよい。冷却は、例えば、冷却ガスを吹き付けることによって行うことができる。冷却ガスを吹き付けて冷却する場合、鋼材の搬送路に沿って冷却ガス用の吹付ノズルを複数配置し、当該ノズルから冷却ガスを吹き付ければよい。浴温から340℃の範囲を15℃/秒以上で冷却することで、凝固段階の初期に生成するデンドライト状のα相の生成が抑制される。α相のデンドライトは、三元共晶組織の晶出時の核生成サイトになる場合があるところ、α相の生成を抑制することで、鋼材とめっき層の界面付近の核生成サイトから三元共晶組織が形成するようになる。
【0069】
続いて、340~320℃の範囲を、流束15000(L/min/m2)以上で冷却ガスを吹き付けつつ平均冷却速度7℃/秒以下で冷却を行う。このとき、平均冷却速度2℃以上で冷却を行ってもよい。また、冷却時の冷却ガスの流束は、25000(L/min/m2)以下であってもよい。この場合も、鋼材の搬送路に沿って冷却ガス用の吹付ノズルを複数配置する。そして、流束を15000(L/min/m2)以上とすることで、過剰に過冷却することなく、冷却ガスの吹き付けによってめっき層に振動を与える。これにより、めっき層と鋼材との界面近傍を起点にして、三元共晶組織の晶出が開始され、めっき層の表面に向けて三元共晶組織が成長する。
【0070】
吹き付ける冷却ガスは特に制限はなく、窒素などの非酸化性ガス、アルゴン等の不活性ガスまたは空気であってもよく、これらの混合ガスであってもよい。
【0071】
冷却ガスの流束を制御する場合、冷却ガスが噴き出すガスノズルの形状は、例えば、直径1~50mmの範囲とする。ガスノズル先端と鋼板の成す角度は、例えば、70~110°の範囲、より好ましくは90°(直角)とする。ガスノズル先端と鋼板の距離は30~1000mmの範囲とする。なお、ガスノズルの形状、角度、距離は、単なる一例であって、上記の範囲に限定されるものではない。
【0072】
320℃未満の冷却条件は特に制限する必要はなく、空冷、放冷の何れでもよい。
【0073】
上述の条件を満たすようにめっき層を冷却することにより、上記式(1)を満たすめっき層が形成される。その理由は、以下のようなものであると推定される。
【0074】
上記の製造方法において、溶融めっき前の鋼材の表面に凹凸を設けることで、鋼材とめっき層との界面近傍に三元共晶組織の核生成サイトが形成される。そして、めっき浴に浸漬した鋼材を引き上げる際に、上記の条件で冷却を行うことで、三元共晶組織の晶出の起点となる核生成サイトが、α相のデンドライトではなく、鋼材とめっき層との界面近傍となるように仕向ける。鋼材とめっき層との界面近傍を起点として晶出した三元共晶組織は、α相のデンドライトを起点とする場合とは異なり、結晶方位が一定の方向に配向するようになる。その結果、三元共晶組織に含まれるη-Zn相の(100)面が、めっき層の表面と平行に配向するようになり、上記式(1)を満足するようになるものと考えられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0076】
めっき原板には、板厚1.6mmの熱延鋼板を用いた。熱延鋼板は、あらかじめ、スキンパスミルなどを用いて表面粗さを制御した。表面粗さは、基準長さL0あたりの粗さ曲線の曲線長さLpの比(Lp/L0)が1.05~1.57となるように調整した。
【0077】
なお、(Lp/L0)の測定は、株式会社キーエンス製の形状測定レーザマイクロスコープ(型番:VK-8700)を用いて測定した。測定条件としては、測定モード:レーザーコンフォーカル、測定品質:高精度、ピッチ:0.75μm、ダブルスキャン:ON、光学ズーム:1倍、対物レンズ名:Plan、γ係数:0.45、オフセット:0%として、測定を行った。
【0078】
次に、表面粗さを調整しためっき原板に対して焼鈍を行った。焼鈍条件は、N2-4%H2雰囲気中、均熱温度800℃、均熱時間2分の条件とした。次いで、焼鈍後のめっき原板をN2ガスで空冷してめっき浴への浸漬時の温度が(めっき浴温度+20)℃程度になるように調整した上で、種々の溶融めっき浴に浸漬してから、引上速度20~200mm/秒で引上げた。引き抜き時、N2ワイピングガスによってめっき付着量を制御した。めっき浴から鋼材を引き抜いた後、表2に示す条件で冷却を行った。
【0079】
340~320℃の範囲の冷却では、冷却ガスをN2ガスとし、表2の通りにガス流束を制御した。冷却ガスが噴き出すガスノズルの形状は、直径6mmであり、ガスノズル先端と鋼板の成す角度は直角、ガスノズル先端と鋼板の距離は35mmとした。
このようにして、No.1~47のめっき鋼材を製造した。
【0080】
めっき層の化学組成は、表1の通りであった。また、めっき層の金属組織を評価し、その結果を表3に示した。さらに、めっき鋼材の耐赤錆性及び地鉄防食性を評価し、その結果を表4に示した。
【0081】
めっき層の化学組成は、30mm×30mmのサイズに切断したサンプルをインヒビター添加した10%HCl水溶液に浸漬してめっき層を酸洗剥離した後、水溶液中に溶出した元素をICP分析することで測定した。
【0082】
〔α相/MgZn2の共晶組織〕の面積率は、次のようにして評価した。まず、めっき層の表面を、機械研磨およびコロイダル研磨により、鏡面状態になるまで研磨した。次いで、エネルギー分散型元素分析装置(EDS)が装着された電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により、めっき層表面を倍率5000倍で観察し(縦200μm、200μmの領域)、EDSを用いて元素分布像を撮影した。元素分布像において、MgとZnとが共存する相をMgZn2相と特定し、AlおよびZnを含む相をα相と特定し、これらがラメラ状になっている〔α相/MgZn2の共晶組織〕を特定した。そして、視野中に含有される〔α相/MgZn2の共晶組織〕の面積率を、画像解析ソフトを用いた二値化により算出した。
【0083】
式(1)におけるI(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}の測定方法は以下の通りとした。まず、上記と同様にして、めっき層の表面を鏡面状態にした。次いで、X線回折装置(Rigaku社製、型番RINT-TTR III)を用い、X線出力50kV、300mA、銅ターゲット、ゴニオメーターTTR(水平ゴニオメータ)、Kβフィルターのスリット幅0.05mm、長手制限スリット幅2mm、受光スリット幅8mm、受光スリット2開放、とし、測定条件としてスキャンスピード5deg./min、ステップ幅0.01deg、スキャン軸2θ(5~90°)としてX線回折測定を実施した。そして、η-Zn相の(100)面の回折強度(38.993±0.2°の範囲における最大強度)、(002)面の回折強度(36.297±0.2°の範囲における最大強度)、(101)面の回折強度(43.232±0.2°の範囲における最大強度)をそれぞれ計測した。回折強度はバックグラウンド強度を除いた強度とした。得られた回折強度から、I(100)Zn/{I(002)Zn+I(101)Zn+I(100)Zn}を求めた。
【0084】
めっき層中にMg2Sn相が含まれるかどうかは、上記のX線回折測定を行う際に、Mg2Snに特有の回折ピークが現れるかどうかで判断した。
【0085】
更に、めっき層の表層組織におけるLaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の個数を測定した。まず、上記と同様にしてめっき層の表面を鏡面状態にした。次に、めっき層表面において、縦200μm、横200μmの矩形の観察視野を設定した。この観察視野に対して、SEM-EDSを用いて元素分布像を撮影した。この元素分布像において、LaまたはCeの一方または両方を含む相を、LaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相のいずれか1種と特定した。そして、これらの金属間化合物の個数を計数した。結果を表3に示す。なお、表3の「LaCe含有金属間化合物相」の欄には、LaCe含有金属間化合物相、La含有金属間化合物相、Ce含有金属間化合物相の合計個数を示した。
【0086】
耐赤錆性の評価は、以下の通りとした。めっき鋼材を、100mm×100mmに切断して試験片とした。試験片の対角線の交点を中心とする直径30mmの領域にあるめっき層を、フライス加工により除去して鋼板(地鉄)を露出させた。直径30mmの地鉄の露出領域に対して、JASO-M609-91法に定められる複合サイクル試験を行い、地鉄の露出領域における赤錆発生状況を基に評価した。以下、耐赤錆性の評価基準を示す。「AAAA」「AAA」「AA」および「A」を合格とした。
【0087】
AAAA:120サイクルで赤錆面積率2%以下
AAA:120サイクルで赤錆面積率2%超5%以下
AA :120サイクルで赤錆面積率5%超10%以下
A :120サイクルで赤錆面積率10%超15%以下
B :120サイクルで赤錆面積率15%超
【0088】
地鉄防食性の評価は、以下の通りとした。めっき鋼材を、100mm×100mmに切断して試験片とした。試験片の対角線の交点を中心とする直径25mmの領域にあるめっき層を、フライス加工により除去して鋼板(地鉄)を露出させた。直径25mmの地鉄の露出領域に対して、JASO-M609-91法に定められる複合サイクル試験を行い、地鉄の露出領域における最大地鉄腐食深さを基に評価した。以下、地鉄防食性の評価基準を示す。「AAA」「AA」および「A」を合格とした。
【0089】
AAA:360サイクルで0.5mm以下
AA :240サイクルで0.5mm以下
A :180サイクルで0.5mm以下
B :180サイクルで0.5mm超
【0090】
本発明に係るNo.1~32、42~47(実施例)は、めっき層の化学組成及び金属組織が適切に制御されており、耐赤錆性および地鉄耐食性の両方が優れていた。
【0091】
比較例のNo.33は、めっき層のAl量が不足していた。そのため、No.31では、地鉄防食性が不足した。
【0092】
比較例のNo.34は、めっき層のAl量が過剰であった。そのため、No.32では、α相のデンドライトが過剰に生成し、そのデンドライトがη-Zn相の核生成サイトとして機能したため、η-Zn相の配向性を確保できず、耐赤錆性および地鉄耐食性の両方が不足した。
【0093】
比較例のNo.35は、めっき層のMg量が不足した。そのため、No.33では、耐赤錆性および地鉄耐食性の両方が不足した。
【0094】
比較例のNo.36は、めっき層のLaおよびCeの合計量が不足していた。そのため、No.36では、η-Zn相の配向性を確保できず、地鉄耐食性が不足した。
【0095】
比較例のNo.37では、めっき層のMg量が過剰であった。そのため、No.35では耐赤錆性が不足した。
【0096】
比較例のNo.38では、340~320℃の範囲の冷却において、冷却ガスのガス流束量が不足した。そのため、No.38では、η-Zn相の配向性を確保できず、耐赤錆性が不足した。
【0097】
比較例のNo.39では、340~320℃の範囲の冷却において、冷却速度が7℃/秒を超えた。そのため、No.39では、η-Zn相の配向性を確保できず、耐赤錆性が不足した。
【0098】
比較例のNo.40では、浴温~340℃の範囲の冷却において、冷却速度が15℃/秒未満であった。そのため、No.40では、η-Zn相の配向性を確保できず、耐赤錆性が不足した。
【0099】
比較例のNo.41では、めっき原板の表面粗さ((Lp/L0)が1.08未満であった。そのため、No.41では、η-Zn相の配向性を確保できず、耐赤錆性が不足した。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示のめっき鋼材は、耐赤錆性および地鉄防食性に優れるので産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0105】
1…めっき鋼材、11…鋼材、12…めっき層。
【要約】
このめっき鋼材は、鋼材と、前記鋼材の表面に配されためっき層と、を備え、
前記めっき層が所定の化学組成を有し、前記めっき層のX線回折測定結果から得られる回折強度が、所定の式を満足する。