(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】HiBiTを利用したB型肝炎ウイルス複製モニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20241218BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20241218BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241218BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241218BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241218BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20241218BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20241218BHJP
C07K 14/02 20060101ALN20241218BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20241218BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20241218BHJP
C12N 15/51 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N7/01
C12N5/10
C12N5/071
C12Q1/02
C12Q1/66
C07K7/06
C07K14/02
C07K19/00
C12N9/10
C12N15/51
(21)【出願番号】P 2020181339
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「肝炎等克服実用化研究事業 B型肝炎創薬実用化等研究事業」「B型肝炎ウイルスの排除にむけた新規治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 周一
(72)【発明者】
【氏名】本多 政夫
(72)【発明者】
【氏名】島上 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】村居 和寿
(72)【発明者】
【氏名】黒木 和之
【審査官】齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/259345(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HBV遺伝子のPreS1遺伝子に、配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTをコードするDNAを含む
、HBVベクター。
【請求項2】
HBV遺伝子に配列番号3で表される33塩基からなるHiBiTをコードするDNAが置換、挿入又は付加されている、請求項
1に記載のHBVベクター。
【請求項3】
HBV遺伝子のPreS1遺伝子の5'端側が配列番号3で表される33塩基からなるHiBiTをコードするDNAに置換又は付加されている、請求項1
又は2に記載のHBVベクター。
【請求項4】
HBVのPreS1蛋白
質に配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTが置換、挿入又は付加されている
、HBV粒子。
【請求項5】
HBVのエンベロープのPreS1蛋白質のN末端側に配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTが置換又は付加されている、
請求項4記載のHBV粒子。
【請求項6】
(i) 請求項1~
3のいずれか1項に記載のHBVベクターにより肝臓由来細胞をトランスフェクトし該細胞を培養する工程、及び
(ii) (i)の工程で培養した細胞からHBV粒子を回収する工程、
を含む、請求項
4又は5
に記載のHBV粒子を製造する方法。
【請求項7】
肝臓由来細胞が、HepG2細胞又はHuh-7細胞である、請求項
6記載の方法。
【請求項8】
請求項
4又は5に記載のHBV粒子が感染した、肝臓由来細胞。
【請求項9】
(i) 請求項
4又は5に記載のHBV粒子を肝臓由来細胞に感染させ、該細胞を培養する工程、及び
(ii) (i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程、
を含む、HBVの複製をモニタリングする方法。
【請求項10】
(ii)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程が、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出することにより測定する工程である、請求項
9記載の方法。
【請求項11】
工程(ii)において、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、NanoLuc(登録商標)を再構成させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出することにより測定する、請求項
9又は
10に記載の方法。
【請求項12】
(i) 請求項
4又は5
に記載のHBV粒子を肝臓由来細胞に感染させると共に該細胞を抗HBV薬の候補化合物と接触させ、該細胞を培養する工程、及び
(ii) (i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程、を含み、HiBiT活性を指標に候補薬物から抗HBV薬を選択する、抗HBV薬をスクリーニングする方法。
【請求項13】
(ii)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程が、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出することにより測定する工程である、請求項
12記載の方法。
【請求項14】
工程(ii)において、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、NanoLuc(登録商標)を再構成させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出する、請求項
12又は
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HiBiTを有するHBVベクター、HiBiTを有するHBV粒子に関する。また、本発明は、B型肝炎ウイルスの複製をモニタリングする方法に関する。さらに、本発明は、該システムを用いて抗B型肝炎ウイルス薬をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)が血液や体液を介して感染して起きる肝臓の病気である。B型肝炎ウイルスの感染は急性および慢性の肝炎症を引き起こし、さらには肝硬変、肝癌を引き起こすことが知られている。患者数は120万人ほどで、毎年30万人がB型肝炎関連疾患で死亡していると報告されている。
【0003】
従来B型肝炎ウイルス(以下HBV)の複製は、定量PCR法、ウエスタン・ブロッテインブ法、サザンブロティング法などの労力を要する方法で行われきた。
【0004】
現在世界的に、HBVに対する抗ウイルス薬の開発が行われているが、抗ウイルス薬の効果を検証するハイスループットな方法が存在しないため、開発は発展途上である(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jianming Hu et al., Gastroenterology 2019; 156: 338-354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、HBVの複製を定量する系として、ELISA法、PCR法、ノーザンブロッティング、サザンブロッティングが行われていたが、コストや時間の点で効率は高くなく、High through putスクリーニングには不適であった。
本発明は、従来よりも簡便に低コストでHBVの複製をモニタリングする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の方法よりも簡便かつ低コストでHBVの複製をモニタリングする系の開発に鋭意検討を行った。
【0008】
本発明者らは、HBVの蛋白質に11アミノ酸からなるHiBiTを置換、挿入又は付加したリコンビナントウイルス(HiBiT-HBVウイルス)を作製した。このHiBiT-HBVウイルスは初代培養肝細胞等の肝臓由来細胞に感染し、培養上清中にHiBiTを含むウイルス蛋白質が放出される。そのため、細胞上清中のHiBiTの活性を測定することで、HBVの複製を従来法に比べて簡便に測定できることを見いだし本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] HBV遺伝子に、配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTをコードするDNAを含む、HBVベクター。
[2] HBV遺伝子のPreS1遺伝子に、配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTをコードするDNAを含む、[1]のHBVベクター。
[3] HBV遺伝子に配列番号3で表される33塩基からなるHiBiTをコードするDNAが置換、挿入又は付加されている、[1]又は[2]のHBVベクター。
[4] HBV遺伝子のPreS1遺伝子の5'端側が配列番号3で表される33塩基からなるHiBiTをコードするDNAに置換されている、[1]~[3]のいずれかのHBVベクター。
[5] HBVの蛋白質に配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTが置換、挿入又は付加されている、HBV粒子。
[6] HBVのPreS1蛋白質、PreS2蛋白質、ポリメラーゼ蛋白質又はCoreタンパク質に配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTが置換、挿入又は付加されている、[5]のHBV粒子。
[7] HBVのエンベロープにPreS1蛋白質のN末端側に配列番号2で表される11アミノ酸からなるHiBiTが付加されている、HBV粒子。
[8](i) [1]~[4]のいずれかのHBVベクターにより肝臓由来細胞をトランスフェクトし該細胞を培養する工程、及び
(ii) (i)の工程で培養した細胞からHBV粒子を回収する工程、
を含む、[5]~[7]のいずれかのHBV粒子を製造する方法。
[9] 肝臓由来細胞が、HepG2細胞又はHuh-7細胞である、[8]の方法。
[10] [5]~[7]のいずれかのHBV粒子が感染した、肝臓由来細胞。
[11](i) [5]~[7]のいずれかのHBV粒子を肝臓由来細胞に感染させ、該細胞を培養する工程、及び
(ii) (i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程、
を含む、HBVの複製をモニタリングする方法。
[12] (ii)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程が、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出することにより測定する工程である、[11]の方法。
[13] 工程(ii)において、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、NanoLuc(登録商標)を再構成させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出することにより測定する、[11]又は[12]の方法。
[14] (i) [5]~[7]のいずれかのHBV粒子を肝臓由来細胞に感染させると共に該細胞を抗HBV薬の候補化合物と接触させ、該細胞を培養する工程、及び
(ii) (i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程、を含み、HiBiT活性を指標に候補薬物から抗HBV薬を選択する、抗HBV薬をスクリーニングする方法。
[15] (ii)の細胞培養上清中のHiBiT活性を測定する工程が、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出することにより測定する工程である、[14]の方法。
[16] 工程(ii)において、(i)の細胞培養上清中のHiBiT活性を、HiBiTをNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ断片(LgBiT)と結合させ、NanoLuc(登録商標)を再構成させ、ルシフェリンの存在下で発光させ、発光を発光測定装置により検出する、[14]又は[15]の方法。
【発明の効果】
【0010】
HBVの蛋白質に11アミノ酸HiBiT蛋白質を置換、挿入又は付加したリコンビナントウイルス(HiBiT-HBVウイルス)は野生型HBVと同様に細胞中で自立増殖することができる。従って、本発明のHBVの複製をモニターする方法により、HBVの生活環をモニターすることができる。本発明の方法により、HBVの複製のモニターに関して、高感度・安価なマーカーでハイスループットアッセイが可能となり、HBV全生活環の研究及びHBV創薬に利用することできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】HBV遺伝子へのHiBiTをコードするDNAの置換挿入方法を示す。
図1AはHBVの野生型のpreS1蛋白質のN末端部分のDNA配列及びアミノ酸配列を示し、
図1Bは、HBVのpreS1のN末端の2番目から10番目の9つのアミノ酸をコードする配列の、11アミノ酸のHiBiTをコードする配列への置換挿入を示す。
【
図2】HBVの用量依存性のHBV感染後のHiBiT活性の増加を示す図である。
【
図3】HBV粒子の細胞への感染と同時にウイルス複製阻害剤及びウイルス侵入阻害剤を接触させた場合の経時的なHiBiTの活性の変動を示す図である。
【
図4】HBV粒子の細胞への感染と同時にウイルス複製阻害剤及びウイルス侵入阻害剤を接触させた場合の9日目と12日目のHiBiT活性を示す図である。
【
図5】HBV粒子の細胞への感染と同時に又は3日後にウイルス侵入阻害剤を接触させる実験のプロトコールを示す図である。
【
図6】HBV粒子の細胞への感染と同時に又は3日後にウイルス侵入阻害剤を接触させた場合のHiBiT活性を示す図である。
図6AがHeparinを投与した場合の結果を示し、
図6BはMyrBを投与した場合の結果を示す。
【
図7】HiBiTを置換挿入されていない野生型のウイルスとHiBiTを置換挿入されたウイルスのHBV粒子の感染後の複製能の比較を示す図である。AがHiBiT活性を、BがHBs抗原量(HBsAg)を、Cが細胞中のpregenomic RNA(pgRNA)を、DがHBcore関連抗原量(HBcAg)を、EがcccDNA量を、FがHBV DNA量を示す。
【
図8】HBVベクターをHepG2細胞に遺伝子導入し、HBV粒子を作製し、Iodixanol density gradient分離を行ったときのフラクション毎の解析の結果を示す。
図8AはWT(野生型)の結果を示し、
図8BはHBV-HiBiTの結果を示す図である。
【
図9】HBVベクターをHepG2細胞に遺伝子導入し、HBV粒子を作製し、Iodixanol density gradient分離を行ったときの各フラクションの感染性を示す図である。
図9AはWTの結果を示し、
図9BはHBV-HiBiTの結果を示す。また、(1)はHBV-DNAの測定結果を、(2)はcccDNAの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
1.HiBiTを含むHBVベクターの作製
本発明はB型肝炎ウイルス(HBV)の感染及び複製をモニターすることができるHBVベクターである。
【0014】
本発明のHBVベクターは、HBV遺伝子を含み、HBVの遺伝子の一部がHiBiTをコードするDNAで置換されている。すなわち、本発明のHBVベクターは遺伝子にHiBiTをコードするDNAを含む。
【0015】
HBVは、DNAウイルスであり、ゲノムDNAは約3200塩基対の一部が一本鎖構造をとる環状不完全二重鎖から構成され、HBV遺伝子は、S領域、C領域、P領域及びX領域からなる4つのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする遺伝子を有している。
【0016】
S領域は、HBVのエンベロープの表面抗原蛋白質であるlarge S蛋白質をコードしている遺伝子であり、PreS1遺伝子及びPreS2遺伝子を有する。
C領域はHBVのDNAを包み込むコア粒子をコードする遺伝子であるPre-C/C遺伝子を有する。
P領域はDNAポリメラーゼ遺伝子を有する。
X領域はトランス活性化蛋白質であるX蛋白質をコードするX遺伝子を有する。
これらの4つの領域の遺伝子の一部が変異していてもよい。
【0017】
HBVはA(Aa/1、Ae/2、Ac/3)、B(Bj/1、Ba/2、B3、B4、B5)、C(Ce/1、Cs/2、C3、C4)、D(D1、D2、D3、D4、D5)、E、F(F1、F2、F3、F4)、G、H、Jの9のgenotypeがあるが、本発明のHBVベクターはいずれのgenotypeのHBV由来でもよい。また、これらのgenotypeのゲノムが変異したHBV由来でもよい。一例として、配列番号1にgenotype C(clone: c_JPNAT)のゲノム配列(アクセッション番号:AB246345)を示す。
【0018】
HBVベクターに含まれるHBV遺伝子の長さは、3.6kb以下、好ましくは3.5kb以下、さらに好ましくは3.4kb以下である。
【0019】
HiBiTはVSGWRLFKKIS(配列番号2)で表される11アミノ酸からなるペプチドタグである。HiBiTをコードするDNAの塩基配列を配列番号3に示す。HiBiTは発光法によって目的蛋白質を検出する技術であるHiBiT system(Nano Glo(登録商標) HiBiT Lytic Detection System)(プロメガ社)において用いられるペプチドタグである。HiBiTは、約18kDaのNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ断片(LgBiT;Large BiT)に高い親和性で結合し、NanoLuc(登録商標)を再構成し、基質の存在下で発光する。
【0020】
本発明においては、HiBiTをHBVベクターにレポーターとして導入し、HBVベクターを用いてHBV粒子を製造し、該HBV粒子を細胞に感染させ、レポーターの発光を検出することにより細胞におけるHBVウイルスの感染、複製をモニターすることができる。発光の検出は、一般的な発光測定装置(ルミノメーター)で行うことができる。本発明において、HBV粒子は野生型HBV粒子とHiBiTを含む点で異なるので、HBV粒子をHBV様粒子と呼ぶこともできる。
【0021】
HiBiTは、HBVの蛋白質に置換、挿入又は付加されている。HiBiTが置換、挿入又は付加されるHBVの蛋白質としてS領域の遺伝子がコードするPreS1蛋白質及びPreS2蛋白質、P領域の遺伝子がコードするポリメラーゼ(pol)蛋白質、C領域のC遺伝子がコードするCore蛋白質等が挙げられる。ここで、置換とはHiBiTがHBVの蛋白質の一部と置換されることをいい、挿入とはHiBiTがHBVの蛋白質中に挿入されることをいい、付加とはHiBiTがHBV蛋白質のN末端又はC末端に付加されることをいう。HiBiTはこれらの蛋白質の一部と置換されても、これらの蛋白質のN末端に付加されても、これらの蛋白質のC末端に付加されても、これらの蛋白質中に挿入されてもよい。好ましくはHBVのLarge S蛋白質を構成するPreS1蛋白質のN末端側に置換又は付加されている。11個のアミノ酸からなるHiBiTは、PreS1蛋白質のN末端側の11アミノ酸と置換又は付加することによりPreS1蛋白質のN末端に置換又は付加される。この際、リンカーがあってもなくてもよい。本発明のHBVベクターはHBVゲノム遺伝子中にHiBiTをコードするDNAを含んでいる。例えば、PreS1遺伝子にHiBiTをコードするDNAを含んでいる。PreS1遺伝子の5'端側がHiBiTをコードするDNAで置換され、または5'端側に該DNAが付加されることにより、PreS1遺伝子にHiBiTをコードするDNAを含んでいる。
図1に、HBV遺伝子へのHiBiTをコードするDNAの置換方法の概要を示す。
図1は、配列番号1にゲノム配列を示すgenotype Cを用いた場合の例である。
図1AはHBVの野生型のpreS1蛋白質のN末端部分のDNA配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6)を示し、
図1Bは、HBVのpreS1のN末端の2番目から10番目の9つのアミノ酸をコードする配列の、11アミノ酸のHiBiTをコードする配列への置換を示す。置換後のDNA配列を配列番号7に示し、置換後のアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0022】
HiBiTの発光を検出する、Nano Glo(登録商標) HiBiT Lytic Detection Systemとしては、プロメガ社より入手することができる。Nano Glo(登録商標) HiBiT Lytic Detection Systemは、HiBiTをコードするDNA、LgBiT及びNanoLuc(登録商標)基質を含む試薬等を含む。
【0023】
HBVベクターは、HBV遺伝子を含むプラスミドであり、発現ベクターとして用い得る公知のベクターを用いることができる。このように、ベクターとして、プラスミドベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を挙げることができる。プラスミドベクターとしては、例えばpUC系ベクターを用いることがで、pUCベクターとして、pUC18、pUC19、pHSG298、pHSG299、pHSG396、pHSG398等が挙げられる。
【0024】
これらのベクターを骨格として用い、S領域、C領域、P領域及びX領域からなる4つのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする遺伝子を発現可能に挿入しHBVベクターを作製する。さらに、HBVベクター上のHBVの蛋白質にHiBiTが置換、挿入又は付加されるようにHiBiTをコードするDNAをレポーターとして、HBV遺伝子の一部と置換するか、HBV遺伝子の一部に挿入又は付加すればよい。例えば、HBVベクター上のHBVのPreS1蛋白質のN端側にHiBiTが置換又は付加されるようにHiBiTをコードするDNAをレポーターとして、HBV遺伝子のPreS1領域の一部と置換するが、又はPreS1領域に付加すればよい。
【0025】
2.HBVベクターによる細胞のトランスフェクト
HiBiTをコードするDNAを含むHBVベクターを細胞に導入(トランスフェクト)する。
トランスフェクトは、公知の方法で行うことができる。例えば、遺伝子導入試薬を用いた方法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。遺伝子導入試薬としては、ポリエチエレンイミン(PEI、直鎖型もしくは分岐型)や市販の遺伝子導入試薬が挙げられる。市販の遺伝子導入試薬として、Lipofectamine(登録商標)、Lipofectamine plus(登録商標)、Lipofectamine 3000(登録商標)、jet PEI(登録商標)、TransIT(登録商標)、Xfect(商標)、Transfectin-Lipid(登録商標)、Oligofectamine(登録商標)、siLentFect(登録商標)、DMRIE-C(登録商標)、Effectene(登録商標)、FuGENE(登録商標)等を挙げることができる。ポリエチレンイミン(PEI)には、直鎖PEIと1級、2級、3級アミンを含む分岐PEIとが存在するがいずれも用いることができる。また、PEIの分子量も限定されない。さらに脱アシル化等の化学修飾されたPEIも用いることができる。
【0026】
HBVベクターをトランスフェクトする細胞は、細胞中でHBVウイルスが複製され、蛋白質が発現する細胞であり、肝臓由来の細胞が好ましい、例えば、HepG2細胞、Huh-7細胞、Huh-6細胞、Huh-1細胞、Ale細胞、PH5CH細胞、KYN-細胞、HAK6細胞、HAK5細胞、HAK1B細胞、HAK1A細胞、Kim-1細胞、KH細胞等が挙げられ、HepG2細胞及びHuh-7細胞が好ましい。
【0027】
3.HBV粒子の回収
上記細胞にHBVベクターをトランスフェクトした後、数日間、例えば1~7日間細胞を培養し、培養上清を回収し、培養上清からウイルス粒子を回収する。細胞の培養に用いる培地、培養条件は、通常の動物細胞の培養に用いる培地、条件である。ウイルス粒子の回収は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)によりウイルスを沈殿させ、遠心分離により沈殿を回収し、得られた沈殿から、ショ糖を用いた密度勾配遠心分離法により分離することができる。
【0028】
回収されたHBV粒子の蛋白質にHiBiTが置換、挿入又は付加されている。例えば、HBV粒子のLarge S蛋白質を構成するPreS1蛋白質のN末端側がHiBiTペプチドと置換されるか、又はPreS1蛋白質のN末端側に付加されている。
【0029】
回収されたHBV粒子は、プレゲノムRNAを含む。プレゲノムRNAはHBVのゲノム複製の前駆体となり、本発明のHBV様粒子に含まれるプレゲノムRNAは、本発明のHBVベクターに含まれるHBV遺伝子由来のmRNAである。すなわち、HBV遺伝子の蛋白質にHiBiTが置換、挿入又は付加されるようにHiBiTをコードするDNAに置換、挿入又は付加されたHBV遺伝子のmRNAである。例えば、HBV遺伝子のPreS1蛋白質のN端側がHiBiTに置換されるか、又はN端側にHiBiTが付加されるようにHiBiTをコードするDNAに置換又は付加されたHBV遺伝子のmRNAである。プレゲノムRNAは、前記のHBVベクターから合成される。
【0030】
また、回収されたHBV粒子は、不完全環状二本鎖DNAを含む。本発明のHBV粒子に含まれる不完全環状二本鎖DNAは、前記プレゲノムRNAから、DNAポリメラーゼの逆転写活性により合成されたマイナス(-)鎖DNA、及びDNAポリメラーゼ活性によりマイナス(-)鎖を鋳型として合成されたプラス(+)鎖DNAからなる。このウイルスDNAの合成は、途中で停止するために、不完全環状二本鎖DNAとなる。本発明のHBV粒子が、細胞に感染すると、核内で完全閉鎖二本鎖DNA(covalently closed circular DNA:cccDNA)となる。
【0031】
4.HBV粒子の細胞への感染
回収したHBV粒子を肝臓由来細胞に感染させ、複製するか否かを前記のNano Glo(登録商標) HiBiT Lytic Detection Systemを用いて確認することができる。すなわち、細胞のHiBiTを含むHBV粒子を回収し、HiBiTをNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ断片(LgBiT;Large BiT)と結合させ、NanoLuc(登録商標)を再構成させ、基質であるルシフェリンの存在下で発光させ、発光度を一般的な発光測定装置(ルミノメーター)により検出する。ここで、HiBiTは細胞中のものを測定しても、培養上清中の細胞外のものを測定してもよい。好ましくは、培養上清中の細胞外のものを測定する。
【0032】
この際、肝臓由来細胞としては、株化肝細胞及び正常肝細胞を用いることができ、HepG2細胞、Huh-7細胞、Huh-6細胞、Huh-1細胞、Ale細胞、PH5CH細胞、KYN-細胞、HAK6細胞、HAK5細胞、HAK1B細胞、HAK1A細胞、Kim-1細胞、KH細胞、ヒト初代肝臓細胞、又はヒト初代肝臓細胞を実験動物で継代した細胞などを用いることができる。HBV粒子を感染させる際のHBV DNA量は、細胞あたり50~500Geq(ゲノム等価量)である。
なお、HiBiTを含むHBVは、HiBiTを含まない野生型のHBVと同等の感染性を有する。
【0033】
5.HBV複製のモニター
本発明においては、HiBiTをHBVベクターにレポーターとして導入し、HBVベクターを細胞に導入し、HBV粒子を製造し、該HBV粒子を肝臓由来の細胞に感染させ、HiBiTの活性をHiBiT由来の発光を検出することにより測定し、細胞におけるHBVの感染、複製をモニターすることができる。この際、HBV粒子を感染させた肝臓由来細胞を培養し、細胞中又は培養上清中のHiBiT活性を測定すればよい。本発明は、HiBiTを利用したB型肝炎ウイルス複製モニタリングシステムを包含する。
【0034】
従来より、HBVの感染や複製の指標となるHBV関連マーカーとして、pgRNA(プレゲノムRNA)、HBsAg(HBs抗原)、cccDNA、培養上清中のHBV-DNAが利用されていた。本発明の方法により細胞に感染したHBVの検出結果は、pgRNA及びHBsAgと相関し、さらに、cccDNA及び培養上清中のHBV-DNAを反映している。従って、本発明の方法により、HBVの生活環をモニターすることができる。
【0035】
このモニター方法を利用して、抗HBV薬のスクリーニングを行うことができる。抗HBV薬はHBV感染の治療薬として用いることができる。抗HBV薬としては、HBV複製阻害剤及びHBV侵入阻害剤があり、本発明のモニタリングシステムにより、いずれの抗HBV薬もスクリーニングすることができる。
【0036】
すなわち、上記方法によりHBV粒子を感染させた肝臓由来細胞を抗HBV薬の候補化合物と接触させる。接触は、HBV粒子を感染させた肝臓由来細胞の培養液に候補化合物を投与することにより行うことができる。感染細胞においては、本発明のHBV粒子に含まれている不完全環状二本鎖DNAから完全環状二本鎖DNAが合成される。さらに、完全環状二本鎖DNAから、mRNA及びプレゲノムRNAが合成され、HiBiTをコードするDNAからHiBiTが発現する。上記のNano Glo(登録商標) HiBiT Lytic Detection Systemにより、発現したHiBiTを定量する。細胞内のHBV粒子の感染及び複製をHiBiTの発現を指標にし、候補化合物が抗HBV薬として有効か否かを判断する。HBV粒子の感染は抗HBV薬候補化合物との接触の前でも、同時でも、後でもよい。
【0037】
HiBiTの発現が高くHiBiT活性が高い場合に、候補化合物は抗HBV薬として有用であると判断することができる。ここで、あらかじめ公知の抗HBV薬を用いてHBV粒子の複製をモニタリングする方法によりHiBiT活性を測定しておき、抗HBV薬とし有用であるか否かを判断するための発光の測定値をカットオフ値として定めておくことができる。候補化合物を用いた場合のHiBiTの活性を示す測定値がカットオフ値を超えた場合に、該候補化合物をHBV薬として有用と判断することができる。公知の抗HBV薬としては、ウイルス複製阻害剤やウイルスの侵入阻害剤を用いることができる。ウイルス複製阻害剤としては、エンテカビル、インターフェロンα2b等が挙げられ、ウイルスの侵入阻害剤としては、Myrcludex-B、Human hepatitis B immunoglobulin、Heparin等が挙げられる。
【0038】
また、本発明の方法で抗HBV薬の候補化合物をスクリーニングする際に、同時に細胞の培養上清中の公知のHBV関連マーカーを測定してもよい。候補薬物を用いた場合のHiBiT活性とHBV関連マーカーの測定値が相関している場合に、該候補薬物を抗HBV薬として有用であると判断することができる。公知のHBV関連マーカーとしては、pgRNA(プレゲノムRNA)、HBsAg(HBs抗原)、cccDNA、培養上清中のHBV-DNA等が挙げられる。この中でも、pgRNA及びHBsAgとの相関を指標にして抗HBV薬をスクリーニングすることが好ましい。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
方法
(1) HiBiTをコードするDNAのHBV遺伝子への導入
HiBiTをコードする配列を、HBVのpreS1蛋白質のN末端に挿入するために、1.2倍長のHBV遺伝子をコードするプラスミドpUC1.2×HBV-Cを用いた。このプラミドはバックボーンプラスミドpUC19に、1.2倍長のHBV遺伝子(HBVは遺伝子型C、GenBank accession番号はAB246345)をコードしている。
【0041】
HiBiTをコードするDNA配列(11アミノ酸をコード)、5’-GTG AGC GGC TGG CGG CTG TTC AAG AAG ATC AGC-3’(配列番号3)を、pUC1.2×HBV-CのpreS1のN末端の2番目から10番目の9つのアミノ酸をコードする配列(5’-GGA GGT TGG TCT TCC AAA CCT CGA CAA-3’)(配列番号4)で置換して挿入した。HiBiTの挿入は、GeneArt Seamless Cloning and Assembly Enzyme Kit (Thermo Fisher, SCIENTIFIC)を用いて行った。HiBiTを挿入したplasmidをpUC1.2×HBV-C/HiBiTとした。
【0042】
本実施例で用いた遺伝子型CのHBVのN末端には、HBVの感染に必須なミリストル化部位が2カ所存在(PreS1のN末端から2番目及び13番目のグリシン)する。HiBiT配列の置換挿入によりN端側のミリストル化部位(2番のグリシン)は消失したが、もう一つのミリストル部位は残存する。
【0043】
(2) HBV粒子の産生
HepG2細胞を用いて、ウイルス様粒子の産生を行った。HBVをコードするpUC1.2×HBV-C、pUC1.2×HBV-C/HiBiTをLipofectamine3000 (Thermo Fisher, SCIENTIFIC)を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入3日後と7日後に細胞上清を回収し、0.45μmのフィルターで濾過後、PEG Virus Precipitation Kit (BioVison)を用いて濃縮した。ウイルス産生細胞はHuh-7細胞へも変更可能である。
【0044】
(3) HBV粒子の感染
HepG2細胞で産生したウイルス粒子の感染性を解析するために、ヒト初代肝細胞、PXB細胞(フェニックスバイオ社から販売されている)を用いた。感染に用いる細胞は、HBV粒子が侵入し、レポーター遺伝子が発現する限りにおいて限定されるものではないが、肝臓由来細胞が好ましく、例えばHepG2細胞、Huh-7細胞、Huh-6細胞、Huh-1細胞、Ale細胞、PH5CH細胞、KYN-細胞、HAK6細胞、HAK5細胞、HAK1B細胞、HAK1A細胞、Kim-1 細胞、KH細胞、ヒト初代肝臓細胞、又はヒト初代肝臓細胞を実験動物で継代した細胞などを用いることができる。
HBV粒子濃縮液中のHBV DNA量を定量PCR法で測定して、HBV DNA量を決定し、PXB細胞へ感染させた。単位細胞あたりのHBV DNA量は、50Geq~5,000Geqとした。また感染は、4%(w/v)PEG8000、2%(w/v)DMSOの存在下で行った。
【0045】
(4) HiBiT活性の測定
HBV粒子被感染PXB細胞の細胞内及び細胞上清中のHiBiT活性を、Nano Glo(登録商標) HiBiT Lytic Detection System (Promega)を用いて測定した。
【0046】
(5) cccDNA、pregenomic RNA、HBV-DNA、HBs抗原量、HBV core関連抗原の測定
被感染細胞中のcccRNA、pregenomic RNA、細胞上清中のHBV-DNA量を、定量PCR法で測定した。また被感染細胞上清中のHBs抗原量、HBV core関連抗原量をELISA法で測定した。
【0047】
(6) Iodixanol density gradient解析
pUC1.2×HBV-C、pUC1.2×HBV-C/HiBiTをHepG2細胞に遺伝子導入し、HBV粒子を作製した。同量のHBV粒子を、10~40%のIodixanol density gradient上に添加し、超遠心(38,000rpm for 16h at 4℃ in an SW 41 Ti rotor)を行った。フラクションを採取し、各フラクションのHBV-DNA量、HBs抗原量HBV core関連抗原量、密度を測定した。また各フラクションをPXB細胞に感染させ、感染14日後の細胞中のcccDNA量と、細胞上清中のHBV-DNA量を測定した。
【0048】
結果
(1)
図1Aは、HBVの野生型のpreS1蛋白質のN末端部分のDNA配列及びアミノ酸配列を示す。
図1Bは、HBVのpreS1のN末端の2番目から10番目の9つのアミノ酸をコードする配列の、11アミノ酸のHiBiTをコードする配列への置換挿入を示す。
図1Bに示すように、このHiBiT配列の置換挿入により、HBV感染に必須なミリストル化部位2カ所のうち1カ所は消失したが、もう1カ所のミリストル化部位(2番目のミリストル化部位)は残存した。
【0049】
プラスミドDNAをHepG2に遺伝子導入し作製したHBV様粒子を異なる3つのウイルス量(×1、×10及び×100、×1は50Geq/cell)でPXB細胞へ感染させた。細胞上清を感染後3日おきに新鮮なmediumに交換し、細胞上清中のHiBiTの活性を測定した。結果を
図2に示す。
図2に示すように、ウイルスの用量依存性に、感染21日目までHiBiT活性の増加を認めた。
【0050】
(2) ウイルス粒子の感染と同時に、ウイルス複製阻害剤エンテカビル(ETV)、インターフェロンα2b(IFN)、ウイルスの侵入阻害剤であるMyrcludex-B(MyrB)、Human hepatitis B immunoglobulin(HBIG)及びHeparinを投与した。HBV粒子を異なる3つのウイルス量(×1、×10及び×100、×1は50Geq/cell)で感染させた。NTは、これらの阻害剤の投与なし、HBIG ctrlは非特異的なヒト免疫グロブリンの投与を示す。細胞上清を感染後3日おきに21日目まで新鮮なmediumに交換し、細胞上清中のHiBiTの活性を測定した。
図3に経時的なHiBiTの活性の変動を、
図4に9日目と12日目のHiBiT活性を示す。ウイルスの侵入阻害剤、複製阻害剤により細胞上清中のHiBiT活性の抑制を認めた。
【0051】
(3) ウイルスの侵入阻害であるMyrBとHeparinを、PXB細胞へのHBV粒子の感染と同時あるいは感染3日後に3つの異なる濃度(MyrB: 2, 20, 200 (nM),Heparin: 2, 20, 200 (IU/mL))で投与し、細胞上清を感染後3日おきに12日目まで新鮮なmediumに交換し、細胞上清中のHiBiTの活性を測定した。
図5にプロトコールを示す。
図5に示すように、感染と同時に阻害剤を投与するか、又は感染3日後から投与した。
図6に結果を示す。
図6AがHeparinを投与した場合の結果を示し、
図6BはMyrBを投与した場合の結果を示す。図中「-」はコントロールを示し、「Day0~」が感染と同時に阻害剤を投与した場合を示し、「Day3~」は感染3日後から阻害剤を投与した場合を示す。グラフの1、2及び3は、阻害剤の3つの異なる濃度を示す。
図6に示すように、感染と同時にこれらの阻害剤を投与すると、濃度依存的にHBV-HiBiTの活性を抑制した。一方、感染3日後から阻害剤を投与した場合、HBV-HiBiTの活性に影響を及ぼさなかった。これらの結果から、細胞上清中のHiBiTの活性は、HBV様粒子のPXB細胞への侵入及びその後の細胞内での複製を反映していると考えられた。
【0052】
(4) HiBiTを置換挿入されていない野生型のウイルス(WT、○)とHiBiTを置換挿入されたウイルス(HiBiT、●)のHBV粒子の感染後の複製能を比較した。同じ量のHBV粒子WT、HBV-HiBiTをPXB細胞へ感染させ、感染後3日おきに21日目まで細胞上清中のHBs抗原量(HBs)、HBcore関連抗原量(HBcAg)、HBV DNA量、細胞中のpregenomic RNA(pgRNA)、cccDNA量を測定した。またHBV-HiBiT感染細胞に関しては、細胞内、細胞上清中のHiBiT活性を測定した。結果を
図7に示す。AがHiBiT活性を、BがHBs抗原量(HBs)を、Cが細胞中のpregenomic RNA(pgRNA)を、DがHBcore関連抗原量(HBcAg)を、EがcccDNA量を、FがHBV DNA量を示す。
図7に示すように、HBV-HiBiTウイルス感染後のHBcAg、HBsAg、pgRNA、cccDNA、HBV-DNA量は、WT感染後に比べて約10倍低かった。また細胞内・上清中のHiBiTの活性は、pregenomic RNAやHBs抗原量と相関すると思われた。
【0053】
(5)
図8に、Iodixanol density gradient後のフラクション毎の解析の結果を示す。
図8AはWT(野生型)の結果を示し、
図8BはHBV-HiBiTの結果を示す。
図8に示すように、WT、HBV-HiBiT共に、密度1.1g/mLにHBV-DNAのピークを認めた。またHBs抗原、HBV core関連抗原(HBcAg)のピークも、WT、HBV-HiBiTでほぼ一致した。
図9に各フラクションのPXB細胞への感染実験の結果を示す。各フラクションPXB細胞に感染させ、cccDNA量と、細胞上清中のHBV DNA量を定量PCR法で測定した。
図9AはWTの結果を示し、
図9BはHBV-HiBiTの結果を示す。また、上段はHBV-DNAの測定結果を、下段はcccDNAの測定結果を示す。
図9に示すように、WT、HBV-HiBiT共に、最もHBV-DNA量が多いフラクションで、最も高い感染性をしました。これらの結果から、WT、HBV-HBVのウイルスの正常や感染性はほぼ同一と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のHiBiTを利用したB型肝炎ウイルス複製モニタリングシステムは抗HBV薬のスクリーニングに用いることができる。
【配列表】