(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】マイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチ、方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
A61M37/00 530
(21)【出願番号】P 2020116647
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】西澤 松彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 博弥
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0310665(US,A1)
【文献】特表2016-511014(JP,A)
【文献】特開2017-724(JP,A)
【文献】特開2016-87474(JP,A)
【文献】特開2019-107040(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176126(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸緩衝液(PBS緩衝液)(pH6.8、温度37℃)に対する溶解速度が異なる2種以上の材料で構成され、
前記溶解速度が異なる2種以上の材料が、前記溶解速度が0.001質量%/年以上2質量%/時以下である遅溶性材料と、前記溶解速度が3質量%/時以上である速溶性材料と、を含み、
マイクロニードル全体に、前記2種以上の材料のうちの1種類以上により形成されるポーラス構造を有
し、
前記ポーラス構造が前記遅溶性材料により形成され、
前記ポーラス構造における空隙の全部が、前記速溶性材料で充填されている、
マイクロニードル。
【請求項2】
マイクロニードルの前記ポーラス構造の空隙率が5体積%~90体積%である、請求項
1に記載のマイクロニードル。
【請求項3】
前記ポーラス構造を形成する材料の割合が5質量%~90質量%である、請求項1
又は2に記載のマイクロニードル。
【請求項4】
前記ポーラス構造を形成する材料以外の材料の割合が0.001質量%~60質量%である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項5】
前記ポーラス構造を形成する材料の体積に対する前記ポーラス構造を形成する材料以外の材料の体積の割合が0.001体積%~60体積%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項6】
マイクロニードルの気泡率が10体積%~90体積%である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項7】
前記遅溶性材料及び/又は前記速溶性材料が生分解性材料である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項8】
前記遅溶性材料が、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)及びPLGAを主材とする混合材料、βリン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ハイドロキシアパタイト、ポリエチレングリコール、マグネシウム合金からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項9】
前記速溶性材料が、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲン、トレハロース、PLGA-ポリエチレングリコール(PEG)共重合体、Pluronic F127、リン脂質、ドーパミン、タンニン酸、シランカップリング剤、ホスホン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項10】
前記遅溶性材料がポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項11】
リンゲル液(25℃)に1年間浸漬させたときに、浸漬前の前記遅溶性材料の量に対する浸漬後の前記遅溶性材料の量の割合(遅溶性材料残存率)が99質量%以下である、請求項1~
10のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項12】
リンゲル液(25℃)に1年間浸漬させたときに、浸漬前の前記速溶性材料の量に対する浸漬後の前記速溶性材料の量の割合(速溶性材料残存率)が0.1質量%以上である、請求項1~
11のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項13】
水(pH7、温度25℃)に1時間浸漬させたときに、浸漬前のマイクロニードルの先端における機械的強度に対する浸漬後のマイクロニードルの先端における機械的強度の割合が0.1~97%である、請求項1~
12のいずれか一項に記載のマイクロニードル。
【請求項14】
複数の請求項1~
13のいずれか一項に記載のマイクロニードルが基材上に立設されている、マイクロニードルアレイ。
【請求項15】
前記マイクロニードルが小マイクロニードルを備えた柱状体を含む、請求項
14に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項16】
前記小マイクロニードルを複数本備え、前記柱状体を複数本含む、請求項
15に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項17】
請求項
14~16のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイと、前記マイクロニードルアレイに接触して設けられた複数の電極とを含む、パッチ。
【請求項18】
請求項1~
13のいずれか一項に記載のマイクロニードル、及び/又は請求項
14~16のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイ、及び/又は請求項
17に記載のパッチを用いる、経皮投薬方法(但し、人間に対する前記経皮投薬方法を除く。)。
【請求項19】
請求項1~
13のいずれか一項に記載のマイクロニードル、及び/又は請求項
14~16のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイ、及び/又は請求項
17に記載のパッチを用いる、皮下組織液のサンプリングの方法(但し、人間に対する前記皮下組織液のサンプリングの方法を除く。)。
【請求項20】
請求項1~
13のいずれか一項に記載のマイクロニードル、及び/又は請求項
14~16のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイ、及び/又は請求項
17に記載のパッチを用いる、経皮通電方法(但し、人間に対する前記経皮通電方法を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチ、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
刺入時に痛みを感じない低侵襲のマイクロニードル、マイクロニードルアレイは、経皮投薬、皮下組織液の採取、生体情報のセンシング等に有効であり、特に、経皮投薬の分野において、マイクロニードル、マイクロニードルアレイの実用化が急速に進んでいる(非特許文献1参照)。
【0003】
マイクロニードルを用いた経皮投薬のためには、マイクロニードルが通液性等の物質透過性を備える必要がある。
しかしながら、注射針のような中空構造を有する金属製のマイクロニードルの場合、刺入時に針穴が詰まる等の問題が指摘されている。
代わって、ニードル本体を構成する材料が物質透過性を備えるハイドロゲル製のマイクロニードル(非特許文献2参照)や、ニードル本体を構成する材料がポーラスであるマイクロニードル(特許文献1、非特許文献3参照)の利用に注目が集まっている。
【0004】
これらの物質透過性を備えるマイクロニードルは、経皮投薬の分野のみならず、さらに経皮通電による診断治療の分野にも有効である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-000724号公報
【文献】特開2019-107040号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Yang et al., "Recent Advances of Microneedles for Biomedical Applications: Drug Delivery and Beyond", Acta Pharmaceutica Silica B, 9 (2019) 469.
【文献】R. F. Donnelly, et al., Journal of Pharmaceutical Science, 2014, 103, 1478-1486.
【文献】L. Liu et al., "Porous Polymer Microneedles for Rapid Fluid Transport by Massively Parallel Microchannels", RSC Advances, 6 (2016) 48630.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のマイクロニードル、マイクロニードルアレイには諸特性を改善させる余地があった。
そこで、本発明は、機械的強度及び親水性に優れるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを提供することを目的とする。また、本発明は、かかるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いるパッチを提供することも目的とする。さらに、本発明は、かかるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いる方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
本発明のマイクロニードルは、リン酸緩衝液(PBS緩衝液)(pH6.8、温度37℃)に対する溶解速度が異なる2種以上の材料で構成されることを特徴とする。
本発明のマイクロニードルでは、前記水に対する溶解速度が異なる2種以上の材料が、前記溶解速度が0.001質量%/年以上2質量%/時以下である遅溶性材料と、前記溶解速度が3質量%/時以上である速溶性材料と、を含むことが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記2種以上の材料のうちの1種類以上により形成されるポーラス構造を有することが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記ポーラス構造における空隙の全部又は一部が、前記ポーラス構造を形成する材料以外の材料で充填されていることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記遅溶性材料により形成されるポーラス構造を有することが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記ポーラス構造における空隙の全部又は一部が、速溶性材料で充填されていることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、マイクロニードルの前記ポーラス構造の空隙率が5体積%~90体積%であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記ポーラス構造を形成する材料の割合が5質量%~90質量%であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記ポーラス構造を形成する材料以外の材料の割合が0.001質量%~60質量%であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記ポーラス構造を形成する材料の体積に対する前記ポーラス構造を形成する材料以外の材料の体積の割合が0.001体積%~60体積%であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、マイクロニードルの気泡率が10体積%~90体積%であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルでは、前記遅溶性材料及び/又は前記速溶性材料が生分解性材料であることが好ましい。
ここで、本発明のマイクロニードルでは、前記遅溶性材料が、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)及びPLGAを主材とする混合材料、βリン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ハイドロキシアパタイト、ポリエチレングリコール、マグネシウム合金からなる群から選ばれることが好ましい。
また、本発明のマイクロニードルでは、前記速溶性材料が、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲン、トレハロース、PLGA-ポリエチレングリコール(PEG)共重合体、Pluronic F127、リン脂質、ドーパミン、タンニン酸、シランカップリング剤、ホスホン酸誘導体からなる群から選ばれることが好ましい。
特に、本発明のマイクロニードルでは、前記遅溶性材料がポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を含むことが好ましい。
本発明のマイクロニードルは、リンゲル液(25℃)に1年間浸漬させたときに、浸漬前の前記遅溶性材料の量に対する浸漬後の前記遅溶性材料の量の割合(遅溶性材料残存率)が99質量%以下であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルは、リンゲル液(25℃)に1年間浸漬させたときに、浸漬前の前記速溶性材料の量に対する浸漬後の前記速溶性材料の量の割合(速溶性材料残存率)が0.1質量%以上であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルは、水(pH7、温度25℃)に1時間浸漬させたときに、浸漬前のマイクロニードルの先端における機械的強度に対する浸漬後のマイクロニードルの先端における機械的強度の割合が0.1~97%であることが好ましい。
本発明のマイクロニードルアレイは、複数の上記本発明のマイクロニードルが基材上に立設されていることを特徴とする。
本発明のマイクロニードルアレイは、前記マイクロニードルが小マイクロニードルを備えた柱状体を含むことが好ましい。
本発明のマイクロニードルアレイは、前記小マイクロニードルを複数本備え、前記柱状体を複数本含むことが好ましい。
本発明のパッチは、上記本発明のマイクロニードルアレイと、前記マイクロニードルアレイに接触して設けられた複数の電極とを含むことを特徴とする。
本発明の経皮投薬方法は、上記本発明のマイクロニードル、及び/又は上記本発明のマイクロニードルアレイ、及び/又は上記本発明のパッチを用いることを特徴とする(但し、医療行為を除く。)。
本発明の皮下組織液のサンプリングの方法は、上記本発明のマイクロニードル、及び/又は上記本発明のマイクロニードルアレイ、及び/又は上記本発明のパッチを用いることを特徴とする(但し、医療行為を除く。)。
本発明の経皮通電方法は、上記本発明のマイクロニードル、及び/又は上記本発明のマイクロニードルアレイ、及び/又は上記本発明のパッチを用いることを特徴とする(但し、医療行為を除く。)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度及び親水性に優れるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを提供することができる。また、本発明は、かかるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いるパッチを提供することができる。さらに、本発明は、かかるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態のマイクロニードルの構成例を示す図であり、遅溶性材料により形成されるポーラス構造を有し、ポーラス構造における空隙の全部又は一部が速溶性材料で充填されている、本実施形態のマイクロニードルを示す図である。(A)は、ポーラス構造における空隙の全部が速溶性材料で充填されている例である。(B)は、ポーラス構造における空隙の一部(先端部分)が速溶性材料で充填されている例である。(C)は、ポーラス構造における空隙の一部(先端部分及び側面部分)が速溶性材料で充填されている例である。
【
図2】
図2は、本実施形態のマイクロニードルアレイの例を斜視図で示す図である。(A)は、本実施形態のマイクロニードルアレイの一例を斜視図で示す図である。(B)は、本実施形態のマイクロニードルアレイの別の例を斜視図で示す図である。
【
図3】
図3は、試験例1の製造方法の概要を説明する図である。
【
図4】
図4は、試験例2の製造方法の概要を説明する図である。
【
図5】
図5は、本実施形態のパッチの一例を示す図である。(A)は、一例のパッチを斜視図で示す図であり、(B)は、(A)に示すパッチを薬剤投与の手段に応用した場合のパッチの一部を拡大して示す断面図であり、(C)は、(A)に示すパッチを体液採取の手段に応用した場合のパッチの一部を拡大して示す断面図であり、(D)は、被験者の腕に一例のパッチを貼り付けたときの様子を示す写真である。
【
図6】
図6は、
図1に示す本実施形態のマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いた本実施形態の方法の構成例を示す図である。(A)は、マイクロニードルを皮膚に刺入し、ポーラス構造における空隙に充填されている速溶性材料を薬剤として経皮投薬する様子を示す図である。(B)は、マイクロニードルを皮膚に刺入し、ポーラス構造を通じて経皮投薬する様子を示す図であり、且つポーラス構造を通じて皮下組織液をサンプリングする様子を示す図である。(C)は、マイクロニードルを皮膚に刺入し、ポーラス構造を通じて経皮通電する様子を示す図である。
【
図7】
図7は、試験例1の作製過程におけるPLGAにCMCを充填していない状態のマイクロニードルアレイを光学顕微鏡で観察したときの写真である。(A)は、鋳型全体を遠心分離機にかけた後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。(B)は、凍結乾燥した後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。(C)は、(B)の一部を拡大して示した光学顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、試験例1の作製過程におけるPLGAにCMCを充填した状態のマイクロニードルアレイを光学顕微鏡で観察したときの写真である。(A)は、浸漬及び真空引き後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。(B)は、自然乾燥した後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。(C)は、(B)の一部を拡大して示した光学顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、試験例1で得られたマイクロニードルの機械的強度の計測の様子を示す写真である。(A)は、概観写真、(B)は、拡大写真である。
【
図10】
図10は、マイクロニードルの機械的強度の計測において荷重/ひずみ(N/mm)を評価した結果をまとめたチャートである。
【
図11】
図11は、マイクロニードルの機械的強度の計測においてマイクロニードルの先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。(A)(上段)は、試験例1で得られたマイクロニードルの先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。(B)(下段)は、比較対象のマイクロニードル(PLGAのみ)の先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。
【
図12】
図12は、マイクロニードルのイオン伝導性の評価における評価系の概要を説明する図である。
【
図13】
図13は、試験例1のマイクロニードルのイオン伝導性を評価した結果を示す図である。(A)は、試験例1のマイクロニードルの抵抗の経時変化(0~60分間)を表すチャートである。縦軸に抵抗(kΩ)を示し、横軸に時間(分間)を示す。(B)は、(A)に示すチャートのうち15~60分間の部分を拡大して表すチャートである。縦軸に抵抗(kΩ)を示し、横軸に時間(分間)を示す。
【
図14】
図14は、比較対象のマイクロニードル(PLGAのみ)の抵抗の経時変化を表すチャートである。縦軸に抵抗(kΩ)を示し、横軸に時間(分間)を示す。
【
図15】
図15は、試験例1のマイクロニードルの溶出速度を評価した結果をまとめたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」ともいう。)のマイクロニードル、マイクロニードルアレイについて詳細に例示説明する。
【0012】
(マイクロニードル)
本実施形態のマイクロニードルは、リン酸緩衝液(PBS緩衝液)(pH6.8、温度37℃)に対する溶解速度が異なる2種以上の材料で構成されることを特徴とする。
【0013】
図1は、本実施形態のマイクロニードルの構成例を示す図である。
図1において、マイクロニードルの骨格をなす材料(図中、薄い灰色で示す。)の溶解速度と、マイクロニードルの内部にある材料(図中、濃い灰色で示す。)の溶解速度とは、異なっている。
【0014】
好適な実施形態では、水に対する溶解速度が異なる2種以上の材料が、溶解速度が0.001質量%/年以上2質量%/時間以下である遅溶性材料と、溶解速度が3質量%/時以上である速溶性材料と、を含む。
【0015】
なお、溶解速度(質量%/時間)とは、測定に付す材料を用いて寸法:10mm×10mm×0.1mmの試料を作製し、この試料をリン酸緩衝液(PBS緩衝液)(pH6.8、温度37℃)に所定時間(遅溶性材料について1年間、速溶性材料について1時間)完全に浸漬したときの、所定時間浸漬前の試料の質量から所定時間浸漬後に温度37℃、1時間乾燥させた後の試料の質量を差し引いて得られる質量を上記所定時間で除した値をいう。リン酸緩衝液(PBS緩衝液)としては、例えば、富士フィルム和光純薬株式会社、PBS(-)を用いることができる。
【0016】
遅溶性材料の溶解速度について、機械的強度と親水性とのバランスの観点から、下限は、0.002質量%/年以上、0.01質量%/年以上でも好ましく、上限は、2質量%/時間以下、1質量%/時間以下でも好ましい。
また、速溶性材料の溶解速度について、機械的強度と親水性とのバランスの観点から、下限は、3質量%/時間以上、10質量%/時間以上、30質量%/時間以上、90質量%/時間以上、3質量%/分、10質量%/分、30質量%/分、90質量%/分、3質量%/秒、10質量%/秒、30質量/%/秒、90質量%/秒でも好ましく、上限は、100質量%/秒以下、99質量%/秒以下が好ましい。
【0017】
本実施形態のマイクロニードルは、遅溶性材料及び速溶性材料以外のその他の材料(例えば、後述の親水化材料等)を含んでいてもよい。
【0018】
本実施形態のマイクロニードルは、前記2種以上の材料のうちの1種類以上により形成されるポーラス構造を有することが好ましい。
ポーラス構造を基本骨格とすることで、マイクロニードルの刺入時ないし刺入後所定期間に機械的強度が得られやすくなる。
【0019】
そして、ポーラス構造における空隙の全部又は一部が、前記ポーラス構造を形成する材料以外の材料で充填されていることが好ましい。なお、充填とは、常温、常圧で静置したときに、そのほとんどが空隙から外部に出ない状態をいう。
【0020】
より具体的には、本実施形態では、遅溶性材料により形成されるポーラス構造を有することがより好ましい。
遅溶性材料により形成されるポーラス構造を基本骨格とすることで、マイクロニードルの刺入時ないし刺入後所定期間により長い期間機械的強度が得られやすくなる。
【0021】
そして、より具体的には、ポーラス構造における空隙の全部又は一部が、速溶性材料で充填されていることが好ましい。
【0022】
図1は、本実施形態のマイクロニードルの構成例を示す図であり、遅溶性材料により形成されるポーラス構造を有し、ポーラス構造における空隙の全部又は一部が速溶性材料で充填されている、本実施形態のマイクロニードルを示す図である。(A)は、ポーラス構造における空隙の全部が速溶性材料で充填されている例である。(B)は、ポーラス構造における空隙の一部(先端部分)が速溶性材料で充填されている例である。(C)は、ポーラス構造における空隙の一部(先端部分及び側面部分)が速溶性材料で充填されている例である。
【0023】
本実施形態では、マイクロニードルのポーラス構造の空隙率が5体積%~90体積%であることが好ましく、下限は、10体積%以上、20体積%以上、30体積%以上でも好ましく、上限は、80体積%以下、70体積%以下、60体積%以下でも好ましい。
【0024】
なお、空隙率(体積%)とは、マイクロニードルの体積(外輪郭で画定される領域の体積)からポーラス構造を形成する材料の体積を差し引いて得られる体積をマイクロニードルの体積で除した値をいう。空隙率は、具体的には実施例で記載される方法で測定される。
【0025】
本実施形態のマイクロニードルの材料の組成について記載する。
【0026】
本実施形態のマイクロニードルでは、ポーラス構造を形成する材料の割合が5質量%~90質量%であることが好ましく、下限は、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上でも好ましく、上限は、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下でも好ましい。
【0027】
本実施形態のマイクロニードルでは、ポーラス構造を形成する材料以外の材料の割合が0.001質量%~60質量%であることが好ましく、下限は、0.005質量%以上、0.01質量%以上でも好ましく、上限は、50質量%以下、40質量%以下でも好ましい。
【0028】
より具体的には、本実施形態のマイクロニードルでは、マイクロニードルを100質量%として、より具体的には、遅溶性材料及び速溶性材料の含有量が30質量%~99.9質量%であることが好ましく、下限は、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上でも好ましく、上限は、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下でも好ましい。
なお、上記含有量は、100質量%であってもよい。
【0029】
そして、より具体的には、ポーラス構造を形成する材料としての遅溶性材料の含有量が5質量%~90質量%であり、ポーラス構造を形成する材料以外の材料としての速溶性材料の含有量が0.001質量%~60質量%であることが好ましい。
【0030】
本実施形態のマイクロニードルは、両親媒性高分子や表面修飾剤といった親水化材料での親水化処理がなされていてもよい。
かかる場合、本実施形態のマイクロニードルでは、マイクロニードルを100質量%として、より具体的には、親水化材料の含有量が0.0001質量%~40質量%であることが好ましく、下限は、0.0005質量%以上、0.001質量%以上でも好ましく、上限は、20質量%以下、10質量%以下でも好ましい。
【0031】
本実施形態では、ポーラス構造を形成する材料の体積に対するポーラス構造を形成する材料以外の材料の体積の割合が0.001体積%~60体積%であることが好ましく、下限は、0.005体積%以上、0.01体積%以上でも好ましく、上限は、50体積%以下、40体積%以下でも好ましい。
【0032】
本実施形態では、マイクロニードルの気泡率が10体積%~90体積%であるであることが好ましく、下限は、20体積%以上、30体積%以上でも好ましく、上限は、85体積%以下、80体積%以下でも好ましい。
なお、気泡率(体積%)は、マイクロニードルの体積(外輪郭で画定される領域の体積)からポーラス構造を形成する材料の体積及びポーラス構造を形成する材料以外の材料の体積を差し引いて得られる体積をマイクロニードルの体積で除した値をいう。気泡率は、空隙率に準じて測定することができ、具体的には実施例で記載される方法で測定される。
【0033】
本実施形態のマイクロニードルの材料について詳細に記載する。
【0034】
本実施形態では、環境性の観点から、遅溶性材料及び/又は速溶性材料は、生分解性材料であることが好ましく、遅溶性材料及び速溶性材料が、生分解性材料であることがより好ましい。
【0035】
遅溶性材料が、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)及びPLGAを主材(含有量が当該混合材料の50質量%以上、好適には70質量%以上、より好適には90質量%以上である材料)とする混合材料、βリン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ハイドロキシアパタイト、ポリエチレングリコール、マグネシウム合金等が挙げられ、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)及びPLGAを主材とする混合材料が好ましく、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)がより好ましい。
これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0036】
速溶性材料が、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸、ヒアルロン酸、コラーゲン、トレハロース、PLGA-ポリエチレングリコール(PEG)共重合体、Pluronic F127、リン脂質、ドーパミン、タンニン酸、シランカップリング剤、ホスホン酸誘導体が挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポリアクリル酸、アルギン酸、ショ糖、デンプン、トレハロース、DNAが好ましく、カルボキシメチルセルロース(CMC)がより好ましい。
これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0037】
本実施形態では、遅溶性材料がポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を含むことが好ましい。
遅溶性材料におけるポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)の含有量は、遅溶性材料を100質量%として、30質量%~99.9質量%であることが好ましく、下限は、50質量%以上、70質量%以上でも好ましく、上限は、99質量%以下、98質量%以下でも好ましい。
なお、上記含有量は、100質量%であってもよい。
【0038】
ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)は、ポリ乳酸モノマー単位とグリコール酸モノマー単位とを90質量%以上含んでよく、好適には95質量%以上含み、特に好適には100質量%含む。
ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)において、ポリ乳酸モノマー単位とグリコール酸モノマー単位とのモル比は、97:3~3:97であることが好ましく、下限は、95:5以上、90:10以上でも好ましく、上限は、5:95以下、10:90以下でも好ましい。
ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)の重量平均分子量(Mw)としては、1000~700000であることが好ましく、下限は、2000以上、3000以上、10000以上、50000以上、100000以上でも好ましく、上限は、500000以下、300000以下でも好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。詳細には、Mwが既知の標準PLGAと分析ゲルカラムとを用い、溶出時間とMwとから検量線を作成し、得られた検量線を用いて試料PLGAの重量平均分子量(Mw)を求めることができる。
【0039】
前述の親水化材料について、両親媒性高分子としては、特に限定されないが、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)-ポリエチレングリコール(PEG)共重合体、Pluronic F127(登録商標)、リン脂質等が挙げられ、また、表面修飾剤としては、特に限定されないが、ドーパミン、タンニン酸、シランカップリング剤、ホスホン酸誘導体等が挙げられる。
これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0040】
本実施形態のマイクロニードルは、刺入時以降において組成する材料が溶解することから、刺入前後での、言い換えれば、使用前後での特性が異なるという特徴を備えている。
以下、かかる特徴について詳細に記載する。
【0041】
本実施形態のマイクロニードルは、ポーラス構造を形成する材料としての遅溶性材料と、ポーラス構造を形成する材料以外の材料としての速溶性材料とを含む場合、リンゲル液(25℃)に1年間完全に浸漬させたときに、浸漬前の遅溶性材料の量に対する浸漬後の遅溶性材料の量の割合(遅溶性材料残存率)が99質量%以下であることが好ましく、上限は、98質量%以下、95質量%以下でも好ましい。
上記遅溶性材料残存率は、重量平均分子量(Mw)を大きくしたり、溶解速度を小さくしたり、溶解度の小さいものを選択したりすることで、高めることができる。
【0042】
また、本実施形態のマイクロニードルは、上述と同様に遅溶性材料と速溶性材料とを含む場合、リンゲル液(25℃)に1時間完全に浸漬させたときに、浸漬前の速溶性材料の量に対する浸漬後の速溶性材料の量の割合(速溶性材料残存率)が0.1質量%以上であることが好ましく、下限は、1質量%以上、3質量%以上でも好ましい。
なお、リンゲル液は、500mLの水に4.3gのNaCl、0.15gのKCl、0.165gのCaCl2・2水和物を水に溶かし500mLとしたものである。
上記速溶性材料残存率は、空隙率を小さくすることで高めることができ、その他にも、温度を低くすることで高めることができる。
【0043】
本実施形態のマイクロニードルでは、リンゲル液(25℃)に1時間浸漬させたときに、浸漬前のマイクロニードルの先端における機械的強度に対する浸漬後のマイクロニードルの先端における機械的強度の割合が0.1~97%であることが好ましく、下限は、0.5%以上、1%以上でも好ましく、上限は、95%以下、90%以下でも好ましい。
浸漬前の浸漬後に対する上記割合を低くすることで、刺入時及びこれに近接する範囲でのみニードルとしての機能を発揮することができ、侵襲性を低減することができる。
上記割合は、空隙率を相対的に大きくしつつ、気泡率を相対的に小さくすることで、低くすることができる。
【0044】
なお、マイクロニードルの先端における機械的強度(N)とは、マイクロニードルの試料に対して荷重測定器を用いてマイクロニードルの軸方向に沿う方向に荷重を与えたときに先端に変形(先端位置の20μm以上の変位)が生じたときの荷重(N)をいう。
【0045】
(マイクロニードルアレイ)
本実施形態のマイクロニードルアレイは、複数の本実施形態のマイクロニードルが基材上に立設されているものである。
図2は、本実施形態のマイクロニードルアレイの例を斜視図で示す図である。
【0046】
本実施形態では、マイクロニードルアレイの基材と、マイクロニードルとを、同じ材料で構成してよい。
【0047】
以下、マイクロニードルアレイ(以下、「MNA」ともいう。)におけるマイクロニードル(以下、「MN」ともいう。)の好適な形状について記載する。
【0048】
マイクロニードルの三次元形状としては、皮膚に刺入することが可能である限り特に限定されることなく、円錐台形状、円錐形状、四角錐形状、四角錐台形状、その他の形状が挙げられる。
【0049】
図2(A)は、本実施形態のマイクロニードルアレイの一例を斜視図で示す図である。
本実施形態のマイクロニードルアレイ(
図2(A)中、符号1で示す。)では、マイクロニードルが小マイクロニードル(
図2(A)中、符号2で示す。)を備えた柱状体を含むことが好ましい(
図2(A)参照)。
ここで、小マイクロニードルの三次元形状としては、皮膚に刺入することが可能である限り特に限定されることはないが、円錐形状が好ましい。また、柱状体の三次元形状としては、特に限定されることはないが、円柱形状が好ましい。
【0050】
図2(A)に示す一例のMNAにおける好適な寸法は下記のとおりである。
円柱形状の支柱部分の直径Rpは、0.2~1mmとしてよく、実施例に記載されるように0.3mmであってよい。
円柱形状の支柱部分の高さHpは、0.2~1mmとしてよく、実施例に記載されるように0.2mmであってよい。
円錐形状の小MNにおける底面の円の直径Rbは、20~500μmとしてよく、作製の簡便さ及び皮膚への刺し入れのしやすさ、機械的強度の観点から、100~400μmであることが好ましく、実施例に記載されるように100μmであってよい。
円錐形状の小MNの高さHは、20~1000μmとしてよく、皮膚に適用する場合に角質を貫通させた上で表皮との十分な接触面積を確保し、真皮への侵襲を防ぐ観点から、30~600μmであることが好ましく、実施例に記載されるように200μmであってよい。
マイクロニードルを縦横方向に等距離で配置する場合のMN相互間の距離(ピッチ)P(
図2(A)参照)としては、500~3000μmとしてよく、1000~2000μmであることが好ましく、実施例に記載されるように700μmであってよい。
基材(
図2(A)中、符号5で示す。)の厚さt(
図2(A)参照)としては、10~2000μmとしてよく、300~1000μmであることが好ましく、実施例に記載されるように450μmであってよい。
【0051】
図2(B)は、本実施形態のマイクロニードルアレイの別の例を斜視図で示す図である。
本実施形態のマイクロニードルアレイ(
図2(B)中、符号1で示す。)では、小マイクロニードル(
図2(B)中、符号2で示す。)を複数本備え、柱状体を複数本含むことが好ましい(
図2(B)参照)。
【0052】
図2(B)に示す別の例のMNAにおける好適な寸法は下記のとおりである。
円柱形状の支柱部分の直径Rp’は、0.2~1mmとしてよい。
円柱形状の支柱部分の高さHp’は、0.2~1mmとしてよい。
円錐形状の小MNの底面の円の直径Rb’としては、20~500μmとしてよい。
円錐形状の小MNの高さH’としては、50μm~1000μmとしてよい。
マイクロニードル2を縦横方向に等距離で配置する場合のMN相互間の距離(ピッチ)Q(
図2(B)参照)としては、500~3000μmであることが好ましく、より好ましくは1000~2000μmである。
円柱体の支柱部分に配置される円錐体の小MNの個数としては、1個~20個としてよく、3個~9個が好ましい。
小MNを支柱部分の円形の頂面において縦横方向に等距離で配置する場合のMN相互間の距離(ピッチ)(図示せず)としては、10~500μmであることが好ましく、より好ましくは100~200μmである。
特に、小MNの個数が7個である場合、支柱部分の円形の頂面の中心に1個、該中心の1個の周囲に6個を配置することが好ましい。このとき、中心の1個を中心とした距離dを半径とする円周上に等間隔に6個配置されることが好ましい。
距離dとしては、50~500μmとしてよく、100~300μmであることが好ましい。
基材(
図2(B)中、符号5で示す。)の厚さt(
図3(A)参照)としては、10~2000μmとしてよく、300~1000μmであることが好ましい。
【0053】
(マイクロニードル、マイクロニードルアレイの製造方法)
本実施形態のマイクロニードル、マイクロニードルアレイは、特に限定されることなく、当技術分野において通常用いられる手法により製造されてよい。
【0054】
MNAがポーラス体を基盤とする場合、例えば、第一の材料(例えば、遅溶性材料)を成型して、第一の材料からなるポーラス構造を有するMNAを調製し、かかるMNAの空隙に第二の材料(例えば、速溶性材料)を充填することによって、本実施形態のMNAを製造してもよい(
図3参照)。
また、MNAがポーラス体を基盤とする場合、例えば、ポーラス構造を形成する材料(例えば、遅溶性材料)と、ポーラス構造を形成する材料以外の材料(例えば、速溶性材料)とを予備混合し、かかる予備混合物を成型することによって、本実施形態のMNAを製造してもよい(
図4参照)。
成型方法や充填方法は、特に限定されることなく、当技術分野における常法を用いてよい。
【0055】
(パッチ)
本実施形態のパッチは、本実施形態のマイクロニードルアレイと、該マイクロニードルアレイに接触して設けられた複数の電極とを含むものである。
ここで、電極の数は、複数であれば特に限定されないが、カソード及びアノードを含めて2つ、3つ、4つ、5つ以上としてよく、カソード及びアノードからなる2つであることが好ましい。
【0056】
図5は、本実施形態のパッチの一例を示す図である。(A)は、一例のパッチを斜視図で示す図であり、(B)は、(A)に示すパッチを薬剤投与の手段に応用した場合のパッチの一部を拡大して示す断面図であり、(C)は、(A)に示すパッチを体液採取の手段に応用した場合のパッチの一部を拡大して示す断面図であり、(D)は、被験者の腕に一例のパッチを貼り付けたときの様子を示す写真である。
【0057】
また、本実施形態のパッチは、複数の電極を電気的に接続するための電子伝導性部材をさらに含む(
図5参照)。また、本実施形態のパッチは、電気浸透流を好適に得る観点から、直流電源を複数の電極に電気的に接続された形で含むことが好ましい。一方、本実施形態のパッチは、それ自体に直流電源を含まず、酵素等の触媒による酸化還元反応を利用して直流電流を得るもの(バイオ電池)をマイクロニードルとともに含んでいてもよく、その場合、パッチは、皮膚に刺入されたマイクロニードルを通して得られる体液に含まれる酵素基質又はパッチ内部に予め燃料として具備された酵素基質と電極に担持された酵素、また、空気中の酸素等と電極に担持された触媒とによる酸化還元反応により直流電流を生じさせる。
【0058】
さらに、本実施形態のパッチには、MNAと電極との間にイオン伝導性部材をさらに含んでもよく、この場合、MNAと電極とは間接的に接触する状態となる。イオン伝導性部材としては、バイオ電池の燃料としての酵素基質等の薬剤溶液を含む薬剤タンクを用いてもよい。
【0059】
本実施形態のパッチにおける電極について、形状としては、特に限定されない。また、電極の素材としては、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラッシーカーボン、グラフェン、フラーレン、カーボンファイバ、カーボンファブリック、カーボンエアロゲル等の炭素材料;ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)等の導電性ポリマー;シリコーン、ゲルマニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化チタン、酸化銅、酸化銀等の半導体;金、白金、チタン、アルミニウム、タングステン、銅、鉄、パラジウム等の金属等が挙げられ、特に、柔軟性や電気化学的な安定性等の観点から、カーボンファブリック、カーボンナノチューブ等の炭素材料が好ましい。
【0060】
特に、パッチが酵素による酸化還元反応を利用して直流電流を得るもの(バイオ電池)をマイクロニードルとともに含んでいる場合、複数の電極は、酸化還元反応を触媒する酵素等が担持された正極(カソード)又は負極(アノード)を少なくとも1つ含むことが好ましい。この場合、電極の素材としては、電極に酵素を高い密度で固定する観点から、前述の炭素材料が好ましく、特に、カーボンファブリックにカーボンナノチューブを修飾したものが好ましい。正極(カソード)に担持される還元反応の触媒としては、例えば、ビルリビンオキシダーゼ(Bilirubin Oxidase、BOD)、ラッカーゼ、Cu efflux oxidase(Cueo)、アスコルビン酸オキシダーゼ、鉄フタロシアニン等が挙げられ、特に、pHや塩化物イオン等に対する耐性を高める観点から、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)や鉄フタロシアニンが好ましい。負極(アノード)に担持される酸化反応を触媒する酵素としては、例えば、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(Glucose Dehydrogenase,GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ(D-Fructose Dehydrogenase,FDH)、アルコールオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ等が挙げられ、特に、酵素反応系をシンプルなものとすることができるという理由から、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)やフルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)が好ましい。これらの中でも、特に、BOD及び鉄フタロシアニンと、GDH及びFDHそれぞれの組み合わせは、生体組織の外表面におけるpHと同等のpH5の条件下で高い活性を発揮することができるため、好ましい。なお、これらの還元反応を触媒する酵素及び酸化反応を触媒する酵素は、それぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本実施形態のパッチは、体液採取(サンプリング)装置や薬剤投与装置として構成することができる。
(パッチの製造方法)
本実施形態のパッチは、特に限定されることなく、当技術分野において通常用いられる手法により製造されてよい。
【0062】
(方法)
本実施形態のマイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチを用いて各種の方法を提供することができる。
【0063】
本実施形態のマイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチの適用対象は、ヒト及び非ヒト(例えば、ブタ、ウシ、トリ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ等)としてよく、具体的には、ヒト及び非ヒトの皮膚としてよい。
より具体的には、本実施形態のマイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチは、皮膚の表皮の外表面に対して、穿刺等の医療行為の外科的処置に該当しない限りにおいて、貼付して用いられてよい。
【0064】
図6は、
図1に示す本実施形態のマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いた本実施形態の方法の構成例を示す図である。
【0065】
図6(A)は、マイクロニードルを皮膚に刺入し、ポーラス構造における空隙に充填されている速溶性材料を薬剤として経皮投薬する様子を示す図である。
【0066】
本実施形態の方法は、経皮投薬方法(但し、医療行為を除く。)としてよく、かかる経皮投薬方法は、本実施形態のマイクロニードル、及び/又は本実施形態のマイクロニードルアレイ、及び/又は本実施形態のパッチを用いるものとしてよい。
【0067】
本実施形態の方法は、皮下組織液のサンプリングの方法(但し、医療行為を除く。)としてよく、かかる皮下組織液のサンプリングの方法は、本実施形態のマイクロニードル、及び/又は本実施形態のマイクロニードルアレイ、及び/又は本実施形態のパッチを用いるものとしてよい。
【0068】
図6(B)は、マイクロニードルを皮膚に刺入し、ポーラス構造を通じて経皮投薬する様子を示す図であり、且つポーラス構造を通じて皮下組織液をサンプリングする様子を示す図である。
【0069】
本実施形態の方法は、経皮通電方法(但し、医療行為を除く。)としてよく、かかる経皮通電方法は、本実施形態のマイクロニードル、及び/又は本実施形態のマイクロニードルアレイ、及び/又は本実施形態のパッチを用いるものとしてよい。
【0070】
図6(C)は、マイクロニードルを皮膚に刺入し、ポーラス構造を通じて経皮通電する様子を示す図である。
【0071】
以上、図面を参照して、本発明のマイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチ、方法の実施形態について例示説明したが、本発明のマイクロニードル、マイクロニードルアレイ、パッチ、方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
A.試薬、材料
以下の試薬・材料を用いた。
遅溶性材料として、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)(ポリ乳酸:グリコール(モル比)が、75:25のもの、50:50のものと、重量平均分子量(Mw)が、20kDaのもの、97kDaのもの、76~115kDaのものと、の組み合わせを用いた。いずれも、Polyscience社製)。
速溶性・親水化材料として、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、C5678、Sigma Aldrich社製)、微小繊維状セルロース(セリッシュ FD100G、ダイセルファインケム社製)。
ポーラス構造を有するマイクロニードルの鋳型材料として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184、Dow Corning社製)。
溶媒として、1,4-ジオキサン(D0860、東京化成工業社製)。
【0074】
B.マイクロニードルアレイの作製
【0075】
(試験例1)
切削加工機(モディアシステムズ社製)を用いて、マイクロニードルアレイ形状を複数彫り込んだテフロン(登録商標)製の鋳型(メス型)を作製し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)でオス型を作製するという2段階の転写を行うことによって、PDMS製のメス型鋳型を得た。
鋳型の寸法(マイクロニードルアレイの寸法)は、下記のマイクロニードルアレイの寸法に合わせたものとした。
マイクロニードルアレイの形状は円錐形状とした(
図2(A)参照)。
鋳型の寸法(マイクロニードルの寸法)は下記の通りとした。
・円柱形状の支柱部分の直径Rp0.3mm
・円柱形状の支柱部分の高さHpは0.2mm
・底面の円の直径Rb:100μm
・高さH:200μm
・MN相互間の距離(ピッチ)P:700μm
・基材の厚さt:450μm
図3は、試験例1の製造方法の概要を説明する図である。
図3に示す通り、遅溶性材料・生分解性材料であるPLGAを1,4-ジオキサンに溶解した溶液を鋳型に導入し、鋳型全体を3700rpmで10分間遠心分離機にかけることで、ニードル先端部まで溶液を充填した。
次いで、-80℃で2時間凍結を行うことで、1,4-ジオキサンによるポーラス部分を得た後、凍結乾燥機を用いて1,4-ジオキサンを昇華させて除去した。
成型したPLGAのマイクロニードルアレイを鋳型から離型し、速溶性材料であるカルボキシメチルセルロース(CMC)の2質量%水溶液に完全に浸漬し、真空引きを行うことで、CMC水溶液をマイクロニードルアレイ全体に充填させた。
最後に、マイクロニードルアレイを水溶液から引き上げ、25℃で1時間以上自然乾燥させることで、PLGAにCMCが充填された生分解性のマイクロニードルアレイを得た。
溶液中のPLGA濃度は1,4-ジオキサン中で20質量%とした。ポリ乳酸:グリコール(モル比)が、75:25のもので、重量平均分子量(Mw)が97kDaのものを用いた。
【0076】
図7は、試験例1の作製過程におけるPLGAにCMCを充填していない状態のマイクロニードルアレイを光学顕微鏡で観察したときの写真である。
図7(A)は、鋳型全体を遠心分離機にかけた後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。この写真から、鋳型に遠心力によってPLGA溶液が十分に充填され、鋭いニードル形状が得られていることがわかる。
図7(B)は、凍結乾燥した後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。
図7(C)は、(B)の一部を拡大して示した光学顕微鏡写真である。これらの写真から、マイクロニードルに径1~10μm程度のポーラス構造が存在していることがわかる。
【0077】
図8は、試験例1の作製過程におけるPLGAにCMCを充填した状態のマイクロニードルアレイを光学顕微鏡で観察したときの写真である。
図8(A)は、浸漬及び真空引き後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。この写真から、鋳型に遠心力によってPLGA溶液が十分に充填され、鋭いニードル形状が得られていることがわかる。CMCの導入による光学顕微鏡画像上の大きな変化は見られなかった。
図8(B)は、自然乾燥した後のマイクロニードルアレイの光学顕微鏡写真である。
図8(C)は、(B)の一部を拡大して示した光学顕微鏡写真である。
これらの写真から、が、ポーラス構造の中にCMCが充填されている様子が見られた。この充填によってポーラス構造の全ての空隙が塞がれるではなく、一部の空隙は気泡(場合によっては貫通孔)となっていることが写真から示唆された。
【0078】
C.マイクロニードルアレイの評価
C-1.空隙率の評価
PLGAにCMCを充填していない状態のマイクロニードルアレイの空隙率を質量計測により定量化した。
上記マイクロニードルアレイを水に完全に浸漬させ、全部の空隙に水を充填したマイクロニードルアレイの質量を計測した後、同じマイクロニードルアレイを乾燥させて質量を計測し、その差分の質量を水の密度(1.0g/cm3)で除することによって、ポーラス構造の空隙の体積を計算した。
次に、乾燥したマイクロニードルアレイの質量をPLGAの密度(1.3g/cm3)で除することによって、PLGA部分の体積を計算した。
最後に、このポーラス構造の空隙の体積のマイクロニードルアレイ全体の体積に対する割合(体積%)を計算した。
【0079】
試験例1について、このマイクロニードルアレイの空隙率は43±5.3体積%(N=3)であることがわかった。この値は、速溶性・生分解性材料(CMC)を充填した場合にそれが溶解し切った後の遅溶性・生分解性材料(PLGA)のみからなるマイクロニードルアレイの空孔率に相当するものである。かかる空隙率は、PLGAがさらに体内で分解されることで、時間経過に従って上昇していくと考えられる。
【0080】
なお、試験例1について、PLGAにCMCを充填していない状態のマイクロニードルアレイには電子顕微鏡画像からみてポーラス構造が存在することが別途確認された(図示せず)。
【0081】
C-2.機械的強度の評価
生分解性のマイクロニードルは皮膚に刺入するのに十分な機械的強度を有している必要があるため、マイクロニードルの機械的強度を計測した。ここで、機械的強度は、荷重/ひずみ(N/mm)計測における降伏点の強度である。降伏点とは、材料が荷重に耐えられず変形した時の力のことである。
測定手順としては、マイクロニードルアレイのニードルの先端を鉛直方向に沿って上向きに静置し、フォースゲージ(イマダ社製、商品名:ZTA-5N)を用いて先端に対して水平方向に沿う面を押し込むことで、荷重/ひずみ(N/mm)を評価し、また、先端の変形を画像評価した。
図9は、試験例1で得られたマイクロニードルの機械的強度の計測の様子を示す写真である。(A)は、概観写真、(B)は、拡大写真である。
【0082】
速溶性・生分解性材料としてカルボキシメチルセルロース(CMC)をマイクロニードルのポーラス部分に充填した試験例1のマイクロニードルは高い荷重/ひずみを示した。マイクロニードルを皮膚に刺入する際に必要な力は、ニードル1本あたり0.06N以上と先行研究から推測されるため、試験例1のマイクロニードルアレイにおける36本のニードルでは、約2.2Nの力で押すことに耐えられる必要がある。試験例1のマイクロニードルアレイは、その機械的強度の基準を満たしていると考えられる(
図10参照)。
図10は、マイクロニードルの機械的強度の計測において荷重/ひずみ(N/mm)を評価した結果をまとめたチャートである。
【0083】
また、そのマイクロニードルを皮膚に刺入するのに必要な力(ニードル1本あたり0.06N)をフォースゲージを用いてニードルに加えた際のニードル先端の変形を画像評価した(
図11参照)ところ、CMCを充填した試験例1のマイクロニードルでは変形が見られなかった。後述のとおり、PLGAのみのマイクロニードルでは皮膚刺入の力に耐えられないこととの比較から、CMCの充填により機械的強度が高まり、皮膚刺入が可能な生分解性マイクロニードルが構築可能であることがわかった。
図11は、マイクロニードルの機械的強度の計測においてマイクロニードルの先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。
図11(A)(上段)は、試験例1で得られたマイクロニードルの先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。
【0084】
ここでは、試験例1のMNAの比較対象となるMNAも作製のうえ、試験例1の場合と同様に機械的強度の測定を行った。
【0085】
まず、遅溶性・生分解性材料であるPLGAとして、Mw=97000であり、構成材であるポリ乳酸(PLA)モノマー単位とポリグリコール酸(PGA)モノマー単位とのモル比が75:25のもの(空隙率43体積%)と50:50のもの(空隙率未測定)とを用いて、マイクロニードルを製作し、速溶性・生分解性材料は充填せず、機械的強度を計測した。
結果として、遅溶性・生分解性材料のみだと、十分な機械的強度がないことが確認された(
図10参照)。
PLGAのみのニードル(モノマー単位のモル比=75:25のもの)では、力を加えた後に先端が60μm程度押しつぶされるように変形している様子が確認された(
図11(B)参照)。
図11は、マイクロニードルの機械的強度の計測においてマイクロニードルの先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。
図11(B)(下段)は、比較対象のマイクロニードル(PLGAのみ)の先端の変形の画像評価の様子を示す写真である。
【0086】
C-3.イオン伝導性の評価
マイクロニードルの気泡がマイクロニードルの針の先端から基板の下まで貫通しているかを評価するため、マイクロニードルのイオン伝導性(電気抵抗率)を計測した(
図12参照)。
図12は、マイクロニードルのイオン伝導性の評価における評価系の概要を説明する図である。
PLGAもマイクロニードルを、リンゲル液を充填したアガロースゲル(模擬皮膚モデル)に刺入し、上部にカーボン製の電極を配置し、そこからACインピーダンス測定機に繋げ、もう片方の電極はアガロースゲル上に静置した(
図12参照)。
電極上部にリンゲル液をたらし、マイクロニードルの乾燥を防ぐことで、イオン伝導性が十分に保たれるように管理した。なお、特に、CMCを充填していないマイクロニードルは疎水性を示したため、測定の便宜上、事前にリンゲル液中に浸し、真空引きによって空孔内部に電解質溶液を充填した。
インピーダンスの高周波領域は系の直流抵抗成分とほぼ一致するため、100kHzにおけるインピーダンスを計測することで、系の抵抗を計測したこととした。
計測結果の抵抗から、事前に計測しておいたゲル及び電極等の系のマイクロニードル以外の要素の抵抗を除去することで、マイクロニードルの抵抗を算出し、マイクロニードルのイオン伝導性の評価を行った。
【0087】
CMCを充填した試験例1のマイクロニードルは、ゲルに刺入したのちにニードル上部のリンゲル液と下部のゲルから電解質溶液が内部に徐々に供給され、上部-下部が完全に導通することで低い抵抗値(~7kΩ)を示した(
図13(A)参照)。
この抵抗値を60分間モニタリングしたところ、その抵抗値は徐々に下がっていく(~5.6kΩ)様子が確認された(
図13(B)参照)。
図13は、試験例1のマイクロニードルのイオン伝導性を評価した結果を示す図である。
図13(A)は、試験例1のマイクロニードルの抵抗の経時変化(0~60分間)を表すチャートである。縦軸に抵抗(kΩ)を示し、横軸に時間(分間)を示す。
図13(B)は、(A)に示すチャートのうち15~60分間の部分を拡大して表すチャートである。縦軸に抵抗(kΩ)を示し、横軸に時間(分間)を示す。
【0088】
ここから、CMCを充填したマイクロニードルは親水性が高いため乾燥しづらく抵抗値が上がっていかないこと、また、CMCが溶解することから空孔の大きさが徐々に広がっていき、むしろ徐々に抵抗値が下がっていくと考えられる。
このkΩレベルの抵抗値は、皮膚の真皮の抵抗値が~10kΩであることから、経皮通電する際に無視できる小ささの抵抗値であり、CMCの充填によって高いイオン伝導性を長時間安定して維持可能な生分解性マイクロニードルを構築できることがわかった。
【0089】
試験例1の比較対象となるCMCを充填していないPLGAのみのマイクロニードル(空隙率43体積%)は、事前に真空引きによって内部に電解質溶液を満たしていたことから、ゲルに刺入後すぐに低い抵抗値(高いイオン伝導性)である1kΩを示したが、数分以内に徐々に抵抗値が上昇していくことが確認された(
図14参照)。
図14は、比較対象のマイクロニードル(PLGAのみ)の抵抗の経時変化を表すチャートである。縦軸に抵抗(kΩ)を示し、横軸に時間(分間)を示す。
また、CMCを充填していないPLGAのみのマイクロニードルであって、敢えて真空引きを行わなかったニードルの抵抗値は400kΩ以上の高い抵抗値を示した(図示せず)。
このことから、疎水性を示すPLGAマイクロニードルのみでは、徐々にニードル内部空孔へ空気が侵入・乾燥し、イオン伝導性が経時的に失われていくと考えられる。
【0090】
C-4.溶出速度の評価
模擬皮膚モデルであるアガロースゲル(アガロース3gにリンゲル液を100mL加えて固めたもの)に試験例1のマイクロニードルを刺入した際に、速溶性・生分解性材料であるCMCが溶出することがわかったため、その溶出速度を評価した。
CMC充填前のPLGAのみのマイクロニードル、CMCを充填した後のマイクロニードル、CMCを充填した後のマイクロニードルをアガロースゲルに刺入し上部にリンゲル液を垂らした状態で1時間静置することでCMCを溶出させたマイクロニードル、のそれぞれについて、質量を計測し比較した(
図15参照)。
図15は、試験例1のマイクロニードルの溶出速度を評価した結果をまとめたチャートである。
結果として、充填前(38.3mg)を100質量%としたとき、充填後は17質量%増加(計44.7mg)し、溶出後はそこから12質量%減少した(計40.4mg)。
従って、CMC自体は量として4.3mg/h程度の速度で溶出することがわかった。また、1時間の溶出では元の重量より5質量%多いことから、空孔内にCMCの微量な溶け残りが存在すると考えられる。このCMCの微量な残存により高い親水性が保たれ、高いイオン伝導性を実現できていることが示唆される。
【0091】
試験例1のマイクロニードルアレイについて、条件及び結果の詳細を表1に示す。
【0092】
(試験例2)
切削加工機(モディアシステムズ社製)を用いて、マイクロニードルアレイ形状を複数彫り込んだテフロン(登録商標)製の鋳型(メス型)を作製し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)でオス型を作製するという2段階の転写を行うことによって、PDMS製のメス型鋳型を得た。
図4は、試験例2の製造方法の概要を説明する図である。
図4に示す通り、遅溶性・生分解性材料であるPLGA、及び速溶性材料であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を1,4-ジオキサンに溶解した溶液を鋳型に導入し、鋳型全体を3700rpm、10分間遠心分離機にかけることで、ニードル先端部まで溶液を充填した。
次いで、-80℃で2時間凍結させ、凍結乾燥機を用いて1,4-ジオキサンを昇華させて除去した。
成型したPLGAマイクロニードルアレイを鋳型から離型し、CMCが充填された生分解性のマイクロニードルを得た。
【0093】
試験例2のマイクロニードルアレイについても、試験例1と同様に評価を行った。
【0094】
試験例2のマイクロニードルアレイについて、条件及び結果の詳細を表1に示す。
【0095】
【0096】
(試験例3A~試験例3I)
遅溶性・生分解性材料であるPLGAは、使用濃度や分子量が異なると硬さが変化するため、使用濃度として、10、20、30質量%の条件を、重量平均分子量(Mw)として、20、90、76~115kDaの条件を、組み合わせて用い、それぞれ検討した(表2参照)。
PLGAの使用濃度が高いほど、また分子量が大きいほど、得られるマイクロニードルの機械的強度が高くなり、より皮膚への刺入に適すると考えられた。一方で、凍結乾燥のプロセスで発泡する、あるいは分離してしまうといった作製上の問題が、使用濃度30質量%の場合や、使用濃度が高めになったときの分子量76~115kDaの場合において生じた。
試験例3A~試験例3Iにより、使用濃度20質量%、重量平均分子量(Mw)97kDaが最適値に近い値であることがわかった。
なお、試験例3Eは、試験例1と同じである。
【0097】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、機械的強度及び親水性に優れるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを提供することができる。また、本発明は、かかるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いるパッチを提供することができる。さらに、本発明は、かかるマイクロニードル、マイクロニードルアレイを用いる方法を提供することができる。