(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】幼齢木保護具
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
A01G13/02 M
(21)【出願番号】P 2023187217
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】596058720
【氏名又は名称】東工コーセン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊集院 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬浩
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-177386(JP,A)
【文献】特開2022-143577(JP,A)
【文献】特開2023-23780(JP,A)
【文献】特開2019-208487(JP,A)
【文献】特開2014-161302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00-13/10
A01M 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性および透光性を有する樹脂製の網状材料から成る筒状体であって、少なくとも2枚の網状材料が重なる重畳部、および互いに離反する方向に凸の2つの折曲げ部を含む筒状体と、
前記重畳部の前記2枚の網状材料を前記筒状体の長手方向に沿って平行に接合する2つの接合部と、を含むことを特徴とする幼齢木保護具。
【請求項2】
前記重畳部における、前記2つの接合部間の接合されていない非接合部分の網状材料間に挿入される、繊維強化プラスチックから成る支柱を、さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の幼齢木保護具。
【請求項3】
前記支柱は、7mm以上12mm以下の直径を有し、
前記非接合部分の周方向長さは、25mm以上35mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の幼齢木保護具。
【請求項4】
前記2つの接合部は、縫目を構成する縫製糸であることを特徴とする請求項1に記載の幼齢木保護具。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の幼齢木保護具。
【請求項6】
前記網状材料は、太さが380デニール以上480デニール以下のモノフィラメント糸の平織物から成ることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の幼齢木保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面に植付けられた幼齢木を害獣などによる食害から保護するための幼齢木保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の幼齢木保護具は、たとえば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の苗木等保護具は、樹木の苗木などが、野生動物に食されることを防止するために、苗木などを覆う筒状の保護ネットと、保護ネットの内側または外側に配設される支持材と、第一リングと、第二リングとを含んでいる。支持材は、保護ネットの周壁に螺旋状に固定される。第一リングは、略円環状であり、支持材の一方の端部に一体に設けられる。また、第二リングは、略円環状であり、支持材の他端部に一体に設けられる。保護ネットは、地面に打ち込まれた棒状の支柱に支持材を固定することによって、地面に円筒状に安定的に自立するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の従来技術では、保護ネットを、円筒状または円錐台状に保持する支持材、第一リングおよび第二リングを備え、支持材は留め具によって複数個所で支柱に固定されるので、部品点数が多く、構造が複雑である。このような苗木等保護具は、製造コストが高価であり、現場における組立作業も煩雑であり、組立作業に手間を要するという問題がある。また、特許文献1の従来技術では、保護ネットの内側または外側に螺旋状の支持材が設けられるので、幼齢木が成長すると、支持材に枝が引掛かり、幼齢木の正常な成長を妨げてしまうおそれがある。
【0005】
したがって本発明の目的は、構成が簡素化され、組立作業が容易化され、幼齢木の成長を妨げない幼齢木保護具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、通気性および透光性を有する樹脂製の網状材料から成る筒状体であって、少なくとも2枚の網状材料が重なる重畳部、および互いに離反する方向に凸の2つの折曲げ部を含む筒状体と、
前記重畳部の前記少なくとも2枚の網状材料を前記筒状体の長手方向に沿って平行に接合する2つの接合部と、を含む筒状体ことを特徴とする幼齢木保護具である。
【0007】
また本発明は、前記重畳部における、前記2つの接合部間の接合されていない非接合部分の網状材料間に挿入される、繊維強化プラスチックから成る支柱を、さらに含むことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記支柱は、7mm以上12mm以下の直径を有し、
前記非接合部分の周方向長さは、25mm以上35mm以下であることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記2つの接合部は、縫目を構成する縫製糸であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記網状材料は、太さが380デニール以上480デニール以下のモノフィラメント糸の平織物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、幼齢木保護具は、通気性および透光性を有する樹脂製の網状材料から成る筒状体を備える。筒状体は、少なくとも2枚の網状材料が重なる重畳部、および互いに離反する方向に凸の2つの折曲げ部を含む。筒状体は、使用時に地面に植付けられている幼齢木を覆うように装着され、重畳部に支柱を挿入し、支柱の一端部が地面に打込まれることによって、筒状体を地面に起立して設置することができる。筒状体は、2つの折曲げ部を有するので、筒状体を支柱によって地面に起立して設置すると、作業者が筒状体を手作業で筒状に広げる作業を行わずに、2つの折曲げ部によって筒状体を平坦状に閉じた状態から筒状に開いた状態に形状変化させることができる。このように幼齢木保護具の組立作業が容易化され、簡素な構成で幼齢木の成長を妨げない幼齢木保護具を提供することができる。
【0013】
また本発明によれば、重畳部の非接合部分の網状材料間に繊維強化プラスチックから成る支柱が挿入されるので、軽量で高い強度を有し、積雪および強風による荷重に対して高い耐性が得られ、積雪および強風による幼齢木保護具の倒壊を抑制することができる。また、繊維強化プラスッチックは、優れた疲労特性を有するので、積雪および強風などの繰返し荷重に対して高い耐性を有し、筒状体を長期にわたって保持することができ、高い耐候性を有する幼齢木保護具を提供することができる。
【0014】
また本発明によれば、支柱は直径が7mm以上12mm以下の部材が用いられる。また、非接合部分の周方向長さが25mm以上35mm以下とされるので、支柱を挿入するための構成を別途に筒状体に設ける必要がなく、重畳部を形成することによって筒状体と同時に支柱を挿入するための部分を形成することができる。これによって幼齢木保護具の製造工程数が少なくて済み、生産性を向上することができる。また、支柱が少なくとも2枚の網状材料間に挿入された状態では、支柱に非接合部分の網状材料が接触するので、支柱に対する摩擦力によって筒状体の自重によるずれが抑制される。これによって筒状体を地面に筒状に起立させた状態を維持し、簡素な構成で幼齢木を長期に保護可能な幼齢木保護具を提供することができる。
【0015】
また本発明によれば、2つの接合部が縫目を構成する縫製糸から成るので、少なくとも2枚の網状材料を、たとえば工業用ミシンなどの縫製装置によって容易にかつ短時間で縫製し、重畳部を有する筒状体を形成することができる。これによって、幼齢木保護具の製造作業を簡素化して生産性を向上し、製造コストを低減することができる。
【0016】
また本発明によれば、網状材料を構成する樹脂としてポリプロピレンが用いられる。ポリプロピレンは、比重が0.90~0.91と水よりも小さく、ポリプロピレンから成る網状材料によって形成された筒状体は、優れた耐候性を有するとともに、降雨によって水に浸漬しても浮遊し、容易に回収することができる。これによって筒状体による環境汚染を抑制することができる。
【0017】
また本発明によれば、網状材料が380デニール以上480デニール以下のモノフィラメント糸の平織物によって構成されるので、野生動物からの襲撃などによって筒状体が爪などによって高い引張力を受けても、モノフィラメント糸が容易に破断することが防がれ、野生動物の襲来、強風、積雪などに対して高い耐性を有する筒状体を実現することができる。これによって、筒状体に野生動物からの襲撃、強風および積雪などによって荷重が作用しても、容易に破損することなく幼齢木を覆った状態を維持し、幼齢木を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の幼齢木保護具1を示す斜視図である。
【
図2】
図1の切断面線II-IIから見た幼齢木保護具1の拡大断面図である。
【
図3】幼齢木保護具1の重畳部4の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】幼齢木保護具1の構成を模式的に示す軸直角断面図である。
【
図5】筒状体9の構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態の幼齢木保護具1の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本開示の外観検査装置の実施形態について説明する。以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態の幼齢木保護具1を示す斜視図であり、
図2は、
図1の切断面線II-IIから見た幼齢木保護具1の拡大断面図であり、
図3は、幼齢木保護具1の重畳部4の構成を模式的に示す断面図である。植林によって地面6に植付けられた苗木または若木などの幼齢木Tを、鹿、ウサギ、猪、ねずみなどの野生動物の食害、積雪および強風などから保護するために、幼齢木保護具1が用いられる。幼齢木Tとしては、スギ、ヒノキ、ネズ等のヒノキ科;カナムグラなどのアサ科;コナラ、クリ、クヌギ、ウバメガシなどのブナ科;シラカンバ、ハンノキ、ヤシャブシなどのカバノキ科;テンサイなどのヒユ科;イチゴ、モモ、リンゴ、ウメ、ナシ、サクラなどのバラ科;タデ科;アカマツ、クロマツなどのマツ科;イラクサ科;ケヤキなどのニレ科;クルミ科;イチョウ科;マメ科;ヤナギ科;ブドウ科;ナデシコ科;ツバキ科;アブラナ科;ミカン科;セリ科;モクセイ科;イチイ科;マキ科;センダン科;などの植物が挙げられる。このような幼齢木Tは、樹高50cm~70cm程度であり、植樹後3年で樹高150cm程度に生育し、その後は野生動物による食害はほとんど起こらないことが知られている。
【0021】
本実施形態の幼齢木保護具1は、通気性および透光性を有する樹脂製の網状材料から成る筒状体9であって、少なくとも2枚の網状材料が重なる重畳部4、および互いに離反する方向に凸の2つの折曲げ部7a,7bを含む筒状体9と、重畳部4の少なくとも2枚の網状材料を筒状体9の長手方向に沿って平行に接合する2つの接合部3a,3bと、を含む。重畳部4は、帯状の網状材料の長手方向に垂直な幅方向両端部2a,2bを重ねた状態で、長手方向に沿って平行に2つの接合部3a,3bによって接合することによって形成される。
【0022】
網状材料は、樹脂製のモノフィラメント糸を経糸17および緯糸18に用いた平織物から成る。織物は、織機によって幅900mm~1200mmの帯状に製織され、織機に備えられる巻取リールに巻取られた長尺の原反が準備される。この長尺の原反を縫製前に所定長さであるたとえば1700mm毎に裁断して所要枚数(たとえば200~300枚)の短尺の帯状の網状材料を作製し、この網状材料が筒状体9の素材として用いられる。
【0023】
平織とは、経糸17と緯糸18とが交互に交錯した織組織をいう。平織は、糸同士の束縛性が大きく、しっかりとした地合となる。また平織は、糸ずれが起こりにくいので、目の透いた網状材料に好適である。さらに平織は、通気性および透光性に優れているので、幼齢木Tの成長に適した環境を得ることができる。本実施形態において、平織のポリプロピレン繊維とは、プロピレン「-CH2・CHCH3-」を主成分とする長鎖状合成高分子からなる繊維をいう。ポリプロピレンは、比重が0.91と軽く、水に浮き、引張強度が高く、優れた耐薬品性および耐水性を有する。
【0024】
重畳部4は、網状材料の一方の端部2aの側端縁2a1から幅方向に幅B1の位置を1本針の工業用ミシンによって側端縁2a1に沿って平行に縫製して縫目3cを形成し、補助シート11が網状材料の一方の端部2aに縫付けられる。補助シート11は、たとえば軟質ポリ塩化ビニルから成り、重畳部4の幅B2と同一の幅を有し、短尺の網状材料の長さと同一の長さを有する。このような補助シート11を一方の端部2aと、他方の端部2bとの間に介在させることによって、縫製時に両端部2a,2b間のずれを抑制し、工業用ミシンによって高速で縫製して接合部3a,3bを形成しても、縫目を側端縁2a1,2b1と平行に形成することができ、各接合部3a,3bのずれを抑制することができる。幅B1は、たとえば15mmであってよい。
【0025】
網状材料の幅を900mm、重畳部4の幅B2を110mmとしたとき、筒状体9の直径は、円形に換算して251mmであり、網状材料の幅を1200、重畳部4の幅B2を110mmとしたとき、筒状体9の直径は、円形に換算して347mmである。網状材料の幅が900mm~1200mmあれば、ほとんど幼齢木を正常な生育を阻害することなしに筒状体9内に収容することができる。
【0026】
補助シート11が網状材料の一方の端部2aに縫着された後、一方の端部2aと他方の端部2bとを幅B2だけ重ね、一方の側端縁2a1側の縫目3cから幅B3の位置、および他方の側端縁2b1から幅B4の位置を2本針工業用ミシンによって同時に縫着し、周方向に長さB5を有する2つの接合部3a,3bによって接合された重畳部4が形成される。幅B2は、たとえば110mmであってよく、幅B3は、たとえば25mmであってよく、幅B4は、たとえば35mmであってよい。この場合、各接合部3a,3bの長さB5は、35mmである。
【0027】
本発明の他の実施形態では、前述の補助シート11は、互いに接合されるべき各端部2a,2bの位置ずれを抑制するために用いられるが、各端部2a,2bをローラなどの他の手法によって位置決めできる場合には、補助シート11を用いなくてもよい。
【0028】
重畳部4は、少なくとも2枚の網状材料が重ねられた構成であればよい。たとえば重畳部4の引張強度を高くする必要がある場合には、網状材料と同一材料または異なる材料を3枚以上重ねた構成であってもよい。異なる材料としては、たとえば樹脂シート材料であってもよく、網状材料であってもよい。
【0029】
本実施形態では、支柱12の直径φが7mm以上12mm以下、長さが2.1mのFRP(Fiber-Reinforced Plastics)製の棒状部材が使用される。幼齢木保護具1の長さは、たとえば1700mmであり、支柱12は、筒状体9の重畳部4に挿入された状態で、作業者によって地面6に40cm程度打ち込まれることによって、筒状体9は略筒状に開いた状態で地面6に立設される。また、2つの接合部3a,3bは、周方向の長さB5が25mm以上35mm以下とされるので、支柱12を挿入するための構成を別途に筒状体9に設ける必要がなく、重畳部4を形成することによって筒状体9と同時に支柱12を挿入するための隙間13を形成することができる。これによって幼齢木保護具1の製造工程数が少なくて済み、生産性を向上することができる。
【0030】
また、支柱12が2つの接合部3a,3b間でかつ両端部2a,2b間の網状材料の間に挿入された状態では、網状材料の両端部2a,2bの2つの接合部3a,3b間の非接合部分が支柱12に接触するので、支柱12に対する筒状体9の自重によるずれが抑制される。これによって筒状体9を略筒状に地面6から起立させた状態で設置することができる。したがって、幼齢木保護具1の構成が簡素化され、幼齢木Tの収容状態を長期に維持し、幼齢木Tを保護することができる。
【0031】
直径が7mm以上12mm以下の支柱12に対して2つの接合部3a,3b間の周方向の長さB5が25mm以上35mm以下に構成されるので、2つの接合部3a,3b間で重なる網状材料の間の隙間13に支柱12を容易に挿入することができる。支柱12は、網状材料によって挟まれ、支柱12に保持される。これによって、筒状体9に強風または積雪によって荷重が作用しても、筒状体9が荷重によって支柱12に対して容易にずれしまうことが防がれ、幼齢木Tに対する筒状体9の適切な装着状態を維持することができる。筒状体9が荷重によって支柱12に対してずれが生じると、筒状体9は支柱12に沿って上方または下方へ移動する。筒状体9が支柱12に沿って上方へ移動した場合には、筒状体9の下端部が地面6から離れて幼齢木Tを覆った状態を維持できなくなってしまう。また筒状体9が支柱12に沿って下方へ移動した場合には、筒状体9が地面6上に圧縮された状態となって多くの皺を発生し、幼齢木Tの枝が筒状体9に接触し、幼齢木Tの正常な生育を阻害してしまう。これに対し、直径が7mm以上12mm以下の支柱12に接合部3a,3b間の幅方向の長さB5が25mm以上35mm以下に構成されるので、支柱12が網状材料の両端部2a,2bによって適度の圧力で挟まれ、支柱12に対する両端部2a,2bとの間の摩擦力によって筒状体9のずれを抑制することができる。これによって筒状体9を支柱12に固定する必要がなく、幼齢木Tに対する適切な装着状態を維持することができる。
【0032】
また、2つの接合部3a,3bが縫目によって構成されるので、網状材料の両端部2a,2bを工業用ミシンなどの縫製装置によって容易にかつ短時間で縫付け、重畳部4および筒状体9を形成することができる。これによって、幼齢木保護具1の製造作業が容易化され、生産性を向上することができる。縫製装置としては、たとえば2本針を備えた工業用本縫ミシンを用いることができる。
【0033】
本発明の他の実施形態では、筒状体9に用いられる網状材料は、前述のポリプロピレンのモノフィランメント糸に代えて、たとえば、ポリ乳酸繊維である東レ株式会社製の商品名「エコディア」(登録商標)を使用してもよい。幼齢木Tは、たとえば杉、檜などの苗木であり、シカ、熊、野ネズミなど害獣が幼齢木保護具1の外部の下草を食し、幼齢木保護具1内の下枝は枯死するため、下刈り、枝打ち作業を軽減することができる。
【0034】
生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル系重合体又は脂肪族ポリエステルアミド系共重合体である。生分解性樹脂が、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体、ポリヒドロキシブチレート/バリレート共重合体、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、カプロラクトンと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体から選ばれた生分解性樹脂からなる。
【0035】
幼齢木保護具1の筒状体9は、樹脂製のモノフィラメント糸として、ポリ乳酸繊維である東レ株式会社製の商品名「エコディア」を用いることによって、幼齢木保護具1の筒状体9は、経年変化によって水と炭酸ガスとに分解され、幼齢木Tが成長した後は、支柱12だけを撤去すればよく、保守管理の作業負担を軽減することができる。
【0036】
筒状体9は、モノフィラメント糸から成るので、筒状体9自体は、自重で垂れ下がるドレープを生じるが、2つの接合部3a,3bの間の両端部2a,2b間の隙間13に支柱12が挿入されるとともに、筒状体9に2つの折曲げ部7a,7bが設けられるので、筒状体9のいわゆる腰が強くなって剛性が向上される。したがって筒状体9内に幼齢木Tの成長を阻害しない内部空間を形成することができる。重畳部4に支柱12が挿入されなければ、筒状体9を地面6に起立させることが不可能となる。支柱12によって、筒状体9のドレープによる変形が抑制され、地面6に対して起立させた状態で設置することができる。
【0037】
支柱12としては、たとえば直径φが8mm、長さが2.1mのFRP(Fiber-Reinforced Plastics)製のものが使用される。筒状体9の長さが170cmであるとき、支柱12の下端部は、地面6に40cm程度打ち込まれる。
【0038】
筒状体9は、2つ折曲げ部7a,7bを有するので、各折曲げ部7a,7bがいわばリブとして機能し、筒状体9のドレープによる内側への変形を抑制することができる。
【0039】
図5は、筒状体9の構成を模式的に示す断面図である。
図4をも参照して、各折曲げ部7a,7bは、筒状体9の中心軸線L1および2つの接合部3a,3b間の中央に位置する軸線L2を含む第1仮想平面に対して、中心軸線L1を含み第1仮想平面に垂直な第2仮想平面に交差するように位置する。したがって各折曲げ部7a,7bは、第1仮想平面に関してほぼ対称に配置され、互いに離反する方向に凸に形成される。このような折曲げ部7a,7bは、特別な加工によらず、たとえば幼齢木保護具1の製品出荷時の段ボール箱への梱包時に、筒状体9を第1仮想平面に沿って平坦状に折畳むことによって折り目として形成されてよい。
【0040】
また、2つ折曲げ部7a,7bが設けられた筒状体9は、各折曲げ部7a,7bを有していない場合に比べて剛性が高くなるので、筒状体9の中心軸線L1方向の長柱としての座屈強度が高くなり、筒状体9の自重による変形が抑制される。したがって筒状体9内に内部空間を形成し、使用時に幼齢木Tが正常に成長可能な空間を確保することができる。2つの折曲げ部7a,7bは、筒状体9を平坦に折畳むことによって、折り目として形成されるので、2つの折曲げ部7a,7bは、互いに離反する方向に凸に形成され、重畳部4に支柱12を挿入して筒状体9を起立させると、各折曲げ部7a,7bによる剛性によって、網状材料の各折曲げ部7a,7bに連なる部分の自重による内側への変形(ドレープ)が抑制され、筒状体9を平坦状に閉じた状態から各折曲げ部7a,7bが離反する方向に開いた状態とし、筒状体9が自重で内側に折れ曲がって筒状体9の内部空間を減少させてしまうことが防がれる。このように2つの折曲げ部7a,7bを筒状体9に設けることによって、部品点数の少ない簡単な構成で、筒状体9の剛性を高くし、幼齢木Tの正常な成長を妨げない空間を確保することができる。
【0041】
重畳部4は、帯状の網状材料の長手方向に垂直な幅方向両端部2a,2bを重ねた状態で、長手方向に沿って平行な2つの接合部3a,3bで接合されるので、重畳部4の2つの接合部3a,3b間に支柱12を挿入することができる。2つの接合部3a,3bの幅方向の長さB5は、支柱12の直径φに対応した所定寸法に選ばれる。長さB5の所定寸法としては、支柱12の直径φがたとえば8mmであるとき、25mm以上35mm以下に選ばれる。これによって支柱12を2つの接合部3a,3bの間の端部2a,2bによって、適度の圧力で支柱12を挟着することができる。適度な挟着力とは、支柱12の重畳部4の間への支柱12の挿入が容易であり、挿入後の支柱12が重畳部4との間から容易に抜け出さない程度の摩擦力を生じ得る程度の力をいう。
【0042】
本実施形態の幼齢木保護具1は、網状材料が2つの接合部3a,3bで接合された重畳部4を有するので、網状材料が織物であっても、筒状体9の糸のほつれの発生が抑制され、長期使用による経年変化が少なく、10~20年の長期にわたって筒状体9によって幼齢木Tを食害から保護することができる。また、樹脂製のモノフィラメント糸としてポリプロピレン糸を用いることによって、日射、風雪および降雨に対して高い耐性を有し、経年変化による劣化が生じ難く、幼齢木Tの保護に対して高い信頼性を得ることができる。
【0043】
FRP製の支柱12は、弾性変形可能な荷重の範囲が広く、筒状体9に積もった雪の重み、および強風などによって大きな荷重が支柱12に作用しても、支柱12の破損または変形を抑制することができる。筒状体9に積もった雪が解け、筒状体9の荷重が軽減されると、支柱12は、荷重を受ける前の直線形状に戻る。また、FRP製の支柱12は軽量であり、山中などの現場での持ち運びに便利である。支柱12の使用本数は、1本に限定されず、複数本が用いられてもよい。この場合、1本だけが重畳部4に挿入され、残余の支柱12は、重畳部4に挿入された1本の支柱12に紐またはワイヤによって結束されてもよい。支柱12の直径は、7mm以上12mm以下に限定されるものではなく、重畳部4の各接合部3a,3b間の網状材料の間に挿入可能であれば、12mmを超える支柱12が用いられてもよい。
【0044】
図3では、経糸17を○印で表し、緯糸18を実線で表している。経糸17は幼齢木保護具1の長さ方向に延びており、緯糸18は経糸17と垂直な幼齢木保護具1の周方向に延びている。幼齢木保護具1の長さは、約1500mm~1700mmであり、筒状体9の円換算径は、約350mm~600mmである。
【0045】
筒状体9の網状材料は、たとえば、1インチあたり18~24本の経糸17と、1インチあたり18~24本の緯糸18とによって構成される。経糸17および緯糸18は、たとえば380デニール以上480デニール以下のポリプロピレンのモノフィラメント糸が使用される。
【0046】
ポリプロピレンの特性としては、比重が0.90~0.91、引張強度が280kgf/cm2、曲げ強度が385~560kgf/cm2、高い耐酸性、耐アルカリ性および耐有機溶剤性を有する。また、ポリプロピレンは、耐候性試験500時間後の強度残率が85~95%の高耐候性のグレードのものを好適に用いることができる。このようなポリプロピレンから成るモノフィラメント糸を経糸17および緯糸18として用いる織物によって筒状体9が形成されるので、軽量でありながら高い強度を有し、幼齢木保護具1の設置作業の作業者へ作業負荷が少なく、害獣による衝突力、噛付き力、爪掛け力に抗し、幼齢木Tを長期にわたって保護することができる。
【0047】
ポリプロピレンのモノフィラメント糸を用いることによって、日射による劣化が少なく、筒状体9の通気性を適度に確保することができる。これによって筒状体9内の空気の滞留が抑制され、筒状体9内が日射による温度上昇によって、幼齢木Tが枯れてしまうことを防止することができる。また、幼齢木Tの葉先が筒状体9を製織する経糸17と緯糸18と隙間から筒状体9の外側に突出して、幼齢木Tが害獣の食害に晒されることを防止することができる。
【0048】
重畳部4に挿通された支柱12は、各端部2a,2bに覆われているので、幼齢木Tが支柱12に巻き付くことを防止することができる。これによって、幼齢木Tが支柱12に巻き付いて、幼齢木Tの成長が妨げられることを防止することができる。また、重畳部4は、周方向に筒状体9に連なっているので、該幼齢木Tが挿入部3に巻き付くことはできず、幼齢木Tが重畳部4に巻き付いて、幼齢木Tの成長が妨げられることを防止することができる。
【0049】
筒状体9の下端部は、幼齢木Tが植付けられた地面6に打込まれた杭10によって固定される。杭10は、細長な竹製の短尺材を用いて作製可能である。杭10の打ち込み方向先端部10aは、杭打ちされるときに杭10が地面6から受ける抵抗を低減するために、鋭角に形成されている。杭10の他端部10bには、打ち込み方向に垂直な方向に突出し、筒状体9に押える係止部10cが設けられている。係止部10cは、たとえば他端部10bに切欠かれた形成された凹部によって実現されてもよい。
【0050】
幼齢木保護具1は、筒状体9の下端部が杭10によって地面6に固定されるので、筒状体9の下端部と、幼齢木Tが植付けられている地面6との間に隙間が生じることが防がれ、幼齢木Tを筒状体9によって覆われた状態に維持することができる。これによって、筒状体9が風に煽られて、幼齢木Tが筒状体9から外部に露出することが防がれる。また、害獣が筒状体9の下端部を捲り上げて、幼齢木Tを損傷することが防がれ、幼齢木Tが害獣から被害を受けることが防がれる。
【0051】
図6は、本発明の他の実施形態の幼齢木保護具1aの外観を示す斜視図である。前述の実施形態と対応する部分には、同一の参照符を付し、重複する説明は省略する。前述の実施形態の幼齢木保護具1では、重畳部4に挿入した支柱12を地面6に打込んで筒状体9を支柱12に保持したが、本実施形態の幼齢木保護具1aでは、積雪量または強風の多い地域で用いるために、重畳部4に挿入された支柱12を1または複数のクリップ20によって重畳部4の外側から挟持し、支柱12に筒状体9を固定してもよい。クリップ20は、支柱12を挿入部3に挿入した状態で挿入部3上から嵌着できる構成であればよく、たとえばアルミニウム合金またはステンレス鋼などの金属製の円筒体の周方向の一部が分断された断面が略C字状の部材によって構成されてもよい。
【0052】
このようなクリップ20によって支柱12に挿入部3を挟着することによって、強風が吹付ける地域である場合に筒状体9の支柱12に対するずれを抑制し、筒状体9を支柱12に強固に固定し、筒状体9の幼齢木Tに対するより確実な装着状態を実現し、筒状体9と地面6とのあいだの隙間の発生を防止することができる。
【0053】
前述の実施形態では、2つの接合部3a,3bは、ミシンによる縫目によって構成されたが、本発明の他の実施形態では、熱融着または超音波接合によって2つの接合部3a,3bが構成されてもよい。
【0054】
本発明によれば、幼齢木保護具1,1aは、通気性および透光性を有する樹脂製の網状材料から成る筒状体9を備える。筒状体9は、少なくとも2枚の網状材料が重なる重畳部4、および互いに離反する方向に凸の2つの折曲げ部7a,7bを含む。筒状体9は、使用時に地面6に植付けられた幼齢木Tを覆うように装着され、重畳部4に支柱12を挿入し、支柱12の一端部が地面6に打込まれることによって、筒状体9を地面6に記載して設置することができる。筒状体9は、2つの折曲げ部7a,7bを有するので、筒状体9を支柱12によって地面6に起立して設置すると、作業者が筒状体9を手作業で筒状に広げる作業を行わずに、2つの折曲げ部7a,7bによって筒状体9を平坦状に閉じた状態から筒状に開いた状態に形状変化させることができる。このように幼齢木保護具1の組立作業が容易化され、簡素な構成で幼齢木Tの成長を妨げない幼齢木保護具を提供することができる。
【0055】
また本発明によれば、支柱12が繊維強化プラスチックから成るので、軽量で高い強度を有し、積雪および強風による荷重に対して高い耐性が得られ、積雪および強風による幼齢木保護具1,1aの倒壊を抑制することができる。また、繊維強化プラスッチックは、優れた疲労特性を有するので、積雪および強風などの繰返し荷重に対して高い耐性を有し、筒状体9を長期にわたって保持することができ、高い耐候性を有する幼齢木保護具1,1aを提供することができる。
【0056】
また本発明によれば、支柱12は直径が7mm以上12mm以下の細い棒状部材が用いられる。また、2つの接合部3a,3bの幅方向の間隔が25mm以上35mm以下とされるので、支柱12を挿入するための構成を別途に筒状体9に設ける必要がなく、重畳部4を形成することによって筒状体9と同時に支柱12を挿入するための部分を形成することができ、これによって幼齢木保護具1,1aの製造工程が少なくて済み、生産性を向上することができる。また、支柱12が2つの接合部3a,3b間でかつ両端部2a,2b間に挿入された状態では、支柱12に網状材料の両端部2a,2bの2つの接合部3a,3b間の部分が密着するので、支柱12に対する筒状体9の自重によるずれが抑制される。これによって内部空間を有する筒状の筒状体9を地面6から起立させた状態に維持し、構成が簡素化され、幼齢木Tを長期に保護可能な幼齢木保護具1,1aを提供することができる。
【0057】
また本発明によれば、2つの接合部3a,3bが縫製糸による縫目によって構成されるので、網状材料の幅方向の両端部2a,2bを、たとえば工業用ミシンなどの縫製装置によって容易にかつ短時間で縫製し、重畳部4および筒状体9を形成することができる。これによって、幼齢木保護具1,1aの製造作業を簡素化することができ、生産性を向上し、製造コストを低減することができる。
【0058】
また本発明によれば、網状材料を構成するモノフィラメント糸の樹脂としてポリプロピレンが用いられる。ポリプロピレンは、比重が0.90~0.91と水よりも小さく、ポリプロピレンのモノフィラメント糸から成る網状材料によって形成された筒状体9は、優れた耐候性を有するとともに、降雨によって水に浸漬しても浮遊し、水没することが防がれ、土壌汚染を抑制することができる。
【0059】
また本発明によれば、網状材料が380デニール以上480デニール以下のモノフィラメント糸の平織物によって構成されるので、野生動物からの襲撃などによって筒状体9が爪などによって高い引張力を受けても、モノフィラメント糸が容易に破断することが防がれ、動物の襲来、強風、積雪などに対して高い耐荷重性を有する筒状体9を実現することができる。これによって、筒状体9が野生動物からの襲撃、強風および積雪などによって荷重が作用しても、容易にモノフィラメント糸が破断することが防がれ、幼齢木Tを覆った状態を維持し、幼齢木Tの損傷を防止することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、また、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1,1a 幼齢木保護具
2a,2b端部
3a,3b 接合部
4 重畳部
6 地面
T 幼齢木
7a,7b 折曲げ部
8 覆い部
9 筒状体
12 支柱
13 隙間
2a 第1側縁辺
2b 第2側縁辺
20 クリップ
【要約】
【課題】 構成が簡素化され、組立作業が容易化され、幼齢木の成長を妨げない幼齢木保護具を提供する。
【解決手段】 幼齢木保護具1は、通気性および透光性を有する樹脂製の網状部材から成る筒状体9であって、少なくとも2枚の網状部材が重なる重畳部4、および互いに離反する方向に凸の2つの折曲げ部7a,7bを含む筒状体9と、重畳部4の少なくとも2枚の網状材料を筒状体9の長手方向に沿って平行に接合する2つの接合部3a,3bと、を含む。
【選択図】
図1