IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社KID Jの特許一覧

特許7606270コーナーキューブ、コーナーキューブの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】コーナーキューブ、コーナーキューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/122 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
G02B5/122
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024137463
(22)【出願日】2024-08-16
【審査請求日】2024-08-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524309122
【氏名又は名称】株式会社KID J
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日高 淳
(72)【発明者】
【氏名】町田 稔生
(72)【発明者】
【氏名】橋本 光宏
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-199913(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0035835(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112596195(CN,A)
【文献】中国実用新案第211236219(CN,U)
【文献】中国実用新案第211180183(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 - 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を入射方向と平行且つ反対の方向に反射するコーナーキューブであって、
平板状の第1樹脂基板と、
前記第1樹脂基板に直角に接続された平板状の第2樹脂基板と、
前記第1樹脂基板及び前記第2樹脂基板のそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板と、を有し、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板は樹脂材料で構成されており、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板の各々は、
前記光の入射口側である内側の面と、
前記入射口とは反対側の外側の面と、を有しており、
前記入射口近傍の板厚が、前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板により形成される三角錐形状の頂点近傍の板厚よりも薄くなるように、前記外側の面に前記内側の面に対して傾斜した傾斜部が形成されている
コーナーキューブ。
【請求項2】
入射した光を入射方向と平行且つ反対の方向に反射するコーナーキューブであって、
平板状の第1樹脂基板と、
前記第1樹脂基板に直角に接続された平板状の第2樹脂基板と、
前記第1樹脂基板及び前記第2樹脂基板のそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板と、を有し、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板は樹脂材料で構成されており、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板により形成される三角錐形状の頂点近傍から前記光の入射口に垂直な方向に延びる円柱状のボスを備える、
ーナーキューブ。
【請求項3】
入射した光を入射方向と平行且つ反対の方向に反射するコーナーキューブの製造方法であって、
溶融した樹脂材料を金型内に注入し、射出成形又は圧縮成形により、平板状の第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に直角に接続された平板状の第2樹脂基板と、前記第1樹脂基板及び前記第2樹脂基板のそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板と、を形成する第1ステップを有する、
コーナーキューブの製造方法。
【請求項4】
前記第1ステップでは、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板により形成される三角錐形状の頂点近傍に位置するゲートから前記樹脂材料を前記金型内に注入する、
請求項に記載のコーナーキューブの製造方法。
【請求項5】
前記第1ステップで形成された前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板の各々に対し、前記光の入射口側である内側の面及び前記入射口とは反対側の外側の面の両方に金属膜を成膜する第2ステップをさらに有する、
請求項に記載のコーナーキューブの製造方法。
【請求項6】
前記第1ステップでは、
前記光の入射口側である内側の面及び前記入射口とは反対側の外側の面を有する前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板の各々に対し、前記入射口近傍の板厚が、前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板により形成される三角錐形状の頂点近傍の板厚よりも薄くなるように、前記外側の面に前記内側の面に対して傾斜した傾斜部が形成される形状の前記金型内に、前記樹脂材料を注入する、
請求項に記載のコーナーキューブの製造方法。
【請求項7】
前記第1ステップでは、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板により形成される三角錐形状の頂点近傍から前記光の入射口に垂直な方向に延びる円柱状のボスが形成される形状の前記金型内に、前記樹脂材料を注入する、
請求項乃至のいずれか1項に記載のコーナーキューブの製造方法。
【請求項8】
前記第1ステップでは、
前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板を備える成形品は、前記ボスを把持されて前記金型から取り出される、
請求項に記載のコーナーキューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーナーキューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばトータルステーション等の測量機器に使用されるコーナーキューブが知られている。例えば特許文献1には、正六面体の一隅であった角を頂上とする三角錐状の形状のコーナーキューブリフレクターが記載されている。このコーナーキューブリフレクターは、例えばBK7や透明石英ガラス等の光学ガラスを成形加工することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-315561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のコーナーキューブリフレクターは、光学ガラスに対して研削及び研磨による精密加工を施すため、非常に長い加工時間を要する。このため、生産性が低く、コストが高いという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、生産性を向上でき、且つ、コストを削減できるコーナーキューブ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、入射した光を入射方向と平行且つ反対の方向に反射するコーナーキューブであって、平板状の第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に直角に接続された平板状の第2樹脂基板と、前記第1樹脂基板及び前記第2樹脂基板のそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板と、を有し、前記第1樹脂基板、前記第2樹脂基板、及び前記第3樹脂基板は樹脂材料で構成されている。
【0007】
本発明のコーナーキューブは、樹脂材料で構成されている。このため、樹脂成形によりベース形状を形成することができるので、光学ガラスを使用する場合のように研削及び研磨による精密加工が不要となり、製造に要する時間を大幅に短縮できる。したがって、生産性を向上でき、且つ、コストを削減できる。さらに、重量を軽減できる。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明は、入射した光を入射方向と平行且つ反対の方向に反射するコーナーキューブの製造方法であって、溶融した樹脂材料を金型内に注入し、射出成形又は圧縮成形により、平板状の第1樹脂基板と、前記第1樹脂基板に直角に接続された平板状の第2樹脂基板と、前記第1樹脂基板及び前記第2樹脂基板のそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板と、を形成する第1ステップを有する。
【0009】
本発明によれば、溶融した樹脂材料を金型内に注入し、射出成形又は圧縮成形により、第1樹脂基板、第2樹脂基板、及び第3樹脂基板を形成する。これにより、光学ガラスを使用する場合のように研削及び研磨による精密加工が不要となり、製造に要する時間を大幅に短縮できる。したがって、生産性を向上でき、且つ、コストを削減できる。さらに、重量を軽減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性を向上でき、且つ、コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るコーナーキューブを光の入射口とは反対側から見た上面図である。
図2】実施形態に係るコーナーキューブを光の入射口側から見た下面図である。
図3】実施形態に係るコーナーキューブを図1の矢印IIIの方向から見た側面図である。
図4】実施形態に係るコーナーキューブを図1の矢印IVの方向から見た正面図である。
図5】コーナーキューブにおける光の入射方向と反射方向を説明するための説明図である。
図6】コーナーキューブの断面の層構造を表すための図1の断面線VI-VIに相当する断面図である。
図7図6の領域VIIにおける層構造を概念的に表す図である。
図8図6の領域VIIにおける層構造の他の例を概念的に表す図である。
図9】コーナーキューブの断面の板厚を表すための図1の断面線VI-VIに相当する断面図である。
図10】コーナーキューブの製造手順を表すフローチャートである。
図11】樹脂材料を注入する金型のコアの形状を表す上面図である。
図12図11の断面線XII-XIIに相当する、コアの凸部とキャビティの凹部による嵌合構造を表す断面図である。
図13】樹脂材料を注入するゲートの位置を表す図である。
図14】金型のコアとキャビティの間に樹脂を注入した状態を表す断面図である。
図15】コアをキャビティから離間させた状態を表す断面図である。
図16】ストリッパープレートによりコアから成形品を離型させた状態を表す断面図である。
図17】変形例に係るコーナーキューブを光の入射口とは反対側から見た上面図である。
図18】変形例に係るコーナーキューブを図17の矢印XVIIIの方向から見た側面図である。
図19】変形例に係るコーナーキューブを図17の矢印XIXの方向から見た正面図である。
図20】変形例に係る金型のコアとキャビティの間に樹脂を注入した状態を表す断面図である。
図21】変形例に係るコーナーキューブをホルダに取り付けた状態を表す断面図である。
図22】変形例に係るコーナーキューブのゲート部ボスを把持して離型させる様子を表す側面図である。
図23】変形例に係るコーナーキューブのゲート部ボスを把持して離型させる様子を表す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係るコーナーキューブは、例えばトータルステーション、セオドライト、トランシット等の測量機器に使用される。コーナーキューブは、コーナーキューブリフレクタ、コーナーキューブプリズム等とも呼ばれる。
【0013】
<コーナーキューブの外観構成>
図1図5を用いて、実施形態に係るコーナーキューブの外観構成の一例について説明する。図1は、実施形態に係るコーナーキューブを光の入射口とは反対側から見た上面図、図2は、実施形態に係るコーナーキューブを光の入射口側から見た下面図、図3は、実施形態に係るコーナーキューブを図1の矢印IIIの方向から見た側面図、図4は、実施形態に係るコーナーキューブを図1の矢印IVの方向から見た正面図、図5は、コーナーキューブにおける光の入射方向と反射方向を説明するための説明図である。
【0014】
図1図5に示すように、コーナーキューブ1は、略直角二等辺三角形の平板状の第1基板3と、略直角二等辺三角形の平板状の第2基板5と、略直角二等辺三角形の平板状の第3基板7を有する。コーナーキューブ1は、第1基板3、第2基板5、及び第3基板7がそれぞれ直角に連結されることで、略三角錐形状に形成されている。図1図5に示す例では、コーナーキューブ1は、樹脂成形時のゲート跡の切除により、三角錐形状の頂点部分に略正三角形状の平坦部9が形成されている。その結果、第1基板3、第2基板5、第3基板7の外側の面3o,5o,7oはそれぞれ等脚台形の形状に形成されている。外側の面3o,5o,7oにはリブや溝等が形成されておらず、後述の傾斜部25,27を除き凹凸のない面として形成されている。
【0015】
なお、図示は省略するが、コーナーキューブ1の頂点部分に平坦部9を形成せずに、頂点が尖った三角錐形状に形成してもよい。この場合、第1基板3、第2基板5、第3基板7の外側の面3o,5o,7oはそれぞれ、直角二等辺三角形の形状に形成される。
【0016】
詳細は後述するが、第1基板3は、第1樹脂基板3Aの表面に金属膜が成膜されることで形成され、第2基板5は、第2樹脂基板5Aの表面に金属膜が成膜されることで形成され、第3基板7は、第3樹脂基板7Aの表面に金属膜が成膜されることで形成されている。第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aは、樹脂材料で構成されている。樹脂材料としては、例えば、高温且つ高湿度の環境下でも寸法安定性に優れたCOC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)等を使用してもよいし、要求精度に応じてPC(ポリカーボネート)やPMMA(ポリメタクリル酸メチル)等を使用してもよい。また、上記以外の樹脂材料を使用してもよい。
【0017】
図2に示すように、コーナーキューブ1は、光が入射される入射口11を備えている。入射口11は、第1基板3、第2基板5、及び第3基板7のそれぞれの平坦部9とは反対側の端部3e,5e,7eにより囲まれる正三角形状の開口である。第1基板3、第2基板5、第3基板7はそれぞれ、入射口11側である内側の面3i,5i,7iと、入射口11とは反対側の外側の面3o,5o,7iとを備えている。内側の面3i,5i,7iはそれぞれ平坦な面(平面)であり、光を反射する反射面を構成する。内側の面3i,5i,7iは、それぞれが直角二等辺三角形の形状に形成されており、3つの面3i,5i,7iがなす角度がそれぞれ直角となっている。すなわち、内側の面3i,5iは直角に接続され、内側の面3i,7iも直角に接続され、内側の面5i,7iも直角に接続されている。
【0018】
コーナーキューブ1は、入射口11から入射した光を内側の面3i,5i,7iのいずれか2つ又は3つの面で反射させて、入射方向と平行且つ反対の方向に反射する。図5に示す例では、コーナーキューブ1は、入射口11から入射した光13を例えば3つの面7i,5i,3iの順でそれぞれ反射させて、入射方向と平行且つ反対の方向に反射している。
【0019】
<コーナーキューブの各基板の断面構成>
図6図9を用いて、実施形態に係るコーナーキューブ1の各基板の断面構成の一例について説明する。図6は、コーナーキューブ1の断面の層構造を表すための図1の断面線VI-VIに相当する断面図、図7は、図6の領域VIIにおける層構造を概念的に表す図、図8は、図6の領域VIIにおける層構造の他の例を概念的に表す図、図9は、コーナーキューブ1の断面の板厚を表すための図1の断面線VI-VIに相当する断面図である。なお、図6では層構造を分かり易くするために板厚を一定であるものとして図示している。また、図9では板厚を分かり易くするために金属膜の図示を省略している。
【0020】
図6に示すように、第1基板3の第1樹脂基板3Aは、入射口11側である内側の面3Aiと、入射口11とは反対側の外側の面3Aoとを備えている。第1樹脂基板3Aの内側の面3Ai及び外側の面3Aoの両方には、金属膜15が成膜されている。同様に、第2基板5の第2樹脂基板5Aは、入射口11側である内側の面5Aiと、入射口11とは反対側の外側の面5Aoとを備えている。第2樹脂基板5Aの内側の面5Ai及び外側の面5Aoの両方には、金属膜15が成膜されている。内側の面に形成される金属膜15と、外側の面に形成される金属膜15は、同じ層構成且つ略同じ厚みである。なお、図6では図示されていないが、第3基板7の第3樹脂基板7Aも第1樹脂基板3A及び第2樹脂基板5Aと同様の層構造を有する。
【0021】
図7に示すように、金属膜15は、樹脂製の樹脂基板3A,5Aの表面に形成された金属反射膜19と、金属反射膜19の表面に形成された保護膜21とを有する。金属反射膜19は、例えばアルミニウム、金、銀等の高反射率の金属材料を用いてスパッタにより形成される。また、上記の金属以外にも、耐久性や二次加工性を向上させた合金等を用いてもよい。スパッタは、スパッタリング法とも呼ばれる。スパッタでは、金属材料と樹脂基板3A,5Aが容器内に設置され、容器内が真空にされて不活性ガス(アルゴン等)が導入される。樹脂基板3A,5Aと金属材料間に高電圧が加えられると、アルゴンの電子・イオンが高速移動して金属材料に衝突し、スパッタリング現象が発生して金属材料の粒子が弾き飛ばされ、樹脂基板3A,5Aの表面に付着する。このようにして、樹脂基板3A,5Aの表面に金属材料の薄膜が形成される。
【0022】
保護膜21は、例えばガラス材料を用いて蒸着により形成される。保護膜21は、耐熱性や耐摩耗性を高める。蒸着では、ガラス材料と、金属反射膜19を形成した樹脂基板3A,5Aが容器内に設置され、容器内が真空にされて、ガラス材料が加熱される。加熱により蒸発(気化)したガラス材料は、樹脂基板3A,5Aの金属反射膜19の表面に付着し、保護膜を形成する。ガラス材料を加熱する方法には、例えば抵抗加熱式、電子ビーム式、高周波誘導式、レーザ式等がある。第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、第3樹脂基板7Aの内側の面3Ai,5Ai,7Aiに形成された金属膜15が、光を反射する反射面を構成する。
【0023】
図8に示すように、金属反射膜19上に、保護膜21の代わりに誘電体多層膜23を形成してもよい。誘電体多層膜23は、より高い反射率や必要な光学特性を実現するために、増反射膜として設けられる。誘電体多層膜23は、屈折率の違う2種類以上の誘電体膜を積層することで、光の干渉作用によって任意の光学特性を得ることができる。例えば、反射させる光の波長、反射率、入射角依存性等の光学特性を変化させることが可能である。誘電体多層膜23は、コーナーキューブ1が搭載される測量機器等の製品に必要な機能に応じてカスタマイズされる。誘電体多層膜23は、スパッタ又は蒸着により形成される。
【0024】
図9に示すように、第1樹脂基板3の外側の面3Aoには、内側の面3Aiに対して傾斜した傾斜部25,27が形成されている。図9に示す例では、内側の面3Aiに対する傾斜が比較的小さい傾斜部25と、内側の面3Aiに対する傾斜が比較的大きい傾斜部27の、2段階の傾斜が設けられている。同様に、第2樹脂基板5Aの外側の面5Aoには、内側の面5Aiに対して傾斜した傾斜部25,27が形成されている。上記と同様に、傾斜部25は内側の面5Aiに対する傾斜が比較的小さく、傾斜部27は内側の面5Aiに対する傾斜が比較的大きい。なお、傾斜は1段階としてもよいし、3段階以上としてもよい。また、直線状の傾斜に限らず、湾曲した曲線状の傾斜としてもよい。
【0025】
これにより、第1樹脂基板3A及び第2樹脂基板5Aの各々は、入射口11近傍の板厚T1が、コーナーキューブ1の三角錐形状の頂点近傍の板厚(平坦部9近傍の板厚)T2よりも薄くなっている。なお、図9では比較のために、傾斜部を設けない形状(板厚が一定の形状)を一点鎖線で図示している。また、図9では図示されていないが、第3樹脂基板7Aについても第1樹脂基板3A及び第2樹脂基板5Aと同様の板厚に形成されている。図9では図示を省略しているが、上記の板厚となるように形成された各樹脂基板3A,5A,7Aの内側及び外側の両面に対し、図6図8で示した金属膜15が成膜される。なお、各樹脂基板3A,5A,7Aにおける傾斜部25,27は、樹脂材料が注入される金型の形状によって実現されている。傾斜部25,27の傾斜度、すなわち第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aの板厚は、金型に樹脂材料を注入した際の圧力分布に応じて適宜の値に設定されている。
【0026】
<コーナーキューブの製造方法>
図10図16を用いて、実施形態に係るコーナーキューブ1の製造方法の一例について説明する。図10は、コーナーキューブ1の製造手順を表すフローチャート、図11は、樹脂材料を注入する金型のコアの形状を表す上面図、図12は、図11の断面線XII-XIIに相当する、コアの凸部とキャビティの凹部による嵌合構造を表す断面図、図13は、樹脂材料を注入するゲートの位置を表す図、図14は、金型のコアとキャビティの間に樹脂を注入した状態を表す断面図、図15は、コアをキャビティから離間させた状態を表す断面図、図16は、ストリッパープレートによりコアから樹脂成形品を離型させた状態を表す断面図である。
【0027】
図10に示すように、ステップS10では、溶融した樹脂材料を金型内に注入し、射出成形又は圧縮成形により、平板状の第1樹脂基板3Aと、第1樹脂基板3Aに直角に接続された平板状の第2樹脂基板5Aと、第1樹脂基板3A及び第2樹脂基板5Aのそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板7Aを形成する。ステップS10は第1ステップの一例である。
【0028】
ステップS20では、上記ステップS10で形成された第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aの各々に対し、内側の面3Ai,5Ai,7Ai及び外側の面3Ao,5Ao,7Aoの両方に、金属反射膜19及び保護膜21をそれぞれ成膜する。ステップS20は第2ステップの一例である。
【0029】
図11に、上記ステップS10において樹脂材料を注入する金型29のコア31の形状を示す。図11に示すように、コア31は例えば略四角形状であり、その中心位置に、コーナーキューブ1の反射面となる樹脂基板3A,5A,7Aの内側の面3Ai,5Ai,7Aiを成形するための三角錐形状の突起部33が設けられている。突起部33の表面は、例えば極小エンドミルを使用した超微細加工にて製作されている。突起部33の表面は、例えば平面度が1μm以下、表面粗さRaが0.05μm以下となるように製作されている。
【0030】
また、コア31の四隅にはそれぞれ凸部35が設けられている。一方、図12に示すように、金型29のキャビティ37には、コア31の4つの凸部35に対応する位置にそれぞれ凹部39が設けられている。図12に示すように、凸部35及び凹部39の側部にはテーパが設けられており、凸部35が凹部39にテーパを介して嵌合することで、コア31とキャビティ37とがインロー合わせにより位置決めされる。これにより、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aのそれぞれの板厚のバランスを均等にすることができる。
【0031】
図13に、金型29のキャビティ37に設けられたゲート41の位置を示す。図13に示すように、ゲート41は、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aからなる三角錐形状の樹脂成形品1Aの頂点近傍(平坦部9の略中心)に位置する。すなわち、上記ステップS10では、コーナーキューブ1の三角錐形状の頂点近傍(平坦部9の略中心)に位置するゲート41から樹脂材料を金型29内に注入する。
【0032】
図14図16に、上記ステップS10において樹脂成形(この例では射出成形)をする際の金型29の断面構造を示す。まず図14に示すように、金型29のコア31とキャビティ37との間の空間に、溶融した樹脂材料がゲート41から注入される。この際、コア31にはストリッパープレート43が設けられている。ストリッパープレート43は、正三角形の枠状に形成されており、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aからなる三角錐形状の樹脂成形品1Aの下端(入射口11の縁)を支持する。
【0033】
なお、キャビティ37は、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aに前述の傾斜部25,27が形成される形状となっている。すなわち、上記ステップS10では、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aの各々に対し、入射口11近傍の板厚T1が、三角錐形状の頂点近傍(平坦部9近傍)の板厚T2よりも薄くなるように、外側の面3Ao,5Ao,7Aoに内側の面3Ai,5Ai,7Aiに対して傾斜した傾斜部25,27が形成される形状の金型29内に、樹脂材料が注入される。
【0034】
次に図15に示すように、コア31がストリッパープレート43と共にキャビティ37から離間される。これにより、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aからなる樹脂成形品1Aがキャビティ37から離型される。なお、図15及び図16では樹脂成形品1Aにおけるゲート跡については図示を省略している。
【0035】
次に図16に示すように、ストリッパープレート43がコア31から突き出されることで、ストリッパープレート43が樹脂成形品1Aの下端(入射口11の縁)を持ち上げて樹脂成形品1Aをコア31から離型させる。このようにストリッパープレート43を使用することで、例えばエジェクターピンにより離型させる場合に比べて、反射面の面精度に影響を与えることなく樹脂成形品1Aを離型させることができる。
【0036】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態に係るコーナーキューブ1は、樹脂材料で構成されている。樹脂成形によりコーナーキューブ1のベース形状を形成することができるので、光学ガラスを使用する場合のように研削及び研磨による精密加工が不要となり、製造に要する時間を大幅に短縮できる。したがって、生産性を向上でき、且つ、コストを削減できる。
【0037】
また、コーナーキューブ1を構成する第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、第3樹脂基板7Aの各々の内側の面3Ai,5Ai,7Aiには、金属膜15が成膜されることで、光を反射する反射面が形成される。この際、内側の面だけに金属膜15を成膜すると、樹脂基板3A,5A,7Aと金属膜15との熱膨張率の差により、温度変化に応じて反射面が微小変形する場合がある。実施形態に係るコーナーキューブ1では、内側の面3Ai,5Ai,7Ai及び外側の面3Ao,5Ao,7Aoの両方に金属膜15が同様に成膜されているので、熱膨張率の差により生じる力を樹脂基板3A,5A,7Aの内側と外側とで平衡させることができる。加えて、両面に金属膜15を形成するので樹脂基板3A,5A,7Aの強度を向上できる。これにより、微小変形を防止でき、反射面の平面度を向上できる。
【0038】
また、本実施形態では特に、溶融した樹脂材料を金型29内に注入し、射出成形又は圧縮成形により、コーナーキューブ1のベース形状となる第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aからなる樹脂成形品1Aが形成される。この際、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aにより形成される三角錐形状の頂点近傍に位置するゲート41から樹脂材料を注入して射出成形を行う場合、ゲート41の近傍は圧力が高く、入射口11側の端部近傍では圧力が低くなる。このような圧力分布に起因して、入射口11側の端部近傍にヒケ(体積収縮による表面の凹み)が生じる場合がある。実施形態に係るコーナーキューブ1では、入射口11側の端部近傍の板厚T1がゲート41の近傍の板厚T2よりも薄くなるように、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aのそれぞれの外側の面3Ao,5Ao,7Aoに、内側の面3Ai,5Ai,7Aiに対して傾斜した傾斜部25,27が形成されている。これにより、入射口11側の端部近傍における圧力低下による影響を抑制でき、ヒケによる変形を抑制することができる。したがって、反射面の平面度を向上できる。
【0039】
また、本実施形態に係るコーナーキューブ1の製造方法によれば、ステップS10において、溶融した樹脂材料を金型29内に注入し、射出成形又は圧縮成形により、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aからなる樹脂成形品1Aを形成する。これにより、光学ガラスを使用する場合のように研削及び研磨による精密加工が不要となり、製造に要する時間を大幅に短縮できる。したがって、生産性を向上でき、且つ、コストを削減できる。
【0040】
また、本実施形態では特に、金型29のキャビティ37に設けられた樹脂材料を注入するゲート41が、コーナーキューブ1(樹脂成形品1A)の中心位置に位置する。これにより、金型29内においてゲート41から最も離れた位置(入射口11側の端部)における樹脂材料の圧力を均等にすることができ、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aにおける圧力分布のバランスを向上できる。したがって、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aを均等な精度で成形できる。
【0041】
また、本実施形態の製造方法によれば、ステップS20において、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aの各々に対し、内側の面3Ai,5Ai,7Ai及び外側の面3Ao,5Ao,7Aoの両方に金属膜15を成膜する。これにより、熱膨張率の差により生じる力を樹脂基板3A,5A,7Aの内側と外側とで平衡させることができる。加えて、両面に金属膜15を形成するので樹脂基板3A,5A,7Aの強度を向上できる。これにより、微小変形を防止でき、反射面の平面度を向上できる。
【0042】
また、本実施形態の製造方法によれば、ステップS10において、入射口11側の端部近傍の板厚T1がゲート41近傍の板厚T2よりも薄くなるように、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aのそれぞれの外側の面3Ao,5Ao,7Aoに、内側の面3Ai,5Ai,7Aiに対して傾斜した傾斜部25,27が形成される形状の金型29に、樹脂材料が注入される。これにより、入射口11側の端部近傍における圧力低下による影響を抑制でき、ヒケによる変形を抑制することができる。したがって、反射面の平面度を向上できる。
【0043】
<変形例>
本発明は、以上説明した実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0044】
例えば、コーナーキューブ1に、三角錐形状の頂点近傍から入射口11に垂直な方向に延びる円柱状のボスを設けてもよい。図17図23を用いて、本変形例の詳細について説明する。図17は、変形例に係るコーナーキューブを光の入射口とは反対側から見た上面図、図18は、変形例に係るコーナーキューブを図17の矢印XVIIIの方向から見た側面図、図19は、変形例に係るコーナーキューブを図17の矢印XIXの方向から見た正面図、図20は、変形例に係る金型のコアとキャビティの間に樹脂を注入した状態を表す断面図、図21は、変形例に係るコーナーキューブをホルダに取り付けた状態を表す断面図、図22は、変形例に係るコーナーキューブのゲート部ボスを把持して離型させる様子を表す側面図、図23は、変形例に係るコーナーキューブのゲート部ボスを把持して離型させる様子を表す上面図である。なお、図17図23において、前述の実施形態と同様の構成には同符号を付し、適宜説明を省略する。
【0045】
図17図19に示すように、コーナーキューブ1は、前述の実施形態と同様に、第1基板3と、第2基板5と、第3基板7を有する。本変形例のコーナーキューブ1は、三角錐形状の頂点近傍(平坦部9の略中心)から、入射口11に垂直な方向に延びる円柱状のボス45を備えている。ボス45は、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aと共に樹脂成型により一体成形される。すなわち、ボス45は樹脂基板3A,5A,7Aと同じ樹脂材料で構成されている。なお、ボス45の表面には、金属膜15は成膜されていない。上記以外のコーナーキューブ1の構成は、前述の実施形態と同様である。
【0046】
図20に示すように、金型29のキャビティ37は、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aからなる樹脂成形品1Aと共にボス45が形成される形状となっている。ゲート41は、ボス45用の中空部の先端部分に接続されており、溶融した樹脂材料がゲート41から注入される。すなわち、本変形例では、図10のステップS10において、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aにより形成される三角錐形状の頂点近傍(平坦部9の略中心)から入射口11に垂直な方向に延びる円柱状のボス45が形成される形状の金型29内に、樹脂材料を注入する。上記以外の金型29の構成は、前述の実施形態と同様である。
【0047】
図21に示すように、本変形例のコーナーキューブ1は、例えばトータルステーション、セオドライト、トランシット等の測量機器に搭載される際に、柱状のホルダ47に取り付けられる。ホルダ47には、コーナーキューブ1の取付位置に、ボス45を嵌合可能な差込穴49が設けられている。コーナーキューブ1は、ボス45を差込穴49に嵌合させることでホルダ47に固定される。ボス45の差込穴49への嵌合と、平坦部9とホルダ47の側面との当接により、コーナーキューブ1が精度良く位置決めされる。なお、ホルダ47は円柱状でもよいし、多角形の柱状でもよい。ホルダ47の形状や大きさは、コーナーキューブ1の大きさや数量等に応じて決定される。
【0048】
図22及び図23に示すように、本変形例のコーナーキューブ1又は樹脂成形品1Aは、治具51によりボス45を把持することで、持ち上げることが可能である。治具51は、例えばロボット等の自動機が備えるロボットハンドでもよいし、ユーザが手にもって使用するツールでもよい。例えば図10のステップS10において、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aを備える樹脂成形品1Aが、ボス45を把持されて金型29から取り出されてもよい。
【0049】
以上説明したように、本変形例のコーナーキューブ1は、三角錐形状の頂点近傍(平坦部9の略中心)から入射口11に垂直な方向に延びる円柱状のボス45を備える。これにより、コーナーキューブ1をホルダ47に取り付ける際にボス45を使用することで、位置決めが容易になると共に、コーナーキューブ1の外側の面3o,5o,7oをホルダ47に接触させずに固定できるので、反射面の平面度に影響が生じることを防止できる。また、金型29から樹脂成形品1Aを取り出す際に、ボス45を把持して取り出すことができるので、取り出しが容易となると共に、反射面の精度に影響を与えることなく、樹脂成形品1Aを金型29から取り出すことができる。
【0050】
以上既に述べた以外にも、上記実施形態による手法及び変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0051】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0052】
1 コーナーキューブ
1A 樹脂成形品
3 第1基板
3A 第1樹脂基板
3Ai 内側の面
3Ao 外側の面
5 第2基板
5A 第2樹脂基板
5Ai 内側の面
5Ao 外側の面
7 第3基板
7A 第3樹脂基板
7Ai 内側の面
7Ao 外側の面
9 平坦部
11 入射口
13 光
15 金属膜
19 金属反射膜
21 保護膜
23 誘電体多層膜
25 傾斜部
27 傾斜部
29 金型
31 コア
37 キャビティ
41 ゲート
43 ストリッパープレート
45 ボス
T1 板厚
T2 板厚
【要約】
【課題】生産性を向上でき、且つ、コストを削減できるコーナーキューブ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コーナーキューブ1は、入射した光を入射方向と平行且つ反対の方向に反射するコーナーキューブであって、平板状の第1樹脂基板3Aと、第1樹脂基板3Aに直角に接続された平板状の第2樹脂基板5Aと、第1樹脂基板3A及び第2樹脂基板5Aのそれぞれに直角に接続された平板状の第3樹脂基板7Aと、を有し、第1樹脂基板3A、第2樹脂基板5A、及び第3樹脂基板7Aは樹脂材料で構成されている。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23