(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】含気含水チョコレート類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/52 20060101AFI20241218BHJP
A23G 1/32 20060101ALI20241218BHJP
A23G 1/36 20060101ALI20241218BHJP
A23G 1/46 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
A23G1/52
A23G1/32
A23G1/36
A23G1/46
(21)【出願番号】P 2024532038
(86)(22)【出願日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2023023471
(87)【国際公開番号】W WO2024009816
(87)【国際公開日】2024-01-11
【審査請求日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022110100
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神田 奈々子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-025690(JP,A)
【文献】特開2001-275570(JP,A)
【文献】特開2002-218910(JP,A)
【文献】国際公開第2004/062384(WO,A1)
【文献】特開平09-037716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00-1/56
A23D 7/00-7/06
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として、油脂を連続相とする油性食品及びクリーム類を含み、以下の条件を満たす、
水中油型乳化物である含気用含水チョコレート類。
A)HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%含有する
B)25℃での水分活性が0.96以下
C)水分が8~45質量%
D)油分が20~45質量%
E)油分中のSUS含量が50~97質量%
ただし、S:炭素数16~20の飽和脂肪酸、U:炭素数16~20の不飽和脂肪酸、
SUS:トリグリセリドの1位及び3位にSが結合、2位にUが結合したトリグリセリド、を意味する。
【請求項2】
該クリーム類が、該含気用含水チョコレート類中に10質量%以上含まれ、該クリーム類が生クリームである、請求項1に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項3】
該油性食品が、該含気用含水チョコレート類中に60質量%以上含まれ、かつ該油性食品中にカカオバターが18質量%以上含まれる、請求項1に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項4】
水分が10~45質量%である、請求項2又は3に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項5】
該ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸である、請求項1に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項6】
ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸である、請求項4に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項7】
油分中のカカオバター含有量が45~97質量%であって、該含気用含水チョコレート類中のカカオバター含有量が10~30質量%である、請求項1に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項8】
該ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸であって、
油分中のカカオバター含有量が45~97質量%であって、該含気用含水チョコレート類中のカカオバター含有量が10~30質量%である、請求項4に記載の含気用含水チョコレート類。
【請求項9】
以下A)~E)の条件を満たす含気用含水チョコレート類の製造方法であって、
原料として、油脂を連続相とする油性食品及びクリーム類を配合し、水中油型乳化物に調製する含気用含水チョコレート類の製造方法。
A)HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%配合する
B)25℃での水分活性が0.96以下
C)水分が8~45質量%
D)油分が20~45質量%
E)油分中のSUS含量が50~97質量%
ただし、S:炭素数16~20の飽和脂肪酸、U:炭素数16~20の不飽和脂肪酸、
SUS:トリグリセリドの1位及び3位にSが結合、2位にUが結合したトリグリセリド、を意味する。
【請求項10】
油性食品が下記に記載の工程a)~c)を有する、請求項9に記載の含気用含水チョコレート類の製造方法。
a)粉体原料及びカカオマスにHLB6~20のショ糖脂肪酸エステル0.5~4質量%を、一部又は全部の油脂と混合する
b)混合物を微粒化する
c)コンチング及び/又はミキシングして残りの油脂と乳化剤を添加して調製する
【請求項11】
請求項1、5又は7いずれか一項に記載の含気用含水チョコレート類を含気させ
る、含気含水チョコレート類
の製造方法。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の製造方法で得られた含気用含水チョコレート類を、15~28℃で含気させる含気含水チョコレート類の製造方法。
【請求項13】
以下A)~E)の条件を満たす含気用含水チョコレート類を含気させる、含気含水チョコレート類のツヤのある外観および滑らかな食感を維持する方法。
A)HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%含有する
B)25℃での水分活性が0.96以下
C)水分が8~45質量%
D)油分が20~45質量%
E)油分中のSUS含量が50~97質量%
ただし、S:炭素数16~20の飽和脂肪酸、U:炭素数16~20の不飽和脂肪酸、
SUS:トリグリセリドの1位及び3位にSが結合、2位にUが結合したトリグリセリド、を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含気含水チョコレート類と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョコレート類は、その風味や口どけ、濃厚感によって、広く嗜好される。このチョコレート類は、広く嗜好される中、新たな食感が求められている。例えば、軽い食感を得る目的で気泡を含ませるホイップチョコレートが提案されている。
また、食感が軽い食品としては、ホイップクリームと言われるような水中油型乳化物が一般的である。
ホイップチョコレートとしては、HLB3以下のショ糖脂肪酸エステルを含有させることで起泡を促進している(特許文献1)。
ホイップクリームでは、油脂の種類や乳化剤の調整によって起泡性や保形性を改善することが提案されている(特許文献2、特許文献3)。
また、チョコレート原料をホイップクリームに配合した発明が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平01-144934号公報
【文献】国際公開第2004/062384号
【文献】特開2001-258473号公報
【文献】特開平11-196802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、軽い食感や滑らかな食感と、濃厚なチョコレートらしさを両立する嗜好品を創出すべく、試行錯誤を繰り返した。
特許文献1のようなホイップチョコレートでは油性感が感じられ、喫食できる量が限られてしまうことがある。一方、特許文献2及び3には、チョコレート類やカカオバターを含む含気製品についての言及はなく、新たな食感が得られるチョコレート類を提供できる技術の開示はない。また、特許文献4のようなチョコレート入りホイップクリームでは、軽い食感と瑞々しさを感じられるが、カカオ固形分等の量に制限があり、チョコレートらしい濃厚感を得られない場合がある。
【0005】
発明者は、チョコレートを多く含む乳化物である「生チョコレート」に着目した。しかし、生チョコレートのようにカカオバターを多く含む乳化物に気泡を含ませた後、一定の安定状態を維持することは油脂の特性や、固形分量の見地から実現が困難であった。
このようなチョコレート由来のカカオバターや固形分を多く含む水中油型乳化物に、気泡を安定的に含ませることができれば、滑らかな食感であって、濃厚な風味のチョコレート類を提供することができる。
【0006】
従って本発明は、滑らかな食感であって、濃厚な風味の含気含水チョコレート類を得ること、及び、含気させることで容易に該含気含水チョコレート類を得ることができる、含気用含水チョコレート類を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は鋭意検討を行った結果、HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%含有する、カカオバターの主成分であるSUS含量が油分中50~97質量%の含気用含水チョコレート類を調製した。当該含気用含水チョコレート類を含気させることで、滑らかな食感であって、濃厚なチョコレート風味の含気含水チョコレート類を、得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)原料として、油脂を連続相とする油性食品及びクリーム類を含み、以下の条件を満たす、水中油型乳化物である含気用含水チョコレート類、
A)HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%含有する
B)25℃での水分活性が0.96以下
C)水分が8~45質量%
D)油分が20~45質量%
E)油分中のSUS含量が50~97質量%
ただし、S:炭素数16~20の飽和脂肪酸、U:炭素数16~20の不飽和脂肪酸、
SUS:トリグリセリドの1位及び3位にSが結合、2位にUが結合したトリグリセリド、を意味する、
(2)該クリーム類が、該含気用含水チョコレート類中に10質量%以上含まれ、該クリーム類が生クリームである、(1)に記載の含気用含水チョコレート類、
(3)該油性食品が、該含気用含水チョコレート類中に60質量%以上含まれ、かつ該油性食品中にカカオバターが18質量%以上含まれる、(1)に記載の含気用含水チョコレート類、
(4)水分が10~45質量%である、(2)又は(3)に記載の含気用含水チョコレート類、
(5)該ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸である、(1)に記載の含気用含水チョコレート類、
(6)ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸である、(4)に記載の含気用含水チョコレート類、
(7)油分中のカカオバター含有量が45~97質量%であって、該含気用含水チョコレート類中のカカオバター含有量が10~30質量%である、(1)に記載の含気用含水チョコレート類、
(8)該ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸であって、
油分中のカカオバター含有量が45~97質量%であって、該含気用含水チョコレート類中のカカオバター含有量が10~30質量%である、(4)に記載の含気用含水チョコレート類、
(9)以下A)~E)の条件を満たす含気用含水チョコレート類の製造方法であって、
原料として、油脂を連続相とする油性食品及びクリーム類を配合し、水中油型乳化物に調製する含気用含水チョコレート類の製造方法、
A)HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%配合する
B)25℃での水分活性が0.96以下
C)水分が8~45質量%
D)油分が20~45質量%
E)油分中のSUS含量が50~97質量%
ただし、S:炭素数16~20の飽和脂肪酸、U:炭素数16~20の不飽和脂肪酸、
SUS:トリグリセリドの1位及び3位にSが結合、2位にUが結合したトリグリセリド、を意味する。
(10)油性食品が下記に記載の工程a)~c)を有する、(9)に記載の含気用含水チョコレート類の製造方法、
a)粉体原料及びカカオマスにHLB6~20のショ糖脂肪酸エステル0.5~4質量%を、一部又は全部の油脂と混合する
b)混合物を微粒化する
c)コンチング及び/又はミキシングして残りの油脂と乳化剤を添加して調製する、
(11)(1)、(5)又は(7)いずれか一つに記載の含気用含水チョコレート類を含気させ、得られる、含気含水チョコレート類、
(12)(9)又は(10)に記載の製造方法で得られた含気用含水チョコレート類を、15~28℃で含気させる含気含水チョコレート類の製造方法、
(13)HLB6~20のショ糖脂肪酸エステルを0.5~4質量%含有することで、含気含水チョコレート類のツヤのある外観および滑らかな食感を維持する方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、滑らかな食感であって、濃厚なチョコレート風味である、濃厚な風味の含気含水チョコレート類を提供することができる。併せて、含気させることで該含気含水チョコレート類を得ることができる、含気用含水チョコレート類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
本発明でいう油性食品とは、油脂が連続相であれば特に限定はされないが、一例としてチョコレート類が挙げられる。チョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会が規定するところの、「純チョコレート」「チョコレート」「準チョコレート」及び「チョコレート利用食品」だけでなく、カカオバター以外の油脂とカカオ固形分以外の可食物よりなる「チョコレート様食品」、その他、野菜や果物由来の粉末を混合させる抹茶風味、イチゴ風味といった、油脂をベースとして可食物を分散させた食品を総称するものであってもよい。
【0012】
本発明でいうクリーム類とは、油分と水分を含み、水中油型に乳化した食品であり、乳脂肪分を含有する生クリームや、乳脂肪及び植物性油脂を含有するクリーム、乳脂肪分を含有しない植物性クリーム等が挙げられる。そのため、油脂が連続相である油性食品とは異なる食品である。本発明で用いるクリーム類としては、濃厚な風味に調整するためには、生クリームを用いることが好ましい。
生クリームは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令でいう、乳脂肪分を18質量%以上含有するものであれば特に限定されないが、一般的には、乳脂肪分を35質量%又は45質量%程度含有するものが、含水チョコレート類には多く使用される。
【0013】
一般的な含水チョコレートは、チョコレート類と水性成分を混練したものであって、水中油型、油中水型、そのそれぞれを組み合わせた二重乳化や一部が転相したものがある。本発明の含気用含水チョコレート類は、前述した油性食品と水性成分であるクリーム類を混練したものであって、水中油型乳化物である。
水中油型の乳化状態であることで、含気させた際の食感が滑らかになり、濃厚な風味を感じやすい。また、ツヤのある良好な外観を維持することができる。水中油型の乳化状態とは、その組成の大部分が水中油型の状態であることを意味し、一部に転相した部分が存在するものを含む。
なお、本発明の含気用含水チョコレート類は、油性食品とクリーム類以外にも、液糖、洋酒、牛乳、豆乳、果汁、水などの水性成分の他、植物油脂などを適宜混合できる。
【0014】
含水チョコレート類の中でも特に、生クリームを10質量%以上、「チョコレート」を60質量%以上かつ水分を全質量の10質量%以上と規格される含水チョコレート類は、「生チョコレート」という表示が可能であり製品としてさらに訴求性が高い。「生チョコレート」に含まれる「チョコレート」とは、全国チョコレート業公正取引協議会が規定するところのチョコレート規格あるいはミルクチョコレート規格に合致したチョコレート類のみが対象であり、カカオバターが少なくとも18質量%以上含まれるものをいう。そのため「生チョコレート」はカカオバターの特性に品質が影響しやすい。含気用含水チョコレート類の調製には乳化を安定化させる必要があるが、含気させるためには疎水性物質である空気を内在させるため、物性調整はより困難になる。
「生チョコレート」という訴求性の高い製品群を含気させることで、従来得られなかったツヤのある外観、滑らかな食感及び濃厚な風味を実現させたことにより、ホイップド生チョコレートという新たな商品形態を提供できる。
【0015】
本発明でいう含気用含水チョコレート類とは、含気させた後に喫食される含水チョコレート類のことをいう。含気させる方法としては、菓子製造に広く用いられている縦型ミキサーとホイッパー、ビーター又はエアミキサーといった攪拌羽根とを用いて行う方法の他、食材を耐圧容器中に被加圧気体と共存させ、ノズルから大気中に放出された際の圧力開放により気体が膨張し、該食材を起泡状態にする方法などが挙げられるが、縦型ミキサーを用いる方法が簡便で、採用されることが多い。気泡を含ませ、比重を下げることで、含気させることができる。このように含気用含水チョコレート類を含気させたものを、本発明においては、含気含水チョコレート類という。該含気含水チョコレート類は、従来の含水チョコレート類とは異なった食感であって、口当たりも滑らかな食感を得ることができる。
従来の含水チョコレート類と異なった食感にするためには、比重は0.95g/cm3未満であることが好ましく、より好ましくは、0.90g/cm3以下であって、さらに好ましくは0.85g/cm3以下、もっとも好ましくは0.80g/cm3以下である。また、濃厚な風味という点では、比重は0.50g/cm3以上であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルは、HLBが6~20であって、その含有量は、含水チョコレート類中に0.5~4質量%である。HLBは好ましくは7~20、より好ましくは9~20である。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.6~3質量%、より好ましくは0.8~3質量%である。
適切なHLBと含有量を選択することで、含気用含水チョコレート類を含気させた際にツヤのある外観と滑らかな食感の含気含水チョコレート類を得ることができる。
その中でも特に生チョコレートのような、カカオバターを多く含む水中油型乳化物である含気含水チョコレート類であっても、食感が滑らかで、油脂の結晶析出もない、ツヤのある良好な外観を実現することができる。
なお、乳化剤のHLBとは、Hydrophilic-Lipophilic Balanceの略であって、親水性と親油性のバランスのことであり、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標である。HLBは0~20の値をとり、HLB値が小さいほど親油性が強い。
ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸は、炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものが好ましい。具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などを主要構成脂肪酸とする。なお、主要構成脂肪酸とは、乳化剤を構成する脂肪酸として製品中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことをいう。より好ましくは、主要構成脂肪酸が70質量%以上含まれるショ糖脂肪酸エステルを使用することができる。
【0017】
本発明の含気用含水チョコレート類に含まれる水分の含有量は、乳化状態の安定性と滑らかな食感、及び濃厚な風味が得られる点で、8質量%~45質量%である。好ましくは10質量%~45質量%、より好ましくは15質量%~40質量%である。乳化状態が安定になることで、含気させて含気含水チョコレート類を調製した際に滑らかな食感であって、ツヤのある良好な外観を得ることができる。なお、水分の由来は特に限定しない。クリーム類や水あめなどの糖液以外に、水を直接配合することもできる。水分量が8質量%未満では水中油型として乳化させることが困難となる場合があり、水分量が45質量%を超えると水っぽくなり風味が劣る場合がある。
【0018】
本発明の含気用含水チョコレート類は、油分が20~45質量%である。好ましくは20~40質量%、より好ましくは、21~35質量%である。適切な油分に調整することで、含気させて含気含水チョコレート類を調製した際に滑らかな食感であって、ツヤのある良好な外観及び濃厚な風味を実現することができる。これより少ないと含気用含水チョコレート類がうまく含気しない場合がある。
【0019】
本発明の含気用含水チョコレート類は、油分中にSUS型のトリグリセリドを含む。ここで、Sとは炭素数16~20の飽和脂肪酸、Uとは炭素数16~20の不飽和脂肪酸、SUSとは、1位及び3位の脂肪酸がSであり、2位の脂肪酸がUであるトリグリセリドを示す。
SUS型トリグリセリドの油脂成分中の含有量は50~97質量%であり、好ましくは55~90質量%であり、さらに好ましくは60~85質量%である。
SUS型トリグリセリドはカカオバターに多く含まれており、本発明においては滑らかな食感とチョコレートの濃厚な風味を付与するために、適切な量を配合する必要がある。しかし、多すぎると含気作業中に乳化破壊が起こりやすくなる場合がある。
【0020】
本発明の含気用含水チョコレート類は、25℃での水分活性が0.96以下である。水分活性とは、食品中に含まれる水分に占める自由水の割合を示す指標とされる。自由水は、微生物が増殖する際に利用される水であることが知られているため、製品の保存性の目安に用いられている。また、自由水が少ないということは、乳化物の水中に溶解している糖類等が多く、水分が自由水ではなく結合水として存在していると判断することもできる。
一般的に知られるホイップクリーム等の水中油型乳化物の水分活性は、25℃で0.98程度である。本発明は、濃厚なチョコレート風味を有するため糖類等の固形分が多く含まれており、それらのホイップクリーム等の水中油型乳化物よりも低い水分活性を有する。水分活性は好ましくは25℃で0.95以下である。
なお、水分活性はアイネクス株式会社製水分活性測定装置(AQUA LAB TDL)を用いて測定できる。
【0021】
本発明において、含気用含水チョコレート類に混合する油性食品に含まれるカカオバター量は、18~45質量%が好ましく、より好ましくは18~45質量%、さらに好ましくは18~40質量%である。
適切なカカオバター量を含有することで、滑らかな食感とチョコレートの濃厚な風味を付与することができる。
カカオバターは油性食品に直接配合する場合及び/又は、カカオマスやココアを配合することでカカオマスやココア由来のカカオバターによって含有する場合が想定される。これらは特に限定されないが、カカオマスやココアを配合することで、食物繊維などの非水溶性成分が含水チョコレート類に含まれることになり、これらの影響で含気含水チョコレート類を滑らかな食感であって、ツヤのある状態にすることの難度が高くなる。
【0022】
本発明の含気用含水チョコレート類は、カカオバターを10~30質量%含有することが好ましい。より好ましくは11~28質量%、もっとも好ましくは12~25質量%含有する。このカカオバターは、水中油型乳化物を調製する際に混合する油性食品に含まれる分が大部分を占める。この油性食品は、含気用含水チョコレート類中に60質量%以上含有することが好ましい。60質量%以上含有することで、生チョコレートと標榜できるだけでなく、濃厚なチョコレート風味を得ることができる。
【0023】
本発明の含気用含水チョコレート類の製造方法としては、以下が例示される。まず、糖質、糖類、全粉乳、カカオマス、カカオバター、植物油脂、レシチン、乳化剤などを常法に従い混合し、ロール掛けなどの微粒化処理をした後、コンチング及び/又はミキシング処理をすることで原料となる油性食品を調製する。続いて、生クリーム、水、乳化剤などの水性成分を混合、加温し、ここに先の油性食品を加え混合、撹拌した後に、熱殺菌、冷却して含気用含水チョコレート類が得られる。熱殺菌の条件は特に限定されないが、たとえば乳化後に68℃以上で30分以上の殺菌工程を有する事が好ましい。また、ここでの冷却は20℃以下で特に限定されることはないが、保存性を考慮すると冷蔵あるいは冷凍温度域で行うことが好ましい。
【0024】
含気用含水チョコレート類の製造において、混合する油性食品の製造方法は、先に示したとおりだが、特に糖質、糖類、全粉乳などの粉体原料及びカカオマスを適宜選択して混合する際に、ショ糖脂肪酸エステルを一部又は全部の油脂と混合してから微粒化処理し、その後残りの油脂と乳化剤を添加して混練処理であるコンチング及び/又は混合処理であるミキシング等の処理を行って調製したものが好ましい。
このように含気用含水チョコレート類を調製する際にショ糖脂肪酸エステルを混合するよりも、原料となる油性食品に混合してから微粒化することで、含気性が向上する。そのため、含気させて含気含水チョコレート類を調製した際に滑らかな食感であって、ツヤのある外観を得られやすくなる。
【0025】
本発明の含気用含水チョコレート類を用いることで、含気作業を容易に行うことができ、含気含水チョコレート類を得ることができる。一般にクリーム類などの水中油型乳化物を含気させる製品は、含気に際して適正な作業時間の範囲が存在する。適正な作業時間の範囲に達しない、或いは範囲を超えると、乳化不足や乳化破壊が発生し、目的の品質を得られない。
適正な作業時間の範囲は、乳化物の種類や油分によって異なるが、特に生クリームは、適正な作業時間の範囲が狭く、適性作業時間の管理に細心の注意が求められる。
本発明の含気用含水チョコレート類は、生クリームなどのクリーム類を含むが、含気に際して一定時間内の品質のフレが少なく、作業でき、容易に含気含水チョコレート類を得ることができる。
【0026】
本発明の含気用含水チョコレート類を含気させた、含気含水チョコレート類は、滑らかな食感を有している。含気された状態が不安定な場合は、含気途中で油脂の結晶が析出したり、油の分離が見られたりすることで、ぼそぼそとしたざらつきのある食感になることがある。滑らかな食感を有することで、ざらつきのある食感のものよりも、喫食すると濃厚なチョコレート風味を感じることができる。
本発明の含気含水チョコレート類は、滑らかな食感を有しており、油脂の結晶が析出や、油の分離がないために、常温から冷蔵域でツヤのある外観を有する。ツヤのある外観とは、従来知られるツヤのないマットな表面でなく、光沢のある瑞々しい外観のことをいう。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%および部はいずれも質量基準を意味する。
【0028】
●油性食品及び含気用含水チョコレート類の調製
表1記載に従い配合し、常法により原料となる油性食品を調製した。次いで、表2記載に従い配合し、コンビミックス(プライミクス株式会社製)を用いて、加温しながら攪拌した後に68℃以上で30分の熱殺菌を行うことで水中油型乳化物である含気用含水チョコレート類を調製した。
これらの含気用含水チョコレート類は25℃の水分活性が0.88~0.89であった。
表1に記載の植物油脂Aは、「メラノNEW.SS-7」(不二製油株式会社製)を、
レシチンは大豆レシチンである「SLP-ペースト」(辻製油株式会社製)を、用いた。
香料としては、市販のバニラ香料を使用した。
表2に記載のショ糖脂肪酸エステルAとして、「リョートーシュガーエステルS1670」(HLB16、主要構成脂肪酸:ステアリン酸(約70質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)を、液糖は果糖ブドウ糖液糖として、「ハイフラクトM-75」(日本コーンスターチ株式会社製)、生クリームは乳脂肪47質量%の「明治フレッシュクリーム47」(株式会社明治製)使用した。
【0029】
カカオバター及びカカオマス中のカカオバターのSUS含量は、85.5質量%、植物油脂AのSUS含量は、82.6質量%であった。
油脂のトリグリセリド組成は、基準油脂分析法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフィーにより行った。融解した油脂をアセトンと混合して分析試料を調整し、移動相にアセトン/アセトニトリル=80/20の溶剤を使用してODSカラムで分離し、RI検出器で検出して得られたピーク面積%をそれぞれのトリグリセリド含有量とした。
【0030】
【0031】
【0032】
●含気評価
実施例、比較例をあらかじめ25℃のインキュベーターで温調し、品温を18~25℃にしたものを、1kgはかり取り、ホバートミキサーを使用して含気させ、含気含水チョコレート類を得た。得られた含気含水チョコレート類の比重を経時で確認し、その品質を評価した。
評価は含気させたものをカップに充填し、冷蔵で30分置いたものにより行った。
なお、保形性の評価は絞り袋で星形口金にて成形したもので行った。
【0033】
<品質評価>
・ツヤ
○ 表面のきめが細かい。結晶の析出などがなく、ツヤ良好。
△ 表面の光沢がやや失われているが、結晶の析出は確認できず、ツヤ有り。
× 表面の光沢が無い。ツヤ悪い。ざらついた質感。
・風味と食感
○ 濃厚なチョコ風味と滑らかな食感を感じられる。
△ 濃厚なチョコ風味を感じられる。わずかにざらつき感じる。
× 濃厚なチョコ風味を感じられるが、ざらついた食感で滑らかさが失われている。
・含気性評価
◎ 30秒後に比重が0.80g/cm3以下、かつ2分後も0.80g/cm3以下を維持
○ 30秒後に比重が0.80g/cm3以下、かつ2分後も0.90g/cm3以下を維持。
△ 30秒後に比重が0.85g/cm3以下、かつ2分後も0.95g/cm3未満を維持。
× 30秒後に比重が0.85g/cm3以下にならない。又は、2分後に0.95g/cm3以上に上昇する。
・保形性
○ 保形性は高く、静置して形が崩れない。
△ 保形性はやや緩いが、型崩れまではしない。
× 保形性に乏しく形が崩れる。油の分離が確認される。
<総合評価>
評価は、チョコレート開発に従事し、チョコレートの評価に熟練したパネラー3名による合議によって行った。すべての要素が△、○もしくは◎の評価となったものを、良好な含気含水チョコレート類として合格品質であると判断した。
【0034】
【0035】
ショ糖脂肪酸エステルの配合量を一定以上にすることでツヤや、風味と食感が良くなった。カカオバターを植物油脂に変更したものは、どちらも良好な風味を呈していたが、カカオバターを多く配合した方が濃厚さを感じられた。
【0036】
●比重による食感及び風味の違い
実施例1を含気実験同様の手順で、ホバートミキサーを使用して含気させ、比重の異なる含気含水チョコレート類を得た。比重によって生じる品質の違いを確認した。
なお、含気前の実施例1の比重は1.08g/cm3、水分活性は25℃で0.881であった。
比重が0.85g/cm3以下のサンプルは、含気させて比重を下げていった時の結果を示す。比重が0.85g/cm3よりも大きいサンプルは、一旦比重を0.85g/cm3まで下げた後、含気実験を継続させて所定の比重に調整した。
【0037】
【0038】
比重が0.95g/cm3のものは、ざらつきを感じられた。冷却後にはやや油分離が確認された。比重が0.90g/cm3以下のものは風味と食感、及び保形性が合格範囲であった。特に比重が0.80g/cm3以下のものは滑らかな食感であって、濃厚なチョコ風味も感じられ、新たな商品としての価値を感じられるものであった。
なお、含気実験で30秒到達前に比重を0.95g/cm3に調整したサンプルは、保形性はないものの、ざらつきは感じられなかった。
【0039】
●乳化剤の種類
実施例1と同様に、油性食品1を用いて含気用含水チョコレート類を調製した。その際に使用する乳化剤を変更した。調製した含気用含水チョコレート類の25℃での水分活性は、実施例と同程度の0.88~0.89であった。
用いた乳化剤は以下である。
ショ糖脂肪酸エステルA:商品名「リョートーシュガーエステルS1670」(HLB16、主要構成脂肪酸:ステアリン酸(約70質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)
ショ糖脂肪酸エステルB:商品名「リョートーシュガーエステルP1670」(HLB16、主要構成脂肪酸:パルミチン酸(約80質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)
ショ糖脂肪酸エステルC:商品名「リョートーシュガーエステルS1170」(HLB11、主要構成脂肪酸:ステアリン酸(約70質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)
ショ糖脂肪酸エステルD:商品名「リョートーシュガーエステルS770」(HLB7、主要構成脂肪酸:ステアリン酸(約70質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)
ショ糖脂肪酸エステルE:商品名「リョートーシュガーエステルS570」(HLB5、主要構成脂肪酸:ステアリン酸(約70質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)
ショ糖脂肪酸エステルF:商品名「リョートーシュガーエステルS170」(HLB1、主要構成脂肪酸:ステアリン酸(約70質量%含有)、三菱化学フーズ株式会社製)
ポリグリセリン脂肪酸エステル:商品名「リョートーポリグリエステルSWA-10D」(HLB14、主要構成脂肪酸:ステアリン酸、三菱化学フーズ株式会社製)
【0040】
【0041】
HLBが6以上のショ糖脂肪酸エステルで、濃厚な風味と滑らかな食感であって、ツヤのある外観が得られた。
ポリグリセリン脂肪酸エステルでは、同じようなHLBでも同様の効果を得られなかった。
【0042】
●乳化剤の配合時期
これまでは、含気用含水チョコレート類を調製する際に乳化剤を添加していたが、油性食品に混合したものを調製した。原料となる油性食品を表6に示す。
得られた油性食品を用いて、含気用含水チョコレート類を調製した。含気用含水チョコレート類に使用する油性食品の一部には実施例1で用いた油性食品1を使用した。得られた含気用含水チョコレート類を用いて含気含水チョコレート類を調製し、含気性評価を実施した結果を表7に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
油性食品は、どれも混練処理であるコンチング中に攪拌によって熱を生じ、品温が上昇することがあった。
油性食品にあらかじめショ糖脂肪酸エステルを混合すると、含気含水チョコレート類の含気性が向上し、30秒後と2分後で大きな差がないものであった。
また、水分活性が0.944程度の含気用含水チョコレート類を含気させた、含気含水チョコレート類も良好な品質が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、滑らかな食感であって、濃厚なチョコレート風味である、濃厚な風味の含気含水チョコレート類を提供することができる。併せて、含気させることで容易に該含気含水チョコレート類を得ることができる、含気用含水チョコレート類を提供することができる。
その中でも特に生チョコレートのような、カカオバターを多く含む水中油型乳化物である、含気含水チョコレート類を提供することができる。