(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法及びこれにより製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイド
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241218BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20241218BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0735
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2023506066
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 KR2022004329
(87)【国際公開番号】W WO2022239959
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0060265
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518160702
【氏名又は名称】ネクセル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】ウ、ドンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム、へジ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミジン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ハンビョル
(72)【発明者】
【氏名】イム、ジョンスク
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/066059(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/174879(WO,A1)
【文献】Biomaterials,2017年,vol. 142,pp. 112-123
【文献】bioRxiv preprint,2020年,pp.1-25,doi:https://doi.org/10.1101/2020.06.25.171611
【文献】Cells,2020年,vol.9, no.1733,pp.1-19
【文献】Stem Cell Res. Ther.,2021年05月06日,vol.12, no.272,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞(hPSC:human Pluripotent Stem Cell)を培養して直径100~130μmの胚様体(Embryonic Body)を形成するステップAと、
前記ステップAで得られた胚様体を直径200~250μmになるまで培養するステップBと、
前記ステップBで得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させるステップCと、
前記ステップCで分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、心筋細胞(Cardiomyocyte)、線維芽細胞(Fibroblast)及び血管内皮細胞(Endothelial Cell)を含むように自己組織化された心臓オルガノイドに分化させるステップDと、
前記ステップDで分化して自己組織化された心臓オルガノイドを培養して成熟化させるステップEと、を含み、
前記ステップEの成熟化過程を経て得られた心臓オルガノイドは、心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞が55~65:15~30:15の細胞数比で自己組織化され、
前記ステップCは、
前記ステップBで得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、インスリンを含まないB-27サプリメント、CHIR99021、骨形成タンパク質4(BMP4:Bone morphogenetic protein-4)及びアクチビンA(Activin A)が添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップC-1と、
前記ステップC-1で培養されたヒト多能性幹細胞由来胚様体を、インスリンを含まないB-27サプリメント、XAV939、L-アスコルビン酸(L-Ascorbic acid)が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して、中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させるステップC-2と、を含
み、
前記ステップDは、
前記ステップCで分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、インスリンを含まないB-27サプリメント及び濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して心筋細胞の分化を誘導するステップD-1と、
前記ステップD-1で心筋細胞の分化誘導が行われた構成体を、前記ステップD-1で用いられたRPMI1640培地に、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlの血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular endothelial growth factor)及び濃度20~40ng/mlの線維芽細胞成長因子2(FGF2:Fibroblast Growth Factor 2)を加えて2日間培養し、線維芽細胞及び血管内皮細胞の分化を誘導するステップD-2と、
前記ステップD-2で心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞の分化誘導が行われた構成体を、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlのVEGF及び濃度20~40ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップD-3と、
前記ステップD-3で培養された構成体を、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlのVEGF、及び濃度20~40ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して、分化による心臓オルガノイドの自己組織化を行うステップD-4と、を含み、
前記ステップEは、前記ステップD-4で分化して心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞を含むように自己組織化された心臓オルガノイドを、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度20~40ng/mlのVEGF、濃度20~40ng/mlのFGF2、及びTGF-βシグナル阻害のための成分として濃度10~15ng/mlのSB431542が添加されたRPMI1640培地で10~20日間培養して成熟化させるステップであることを特徴とする、
ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法。
【請求項2】
前記ステップAのヒト多能性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞(hESC:Human embryonic stem cell)またはヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC:Human induced Pluripotent Stem Cell)のうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法。
【請求項3】
前記ステップAは、Rho関連キナーゼ(ROCK:Rho-associated kinase)阻害剤(Y-27632)が添加されたmTeSR(登録商標)培養液で、ヒト多能性幹細胞をプレーティングして1日間培養し、直径100~130μmの胚様体を形成するステップであることを特徴とする、請求項2に記載のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法。
【請求項4】
前記ステップBは、ROCK阻害剤(Y-27632)が添加されていないmTeSR培養液で、前記ステップAで得られた直径100~130μmの胚様体を2~3日間培養して、直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を形成するステップであることを特徴とする、請求項3に記載のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法。
【請求項5】
前記ステップC-1は、前記ステップBで得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、インスリンを含まないB-27サプリメント、Wntシグナル活性化のためのグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β:Glycogen Synthase Kinase-3β)阻害剤として濃度6~8μMのCHIR99021、BMPシグナル活性化のための成分として濃度9~10ng/mlのBMP4、及びトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β:Transforming Growth Factor-β)シグナル活性化のための成分として濃度8~10ng/mlのアクチビンAが添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップであることを特徴とする、請求項1に記載のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法。
【請求項6】
前記ステップC-2は、前記ステップC-1で培養されたヒト多能性幹細胞由来胚様体を、インスリンを含まないB-27サプリメント、Wntシグナル阻害のための成分として濃度8~12μMのXAV939、及びBMPシグナル活性化のための成分として濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップであることを特徴とする、請求項5に記載のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法及びこれにより製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の技術の継続的な発展により、ヒト多能性幹細胞(hPSC、human Pluripotent Stem Cell)からヒトを構成するほとんどの細胞を分化する方法が開発されてきたが、2次元培養により分化させた細胞の場合、成熟度が大幅に低下して実際のヒト細胞に比べて機能が劣るため、これを用いて薬物毒性評価、薬物スクリーニングまたは細胞治療などに活用するには明確な限界がある。
【0003】
そのため、実際のヒトを構成する細胞の成熟度に達して十分な機能を有する細胞を製造するために、様々な細胞分化及び培養関連技術が研究されており、特に、実際の臓器に細胞が単一に存在するのではなく、様々な細胞が集合して存在する形態を再現し、これとともに機能的にも十分に対応できる臓器オルガノイド(Organoid)の開発及び研究が世界中で行われている。
【0004】
実際のヒト臓器の構造及び機能を模倣できるオルガノイドの製造は、臓器特異的な幹細胞があるとされる腸や脳などの臓器幹細胞から継続的な細胞分裂及び分化により可能であるが、臓器特異的な幹細胞が存在しない心臓の場合、そのような方法を適用する余地がないため、心臓を構成する様々な細胞をそれぞれ別々に分化させた後に混合して製造する方法が唯一提案されている。
【0005】
これに関連して、心臓オルガノイドを製造するための従来技術に対応する先行文献には、米国公開特許第2020-0283735号公報の「Organoid and method for producing the same」(以下、「従来技術」という)がある。
【0006】
しかし、従来技術を含む既存の心臓オルガノイドの製造方法の場合、分化した心臓構成細胞を単純に混合したり、特定の成分からなる細胞外基質(Extracellular matrix)に依存して培養したりする方法にすぎないため、心臓を構成する様々な細胞が発達初期ステップから互いに相互作用しながら発達する特性が、心臓の機能に影響を与える点を見逃すという限界が存在した。
【0007】
結果として、心臓を構成する様々な細胞が同時に分化し、発達初期から相互作用による自己組織化ができていないと、実際の心臓の構造及び機能を再現するには不十分な状態になるため、新薬を開発する際、それを用いて疾患モデリングによる薬物スクリーニング及び心臓毒性評価を行い、有意な結果を導き出すにはかなり不十分であるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ヒト多能性幹細胞から心臓を構成する様々な細胞が同時に分化し、発達初期から相互作用により自己組織化し、培養分化して実際の心臓の構造及び機能を再現するのに十分な状態を備える心臓オルガノイドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法は、ヒト多能性幹細胞(hPSC:human Pluripotent Stem Cell)を培養して直径100~130μmの胚様体(Embryonic Body)を形成するステップAと、前記ステップAで得られた胚様体を直径200~250μmになるまで培養するステップBと、前記ステップBで得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させるステップCと、前記ステップCで分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、心筋細胞(Cardiomyocyte)、線維芽細胞(Fibroblast)及び血管内皮細胞(Endothelial Cell)を含むように自己組織化された心臓オルガノイドに分化させるステップDと、前記ステップDで分化して自己組織化された心臓オルガノイドを培養して成熟化させるステップEと、を含み、前記ステップEの成熟化過程を経て得られた心臓オルガノイドは、心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞が55~65:15~30:15の細胞数比で自己組織化されたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記ステップAのヒト多能性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞(hESC:Human embryonic stem cell)またはヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC:Human induced Pluripotent Stem Cell)のうちの少なくとも1つである。
【0011】
また、前記ステップAは、Rho関連キナーゼ(ROCK:Rho-associated kinase)阻害剤(Y-27632)が添加されたmTeSR培養液で、ヒト多能性幹細胞をプレーティングして1日間培養し、直径100~130μmの胚様体を形成するステップである。
【0012】
さらに、前記ステップBは、ROCK阻害剤(Y-27632)が添加されていないmTeSR培養液で、前記ステップAで得られた直径100~130μmの胚様体を2~3日間培養して、直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を形成するステップである。
【0013】
さらにまた、前記ステップCは、前記ステップBで得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、CHIR99021、骨形成タンパク質4(BMP4:Bone morphogenetic protein-4)及びアクチビンAが添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップC-1と、前記ステップC-1で培養されたヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、XAV939、L-アスコルビン酸(L-Ascorbic acid)が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して、中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させるステップC-2と、を含む。
【0014】
ここで、前記ステップC-1は、前記ステップBで得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、Wntシグナル活性化のためのグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β:Glycogen Synthase Kinase-3β)阻害剤として濃度6~8μMのCHIR99021、BMPシグナル活性化のための成分として濃度9~10ng/mlのBMP4、及びトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β:Transforming Growth Factor-β)シグナル活性化のための成分として濃度8~10ng/mlのアクチビンAが添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップである。
【0015】
また、前記ステップC-2は、前記ステップC-1で培養されたヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、Wntシグナル阻害のための成分として濃度8~12μMのXAV939、及びBMPシグナル活性化のための成分として濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップである。
【0016】
さらに、前記ステップDは、前記ステップCで分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)及び濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して心筋細胞の分化を誘導するステップD-1と、前記ステップD-1で心筋細胞の分化誘導が行われた構成体を、前記ステップD-1で用いられたRPMI1640培地に、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlの血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular endothelial growth factor)及び濃度20~40ng/mlの線維芽細胞成長因子2(FGF2:Fibroblast Growth Factor 2)を加えて2日間培養し、線維芽細胞及び血管内皮細胞の分化を誘導するステップD-2と、前記ステップD-2で心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞の分化誘導が行われた構成体を、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlのVEGF及び濃度20~40ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養するステップD-3と、前記ステップD-3で培養された構成体を、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlのVEGF及び濃度20~40ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して、分化による心臓オルガノイドの自己組織化を行うステップD-4と、を含む。
【0017】
さらにまた、前記ステップEは、前記ステップD-4で分化して心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞を含むように自己組織化された心臓オルガノイドを、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度20~40ng/mlのVEGF、濃度20~40ng/mlのFGF2、及びTGF-βシグナル阻害のための成分として濃度10~15ng/mlのSB431542が添加されたRPMI1640培地で10~20日間培養して成熟化させるステップである。
【0018】
一方、上記目的を達成するために、本発明に係るヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドは、上述したヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果がある。
【0020】
第一に、心臓幹細胞が存在しないという限界を克服し、ヒト多能性幹細胞から心臓を構成する心筋細胞、心臓線維芽細胞、血管内皮細胞が同時に分化し、発達初期から相互作用により自己組織化し、培養分化して実際の心臓の構造及び機能を再現するのに十分な状態を備える心臓オルガノイドを製造することができる。
【0021】
第二に、心臓の構造及び機能を再現するのに十分な状態を備える心臓オルガノイドを、新薬開発時に疾患モデリングによる薬物スクリーニング及び心臓毒性評価を行うのに用いて、新薬開発の効率性を画期的に高めることができる。
【0022】
第三に、ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドを、心臓関連疾患機序の研究の代替モデルとして用いて疾患研究分野の技術的発展に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法における胚様体準備ステップ及び培養ステップによる胚様体の大きさ及び構成細胞数の変化を観察した結果を説明するための写真である。
【
図3】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法における胚様体準備ステップ及び培養ステップによる胚様体の大きさ及び構成細胞数の変化を観察した結果を説明するための写真である。
【
図4】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により、ヒト多能性幹細胞から胚様体を経て心臓オルガノイドに分化する過程における期間別状態を顕微鏡で観察した写真である。
【
図5】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイド製造方法により、ヒト多能性幹細胞から胚様体を経て心臓オルガノイドに分化する過程における期間別直径サイズの変化を示すグラフである。
【
図6】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により、ヒト多能性幹細胞から胚様体を経て心臓オルガノイドに分化する過程における期間別拍動比の変化を示すグラフである。
【
図7】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの蛍光染色写真である。
【
図8】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイド製造方法による各実験群のステップ別培養条件及び期間をまとめた模式図である。
【
図9】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別流細胞分析(Flow cytometry)結果を示すグラフである。
【
図10】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別流細胞分析(Flow cytometry)結果を示すグラフである。
【
図11】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別遺伝子発現結果を示すグラフである。
【
図12】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別遺伝子発現結果を示すグラフである。
【
図13】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別遺伝子発現結果を示すグラフである。
【
図14】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別蛍光染色結果を比較した写真である。
【
図15】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別蛍光染色結果を比較した写真である。
【
図16】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別カルシウムイメージング結果を比較した写真及びグラフである。
【
図17】本発明のヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群別カルシウムイメージング結果を比較した写真及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態についてより具体的に説明するが、説明を簡潔にするために、既に周知の技術的部分については省略または簡略化する。
【0025】
1.ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法に関する説明
以下、
図1を参照して、本発明に係るヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法の過程について詳細に説明する。
【0026】
(1)胚様体準備ステップ<S110、ステップA>
このステップ(S110)では、ヒト多能性幹細胞を培養して直径100~130μmの胚様体(Embryonic Body)を形成する過程が行われる。
【0027】
ここで、ヒト多能性幹細胞(hPSC:human Pluripotent Stem Cell)そのものを指すこともあるが、より具体的には、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞:hESC:Human embryonic stem cell)またはヒト人工多能性幹細胞(ヒトips細胞:hiPSC、Human induced Pluripotent Stem Cell)のうち少なくとも1つからなる細胞と解釈することもできる。
【0028】
具体的に、胚様体準備ステップ(S110)では、培養中のヒト多能性幹細胞を抽出(harvest)した後、6ウェルプレート(Well Plate)に1.5×106個/ウェル単位で10μMの濃度のRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤(Y-27632、Tocris Bioscience、英国)が添加されたmTeSR培養液(Stem Cell Technologies,カナダ)を用いてプレーティングする。
【0029】
ここで、6ウェルプレートにヒト多能性幹細胞をプレーティングする際には、細胞接着のためのコーティングをせず、一般的なオルガノイド培養に用いられるマトリゲル(Matrigel)も使用しないことが重要であり、ローアタッチメント(Low Attachment)プレートで代替使用も可能である。
【0030】
また、
図2に示すように1日間培養すると、各ウェルは約200~500個の細胞からなり、直径100~130μmの胚様体が得られる。
【0031】
したがって、6ウェルプレートの各ウェルに1.5×106個のヒト多能性幹細胞をプレーティングする場合、培養1日後に直径100~130μmの胚様体が約3000~7500個生成される。
【0032】
(2)胚様体培養ステップ<S120、ステップB>
このステップ(S120)では、先の胚様体準備ステップ(S110)で形成された胚様体を、直径200~250μmになるまで追加培養する過程を行う。
【0033】
具体的に、胚様体培養ステップ(S120)では、ROCK阻害剤(Y-27632)が添加されていない(無添加)mTeSR培養液で、胚様体準備ステップ(S110)で形成された直径100~130μmの胚様体を2~3日間培養して、直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を得る。
【0034】
ここで、ROCK阻害剤(Y-27632)が添加されていない(無添加)mTeSR培養液を用いた培養過程は、2日~3日間行われるにあたり、毎日培養液を新しいものに交換して行うことが好ましい。
【0035】
したがって、
図3に示すように、胚様体準備ステップ(S110)における培養1日目には、「Day-3」と記した部分の写真のように直径100~130μmの胚様体が得られ、続いて胚様培養ステップ(S120)により培養液の条件を変えて2~3日間追加培養すると、「Day0」と記した部分の写真のように徐々に直径が大きくなり、直径200~250μmになる。
【0036】
(3)中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ<S130、ステップC>
このステップ(S130)では、胚様体培養ステップ(S120)で得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させる過程が行われる。
【0037】
このような中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)は、より具体的に細分化され、2つのステップにわたって順次行われる。まず、胚様培養ステップ(S120)で得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、CHIR99021、骨形成タンパク質4(BMP4)及びアクチビンAが添加されたRPMI1640培地で2日間培養する1次分化過程(ステップC-1)が行われる。
【0038】
具体的に、胚様体培養ステップ(S120)で得られた直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体の1次培養が2日間行われる培地は、B-27サプリメント(マイナスインスリン;サーモフィッシャーサイエンティフィック、米国)、濃度6~8μMのCHIR99021、濃度9~10ng/mlのBMP4及び濃度8~10ng/mlのアクチビンAが添加されたRPMI1640培地に該当するものとする。
【0039】
ここで、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の1次分化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるCHIR99021は、Wntシグナル活性化のためのグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)阻害剤であり、濃度6μMを有することが最も好ましい。
【0040】
また、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の1次分化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるBMP-4は、BMPシグナル活性化のための成分であり、濃度10ng/mlを有することが最も好ましい。
【0041】
次に、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の1次分化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるアクチビンAは、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル活性化のための成分であり、濃度10ng/mlを有することが最も好ましい。
【0042】
その後、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の1次分化過程で培養されたヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、XAV939、L-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地でさらに2日間培養して中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させる2次分化過程(ステップC-2)が行われる。
【0043】
具体的に、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の1次分化過程で培養されたヒト多能性幹細胞由来胚様体が2日間2次培養される培地は、B-27サプリメント(マイナスインスリン;サーモフィッシャーサイエンティフィック、米国)、濃度8~12μMのXAV939及び濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地に該当する。
【0044】
ここで、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の2次分化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるXAV939は、Wntシグナル阻害のための成分であり、濃度10μMを有することが最も好ましい。
【0045】
また、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の2次分化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるXAV939は、実施に応じてWnt産生の阻害剤-2,3,4(Inhibitor of Wnt Production-2、3、4:IWP-2,3,4)であり、IWP-2,3,4を等濃度で代替実施することができる。
【0046】
さらに、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)の2次分化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるL-アスコルビン酸は、Wntシグナル阻害のための成分であり、濃度50μg/mlを有することが最も好ましい。
【0047】
(4)心臓オルガノイド自己組織化ステップ<S140、ステップD>
このステップ(S140)では、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)で分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞を含むように自己組織化された心臓オルガノイド(Heart Organoid)に分化させる過程が行われる。
【0048】
このような心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)は、より具体的に細分化され、4つのステップにわたって順次行われる。まず、中胚葉及び内胚葉細胞分化ステップ(S130)で分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)及び濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養することで心筋細胞への分化を誘導する1次組織化過程(ステップD-1)が行われる。
【0049】
ここで、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の1次組織化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるL-アスコルビン酸は、濃度50μg/mlを有することが最も好ましい。
【0050】
その後、1次組織化過程(ステップD-1)で心筋細胞の分化誘導が行われた構成体を、1次組織化過程(ステップD-1)に用いたRPMI1640培地に濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び濃度20~40ng/mlの線維芽細胞成長因子2(FGF2)をさらに加えて2日間培養することにより、繊維芽細胞及び血管内皮細胞の分化を誘導する2次組織化過程(ステップD-2)が行われる。
【0051】
ここで、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の2次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるBMP4は、BMPシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0052】
また、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の2次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるVEGFは、血管分化及び形成に関与する成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0053】
さらに、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の2次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるFGF2は、FGFシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0054】
次に、2次組織化過程(ステップD-2)で心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞の分化誘導が行われた構成体を、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度40~60μg/mlのL-アスコルビン酸、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlのVEGF及び濃度20~40ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養する3次組織化過程(ステップD-3)が行われる。
【0055】
ここで、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の3次組織化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるL-アスコルビン酸は、濃度50μg/mlを有することが最も好ましい。
【0056】
また、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の3次組織化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるBMP4は、BMPシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0057】
さらに、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の3次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるVEGFは、血管分化及び形成に関与する成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0058】
さらにまた、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の3次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるFGF2は、FGFシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0059】
最後に、3次組織化過程(ステップD-3)で培養された構成体を、L-アスコルビン酸を除いて、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度20~40ng/mlのBMP4、濃度20~40ng/mlのVEGF及び濃度20~40ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養することで、分化による心臓オルガノイドの自己組織化を達成する4次組織化過程(ステップD-4)が行われる。
【0060】
ここで、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の4次組織化過程に使用されるRPMI1640培地に添加されるBMP4は、BMPシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0061】
また、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の4次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるVEGFは、血管分化及び形成に関与する成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0062】
さらに、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)の4次組織化過程に使用されるRPMI1640培地にさらに添加されるFGF2は、FGFシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0063】
このような一連の詳細過程を経て心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)が完了すると、分化を通じて心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞が自己組織化された心臓オルガノイドが得られる。
【0064】
(5)心臓オルガノイド成熟化ステップ<S150、ステップE>
このステップ(S150)では、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)で分化して自己組織化された心臓オルガノイドを培養して成熟化させる過程が行われる。
【0065】
具体的に、心臓オルガノイド成熟化ステップ(S150)では、心臓オルガノイド自己組織化ステップ(S140)で心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞を含むように自己組織化された心臓オルガノイドを、成熟化用培地で10~20日間培養して成熟化を行う。
【0066】
ここで、心臓オルガノイドの成熟化用培地は、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度20~40ng/mlのVEGF、濃度20~40ng/mlのFGF2及びTGF-βシグナル阻害のための成分であり、濃度10~15ng/mlのSB431542が添加されたRPMI1640培地に該当する。
【0067】
また、心臓オルガノイド成熟化ステップ(S150)に使用されるRPMI1640培地に添加されるVEGFは、血管分化及び形成に関与する成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0068】
さらに、心臓オルガノイド成熟ステップ(S150)に使用されるRPMI1640培地に添加されるFGF2は、FGFシグナル活性化のための成分であり、濃度30ng/mlを有することが好ましい。
【0069】
さらにまた、心臓オルガノイド成熟化ステップ(S150)に使用されるRPMI1640培地に添加されるSB431542は、TGF-βシグナル阻害のための成分であり、濃度10ng/mlを有することが好ましい。
【0070】
結果として、
図4に示すように、ヒト人工多能性幹細胞に由来して胚様体(EB)を経て、6日目(Day6)の中胚葉及び内胚葉細胞に分化した状態を経た後、10日目(Day10)の心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞が自己組織化された心臓オルガノイド状態に分化し、その後、最終的に24日目(Day24)の成熟化した心臓オルガノイド状態を確認することができる。
【0071】
このような各ステップ別の直径の変化過程では、
図5に示すように、直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体から、最終的に25日目(Day25)の直径300~400μmの成熟化した心臓オルガノイドが得られることが確認できる。
【0072】
また、各ステップ別の拍動比の変化過程では、
図6に示すように、直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体状態に該当する0日目(Day0)から、最終的に21日目(Day21)~30日目(Day30)の成熟化した心臓オルガノイドの場合、96%以上の個体で拍動を示すことが確認できる。
【0073】
とりわけ、このような一連の詳細過程を経て心臓オルガノイド成熟化ステップ(S150)が完了すると、分化により心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞が55~65:15~30:15の細胞数比に応じて自己組織化された心臓オルガノイドが得られ、これは、実際のヒトの心臓を構成する心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞の6:2:1.5の細胞数比に非常に近いものである。
【0074】
これに関連して、ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの蛍光染色を行い、心筋細胞のマーカー(cTnT)及び心室型心筋細胞のマーカー(MYL2)の発現を画像(イメージ)解析で確認し、その結果を
図7に示した。
【0075】
このように実際の心臓と類似した心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞の構成細胞の細胞数の比率が類似または同一に対応し、同時分化して発達初期から相互作用を経て自己組織化及び成熟化された心臓オルガノイドは、実際の心臓の構造及び機能を再現するのに十分な状態を持つ。それを用いて新薬開発時に疾患モデリングによる薬物スクリーニング及び心臓毒性評価を行うことにより、新薬開発の効率性を画期的に高めることができる。
【0076】
2.ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により得られたヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの機能性確認実験についての説明
まず、上述したヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されるヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドを一つの実験群として設定し、これに対して別の実験群を設定して、相互構造性及び機能性の観点から、実際の心臓との適合度を比較した結果を以下に説明する。
【0077】
(1)ヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの実験群製造
図8に示すように、異なる培養条件で分化したヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドをそれぞれ実験群1及び実験群2として設定した。
【0078】
実験群1及び実験群2の場合、胚様体準備ステップ(S110)及び胚様体培養ステップ(S120)を経てヒト多能性幹細胞由来胚様体を形成する過程は、共通して同様に行われる。
【0079】
また、直径200~250μmのヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、濃度6μMのCHIR99021、濃度10ng/mlのBMP4及び濃度10ng/mlのアクチビンAが添加されたRPMI1640培地で2日間1次培養した後、1次培養を経たヒト多能性幹細胞由来胚様体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)、濃度10μMのXAV939、濃度50μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体に分化させる過程も同様に行われ、その後に進む過程は他の培養条件下で行われる。
【0080】
-実験群1
実験群1では、
図8に示すように、分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)及び濃度50μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して心筋細胞の分化を誘導する過程を行った後、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度50μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養し、その後、L-アスコルビン酸を除き、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して心臓オルガノイドの自己組織化を行った。
【0081】
次に、実験群1に該当する自己組織化された心臓オルガノイドは、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)が添加されたRPMI1640培地で10~30日間培養して成熟化させる過程を経て実験群1を完成した。
【0082】
-実験群2
実験群2では、
図8に示すように、分化した中胚葉細胞及び内胚葉細胞を含む構成体を、B-27サプリメント(マイナスインスリン)及び濃度50μg/mlのL-アスコルビン酸が添加されたRPMI1640培地で2日間培養して心筋細胞の分化を誘導する過程を行った後、先に使用したRPMI1640培地に濃度30ng/mlのBMP4、濃度30ng/mlのVEGF、濃度30ng/mlのFGF2を加えて2日間培養し、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度30μg/mlのL-アスコルビン酸、濃度30ng/mlのBMP4、濃度30ng/mlのVEGF及び濃度30ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養した。その後、L-アスコルビン酸を除き、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度30ng/mlのBMP4、濃度30ng/mlのVEGF及び濃度30ng/mlのFGF2が添加されたRPMI1640培地で2日間培養することで心臓オルガノイドの自己組織化を行った。
【0083】
次に、実験群2に該当する自己組織化された心臓オルガノイドは、B-27サプリメント(マイナスビタミンA)、濃度30ng/mlのVEGF、濃度30ng/mlのFGF2及び濃度10ng/mlのSB431542が添加されたRPMI1640培地で10~20日間培養して成熟化させる過程を経て実験群2を完成した。
【0084】
(2)実験群別の心臓オルガノイド細胞構成の比較実験
前述の方法により得られた実験群1と実験群2を用いて、様々な実験により心臓オルガノイドの細胞構成の比較分析を行った。
【0085】
まず、心筋細胞のマーカーとしてcTnT、線維芽細胞のマーカーとしてCD90、血管内皮細胞マーカーとしてVE-カドヘリン(Cadherin)またはCD31を用いて流細胞分析(Flow cytometry)を行い、その結果を
図9及び
図10に示した。
【0086】
実験群1の場合、
図9及び
図10に示すように、心筋細胞マーカー92%、線維芽細胞マーカー6%、血管内皮細胞マーカー4%で分析され、実験群2の場合、心筋細胞マーカー51%、線維芽細胞マーカー24%。内皮細胞マーカー14%で分析された。
【0087】
具体的に、各実験結果を百分率に換算すると、実験群1では心筋細胞90%、線維芽細胞6%、内皮細胞4%の構成比率を示し、実験群2では心筋細胞58%、線維芽細胞27%、内皮細胞15%の構成比を示した。
【0088】
次に、定量的リアルタイムPCR(Quantitative Real-time PCR)を用いて各実験群別心臓オルガノイドにおけるマーカー遺伝子の相対的な発現を分析し、心筋細胞マーカーとしてNKX2.5、TNNT2、MYL2、MYL7を用いた。
【0089】
その結果、
図11~
図13に示すように、実験群1に比べて実験群2で発現量の減少を示していることがわかり、心臓線維芽細胞マーカーであるCD90、PDGFR、Vimetin、TCF21、及び内胚葉(Endoderm)マーカーであるCD34、PECAM1、Sox17、FOXA2は、実験群2の心臓オルガノイドで発現量の増加を示していることがわかる。
【0090】
より具体的に、上述した方法により得られた実験群1及び実験群2の心臓オルガノイドのそれぞれについて免疫蛍光染色試験を行った結果、
図14及び
図15に示すように、実験群2の心臓オルガノイドにおいて、血管内皮細胞マーカー(VE-カドヘリン:VE-Cadherin)及び線維芽細胞マーカー(ビメンチン:Vimentin)は、発現が増加する分布を示し、心筋細胞マーカー(cTnT)は、発現が全体的に減少する分布を示すことがわかる。
【0091】
特に実験群2の心臓オルガノイドでは、実験群1に比べて血管内皮細胞マーカーであるVE-カドヘリンが、心臓オルガノイドの最外部を包むような形で分布されていることが分かる。
【0092】
(3)実験群別心臓オルガノイドのカルシウムイオンチャネル機能性の比較実験
上述した方法により得られた実験群1と実験群2を用いて、心臓オルガノイドのカルシウムイオンチャネル機能性を測定し、比較分析した。
【0093】
まず、生細胞内のカルシウム濃度を測定するために、細胞透過性のあるFluo-4、AM(サーモフィッシャーサイエンティフィック、マサチューセッツ州、米国)を用いて実験群別心臓オルガノイドのカルシウムイオン濃度変化を観察した。
【0094】
その結果、
図16及び
図17に示すように、92%以上の心筋細胞からなる実験群1よりも、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞が同時に分化した実験群2では、カルシウムイオン移動と拍動が比較的遅いことが確認された。
【0095】
以上をまとめると、実験群2のように製造された心臓オルガノイドは、心臓幹細胞が存在しないという限界を克服し、ヒト多能性幹細胞から心臓を構成する心筋細胞、心臓線維芽細胞血管内皮細胞が同時に分化し、発達初期から相互作用により自己組織化し、培養分化して、実際の心臓の構造及び機能を再現するのに十分な状態を備えるようになる。
【0096】
それにより、上述したヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの製造方法により製造されるヒト多能性幹細胞由来心臓オルガノイドの好適な実施形態に該当する実験群2の、心臓の構造及び機能を再現するのに十分な状態を備える心臓オルガノイドを、新薬開発時に疾患モデリングによる薬物スクリーニング及び心臓毒性評価を行うのに用いて、新薬開発の効率性を画期的に高めることができるだけでなく、心臓関連疾患機序の研究の代替モデルとして用いるには適している。
【0097】
本発明に開示された実施形態は本発明の技術思想を限定するためのものではなく、単に説明するためのものであり、このような実施形態によって本発明の技術思想の範囲が限定されるわけではない。本発明の保護範囲は下記の請求範囲によって解釈されるべきであり、それと同等な範囲内にあるあらゆる技術思想は本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。