(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】編地及び靴用アッパー材
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
(21)【出願番号】P 2020052158
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】冨路本 泰弘
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-064876(JP,A)
【文献】実開平03-014178(JP,U)
【文献】特開2013-028868(JP,A)
【文献】特開2003-009908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00-23/30
A43C 1/00-19/00
A43D 1/00-999/00
B29D 35/00-35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴用アッパー材に用いられる編地であって、
吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を含み、
前記吸光熱変換性繊維は、芯鞘構造を有する単糸で構成されるマルチフィラメントであり、前記単糸は芯部にのみ前記吸光熱変換性粒子を含み、
編地の一方の面において、表面の総面積に対して、該表面で占める前記吸光熱変換性繊維の面積の割合が30%以上であり、
該一方の面が靴用アッパー材の外側に配されて使用される、編地。
【請求項2】
前記吸光熱変換性粒子が、カーボンブラック、炭化ジルコニウム、炭化珪素、炭化ホウ素、酸化錫、酸化アルミニウム、二酸化珪素、マイカ、及びタルクよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の編地。
【請求項3】
芯部と鞘部との質量比が、芯部/鞘部の質量比で50/50~85/15である、請求項
1又は2に記載の編地。
【請求項4】
芯部の構成樹脂がポリエステルであり、且つ鞘部の構成樹脂がポリエステルである、請求項
1~3のいずれかに記載の編地。
【請求項5】
前記吸光熱変換性繊維が、マルチフィラメントの仮撚加工糸である、請求項1~
4のいずれかに記載の編地。
【請求項6】
以下の人工太陽光照射試験で求められる1分経過後の上昇温度が10℃以上、且つ3分経過後の上昇温度が15℃以上である、請求項1~
5のいずれかに記載の編地。
<人工太陽光照射試験>
編地(100mm×100mm)の前記一方の面とは反対側の面の中心部分に温度センサーを取り付け、編地の前記一方の面が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置する。編地の前記一方の面とは反対側の面の温度が20℃で安定した後に、500Wの人工太陽照射灯(編地から高さ20cmに設置)を編地の前記一方の面に対して、照度100,000luxで照射する。照射開始から1分後及び3分後の編地の前記一方の面とは反対側の面の温度を測定し、下記算出式に従って1分経過後の上昇温度と3分経過後の上昇温度を算出する。
【数1】
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の編地を含む、靴用アッパー材。
【請求項8】
請求項
7に記載の靴用アッパー材を含む、靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴用アッパー材として使用した際に、足が暖まり易く優れた温感効果(暖かさが実感される効果)を奏する編地に関する。また、本発明は、該編地を使用した靴用アッパー材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、靴用アッパー材において、軽量化、快適性、耐久性等の改善が図られている。例えば、特許文献1には、表裏の地組織が連結糸で連結されてなる三次元構造布帛で形成されたスポーツシューズ用アッパー材において、特定の中空繊維を用い、且つ当該布帛の密度と厚みを特定の範囲に設定することにより、耐摩耗性、軽量化、足にかかる圧迫感の軽減、シューズの蒸れ感の低減等が図られることが開示されている。
【0003】
近年、靴に対する要求性能が多様化しており、様々なニーズに対応した靴用アッパー材の開発が求められている。例えば、寒冷環境(寒冷地、冬場等)で使用される靴の性能として、使用時に足が暖まり易く、温感効果があることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、靴用アッパー材として使用した際に足が暖まり易く優れた温感効果を奏する編地を提供することである。また、本発明の他の目的は、該編地を使用した靴用アッパー材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を構成繊維として含み、編地の一方の面において、表面の総面積に対して該表面で占める前記吸光熱変換性繊維の面積の割合が30%以上である編地は、靴用アッパー材として使用すると、足が暖まり易く優れた温感効果を奏し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 靴用アッパー材に用いられる編地であって、
吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を含み、
編地の一方の面において、表面の総面積に対して、該表面で占める前記吸光熱変換性繊維の面積の割合が30%以上であり、
該一方の面が靴用アッパー材の外側に配されて使用される、編地。
項2. 前記吸光熱変換性粒子が、カーボンブラック、炭化ジルコニウム、炭化珪素、炭化ホウ素、酸化錫、酸化アルミニウム、二酸化珪素、マイカ、及びタルクよりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の編地。
項3. 前記吸光熱変換性粒子が芯鞘構造を有し、芯部にのみ前記吸光熱変換性粒子が含まれている、項1又は2に記載の編地。
項4. 芯部と鞘部との質量比にが、芯部/鞘部の質量比で50/50~85/15である、項3に記載の編地。
項5. 芯部の構成樹脂がポリエステルであり、且つ鞘部の構成樹脂がポリエステルである、項3又は4に記載の編地。
項6. 前記吸光熱変換性繊維が、マルチフィラメントの仮撚加工糸である、項1~5のいずれかに記載の編地。
項7. 以下の人工太陽光照射試験で求められる1分経過後の上昇温度が10℃以上、且つ3分経過後の上昇温度が15℃以上である、項1~6のいずれかに記載の編地。
<人工太陽光照射試験>
編地(100mm×100mm)の前記一方の面とは反対側の面の中心部分に温度センサーを取り付け、編地の前記一方の面が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置する。編地の前記一方の面とは反対側の面の温度が20℃で安定した後に、500Wの人工太陽照射灯(編地から高さ20cmに設置)を編地の前記一方の面に対して、照度100,000luxで照射する。照射開始から1分後及び3分後の編地の前記一方の面とは反対側の面の温度を測定し、下記算出式に従って1分経過後の上昇温度と3分経過後の上昇温度を算出する。
【数1】
項8. 項1~7のいずれかに記載の編地を含む、靴用アッパー材。
項9. 項8に記載の靴用アッパー材を含む、靴。
【発明の効果】
【0008】
本発明の編地によれば、靴用アッパー材として使用した際に、太陽光の照射を受けると、効率的に熱線を放射でき、足が暖まり易く優れた温感効果を奏するので、寒冷環境(寒冷地、冬場等)での使用に好適な靴を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で採用したモックロディア組織を示す模式図である。
【
図2】実施例2で採用したモックロディア組織を示す模式図である。
【
図3】比較例1で採用したモックロディア組織を示す模式図である。
【
図4】比較例2で採用したモックロディア組織を示す模式図である。
【
図5】実施例1で得られた編地を使用したアッパー材を含む靴(右足)と比較例1で得られた編地を使用したアッパー材を含む靴(左足)を履いた状態で人工太陽光を照射した後に、赤外線サーモグラフィー装置で熱分布を測定した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の編地は、靴用アッパー材に用いられる編地であって、吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を含み、編地の一方の面(以下、第1面と表記することもある)において、表面の総面積に対して該表面で占める前記吸光熱変換性繊維の面積の割合(以下、「吸光熱変換性繊維の表面露出率」と表記することもある)が30%以上であり、該第1面が靴用アッパー材の外側に配されて使用されることを特徴とする。以下、本発明の編地について詳述する。
【0011】
[吸光熱変換性繊維]
本発明において、「吸光熱変換性繊維」とは、吸光熱変換性粒子を含有し、光を吸収して熱線に変換し放射する機能(吸光熱変換能)を有する繊維を指す。また、本発明において、「吸光熱変換性粒子」とは、吸光熱変換能を有する粒子を指す。
【0012】
吸光熱変換性繊維の構成樹脂としては、溶融紡糸が可能であることを限度として特に制限されず、従来、繊維の原料として使用されているポリマーを使用することができる。吸光熱変換性繊維の構成樹脂として、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ポリマー;ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー;PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)等のバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるバイオマスポリマー等が挙げられる。
【0013】
吸光熱変換性繊維の構成樹脂は、粘度、熱的特性、相溶性等を鑑みて、2種以上の構成モノマーを含む共重合体であってもよい。例えば、ポリエステルの共重合体(共重合ポリエステル)の場合であれば、イソフタル酸、5-スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸:アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール;グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸;ε-カプロラクトン等の脂肪族ラクトンと、ポリエステルとの共重合体を使用してもよい。
【0014】
吸光熱変換性繊維の構成樹脂として、好ましくはポリエステル、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0015】
吸光熱変換性粒子としては、太陽光を熱線に変換して放射できるものであることが好ましく、具体的には、カーボンブラック、炭化ジルコニウム、炭化珪素、炭化ホウ素、酸化錫、酸化アルミニウム、二酸化珪素、マイカ、タルク等が挙げられる。これらの吸光熱変換性粒子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの吸光熱変換性粒子の中でも、繊維中での分散性や吸光熱変換能の安定的発現の観点から、好ましくは、カーボンブラック、炭化ジルコニウムが挙げられる。
【0016】
吸光熱変換性粒子の平均粒径については、繊維中で分散されて保持できることを限度として特に制限されないが、例えば、10μm以下、好ましくは0.05~1.0μm、より好ましくは0.05~0.5μmが挙げられる。このような平均粒径を満たす吸光熱変換性粒子を使用することにより、紡糸工程において濾材の目詰まりや糸切れ等を抑制することができる。本発明において、吸光熱変換性粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を用いて測定される体積平均粒子径である。
【0017】
吸光熱変換性繊維における吸光熱変換性粒子の含有量は、1~20質量%に設定される。吸光熱変換性粒子の含有量が1質量%を下回ると、靴用アッパー材として使用する際に所望の温感効果が得られなくなる。また、吸光熱変換性粒子の含有量が20質量%を上回ると、紡糸性が悪化すると同時に吸光熱変換性繊維の強度低下を招く場合がある。温感効果をより一層向上させるという観点から、吸光熱変換性繊維における吸光熱変換性粒子の含有量として、好ましくは1~15質量%、より好ましくは3~10質量%、特に好ましくは3~5質量%が挙げられる。
【0018】
吸光熱変換性繊維は、単一組成からなるものであってもよく、また、芯鞘構造、サイドバイサイド構造、海島構造、多分割型等の2種以上の組成からなる複合繊維であってもよい。本発明で使用される吸光熱変換性繊維の好適な一例として、芯鞘構造の複合繊維が挙げられる。
【0019】
吸光熱変換性繊維が芯鞘構造である場合、芯部及び鞘部のいずれか少なくとも一方が吸光熱変換性粒子を含んでいればよいが、好ましくは、芯部に吸光熱変換性粒子が含まれ、鞘部に吸光熱変換性粒子が含まれていない態様が挙げられる。このように、芯部のみに吸光熱変換性粒子が含まれる芯鞘構造の吸光熱変換性繊維は、吸光熱変換性粒子同士がより近接して存在するため、温感効果が効率的に奏され、吸光熱変換性粒子の含有量を減少させても十分な温感効果が奏され得る。更に、吸光熱変換性粒子の含有量を減少させることにより紡糸操業性も一層安定化させることができる。
【0020】
芯鞘構造の吸光熱変換性繊維である場合の好適な一例として、芯部が吸光熱変換性粒子及びポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート)を含む樹脂組成物で構成され、鞘部がポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート)構成で構成されている態様が挙げられる。
【0021】
また、吸光熱変換性繊維が、芯部のみに吸光熱変換性粒子が含まれる芯鞘構造である場合、芯部における吸光熱変換性粒子の含有量としては、吸光熱変換性繊維の総量(芯部と鞘部の総量)に対する吸光熱変換性粒子の含有量が前述する範囲を充足することを限度として特に制限されないが、例えば1.17~40質量%、好ましくは1.25~21.5質量%が挙げられる。
【0022】
また、吸光熱変換性繊維が芯鞘構造である場合、芯部と鞘部との質量比については、特に制限されないが、例えば、芯部/鞘部の質量比で、50/50~85/15、好ましくは70/30~80/20が挙げられる。芯部と鞘部の質量比が、前記範囲を充足することにより、紡糸操業性に悪影響を及ぼすことなく、より優れた温感効果を奏することができる。
【0023】
吸光熱変換性繊維は、フィラメント又はステープルのいずれの形態であってもよいが、好ましくはフィラメントが挙げられる。また、吸光熱変換性繊維がフィラメントである場合、モノフィラメント又はマルチフィラメントのいずれであってもよいが、好ましくはマルチフィラメントが挙げられる。
【0024】
吸光熱変換性繊維の繊度(マルチフィラメントの場合は総繊度)については、特に制限されないが、例えば、10~2000dtex、好ましくは30~1000dtex、より好ましくは75~900dtex、更に好ましくは75~300dtexが挙げられる。本発明において、吸光熱変換性繊維の繊度(マルチフィラメントの場合は総繊度)は、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定される値である。
【0025】
また、吸光熱変換性繊維がマルチフィラメントである場合、その単糸繊度については、特に制限されないが、例えば、0.5~200dtex、好ましくは1~20dtex、より好ましくは1~10dtex、更に好ましくは2~5dtexが挙げられる。このような単糸繊度を充足するマルチフィラメントを使用することによって、繊維表面積が増加し、それに伴って吸光熱変換能が向上し、より一層温感効果を高めることが可能になる。なお、本発明において、単糸繊度は、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定される値である。
【0026】
吸光熱変換性繊維の好適な一例として、マルチフィラメントの仮撚加工糸であることが好ましい。仮撚加工糸であると捲縮形態に起因してフィラメント同士間に空気層が増加し、その結果、デッドエアーに起因する保温効果が更に付加され得る。仮撚加工の方法は特に限定されず、従来公知の条件を採用して行うことができる。
【0027】
吸光熱変換性繊維がマルチフィラメントの仮撚加工糸である場合、その捲縮率については、特に制限されないが、例えば、10~80%、好ましくは15~50%が挙げられる。このような捲縮率を充足する場合、編地内に十分な空気層を形成でき、保温性を付加できると共に、過度なストレッチ性がなく、編地に過剰の空隙が発生することを抑制することができる。なお、本発明において、捲縮率は、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定される値である。
【0028】
[その他の構成繊維]
本発明の編地は、前記吸光熱変換性繊維のみで構成されていてもよいが、前記吸光熱変換性繊維以外の繊維が含まれていてもよい。前記吸光熱変換性繊維以外の繊維の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ビニロン等を構成樹脂とする合成繊維;綿、麻等の天然繊維;レーヨン、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維等が挙げられる。
【0029】
本発明の編地において、前記吸光熱変換性繊維の混率については、編地の第1面に現れている前記吸光熱変換性繊維の面積の割合が後述する範囲を充足することを限度として、特に制限されないが、前記吸光熱変換性繊維の比率として、例えば、25質量%以上、好ましくは25~100質量%、より好ましくは50~80質量%が挙げられる。このような混率を充足することによって、より一層優れた温感効果を奏させることが可能になる。
【0030】
[吸光熱変換性繊維の表面露出率]
本発明の編地では、編地の第1面(一方の面;靴用アッパー材の外側に配される面)において、表面の総面積に対して、前記吸光熱変換性繊維が該表面で占める面積の割合(吸光熱変換性繊維の表面露出率)が30%以上である。吸光熱変換性粒子を0.5~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を用い、且つ該吸光熱変換性繊維の表面露出率が30%以上であることにより、太陽光を効率的に熱に変換することができ、暖まり易く優れた温感効果を奏させることが可能になる。従来、吸光熱変換性繊維を構成繊維として含む編地では、保温性、染色性、発色性等の観点から、吸光熱変換性繊維は、編地の第1面(肌に接する面とは反対側の面)には配さずに、編地の第1面とは反対側の面(肌に接する面側)に配すべきと考えられている。しかしながら、本発明では、従来の当業者の一般的な認識とは異なり、あえて編地の第1面(肌に接する面とは反対側の面;靴用アッパー材の外側に配される面)に吸光熱変換性繊維を所定量配することにより、暖まり易く優れた温感効果を奏することが可能になっている。
【0031】
温感効果をより一層向上させるという観点から、吸光熱変換性繊維の表面露出率として、好ましくは32~100%、より好ましくは50~100%、更に好ましくは60~100%、特に好ましくは100%が挙げられる。
【0032】
本発明において、吸光熱変換性繊維の表面露出率は、以下の方法で測定される値である。
<吸光熱変換性繊維の表面露出率の想定方法>
編地の第1面をデジタルマイクロスコープで撮影し、編地の第1面の画像を得る。次いで、得られた画像を処理し、第1面の全面積に対して、吸光熱変換性繊維が存在する面積の割合を「吸光熱変換性繊維の表面露出率」として算出する。
【0033】
[編組織]
本発明の編地において、編組織については、吸光熱変換性繊維の表面露出率が前記範囲を充足することを限度として特に制限されないが、例えば、モックロディア組織、ラッセル組織、ダブルラッセル組織、トリコット組織、丸編組織、横編組織等が挙げられる。これらの中でも、モックロディア組織は、靴アッパー材として物性に優れるため好適である。
【0034】
[目付]
本発明の編地の目付けについては、特に制限されないが、例えば、150~1000g/m2、好ましくは200~700g/m2、より好ましくは300~450g/m2挙げられる。本発明の編地では、軽量化や靴内での蒸れ感の低減を図るために目付を1000g/m2以下、特に450g/m2以下と低くしても、優れた温感効果を奏することができる。本発明において、編地の目付は、「JIS L-1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.3.2 標準状態における単位面積当たりの質量」の「A法(JIS法)」に規定の方法に従って測定される値である。
【0035】
[厚さ]
本発明の編地の厚さについては、靴用アッパー材として使用できることを限度として、特に制限されないが、例えば、0.1~5mm、好ましくは0.2~3mmが挙げられる。本発明の編地では、軽量化図るために厚さを5mm以下、特に3mm以下と小さくしても、優れた温感効果を奏することができる。本発明において、編地の厚さは、「JIS L-1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.4厚さ」の「A法(JIS法)」に規定の方法に従って測定される値である。
【0036】
[発熱特性]
本発明の編地は、太陽光の暴露を受けると、吸光熱変換性繊維によって効率的に熱線に変換することができ、靴用アッパー材として使用すると、足が暖まり易く、優れた温感効果を奏することができる。本発明の編地が具備し得る温感効果の一例として、以下の人工太陽光照射試験で求められる1分経過後の上昇温度が10℃以上、且つ3分経過後の上昇温度が15℃以上であることが挙げられる。本発明の編地のより好適な例として、前記1分経過後の上昇温度が12~18℃、且つ3分経過後の上昇温度が20~31℃であることが挙げられる。
<人工太陽光照射試験>
編地(100mm×100mm)の第1面とは反対側の面の中心部分に温度センサーを取り付け、編地の第1面が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置する。編地の第1面とは反対側の面の温度が20℃で安定した後に、500Wの人工太陽照射灯(編地から高さ20cmに設置)を編地の第1面に対して、照度100,000luxで照射する。照射開始から1分後及び3分後の編地の第1面とは反対側の面の温度を測定し、下記算出式に従って1分経過後の上昇温度と3分経過後の上昇温度を算出する。
【数2】
【0037】
[用途]
本発明の編地は、靴用アッパー材に使用される。靴用アッパー材とは、足の甲を覆って包む靴のパーツである。本発明の編地は、靴用アッパー材の少なくとも一部を形成するために使用されればよく、少なくとも足の甲を覆う部分に使用されていることが好ましい。
【0038】
本発明の編地の第1面(吸光熱変換性繊維の表面露出率が30%以上に設定されている面)が靴用アッパー材の外側に配され、本発明の編地の第1面とは反対側の面が靴用アッパーの内側に配される。ここで、靴用アッパーの外側とは使用者の足とは反対側に位置する側であり、靴用アッパーの内側とは使用者の足側に面する側である。
【0039】
本発明の編地の第1面は、靴用アッパー材の外側の最表面を形成しておくことが必要になるが、本発明の編地の第1面とは反対側の面は、靴用アッパーの内側の最表面を形成していなくてもよい。即ち、本発明の編地の第1面とは反対側の面に他の布帛等を積層させて、本発明の編地の第1面とは反対側の面が靴用アッパーの内側の最表面に配されていなくてもよい。
【0040】
本発明の編地が使用される靴用アッパーが適用される靴の種類については、特に制限されないが、例えば、スニーカー、ランニングや各種競技用のスポーツシューズ、日リハビリ用シューズ等が挙げられる。
【0041】
本発明の編地を用いて形成された靴用アッパーをソールとつなぎ合わせることにより、靴が提供される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明する。本発明はこの実施例に限定されない。
【0043】
1.編地の製造及び評価
[測定方法・評価方法]
実施例及び比較例において、単糸繊度、総繊度、目付、吸光熱変換性繊維の表面露出率、及び発熱特性は、以下の方法により測定、評価を行った。
【0044】
単糸繊度、総繊度
単糸繊度及び総繊度は、それぞれ「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定した。
【0045】
目付
編地の目付は、「JIS L-1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.3.2 標準状態における単位面積当たりの質量」の「A法(JIS法)」に規定の方法に従って測定した。
【0046】
厚さ
編地の厚さは、「JIS L-1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.4厚さ」の「A法(JIS法)」に規定の方法に規定の方法に従って測定した。
【0047】
吸光熱変換性繊維の表面露出率
編地の第1面をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製 デジタルマイクロスコープ VHX-900)で撮影し、編地の第1面の画像を得た。次いで、得られた画像を処理し、第1面の全面積に対して、吸光熱変換性繊維が存在する面積の割合を「吸光熱変換性繊維の表面露出率」として算出した。
【0048】
発熱特性
100mm×100mmのサイズに裁断した編地を準備した。この編地の第1面とは反対側の面の中心部分に温度センサーを取り付け、編地の第1面が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置した。編地の第1面とは反対側の面の温度が20℃で安定した後に、編地から高さ20cmに設置した集光形人工太陽照射灯(セリック社製のソーラーライト「XC-100」、500ワット)を用いて、照度100,000luxで照射を開始した。照射開始から1分後及び3分後の編地の第1面とは反対側の面の温度を測定し、下記算出式に従って1分経過後の上昇温度と3分経過後の上昇温度を算出した。
【数3】
【0049】
[編地の製造]
実施例1
鞘成分にポリエチレンテレフタレート樹脂(極限粘度0.65)を使用した。一方、芯成分に、カーボンブラック粒子(平均粒径0.4μm)1.25質量%及びポリエチレンテレフタレート樹脂(極限粘度0.65)98.75質量%を含む樹脂組成物を使用した。孔数が48孔の芯鞘複合ノズルプレートを有する複合紡糸装置を用いて、芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)が80/20になるように、前記鞘成分と芯成分を紡糸温度295℃で3000m/分で紡出し、280dtex/48フィラメントの半未延伸糸を得た。次いで、得られた半未延伸糸を、TMTマシナリー社製の高速仮撚機「TMC-1」を用い、延伸倍率1.7倍、仮撚速度600m/分で仮撚を行い、芯鞘構造の吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸(165dtex/48フィラメント)を得た。なお、吸光熱変換性繊維全体中のカーボンブラック粒子の含有量は1質量%である。
【0050】
次いで、得られた吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸と市販のポリエステル仮撚加工糸(165dtex/48フィラメント)とを用い、丸編機(「LPJ-H」、株式会社福原精機製作所製;33’’×22Gにて、編地の第1面(肌側とは反対側となる面)の全面に吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸が編成されるように、
図1に示すモックロディア組織で編成した。得られた編地における吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸の混率は76.5質量%であった。
【0051】
次いで、サーキュラー染色試験機(日阪製作所製、「CUT-T-S型」)にて、界面活性剤(日華化学株式会社製、サンモールFL)を1g/Lの濃度で使用して、浴比1:25で80℃、30分間のリラックス精練を行った。次いで、上記と同じサーキュラー染色試験機にて、編地の染色を行う目的で、染料(ダイスター社製、「Dianix Blue UN-SE」)を1%o.m.f.と、染色助剤としての酢酸0.2ml/リットルと、均染剤(日華化学社製、「ニッカサンソルトSN-130」)0.5g/リットルと含む処理液を用い、130℃、30分間の熱水処理を行なった後に、仕上げセットを行なった。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m2、厚さは0.65mmであった。
【0052】
実施例2
編地の第1面における吸光熱変換性繊維の表面露出率が32.2%となるように、
図2に示すモックロディア組織を編成したこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付360g/m
2、厚さは0.60mmであった。得られた編地における吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸の混率は53.7%であった。
【0053】
実施例3
吸光熱変換性繊維のカーボンブラック粒子の含有量を15質量%(芯部におけるカーボンブラック粒子の含有量は18.75質量%)に変更したこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m2、厚さは0.65mmであった。
【0054】
実施例4
吸光熱変換性繊維の芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)を50:50に変更し、且つ芯部でのカーボンブラック粒子の含有量を2.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m2、厚さは0.65mmであった。なお、吸光熱変換性繊維全体中のカーボンブラック粒子の含有量は1質量%である。
【0055】
実施例5
吸光熱変換性繊維の芯部に含有させたカーボンブラック粒子を、炭化ジルコニウム(平均粒径0.5μm)に代えたこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m2、厚さは0.65mmであった。なお、吸光熱変換性繊維全体中のカーボンブラック粒子の含有量は1質量%である。
【0056】
比較例1
編地の第1面における吸光熱変換性繊維の表面露出率が0%となるように、
図3に示すモックロディア組織を編成したこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m
2、厚さは0.65mmであった。得られた編地における吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸の混率は0%であり、市販のポリエステル仮撚加工糸のみを用いた。
【0057】
比較例2
編地の第1面における吸光熱変換性繊維の表面露出率が24.5%となるように、
図4に示すモックロディア組織を編成したこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m
2であった。得られた編地における吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸の混率は12.5%であった。
【0058】
比較例3
吸光熱変換性繊維のカーボンブラック粒子の含有量を0.5質量%(芯部におけるカーボンブラック粒子の含有量は0.625質量%)に変更したこと以外は、実施例1と同条件で、編地を得た。得られた編地は、巾165cm、目付395g/m2、厚さは0.65mmであった。
【0059】
[編地の評価結果]
各編地を評価した結果を表1に示す。吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を含み、且つ編地の第1面における該吸光熱変換性繊維の表面露出率が30%以上である場合には、人工太陽光照射試験における1分経過後の上昇温度が10℃以上、且つ3分経過後の上昇温度が15℃以上であり、人工太陽光照射によって優れた温感効果が奏された(実施例1~5)。これに対して、吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を含んでいても、編地の第1面における吸光熱変換性繊維の表面露出率が30%未満の場合には、人工太陽光照射による温感効果は不十分であった(比較例1及び2)。更に、編地の第1面における吸光熱変換性繊維の表面露出率が100%であっても、吸光熱変換性繊維における吸光熱変換性粒子が1質量%未満である場合でも、人工太陽光照射による温感効果は不十分であった(比較例3)。
【0060】
以上の結果から、吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を含み、且つ編地の一方の面の該吸光熱変換性繊維の表面露出率が30%以上である編地は、太陽光の暴露により優れた温熱効果を奏するので、靴用アッパー素材として有用であることが確認された。
【0061】
【0062】
2.靴用アッパー材の製造及び評価(1)
実施例1で得られた編地を用いて靴用アッパー材を成形した。靴用アッパー材では、該編地の第1面(吸光熱変換性繊維の表面露出率が100%の面)を外側(使用者の足とは反対側に位置する側)に配し、該編地の第1面とは反対側の面を内側(使用者の足側に面する側)に配した。得られた靴用アッパーをソールにつなぎ合わせることにより、靴を製造した。
【0063】
得られた靴を履いて太陽光を浴びたところ、足の暖かさが速やかに感じられ、まるで電気毛布に足を入れているかのようであった。この結果から、本発明の編地で形成した靴用アッパーを含む靴は、寒冷環境下でも、足の冷えを抑制でき、快適な履き心地が得られることが明らかとなった。
【0064】
3.靴用アッパー材の製造及び評価(2)
実施例1で得られた編地を用いて靴用アッパー材を成形した。靴用アッパー材では、該編地の第1面(吸光熱変換性繊維の表面露出率が100%の面)を外側(使用者の足とは反対側に位置する側)に配し、該編地の第1面とは反対側の面を内側(使用者の足側に面する側)に配した。
【0065】
また、同様に、比較例1で得られた編地を用いて、靴用アッパー材を成形した。靴用アッパー材では、該編地の第1面(吸光熱変換性繊維の表面露出率が0%の面)を外側(使用者の足とは反対側に位置する側)に配し、該編地の第1面とは反対側の面を内側(使用者の足側に面する側)に配した。
【0066】
実施例1で得られた編地をアッパー材として使用した靴を右足、比較例1で得られた編地をアッパー材として使用した靴を左足に履いた状態で着座し、床から高さ20cmに設置した集光形人工太陽照射灯(セリック社製のソーラーライト「XC-100」、500ワット)を用いて、照度100,000luxで照射を開始した。照射開始から3分後に、赤外線サーモグラフィー装置にて、両足の熱分布画像を取得した。
【0067】
結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、右足は、左足に比べて温度が顕著に高く、実施例1で得られた編地をアッパー材として使用した靴を履くことにより、優れた温感効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
C シリンダー針
Y ダイヤル針
F1~F6:給糸口番号
a:吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸
b:市販のポリエステル仮撚加工糸