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特許7606252状態変化推定システム、状態変化推定プログラム及び状態変化推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】状態変化推定システム、状態変化推定プログラム及び状態変化推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20241218BHJP
   A61B 6/46 20240101ALI20241218BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241218BHJP
【FI】
A61B6/03 560D
A61B6/46 506Z
A61B6/03 560T
G06T7/00 612
G06T7/00 616
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023210865
(22)【出願日】2023-12-14
(62)【分割の表示】P 2020083549の分割
【原出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2024026368
(43)【公開日】2024-02-28
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】512028116
【氏名又は名称】株式会社アドダイス
(74)【代理人】
【識別番号】100141427
【弁理士】
【氏名又は名称】飯村 重樹
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大輔
【審査官】清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0233233(US,A1)
【文献】国際公開第2015/019556(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0005461(US,A1)
【文献】特開2020-028706(JP,A)
【文献】特開2007-090077(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0122076(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111127467(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/58
A61B 5/055
G01R 33/00-33/64
G01N 24/00-24/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の前記断層画像において前記対象物が占有する領域を定量的に解析する断層画像解析手段と、
該断層画像解析手段で解析した前記領域に基づいて前記対象物の現在の状態を第1状態として推定する第1状態推定手段と、
該第1状態推定手段で推定した前記第1状態に基づいて任意の時間の経過後の前記対象物の状態の変化を第2状態として推定する第2状態推定手段と、
該第2状態推定手段で推定した前記第2状態と前記対象物に作用することによって前記対象物の重症度が急変する可能性を推定する基礎となる外的要因が記憶された外的要因データとに基づいて前記対象物の重症度が急変する可能性を推定する指標を生成する指標生成手段と、
を備える状態変化推定システム。
【請求項2】
前記第1状態推定手段は、
前記領域と前記対象物の前記第1状態を規定する予め設定された第1状態モデルとを対比して前記第1状態を推定する、請求項1に記載の状態変化推定システム。
【請求項3】
前記第1状態モデルが機械学習によって生成される、請求項2に記載の状態変化推定システム。
【請求項4】
前記断層画像解析手段は、
連続する前記断層画像における前記対象物の二次元の領域と対応するピクセルの数を算出し、連続する前記断層画像ごとに算出した前記ピクセルの数の総和によって前記対象物の体積を前記領域として算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の状態変化推定システム。
【請求項5】
前記第2状態推定手段は、
前記第1状態推定手段で推定した前記第1状態と該第1状態を推定してから任意の時間の経過後に前記第1状態推定手段で推定した新たな第1状態とを対比して前記第2状態を推定する、請求項1~4のいずれか1項に記載の状態変化推定システム。
【請求項6】
前記外的要因データは、
前記対象物を有する対象者の身体に関する身体的要因データ、前記対象者の生活習慣に関する生活習慣的要因データ、前記対象者に施された医療的診断に関する医療的診断要因データのうちの少なくとも一を含む、請求項2に記載の状態変化推定システム。
【請求項7】
コンピュータに、
連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の前記断層画像において前記対象物が占有する領域を定量的に解析し、
解析した前記領域に基づいて前記対象物の現在の状態を第1状態として推定し、
推定した前記第1状態に基づいて任意の時間の経過後の前記対象物の状態の変化を第2状態として推定し、
推定した前記第2状態と前記対象物に作用することによって前記対象物の重症度が急変する可能性を推定する基礎となる外的要因が記憶された外的要因データとに基づいて前記対象物の重症度が急変する可能性を推定する指標を生成する、
処理を実行させる状態変化推定プログラム。
【請求項8】
コンピュータが、
連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の前記断層画像において前記対象物が占有する領域を定量的に解析し、
解析した前記領域に基づいて前記対象物の現在の状態を第1状態として推定し、
推定した前記第1状態に基づいて任意の時間の経過後の前記対象物の状態の変化を第2状態として推定し、
推定した前記第2状態と前記対象物に作用することによって前記対象物の重症度が急変する可能性を推定する基礎となる外的要因が記憶された外的要因データとに基づいて前記対象物の重症度が急変する可能性を推定する指標を生成する、
状態変化推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態変化推定システム、状態変化推定プログラム及び状態変化推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、腫瘍、動脈瘤あるいは慢性疾患の患部等の対象物の観察や治療等を行う場合に、観察や治療等の前後に亘る対象物の経時的な画像を対比して、観察や治療等の前後に亘る対象物の変化を推定する技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、治療の前後に亘る対象物の経時的な画像を対比する際に、対象物の治療結果の観察に適した画像表示を効果的に行うことができることを目的とした医用画像診断支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-87601公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、対象物の経時的な画像を対比するに際して、対象物の大きさを測定する場合には、一般的に、撮像装置によって画像として取得された対象物に医師等の医療従事者がスケールを当てて対象物の径を測定する手法が採用されることがある。
【0006】
このような手法で対象物の径を測定して対象物の大きさを測定する場合は、測定を行う医療従事者が対象物の任意の部位にスケールを当てて測定することになるところ、スケールを当てる任意の部位の選択は医療従事者の主観的な判断に委ねられることになることから、対象物の大きさを適切に測定することができないことが想定される。
【0007】
その結果、対象物の対比による経時的な変化を適切に把握することができないことが懸念される。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、対象物の状態の経時的な変化を客観的に把握することができる状態変化推定システム、状態変化推定プログラム及び状態変化推定方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る状態変化推定システムは、連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の断層画像において対象物が占有する領域を定量的に解析する断層画像解析手段と、断層画像解析手段で解析した領域に基づいて対象物の現在の状態を第1状態として推定する第1状態推定手段と、第1状態推定手段で推定した第1状態に基づいて任意の時間の経過後の対象物の状態の変化を第2状態として推定する第2状態推定手段と、を備えるものである。
【0010】
これによれば、断層画像において対象物が占有する領域を定量的に解析して対象物の現在の状態を第1状態として推定し、第1状態に基づいて、任意の時間の経過後の対象物の状態の変化を第2状態として推定することから、対象物の状態の経時的な変化を客観的に把握することができる。
【0011】
この状態変化推定システムは、第2状態推定手段で推定した第2状態と対象物に作用すると想定される外的要因が記憶された外的要因データとに基づいて対象物に関する指標を生成する指標生成手段を備えるものである。
【0012】
この状態変化推定システムの第1状態推定手段は、領域と対象物の第1状態を規定する予め設定された第1状態モデルとを対比して第1状態を推定するものであってもよく、この場合において、第1状態モデルが機械学習によって生成されるものであってもよい。
【0013】
この状態変化推定システムの断層画像解析手段は、連続する断層画像における対象物の二次元の領域と対応するピクセルの数を算出し、連続する断層画像ごとに算出したピクセルの数の総和によって対象物の体積を領域として算出するものである。
【0014】
この状態変化推定システムの第2状態推定手段は、第1状態推定手段で推定した第1状態と第1状態を推定してから任意の時間の経過後に第1状態推定手段で推定した新たな第1状態とを対比して第2状態を推定するものである。
【0015】
この状態変化推定システムで処理される外的要因データは、対象物を有する対象者の身体に関する身体的要因データ、対象者の生活習慣に関する生活習慣的要因データ、対象者に施された医療的診断に関する医療的診断要因データのうちの少なくとも一を含むものであってもよい。
【0016】
上記目的を達成するための本発明に係る状態変化推定システムは、連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の断層画像において対象物が占有する領域を定量的に解析する断層画像解析手段と、断層画像解析手段で解析した領域と対象物に作用すると想定される外的要因が記憶された外的要因データとに基づいて対象物の現在の状態を第1状態として推定する第1状態推定手段と、第1状態推定手段で推定した第1状態と外的要因データとに基づいて任意の時間の経過後の対象物の状態の変化を第2状態として推定する第2状態推定手段と、を備えるものである。
【0017】
上記目的を達成するための本発明に係る状態変化推定プログラムは、連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の断層画像において対象物が占有する領域を定量的に解析する断層画像解析手段と、断層画像解析手段で解析した領域に基づいて対象物の現在の状態を第1状態として推定する第1状態推定手段と、第1状態推定手段で推定した第1状態に基づいて任意の時間の経過後の対象物の状態の変化を第2状態として推定する第2状態推定手段と、を備えるものである。
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る状態変化推定方法は、連続する二次元の断層画像を撮像する撮像装置で撮像した対象物の断層画像において対象物が占有する領域を定量的に解析し、解析した領域に基づいて対象物の現在の状態を第1状態として推定し、推定した第1状態に基づいて任意の時間の経過後の対象物の状態の変化を第2状態として推定するものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、対象物の状態の経時的な変化を客観的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る状態変化推定システムの構成の概略を説明するブロック図である。
図2】コンピュータ断層撮像装置の概略を説明するブロック図である。
図3】コンピュータ断層撮像装置で撮像して取得した断層画像の一部を示す図である。
図4】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムのコンピュータのハードウェア構成の概略を説明するブロック図である。
図5】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムのサービス事業者端末のストレージの構成の概略を説明するブロック図である。
図6】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムで処理される外的要因データの概略を説明する図である。
図7】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムの状態変化推定プログラムの断層画像解析手段の処理の概略を説明する図である。
図8】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムの状態変化推定プログラムの断層画像解析手段の処理の概略を説明する図である。
図9】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムの状態変化推定プログラムの第1状態推定手段の処理の概略を説明する図である。
図10】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムの状態変化推定プログラムの第2状態推定手段の処理の概略を説明する図である。
図11】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムの状態変化推定プログラムの指標生成手段の処理の概略を説明する図である。
図12】同じく、本実施の形態に係る状態変化推定システムの状態変化推定プログラムの指標生成手段で生成した指標に基づく分布状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、図1図12に基づいて、本発明の実施の形態に係る状態変化推定システムについて説明する。
【0022】
なお、本実施の形態では、状態変化推定システムで処理する対象物が、対象者である患者の胸部に感染症によって発生した患部である場合を例として説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る状態変化推定システムの構成の概略を説明するブロック図である。図示のように、状態変化推定システム10は、コンピュータ断層撮像装置20、コンピュータ断層撮像装置20と連結される医療機関端末30、及びサービス事業者端末40を備える。
【0024】
本実施の形態では、医療機関端末30及びサービス事業者端末40が、ネットワークを介して互いにアクセス可能に接続される。
【0025】
コンピュータ断層撮像装置20及び医療機関端末30は、本実施の形態では、患者Pに医療行為を提供する医療機関1に配備され、サービス事業者サーバ40は、状態変化推定システム10を用いたサービスを提供するサービス事業者2に配備される。
【0026】
図2は、コンピュータ断層撮像装置20の概略を説明するブロック図である。図示のように、コンピュータ断層撮像装置20は、本実施の形態では、患者Uの身体の任意の部位を撮像する用途で使用されるものであって、撮像した部位の連続する二次元の断層画像D1を取得する。
【0027】
図3は、患者Uの胸部を撮像した連続する断層画像D1の一部の断層画像D1aを一例として示す図であり、図示のように、断層画像D1には、患部Oが撮像されている。
【0028】
図1で示す医療機関端末30及びサービス事業者端末40は、本実施の形態では、ほぼ同様のハードウェア構成を具備するコンピュータ、例えばデスクトップ型あるいはノート型のコンピュータによって実装される。
【0029】
図4は、医療機関端末30及びサービス事業者端末40が実装されるコンピュータのハードウェア構成の概略を説明するブロック図である。
【0030】
図示のように、コンピュータは、プロセッサ101、メモリ102、ストレージ103、送受信部104、及び入出力部105を主要構成として備え、これらが互いにバス106を介して電気的に接続される。
【0031】
プロセッサ101は、コンピュータの動作を制御し、各要素間におけるデータの送受信の制御や、アプリケーションプログラムの実行に必要な処理等を行う演算装置である。
【0032】
このプロセッサ101は、本実施の形態では例えばCPU(Central Processing Unit)であり、後述するストレージ103に格納されてメモリ102に展開されたアプリケーションプログラムを実行して各処理を行う。
【0033】
メモリ102は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶装置で構成される主記憶装置、及びフラッシュメモリやHDD(Hard Disc Drive)等の不揮発性記憶装置で構成される補助記憶装置を備える。
【0034】
このメモリ102は、プロセッサ101の作業領域として使用される一方、コンピュータの起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、及び各種の設定情報等が格納される。
【0035】
ストレージ103は、アプリケーションプログラムや各種の処理に用いられるデータ等が格納されている。
【0036】
送受信部104は、コンピュータをネットワークに接続する。この送受信部104は、Bluetooth(登録商標)やBLE(Bluetooth Low Energy)といった近距離通信インターフェースを具備するものであってもよい。
【0037】
入出力部105には、必要に応じて、キーボードやマウスといった情報入力機器やディスプレイ等の出力機器が接続される。本実施の形態では、キーボード、マウス及びディスプレイがそれぞれ接続される。
【0038】
バス106は、接続したプロセッサ101、メモリ102、ストレージ103、送受信部104及び入出力部105の間において、例えばアドレス信号、データ信号及び各種の制御信号を伝達する。
【0039】
図5は、サービス事業者端末40のストレージ103の構成の概略を説明するブロック図である。図示のように、ストレージ103は、ストレージ103の記憶領域によって実現されるデータベース41、及び状態変化推定プログラム42を備える。
【0040】
データベース41には、本実施の形態では、コンピュータ断層撮像装置20で撮像した患者Uの身体の任意の部位の連続する断層画像D1、及び外的要因データD2が格納される。
【0041】
図6は、外的要因データD2の概略を説明する図である。図示のように、外的要因データD2は、患部Oに作用すると想定される外的要因である身体的要因データd1、生活習慣的要因データd2及び医療的診断要因データd3を備える。
【0042】
身体的要因データd1は、患者Uの身体に関するデータであって、本実施の形態では例えば、「年齢(高齢)」、「性別(男性)」等の項目によって構成される。
【0043】
生活習慣的要因データd2は、患者Uの生活習慣に関するデータであって、本実施の形態では例えば、「喫煙歴」、「肥満度」等の項目によって構成される。
【0044】
医療的診断要因データd3は、患者Uに施された医療的診断に関するデータであって、本実施の形態では例えば、「CT所見」、「SOFAスコアの程度」、「HScoreの程度」、「酸素飽和度の程度」、「PCR検査のウイルス量」、「血液検査」、「心筋トロポニンIの判定」、「フェリチン値」、「クレアチニン値」、「基礎疾患の有無」、「消化器症状の有無」等の項目によって構成される。
【0045】
図5で示す状態変化推定プログラム42は、本実施の形態では、断層画像解析部42a、第1状態推定部42b、第2状態推定部42c及び指標生成部42dを備える。
【0046】
断層画像解析部42aは、本実施の形態では、連続する断層画像D1において患部Oが占有する領域を定量的に解析するモジュールである。
【0047】
図7及び図8は、断層画像解析部42aの処理の概略を説明する図である。図7で示すように、断層画像解析部42aは、患部Oを撮像した連続する断層画像D1の一部の断層画像(例えば断層画像D1a)において、患部Oが占有する二次元の領域と対応するピクセルPの数を算出する。
【0048】
同様に、断層画像解析部42aは、図8で示すように、患部Oを撮像した連続する断層画像D1の他の断層画像(例えば断層画像D1b~D1n)において、患部Oが占有する二次元の領域と対応するピクセルPの数を算出する。
【0049】
続いて、断層画像解析部42aは、断層画像D1aから断層画像D1nまでのピクセルPの数を積算し、ピクセルPの数の総和によって患部Oの体積Vを患部Oの領域として算出する。
【0050】
図5で示す第1状態推定部42bは、連続する断層画像D1において患部Oが占有する領域に基づいて患部Oの現在の状態を第1状態として推定するモジュールであって、本実施の形態では、断層画像解析部42aで算出した患部Oの体積Vに基づいて、患部Oの現在の状態を第1状態として推定する。
【0051】
この第1状態推定部42bは、本実施の形態では、人工知能モジュールによって実装されるものであって、例えば、胸部に発生する種々の患部の画像に基づいて、学習データを生成する。
【0052】
さらに、第1状態推定部42bは、任意の教師データ(本実施の形態では、例えば感染症によって胸部に発生した患部の画像)に基づいて、生成した学習データで機械学習を行うことによって、学習済みモデルを生成する。
【0053】
機械学習を行う手法としては、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)等、各種のアルゴリズムが適宜用いられる。
【0054】
学習済みモデルは、本実施の形態では、例えば炎症の三次元的な範囲の広狭等によって、患部Oの現在の状態である第1状態を規定する第1状態モデルである。
【0055】
続いて、第1状態推定部42bは、図9で示すように、生成した第1状態モデルM1と患部Oの体積Vとを対比して、体積Vから把握される患部Oの現在の状態である第1状態を自律的に推定する。
【0056】
本実施の形態では、体積Vから把握される患部Oと一致する程度が84%と最も高い「B」を、患部Oの現在の状態である第1状態として推定する。
【0057】
図5で示す第2状態推定部42cは、第1状態推定部42bで推定した第1状態に基づいて、任意の時間の経過後の患部Oの状態の変化を第2状態として推定するモジュールである。
【0058】
第2状態推定部42cは、本実施の形態では、第1状態推定部42bで推定した患部Oの第1状態と、第1状態を推定してから任意の時間の経過後に第1状態推定部42bで推定した患部Oの新たな第1状態とを対比して、患部Oの第2状態を推定する。
【0059】
この第2状態推定部42cは、本実施の形態では、人工知能モジュールによって実装されるものであって、例えば、時間の経過と患部Oの体積Vの変化との相関による学習データで機械学習を行うことによって、学習済みモデルを生成する。
【0060】
学習済みモデルは、本実施の形態では、任意の時間の経過の前後に亘る患部Oの体積Vの変化を、例えば「速い」あるいは「遅い」といった速度的な概念で第2状態を規定する第2状態モデルM2である。
【0061】
具体的には、図10で示すように、患部OのT日目の第1状態が「B」であって、患部OのT+X日目の第1状態が「C」である場合は、体積Vの変化から把握される患部Oの状態の変化である第2状態を自律的に推定する。
【0062】
本実施の形態では、例えば、第1状態が「B」の患部Oが、T+2日目に第1状態「C」に変化したとすれば、第2状態として、患部Oの状態の変化は「速い」と推定する。
【0063】
図5で示す指標生成部42dは、第2状態推定部42cで推定した第2状態と外的要因データD2とに基づいて、患部Oに関する指標を生成するモジュールであって、本実施の形態では、指標として患部Oの重症度指標を生成する。
【0064】
ここで、外的要因データD2は、本実施の形態では、患部Oに作用することによって患部Oの重症度が急変する可能性を推定する基礎となるデータとして用いられる。
【0065】
この指標生成部42dは、本実施の形態では、人工知能モジュールによって実装されるものであって、例えば、第2状態と外的要因データD2との相関による学習データで機械学習を行うことによって、学習済みモデルを生成する。
【0066】
図11は、指標生成部42dの処理の概略を説明する図である。図示のように、指標生成部42dは、患部Oの重症度をi0~i5に区分するとともに、i0~i1を軽症者、i2~i4を中等症者及びi5を重症者に分類して、重症度指標Iを生成する。
【0067】
本実施の形態では、例えば、第2状態が「遅い」と推定され、外的要因がない場合は、重症度はi0であると示され、例えば、第2状態が「遅い」と推定され、外的要因が「女性」である場合は、重症度はi1であると示される。
【0068】
一方、例えば、第2状態が「遅い」と推定され、外的要因が「喫煙歴なし」の場合は、重症度はi2であると示され、第2状態が「遅い」と推定され、外的要因が「喫煙歴なし、基礎疾患なし」の場合は、重症度はi3であると示され、第2状態が「速い」と推定され、外的要因が「基礎疾患あり、血液検査の結果不良」の場合は、重症度はi4であると示される。
【0069】
さらに、例えば、第2状態が「速い」と推定され、外的要因において「PCR検査のウイルス量が多い」場合は、重症度はi5であると示される。
【0070】
次に、状態変化推定システム10の運用方法について説明する。
【0071】
例えば、図1で示す任意の医療機関1において、感染症の罹患が懸念される複数の患者Uの胸部をコンピュータ断層撮像装置20で撮像して、連続する断層画像D1(断層画像D1aから断層画像D1n)を取得する。
【0072】
連続する断層画像D1aから断層画像D1nにおいて患部Oが占有する領域に対応するピクセルPの数を積算し、ピクセルPの数の総和によって患部Oの体積Vを患部Oの領域として算出し、患部Oの体積Vに基づいて、患部Oの現在の状態を第1状態として推定する。
【0073】
第1状態として推定したしかるべき後(例えば2日後)、患部Oの現在の状態を新たな第1状態として推定し、2日間の時間の経過の前後に亘る第1状態を対比して、患部Oの状態の変化を第2状態として推定する。
【0074】
続いて、第2状態と外的要因データD2とに基づいて、患部Oの重症度指標Iを生成する。
【0075】
図12は、重症度指標Iから把握される患部Oの重症度に基づく患者Uの分布状態を説明する図である。図示のように、重症度がi0の患者Uは3人、重症度がi1の患者Uは2人、重症度がi2の患者Uは2人、重症度がi3の患者Uは3人、重症度がi4の患者Uは2人、かつ重症度がi5の患者Uは1人である。
【0076】
この重症度指標Iに基づいて、医療機関1は、例えば、重症度i0及び重症度i1で軽症者とされた5人の患者Uに対しては、自宅療養あるいは宿泊施設での宿泊療養の措置とし、重症度i5で重症者とされた1人の患者Uに対しては、感染症指定医療機関へ搬送する措置とする。
【0077】
一方、重症度i2~重症度i4で中等症者とされた7人の患者Uに対しては、例えば、重症度i2及び重症度i3の5人の患者Uは、症状が急変する可能性は高くないと判断して医療機関1に入院させて治療する措置とし、重症度i4の2人の患者Uは、症状が急変する可能性が高いと判断して感染症指定医療機関へ搬送する措置とする等、重症度に応じた措置を講じる。
【0078】
このように、医療機関1において、感染症の罹患が懸念される複数の患者Uの重症度を把握することができ、重症度に応じた措置を適切に講じることができる。
【0079】
したがって、例えば、極めて短期間で広範囲に蔓延する流行性の感染症が発生した場合に想定される、感染者の数が医療機関の許容限度を超えた状態である、いわゆる医療崩壊といった事態の招来を未然に回避することができる。
【0080】
このような重症度指標Iを生成するに際して、本実施の形態の状態変化推定システム10は、断層画像D1において患部Oが占有する領域を定量的に解析して患部Oの現在の状態を第1状態として推定し、第1状態に基づいて、任意の時間の経過後の患部Oの状態の変化を第2状態として推定することから、患部Oの状態の経時的な変化を客観的に把握することができる。
【0081】
特に、本実施の形態では、断層画像D1において患部Oが占有する二次元の領域と対応するピクセルPの数に基づいて患部Oの体積Vを算出することから、患部Oの状態の経時的な変化を把握する際の客観性を向上させることができる。
【0082】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0083】
上記実施の形態では、外的要因データD2は、患部Oに作用することによって患部Oの重症度が急変する可能性を推定する基礎となるデータとして用いられるものであって、第2状態推定部42cで患部Oに関する指標を生成する際に用いられる場合を説明したが、この場合に限られることなく、種々の場合に用いられるものであってもよい。
【0084】
例えば、第1状態推定部42bにおいて、外的要因データD2を、第1状態モデルM1と患部Oの体積Vとの対比結果に適用して、第1状態を推定するようにしてもよい。
【0085】
さらに、第2状態推定部42cにおいて、外的要因データD2を、患部Oの第1状態と患部Oの新たな第1状態との対比結果に適用して、第2状態を推定するようにしてもよい。
【0086】
上記実施の形態では、断層画像D1において患部Oが占有する領域を定量的に解析するに際して、患部Oの体積Vを領域として算出する場合を説明したが、断層画像D1の任意の一部(例えば断層画像D1a)において患部Oが占有する面積を領域として算出するものであってもよい。
【0087】
上記実施の形態では、第1状態推定部42bが人工知能モジュールによって実装され、機械学習によって生成された第1状態モデルM1によって第1状態を推定する場合を説明したが、機械学習によらないで患部Oの第1状態を予め規定したテーブルを第1状態モデルとして準備し、この第1状態モデルと患部Oの領域とを対比して第1状態を推定するものであってもよい。
【0088】
同様に、第2状態推定部42cについても、機械学習によらないで患部Oの第2状態を予め規定したテーブルを第2状態モデルとして準備してもよい。
【0089】
上記実施の形態では、サービス事業者端末40がサービス事業者2に配備される場合を説明したが、サービス事業者端末40はクラウド環境で実装されるサーバであってもよい。
【0090】
さらには、サービス事業者端末40を別途配備することなく、サービス事業者端末40と同様の機能を医療機関端末30に実装するものであってもよい。
【0091】
上記実施の形態では、対象物が患者Uの胸部に感染症によって発生した患部Oである場合を説明したが、腫瘍、動脈瘤、慢性疾患の患部、あるいは培養する組織等、種々の組織が対象物となりうる。
【0092】
さらに、第2状態推定部42cで推定する対象物である組織の状態の変化は、組織の成長による状態の変化であってもよいし、組織の減衰による状態の変化であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 医療機関
2 サービス事業者
10 状態変化推定システム
20 コンピュータ断層撮像装置
30 医療機関端末
40 サービス事業者端末
41 データベース
42 状態変化推定プログラム
42a 断層画像解析部(断層画像解析手段)
42b 第1状態推定部(第1状態推定手段)
42c 第2状態推定部(第2状態推定手段)
42d 指標生成部(指標生成手段)
D1 断層画像
D2 外的要因データ
I 重症度指標(指標)
M1 第1状態モデル
M2 第2状態モデル
O 患部(対象物)
P ピクセル
U 患者(対象者)
V 体積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12