(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】量子計算ユニット、単一光子源、量子計算装置、及び量子計算方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20241218BHJP
B82Y 10/00 20110101ALI20241218BHJP
G02F 3/00 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
G06N10/40
B82Y10/00
G02F3/00 501
(21)【出願番号】P 2022535385
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025783
(87)【国際公開番号】W WO2022009950
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2020118590
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「超低損失ナノファイバー共振器の開発と光学的量子計算の要素技術実証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆朗
【審査官】新井 則和
(56)【参考文献】
【文献】S. Kato and T. Aoki,Strong coupling between a trapped single atom and an all-fiber cavity,arxiv.org, [online],2015年08月26日,[検索日 2024.09.06], Retrieved from the Internet : <url: https://arxiv.org/pdf/1505.06774>
【文献】青木隆朗,量子ネットワークに向けた全ファイバー結合共振器量子電気力学系,2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],2019年09月04日
【文献】越野和樹 ほか,単一光子による決定論的な量子状態スイッチング,日本物理学会誌[online], Vol.69, No.12,2014年,[検索日 2024.09.06], Retrieved from the Internet : <URL:http://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2014/12/05/69-12researches1.pdf>
【文献】青木隆朗,スケーラブルな光学的量子計算のためのナノファイバー共振器量子電気力学系,2018年第79回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],2018年09月05日
【文献】早坂和弘,共振器量子電磁力学による決定論的単一光子生成,レーザー研究 [online],第31巻,第9号,2003年09月,[検索日 2024.09.06], Retrieved from the Internet : <URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/lsj/31/9/31_9_586/_pdf/-char/ja>
【文献】C. Monroe et al.,Large-scale modular quantum-computer architecture with atomic memory and photonic interconnects,arxiv.org, [online],2013年07月02日,[検索日 2024.09.06], Retrieved from the Internet : <url: http://arxiv.org/pdf/1208.0391>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/40
B82Y 10/00
G02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子計算のための量子計算ユニットであって、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
複数の前記量子系のうち、光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
協同係数が第1閾値よりも大きい、量子計算ユニット。
【請求項2】
量子計算のための量子計算ユニットであって、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
複数の前記量子系のうち、光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
前記ナノ光ファイバー内を伝搬する前記光子に対する前記複数の量子系の位置でのエバネッセント場の強さは所定の閾値以上である、量子計算ユニット。
【請求項3】
請求項1または2の量子計算ユニットであって、
前記光子の波長を反射帯域に含んだファイバーブラッグ格子が前記光ファイバーまたは前記ナノ光ファイバーに設けられており、
前記ファイバーブラッグ格子が前記光子を反射するミラーとして機能する、量子計算ユニット。
【請求項4】
量子計算のための量子計算ユニットであって、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
複数の前記量子系のうち、光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
前記光子の波長を反射帯域に含んだファイバーブラッグ格子が前記ナノ光ファイバーに設けられている、量子計算ユニット。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの量子計算ユニットであって、
複数の前記量子系が前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する、量子計算ユニット。
【請求項6】
量子計算のための量子計算ユニットであって、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
少なくとも何れかの前記量子系は、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
複数の前記量子系が前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
複数の前記量子系のうち、光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する、量子計算ユニット。
【請求項7】
請求項1から6の何れかの量子計算ユニットであって、
前記複数の量子系は、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って一列に並べられている、量子計算ユニット。
【請求項8】
請求項1から7の何れかの量子計算ユニットであって、
前記量子系は、原子、人工原子、量子ドット、NVセンターの少なくとも何れかを含む、量子計算ユニット。
【請求項9】
光学的に接続され、分散型量子計算を行う1又は複数の量子計算ユニットを有し、
それぞれの前記量子計算ユニットは、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
複数の前記量子系のうち、光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
協同係数が第1閾値よりも大きい、量子計算装置。
【請求項10】
光学的に接続され、分散型量子計算を行う1又は複数の量子計算ユニットを有し、
それぞれの前記量子計算ユニットは、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
複数の前記量子系のうち、光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
前記ナノ光ファイバー内を伝搬する前記光子に対する前記複数の量子系の位置でのエバネッセント場の強さは所定の閾値以上である、量子計算装置。
【請求項11】
請求項9または10の量子計算装置であって、
前記複数の量子計算ユニットから選択した第1量子計算ユニットおよび第2量子計算ユニットを光学的に接続し、前記第1量子計算ユニットおよび前記第2量子計算ユニットを含む光回路に光子を入射することで分散型量子計算を行う、量子計算装置。
【請求項12】
光学的に接続され、分散型量子計算を行う1又は複数の量子計算ユニットを有し、
それぞれの前記量子計算ユニットは、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
少なくとも何れかの前記量子系は、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
前記複数の量子計算ユニットは、第1量子計算ユニット、第2量子計算ユニット、および第3量子計算ユニットを含み、
光子を第1半波長板に入射させ、前記第1半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させ、前記第1量子計算ユニットから出射された光子を第2半波長板に入射させ、前記第2半波長板から出射された光子を前記第2量子計算ユニットに入射させ、前記第2量子計算ユニットから出射された光子を第3半波長板に入射させ、前記第3半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させ、前記第1量子計算ユニットから出射された光子を第4半波長板に入射させ、前記第4半波長板から出射された光子を前記第3量子計算ユニットに入射させ、前記第3量子計算ユニットから出射された光子を第5半波長板に入射させ、前記第5半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させ、前記第1量子計算ユニットから出射された光子を第6半波長板に入射させ、前記第6半波長板から出射された光子を前記第2量子計算ユニットに入射させ、前記第2量子計算ユニットから出射された光子を第7半波長板に入射させ、前記第7半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させることで分散型量子計算を行う、量子計算装置。
【請求項13】
光学的に接続され、分散型量子計算を行う1又は複数の量子計算ユニットを有し、
それぞれの前記量子計算ユニットは、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
少なくとも何れかの前記量子系は、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
前記複数の量子計算ユニットは、第1量子計算ユニット、第2量子計算ユニット、および第3量子計算ユニットを含み、
光子を第1半波長板に入射させ、前記第1半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させ、前記第1量子計算ユニットから出射された光子を第2半波長板に入射させ、前記第2半波長板から出射された光子を前記第2量子計算ユニットに入射させ、前記第2量子計算ユニットから出射された光子を第3半波長板に入射させ、前記第3半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させ、前記第1量子計算ユニットから出射された光子を第4半波長板に入射させ、前記第4半波長板から出射された光子を前記第3量子計算ユニットに入射させ、前記第3量子計算ユニットから出射された光子を第5半波長板に入射させ、前記第5半波長板から出射された光子を前記第1量子計算ユニットに入射させ、前記第1量子計算ユニットから出射された光子を第6半波長板に入射させ、前記第6半波長板から出射された光子を前記第2量子計算ユニットに入射させ、前記第2量子計算ユニットから出射された光子を第7半波長板に入射させ、前記第7半波長板から出射された光子の量子状態を測定し、測定結果に応じて前記第1量子計算ユニットの前記量子系に回転操作を行うことで分散型量子計算を行う、量子計算装置。
【請求項14】
請求項12または13の量子計算装置であって、
前記第1~7半波長板は、入射された光子の状態をπ/4回転させて出射する、量子計算装置。
【請求項15】
光学的に接続され、分散型量子計算を行う1又は複数の量子計算ユニットを有し、
それぞれの前記量子計算ユニットは、
入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
少なくとも何れかの前記量子系は、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
N個の単一光子源S(1),…,S(N)と、
M個の前記量子計算ユニットU(1),…,U(M)と、
単一光子源S(j)並びに2個の量子計算ユニットU(α
1(j))およびU(α
2(j))の組を光学的に接続する光スイッチと、を有し、
j=1,…,Nであり、Nが2以上の整数であり、Mが2N以上の整数であり、α
1(j),α
2(j)∈{1,…,M}であり、α
1(j)≠α
2(j)であり、j=1,…,Nについて、前記単一光子源S(j)から出射された光子を、前記2個の量子計算ユニットU(α
1(j)),U(α
2(j))の組を含む光回路C(j)にそれぞれ入射することで、光回路C(1),…,C(N)による分散型量子計算を並列に行う、量子計算装置。
【請求項16】
量子計算のための単一光子源であって、
光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置された、複数の準位を持つ量子系と、
を有
し、
前記複数の準位を持つ量子系が、コントロール光によって励起されたことを契機として、単一光子を放出する
単一光子源。
【請求項17】
量子計算ユニットを用いた量子計算方法であって、
前記量子計算ユニットは、
光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、を有し、
当該量子計算方法は、
前記複数の量子
系のうち少なくとも何れかの量子系に対して光シフト光を照射するステップと、
前記光ファイバーに光子を入射させるステップと
を含み、
複数の前記量子系のうち、前記光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
協同係数が第1閾値よりも大きい、量子計算方法。
【請求項18】
量子計算ユニットを用いた量子計算方法であって、
前記量子計算ユニットは、
光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、
前記ナノ光ファイバーの外側に配置され、前記ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、
を有し、
当該量子計算方法は、
前記複数の量子
系のうち少なくとも何れかの量子系に対して光シフト光を照射するステップと、
前記光ファイバーに光子を入射させるステップと
を含み、
複数の前記量子系のうち、前記光シフト光によって選択された量子系が、前記光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能し、
前記ナノ光ファイバー内を伝搬する前記光子に対する前記複数の量子系の位置でのエバネッセント場の強さは所定の閾値以上である、量子計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子計算技術に関し、一例として分散型量子計算技術に関する。
【背景技術】
【0002】
量子力学に基づいた新しい情報処理技術である量子計算は、従来はできなかった高速な計算を可能にする。大規模な量子計算のためには多数の量子ビットを実装する必要があるが、1つのユニットに実装できる量子ビット数には限界がある。この限界を打ち破り、大規模な量子計算を実現する方法として、多数の小規模な量子計算ユニットを接続してネットワーク化する「分散型量子計算」の手法がある。分散型量子計算の具体的な実装方法として、Monroeらによって、イオントラップを量子計算ユニットとし、これを光子でつなぐ方法が示されている(例えば、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】C. Monroe et al., "Large-scale modular quantum-computer architecture with atomic memory and photonic interconnects", Phys. Rev. A 89, 022317 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の実装方法では、複数個の原子をトラップした量子計算ユニットを決定論的に動作させることが困難であった。
【0005】
まず、非特許文献1の方法では複数個の量子計算ユニットを接続して決定論的に動作させることはできない。これに対し、光領域の共振器量子電気力学(cavity quantum electrodynamics:CQED)系を用いれば決定論的に動作させることは可能である。しかし、これを実現する量子計算ユニットに従来の自由空間共振器を用いた場合、自由空間共振器内で小さなモード断面積となるように絞り込まれた光子ビームの内部に原子を配置しなければならない。しかし、自由空間で光子ビームを絞り込んだ場合、原子の配置に適したモード断面積となる領域は極めて狭くなり、共振器との必要な結合を保ったまま複数の原子を配置することが困難である。また、自由空間共振器は光ファイバーとの整合性が悪く、極度に複雑で精密な調整・制御が必要なため、損失を低く抑えつつ多数の量子計算ユニットを連結してそれらを同時に使用することが極めて困難である。このような問題は、光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する量子系として原子を用いる場合のみならず、原子と同様な光学応答を示す量子系を用いた場合にも生じる問題である。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、複数個の量子系を配置した量子計算ユニットを決定論的に動作させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、ナノ光ファイバーの外側に配置され、ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系と、を有する量子計算のための量子計算ユニットが提供される。ただし、少なくとも何れかの量子系は、光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する。
【発明の効果】
【0008】
これにより、複数個の量子系を配置した量子計算ユニットを決定論的に動作させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は第1実施形態の量子計算装置の構成を例示した図である。
【
図2】
図2は実施形態の量子計算ユニットの構成を例示した図である。
【
図4】
図4は実施形態の単一光子源の構成を例示した図である。
【
図5】
図5Aは量子計算ユニットに光子を入射させ、そこから光子が出射される様子をモデル化した図である。
図5Bは半波長板に光子を入射させ、そこから光子が出射される様子をモデル化した図である。
【
図6】
図6は2個の量子計算ユニットを用いた量子ゲートの実現方法を例示した光回路図である。
【
図7】
図7は第2実施形態の量子計算装置の構成を例示した図である。
【
図8】
図8は2個の量子計算ユニットを用いた量子ゲートの実現方法を例示した光回路図である。
【
図9】
図9は3個の量子計算ユニットを用いた量子ゲートの実現方法を例示した光回路図である。
【
図10】
図10は第3実施形態の量子計算装置の構成を例示した図である。
【
図11】
図11は3個の量子計算ユニットを用いた量子ゲートの実現方法を例示した光回路図である。
【
図12】
図12は第4実施形態の量子計算装置の構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0011】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態を説明する。
【0012】
図1に例示するように、本実施形態の量子計算装置1は、量子計算のための単一光子源11、M個の量子計算ユニット13-1~13-M、M個の光スイッチ14-1~14-M、半波長板15-1~15-(M+1)、偏光状態測定器16、および、光ファイバー12を有する。ただし、Mは2以上の整数である。なお、量子計算装置1は、一例として分散型量子計算のために用いることができるが、これは本実施形態を限定するものではない。量子計算装置1は、非分散型の量子計算のために用いることもできる。
【0013】
<光ファイバー12>
光ファイバー12は、単一光子源11、量子計算ユニット13-1~13-M、光スイッチ14-1~14-M、および偏光状態測定器16を光学的に接続し、入射された光子を伝搬する。本実施形態では、単一光子源11の一端は光ファイバー12を介して光スイッチ14-1の一端に光学的に接続され、光スイッチ14-i(ただし、i=1,…,(M-1))は光ファイバー12を介して光スイッチ14-(i+1)および量子計算ユニット13-iの一端にそれぞれ光学的に接続され、光スイッチ14-Mは光ファイバー12を介して偏光状態測定器16および量子計算ユニット13-Mの一端にそれぞれ光学的に接続されている。光ファイバー12は、シングルモード光ファイバーであってもよいし、マルチモード光ファイバーであってもよい。ただし、光ファイバー12がマルチモード光ファイバーである場合、光子を1つのモードに留まらせる必要がある。そのため、光ファイバー12はシングルモード光ファイバーであることが望ましい。
【0014】
<量子計算ユニット13-m>
図2に例示するように、本実施形態の量子計算ユニット13-mは、ナノ光ファイバー131-m、光ファイバー12の端部121a-m、光ファイバーの端部121b-m、テーパー部122a-m,122b-m、K(m)個の原子132-m(光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する量子系)、およびそれらを真空状態の内部に収納する真空層133-mを有する。ただし、m=1,…,Mであり、Mは2以上の整数である。K(m)は2以上の整数であり、K(m)個の原子132-mをa
1-m,…,a
K(m)-mと表現する。原子132-mの一例はレーザー冷却原子であるが、これは本発明を限定しない。
【0015】
ナノ光ファイバー131-mは、光の波長以下の直径を持つ極細の光ファイバーであり、ファイバー全体がコア、それを取り囲む真空がクラッドとして機能する。ナノ光ファイバー131-mの一端は、テーパー部122a-mを介して光ファイバー12の端部121a-mに光学的に接続されている。同様に、ナノ光ファイバー131-mの他端は、テーパー部122b-mを介して光ファイバーの端部121b-mに光学的に接続されている。すなわち、構造としては、光ファイバー12の端部121a-mからナノ光ファイバー131-mに至り、さらに光ファイバー12の端部121b-mに至るまで、テーパー部122a-mおよびテーパー部122b-mを含むファイバー全体にわたって、コア径とクラッド径の比が一定またはほぼ一定である。端部121a-m,121b-mのコアは、それぞれ、テーパー部122a-m,122b-mのコアを介してナノ光ファイバー131-mのコアにつながっている。端部121a-m,121b-mのクラッドは、それぞれ、テーパー部122a-m,122b-mのクラッドを介してナノ光ファイバー131-mのクラッドにつながっている。例えば、ナノ光ファイバー131-mのコアは、テーパー部122a-m,122b-mおよび端部121a-m,121b-mのコアと一体である。ナノ光ファイバー131-mのクラッドは、テーパー部122a-m,122b-mおよび端部121a-m,121b-mのクラッドと一体である。ここで、端部121a-mのコアおよびクラッドの直径は、それぞれ、ナノ光ファイバー131-mのコアおよびクラッドの直径よりも大きく、テーパー部122a-mでのコアおよびクラッドの直径は、ナノ光ファイバー131-m側から端部121a-m側に向かうにつれて徐々に大きくなっている。同様に、端部121b-mのコアおよびクラッドの直径は、それぞれ、ナノ光ファイバー131-mのコアおよびクラッドの直径よりも大きく、テーパー部122b-mでのコアおよびクラッドの直径も、ナノ光ファイバー131-m側から端部121b-m側に向かうにつれて徐々に大きくなっている。このような構造により、光ファイバー12ではコアとクラッドの屈折率差によって光が閉じ込められ、ナノ光ファイバー131-mではクラッドと真空の屈折率差によって光が閉じ込められ、それらをつなぐテーパー部122a-mおよびテーパー部122b-mではコア・クラッド・真空の三層すべてが光の閉じ込めに寄与する。
【0016】
なお、ナノ光ファイバーについては、参考文献1、2にも記載されている。これらの参考文献は参照によって本願明細書に取り込まれる。
【0017】
参考文献1: S. Kato et al., "Observation of dressed states of distant atoms with delocalized photons in coupled-cavities quantum electrodynamics", Nature Communications volume 10, Article number: 1160 (2019).
参考文献2: S. Kato and T. Aoki, "Strong coupling between a trapped single atom and an all-fiber cavity", Physical Review Letters 115, 9 (2015).
端部121a-mおよび端部121b-mのコアには、光ファイバー12を伝搬する光子の波長を反射帯域に含むファイバーブラッグ格子(fiber Bragg gratings: FBG)123a-mおよび123b-mがそれぞれ設けられている。ファイバーブラッグ格子123a-mおよび123b-mは光子を反射するミラーとして機能する。
【0018】
端部121a-mおよび端部121b-mのコアに、ファイバーブラッグ格子123a-mおよび123b-mをそれぞれ設け、それぞれのファイバーブラッグ格子による透過率及び反射率を調整することによって、端部121a-m側からナノ光ファイバー131-mに入射させた光子を、端部121a-m側から出射させることができる。
【0019】
K(m)個の原子132-m(複数個の原子a1-m,…,aK(m)-m)は、公知のトラップ方法で、ナノ光ファイバー131-mの外側に配置され、ナノ光ファイバー131-mの長手方向に沿って間隔を置いて配置される。例えば、K(m)個の原子132-m(複数個の原子a1-m,…,aK(m)-m)は、ナノ光ファイバー131-mの長手方向に沿って一列に並べられる。例えば、原子a1-m,…,aK(m)-mは、それぞれナノ光ファイバー131-m内にできる定常波の腹部分または腹部分の近傍に対応する位置に配置されることが望ましい。しかし、定常波の設定に応じ、定常波の節部分または節部分の近傍に対応する位置でも、原子a1-m,…,aK(m)-mと量子計算ユニット13-mで構成されるナノ光ファイバー共振器QED(quantum electrodynamics)系(以下、単に「共振器」)との結合が十分得られるのであれば、定常波の節部分または節部分の近傍に対応する位置に原子a1-m,…,aK(m)-mが配置されてもよい。原子132-mは、中性原子であってもよいし、イオンであってもよい。原子132-mは、例えば、セシウム原子である。例えば、原子132-mが中性原子である場合には公知の双極子トラップ等で原子132-mがトラップされ、イオンである場合には公知のイオントラップ方法で原子132-mがトラップされる。
【0020】
図3に、ナノ光ファイバー131-mを伝搬する光子と相互作用する各原子a
k-m(ただし、k=1,…,K(m))のCQED系のΛ型3準位原子の模式図を例示する。現実の原子a
k-mは複雑なエネルギー準位構造を持つが、CQED系のダイナミクスに実際に関与するのは、少数の準位に限られる(例えば、共振器の共鳴周波数や外部から原子a
k-mに照射するコントロール光(レーザー光)の周波数に近く、遷移の選択則を満たす準位など)。ここで、原子のエネルギー準位構造を特定の3準位に限定してモデル化したものを3準位原子といい、
図3のような3準位原子をΛ型3準位原子という。
図3に例示するように、Λ型3準位原子は、基底状態である2つの下準位|u〉および|g〉と、励起状態である1つの上準位|e〉とを持つ。|g〉から|e〉への遷移|g〉→|e〉では、原子a
k-mが共振器と結合レートgで結合しており、一方、|u〉から|e〉への遷移|u〉→|e〉では(遷移の偏光が共振器モードの偏光と直交する、或いは共振器に対して十分に非共鳴であり実効的に結合が無視できる等の理由で)、原子a
k-mが共振器と結合していない。ただし、遷移|u〉→|e〉は、図示していないレーザー照射装置によって共振器外から照射したコントロール光によって駆動できるものとし、そのコントロール光の振幅をラビ周波数で表してΩとする。なお、自由空間中の光子と相互作用するΛ型3準位原子と同様、ナノ光ファイバー131-mを伝搬する光子と相互作用するΛ型3準位原子も、遷移|g〉→|e〉と遷移|u〉→|e〉にそれぞれ共鳴するコントロール光Θ
g,Θ
uが、図示していないレーザー照射装置によって共振器外から原子a
k-mに照射されることで、コヒーレントなラマン遷移による2つの基底状態の準位(基底準位)|g〉,|u〉間のラビ振動を起こしたり、これらの任意の重ね合わせ(ρ
g|g〉+ρ
u|u〉)に制御したりできる。ここで、ρ
gおよびρ
uは|ρ
g|
2+|ρ
u|
2=1を満たす複素数の係数(|ρ
g|
2および|ρ
u|
2は確率を表す)である。
【0021】
ここでコントロール光なし(Ω=0)の場合を考える。原子ak-mが基底準位|g〉にあるとき、系の光学応答は下準位|g〉と上準位|e〉とを持つ2準位原子の場合と同じであり、協同係数Cが1よりも十分大きければ、入射した光子はほとんど損失することなく反射し、その位相はシフトしない(振幅反射率が1)。ここで共振器の協同係数CはC=g2/2κγで表される。κは共振器の外部損失および内部損失による振幅緩和レートであり、γ=Γ/2であり、Γは共振器からの自然放出によるエネルギーの緩和レートである。一方、原子ak-mがもう1つの基底準位|u〉にあるとき、原子ak-mは共振器と結合していないので、系の光学応答は原子なし(空の共振器)の場合と同じであり、入射した光子はほとんど損失することなく反射し、その位相がπシフトする(振幅反射率が-1)。すなわち、原子ak-mの状態(量子状態)を制御することで系の光学応答を切り替えることができる。さらに、原子が2つの基底状態|g〉および|u〉の重ね合わせ状態(ρg|g〉+ρu|u〉)の場合、系は上記2つの応答の「重ね合わせの応答」を示す。すなわち、入射した光子がCQED系と相互作用した後の状態は「原子が基底準位|g〉にあり、入射した光子が振幅反射率1で反射した状態」と「原子が基底準位|u〉にあり、入射した光子が振幅反射率-1で反射した状態」重ね合わせとなる。つまり、光子をCQED系に反射させるだけで、原子ak-mと光子のエンタングルメントを生成できる。この応答によって量子ゲートを実現できる。
【0022】
なお、コントロール光なし(Ω=0)の場合について上述した事項は、系のハミルトニアンが、
【数1】
によって与えられ、弱励起極限における定常状態での振幅反射係数が
【数2】
よって与えられることから導かれる。
【0023】
ここで、式1におけるωAは原子の遷移周波数(共鳴周波数)であり、ハット付きのσeg及びハット付きのσgeは、原子の準位|e〉|g〉に関する昇降演算子である。また、式1におけるωCは共振周波数であり、ハット及びダガー付きのac、及びハット付きのacは、共振器光子の生成消滅演算子である。また、gは、上述したように原子と共振器との結合レートである。
【0024】
また、式2におけるκexは、外部損失による振幅緩和レートであり、κは上述したように、共振器の外部損失および内部損失による振幅緩和レートであり、Δpは、入射した光子の周波数ωpと原子の共鳴周波数ωAとの差である。
【0025】
gが0でない場合、式2より、原子の共鳴において、振幅反射係数は、
【数3】
によって与えられることが分かる。ここで、η
escは、全損失に対する外部損失の比を表しており、エスケープ効率とも呼ばれる。Cは上述した協同係数である。式3から分かるように、Cが十分大きければ、上述したように、振幅反射率が1となり、入射した光子はほとんど損失することなく反射し、その位相はシフトしない。
【0026】
一方、gが0の場合(原子なし(空の共振器)の場合)、式2より、振幅反射係数が
【数4】
によって与えられることが分かる。式4から、原子の共鳴(Δ
p=0)の場合には、振幅反射係数は、
【数5】
によって与えられることが分かる。式5から分かるように、エスケープ効率が1に近い場合、上述したように、振幅反射率が-1となり、入射した光子はほとんど損失することなく反射し、その位相がπシフトする。
【0027】
なお、上述した「コントロール光なし(Ω=0)の場合」に関する説明は、
・|u〉→|e〉が光学遷移許容(コントロール光によって駆動できる)であって、コントロール光を照射しない(Ω=0)場合
のみならず、
・「そもそも|u〉→|e〉が光学遷移許容でない(コントロール光によって駆動できない)場合
に対しても成立する説明である。
【0028】
更に付言すれば、単一光子源として用いる観点からは、|u〉→|e〉は光学遷移許容であることが好ましいが、量子計算ユニットとして用いる観点からは、|u〉→|e〉は光学遷移許容であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0029】
次に、コントロール光あり(Ω≠0)の場合を考える。この場合には原子ak-mは準位の組{|u,n〉,|e,n〉,|g,n+1〉}の間でのみに結合を起こし、固有状態はこれらの重ね合わせで表される。ここで|i,n〉はCQED系全体の状態|i〉A(×)|n〉Cを表す。ただし、(×)はテンソル積を表し、|i〉Aは原子ak-mの何れかの基底状態|u〉または|g〉もしくは励起状態|e〉を表し、nは共振器内の光子の数を表し、|n〉Cは共振器の状態を表す。Ωを十分ゆっくり0→∞と変化させることで、系の状態を暗状態に保ったまま(上準位|e〉に励起させることなく)断熱的に|u,n〉から|g,n+1〉へと変化させることができる。また、Ωを十分ゆっくり∞→0と変化させることでその逆の時間発展も可能である。
【0030】
なお、コントロール光あり(Ω≠0)の場合について上述した事項は、系のハミルトニアンが、
【数6】
によって与えられることから導かれる。ここで、式6において、ハット付きのσ
eu及びハット付きのσ
ueは、原子の準位|u〉|e〉に関する昇降演算子である。また、式6において、ω
Lは、コントロール光の周波数である。
【0031】
簡単のためω
C=ω
L=ωとすると、励起状態の固有エネルギーは、
【数7】
によって与えられ、式7の第1式に対応する固有状態(暗状態)が、
【数8】
によって与えられる。式9から分かるように、Ω=0のとき、|D〉=|u,n-1〉であり、Ω→∞のとき、|D〉→|g,n〉である。したがって、Ωを十分ゆっくり0→∞と変化させることで、上述したように、系の状態を暗状態に保ったまま(上準位|e〉に励起させることなく)断熱的に|u,n〉から|g,n+1〉へと変化させることができる。
【0032】
CQED系では原子や光子の状態を量子ビットとすることができる。原子ak-mの状態を量子ビットとする場合には、原子ak-mの任意の重ね合わせ状態(ρg|g〉+ρu|u〉)が量子ビットとなる。この場合の1量子ビットゲートは、例えば、前述のように遷移|g〉→|e〉と遷移|u〉→|e〉にそれぞれ共鳴するコントロール光Θg,Θuを共振器外から原子ak-mに照射することで容易に実現できる。複数量子ビットゲートについては後述する。光子を量子ビットとする場合、光子の直交した2つの偏光モードを基底にした「偏光量子ビット」(例えば、横(水平)偏光|h〉と縦(垂直)偏光|v〉とを基底にした重ね合わせ状態ρh|h〉+ρv|v〉)等がある。ここで、ρhおよびρvは|ρh|2+|ρv|2=1を満たす複素数の係数(|ρh|2および|ρv|2は確率を表す)である。1量子ビットゲートは線形光学素子を用いて簡単に実現できる。例えば偏光量子ビットであれば、波長板を用いて任意のユニタリー変換ができる。
【0033】
ナノ光ファイバー131-mを伝播する光子のナノ光ファイバー131-mの外側における電場(エバネッセント場)は、以下のように近似的に表され、減衰長Lで指数関数的に減衰する。
E=E0e-(r-a)/L
ただし、E0はナノ光ファイバー131-mの表面での電場、eは自然対数の底であり、rはナノ光ファイバー131-mの中心軸からの距離、aはナノ光ファイバー131-mの半径である。減衰長Lはナノ光ファイバー131-mの屈折率、半径a、ナノ光ファイバー131-mを伝播する光子の波長λに依存するが、おおよそλの数分の1程度である。したがって、原子ak-mと共振器の結合レートgを高くするためには、ナノ光ファイバー131-mの表面から原子ak-mのトラップ位置までの距離がエバネッセントの減衰長L程度以下である必要があり、近ければ近いほどよい。一方、原子ak-mの安定なトラップのためには、ナノ光ファイバー131-mの表面からのファンデルワールス力の影響を避ける必要があり、原子ak-mのトラップ位置をナノ光ファイバー131-mの表面から数十ナノメートル程度以上離す必要がある。すなわち、ナノ光ファイバー131-m内を伝搬する光子に対する複数の原子a1-m,…,aK(m)-mの位置でのエバネッセント場の強さは閾値th2(第2閾値)以上であり、複数の原子a1-m,…,aK(m)-mのそれぞれとナノ光ファイバー131-mとのファンデワールス力が閾値th3(第3閾値)以下であることが望ましい。これらのトレードオフから、原子ak-mはナノ光ファイバー131-mから数十~200ナノメートル程度の位置(例えば、100~200ナノメートルの位置)にトラップされることが望ましい。
【0034】
3準位原子を量子ビットとしたときに性能のよい量子ゲートを実現するためには、前述の協同係数Cが閾値TH1(第1閾値)よりも大きい必要がある(例えばC>1)。ここで協同係数Cは共振器のモード断面積と全損失のみに依存し、モード断面積が小さいほど、共振器の全損失が小さいほど、協同係数Cは大きくなる。本実施形態では、ナノ光ファイバー131-mを用いて共振器を構成している。そのため、原理的には小さなモード断面積を保ったまま、原子a1-m,…,aK(m)-mがトラップされる領域の長さをいくらでも長くできる。さらに、入射された光子を伝搬する光ファイバー12の端部121a-mに、テーパー部122a-mを介してナノ光ファイバー131-mを光学的に接続しているため、共振器の全損失を小さくできる。従って、原理的には、ナノ光ファイバー131-mの長さを長くすれば、共振器と個々の原子a1-m,…,aK(m)-mとの結合レートgを振幅緩和レートκおよび緩和レートγに対して十分に大きく保ったまま、多くの原子a1-m,…,aK(m)-mをトラップすることができる。さらに、このような複数の量子計算ユニット13-mは、光ファイバー12によって低損失で光学的に接続できるため、分散型量子計算のための決定論的な量子回路を構成できる。
【0035】
なお、協同係数Cに関して上述した事項は、協同係数Cの定義式C=g
2/2κγにおいて、
【数9】
であることを用いることにより導かれる。ここで、式9においてμ
geは、原子の双極子モーメントであり、Aは共振器のモード断面積であり、Lは共振器長であり、Tは、入出力結合ミラーの透過率であり、αは、共振器1往復あたりの内部損失率であり、T+αは、共振器の全損失である。式9を用いると、協同係数Cは、
【数10】
と表される。式10から、上述したように、協同係数Cは共振器のモード断面積と全損失のみに依存し、モード断面積が小さいほど、共振器の全損失が小さいほど、協同係数Cは大きくなることが分かる。
【0036】
<単一光子源11>
図4に例示するように、本実施形態の単一光子源11は、ナノ光ファイバー111、光ファイバー12の端部121a-0、光ファイバーの端部121b-0、テーパー部122a-0,122b-0、原子112(複数の準位を持つ量子系)、およびそれらを真空状態の内部に収納する真空層113を有する。ナノ光ファイバー111の一端は、テーパー部122a-0を介して光ファイバー12の端部121a-0に光学的に接続されている。同様に、ナノ光ファイバー111の他端は、テーパー部122b-0を介して光ファイバーの端部121b-0に光学的に接続されている。すなわち、構造としては、光ファイバー12の端部121a-0からナノ光ファイバー111に至り、さらに光ファイバー12の端部121b-0に至るまで、テーパー部122a-0およびテーパー部122b-0を含むファイバー全体にわたって、コア径とクラッド径の比が一定またはほぼ一定である。端部121a-0,121b-0のコアは、それぞれ、テーパー部122a-0,122b-0のコアを介してナノ光ファイバー111のコアにつながっている。端部121a-0および端部121b-0のクラッドは、それぞれ、テーパー部122a-0,122b-0のクラッドを介してナノ光ファイバー111のクラッドにつながっている。例えば、ナノ光ファイバー111のコアは、テーパー部122a-0,122b-0および端部121a-0,121b-0のコアと一体である。ナノ光ファイバー111のクラッドは、テーパー部122a-0,122b-0および端部121a-0,121b-0のクラッドと一体である。ここで、端部121a-0のコアおよびクラッドの直径は、それぞれ、ナノ光ファイバー131-0のコアおよびクラッドの直径よりも大きく、テーパー部122a-0でのコアおよびクラッドの直径は、ナノ光ファイバー111側から端部121a-0側に向かうにつれて徐々に大きくなっている。同様に、端部121b-0のコアおよびクラッドの直径は、それぞれ、ナノ光ファイバー131-0のコアおよびクラッドの直径よりも大きく、テーパー部122b-0でのコアおよびクラッドの直径も、ナノ光ファイバー111側から端部121b-0側に向かうにつれて徐々に大きくなっている。このような構造により、光ファイバー12ではコアとクラッドの屈折率差によって光が閉じ込められ、ナノ光ファイバー111ではクラッドと真空の屈折率差によって光が閉じ込められ、それらをつなぐテーパー部122a-0およびテーパー部122b-0ではコア・クラッド・真空の三層すべてが光の閉じ込めに寄与する。端部121a-0および端部121b-0のコアには、生成する光子(単一光子)の波長を反射帯域に含んだファイバーブラッグ格子123a-0および123b-0がそれぞれ設けられている。ファイバーブラッグ格子123a-0および123b-0はミラーとして機能する。原子112は、公知のトラップ方法で、ナノ光ファイバー111の外側に配置される。原子112は、中性原子であってもよいし、イオンであってもよい。原子112は、例えば、セシウム原子である。原子112のトラップ位置の条件は、原子132-mが原子112に置換され、ナノ光ファイバー131-mがナノ光ファイバー111に置換されること以外、例えば、量子計算ユニット13-mでの原子132-mのトラップ位置の条件と同じである。
【0037】
単一光子源11による決定論的単一光子源の実現方法として最も簡単なのは、基底状態である1つの下準位|g〉と、励起状態である1つの上準位|e〉とを持つ2準位原子のパーセル効果に基づく方法である。すなわち、上述した光シフト光を照射するレーザー照射装置と同様に、図示していないレーザー照射装置によってコントロール光を原子112に照射する等の方法で原子112を上準位|g〉に励起させるだけで、端部121a-0から光ファイバー12に光子111(単一光子)が自然放出される。しかし、2準位原子のパーセル効果に基づく方法では、光子111の波形を制御できない。Λ型3準位原子を用いると、光子111の波形を自在に制御可能となる。すなわち、初期状態としてコントロール光の振幅Ω=0での暗状態|u,0〉としておき、Ωを十分ゆっくり0から∞に向けて変化させると、系の状態は暗状態のまま断熱的に|g,1〉となり、単一光子源11内に光子111(単一光子)が生成され、端部121a-0から光ファイバー12に光子111が放出される。ここで、コントロール光の振幅Ωの時間変化を介して光子の波形を制御できる。
【0038】
なお、本明細書における他の記載事項から分かるように、本明細書において「決定論的な構成」とは、理想的な条件下(実験的損失が無視できる状況)において100%の確率を実現できる構成のことを指す。一例として、単一光子源11は、理想的な条件下であれば100%の確率で1光子状態を生成することができるため、単一光子源11を「決定論的単一光子源」と呼ぶ。
【0039】
<光スイッチ14-m>
光スイッチ14-m(m=1,…,M)は、入射された光子を選択された光路に出射する装置である。入射される光子および出射した光子の伝搬は光ファイバー12によって行われる。
【0040】
<半波長板15-m’>
半波長板15-m’(m’=1,…,M+1)は、入射された光子の状態をπ/2回転させて出射する装置である。入射される光子および出射した光子の伝搬は光ファイバー12によって行われる。
【0041】
<偏光状態測定器16>
偏光状態測定器16は、偏光ビームスプリッター16a、および光検出器16b,16cを有する。光ファイバー12によって偏光状態測定器16に入射された光子は偏光ビームスプリッター16aに入射され、偏光ビームスプリッター16aから出射された光子の横偏光|h〉成分は検出器16bで検出され、縦偏光|v〉成分は検出器16cで検出される。
【0042】
<量子計算装置1の動作>
本実施形態の量子ゲートの基本となるのは、原子-光子間の量子ゲートである。すなわち、
図5Aに例示するように、光子111を量子計算ユニット13-m(共振器QED系)に入射する操作が、原子-光子間の量子ゲートに対応する。ここで、光子111を所定の状態(例えば、横偏光|h〉)に定め、量子ビットとして利用しない(例えば、途中で測定される)のであれば、量子計算ユニット13-mでトラップされた複数の原子に対する操作は原子-原子間の量子ゲートである。例えば、量子計算ユニット13-mでトラップされたK(m)個の原子132-mから量子計算に使用するx個(xは2以上の整数)の原子(以下、「選択原子」という)を選択し、光シフト光を照射することで選択原子のみを共振器に結合させ、光子111を量子計算ユニット13-mに入射させる。光シフト光は、遷移|e>→|g>の共鳴周波数から十分に離れた周波数の光(例えば、レーザー光)である。この光シフト光を原子に当てることで、原子の各準位のエネルギーをずらすことができ、このエネルギーのずれを「光シフト」という。遷移|e>→|g>の共鳴周波数から十分に離れた周波数の光シフト光を原子に照射すると、|g>と|e>のエネルギーがずれるので、それに合わせて遷移|e>→|g>の共鳴周波数も変化する。光シフトなしで遷移|e>→|g>が共振器に共鳴(結合)している場合、光シフト光を当てた原子だけ遷移|e>→|g>が共振器に共鳴しなくなるので、それらの原子と共振器との結合を選択的に「切る」ことができる。逆に光シフト光を当てない状態での遷移|e>→|g>の共鳴周波数に対して共振器の共鳴周波数をずらしておき、光シフト光を当てたときに遷移|e>→|g>の共鳴周波数が共振器に共鳴(結合)するように光シフト光の強度等を調整してもよい。これによって量子計算ユニット13-mから光子111が反射された後の選択原子の状態(演算結果を表す状態)は、光子111を量子計算ユニット13-mに入射させる前の選択原子の状態(被演算子を表す状態)に対して制御位相フリップゲート(以下、CPFゲート」という)(x=2の場合)またはxビットの複数制御位相フリップゲート(x-1個の量子ビットを制御ビットとする位相フリップゲート、以下「xビットのToffoliゲート」という)(x≧3の場合)を作用させたものとなる(例えば、参考文献3等参照)。
【0043】
参考文献3:L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble, "Robust quantum gates on neutral atoms with cavity-assisted photon scattering", Phys. Rev. A 72, 032333 (2015).
なお、光子111を量子計算ユニット13-mに入射させる前の選択原子の状態は、初期化状態(例えば、すべての選択原子の状態を0の状態に初期化された状態)であってもよいし、初期化状態に対して1量子ビットゲート操作や複数量子ビットゲート操作が施された状態であってもよい。また原子-原子間の量子ゲートにおいて、光子111の状態は複数の量子計算ユニット13-mをつなぐ役割を果たす。
【0044】
また、
図5Bに例示するように、光子111を回転角θ/2の半波長板15-mに通すことは、光子111の状態をθ回転させることに対応する(例えば、参考文献3等参照)。本実施形態ではθ=π/2の半波長板15-mを用いる。
【0045】
本実施形態では、図示していない制御部で光スイッチ14-m(m=1,…,M)を操作することで、M個の量子計算ユニット13-1~13-Mから選択された複数個の量子計算ユニット13-mを光学的に接続し、選択された複数個の量子計算ユニット13-mを含む光回路に単一光子源11から出射された光子(単一光子)111を入射することで分散型量子計算を行う。例えば、光スイッチ14-m(m=1,…,M)を操作することで、2個の量子計算ユニット13-m1および13-m2(m1,m2∈{1,…,M})(第1量子計算ユニットおよび第2量子計算ユニット)を光学的に接続し、これらの2個の量子計算ユニット13-m1および13-m2を含む光回路に光子111を入射することで分散型量子計算を行う。
【0046】
図6の例では、光スイッチ14-m(m=1,…,M)を操作することで、量子計算ユニット13-1および13-Mが選択されている。以下、
図6を用いて本実施形態の操作を例示する。まず、図示していないレーザー照射装置が光シフト光を照射し、量子計算ユニット13-1にトラップされた複数の原子132-1から選択されたx
1個の選択原子sa
1、および量子計算ユニット13-Mにトラップされた複数の原子132-Mから選択されたx
M個の選択原子sa
Mを各共振器に結合させる。この分散型量子計算で使用される量子ビット数はx
1+x
Mである。x
1≧1,x
M≧1であるが、x
1≧1かつx
M≧2であってもよいし、x
1≧2かつx
M≧1であってもよいし、x
1≧2かつx
M≧2であってもよい。量子計算ユニット13-1および13-Mにそれぞれトラップされた複数個の原子を用いて分散型量子計算を行う場合にはx
1≧2,x
M≧2となる。x
1≧1かつx
M≧2であってもよいし、x
1≧2かつx
M≧1であってもよい(ステップS10)。この状態で以下の一連の操作を行う。
【0047】
(1)単一光子源11で所定の状態(例えば、横偏光|h〉)の光子111(単一光子)を生成して端部121a-0から出射させる(ステップS11)。
【0048】
(2)ステップS11で単一光子源11から出射された光子111を半波長板15-1に入射させ、光子111の状態をπ/2回転させて出射させる(ステップS12)。
【0049】
(3)ステップS12で半波長板15-1から出射された光子を量子計算ユニット13-1の端部121a-1に入射させる(ステップS13)。
【0050】
(4)ステップS13の操作に対して量子計算ユニット13-1の端部121a-1から出射された光子を半波長板15-Mに入射させ、当該光子の状態をπ/2回転させて出射させる(ステップS14)。
【0051】
(5)ステップS14で半波長板15-Mから出射された光子を量子計算ユニット13-Mの端部121a-Mに入射させる(ステップS15)。
【0052】
(6)ステップS15の操作に対して量子計算ユニット13-Mの端部121a-Mから出射された光子を半波長板15-(M+1)に入射させ、当該光子の状態をπ/2回転させて出射させる(ステップS16)。
【0053】
(7)ステップS16で半波長板15-(M+1)から出射された光子を偏光状態測定器16に入射させ、当該光子の偏光状態を測定する。これにより、光子の状態が或る偏光状態に収縮し、この光子の状態と絡み合いの状態にある選択原子sa1およびsaMの状態も当該光子の偏光状態の測定結果に応じて収縮する。そして、量子計算ユニット13-1にトラップされた選択原子sa1に対し、当該光子の偏光状態の測定結果に応じた回転操作を施す。すなわち、測定された光子の偏光状態がステップS11の所定の状態(例えば、横偏光|h〉)であれば選択原子sa1にπ回転操作(Zゲート操作)を行う。この回転操作は選択原子sa1にコントロール光を照射することで実現できる。測定された光子の偏光状態がステップS11の所定の状態でなければ(例えば、縦偏光|v〉であれば)選択原子sa1に何の操作も行わない(ステップS17)。
【0054】
上述のステップS11~S17の操作を施した選択原子sa1および選択原子saMの状態は、当該操作を施す前の選択原子sa1および選択原子saMの状態に対してCPFゲート(x1+xM=2の場合)またはx1+xMビットのToffoliゲート(x1+xM≧3の場合)を作用させたものとなる。
【0055】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、既に説明した事項については同じ参照番号を用いて説明を簡略化する。
【0056】
図7に例示するように、本実施形態の量子計算装置2は、単一光子源11、M個の量子計算ユニット13-1~13-M、光スイッチ24、半波長板15-1~15-M、および、光ファイバー12を有する。
【0057】
<光ファイバー12>
光ファイバー12は、単一光子源11、量子計算ユニット13-1~13-M、および光スイッチ24を光学的に接続し、入射された光子を伝搬する。
【0058】
<光スイッチ24>
光スイッチ24は、入射された光子を選択された光路に出射する装置である。光スイッチ24への光子の伝搬および光スイッチ24から量子計算ユニット13-mへの光子の伝搬は光ファイバー12によって行われる。
【0059】
<量子計算装置2の動作>
本実施形態では、図示していない制御部で光スイッチ24を操作することで、M個の量子計算ユニット13-1~13-Mから選択された複数個の量子計算ユニット13-mを光学的に接続し、選択された複数個の量子計算ユニット13-mを含む光回路に、単一光子源11から出射された光子111を入射することで分散型量子計算を行う。以下に動作例を示す。
【0060】
<動作例1>
本実施形態の動作例1では、光スイッチ24を操作することで、2個の量子計算ユニット13-m
1および13-m
2(m
1,m
2∈{1,…,M})(第1量子計算ユニットおよび第2量子計算ユニット)を光学的に接続し、これらの2個の量子計算ユニット13-m
1および13-m
2を含む光回路に光子111を入射することで分散型量子計算を行う。
図8の例では、光スイッチ24を操作することで、量子計算ユニット13-1および13-2が選択されている。以下、
図8を用いて動作例1の操作を例示する。まず、第1実施形態で説明したように、光シフト光の照射によって、量子計算ユニット13-1にトラップされた複数の原子132-1から選択されたx
1個の選択原子sa
1、量子計算ユニット13-2にトラップされた複数の原子132-2から選択されたx
2個の選択原子sa
2を各共振器に結合させる。この分散型量子計算で使用される量子ビット数はx
1+x
2である。x
1≧1,x
2≧1であるが、x
1≧1かつx
2≧2であってもよいし、x
1≧2かつx
2≧1であってもよいし、x
1≧2かつx
2≧2であってもよい。量子計算ユニット13-1および13-2にそれぞれトラップされた複数個の原子を用いて分散型量子計算を行う場合にはx
1≧2,x
2≧2となる(ステップS20)。この状態で以下の一連の操作を行う。
【0061】
(1)単一光子源11で所定の状態(例えば、横偏光|h〉)の光子111を生成して端部121a-0から出射させる(ステップS11)。
【0062】
(2)ステップS11で単一光子源11から出射された光子111を半波長板15-1に入射させ、光子111の状態をπ/2回転させて出射させる(ステップS12)。
【0063】
(3)ステップS12で半波長板15-1から出射された光子を量子計算ユニット13-1の端部121a-1に入射させる(ステップS13)。
【0064】
(4)ステップS13の操作に対して量子計算ユニット13-1の端部121a-1から出射された光子を半波長板15-2に入射させ、当該光子の状態をπ/2回転させて出射させる(ステップS24)。
【0065】
(5)ステップS24で半波長板15-2から出射された光子を量子計算ユニット13-2の端部121a-2に入射させる(ステップS25)。
【0066】
(6)ステップS25の操作に対して量子計算ユニット13-2の端部121a-2から出射された光子を半波長板15-1に入射させ、当該光子の状態をπ/2回転させて出射させる(ステップS26)。
【0067】
(7)ステップS26で半波長板15-1から出射された光子を量子計算ユニット13-1の端部121a-1に再び入射させる(ステップS27)。ステップS27の操作に対し、量子計算ユニット13-1の端部121a-1から光子が出射される。
【0068】
上述のステップS11~S13,S24~S27の操作を施した選択原子sa1および選択原子sa2の状態は、当該操作を施す前の選択原子sa1および選択原子sa2の状態に対してCPFゲート(x1+x2=2の場合)またはx1+x2ビットのToffoliゲート(x1+x2≧3の場合)を作用させたものとなる。単一光子源11から出射された光子の状態は操作前と変わらない。
【0069】
<動作例2>
本実施形態の動作例2では、光スイッチ24を操作することで、3個の量子計算ユニット13-m
1,13-m
2,13-m
3(m
1,m
2,m
3∈{1,…,M})(第1量子計算ユニット、第2量子計算ユニット、および第3量子計算ユニット)を光学的に接続し、これらの3個の量子計算ユニット13-m
1,13-m
2,13-m
3を含む光回路に光子111を入射することで分散型量子計算を行う。
図9の例では、光スイッチ24を操作することで、量子計算ユニット13-1,13-2,13-3が選択されている。以下、
図9を用いて動作例2の操作を例示する。
【0070】
まず、第1実施形態で説明したように、光シフト光の照射によって、量子計算ユニット13-1にトラップされた複数の原子132-1から選択されたx1個の選択原子sa1、量子計算ユニット13-2にトラップされた複数の原子132-2から選択されたx2個の選択原子sa2、および量子計算ユニット13-3にトラップされた複数の原子132-3から選択されたx3個の選択原子sa3を各共振器に結合させる。この分散型量子計算で使用される量子ビット数はx1+x2+x3である。x1≧1,x2≧1,x3≧1であるが、x1,x2,x3の何れかが2以上であってもよいし、x1≧2,x2≧2,x3≧2であってもよい(ステップS20’)。この状態で以下の一連の操作を行う。
【0071】
(0)まず、動作例1のステップS11~S13,S24~S27の操作を行う。ただし、ステップS12,S24,S26では、半波長板15-1または半波長板15-2が、光子111の状態をπ/2ではなくπ/4回転させる。ステップS27の操作に対し、量子計算ユニット13-1の端部121a-1から光子が出射される。ステップS27で出射された光子を半波長板15-3に入射させ、光子の状態をπ/4回転させて出射させる(ステップS28)。
【0072】
(1)ステップS28で半波長板15-3から出射された光子を量子計算ユニット13-3の端部121a-3に入射させる(ステップS29)。
【0073】
(2)ステップS29の操作に対して量子計算ユニット13-3の端部121a-3から出射された光子を半波長板15-1に入射させ、光子の状態をπ/4回転させて出射させる(ステップS12’)。
【0074】
(3)ステップS12’で半波長板15-1から出射された光子を量子計算ユニット13-1の端部121a-1に入射させる(ステップS13’)。
【0075】
(4)ステップS13’の操作に対して量子計算ユニット13-1の端部121a-1から出射された光子を半波長板15-2に入射させ、当該光子の状態をπ/4回転させて出射させる(ステップS24’)。
【0076】
(5)ステップS24’で半波長板15-2から出射された光子を量子計算ユニット13-2の端部121a-2に入射させる(ステップS25’)。
【0077】
(6)ステップS25’の操作に対して量子計算ユニット13-2の端部121a-2から出射された光子を半波長板15-1に入射させ、当該光子の状態をπ/4回転させて出射させる(ステップS26’)。
【0078】
(7)ステップS26’で半波長板15-1から出射された光子を量子計算ユニット13-1の端部121a-1に再び入射させる(ステップS27’)。ステップS27’の操作に対し、量子計算ユニット13-1の端部121a-1から光子が出射される。
【0079】
上述のS11~S13,S24~S29,S12’,S13’,S24’~S27’の操作を施した選択原子sa1,sa2,sa3の状態は、当該操作を施す前の選択原子sa1,sa2,sa3の状態に対してx1+x2+x3ビットのToffoliゲートを作用させたものとなる。単一光子源11から出射された光子の状態は操作前と変わらない。
【0080】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図10に例示するように、本実施形態の量子計算装置3は、単一光子源11、M個の量子計算ユニット13-1~13-M、光スイッチ24、半波長板15-1~15-(M+1)、偏光状態測定器16、および、光ファイバー12を有する。
【0081】
<量子計算装置3の動作>
本実施形態では、図示していない制御部で光スイッチ24を操作することで、3個の量子計算ユニット13-m
1,13-m
2,13-m
M(m
1,m
2,m
M∈{1,…,M})(第1量子計算ユニット、第2量子計算ユニット、および第3量子計算ユニット)を光学的に接続し、これらの3個の量子計算ユニット13-m
1,13-m
2,13-m
Mを含む光回路に光子111を入射することで分散型量子計算を行う。
図11の例では、光スイッチ24を操作することで、量子計算ユニット13-1,13-2,13-Mが選択されている。以下、
図11を用いて本実施形態の操作を例示する。
【0082】
まず、第1および2実施形態で説明したように、光シフト光の照射によって、選択されたx1個の選択原子sa1、x2個の選択原子sa2、およびxM個の選択原子saMを各共振器に結合させる。この状態で以下の一連の操作を行う。
【0083】
(0)まず、前述したステップS11~S13,S24~S29,S12’,S13’の操作を行う。ただし、ステップS12,S24,S26では、半波長板15-1または半波長板15-2が、光子111の状態をπ/2ではなくπ/4回転させる。また、量子計算ユニット13-3に代えて量子計算ユニット13-Mが用いられる。
【0084】
(4)ステップS13’の操作に対して量子計算ユニット13-1の端部121a-1から出射された光子を半波長板15-2に入射させ、当該光子の状態をπ/4回転させて出射させる(ステップS34)。
【0085】
(5)ステップS34で半波長板15-2から出射された光子を量子計算ユニット13-2の端部121a-2に入射させる(ステップS35)。
【0086】
(6)ステップS35の操作に対して量子計算ユニット13-2の端部121a-2から出射された光子を半波長板15-(M+1)に入射させ、当該光子の状態をπ/4回転させて出射させる(ステップS36)。
【0087】
(7)ステップS36で半波長板15-(M+1)から出射された光子を偏光状態測定器16に入射させ、当該光子の偏光状態を測定する。これにより、光子の状態が或る偏光状態に収縮し、この光子の状態と絡み合いの状態にある選択原子sa1,sa2,saMの状態も当該光子の偏光状態の測定結果に応じて収縮する。そして、第1実施形態で説明したように、量子計算ユニット13-1にトラップされた選択原子sa1に対し、当該光子の偏光状態の測定結果に応じた回転操作を施す(ステップS37)。
【0088】
上述のS11~S13,S24~S29,S12’,S13’,S34~S37の操作を施した選択原子sa1,sa2,saMの状態は、当該操作を施す前の選択原子sa1,sa2,saMの状態に対してx1+x2+xMビットのToffoliゲートを作用させたものとなる。
【0089】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
【0090】
図12に例示するように、本実施形態の量子計算装置4は、N個の単一光子源41-1~41-N(単一光子源S(1),…,S(N))、M個の量子計算ユニット13-1~13-M(量子計算ユニットU(1),…,U(M))、光スイッチ44、半波長板45-1~45-Y、偏光状態測定器46-1~46-N、および、光ファイバー12を有する。ただし、Nが2以上の整数であり、Mが2N以上の整数であり、Yが1以上の整数である。量子計算ユニット43-m(m=1,…,M)の構成は、第1実施形態の量子計算ユニット13-mと同一である。単一光子源41-j(j=1,…,N)の構成は、第1実施形態の単一光子源11と同一である。偏光状態測定器46-j(j=1,…,N)の構成も、第1実施形態の偏光状態測定器16と同じである。半波長板45-y(y=1,…,Y)の構成も、第1~3実施形態の何れかの半波長板15-i’(i’∈{1,…,M+1})と同一である。光スイッチ44は、入射された光子を選択された光路に出射する装置である。光スイッチ44への光子の伝搬および光スイッチ44から量子計算ユニット13-mへの光子の伝搬は光ファイバー12によって行われる。
【0091】
<量子計算装置4の動作>
本実施形態では、光スイッチ44が各単一光子源41-j(j=1,…,N)並びに選択された2個の量子計算ユニット13-α
1(j)および13-α
2(j)の組を光学的に接続する。ただし、α
1(j),α
2(j)∈{1,…,M}であり、α
1(j)≠α
2(j)である。各単一光子源41-jからは光子411-j(単一光子)が出射される。j=1,…,Nについて、各単一光子源41-jから出射された光子は、2個の量子計算ユニット13-α
1(j)および13-α
2(j)の組を含む光回路C(j)にそれぞれ入射される。これにより、光回路C(1),…,C(N)による分散型量子計算が並列に行われる。各光回路C(j)は、2個の量子計算ユニット13-α
1(j)および13-α
2(j)の組に加え、さらにもう1個の量子計算ユニット13-α
3(j)(α
3(j)∈{1,…,M},α
1(j)≠α
2(j)≠α
3(j))を含んでもよいし、1個以上の半波長板45-yを含んでもよいし、偏光状態測定器46-jを含んでもよい。光回路C(j)に制限はないが、例えば、第1~3実施形態で例示した光回路(
図6,
図8,
図9,
図11)を例示できる。各光回路C(j)による分散型量子計算の具体例は、第1~3実施形態で例示した通りである。
【0092】
[その他の変形例]
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、量子計算ユニット13-mの端部121a-mおよび端部121b-mのコアに、ファイバーブラッグ格子123a-mおよび123b-mがそれぞれ設けられる例を示した。しかしながら、端部121a-mのコアにファイバーブラッグ格子123a-mが設けられることに代えて、テーパー部122a-mまたはナノ光ファイバー131-mにファイバーブラッグ格子が設けられてもよい。同様に、端部121b-mのコアにファイバーブラッグ格子123b-mが設けられることに代えて、テーパー部122b-mまたはナノ光ファイバー131-mにファイバーブラッグ格子が設けられてもよい。ただし、量子計算ユニット13-mに設けられた2つのファイバーブラッグ格子の間のナノ光ファイバー領域に沿ってすべての原子132-mが配列されることが望ましい。すなわち、ナノ光ファイバー131-m内を伝搬する光子に対するすべての原子132-mの位置でのエバネッセント場の強さが前述の条件を満たすことが望ましい。
【0093】
上述の実施形態では、単一光子源11の端部121a-0および端部121b-0のコアにファイバーブラッグ格子123a-0および123b-0がそれぞれ設けられた例を示した。しかしながら、端部121a-0のコアにファイバーブラッグ格子123a-0が設けられることに代えて、テーパー部122a-0またはナノ光ファイバー111にファイバーブラッグ格子が設けられてもよい。同様に、端部121b-0のコアにファイバーブラッグ格子123b-0が設けられることに代えて、テーパー部122b-0またはナノ光ファイバー111にファイバーブラッグ格子が設けられてもよい。ただし、単一光子源11に設けられた2つのファイバーブラッグ格子の間のナノ光ファイバー領域に沿って原子112が配置されることが望ましい。すなわち、ナノ光ファイバー111内を伝搬する光子に対する原子112の位置でのエバネッセント場の強さが前述の条件を満たすことが望ましい。
【0094】
上述の実施形態では、ナノ光ファイバー111,131-mおよびテーパー部122a-0,122b-0,122a-m,122b-mの周囲が真空状態であった。しかし、ナノ光ファイバー111,131-mおよびテーパー部122a-0,122b-0,122a-m,122b-mの周囲は真空でなくてもよく、ナノ光ファイバー111,131-mおよびテーパー部122a-0,122b-0,122a-m,122b-mのクラッドよりも屈折率が小さい空間であればよい。例えば、この空間が大気や窒素等の気体、あるいは水やアルコール等の液体で満たされていてもよい。また、上述の実施形態では、量子計算ユニット13-mにおける「光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する量子系」として原子132-mを用いた。しかしながら、原子132-mに代えて、原子132-mと同様の光学応答を示す、人工原子(例えば、量子ドット)や結晶中のカラーセンター(例えば、ダイヤモンド中のNVセンター)などの固体中の量子系が用いられてもよい(例えば、参考文献4,5等参照)。同様に、上述の実施形態では、単一光子源11における「複数の準位を持つ量子系」として原子112を用いた。しかしながら、原子112に代えて、原子112と同様の光学応答を示す、人工原子(例えば、量子ドット)や結晶中のカラーセンター(例えば、ダイヤモンド中のNVセンター)などの固体中の量子系が用いられてもよい。このような場合、当該量子系を持つ固体がナノ光ファイバー111,131-mにそれぞれ固定されていてもよい。
【0095】
参考文献4:Ramachandrarao Yalla, Fam Le Kien, M Morinaga, K Hakuta, "Efficient Channeling of Fluorescence Photons From Single Quantum Dots Into Guided Modes of Optical Nanofiber," Phys Rev Lett. 2012 Aug 10;109(6):063602. doi: 10.1103/PhysRevLett.109.063602. Epub 2012 Aug 8.
参考文献5:Masazumi Fujiwara1, Kazuma Yoshida1, Tetsuya Noda, Hideaki Takashima, Andreas W Schell, Norikazu Mizuochi and Shigeki Takeuchi, "Manipulation of single nanodiamonds to ultrathin fiber-taper nanofibers and control of NV-spin states toward fiber-integrated λ-systems," Published 7 October 2016, Nanotechnology, Volume 27, Number 45.
このような固体のナノ光ファイバー111,131-mへの固定は、例えば、ファンデルワールス力によって可能である。また上述の実施形態では、Λ型3準位原子を例示したが、その他の3準位原子が用いられてもよいし、4準位以上を持つ原子が用いられてもよい。
【0096】
半波長板、単一光子源、および光状態測定器の個数に限定はなく、実現しようとする分散型量子計算に応じて適宜設定されればよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0097】
[まとめ]
以下、各実施形態およびその変形例の特徴をまとめる。
【0098】
前述したように、各実施形態の分散型量子計算のための量子計算ユニット13-mは、入射された光子を伝搬する光ファイバー12にテーパー部121a-mを介して光学的に接続されたナノ光ファイバー131-mと、ナノ光ファイバー131-mの外側に配置され、ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の原子a1-m,…,aK(m)-mとを有する。このようにナノ光ファイバー131-mを用いて共振器が構成されることで、原理的には小さなモード断面積を保ったまま、原子a1-m,…,aK(m)-mがトラップされる領域の長さをいくらでも長くできる。また、入射された光子を伝搬する光ファイバー12の端部121a-mに、テーパー部122a-mを介してナノ光ファイバー131-mを光学的に接続しているため、共振器の全損失を小さくできる。従って、共振器と個々の原子a1-m,…,aK(m)-mとの結合レートgを振幅緩和レートκおよび緩和レートγに対して十分に大きく保ったまま(すなわち、協同係数CをTH1(第1閾値)よりも大きい状態を保ったまま)、多くの原子a1-m,…,aK(m)-mをトラップすることができる。さらに、このような量子計算ユニット13-mは、光ファイバー12によって低損失で光学的に接続できるため、複数の量子計算ユニット13-mを結合することで分散型量子計算のための決定論的な量子回路を構成できる。
【0099】
また前述のように、ナノ光ファイバー131-m内を伝搬する光子に対する複数の原子a1-m,…,aK(m)-mの位置でのエバネッセント場の強さは閾値th2(第2閾値)以上であり、複数の原子a1-m,…,aK(m)-mのそれぞれとナノ光ファイバー131-mとのファンデワールス力が閾値th3(第3閾値)以下であることが望ましい。本形態ではナノ光ファイバー131-mを用いることで、結合レートgを振幅緩和レートκおよび緩和レートγに対して十分に大きくしたまま、この条件で複数の原子a1-m,…,aK(m)-mをナノ光ファイバー131-mの長手方向に沿って一列に並べることができる。原子a1-m,…,aK(m)-mが一列に並べられることで、コントロール光を個々の原子に照射することが容易になる。
【0100】
以上のような特徴により、複数の原子をトラップした量子計算ユニットを複数個結合し、分散型量子計算を行うことが可能になる。例えば、複数の量子計算ユニットから選択した第1量子計算ユニットおよび第2量子計算ユニットを光学的に接続し、第1量子計算ユニットおよび第2量子計算ユニットを含む光回路に光子を入射することで分散型量子計算を行うことができる。
【0101】
例えば、
図9および
図11に例示したように、複数の原子をトラップした3個の量子計算ユニット13-1(第1量子計算ユニット),量子計算ユニット13-2(第2量子計算ユニット),量子計算ユニット13-3または13-M(第3量子計算ユニット)を用いた分散型量子計算も可能である。
【0102】
例えば、
図9に例示したように、光子を半波長板15-1(第1半波長板)に入射させ、半波長板15-1から出射された光子を量子計算ユニット13-1(第1量子計算ユニット)に入射させ、量子計算ユニット13-1から出射された光子を半波長板15-2(第2半波長板)に入射させ、半波長板15-2(第2半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-2(第2量子計算ユニット)に入射させ、量子計算ユニット13-2から出射された光子を半波長板15-1(第3半波長板)に入射させ、半波長板15-1(第3半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-1に入射させ、量子計算ユニット13-1から出射された光子を半波長板15-3(第4半波長板)に入射させ、半波長板15-3(第4半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-3(第3量子計算ユニット)に入射させ、量子計算ユニット13-3から出射された光子を半波長板15-1(第5半波長板)に入射させ、半波長板15-1(第5半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-1に入射させ、量子計算ユニット13-1から出射された光子を半波長板15-2(第6半波長板)に入射させ、半波長板15-2(第6半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-2に入射させ、量子計算ユニット13-2から出射された光子を半波長板15-1(第7半波長板)に入射させ、半波長板15-1(第7半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-1に入射させることで分散型量子計算を行うこともできる。なお、半波長板15-1,15-2,15-3(第1~7半波長板)は入射された光子の状態をπ/4回転させて出射する。
図9の例では、半波長板15-1を第1,3,5,7半波長板として使用し、半波長板15-2を第2,6半波長板として使用し、半波長板15-3を第4半波長板として使用した。しかしこれは本発明を限定するものではない。例えば、1個の半波長板を第1~7半波長板として使用してもよいし、7個の半波長板を第1~7半波長板として使用してもよいし、その他任意の個数の半波長板を第1~7半波長板として使用してもよい。すなわち、第1~7半波長板は互いに同一であってもよいし、互いに同一でなくてもよいし、第1~7半波長板の一部のみが互いに同一であってもよい。
【0103】
例えば、
図11に例示したように、光子を半波長板15-1(第1半波長板)に入射させ、半波長板15-1(第1半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-1(第1量子計算ユニット)に入射させ、量子計算ユニット13-1から出射された光子を半波長板15-2(第2半波長板)に入射させ、半波長板15-2(第2半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-2(第2量子計算ユニット)に入射させ、量子計算ユニット13-2から出射された光子を半波長板15-1(第3半波長板)に入射させ、半波長板15-1(第3半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-1に入射させ、量子計算ユニット13-1から出射された光子を半波長板15-3(第4半波長板)に入射させ、半波長板15-3(第4半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-M(第3量子計算ユニット)に入射させ、量子計算ユニット13-Mから出射された光子を半波長板15-1(第5半波長板)に入射させ、半波長板15-1(第5半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-1に入射させ、量子計算ユニット13-1から出射された光子を半波長板15-M(第6半波長板)に入射し、半波長板15-M(第6半波長板)から出射された光子を量子計算ユニット13-2に入射し、量子計算ユニット13-2から出射された光子を半波長板15-(M+1)(第7半波長板)に入射し、半波長板15-(M+1)(第7半波長板)から出射された光子の量子状態を測定し、測定結果に応じて量子計算ユニット13-1の原子に回転操作を行うことで分散型量子計算を行うこともできる。なお、半波長板15-1,15-2,15-3,15-(M+1)(第1~7半波長板)は入射された光子の状態をπ/4回転させて出射する。
図11の例では、半波長板15-1を第1,3,5半波長板として使用し、半波長板15-2を第2,6半波長板として使用し、半波長板15-3を第4半波長板として使用し、半波長板15-(M+1)を第7半波長板として使用した。しかしこれは本発明を限定するものではない。例えば、1個の半波長板を第1~7半波長板として使用してもよいし、7個の半波長板を第1~7半波長板として使用してもよいし、その他任意の個数の半波長板を第1~7半波長板として使用してもよい。すなわち、第1~7半波長板は互いに同一であってもよいし、互いに同一でなくてもよいし、第1~7半波長板の一部のみが互いに同一であってもよい。
【0104】
また、第4実施形態で説明したように、量子計算装置4が、N個の単一光子源41-1~41-N(単一光子源S(1),…,S(N))と、M個の量子計算ユニット13-1~13-M(量子計算ユニットU(1),…,U(M))と、単一光子源41-j並びに2個の量子計算ユニット13-α1(j)および13-α2(j)(U(α1(j))およびU(α2(j)))の組を光学的に接続する光スイッチ44と、を有し、j=1,…,Nについて、単一光子源41-jから出射された光子を、2個の13-α1(j)および13-α2(j)の組を含む光回路C(j)にそれぞれ入射することで、光回路C(1),…,C(N)による分散型量子計算を並列に行うこともできる。
【0105】
また、各実施形態およびその変形例では、光子の波長を反射帯域に含んだファイバーブラッグ格子が光ファイバーまたはナノ光ファイバーに設けられており、ファイバーブラッグ格子が光子を反射するミラーとして機能する。これにより、光ファイバーまたはナノ光ファイバーの加工のみによりミラーを設けることができる。
【0106】
また、各実施形態の単一光子源11,41-1~41-Nは、光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部122a-0を介して光学的に接続されたナノ光ファイバー111と、ナノ光ファイバー111の外側に配置された原子112とを有する。ナノ光ファイバー111がテーパー部122a-0を介して光ファイバーに光学的に接続されているため、生成した単一光子を効率よく光ファイバーに供給することができる。
【0107】
また前述したように、原子が人工原子(例えば、量子ドット)や結晶中のカラーセンター(例えば、NVセンター)などの量子系に置換されてもよい。すなわち、量子計算ユニットは、入射された光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、ナノ光ファイバーの外側に配置され、当該ナノ光ファイバーの長手方向に沿って間隔を置いて配置された複数の量子系を持てばよい。ただし、少なくとも何れかの量子系は、光子の状態と相互作用する量子ビットとして機能する。好ましくは、複数の量子系すべてが光子の状態と相互作用することが望ましい。また、単一光子源は、光子を伝搬する光ファイバーにテーパー部を介して光学的に接続されたナノ光ファイバーと、ナノ光ファイバーの外側に配置された、複数の準位を持つ量子系とを持てばよい。前述のように、当該量子系は、例えば、原子、人工原子、量子ドット、結晶中のカラーセンター(例えば、NVセンター)の少なくとも何れかを含む。
【符号の説明】
【0108】
1~4 量子計算装置
13-m 量子計算ユニット
11,41-j 単一光子源