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  • 特許-装飾用ガラス物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】装飾用ガラス物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/155 20060101AFI20241218BHJP
   A44C 17/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C03C3/155
A44C17/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021511940
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013756
(87)【国際公開番号】W WO2020203673
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019072601
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196236(JP,A)
【文献】特開2016-079055(JP,A)
【文献】特開2005-124687(JP,A)
【文献】特開2008-290317(JP,A)
【文献】特表2016-520503(JP,A)
【文献】特開昭51-028071(JP,A)
【文献】特開2018-020934(JP,A)
【文献】特開昭57-043951(JP,A)
【文献】特開2014-047099(JP,A)
【文献】特開2018-020935(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037797(WO,A1)
【文献】特開2017-019696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/12
C03C 3/15
C03C 3/155
A44C 17/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、La 10~30%、Nb 50~85%、B 0.1~40%を含有し、TiO を含有せず、屈折率が2.0以上、アッベ数が50以下である疑似宝石であることを特徴とする装飾用ガラス物品。
【請求項2】
モル%で、La+Nb 60%以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項3】
モル%で、Biの含有量が10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項4】
アッベ数が20以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項5】
屈折率が2.19以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項6】
密度が5g/cm以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項7】
着色度λが395以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項8】
遷移金属酸化物(Nb及びTiOを除く)及び希土類酸化物(Laを除く)から選択される少なくとも1種を、モル%で0超~5%含有することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項9】
面取り加工が施されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品を備えることを特徴とする装飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指輪、ペンダント、イヤリング、ブレスレット等の装飾品用途に好適な装飾用ガラス物品に関する。
【背景技術】
【0002】
日本硝子工業会によれば、クリスタルガラスは「酸化鉛を主要成分として含むガラス、および酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウム等を主要成分として含むガラスで、高い透明度を有し、かつ屈折率ndが1.52以上で光沢のある美しい輝き、および済んだ音色で特徴づけられる」と定義されている。これらのクリスタルガラスは、輝き、透明性、反響、重厚感、加工性等に優れ、装飾品(宝飾品、芸術品、食器等)に用いられている。
【0003】
しかし、鉛を含有するクリスタルガラスは人体に有害であり、かつ傷が付き易いという問題があることから、実質的に鉛を含まないクリスタルガラスの開発がなされている(特許文献1、2)。また、高屈折率という点では、Bi等の成分を多量に含んだ光学ガラス用の高屈折率ガラスが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2588468号公報
【文献】特許第4950876号公報
【文献】特開2016-13971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無鉛クリスタルガラスは屈折率が1.57程度と低く、装飾品としての十分な輝きが得られない。また分散も低いため、「ファイア」と呼ばれる虹色の輝きが弱い傾向がある。一方、光学ガラスに用いられている高屈折率ガラスは、高屈折率と高分散を両立できるが、高屈折率にするほど着色が強まり、ファイアが弱いという問題がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明は高屈折率かつ高分散であり、輝きとファイアに優れた装飾用ガラス物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の装飾用ガラス物品は、モル%で、La 10~70%、Nb 10~90%、B 0~40%、及びTiO 0~50%を含有し、屈折率が2.0以上、アッベ数が50以下であることを特徴とする。このようにLa及びNbを必須成分として含有するガラス組成により、高屈折率かつ高分散であり、輝きとファイアに優れた装飾用ガラス物品とすることが可能となる。また、当該ガラス組成を有するガラスは無色透明となりやすいという特徴も有する。
【0008】
本発明の装飾用ガラス物品は、モル%で、La+Nb 50%以上を含有することが好ましい。このようにすれば、高屈折率かつ高分散の光学特性が得やすくなる。なお本明細書において、「○+○+・・・」は記載された各成分の合量を意味する。
【0009】
本発明の装飾用ガラス物品は、モル%で、B 0.1~40%を含有することが好ましい。Bを必須成分として含有することにより、ガラス化しやすくなるため、サイズの大きい装飾用ガラス物品が得やすくなる。
【0010】
本発明の装飾用ガラス物品は、着色度λが395以下であることが好ましい。このようにすれば、可視光が透過しやすくなるため、無色透明となりやすい。なお「着色度λ」とは、厚み10mmでの透過率曲線において光透過率が5%となる最短波長(nm)を示す。
【0011】
本発明の装飾用ガラス物品は、遷移金属酸化物(Nb及びTiOを除く)及び希土類酸化物(Laを除く)から選択される少なくとも1種を、モル%で0超~5%含有してもよい。このようにすれば、含有させる成分に応じて、所望の色調を有するガラス物品とすることができる。
【0012】
本発明の装飾用ガラス物品は、面取り加工が施されていることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品内部で光が反射しやすくなり、輝きを高めることが可能となる。
【0013】
本発明の装飾用ガラス物品は疑似宝石として好適である。
【0014】
本発明の装飾品は、上記の装飾用ガラス物品を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高屈折率かつ高分散であり、輝きとファイアに優れた装飾用ガラス物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例におけるNo.3及び9の試料を示す平面写真である。
図2】実施例におけるNo.11~14の試料を示す平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の装飾用ガラス物品は、モル%で、La 10~70%、Nb 10~90%、B 0~40%、及びTiO 0~50%を含有し、屈折率が2.0以上、アッベ数が50以下であることを特徴とする。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。
【0018】
Laはガラス骨格を形成する成分であり、透過率を低下させることなく屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。Laの含有量は10~70%であり、15~60%、特に20~50%であることが好ましい。Laの含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、Laの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0019】
Nbは屈折率を高める効果が大きい成分であり、アッベ数を低下させ高分散にする成分である。またガラス化範囲を広げる効果もある。Nbの含有量は10~90%であり、30~85%、40~80%、特に50~75%であることが好ましい。Nbの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Nbの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0020】
なお、高屈折率かつ高分散の光学特性を得る観点からは、La+Nbの含有量は50%以上、70%以上、特に90%以上であることが好ましい。La+Nbの含有量は100%であってもよいが、他の成分を含有させる場合は、99.9%以下、99%以下、特に95%以下としてもよい。
【0021】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、Bの含有量は0~40%、0.1~40%、1~30%、2~25%、特に3~20%であることが好ましい。また、安定なガラスが得られるため、微量の着色成分を添加しても、結晶化を防ぐことができる。
【0022】
TiOは屈折率を高める効果が大きい成分であり、化学的耐久性を高める効果もある。またアッベ数を低下させ高分散にする効果もある。TiOの含有量は0~50%であり、0.1~30%、1~20%、特に3~15%であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると、吸収端が長波長側にシフトするため可視光(特に短波長域の可視光)の透過率が低下しやすくなる。また、ガラス化しにくくなる。
【0023】
本発明の装飾用ガラス物品には、所望の色調を付与するため、遷移金属酸化物(Nb及びTiOを除く)や希土類酸化物(Laを除く)といった着色成分を含有させてもよい。遷移金属酸化物としては、Cr、Mn、Fe、CoO、NiO、CuO、V、MoO、RuO等が挙げられる。希土類酸化物としては、CeO、Nd、Eu、Tb、Dy、Er等が挙げられる。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物は単独で含有させてもよく、2種以上を含有させてもよい。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物の含有量(2種以上含有させる場合は合量)は、0超~5%、0.001~5%、0.005~3%、0.01~2%、特に0.02~1%であることが好ましい。なお、含有させる成分によっては着色が強くなりすぎて、可視域透過率が低下し、所望の輝きやファイアが得られない場合がある。その場合は、上記の遷移金属酸化物及び希土類酸化物の含有量を1%未満、0.5%以下、さらには0.1%以下としてもよい。
【0024】
本発明の装飾用ガラス物品には、上記成分以外にも、ガラス化範囲を広げるためSiO、Al、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO等を各々10%以下の範囲で含有させてもよい。
【0025】
本発明の装飾用ガラス物品は、La、Nb、B等のガラス化範囲を広げる成分を積極的に含有させることにより、ガラス作製時における結晶化を抑制し、ガラス物品のサイズを大きくする(例えば、直径2mm以上、3mm以上、4mm以上、特に5mm以上)ことが容易になる。
【0026】
なお酸化ビスマス(Bi)を含有させると、ガラス物品が過度に着色してファイアに劣る傾向がある。従って、本発明の装飾用ガラス物品における酸化ビスマスの含有量は、モル%で30%以下、20%以下、10%以下、特に1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。また本発明の装飾用ガラス物品は、人体に有害である酸化鉛を実質的に含有しないことが好ましい。なお本明細書において「実質的に含有しない」とは、ガラス組成として意図的に含有させないことを意味し、不可避的不純物の混入を排除するものではない。客観的には、含有量がモル%で0.1%未満であることを意味する。
【0027】
本発明の装飾用ガラス物品の屈折率(nd)は2.0以上であり、2.05以上、2.1以上、特に2.15以上であることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品の内部と外部(大気)との屈折率差が大きくなり、ガラス物品内部で光が反射しやすくなる。その結果、装飾用ガラス物品としての十分な輝きを得やすくなる。なお、屈折率の上限は特に限定されないが、大きすぎるとガラス化が不安定になるため、2.5以下、2.4以下、特に2.3以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の装飾用ガラス物品のアッベ数(νd)は50以下、40以下、30以下、特に25以下であることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品が高分散となり、ファイアが発現しやすくなる。なお、アッベ数の下限は特に限定されないが、小さすぎるとガラス化が不安定になるため、10以上、特に13以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の装飾用ガラス物品の着色度λは395以下、390以下、380以下、特に370以下であることが好ましい。このようにすれば、可視光が透過しやすくなるため、無色透明のガラスが得やすくなる。また、輝きやファイアを高めやすくなる。
【0030】
本発明の装飾用ガラス物品は、密度が高いほど外観の重厚感が増し、装飾用ガラス物品(特に宝飾用ガラス物品)としての高級感が高まるため好ましい。具体的には、装飾用ガラス物品の密度は3g/cm以上、4g/cm以上、特に5g/cm以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の装飾用ガラス物品は、宝飾品、芸術品、食器等の装飾品用途に使用することができる。例えば、指輪、ペンダント、イヤリング、ブレスレット等の装飾品(宝飾品)に疑似宝石として取り付けて使用することができる。装飾用ガラス物品の形状は特に限定されず球形、楕球形、多面体等が挙げられる。
【0032】
本発明の装飾用ガラス物品は、いわゆるブリリアント加工等の面取り加工が施されていることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品内部で光が反射しやすくなり、輝きを高めることが可能となり、特に疑似宝石として好適となる。
【実施例
【0033】
以下、本発明の装飾用ガラス物品について、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
表1は本発明の実施例(No.1~7)及び比較例(No.8~9)を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
まず表1に示す各ガラス組成となるように原料を調合して原料バッチを作製した。得られた原料バッチを均質になるまで溶融した後、急冷してガラス試料(装飾用ガラス物品)を得た。なお溶融温度は、試料No.1~7は1500~2000℃、試料No.8~9は1400~1500℃とした。得られたガラス試料はガラス転移温度付近(350~700℃)でアニールした後、下記の方法により、密度、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、着色度(λ)の測定、及び外観評価(輝き、ファイア、色調)を行った。
【0037】
密度はアルキメデス法により測定した。
【0038】
屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、ガラス試料に対して直角研磨を行い、KPR-2000(島津製作所製)を用いて測定した。屈折率(nd)はヘリウムランプd線(587.6nm)に対する測定値で評価した。アッベ数(νd)は上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd-1)/(nF-nC)}の式から算出した。
【0039】
着色度(λ)は、10±0.1mmの厚さに研磨したガラス試料について分光透過率を測定し、得られた透過率曲線において透過率5%と示す波長を採用した。なお、分光透過率は日本分光製V-670を用いて測定した。
【0040】
外観評価を次のように行った。まず、各試料の平面形状が5~7mmφ程度の大きさになるようにブリリアント加工を行った。次に、加工したガラス試料について、蛍光灯光源下で目視にて、輝き及びファイアを評価した。評価は以下に示す4段階で行った。また、目視による色調評価を行った。なお、No.3及び9の試料の平面写真を図1に示す。
【0041】
[輝き]
◎:輝いて見え、輝きが強い。
○:輝いて見える。
△:少しだけ輝いて見える。
×:ほとんど輝いて見えない(ガラス窓と同程度)。
【0042】
[ファイア]
◎:虹色(様々な色)の輝きが見える。
○:虹色の輝きが見えるが、色数が少ない。
△:少しだけ虹色の輝きが見える。
×:虹色の輝きはほとんど見えない。
【0043】
表1から明らかなように、実施例であるNo.1~7の試料はλが360で無色透明かつ、屈折率2.19以上と高く、アッベ数が21以下と低いため、輝きが強く、且つファイアをしっかりと観察できた。一方、比較例であるNo.8~9の試料は、λが340以下で無色透明であるが、屈折率が1.56以下と低く、アッベ数が45以上と高いため、輝きがほとんど感じられず、ファイアも観察し難かった。
【0044】
なお、着色成分を添加した際の色調の違いを確認するための実験を行った。具体的には、試料No.3のガラスに対して、着色成分である希土類酸化物を微量添加したNo.10~No.15の試料を作製した。結果を表2及び図2(試料No.10~No.13)に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2及び図2に示す通り、含有させる着色成分に応じて、様々な色を有するガラス物品とすることができ、装飾品(特に宝飾品)に好適であることわかる。
図1
図2