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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】塀構造及び塀材
(51)【国際特許分類】
   E04H 17/16 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
E04H17/16 104
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021070835
(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公開番号】P2022165489
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2024-04-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月21日、大林株式会社本社工場敷地(岐阜県郡上市)
(73)【特許権者】
【識別番号】308022302
【氏名又は名称】大林株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】片桐 良夫
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135703(JP,A)
【文献】実開平05-096113(JP,U)
【文献】実開昭51-052511(JP,U)
【文献】特開平10-252185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0166504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 17/00 -17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が六角形のセルが連設されたハニカム構造体に筒部が接合されているパネル芯材、及び、該パネル芯材において少なくとも前記セルが開口している面を被覆している被覆板材を備えている塀パネルユニットの複数が、
それぞれの前記筒部の中心軸が同一線上となるように、基礎部の上に高さ方向に積み重ねられた状態で、
複数の前記塀パネルユニットそれぞれの前記筒部に、少なくとも上端に雄ネジが形成された弾性シャフトが挿通されており、
該弾性シャフトの下端が前記基礎部に埋設されていると共に、前記弾性シャフトの上端で前記雄ネジに雌ネジ部材が螺合していることにより、複数の前記塀パネルユニットが前記基礎部に固定されており、
前記パネル芯材及び前記被覆板材は、それぞれ樹脂製またはアルミニウム製であり、
前記弾性シャフトがたわむ方向に弾性変形すると共に、高さ方向に積み重ねられた前記塀パネルユニット同士が固着されていないことにより、
高さ方向に積み重ねられた前記塀パネルユニットで構成された塀が風圧をうけたとき、前記弾性シャフトのたわむ方向への弾性変形に伴い、前記塀もたわむ
ことを特徴とする塀構造。
【請求項2】
前記塀の上端の水平方向における変位Dの前記塀の高さHに対する割合(D/H)が、4.5%~5.6%に至るまでは、前記塀は弾性的にたわむ
ことを特徴とする請求項1に記載の塀構造。
【請求項3】
前記塀の上端の水平方向における変位Dの前記塀の高さHに対する割合(D/H)が、14.6%~18.5%に至るまでは、前記塀は転倒することなくたわむ
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塀構造。
【請求項4】
断面が六角形のセルが連設されたハニカム構造体に筒部が接合されているパネル芯材、及び、該パネル芯材において少なくとも前記セルが開口している面を被覆している被覆板材を備えており、前記パネル芯材及び前記被覆板材がそれぞれ樹脂製またはアルミニウム製である塀パネルユニットの複数と、
複数の該塀パネルユニットの高さの合計より長く、前記筒部に挿通される太さで、少なくとも一端に雄ネジが形成されおり、たわむ方向に弾性変形する弾性シャフトと、
前記雄ネジに螺合させる雌ネジ部材と、
を具備することを特徴とする塀材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塀構造、及び、該塀構造を構成する塀材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
隣接する住宅との境界、住宅と道路との境界などに設けられ、他者の出入りを防止すると共に視野を遮蔽する塀としては、従来、コンクリートブロック塀や、現場でコンクリートを打設する湿式コンクリート塀が多用されている。また、近年では、プレキャストコンクリートパネルを工場で製造し、現場に輸送して施工する乾式コンクリート塀も用いられている。
【0003】
しかしながら、コンクリートブロック塀は、鉄筋を縦横に配設し、モルタルを充填しながらブロックを積み上げて構築するため、現場での作業に多大な手間と時間を要するものであった。また、湿式コンクリート塀の場合も、縦横に鉄筋を組み上げた上で鉄筋を挟むように型枠を設置して型枠内にコンクリートを流し込み、コンクリートが硬化・乾燥してから型枠を取り外すという現場での作業に、多大な手間と時間を要するものであった。一方、乾式コンクリート塀の場合は、現場でコンクリートを硬化・乾燥させる時間を省き、施工期間を短縮することはできるものの、重量物であるプレキャストコンクリートパネルを輸送して現場で施工するために、大型の輸送車やクレーンを必要とすると共に、多人数の作業者を要するという問題があった。
【0004】
加えて、周辺の道路幅が狭い場所や、余剰の敷地面積が小さい場所など、大型の輸送車やクレーンが進入できない場所には、大型の型枠を要する湿式コンクリート塀や、大型のプレキャストコンクリートパネルを用いた乾式コンクリート塀は施工できないという問題があった。
【0005】
更に、コンクリートブロック塀やコンクリート塀の場合は、倒壊を防止すべく所定の強度を保つために、鉄筋の間隔、塀の高さや厚さ、基礎の根入れ深さ等、種々の基準が法律等で定められているが、現行の基準を満たさない古い塀が、全国には多量に残存している。近年、大規模な地震による甚大な被害が相次いだことにより、現行の基準を満たさない古い塀に対しては、解体・撤去して新たな塀に造り替えることが要請されているが、新たな塀の施工には上記のような問題があるため、塀の造り替えが進んでいないのが実情である。仮に、新たな塀を、労力や時間を低減して、道路幅や敷地が狭小な場合であっても構築することができれば、塀の造り替えも促進されると考えられる。
【0006】
一方、金属製や木製のフェンス(網、柵、板囲い)は、労力や時間をさほど要することなく、道路幅や敷地が狭小な場合であっても構築することが可能であるが、塀に重厚感を求める需要者には好まれないという事情がある。
【0007】
そこで、本出願人は過去に、道路幅や敷地が狭小な場合であっても労力や時間を低減して構築することができると共に、重厚感を与える塀構造、及び、その構築のための塀材を提案し、実施している(特許文献1参照)。この塀材は、アルミニウム製のフレームの開口が両側から被覆板材で被覆されていると共に、フレームを構成する一対の横材を貫通する貫通孔を備えている塀パネルユニットと、貫通孔に挿通される長棒状部材を備えている。複数の塀パネルユニットを、それぞれの貫通孔の中心軸が同一先線上となるように高さ方向に積み重ね、貫通孔に挿通した長棒状部材の下端を基礎部に埋設することによって、塀構造が構築される。
【0008】
この特許文献1の塀材は、中空構造で軽量であり、予め工場で製造しておき少人数の作業者で運搬することができるため、施工現場が狭小であっても問題なく、労力や時間を低減して塀構造を構築することができる。また、外観からは塀材が中空構造であることは分からないため、重厚感を与える塀構造を構築することができる。更に、コンクリートブロック塀やコンクリート塀など重い塀は、仮に地震などで倒壊すると、塀の下敷きになった場合の被害が甚大であることに加え、人力で撤去することが困難なために道路が塞がれ、人や緊急車両の移動が妨げられるおそれがあるのに対し、軽量な塀はこのようなおそれが低い利点がある。
【0009】
しかしながら、軽量な塀は、風圧に対する耐性が低い傾向がある。塀にスリットなど風が通過する空隙を形成すれば、風圧に対する耐性は増すが、重厚感を与える塀とはならなない。そこで、本出願人は、軽量であるにも関わらず、重厚感を与える共に、風圧に対する耐性が高い塀を実現したいと考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-135703
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、本発明は、道路幅や敷地が狭小な場合であっても労力や時間を低減して構築することができる軽量な塀であり、重厚感を与えると共に、風圧に対する耐性の高い塀構造、及び、該塀構造を構成する塀材の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる塀構造は、
「断面が六角形のセルが連設されたハニカム構造体に筒部が接合されているパネル芯材、及び、該パネル芯材において少なくとも前記セルが開口している面を被覆している被覆板材を備えている塀パネルユニットの複数が、
それぞれの前記筒部の中心軸が同一線上となるように、基礎部の上に高さ方向に積み重ねられた状態で、
複数の前記塀パネルユニットそれぞれの前記筒部に、少なくとも上端に雄ネジが形成された弾性シャフトが挿通されており、
該弾性シャフトの下端が前記基礎部に埋設されていると共に、前記弾性シャフトの上端で前記雄ネジに雌ネジ部材が螺合していることにより、複数の前記塀パネルユニットが前記基礎部に固定されており、
前記パネル芯材及び前記被覆板材は、それぞれ樹脂製またはアルミニウム製であり、
前記弾性シャフトがたわむ方向に弾性変形すると共に、高さ方向に積み重ねられた前記塀パネルユニット同士が固着されていないことにより、
高さ方向に積み重ねられた前記塀パネルユニットで構成された塀が風圧をうけたとき、前記弾性シャフトのたわむ方向への弾性変形に伴い、前記塀もたわむ」ものである。
【0013】
本構成の塀構造は、基礎部に埋設された弾性シャフトによって、いわば“串刺し”にされた状態で、複数の塀パネルユニットが基礎部に固定されている構成である。
【0014】
本構成の塀構造は、塀パネルユニットを構成単位として構築されるものであり、塀パネルユニットは予め工場で製造しておくことができる。また、高さ方向に積層される複数の塀パネルユニット同士を固着させる作業をしないため、従来のコンクリートブロック塀や湿式コンクリート塀と比べて、労力や時間を大幅に低減して塀構造を構築することができる。
【0015】
塀パネルユニットは、構成部材であるパネル芯材及び被覆板材が樹脂製またはアルミニウム製であることに加え、パネル芯材は空隙の多いハニカム構造体と中空構造である筒部で形成されているため、非常に軽量である。そのため、サイズの設定により、作業者が人力で運搬することが可能である。従って、道路幅や敷地面積が狭小で、大型の輸送車やクレーンが進入でできない施工現場であっても、問題なく塀構造を構築することができる。
【0016】
また、被覆板材で被覆された面の方から見れば、空隙の多いハニカム構造体も中空構造である筒部も視認されず、網や柵であるフェンスに比べて厚さが大きいため、重厚感を与える塀を構築することができる。
【0017】
加えて、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニットを基礎部に固定するために、たわむ方向に弾性変形する弾性シャフトを使用していると共に、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニット同士を固着しておらず、且つ、個々の塀パネルユニットが軽量である。そのため、塀が風圧を受けたとき、弾性シャフトがたわむことが許容され、弾性シャフトのたわみに伴って塀もたわむ。
【0018】
すなわち、従来のコンクリートブロック塀やコンクリート塀などが、塀自体の重さや剛性の高さで風圧に耐えていたのとは異なり、塀自体がたわむことによって風圧に耐える新規コンセプトの塀構造を、提供することができる。
【0019】
本発明にかかる塀構造は、上記構成に加え、
「前記塀の上端の水平方向における変位Dの前記塀の高さHに対する割合(D/H)が、4.5%~5.6%に至るまでは、前記塀は弾性的にたわむ」ものとすることができる。
【0020】
詳細は後述するように、上記の範囲で塀が弾性的にたわむ塀構造を、提供することができる。弾性的にたわんだ塀は、風圧など荷重が除かれれば、元の状態に戻る。
【0021】
本発明にかかる塀構造は、上記構成に加え、
「前記塀の上端の水平方向における変位Dの前記塀の高さHに対する割合(D/H)が、14.6%~18.5%に至るまでは、前記塀は転倒することなくたわむ」ものとすることができる。
【0022】
塀が弾性的にたわむ範囲を超えると、塀が受ける荷重が除かれたときに残留変位が生じることとなる。しかしながら、本出願人は、大きな風圧を受けるような非常時に、仮に塀がたわんだまま完全に元の状態に戻らなくとも、転倒することなく、大きな風圧に耐えることができることが重要であると考えた。本構成の塀構造は、かなり大きくたわんでも、塀が転倒することがない。これは、上述したように、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニットを基礎部に固定するために、たわむ方向に弾性変形する弾性シャフトを使用していると共に、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニット同士を固着しておらず、且つ、個々の塀パネルユニットが軽量であるためである。
【0023】
次に、本発明にかかる「塀材」は、
「断面が六角形のセルが連設されたハニカム構造体に筒部が接合されているパネル芯材、及び、該パネル芯材において少なくとも前記セルが開口している面を被覆している被覆板材を備えており、前記パネル芯材及び前記被覆板材がそれぞれ樹脂製またはアルミニウム製である塀パネルユニットの複数と、
複数の該塀パネルユニットの高さの合計より長く、前記筒部に挿通される太さで、少なくとも一端に雄ネジが形成されおり、たわむ方向に弾性変形する弾性シャフトと、
前記雄ネジに螺合させる雌ネジ部材と、
を具備する」ものである。
【0024】
これは、上記の塀構造を構築するために使用される塀材である。本構成の塀材を使用することにより、上記の作用効果を発揮する塀構造を構築することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、道路幅や敷地が狭小な場合であっても労力や時間を低減して構築することができる軽量な塀であり、重厚感を与えると共に、風圧に対する耐性の高い塀構造、及び、該塀構造を構成する塀材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態の塀構造を構成する塀パネルユニットの分解斜視図である。
図2】本発明の一実施形態の塀構造の分解正面図である。
図3】(a)図2の塀構造の正面図であり、(b)同じ塀構造を筒部の中心で切断した縦断面図である。
図4】塀のたわみを模式的に説明する図である。
図5】実施例の塀構造に関する荷重-変位曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態である塀構造、及び、該塀構造を構成する塀材について、図面を用いて説明する。
【0028】
まず、塀材について主に図1及び図2を用いて説明する。本実施形態の塀材は、複数の塀パネルユニット1と、弾性シャフト31と、雌ネジ部材32と、カバー部材40とを具備している。ここでは、塀によって区画される二つの領域の一方から他方に向かう方向を奥行き方向と称し、塀パネルユニット1を構成する各部材における奥行き方向の長さを「厚さ」と称する。また、奥行き方向と高さ方向の双方に直交する方向を、横幅方向と称して説明する。
【0029】
塀パネルユニット1は、パネル芯材と被覆板材とを備えている。パネル芯材は、断面形状が六角形のセルが連設されたハニカム構造体10と筒部11とを備えている。本実施形態では、一つのパネル芯材が、三つのハニカム構造体10と二つの筒部11とを備えている。
【0030】
パネル芯材及び被覆板材は、それぞれ樹脂製またはアルミニウム製である。例えば、パネル芯材及び被覆板材の双方が樹脂製である塀パネルユニット1、パネル芯材及び被覆板材の双方がアルミニウム製である塀パネルユニット1、パネル芯材が樹脂製で被覆板材がアルミニウム製である塀パネルユニット1、パネル芯材がアルミニウム製で被覆板材が樹脂製である塀パネルユニット1、とすることができる。
【0031】
ハニカム構造体10の外形は、直方体である。筒部11は、角筒状の外筒11aと円筒状の内筒11bの二重構造であり、外筒11aの厚さ及び高さはハニカム構造体10の厚さ及び高さとそれぞれ等しい。内筒11bの外径は外筒11aの内周面の横幅方向の長さより僅かに短く、内筒11bは外筒11aの中心に嵌入された状態で外筒11aの内周面に固着されている。
【0032】
そして、二つの筒部11はそれぞれ隣接するハニカム構造体10に挟まれた状態で、ハニカム構造体10に固着されている。ハニカム構造体10と筒部11との接合により形成された一つのパネル芯材は、厚さより高さの方が大きく、高さより横幅方向の長さが大きい直方体である。ハニカム構造体10は、セルの軸方向を奥行き方向に一致させた状態で、筒部11と接合されている。
【0033】
被覆板材には、パネル芯材においてハニカム構造体10のセルが開口している一対の側面をそれぞれ被覆している一対の第一被覆板材21と、パネル芯材において横幅方向の端面となる一対の側面をそれぞれ被覆している一対の第二被覆板材22と、パネル芯材の上面及び下面をそれぞれ被覆している一対の第三被覆材とがある。
【0034】
塀パネルユニット1は、構成材料であるパネル芯材及び被覆板材が樹脂製またはアルミニウム製であるため、軽量である。塀パネルユニット1のサイズは、例えば、高さを30cm~60cm、横幅の長さを150cm~350cm、厚さを10cm~30cmとすれば、一枚の塀パネルユニット1を一人または二人の作業者が人力で運搬しやすい。
【0035】
弾性シャフト31は、ガラス繊維と樹脂との複合材料で形成されている。本実施形態では、75質量%のガラス繊維と25質量%のエポキシ樹脂との複合材料で形成されたものであり、弾性が高く、たわむ方向(弓なりに曲がる方向、しなる方向)に大きく弾性変形する。弾性シャフト31は、少なくとも上端とされる一端側に雄ネジが形成されていれば良いが、本実施形態では全長に亘り雄ネジが形成されている。そして、塀パネルユニット1における内筒11bの直径は、弾性シャフト31の直径より僅かに大きい。
【0036】
一方、雌ネジ部材32は、弾性シャフト31の雄ネジと螺合するネジ溝を内周面に有し、外周面がレンチなどの締結用工具と噛み合う形状に形成されている。
【0037】
カバー部材40は、断面の外形が下方に開口したU字形である長尺部材であり、その開口幅は、塀パネルユニット1の厚さより僅かに大きい。本実施形態では、カバー部材40も樹脂製またはアルミニウム製である。
【0038】
次に、上記構成の塀材を使用した塀構造の構築について、主に図2及び図3を用いて説明する。まず、塀を構築するライン(二つの領域の境界線とすべきライン)に沿って、コンクリートを打設し基礎部90を形成する。基礎部90は、塀の延びる方向に直交する断面が逆T字形で、T字の脚部分が地表から露出するように形成される。そして、基礎部90が打設される際に、弾性シャフト31の下端が基礎部90に埋設される。弾性シャフト31の間隔は、塀パネルユニット1における内筒11bの間隔と一致するように調整される。
【0039】
弾性シャフト31が立設している状態で基礎部90が形成されたら、一段目の塀パネルユニット1の内筒11bに弾性シャフト31を挿通しながら、一段目の塀パネルユニット1を基礎部90に載置する。
【0040】
一段目の塀パネルユニット1の上に、二段目以降の塀パネルユニット1を、同様に内筒11bに弾性シャフト31を挿通しながら、塀として所望される高さとなるまで積み重ねる。ここでは、3つの塀パネルユニット1を積み重ねる場合を図示している。
【0041】
弾性シャフト31の長さは、高さ方向に積み重ねられる所定数の塀パネルユニット1の高さの和、基礎部90に埋設される長さ、及び、雌ネジ部材32の高さの総和より、若干長い設定とする。下端が基礎部90に固定された弾性シャフト31の上端は、最上段の塀パネルユニット1より上方まで突出するため、この部分の雄ネジに雌ネジ部材32を留め付ける。その際、最上段の塀パネルユニット1の上面と雌ネジ部材32との間に、ワッシャを介在させても良い。弾性シャフト31に対して雌ネジ部材32を締め付けることにより、高さ方向に積み上げられた複数の塀パネルユニット1が締結されて、基礎部90に強固に固定される。
【0042】
全ての弾性シャフト31に対する雌ネジ部材32の締め付けが済んだら、最上段の塀パネルユニット1の上方からカバー部材40を取り付ける。これにより、最上段の塀パネルユニット1の上面から突出している弾性シャフト31及び雌ネジ部材32が、カバー部材40によって遮蔽された状態となり、外観の良いものとなると共に、内筒11bに雨水が流入することが防止される。
【0043】
以上のような作業によって、塀パネルユニット1を高さ方向に積層すると共に横幅方向に連設することにより、複数の塀パネルユニット1で構成された塀1wが基礎部90に支持された塀構造が構築される。高さ方向に積層された複数の塀パネルユニット1同士は、固着させない。固着させなくても、高さ方向に積層された複数の塀パネルユニット1同士は、弾性シャフト31と雌ネジ部材32によって締結されて基礎部90に強固に固定される。
【0044】
加えて、高さ方向に積層された複数の塀パネルユニット1同士を固着させないことにより、弾性シャフト31がたわむ方向に弾性変形することが許容され、塀1w自体も同じ方向にたわむ。このとき、弾性シャフト31のたわみに伴い、上下の塀パネルユニット1間に空隙が生じることにより、塀1wがたわむ。
【0045】
塀パネルユニット1は予め工場で製造しておくことができる。また、塀パネルユニット1同士を固着させる作業をしないため、従来のコンクリートブロック塀や湿式コンクリート塀と比べて、労力や時間を大幅に低減して塀構造を構築することができる。
【0046】
また、塀パネルユニット1は、構成部材であるパネル芯材及び被覆板材が樹脂製またはアルミニウム製であることに加え、パネル芯材は空隙の多いハニカム構造体10と中空構造である筒部11で形成されているため、非常に軽量である。そして、上記のようなサイズの設定により、一人または二人の作業者が人力で運搬することが可能である。そのため、道路幅や敷地面積が狭小で、大型の輸送車やクレーンが進入でできない施工現場であっても、問題なく塀構造を構築することができる。また、塀パネルユニット1それぞれが軽量であるため、仮に地震等で塀が倒壊したとしても被害を小さくとどめることができると共に、手作業で容易に撤去・運搬することができる。
【0047】
更に、パネル芯材の構成であるハニカム構造体10は、空隙の多い構造体であるため塀パネルユニット1を軽量とすることに大きく寄与している一方で、六角形のセルが接合された構造体であり、塀1wが受ける応力を多方向に分散させるため、非常に機械的強度が高い。
【0048】
そして、空隙の多いハニカム構造体10をパネル芯材に使用しているものの、パネル芯材の外側面は第一被覆板材21及び第二被覆板材22によって被覆されている。そのため、外観からは中実の塀構造と区別がつかず、厚さは網や柵によるフェンスと比べて大きいため、重厚感を与える塀を構築することができる。
【0049】
更に、高さ方向に積み重ねる塀パネルユニット1の数によって塀の高さを変えることができるため、高さの自由度が高い塀構造を構築することができる。
【0050】
そして、筒部11の外筒11aが角筒状であり、直方体のハニカム構造体10と厚さ及び高さを揃えているため、筒部11とハニカム構造体10とを接合する作業性がよいと共に、筒部11とハニカム構造体10の接合により形成されるパネル芯材を、外表面に凹凸のないきれいな直方体に整えることができる。
【0051】
上述したように、本実施形態では、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニット1を基礎部90に固定するために、弾性の高い弾性シャフト31を使用しており、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニット1同士を固着しておらず、且つ、個々の塀パネルユニット1が軽量である。そのため、塀1wが風圧を受けたとき、弾性シャフト31がたわむことが許容され、弾性シャフト31のたわみに伴って塀1wもたわむ。このことを、具体的なの塀構造について実施した静的載荷試験の結果に基づいて説明する。この試験は、国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学工学部 国枝稔教授の監修のもと行った。
【0052】
静的載荷試験に供した塀構造は、パネル芯材及び被覆板材の双方をポリプロプレン製とした樹脂製塀パネルユニットの三段を積層し、二本の弾性シャフトで基礎部に固定した塀構造と、パネル芯材及び被覆板材の双方をアルミニウム製としたアルミニウム製塀パネルユニットの三段を積層し、二本の弾性シャフトで基礎部に固定した塀構造の二種類とした。塀パネルユニットのサイズは、何れも高さ450mm、横幅1800mm、厚さ130mmとした。基礎部の重量は16.8708Nであり、各塀構造において基礎部を除いた総重量は、樹脂製塀パネルユニットを使用した塀構造では5.9160N、アルミニウム製塀パネルユニットを使用した塀構造では7.5684Nであった。地表面粗度区分は、「III」とした。
【0053】
各塀構造について、塀の上端に重量2.7132Nの載荷用金具を固定し、これに取り付けられたワイヤを介して水平方向に引張力を作用させた。各塀構造に作用させる荷重を変化させ、図4に示すように、塀の上端の水平方向への変位Dを測定した。変位Dは、塀の横幅方向における左端、右端、中央の三カ所の上端について測定し、その平均値を算出した。各塀構造についての荷重-変位曲線を、図5に示す。
【0054】
図5から分かるように、荷重をゼロから増加させて行ったとき、アルミニウム製塀パネルユニットを使用した塀構造では荷重が2500Nに至るまで(点P1に至るまで)、樹脂製塀パネルユニットを使用した塀構造では荷重が2000Nに至るまで(点Q1に至るまで)、荷重-変位曲線はほぼ直線である。点P1,Q1を「変曲点」と称すると、各塀構造は、変曲点に至るまでの荷重ではたわむ方向に弾性変形し、この範囲では荷重が除かれれば元の状態に戻り、変曲点を超える荷重が作用すれば、荷重が除かれた際に残留変位が生じると考えられる。
【0055】
また、アルミニウム製塀パネルユニットを使用した塀構造は、荷重が3975Nに達した時点で基礎部に損傷が生じ(点P2)、樹脂製塀パネルユニットを使用した塀構造では荷重が3775Nに達したときに塀パネルユニットに損傷が生じたが(点Q2)、何れの塀構造でも、この時点において塀は転倒することなく自立していた。
【0056】
ここで、点P1,Q1,P2,Q2における変位D、及び、塀の高さH(図5において、基礎部90の上端から塀1wの上端までの高さH)対する変位Dの割合(百分率)は、次のようである。
(点P1)変位D:60.2mm、D/H:4.5%
(点Q1)変位D:75.3mm、D/H:5.6%
(点P2)変位D:197.4mm、D/H:14.6%
(点Q2)変位D:250.3mm、D/H:18.5%
【0057】
また、点P1,Q1,P2,Q2の荷重は、次の風速に相当する。
(点P1)荷重2500N:風速49.0m/sec
(点Q1)荷重2000N:風速43.9m/sec
(点P2)荷重3975N:風速61.8m/sec
(点Q2)荷重3775N:風速60.2m/sec
【0058】
以上のように、実施例の塀構造は、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニットを基礎部に固定するために、弾性の高い弾性シャフトを使用しており、高さ方向に積み重ねられる塀パネルユニット同士を固着しておらず、且つ、個々の塀パネルユニットが軽量である。そのため、塀が風圧を受けたとき、弾性シャフトがたわむことが許容され、弾性シャフトのたわみに伴って塀もたわむ。塀が弾性的にたわむ範囲は、塀の上端の水平方向における変位Dの塀の高さHに対する割合(D/H)が4.5%~5.6%に至るまでの範囲であった。また、塀が弾性的にたわむこの範囲で、塀が耐えられる風速は、44m/sec~49m/secに相当した。
【0059】
つまり、本実施例の塀構造は、従来のコンクリートブロック塀やコンクリート塀などが、塀自体の重さや剛性の高さで風圧に耐えていたのとは異なり、塀自体がたわむことによって風圧に耐えるものである。
【0060】
また、塀の上端の水平方向における変位Dの塀の高さHに対する割合(D/H)が、4.5%~5.6%を超えるが14.6%~18.5%に至るまでの範囲では、残留変位が生じるものの、塀及び基礎部が損傷することはなかった。そして、(D/H)が、14.6%~18.5%に達したときは、塀または基礎部が損傷したものの、塀は転倒することなく自立していた。このときに塀が耐えられる風速は60m/sec~62m/secに相当した。
【0061】
つまり、本実施例の塀構造は、大きな風圧を受けたときに損傷しないことを目的としたものではなく、例え、塀構造の一部が損傷したとしても、転倒することなく風圧に耐えることができることを目的としたものであり、風速60m/sec~62m/secに相当する大きな風圧まで、大きくたわんだ状態でありながら転倒することなく耐えることができる。
【0062】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0063】
例えば、高さ方向に積層される塀パネルユニット1の数、塀パネルユニット1一つ当たりのハニカム構造体10や筒部11の数は、上記の数に限定されない。
【0064】
また、高さ方向に積み重ねられた複数の塀パネルユニット1の外表面を、塗装することができる。この場合、塗装膜によっては、塀パネルユニット1同士は固着されないため、弾性シャフト31のたわみに伴い、上下の塀パネルユニット1間に空隙が生じることを妨げない。
【符号の説明】
【0065】
1 塀パネルユニット
10 ハニカム構造体
11 筒部
11a 外筒
11b 内筒
21 第一被覆板材
22 第二被覆板材
23 第三被覆板材
31 弾性シャフト
32 雌ネジ部材
90 基礎部
図1
図2
図3
図4
図5