(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】窒化物半導体層の不純物濃度を測定する測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20241218BHJP
G01N 21/63 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01L21/66 N
G01N21/63 Z
(21)【出願番号】P 2021024635
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 峰司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健太
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅登
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-168711(JP,A)
【文献】特開2015-191925(JP,A)
【文献】特開2018-125524(JP,A)
【文献】特開2020-098908(JP,A)
【文献】特開2015-222801(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 21/63
H01L 21/205
G01N 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層(100)の不純物濃度を測定する測定方法であって、
前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光と不純物束縛励起子発光から前記自由励起子発光の強度に対する前記不純物束縛励起子発光の強度の強度比(不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度)を算出する強度比算出工程と、
前記強度比に基づいて前記窒化物半導体層の不純物濃度を特定する濃度特定工程と、を備
え、
前記窒化物半導体層の不純物濃度は、マグネシウムに起因するアクセプタ濃度である、測定方法。
【請求項2】
不純物濃度が異なる複数の標準試料の各々の前記強度比を算出し、前記強度比と前記不純物濃度の関係を示す検量線を作成する検量線作成工程、をさらに備えており、
前記濃度特定工程では、前記検量線に基づいて前記窒化物半導体層の前記不純物濃度を特定する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記強度比算出工程では、前記窒化物半導体層の温度を変更して前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる前記自由励起子発光及び前記不純物束縛励起子発光が観測可能な測定温度を決定するとともに、その決定された前記測定温度で前記強度比を算出し、
前記検量線作成工程では、決定された前記測定温度で前記複数の標準試料の各々の前記強度比を算出する、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
窒化物半導体層(100)の不純物濃度を測定する測定装置(1)であって、
前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光と不純物束縛励起子発光から前記自由励起子発光の強度に対する前記不純物束縛励起子発光の強度の強度比(不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度)を算出する強度比算出部(44)と、
前記強度比に基づいて前記窒化物半導体層の不純物濃度を特定する濃度特定部(46)と、を備
え、
前記窒化物半導体層の不純物濃度は、マグネシウムに起因するアクセプタ濃度である、測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、窒化物半導体層の不純物濃度を測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、ホール効果を利用して窒化物半導体層の不純物濃度を測定する技術を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Masahiro Horita et al., “Hall-effect measurements of metalorganic vaporphase epitaxy-grown p-type homoepitaxial GaN layers with various Mg concentrations”, Japanese Journal of Applied Physics. 56, 031001(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術を利用するためには、窒化物半導体層に対してオーミック接触する電極を形成しなければならない。例えば、p型の窒化ガリウム(GaN)のような窒化物半導体層については、良好なオーミック特性を有する電極の形成が困難であることが知られている。本明細書は、非接触及び非破壊で窒化物半導体層の不純物濃度を測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、窒化物半導体層(100)の不純物濃度を測定する測定方法を開示する。この測定方法は、前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光と不純物束縛励起子発光から前記自由励起子発光の強度に対する前記不純物束縛励起子発光の強度の強度比(不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度)を算出する強度比算出工程と、前記強度比に基づいて前記窒化物半導体層の不純物濃度を特定する濃度特定工程と、を備えることができる。
【0006】
不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度の強度比は、窒化物半導体層の不純物濃度に依存した関係を有する。上記測定方法は、窒化物半導体層のフォトルミネッセンスから不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度の強度比を算出し、その強度比に基づいて窒化物半導体層の不純物濃度を特定することができる。このように、上記測定方法は、非接触及び非破壊で窒化物半導体層の不純物濃度を測定することができる。
【0007】
本明細書は、窒化物半導体層(100)の不純物濃度を測定する測定装置(1)を開示する。この測定装置は、前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光と不純物束縛励起子発光から前記自由励起子発光の強度に対する前記不純物束縛励起子発光の強度の強度比(不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度)を算出する強度比算出部(44)と、前記強度比に基づいて前記窒化物半導体層の不純物濃度を特定する濃度特定部(46)と、を備えることができる。
【0008】
不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度の強度比は、窒化物半導体層の不純物濃度に依存した関係を有する。上記測定装置は、窒化物半導体層のフォトルミネッセンスから不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度の強度比を算出し、その強度比に基づいて窒化物半導体層の不純物濃度を特定することができる。このように、上記測定装置は、非接触及び非破壊で窒化物半導体層の不純物濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】窒化物半導体層の不純物濃度を測定する測定装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】(A)絶対温度5Kで測定された窒化物半導体層のフォトルミネッセンス・スペクトルであり、5つの異なるアクセプタ濃度におけるフォトルミネッセンス・スペクトルが合わせて示された図である。(B)絶対温度40Kで測定された窒化物半導体層のフォトルミネッセンス・スペクトルであり、5つの異なるアクセプタ濃度におけるフォトルミネッセンス・スペクトルが合わせて示された図である。
【
図3】5つの標準試料の各々の強度比(ABE/FE)とアクセプタ濃度の関係をプロットして作成された検量線を示す図である。
【
図4】測定装置が実行するアクセプタ濃度測定処理方法のフローチャートの一例である。
【
図5】測定装置が実行するアクセプタ濃度測定処理方法のフローチャートの変形例の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、窒化物半導体層の不純物濃度を測定する測定方法及び測定装置について説明する。以下で説明する不純物濃度の測定は、窒化物半導体装置を製造するための1つの工程であり、窒化物半導体装置を製造する前、又は、製造途中で実施される。ここで、窒化物半導体層とは、V族元素として窒素を含むIII-V族半導体を材料とする半導体層を広く意味する。一例ではあるが、窒化物半導体層は、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)又は窒化インジウムガリウム(InGaN)を材料として構成されていてもよい。本明細書でいう不純物は、アクセプタ又はドナーとなる不純物であり、窒化物半導体層の導電型を決定する不純物である。また、本明細書でいう不純物濃度は、アクセプタ濃度又はドナー濃度であり、「不純物濃度」というときは双方を含む意味で用いられている。本明細書が開示する技術は、例えばMg、Be、Zn、C、Ca等の原子に起因したアクセプタ濃度を測定する場合に適用可能であり、例えばSi、Ge、O、Sn等の原子に起因したドナー濃度を測定する場合に適用可能である。以下では、窒化物半導体層が窒化ガリウム(GaN)であり、その窒化物半導体層に含まれるマグネシウム(Mg)に起因したアクセプタ濃度を測定する例について説明する。
【0011】
図1に、窒化物半導体層100の不純物濃度を測定する測定装置1の構成を概略して示す。測定装置1は、照射部10と、分光器20と、光検出器30と、処理部40と、を備えている。
【0012】
照射部10は、窒化物半導体層100に励起光を照射するように構成されており、少なくともレーザ光源と集束レンズを有している。レーザ光源から出射される励起光が集束レンズを介して窒化物半導体層100に照射される。レーザ光源が出射する励起光は、窒化物半導体層100のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有していればよい。
【0013】
分光器20は、窒化物半導体層100から発光されるフォトルミネッセンスを所定の波長幅ごとに分光するように構成されている。後述するように、測定装置1は、窒化物半導体層100のマグネシウムに起因したアクセプタ濃度を測定するために、フォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光とアクセプタ束縛励起子発光を利用する。このため、分光器20は、少なくとも自由励起子発光とアクセプタ束縛励起子発光を分光可能に構成されていればよい。なお、自由励起子発光と不純物束縛励起子発光(アクセプタ励起光とドナー励起光の双方を含む意味である)のそれぞれの光エネルギーは、測定対象試料の窒化物半導体の種類及び不純物の種類に依存する。したがって、分光器20は、測定対象試料の窒化物半導体の種類及び不純物の種類の種類に基づいて、所定の自由励起子発光と不純物束縛励起子発光を分光可能に構成されていればよい。
【0014】
光検出器30は、分光器20で分光された光をその強度に対応した大きさの電気信号に変換し、処理部40に出力するように構成されている。光検出器30は、一例ではあるが、光電子倍増管、CCD検出器等で構成されていてもよい。
【0015】
処理部40は、PL測定部42と、強度比算出部44と、濃度特定部46と、を有している。これらPL測定部42と強度比算出部44と濃度特定部46は、物理的にはCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等で構成されている。処理部40は、例えばROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより、PL測定部42と強度比算出部44と濃度特定部46が担う機能を用いたアクセプタ濃度測定処理を実行するように構成されている。
【0016】
PL測定部42は、光検出器30から出力される電気信号を受信し、その電気信号の大きさから光の強度を算出するように構成されている。これにより、PL測定部42は、窒化物半導体層100から発光したフォトルミネッセンスのスペクトルを取得することができる。
【0017】
強度比算出部44は、PL測定部42が取得したフォトルミネッセンス・スペクトルに含まれる自由励起子発光の強度とアクセプタ束縛励起子発光の強度を測定するように構成されている。ここで、
図2に、窒化物半導体層100のフォトルミネッセンス・スペクトルを示す。(A)は測定温度が絶対温度5Kのときのフォトルミネッセンス・スペクトルを示しており、(B)は測定温度が絶対温度40Kのときのフォトルミネッセンス・スペクトルを示している。なお、(A)及び(B)のそれぞれにおいて、マグネシウムに起因したアクセプタ濃度が1.2×10
17cm
-3、2.1×10
17cm
-3、3.0×10
17cm
-3、5.7×10
17cm
-3、1.2×10
18cm
-3のときのフォトルミネッセンス・スペクトルが合わせて表示されている。「ABE(Acceptor Bound Exciton)」はアクセプタ束縛励起子に起因して発光した光の強度を示しており、「DBE(Donor Bound Exciton)」はドナー束縛励起子に起因して発光した光の強度を示しており、「FE(Free Exciton)」は自由励起子に起因して発光した光の強度を示している。なお、アクセプタ束縛励起子には中性アクセプタ束縛励起子(neutral Acceptor Bound Exciton)という種類が含まれており、ドナー束縛励起子には中性ドナー束縛励起子(neutral Donor Bound Exciton)という種類が含まれる。強度比算出部44は、アクセプタ束縛励起子(ABE)のピーク値である強度と自由励起子発光(FE)のピーク値である強度を測定する。
【0018】
図2に示されるように、自由励起子発光(FE)の強度は、アクセプタ濃度が大きいほど低下する傾向にある。さらに、自由励起子発光(FE)の強度は、測定温度にも強く依存することが分かる。例えば、測定温度が絶対温度5Kの場合、アクセプタ濃度が1.2×10
18cm
-3の自由励起子発光(FE)の強度は、ほとんど観測することができない。このため、自由励起子発光(FE)の強度を観測するためには、窒化物半導体層100のアクセプタ濃度に応じて測定温度を調整するのが望ましい。
【0019】
強度比算出部44は、自由励起子発光(FE)とアクセプタ束縛励起子発光(ABE)の強度が観測可能な強度を有しているか否かを判定するように構成されている。この例では、アクセプタ束縛励起子発光(ABE)の強度よりも自由励起子発光(FE)の強度が小さい。このため、強度比算出部44は、少なくとも自由励起子発光(FE)の強度が観測可能な強度を有しているか否かを判定することにより、アクセプタ束縛励起子発光(ABE)の強度が観測可能な強度を有しているか否かを判定することができる。強度比算出部44は、自由励起子発光(FE)の強度が観測可能なときに、自由励起子発光(FE)の強度に対するアクセプタ束縛励起子発光(ABE)の強度の強度比(ABE/FE)を算出し、濃度特定部46に出力する。ここで、自由励起子発光(FE)の強度が観測可能か否かは、一例ではあるが、自由励起子発光(FE)の強度が所定の閾値を超えているか否かによって判定してもよい。
【0020】
強度比算出部44は、自由励起子発光(FE)の強度が観測可能でないときに、強度比(ABE/FE)を算出しない。この場合、測定装置1は、測定温度を増加させ、新たに窒化物半導体層100のフォトルミネッセンス・スペクトルを取得するように動作する。測定装置1は、自由励起子発光(FE)の強度が観測可能になるまで、測定温度の増加とフォトルミネッセンス・スペクトルの取得を繰り返す。このようにして、測定装置1は、自由励起子発光(FE)の強度が観測可能な測定温度を決定する。強度比算出部44は、決定された測定温度における強度比(ABE/FE)を算出し、濃度特定部46に出力する。
【0021】
強度比(ABE/FE)は、マグネシウムに起因するアクセプタ濃度(N
A)に依存した関係を有する。
図3に、アクセプタ濃度が異なる5つの標準試料51、52、53、54、55のそれぞれの強度比(ABE/FE)とアクセプタ濃度の関係を示す。なお、5つの標準試料51、52、53、54、55のアクセプタ濃度は、ホール効果測定、CV測定又はSIMS測定によって確認された値である。
図3に示されるように、強度比(ABE/FE)とアクセプタ濃度(N
A)の間には、濃度領域に応じて特定の関係が存在する。測定装置1は、このようなアクセプタ濃度が異なる複数の標準試料51、52、53、54、55を用いて検量線を作成する。なお、検量線は、アクセプタ濃度を目的変数とし、強度比(ABE/FE)を従属変数とする関数を求めることで作成されてもよい。
【0022】
濃度特定部46は、強度比算出部44で算出された窒化物半導体層100の強度比(ABE/FE)に基づいて、窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を特定するように構成されている。具体的には、濃度特定部46は、窒化物半導体層100の算出された強度比(ABE/FE)が検量線に交わる交点からアクセプタ濃度を特定することができる。
【0023】
図4に、測定装置1が実行するアクセプタ濃度測定処理のフローチャートの一例を示す。まず、測定装置1は、検量線を作成するためのステップS1~S4を実行する。測定装置1は、アクセプタ濃度が異なる複数の標準試料の各々に対してフォトルミネッセンスを測定する(ステップS1)。具体的には、測定装置1は、照射部10から励起光を出射させ、その励起光を標準試料に照射する。測定装置1はさらに、標準試料から発光したフォトルミネッセンスをPL測定部42で測定し、フォトルミネッセンス・スペクトルを取得する。
【0024】
次に、測定装置1は、複数の標準試料の各々においてアクセプタ束縛励起子発光の強度と自由励起子発光の強度を強度比算出部44に測定させる(ステップS2)。次に、測定装置1は、複数の標準試料の各々において自由励起子発光の強度に対するアクセプタ束縛励起子発光の強度の強度比(ABE/FE)を強度比算出部44に算出させる(ステップS3)。測定装置1は、複数の標準試料の各々から得られた強度比(ABE/FE)のデータとアクセプタ濃度の関係から検量線を作成する(ステップS4)。
【0025】
次に、測定装置1は、測定対象試料である窒化物半導体層100のフォトルミネッセンスを測定する(ステップS5)。フォトルミネッセンスを測定する方法は、標準試料の場合と同様である。次に、測定装置1は、窒化物半導体層100のアクセプタ束縛励起子発光の強度と自由励起子発光の強度を強度比算出部44に測定させる(ステップS6)。次に、測定装置1は、窒化物半導体層100の自由励起子発光の強度に対するアクセプタ束縛励起子発光の強度の強度比(ABE/FE)を強度比算出部44に算出させる(ステップS7)。次に、測定装置1は、窒化物半導体層100の強度比(ABE/FE)が検量線に交わる交点から窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を濃度特定部46に特定させる(ステップS8)。
【0026】
このように、測定装置1は、窒化物半導体層100のフォトルミネッセンスから算出される強度比(ABE/FE)に基づいて、窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を測定することができる。窒化物半導体層100のフォトルミネッセンスは、非接触及び非破壊で取得することができる。したがって、測定装置1は、非接触及び非破壊で窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を測定することができる。
【0027】
図5に、測定装置1が実行するアクセプタ濃度測定処理のフローチャートの変形例の一例を示す。まず、測定装置1は、測定温度を設定する(ステップS11)。次に、測定装置1は、測定対象試料である窒化物半導体層100のフォトルミネッセンスを測定する(ステップS12)。
【0028】
次に、測定装置1は、窒化物半導体層100の自由励起子発光の強度が観測可能な強度であるか否かを強度比算出部44に判定させる。測定装置1は、例えば自由励起子発光の強度が所定の閾値以下のときに、ステップS11に戻り、測定温度を再設定する。この場合、測定装置1は、観測不能と判定された測定温度から所定温度幅だけ増加した測定温度に再設定する。測定装置1は、自由励起子発光の強度が所定の閾値を超えたときに、ステップS14に進み、アクセプタ濃度測定処理を先に進める。上記したように、自由励起子発光が観測可能であれば、アクセプタ励起光も観測可能と判定することができる。このように、測定装置1は、窒化物半導体層100の自由励起子発光及びアクセプタ束縛励起子発光の強度が観測可能な測定温度を決定すると同時に、その測定温度におけるアクセプタ束縛励起子発光の強度と自由励起子発光の強度を取得することができる(ステップS14)。
【0029】
次に、測定装置1は、窒化物半導体層100の自由励起子発光の強度に対するアクセプタ束縛励起子発光の強度の強度比(ABE/FE)を強度比算出部44に算出させる(ステップS15)。
【0030】
次に、測定装置1は、検量線を作成するためのステップS16~S19を実行する。測定装置1は、決定された測定温度において、アクセプタ濃度が異なる複数の標準試料の各々に対してフォトルミネッセンスを測定する(ステップS16)。次に、測定装置1は、複数の標準試料の各々においてアクセプタ束縛励起子発光の強度と自由励起子発光の強度を強度比算出部44に測定させる(ステップS17)。次に、測定装置1は、複数の標準試料の各々において自由励起子発光の強度に対するアクセプタ束縛励起子発光の強度の強度比(ABE/FE)を強度比算出部44に算出させる(ステップS18)。測定装置1は、複数の標準試料の各々から得られた強度比(ABE/FE)のデータとアクセプタ濃度の関係から検量線を作成する(ステップS19)。なお、この例に代えて、様々な温度で測定した温度ごとの検量線を予め作成しておいてもよい。
【0031】
次に、測定装置1は、窒化物半導体層100の算出された強度比(ABE/FE)が検量線に交わる交点から窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を濃度特定部46に特定させる(ステップS20)。
【0032】
窒化物半導体層100の自由励起子発光の強度は、温度依存性が大きい。上記の測定方法によると、測定温度を調整した上で、窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を測定することができる。このため、窒化物半導体層100のアクセプタ濃度を良好に測定することができる。
【0033】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0034】
本明細書は、窒化物半導体層の不純物濃度を測定する測定方法を開示することができる。この測定方法は、前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光と不純物束縛励起子発光から前記自由励起子発光の強度に対する前記不純物束縛励起子発光の強度の強度比(不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度)を算出する強度比算出工程と、前記強度比に基づいて前記窒化物半導体層の不純物濃度を特定する濃度特定工程と、を備えることができる。前記窒化物半導体層の不純物濃度のうちのアクセプタ濃度を測定する場合、前記自由励起子発光の強度に対するアクセプタ束縛励起子発光の強度の強度比が用いられる。前記窒化物半導体層の不純物濃度のうちのドナー濃度を測定する場合、前記自由励起子発光の強度に対するドナー束縛励起子発光の強度の強度比が用いられる。
【0035】
上記測定方法はさらに、不純物濃度が異なる複数の標準試料の各々の前記強度比を算出し、前記強度比と前記不純物濃度の関係を示す検量線を作成する検量線作成工程を備えていてもよい。この場合、前記濃度特定工程では、前記検量線に基づいて前記窒化物半導体層の前記不純物濃度を測定してもよい。
【0036】
上記測定方法の前記強度比算出工程では、前記窒化物半導体層の温度を変更して前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる前記自由励起子発光及び前記不純物束縛励起子発光が観測可能な測定温度を決定するとともに、その決定された前記測定温度で前記強度比を算出してもよい。この場合、上記測定方法の前記検量線作成工程では、決定された前記測定温度で前記複数の標準試料の各々の前記強度比を算出してもよい。
【0037】
上記測定方法では、前記窒化物半導体層の不純物濃度が、マグネシウムに起因するアクセプタ濃度であってもよい。
【0038】
本明細書は、窒化物半導体層の不純物濃度を測定する測定装置を開示することができる。この測定装置は、前記窒化物半導体層のフォトルミネッセンスに含まれる自由励起子発光と不純物束縛励起子発光から前記自由励起子発光の強度に対する前記不純物束縛励起子発光の強度の強度比(不純物束縛励起子発光の強度/自由励起子発光の強度)を算出する強度比算出部と、前記強度比に基づいて前記窒化物半導体層の不純物濃度を特定する濃度特定部と、を備えることができる。
【0039】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
1:測定装置、 10:照射部、 20:分光器、 30:光検出器、 40:処理部、 42:PL測定部、 44:強度比算出部、 46:濃度特定部、 100:窒化物半導体層