(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】セラミックス基複合材料の開気孔充填方法およびセラミックス基複合材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/84 20060101AFI20241218BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20241218BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C04B35/84
C04B41/85 C
C04B35/80
(21)【出願番号】P 2020201594
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勇希
(72)【発明者】
【氏名】宇田 道正
(72)【発明者】
【氏名】添田 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 卓哉
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168400(WO,A1)
【文献】特開2010-255174(JP,A)
【文献】特表2004-513053(JP,A)
【文献】山内 宏ほか,高速緻密化可能な膜沸騰(FB)法による低コストC/CおよびCMCの開発,IHI技報,日本,2017年,Vol.57, No.2,PP.53-63,ISSN:1882-3041, 特にPP.53-56, 2.FB法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/84
C04B 41/85
C04B 35/80
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス内に強化繊維が設けられたセラミックス基複合材料において前記マトリックス内に生じた開気孔をマトリックスとなるセラミックスによって埋める方法であって、
マトリックス原料である液体材料内に前記セラミックス基複合材料が配置されている配置状態で、
(A)前記セラミックス基複合材料を加熱することにより、前記液体材料を膜沸騰状態にして、前記液体材料に由来するセラミックスを前記開気孔内に生じさせ、
(B)前記セラミックス基複合材料
を冷却し、
前記(A)と前記(B)を繰り返すことにより、前記開気孔を前記セラミックスで埋め、
前記(A)と前記(B)の繰り返しでは、
各回の前記(A)において前記セラミックス基複合材料が前記液体材料の沸点以上の目標温度になったら、前記セラミックス基複合材料の加熱を停止して前記(B)を開始し、
各回の前記(B)において、前記セラミックス基複合材料を前記液体材料の沸点より低い温度まで冷却する、セラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項2】
前記(A)の前に、製造済みの前記セラミックス基複合材料を前記液体材料内に配置する、請求項1に記載のセラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項3】
前記(A)の前に、前記液体材料内に配置した繊維体に対して膜沸騰法により前記マトリックスを形成することにより、前記液体材料内において前記セラミックス基複合材料が形成され、
その後、当該セラミックス基複合材料を前記液体材料内に配置したままで、前記(A)を開始する、請求項1に記載のセラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項4】
前記配置状態では、前記液体材料を保持する処理容器の内部において、前記セラミックス基複合材料と加熱体が配置されており、
前記(A)では、
前記加熱体を誘導加熱することにより、
前記セラミックス基複合材料を加熱する、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項5】
前記(A)では、前記処理容器の外部に配置したコイルに交流電流を流すことで当該コイルが発生する交流磁場により、前記加熱体を誘導加熱し、誘導加熱された前記加熱体により前記セラミックス基複合材料を加熱し、
前記処理容器は、非導電性材料により形成されている、請求項4に記載のセラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項6】
マトリックス内に強化繊維が設けられたセラミックス基複合材料において前記マトリックス内に生じた開気孔をマトリックスとなるセラミックスによって埋める方法であって、
マトリックス原料である液体材料内に前記セラミックス基複合材料が配置されている配置状態で、
(A)前記セラミックス基複合材料を加熱することにより、前記液体材料を膜沸騰状態にして、前記液体材料に由来するセラミックスを前記開気孔内に生じさせ、
(B)前記セラミックス基複合材料を前記液体材料の沸点より低い温度まで冷却し、
前記(A)と前記(B)を繰り返すことにより、前記開気孔を前記セラミックスで埋め、
前記配置状態では、前記液体材料を保持する処理容器の内部において、前記セラミックス基複合材料と加熱体が配置されており、
前記(A)では、前記加熱体を誘導加熱することにより、前記セラミックス基複合材料を加熱し、
前記(A)では、取付具により、前記セラミックス基複合材料は前記加熱体に取り付けられており、前記取付具と前記セラミックス基複合材料と前記加熱体が、前記処理容器の内面に接触しないように吊り下げられてい
る、セラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項7】
前記液体材料は、ポリカルボシラン、ボラジン、メチルトリクロロシラン、シクロヘキサン、ケイ素アルコキシド溶液、アルミニウムアルコキシド溶液、ケイ素アルコキシド溶液とアルミニウムアルコキシド溶液の混合液、又は、ジルコニウムアルコキシド溶液である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の開気孔充填方法。
【請求項8】
請求項1~
5及び7のいずれか一項に記載の開気孔充填方法が実施されることにより前記開気孔がセラミックスで充填されたセラミックス基複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基複合材料のマトリックス内に生じた開気孔をセラミックスにより埋める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基複合材料は、炭化ケイ素などのセラミックスをマトリックスとし、マトリックス内に強化繊維を設けた材料である。セラミックス基複合材料は、ロケットのエンジンや航空機のジェットエンジンなどにおいて高温構造部材として使用される。
【0003】
強化繊維(例えば強化繊維の織物又は編み物である繊維体)に対して、化学気相含浸(CVI:Chemical Vapor Infiltration)法、ポリマー含浸焼成(PIP:Polymer Impregnation of Pyrolysis)法、金属溶融含浸(MI:Melt Infiltration)法などによりマトリックスを形成する。なお、上記繊維体はプリフォームともいわれる。
【0004】
CVI法では、反応性ガスを加熱された繊維体に流し、繊維体内の隙間に反応性ガスの反応物をマトリックスとして析出させる。PIP法では、ポリカルボシラン等のポリマーを繊維体に含浸させ、含浸したポリマーを焼成することによりマトリックスを形成する。MI法では、粉末材料(例えば炭化ケイ素や炭素の粉末)を内部に混入させた繊維体に、金属成分(例えば金属ケイ素)を溶融して流し込むことによりマトリックス(例えば炭化ケイ素と金属ケイ素のマトリックス)を形成する。
【0005】
このようなマトリックスの形成処理の過程で、マトリックスには、き裂などの小さな開気孔が生じる傾向がある。開気孔は、外部に開口している気孔(以下で単に開気孔ともいう)である。従来では、このような開気孔にマトリックス材料を充填するために、マトリックスの形成処理を、長時間もしくは繰り返し行っている。
【0006】
例えば、特許文献1では、ポリマー含浸焼成を2回行うと共に化学気相含浸を行うことにより、開気孔の少ない緻密なマトリックスを形成している。また、特許文献2や非特許文献3では、低分子液状ポリカルボシランの前駆体液内に炭素繊維プリフォームを浸し、パルス加熱を繰り返し行うことにより、マトリックスの緻密度を高めようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-343176号公報
【文献】中国特許公開公報CN102795871A
【非特許文献】
【0008】
【文献】C. Besnarda et al. 「Synthesis of hexacelsian barium aluminosilicate by film boiling chemical vapour process」,Journal of the European Ceramic Society 40 (2020) 3494-3497
【文献】Masanori SHIMIZU et al. 「Crystallization Behavior and Change in Surface Area of Alkoxide-Derived Mullite Precursor Powders with Different Compositions」,Journal of the Ceramic Society of Japan 105 [2] 131-135 (1997)
【文献】Min Mei et al. 「Preparation of C/SiC composites by pulse chemical liquid-vapor deposition process」,Materials Letters 82 (2012) 36-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
1つの開気孔の全体又は一部が、細長く延びており、その幅が数μm以下と狭い場合、従来技術には、次の課題(a)と(b)がある。
(a)開気孔にマトリックスとなるセラミックスを充填する処理の時間が長くなる。
(b)従来では、開気孔において幅が数μm以下の狭い部分(例えば1~2μm以下の幅を有する部分)にセラミックスを充填することは困難であった。
【0010】
例えば、特許文献2と非特許文献3の技術であっても、製造されたセラミックス基複合材料のマトリックス内において幅が数μm以下の開気孔が残らないようにするのは困難である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題の少なくとも1つを解決できる技術を提供することにある。すなわち、本発明の目的は、セラミックス基複合材料のマトリックス内に生じた開気孔の内部にセラミックスを短時間で充填でき、又は、セラミックス基複合材料のマトリックス内に生じた開気孔の少なくとも一部における、幅が数μm以下の狭い部分にセラミックスを充填でき、又は、これらの両方を達成できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による開気孔充填方法は、マトリックス内に強化繊維が設けられたセラミックス基複合材料において前記マトリックス内に生じた開気孔をマトリックスとなるセラミックスによって埋める方法であって、
マトリックス原料である液体材料内に前記セラミックス基複合材料が配置されている状態で、
(A)前記セラミックス基複合材料を加熱することにより、前記液体材料を膜沸騰状態にして、前記液体材料に由来するセラミックスを前記開気孔内に生じさせ、
(B)前記セラミックス基複合材料を前記液体材料の沸点より低い温度まで冷却し、
前記(A)と前記(B)を繰り返すことにより、前記開気孔を前記セラミックスで埋めるものである。
【0013】
また、本発明によるセラミックス基複合材料は、上述の開気孔充填方法が実施されることにより前記開気孔がセラミックスで充填されたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、セラミックス基複合材料のマトリックス内に生じた開気孔を短時間でセラミックスによって充填でき、又は、セラミックス基複合材料のマトリックス内に生じた開気孔の寸法(例えば幅)が数μm以下であっても当該開気孔にセラミックスを充填でき、又は、これらの両方を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態による、セラミックス基複合材料の開気孔に対するセラミックスの充填方法を示すフローチャートである。
【
図2A】セラミックス基複合材料を加熱体に取り付けるのに用いられる取付具の一例を示す。
【
図3】
図2Aの取付具により加熱体に取り付けたセラミックス基複合材料を液体材料内に配置した状態を示す。
【
図4】本発明の第2実施形態による、セラミックス基複合材料の開気孔充填方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図2Aの取付具により加熱体に取り付けた繊維体を液体材料内に配置した状態を示す。
【
図6】実施例における開気孔充填方法における温度変化を示すグラフである。
【
図7】実施例によりセラミックスが開気孔に充填されたセラミックス基複合材料の走査電子顕微鏡による画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による、セラミックス基複合材料の開気孔充填方法は、セラミックス基複合材料のマトリックス内に存在する開気孔をセラミックスによって埋める方法である。セラミックス基複合材料は、マトリックス内に補強材として多数本の強化繊維が設けられたものである。セラミックス基複合材料は、ロケットのエンジンや航空機のジェットエンジンなどにおいて高温構造部材として使用されるものであってよい。
【0018】
本実施形態による開気孔充填方法の対象となるセラミックス基複合材料は、多数本の強化繊維に対してマトリックスを形成する処理を行うことで形成されたものであってよい。当該処理は、上述のCVI法、PIP法、またはMI法、あるいは後述の膜沸騰法による処理であってよい。マトリックスは、炭化ケイ素により形成されたものであってよいが、他の材料(例えばムライト)で形成されたものであってもよい。
【0019】
強化繊維は、炭化ケイ素又は炭素を主成分とする繊維であってよい。例えば、強化繊維は、炭化ケイ素繊維または炭素繊維である。ただし、本発明によると、強化繊維は、これらに限定されず、例えば、アルミナ繊維、ムライト繊維、ジルコニア繊維などの耐熱性酸化物繊維であってもよい。また、多数本の強化繊維は、多数本の強化繊維により形成された繊維体としてマトリックス内に設けられていてよい。この繊維体は、強化繊維の織物又は編み物であってよい。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態による、セラミックス基複合材料の開気孔に対するセラミックスの充填方法を示すフローチャートである。
【0021】
ステップS1において、対象のセラミックス基複合材料を液体材料内に配置する。このセラミックス基複合材料は、製造済みのセラミックス基複合材料であってよい。また、ステップS1で用いる液体材料は、液体であり、セラミックス基複合材料のマトリックス内の開気孔に生じさせる後述のセラミックスの原材料である。
【0022】
ステップS1は、ステップS11とステップS12を有する。ステップS11では、取付具により、セラミックス基複合材料を加熱体に取り付ける。これにより、セラミックス基複合材料と、加熱体と取付具が、互いに一体化された状態となってよい。なお、このように加熱体に取り付けるセラミックス基複合材料の数は、1つであっても複数(後述の
図2Aの例では2つ)であってもよい。取付具によりセラミックス基複合材料を加熱体に取り付けた状態で、セラミックス基複合材料は、加熱体に接触していてもよいし、加熱体に接触していなくてもよい。
【0023】
図2Aは、ステップS11で使用可能な取付具の一例を示す。ただし、取付具は、
図2Aの構成例に限定されず、セラミックス基複合材料を加熱体に取り付けた状態を維持するものであればよい。
【0024】
図2Aの場合、ステップS11において、取付具20により、セラミックス基複合材料を加熱体に取り付ける。
図2Bは、
図2Aの2B-2B矢視図である。
図2Aは、取付具20により、2つのセラミックス基複合材料10を加熱体1に取り付けた状態(以下で単に取付状態ともいう)を示す。
図2Aの例では、取付状態で、各セラミックス基複合材料10は、加熱体1に接触している。取付具20は、1対の断熱板2と、多孔体3と、作用機構4と、断熱材5と、吊り下げ部7を備える。
【0025】
加熱体1は、誘導加熱される材料(例えばグラファイト)で形成されており、1対の断熱板2の間に配置される。各断熱板2は、断熱性能を有する材料(例えばアルミナ)で形成されている。各断熱板2と加熱体1は、断熱板2の厚み方向から見た場合、例えば同程度の半径を有する円形であってよい。多孔体3は、上述の取付状態で、加熱体1と各断熱板2との間に配置されている。各多孔体3は、流体が通過できる多数の孔が形成されたものであり、例えば複数枚の金網を積み重ねたものであってよい。
【0026】
作用機構4は、ボルト4aとナット4bを有する。ボルト4aは、2枚の断熱板2および加熱体1を隙間をもって貫通しており、各ボルト4aの両端部には、ナット4bが螺合している。取付状態で、2枚の断熱板2を互いに近づける方向に、ボルト4aに対してナット4bを締め付けることにより、1対の断熱板2の間に各多孔体3と加熱体1と各セラミックス基複合材料10が保持される。このような作用機構4が複数(
図2Aの例では2つ)設けられてよい。
【0027】
断熱材5は、取付状態で、加熱体1と2つのセラミックス基複合材料10の外周を覆う。すなわち、加熱体1と各セラミックス基複合材料10は、それぞれ、断熱板2の厚み方向を向く中心軸を囲む外周1a,10aを有し、これらの外周1a,10aが
図2Bのように断熱材5に覆われる。
図2Aでは、断熱材5のうち、加熱体1と各セラミックス基複合材料10の両側(この図の左右両側)に位置する部分のみ二点鎖線で図示している。断熱材5は、断熱性能を有する材料で形成されている。例えば、断熱材5は、ガラス製の断熱クロス(織物)であってよい。なお、断熱材5を加熱体1に対して固定するために、
図2Aと
図2Bの例では、断熱材5には、その外側から針金6が巻き付けられているが、他の手段で、断熱材5を固定してもよい。
【0028】
また、取付状態で、各多孔体3は、外周側に開放されている。すなわち、各多孔体3は、断熱板2の厚み方向を向く中心軸を囲む外周3aを有し、外周3aが、当該中心軸に対する径方向外側に外部に開放されている。
【0029】
吊り下げ部7は、後述のステップ12で、セラミックス基複合材料10と加熱体1を吊り下げるためのものである。
図2Cは、
図2Aの2C-2C矢視図である。吊り下げ部7は、板状部材7aと棒状部材7bとを有する。板状部材7aは、上側の断熱板2の上面に沿って、
図2Aと
図2Cの左右方向に、細長く延びている。板状部材7aの両端部にボルト4aが隙間をもって貫通している。板状部材7aの両端部は、それぞれ、上側の断熱板2と上側のナット4bとの間に挟持されている。板状部材7aの中央部には、結合部7a1が設けられている。この結合部7a1には、棒状部材7bが結合されている。棒状部材7bは、結合部7a1から上方へ延びている。なお、図示を省略するが、例えば、結合部7a1の上面にボルトとしての突出部があり、棒状部材7bの下端面にボルト穴が形成されており、当該ボルトとボルト穴とが螺合することにより、結合部7a1と棒状部材7bとが結合されてもよい。
【0030】
ステップS12では、取付具(例えば
図2Aの取付具20)により加熱体に取り付けられたセラミックス基複合材料を、液体材料内に配置する。この時、
図3のように、セラミックス基複合材料10を、取付具20および加熱体1と共に液体材料9内に配置するとともに、取付具20と加熱体1とセラミックス基複合材料10が、処理容器8の内面(底面と内周面)に接触しないように、セラミックス基複合材料10と加熱体1を吊り下げ部7により吊り下げる。この時、吊り下げ部7の棒状部材7bは、処理容器8の上面の開口を塞ぐ蓋部材8aの貫通穴8a1を貫通するように配置され、棒状部材7bの上端側部分は図示しない構造物に適宜の手段により結合されて支持されてよい。
【0031】
なお、ステップS12において、吊り下げ部は、取付具20と加熱体1とセラミックス基複合材料10が処理容器8の内面に接触しないように(すなわち、処理容器8の内面から離間するように)セラミックス基複合材料10と加熱体1を吊り下げることができれば、
図2Aと
図2C等に示す構成例に限定されない。
【0032】
処理容器8は、誘導加熱されない非導電性材料(例えばガラス)で形成されている。処理容器8には、後述のステップS2の時に処理容器8内の気相部分に窒素ガスを導入するガス導入穴8bや、ステップS2の時に処理容器8内の気相部分からガスを排出するガス排出穴8a2が形成されていてよい。
【0033】
ステップS12により、液体材料内にセラミックス基複合材料の全体が位置する。その結果、セラミックス基複合材料のマトリックスにおける各開気孔内に液体材料が進入(浸透)する。
【0034】
液体材料は、例えば、炭化ケイ素の液体材料であるポリカルボシラン(LPCS:Liquid Polycarbosilane)であってよい。ただし、液体材料は、後述するように、これに限定されない。
【0035】
ステップS2では、液体材料の膜沸騰ガスを生成させ、当該膜沸騰ガスからの析出物であるセラミックスで、セラミックス基複合材料のマトリックス内の開気孔(以下で単に開気孔ともいう)を埋める。ステップS2は、ステップS21とステップS22を有する。
【0036】
ステップS21では、液体材料内に位置するセラミックス基複合材料を、液体材料の沸点以上の目標温度まで加熱することにより、液体材料に由来するセラミックスを開気孔内に生じさせる。すなわち、液体材料は、加熱されたセラミックス基複合材料により加熱されることで、当該セラミックス基複合材料のマトリックス(開気孔の内面)と液体材料との界面において膜沸騰ガスとなり(すなわち、膜沸騰状態となり)、この膜沸騰ガスにより、開気孔においてセラミックス(すなわちセラミックスとしての熱分解析出物)が生じて堆積する。このセラミックスは、次の(i)と(ii)の一方又は両方により生じてよい。
【0037】
(i)膜沸騰ガスが、開気孔の内面に衝突することにより、さらに熱エネルギーを受け取ることで、熱分解および無機化が進行して固体のセラミックスとして開気孔の内面に析出する。
【0038】
(ii)膜沸騰ガスの一部に含まれるガスが既に熱分解された熱分解ガスとなっており、この熱分解ガスが、加熱された開気孔の内面に衝突することで、無機化が進行して固体のセラミックスとして開気孔の内面に析出する。
【0039】
なお、ステップS21において、マトリックスの開気孔の内面以外の箇所で、セラミックス基複合材料と液体材料との界面においても、上記セラミックスが析出してもよい。
【0040】
ステップS21では、加熱体を誘導加熱することによりセラミックス基複合材料を加熱してよい。例えば、
図3のように、コイル11に交流電流を流すことでコイル11が発生する交流磁場により、加熱体1を誘導加熱する。加熱された加熱体が発生する熱によりセラミックス基複合材料と液体材料を加熱する。ステップS21における加熱体(セラミックス基複合材料)の昇温速度は、微小な開気孔をセラミックスにより埋めるためには、3000℃/hour以下、2000℃/hour以下、又は1500℃/hour以下が望ましい。この場合、当該昇温速度は、500℃/hour以上であってよい。また、この場合、当該昇温速度は、1000℃/hour程度又は1000℃/hour以下がより望ましい。ただし、当該昇温速度は、これに限定されない。例えば、当該昇温速度は、500℃/hourよりも低くてもよい(この場合、当該昇温速度は、例えば100℃/hour以上であってよい)。
【0041】
ステップS21において、セラミックス基複合材料が液体材料の沸点以上の上記目標温度になったら、ステップS22へ移行する。例えば、温度センサを、セラミックス基複合材料に、又は加熱体の表面に取り付けておき、この温度センサが計測した温度をセラミックス基複合材料の温度として、当該計測温度が、目標温度に達したら、ステップS22へ移行してよい。なお、目標温度は、おおよその基準であってもよい。すなわち、目標温度となったタイミングでステップS22を開始するのが困難な場合があるので、ステップS22を開始するタイミングは、セラミックス基複合材料の温度が目標温度となった時でもよいし、セラミックス基複合材料の温度が目標温度をある程度超えた時であってもよい。
【0042】
ステップS22では、セラミックス基複合材料を液体材料の沸点より低い目標温度まで冷却する。これにより、ステップS22により、マトリックス(各開気孔の内面)と液体材料との界面における液体材料の沸騰現象を停止させる(これに対し、特許文献2と非特許文献3には、沸騰現象を停止させることは記載されていない)。その結果、新たな膜沸騰ガスが生成されなくなった状態で、既に生成されていた膜沸騰ガスと液体材料とが入れ替わることで、液体材料が、セラミックス基複合材料においてセラミックスで完全に埋められていない各開気孔に再び進入(浸透)する。例えば、ステップS21により一部がセラミックスで埋められた開気孔に、ステップS22により液体材料が再び進入する。ステップS22における加熱体(セラミックス基複合材料)の降温速度は、3000℃/hour以下が望ましく、1000℃/hourがより望ましいが、これに限定されない。
【0043】
なお、ステップS22での上記冷却は、セラミックス基複合材料の加熱を停止し、この停止の状態を維持することにより行われてよい。あるいは、ステップS22において、セラミックス基複合材料の加熱の停止に加えて、液体材料を冷却してもよい。例えば、
図3において、処理容器8内の液体材料9の一部を処理容器8の外部へ流し、当該液体材料9を熱交換器により冷却し、その後、冷却された液体材料9を処理容器8内に戻すように、液体材料9を循環させてもよい。この場合、このように液体材料9を循環させる配管やポンプ(図示せず)が設けられてよい。
【0044】
ステップS22のセラミックス基複合材料が、液体材料の沸点より低い上記目標温度まで冷却されたら、再びステップS21を開始する。例えば、上述の温度センサが計測した温度をセラミックス基複合材料の温度として、当該計測温度が、当該目標温度以下になったら、再びステップS21を開始する。なお、当該目標温度は、おおよその基準であってもよい。すなわち、当該目標温度となったタイミングで再びステップS21を開始するのが困難な場合があるので、ステップS21を再び開始するタイミングは、セラミックス基複合材料の温度が当該目標温度となった時でもよいし、セラミックス基複合材料の温度が当該目標温度をある程度下回った時であってもよい。
【0045】
また、ステップS22の後、ステップS21を再び開始する前に、処理容器8内の液体材料においてセラミックス基複合材料から気泡が発生していないことを確認し、この確認がなされたら、ステップS21を開始する。この確認は、例えば透明なガラス製の処理容器8を外部から視認することによりなされてよい。気泡が発生していないことから、液体材料がセラミックス基複合材料の内部へ浸透しきったと判断することができる。
【0046】
このように再びステップS21を開始し、ステップS21とステップS22を繰り返す。これにより、マトリックスにおける各開気孔に生じるセラミックスが増えていき、これらの開気孔にセラミックスが充填される。各開気孔にセラミックスが十分に(例えば完全に)充填されるまで、ステップS21とステップS22を繰り返す。この繰り返し回数は、例えば10回以上20回以内であってよいが、これに限定されない。
【0047】
液体材料が、上述のLPCSである場合には、上述のセラミックスは炭化ケイ素となる。この場合、LPCSは、ステップS21とステップS22の繰り返し過程において、高分子化が進むことで、その沸点が、およそ180℃から250℃程度まで上昇する。また、この場合、ステップS21により到達するセラミックス基複合材料の最高温度は、例えば800℃以上であり、望ましくは1000℃以上1400℃以下である。最高温度が、1000℃以上であることにより、セラミックスの無機化の十分な進行を期待でき、最高温度が、1400℃以下であることにより、セラミックスの析出速度が高くなり過ぎることや、セラミックスが堆積しない程度に激しい熱分解が生じてしまうことを防止できる。これにより、微小な開気孔へセラミックスが充填され易くなると期待できる。
【0048】
また、液体材料が、上述のLPCSである場合に、ステップS22により到達するセラミックス基複合材料の最低温度は、LPCSの沸点よりも低い温度である。LPCSの沸点は、ステップS21とステップS22の繰り返し過程において、上述のようにおよそ180℃から250℃程度まで上昇する。そのため、各回のステップS22では、セラミックス基複合材料を、このように上昇する沸点よりも低い温度まで冷却することにより、液体材料が、沸騰せずに、セラミックス基複合材料内の各開気孔に液体状態で浸透する。
【0049】
(第1実施形態の効果)
本実施形態の開気孔充填方法によると、以下の効果(A)~(G)が得られる。
【0050】
(A)セラミックス基複合材料を液体材料内に配置することにより、そのマトリックスにおける開気孔に液体材料が進入(浸透)し、次いで、セラミックス基複合材料を、液体材料の沸点以上の温度まで加熱する。これにより、マトリックスの開気孔内の液体材料が膜沸騰ガスとなり、この膜沸騰ガスから、開気孔の一部を埋めるセラミックスが生じる。その後、セラミックス基複合材料を上記沸点より低い温度まで冷却する。これにより、開気孔での液体材料の沸騰が停止し、液体材料が、開気孔に再び進入(浸透)する。次いで、セラミックス基複合材料を、上記沸点以上の温度まで加熱する。このような加熱と冷却を繰り返すことにより、マトリックスにおける各開気孔をセラミックスで埋めることができる。
【0051】
(B)また、これにより、セラミックス基複合材料の内部への酸素や燃焼ガスの侵入経路となる開気孔が塞がれ、更には、き裂の進展開始点となる開気孔の先端の数が減少する。したがって、セラミックス基複合材料の耐酸化性、強度、及び疲労特性が向上する。
【0052】
(C)本実施形態の開気孔充填方法では、繰り返される各冷却処理(上述のステップS22)で、液体材料の沸点よりも低い温度までセラミックス基複合材料を冷却する。これにより、上述のようにマトリックスにおける開気孔に液体の材料を進入させることができるので、数μm以下の微小な開気孔(例えば1~2μm以下の幅を有する開気孔)であっても、液体材料を当該開気孔に進入させることができ、この液体材料の膜沸騰ガスのセラミックスを当該開気孔に生じさせることができる。したがって、微小な開気孔であっても、当該開気孔にセラミックスを充填することができる。
【0053】
(D)上述の加熱と冷却には時間がかからないので、上述の加熱と冷却の繰り返しにより、短時間(例えば数時間)で、比較的大きな開気孔と数μm以下の微小な開気孔にセラミックスを(例えば完全に)充填することができる。例えば、ステップS21とステップS22を1回行うことを1サイクルとして、1サイクルに要する時間が30分~1時間程度であり、1サイクルで、最大で5~10μm程度の寸法のセラミックスを開気孔に成長させることを期待できる。また、加熱は、セラミックス基複合材料に接触している加熱体の誘導加熱により行われるので、セラミックス基複合材料を急速に加熱できる。
【0054】
(E)また、複数(
図2Aでは2つ)のセラミックス基複合材料を加熱体に取り付けた場合には、複数のセラミックス基複合材料に対して開気孔充填方法を同時に行うことができる。
【0055】
(F)
図2Aの取付具20における各断熱板2と断熱材5により、加熱体1とセラミックス基複合材料10からの放熱を抑制できる。
【0056】
(G)上述のステップS21において、加熱体1を誘導加熱する場合、非導電性材料で形成された処理容器8は誘導加熱されない。また、この時、
図3のように、加熱体1とセラミックス基複合材料10と取付具20は、吊り下げ部7により、処理容器8の内面に接触しないように吊り下げられているので、処理容器8が、高温の加熱体1とセラミックス基複合材料10と取付具20に接触することにより破損することが防止される。
【0057】
(H)なお、上述の開気孔充填方法において、加熱体1を省略して、ステップS21において、熱容量(体積)が十分に大きいセラミックス基複合材料内の繊維体(例えば炭素繊維又は炭化ケイ素繊維により形成された繊維体)を誘導加熱することにより、上述の膜沸騰ガスを発生させて、上記(i)と(ii)の一方又は両方により、セラミックス基複合材料のマトリックスの開気孔においてセラミックスを堆積させてもよい。この場合、例えば、
図2Aと
図3において、加熱体1が省略され、セラミックス基複合材料10の数が1つになり、1つのセラミックス基複合材料10が上方と下方から多孔体3に接触し、断熱材5は、セラミックス基複合材料10の外周10aを覆い、他の点は、上述と同じであってよい。また、加熱体1の省略に加えて、又は加熱体1の省略の代わりに、断熱板2を省略してもよい。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による、セラミックス基複合材料の開気孔充填方法について説明する。第2実施形態について、以下で説明しない点は第1実施形態と同じであってよい。
【0058】
第2実施形態では、開気孔充填方法の対象となるセラミックス基複合材料は、多数本の強化繊維(例えば上述の繊維体)に対して、膜沸騰法(FB:Film Boiling)によりマトリックスを形成したものである。膜沸騰法では、多数本の強化繊維(繊維体)が、マトリックスの液体材料内に配置された状態で、各強化繊維(繊維体)を加熱する。この加熱により、液体材料に由来するセラミックスをマトリックスとして各強化繊維に堆積させていくことで、マトリックスを形成する。すなわち、液体材料は、加熱された強化繊維により加熱されることで、膜沸騰ガスとなり、この膜沸騰ガスにより、強化繊維へのセラミックスが生じる。強化繊維に対するセラミックスは、次の(1)と(2)の一方又は両方により生じてよい。
【0059】
(1)膜沸騰ガスが、加熱された強化繊維に衝突することにより、さらに熱エネルギーを受け取ることで、熱分解および無機化が進行して固体のセラミックスとして強化繊維に析出する。
【0060】
(2)膜沸騰ガスの一部に含まれるガスが既に熱分解された熱分解ガスとなっており、この熱分解ガスが、加熱された強化繊維に衝突することで、無機化が進行して固体のセラミックスとして強化繊維に析出する。
【0061】
このような膜沸騰法 (FB:Film Boiling)により、マトリックスが形成されたセラミックス基複合材料を、上述の液体材料内に配置したままで、第2実施形態による開気孔充填方法を行うことができる。すなわち、上述のステップS2を行う前に、液体材料内に配置した繊維体に対して膜沸騰法によりマトリックスを形成することにより、液体材料内においてセラミックス基複合材料が形成され、その結果、セラミックス基複合材料が液体材料内に配置された状態となる。すなわち、膜沸騰法によるマトリックスの形成処理が上述のステップS1の代わりとなる。
【0062】
図4は、第2実施形態において、セラミックス基複合材料の製造方法と開気孔充填方法を順に続け行う場合のフローチャートである。
【0063】
ステップS101において、取付具により、強化繊維により形成された繊維体を加熱体に取り付け、繊維体を加熱体と共に液体材料内に配置する。この状態で、繊維体は、加熱体に接触していてもよいし、接触していなくてもよい。また、液体材料は、マトリックスの原料となる液体である。液体材料が上述のLPCSである場合には、マトリックスは主に炭化ケイ素で形成されたものになる。
【0064】
ステップS101で用いる取付具は、
図2Aの取付具と同じであってよい。この場合、ステップS101を行った直後の状態は、
図2Aにおいて、各セラミックス基複合材料10が繊維体に置き換えられた状態と同じである。すなわち、ステップS101において、取付具により、セラミックス基複合材料の代わりに、繊維体を加熱体に取り付ける。ステップS101において、このように加熱体に取り付けた繊維体を液体材料内に配置した状態を
図5に示す。
図5において、符号13は繊維体を示し、符号13aは繊維体13の外周を示す。
【0065】
図5のように、繊維体13を液体材料9内に配置した状態で、取付具20と加熱体1と繊維体13が、処理容器8の内面(底面と内周面)に接触しないように、繊維体13と加熱体1は吊り下げ部7により吊り下げられる。この状態において、上述と同様に、棒状部材7bの上端側部分は図示しない構造物に適宜の手段により結合されて支持されてよい。また、この状態は、ステップS2が終わるまで維持される。
【0066】
ステップS102では、上述のように膜沸騰法により繊維体に対してマトリックスを形成することで、セラミックス基複合材料を得る。ステップS102は、ステップS121とステップS122を有する。
【0067】
ステップS121では、強化繊維(繊維体)の温度が高温側の目標温度以上になるまで、強化繊維を加熱する。高温側の目標温度は、上述した膜沸騰ガスによる繊維体の各強化繊維へのセラミックスが生じ始める温度よりも高い温度である。
【0068】
ステップS121の上記加熱は、加熱体を誘導加熱することにより行われてよい。例えば、
図5のように、コイル11に交流電流を流すことでコイル11が発生する交流磁場により、加熱体1を誘導加熱する。加熱された加熱体が発生する熱により繊維体と液体材料を加熱する。ステップS121で、繊維体(強化繊維)の温度が高温側の目標温度以上になったら、ステップS122へ移行する。例えば、加熱体の表面に取り付けた温度センサの計測温度が、上記目標温度以上になったら、ステップS122へ移行する。ステップS121での繊維体(又は加熱体)の昇温速度は、例えば、3000℃/hour以下、2000℃/hour以下、又は1500℃hour以下であるのがよい。この場合、当該昇温速度は、1000℃/hour以上であって(又は1000℃/hourよりも高くて)よい。
【0069】
ステップS122では、繊維体を冷却する。すなわち、ステップS122では、繊維体の加熱を停止し、繊維体(又は加熱体)の温度が低温側の目標温度以下になるまで、繊維体の加熱を停止した状態を維持する。低温側の目標温度は、上述した膜沸騰ガスによる各強化繊維へのセラミックスの形成が停止する温度以下の温度である。この目標温度は、液体材料の沸点以上の温度であってもよい。なお、ステップ122では、強化繊維の加熱の停止に加えて、液体材料を上述のように熱交換器により冷却してもよい。
【0070】
液体材料が上述のLPCSである場合には、ステップS121における高温側の目標温度は、800℃以上であり1600℃以下の範囲内の温度であるのが望ましく、ステップS122における低温側の目標温度は、800℃未満であるのが望ましく、500℃以下(例えば500℃)であるのがより望ましく、例えば300℃~400℃の範囲内の値であってよい。なお、これらの目標温度は、上述のようにおおよその基準であってもよい。
【0071】
ステップS122において繊維体(又は加熱体)の温度が低温側の目標温度以下になったら(例えば加熱体の表面に取り付けた温度センサの計測温度が低温側の目標温度以下になったら)、再びステップS121を開始して、ステップS121とステップS122を繰り返す。この繰り返しにおいて、液体材料の沸騰状態が維持されたまま、ステップS121からステップS122へ移行してよい。ステップS121とステップS122を1回行うことで、上述した膜沸騰ガスから、熱分解により各強化繊維に対して生じるセラミックスにより、各強化繊維に対してマトリックスの1つの層が形成される。ステップS121とステップS122を1回行うことを1サイクルとして、サイクル数と、各強化繊維に対して形成される層の数とが同じになる。
【0072】
ステップS121とステップS122を繰り返すことで、各強化繊維を中心にセラミックスが順に堆積していくことにより、セラミックスマトリックスが形成される。これによりマトリックスの形成を完了させる。このマトリックスは、(各強化繊維を中心に)複数の上記層が順に積層された層構造を有する。この場合、ステップS121での繊維体(又は加熱体)の昇温速度は、層構造のマトリックスが形成される程度に遅い速度である。例えば、当該昇温速度は、3000℃/hour以下、2000℃/hour以下、又は1500℃hour以下であるのがよい。この場合、当該昇温速度は、1000℃/hour以上であってよく、又は1000℃/hourよりも高くてよい。
別の観点から言い換えると、マトリックスの層構造を形成するために、適度の時間をかけて繊維体を加熱するのがよい。例えば、1回のステップS121において、繊維体を昇温させている時間(すなわち、繊維体が昇温している合計時間)は、10分よりも長く、15分以上、20分以上、又は30分以上であってよい。この場合、繊維体を昇温させている当該時間は、例えば、40分以内、50分以内、又は60分以内であってよいが、これに限定されず、60分よりも長い時間であってもよい。
【0073】
ただし、本発明によると、ステップS122を省略してもよい。この場合、ステップS121において、液体材料内の繊維体を、例えば1000℃以上1400℃以下の温度で、所定時間、加熱し続けることによりマトリックスの形成を完了させてよい。この場合には、層構造を有しないマトリックスが形成される。
【0074】
ステップS121とステップS122の繰り返しにより、又は、ステップS122を省略したステップS102により、マトリックスの形成を完了させることで、セラミックス基複合材料(
図5では2つのセラミックス基複合材料)が得られる。
【0075】
第2実施形態では、上述のようにマトリックスの形成が完了したら、ステップS102における液体材料(例えば
図5の液体材料9)からセラミックス基複合材料を取り出すことなく、開気孔充填方法を開始する。すなわち、開気孔充填方法のステップS1を行うことなく、上述のステップS2(ステップS21)を開始する。
【0076】
図5の取付具20によりマトリックスの形成を完了させた場合には、
図5における各繊維体13がセラミックス基複合材料となって、
図3の状態となる。したがって、ステップS1を行うことなく、ステップS2(ステップS21)を開始する。すなわち、開気孔充填方法の処理を開始する。
【0077】
以降において、開気孔充填方法は、第1実施形態の場合と同じであるので、その説明を省略する。なお、上述の製造方法で用いた加熱体、取付具、コイル、処理容器、処理容器内の液体材料などは、そのまま、次に行う開気孔充填方法(ステップS2)で用いられる。また、開気孔充填方法における上述のステップS22での上記目標温度は、上述のステップS122での上記低温側の目標温度よりも低い。
【0078】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、繊維体に対して膜沸騰法によりマトリックスを形成することによりセラミックス基複合材料を得た後、第1実施形態のステップS1を行うことなく、開気孔充填方法の処理を開始できる。
【0079】
(実施例)
第2実施形態の実施例では、ステップS101での繊維体を、強化繊維としての炭化ケイ素繊維で形成されたものとし、液体材料を上述のLPCSとした。また、
図5に示す構成を用いて、上述の
図4のフローチャートに示す処理を行った。
【0080】
図6は、実施例における上述のステップS2での温度変化の一例を示すグラフである。
図6において、実線は、加熱体の表面温度を示し、破線は、
図4の上側のセラミックス基複合材料10の上面の温度を示し、一点鎖線は、
図4の液体材料の温度を示す。
【0081】
図7は、別の実施例によりセラミックスが開気孔に充填されたセラミックス基複合材料の、走査電子顕微鏡による画像である。
図7は、
図6のような温度変化で、上述のステップS2の処理を2.5時間行って得られた状態を示す。
図7において、複数の矢印に示され、かつ、これらの矢印に挟まれた部分は、き裂としての開気孔である。このき裂は、幅が1~2μm程度であり、強化繊維の位置から細長く延びている。このき裂は、2.5時間のステップS2でセラミックスにより埋めることができた。
【0082】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態による、セラミックス基複合材料の開気孔充填方法を説明する。第3実施形態において、以下で説明する点以外は、第1実施形態と同じであってよい。
【0083】
開気孔に上述のセラミックスを生じさせるための液体材料(ステップS1で用いる液体材料)は、上述のLPCS以外の液体材料であってもよい。例えば、この液体材料は、ボラジン、メチルトリクロロシラン、シクロヘキサン、ケイ素アルコキシド溶液、アルミニウムアルコキシド溶液、ケイ素アルコキシド溶液とアルミニウムアルコキシド溶液の混合液、又は、ジルコニウムアルコキシド溶液であってもよい。
【0084】
ステップS1で用いる液体材料がボラジンの場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、セラミックスであるボロンナイトライド(BN)となる。ボロンナイトライドは、炭化ケイ素との接着性が低い。したがって、マトリックスが主に炭化ケイ素で形成されている場合には、開気孔に充填されたボロンナイトライドは、マトリックスとの界面において、き裂の伝播を抑制する機能を有する。
【0085】
ステップS1で用いる液体材料がメチルトリクロロシランの場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、液体材料がポリカルボシラン(LPCS)の場合と同様に、セラミックスである炭化ケイ素(SiC)となる。
【0086】
ステップS1で用いる液体材料がシクロヘキサンの場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、炭素となる。この炭素は、上述のボロンナイトライドの場合と同様に、き裂の伝播を抑制する機能を有する。
【0087】
ステップS1で用いる液体材料がケイ素アルコキシド溶液の場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、二酸化ケイ素(SiO2)となる。ケイ素アルコキシド溶液は、LPCSよりも安価である。
【0088】
ステップS1で用いる液体材料がアルミニウムアルコキシド溶液の場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、アルミナ(Al2O3)となる。アルミニウムアルコキシド溶液は、LPCSよりも安価である。
【0089】
ステップS1で用いる液体材料がケイ素アルコキシド溶液とアルミニウムアルコキシド溶液の混合液の場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、ムライト(Al2O3-SiO2)となる。
【0090】
ステップS1で用いる液体材料がジルコニウムアルコキシド溶液の場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、ジルコニア(ZrO2)となる。ジルコニアは、炭化ケイ素よりも融点が高いセラミックスであるので、超高温環境でも、溶けずにマトリックスの一部として機能する。
【0091】
なお、本発明によると、ステップS1で用いる液体材料は、上述の具体例に限定されず、他の液体材料であってもよい。例えば、他の金属アルコキシド溶液を、ステップS1で用いる液体材料としてもよい。この場合、上述のステップS21の加熱により生成されるセラミックスは、酸化物セラミックスであってよい。この場合、ステップS21で開気孔に生じるセラミックスがbarium aluminosilicate (BaAl2Si2O8)となるように、ステップS1で用いる液体材料は、例えば、非特許文献1に記載されているように、3つのアルコキシド溶液(alkoxydes)の混合液であってもよい。
【0092】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例を採用してもよい。この場合、他の点は上述と同じであってよい。
【0093】
(変更例)
第2実施形態で用いる液体材料は、LPCS以外の液体材料であってもよい。この場合、アルコキシド溶液を含むセラミックスの原料であって、液体状態となる程度に分子量が低い無機高分子材料を、上述の膜沸騰法における液体材料として使用可能である。
【0094】
例えば、上記の非特許文献1に記載されているように、上述の膜沸騰法で用いる液体材料は、3つのアルコキシド溶液(alkoxydes)の混合液であってよく、この場合、マトリックスは、barium aluminosilicate (BaAl2Si2O8)で形成されてよい。
【0095】
別の例では、上記の非特許文献2に記載されているように、上述の膜沸騰法で用いる液体材料は、複数のアルコキシド溶液(alkoxydes)の混合液であってよく、この場合、マトリックスは、ムライトで形成される。
【0096】
また、第2実施形態で用いる液体材料は、上述の第3実施形態で述べたいずれの液体材料であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 加熱体、1a 外周、2 断熱板、3 多孔体、3a 外周、4 作用機構、4a ボルト、4b ナット、5 断熱材、6 針金、7 吊り下げ部、7a 板状部材、7a1 結合部、7b 棒状部材、8 処理容器、8a 蓋部材、8a1 貫通穴、8a2 ガス排出穴、8b ガス導入穴、9 液体材料、10 セラミックス基複合材料、10a 外周、11 コイル、13 繊維体、20 取付具