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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】汚水処理用担体
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/08 20230101AFI20241218BHJP
【FI】
C02F3/08 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023020735
(22)【出願日】2023-02-14
(65)【公開番号】P2024115186
(43)【公開日】2024-08-26
【審査請求日】2023-05-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 令和5年1月5日 ウェブサイトのアドレス https://kansaikako.co.jp/information/%e7%ac%ac5%e5%9b%9e%e3%82%aa%e3%83%aa%e3%82%b8%e3%83%8a%e3%83%ab%e5%95%86%e5%93%81%e9%96%8b%e7%99%ba%e4%bc%9a%e8%ad%b0%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%83%86%e3%82%b9%e3%83%88.html
(73)【特許権者】
【識別番号】591254729
【氏名又は名称】関西化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】余吾 俊
(72)【発明者】
【氏名】河野 正志
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-245682(JP,A)
【文献】特開2003-039086(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137752(WO,A1)
【文献】特開2012-055206(JP,A)
【文献】特開2011-177166(JP,A)
【文献】特開2010-172198(JP,A)
【文献】特開2007-174989(JP,A)
【文献】特開2008-168204(JP,A)
【文献】特開2017-209647(JP,A)
【文献】特開2004-33809(JP,A)
【文献】韓国登録特許第2066160(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第2020-0141121(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00-3/34
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出汁がら昆布発酵物と比重調整用充填剤とを含有する熱可塑性樹脂により発泡構造体に形成された汚水処理用担体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、前記比重調整用充填剤がタルクであり、前記熱可塑性樹脂と前記比重調整用充填剤の合計100重量部に対し、前記出汁がら昆布発酵物を5~10重量部含有する、請求項1に記載の汚水処理用担体。
【請求項3】
比重が1.00~1.05である、請求項1に記載の汚水処理用担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水や工場排水等の廃水や魚介類養殖用飼育水等の汚水を生物学的に処理する浄化槽に使用される汚水処理用担体(微生物の付着材)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、曝気槽に担体を浮かべ、担体に付着する微生物を汚水と接触させて汚水を浄化する生物学的汚水処理方法が知られている(例えば特許文献1等)。汚水処理用担体として、熱可塑性樹脂を発泡構造体としたものが広くしられており、熱可塑性樹脂に親水性向上及び比重調整等の目的で炭酸カルシウム等の無機材料を含有させたものが知られている(特許文献1~3)。また、これらの無機材料を熱可塑性樹脂に含有させた汚水処理用担体は、所定の処理能力を発揮する迄の立ち上げ時間に長時間を要するため、立ち上げ時間を短縮する目的で熱可塑性樹脂に微生物の栄養塩を含有させたものも知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭55-24955号公報
【文献】特開昭56-89897号公報
【文献】特開昭57-30596号公報
【文献】特開2003-245682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱可塑性樹脂に微生物の栄養塩を含有させる従来の汚水処理用担体は、栄養塩としてリン酸塩やポリリン酸塩類を用いるが、これらの化学物質のコストが嵩み、汚水処理用担体自体が割高となる。特に、大型の陸上養殖施設や排水処理施設では大量の汚水処理用担体を使用するため、単価の上昇を抑えることが要望されている。また、一般に従来の汚水処理用担体は、汚水処理能力を発揮するまでの立ち上げ時間を要する。
【0005】
そこで、本発明は、低コストで製造でき、立ち上げ時間も短縮し得る汚水処理用担体を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る一実施形態に係る汚水処理用担体は、出汁がら昆布発酵物と比重調整用充填剤とを含有する熱可塑性樹脂により発泡構造体に形成される。
【0007】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、前記比重調整用充填剤がタルクであり、前記熱可塑性樹脂と前記比重調整用充填剤の合計100重量部に対し、前記出汁がら昆布発酵物を5~10重量部含有することが好ましい。
【0008】
前記汚水処理用担体は、比重が1.00~1.05であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大量に廃棄される昆布の出しがらを発酵処理した発酵物を熱可塑性樹脂に混入させて発泡構造体とすることにより、低コストで製造でき、立ち上げ時間も短縮し得る汚水処理用担体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る汚水処理用担体の一実施形態の外観を示す写真である。
図2】本発明実施例の流動性試験結果を示す写真である。
図3】比較例の流動性試験結果を示す写真である。
図4】本発明実施例と比較例の吸水率測定試験の測定結果である。
図5】本発明実施例の水なじみ性に関する試験結果を示す写真である。
図6】比較例の水なじみ性に関する試験結果を示す写真である。
図7】本発明実施例の顕微鏡写真であり、出汁がら昆布発酵物の溶出前(a)と溶出後(b)を示す顕微鏡写真である。
図8】本発明実施例と比較例の其々について実験槽を用いてCOD濃度変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る汚水処理用担体の実施形態について、以下に図1図8を参照しつつ説明する。
【0012】
本発明に係る汚水処理用担体は、出汁がら昆布発酵物と比重調整用充填剤とを含有する熱可塑性樹脂により発泡構造体に形成される。
【0013】
出しがら昆布は、食品工場や料理店等において、昆布から出汁を取った後、排出されるものを用いることができる。これらの出しがら昆布は、従来、廃棄されていたものを利用することにより、出しがら昆布を購入するのではなく、廃棄物の引取料又は処分費用として対価を得る形で引き取ることができるため、コスト低減が可能となる。出しがら昆布発酵物は、出しがら昆布を、コンポストを製造する際の公知の堆肥化、即ち、好気性細菌による好気性発酵により得ることができる。発酵処理は、時間(例えば数カ月)を要するが、殆どコストがかからないため、出しがら昆布発酵物(コンポスト)を低コストで生産することができる。
【0014】
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンを好適に用いることができるが、ポリエチレン等の他の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0015】
比重調整用充填剤としては、タルクが好適に用いられるが、炭酸カルシウム、珪藻土、ゼオライト、消石灰、ベントナイトなども用いることができる。比重調整用充填剤は、汚水処理用担体が処理対象の汚水の比重に近くなるように配合量が調整される。例えば、処理対象が淡水魚の飼育水の濾過に用いられる場合は、汚水処理用担体の比重が1.00~1.02となるように比重調整用充填剤の配合量を調整することができ、海水魚の飼育水の濾過に用いられる場合は、汚水処理用担体の比重が1.02~1.05となるように比重調整用充填剤の配合量を調整することができる。例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレンで、比重調整用充填剤がタルクの場合、ポリプロピレン80重量部に対し、タルク15~25重量部を含有させることにより、所望の比重に比重調整され得る。
【0016】
出しがら昆布発酵物は、熱可塑性樹脂と比重調整用充填剤の合計100重量部に対し、5~10重量部配合することが好ましい。熱可塑性樹脂と比重調整用充填剤の合計100重量部に対し、出しがら昆布発酵物の配合量が10重量部を超えると成形が困難となり、5重量部未満であると所望の立ち上げ時間短縮効果が得られない。
【0017】
汚水処理用担体を発泡構造体とするために、熱可塑性樹脂、比重調整用充填剤、及び、出汁がら昆布発酵物を、其々所定量混合し、公知の発泡成形法を用いて成形することができる。発泡成形には、化学発泡と物理発泡がある。化学発泡では、汚水処理用担体の製造工程において発泡剤が混合される。発泡剤としてはアゾジカルボンアミドや炭酸水素ナトリウムなど熱可塑性樹脂に対応した任意のものを用いることができ、所望の発泡倍率に応じて任意に添加量を設定することができる。図1は、本発明に係る汚水処理用担体の写真である。汚水処理用担体の形状は、図示例に限らず、他の形状とすることもできる。
【0018】
次に、本発明に係る汚水処理用担体について、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、各例によって限定されるものではない。
【0019】
実施例として、ポリプロピレン80重量部、タルク20重量部、出汁がら昆布発酵物5重量部、アゾジカルボンアミド(大日精化工業株式会社、製品名「ダイブローAC2040(L)」、「DAIBLOW」は登録商標)0.5重量部を配合し、押出成形機を用いて、図1に示す筒状の発泡構造体でなる汚水処理用担体を製作した。汚水処理用担体は、外径約15mm、長さ約15mm、厚さ約2mmに成形した。得られた実施例の汚水処理用担体の比重は、1.02であった。
【0020】
比較例として、ポリプロピレン80重量%、タルク20重量%、アゾジカルボンアミド0.5重量部を配合し、押出成形機を用いて、実施例と同じ寸法形状の発泡構造体でなる汚水処理用担体を製作した。得られた比較例の汚水処理用担体の比重は、ほぼ1.02であった。
【0021】
上記実施例及び比較例において、タルクは、純正化学株式会社の製品名称タルク(製品番号43117Jis_J-1)を用い、比重測定には水中置換法を用いた。
【0022】
上記実施例及び比較例を用いて、流動性の比較試験を行った。流動性試験方法としては、真水を入れ、エアレーションを施した水槽を2槽用意し、一方の水槽に実施例の汚水処理用担体を200個入れ、他方の水槽に比較例の汚水処理用担体を200個入れて、其々、12時間後と24時間後の状態を観察した。12時間後において、比較例の汚水処理用担体は殆ど流動しておらず、エアレーションを止めると水面に浮いていた。一方、実施例では、12時間後において、全体の約2/3が流動し、エアレーションを止めても水面下に沈んでおり、出汁がら昆布発酵物が汚水処理用担体から溶け出して水に濁りを生じていた。24時間後において、比較例の汚水処理用担体は全体の約1/3しか流動していなかったが、実施例の汚水処理用担体は全てが流動していた。図2に実施例の24時間後の状態を示し、図3に比較例の24時間後の状態を示す。
【0023】
また、上記実施例及び比較例を用いて、吸水率に関する比較試験を行った。試験方法として、実施例及び比較例の其々の汚水処理用担体75個(合計50g)ずつを水中に沈め、所定時間後に水中から取り出して質量を測定することにより、吸水率を測定した。測定結果を図4に示す。吸水性に関する試験の結果、実施例の汚水処理用担体は、比較例の汚水処理用担体に比べ、約1.5倍の吸水力を備えることが判った。
【0024】
更に、実施例及び比較例の汚水処理用担体を其々、水の流動の無い水槽に投入し、水なじみ試験に関する比較試験を行った。水なじみ試験では、実施例の汚水処理用担体は、10日で徐々に沈み、3週間で全てが沈んだが、比較例の汚水処理用担体は2カ月経過しても沈まなかった。図5は2カ月経過後の実施例の状況を示し、図6は2カ月経過後の比較例の状況を示している。実施例では、2日目には出汁がら昆布発酵物が水中に溶出し、水が薄茶色になっていた。
【0025】
実施例の汚水処理用担体は、比較例に比べて、吸水率が高く水なじみが良いため、早期に流動性を得ることができると考えられる。
【0026】
上記の比較試験から判るように、実施例の汚水処理用担体は、比較例の汚水処理用担体に比べ、吸水率が高くて水なじみが良く、水中での流動性に優れていることが判った。
【0027】
図7は、実施例の汚水処理用担体を約40倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真であり、図7(a)は水中に投入前、図7(b)は水中投入後1週間経過したものである。図7(b)は、出汁がら昆布発酵物が溶出した結果、図7(a)に比較して空隙が拡がっている。
【0028】
汚水処理用担体は、水中で流動させることにより、処理水との接触頻度が増え、濾過能力を発揮することができる。そのため、実施例は、比較例に比べて早期に流動性を得ることで、汚水処理期間を短縮することができる。また、出汁がら昆布発酵物は、微生物が代謝利用しやすい栄養塩類等が高濃度で残存しており、それが水中に溶出することで、濾過細菌(好気性細菌)の栄養源(エサ)になり、好気性細菌の増殖を促進し、汚水処理能力を高めることができる。
【0029】
曝気槽(容積4リットル)と沈殿槽(容積2リットル)とを備える汚水浄化実験槽を用いて、上記実施例及び上記比較例の各汚水処理用担体を、各々の汚水浄化実験槽の曝気槽に200個投入し、人工下水(COD濃度200mg/リットル)を4リットル/日となるように曝気槽に流入させて、処理水(沈殿槽から流出した水)のCOD濃度を2日おきに測定した。COD濃度の経日変化を図8のグラフに示す。図8のグラフから、人工下水の流入開始2日目から、実施例の汚水処理用担体で処理した水は、COD濃度が比較例の汚水処理用担体で処理した水より大きく下がっていることが判る。従って、実施例の汚水処理用担体を使用することにより、比較例の従来の汚水処理用担体に比較して、汚水処理施設の立ち上がりを早くする効果が得られる。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限定解釈されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8