(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】放射線治療による抗腫瘍免疫効果を評価する末梢血バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20241218BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20241218BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241218BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241218BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20241218BHJP
C07K 16/34 20060101ALI20241218BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/48 M
G01N33/53 D
C12N5/0783
C12Q1/06
C07K16/34
C07K16/28
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2021502106
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006616
(87)【国際公開番号】W WO2020171138
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019028502
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019175852
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100143638
【氏名又は名称】長谷部 真久
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】各務 博
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147291(WO,A1)
【文献】特表2018-532414(JP,A)
【文献】吉本由哉、鈴木義行,特集 免疫療法の新しい展開 免疫療法を含む併用療法 免疫療法と放射線療法の併用,がん分子標的治療,日本,2017年07月24日,Vol.15,No.2,Page.164-168
【文献】MARCISCANO AE、他20名,Elective Nodal Irradiation Attenuates the Combinatorial Efficacy of Stereotactic Radiation Therapy a,Clin Cancer Res,2018年10月15日,Vol.24,No.20,Page.5058-5071,Clin Cancer Res. 2018 Oct 15;24(20):5058-5071. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-17-3427. Epub 2018 Jun 13.
【文献】SHETAL AP、他1名,Combination Cancer Therapy With Immune Checkpoint Blockade: Mechanisms and Strategies,Immunity,2018年03月20日,Vol.48,No3,Page.417-433,DOI: 10.1016/j.immuni.2018.03.007,全文・全図等参照
【文献】村田憲治、外2名,がん免疫療法と免疫記憶,日本臨床免疫学会会誌,日本,2016年,Vol.39,No.1,Page.18-22
【文献】JM Qian、外3名,Timing and type of immune checkpoint therapy affect the early radiographic response of melanoma brai,Cancer,2016年06月10日,Vol.122,No.19,Page.3051-3058,https://doi.org/10.1002/cncr.30138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12N 5/0783
C12Q 1/06
C07K 16/34
C07K 16/28
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療を受けた被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、該被験体における放射線治療による免疫活性化の指標とする方法であって、
該被験体から得られた該サンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含み、
該サンプルにおける抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4
+T細胞亜集団の量と基準との比較により、該被験体における免疫活性化の有無が示され、
該抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD4
+T細胞亜集団が、CD62L
lowCD4
+T細胞集団に含まれる細胞亜集団であり、
該サンプルにおける該細胞亜集団の量が、該基準より増加している場合には、該被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていることが示され、
該サンプルにおける該細胞亜集団の量が、該基準より増加していない場合には、該被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていないことが示され、
該被験体において放射線治療による免疫活性化が生じている場合に、その時点で該被験体に免疫チェックポイント阻害剤を含むがん免疫療法を施すべきことがさらに示され、
該免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、および/またはCTLA-4阻害剤を含む、方法。
【請求項2】
前記被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていないことが示された場合に、前記被験体に再度放射線治療を施すべきことがさらに示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再度放射線治療を受けた被験体から得られたサンプルにおける前記細胞亜集団の組成を分析する工程をさらに含み、
該再度放射線治療を受けた被験体において放射線治療による免疫活性化が生じている場合に、その時点で該被験体に前記免疫チェックポイント阻害剤を含むがん免疫療法を施すべきことがさらに示される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団の量および抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8
+T細胞亜集団の量からなる群から選択される量と基準との比較により該被験体における免疫活性化の有無が示される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD4
+T細胞亜集団が、CCR7
+CD45RA
-CD62L
lowCD4
+T細胞亜集団、ICOS
+CD62L
lowCD4
+T細胞亜集団、LAG3
+CD62L
lowCD4
+T細胞亜集団、PD-1
+CD62L
lowCD4
+T細胞亜集団またはCD28
+CD62L
lowCD4
+T細胞亜集団である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団が、HLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8
+T細胞亜集団が、CD62L
lowCD8
+T細胞集団に含まれる細胞亜集団である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8
+T細胞亜集団が、CD137
+CD62L
lowCD8
+T細胞亜集団である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルが、末梢血サンプルである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基準が、前記放射線治療前の前記被験体のサンプルにおける前記細胞亜集団の量である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記放射線治療が、腫瘍を含む照射範囲になされているものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、またはPD-1阻害剤もしくはPD-L1阻害剤とCTLA-4阻害剤との組み合わせである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法であって、被験体から複数の時点で得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、該被験体における放射線治療による免疫活性化をモニタリングするための指標とすることをさらに特徴とし、該被験体から複数の時点で得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含む、方法。
【請求項14】
被験体におけるがんを処置するための第1の免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、
該組成物は、放射線治療を受けた被験体であって、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法によって該被験体において免疫活性化が生じていることが示されている被験体に投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項15】
前記第1の免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、またはCTLA-4阻害剤である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
1または複数のさらなる薬剤と組み合わせて投与されることをさらに特徴とする、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
前記さらなる薬剤が、第2の免疫チェックポイント阻害剤を含み、前記第1の免疫チェックポイント阻害剤と前記第2の免疫チェックポイント阻害剤とが異なる、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか1項に記載の組成物と、前記組成物が放射線治療と併用されることが記載された添付文書と、を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法において使用するためのキット。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法において使用するためのキットであって、(A)CD4およびCD62L
に対する検出剤を含み、
前記被験体において放射線治療による免疫活性化が生じているかどうかの判定は、該被験体から得られたサンプルにおける抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4
+T細胞亜集団の量と基準との比較によって行われる、キット。
【請求項20】
前記被験体は、放射線治療を受ける前に、がん免疫療法に対して応答性ではない免疫細胞組成を有していた、請求項14~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記がん免疫療法に対して応答性ではない免疫細胞組成は、閾値よりも低いCD62L
lowCD4
+T細胞亜集団の量または割合である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記第2の免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、または抗CTLA4抗体を含む、請求項17に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療の分野に関連する。とりわけ、がん治療における放射線治療による免疫に対する影響の評価に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対して放射線治療を行った際に、照射野の外に存在するがんについても退縮させる効果が報告されており、アブスコパル効果(abscopal effect)と呼ばれている。アブスコパル効果は何らかの免疫活性化を介して生じる現象であると考えられているが、その詳細な機構については不明点が多く、生じているアブスコパル効果を定量または評価するためのバイオマーカーは見出されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、被験体における放射線治療による免疫活性化の指標とする方法を提供する。本明細書に記載される特定の細胞亜集団の量を基準と比較することにより、被験体において生じている放射線治療による免疫活性化の有無および/または程度を決定することができる。
【0004】
本発明において指標として用い得る細胞亜集団としては、限定されるものではないが、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団、抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団または抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団が挙げられる。抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団は、例えば、CD62LlowCD4+T細胞集団に含まれる細胞亜集団(例えば、CD62LlowCD4+T細胞亜集団自体、またはICOS+CD62LlowCD4+T細胞亜集団など)である。抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団は、例えば、HLA-DR+CD141+CD11c+細胞亜集団などである。抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団は、例えば、CD137+CD62LlowCD8+T細胞亜集団などである。
【0005】
本発明のさらなる実施形態では、被験体において生じている放射線治療による免疫活性化が示されることによって、かかる被験体に対してがん免疫療法を施すべきか否か、またはいつがん免疫療法を施すべきかが示され得る。放射線治療による免疫活性化が生じている時点で、がんに対する免疫反応を利用するがん免疫療法を施すことは有利であると考えられるが、これまでは、放射線治療により免疫活性化が生じているかを判断するためのバイオマーカーが存在しなかった。
【0006】
がん免疫療法として、好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤の投与を含むがん免疫療法が挙げられる。免疫チェックポイント阻害剤の投与は、他の形式の治療と併用されてもよく、また、異なる薬剤(例えば、異なる免疫チェックポイント阻害剤)と併用されてもよい。
【0007】
本発明の実施形態の例が、以下の項目に示される。
(項目1)
放射線治療を受けた被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、該被験体における放射線治療による免疫活性化の指標とする方法であって、
該被験体から得られた該サンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含み、
該サンプルにおける抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団の量と基準との比較により、該被験体における免疫活性化の有無が示される、方法。
(項目2)
放射線治療を受けた被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、該被験体における放射線治療による免疫活性化の指標とする方法であって、
該被験体から得られた該サンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含み、
該サンプルにおける抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団の量と基準との比較により、該被験体における免疫活性化の有無が示される、方法。
(項目3)
放射線治療を受けた被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、該被験体における放射線治療による免疫活性化の指標とする方法であって、
該被験体から得られた該サンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含み、
該サンプルにおける抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団の量と基準との比較により、該被験体における免疫活性化の有無が示される、方法。
(項目4)
前記サンプルにおける抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団の量、抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団の量および抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団の量からなる群から選択される少なくとも2つの量と基準との比較により該被験体における免疫活性化の有無が示される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5)
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団が、CD62LlowCD4+T細胞集団に含まれる細胞亜集団である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団が、CD62LlowCD4+T細胞亜集団またはCCR7+CD45RA-CD62LlowCD4+T細胞亜集団である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団が、ICOS+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、LAG3+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、PD-1+CD62LlowCD4+T細胞亜集団またはCD28+CD62LlowCD4+T細胞亜集団である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団が、HLA-DR+CD141+CD11c+細胞亜集団である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団が、CD62LlowCD8+T細胞集団に含まれる細胞亜集団である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団が、CD137+CD62LlowCD8+T細胞亜集団である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記サンプルが、末梢血サンプルである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記基準が、前記放射線治療前の前記被験体のサンプルにおける前記細胞亜集団の量である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記サンプルにおける前記細胞亜集団の量が、前記基準より増加していることは、前記被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていることを示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記サンプルにおける前記細胞亜集団の量が、前記基準より増加していないことは、前記被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていないことを示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記放射線治療が、腫瘍を含む照射範囲になされているものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていることにより、その時点で該被験体に免疫チェックポイント阻害剤を含むがん免疫療法を施すべきことがさらに示される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17)
前記被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていないことにより、該被験体に再度放射線治療を施すべきことがさらに示される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18)
被験体から複数の時点で得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、該被験体における放射線治療による免疫活性化をモニタリングするための指標とする方法としてさらに規定される、前記項目のいずれかに記載の方法であって、該被験体から複数の時点で得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含む、方法。
(項目19)
被験体におけるがんを処置するための免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、
該組成物は、放射線治療を受けた被験体であって、前記項目のいずれかに記載の方法によって該被験体において免疫活性化が生じていることが示されている被験体に投与されることを特徴とする、組成物。
(項目20)
前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤および/またはPD-L1阻害剤である、前記項目に記載の組成物。
(項目21)
1または複数のさらなる薬剤と組み合わせて投与されることをさらに特徴とする、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目22)
前記さらなる薬剤が、第2の免疫チェックポイント阻害剤を含む、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目23)
前記項目のいずれかに記載の組成物と、前記組成物が放射線治療と併用されることが記載された添付文書と、を含む製品。
(項目24)
被験体において放射線治療による免疫活性化が生じているかを判定するためのキットであって、
(A)CD4およびCD62L;
(B)(i)ICOS、PD-1、LAG-3およびCD28から選択されるマーカー、(ii)CD4、ならびに(iii)CD62L;
(C)CD11c、CD141およびHLA-DR;
(D)CD11c、CD123およびHLA-DR;あるいは
(E)CD8、CD62LおよびCD137
に対する検出剤を含む、キット。
(項目25)
がんを処置するための免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、放射線治療を受けた被験体に対して投与されることを特徴とし、該被験体は、放射線治療を受ける前に、がん免疫療法に対して応答性ではない免疫細胞組成を有していた、組成物。
(項目26)
前記がん免疫療法に対して応答性ではない免疫細胞組成は、閾値よりも低いCD4+CD62Llow細胞亜集団の量または割合である、前記項目に記載の組成物。
(項目27)
前記免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体を含む、前記項目のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、放射線治療による免疫活性化を定量または評価することができる。これにより、放射線治療により生じたプライミング相活性化及びエフェクターT細胞増加効果を経時的にモニタリングすることができる。さらに、本発明によって、放射線治療後どのタイミングで免疫チェックポイント(例えば、PD-1)阻害治療を行うべきか判断することができる。また、本発明のバイオマーカーは、T細胞プライミング効果を狙った放射線疑似ワクチン療法により免疫チェックポイント阻害薬無効型から有効型に変容させる治療の効果を評価するバイオマーカー、およびそのような変容のための処置が必要とされる患者を選択するための指標となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、胸部放射線治療前と胸部放射線治療完了時との末梢血T細胞組成の変化を示す図である。左は、CD4
+T細胞集団中のCD62L
lowCD4
+T細胞亜集団の割合を示す。中は、CD4
+T細胞集団中のFOXP3
+CD25
+CD4
+T細胞亜集団の割合を示す。右は、T細胞集団中のCD8
+T細胞亜集団の割合を示す。CD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合が有意に増加していることが理解される。
【
図2】
図2は、胸部放射線治療前後での末梢血CD4
+T細胞組成の変化を示す図である。左上はT細胞集団中のCD4
+T細胞亜集団の割合を示す。右上はCD4
+T細胞集団中のCD62L
lowCD4
+T細胞亜集団の割合を示す。左下はCD62L
lowCD4
+T細胞集団中のICOS
+CD62L
lowCD4
+T細胞亜集団の割合を示す。右下はCD4
+T細胞集団中のFOXP3
+CD25
+CD4
+T細胞亜集団の割合を示す。CD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合、およびCD62L
lowCD4
+細胞亜集団におけるICOS
+CD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合が有意に増加していることが理解される。
【
図3】
図3は、いくつかの治療種別ごとのCD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合の変化を示す図である。いずれの治療種別においても、放射線治療によってCD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合が増加傾向にあることが理解される。curative TRT:治療目的胸部放射線治療、curative CRT:治療目的化学療法併用放射線治療、palliative TRT:緩和目的胸部放射線治療。
【
図4】
図4は、胸部放射線治療前後での末梢血myeloid系DC細胞組成の変化を示す図である。左はCD141
+CD11c
+細胞集団中のHLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合を示す。右はPBMC細胞集団中のCD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合を示す。CD141
+CD11c
+細胞集団におけるHLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合が有意に増加していることが理解される。
【
図5】
図5は、CD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合およびCD141
+CD11c
+細胞集団におけるHLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合の、放射線治療後約1ヶ月の時点までの変化を含めた図である。一時的に増加したCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合およびHLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合が、放射線治療前の水準へと戻る傾向があった。
【
図6】
図6は、CD4
+T細胞中のCD62L
lowCD4
+T細胞の割合と、CD4
+T細胞中のエフェクターメモリー細胞(CCR7
-CD45RA
-)CD4
+T細胞の割合との関係を示す図である。これらの細胞亜集団の量は強い相関関係にあることが理解される。
【
図7】
図7は、放射線治療前と放射線治療完了時との末梢血T細胞組成の変化を示す図である。
図7aは、CD4
+T細胞集団中のCD62L
lowCD4
+T細胞亜集団の割合の変化を示す(P<0.0001、対応有りのt検定)。
図7bは、HLA-DR
highCD11c
+CD123
-mDC亜集団の割合の変化を示す(P=0.0008、対応有りのt検定)。
図7cは、デュルバルマブ併用療法を受けなかった患者における、治療前の%CD62L
lowCD4
+T細胞とTRTまたはCRT後のPFSとの相関を示す(n=34)。
【
図8】
図8は、放射線治療前と放射線治療完了時とのCD62L
lowCD4
+T細胞上の免疫チェックポイント分子の発現の変化を示す図である(対応有りのt検定)。
【
図9】
図9は、放射線治療前と放射線治療完了時との、CCR7およびCD45RAでゲーティングしたCD4
+T細胞に基づくT細胞亜集団の変化を示す図である。naive:CCR7
+CD45RA
+、CM:CCR7
+CD45RA
-、EM:CCR7
-CD45RA
-(対応有りのt検定)。
【
図10】
図10は、放射線治療前、放射線治療完了時および放射線治療約1ヶ月後までの、%mDC、%CD62L
lowCD4
+T細胞および免疫チェックポイント分子発現の動態を示す図である(Tukey post-hoc分析を伴う一元配置ANOVA)。
【
図11】
図11は、放射線治療前と放射線治療完了時との、CCR7およびCD45RAでゲーティングしたCD8
+T細胞に基づくT細胞亜集団の変化を示す図である。naive:CCR7
+CD45RA
+、CM:CCR7
+CD45RA
-、EM:CCR7
-CD45RA
-、EMRA:CCR7
-CD45RA
+(対応有りのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
(定義)
本明細書において、「バイオマーカー」とは、通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性をいう。
【0013】
本明細書において「がん」または「癌」は、互換可能に用いられ、異型性が強く、増殖が正常細胞より速く、周囲組織に破壊性に浸潤し得あるいは転移をおこし得る悪性腫瘍またはそのような悪性腫瘍が存在する状態をいう。本発明においては、がんは固形がんおよび造血器腫瘍を含むがそれらに限定されない。
【0014】
本明細書において、「がん免疫療法」とは、生物の有する免疫機構などの生体防御機構を用いてがんを治療する方法をいう。
【0015】
本明細書において、「抗腫瘍免疫応答」とは、生体内の腫瘍に対する任意の免疫応答をいう。
【0016】
本明細書において、「抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激」とは生体内の腫瘍に対する免疫応答の過程で発生する、樹状細胞を活性化する任意の刺激をいう。この刺激は、直接的ないし間接的に抗腫瘍免疫応答を生じる要因の一つとなり得る。限定されることはないが、代表的には、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激は、CD4+T細胞(例えば、エフェクターT細胞)による樹状細胞の活性化であり得、これによって活性化された樹状細胞がCD8+T細胞に刺激を与え、刺激を受けたCD8+T細胞が抗腫瘍効果を発揮する。
【0017】
本明細書において、「相関」するとは、2つの事象が統計学的に有意な相関関係を有することをいう。例えば、「Aと相関するBの相対量」とは、事象Aが発生した場合に、Bの相対量が統計学的に有意に影響を受ける(例えば、増加ないし減少すること)ことをいう。
【0018】
本明細書において「フローサイトメトリー」とは、液体中に懸濁する細胞、個体およびその他の生物粒子の粒子数、個々の物理的・化学的・生物学的性状を計測する技術をいう。
【0019】
本明細書において、「免疫活性化」とは、免疫機能の体内における異物を排除する機能が増大することを指し、免疫機能において正に作用する任意の因子(例えば、免疫細胞またはサイトカイン)の量の増大によって示され得る。
【0020】
本明細書において、「細胞亜集団」とは、多様な特性の細胞を含む細胞集団中の、何らかの共通する特徴を有する任意の細胞の集合を指す。特定の名称が当技術分野で知られているものについては、かかる用語を用いて特定の細胞亜集団に言及することもでき、任意の性質(例えば、細胞表面マーカーの発現)を記載して特定の細胞亜集団に言及することもできる。
【0021】
本明細書において、ある細胞亜集団の「量」とは、ある細胞の絶対数と、細胞集団における割合の相対量とを包含する。例えば、本明細書において、「CD62LLOWCD4+T細胞亜集団の量」とは、CD4+細胞の量に対する相対量であってもよい。また本明細書において、「細胞比率」とは、その細胞亜集団の量を意味し、例えば「CD62LLOWCD4+T細胞比率」とは、CD62LLOWCD4+T細胞亜集団の量を意味する。
【0022】
本明細書において、細胞に関する用語「相対量」は、「割合」と互換可能に使用される。代表的には、用語「相対量」および「割合」は、特定の細胞集団(例えば、CD4+T細胞集団)を形成する細胞の数に対する、所期の細胞亜集団(例えば、CD62LlowCD4+T細胞亜集団)を形成する細胞の数を意味する。
【0023】
本明細書において、「基準」とは、本明細書に記載されるマーカーの量の増減を決定するための比較対象となる量を指す。ある処置(例えば、放射線治療)の前後でのある量の増減を決定する場合、例えば、「基準」としては処置の前における当該量や、当技術分野で一般的に目安とされる値が挙げられる。
【0024】
本明細書において数値を修飾して用いられる場合、「約」は、記載される数値の±10%までの範囲を含むことを意味して用いられる。
【0025】
本明細書において、「放射線」とは、波の形または粒子による空間または物質中でのエネルギーの伝播を指す。
【0026】
本明細書において、「放射線治療」とは、放射線照射を用いる任意の治療法を指す。
【0027】
(マーカー)
本発明の実施形態において、放射線治療を受けた被験体における細胞亜集団の組成を、被験体における放射線治療による免疫活性化の指標とする方法が提供される。方法は、サンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含み得る。細胞亜集団の組成の分析は、本明細書に記載されるか、または当業者にとって公知である任意の方法によって行うことが可能である。方法は、インビトロまたはインシリコのものであってもよい。本発明の1つの実施形態において、細胞亜集団の量と適切な基準との比較により、被験体における免疫活性化の有無が示される。特に、細胞亜集団は、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関する細胞亜集団を用いることができる。
【0028】
1つの実施形態においては、指標となる細胞亜集団は、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団である。例えば、本明細書の実施例においては、放射線治療前後で、CD62LlowCD4+T細胞亜集団量の増大が観察されている。CD62LlowCD4+T細胞は、抗腫瘍免疫において樹状細胞の活性化を担っている。抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団は、同様に、放射線治療による免疫活性化の指標として利用可能であると考えられる。
【0029】
抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団としては、例えば、二次リンパ臓器へのホーミング分子の発現が低下したCD4+T細胞亜集団、エフェクター型T細胞にプライミングされたCD4+T細胞亜集団、抗原認識によるプライミングを受けたCD4+T細胞亜集団、および、制御性T細胞亜集団が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団の例として、例えば、CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CCR7-CD4+T細胞亜集団、LAG-3+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、ICOS+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CCR4+CD25+CD4+T細胞亜集団、CD45RA-CD4+T細胞亜集団、CD45RO+CD4+T細胞亜集団、CD28+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CD62LhighCD25+CD4+T細胞亜集団、CD127+CD25+CD4+T細胞亜集団、CD45RA-Foxp3+CD4+T細胞亜集団、およびFoxp3+CD25+CD4+T細胞亜集団等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団は、例えば、CD62LlowCD4+T細胞集団に含まれる細胞亜集団であってよい。抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団としては、CD62LlowCD4+T細胞亜集団(すなわち、CD62LlowCD4+T細胞集団それ自体)、ICOS+CD4+T細胞亜集団、ICOS+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、PD-1+CD4+T細胞亜集団、PD-1+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、LAG-3+CD4+T細胞亜集団、LAG-3+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CD28+CD4+T細胞亜集団およびCD28+CD62LlowCD4+T細胞亜集団等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
1つの実施形態において、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団(好ましくは、CD62LlowCD4+T細胞集団に含まれる細胞亜集団)は、無増悪生存(Progression Free Survival;PFS)の指標になり得る。
【0033】
上記の細胞亜集団について、細胞亜集団の量を指標として用いることに換えてもしくは加えて、適切な細胞における適切な表面マーカー分子の発現量を指標として用いてもよい。例えば、CD4+T細胞に発現するICOS、PD-1、LAG-3、およびCD28等の発現量を指標として用いてもよい。より好ましくは、CD62LlowCD4+T細胞に発現するICOS、PD-1、LAG-3、およびCD28等の発現量を指標として用いてもよい。
【0034】
1つの実施形態においては、指標となる細胞亜集団は、抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団である。例えば、本明細書の実施例においては、放射線治療前後で、HLA-DR+CD141+CD11c+細胞亜集団の増大が観察されている。HLA-DRは、CD4+T細胞による樹状細胞の活性化を媒介する。抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団は、同様に、放射線治療による免疫活性化の指標として利用可能であると考えられる。CD11c+CD141+CD123-の細胞集団が、一般に機能的にTh1誘導能の高い骨髄性樹状細胞(mDC、抗腫瘍免疫に重要なDC)とされるが、CD141とCD123とは一般に排他的に発現されるため、本明細書においては、CD141+CD11c+としても、CD123-CD11c+としても同じ細胞集団を特定することに留意されたい。
【0035】
抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団としては、例えば、CD4+T細胞集団におけるホーミング分子の発現が低下した細胞亜集団の増加に起因して増加する樹状細胞亜集団、CD4+T細胞集団におけるエフェクター型T細胞にプライミングされたCD4+T細胞亜集団の増加に起因して増加する樹状細胞亜集団、および、CD4+T細胞集団における抗原認識によるプライミングを受けたCD4+T細胞亜集団の増加に起因して増加する樹状細胞亜集団が挙げられるがこれらに限定されない。また、樹状細胞亜集団としては、例えば、HLA-DR+樹状細胞亜集団、CD80+樹状細胞亜集団、CD86+樹状細胞亜集団、およびPD-L1+樹状細胞亜集団が挙げられるがこれらに限定されない。樹状細胞としては、例えば、骨髄樹状細胞(mDC、CD141+CD11c+樹状細胞)および形質細胞様樹状細胞(pDC、CD123+CD11c+樹状細胞)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団としては、HLA-DR+CD141+CD11c+細胞亜集団が挙げられる。上記の細胞亜集団について、細胞亜集団の量を指標として用いることに換えてもしくは加えて、適切な細胞における適切な表面マーカー分子の発現量を指標として用いてもよい。例えば、CD141+CD11c+細胞に発現するHLA-DR等の発現量を指標として用いてもよい。
【0037】
1つの実施形態においては、指標となる細胞亜集団は、抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団である。例えば、CD62LlowCD8+T細胞上に発現するCD137について、放射線治療の前後で有意差をもって変化している(表4)。CD4+T細胞による活性化を受けた樹状細胞は、CD8+T細胞を刺激し、刺激を受けたCD8+T細胞が最終的に抗腫瘍活性を発揮する。CD8+T細胞上のCD137は、樹状細胞によるCD8+T細胞の刺激を媒介している。抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団は、同様に、放射線治療による免疫活性化の指標として利用可能であると考えられる。
【0038】
抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団としては、例えば、CD4+T細胞集団におけるホーミング分子の発現が低下した細胞亜集団の増加に起因して増加するCD8+T細胞亜集団、CD4+T細胞集団におけるエフェクター型T細胞にプライミングされたCD4+T細胞亜集団の増加に起因して増加するCD8+T細胞亜集団、CD4+T細胞集団における抗原認識によるプライミングを受けたCD4+T細胞亜集団の増加に起因して増加するCD8+T細胞亜集団、樹状細胞集団におけるHLA-DR+樹状細胞亜集団の増加に起因して増加するCD8+T細胞亜集団、樹状細胞集団におけるCD80+樹状細胞亜集団の増加に起因して増加するCD8+T細胞亜集団、樹状細胞集団におけるPD-L1+樹状細胞亜集団の増加に起因して増加するCD8+T細胞亜集団が挙げられるがこれらに限定されない。さらに、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団としては、例えば、CD62LlowCD8+T細胞亜集団、CD137+CD8+T細胞亜集団、およびCD28+CD62LlowCD8+T細胞亜集団が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団としては、CD137+CD62LlowCD8+T細胞亜集団が挙げられる。上記の細胞亜集団について、細胞亜集団の量を指標として用いることに換えてもしくは加えて、適切な細胞における適切な表面マーカー分子の発現量を指標として用いてもよい。例えば、CD62LlowCD8+T細胞に発現するCD137、PD-1、またはCD28等の発現量を指標として用いてもよい。
【0040】
骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC、CD33+CD14+HLA-DR-細胞集団)は、放射線治療前後での有意な変化が観察されており、かかる細胞集団の割合も指標となり得る。
【0041】
本明細書に記載される細胞亜集団の量は、複数の量を組み合わせて指標として使用することが可能である。指標を組み合わせることは、応答性の予測をより正確なものとすることができる。1つの実施形態では、サンプルにおける抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団の量、抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団の量および抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団の量からなる群から選択される少なくとも2つの量と基準との比較により被験体における免疫活性化の有無が示され得る。例えば、1つの実施形態では、サンプル中のCD4+T細胞におけるCD62Llow細胞の割合(X)と、CD4+T細胞におけるCD25+FoxP3+の割合(Y)とを組み合わせた、X2/Yとの指数を用いることができる。これらの指標に換えて、または加えて、放射線治療による免疫活性化を示し得るさらなる指標をさらに用い得ることは当業者に理解される。なお、本発明においては、所期の細胞亜集団の量に代えて、あるいは、所期の細胞亜集団の量に加えて、その所期の細胞亜集団に含まれる細胞亜集団の量を使用してもよい。
【0042】
例えば、本明細書の実施例に示される結果から、以下のような因子がマーカーとして用いられ得る。なお、本明細書において、%○○/○○の形で細胞亜集団の割合を表現する場合に、例えば、CD62Llow/CD4+T細胞は、CD4+T細胞に対するCD62LlowCD4+T細胞の割合を意味し、分子に記載された細胞は分母に記載された細胞の特徴をすべて備えている。細胞亜集団に対する分母が明記されない場合、CD4+T細胞集団またはCD8+T細胞集団などの、当該細胞亜集団を含む任意の細胞集団に対する割合が包含され得る。
【0043】
放射線治療(RT)により有意に変化しT細胞免疫ブーストに関連していると考えられる因子の中で、RT終了直後に増加する因子としては、
・%CD62Llow/CD4+T細胞(CD4+T細胞に対するCD62LlowCD4+T細胞の割合);
・%LAG3+/CD62LlowCD4+T細胞(LAG3+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD4+T細胞でもよい);
・%ICOS+/CD62LlowCD4+T細胞(%ICOS+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD4+T細胞でもよい);
・%CD28+/CD62LlowCD4+T細胞(%CD28+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD4+T細胞でもよい);および
・%HLA-DR+/CD11c+CD141+細胞(HLA-DRhighCD11c+CD123-mDC、%mDC/CD3-CD14-CD19-細胞でもよい)
・%PD-1+/CD62LlowCD4+T細胞
・%CD62LlowCCR7+CD45RA-/CD4+T細胞(CCR7+CD45RA-CD4+細胞でもよい)
・%CCR7-CD45RA-CD4+T細胞
・%CCR7-CD45RA-CD8+T細胞(EM CD8+T細胞)
・%CCR7+CD45RA-CD8+T細胞(CM CD8+T細胞)
が挙げられる。RT終了直後に減少する因子としては、
・%CCR7+CD45RA+CD4+細胞(ナイーブCD4+T細胞)
・%CCR7-CD45RA+CD8+T細胞(EMRA CD8+T細胞)
が挙げられる。
【0044】
また、RT終了後1ヶ月後までに増加する因子としては、
・%PD-1+/CD62LlowCD4+T細胞(%PD-1+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD4+T細胞でもよい);
・%CD137+/CD62LlowCD4+T細胞(%CD137+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD4+T細胞でもよい);
・%PD-1+/CD62LlowCD8+T細胞(%PD-1+/エフェクター(CCR7+CD45RA-)CD8+T細胞、%PD-1+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD8+T細胞でもよい);および
・%CD137+/CD62LlowCD8+T細胞(%CD137+/エフェクター(CCR7+CD45RA-)CD8+T細胞、%CD137+/エフェクターメモリー(CCR7-CD45RA-)CD8+T細胞でもよい)
が挙げられる。
【0045】
さらに、放射線治療により有意に増加しT細胞免疫抑制に関連していると考えられる因子としては、
%CD25+FoxP3+/CD4+T細胞(制御性T細胞);および
%CD33+CD14+HLA-DRlow細胞(Myeloid-derived suppressor(MDSC))
が挙げられる。理論に拘束されることを望むものではないが、これらは、活性化した細胞性免疫を抑制するネガティブフィードバックと考えられる。放射線治療後の免疫状態を評価する因子として有用であると考えられる。
【0046】
本発明において、細胞亜集団量を適切な基準と比較し、比較によって被験体における免疫活性化の有無を決定することができる。サンプルにおける細胞亜集団の量が、基準より増加していることは、被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていることを示し得る。あるいは、サンプルにおける細胞亜集団の量が、基準より増加していないことは、被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていないことを示し得る。
【0047】
基準としては、例えば、放射線治療前の被験体のサンプルにおける対応する細胞亜集団の量が挙げられるが、これに限定されるものではない。このほか、基準としては、放射線治療を受けていない被験体のサンプルから実験的に算出した値などを用いることも可能である。基準としては、例えば、複数例の被験体のサンプルから得られたデータに基づき、回帰分析などによって統計的に算出した値を用いてもよい。被験体から得られたデータから、機械学習または人工知能などによって基準を算出してもよい。
【0048】
基準と比べて増加していることは、放射線治療後の細胞亜集団量が、基準を超える量であるか、基準の1、2、3、4、5、10、15、20、30%を超えて増加しているか、あるいは基準の1.5倍、2倍、3倍、5倍を超えて増加していることによって示され得る。典型的には、基準の値を超えていれば、基準と比べて増加していると考えられる。基準が実験的に算出されている場合、基準値から見て適切な誤差を超える増加が観察された場合に、基準と比べて増加しているとすることができる。適切な誤差としては、例えば、1標準偏差、2標準偏差、3標準偏差、またはそれら超が挙げられる。
【0049】
(細胞の分画・分離)
T細胞の分画・分離のためのサンプルは、常法によって、被験体から適切に採取することができる。例えば、被験体の末梢血、骨髄、腫瘍組織、造血組織、脾臓、正常組織、リンパ液等から行うことができる。末梢血からのサンプル採取は、非侵襲的で簡便であるため、有利であり得る。
【0050】
被験体のサンプル中のT細胞の組成は、当業者が常法によって測定することができる。通常には、サンプル中の目的とする細胞亜集団を規定するマーカー(例えば、CD4)について、陽性である細胞の数を、フローサイトメトリーなどを用いて測定することが可能である。細胞集団の組成の測定は、フローサイトメトリーを用いることが一般的であるが、その他にも、細胞を含むサンプルに対する免疫染色、抗体アレイを用いる方法、細胞を含むサンプル中でのタンパク質発現分析(例えば、ウエスタンブロット、質量分析、HPLCなど)、細胞を含むサンプル中でのmRNA発現分析(例えば、マイクロアレイ、次世代シークエンシングなど)などを用いて行ってもよい。
【0051】
CD62LlowCD4+T細胞亜集団等の細胞亜集団のそれぞれの細胞数を計測するには、全体の細胞からそれぞれの細胞の亜集団以外の細胞を実験的に除いておいて求めてもよい。それを実現するキットがある。例えば、CD4+ Effector Memory T cellアイソレーションキット、ヒト(Militenyi Biotech社)を用いると、CD4抗体とCD62L抗体を用いずに、末梢血からCD4+CD62Llow T細胞亜集団に相当する細胞を分離することができる。全体の生細胞数を数えて記録しておき、またこのキットを用いて得られた細胞の数を数え記録すればよい。
【0052】
また、抗体を用いなくてもよい。抗体は、個々の細胞に発現している分子を特異的に認識して結合できるものであって、さらに抗体が細胞表面上、または細胞内で発現している分子に結合しているときに発色できるようにして検出し、発色している細胞の数を計測する。ここで、それらの細胞表面上、または細胞内で発現している分子はタンパク質であるので、そのタンパク質を発現している場合にはそれをコードしているmRNAも細胞内にできている。すなわち、個々の細胞内のmRNAを調べて、注目しているタンパク質分子をコードしているmRNAの有無を調べればよい。これを可能にしているのが、シングル・セルの遺伝子発現解析、つまり1細胞レベルのmRNA解析である。単細胞の遺伝子発現解析としては、たとえば、1)Quartz-Seqにより次世代シーケンシングを行う方法、2)Fluidigm C1 SystemやICELL8 SIngle-Cell Systemを用いて細胞を単離してSMART-Seq v4でライブラリー調製する方法、3)セルソーターで細胞を分離し、Ambion Single Cell-to-CTキットを用い定量PCRで計測する方法、4)CyTOF SYSTEM(Helios社)などが挙げられる。
【0053】
血液を取得し、生細胞数を数え、セルソーター等で細胞を分離し、分離した個々の細胞に対し、例えば、Ambion Single Cell-to-CTキットを用い、特定の遺伝子について発現量を定量PCR法の装置で計測することができる。その結果に基づいて、個々の細胞がCD62LlowCD4+T細胞亜集団等のどの亜集団に該当するかを調べて、それぞれの亜集団に該当した細胞の数を数える。発現を調べる遺伝子の候補としては、αβTCR、CD3、CD4、CD25、CTLA4、GITR、FoxP3、STAT5、FoxO1、FoxO3、IL-10、TGFbeta、IL-35、SMAD2、SMAD3、SMAD4、CD62Llow、CD44、IL-7R(CD127)、IL-15R、CCR7low、BLIMP1、などがある。
【0054】
例えば、CD62LlowCD4+T細胞において、CD62LhighCD4+T細胞よりも発現が亢進している遺伝子として、AURAKA、CCL17、CD101、CD24、FOXF1、GZMA、GZMH、IL18RAP、IL21、IL5RA、ND2、SMAD5、SMAD7、およびVEGFAが挙げられる(WO2018/147291、当該出願は、本明細書においてその全体が全ての目的のために参考として援用される)。これらの遺伝子の発現を調べることによって、取得したT細胞がいずれのT細胞亜集団に属するかを判定し、細胞亜集団の量および/または割合を測定してもよい。
【0055】
また、CD62LhighCD4+T細胞において、CD62LlowCD4+T細胞よりも発現が亢進している遺伝子としては、BACH2、CCL28、CCR7、CD27、CD28、CD62L、CSNK1D、FOXP1、FOXP3、IGF1R、IL16、IL27RA、IL6R、LEF1、MAL、およびTCF7が挙げられる(WO2018/147291)。これらの遺伝子の発現を調べることによって、取得したT細胞がいずれのT細胞亜集団に属するかを判定し、細胞亜集団の量および/または割合を測定してもよい。
【0056】
本発明における、細胞亜集団の割合の測定、または閾値との比較は、規定されたシグナルを有する標準サンプルを用いて行ってもよい。所定の細胞亜集団に対応する蛍光シグナルを生じるように調製された標準(例えば、蛍光色素を付着させた粒子)と、細胞集団を含むサンプルとの間でのシグナルを比較し、標準との比較によって、サンプル中の細胞亜集団の量または割合を測定することができる。また、所定の閾値に対応する蛍光シグナルを生じるように調製された標準(例えば、蛍光色素を付着させた粒子)と、細胞集団を含むサンプルとの間でのシグナルを比較し、標準との比較によって、サンプル中のT細胞組成における本発明のマーカーの有無もしくは量を判定することが可能である。
【0057】
本発明において、特定のマーカーについて、high(高発現)またはlow(低発現)を判定する場合、当業者は、当技術分野で一般的に用いられている発現強度の分類基準を用いて行うことができる。例えば、CD62Lについて、PE標識抗ヒトCD62L抗体を用いた場合の10E2のシグナルに対応するシグナル強度を境界として、CD62LlowとCD62Lhighとを明瞭に分割することが可能である(WO2018/147291)。
【0058】
(放射線治療)
本発明の実施形態においては、放射線治療による免疫活性化の指標が提供される。放射線治療においては、放射線を照射することにより、がん細胞のDNAやRNAを破壊して細胞分裂を抑止し、および/またはアポトーシス(細胞死)を誘導することにより、がん細胞を減少させることができる。一般的には、正常細胞の許容線量の限界(約50~60Gy)までの線量を分割(1日約2Gy)して組織に照射する。正常細胞は遺伝子の破壊を修復して生き残るが、自己修復作用が正常細胞より遅いがん細胞は破壊された遺伝子を修復する以前に再度照射を受けて遺伝子を修復できないために細胞死が誘導される。これにより、照射野において腫瘍退縮を実現させる。
【0059】
放射線治療においては、照射野における腫瘍退縮に加えて、照射野の外での腫瘍退縮が生じることが報告されており、アブスコパル効果と呼ばれている。照射野の外での腫瘍退縮は、上述の放射線によるがん細胞の増殖抑制・細胞死によっては説明できず、何らかの免疫系の活性化を介した作用であると考えられていたが、詳細なメカニズムについては不明な点が多い。放射線治療による免疫系の活性化により、抗腫瘍免疫を利用するがん免疫療法の有効性を高めることが可能であると考えられるが、放射線治療を受けた被験体においてアブスコパル効果が生じているかどうかを確認するためのバイオマーカーは見いだされていなかった。本明細書においては、放射線治療を受けた被験体における照射野の外に影響する免疫活性化(アブスコパル効果)を示すバイオマーカーが提供される。
【0060】
放射線は、電磁波と粒子線の2種類に大きく分けられる。電磁波には、X線、γ線などが含まれる。粒子線は、高い運動エネルギーをもって流れる物質粒子であり、α線、β線、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線などが挙げられる。
【0061】
放射線治療における放射線の照射方法としては、体の外から放射線をあてる「外部照射」と、体の内側からがんやその周辺に放射線をあてる「内部照射」とに分けられる。外部照射と内部照射とを組み合わせて行うことも可能である。
【0062】
外部照射では、体の外から皮膚を通して放射線を照射する。高エネルギーのX線を照射する方法が最も一般的である。外部照射として、様々な様式が挙げられ、例えば、リニアック(直線加速器)によるX線照射、三次元原体照射(3D-CRT)、強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療(SRT)、粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)、画像誘導放射線治療(IGRT)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
内部照射の様式としては、例えば、密封小線源治療(組織内照射、腔内照射)、または非密封の放射線同位元素を用いた治療(内用療法)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明で対象となり得る放射線治療は、免疫活性化を生じさせ得る態様での照射であれば、その態様は限定されない。例えば、放射線治療における照射野は、腫瘍組織を含む照射範囲であり得る。理論に拘束されることを望むものではないが、放射線治療を受けた腫瘍細胞が免疫原性細胞死を生じる事が、抗腫瘍エフェクターT細胞増加に重要であると考えられる。例えば、放射線治療は、胸部放射線照射、骨転移部位への放射線照射、リンパ節転移への放射線照射、副腎転移への放射線照射、肝転移への放射線照射、脳転移への放射線照射などが挙げられる。
【0065】
本発明のバイオマーカーは、免疫活性化を生じさせることを企図する放射線治療のスケジュールを検討するのに利用可能である。例えば、被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていないことにより、被験体に再度放射線治療を施すべきことが示され得る。あるいは、被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていることにより、放射線治療を終了すべきことが示され得る。
【0066】
放射線治療は、1回あたり約1~3Gyの線量の照射を、1日あたり約1~2回、3週間~8週間にわたって行われ得る。しかしながら、小線量の多数回の照射は、がん免疫療法との併用を検討する場合には、免疫細胞(例えば、T細胞)にも影響し得ることから、寡分割照射法(例えば、少数回の大線量を1~2週間で照射する)が好ましくあり得る。
【0067】
放射線治療において副作用が生じる可能性を低減するため、免疫活性化が生じていることが示された時点でさらなる放射線治療を行わないものとすることができる。特に、一回あたりの線量を大きくする場合、不必要な照射を行わずに免疫活性化を生じさせることは有利である。従来は、いつ免疫活性化を生じたかをモニターすることができず、予め経験的に決定したスケジュールに従って、放射線治療を行っていたが、本発明のバイオマーカーによって、放射線治療を終了する適切なタイミングを決定することができる。
【0068】
(がん免疫療法)
がん免疫療法とは、生物の有する生体防御機構を用いてがんを治療する方法である。がん免疫療法には、大きく分けて、がんに対する免疫機能を強化することによるがん免疫療法と、がんの免疫回避機能を阻害することによるがん免疫療法が存在する。さらに、がん免疫療法には、体内での免疫機能を賦活化する能動免疫療法と、体外で免疫機能を賦活化させた、または増殖させた免疫細胞を体内に戻すことによる受動免疫療法とがある。本発明のバイオマーカーによって、放射線治療による免疫活性化が示されることにより、免疫機能を利用するがん免疫療法を行う好適なタイミングを知ることが可能である。
【0069】
がん免疫療法の例としては、非特異的免疫賦活薬、サイトカイン療法、がんワクチン療法、樹状細胞療法、養子免疫療法、非特異的リンパ球療法、がん抗原特異的T細胞療法、抗体療法、免疫チェックポイント阻害療法などが挙げられる。
【0070】
免疫チェックポイント阻害剤の代表的な例は、PD-1阻害剤である。PD-1阻害剤としては、抗PD-1抗体であるニボルマブ(Nivolumab;オブジーボTMとして販売されている)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、スパルタリズマブ(Spartalizumab)およびセミプリマブ(Cemiplimab)が挙げられるがこれらに限定されない。1つの好ましい実施形態では、ニボルマブが対象として選択され得る。
【0071】
本発明においては、PD-L1阻害剤もまたPD-1阻害剤と同様に使用することが可能である。抗PD-1抗体は、PD-1シグナルによるT細胞活性化の抑制を解除することによって抗がん効果を奏するものと考えられている。抗PD-L1抗体もまた、PD-1シグナルによるT細胞活性化の抑制を解除することによって抗がん効果を奏するものと考えられている。PD-1がT細胞機能を阻害するメカニズムは完全には解明されていないものの、PD-1(programmed death 1)とPD-L1あるいはPD-L2とが相互作用すると、PD-1の細胞質ドメインにチロシン脱リン酸化酵素の一種であるSHP-1,2がリクルートされ,T細胞受容体シグナル伝達タンパク質であるZAP70を不活性化させることにより、T細胞の活性化が抑制されると考えられている(Okazaki, T., Chikuma, S., Iwai, Y. et al.: A rheostat for immune responses: the unique properties of PD-1 and their advantages for clinical application. Nat. Immunol., 14, 1212-1218 (2013))。これは、ITSMモチーフという部分にSHP-1,2がリクルートされ、近傍のT cell receptorのproximal signaling kinaseを脱リン酸化することによると考えられ、換言すると、抗原刺激を受けたT細胞からこの「抗原刺激を受けた」という記憶を消してしまうとも言うことができる。
【0072】
PD-1は、がん組織に浸潤しているキラーT細胞およびナチュラルキラー細胞において高レベルで発現している。また、腫瘍上のPD-L1によって、PD-1によるPD-1シグナルを介する免疫応答が減弱していると考えられている。PD-L1によって、このPD-1シグナルを介する免疫応答が減弱するが、抗PD-1抗体によってPD-1とPD-L1との相互作用および/または相互作用によって生じるシグナル伝達を阻害すると、抗腫瘍免疫応答の増強効果が得られる。
【0073】
免疫チェックポイント阻害剤の他の例としては、PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-L1抗体であるアベルマブ、デュルバルマブまたはアテゾリズマブ)が挙げられる。
【0074】
PD-L1阻害剤は、上記のPD-1経路をPD-L1の側に結合して阻害し、PD-1とPD-L1との相互作用および/または相互作用によって生じるシグナル伝達を阻害し、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。
【0075】
免疫チェックポイント阻害剤の他の例としては、CTLA-4阻害剤(例えば、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブまたはトレメリルマブ)が挙げられる。CTLA-4阻害剤は、T細胞を活性化し、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。T細胞は、表面のCD28が、CD80またはCD86と相互作用することによって活性化される。しかしながら、一旦活性化されたT細胞であっても、表面に発現したCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)が、CD80またはCD86と、CD20よりも高い親和性で優先的に相互作用し、それによって活性化が抑制されると考えられている。CTLA-4阻害剤は、CTLA-4を阻害することによって、CD20とCD80またはCD86との相互作用が阻害されることを防ぐことによって、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。
【0076】
さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin containing protein-3)、LAG-3(lymphocyte activation gene-3)、B7-H3、B7-H4、B7-H5(VISTA)、またはTIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domain)などの免疫チェックポイントタンパク質を標的としてもよい。
【0077】
上記のような免疫チェックポイントは、自己組織への免疫応答を抑制していると考えられるが、ウイルスなどの抗原が生体内に長期間存在する場合にもT細胞に免疫チェックポイントが増加する。腫瘍組織についても、生体内に長期間存在する抗原となっているため、これらの免疫チェックポイントによって抗腫瘍免疫応答を回避していると考えられ、上記のような免疫チェックポイント阻害剤は、このような回避機能を無効化し、抗腫瘍効果を奏する。
【0078】
本発明において、免疫チェックポイント阻害剤は、適宜他のがん治療と組み合わせて使用してよい。他のがん治療としては、放射線治療に加えて、他のがん免疫療法(例えば、養子細胞移入)、化学療法、温熱療法、外科的手順などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。免疫チェックポイント阻害剤は、1または複数のさらなる薬剤と組み合わせて投与されてよい。1または複数のさらなる薬剤は、任意の化学療法薬であってもよく、または、第2の免疫チェックポイント阻害剤を含んでもよい。
【0079】
本発明の1つの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物が提供される。本発明の免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、通常、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。本発明の免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、本明細書に記載される方法によって、放射線治療による免疫活性化が生じていることが示される被験体に投与されることによって、顕著な治療効果を奏することができると考えられる。
【0080】
投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、例えば、成人一人あたり、1回につき、0.1mgから100mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、0.01mgから30mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん、投与量は種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0081】
免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、投与にあたり、経口投与のための内服用固形剤、内服用液剤、および非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤等の剤形をとり得る。経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。
【0082】
本発明の組成物は、必要に応じて、1またはそれ以上の活性成分(例えば、免疫チェックポイントタンパク質に対する抗体)がそのままか、または賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0083】
本発明の組成物は、経口投与のために内服用液剤として製剤化される場合、薬学的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0084】
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって調製される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0085】
本発明の組成物は、放射線治療と併用されることが記載された添付文書とともに箱などに収容して製品化してもよい。添付文書には、本発明の組成物が、放射線治療後、所定期間内に投与されることが望ましいことが記載されていてもよい。添付文書には、放射線治療と併用されることが明示的に指示されていてもよく、併用の可能性について言及されているのみであってもよい。
【0086】
(がん)
本発明において対象とされるがんとしては、メラノーマ(悪性黒色腫)、非小細胞肺癌、腎細胞癌、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫)、頭頸部癌、泌尿器科癌(膀胱癌、尿路上皮癌、前立腺癌)、小細胞肺癌、胸腺癌、胃癌、食道癌、胃食道接合部癌、肝癌(肝細胞癌、肝内胆管細胞癌)、原発性脳腫瘍(膠芽腫、中枢神経系原発リンパ腫)、悪性胸膜中皮腫、婦人科癌(卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌)、軟部肉腫、胆道癌、多発性骨髄腫、乳癌、大腸癌などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
(放射線治療および免疫療法を併用する治療方法)
被験体に対して放射線治療を行い、放射線治療を受けた被験体からサンプルを採取し得る。当該サンプル中の細胞亜集団の組成を分析することにより、本明細書に記載されるように、被験体における放射線治療による免疫活性化の有無を決定し得る。必要に応じて、放射線治療を受ける前の被験体からサンプルを採取しておいてもよい。当該サンプル中の細胞亜集団の組成は、比較のための基準として使用し得る。
【0088】
サンプルの採取の時点は特に限定されない。放射線治療による免疫活性化が生じるか否か、およびいつまで持続するかは、被験体によって異なり、任意の時点でサンプルを採取し、その時点での免疫活性化を調べることができる。細胞亜集団における変化、例えば、樹状細胞(CD11c+CD141+細胞)のHLA-DR陽性率およびCD62LlowCD4+T細胞のICOS陽性率の変化は、2~3ヶ月継続している場合がある。被験体によっては、高いCD62LlowCD4+T細胞比率を1年以上維持する場合もある。保険適用となる化学放射線治療後Durvalumab(抗PD-L1抗体)の投与可能期間は、化学放射線治療終了1日目から病勢増悪を来していない間と設定されており、このような期間内であれば、免疫活性化状態の放射線治療後の変化を検出し、がん免疫療法を行うか否かの判断を行うことが可能であると考えられる。
【0089】
樹状細胞またはT細胞亜集団における変化は、放射線治療終了直後がピークとなっており、その後CD62LlowCD4+T細胞比率などの細胞亜集団割合が元に戻る傾向が示される。そのため、必須ではないが、サンプルを放射線治療の時点から一定期間経過後までの間に得ることによって、がん免疫療法を行うための、免疫活性化の検出の可能性が高くなり得る。例えば、サンプルは、放射線治療の時点から約1年後までの間、約6ヶ月後までの間、約3ヶ月後までの間、約2ヶ月後までの間、約4週間後までの間、もしくは約14日後までの間、または放射線治療の直後などの時点で得ることができるが、これらに限定されない。
【0090】
一定期間にわたって放射線治療を行う場合、被験体から複数の時点でサンプルを得て、被験体における放射線治療による免疫活性化をモニタリングすることができる。例えば、放射線治療による免疫活性化が生じていない場合、被験体に再度放射線治療を施してよい。放射線治療による免疫活性化が生じている場合、放射線治療を終了し、がん免疫療法を施すことができる。複数の時点としては、放射線の各照射後であってもよく、放射線照射の数回(例えば、2回、3回、4回または5回、あるいはそれら超)に1回の照射後であってもよく、照射とは独立して数日(例えば、2日、3日、4日、5日、1週間、または2週間あるいはそれら超)に1回の時点であってもよい。
【0091】
免疫活性化が生じていることが本発明のバイオマーカーによって示された場合、被験体にがん免疫療法を施し得るが、がん免疫療法を施すタイミングについては、免疫活性化状態が維持されている限り特に限定されない。放射線治療の時点から時間が経過することにより免疫活性化状態がもとに戻る可能性があるため、必須ではないが、免疫活性化が生じていることが示された場合に、放射線治療の時点から一定の期間、例えば、放射線治療の時点から約4週間後まで、または、放射線治療の時点から約14日後までの間に被験体にがん免疫療法を施してもよい。これにより、アブスコパル効果の利益を享受する可能性を高めることができる。1つの実施形態では、被験体において放射線治療による免疫活性化が生じていることにより、その時点で被験体に免疫チェックポイント阻害剤を含むがん免疫療法を施してもよい。
【0092】
1つの実施形態では、免疫抑制に働く因子をさらに用いて、がん免疫療法を施すタイミングを決定してもよい。例えば、概ね放射線治療後1ヶ月程度すると制御性T細胞やMDSCが増加してくることがあり、かかる細胞亜集団の増加の前に(すなわち、かかる細胞亜集団の割合が一定以下である場合に)被験体に免疫チェックポイント阻害剤を含むがん免疫療法を施してもよい。
【0093】
本発明者により、放射線治療によって被験体における免疫細胞に包含される特定の細胞亜集団(例えば、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD8+T細胞亜集団または抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団)の量または割合が変化することが見出された。このことから、本発明の1つの側面では、被験体に放射線治療を施すことによる被験体における細胞亜集団の割合の調節が提供される。とりわけ、放射線治療によって、CD4+CD62Llow細胞集団に含まれる細胞亜集団(例えば、CD4+CD62Llow細胞亜集団)の量または割合を増加させることができる。被験体における特定の細胞亜集団(例えば、CD4+CD62Llow細胞亜集団)は、被験体における抗腫瘍免疫を担っていると考えられ、また、そのような抗腫瘍免疫を担っている特定の細胞亜集団の量または割合を放射線治療によって変化させることができるため、放射線治療によって被験体をがん免疫療法(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)に対して応答性の状態に変化させることができると考えられる。
【0094】
本発明の1つの実施形態において、がん免疫療法に対して応答性ではない免疫細胞組成(例えば、低いCD4+CD62Llow細胞亜集団の量または割合)を有する被験体においてがんを処置する方法であって、被験体に放射線治療を施す工程を含む方法が提供される。この方法は、必要に応じて、被験体にがん免疫療法を施す工程を含む。また、この方法は、被験体における免疫細胞組成を測定する工程を含んでもよい。これにより、放射線治療によって、被験体ががん免疫療法に対して応答性に変化したことを確認し、がん免疫療法を施すことができる。がんを処置するための免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、がん免疫療法に対して応答性ではない免疫細胞組成(例えば、低いCD4+CD62Llow細胞亜集団の量または割合)を有していた被験体であって、放射線治療を受けた被験体に対して投与されることを特徴とする、組成物も提供される。例えば、免疫細胞組成は、末梢血中の免疫細胞組成であり得る。
【0095】
がん免疫療法に対して応答性ではない(または応答性である)免疫細胞組成は、当業者がWO2018/147291等を参照して決定することができる。例えば、免疫細胞組成は、CD4+T細胞におけるCD62LlowT細胞の割合が閾値(無効群閾値)よりも低い場合、がん免疫療法に対して応答性ではないと考えられる。閾値は、当業者が感度・特異度を考慮して適宜決定することができる。閾値の一例としては、CD62LlowCD4+比率について、19.4%が挙げられる。また、免疫細胞組成は、CD62LlowCD4+比率と、制御性T細胞(例えば、CD25+Foxp3+CD4+細胞比率)との相対値を用いて判定してもよい。例えば、CD62LlowCD4+比率をX、CD25+Foxp3+CD4+細胞比率をYとして、X/YまたはX2/Yを使用してもよい。この場合、一例として、比(X/Y)について7.35を閾値とすることができ、また、X2/Yについて192を閾値とすることができる。
【0096】
(キット)
本発明の1つの実施形態において、被験体において放射線治療による免疫活性化が生じているかを判定するためのキットが提供される。キットは、本明細書に記載される細胞亜集団を検出するために適切な分子に対する1または複数の検出剤を含み得る。このような検出剤の組み合わせを、被験体のT細胞組成の決定に用いることができる。このようなキットは、被験体における、本明細書に記載される新規なバイオマーカーとしての特定の細胞亜集団の割合の測定に用いることができる。
【0097】
本発明の1つの実施形態では、キットは、
(A)CD4およびCD62L;
(B)(i)ICOS、PD-1、LAG-3およびCD28から選択されるマーカー、(ii)CD4、ならびに(iii)CD62L;
(C)CD11c、CD141およびHLA-DR;
(D)CD11c、CD123およびHLA-DR;あるいは
(E)CD8、CD62LおよびCD137
に対する検出剤を含み得る。1つの実施形態では、検出剤は抗体である。好ましくは、抗体は適切に標識されマーカーの検出を容易にする。
【実施例】
【0098】
(実施例1:放射線治療による免疫活性化の指標)
(概要)
本実施例において、被験体における特定の細胞亜集団の組成が、放射線治療前後で被験体において有意に変化しているパラメータ(すなわち、バイオマーカー)であることを実証する。
【0099】
(材料および方法)
[被験体]
本実施例において、以下の被験体(20名)について、放射線治療の前後(該当する場合は後日も)に末梢血を回収し、末梢血内の細胞集団の組成を調べた。
【表1】
【0100】
[PBMC解析]
各時点でのサンプリングおよびPBMC解析は以下のとおり行った。PBMC解析には単核球分離用のBDバキュティナCPTTM採血管を用いた。PBMCについてFCM解析を行った。
【表2】
【0101】
解析時
1.Myeloid系細胞解析
解凍後、CD11c、CD141、HLA-DR、CD33、CD14等の抗体染色を行いフローサイトメトリー解析を行った。
2.T細胞解析
1)RPMI1640+10%FCSに懸濁し5%CO2インキュベーター内37℃で36時間程度静置(32-48時間)。
2)T細胞表面マーカー用抗体染色を行いフローサイトメトリー解析を行った。
【0102】
(結果)
20名の被験体における放射線治療の前後の各細胞集団の割合について、対応ありのスチューデント両側t検定によるt統計量を算出した。結果は以下の表3に記載する。t統計量0.05以下のものを、太字・下線で示した。
【表3】
【0103】
一部の細胞亜集団について、放射線治療の前後の変化を図に示す。放射線治療の前後で、CD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合、およびCD62L
lowCD4
+細胞亜集団におけるICOS
+CD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合が有意に増加した(
図1および
図2)。CD4
+細胞集団におけるCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合の増加は、放射線治療の種別のそれぞれ(curative TRT:治療目的胸部放射線治療、curative CRT:治療目的化学療法併用放射線治療、palliative TRT:緩和目的胸部放射線治療)で同様に観察された(
図3)。また、放射線治療前後で、CD141
+CD11c
+細胞集団におけるHLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合が有意に増加した(
図4)。
【0104】
3回のサンプリングを行った被験体(n=11)の放射線治療前、放射線治療完了時、および放射線治療後のそれぞれの時点での各細胞集団の割合の差について、対応ありのスチューデント両側t検定によるt統計量を算出した。結果は以下の表4に記載する。t統計量0.05以下のものを、太字・下線で示した。
【表4】
【0105】
一部の細胞亜集団について、放射線治療の前後の変化を図に示す。放射線治療の約30日後においては、一時的に増加したCD62L
lowCD4
+細胞亜集団の割合およびHLA-DR
+CD141
+CD11c
+細胞亜集団の割合が、放射線治療前の水準へと戻る傾向があった(
図5)。
【0106】
(考察)
CD62LlowCD4+細胞亜集団が強く正の相関を有するT細胞亜集団は、タイプ1ヘルパーCD4+T細胞(Th1)、エフェクターメモリーCD4+T細胞、CD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞である。これらは、細胞性免疫において殺細胞機能に重要な細胞亜集団である。一方、負の相関を有するのは、タイプ2ヘルパーCD4+T細胞(Th2)、制御性T細胞である。これらは、細胞性免疫を抑制する細胞亜集団として知られている。よって、CD62LlowCD4+細胞亜集団の増加は、抗腫瘍細胞性免疫の活性化を示すと考えられる。また、HLA-DR+CD141+CD11c+樹状細胞亜集団とCD62LlowCD4+細胞亜集団は正の相関関係を有している。これは、活性化された樹状細胞がMHC classII拘束性抗原を表出することで、MHC classII拘束性抗原を認識するCD62LlowCD4+細胞亜集団の増加を来していると考えられ、CD62LlowCD4+細胞亜集団は、腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するCD4+T細胞亜集団であると考えられる。HLA-DR+CD141+CD11c+樹状細胞亜集団は、腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団であると考えられる。また、LAG3+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、ICOS+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CD28+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、PD-1+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CD137+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、PD-1+CD62LlowCD8+T細胞亜集団、CD137+CD62LlowCD8+T細胞亜集団も、腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するT細胞亜集団であると考えられる(WO2018/147291)。
【0107】
なお、放射線治療終了一ヶ月後の末梢血細胞分画の解析結果では、HLA-DR+CD141+CD11c+樹状細胞亜集団の減少と共にCD62LlowCD4+T細胞亜集団、CD28+CD62LlowCD4+T細胞亜集団の減少を認める。これは、放射線治療により生じた免疫原性癌細胞死がなくなったことで樹状細胞の活性化が沈静化し、これに相関して増加していたCD62LlowCD4+T細胞亜集団及び樹状細胞との相互作用に必要であったCD28発現が減少に転じたと理解することができる。但し、放射線治療中に樹状細胞からのがん抗原刺激を受けたCD62LlowCD4+T細胞亜集団は、CD137、ICOSを発現し、活性化した状態を保ちつつ残存する。一方、放射線治療終了一ヶ月後には、CD25+Foxp3+CD4+制御性T細胞亜集団及びCD33+CD14+HLA-DR-MDSC細胞亜集団の増加が認められる。制御性T細胞及びMDSCがT細胞免疫を抑制する細胞であることはよく知られた事象であり、これは、活性化したT細胞亜集団を制御するためのネガティブフィードバックであると理解することができる。そもそも、PD-1阻害薬の効果を示すT細胞免疫状態の指標としてCD62LlowCD4+T細胞亜集団を分子、制御性T細胞亜集団を分母として用いられることを示している。
【0108】
上記の結果から、抗腫瘍免疫応答における樹状細胞刺激と相関するT細胞亜集団および/または抗腫瘍免疫応答での樹状細胞刺激と相関する樹状細胞亜集団を用いることによって、放射線治療による免疫活性化を評価できることが示唆される。
【0109】
(実施例2:放射線治療による免疫活性化の応用)
末梢血中のCD4+CD62LlowT細胞亜集団割合が一定以上の被験体に対し、免疫チェックポイント阻害剤を投与する。奏効集団において、免疫チェックポイント阻害剤の投与後にCD4+CD62LlowT細胞亜集団割合が低下することがある。被験体におけるCD4+CD62LlowT細胞亜集団割合をモニターすることで、被験体の免疫チェックポイント阻害剤に対する応答性をモニターする。CD4+CD62LlowT細胞亜集団の割合が低下した場合に、被験体に放射線治療を施す。放射線治療によって、CD4+CD62LlowT細胞亜集団の割合が増加し、被験体の免疫チェックポイント阻害剤に対する応答性が回復する。
【0110】
WO2018/147291に記載される手順により、末梢血中のCD62LlowCD4+T細胞亜集団割合が無効群閾値未満であり、がん免疫療法に対して応答性ではないと判定された被験体に対して放射線治療を施す。その後、被験体に免疫チェックポイント阻害剤の投与を行う。放射線治療によって当該被験体の末梢血中のCD62LlowCD4+T細胞亜集団割合が増加し、免疫チェックポイント阻害剤に対して応答性となる。
【0111】
(実施例3:CD62LlowCD4+T細胞とエフェクターメモリー細胞との相関)
stageI~IVの肺癌患者42名から得た、84検体(20名の手術前後、22名のEGFR-TKI前後)をFortessa解析し、CD4+T細胞中のCD62LlowCD4+T細胞の割合と、CD4+T細胞中のエフェクターメモリー細胞(CCR7-CD45RA-)CD4+T細胞の割合との関係を解析した。
【0112】
結果は
図6に示される。CD62L
lowCD4
+T細胞とCCR7
-CD45RA
-CD4
+T細胞が強い相関関係にあることが理解される。この結果から、エフェクターメモリー細胞(CCR7
-CD45RA
-)CD4
+T細胞の量をCD62L
lowCD4
+T細胞の量の代替として使用可能であることが示唆される。
【0113】
(実施例4:異なる患者集団での放射線治療による免疫活性化の指標の検討)
(概要)
実施例1における検討に加えて、異なる患者集団における特定の細胞亜集団の組成が、放射線治療前後で被験体において有意に変化しているパラメータ(すなわち、バイオマーカー)であるかどうかを検討した。
【0114】
(材料および方法)
[被験体]
本実施例は、埼玉医科大学国際医療センターで、治療目的化学放射線療法(CRT)または胸部放射線療法を受けた56人の連続局所進行NSCLC患者を対象として行われた。22人の患者は、CRT後にデュルバルマブの併用療法を受けた。末梢血サンプルは、放射線治療の前後と、場合により放射線治療の約1か月後に採取した。PBMCをLSR Fortessa
TMで分析した。各時点でのサンプリングは実施例1と同様の手順に従った。
対象とした患者および施された処置の内容については以下のとおりである。
【表5】
【表6】
【0115】
(結果)
結果は
図7~11に示される。
図7~11における「before RT」は、
図1~6における「pre-TRT」と対応し、放射線治療(RT)の直前を示す。
図7~11における「post-RT」、
図1~6の「post-TRT」、「at TRT completion」、「TRT complete」は、いずれも放射線治療(RT)終了直後である。
【0116】
実施例1における結果と一致して、胸部放射線療法後、末梢血でCD62L
lowCD4
+T細胞およびHLA-DR
+骨髄樹状細胞の割合の有意な増加が観察された(
図7a、b)。また、放射線治療前の%CD62L
lowCD4
+T細胞と無増悪生存(PFS)との間に有意な相関が観察された(
図7c)。なお、
図7におけるHLA-DR
highCD11c
+CD123
-mDC」は、実施例1における表3および4、ならびに
図5のHLA-DR
highCD11c
+CD141
+mDCと対応する細胞集団である。
【0117】
図8は、放射線治療前と放射線治療完了時とのCD62L
lowCD4
+T細胞上の免疫チェックポイント分子の発現の変化を示す図である(対応有りのt検定)。実施例1の結果(表3)と一致して、CD62L
lowCD4
+T細胞上のLAG-3およびICOSの発現が有意に増加した(
図8bおよびc)。加えて、本実施例においては、CD62L
lowCD4
+T細胞上のPD-1発現の増加にも有意差が観察された(
図8a)。これはサンプル数の増加によるものと考えられる。
【0118】
図9は、放射線治療前と放射線治療完了時との、CCR7およびCD45RAでゲーティングしたCD4
+T細胞に基づくT細胞亜集団の変化を示す図である。CCR7およびCD45RAは、一般的に、ナイーブT細胞(CCR7
+CD45RA
+)、セントラルメモリー(CM)T細胞(CCR7
+CD45RA
-)、エフェクターメモリーT細胞(CCR7
-CD45RA
-)を分画するのに用いることができる細胞表面マーカーである。
【0119】
図9aに示されるように、放射線治療の前後で、ナイーブCD4細胞が減少することが見出された。
図9bに示されるように、セントラルメモリー細胞(CM)であるCCR7
+CD45RA
-CD4
+T細胞の有意な増加が観察された。セントラルメモリー細胞は、一旦機能した後に、攻撃する対象がなくなり休止状態となった細胞にあたるため、セントラルメモリー細胞が放射線治療後に増加しているのは本発明の論理と一致しない。そこで、実際にセントラルメモリー細胞群をさらに、CD62L
lowとCD62L
highに分けて検証したところ、本来のセントラルメモリー細胞の細胞表面マーカーの特徴であるCD62L
highの細胞集団ではなく、エフェクターメモリー細胞(EM)の特徴であるCD62L
lowの細胞集団が増加していることが見出された(
図9dおよびe)。すなわち、CD62L
lowCCR7
+(
図9e)の集団は、一過性にCCR7を発現したことから外形上CMに見えたものであり、実際に増加していた細胞集団はEMであり、
図9cと9eから、放射線治療によってEMが増加することが理解される。この結果は、上記実施例3とも整合する。
【0120】
図10は、放射線治療前、放射線治療完了時および放射線治療約1ヶ月後までの、%mDC、%CD62L
lowCD4
+T細胞および免疫チェックポイント分子発現の動態を示す図である(Tukey post-hoc分析を伴う一元配置ANOVA)。各図の一番上のP値が、ANOVA解析の結果である。また、post-hoc解析により、有意差が見出された2点間のp値がバーとともに示される。CD62L
lowCD4
+T細胞は、患者の半数で放射線療法後4週間までに減少し始めた。放射線治療完了時と放射線治療約1ヶ月後との間での統計上の有意差は出なかったものの、半数ほどの患者では経時的に減少しており、実施例1における表4の結果と同様に、放射線治療後に増加したmDC、CD62L
lowCD4
+T細胞、CD62L
lowCD4
+T細胞のICOS発現およびPD-1発現は、その後1ヶ月の間に減少する傾向を有している。これは一度賦活化された腫瘍に対する免疫機能がその後減弱することを示しており、これらの細胞が減少する前に免疫チェックポイント阻害剤等の投薬を開始した方がよいと考えられる。
【0121】
図11は、放射線治療前と放射線治療完了時との、CCR7およびCD45RAでゲーティングしたCD8
+T細胞に基づくT細胞亜集団の変化を示す図である。
【0122】
図1では放射線治療の前後でCD8
+細胞集団の量に有意な変化がないことが示されているところ、実際にがん細胞に対する殺傷能力を有している細胞はCD8
+細胞であると考えられるため、放射線治療において、CD8
+T細胞集団中の特定の亜集団に変化が存在するかを、CCR7およびCD45RAでゲーティングして分析した。上記のとおりCCR7およびCD45RAは、一般的に、ナイーブT細胞(CCR7
+CD45RA
+)、セントラルメモリー(CM)T細胞(CCR7
+CD45RA
-)、エフェクターメモリーT細胞(CCR7
-CD45RA
-)を分画するのに用いることができる細胞表面マーカーであり、CCR7
-CD45RA
+の細胞は、EMが老化した細胞(terminally differentiated)(EMRA)に該当する。
【0123】
EM(
図11c)とCM(
図11d)が増え、EMRA(
図11a)が減少するということは、若いEMが増えて、老化したEMが減少することを示し、これらの結果から、CD8陽性細胞もRTにより活性化されていることが理解される。
【0124】
(考察)
放射線治療の際には、放射線治療で免疫が活性化されて免疫チェックポイント阻害が効きやすい状態になり、時間の経過とともに、元の状態に戻る。免疫が活性化された状態においては、特定の細胞集団(CD62LlowCD4+など)に分化する細胞が増え、未分化(ナイーブ)の細胞は減少し、刺激、活性化された樹状細胞(HLA-DRhighCD11c+CD123-mDCなど)が増え、CD8陽性の細胞集団における若いEMが増加する。これらのいずれかの細胞集団の変化を見ると、放射線治療後に免疫チェックポイント阻害が効きやすい状態かどうかを判定することができる。加えて、この効きやすい状態は時間の経過とともに自然と元に戻ることから、再度放射線治療を行って、再度免疫チェックポイント阻害が効きやすい状態にする必要があるか否かも、判定することができる。
【0125】
なお、放射線治療ではなく、化学療法のみで解析を行った結果(n=60、データ示さず)、CD4およびCD8陽性いずれにおいてもエフェクターメモリー型(CCR7-CD45RA-)の割合が有意に減少した。CCR7-CD45RA+CD8+(EMRA)細胞分画は有意差がつかないもののやや増加した。CD62Llowの割合に変化は見られなかったが、やや減少傾向であった。樹状細胞は変化が無かった。以上から、化学療法のみの場合は放射線治療後とはT細胞分画では逆のパターンに変化する傾向がある(抗がん剤治療のみでは若いEMが減少し、比率として古いエフェクターであるEMRA分画が増加しているように見える)。
【0126】
放射線治療のみという患者群で解析した場合でも、化学放射線治療(化学療法+放射線治療)群と同様の結果になるため、本実施例における放射線治療前後での免疫細胞組成の変化は放射線治療によるものと考えられる。
【0127】
本実施例の結果の解釈として:
放射線治療では、放射線による局所の免疫原性癌細胞死が生じ、樹状細胞が活性化され、エフェクターT細胞が増殖する
化学療法剤を用いる抗癌剤治療では、化学療法剤による免疫原性癌細胞死が生じ、樹状細胞が活性化するが、同時に化学療法剤及び制吐剤としてのステロイドによる樹状細胞減少効果が生じ、樹状細胞活性化によるエフェクターT細胞増殖が生じても、細胞周期に入ったT細胞は化学療法剤により細胞傷害を受けて死滅(EM分画減少効果)し、増殖能を既に失っているEMRA集団は抗原提示を受けても細胞周期に入らず細胞傷害を受けず、抗原刺激による生存時間延長効果を受ける(EMRA分画の一時的増加効果)
といった機序が想定される。
【0128】
したがって、化学療法剤治療を繰り返すと若いEMの減少効果により、terminally differentiatedエフェクター細胞であるEMRAが最終的には枯渇し、抗腫瘍T細胞免疫は消失してしまうことが予想される。例えば、胃癌の臨床試験であるKeynote062では抗PD-1抗体と化学療法剤を併用して長期に治療すると抗PD-1抗体単剤での治療効果を下回ることが示されている。これに対して、放射線治療は若いEMを増加させる効果により抗腫瘍T細胞免疫をブーストできると考えられる。また、このブースト効果は上記の機序に関連するいずれかの細胞集団(例えば、mDC、またはCD62LlowT細胞分画など)を観測することで数値化が可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明はがん治療において利用することができる。本発明により、放射線治療による免疫活性化を評価することができ、放射線治療と併用するがん免疫療法(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)に利用可能である。
【0130】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許出願第2019-028502号(2019年2月20日出願)および同第2019-175852号(2019年9月26日出願)に対して優先権を主張するものであり、その内容の全体は、本願において参考として援用される。