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特許7606228トンネル接合積層膜、磁気メモリ素子及び磁気メモリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】トンネル接合積層膜、磁気メモリ素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20241218BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20241218BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20241218BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H01L29/82 Z
H10B61/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021553747
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040971
(87)【国際公開番号】W WO2021085642
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019199284
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 好昭
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英夫
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-064625(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208576(WO,A1)
【文献】特開2004-006589(JP,A)
【文献】特開2009-111396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H01L 29/82
H10B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を含む第1強磁性層を有する記録層と、前記記録層に隣接するトンネル接合層と、前記トンネル接合層に隣接する参照層とを備え、前記第1強磁性層及び前記参照層が膜面に対して垂直な方向に磁化しているトンネル接合積層膜であって、
前記記録層は、前記第1強磁性層に隣接する、0.35nm以上0.7nm以下の厚さのハフニウム層を有する
トンネル接合積層膜。
【請求項2】
前記ハフニウム層は、前記記録層内で、前記トンネル接合層から最も離れた位置に配置されている
請求項1に記載のトンネル接合積層膜。
【請求項3】
前記記録層が、ホウ素を含む第2強磁性層を有し、
前記トンネル接合層が前記第1強磁性層に隣接し、
前記第1強磁性層が前記ハフニウム層に隣接し、
前記ハフニウム層が前記第2強磁性層に隣接し、
前記第2強磁性層が酸素原子を含む非磁性層に隣接する
請求項1に記載のトンネル接合積層膜。
【請求項4】
前記記録層が、ホウ素を含む第2強磁性層を有し、
前記トンネル接合層が前記第2強磁性層に隣接し、
前記第2強磁性層が非磁性挿入層に隣接し、
前記非磁性挿入層が前記ハフニウム層に隣接し、
前記ハフニウム層が前記第1強磁性層に隣接し、
前記第1強磁性層が酸素原子を含む非磁性層に隣接する
請求項1に記載のトンネル接合積層膜。
【請求項5】
前記ハフニウム層がZrを含有している
請求項1~4のいずれか1項に記載のトンネル接合積層膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のトンネル接合積層膜と、
前記参照層に電気的に接続された第1端子と、
前記記録層に電気的に接続された第2端子とを備え、
前記第1端子と前記第2端子との間を流れる書き込み電流により、前記記録層の磁化方向が反転する
磁気メモリ素子。
【請求項7】
基板の一表面に設けられ、
前記参照層が前記記録層よりも前記基板側に配置されている
請求項6に記載の磁気メモリ素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の磁気メモリ素子を備える
磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル接合積層膜、磁気メモリ素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
高速性と高書き換え耐性が得られる次世代不揮発磁気メモリとして、磁気トンネル接合素子(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)を記憶素子として用いたMRAM(Magnetic Random Access Memory)が知られている。MRAMに用いる次世代の磁気メモリ素子としては、スピン注入トルクを利用して磁気トンネル接合を磁化反転させるSTT-MRAM(Spin Transfer Torque Random Access Memory)素子(特許文献1参照)が注目されている。
【0003】
STT-MRAM素子は、強磁性層(記録層ともいう)/障壁層(トンネル接合層ともいう)/強磁性層(参照層ともいう)の3層構造を含むMTJで構成される。STT-MRAM素子は、記録層と参照層の磁化方向が反平行の反平行状態の方が素子の抵抗が高いという性質を有し、平行状態と反平行状態を0と1に対応させてデータを記録する。STT-MRAM素子は、MTJを貫通する電流を流すと、一定方向に向きが揃えられた電子スピンが記録層に流入し、流入した電子スピンのトルクにより記録層の磁化方向が反転する。これによりSTT-MRAM素子は、平行状態と反平行状態とを切り替え、データを記録できる。
【0004】
垂直磁気異方性磁気トンネル接合(p(perpendicular)-MTJ)におけるスピン注入磁化反転の書き込み電流ICOと熱安定指数Δ(=E/kT)については、以下の数式の関係が知られている。
【0005】
【数1】
【0006】
また、熱安定指数Δは次式で示される。
【0007】
【数2】
【0008】
ここで、αはダンピング定数、eは素電荷、h(式中ではストローク符号を付したh)はディラック定数、Pはスピン分極率、Sは接合面積、kはボルツマン定数、tは記録層の膜厚、Tは絶対温度、Keffは実効磁気異方性エネルギー密度である。
【0009】
上記の式(1)から、高い熱安定指数Δを維持し、低い書き込み電流ICOを実現するためには、高いKeffかつ低いダンピング定数αの記録層とする必要がある。ダンピング定数は、一般に、スピン軌道相互作用が大きい材料で大きくなることが知られている。スピン軌道相互作用は、原子番号の増大に伴い、増加することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-179447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、高密度の磁気メモリを実現するために磁気メモリ素子としてのSTT-MRAM素子の微細化を進めていくと、記録層の磁化の熱安定性が減少し、記録層がデータの記録を維持しにくくなり、不揮発性が低下する。そのため、磁気メモリ素子の記録層の熱安定性を向上することが求められている。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、熱安定性が高いトンネル接合積層膜と、当該トンネル接合積層膜を用いた磁気メモリ素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるトンネル接合積層膜は、ホウ素を含む第1強磁性層を有する記録層と、前記記録層に隣接するトンネル接合層と、前記トンネル接合層に隣接する参照層とを備え、前記第1強磁性層及び前記参照層が膜面に対して垂直な方向に磁化しているトンネル接合積層膜であって、前記記録層は、前記第1強磁性層に隣接するハフニウム層を有する。
【0014】
本発明による磁気メモリ素子は、上記のトンネル接合積層膜と、前記参照層に電気的に接続された第1端子と、前記記録層に電気的に接続された第2端子とを備え、前記第1端子と前記第2端子との間を流れる書き込み電流により、前記記録層の磁化方向が反転する。
【0015】
本発明による磁気メモリは、上記の磁気メモリ素子を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、記録層が第1強磁性層に隣接するハフニウム層を有するので、第1強磁性層の垂直磁気異方性を向上でき、その結果、ハフニウム層に隣接する第1強磁性層の磁化の熱安定性が向上し、記録層の熱安定性が高い。よって、熱安定性が高いトンネル接合積層膜を提供でき、ひいては、熱安定性の高い磁気メモリ素子及び磁気メモリを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のトンネル接合積層膜の断面を示す概略図である。
図2】第1実施形態のトンネル接合積層膜の断面を示す概略図である。
図3】第1実施形態のトンネル接合積層膜の一例を示す概略図である。
図4A】データ“1”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“0”を書き込む方法を説明する概略断面図である。
図4B】データ“1”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“0”を書き込む方法を説明する概略断面図である。
図5】第1実施形態の磁気メモリ素子で構成される磁気メモリセル回路を複数個配置した磁気メモリのブロック図である。
図6】第2実施形態のトンネル接合積層膜の断面を示す概略図である。
図7】変形例のトンネル接合積層膜の断面を示す概略図である。
図8】変形例のトンネル接合積層膜の断面を示す概略図である。
図9A】強磁性層の磁気異方性定数のHf膜厚依存性を示すグラフである。
図9B】強磁性層の飽和磁化のHf膜厚依存性を示すグラフである。
図10】検証実験で用いたトンネル接合積層膜の構造と、当該トンネル接合積層膜の強磁性層の磁気デッドレイヤーの厚みの測定結果を示すグラフとを示す図である。
図11】第3実施形態のトンネル接合積層膜の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明のトンネル接合積層膜の概要を説明する。図1に示すように、本発明のトンネル接合積層膜1は、記録層14と、記録層14に隣接するトンネル接合層13と、トンネル接合層13に隣接する参照層12とを備える磁気抵抗効果素子である。トンネル接合積層膜(以下、MTJ膜ともいう)1は、参照層12の磁化方向と記録層14の磁化方向とが平行(磁化方向がほぼ同じ方向の状態)か反平行(磁化方向が約180度異なる状態)かによって、抵抗値が変化する。MTJ膜1を磁気メモリ素子に用いた場合、MTJ膜1の抵抗値が平行状態と反平行状態とで異なることを利用して、平行状態と反平行状態とに“0”と“1”の1ビットデータを割り当てることにより、データを記憶させる。MTJ膜1は、記録層14及び参照層12が膜面に対して垂直な方向に磁化している垂直磁化膜である。
【0019】
記録層14は、ホウ素を含む第1強磁性層24と、第1強磁性層24に隣接するハフニウム層(以下、Hf層ともいう)25とを有している。記録層14は、さらに、後述する第2強磁性層や非磁性挿入層などを含んでいてもよい。記録層14は、第1強磁性層24が膜面に対して垂直な方向に磁化しており、磁化方向が反転可能に構成されている。参照層12は、膜面に対して垂直な方向に磁化した少なくとも1層以上の強磁性層を含んでおり、磁化方向が固定されるように構成されている。なお、本明細書では、参照層12及び記録層14が複数の強磁性層を有している場合において、単に参照層12及び記録層14の磁化又は磁化方向といったときは、各層の、トンネル接合層13に隣接する強磁性層の磁化又は磁化方向を意味している。
【0020】
図1では、第1強磁性層24が、基板2に対して鉛直上向き(以下、単に上向きという)に磁化しており、参照層12が、基板2に対して鉛直下向き(以下、単に下向きという)に磁化している場合を例として示している。さらに図1では、第1強磁性層24の磁化を磁化24Mとして白抜きの矢印で表しており、参照層12の磁化を磁化12Mとして黒塗りの矢印で表しており、矢印の向きが磁化方向を表している。図1に示す例では、第1強磁性層24の磁化24Mの向きと参照層12の磁化12Mの向きとが反平行である。本明細書では、磁化方向が反平行といった場合、磁化の方向が概ね180度異なることをいう。また、黒塗り矢印は、磁化方向が固定されていることを意味しており、白抜き矢印は、磁化方向が反転可能であることを意味している。なお、実際には、磁化方向(矢印の方向)を向いていない成分も含まれている。以下、本明細書の他の図面において磁化を矢印で表した場合は、このことと同様である。
【0021】
本発明のトンネル接合積層膜1には、種々のバリエーションがあり、以下では、実施形態として、トンネル接合積層膜1の各種バリエーションについて説明する。
【0022】
(1)第1実施形態
(1-1)第1実施形態のトンネル接合積層膜の構成
第1実施形態のトンネル接合積層膜は、図1に示したトンネル接合積層膜1の記録層14を、Hf層25が強磁性層に挟まれた構成としたものである。図1と同じ構成には同じ番号を付した図2に示すように、第1実施形態のMTJ膜1aは、参照層12と、トンネル接合層13と、記録層14aと、記録層14aに隣接する酸素原子(以下、単にOと表記する)を含む非磁性層27とを備えている。記録層14aは、第1強磁性層24と、Hf層25と、ホウ素を含み、垂直磁化膜である第2強磁性層26とを有する多層膜であり、第1強磁性層24がトンネル接合層13とハフニウム層25に隣接し、ハフニウム層25が第2強磁性層26に隣接し、第2強磁性層26がOを含む非磁性層27に隣接している。
【0023】
参照層12は、Co(コバルト)/Pt(プラチナ)多層膜、Co/Pd(パラジウム)多層膜及びCo/Ni(ニッケル)多層膜、Co/Ir(イリジウム)多層膜などのCo層を含む多層膜、Mn-Ga(マンガン―ガリウム)、Mn-Ge(ゲルマニウム)及びFe(鉄)-Ptなどの規則合金又はCo-Pt、Co-Pd、Co-Cr(クロム)-Pt、Co-Cr-Ta-Pt、CoFeB、FeB及びCoBなどのCoを含む合金などでなる強磁性層で構成される。
【0024】
なお、参照層12は、複数の強磁性層を含んでいてもよく、強磁性層/非磁性結合層/強磁性層のような多層構造をしていてもよい。この場合、非磁性結合層は、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Os(オスミウム)及びRe(レニウム)などの非磁性体で形成される。このような多層構造にすることで、2つの強磁性層の磁化を層間相互作用により反強磁性的に結合でき、参照層12の磁化方向を固定することができる。
【0025】
また、参照層12とトンネル接合層13の界面で界面磁気異方性を生じさせ、参照層12の磁化方向を膜面に対して垂直にするために、参照層12を構成する強磁性層(参照層12が多層構造の場合はトンネル接合層13に隣接する強磁性層)を、B(ホウ素)を含む強磁性材料、特にCoFeB、FeB又CoBで形成するのが好ましい。参照層12が多層構造の場合、参照層12は、例えば、強磁性層/非磁性結合層/強磁性層/Ta(タンタル)、W(タングステン)又はMo(モリブデン)でなる交換結合層/CoFeB、FeB又CoBでなる強磁性層(トンネル接合層13に隣接)などの多層構造とする。
【0026】
このように、Ta、W又はMoでなる交換結合層を挿入することで、交換結合層上に積層するCoFeB、FeB又CoBでなる強磁性層をアモルファス強磁性層とすることができるので、さらに望ましい。なお、アモルファス強磁性層とは、アモルファスが支配的である強磁性層を意味し、一部に結晶が含まれていてもよい。参照層12は、MTJのサイズに応じて積層数及び膜厚などを適宜調整される。参照層12の厚さは、特に限定されないが、界面磁気異方性に起因する垂直磁化を利用するのであれば、5.0nm以下の厚さが好ましく、3.0nm以下、さらに1.6nm以下がより好ましい。
【0027】
また、アモルファス層上にMgOを積層すると(100)方向に配向した単結晶が支配的なMgO層が形成される性質によって、参照層12に隣接してMgO(100)でなるトンネル接合層13を形成しやすくなるので、この点からも参照層12の最もトンネル接合層13側の層(例えば最上面)をCoFeB、FeB又CoBで形成するのが望ましい。このようにすることで、MgO(100)でなるトンネル接合層13をアモルファス強磁性層上に(100)高配向膜として面内方向にも大きなグレインで成長させることができ、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。
【0028】
なお、界面磁気異方性ではなく、結晶磁気異方性又は形状磁気異方性によって、参照層12の磁化方向を垂直方向と磁化12Mの向きを垂直方向に固定するようにしてもよい。
【0029】
この場合、参照層12は、例えば、Co、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金でなる強磁性層で構成されるのが望ましい。具体的に説明すると、Coを含む合金としては、Co-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Ptなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Coを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるCo-richであることが望ましい。Feを含む合金としては、Fe-Pt及びFe-Pdなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Feを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるFe-richであることが望ましい。Co及びFeを含む合金としては、Co-Fe、Co-Fe-Pt及びCo-Fe-Pdなどの合金が望ましい。Co及びFeを含む合金は、Co-richであってもFe-richであってもよい。Mnを含む合金としては、Mn-Ga及びMn-Geなどの合金が望ましい。また、上記で説明したCo、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金に、B(ホウ素)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)、P(リン)、Al(アルミニウム)及びSi(シリコン)などの元素が多少含まれていてもかまわない。
【0030】
トンネル接合層13は、参照層12に隣接して形成されている。トンネル接合層13は、MgO、Al、AlN、MgAlOなどのOを含む非磁性材料、特にMgO(100)で形成されるのが望ましい。また、トンネル接合層13の厚さは、0.1nm~2.5nm、望ましくは、0.5nm~1.5nmである。
【0031】
記録層14aは、トンネル接合層13に隣接する第1強磁性層24と、第1強磁性層24に隣接するHf層25と、Hf層25に隣接する第2強磁性層26とで構成された多層膜である。記録層14aは、第1強磁性層24の磁化24M及び第2強磁性層26の磁化26Mが強磁性的に結合した強磁性結合構造をしている。そのため、第1強磁性層24及び第2強磁性層26は、層間相互作用によって磁化が強磁性的に結合しており、磁化方向が平行となる。
【0032】
また、本実施形態では、記録層14aの最もトンネル接合層13側の第1強磁性層24とトンネル接合層13の界面で界面磁気異方性が生じるように、第1強磁性層24の材質と厚さを選定し、第1強磁性層24の磁化方向が膜面に対して垂直方向となるようにしている。そのため、第1強磁性層24は、膜面に対して垂直な方向に磁化している垂直磁化膜である。そして、第2強磁性層26は、磁化方向が層間相互作用によって第1強磁性層24と平行となるので、膜面に対して垂直な方向に磁化している垂直磁化膜である。第1強磁性層24及び第2強磁性層26は、磁化方向が固定されておらず、磁化方向が基板2に対して上向きと下向きとの間で反転可能である。第1強磁性層24と第2強磁性層26の磁化方向は、連動して反転し、後述するスピントルクにより第1強磁性層24の磁化方向が反転すると第2強磁性層26の磁化方向も反転する。
【0033】
第1強磁性層24は、第1強磁性層24に界面磁気異方性を生じさせるために、Bを含む強磁性材料、特にCoFeB、FeB又CoBで形成されている。第2強磁性層26は、後述するOを含む非磁性層27との界面で界面磁気異方性を生じさせ、膜面に対して垂直に磁化し易くするために、第1強磁性層24と同様に、CoFeB、FeB又CoBなどのBを含む強磁性材料で形成されるのが好ましい。又は、第2強磁性層26は、Oを含む非磁性層27と隣接する位置に、CoFeB、FeB又CoBなどのBを含む強磁性材料で形成された層を有する多層膜であることが好ましい。なお、第2強磁性層26は、例えば、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜及びCo/Ni多層膜などのCo層を含む多層膜、Mn-Ga、Mn-Ge及びFe-Ptなどの規則合金又はCo-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt、Co-Cr-Ta-Pt、CoFeB及びCoBなどのCoを含む合金などで構成されていてもよい。
【0034】
第1強磁性層24及び第2強磁性層26の厚さは、特に限定されないが、界面磁気異方性に起因する垂直磁化を利用するのであれば、それぞれ5.0nm以下の厚さが好ましく、3.0nm以下、さらに1.6nm以下の厚さがより好ましい。第1強磁性層24及び第2強磁性層26の厚さは、特に、0.5nm~4.0nmの厚さが好ましい。また、第1強磁性層24及び第2強磁性層26は、双方の厚さの合計が2.0nm以上であることが好ましい。
【0035】
Hf層25は、第1強磁性層24と第2強磁性層26とに隣接して設けられている。Hf層25は、ハフニウムで形成された薄膜である。Hf層25は、記録層14aを強磁性結合構造にする(第1強磁性層24の磁化24Mと第2強磁性層26の磁化26Mとを層間相互作用によって強磁性的に結合させる)非磁性結合層としての機能を有している。
【0036】
また、記録層14aは、ホウ素を含む第1強磁性層24と隣接するHf層25を有することで、垂直磁気異方性が増大し、膜面に対して垂直方向に磁化し易くできる。さらに、Hf層25は、Ta、W又はこれらの合金などで構成された非磁性結合層を用いた場合と比較して、後述の熱処理の過程で第1強磁性層24のホウ素が非磁性結合層内に拡散し難い。よって、Hf層25を用いることで熱処理に伴う第1強磁性層24のホウ素の拡散を抑制でき、Hf層25に隣接する第1強磁性層24の飽和磁化Msが熱処理により増大するのを抑制でき、第1強磁性層24の垂直方向の反磁界が増大することも抑制できる。その結果、Hf層25を有さない場合より、熱処理によって垂直磁気異方性の大きさをより向上でき、第1強磁性層24を垂直方向に磁化し易くできる。そのため、第1強磁性層24の垂直磁化膜としての熱安定性を向上できる。また、第1強磁性層24をより厚い垂直磁化とすることができるので、より熱安定性を向上できる。さらに、第1実施形態では、Hf層25が、第1強磁性層24が隣接する面と対向する面に第2強磁性層26が隣接しているので、第2強磁性層26側にも同様の効果が生じ、さらに熱安定性を向上できる。
【0037】
また、Hfは、TaやWと比較して、熱によるHf原子の原子拡散が生じにくい。そのため、層間相互作用を導入するための非磁性結合層としてHf層25を用いることで、Ta、W又はこれらの合金などで構成された非磁性結合層を用いた場合より、熱処理による非磁性結合層から第1強磁性層24及び第2強磁性層26への非磁性結合層を構成する原子の原子拡散を抑制できる。即ち、Hf層25の代わりにTa層あるいはW層が挿入されたとき、CoFeB(第1強磁性層24及び第2強磁性層26)と、TaあるいはWとの間で、大きく拡散が発生する。これに対して、Hf層25が挿入されたとき、CoFeB(第1強磁性層24及び第2強磁性層26)とHfとの間での拡散が小さく抑制される。CoFeBとTa、W、あるいはHfとの間の拡散において、原子番号が小さいCoやFeの場合に、それよりも原子番号が大きいW、Ta、Hf等の重金属が混ざると、ダンピング定数が大きくなることが知られている。重金属の拡散量が小さい、つまり磁気デッドレイヤーが小さくなる重金属を選択することが好適である。非磁性結合層(Hf層、Ta層、W層)の膜厚tが0.3nm以上では、Hf層が挿入された場合の方が、Ta層あるいはW層が挿入された場合に比べて拡散が抑えられ、CoFeBのダンピング定数αの増大も抑えられる。このため、Hf層が挿入された場合の方が、書き込み電流ICOが小さくなり、好ましい。
【0038】
よって、MTJ膜1aの記録層14aは熱安定性が高い。そのため、このようなMTJ膜1aを用いて磁気メモリ素子100を作製することで、不揮発性の高い磁気メモリ素子100を提供できる。
【0039】
なお、Hf層25は、Zr(ジルコニウム)を含んでいてもよい。Hf層25は、厚さが0.2nm以上、0.9nm以下に、より好ましくは0.3nm以上、0.7nm以下に形成されるのが好ましい。Hf層25を層状に形成するには0.2nm程度の厚さが必要である。0.3nm以上とすることで、TaやWと比較したときの第1強磁性層24からのホウ素の拡散防止の効果が大きくなる。MTJのエッチング加工性を考慮すると総計の膜厚は薄い程好ましく、Hf層25の厚さを0.7nmより厚くしてもHf層25に隣接する第1強磁性層24及び第2強磁性層26の垂直磁気異方性があまり向上しないので、Hf層25の膜厚は0.7nm以下とすることが好ましい。ウェハー全体の膜厚均一性を確保することを考慮すると、Hf層25の膜厚は0.9nm以下とすることが好ましい。
【0040】
Oを含む非磁性層27は、酸素を含む非磁性体から成ることが好ましく、例えば、MgO、MgOTi、MgOTiN、Al、SiO、MgZnOなどから成っている。Oを含む非磁性層27は、隣接する記録層14a(第1実施形態では第2強磁性層26)との界面に界面磁気異方性を生じさせ、記録層14aを膜面に対して垂直方向に磁化させ易くできる。第1実施形態では、Oを含むトンネル接合層13と、Oを含む非磁性層27とで記録層14aを挟んだ二重界面構造とすることができる。これにより、トンネル接合層13と記録層14aとの界面及び記録層14aとOを含む非磁性層27との界面のそれぞれに界面磁気異方性を生じさせることができ、記録層14aの膜厚を大きくして、熱安定性を高めることができる。Oを含む非磁性層27の厚さは、特に限定されないが、10nm以下の厚さが好ましく、5nm以下の厚さが特に好ましい。また、Oを含む非磁性層27は、トンネル接合層13の厚さと同じか、それ以下の厚さであることが好ましい。
【0041】
なお、Oを含む非磁性層27は、導電性酸化物膜から成っていてもよい。導電性酸化物膜は、例えば、(1)RuO、VO、CrO、NbO、MoO、WO、ReO、RhO、OsO、IrO、PtO、V、Tiなどのルチル-MoO型酸化物、(2)TiO、VO、NbO、LaO、NdO、SmO、EuO、SrO、BaO、NiOなどのNaCI型酸化物、(3)LiTi、LiV、Feなどのスピネル型酸化物、(4)ReO、CaCrO、SrCrO、BaMoO、SrMoO、CaMoO、LaCuO、CaRuO、SrVO、BaTiOなどのペロブスカイト-ReO型酸化物、(5)Ti、V、Rhなどのコランダム型酸化物、(6)ZnO、TiO、SnO、CuO、AgO、In、WOなどの酸化物半導体、または、(7)TaOなどである。
【0042】
MTJ膜1aは、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法と、リソグラフィ技術などにより作製される。例えば、まず、電極などが形成された基板(図2には不図示)上に下地層(図2には不図示)を成膜後、下地層上に、参照層12を成膜する。次に、参照層12上に、トンネル接合層13を成膜する。最後に、トンネル接合層13上に、第1強磁性層24、Hf層25、第2強磁性層26の順に成膜して記録層14aを作製し、記録層14a上にOを含む非磁性層27を成膜する。その後、後述する熱処理工程と成形工程とを経て、MTJ膜1aは作製される。
【0043】
(1-2)第1実施形態のトンネル接合積層膜の一例
以下、図3を参照して、本発明の第1実施形態のトンネル接合積層膜1aの具体的な一例を説明する。図3に示す具体例では、トンネル接合積層膜1aは、基板2上に形成され、参照層12に電気的に接続された第1端子10と、記録層14aに電気的に接続された第2端子16とが設けられ、2端子の磁気メモリ素子として構成されている。また、トンネル接合積層膜1aは、第1端子10と参照層12の間に下地層11が設けられ、第2端子16とOを含む非磁性層27の間にキャップ層15が設けられている。
【0044】
このように、第1端子10が参照層12に電気的に接続され、第2端子16が記録層14aに電気的に接続されているので、第1端子10と第2端子16の間でMTJ膜1aを貫通して電流を流すことができる。そのため、第1端子10と第2端子16との間に流す電流によって、MTJ膜1aの記録層14aの磁化方向を反転させ、MTJ膜1aを平行状態と反平行状態の間で遷移させてデータを記憶する磁気メモリ素子としてのSTT-MRAM素子として用いることができる。また、参照層12が記録層14aより基板2側に配置されており、所謂Bottom-pinned構造をしている。
【0045】
基板2は、例えば、表面にSiO膜が形成されたSi基板などで構成され、トランジスタや多層の配線層を含んだ構造を有する。第1端子10は、基板2表面上に形成され、第2端子16は、キャップ層15上に形成されている。第1端子10及び第2端子16は、例えばCu(銅)、Al(アルミニウム)及びAu(金)などの導電性を有する金属又はこれらの金属の化合物で形成された導電層である。第1端子10は厚さ20~50nm程度であり、第2端子16は厚さ10~100nm程度である。便宜上、図3には示していないが、この例では、基板2表面上に形成された第1端子10が基板2に形成された電界効果型のトランジスタ(FET:Field effect transistor)111(図4図5参照)に接続され、第2端子16が後述のビット線BL1に接続されている(図4図5参照)。なお、基板2は、第1端子10を含むこともできる。
【0046】
下地層11は、第1端子10上に形成されている。下地層11は、トンネル接合積層膜1aを積層するための下地となる層であり、表面が平坦に形成されている。下地層11は、例えば、厚さ5nm程度のTaの層から構成される。下地層11は、Cu、CuN(窒化銅)、Au、Ag(銀)、Ruなどの金属材料、それらの合金などから構成されてもよい。下地層11は、複数の金属材料の層を積層した構造、例えばTa層/Ru層/Ta層といった構造であってもよい。また、下地層11を形成しなくてもよい。
【0047】
トンネル接合積層膜1aは、参照層12と、トンネル接合層13と、記録層14aと、Oを含む非磁性層27で構成され、下地層11上にこの順に積層されている。図3に示す例では、参照層12は、[Co/Pt]/Co多層膜でなる強磁性層/Ruでなる非磁性結合層/[Co/Pt]/Co多層膜でなる強磁性層/Ta又はWでなる交換結合層/CoFeBでなる強磁性層で構成された多層構造をしている。なお、[Co/Pt]は、Co/Pt多層膜がn回繰り返し積層されていることを意味しており、[Co/Pt]/Co多層膜は、最下層の膜と最上層の膜とがCoであることを意味している。[Co/Pt]/Co多層膜についても同様である。
【0048】
参照層12では、後述するようにトンネル接合層13がMgOで構成されているため、界面磁気異方性によりCoFeBでなる強磁性層が垂直磁化膜となっている。そのため、[Co/Pt]/Co多層膜でなる強磁性層が、CoFeBでなる強磁性層と層間相互作用によって磁気的に結合し、垂直磁化膜となっている。さらに、[Co/Pt]/Co多層膜でなる強磁性層と[Co/Pt]/Co多層膜でなる強磁性層とは、Ru層によって反強磁性的に磁化が結合し、磁化方向が反平行となっている。
【0049】
参照層12は、例えば、CoFeB(1.5nm)/Ta(0.4nm)/[Co(0.25nm)/Pt(0.8nm)]/Co(1.0nm)/Ru(0.85nm)/Co(1.0nm)/[Co(0.25nm)/Pt(0.8nm)]13(Co層(1.0nm)にはPt層(0.8nm)が隣接)とすることができる。
【0050】
トンネル接合層13は、1.5nmの厚さのMgOで形成されている。
【0051】
記録層14aは、CoFeBでなる第1強磁性層24と、Hf層25と、CoFeBでなる第2強磁性層26とで構成され、トンネル接合層13上にこの順に積層されている。例えば、記録層14aは、CoFeB(1.0nm)/Hf(0.7nm)/CoFeB(1.0nm)とすることができる。
【0052】
Oを含む非磁性層27は、MgOで形成されている。この例では、Oを含む非磁性層27とトンネル接合層13とがMgOで形成されており、記録層14aが二重界面構造となっている。Oを含む非磁性層27の厚さは、例えば、1nmとすることができる。
【0053】
キャップ層15は、Oを含む非磁性層27上に形成されている。キャップ層15は、例えばTa又はWで形成され、導電性を有している。キャップ層15の厚さは、例えば、1.0nmとすることができる。なお、キャップ層15を設けなくてもよい。
【0054】
図3に示す磁気メモリ素子は、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法と、リソグラフィ技術などにより作製される。まず、基板2の表面上に、第1端子10、下地層11、MTJ膜1a、キャップ層15、第2端子16の順に積層し、300℃~400℃程度の温度で熱処理して多層膜を作製する。その後、多層膜がリソグラフィ技術などによりピラー形状に成形されて、磁気メモリ素子100が作製される。ピラーの形状は、円柱形状や四角柱、多角柱など種々の形状とすることができる。
【0055】
(1-3)磁気メモリ素子の書き込み方法及び読み出し方法
MTJ膜1aを用いた磁気メモリ素子の書き込み方法について、図2と同じ構成には同じ番号を付した図4A図4Bを参照して説明する。図4Aに示すように、磁気メモリ素子100は、参照層12に下地層11を介して電気的に接続された第1端子10と、記録層14にOを含む非磁性層17及びキャップ層15を介して電気的に接続された第2端子16とを備える2端子のメモリである。磁気メモリ素子100は、記録層14aと参照層12の磁化方向が、平行か、反平行かによって、MTJ膜1aの抵抗値が変化する。記録層14aと参照層12とが多層膜である場合、磁気メモリ素子100は、記録層14a及び参照層12の強磁性層の内、トンネル接合層13と隣接する強磁性層同士(例えば、記録層の14aの第1強磁性層24と参照層12)の磁化方向が、平行か、反平行かによってMTJ膜1aの抵抗値が変わる。
【0056】
よって本明細書では、記録層14aと参照層12が平行状態といった場合は、トンネル接合層13と隣接する強磁性層同士の磁化方向が平行な状態であることも指し、記録層14aと参照層12が反平行状態といった場合は、トンネル接合層13と隣接する強磁性層同士の磁化方向が反平行な状態であることも指すものとする。
【0057】
磁気メモリ素子100では、平行状態と反平行状態とでMTJ膜1aの抵抗値が異なることを利用して、平行状態と反平行状態とに“0”と“1”の1ビットデータを割り当てることにより、磁気メモリ素子100にデータを記憶させる。磁気メモリ素子100は、記録層14aの磁化方向が反転可能なので、記録層14aの磁化方向を反転させることで、MTJ膜1aを平行状態と反平行状態との間で遷移させ、“0”を記憶したMTJ膜1aに“1”を記憶させ、“1”を記憶したMTJ膜1aに“0”を記憶させる。本明細書では、このように、記録層14aの磁化方向を反転させてMTJ膜1aの抵抗値を変化させることを、データを書き込むともいうこととする。
【0058】
磁気メモリ素子100の書き込み方法についてより具体的に説明する。図4A図4Bでは、磁気メモリ素子100の第1端子10が電界効果型のトランジスタ111のドレインに接続され、第2端子16がビット線BL1に接続されている。トランジスタ111は、ゲートがワード線WL1に接続されソースがソース線SL1に接続されている。そのため、ワード線WL1からトランジスタ111のゲートに所定の電圧を印加してトランジスタ111をオンにすると、ビット線BL1とソース線SL1との間の電位差に応じて、第1端子10から第2端子16へ又は第2端子16から第1端子10へMTJ膜1aを貫通する書き込み電流Iwを流すことができる。なお、図4A図4Bでは、便宜上、基板2を省略しているが、実際には、基板2にトランジスタ111が形成されている。
【0059】
まず、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子100にデータ“0”を書き込む場合を説明する。ここでは、図4Aに示すように、磁気メモリ素子100が、記録層14aの磁化方向が上向きで、参照層12の磁化方向が下向きであり、MTJ膜1aが反平行状態でデータ“1”を記憶している状態を初期状態とする。そして、トランジスタ111はオフにされているものとする。
【0060】
まず、ビット線BL1を書き込み電圧Vwに設定する。その後、ワード線WL1をハイレベルに設定し、トランジスタ111をオンにする。このとき、ビット線BL1から書き込み電圧Vwを印加された第2端子16の方が第1端子10よりも電圧が高いので、書き込み電流Iwが第2端子16から第1端子10へ、MTJ膜1aを貫通して流れる。
【0061】
書き込み電流Iwが記録層14aから参照層12へと流れるので、電子が参照層12から記録層14aへと流れる。参照層12と記録層14aの磁化方向が反平行であるので、この電子の流れによって記録層14aの磁化方向と反平行のスピンが記録層14aに流入する。記録層14aに流入したスピンが記録層14aの磁化方向と反平行なので、流入したスピンによって記録層14aの磁化方向を反転させるようにトルクが働く。このトルクによって記録層14aの磁化方向が反転してMTJ膜1aが平行状態となり、データ“0”が記憶される。実際には記録層14aが強磁性結合構造をしているので、トンネル接合層13に隣接する第1強磁性層24の磁化方向が流入したスピンにより反転し、それに合わせて、第1強磁性層24の磁化24Mと強磁性的に結合している第2強磁性層26の磁化26Mも反転する。トランジスタ111をオンにしてから所定時間経過後、ワード線WL1がローレベルに設定されてトランジスタ111をオフにし、ビット線BL1を降圧させ、書き込み電流Iwを停止する。
【0062】
次に、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子100にデータ“1”を書き込む場合を説明する。ここで、図4Bに示すように、磁気メモリ素子100が、記録層14aの磁化方向が下向きで、参照層12の磁化方向が下向きであり、MTJ膜1aが平行状態でデータ“0”を記憶している状態を初期状態とする。そして、トランジスタ111はオフにされているものとする。
【0063】
まず、ソース線SLを書き込み電圧Vwに設定する。その後、ワード線WL1をハイレベルに設定し、トランジスタ111をオンにする。このとき、ソース線SL1から書き込み電圧Vwを印加された第1端子10の方が第2端子16よりも電圧が高いので、書き込み電流Iwが第1端子10から第2端子16へ、MTJ膜1aを貫通して流れる。
【0064】
書き込み電流Iwが参照層12から記録層14aへと流れるので、電子が記録層14aから参照層12へと流れる。参照層12と記録層14aの磁化方向が平行であるので、この電子の流れによって参照層12の磁化方向と平行のスピンが参照層12に流入する。一方で、記録層14aには、参照層12の磁化方向と平行ではないスピンも存在し、当該スピンは、トンネル接合層13と参照層12の界面で散乱され、記録層14aに再度流入する。この記録層14aに再流入したスピンは、記録層14aの磁化方向と異なる方向を向いているので、記録層14aの磁化(第1強磁性層24の磁化24M)にトルクを及ぼす。このトルクによって記録層14aの磁化方向が反転してMTJ膜1aが反平行状態となり、データ“1”が記憶される。実際には記録層14aが強磁性結合構造をしているので、第1強磁性層24の磁化反転に合わせて第2強磁性層26の磁化方向も反転する。トランジスタ111をオンにしてから所定時間経過後、ワード線WL1がローレベルに設定されてトランジスタ111をオフにし、ソース線SL1を降圧し、書き込み電流Iwを停止する。
【0065】
このように、磁気メモリ素子100では、第1端子10と第2端子16の間でMTJ膜1aを貫通する書き込み電流Iwを流すことで、記録層14aの磁化方向を反転させ、データ“0”又はデータ“1”を書き込むことができる。
【0066】
続いて読み出し方法について説明する。図4Aを参照して、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子100からデータを読み出す場合を例として説明する。この場合、初期状態では、図4Aに示すように、磁気メモリ素子100は、記録層14aの磁化方向が上向きで、参照層12の磁化方向が下向きであり、MTJ膜1aが反平行状態でデータ“1”を記憶している。そして、トランジスタ111はオフにされているものとする。
【0067】
まず、ビット線BL1を読み出し電圧Vrに設定する。読み出し電圧Vrは、書き込み電圧Vwよりも低い電圧であり、記録層14aの磁化方向が反転しない電圧に設定される。その後、ワード線WL1をハイレベルに設定し、トランジスタ111をオンにする。このとき、ビット線BL1から読み出し電圧Vrを印加された第2端子16の方が第1端子10よりも電圧が高いので、読み出し電流Irが第2端子16から第1端子10へ、MTJ膜1aを貫通して流れる。読み出し電流Irは、不図示の電流検出器で検出される。読み出し電流Irは、MTJの抵抗値によって大きさが変わるので、読み出し電流Irの大きさからMTJが平行状態か反平行状態か、すなわち、MTJがデータ“0”を記憶しているか、データ“1”を記憶しているかを読み出すことができる。よって、読み出し電流Irの大きさから、データ“1”を読み出すことができる。トランジスタ111をオンにしてから所定時間経過後、ワード線WL1がローレベルに設定されてトランジスタ111をオフにし、ビット線BL1を降圧し、読み出し電流Irを停止する。
【0068】
データ“0”を記憶している磁気メモリ素子100からデータを読み出す場合も、同じ方法により、記憶されたデータを読み出すことができるので、説明は省略する。なお、第1端子10から第2端子16へ読み出し電流Irを流しても、同様に、読み出し電流Irの電流値から磁気メモリ素子100に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0069】
(1-4)本発明の磁気メモリ素子を備えた磁気メモリ
次に、上記構成を有する磁気メモリ素子100を記憶素子として使用する磁気メモリセル回路と当該磁気メモリセル回路を集積した磁気メモリとについて、図4Aと同じ構成には同じ符号を付した図5を参照して説明する。図5に示す点線で囲まれた領域は、1ビット分の磁気メモリセル回路300である。この磁気メモリセル回路300は、1ビット分のメモリセルを構成する磁気メモリ素子100と、ビット線BL1と、ソース線SL1と、ワード線WL1と、トランジスタ111とを備える。図5では、便宜上、磁気メモリ素子100を模式的に示している。
【0070】
次に、磁気メモリ200について説明する。磁気メモリ200は、複数のビット線と、複数のソース線と、複数のワード線と、複数の磁気メモリセル回路300と、Xドライバ203と、Yドライバ202と、コントローラ201とを備えている。図5では、便宜上、2つのビット線BL1、BL2、2つのソース線SL1、SL2、3つのワード線WL1、WL2、WL3のみ示している。磁気メモリセル回路300は、ビット線及びソース線と、ワード線との交点近傍にそれぞれ配置されている。
【0071】
Xドライバ203は、複数のビット線(BL1、BL2)と、複数のソース線(SL1、SL2)とが接続されており、コントローラ201から受信したアドレスをデコードして、アクセス対象の行のビット線又はソース線に書き込み電圧Vw又は読み出し電圧Vrを印加する。また、Xドライバ203は、電流検出器(図5には不図示)を備えており、選択した磁気メモリセル回路300の磁気メモリ素子100を流れる読み出し電流Irを検出し、磁気メモリ素子100に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0072】
Yドライバ202は、複数のワード線(WL1、WL2、WL3)が接続されており、コントローラ201受信したアドレスをデコードして、アクセス対象の列のワード線の電圧をハイレベル又はローレベルに設定する。
【0073】
コントローラ201は、データ書き込み、あるいはデータ読み出しに応じて、Xドライバ203とYドライバ202のそれぞれを制御する。コントローラ201は、書き込みをしたい磁気メモリセル回路300のアドレスをXドライバ203とYドライバ202とに送信し、書き込みたいデータを表すデータ信号をXドライバに送信する。Xドライバ203は、受信したアドレスに基づいてビット線とソース線を選択し、受信したデータ信号に基づいてビット線又はソース線のいずれかに書き込み電圧Vwを印加する。Yドライバ202は、受信したアドレスに基づいてワード線を選択し、当該ワード線の電圧をハイレベルに設定する。これらのXドライバ203及びYドライバ202の動作により、コントローラ201に選択された磁気メモリセル回路300の磁気メモリ素子100に書き込み電流Iwが流れ、データが書き込まれる。
【0074】
コントローラ201は、読み出したい磁気メモリセル回路300のアドレスをXドライバ203とYドライバ202に送信する。Xドライバ203は、受信したアドレスに基づいて、ビット線とソース線を選択し、ビット線又はソース線のいずれかに読み出し電圧Vrを印加する。Yドライバ202は、受信したアドレスに基づいてワード線を選択し、当該ワード線の電圧をハイレベルに設定する。これらのXドライバ203及びYドライバ202の動作により、コントローラ201に選択された磁気メモリセル回路300の磁気メモリ素子100に読み出し電流Irが流れ、Xドライバ203で読み出し電流Irが検出されて、データが読み出される。
【0075】
(1-5)作用及び効果
以上の構成において、第1実施形態のトンネル接合積層膜1aは、ホウ素を含む第1強磁性層24を有する記録層14aと、記録層14aに隣接するトンネル接合層13と、トンネル接合層13に隣接する参照層12とを備え、第1強磁性層24及び参照層12が膜面に対して垂直な方向に磁化しており、記録層14aが、第1強磁性層24に隣接するハフニウム層25を有するように構成した。
【0076】
よって、トンネル接合積層膜1aは、記録層14aが第1強磁性層24に隣接するハフニウム層25を有するので、第1強磁性層24の垂直磁気異方性を向上でき、その結果、ハフニウム層25に隣接する第1強磁性層24の磁化の熱安定性が向上し、記録層14aの熱安定性が高い。よって、熱安定性が高いトンネル接合積層膜1aを提供でき、ひいては、熱安定性の高いトンネル接合積層膜1aを磁気メモリ素子100や磁気メモリ200に用いることで、不揮発性の高い磁気メモリ素子100及び磁気メモリ200を提供できる。
【0077】
さらにトンネル接合積層膜1aは、記録層14aが、ホウ素を含む第2強磁性層26を有し、トンネル接合層13が第1強磁性層24に隣接し、第1強磁性層24がハフニウム層25に隣接し、ハフニウム層25が第2強磁性層26に隣接し、第2強磁性層26がO(酸素原子)を含む非磁性層27に隣接するように構成することで、第2強磁性層26の垂直磁気異方性を向上でき、第2強磁性層26の熱安定性が向上し、記録層14の熱安定性をさらに高めることができる。その結果、より熱安定性の高いトンネル接合積層膜1aを提供できる。
【0078】
(2)第2実施形態
(2-1)第2実施形態のトンネル接合積層膜
第2実施形態のトンネル接合積層膜は、第1実施形態のトンネル接合積層膜とは、記録層の構成が異なる。その他の構成や書き込み・読み出し動作などは、第1実施形態と同じであるので、記録層14の構成を中心に説明する。
【0079】
図1と同じ構成には同じ番号を付した図6に示すように、第2実施形態のトンネル接合積層膜(MTJ膜)1bの記録層14は、トンネル接合層13に隣接する第1強磁性層24と、第1強磁性層24に隣接するHf層25とで構成されている。さらに、第2実施形態では、MTJ膜1bは、記録層14のHf層25に隣接するキャップ層15を備えている。
【0080】
第1強磁性層24は、トンネル接合層13上に、厚さが1.0nm~4.0nm程度に形成され、CoFeB、FeB又CoBなどのBを含む強磁性材料で形成されている。第2実施形態では、第1強磁性層24が、1層の強磁性層により構成されていてもよく、例えば、強磁性層/非磁性結合層/強磁性層などの多層構造や、異なる材料で構成された層が交互に積層された多層構造であってもよい。図6中の白抜き矢印は、第1強磁性層24の磁化24Mの方向を表している。図6では、磁化24Mが膜面に対して垂直方向を向いており、第1強磁性層24が垂直磁化膜であることを表している。なお、第1強磁性層24が多層構造をしている場合は、図6中の磁化24Mは、トンネル接合層13に隣接する強磁性層の磁化方向を表している。
【0081】
第2実施形態では、Hf層25は、多層構造の記録層14内で、記録層14が隣接するトンネル接合層13から最も離れた位置に配置されており、第1強磁性層24に隣接する面と対向する面がキャップ層15に隣接している。Hf層25は、その厚さが0.2nm以上、0.9nm以下であることが好ましい。Hf層25を層状に形成するには0.2nm程度の厚さが必要である。0.3nm以上とすることで、TaやWと比較したときの第1強磁性層24からのホウ素の拡散防止の効果が大きくなる。MTJのエッチング加工性を考慮すると総計の膜厚は薄い程好ましく、Hf層25の厚さを0.7nmより厚くしてもHf層25に隣接する第1強磁性層24の垂直磁気異方性があまり向上しないので、Hf層25の膜厚は0.7nm以下とすることが好ましい。ウェハー全体の膜厚均一性を確保することを考慮すると、Hf層25の膜厚は0.9nm以下とすることが好ましい。さらに、第2実施形態のように、Hf層25が記録層14内で、トンネル接合層13から最も離れた位置に配置されている場合、Hf層25の厚さは、0.3nm以上、5.0nm以下であることがさらに好ましい。
【0082】
さらに、第2実施形態では、キャップ層15を例えば導電性を有するTa、W又はこれらの合金で構成して、MTJ膜1bの抵抗を増大させないようにしている。Oを含む非磁性層をキャップ層に用いる場合よりもMTJ膜1bの抵抗を低下できる。
【0083】
このようなMTJ膜1bは、ホウ素を含む第1強磁性層24と隣接するHf層25を有することで、垂直磁気異方性が増大し、膜面に対して垂直方向に磁化し易くできる。また、熱処理における第1強磁性層24からHf層25やキャップ層15へのBの拡散を抑制できるので、第1強磁性層24の飽和磁化Msが増大するのを抑制し、第1強磁性層24の垂直方向の反磁界が増大することも抑制できる。その結果、垂直磁気異方性の大きさをより向上でき、第1強磁性層24の熱安定性を向上できる。さらに、MTJ膜1bは、記録層14の第1強磁性層24とキャップ層15との界面に、Hf層25を有するので、熱処理におけるキャップ層15から第1強磁性層24へキャップ層15を構成する原子が拡散することを、Hf層25の代わりにTa層やW層を挿入した場合やHf層25がない場合などに比較して抑えられるので、第1強磁性層24の飽和磁化Msが低下して熱安定性が低下することを抑制できる。よって、MTJ膜1bの熱安定性をさらに向上できる。
【0084】
さらに、第1強磁性層24に隣接するHf層25自体をキャップ層15として用いることもできる。この場合も同様に、第1強磁性層24の垂直磁気異方性を向上でき、MTJ膜の熱安定性を向上できる。Hfは導電性を有する金属であるので、Hf層25自体をキャップ層15として用いるようにすることでも、MTJ膜の抵抗を低くできる。
【0085】
なお、記録層14を、第1実施形態の記録層14aの様に積層フェリ構造としてもよい。例えば、記録層14をトンネル接合層13側から、第2強磁性層/非磁性結合層/第1強磁性層の多層構造とし、第1強磁性層とキャップ層の界面にHf層を挿入する(記録層14内で、トンネル接合層13から最も離れた位置に配置されている第1強磁性層に隣接し、当該第1強磁性層を挟んでトンネル接合層13と向かい合うようにHf層25を設ける)。この場合も、第1強磁性層24の垂直磁気異方性を向上できる。
【0086】
このように、MTJ膜1bを用いて磁気メモリ素子を作製することで、記録層32の熱安定性が向上し、かつ、キャップ層に導電性の非磁性金属を用いることができるようになり、不揮発性が高く、抵抗の低い磁気メモリ素子を提供できる。
【0087】
(2-2)作用及び効果
以上の構成において、第2実施形態のトンネル接合積層膜1bは、ホウ素を含む第1強磁性層24を有する記録層14と、記録層14に隣接するトンネル接合層13と、トンネル接合層13に隣接する参照層12とを備え、第1強磁性層24及び参照層12が膜面に対して垂直な方向に磁化しており、記録層14が、第1強磁性層24に隣接するHf層25を有するように構成した。
【0088】
よって、トンネル接合積層膜1bは、記録層14が第1強磁性層24に隣接するHf層25を有するので、第1強磁性層24の垂直磁気異方性を向上でき、その結果、Hf層25に隣接する第1強磁性層24の磁化の熱安定性が向上し、記録層14の熱安定性が高い。よって、熱安定性が高いトンネル接合積層膜1bを提供でき、ひいては、熱安定性の高いトンネル接合積層膜1bを磁気メモリ素子や磁気メモリに用いることで、不揮発性の高い磁気メモリ素子及び磁気メモリを提供できる。
【0089】
さらに、トンネル接合積層膜1bは、Hf層25が、記録層14内で、トンネル接合層13から最も離れた位置に配置されているように構成することで、キャップ層15などのHf層25に隣接する層から、当該隣接する層を構成する材料の原子が第1強磁性層24へ拡散することを抑制でき、第1強磁性層24の飽和磁化Msが低下して熱安定性が低下することを抑制できる。よって、MTJ膜1bは、さらに熱安定性を向上できる。
【0090】
(3)変形例
なお、本発明は、上記の第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0091】
(変形例1)
上記の第1実施形態では、MTJ膜1aの記録層14aが、第1強磁性層24、Hf層25、第2強磁性層26の多層構造をしている場合について説明したが本発明はこれに限られない。図7に示すMTJ膜1cの記録層14cの様に、第1強磁性層24と、Hf層25と、非磁性挿入層40と、第2強磁性層26とで構成される多層構造をしていてもよい。
【0092】
変形例1の記録層14cは、第2強磁性層26がトンネル接合層13に隣接し、第1強磁性層24がOを含む非磁性層27に隣接している。記録層14cでは、強磁性結合構造にするため非磁性結合層として、非磁性挿入層40とHf層25との多層構造を用いており、非磁性挿入層40が第2強磁性層26に隣接し、Hf層25が第1強磁性層24に隣接している。そして、Hf層25は、第1強磁性層24に隣接する面と対向する面が非磁性挿入層40に隣接している。
【0093】
変形例1では、記録層14cは、Oを含むトンネル接合層13と、Oを含む非磁性層27とで挟まれた二重界面構造をしており、トンネル接合層13と記録層14c(第2強磁性層26)との界面及び記録層14c(第1強磁性層24)とOを含む非磁性層27との界面のそれぞれに界面磁気異方性を生じている。これにより、記録層14cの第1強磁性層24及び第2強磁性層26を垂直磁化膜としている。変形例1では、第1強磁性層24及び第2強磁性層26が、CoFeB、FeB又CoBなどのBを含む強磁性材料で形成されている。非磁性挿入層40は、Ta、W、Mo又はこれらの合金で形成されており、0.2~1nm程度の厚さである。なお、第1強磁性層24及び第2強磁性層26は、単層であっても、多層であってもよい。
【0094】
Hf層25は、その厚さが0.2nm以上、0.9nm以下であることが好ましい。Hf層25を層状に形成するには0.2nm程度の厚さが必要である。0.3nm以上とすることで、TaやWと比較したときの第1強磁性層24からのホウ素の拡散防止の効果が大きくなる。MTJのエッチング加工性を考慮すると総計の膜厚は薄い程好ましく、Hf層25の厚さを0.7nmより厚くしてもHf層25に隣接する第1強磁性層24の垂直磁気異方性があまり向上しないので、Hf層25の膜厚は0.7nm以下とすることが好ましい。ウェハー全体の膜厚均一性を確保することを考慮すると、Hf層25の膜厚は0.9nm以下とすることが好ましい。さらに、変形例1のように、記録層14cの第2強磁性層26が非磁性挿入層40に隣接し、非磁性挿入層40がHf層25に隣接し、Hf層25が第1強磁性層24に隣接し、第1強磁性層24がOを含む非磁性層27に隣接する場合、Hf層25の厚さは、0.3nm以上、0.7nm以下であることがさらに好ましい。
【0095】
この場合、Hf層25に隣接する第1強磁性層24は、熱処理により垂直磁気異方性が増大し、かつ、非磁性挿入層40からの非磁性挿入層40を構成する原子の第1強磁性層24への拡散が抑制されるので、当該原子の拡散による第1強磁性層24の飽和磁化Msの低下も少なく、熱安定性を向上できる。
【0096】
一方で、非磁性挿入層40に隣接する第2強磁性層26は、非磁性挿入層40と第2強磁性層26との間にHf層25が挿入されていないので、非磁性挿入層40から第2強磁性層26への非磁性挿入層40を構成する原子の拡散が生じ、第2強磁性層26の飽和磁化Msが低下し、第2強磁性層26より熱安定性が低くなり、磁化方向が反転し易くなる。その結果、第2強磁性層26の磁化26Mの磁化反転に必要なスピントルクが減少し、書き込み電流Iwを低減できる。また、非磁性挿入層40に隣接する第2強磁性層26は、非磁性挿入層40へのBの拡散により、非磁性挿入層40にBが吸収される。これにより、例えば第2強磁性層26がCoFeBの場合、第2強磁性層26にCoFeが形成され、TMR比が向上する。このように、第2強磁性層26からBが抜けたことによりBを含まない強磁性体が一部に形成され、MTJ膜1cのTMR比が増大するというメリットも有する。
【0097】
そのため、変形例1のMTJ膜1cの記録層14cは、スピントルクにより磁化反転させる第2強磁性層26が磁化反転し易いのでスピントルクによって磁化反転し易くでき、かつ、第1強磁性層24の熱安定性が高いので記録層14c全体の熱安定性も向上でき、さらにはTMR比も増大させることが可能である。
【0098】
このようなMTJ膜1cを用いて磁気メモリ素子を作製することで、低エネルギーで書き込みでき、不揮発性も高く、さらには、TMR比が大きい磁気メモリ素子を提供できる。
【0099】
(変形例2)
上記の第1実施形態、第2実施形態及び変形例1では、参照層が記録層より基板側に配置されているBottom-pinned構造をしたトンネル接合積層膜(例えば図1)を例として説明してきたが、本発明はこれに限られない。記録層が参照層より基板側に配置されているTop-pinned構造のトンネル接合積層膜であってもよく、この場合もBottom-pinned構造をしたトンネル接合積層膜と同様の効果を奏する。第2実施形態のトンネル接合積層膜をTop-pinned構造にする場合は、下地層に隣接するようにHf層を挿入するのが良い。
【0100】
(変形例3)
上記の第1実施形態及び変形例1では、トンネル接合積層膜1a、1cの記録層14a、14cを強磁性結合構造とした場合について説明したが、本発明はこれに限られない。図8に示すトンネル接合積層膜1dの様に、記録層14dが、第1強磁性層24の磁化24Mと第2強磁性層26の磁化26Mとが層間相互作用により反強磁性的に結合した積層フェリ構造をしていてもよい。変形例3のトンネル接合積層膜1dでは、第1実施形態と同様に、記録層14dは、第1強磁性層24と、第1強磁性層24に隣接したHf層25と、Hf層25に隣接した第2強磁性層26とでなる多層膜である。この場合、第1強磁性層24と第2強磁性層26の間のHf層25の膜厚を適宜調整することで、強磁性結合構造をした記録層14dを積層フェリ構造とすることができる。他の構成は、第1実施形態のトンネル接合積層膜1と同じである。さらに、記録層14dを、強磁性層/非磁性挿入層/Hf層/Bを含む強磁性層の多層構造、Bを含む強磁性層/Hf層/Bを含む強磁性層/Hf層/Bを含む強磁性層の多層構造又はそれ以上の層数の多層構造としてもよい。
【0101】
(検証実験)
(検証実験1)
検証実験1では、記録層が強磁性層と隣接するHf層を有することの効果を確認するために、SiOが表面に形成されたSi基板上に、Ta(7.0nm)、W-Ta合金(3.0nm)、Hf(0.3nm又は0.7nm)、CoFeB(1.15nm~1.7nm)、MgO(1.5nm)、CoFeB(0.4nm)、Ta(1.0nm)をこの順でスパッタ法により成膜し、400℃で熱処理して磁気メモリ素子を作製した。比較のために、Hf層を有さない点以外上記と同じ構造の磁気メモリ素子を作製した。作製した磁気メモリ素子の磁気異方性定数Keffと強磁性層の実効膜厚tの積と、飽和磁化MsをVSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)で評価した。
【0102】
VSMで評価した磁気異方性定数Keff、飽和磁化Msの結果を、図9A図9Bに示す。図9Aの横軸はHf層の膜厚で、縦軸は磁気異方性定数Keffに強磁性層の膜厚tを掛けた値であり、Hf層を有さないときの値との差分で表している。図9Bは、横軸がHf層の膜厚であり、縦軸が飽和磁化Msである。図9Bでは、上記の磁気メモリ素子の飽和磁化MsをMs(CoFeB/Hf/WTa)と記した実線で示すとともに、バルクのCoFeBの飽和磁化MsをMs(CoFeB)と記した点線で示す。
【0103】
図9Aを見ると、Hf層を有することで垂直磁気異方性が増大していることが分かる。よって、Hf層を有することによって記録層の強磁性層の垂直磁気異方性が増大し、膜面に対して垂直方向に磁化し易くなり、より強磁性層が厚い領域まで垂直磁化膜を作製することができるため、強磁性層の熱安定性を向上できることが確認できた。また、図9Bを見ると、Hf層を有することで、飽和磁化Msが小さくなっている。すなわち、熱処理による飽和磁化Msの増大が抑制されていることが分かる。よって、Hf層を有することで、記録層の強磁性層の飽和磁化Msが増大するのを抑制でき、その結果、強磁性層の垂直方向の反磁界が増大することも抑制でき、Hf層を有さない場合より、熱処理によって垂直磁気異方性の大きさをより向上でき、熱安定性を向上できる。Hf層の膜厚は0.9nm以下が好ましく、0.7nm以下がさらに好ましい。0.7nmのHf層を挟めば、CoFeBのBの拡散をほぼ抑制できることがわかる。MTJのエッチング加工性を考慮すると総計の膜厚は薄い程好ましく、Hf層25の厚さを0.7nmより厚くしてもHf層25に隣接する第1強磁性層24の垂直磁気異方性があまり向上しないので、Hf層25の膜厚は0.7nm以下とすることが好ましい。ウェハー全体の膜厚均一性を確保することを考慮すると、Hf層25の膜厚は0.9nm以下とすることが好ましい。
【0104】
(検証実験2)
検証実験2では、記録層が強磁性層と隣接する非磁性結合層としてHf層を有することの効果、特に、非磁性結合層が他の材料(TaやW)で構成された場合と比較して、熱処理による非磁性結合層から第1強磁性層24及び第2強磁性層26への非磁性結合層を構成する原子の原子拡散が抑制されることの効果を確認する検証実験を行った。具体的には、図10の左側に示す構造のトンネル接合積層膜(図中の括弧内はnm単位の層の厚さを表す)を作製し、その強磁性層(CoFeB)の磁気デッドレイヤー(Magnetic Dead Layer)の厚みを測定した。磁気デッドレイヤーは、図10の左側に示す構造のトンネル接合積層膜における強磁性層(CoFeB)で磁性がなくなった層である。検証実験2では、2つの強磁性層の間にHf層を挿入した構造を有する実施例のトンネル接合積層膜に加えて、比較例のトンネル接合積層膜として、2つの強磁性層の間にHf層の代わりに、Ta層を挿入した構造を有するトンネル接合積層膜と、W層を挿入した構造を有するトンネル接合積層膜とを作製し、同様に磁気デッドレイヤーの厚みを測定した。
【0105】
実施例及び比較例のトンネル接合積層膜は、表面にSiO膜が形成されたSi基板上に、Ta(5.0nm)、CoFeB(0.4nm)、MgO(1.5nm)、CoFeB(1.0nm)、Ta、W又はHf(0~0.7nm)、CoFeB(1.0nm)、MgO(1.1nm)Ta(1.0nm)の順に、各層をスパッタ法により積層した後、400℃で熱処理して作製した。実施例のトンネル接合積層膜は、Hf層が0.2nm、0.35nm、0.7nmの3つを作製した。比較例のトンネル接合積層膜は、Ta層を挿入した場合及びW層を挿入した場合共に、0.2nm、0.35nm、0.7nmの3つを作製した。その結果を図10の右側のグラフに示す。
【0106】
図10中右側のグラフは、横軸がHf層、Ta層又はW層の膜厚t(nm)であり、縦軸が磁気デッドレイヤーの厚み(nm)である。図中の実線及び黒丸がW層の結果であり、図中の一点鎖線及び白抜き丸がHf層の結果であり、点線及び白抜き四角がTa層の結果である。グラフを見ると、Hf層、Ta層、W層の膜厚tが0.2nmの場合は、磁気デッドレイヤーはどの元素の層が挿入された場合も非常に小さい。Hf層、Ta層、W層の膜厚tが0.3nm以上の場合は、Ta層あるいはW層が挿入されたときの磁気デッドレイヤーの厚みは、Hf層が挿入されたときの磁気デッドレイヤーの厚みに比べて非常に大きいことが明らかになった。これは、Ta層あるいはW層が挿入されたときのCoFeBとTaあるいはWとの間で大きく拡散が発生しているのに対して、Hf層が挿入されたときのCoFeBとHfとの間での拡散が小さく抑制されていることを示す。CoFeBとTa、W、あるいはHfとの間の拡散において、原子番号が小さいCoやFeの場合に、それよりも原子番号が大きいW、Ta、Hf等の重金属が混ざると、ダンピング定数が大きくなることが知られている。重金属の拡散量が小さい、つまり磁気デッドレイヤーが小さくなる重金属を選択することが好適である。Hf層、Ta層、W層の膜厚tが0.3nm以上では、Hf層が挿入された場合の方が、Ta層あるいはW層が挿入された場合に比べて拡散が抑えられ、CoFeBのダンピング定数αの増大も抑えられる。このため、Hf層が挿入された場合の方が、書き込み電流ICOが小さくなり、好ましい。Hf層の膜厚は0.2nm以上が好ましく、0.3nm以上がさらに好ましい。Hf層を層状に形成するには0.2nm程度の厚さが必要である。また、0.3nm以上とすることで、TaやWと比較したときの拡散防止の効果が大きくなる。
【0107】
(4)第3実施形態
(4-1)第3実施形態のトンネル接合積層膜
第3実施形態のトンネル接合積層膜は、第1実施形態のトンネル接合積層膜とは、記録層の構成が異なる。その他の構成や書き込み・読み出し動作などは、第1実施形態と同じであるので、記録層の構成を中心に説明する。
【0108】
図1と同じ構成には同じ番号を付した図11に示すように、第3実施形態のトンネル接合積層膜(MTJ膜)1eの記録層14eは、トンネル接合層13に隣接する第1強磁性層24と、第1強磁性層24に隣接する第1Hf層25aと、第1Hf層25aに隣接する第2強磁性層26と、第2強磁性層26に隣接する第2Hf層25bとがこの順に積層して構成されている。さらに、MTJ膜1eは、記録層14eの第2Hf層25bに隣接するキャップ層15を備えている。
【0109】
第1Hf層25aは、第1強磁性層24と第2強磁性層26とに隣接して設けられている。第1Hf層25aは、ハフニウムで形成された薄膜である。第1Hf層25aは、記録層14eを強磁性結合構造にする非磁性結合層としての機能を有しており、記録層14eは、第1強磁性層24の磁化24M及び第2強磁性層26の磁化26Mが強磁性的に結合した強磁性結合構造をしている。第1強磁性層24及び第2強磁性層26は、層間相互作用によって磁化が強磁性的に結合して磁化方向が平行となる。図11中の白抜き矢印は、第1強磁性層24の磁化24Mの方向及び第2強磁性層26の磁化26Mの方向を表している。磁化24M及び磁化M26が膜面に対して垂直方向を向いており、第1強磁性層24及び第2強磁性層26が垂直磁化膜であることを表している。
【0110】
第2Hf層25bは、多層構造の記録層14e内で、記録層14eが隣接するトンネル接合層13から最も離れた位置に配置されており、第2強磁性層26に隣接する面と対向する面がキャップ層15に隣接している。
【0111】
本実施形態において、第1強磁性層24、第1Hf層25a、及び第2強磁性層26は、それぞれ第1実施形態に記載の第1強磁性層24、Hf層25、及び第2強磁性層26と同様の構成である。また、第2Hf層25bは、第2実施形態に記載のHf層25と同様の構成である。
【0112】
(4-2)作用及び効果
以上の構成において、第3実施形態のトンネル接合積層膜1eは、ホウ素を含む第1強磁性層24を有する記録層14eと、記録層14eに隣接するトンネル接合層13と、トンネル接合層13に隣接する参照層12とを備えて構成した。ここで、記録層14eは、トンネル接合層13に隣接する第1強磁性層24、第1強磁性層24に隣接する第1Hf層25a、第1Hf層25aに隣接する第2強磁性層26、第2強磁性層26に隣接する第2Hf層25bを有するように構成した。さらに記録層14eの第2Hf層25bに隣接するキャップ層15を有するように構成した。第1強磁性層24及び参照層12が膜面に対して垂直な方向に磁化しているように構成した。
【0113】
トンネル接合積層膜1eは、第1Hf層25aに隣接することで第1強磁性層24の垂直磁気異方性を向上でき、第1強磁性層24の磁化の熱安定性が向上し、記録層14eの熱安定性が高い。よって、熱安定性が高いトンネル接合積層膜1eを提供でき、ひいては、熱安定性の高いトンネル接合積層膜1eを磁気メモリ素子や磁気メモリに用いることで、不揮発性の高い磁気メモリ素子及び磁気メモリを提供できる。
【0114】
さらにトンネル接合積層膜1eは、第1Hf層25a及び第2Hf層25bに隣接することで第2強磁性層26の垂直磁気異方性を向上でき、第2強磁性層26の熱安定性が向上し、記録層14eの熱安定性をさらに高めることができ、より熱安定性の高いトンネル接合積層膜1eを提供できる。
【0115】
さらに、トンネル接合積層膜1eは、第2Hf層25bが、記録層14e内で、トンネル接合層13から最も離れた位置に配置されているように構成することで、キャップ層15などの第2Hf層25bに隣接する層から、当該隣接する層を構成する材料の原子が第2強磁性層26へ拡散することを抑制でき、第2強磁性層26の飽和磁化Msが低下して熱安定性が低下することを抑制できる。よって、MTJ膜1eは、さらに熱安定性を向上できる。
【符号の説明】
【0116】
1、1a、1b、1c、1d、1e トンネル接合積層膜
2 基板
14、14a、14c、14d、14e 記録層
13 トンネル接合層
12、12a 参照層
25 Hf層
25a 第1Hf層
25b 第2Hf層
27 酸素原子を含む非磁性層
40 非磁性挿入層
100 磁気メモリ素子
200 磁気メモリ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11