(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ホモジニアス免疫測定法に適した酵素変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 9/24 20060101AFI20241218BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20241218BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241218BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20241218BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C12N9/24
C07K16/00
C07K19/00
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/56
C12N15/31
C12N15/13
C12Q1/34
G01N33/543 501D
(21)【出願番号】P 2020571094
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002264
(87)【国際公開番号】W WO2020162203
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2023-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2019021450
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)、「(日本-シンガポール共同研究)細胞の動的計測・操作を可能にするバイオデバイスの技術基盤の開発」、「細胞信号伝達機構を模倣した人工細胞系バイオセンサーの開発」委託研究、平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「未来社会創造事業」、「探索加速型(探索研究)」、「世界一の安全・安心社会の実現「生活環境に潜む微量な危険物から解放された安全・安心・快適なまちの実現」」、「食中毒から生活者を解放する人工抗体提示細胞」、「人工抗体提示細胞の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】上田 宏
(72)【発明者】
【氏名】蘇 九龍
(72)【発明者】
【氏名】北口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大室 有紀
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130610(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0252071(US,A1)
【文献】特表2002-502363(JP,A)
【文献】特表2017-534055(JP,A)
【文献】GEDDIE, M. L. and MATSUMURA, I.,Antibody-induced oligomerization and activation of an engineered reporter enzyme,Journal of Molecular Biology,2007年,Vol.369,p.1052-1059
【文献】FLORES, H. and ELLINGTON, A. D.,Increasing the thermal stability of an oligomeric protein, beta-glucuronidase,Journal of Molecular Biology,2002年,Vol.315,p.325-337
【文献】Environmental Microbiology,2012年,Vol.14, No.8,p.1876-1887
【文献】PLOS ONE,2013年,Vol.8, No.11, e79687,p.1-10
【文献】Bioinformation,2008年,Vol.2, No.8,p.339-343
【文献】RSC Advances,2015年,Vol.5,p.68345-68350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
βグルクロニダーゼの変異体であって、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニンがリジンに置換され、517番目のチロシンがトリプトファンに置換されていること、及び大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における27番目のアスパラギンがチロシンに置換され、51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、349番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換され、368番目のグリシンがセリンに置換され、369番目のアスパラギンがセリンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、582番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換されていることを特徴とするβグルクロニダーゼ変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のβグルクロニダーゼ変異体、このβグルクロニダーゼ変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する抗体のVH領域又はVL領域を含むことを特徴とする融合タンパク質。
【請求項3】
請求項2に記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸。
【請求項4】
試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、抗体のVH領域を含む請求項2に記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む請求項2に記載の融合タンパク質と接触させる工程、並びにβグルクロニダーゼ変異体の4量体形成を
βグルクロニダーゼ活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
【請求項5】
抗体のVH領域を含む請求項2に記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む請求項2に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする抗原検出キット。
【請求項6】
請求項1に記載のβグルクロニダーゼ変異体、このβグルクロニダーゼ変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する重鎖抗体のVH領域を含むことを特徴とする融合タンパク質。
【請求項7】
請求項6に記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸。
【請求項8】
試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、請求項6に記載の融合タンパク質と接触させる工程、並びにβグルクロニダーゼ変異体の4量体形成を
βグルクロニダーゼ活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
【請求項9】
請求項6に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする抗原検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホモジニアス免疫測定法に適したβグルクロニダーゼの変異体、この変異体を含む融合タンパク質、この融合タンパク質を用いた抗原の検出方法及び抗原検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床診断において免疫測定法はますます重要な測定技術となってきている。個々の免疫測定法を採択するにあたっては、感度・特異性の向上のみならず、測定の迅速・簡便化も大きな要素となってきている。現在主流の免疫測定法においては、タンパク質バイオマーカーの検出にあたってはサンドイッチ法、低分子検出においては競合法が測定原理として用いられる。しかしそのどちらも、数回の反応と洗浄の後に主にラベルに用いた酵素活性を測定する酵素免疫測定法であることが多く、測定には手間と数時間の時間がかかる問題がある。これに比べ、サンプルと測定試薬を混ぜて反応させ、検出するホモジニアス免疫測定法は、簡便かつ迅速な測定が可能であることから、近年注目を集めている。
【0003】
ホモジニアス免疫測定法については、最近、本発明者によってβグルクロニダーゼ(GUS)の変異体を利用した方法が報告されている(特許文献1)。GUSは4量体を形成することで活性を示すが、アミノ酸配列に変異(例えば、大腸菌GUSの516番目のメチオニン及び517番目のチロシンがそれぞれリジン及びグルタミン酸に置換される変異)があると単量体間の親和性が低下し、2量体は形成するが、通常の状態では4量体を形成しなくなる。上記測定法は、このようなGUSの性質を利用するもので、抗体のVH領域及びGUSの変異体を含む融合タンパク質と抗体のVL領域及びGUSの変異体を含む融合タンパク質の2種類の融合タンパク質を使用する。この測定法の原理は以下の通りである。試料中に抗原が存在しない場合、VH領域とVL領域の相互作用は弱いままなので、VH領域及びVL領域と連結するGUSの変異体の2量体もそのままでほとんど4量体にはならない。一方、試料中に抗原が存在する場合、VH領域とVL領域の相互作用が強化され、この相互作用により、VH領域及びVL領域と連結するGUSの変異体の2量体も結合し、4量体を形成し、活性を示すようになる。従って、GUSの活性を測定することにより、試料中に抗原量を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のGUS変異体を用いることにより、高感度で抗原を検出することが可能であるが、臨床診断などの医療分野での利用においては、より高い感度の検出方法が求められる。本発明は、このような背景の下になされたものであり、より高感度での抗原検出を可能にするGUS変異体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特許文献1に記載のGUS変異体を利用する抗原検出方法において、大腸菌GUSのアミノ酸配列における516番目のメチオニン及び517番目のチロシンがそれぞれリジン及びトリプトファンに置換されているGUS変異体を使用することにより、抗原存在時のGUS活性(シグナル値)が著しく上昇するとともに、抗原非存在時のGUS活性(バックグランド値)が著しく低減することを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)~(8)を提供するものである。
(1)βグルクロニダーゼの変異体であって、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニンがリジンに置換され、517番目のチロシンが置換されていないか、又はチロシン以外の芳香族アミノ酸に置換されていることを特徴とするβグルクロニダーゼ変異体。
【0008】
(2)大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における517番目のチロシンがトリプトファンに置換されていることを特徴とする(1)に記載のβグルクロニダーゼ変異体。
【0009】
(3)更に大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における27番目のアスパラギンがチロシンに置換され、51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、349番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換され、368番目のグリシンがシステインに置換され、369番目のアスパラギンがセリンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、582番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載のβグルクロニダーゼ変異体。
【0010】
(4)大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における368番目のシステインがセリンに置換されていることを特徴とする(3)に記載のβグルクロニダーゼ変異体。
【0011】
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載のβグルクロニダーゼ変異体、このβグルクロニダーゼ変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する抗体のVH領域又はVL領域を含むことを特徴とする融合タンパク質。
【0012】
(6)(5)に記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸。
【0013】
(7)試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、抗体のVH領域を含む(5)に記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む(5)に記載の融合タンパク質と接触させる工程、並びにβグルクロニダーゼ変異体の4量体形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
【0014】
(8)抗体のVH領域を含む(5)に記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む(5)に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする抗原検出キット。
【0015】
(9)(1)乃至(4)のいずれかに記載のβグルクロニダーゼ変異体、このβグルクロニダーゼ変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する重鎖抗体のVH領域を含むことを特徴とする融合タンパク質。
【0016】
(10)(9)に記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸。
【0017】
(11)試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、(9)に記載の融合タンパク質と接触させる工程、並びにβグルクロニダーゼ変異体の4量体形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
【0018】
(12)(9)に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする抗原検出キット。
【0019】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2019-021450の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、ホモジニアス免疫測定法に適したGUSの変異体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】NP存在及び非存在下におけるVH/VL(NP)-GUS(IV-5)KEの活性を示す図である(N=3)。
【
図2】抗His
6抗体存在及び非存在下におけるGUS(IV-5)MEの活性を示す図である(N=3)。
【
図3】抗His
6抗体存在及び非存在下におけるGUS(IV-5)KYの活性を示す図である(N=3)。
【
図4】抗His
6抗体存在及び非存在下におけるGUS(IV-5)MYの活性を示す図である(N=3)。
【
図5】抗His
6抗体存在及び非存在下におけるGUS(IV-5)KWの活性を示す図である(N=3)。
【
図6】抗His
6抗体存在及び非存在下におけるGUS(IV-5)KWの活性を示す図である(N=3)。
【
図7】VH/VL(NP)-GUS(IV-5)KWの電気泳動図である。レーン1:菌体ライセートの沈殿、レーン2:菌体ライセートの上清、レーン3:Talon金属アフィニティゲルの非結合分画、レーン4:Talon金属アフィニティゲルの結合分画。図中の矢印がVH(NP)GUS(IV-5)KW又はVL(NP)GUS(IV-5)KWを示す。
【
図8】抗His
6抗体あるいはNIP存在及び非存在下におけるVH/VL(NP)-GUS(IV-5)KWの活性を示す図である。
【
図9】VH/VL(NP)-GUSm(左)又はVH/VL(NP)-GUS(IV-5)KW(右)の蛍光強度と抗原濃度との関係を示す図である。
【
図10】カフェイン存在及び非存在下におけるVHH(Caf)-GUS(IV-5)KWの活性を示す図である。
【
図11】VHH(Caf)-GUS(IV-5)KWの蛍光強度とカフェイン濃度との関係を示す図である。
【
図12】GUS(IV-5)KW(左)と野生型GUS(右)の比活性kcatを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)βグルクロニダーゼ変異体
本発明のβグルクロニダーゼ変異体は、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニンがリジンに置換され、517番目のチロシンが置換されていないか、又はチロシン以外の芳香族アミノ酸に置換されていることを特徴とするものである。
【0023】
ここで、「チロシン以外の芳香族アミノ酸」とは、例えば、トリプトファンやフェニルアラニンである。
【0024】
大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における517番目のチロシンは、置換されていないか、又はチロシン以外の芳香族アミノ酸に置換されていればよいが、トリプトファンに置換されていることが好ましい。
【0025】
本発明のβグルクロニダーゼ変異体には、上記の変異以外の変異が導入されていてもよい。このような変異としては、熱安定性を向上させる変異を例示できる。どのような変異を導入すればβグルクロニダーゼの熱安定性が向上するかは多くの文献(例えば、Flores H. et al., J. Mol. Biol. 315, 325-37, 2002)に記載されているので、当業者であればそれらの文献に従って変異を特定することができる。βグルクロニダーゼの熱安定性を向上させる変異の具体例としては、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における27番目のアスパラギンがチロシンに置換される変異、51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換される変異、64番目のアラニンがバリンに置換される変異、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換される変異、349番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換される変異、368番目のグリシンがシステインに置換される変異、369番目のアスパラギンがセリンに置換される変異、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換される変異、559番目のグリシンがセリンに置換される変異、567番目のリジンがアルギニンに置換される変異、582番目のフェニルアラニンがチロシンに置換される変異、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換される変異、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異(これらの変異は、Flores H. et al., J. Mol. Biol. 315, 325-37, 2002における変異体IV-5に含まれる変異である。)を挙げることができる。βグルクロニダーゼ変異体には、上記の変異すべてが導入されていてもよく、変異の一部だけが導入されていてもよい。なお、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における368番目のグリシンをシステインに置換した場合、このシステインが抗体ドメインとSS結合を形成する可能性があるので、これを避けるため、システインではなく、セリンに置換してもよい。
【0026】
上述したアミノ酸の変異の位置は、大腸菌由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列における位置を示すので、他の生物由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列では、上述した位置に該当するアミノ酸が存在しない場合もある。このような場合には、アミノ酸配列の同一性に基づいて、大腸菌由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列と整列させ、それによってアミノ酸の変異の位置を特定する。大腸菌由来の野生型のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0027】
(2)融合タンパク質及び核酸
本発明の融合タンパク質は、本発明のβグルクロニダーゼ変異体、このβグルクロニダーゼ変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する抗体のVH領域又はVL領域を含むことを特徴とするものである。
【0028】
リンカーペプチドは、βグルクロニダーゼ変異体、VH領域、及びVL領域を正常に機能させることのできるものであればどのようなものでもよい。βグルクロニダーゼ変異体とVH領域又はVL領域との距離が十分でない場合には、βグルクロニダーゼ変異体が活性を示さなくなることがあるので、リンカーペプチドには一定の長さが必要である。リンカーペプチドの長さは、使用するβグルクロニダーゼ変異体や抗体の種類により異なるが、通常は、10~60Åであり、好ましくは、30~40Åである。リンカーペプチドのアミノ酸の数は、前記した長さになるようなアミノ酸数であればよいが、通常は、5~50であり、好ましくは、15~20である。リンカーペプチドのアミノ酸配列は、融合タンパク質の作製の際に使用される一般的なリンカーペプチドのアミノ酸配列と同様のものでよい。具体的には、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(G4S)の繰り返し配列(繰り返し数は通常2~5)、Glu-Ala-Ala-Ala-Lys (EAAAK)の繰り返し配列、Asp-Asp-Ala-Lys-Lys (DDAKK)の繰り返し配列などを挙げることができる。
【0029】
抗体のVH領域又はVL領域は、検出対象とする抗原に応じて任意の抗体のVH領域又はVL領域を選択することができ、特定の抗体のVH領域又はVL領域に限定されない。具体的には、後述する検出対象とする抗原と特異的に結合する抗体のVH領域又はVL領域を使用することができる。なお、抗体のVH領域には、通常の抗体(VL領域とVH領域の二つの領域で抗原と結合する抗体)のVH領域のほか、重鎖抗体(例えば、ラクダ科動物由来の重鎖抗体)のVH領域(variable domain of heavy chain of heavy-chain antibody)、即ち、VHH抗体も含まれる。
【0030】
本発明の融合タンパク質は、βグルクロニダーゼ変異体、リンカーペプチド、VH領域又はVL領域の三者のみからなっていてもよいが、他のペプチドやタンパク質などを含んでいてもよい。このようなペプチド等としては、His-Tagなどの精製用のタグ配列、チオレドキシンやアミロイド前駆体タンパク質由来可溶化タグ配列などの発現タンパク質を可溶化するタグ配列などを例示できる。
【0031】
本発明の融合タンパク質では、βグルクロニダーゼ変異体、リンカーペプチド、VH領域又はVL領域の順に配置されるが、βグルクロニダーゼ変異体がN末端でVH領域又はVL領域がC末端でもよく、逆に、βグルクロニダーゼ変異体がC末端でVH領域又はVL領域がN末端でもよい。
【0032】
βグルクロニダーゼ変異体は、融合タンパク質中に一つ含まれればよいが、二つ含まれていてもよく、またそれ以上含まれていてもよい。βグルクロニダーゼ変異体が二つ含まれる場合、これらはリンカーを介して隣接するように配置される。このとき使用されるリンカーは、βグルクロニダーゼ変異体とVH領域又はVL領域の間に配置されるリンカーと同様のものでよい。
【0033】
本発明には、上述した融合タンパク質のほか、この融合タンパク質をコードする核酸も含まれる。ここで、「核酸」とは、主にデオキシリボ核酸をいうが、リボ核酸やこれらの核酸の修飾体をも含む。
【0034】
(3)抗原の検出方法
本発明の抗原の検出方法は、試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、抗体のVH領域を含む本発明の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む本発明の融合タンパク質と接触させる工程、並びにβグルクロニダーゼ変異体の4量体形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とするものである。但し、本発明の融合タンパク質が、重鎖抗体のVH領域を含む融合タンパク質である場合は、試料と接触させるのは、この重鎖抗体のVH領域を含む融合タンパク質のみでよい。さらに二つの融合タンパク質がそれぞれVH領域とVL領域がリンカーで結合された一本鎖抗体(single chain variable fragment, scFv)を含むものであって、これらをタンパク質や菌体などの多価抗原を含む試料と接触させることで三者の結合により酵素活性が誘導されても良い。
【0035】
この方法は、本発明者らによって開発されたオープンサンドイッチ法(H. Ueda et al., Nat. Biotechnol. 14, 1714-8, 1996)の原理、即ち、VH領域とVL領域の相互作用が抗原の存在によって強化されるという原理、あるいは二つのVHH間の相互作用が抗原の存在によって強化される原理、さらには二つの抗体可変領域を用いたサンドイッチ法の原理を利用するものである。オープンサンドイッチ法を利用した従来の抗原検出方法(例えば、T. Yokozeki, H. Ueda, R. Arai, W. Mahoney and T. Nagamune. Anal. Chem. 74, 2500-4, 2002及びH. Ueda et al., J. Immunol. Methods 279, 209-18, 2003)では、N末端欠損変異体とC末端欠損変異体を使用していたが、本発明においては、βグルクロニダーゼ変異体を使用して抗原の検出を行う。この検出原理を以下に記載する。βグルクロニダーゼは4量体を形成することにより活性を示すようになる。本発明のβグルクロニダーゼ変異体は、一部の単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入されているので、2量体を形成するが、通常の状態では、4量体を形成しない。試料中に抗原が存在しない場合、VH領域とVL領域の相互作用は弱いままなので、VH領域及びVL領域と連結するβグルクロニダーゼ変異体の2量体もそのままでほとんど4量体にはならない。一方、試料中に抗原が存在する場合、VH領域とVL領域の相互作用が強化され、この相互作用により、VH領域及びVL領域と連結するβグルクロニダーゼ変異体の2量体も結合し、4量体を形成し、活性を示すようになる。従って、βグルクロニダーゼ活性を測定することにより、試料中に抗原が存在するかどうかを判定することができる。
【0036】
検出対象とする抗原は特に限定されず、低分子化合物(例えば、分子量が1000以下の化合物)を検出対象としてもよく、タンパク質などの高分子化合物を検出対象としてもよい。また、本発明の方法は、疾患の診断、食品の毒性検査、環境分析などに利用できるので、これらに関連する物質を検出対象とすることが好ましい。具体的には、イミダクロプリドなどのネオニコチノイド系農薬、ポリ塩化ビフェニル、ビスフェノールAなどの環境汚染物質、マイコトキシンなどの毒性物質、オステオカルシン(骨粗鬆症の診断に有効)、コルチコイド、エストラジオール、アルドステロン、リゾチーム(ニワトリ卵白リゾチームなど)などの生体物質、ジゴキシンなどの薬剤となどを挙げることができる。
【0037】
試料は、検出対象とする抗原が含まれる可能性があるものであればどのようなものでもよく、例えば、ヒトからの採取物(血液、唾液、尿など)、汚染の可能性のある水や土壌、食品や食品の原料などを挙げることができる。
【0038】
試料と融合タンパク質の接触方法は特に限定されないが、通常は、溶液中に試料と融合タンパク質を共存させることにより行う。また、融合タンパク質そのものではなく、融合タンパク質を発現する細胞と共存させてもよい。この接触工程における温度、時間、溶液のpH、使用する融合タンパク質の量などの条件は、βグルクロニダーゼにおいて一般的に使用されている条件でよく、例えば、この接触工程における温度は20~37℃ぐらいが好ましく、接触させている時間は10~60分ぐらいが好ましく、溶液のpHは6.8~7.5ぐらいが好ましく、溶液中の融合タンパク質の濃度は10~100 nMぐらいが好ましい。
【0039】
βグルクロニダーゼ変異体の4量体形成は、融合タンパク質中に含まれるβグルクロニダーゼ変異体の活性の変化(上昇又は発現)により検出することができる。融合タンパク質中に含まれるβグルクロニダーゼ変異体の活性は、βグルクロニダーゼにおいて一般的に使用される活性測定法によって測定できる。例えば、βグルクロニダーゼの発色基質又は蛍光基質を加え、その基質から生成する物質を定量することにより、活性を測定できる。βグルクロニダーゼの発色基質としてはX-Gluc、4-ニトロフェニルα-グルコピラノシド、4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドなどを挙げることができ、蛍光基質としては4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニド、フルオレセインジ-β-D-グルクロニド、フルオレセインジ-β-D-グルクロニド、ジメチルエステルなどを挙げることができる。これらの基質から生成する物質の定量は、特定の波長の吸光度、蛍光強度などを測定することにより行うことができる。例えば、基質が4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドであれば405 nm付近の吸光度の測定により生成物を定量でき、また、基質が4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニドであれば340 nmの蛍光で励起し、480 nm付近の蛍光強度の測定により生成物を定量できる。
【0040】
(4)抗原検出キット
本発明の抗原検出キットは、抗体のVH領域を含む本発明の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む本発明の融合タンパク質を含むことを特徴とするものである。但し、本発明の融合タンパク質が、重鎖抗体のVH領域を含む融合タンパク質である場合は、キット中に含まれる融合タンパク質は、この重鎖抗体のVH領域を含む融合タンパク質のみでよい。このキットは、上述した抗原検出の原理により、試料中の抗原を検出することができる。
【0041】
このキットは、抗体のVH領域を含む本発明の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む本発明の融合タンパク質以外のものを含んでいてもよい。例えば、酵素活性の測定には、基質が必要なので、これを含んでいてもよい。また、基質から生成する物質を定量するための試薬や器材、あるいは融合タンパク質や基質を安定化させるための物質などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕GUS(IV-5)KEをコードする発現ベクターの構築
熱安定性が高く、かつ野生型以上に活性が維持されている大腸菌βグルクロニダーゼ変異体として、H. Flores and A.D. Ellington, J. Mol. Biol.,315, 325-37, 2002に記載されたIV-5 (N27Y, F51Y, A64V, D185N, I349F, G368C, N369S, Y517F, Y525F, G559S, K567R, F582Y, Q585H, G601D)を選び、この遺伝子に以下の3つの変異、すなわち抗体ドメインとのSS結合形成の可能性を避けるためのC368Sと、ダイマー間相互作用低減のためのM516K、 F517Eを加えたDNA(このDNAの配列を配列番号2に示す。また、DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号3に示す。)を人工合成した(Eurofin Genomics, Tokyo, Japan)。プラスミドにコードされたこのDNAを、プライマーGUS_NotBack (ATAAGAATGCGGCCGCTATGTTACGTCCTGTAGAAA)(配列番号4)とGUSmIV5_XhoFor (GCCCTCGAGTCATTGTTTGTCTCCCTG) (配列番号5)およびKOD-Plus-Neo DNA polymerase (東洋紡)を用いて94℃で2分間反応後、94℃ 30秒、55℃30秒、68℃1分の反応を30サイクル行いPCRで増幅した。増幅されたGUS(IV-5)KE断片を制限酵素NotIとXhoI (New England Biolabs Japan, Tokyo)で切断し、同じ二つの制限酵素で切断したpET32-VH(NP)-GUSmとpET32-VL(NP)-GUSm (Su et al., Analyst, 143, 2096-101, 2018)のGUSm部分にligationして挿入し、配列を確認した。
【0044】
〔実施例2〕 融合タンパク質の発現と精製
pET32-VH(NP)- GUS(IV-5)KE及びpET32-VL(NP)-GUS(IV-5)KEを用いて、大腸菌 SHuffle T7 lysYを形質転換した。その後、プラスミドを保持した大腸菌を500 mLのLBA培地(10 g/L トリプトン、5g/L 酵母、5g/L NaCl、100 μg/mLアンピシリン)で30℃でOD600が0.6となるまで培養した後、0.5 mM IPTGを添加し、16℃でさらに16時間培養した。遠心分離によって集菌した後、40 mLのExtraction buffer (50 mM リン酸ナトリウム, 300 mM 塩化ナトリウム, pH 7.0)に懸濁した大腸菌を細胞破砕装置(Constant Systems, UK)により破砕し、菌体ライセートを調製した。1000 g、20分遠心を行い、上清を集め、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーにより精製を行った。具体的には適量のTalon金属アフィニティゲル (宝バイオ,Clontech社)を上清に加え、2時間撹拌した後、Talonディスポーザブルカラムに移して10 mLのExtraction bufferで3回洗浄を行い、2.5 mlの150 mMのイミダゾールを含むExtraction bufferを用いてゲルに結合したタンパク質を溶出した。精製されたチオレドキシン(Trx)融合タンパク質をSDS-PAGEによって分析を行った。
【0045】
〔実施例3〕GUS活性の抗原依存性評価
精製されたTrx-VH(NP)- GUS(IV-5)KE及びTrx-VL(NP)-GUS(IV-5)KEをPBST (10 mM phosphate, 137 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 0.05% Tween20; pH 7.4)にバッファー交換し、終濃度が各0.1 μMとなるよう、黒色ハーフウェルマイクロプレート(675077, Greiner Bio-One) 中に調製した(n=3)。ここに終濃度0.1 μMとなるよう抗原NP (4-hydroxy-3-nitrophenyl acetyl)あるいはPBSTを加え、25℃で5分間インキュベートした後、0.3 mg mL
-1 の蛍光基質4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニド(MUG,和光純薬)を加えて計100 μLとし、2分間隔で各ウェルの蛍光強度を測定した(励起340 nm,蛍光480 nm)。その結果を
図1に示す。Trx-VH(NP)-GUS(IV-5)KEとTrx-VL(NP)-GUS(IV-5)KEを含むがNPを加えない場合、26分後の吸光度はほぼ変化しなかったのに対し、NPを添加した場合に、吸光度すなわちGUS活性はわずかに増加した。その増加量は期待した値と比べて低かったが、従来のGUSm系で問題であったバックグラウンド活性は顕著に低減された。また、4℃で一晩保存したタンパク質を用いて反応開始後14分の蛍光の抗原NPおよびその類縁体で10倍結合定数の高い5-iodo-NP (NIP)濃度依存性を調べたところ、変化は少ないものの抗原依存性を示す事が判明した。また従来、GUSm(M516K, Y517E変異体)はこの条件での保存中に分解されていたことから、GUS(IV-5)KEはより高い保存安定性を持つことが示唆された。
【0046】
〔実施例4〕二量体間界面残基変異体の構築と活性測定
GUS(IV-5)KEは安定性が高い反面、4量体形成時の活性上昇が少ない問題があった。そこで、この部位のアミノ酸を変異させることでより高い活性上昇を示す変異体のスクリーニングを行った。具体的には、pET32-VL(NP)-GUS(IV-5)の界面残基KEのいずれかあるいは両方を、オーバーラップPCRを用いた部位特異的変異導入法により野生型に戻したME、KY、MYを構築した。そして実施例2と同様の方法でタンパク質を調製した。
【0047】
これらを4量体化するため、抗原の代わりにTrxとVL(NP)の間のリンカー領域に存在するHis6タグを利用し、等モル量のPentaHis抗体(キアゲン社)あるいは抗His
6抗体(9C11, 和光純薬)と反応させ、その後蛍光基質を加えて活性(蛍光の1分ごとの経時変化)測定を行った。この結果、
図2~4に示すように、特にKY変異体において、高いS/B比(抗体有無での活性比, 6.0)を得る事ができ、また野生型配列MYにおいては予想通り非常に低いS/B比が得られた。そこで516位のLysが活性制御に重要と判断し、516位はLysとして517位を類似の芳香族であるTrpにしたKW変異体を構築した。この変異体タンパク質をこれまで同様に調製し、PentaHis抗体の有無で活性測定を行った所、KW変異体において反応開始後11分までの平均S/B比が13.0(
図5)、更に反応開始後20分までの平均S/B比が42.3(
図6)と、極めて高い値を示した。さらに抗体添加時の反応開始後11分の蛍光強度はGUS(IV-5)MYあるいはGUS-KEのそれを有意に上回り(
図5)、反応開始後20分ではさらに3倍以上高い値を示した(
図6)。
【0048】
〔実施例5〕KW変異体の性格付け
実施例4で明らかとなった高性能なGUS(IV-5)KWを、VH(NP)融合型としても構築し、実施例2と同様に発現精製を行ったところ、SDS-PAGE上で十分な精製度で得る事ができた(
図7)。両者を混合し、抗原NIPあるいは抗His
6抗体を加えてMUG添加後の蛍光強度の時間変化を測定したところ、抗原あるいは抗体がない時に比べて有意に高い信号が得られた(
図8)。そこで、各濃度の抗原NPおよびNIPを添加してMUG添加18分後の蛍光強度(GUS活性)を測定した(
図9)。従来のGUSmを用いた系に比べて、GUS(IV-5)KWを用いた系ではより高い感度と信号強度で抗原検出を行う事が出来た。
【0049】
さらに熱安定性評価のため、PBST中で各0.1 μMのTrx-VH(NP)-GUS(IV-5)KWあるいはHis6-GUS(IV-5)KWを25℃から80℃までの各温度で10分間インキュベートし、抗His抗体の有無での活性をこれまで同様に蛍光で測定した。この結果、Trx-VH(NP)-GUS(IV-5)KWとHis6-GUS(IV-5)KWでは50℃10分の処理でも抗体添加時に25℃10分処理したサンプルに対しそれぞれ46.2%と59.7%の活性が保たれていた。これに対し、同じ条件下でVH-GUS(KE)では50℃処理後の活性は0.29%に過ぎなかった。さらに、25℃では抗体不在時の活性が抗体存在時の49.0%、37℃では同じく65.6%観測され、GUSの分解に伴う構造変化がバックグラウンド活性につながっていることが改めて示唆された。
【0050】
〔実施例6〕 VHHを用いたカフェイン濃度測定
高性能な熱安定化変異体GUS(IV-5)KWを抗原カフェイン存在下で二量体を形成する事が知られるナノボディ(Sonneson, G. J. and Horn, J. R., Biochemistry, 48, 6693-5, 2009)を用いたカフェイン検出に応用するために、末端に制限酵素サイトNcoIとHindIIIを持つ抗カフェインナノボディの可変領域VHH(Caf)の合成遺伝子(Eurofin Japan)(配列番号6)を制限酵素NcoI/HindIIIを用いてGUS(IV-5)KW遺伝子の上流に挿入し、Trx-VHH(Caf)-GUS(IV-5)KW融合タンパク質発現ベクターを構築した。
【0051】
このベクターを用いて実施例2と同様の方法でタンパク質を調製し、実施例3と同様の方法でGUS活性の抗原依存性を評価した。高性能なGUS(IV-5)KWをレポーター酵素として使用したため、バックグラウンド活性が減少し、S/B比が増加した(
図10)。さらに、0.1μMの融合タンパク質を0~10μMのカフェインと混合し、抗原濃度依存性を測定した。蛍光基質4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニドを終濃度0.3 mg mL
-1で添加し20分後の蛍光強度を測定した(励起波長340 nm,蛍光波長480 nm)結果、GUS活性の顕著なカフェイン濃度依存性が明らかとなった(
図11)。カーブフィッティングの結果、EC
50は1.2±0.1μM、LODは40 nMと計算された。この感度は、飲料中のカフェイン濃度(紅茶140μM,コーヒー5 mM)を十分測定できるものであった(Lisko, J. G., et al., Nicotine Tob. Res., 19, 484-92, 2017) 。
【0052】
〔実施例7〕 GUS(IV-5)KW酵素の比活性測定
変異体GUS(IV-5)KWの比活性を評価するため、His-tagを認識するPentaHis抗体(キアゲン社)を加えて四量体化させたTrx-VL(NP)-GUS(IV-5)KWタンパク質の比活性(回転数)k
catを測定し、野生型GUSのそれと比較した。1/2モル量の抗PentaHis抗体を4.75μg/mlのTrx-VL(NP)-GUS(IV-5)KWと混合した後、0.3 mg/mlの基質4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニドを加え、蛍光強度を1分ごとに15分間測定した(
図12左)。グラフの傾きを計算した結果、四量体化GUS(IV-5)KWのk
catは1.25 s
-1であった。一方、Trx-VL(NP)-GUSタンパク質を用いて野生型GUS(2.88 μg/ml)の活性を同じ方法で測定した結果(
図12右)、野生型GUSのk
catは1.19 s
-1と計算された。すなわち、変異体GUS(IV-5)KWは、野生型GUSと比較して、類似又はより高いk
catを示した。
【0053】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、疾患の診断、食品検査、環境分析などに有用なので、これらに関する産業分野において利用可能である。
【配列表】