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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20241218BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20241218BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G01N33/18 B
G01N1/40
G01N1/10 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023210477
(22)【出願日】2023-12-13
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000245531
【氏名又は名称】野村マイクロ・サイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 洋
(72)【発明者】
【氏名】飯山 真充
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】早下 隆士
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-011525(JP,A)
【文献】特表平09-512906(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064503(WO,A1)
【文献】特開平07-083935(JP,A)
【文献】特開2000-214174(JP,A)
【文献】特開2023-066177(JP,A)
【文献】特開平11-153462(JP,A)
【文献】特開2009-250961(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
G01N 1/40
G01N 1/10
G01N 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置と、
サンプル水に含まれる検出対象と、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と、の反応から前記サンプル水を分析するフローインジェクションシステムと、
前記膜濾過装置により前記検出対象が濃縮された濃縮水が前記サンプル水として前記フローインジェクションシステムに流れる第一配管と、
前記第一配管において前記サンプル水を加圧するサンプル水ポンプと、
を有し、
前記フローインジェクションシステムにおける出口管の配管内径は、前記第一配管の配管内径よりも小さい分析装置。
【請求項2】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置と、
サンプル水に含まれる検出対象と、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と、の反応から前記サンプル水を分析するフローインジェクションシステムと、
前記膜濾過装置により前記検出対象が濃縮された濃縮水が前記サンプル水として前記フローインジェクションシステムに流れる第一配管と、
前記膜濾過装置の透過水の少なくとも一部が前記キャリア水として前記フローインジェクションシステムに流れる第二配管と、
前記第一配管において前記サンプル水を加圧するサンプル水ポンプと、
を有する分析装置。
【請求項3】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置と、
サンプル水に含まれる検出対象と、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と、の反応から前記サンプル水を分析するフローインジェクションシステムと、
前記膜濾過装置により前記検出対象が濃縮された濃縮水が前記サンプル水として前記フローインジェクションシステムに流れる第一配管と、
前記キャリア水が前記フローインジェクションシステムに流れる第二配管と、
前記第一配管において前記サンプル水を加圧するサンプル水ポンプと、
を有し、
前記膜濾過装置は、前記第二配管が接続される接続口を有する分析装置。
【請求項4】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置と、
サンプル水に含まれる検出対象と、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と、の反応から前記サンプル水を分析するフローインジェクションシステムと、
前記膜濾過装置により前記検出対象が濃縮された濃縮水が前記サンプル水として前記フローインジェクションシステムに流れる第一配管と、
前記第一配管において前記サンプル水を加圧するサンプル水ポンプと、
を有し、
前記膜濾過装置の入口側の圧力が、前記サンプル水ポンプの出口部での圧力より小さく、且つ0.05MPa以上である分析装置。
【請求項5】
前記膜濾過装置は、
外部に開放され、前記精密濾過膜、又は前記限外濾過膜を透過した透過水が排出される排出部を備え、
前記排出部から排出される前記透過水の線速度は0.1m/sec以上2.0m/sec以下である、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項6】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置により検出対象が濃縮されたサンプル水を生成し、
前記サンプル水をサンプル水ポンプにより加圧してフローインジェクションシステムに送り、
前記フローインジェクションシステムにおいて、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と前記検出対象との反応から前記サンプル水を分析し、
前記サンプル水ポンプの下流側の水圧は、前記サンプル水ポンプの上流側の水圧よりも高い、分析方法。
【請求項7】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置により検出対象が濃縮されたサンプル水を生成し、
前記サンプル水をサンプル水ポンプにより加圧してフローインジェクションシステムに送り、
前記膜濾過装置において前記精密濾過膜、又は前記限外濾過膜を透過した透過水の少なくとも一部をキャリア水として前記フローインジェクションシステムに送り、
前記フローインジェクションシステムにおいて、前記キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と前記検出対象との反応から前記サンプル水を分析する、
分析方法。
【請求項8】
精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置により検出対象が濃縮されたサンプル水を生成し、
前記サンプル水をサンプル水ポンプにより加圧してフローインジェクションシステムに送り、
前記膜濾過装置の入口側の圧力を、前記サンプル水ポンプの出口部での圧力より小さくし、且つ0.05MPa以上とし、
前記フローインジェクションシステムにおいて、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と前記検出対象との反応から前記サンプル水を分析する、
分析方法。
【請求項9】
前記膜濾過装置において、
前記精密濾過膜、又は前記限外濾過膜を透過した透過水を前記膜濾過装置の排出部から外部に無圧状態で、且つ0.1m/sec以上2.0m/sec以下の線速度で排出する、請求項6~請求項8の何れか一項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、有機相と水相とからなる液液混合物を、多孔性高分子膜製内管とこの内管を包含する外管とからなる二重管の内管内または内管と外管とによって囲まれる領域に導き、有機相のみを多孔性高分子膜製内管壁面に透過させて有機相と水相とを分離し、得られた有機相を検出部に導入して被検元素を分析するフローインジェクション分析(FIA)法が記載されている。
【0003】
一般的に、エンドトキシンは、発熱物質として、精製水、注射用水(WFI)などの製薬用水には、含まれてはならない物質である。したがって、精製水、注射用水(WFI)などを製造する場合には、極力除去することが必要であるとともに、オンラインでのモニタリングが求められている。オンラインでの測定では、低濃度まで定量できるとともに、精度よく、安定して測定できることが求められる。
【0004】
発明者らは、特許文献2等において、蛍光物質を用いたFIA分析法を用いてエンドトキシン等の低濃度分析を行っている。しかし、オンラインでの測定に求められる低濃度までの測定は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-280652号公報
【文献】特開2022-011525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フローインジェクション分析(以下「FIA」と略す)法を用いたオンライン分析装置及び分析方法で、エンドトキシンを含む菌由来物の分析を行う際に、菌由来物の濃度が低い場合においても定量的に分析することは難しい。
【0007】
本開示の目的は、FIA法を用いたオンライン分析装置及び分析方法において、分析の定量性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様の分析装置は、精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置と、サンプル水に含まれる検出対象と、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と、の反応から前記サンプル水を分析するフローインジェクションシステムと、前記膜濾過装置により前記検出対象が濃縮された濃縮水が前記サンプル水として前記フローインジェクションシステムに流れる第一配管と、前記第一配管において前記サンプル水を加圧するポンプと、を有する。
【0009】
この分析装置では、膜濾過装置が、精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えている。膜濾過装置に分析対象水を通すことで、検出対象を濃縮した濃縮水が得られる。濃縮水はサンプル水として、第一配管においてポンプにより加圧されフローインジェクションシステムに流れる。フローインジェクションシステムでは、キャリア水に含まれる試薬との反応からサンプル水を分析する。このように、膜濾過装置によって検出対象が濃縮された濃縮水をサンプル水としてフローインジェクションシステムに送るので、エンドトキシンを含む菌由来物の検出対象に対するサンプル水の分析の定量性を高めることができる。
【0010】
第二態様の分析装置は、第一態様において、前記フローインジェクションシステムにおける出口管の配管内径は、前記第一配管の配管内径よりも小さい。
【0011】
これにより、第一配管において、ポンプの下流側のサンプル水の水圧が、ポンプの上流側の水圧よりも高い状態に維持できる。ポンプから吐出されるサンプル水の流量を安定化できるので、サンプル水における検出対象の濃縮倍率を高くできる。
【0012】
第三態様の分析装置は、第一又は第二態様において、前記膜濾過装置は、外部に開放され前記限外濾過膜を透過した透過水が排出される排出部を有する。
【0013】
膜濾過装置の限外濾過膜を透過した透過水の大部分を排出部から排出することにより、膜濾過装置における単位時間あたりの透過水の排出量を増やし、濃縮水の濃度を高くできる。
【0014】
第四態様の分析装置は、第三態様において、前記膜濾過装置の前記透過水の少なくとも一部が前記キャリア水として前記フローインジェクションシステムに流れる第二配管、を有する。
【0015】
キャリア水を得るための装置が不要であり、分析装置の構成の簡素化を図ることができる。
【0016】
第五態様の分析装置は、第四態様において、前記膜濾過装置は、前記第二配管が接続される接続口を有する。
【0017】
膜濾過装置の接続口に第二配管を接続することで、膜濾過装置の透過水を外気に曝すことなくキャリア水として第二配管に送ることでき、キャリア水への異物の混入を抑制できる。
【0018】
第六態様の分析装置は、第一~第四のいずれか一態様において、前記膜濾過装置の入口側の圧力が、前記ポンプの出口部での圧力より小さく、且つ0.05MPa以上である。
【0019】
膜濾過装置の入口側の圧力をこのように設定することで、サンプル水の分析の定量性を高めることができる。
【0020】
第七態様の分析方法は、精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置により検出対象が濃縮されたサンプル水を生成し、前記サンプル水をポンプにより加圧してフローインジェクションシステムに送り、前記フローインジェクションシステムにおいて、キャリア水に含まれ前記検出対象に反応する試薬と前記検出対象との反応から前記サンプル水を分析する。
【0021】
この分析方法では、膜濾過装置が、精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えている。膜濾過装置に分析対象水を通すことで、検出対象を濃縮した濃縮水が得られる。濃縮水はポンプにより加圧され、サンプル水としてフローインジェクションシステムに送られる。フローインジェクションシステムでは、キャリア水に含まれる試薬との反応から検出対象を分析する。このように、膜濾過装置によって検出対象が濃縮された濃縮水をサンプル水としてフローインジェクションシステムに送るので、エンドトキシンを含む菌由来物の検出対象に対する分析の定量性を高めることができる。
【0022】
第八態様の分析方法では、第七態様において、前記ポンプの下流側の水圧は、前記ポンプの上流側の水圧よりも高い。
【0023】
これにより、ポンプから吐出されるサンプル水の流量を安定化できるので、サンプル水における検出対象の濃縮倍率を高くできる。
【0024】
第九態様の分析方法では、第七又は第八態様において、前記膜濾過装置において、前記限外濾過膜を透過した透過水を前記膜濾過装置の外部に無圧状態で排出する。
【0025】
膜濾過装置の限外濾過膜を透過した透過水の大部分を排出部から無圧状態で排出することにより、膜濾過装置における単位時間あたりの排出量を増やし、濃縮水の濃度を高くできる。
【0026】
第十態様の分析方法では、第九態様において、前記膜濾過装置の前記透過水の少なくとも一部を前記キャリア水として前記フローインジェクションシステムに送る。
【0027】
キャリア水を得るための工程が不要であり、分析方法の手順の構成の簡素化を図ることができる。
【0028】
第十一態様の分析方法では、第七~第十のいずれか一態様において、前記膜濾過装置の入口側の圧力を、前記ポンプの出口部での圧力より小さくし、且つ0.05MPa以上とする。
【0029】
膜濾過装置の入口側の圧力をこのように設定することで、サンプル水の分析の定量性を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本開示の技術では、FIA法を用いた分析装置及び分析方法において、分析の定量性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は第一実施形態の分析装置を示す構成図である。
図2図2は第一実施形態の変形例の分析装置を示す構成図である。
図3図3は実施例8の分析装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して第一実施形態に係る分析装置12について説明する。図1に示すように、この分析装置12は、不図示の水処理システムで得られる水、あるいは処理途中の水を分析対象としている。本実施形態では、分析装置12は、分析対象に含有されているエンドトキシンを分析する。エンドトキシンは、菌由来物の一例であり、開示の技術における検出対象の一例でもある。すなわち、開示の技術の分析装置12、及び分析方法では、エンドトキシンを含む菌由来物を検出対象としている。検出対象としては、エンドトキシン、すなわちグラム陰性菌の細胞壁の構成用途としてのリポ多糖に限定されず、例えば、各種の菌類(菌そのもの)であってもよい。
【0033】
なお、水処理システムによって得られる水としては、例えば注射用水、製薬用水等を挙げることができるが、これらに限定されない。水処理システムは、具体的には、例えば、精製水、注射用水(WFI)等の製薬用水製造設備などがあげられる。
【0034】
分析装置12は、前濃縮部12A、試薬混合部12B、及び検出部12Cを含んで構成されている。
【0035】
前濃縮部12Aは、図示の例では、前濃縮ポンプ14と、膜濾過装置16と、を有している。前濃縮ポンプ14には、水処理システムから分析対象水が送られる。前濃縮ポンプ14は、分析対象水を加圧し、配管18を通じて、後段の膜濾過装置16に送る。なお、例えば、精製水製造装置や超純水製造装置のサンプリングラインに分析装置12を直付けしてオンライン測定する場合、サンプリングラインの圧力が適切であれば、前濃縮ポンプ14は、不要である。また、サンプリングラインの圧力が適切な圧力よりも高すぎる場合には、前濃縮ポンプ14の代わりに減圧弁等の減圧手段を設置すればよい。
【0036】
膜濾過装置16は、外筒20を有している。外筒20の長手方向の一端には入口部22が、他端には出口部24が設けられている。さらに外筒20の外周には、排出部26及び送水部28が設けられている。入口部22には、前濃縮ポンプ14からの配管18が接続されている。出口部24には、後述する第一配管32が接続されている。
【0037】
外筒20の内部には、複数の中空糸状の限外濾過膜30が配置されている。入口部22から外筒20内に流入したサンプル水は、限外濾過膜30によって濾過される。具体的には、エンドトキシンは限外濾過膜30を透過しないため、エンドトキシンが濃縮された濃縮水が生成され出口部24に至る。限外濾過膜30の孔径は概ね0.01~0.001μmである。本開示の技術のようにエンドトキシンを含む菌由来物を検出対象としている場合、菌由来物の大きさとの関係から、検出対象を濃縮し濃縮水を得るには、このような孔径を有している限外濾過膜30を用いることが好ましいと言える。なお、限外濾過膜の代わりに精密濾過膜を用いてもよい。限外濾過膜もしくは精濾過過膜としては、検出対象物質の除去率が、90%以上となる膜がより好ましく、95%以上となる膜がさらに好ましい。
【0038】
本実施形態では、限外濾過膜30の材料としては、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、変性ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、等を用いることが可能である。特に、変性ポリエーテルスルホンは、エンドトキシンを吸着しづらいので、限外濾過膜30の材料として好ましい。
【0039】
使用する膜ろ過装置としては、例えば、Repligen社のKROSFLO 20CM 5K MPES等が限定なく利用可能である。
【0040】
限外濾過膜30を透過した透過水には、エンドトキシンは含まれていないか、または極めて微量である。すなわち、この透過水はエンドトキシンフリー水である。排出部26及び送水部28から、エンドトキシンフリー水が膜濾過装置16の外部に排出される。膜濾過装置16によって、サンプル水は、10倍から100000倍に濃縮される。濃縮倍率は、測定精度の観点から1000から100000倍がより好ましい。
【0041】
排出部26の排出口は開放されている。実質的に、排出部26からは、無圧状態で透過水が排出される。この無圧状態とは、排出部26から排出される透過水に対し大気圧は作用するが、この大気圧を超える圧力が作用しないことを言う。
【0042】
膜濾過装置16の出口部24には、第一配管32の一端が接続されている。第一配管32には、膜濾過装置16においてエンドトキシンが濃縮された濃縮水が、サンプル水として流れる。
【0043】
本実施形態では、送水部24とポンプ42が直付けされている。すなわち、送水部24とポンプ42の間に貯留部を設けていないため、貯留部におけるサンプル水の汚染や、サンプル水の蒸発が起きる恐れがない。また、貯留部での汚染や蒸発の影響を小さくするためには、貯留部までの流量を大きくし、貯留部のサンプル水を一部排出する等の対策をとる必要があるが、その場合には、濃縮倍率が低下するので測定精度が低下する恐れがある。本実施形態では、その恐れがなく、正確に測定することが可能である。
【0044】
膜濾過装置16の送水部28には、第二配管34の一端が接続されている。第二配管34には、膜濾過装置16においてエンドトキシンが除去されたエンドトキシンフリー水が、キャリア水として流れる。送水部28は、第二配管34が接続される接続口の一例である。
【0045】
フローインジェクションシステム40は、ポンプ42を有している。本実施形態では、ポンプ42はプランジャーポンプである。このプランジャーポンプでは、ポンプ筐体内をプランジャーが往復運動することにより、流体を加圧して上流側から下流側へ送る。特に、図1に示す例では、ポンプ42として、並列配置された2つのプランジャーを有するダブルプランジャーポンプを用いており、第一配管32及び第二配管34に共通で設けられている。これにより、ポンプ42は、サンプル水及びキャリア水を同期して加圧し下流側に送ることが可能である。なお、ポンプ42は、ペリスタポンプ、シリンジポンプ、ソレノイドポンプを用いることも可能である。プランジャーポンプがより好ましい。
【0046】
第二配管34には、ポンプ42よりも下流側に、試薬注入部44が設けられている。試薬注入部44では、エンドトキシンに反応する試薬がキャリア水に注入され、キャリア水が得られる。
【0047】
試薬混合部12Bにおいて、第一配管32及び第二配管34は、フローインジェクションシステム40の内部に至っている。そして、フローインジェクションシステム40の内部おいて第一配管32及び第二配管34は合流され、合流管46を成している。合流管46は、検出部12Cに含まれる。
【0048】
本願における試薬としては、特開2022-011525号公報に記載された、蛍光部位と認識部位がスペーサーで結合された蛍光試薬を用いることが可能であるが、特にこれに限定されるものではない。
【0049】
合流管46では、第一配管32を流れたサンプル水と、第二配管34を流れたキャリア水とが合流されて合流水となる。合流水では、サンプル水に含まれるエンドトキシンと、キャリア水に含まれる試薬との反応が生じる。
【0050】
合流管46には、分析器48が配置されている。分析器48は、エンドトキシンと試薬との反応から、エンドトキシンの濃度を分析する。本実施形態では、分析器48の内部には、図示しない配管と、配管に接続される石英セルが配置されている。分析器48は、石英セルを流れる合流水に対し光を照射し、得られた蛍光のシグナル強度から、エンドトキシンの濃度を検出する。
【0051】
分析器48は、分析後の合流水を排出する出口管50を有している。出口管50の内径は、第一配管32の内径よりも小さくされている。これにより、ポンプ42の下流側、例えば出口部の圧力P2が、ポンプ42の入口側、例えば膜濾過装置16の上流側の圧力P1よりも高い状態が実現されるようになっている。
【0052】
分析器48においては、例えば、340~360nmの波長の励起光を照射し、発生した440~520nmの蛍光を観測することで、定量を行う。分析器48において、サンプル水の流量は、0.01~4.00mL/分となり、この範囲の流量になることによって、測定精度が良くなる。
【0053】
第一配管32、第二配管34、及び合流管46の材料は、それぞれサンプル水、キャリア水、及び合流水を流すことが可能であれば限定されない。同様に、分析器48の配管としても特に限定されないが、例えば、フューズドシリカチューブを用いると、内部を流れる合流水との、このフューズドシリカチューブを用いた配管との反応を抑制でき、より正確な分析が可能となる。
【0054】
本実施形態では、分析対象水を連続して流しながら、分析器48によるエンドトキシン濃度の分析を行う、いわゆるオンライン分析装置及びオンライン分析方法が実現される。
【0055】
次に、本実施形態の分析装置12の作用、及び分析方法を説明する。
【0056】
不図示の水処理システムから送られた分析対象の水は、前濃縮ポンプ14により加圧され、膜濾過装置16に送られる。膜濾過装置16では、分析対象の水が限外濾過膜30によって濾過され、エンドトキシンが濃縮された濃縮水と、エンドトキシンを含まない透過水(エンドトキシンフリー水)とが得られる。
【0057】
透過水は、排出部26及び出口部24から、膜濾過装置16の外部に排出される。本実施形態の分析装置12では、排出部26の排出口は開放されており、排出部26からは無圧状態で透過水が排出される。すなわち、限外濾過膜30を透過した透過水の大部分は、排出部26から排出される。このため、排出部26から排出される透過水に大気圧を超える圧力が作用する構成と比較して、排出できる流量が多くなる。単位時間あたりでは、より多くの処理対象水からエンドトキシンを濃縮でき、濃縮水の濃度を高くできる。<3、9>
【0058】
ここで、排出部26の内径を2mm以上30mm以下とすること、もしくは、排出部26を流れる透過水の線速度を0.1m/sec以上2.0m/sec以下とすることが好ましい。また、排出部26の配管の長さ(外筒20から排出部26の排出口までの長さ)は、30m以下であることが好ましい。排出部26の形状、又は透過水の線速度をこのように設定することにより、十分な量の透過水を得ることができ、膜濾過装置16において十分にエンドトキシンを濃縮できる。また、送水部28の下流側にあるポンプ42の入口圧力が適正範囲に保たれ、試薬注入部44における試薬の添加量を適正に保つことができるので、分析器48における測定値がさらに安定する。なお、排出部26の内径とは、排出部26の流路の断面積が最も狭い部分の内径を指し、上記線流速度は、この部分での線速度である。
【0059】
また、この排出部26は、図2に第一変形例として示すように、送水部28とポンプ42の間から分岐させる形で設けてもよい。その場合、送水部28から排出部26までの配管径は上記の範囲に設定し、排出部26からポンプ42の間の第二配管34の内径は、例えば、0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【0060】
限外濾過膜30を透過した透過水の少なくとも一部はキャリア水として、送水部28から第二配管34により、フローインジェクションシステム40の試薬注入部44に送られる。キャリア水を得るために他の装置を用いる必要がなく、分析装置12の構成、及び分析方法の手順の簡素化を図ることが可能である。<4、10>
【0061】
膜濾過装置16が内圧式の場合は、図1図2の方法のいずれも適用できるが、外圧式の場合は、図2の方法を好適に用いることが可能である。
【0062】
しかも、第二配管34は排出部26に接続されており、透過水が外気に曝されない。これにより、エンドトキシンフリー水としての透過水(キャリア水)に異物が混入することを抑制できる。<5>
【0063】
キャリア水は、ポンプ42により加圧されて下流側へ送られる。ポンプ42の下流側では、試薬注入部44により試薬が注入される。
【0064】
膜濾過装置16で得られた濃縮水はサンプル水として、出口部24から第一配管32により、フローインジェクションシステム40の試薬注入部44に送られる。そして、ポンプ42により加圧されて下流側へ送られる。本実施形態の分析装置12では、このように、膜濾過装置16によってエンドトキシンが高濃度に濃縮された濃縮水をサンプル水として用いて、フローインジェクションシステム40により、エンドトキシンの濃度を分析できる。膜濾過装置16を用いず、エンドトキシンの濃度が低いサンプル水を用いた場合と比較して、エンドトキシンの分析の定量性を高めることが可能である。<1、7>
【0065】
第一配管32は、出口部24に接続されており、濃縮水が外気に曝されない。これにより、濃縮水(サンプル水)に異物が混入することを抑制できる。
【0066】
第一配管32のサンプル水と第二配管34のキャリア水とは、合流管46で合流されて合流水となる。そして、サンプル水に含まれるエンドトキシンと、キャリア水に含まれる試薬との反応が生じる。さらに合流水は分析器48に送られる。分析器48では、エンドトキシンと試薬との反応からエンドトキシンの濃度を得て、サンプル水を分析する。
【0067】
本実施形態の分析装置12では、分析器48の出口管50の内径は、第一配管32の内径よりも小さい。これにより、ポンプ42の下流側である出口部の圧力P2が、ポンプ42の上流側である膜濾過装置16の上流側の圧力P1よりも高い状態が実現されている。ポンプ42の出口側における吐出圧が、ポンプ42の入口側での水圧よりも高いことにより、ポンプ42の駆動にあたって、入口側の水圧の影響を受けづらくなる。換言すれば、ポンプ42から吐出されるサンプル水の流量に及ぼす影響について、出口側の水圧が支配的となる。ポンプ42からのサンプル水の吐出流量が、入口側での圧力変動の影響を受けなくなるので、出口側での流量を安定化し、一定範囲に維持することができる。これにより、ポンプ42の出口側の吐出圧が、ポンプ42の入口側の水圧よりも低い場合と比較して、サンプル水におけるエンドトキシンの濃縮倍率が高くなる。そして、エンドトキシンの濃縮倍率が高くなることに伴い、分析器48におけるシグナル強度も強くなる。すなわち、フローインジェクションシステム40において、エンドトキシンの分析の定量性を高めることが可能である。<2、8>
【実施例
【0068】
次に、本開示の技術を、実施例及び比較例によりさらに詳細に説明する。ただし、本開示の技術は、以下に示す実施例の内容に限定されるものではない。
【0069】
実施例及び比較例では、第一実施形態の分析装置12を用いて、キャリア水に10nMのエンドトキシン濃度となるようにエンドトキシンを注入したサンプル水のエンドトキシン濃度を分析した。具体的には、分析器48による、サンプル水のエンドトキシン濃度の測定値範囲を検証した。
【0070】
実施例及び比較例において、測定条件は、励起波長350nm、検出蛍光波長500nm、蛍光試薬Zn-dpa-C2OPy(下記化学式(1)参照)、試薬注入部での蛍光試薬濃度10μMとした。
【0071】
【化1】
【0072】
実施例及び比較例において、測定条件は、励起波長350nm、検出蛍光波長500nmとした。
【0073】
表1には、実施例及び比較例のそれぞれの場合における、膜濾過装置16の入口側での圧力P1、ポンプ42の出口部での圧力P2、及び分析器48における測定値範囲が示されている。この測定値範囲は、分析器48においてエンドトキシンの濃度として実際に測定される値の範囲であり、具体的には、5回の測定を行い、得られた最大値と最小値とを示している。
【0074】
膜濾過装置16の入口側での圧力P1は、分析装置12の上流に配置されている不図示の水処理システム、及び前濃縮ポンプ14によって、所望の圧力の値とすることが可能である。
【0075】
表1に示す実施例1~7、及び比較例1~3は、図1に示す分析装置12において、圧力P1及び圧力P2の値の設定を変更し、測定値範囲を検証したものである。
【0076】
また、表1に示す実施例8は、図3に示す分析装置52を用いた場合の実施例である。この分析装置52では、図1に示した分析装置12に対し、さらに、出口部24からポンプ42の間に、小型のタンク54が設置されている。この場合、膜濾過装置16で濃縮されたサンプル水は、タンク54にいったん貯留され、この貯留されたサンプル水が、ポンプ42によって吸引される。なお、タンク54の容量は10mlである。
【0077】
【表1】
【0078】
表1から分かるように、実施例1~7では、P1<P2の関係が満たされており、測定値範囲としても供給水のエンドトキシンの濃度とほぼ同等の測定値が得られている。すなわち、実施例1~7では、サンプル水に対し、エンドトキシン濃度の定量的な測定が可能である。これは、実施例1~7の場合、第一配管32を流れるサンプル水の流量が適切に制御され、このサンプル水と、第二配管34を流れるキャリア水との流量比が適切な値となっているためである。そして、濃縮水のエンドトキシン濃度が高いので、分析器48が適正に機能するためである。
【0079】
実施例8の場合は、P1とP2の圧力を規定値としており、P1<P2の関係が満たされている。実施例8では、他の実施例に対し、測定値範囲の数値が大きくなる傾向がある。これは、タンク54でサンプル水を受けると、タンク54において、コンタミネーションが起きるためである。このように実施例8の場合は測定値範囲の数値が実際よりも大きく測定されることが予め分かっているので、これに対応して、例えば所定の補正係数を得ておき、測定された数値に補正係数を乗ずればよい。
【0080】
この実施例8は、タンク54によって、タンク54の前段の圧力がタンク54の後段に影響しないため、圧力P1を自由に設定できるという有利な点がある。
【0081】
特に、圧力P1の値としては、上記のP1<P2の条件を満たし、且つP1≧0.03MPaであることが好ましく、P1≧0.05MPaであることがより好ましい。圧力P1の値の下限値をこのように設定することで、限外濾過膜30での濃縮が十分に行えるため、測定精度がより高くなる。なお、表1に示す各実施例において、圧力P1の最も小さな値は0.03MPaであり、次に小さな値は0.06MPaであるが、実質的には、圧力P1は、P1≧0.05MPaを満たしていれば、限外濾過膜30での濃縮が十分に行える。
【0082】
これに対し、比較例1~3では、P1≧P2の関係となっており、測定値範囲が供給水のエンドトキシンの濃度より小さな数値となっている。これは、比較例1~3の場合、第一配管32に多量のサンプル水が流れ、このサンプル水と、第二配管34を流れるキャリア水との流量比も適正とならないため、合流管46において試薬濃度が薄くなる、もしくは、濃度が安定しないためである。また、第一配管32を流れるサンプル水の量が安定せず、エンドトキシン濃度を高く維持することができないため、分析器48の適切な測定値範囲に測定値が達していない状態になっている。
【0083】
なお、図3に示す分析装置52において、タンク54の代わりに圧力調整バルブを設置することも考えられる。しかし、この程度の流量の圧力を調整可能なバルブは上市されているものは存在しないので、この方法は実施できない。
【符号の説明】
【0084】
12 分析装置
12A 前濃縮部
12B 試薬混合部
12C 検出部
14 前濃縮ポンプ
16 膜濾過装置
18 配管
20 外筒
22 入口部
24 出口部
26 排出部
28 送水部(接続口の一例)
30 限外濾過膜
32 第一配管
34 第二配管
40 フローインジェクションシステム
42 ポンプ
44 試薬注入部
46 合流管
48 分析器
50 出口管
54 タンク
【要約】
【課題】FIA法を用いた分析装置及び分析方法において、エンドトキシンを含む菌由来物の検出対象に対する分析の定量性を高める。
【解決手段】分析装置は、精密濾過膜、又は限外濾過膜を備えた膜濾過装置と、サンプル水に含まれる検出対象とキャリア水に含まれ検出対象に反応する試薬との反応からサンプル水を分析するフローインジェクションシステムと、膜濾過装置により検出対象が濃縮された濃縮水がサンプル水としてフローインジェクションシステムに流れる第一配管と、第一配管においてサンプル水を加圧するポンプと、を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3