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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/15 20160101AFI20241218BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241218BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241218BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241218BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20241218BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241218BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20241218BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241218BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/48 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/06 900
F02N11/08 L
B60L50/16
B60L58/12
B60L3/00 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020138342
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034587
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基祐
(72)【発明者】
【氏名】土屋 純平
(72)【発明者】
【氏名】左右田 佳宜
(72)【発明者】
【氏名】古根 直樹
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025709(JP,A)
【文献】特開2016-215836(JP,A)
【文献】特表2015-529776(JP,A)
【文献】特開2000-080940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/15
B60K 6/48
B60W 10/08
B60W 10/06
F02N 11/08
B60L 50/16
B60L 58/12
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを備えた車両に適用される車両用制御装置であって、
停止条件に基づき前記エンジンを停止させ、始動条件に基づき前記エンジンを始動させるエンジン制御部と、
前記始動条件に基づき前記エンジンを始動させる際に、前記エンジンを始動回転させる電動モータと、
前記電動モータに接続される蓄電体と、
前記蓄電体のSOCを検出するSOC検出部と、
前記蓄電体の内部抵抗を検出する内部抵抗検出部と、
前記SOCに基づいて抵抗閾値を設定する抵抗閾値設定部と、
を有し、
前記抵抗閾値設定部は、
前記SOCが低くなるにつれて、前記抵抗閾値を小さく設定し、
前記エンジン制御部は、
前記SOCがエンジン停止を許可可能な下限値を下回る場合、または前記内部抵抗が前記抵抗閾値を上回る場合に、前記停止条件に基づく前記エンジンの停止を禁止する一方、
前記SOCが前記下限値を上回り、かつ前記内部抵抗が前記抵抗閾値を下回る場合に、前記停止条件に基づく前記エンジンの停止を許可する、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを備えた車両に適用される車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の停止条件に基づきエンジンを停止させ、所定の始動条件に基づきエンジンを始動させる車両として、ハイブリッド車両やアイドリングストップ車両がある(特許文献1および2参照)。例えば、ハイブリッド車両においては、車両に対する要求駆動力が小さい場合に、停止条件が成立してエンジンを停止させる一方、車両に対する要求駆動力が大きい場合に、始動条件が成立してエンジンを始動させる。また、アイドリングストップ車両においては、ブレーキペダルが踏み込まれた状態で所定車速を下回る場合に、停止条件が成立してエンジンを停止させる一方、ブレーキペダルの踏み込みが解除される場合や、アクセルペダルが踏み込まれる場合に、始動条件が成立してエンジンを始動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-111456号公報
【文献】特開2019-160662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン停止中に始動条件が成立した場合には、スタータモータ等によってエンジンを始動回転させるため、バッテリからスタータモータに対して十分な電力を供給することが必要である。このため、停止条件に基づきエンジンを停止させる際には、その後のエンジン再始動時に備えてバッテリのSOC(State of Charge)を高めておくことが必要であった。しかしながら、バッテリのSOCが高い領域だけでエンジン停止を許可することは、エンジンの停止機会を減少させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、エンジンの停止機会を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の実施形態である車両用制御装置は、エンジンを備えた車両に適用される車両用制御装置であって、停止条件に基づき前記エンジンを停止させ、始動条件に基づき前記エンジンを始動させるエンジン制御部を有する。前記車両用制御装置は、前記始動条件に基づき前記エンジンを始動させる際に、前記エンジンを始動回転させる電動モータを有する。前記車両用制御装置は、前記電動モータに接続される蓄電体と、前記蓄電体のSOCを検出するSOC検出部と、前記蓄電体の内部抵抗を検出する内部抵抗検出部と、前記SOCに基づいて抵抗閾値を設定する抵抗閾値設定部と、を有する。前記抵抗閾値設定部は、前記SOCが低くなるにつれて、前記抵抗閾値を小さく設定する。前記エンジン制御部は、前記SOCがエンジン停止を許可可能な下限値を下回る場合、または前記内部抵抗が前記抵抗閾値を上回る場合に、前記停止条件に基づく前記エンジンの停止を禁止する一方、前記エンジン制御部は、前記SOCが前記下限値を上回り、かつ前記内部抵抗が前記抵抗閾値を下回る場合に、前記停止条件に基づく前記エンジンの停止を許可する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蓄電体のSOCに基づいて抵抗閾値が設定され、蓄電体の内部抵抗が抵抗閾値を上回る場合には、停止条件に基づくエンジンの停止が禁止される一方、蓄電体の内部抵抗が抵抗閾値を下回る場合には、停止条件に基づくエンジンの停止が許可される。これにより、エンジンの停止機会を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態である車両用制御装置が適用される車両を示す概略図である。
図2】車両用制御装置に設けられる制御系の構成例を示す概略図である。
図3】(A)はEVモードの実行状況を示す図であり、(B)はHEVモードの実行状況を示す図である。
図4】EVモードおよびHEVモードの実行領域の一例を示す走行モードマップである。
図5】エンジン始動系を簡単に示した回路図である。
図6】エンジン停止許可判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図7】減算補正値の一例を示す図である。
図8】EV許可閾値の一例を示す図である。
図9】EV許可フラグが設定されるエンジン停止許可領域の一例を示す図である。
図10】SOCと端子電圧VBとの関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[パワートレイン]
図1は本発明の一実施の形態である車両用制御装置10が適用される車両11を示す概略図である。図1に示すように、車両11には、動力源としてエンジン12およびモータジェネレータ13を備えたパワートレイン14が搭載されている。また、パワートレイン14には、プライマリプーリ15およびセカンダリプーリ16からなる無段変速機17が設けられている。プライマリプーリ15を支持するプライマリ軸18の一端側には、入力クラッチ19およびトルクコンバータ20を介してエンジン12が連結されている。一方、プライマリプーリ15を支持するプライマリ軸18の他端側には、ロータ軸21を介してモータジェネレータ13が連結されている。また、セカンダリプーリ16を支持するセカンダリ軸22には、出力軸23等を介して車輪24が連結されている。
【0011】
[スタータジェネレータおよびバッテリ]
エンジン12のクランク軸30には、ベルト機構31を介してスタータジェネレータ(電動モータ)32が連結されている。このスタータジェネレータ32は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)である。つまり、スタータジェネレータ32は、クランク軸30に回転駆動されて発電する発電機として機能するだけでなく、クランク軸30を回転駆動する電動機として機能する。例えば、所定の始動条件が成立してエンジン12を始動させる場合には、電動機として機能するスタータジェネレータ32によってエンジン12の始動回転が行われる。
【0012】
スタータジェネレータ32は、ステータコイルを備えたステータ33と、フィールドコイルを備えたロータ34と、を有している。また、スタータジェネレータ32には、ステータコイルやフィールドコイルの通電状態を制御するため、インバータ、レギュレータおよびマイコン等からなるISGコントローラ35が設けられている。さらに、スタータジェネレータ32の正極端子32aには、通電ライン36を介してバッテリ(蓄電体)37の正極端子37aが電気的に接続されている。なお、バッテリ37としては、例えば、鉛バッテリやリチウムイオンバッテリを用いることができる。
【0013】
また、バッテリ37にはバッテリセンサ40が設けられており、このバッテリセンサ40は、バッテリ37の充放電電流、端子電圧、SOC、内部抵抗等を検出する機能を有している。つまり、バッテリセンサ40には、バッテリ37の充放電電流を検出する電流検出部41、バッテリ37の端子電圧を検出する電圧検出部42、バッテリ37のSOCを検出するSOC検出部43、およびバッテリ37の内部抵抗を検出する内部抵抗検出部44が設けられている。
【0014】
なお、バッテリ37の充電状態であるSOC(State of Charge)とは、バッテリ37の蓄電残量を示す比率であり、バッテリ37の満充電容量に対する蓄電量の比率である。バッテリセンサ40のSOC検出部43は、例えば、バッテリ37の端子電圧から推定することや、バッテリ37の充放電電流を積算することにより、バッテリ37のSOCを算出することができる。また、バッテリセンサ40の内部抵抗検出部44は、例えば、バッテリ37の端子電圧を充放電電流で除算することにより、バッテリ37の内部抵抗を算出することができる。
【0015】
[制御系]
図2は車両用制御装置10に設けられる制御系50の構成例を示す概略図である。図2に示すように、車両用制御装置10には、パワートレイン14を制御する制御系50として、マイコン等からなる複数のコントローラが設けられている。制御系50を構成するコントローラとして、前述したISGコントローラ35の他に、エンジン12を制御するエンジンコントローラ51、モータジェネレータ13を制御するモータコントローラ52、無段変速機17や入力クラッチ19等を制御するミッションコントローラ53、各コントローラ35,51~53を統括して制御するメインコントローラ54がある。これらのコントローラ35,51~54は、CANやLIN等の車載ネットワーク55を介して互いに通信自在に接続されている。
【0016】
メインコントローラ54には、運転状況や走行状況を検出する各種センサが接続されている。これらのセンサとして、アクセルペダルの踏み込み量(以下、アクセル開度と記載する。)を検出するアクセルセンサ60、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ61、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ62、バッテリ37のSOCや内部抵抗等を検出するバッテリセンサ40等がある。また、メインコントローラ54には、EVモードおよびHEVモードから走行モードを選択し、選択された走行モードに応じてパワートレイン14を制御する走行モード制御部63が設けられている。
【0017】
[走行モード]
図3(A)はEVモードの実行状況を示す図であり、図3(B)はHEVモードの実行状況を示す図である。車両11には、走行モードとして、エンジン12を停止させてモータジェネレータ13を駆動するEVモードと、エンジン12およびモータジェネレータ13を駆動するHEVモードと、が設けられている。
【0018】
図3(A)に示すように、走行モードとしてEVモードを実行する際には、メインコントローラ54の走行モード制御部63によって、入力クラッチ19が解放状態に制御され、エンジン12が停止状態に制御され、モータジェネレータ13が力行状態または回生状態に制御される。これにより、モータジェネレータ13のトルクを用いて、車両11の走行状態を制御することができる。一方、図3(B)に示すように、走行モードとしてHEVモードを実行する際には、メインコントローラ54の走行モード制御部63によって、入力クラッチ19が締結状態に制御され、エンジン12が運転状態に制御され、モータジェネレータ13が力行状態または回生状態に制御される。これにより、エンジン12やモータジェネレータ13のトルクを用いて、車両11の走行状態を制御することができる。
【0019】
ここで、図4はEVモードおよびHEVモードの実行領域の一例を示す走行モードマップである。図4に示すように、走行モードマップには、EVモードとHEVモードとの実行領域を区画するモード閾値M1が設定されている。図4に矢印Aで示すように、HEVモードにおいてモード閾値M1を下回るように要求駆動力や車速が低下すると、走行モードがHEVモードからEVモードに切り替えられる。つまり、モード閾値M1を下回るように要求駆動力や車速が低下した場合には、所定の停止条件が成立することによってエンジン12が停止される。一方、図4に矢印Bで示すように、EVモードにおいてモード閾値M1を上回るように要求駆動力や車速が上昇すると、走行モードがEVモードからHEVモードに切り替えられる。つまり、モード閾値M1を上回るように要求駆動力や車速が上昇した場合には、所定の始動条件が成立することによってエンジン12が始動される。
【0020】
このように、メインコントローラ54の走行モード制御部63は、要求駆動力や車速に基づきEVモードまたはHEVモードを選択して実行する。つまり、メインコントローラ54の走行モード制御部(エンジン制御部)63は、所定の停止条件に基づきエンジン12を停止させており、所定の始動条件に基づきエンジン12を始動させている。なお、要求駆動力は、例えば、アクセル開度に基づき設定される。つまり、アクセルペダルの踏み込みによってアクセル開度が増加すると要求駆動力は大きく設定され、アクセルペダルの踏み込み解除によってアクセル開度が減少すると要求駆動力は小さく設定される。
【0021】
[エンジン停止許可判定(概要)]
前述したように、モード閾値M1を下回るように要求駆動力や車速が低下した場合には、エンジン12の停止条件が成立することからエンジン12が停止し、走行モードがHEVモードからEVモードに切り替えられる。ところで、停止条件によってエンジン12を停止させる際には、後に始動条件が成立したときのエンジン再始動に備え、バッテリ37のSOCを高めておくことが必要である。すなわち、SOCが低下した状態のもとでエンジン12を停止させた場合には、スタータジェネレータ32への供給電力が不足してエンジン再始動が困難になるため、SOCが低下していた場合にはエンジン停止を禁止することが必要であった。
【0022】
しかしながら、バッテリ37のSOCが高い領域だけでエンジン停止を許可することは、エンジン12の停止機会を減少させる要因である。このため、メインコントローラ54の走行モード制御部63は、後述するエンジン停止許可判定を実行することにより、バッテリ37からスタータジェネレータ32に対する電力供給が十分であるか否か、つまりスタータジェネレータ32のエンジン始動性能が確保されているか否かを判定する。そして、エンジン始動性能が確保されていると判定された場合には、バッテリ37のSOCが低下する場合であってもエンジン停止が許可される。これにより、後述するようにエンジン12の停止機会つまりEVモードの実行機会を増加させることができ、車両11の燃費性能を向上させることができる。また、エンジン停止許可判定を実行するため、メインコントローラ54には、SOCに基づき抵抗閾値を設定する抵抗閾値設定部64が設けられている。
【0023】
[エンジン始動性能]
スタータジェネレータ32のエンジン始動性能について説明する。図5はエンジン始動系を簡単に示した回路図である。図5に示すように、バッテリ37の正極端子37aとスタータジェネレータ32の正極端子32aとは通電ライン36を介して接続されており、バッテリ37の負極端子37bとスタータジェネレータ32の負極端子32bとは通電ライン38を介して接続されている。また、バッテリ37の端子電圧は「VB」であり、バッテリ37の内部抵抗は「RB」であり、スタータジェネレータ32の端子電圧は「Visg」であり、スタータジェネレータ32の内部抵抗は「Risg」である。また、通電ライン36の電気抵抗は「Rw1」であり、通電ライン38の電気抵抗は「Rg1」であり、バッテリ37からスタータジェネレータ32に流れる通電電流は「Ip」である。
【0024】
スタータジェネレータ32のエンジン始動性能は、エンジン始動時におけるスタータジェネレータ32の消費電力Wisgに相当する。つまり、スタータジェネレータ32の消費電力Wisgが大きいほどに、スタータジェネレータ32から大きな運動エネルギが出力されるため、スタータジェネレータ32のエンジン始動性能は高くなると考えられる。このスタータジェネレータ32の消費電力Wisgは、式(1)に示すように、端子電圧Visgと通電電流Ipとを乗じて算出されるため、端子電圧Visgが上昇するほどに消費電力Wisgが増加し、通電電流Ipが増加するほどに消費電力Wisgが増加する。また、式(1)を構成する端子電圧Visgについては、式(2)に示すように、バッテリ37の端子電圧VBが上昇するほどに上昇し、バッテリ37の内部抵抗RBが低下するほどに上昇する。さらに、式(1)を構成する通電電流Ipについては、式(3)に示すように、バッテリ37の端子電圧VBが上昇するほどに増加し、バッテリ37の内部抵抗RBが低下するほどに増加する。
Wisg=Visg×Ip ・・(1)
Visg=VB-(RB+Rw1+Rg1)×Ip ・・(2)
Ip=VB/(RB+Rw1+Risg+Rg1) ・・(3)
【0025】
前述した式(1)~(3)に示すように、スタータジェネレータ32の消費電力Wisgが増加する状況とは、バッテリ37の端子電圧VBが上昇する状況や、バッテリ37の内部抵抗RBが低下する状況である。つまり、バッテリ37の端子電圧VBが低下する場合であっても、バッテリ37の内部抵抗RBが低下している場合には、エンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保することができる。また、バッテリ37の内部抵抗RBが増加する場合であっても、バッテリ37の端子電圧VBが上昇している場合には、エンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保することができる。このため、エンジン始動性能が十分であるか否かを判定するためには、端子電圧VBに連動するSOCを用いるだけでなく、バッテリ37の内部抵抗RBを用いることにより、消費電力Wisgの大きさを適切に判定することが重要となっている。
【0026】
[エンジン停止許可判定(フローチャート)]
エンジン停止許可判定の実行手順をフローチャートに沿って説明する。図6はエンジン停止許可判定の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、図7は減算補正値Rxの一例を示す図であり、図8はEV許可閾値Rb1の一例を示す図であり、図9はEV許可フラグが設定されるエンジン停止許可領域の一例を示す図である。
【0027】
図6に示すように、ステップS10では、バッテリセンサ40によって検出されたSOCがメインコントローラ54に読み込まれる。続くステップS11では、バッテリ37のSOCが所定の下限値Sminを上回るか否かが判定される。ステップS11において、バッテリ37のSOCが下限値Smin以下であると判定された場合、つまりバッテリ37のSOCが大きく低下していると判定された場合には、スタータジェネレータ32によるエンジン再始動が困難であるため、ステップS12に進み、エンジン停止を禁止するEV禁止フラグが設定される。このEV禁止フラグが設定された場合には、所定の停止条件に基づくエンジン停止が禁止されるため、HEVモードからEVモードへの切り替えが禁止される。
【0028】
一方、ステップS11において、バッテリ37のSOCが下限値Sminを上回ると判定された場合には、ステップS13に進み、SOCに基づいて減算補正値Rxが設定される。ここで、図7に示すように、減算補正値Rxは、SOCが高くなるほどに小さく設定される。例えば、SOCが「Smin」であった場合には、減算補正値Rxとして「X1」が設定され、SOCが「100%」であった場合には、減算補正値Rxとして「0」が設定される。すなわち、SOCが低い場合つまり端子電圧VBが低い場合には、減算補正値Rxが大きく設定され、SOCが高い場合つまり端子電圧VBが高い場合には、減算補正値Rxが小さく設定される。
【0029】
ステップS13において、SOCに基づき減算補正値Rxが設定されると、ステップS14に進み、以下の式(4)に示すように、所定の基準抵抗値Rb0から減算補正値Rxを減算することにより、EV許可閾値(抵抗閾値)Rb1が算出される。なお、式(4)に示される基準抵抗値Rb0は、満充電状態であるバッテリ37の内部抵抗であり、試験やシミュレーション等によって予め設定される抵抗値である。ここで、図8に示すように、EV許可閾値Rb1は、SOCが高くなるほどに大きく算出される。例えば、SOCが「Smin」であった場合には、EV許可閾値Rb1が「Rb0-X1」として算出され、SOCが「100%」であった場合には、EV許可閾値Rb1が「Rb0」として算出される。すなわち、SOCが低い場合つまり端子電圧VBが低い場合には、EV許可閾値Rb1が小さく算出され、SOCが高い場合つまり端子電圧VBが高い場合には、EV許可閾値Rb1が大きく算出される。
Rb1=Rb0-Rx ・・(4)
【0030】
続くステップS15では、バッテリセンサ40によって検出されたバッテリ37の内部抵抗RBがメインコントローラ54に読み込まれる。続いて、ステップS16に進み、内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1を下回るか否かが判定される。ステップS16において、内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1を下回ると判定された場合には、内部抵抗RBが低くエンジン始動時に大きな電流を出力することができ、エンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保することができるため、ステップS17に進み、エンジン停止を許可するEV許可フラグが設定される。このEV許可フラグが設定された場合には、図4に矢印Aで示したように、要求駆動力等の低下によって停止条件が成立すると、エンジン12が停止状態に制御されて走行モードがEVモードに切り替えられる。
【0031】
一方、ステップS16において、内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1以上であると判定された場合には、内部抵抗RBが高くエンジン始動時に大きな電流を出力することが困難であり、エンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保することが困難であるため、ステップS12に進み、エンジン停止を禁止するEV禁止フラグが設定される。このEV禁止フラグが設定された場合には、図4に矢印Aで示したように、要求駆動力等の低下によって停止条件が成立しても、走行モードがHEVモードに維持されたままエンジン12の運転状態が継続される。
【0032】
前述の図8に示したように、内部抵抗RBと比較されるEV許可閾値Rb1は、バッテリ37のSOCが低くなるにつれて小さく設定される。これにより、SOCが低下している場合には、バッテリ37に要求する内部抵抗RBを下げることができ、エンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保することができる。つまり、図9に符号αで示すように、バッテリ37のSOCが低い状況つまりバッテリ37の端子電圧VBが低い状況であっても、バッテリ37の内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1よりも小さい領域では、スタータジェネレータ32の通電電流Ipを増やしてエンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保することができ、所定の停止条件に基づくエンジン停止を許可することができる。なお、図9にハッチングを付して示したエンジン停止許可領域は、SOCが下限値Sminを上回り、かつ内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1を下回る領域である。
【0033】
これまで説明したように、バッテリ37のSOCに基づきEV許可閾値Rb1を設定し、バッテリ37の内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1を上回る場合に、停止条件に基づくエンジン12の停止を禁止する一方、バッテリ37の内部抵抗RBがEV許可閾値Rb1を下回る場合に、停止条件に基づくエンジン12の停止を許可している。つまり、バッテリ37のSOCが低下する状況であっても、エンジン始動に必要な消費電力Wisgを確保しながら、停止条件に基づくエンジン停止を許可することができる。これにより、エンジン12の停止機会を増加させることができ、車両11の燃費性能を高めることができる。
【0034】
前述の説明では、図7に示した所定のデータを参照することにより、バッテリ37のSOCに基づき減算補正値Rxを設定しているが、これに限られることはなく、バッテリ37のSOCから減算補正値Rxを算出してもよい。ここで、図10はSOCと端子電圧VBとの関係の一例を示す図である。図10に示すように、バッテリ37のSOCから端子電圧VBが推定されると、以下の式(5)に基づき、端子電圧VBに基づき減算補正値Rxを算出することができる。なお、式(5)に示されるバッテリ37の端子電圧Vb0は、満充電状態であるバッテリ37の端子電圧であり、試験やシミュレーション等によって予め設定される電圧値である。また、スタータジェネレータ32の消費電流Iisgは、エンジン始動時に満充電状態であるバッテリ37からスタータジェネレータ32に流れる電流であり、試験やシミュレーション等によって予め設定される電流値である。つまり、式(5)に含まれる「Vb0」および「Iisg」は固定値であるため、バッテリ37のSOCから推定される端子電圧VBを用いて減算補正値Rxを算出することができる。
Rx=(Vb0-VB)/Iisg ・・(5)
【0035】
また、前述の説明では、バッテリ37のSOCに基づき減算補正値Rxを設定した後に、基準抵抗値Rb0から減算補正値Rxを減算することにより、SOCに基づいてEV許可閾値(抵抗閾値)Rb1を設定しているが、これに限られることはない。例えば、予め実験やシミュレーション等によってSOC毎にEV許可閾値Rb1を設定しておくことにより、バッテリ37のSOCから直接的にEV許可閾値(抵抗閾値)Rb1を設定してもよい。また、図8に示した例では、EV許可閾値Rb1を直線に沿って変化させているが、これに限られることはなく、EV許可閾値Rb1を曲線に沿って変化させても良い。また、図8に示した例では、EV許可閾値Rb1を連続的に変化させているが、これに限られることはなく、EV許可閾値Rb1を段階的に変化させても良い。
【0036】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。本発明の一実施の形態である車両用制御装置10が適用される車両としては、動力源としてエンジン12およびモータジェネレータ13を備えたハイブリッド型の車両11に限られることはない。例えば、動力源としてエンジン12のみを備える車両であっても、アイドリングストップ機能を備えた車両であれば、本発明を有効に適用することが可能である。この場合には、エンジン12を停止させる停止条件として、例えば、車速が所定値を下回り、かつブレーキペダルが踏み込まれることが挙げられる。また、エンジン12を始動させる始動条件として、例えば、ブレーキペダルの踏み込みが解除されることや、アクセルペダルが踏み込まれることが挙げられる。
【0037】
前述の説明では、メインコントローラ54に走行モード制御部63および抵抗閾値設定部64を設けているが、これに限られることはなく、他のコントローラに走行モード制御部63や抵抗閾値設定部64を設けても良い。また、前述の説明では、1つのバッテリセンサ40にSOC検出部43および内部抵抗検出部44を設けているが、これに限られることはなく、2つのセンサにSOC検出部43と内部抵抗検出部44とを分けて設けてもよく、他のコントローラにSOC検出部43や内部抵抗検出部44を設けても良い。また、前述の説明では、ISGであるスタータジェネレータ32を用いてエンジン12を始動しているが、これに限られることはなく、電動モータであるスタータモータを用いてエンジン12を始動しても良い。
【符号の説明】
【0038】
10 車両用制御装置
11 車両
12 エンジン
32 スタータジェネレータ(電動モータ)
37 バッテリ(蓄電体)
43 SOC検出部
44 内部抵抗検出部
63 走行モード制御部(エンジン制御部)
64 抵抗閾値設定部
RB 内部抵抗
Rb1 EV許可閾値(抵抗閾値)
Smin 下限値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10