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特許7606204ルテニウム酸化物単結晶の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ルテニウム酸化物単結晶の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20241218BHJP
   C30B 13/16 20060101ALI20241218BHJP
   C01G 55/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C30B29/22 501B
C30B29/22 Z
C30B13/16 ZAA
C01G55/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020182989
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073173
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】菊川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長澤 亨
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/075713(WO,A1)
【文献】特開2005-089263(JP,A)
【文献】特開2005-247668(JP,A)
【文献】特開平10-231195(JP,A)
【文献】特開昭62-021788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C01G 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融帯域法によってルテニウム酸化物単結晶を製造する方法であって、
溶融帯を加熱するランプを用い、
単結晶育成工程中の溶融帯の長さを5mm以下として前記ルテニウム酸化物単結晶の育成を行い、
前記ランプが複数のフィラメントを備え、前記複数のフィラメントが水平方向に並置された単層型構成のものであり、
前記単層型構成の単層の厚みは1mm以上、3mm以下である、ルテニウム酸化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ルテニウム酸化物単結晶がSrRuO、CaRu、CaRuO、SrRuO、または、SrRuである、請求項1に記載のルテニウム酸化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のルテニウム酸化物単結晶の製造方法で用いることができるルテニウム酸化物単結晶製造装置であって、
回転楕円面鏡と、
前記回転楕円面鏡の一方の焦点に配置されたランプと、
原料棒を支持して駆動する原料棒支持駆動軸と、
種結晶棒を支持して駆動する種結晶棒支持駆動軸と、を備え、
前記ランプが複数のフィラメントを備え、前記複数のフィラメントが水平方向に並置された単層型構成のものであり、
前記単層型構成の単層の厚みは1mm以上、3mm以下であり、
前記ランプは、溶融帯を2000℃以上の温度にまで加熱可能である、ルテニウム酸化物単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム酸化物単結晶の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム酸化物SrRuOは1994年に超伝導を示すことが発見されて以来、多くの研究が行われてきた。しかし、未だその超伝導状態の解明解決には至っておらず、超伝導分野での重要課題として現在も精力的に研究が進められている。
【0003】
酸化物や合金の単結晶の育成方法として、溶融帯域法(フローティングゾーン(FZ)法)が知られている。溶融帯域法では、多結晶原料棒の一部を加熱し、種結晶となる単結晶棒と多結晶原料棒との間に溶融帯を作り、その溶融帯を表面張力によって保持しながら、溶融帯を冷却して単結晶を得る。この方法では、坩堝を用いないことから、坩堝からの不純物混入が避けられ、純度の高い結晶が得られるという利点がある。酸化チタン(密度:4.25g/cm)やシリコン(密度:2.33g/cm)は溶融帯域法を用いた単結晶の育成の代表例であり、浮遊帯域単結晶育成装置導入の際の試験溶融としても用いられている。
【0004】
溶融帯域法で用いる単結晶製造(育成)装置として、集中加熱方式のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この単結晶製造装置は、楕円面鏡を有する加熱炉を備え、楕円面鏡の片方の焦点にフィラメントを備えた赤外線ランプが設置されており、材料の溶融は赤外線ランプから放射された赤外線ランプの光が楕円鏡の内面で反射し、もう片方の焦点へ集光させることで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-89263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SrRuOは銅酸化物超伝導体と同じ層状ペロブスカイト構造を持つ超伝導体であるが、その超伝導性は銅酸化物超伝導体よりも強く不純物により抑制される。そのため、SrRuOの研究には高品質の単結晶を用いることが必要であるが、従来、高品質の単結晶が保証されているのは小さな試料のみであり、包括的な研究を行うのは困難な状況であった。
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、集中加熱方式の溶融帯域法において、高品質でかつ従来よりも大型のSrRuO単結晶を得られる方法を見い出し、本発明に想到した。
なお、特許文献1には、融点が1400℃程度の超伝導材料Bi2Sr2Ca2CuO8+δの良質な単結晶が得られることが記載されている(段落0013参照)。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高品質でかつ従来よりも大型のルテニウム酸化物単結晶が得られるルテニウム酸化物単結晶の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)本発明の第1態様に係るルテニウム酸化物単結晶の製造方法は、溶融帯域法によってルテニウム酸化物単結晶を製造する方法であって、溶融帯を2000℃以上の温度にまで加熱できるランプを用い、単結晶育成工程中の溶融帯の長さを5mm以下として前記ルテニウム酸化物単結晶の育成を行う。
【0011】
(2)上記態様に係るルテニウム酸化物単結晶の製造方法は、前記ランプが複数のフィラメントを備える場合において、前記複数のフィラメントが水平方向に並置された単層型構成のものであってもよい。
【0012】
(3)上記態様に係るルテニウム酸化物単結晶の製造方法は、前記単層型構成の単層の厚みは1mm以上、3mm以下であってもよい。
【0013】
(4)上記態様に係るルテニウム酸化物単結晶の製造方法は前記ルテニウム酸化物がSrRuO、CaRu、CaRuO、SrRuO、または、SrRuであってもよい。
【0014】
(5)本発明の第2態様に係るルテニウム酸化物単結晶製造装置は、回転楕円面鏡と、前記回転楕円面鏡の一方の焦点に配置されたランプと、原料棒を支持して駆動する原料棒支持駆動軸と、種結晶棒を支持して駆動する種結晶棒支持駆動軸と、を備え、前記ランプは、溶融帯を2000℃以上の温度にまで加熱可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のルテニウム酸化物単結晶の製造方法によれば、高品質でかつ従来よりも大型のルテニウム酸化物単結晶が得られるルテニウム酸化物単結晶の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るルテニウム酸化物単結晶製造装置の一例の縦断面図である。
図2図1のルテニウム酸化物単結晶製造装置10におけるA-A線に沿う水平断面図である。
図3図1のルテニウム酸化物単結晶製造装置におけるランプの拡大平面図である。
図4図1のルテニウム酸化物単結晶製造装置における中央部のコイル状フィラメントの平面模式図と被加熱部の拡大正面図である。
図5】結晶育成中の溶融帯(FL)の近傍の写真である。
図6】(a)は実施例1の単結晶サンプルの製造に用いたハロゲンランプの写真であり、(b)は比較例の単結晶サンプルの製造に用いたハロゲンランプの写真である。
図7】(a)は実施例1の単結晶サンプルの育成中の溶融帯近傍の写真であり、(b)は比較例の単結晶サンプルの育成中の溶融帯近傍の写真である。
図8】(a)は実施例1で得られた単結晶サンプルの写真であり、(b)は比較例で得られた単結晶サンプルの写真である。
図9】実施例1で得られた単結晶サンプルのX線ラウエ写真である。
図10】実施例1で得られた単結晶サンプルの比熱測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には図中、同一符号を付してある場合がある。また、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするため便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。一つの実施形態で示した構成を他の実施形態に適用することもできる。
【0018】
〔ルテニウム酸化物単結晶製造装置〕
図1は、本発明の実施形態に係るルテニウム酸化物単結晶製造装置の一例の縦断面図である。また、図2は、図1のルテニウム酸化物単結晶製造装置10におけるA-A線に沿う水平断面図を示す。
【0019】
ルテニウム酸化物単結晶製造装置10は、対称形の2つの回転楕円面鏡11,12を有する。各回転楕円面鏡11,12は一方の焦点F1,F2と他方の焦点F0とを有し、各々の他方の焦点F0図2参照)が一致するように対向して連結し加熱炉が構成されている。この回転楕円面鏡11,12の内面,すなわち反射面は、赤外線を高反射率で反射させるために金めっき処理が施されている。
【0020】
各回転楕円面鏡11,12の一方の焦点F1,F2付近には、例えば、後述するコイル状フィラメント23を有するハロゲンランプ等の赤外線ランプ(ランプ)13,14が固定配置されている。各回転楕円面鏡11,12の一致した他方の焦点F0には、被加熱部15が位置し、この被加熱部15を含むように石英管16が鉛直方向に設置されている。
【0021】
この石英管16は、石英管16の内部空間m1をそれ以外の回転楕円面鏡11,12の内部空間m2と区分することによって、石英管16の内部空間m1を単結晶育成に適する雰囲気に置換し、かつ、その雰囲気状態を維持し易くするものである。一方で、各回転楕円面鏡11,12内の内部空間m2の赤外線ランプ13,14を、石英管16の内部空間m1内の被加熱部15に影響を与えることなく冷却するのに役立つ。
【0022】
各回転楕円面鏡11,12の一致した焦点F0に位置する被加熱部15では、上方から鉛直方向に延びる原料棒支持駆動軸17の下端に固定した原料棒18と、下方から鉛直方向に延びる種結晶棒駆動軸19の上端に固定された種結晶棒20とを突き合わせている。原料棒支持駆動軸17および種結晶棒駆動軸19は、図示するように、保持部材21,22によって気密に保持され、図示しないサーボモータ等の駆動モータで回転自在、かつ、同期して、または相対速度を有して昇降自在に保持されている。
原料棒18としては例えば、その直径D2(図4参照)が4~8mm程度のものを用いることができる。
また、種結晶棒20としては例えば、その直径D1(図4参照)が3~8mm程度のものを用いることができる。
【0023】
ルテニウム酸化物単結晶製造装置10において、赤外線ランプ13,14は、溶融帯を2000℃以上の温度にまで加熱できるものであり、ルテニウム酸化物単結晶の育成工程中の溶融帯の長さを5mm以下とすることができる。
【0024】
赤外線ランプ13,14は例えば、それぞれ図3に示すように、複数(図示例では4個)のコイル状フィラメント23a,23b,23c,23dを平面状に並置し、かつ、ルテニウム酸化物単結晶製造装置10の一方の焦点F1,F2付近に水平方向(左右方向)に配置している。複数のコイル状フィラメント23a~23dは、例えば、中央部のコイル状フィラメント23aおよび23bが直列接続され、また、両側(左右)のコイル状フィラメント23cおよび23dが直列接続されて、石英24により封入されており、中央部のコイル状フィラメント23aおよび23bの直列接続の両端には端子部25,26を、また、両側(左右)のコイル状フィラメント23cおよび23dの直列接続の両端には端子部27,28を有する。
【0025】
図3に示す赤外線ランプ13,14はそれぞれ、4個のコイル状フィラメントを備えるものであるが、コイル状フィラメントの個数は1個でも4個以外の複数個でもよい。
また、赤外線ランプ13,14が複数個のコイル状フィラメントを備える場合、図3には平面状に並置する単層型(1段型)構成のものを例示したが、2段に並置する二層型(2段型)構成のものでもよいし、3段以上に並置する複数層型(複数段型)構成のものでもよい。
2段に並置する二層型構成の場合、隣り合うコイル状フィラメントを互いに千鳥形に上下に配置した構成としてもよい。
3段以上に並置する複数層型の場合も、隣り合うコイル状フィラメントを互いに千鳥形に上下に配置した構成としてもよい。
【0026】
赤外線ランプ13,14が単層型構成、二層型構成及び複数層型構成のいずれの場合も、その構成の厚みは1mm以上、3mm以下であることが好ましい。この構成は単層型構成の場合、各コイル状フィラメントの直径が1mm以上、3mm以下のものであることを意味する。
この厚み範囲にすることよって、集光点での温度分布の拡がりを抑制して、単結晶育成中の溶融帯の長さを5mm以下にしやすくなる。
【0027】
コイル状フィラメントの材料は例えば、タングステン又はタングステンを主成分とするタングステン合金とすることができる。
【0028】
赤外線ランプとしては、ハロゲンランプ、キセノンランプなど公知の赤外線ランプを用いることができる。
【0029】
そして、中央部のコイル状フィラメント23aおよび23bの直列接続の端子部25,26は電源(V1)29に接続され、両側(左右)のコイル状フィラメント23cおよび23dの直列接続の端子部27,28は、電源(V2)30に選択的に接続される。
【0030】
したがって、電源(V1)29により、中央部のコイル状フィラメント23a,23bのみの通電により、被加熱部15に断面積が小さい加熱域が形成される。
一方、直列接続された中央部のコイル状フィラメント23a,23bを通電状態にしたまま、両側(左右)のコイル状フィラメント23c,23dに、電源(V2)30により通電すると、中央部のコイル状フィラメント23a,23bの通電による輻射エネルギに、両側(左右)のコイル状フィラメント23c,23dの通電による輻射エネルギが加算されて、被加熱部15における加熱域の断面積を大きくすることができる。
【0031】
図1に示したルテニウム酸化物単結晶製造装置は、2つの回転楕円面鏡を有する双楕円型のものであるが、1つの回転楕円面鏡を有する単楕円型のものとすることもできる。
【0032】
〔ルテニウム酸化物単結晶の製造方法〕
本発明のルテニウム酸化物単結晶の製造方法は、溶融帯域法によってルテニウム酸化物単結晶を製造する方法であって、溶融帯を2000℃以上の温度にまで加熱できるランプを用い、単結晶育成工程中の溶融帯の長さを5mm以下としてルテニウム酸化物単結晶の育成を行う。
【0033】
ルテニウム酸化物単結晶製造装置10を用いて、本発明のルテニウム酸化物単結晶の製造方法について説明する。
まず、石英管16内を不活性ガス(例えば、アルゴン)等適切な雰囲気で置換した後、回転楕円面鏡11,12の一方の焦点F1,F2近傍に配置された赤外線ランプ13,14の中央部のコイル状フィラメント23a,23bのみに電源(V1)29により通電して、赤外線ランプ13,14から照射される赤外線を、回転楕円面鏡11,12で反射させ、共通の他方の焦点F0に位置する被加熱部15に集光させて赤外線加熱する。この赤外線加熱による輻射エネルギにより、被加熱部15の原料棒18の下端および種結晶棒20の上端を加熱溶融させながら、円滑に接触させることにより、図4に示すように、原料棒18と種結晶棒20間の被加熱部15に、溶融帯(以下、FZということがある)31を形成させる。溶融帯を2000℃以上の温度にまで加熱することができる。
【0034】
FZ31の長さをLとすると、本発明のルテニウム酸化物単結晶の製造方法では、FZ31の長さLを5mm以下になるように加熱して、ルテニウム酸化物単結晶の育成を行う。溶融帯は原料棒と種結晶棒との表面張力によって保持されているため、通常、安定な状態で保持することは難しいが、FZ31の長さLを5mm以下とすることによって、溶融帯をより安定な状態で保持できる。その結果、従来よりも長いルテニウム酸化物単結晶を製造できるようになった。
【0035】
FZ31の長さLを5mm以下に調整するためには、フィラメント構成が単層型構成、二層型構成及び複数層型構成のいずれの場合において、その構成の厚みを3mm以下にすることが好ましく、2mm以下にすることがより好ましい。FZ31の長さLとしては原理的に、フィラメント構成の厚み程度にすることができる。
なお、フィラメント構成の厚みが3mmを超えた構成であっても、FZ31の長さLを5mm以下に調整することは可能であるが、3mm以下にした方がFZ31の長さLを5mm以下に調整することができる。
【0036】
なお、図4において、コイル状フィラメント23a~23dは、実際には原料棒18および種結晶棒20の軸線方向(紙面)に対して直交する方向に配置されているが、説明の都合上、紙面に平行に描いている。
【0037】
そして、下端に原料棒18を固定した原料棒支持駆動軸17と、上端に種結晶棒20を固定した種結晶棒駆動軸19とを共に回転させ(例えば、20~30rpm)、かつ、同期してゆっくり下方に向かって移動させることによって、原料棒18と種結晶棒20間の被加熱部15に形成されたFZ31が次第に原料棒18側に移動していって、単結晶が育成される。なお、図4における18aは原料棒18側の固液界面を示し、20aは種結晶棒20側の固液界面を示している。
FZ31の長さLは、原料棒18側の固液界面18aから種結晶棒20側の固液界面20aまでの長さである。固液界面18a及び固液界面20aは、溶融液が目視で確認できる箇所として特定できる。図5に、単結晶育成中の溶融帯(FL)31の近傍の写真を示す。
【0038】
本発明のルテニウム酸化物単結晶の製造方法は、SrRuO、CaRu、CaRuO、SrRuO、SrRu以外のルテニウム酸化物単結晶にも適用可能である。例えば、それらを除く、一般的な化学式Sr(n+1)Ru(n)(3n+1)(nは1以上の整数)、Ca(n+1)Ru(n)(3n+1)(nは1以上の整数)で示されるルテニウム酸化物単結晶に適用可能である。また、溶融帯域法を用いて単結晶が製造された報告がある公知のルテニウム酸化物単結晶に適用可能である。
ここで、SrRuO、CaRu、CaRuO、SrRuO、SrRuの融点は2100℃程度である。
【0039】
低粘性や高密度の材料では溶融帯を安定に保持することが困難な傾向がある。特に、ルテニウム酸化物はその溶融物が低粘性であるため、育成中に溶融帯が落ちてしまい育成が困難になることも多かった。本発明のルテニウム酸化物単結晶の製造方法によって、溶融帯を安定に保持すうことが可能になり、大型のルテニウム酸化物単結晶の育成が可能になった。
なお、SrRuOの密度は5.92g/cmであり、CaRuの密度は4.97g/cmである。
【実施例
【0040】
〔実施例1〕
(SrRuO単結晶の育成)
図1に示した双楕円型のルテニウム酸化物単結晶製造装置において、赤外線ランプとしては図6(a)に示す4つのコイル状フィラメント(各フィラメントの直径:2mm、長さ:25mm)が横につながって単層型構成(厚み:2mm、平面視での幅:20mm:20mm)に配置されたハロゲンランプを用い、2Wの電力にて、図7(a)に示すようにルテニウム酸化物単結晶の育成工程中の溶融帯の長さを5mm以下として、SrRuO単結晶を育成した。
種結晶棒の直径は6mmであり、原料棒の直径は6mmであった。得られるSrRuO単結晶の断面はおおよそ楕円状又は円状であることが多い。楕円状である場合、長軸は5mm以下であり、平均すると4mm程度であり、短軸は4mm以下であり、平均すると3mm程度であることが多い。
【0041】
図8(a)に得られたSrRuO単結晶を示す。単結晶の長さは130mmであった。後述するように、ルテニウム酸化物単結晶の育成工程中の溶融帯の長さを8mm程度として(図7(b)参照)、SrRuO単結晶を育成したときには、単結晶の長さは70mmであったので(図8(b)参照)、1.8倍以上大型化することができた。なお、図8(a)の写真において単結晶の右側にあるのが種結晶棒である。
【0042】
(SrRuO単結晶の評価)
(1)X線ラウエ回折法による解析
図9に、育成した結晶について得られたX線ラウエ写真を示す。X線ラウエ写真から、高品質のSrRuO単結晶が育成できたことが確認できた。
このラウエ写真は、結晶の育成方法に対し、垂直方向に対しX線を照射して得られたものである。この写真から、照射方向が結晶の(001)面であること、さらに、結晶の育成方向の情報が得られる。それぞれの育成で得られた結晶のラウエ写真から、結晶は、(100)方向よりも15度程度ずれた方向に育成していることが多い。
【0043】
(2)比熱測定
図10に、育成した結晶について得られた比熱測定を行った結果を示す。グラフから、1.5Kで明確な超伝導転移が確認できる。SrRuOは不純物依存性が高く、不純物濃度が高い場合に超伝導転移を確認できない。この結果は、不純物濃度が0.15%以下であることを示すものである。
【0044】
〔比較例〕
図1に示した双楕円型のルテニウム酸化物単結晶製造装置において、赤外線ランプとしては図6(b)に示す8つのコイル状フィラメントを隣り合うコイル状フィラメントを互いに千鳥形に上下に配置した二層型構成(各フィラメントの直径:2mm、長さ:20mm、平面視での幅:20mm)に配置された従来のハロゲンランプを用い、実施例と同じ2Wの電力にて、図7(b)に示すようにルテニウム酸化物単結晶の育成工程中の溶融帯の長さを8mm程度として、SrRuO単結晶を育成した。
【0045】
図8(b)に従来ランプで得られたSrRuO単結晶を示す。SrRuO単結晶の長さは70mmであった。
【0046】
比較例の結晶についても、実施例1と同様に、X線ラウエ回折法による解析、及び、比熱測定を行った。実施例1と同様に高品質な単結晶を示すX線ラウエ写真が得られ、また、1.5Kで明確な超伝導転移が確認できる比熱測定結果が得られた。
この結果を踏まえると、実施例1では、比較例と比べて大型のSrRuO単結晶が得られ、その品質は結晶構造及び不純物濃度の両面において比較例と同程度に高品質なSrRuO単結晶が得られたと言える。
【0047】
〔実施例2〕
CaRuについても実施例1と同様にして、単結晶の育成を行ったところ、実施例1と同様に、高品質でかつ大型化されたCaRu単結晶で得られた。
【符号の説明】
【0048】
10 ルテニウム酸化物単結晶製造装置
11,12 回転楕円面鏡
13,14 赤外線ランプ
15 被加熱部
16 石英管
17 原料棒支持駆動軸
18 原料棒
18a 原料棒側の固液界面
19 種結晶棒支持駆動軸
20 種結晶棒
20a 種結晶棒側の固液界面
23a~23d コイル状フィラメント
24 石英
25~28 端子部
29,30 電源
31 溶融帯(FZ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10