(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】炭素含有物焼成体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/622 20060101AFI20241218BHJP
C04B 33/32 20060101ALI20241218BHJP
C04B 33/13 20060101ALI20241218BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C04B35/622
C04B33/32 E
C04B33/13 P
C04B38/06 Z
(21)【出願番号】P 2023522084
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2021019011
(87)【国際公開番号】W WO2022244148
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518126720
【氏名又は名称】株式会社カント
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幹久
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-194837(JP,A)
【文献】特開2002-159971(JP,A)
【文献】特開平10-258228(JP,A)
【文献】特開2003-094072(JP,A)
【文献】特開平06-157124(JP,A)
【文献】特開2005-154163(JP,A)
【文献】特開2001-220235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/622
C04B 33/32
C04B 33/13
C04B 38/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有物と粘土とを混合して粒状にされてから還元焼成された
植物を育成するための炭素含有物焼成体であって、
中心から表面までに亘る全体が還元され、
嵩比重が0.7以下であり、
吸水重が25%以上である、
ことを特徴とする炭素含有物焼成体。
【請求項2】
前記嵩比重が0.5
7~0.63である、
ことを特徴とする
請求項1記載の炭素含有物焼成体。
【請求項3】
前記炭素含有物は、木質材料であり、
前記粘土は、ベントナイトであり、
前記炭素含有物と前記粘土との混合比が20:80~35:65である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の炭素含有物焼成体。
【請求項4】
植物を育成するための炭素含有物焼成体の製造方法であって、
炭素含有物と粘土とを混合して混合物とする混合工程と、
前記混合物を粘土状にしてから粒状にする粒化工程と、特許法第36条第6項第2号
前記粒状にした混合物を還元性雰囲気下で焼成して炭素含有物焼成体とする還元焼成工程と、
を備え、
前記還元焼成工程は、前記混合物の中心から表面までに亘る全体を還元させて、嵩比重を0.7以下とし、かつ吸水重を25%以上とする、
ことを特徴とする炭素含有物焼成体の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程は、前記炭素含有物と前記粘土との混合比を20:80~35:65とする、
ことを特徴とする請求項4に記載の炭素含有物焼成体の製造方法。
【請求項6】
前記炭素含有物は、木質材料であり、
前記粘土は、ベントナイトである、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の炭素含有物焼成体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有物と粘土とを混合して粒状にしてから焼成した炭素含有物焼成体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、持続可能な開発のための2030アジェンダ、平成27(2015)年9月25日国連サミット採択、以下「SDGs」という。)の推進に向けた取り組みが国際規模で行われている。具体的に、SDGsの目標としては、目標9:産業と技術革新の基板をつくろう、目標12:作る責任、使う責任、目標13:気候変動に具体的な対策を、目標14:海の豊かさを守ろう、目標15:陸の豊かさを守ろう、等があり、これら目標の解決を目指した技術の開発が望まれている。
【0003】
これら目標の解決に貢献できる技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。この特許文献1には、粘土で構成されると共に炭化物を含まない表面層と、粘土と炭化物にて構成される内層とから成る炭化物焼成体およびその製造方法について記載されている。そして、特許文献1に記載の炭化物焼成体は、炭化物が表面に露出せず、人間が手で触れても手が黒く汚れるようなことがなく、炭化物の微粉末が飛散するようなこともなくなって、取扱性が良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の炭化物焼成体は、表面層と内層の二層構造になっており、表面層が炭化物を含まない構成となっていることから、吸水性が高くなり過ぎてしまう傾向にあり、十分な耐久性が得にくいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、十分な吸水性を確保しつつ高い耐久性を有する炭素含有物焼成体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素含有物焼成体は、炭素含有物と粘土とを混合して粒状にされてから還元焼成された炭素含有物焼成体であって、中心から表面までに亘る全体が還元され、嵩比重が0.7以下であり、吸水重が25%以上である、ことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の炭素含有物焼成体の製造方法は、炭素含有物と粘土とを混合して混合物とする混合工程と、前記混合物を粘土状にしてから粒状にする粒化工程と、前記粒状にした混合物を還元性雰囲気下で焼成して炭素含有物焼成体とする還元焼成工程と、を備え、前記還元焼成工程は、前記混合物の中心から表面までに亘る全体を還元させて、嵩比重を0.7以下とし、かつ吸水重を25%以上とする、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な吸水性および高い耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るセラミック構造体の製造方法を示す概略図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るセラミック構造体の製造方法を示す概略図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係るセラミック構造体の製造方法を示す概略図である。
【
図4】本発明の実施例3に係るセラミック構造体の蛍光X線分析結果を示す図である。
【
図5】従来のセラミック構造体の蛍光X線分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
[構造]
本発明の実施形態について図面を参照して説明すると、
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る炭素含有物焼成体であるセラミック構造体は、例えば直径4mm程度の略球体状に形成されており、複数のセラミック構造体を、植物を育成するための土壌(コンポスト)として用いられる。
【0013】
そして、このセラミック構造体は、例えば杉や檜などの樹木片(木質材料)をおが屑状に粉砕したおが粉(木質材料としての炭素含有物)と、例えばベントナイト(粘土)とを混合した混合物から構成され、これらおが粉とベントナイトとの混合比がその比率が重量比で20:80~35:65、好ましくは29:71~32:68、より好ましくは30:70となるように配合されている。
【0014】
そして、おが粉は、例えば200~400メッシュ程度の大きさの細かな木粉にて構成され、含有炭素率が50%程度になっている。なお、おが粉には、杉や檜以外の樹木片として、たとえば松等のその他の樹木片が微量に含まれている場合もあり得る。
【0015】
ここで、おが粉に対するベントナイトの混合率を65以下にすると、これらおが粉とベントナイトとの混合物を粒状にすることができなくなる。また、おが粉に対するベントナイトの混合率を80以上にすると、単なるセラミックボールとなってしまい、おが粉の効果を期待できなくなってしまう。
【0016】
このセラミック構造体は、混合物を加水しながら練り込んだ後、滑らかな表面形状を有する直径約4mm程度の粒状混合物とされてから、含水率が8%以下、好ましくは5%以下となるまで乾燥させた後、この粒状混合物全体がすべて還元されるまで焼成されて形成されている。そして、このセラミック構造体は、焼成後の嵩比重が0.7以下、好ましくは0.6以下、具体的には0.57~0.63の範囲で、かつ吸水重が25%以上、好ましくは30%以上となるように構成されており、いわゆるテラプレタ(アマゾンの黒い土)と同様の構成となっている。ここで、吸水重とは、水を吸収させる前の重量(吸水前重量)と水を吸収させた後の重量(吸水重量)との重量比(%)である。
【0017】
なお、このセラミック構造体は、焼成後の嵩比重が0.56より小さくなると、焼成後の強度が出なくなってしまい、焼成後の嵩比重が0.63より大きくなると、吸水率が下がり過ぎてしまう傾向にある。また、セラミック構造体は、吸水重が25%より低くなると、吸水性が低下し過ぎてしまい、乾き過ぎる性質になってしまうため、植物の育成に適しなくなってしまう。
【0018】
[製造方法]
次に、上記一実施形態に係るセラミック構造体の製造方法について、
図1を参照しながら、説明する。
【0019】
(1)混合工程
まず、炭素含有物(木質材料)としておが粉と、粘土(セラミック)としてベントナイトと、を用意し、これらおが粉とベントナイトとを、その比率が重量比で20:80~35:65、好ましくは29:71~32:68、より好ましくは30:70となるように配合する。そして、この配合後のおが粉とベントナイトとを混合して混合物とする。
【0020】
(2)混練工程(第1粒化工程)
その後、この混合物の加水率が30%程度になるまで、この混合物に加水しながら練り込んでから、土練機を用いて捏ねながら、押出機(ペレタイザー)の直径約4mm程度の円柱状の押出穴から、この混合物の自重を用いて押し出して直径約4mm程度の円柱体とする。
【0021】
(3)造粒工程(第2粒化工程)
これら複数の円柱体とされた混合物を、整粒機(マルメライザー)を用いて6分~15分程度、好ましくは12分から15分程度、より好ましくは14~15分程度、粒状化処理(造粒処理)を行い、滑らかな表面形状とされた直径約2.5mm~4.3mm、好ましくは4mm程度の粒状の混合物とする。
【0022】
(4)乾燥工程
複数の粒状混合物をざる等に乗せて、このざる上に並べ、これら各粒状混合物の含水率が8%以下、好ましくは5%以下となるまで、天日干しして乾燥させる。なお、この乾燥工程としては、バーナーを用いて温風を粒状混合物に吹き付ける等して乾燥させる機械乾燥等も可能である。
【0023】
(5)還元焼成工程
乾燥後の粒状混合物を、例えば直径30cm×高さ30cmの寸胴等に入れてから、この寸胴等を複数の粒状混合物ごと焼成窯(例えば陶芸窯等)に入れ、これら複数の粒状混合物それぞれの中心から表面までに亘るすべての部分がほぼ還元され、焼成後のpHが上がらないように(植物の育成に適した弱酸性となるように)、例えば酸素が存在しない雰囲気(還元性雰囲気)下、要するに還元状態(無酸素状態)で450℃以上550℃以下、好ましくは450℃以上500℃以下、より好ましくは約480℃の温度で、4.5~6.0時間、好ましくは5.5時間ほど還元焼成する。
【0024】
ここで、この還元焼成工程における還元焼成では、おが粉とベントナイトとの混合物を無酸素雰囲気で焼成、要するに還元焼成しているため、炭素化合物でなく炭素そのものを還元焼成している。そして、この還元焼成では、主としてセルロース(C6H10O5)n、ヘミセルロース(C5H8O4)n、およびリグニンを分解炭化させていることから、その炭化後は、有機炭素ではなく無機炭素となるので、長期間に亘って分解されることがないセラミック構造体にすることができる。
【0025】
ここで、この還元状態での焼成温度や焼成時間を適宜調整し、育成する植物の土壌pHに合わせたセラミック構造体にすることもできる。また、必要に応じ、この焼成後の粒状混合物の表面を、例えばシーズヒータ等を用いて800~900℃で5~6分間程度、若しくはガスバーナーで1000℃程、有酸素状態で焼成して酸化処理しても良い。
【0026】
(6)冷却工程
その後、焼成後の粒状混合物を焼成窯から取り出して自然冷却させることにより、所望のセラミック構造体となる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明に係るセラミック構造体の第2実施形態について、
図2を参照しながら説明する。この第2実施形態は、上記の第1実施形態に係る(3)造粒工程(第2粒化工程)を不要とした実施形態であり、上記の(2)混練工程での加水率と押出機(ペレタイザー)の押出穴の形状を変更したものである。具体的に、本第2実施形態にて用いる押出機は、その押出穴が、下方に向けて同心状に縮径したロート状に形成されている。なお、この押出穴は、下端側の内径寸法が約4mm程度となるように構成されている。
【0028】
(2A)混練工程(粒化工程)
上記の(1)混合工程にて混合した混合物を、その加水率が10~20%程度、好ましくは15%程度になるまで加水しながら練り込んでから土練機を用いて捏ね、その後、押出機(ペレタイザー)のロート状の押出穴から混合物を押し出して直径約4mm程度の円柱体とする。このとき、この円柱体は、その加水率が10~20%程度、好ましくは15%程度と低く設定されているため、上記の第1実施形態に係る(3)造粒工程(第2粒化工程)に加え、(4)乾燥工程も不要となる。
【0029】
(5A)還元焼成工程
そして、上記(2A)混練工程(粒化工程)で製造された複数の円柱体を、上記第1実施形態に係る(5)還元焼成工程と同様に還元焼成を行う。
【0030】
(6A)冷却工程
その後、焼成後の円柱体を焼成窯から取り出して自然冷却させることにより、所望のセラミック構造体となる。
【0031】
(第3実施形態)
次に、本発明に係るセラミック構造体の第3実施形態について、
図3を参照しながら説明する。この第3実施形態は、上記の第1実施形態に係る(2)混練工程(第1粒化工程)の構成を変更したものである。
【0032】
(2B)混練工程(第1粒化工程)
上記の(1)混合工程にて混合した混合物を、その加水率が30%程度になるまで加水しながら練り込んでから土練機を用いて捏ね、その後厚さ4mm程度の平板状に成型した板状体とする。そして、この板状体の一部を例えば幅4mm程度ずつ厚さ方向に向けて齧り取っていき、幅約4mm程度の粒状体とする。
【0033】
(3B)造粒工程(第2粒化工程)
その後、これら複数の粒状体を、上記の第1実施形態に係る(3)造粒工程(第2粒化工程)と同様に、粒状化処理(造粒処理)を行い、滑らかな表面形状とされた直径約2.5mm~4.3mm、好ましくは4mm程度の粒状の混合物とする。
【0034】
そして、この粒状の混合物を、上記の第1実施形態に係る(4)乾燥工程、(5)還元焼成工程、および(6)冷却工程と同様の処理を行うことにより、所望のセラミック構造体となる。
【0035】
(第4実施形態)
次に、本発明に係るセラミック構造体の第4実施形態について説明する。この第4実施形態は、上記の第1実施形態に係る(2)混練工程(第1粒化工程)の構成、および(3)造粒工程(第2粒化工程)の構成を変更し、本(2)混練工程(第1粒化工程)における押出機(ペレタイザー)の使用を不要にしたものである。
【0036】
(2C)混練工程(第1粒化工程)
上記の(1)混合工程にて得た混合物に対し、この混合物の加水率が20%程度になるまで、この混合物に加水しながら混ぜ合わせていき、ある程度まとまりができる状態、要するにぼそぼその状態にする。
【0037】
(3C)造粒工程(第2粒化工程)
この後、このぼそぼそ状態とされた混合物の所定量を、整粒機(マルメライザー)に入れ、例えば霧吹き等で霧状にした水分を適宜吹き付けて補充しながら粒状化処理(造粒処理)を行い、滑らかな表面形状とされた直径約2.5mm~4.3mm、好ましくは4mm程度の粒状の混合物とする。
【0038】
そして、この粒状の混合物を、上記の第1実施形態に係る(4)乾燥工程、(5)還元焼成工程、および(6)冷却工程と同様の処理を行うことにより、所望のセラミック構造体となる。
【0039】
[作用効果]
上記の各実施形態に係るセラミック構造体においては、おが粉とベントナイトとの比率を重量比で20:80~35:65、好ましくは29:71~32:68、より好ましくは30:70となるように配合している。その結果、従来のセラミック構造体に比べ、おが粉の比率を高めることができ、炭素比率を上げることができるから、炭素隔離効果を高めることができる。
【0040】
なお、おが粉の配合比を5%高めることにより、炭素隔離効果を20%アップすることができる。したがって、セラミック構造体を敷き詰めた鉢などで植物を育てることにより、植物の育成能力を高めることができ、本セラミック構造体のみの単用で、多品種の植物育成が可能となる。また、使用方法が非常にシンプルであるので、植物の育成に関して基本的な知識を有する人であれば、同様の育成結果を導き出すことができる。特に、オランダガラシによる発芽試験も良好であった。
【0041】
また、乾燥後の粒状混合物を還元状態で焼成し、これら粒状混合物を表面から中心までに亘るすべての部分を還元焼成して炭化させている。このため、焼成後の粒状混合物の表面から内部に亘って同様の強度を得ることができるから、製造されたセラミック構造体全体の強度を高くできる。
【0042】
この結果、製造されたセラミック構造体の割れを少なくでき、耐久性を確保することができる。また同時に、粒状混合物の中心から表面に亘った全体を還元させている。このため、製造する二酸化炭素使用量よりもカーボンマイナスができる可能があり、半永久的な炭素隔離(カーボンニュートラル)が可能となるため、温暖化防止効果も期待できるから、温暖化低減用コンポストとしての利用が可能となる。
【0043】
特に、半永久的な炭素隔離が可能になることにより、二酸化炭素の削減が可能となり、SDGsの17の目標のうちの5つの目標、要するに目標9:産業と技術革新の基板をつくろう、目標12:作る責任、使う責任、目標13:気候変動に具体的な対策を、目標14:海の豊かさを守ろう、目標15:陸の豊かさを守ろう、等を解決することができる。
【0044】
また、セラミック構造体は、その中心から表面までの全体を還元させているため、生分解されない構造となっていることから、使用時における害虫の発生を抑制でき、室内での使用も可能となる。よって、例えば桜、パンジーといった屋外(アウトドア)でも使用できるものの、屋内(インドア)での使用も安心して行うことができる。
【0045】
また同時に、粒状のセラミック構造体の中心から表面までの全体を還元させたことにより、適度の吸水性は有するものの、毛細管現象を抑制しているため、長期間使用しても吸水性が低下しない傾向にあり、植物の育成に適している。特に、保水力は維持しつつ吸水力を抑制できるため、鉢の表面が多潅水状態であっても、鉢内部のセラミック構造体を乾燥気味に管理することができるから、鉢の表面やセラミック構造体の表面における藻やコケの発生を減少できる。
【0046】
練り込んだ混合物を土練機にて捏ねてからマルメライザーにて粒状化しているため、この粒状化の処理に比較的大規模な装置を必要とせずに、混合物の造粒処理を行うことができるから、製造コストを大幅に削減することができる。
【0047】
また、焼成前の粒状混合物の乾燥処理を天日干し乾燥とし、焼成時における粒状混合物の爆裂の可能性を少なくでき、一般的に陶芸窯として使用される程度の大きさの焼成窯を用いて焼成できるため、一般的に大掛かりな装置が必要となる強制乾燥や焼成を行う場合に比べ、乾燥工程および焼成工程に必要となるコストを大幅に削減することができる。特に、乾燥工程を電気式のヒータを用いた温風式とし、焼成工程を電気式の焼成窯等とし、すべての装置を電気式(オール電化)にすることにより、二酸化炭素を使用することなくセラミック構造体を製造することが可能となる。
【0048】
また同時に、陶芸窯程度の大きさの焼成窯にて粒状混合物の焼成を可能としたことにより、焼成工程を小ロットで行うことが可能となり、少量生産が可能となり低コスト化が可能となる。そして、この焼成工程においては、粒状混合物の中心から表面までの全体を還元させているため、焼成時に生じるおそれのある粒状混合物からの粉落ちをほぼ無くすことができる。
【0049】
製造されたセラミック構造体は、微生物を吸着しやすいポーラスの大きさを有しており、夾雑物が多く含まれている傾向にあることからしても、植物の育成に適している。
【0050】
また、使用後のセラミック構造体を土壌に混ぜて植物の育成に用いることにより、このセラミック構造体の3R(リユース:繰り返し使用、リデュース:廃棄不要、リサイクル:使用後に土質改良剤として活用)が可能となり、炭素含有物と粘土で構成されているに過ぎないから、一般ごみ(可燃ごみ)として廃棄することができ、廃棄が容易である。
【0051】
要するに、従来のセラミック構造体においては、その製造に設備費として約1億円程度の大きな費用が必要であるにも関わらず、その販売先が非常に限られていることから、その設備をフル稼働させて生産しても、需要が見込めなかった。
【0052】
これに対し、本願に係るセラミック構造体においては、ニーダーを用いる方法から土練機を用いる方法に造粒方法を変更するとともに、焼成方法を例えば10m程度の大きさのキルンおよび7m程度の大きさの冷却窯を用いる方法から陶芸窯程度の大きさの焼成窯を用いる方法に変更したことにより、焼成時に粒状混合物が爆裂する可能性を無くすことができるので、乾燥工程を天日干しにでき、少量生産および低コスト化が可能となった。
【0053】
[実施例1]
次に、本発明に係るセラミック構造体の実施例1について説明する。本実施例1は、上述した製造方法にて製造したセラミック構造体の各数値を測定している。そして、セラミック構造体の各数値の平均値を、表1に示す。
【0054】
なお、表1において、「2t」は、合計2tのセラミック構造体を複数回に分けて計測した結果の平均値であり、「テスト」は、造粒工程でのマルメライザーの稼働時間を6分、7分、12分、13分と変化させた場合の平均値である。
【0055】
特に、測定した各数値のうち「焼成前嵩比重」は、焼成前の粒状混合物1ccあたりの重量である。そして、「焼成前重量」は、一度に焼成する粒状混合物全体の重量であり、「焼成後重量」は、一度に焼成した粒状混合物の重量である。また、「重量減少割合」は、-{(「燃焼後重量」-「燃焼前重量」)/「燃焼前重量」}×100であり、「焼成後嵩比重全体/cc」は、一度に焼成した粒状混合物全体の嵩比重(cc)である。
【0056】
さらに、「焼成後嵩比重」は、「焼成後嵩比重全体/cc」/「焼成後重量」である。また、「吸水直後重量」は、一度に焼成した粒状混合物を3分間水に沈めた後の100ccあたりの重量であり、「吸水重」は、「吸水直後重量」-「焼成後嵩比重/100cc」である。そして、「吸水割合自重」は、「吸水重」/「焼成後嵩比重/100cc」×100であり、「吸水割合全体」は、「吸水重」/「吸水直後重量」×100である。
【0057】
【0058】
上記実施例1において、合計2tのセラミック構造体を複数回に分けて計測した場合の各数値は、次のとおりであった。
【0059】
【0060】
また、上記実施例1において、造粒工程でのマルメライザーの稼働時間を6分、7分、12分、13分と変化させた場合の各数値は、次のとおりであった。
【0061】
【0062】
なお、マルメライザーの稼働時間を短くすると、焼成後のセラミック構造体のうち、簡単につぶれてしまうものが複数検出されたため、マルメライザーの稼働時間を、例えば12分以上と長くすることが好ましいことが分かった。
【0063】
[実施例2]
次に、本発明に係るセラミック構造体の実施例2について説明する。本実施例2は、上述した製造方法にて製造したセラミック構造体の炭素含有率を燃焼法分析にて測定した。
【0064】
そして、セラミック構造体は、一般社団法人日本食品分析センターに依頼したところ、測定機器:元素分析装置vario EL cube[エレメンタール社]を用いて測定した結果、有機元素分析による炭素含有率が10.6%であった。
【0065】
一方、従来の上記特許文献1に係る方法で製造されたセラミック構造体の炭素含有率は、同様の測定機器を用いて測定した結果、有機元素分析による炭素含有率が3.8%に過ぎなかった(分析試験成績書:第201193150001-0101号)。したがって、本発明に係るセラミック構造体は、上述のように、炭素比率を大幅に向上でき、炭素隔離効果を飛躍的に高めることができることが分かった。
【0066】
[実施例3]
次いで、本発明に係るセラミック構造体の実施例3では、セラミック構造体の炭素含有率を蛍光X線分析にて測定した結果を示す。具体的には、このセラミック構造体の炭素含有率を、群馬県立産業技術センターに依頼したところ、
図4に示すように、蛍光X線分析による炭素含有率は、20.5403%であった。一方、
図5に示すように、従来の上記特許文献1に係る方法で製造されたセラミック構造体の炭素含有率は、蛍光X線分析による炭素含有率が17.2485%に過ぎなかった(試験等結果通知書:群技セ第2304-648号)。
【0067】
なお、上記の蛍光X線分析は、波長分散型蛍光X線分析装置(XRF-1700:株式会社島津製作所製)を用いており、X線条件:X線管球のターゲット材をRhとし、管電圧を40kvとし、管電流を95mAとし、X線通路の雰囲気を30Pa以下の真空とし、分析径(絞り)を10mmφとしている。そして、本分析に際しては、測定対象物を乳鉢で破壊混合し、加圧成形用塩化ビニル製リングを保持具に用いて油圧プレスにて錠剤にしたものを測定試料として測定している。
【0068】
[実施例4]
次いで、本発明に係るセラミック構造体の実施例4について説明する。本実施例4は、上述した製造方法にてセラミック構造体を製造する際の焼成工程における焼成温度を変化させたものである。そして、焼成温度を変化させたセラミック構造体の各数値を、表4に示す。
【0069】
【0070】
この結果、表4に示すように、焼成工程においては、焼成量の相違による誤差があるが、より高温で焼成することにより、セラミック構造体の吸水重を30%以上にすることができる。ただし、焼成後の嵩比重(焼成後嵩比重)を0.7以下、好ましくは0.6以下、具体的には0.57~0.63の範囲とし、かつ焼成後のpHを弱酸性(6.5程度)にするためには、550℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは480℃の焼成温度が適していることが分かった。したがって、セラミック構造体の還元焼成工程における焼成温度としては、550℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは約480℃が適していることが分かった。
【0071】
また、この実施例4においては、各焼成温度で焼成したセラミック構造体の強度、要するに表面のもろさや潰れやすさを試験した。そして、この試験では、各焼成温度で製造されたセラミック構造体の所定量と水を所定の試験ボトルに入れ、その試験ボトルに栓をして激しく振った状態と、試験ボトルの水を3回交換した後に2時間放置してから激しく振った状態のそれぞれついて、試験ボトル内の水の混濁状態を確認した(懸濁試験)。
【0072】
同時に、各焼成温度で製造されたセラミック焼成体を水に浸漬させた直後の吸水音と浮遊物の有無を確認するとともに、その浸漬直後のものと、所定時間、例えば2時間浸漬させた後のものとを圧壊確認板上に載せてつぶした感触を確認した。その結果を、表5に示す。
【0073】
【0074】
よって、表5に示すように、焼成温度400℃の場合、製造されたセラミック構造体は、水に浸漬させた直後の吸水音を確認でき浮遊物は存在しなかった。ただし、吸水直後および所定時間経過後のセラミック構造体のそれぞれは、その一粒を指で挟んで潰すことができる(短粒指圧圧壊)程度の強度であった。
【0075】
また、懸濁試験では、セラミック構造体と水を試験ボトルに入れて激しく振った状態では懸濁が確認され、試験ボトルの水を3回交換した後に2時間放置してから激しく振った状態では懸濁がほとんど確認できなかった。
【0076】
次いで、焼成温度450℃の場合、セラミック構造体は、浸水直後の吸水音を確認でき浮遊物は存在しなかった。ただし、吸水直後のセラミック構造体は、指で挟んで潰すことはできず(短粒指圧壊不可)、爪であれば挟んで潰すことができる状態であった。そして、浸水から所定時間経過した後は、強度的には良好であるが、時間が結果するに連れ弱い力で潰すことができる程度の強度であった。
【0077】
また、この場合の懸濁試験では、セラミック構造体は試験ボトルに入れて水とともに激しく振った状態、および試験ボトルの水を3回交換した後に2時間放置してから激しく振った状態のいずれにおいても、若干の懸濁が確認された。
【0078】
次いで、焼成温度480℃の場合、セラミック構造体は、浸水直後の吸水音を確認でき浮遊物は存在しなかった。ただし、吸水直後のセラミック構造体は、指で挟んで潰すことができなかった(短粒指圧壊不可)が、浸水から所定時間経過した後は、強度的には問題ないものの、吸水直後に比べ弱い力で潰すことができる程度の強度であった。
【0079】
また、懸濁試験では、セラミック構造体は、試験ボトルに入れて水とともに激しく振った状態、および試験ボトルの水を3回交換した後に2時間放置してから激しく振った状態のそれぞれにおいて、ほとんど懸濁が確認できなかった。
【0080】
次いで、焼成温度500℃の場合、セラミック構造体は、浸水直後の吸水音を確認でき浮遊物は存在しなかった。ただし、吸水直後のセラミック構造体は、指で挟んで潰すことができなかった(短粒指圧壊不可)が、浸水から所定時間経過した後は、強度的には問題ないものの、吸水直後に比べ弱い力で潰すことができる程度の強度であった。
【0081】
また、懸濁試験では、セラミック構造体は、試験ボトルに入れて水とともに激しく振った状態、および試験ボトルの水を3回交換した後に2時間放置してから激しく振った状態のそれぞれにおいて、ほとんど懸濁が確認できなかった。
【0082】
さらに、焼成温度550℃の場合、セラミック構造体は、浸水直後の吸水音を確認でき浮遊物は存在しなかった。ただし、吸水直後のセラミック構造体は、指で挟んで潰すことができなかった(短粒指圧壊不可)が、浸水から所定時間経過した後は、強度的には問題ないものの、吸水直後に比べ弱い力で潰すことができる程度の強度であった。
【0083】
また、懸濁試験では、試験ボトルに入れて水とともに激しく振った状態、および試験ボトルの水を3回交換した後に2時間放置してから激しく振った状態のそれぞれにおいて、ほとんど懸濁を確認することができなかった。
【0084】
以上により、セラミック構造体を製造する際の還元焼成工程では、焼成後嵩比重を0.7以下、好ましくは0.6以下とする目的からすると、好ましくは500℃以下、より好ましくは480℃以下の焼成温度が適していることが分かった。そして、還元焼成工程での焼成温度は、焼成後のセラミック構造体の強度の面からすると、450℃以上の焼成温度が好ましいことが分かった。