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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】生地の表面加工方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/00 20060101AFI20241218BHJP
   D06C 23/00 20060101ALI20241218BHJP
   D02J 13/00 20060101ALI20241218BHJP
   B23K 26/00 20140101ALN20241218BHJP
【FI】
D06M10/00 K
D06C23/00
D02J13/00 D
B23K26/00 A
B23K26/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021001952
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107177
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594137960
【氏名又は名称】株式会社ゴールドウイン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 祐平
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 知大
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-508207(JP,A)
【文献】特開昭64-040664(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151776(WO,A1)
【文献】米国特許第05529813(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 ー 10/04
D06C 23/00 - 23/04
D02J 13/00
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束で構成され厚さを有する生地の表面を、短パルスレーザーを用いて加工する、生地の表面加工方法であって、
前記生地における前記表面の凹凸の大きさが、前記短パルスレーザーの焦点深度の範囲内となるように、前記焦点深度を調整する調整工程を備え、
前記生地の表面に前記加工で形成される構造は、周期的な微細構造であり、
周期的に形成された凸部分と、
前記凸部分の周期よりも小さい周期で、前記凸部分の表面に周期的に形成された小凸部分及び小凹部分と、
を含む、
生地の表面加工方法。
【請求項2】
前記生地の表面に前記加工で形成される凹構造、凸構造又は凹凸構造は、マイクロメートル領域以下の微細構造である、
請求項1に記載の生地の表面加工方法。
【請求項3】
前記加工の少なくとも一部は、前記短パルスレーザーのレーザー光を用いた波干渉法で行われ、
前記干渉法は、同一焦点に集光された少なくとも二本以上のレーザー光を用いた多光束干渉法、又は、表面波干渉法である、
請求項1又は2に記載の生地の表面加工方法。
【請求項4】
前記短パルスレーザーのレーザー光のパルスの間隔は、ソフト的、電子回路的、または、機械的に広げられている、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の生地の表面加工方法。
【請求項5】
前記短パルスレーザーのレーザー光の前記生地の表面に対する角度は垂直である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の生地の表面加工方法。
【請求項6】
前記微細構造は前記生地を構成する繊維に、前記繊維の長手方向に沿って形成される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の生地の表面加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地の表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生地の表面を加工して所望の特性を付与する加工技術が知られている。例えば、生地や生地を構成する繊維の表面を加工して撥水性や親水性を付与する場合には、生地や繊維の表面に対して撥水加工や親水加工が実施される。撥水加工や親水加工としては、生地や繊維の表面を撥水性や親水性の薬剤で被覆する化学的な方法が知られている。ただし、生地や繊維の表面を薬剤で被覆する方法では、被覆された薬剤が摩耗したり、劣化して剥がれたりするおそれがある。また、薬剤の種類によっては、環境へ悪影響を及ぼすおそれがある。
【0003】
他の加工技術としては、生地や繊維の表面を物理的に加工する方法がある。例えば、特許文献1(特開2020-66824号公報)に、繊維表面に周期構造を形成する方法が開示されている。この方法は、超短パルスレーザーを、繊維の長手方向に相対移動させつつ該繊維の表面に照射してパーカッション加工を行うことで、繊維表面に周期構造を形成する。特許文献1によれば、この周期構造の種類により、例えば、超撥水性を有する繊維を提供でき、あるいは、超親水性を有する繊維を提供できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-66824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、一本の繊維の表面を超短パルスレーザーで加工する技術である。その繊維の表面は、細かい凹凸を有しているが、レーザーの焦点を合わせるという観点では、概ね平坦といえる。そのため、レーザーの焦点を加工対象の繊維の表面に合わせて、繊維の表面を所望の周期構造に加工できる。
【0006】
しかし、その方法を、生地の表面の加工に適用しようとすると、適切な加工が困難になるおそれがある。その理由は、以下のとおりである。生地は、直径が概ね1~100μm程度の単繊維を束ねたり撚ったりして形成されているため、生地は厚さを持ち、その表面は1~1000μm程度の厚さ方向の凹凸を有する。つまり、繊維自体の表面が概ね平坦であっても、生地の表面は必ずしも平坦とはいえない。例えば、生地の表側に露出した複数の繊維の一部は、表面に揃って並んでいるが、他の一部は、生地の表面から厚さ方向に深い位置に存在している。すなわち、生地の表側に露出した複数の繊維には、生地における厚さ方向の浅い側(表面又は表面に近い側)に位置する繊維に加えて、生地における厚さ方向の深い側(表面から遠い側)に位置する繊維も存在する。
【0007】
一方で、レーザー加工に用いられるレーザー光の焦点深度は、10~数百μm程度である。つまり、生地の表面の凹凸と焦点深度とが厚さ方向に近い寸法領域にあることが、生地をその面内方向や厚さ方向、すなわち三次元領域で均一に加工することを困難にしている。レーザー光のパルスエネルギー(J)を、レーザーの照射面積(cm)で除した値をフルエンスF(J/cm)と言い、レーザー加工においては、加工に必要なアブレーションを発生させるためにある一定以上のフルエンスが必要となる。よって、レーザーの焦点を厚さ方向の浅い側に位置する繊維に合わせると、厚さ方向の深い側に位置する繊維へのフルエンスが不十分になり、深い側に位置する繊維の加工が困難になる。一方、レーザーの焦点を深い側に位置する繊維に合わせると、浅い側に位置する繊維へのフルエンスが不十分になり、浅い側に位置する繊維の加工が困難になる。その結果、生地の表面の加工にむらが生じるなど、三次元領域に適切な表面加工を行うことが困難になるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、レーザーを用いて生地に適切な表面加工を施して、所望の特性を有する生地を形成することが可能な表面加工方法を提供することにある。
【0009】
本発明の生地の表面加工方法の構成は以下のとおりである。
(1)繊維束で構成され厚さを有する生地の表面を、短パルスレーザーを用いて加工する、生地の表面加工方法であって、前記生地における前記表面の凹凸の大きさが、前記短パルスレーザーの焦点深度の範囲内となるように、前記焦点深度を調整する調整工程を備える生地の表面加工方法。
【0010】
本生地の表面加工方法では、調整工程において、短パルスレーザーの焦点深度の範囲内に、生地における表面の凹凸の大きさが入るように、焦点深度を調整する。具体的には、例えば、生地における表面の凹凸の大きさが大きい場合には、その表面の凹凸の大きさが含まれるように、焦点深度の範囲を拡げる調整を行う。すなわち、焦点深度を、生地の表面の凹凸に近い寸法領域に設定するのではなく、生地における加工すべき厚さ方向の深さ(生地の表面の凹凸よりも深い)と同等かそれよりも広い寸法領域に設定する。それにより、調整工程の後において、短パルスレーザーのレーザー光で、生地における加工すべき厚さ方向の深さまで繊維の表面を加工することができる。それにより、生地の表面が平坦とはいえない状態であっても、焦点深度内に位置している生地を適切に表面加工することができる。このとき、例えば、レーザー光や、多光束のレーザー光の干渉(多光束干渉)や、レーザー光が生地の表面で乱反射した光とレーザー光との干渉(表面波干渉)などにより、繊維の表面に微細な構造を付与することができる。その微細な構造の特徴により、繊維だけでなく、繊維で構成された生地においても、撥水性や親水性や防汚性をはじめとした、各種機能を発現することができる。
【0011】
(2)前記生地の表面に前記加工で形成される凹構造、凸構造又は凹凸構造は、マイクロメートル領域以下の微細構造である、上記(1)に記載の生地の表面加工方法。
【0012】
本生地の表面加工方法では、生地の表面に加工で形成される凹構造、凸構造又は凹凸構造は、マイクロメートル領域以下の微細構造である。ここで、マイクロメートル領域とは、一辺が10μmの正方形の領域である。したがって、微細構造における一つ一つの凸部又は凹部は、一辺が10μmの正方形の領域に収まる大きさを有している。このような、微細構造により、繊維だけでなく、繊維で構成された生地においても、撥水性や親水性や防汚性をはじめとした、各種機能をより発現することができる。
【0013】
(3)前記加工の少なくとも一部は、前記短パルスレーザーのレーザー光を用いた干渉法で行われ、前記干渉法は、同一焦点に集光された少なくとも二本以上のレーザー光を用いた多光束干渉法、又は、表面波干渉法である、上記(1)又は(2)に記載の生地の表面加工方法。
【0014】
本生地の表面加工方法では、加工の少なくとも一部は、短パルスレーザーから出力されたレーザー光の干渉を用いる干渉法で行われる。干渉法は、多光束干渉法、又は、表面波干渉法である。それにより、干渉法で加工された領域では、レーザー光の範囲における生地の表面を微細な構造に加工することができ、繊維だけでなく、繊維で構成された生地においても、各種機能をより発現することができる。
【0015】
(4)前記生地の表面に前記加工される構造は周期的な微細構造であり、周期的に形成された凸部分と、前記凸部分の周期よりも小さい周期で、前記凸部分の表面に周期的に形成された小凸部分及び小凹部分と、を含む、上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の生地の表面加工方法。
【0016】
本生地の表面加工方法では、生地の表面に形成される構造は周期的な微細構造であり、周期的に形成された凸部分と、凸部分の周期よりも小さい周期で、凸部分の表面に形成された小凸部分及び小凹部分と、を含んでいる。すなわち、周期的な微細構造が、二つの周期構造を有している。その微細構造の特徴により、繊維だけでなく、繊維で構成された生地においても、各種機能、特に、撥水性を発現することができる。
【0017】
(5)前記短パルスレーザーのレーザー光のパルスの間隔は、ソフト的、電子回路的、または、機械的に、広げられている、上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の生地の表面加工方法。
【0018】
本生地の表面加工方法では、短パルスレーザーのレーザー光のパルスの間隔は、ソフト的、電子回路的、または、機械的に、広げられている。このように、レーザー光のパルスの間隔を広げて、加工中にレーザー光により生地(繊維)で蓄熱した熱を放熱するための時間を設けることで、生地(繊維)の溶融を抑制しつつ、生地の表面をより適切に加工することが出来る。言い換えると、熱を蓄熱し易い生地(繊維)に対しても、生地(繊維)の溶融を抑制しつつ、生地の表面をより適切に加工するこができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、レーザーを用いて生地に適切な表面加工を施して、所望の特性を有する生地を形成することが可能な表面加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る生地の表面加工方法に用いる加工装置の構成例を示すブロック図である。
図2】表面加工方法におけるレーザー光の照射パターンを示す模式図である。
図3】表面加工方法における焦点深度と生地との関係を示す模式図である。
図4】従来の表面加工方法における焦点深度と生地との関係を示す模式図である。
図5】表面加工方法における表面波干渉加工の原理を示す模式図である。
図6】表面加工方法における2光束干渉の原理を示す模式図である。
図7】表面加工方法における多光束干渉加工に用いる加工装置の構成例を示すブロック図である。
図8】表面加工方法における布の連続加工方法を示す模式図である。
図9】1光束のパルス加工における生地の表面状態の観察結果を示す表である。
図10】1光束のパルス加工における黒生地の表面状態のSEM観察結果を示す表である。
図11】1光束のパルス加工における黒生地の接触角と表面状態との関係を示す表である。
図12】多光束干渉加工における生地の表面状態の観察結果を示す表である。
図13】多光束干渉加工に用いた生地の加工前の表面状態を示す図である。
図14】多光束干渉加工による接触角の経時的変化を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態に係る生地の表面加工方法について、図面を参照して説明する。本表面加工方法は、繊維束で構成され厚さを有する生地の表面を、短パルスレーザーを用いて三次元領域を表面加工する方法である。ただし、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜他の技術との組み合わせや代替、変更等が可能である。
【0022】
まず、実施形態に係る生地の表面加工方法に用いる加工装置の構成例につて説明する。図1は、表面加工方法に用いる加工装置の構成例を示すブロック図である。その加工装置は、レーザー本体1a、光学系2、及び焦点深度調整部3を含むレーザー1と、加工テーブル5と、制御装置6と、を備えている。
【0023】
レーザー本体1aは、短パルスのレーザー光LBを照射可能なレーザー発振器である。レーザー本体1aの種類としては、特に制限はなく、例えば、炭酸ガスレーザーやエキシマレーザーのような気体レーザー、Yb:YAGレーザーやYb:KGWレーザーやYb:KYWレーザーやTi:Al(サファイア)レーザーのような固体レーザー、半導体レーザー、及びファイバーレーザーが挙げられる。本実施形態では、レーザー本体1aは、Yb:KGWレーザーである。
【0024】
レーザー光LB(短パルス)のパルス幅としては、非熱加工(アブレーション加工)のし易さの観点から、例えば、1フェムト秒以上、1000ピコ秒未満が挙げられ、10フェムト秒以上、1000フェムト秒未満が好ましく、100フェムト秒以上、500フェムト秒以下がより好ましい。パルス幅が長過ぎると、生地が熱加工(光熱加工)され易く、非熱加工(アブレーション加工)し難くなる。パルス幅が短過ぎると、生地の加工そのものが難くなる。本実施形態では、レーザー光LBのパルス幅は、100フェムト秒以上、500フェムト秒未満である。
【0025】
レーザー光LBの波長としては、例えば、赤外線領域、可視光領域、及び紫外線領域が挙げられ、可視光領域及び紫外線領域が好ましい。レーザー光LBの波長を、可視光領域又は紫外線領域とすることで、レーザー光LBのエネルギーを、生地を構成する繊維に吸収され易くすることができる。それにより、レーザー光LBで、生地の繊維に、より安定的に加工を施すことができる。本実施形態では、レーザー光LBの波長は、可視光領域の515nm(グリーン)である。
【0026】
レーザー光LBのその他の条件は、生地の加工内容に対応して適宜選択することが可能である。本実施形態では、各条件は以下のとおりである。
平均パワー(Pav):0.1~5W
繰り返し周波数(f):1~60kHz
スポット径(d):1~50μm
1shotパルスエネルギー(E):0.01~50μJ/shot
ピーク出力(Pp):0.1~200MW
フルエンス(F):0.1~50J/cm
強度(I):1.0×1011~5×1015W/cm
【0027】
光学系2は、レーザー本体1から照射されたレーザー光LBを、焦点深度調整部3へ導く光路を形成している。光学系2としては、特に制限はなく、例えば、ミラー、ハーフミラー、ビームスプリッタ、回析格子、エキスパンダ、コリメータ、など公知の機器又はそれらの組み合わせが挙げられる(図では一個のミラーの例を示す)。また、レーザー光LBのパルスの間隔をソフト的、電子回路的、または、機械的に広げる装置(パルスピッキング装置)を含んでいてもよい。
【0028】
焦点深度調整部3は、レーザー1の焦点深度を調整する。レーザー1の焦点深度を調整する手段としては特に制限はない。ここで、理論焦点深度Zは、下記の式で算出される。
Z={2π・(d/2)}/(M・λ) …(A)
d=4M・λ・f/π・D・(exp) …(B)
ただし、各パラメータの意味は以下のとおりである。
d:レーザー光LBのスポット径
:ビーム品質
λ:レーザー光LBの波長
f:対物レンズ4の焦点距離
D:集光前のレーザー光LBの径
exp:1
本実施形態では、レーザー光LBの波長λを一定として、焦点深度調整部3において、生地Pの表面の凹凸に基づいて、対物レンズ(集光レンズ)4の交換により、レーザー1の焦点深度を深く、又は浅く変更する。
【0029】
加工テーブル5は、加工対象の生地Pが載置され、固定されるテーブルであり、例えば、公知のX-Yテーブルが挙げられる。加工テーブル5は、生地Pの加工時に、レーザー光LBが生地Pにおける所望の位置を照射するように、移動される。ただし、生地Pの加工時に、レーザー光LBが生地Pにおける所望の位置を照射するようにするためには、レーザースキャンシステムを含む光学系2により、レーザー光LBの照射方向を移動(掃引)させてもよい。
【0030】
制御装置6は、少なくともレーザー本体1、光学系(の機器)2、焦点深度調整部3、及び加工テーブル5と有線及び/又は無線(図示されず)で接続されている。制御装置6は、レーザー本体1、光学系2、焦点深度調整部3、及び加工テーブル5の動作を制御して、レーザー光線を用いた生地の表面加工を実行する。制御装置6はコンピュータやタブレット端末やスマートフォンに例示される情報処理装置である。制御装置6は、制御装置6にインストールされたコンピュータプログラムを実行して、制御装置6に複数の機能をそれぞれ実現させる。その複数の機能は、レーザー本体1、光学系2、焦点深度調整部3、及び加工テーブル5などを制御する機能を含んでいる。なお、焦点深度調整部3が制御装置6に接続されず、別の手段(例示:手動)で対物レンズ4の交換が行われてもよい。
【0031】
図2は、表面加工方法におけるレーザー光LBの照射パターンを示す模式図である。図2(a)、図2(b)の上側には、照射方向に対して垂直な、レーザー光LBの照射パターンを示し、下側には、レーザー光LBのエネルギー分布(縦軸:エネルギーI、横軸:時間t)を示している。図2(c)は、実際に生地Pの加工に使用される照射パターンの一例を示している。
【0032】
スポット径dのレーザー光LBを生地Pに照射する場合、一発のレーザー光LBにより生地P上には円形の照射パターンが形成される。その時のレーザー光LBのエネルギー分布は、レーザー光LBで形成される円の中心が最もエネルギーが高く、円の縁に向って減少する曲線状になる。したがって、レーザー光LBの照射パターンを互いに重ならないようにすると(図2(a))、隣り合う照射パターン同士が接する領域では、レーザー光LBのエネルギーが極めて少なくなり、生地Pの加工が十分でない領域が生じ得る。そこで、レーザー光LBを生地Pに照射する場合、レーザー光LBの照射パターンを互いに重なるようにしている(図2(b))。その重なりの度合い、すなわち、スポット径dに対する隣り合う円の直径の重なる長さτの比をオーバーラップ率とする。したがって、オーバーラップ率=τ/d(%)である。図2(a)の例では、隣り合う円の直径が重ならないので、オーバーラップ率は0%である。図2(b)の例では、隣り合う円の直径が50%重なるので、オーバーラップ率は50%である。
【0033】
実際に生地Pの加工に使用される照射パターンでは、レーザー光LBが生地Pの面内方向、すなわちxy方向に照射される。したがって、x方向のオーバーラップ率及びy方向のオーバーラップ率が存在する。図2(c)の例では、x方向では、隣り合う円の直径の重なる長さをτとすると、オーバーラップ率τ/d(%)は40%である。一方、y方向では、隣り合う円の直径の重なる長さをτとすると、オーバーラップ率τ/d(%)は50%である。各オーバーラップ率は、生地の加工内容に対応して適宜変更可能である。
【0034】
次に、実施形態に係る生地の表面加工方法について説明する。本表面加工方法は、生地における表面の凹凸の大きさが、短パルスレーザーの焦点深度の範囲内となるように、焦点深度を調整する調整工程を備えている。そして、焦点深度の調整後に、生地の表面を、短パルスレーザーを用いて三次元領域を表面加工することで、生地の表面に所望の加工を行うことができる。
【0035】
焦点深度の調整は、レーザー光LBの波長λ、対物レンズ4の焦点距離f、及び集光前のレーザー光LBの径Dの少なくとも一つを調整することにより、行うことができる。本実施形態では、図1の加工装置における焦点深度調整部3において、焦点距離fの異なる複数の対物レンズ(集光レンズ)から、生地Pの凹凸の大きさに基づいて、適切な焦点距離fを有する対物レンズ4が選択され、装着される。それにより、レーザー1の焦点深度を、レーザー光LBで生地Pの表面を加工可能となる焦点深度にすることができる。
【0036】
図3は、表面加工方法における焦点深度と生地との関係を示す模式図であり、図4は従来の表面加工方法における焦点深度と生地との関係を示す模式図である。
【0037】
図4に示すように、生地Pの表面S1(生地Pにおける外側に露出した面)における厚さ方向の凹凸の大きさはD0程度である。つまり、繊維(繊維束の場合を含む)Q自体の表面が概ね平坦であっても、繊維Qが織物や編物などに形成された生地Pの表面S1は繊維の必ずしも平坦とはいえない。そのため、従来の表面加工方法では、レーザーの焦点深度(スポット径dの範囲)D2が、生地Pの表面S1における厚さ方向の凹凸の大きさD0よりも小さい。それゆえ、従来の表面加工方法では、生地Pをその面内方向や厚さ方向、すなわち三次元領域で均一に加工することが困難になる。
【0038】
そこで、図3に示すように、本実施形態での生地Pの表面加工方法では、調整工程において、レーザー1の焦点深度(スポット径dの範囲)D1の範囲内に、生地Pの表面S1における厚さ方向の凹凸の大きさD0が入るように、焦点深度を調整している。具体的には、例えば、生地にPおける表面S1の凹凸の大きさD0が大きい場合には、その表面S1の凹凸の大きさD0が含まれるように、焦点深度D1の範囲を拡げる調整を行う。すなわち、焦点深度D1を、生地Pの表面S1の凹凸に近い寸法領域に設定するのではなく、生地Pにおける加工すべき厚さ方向の深さ(生地Pの表面S1の凹凸よりも深い)と同等かそれよりも広い寸法領域に設定する。すなわち、生地Pの表面S1の凹凸を焦点深度内に収めるようにする。それにより、調整工程の後において、レーザー1のレーザー光LBで、生地Pにおける加工すべき厚さ方向の深さまで、繊維Qの表面を加工することができる。したがって、生地Pの表面S1が平坦とはいえない状態でも、焦点深度内に位置している生地Pを適切に表面加工することができる。
【0039】
このとき、例えば、レーザー光LB、レーザー光LBが生地Pの表面S1で散乱又は乱反射した光とレーザー光LBとの干渉(表面波干渉)、又は、多光束のレーザー光LBの干渉(多光束干渉)などにより、繊維Qの表面に微細な構造を付与することができる。その微細な構造の特徴により、繊維Qだけでなく、繊維Qで構成された生地Pにおいても、撥水性や親水性や防汚性をはじめとした、各種機能を発現することができる。
【0040】
本実施形態における生地の表面加工方法では、生地Pの表面S1に形成される凹構造、凸構造又は凹凸構造は、マイクロメートル領域以下の微細構造である。ここで、マイクロメートル領域とは、一辺が10μmの正方形の領域である。したがって、微細構造における一つ一つの凸部又は凹部は、一辺が10μmの正方形の領域に収まる大きさを有している。このような、微細構造により、繊維だけでなく、繊維で構成された生地においても、撥水性や親水性や防汚性をはじめとした、各種機能をより発現することができる。
【0041】
次に、表面波干渉について説明する。図5は、表面加工方法における表面波干渉加工の原理を示す模式図である。ただし、左側の図はレーザー1による生地Pの加工工程を示し、右側の図は加工工程後の生地Pの状態を示している。左側の図のグラフは、レーザー1が照射するレーザー光LBに関する強度Iと時間tとの関係を示している。
【0042】
左側の図に示すように、レーザー1は、直線状の矢印で示す方向(y方向)に所定の移動速度で移動しつつ、表面波干渉を起こさせるのに必要な所定の閾値I以上の強度を有するレーザー光LBを生地Pに所定の間隔で照射する。具体的には、レーザー1は、手前側から奥側までの所定範囲をy方向に移動しつつ、所定のy方向オーバーラップ率となるようにレーザー光LBを照射する(照射工程)。次いで、レーザー1は、所定のx方向オーバーラップ率となるようにx方向に所定距離だけ移動する(移動工程)。そして、これら照射工程及び移動工程を、生地Pにおける加工すべき領域をすべて加工するまで繰り返す。それにより、例えば、図2(c)に示すような照射パターンで、生地Pにおける加工すべき領域が加工される。
【0043】
レーザー1は、照射工程において、更に、y方向に移動しつつ、レーザー光LBを楕円軌道で螺旋状に掃引する。ただし、楕円の幅は、x方向にはスポット径程度の大きさとし、y方向にはスポット径より小さい大きさとする。このとき、レーザー光LBが生地Pの表面S1で散乱した散乱光と、レーザー光LBと、が干渉し合うことで、すなわち、表面波干渉が生じることで、干渉縞が形成される。そして、レーザー光LBを楕円軌道で掃引することで、隣り合うパルス状のレーザー光LBによる、隣り合う干渉縞を互いに同期させることができる。それにより、干渉縞を表面S1に一様に生じさせることができ、生地Pの表面S1に周期的な微細構造を形成することができる。
【0044】
図示されるように、生地Pの表面S1には周期的な微細構造として、以下の構造が形成され得る。すなわち、周期的に形成された凹部分及び凸部分を有する凹凸部分W1と、凹凸部分W1の周期よりも小さい周期で、凸部分の表面に周期的に形成された、小凹部分及び小凸部分を有する小凹凸部分W2と、を備えた微細構造である。
【0045】
次に、多光束干渉について説明する。図6は、表面加工方法における2光束干渉の原理を示す模式図である。図6に示すように、レーザー本体1aのレーザー光LBは、ハーフミラー11及びミラー12a、12bを備える光学系10に入射し、ハーフミラー11でレーザー光LBa、LBbに分割される。分割されたレーザー光LBa、LBbは、それぞれミラー12a、12bで反射され、生地Pの表面S1で互いに重なり合って干渉し、干渉縞が生じる。その干渉縞により、生地Pの表面S1に周期的な微細構造を形成することができる。なお、この場合、図示しないが、焦点深度調整部3は、例えば、レーザー光LBaについてはミラー12aの後に、レーザー光LBbについてはミラー12bの後にそれぞれ配置される。なお、多光束干渉、例えば、4光束干渉の場合には、上記のレーザー光LBa、LBbをそれぞれ更にハーフミラーで2分割し、4分割されたレーザー光を生地上で重ね合わせることで実現可能である。
【0046】
図7は、表面加工方法における多光束干渉加工に用いる加工装置の構成例を示すブロック図である。レーザー本体1aから出力されたレーザー光LBは、ガリレオ式エキスパンダ21、偏光ビームスプリッタ22、空間光位相変調器23、コリメータ24、及びケプラー式エキスパンダ25を備える光学系20を通り、マスク26及び焦点深度調整部3(対物レンズ4)を介して、生地Pに照射される。なお、この加工装置を2光束干渉による表面加工方法に用いる場合、図6の光学系10は、ケプラー式エキスパンダ25と焦点深度調整部3(対物レンズ4)との間に配置される。
【0047】
この場合にも、生地Pの表面S1には周期的な微細構造として、周期的に形成された凹部分及び凸部分を有する凹凸部分と、凹凸部の周期よりも小さい周期で、凸部分の表面に周期的に形成された、小凹部分及び小凸部分を有する小凹凸部分と、を備えた微細構造を形成し得る。
【0048】
本実施形態における表面加工方法では、加工の少なくとも一部は、短パルスレーザーから出力されたレーザー光LBの干渉を用いる干渉法で行われる。干渉法は、上記のような表面波干渉法又は多光束干渉法である。それにより、干渉法で加工された領域では、レーザー光LBの範囲における生地Pの表面S1を周期的な微細構造に加工することができ、繊維Qだけでなく、繊維Qで構成された生地Pにおいても、各種機能をより発現することができる。
【0049】
ここで、本実施形態における表面加工方法では、生地Pの表面S1に形成される周期的な微細構造が、周期的に形成された凸部分と、凸部分の周期よりも小さい周期で、凸部分の表面に形成された小凸部分及び小凹部分と、を含んでいる。すなわち、周期的な微細構造が、二つの周期構造を有する。その微細構造の特徴により、繊維だけでなく、繊維で構成された生地においても、各種機能、特に、撥水性を発現することができる。
【0050】
また、本実施形態の表面加工方法では、レーザー1のレーザー光LBのパルスの間隔は、ソフト的または電子回路的に広げることができる。レーザー光のパルスの間隔を広げることで、加工中にレーザー光LBにより生地P(繊維Q)に蓄熱した熱を放熱するための時間を設けることができる。それにより、生地P(繊維Q)の溶融を抑制しつつ、生地Pの表面S1をより適切に加工することが出来る。言い換えると、熱を蓄熱し易い生地P(繊維Q)に対しても、生地P(繊維Q)の溶融を抑制しつつ、生地Pの表面S1をより適切に加工するこができる。
【0051】
上述された生地の表面加工方法では、衣服のような製品中に含まれる第1生地を、上記の調整工程の生地として準備してもよい。そして、その第1生地の表面に上記された表面加工を行ってもよい。すなわち、この生地の表面加工方法は、製品を製造した後の後加工としても適用できる。それにより、製品における任意の生地の表面に、後加工で、表面加工を施すことで、微細構造のような所望の構造を付与できる。したがって、製品に必要な各種機能を、製品の必要な部位に付与できる。
【0052】
図8は、表面加工方法における布の連続加工方法を示す模式図である。この図では、上記の図5のような表面加工方法を連続的な生地Pにおいて実施する方法を示している。この図の例では、加工テーブル5の替わりに、ロール31及びロール32を備える加工装置30を用いている。この場合、レーザー光LBは、レーザースキャンシステムを含む光学系2により、レーザー光LBの照射方向が生地P上で掃引される。生地Pはロール31及びロール32の間に架け渡されており、ロール31から連続的に送り出され、レーザー光LBにより加工される。それにより、生地Pの表面S1に、周期的な微細構造Wが形成される。
【実施例
【0053】
(1)1光束のパルス加工
図9は、1光束のパルス加工における生地の表面状態の観察結果(光学顕微鏡写真)を示す表である。この図は、図1及び図5に記載の加工装置を用いて表面加工を施された各生地の表面状態とフルエンスとの関係を示している。ただし、表面加工を試みた領域は二点鎖線で示されている。
【0054】
ただし、生地の特性は以下のとおりである。
生地の種類/材質/表面の凹凸:
白生地(TN)/ナイロン66/約30μm
赤生地(KA)/ナイロン66/約40μm
黒生地(N456-P)/ナイロン6/約30μm
ただし、表面の凹凸はSEM観察により最大の凹凸を測定した。
【0055】
一方、レーザー1による加工条件は、以下のとおりである。
波長:515nm
平均パワー:0.316W
パルス幅:234fs
繰り返し周波数:1.25~12.5kHz
スポット径:8μm
1shotパルスエネルギー:0.07~5.27μJ/shot
ピーク出力:0.3~22.5MW
フルエンス:0.1~10J/cm
強度:6.0×1011~4.5×1013W/cm
オーバーラップ率:50%
レンズ仕様:焦点距離:f40
焦点深度:±96.5μm
【0056】
図に示されるように、上記の条件では、生地の種類によらず、表面加工を試みた領域において、表面の凹凸にも拘わらず生地が表面加工されていることが確認された。また、フルエンスが上がるほど、生地の表面加工が進んでおり、表面状態が変化することが分かった。なお、焦点距離f20(焦点深度±5μm)のレンズを用いる場合、焦点深度が狭すぎて、焦点深度以外に位置する繊維表面の加工が困難になる。
【0057】
図10は、1光束のパルス加工における黒生地の表面状態のSEM観察結果(SEM写真)を示す表である。この図は、図9の黒生地について、拡大観察された表面状態とフルエンスとの関係を示している。
【0058】
図に示されるように、黒生地には、表面加工により、周期的な凹部分と凸部分とを備える微細構造が形成されることが確認された。また、フルエンスを上げることで、表面波干渉が発生し、黒生地の繊維の表面に、より細かな凹凸の微細構造が形成できることが確認された。また、図示しないが、白生地及び赤生地においても、黒生地と同様に、表面加工により、周期的な凹部分と凸部分とを備える微細構造が形成され、フルエンスを上げることで、白生地及び赤生地の繊維の表面に、より細かな凹凸の微細構造が形成出来ることが確認された。
【0059】
図11は、1光束のパルス加工における黒生地のみかけの接触角と表面状態との関係を示す表である。この図は、図10の黒生地について、みかけの接触角と表面状態との関係を示している。ただし、黒生地のフルエンス0.5J/cmの表面状態は、フルエンス0.2J/cmの表面状態と概ね同じである。
【0060】
図に示されるように、フルエンスが0.5J/cmで表面加工された黒生地では、未処理の黒生地と比較してみかけの接触角が大きくなっており(117°→125.2°)、したがって、撥水性が高まることが分かった(0.2J/cmでも同様)。一方、フルエンスが1J/cmで表面加工された黒生地では、未処理の黒生地と比較してみかけの接触角が小さくなっており(117°→106.2°)、したがって、親水性が高まることが分かった。
【0061】
これらのようになる理由は、フルエンスが0.5J/cmで表面加工された黒生地では、周期的な微細構造(凹凸構造)が作られたため、撥水性が向上したと考えられる。一方、フルエンスが1.0J/cmで表面加工された黒生地では、撥水性の向上に効果的な構造が形成されず、多数の溝や隙間ができ、水との接触面積が増えたため、親水性が高まったと考えられる。
【0062】
ただし、みかけの接触角は、以下の条件で測定した。
接触角計:全自動接触角計DM-701(協和界面科学株式会社製)
計測溶媒:蒸留水
液量:2μL
使用ゲージ:28G、フッ素樹脂
解析法:接滴法
計測環境:23℃、30%RH
具体的には、接触角計において、測定対象の生地の上に蒸留水を2μL載置してみかけの接触角を測定した。測定点は生地上の5箇所とし、各測定点においてそれぞれ左右の接触角を計測し、合計10個の測定結果を得て、その平均値を接触角とした。
【0063】
(2)多光束のパルス加工
図12は、多光束干渉加工における生地の表面状態の観察結果(光学顕微鏡写真)を示す表である。この図は、図7及び図8に記載の加工装置を用いて2光束干渉加工及び4光束干渉加工を施された生地の表面状態をそれぞれ示している。図13は、多光束干渉加工に用いた生地の表面加工前(未加工)の表面状態を示す図であり、光学顕微鏡写真を示している。
【0064】
ただし、生地の特性は以下のとおりである。
生地の種類/材質/表面の凹凸:
精錬布(N222)/ナイロン/約50μm
ただし、表面の凹凸はSEM観察により最大の凹凸を測定した。
【0065】
一方、レーザー1による加工条件は、以下のとおりである。
波長:515nm
平均パワー:1.68W(2光束)、1.75W(4光束)
パルス幅:299fs
繰り返し周波数:10kHz×1/50(パルスピッキング)=200Hz
スポット径:約140μm
1shotパルスエネルギー:29~31μJ/shot
ピーク出力:97~104MW
フルエンス:0.19~0.20J/cm
強度:6.3×1011~6.7×1011W/cm
レンズ仕様:焦点距離:f20
焦点深度:±25μm
【0066】
図に示されるように、上記の条件では、2光束及び4光束のいずれにおいても、表面加工を試みた領域において、表面の凹凸にも拘わらず生地が表面加工されていることが確認された。また、光束の数により、生地の表面に形成される周期的な微細構造における周期が変化することが分かった。具体的には、生地の表面状態は、表面加工前では滑らかだが(図13)、2光束干渉加工後では、斜線のような黒線状の溝が干渉により形成され、4光束干渉加工後では、格子状に並ぶドットのような黒点状の凹部が干渉により形成されたことが分かった(図12)。なお、図示しないが、焦点深度が上記の条件よりも小さい場合、表面加工ができなかった。具体的には、対物レンズ4のレンズ仕様が焦点距離f10、焦点深度±11μmでは表面加工ができなかった。
【0067】
また、図示しないが、レーザー光LBのパルスを間引かずに生地の表面加工を行った場合、表面加工中に生地に熱が蓄積して、生地の表面が一部溶融してしまった。そこで、この実施例では、レーザー光LBのパルスを間引いて表面加工を行うことで、図に示されるように生地の表面が溶融することを回避できた。
【0068】
図14は、多光束干渉加工における接触角の経時的変化を示す表である。この図は、図12及び図13の未加工の生地並びに2光束干渉加工及び4光束干渉加工を施された生地について、みかけの接触角が時間と共にどのように変化するかを示している。ただし、接触角は、蒸留水を測定対象の生地の上に2μL載置し、着滴後1秒後に計測を開始し、21秒後まで観察した。
【0069】
図に示されるように、多光束干渉加工により、未加工の生地と比較して接触角が著しく小さくなっており(114°→46°、52°:1秒後)、したがって、生地の親水性が著しく高まることが分かった。その理由は、多光束干渉加工により、生地の表面に、多数の溝や隙間ができ、水との接触面積が増えたため、親水性が高まったと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
Q 繊維束
P 生地
S1 表面
D0 表面の凹凸の大きさ
D1 焦点深度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14