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特許7606304射出成形用ポリエステル樹脂組成物、および射出成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】射出成形用ポリエステル樹脂組成物、および射出成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20241218BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20241218BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20241218BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08K3/34
C08L67/02
B29C45/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020158119
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052004
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 佳明
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138392(WO,A1)
【文献】特開2012-062490(JP,A)
【文献】国際公開第2015/052876(WO,A1)
【文献】特表2008-527120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08K 3/34
C08L 67/02
B29C 45/00
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(但し、RはC2n+1で表されるアルキル基であり、n=1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(A)、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)、層状粘土鉱物(C)を含有する射出成形用ポリエステル系樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計に対して、前記樹脂(A)の割合が55~75重量%、前記樹脂(B)の割合が25~45重量%、
前記樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100重量部とした場合に、前記粘土鉱物(C)が5~30重量部である射出成形用ポリエステル系樹脂組成物(但し、ポリ乳酸と前記樹脂(A)と前記樹脂(B)との全量100重量部のうち、ポリ乳酸を30重量部以上60重量部以下含有する組成物を除く)
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(A)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンセバケートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記層状粘土鉱物(C)がスメクタイト、マイカ、タルク、パイロフェライト、バーミキュライト、緑泥石、カオリナイトおよび蛇紋石からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の射出成形用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の射出成形用ポリエステル樹脂組成物を含む射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用ポリエステル樹脂組成物、および射出成形体に関するものであり、特に生分解性に優れるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を多く含有し、低温での衝撃強度が優れる射出成形用ポリエステル樹脂組成物および射出成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、地球規模での循環型社会の実現が切望される中で、使用後、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックが注目を集めている。また欧州などで実施されている生ごみのコンポスト処理では、ごみと共にコンポストに投入できるごみ袋が望まれている。生分解性プラスチックとしては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(以下、P3HAと称することがある。)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートなどがあり、これらの生分解性樹脂を用いた組成物や成形体の開発が進められている。特に、これらの生分解性樹脂の内、P3HAが最も生分解性に優れており、常温付近でのコンポスト化や嫌気分解など、多様な生分解処理が可能である。そのため、P3HAを単独、もしくはその他の生分解性樹脂との樹脂組成物中に多く配合することが、生分解性の観点から好ましい。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリヒドロキシアルカノエートとして(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート、略称:PHBH)に結晶化核剤としてペンタエリスリトール、タルクなどの充填剤を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物の射出成形体が例示されている。しかし、低温(5℃以下、特に0℃以下の温度領域)での衝撃強度の点で改良の余地が有り用途が制限されていた。
【0004】
また、特許文献2には脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位として含む脂肪族ポリエステル系樹脂とポリヒドロキシアルカノエートと無機フィラーを含む成型性、耐衝撃性に優れる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が挙げられている。しかし、低温の衝撃強度に関して改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2015/052876号公報
【文献】特開2019-178206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、鋭意検討を進め、低温の衝撃強度が優れる射出成形用ポリエステル樹脂組成物とその射出成形体の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(P3HA)、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂と層状粘土鉱物を含有する組成物において、低温の衝撃強度が大幅に改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記課題を解決するために、下記一般式(1)
【0008】
【化1】
【0009】
(但し、RはCn2n+1で表されるアルキル基であり、n=1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(A)、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)、層状粘土鉱物(C)を含有する射出成形用ポリエステル系樹脂組成物であって、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計に対して、前記樹脂(A)の割合が55~75重量%、前記樹脂(B)の割合が25~45重量%、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100重量部とした場合に、前記粘土鉱物(C)の含有量が5~35重量部であることを特徴としている。
【0010】
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(A)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
また、前記脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンセバケートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、層状粘土鉱物(C)がスメクタイト、マイカ、タルク、パイロフェライト、バーミキュライト、緑泥石、カオリナイトおよび蛇紋石からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、本発明は、前記射出成形用ポリエステル樹脂組成物を含む射出成形体であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低温の衝撃強度に優れた射出成形用ポリエステル樹脂組成物とその射出成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の射出成形用ポリエステル樹脂組成物の実施の一形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明に係る射出成形用ポリエステル樹脂組成物は、樹脂成分として、下記一般式(1)、
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
(但し、RはCn2n+1で表されるアルキル基であり、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を有するポリ(3―ヒドロキシアルカノエート系樹脂(P3HA)および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)を含有しており、更に層状粘土鉱物(C)を含有している。
【0016】
本発明に用いられるポリ(3―ヒドロキシアルカノエート系樹脂(P3HA)は、微生物から生産されるポリエステル樹脂である。
【0017】
P3HAを生産する微生物としては、P3HA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシバリレートをモノマーユニットとする共重合体(以下、「PHBV」と略称する。)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略称する。)生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが挙げられる。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。
【0018】
本発明で使用するP3HAの重量平均分子量としては、成形性と物性のバランス観点から50,000~3,000,000が好ましく、100,000~1,500,000がより好ましい。150,000~1,000,000が更に好ましく、200,000~600,000が特に好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。重量平均分子量が50,000より小さい場合、成形品が脆すぎる場合があり、3,000,000を超えた場合、溶融粘度が高すぎて射出成形が困難になる場合がある。
【0019】
本発明で使用するP3HAとしては、前記一般式(1)において、アルキル基(R)のnが1で示される繰り返し単位からなるもの、またはnが1で示される繰り返し単位とnが2、3、5および7の少なくとも1種で示される繰り返し単位からなるものが好ましく、nが1で示される繰り返し単位およびnが3で示される繰り返し単位からなるものがより好ましい。P3HAの具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(略称:PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)などが挙げられる。これらなかでも、工業的に生産が容易であるものとして、P3HB、PHBH、PHBV、P3HB4HBが挙げられる。
【0020】
このうち、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、前記一般式(1)において、アルキル基(R)のnが1である繰り返し単位とnが3である繰り返し単位とからなる、PHBHが好ましい。PHBHの具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2010/013483号公報に記載されている。また、PHBHの市販品としては、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーPHBH)」(登録商標)などが挙げられる。
【0021】
また、PHBHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)/ポリ(3-ヒドロキシヘキサノエート)の組成比が80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、85/15~97/3(mol/mol)であることがより好ましく、90/10~97/3(mo1/mo1)であることが更に好ましく、93/7~96/4(mo1/mo1)であることが特に好ましい。PHBHの繰り返し単位の組成比が80/20より小さい場合、固化が遅く成形サイクルが低くなる場合がある。また、99/1より大きい場合、成形可能温度が分解温度を超えてしまい、成形できなくなる場合がある。
【0022】
本発明で使用する脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)は、脂肪族ジカルボン酸単位及び芳香族ジカルボン酸単位からなる群から選ばれる一種以上のジカルボン酸単位と、脂肪族ジオール単位及び芳香族ジオール単位からなる群から選ばれる一種以上のジオール単位を含むポリエステル樹脂であり、脂肪族単位と芳香族単位の両方の単位を有するポリエステル樹脂であ。
【0023】
本発明で使用する脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)としては、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンセバケートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート系樹脂が好ましく、特にポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂(PBAT)が特に好ましい。ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂(PBAT)とは、1,4-ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸のランダム共重合体のことをいい、なかでも、特表平10-508640号公報等に記載されているような、(a)主としてアジピン酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物35~95モル%、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物5~65モル%(個々のモル%の合計は100モル%である)よりなる混合物に、(b)ブタンジオールが含まれている混合物(ただし(a)と(b)とのモル比が0.4:1~1.5:1)の反応により得られるPBATが好ましい。PBATの市販品としてはBASF社製「エコフレックス」(登録商標)などが挙げられる。
【0024】
本発明のポリエステルにおける前記P3HA(A)と脂肪族芳香族ポリエスエル系樹脂(B)の混合量は、成形体の低温強度に優れる点から、樹脂(A)と樹脂(B)の合計に対して、樹脂(A)が55~75重量%、樹脂(B)が、25~45重量%である。
【0025】
本発明で用いられる層状粘土鉱物(C)は、層状珪酸塩を主成分とする鉱物であり、耐熱性の向上や加工性の改善効果等を得ることができる。特に、加工性の改善効果が得られやすい点で、層状粘土鉱物(C)としては、スメクタイト、マイカ、タルク、パイロフェライト、バーミキュライト、緑泥石、カオリナイトおよび蛇紋石からなる群より選択される1種以上が好ましい。汎用性の観点から、マイカ、タルク、カオリナイトが好ましく、タルクが特に好ましい。
【0026】
前記マイカとしては、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカ等が挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社製のマイカが例示される。
【0027】
前記タルクとしては、汎用のタルク、表面処理タルク等が挙げられ、具体的には、日本タルク社の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社製のタルクが例示される。
【0028】
前記カオリナイトとしては、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリン等が挙げられ、具体的には、林化成社「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や、啓和炉材社製のカオリナイトが例示される。
【0029】
前記層状粘土鉱物(C)の含有量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(A)と前記脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B)の合計を100重量部とした場合に、5~35重量部であることが好ましく、6~25であることがより好ましく、7~15であることが特に好ましい。前記層状粘土鉱物(C)が5重量部を下回る場合、固化が遅く成形性が劣る場合がある。また、前記層状粘土鉱物(C)が35重量部を上回る場合、溶融粘度が高すぎて、成形性が劣る場合がある。
【0030】
また本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の添加剤として使用される層状粘土鉱物以外の充填剤、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶化核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤、その他の副次的添加剤を1種または2種以上添加してもよい。
【0031】
結晶化核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、より好ましくは0.5~3重量部、更に好ましくは0.7~1.5重量部である。また、結晶化核剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0032】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミドとエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、より好ましくは0.05~3重量部、更に好ましくは0.1~1.5重量部である。また、滑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0033】
可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。可塑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂とポリ乳酸の合計100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、より好ましくは2~15重量部、更に好ましくは3~10重量部である。また、可塑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
次に、本発明の射出成形用ポリエステル樹脂組成物の製造方法の一形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサーなどの公知の混練機を用いて製造することができる。これらの内、混練機としては、樹脂に過度の剪断を加えることなく層状粘土鉱物(C)を樹脂中に分散できることから、二軸押出機が好ましい。また混練機の設定条件としては、P3HAの熱分解を抑制できることから、シリンダー設定温度を180℃以下とすることが好ましい。
また各成分を混練機に供給する際、一括で添加してもよく、一部を混練した後残余の成分を混練してもよい。層状粘土鉱物(C)は樹脂にダメージを与える場合があり、樹脂成分を溶融混練した後、層状粘土鉱物(C)をサイドフィード等を用いて添加することが望ましい。
本発明の射出成形用ポリエステル樹脂組成物を射出成形体に加工する際の成形加工方法としては、一般的な射出成形方法を用いることができ、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法の他、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、インモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH-PULL、SCORIM等を採用することもできるが、本発明で使用可能な射出成形法は、以上の方法に限定されるものではなく、具体的な条件についても適宜設定すればよい。
本発明により得られる射出成形体の用途は特に限定されないが、例えば、皿、コップ、カトラリーなどの食器類、コーヒーカプセル、農業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、おもちゃ、箱、容器などの日用雑貨類、ボールペン、シャープペン、定規などの文房具類、ボトル、キャップ、フタなどの成形品、押出シート・フィルム、異型押出製品等が挙げられる。また、本発明により得られる射出成形体は、樹脂成分が主にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂から構成されるため、海水分解性を有しており、そのため、プラスチックの海洋投棄による環境問題を解決し得るものである。
【実施例
【0035】
以下に実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(使用した原料)
本実施例および比較例で使用した原料を表1にまとめた。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例および比較例において実施した評価方法を、以下に説明する。
【0038】
(離型性)
後述の射出成形条件を用い、スリープレート、ピンゲート、1個取りの厚さ0.4mmのコーヒーカプセル金型を用い、冷却時間を短くしていき、離型不良が起こらない最小の時間を離型可能冷却時間を測定し、下記基準に基づいて離型性の評価を行った。
◎:10秒未満
〇:10秒~20秒未満
△:20秒~25秒未満
×:25秒以上
【0039】
(外観評価)
後述の射出成形により得られた成形体について、外観を目視で確認し、下記基準に基づき判定を行った。
〇:良好な外観を有する場合
×:バリ、フローマークのいずれか1つ以上の成型不良が見られる場合
【0040】
(面衝撃試験)
後述の射出成形により得られた8cm×8cm×1mmのプレートから4cm×4cm×1mmのプレートを切り出し、23℃と0℃の恒温室の中で1日養生したのち、300gの撃芯を高さ50cmから落下し、10枚の試験片をテストし下記式にて非破壊率を求めた。
非破壊率(%)=破壊しなかった試験片数(枚)/全試験片数(枚)×100
【0041】
<実施例1>
(PHBHブレンドの作製)
株式会社カワタ製75Lスーパーミキサーを用いて、PHBH 10kg、PETL 100g、BA 50g、EA 50gを300rpmにて3分攪拌し、PHBHブレンドを得た。
【0042】
(二軸押出機によるコンパウンド化)
東芝機械製TEM26SS(L/D=60)を表2のスクリュー構成にし、スクリュー回転数を100rpmに設定した。スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにてフィードし、同時にスクリュー根本より、PBATを3.0kg/hrにてフィードし、更に、タルクを1.0kg/hrにてサイドフィードし、45℃の温水で満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、ペレットを得た。
【0043】
【表2】
【0044】
(射出成型体の取得)
8cm×8cm×1mmのプレート金型を用い、東洋機械金属製射出成形機Si-30Vを用い、ノズル/T1/T2/T3=155/145/135/125℃、金型35℃とし、8cm×8cm×1mmのプレート状の成形体を得た。
得られた射出成形体について、外観評価、面衝撃試験を行い、その結果を表3に示した。更に、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0045】
<実施例2>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを6.12kg/hrにて、PBATを4.0kg/hrにて供給し、タルクを1.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0046】
<実施例3>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにて、PBATを3.0kg/hrにて供給し、タルクを2.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0047】
<実施例4>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを6.12kg/hrにて、PBATを4.0kg/hrにて供給し、タルクを2.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、。外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0048】
<実施例5>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにて、PBATを3.0kg/hrにてより供給し、タルクを3.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0049】
<比較例1>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを10.20kg/hrにて供給し、PBATおよびタルクを供給しなかった以外は、実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0050】
<比較例2>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを8.16kg/hrにて、PBATを2.0kg/hrにて供給し、タルクを供給しなかったことを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0051】
<比較例3>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにて、PBATを3.0kg/hrにて供給し、タルクを供給しなかったことを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0052】
<比較例4>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを6.12kg/hrにて、PBATを4.0kg/hrにて供給し、タルクを供給しなかったことを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0053】
<比較例5>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを8.16kg/hrにて、PBSAを2.0kg/hrにて供給し、タルクを供給しなかったことを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0054】
<比較例6>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにて、PBSAを3.0kg/hrにて供給し、タルクを供給しなかったことを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0055】
<比較例7>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを6.12kg/hrにて、PBSAを4.0kg/hrにて供給し、タルクを供給しなかったことを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0056】
<比較例8>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにてし、PBATを3.0kg/hrにて供給し、タルクを4.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0057】
<比較例9>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを7.14kg/hrにて、PBSAを3.0kg/hrにて供給し、タルクを1.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0058】
<比較例10>
スクリュー根本より、PHBHブレンドを6.12kg/hrにて、PBSAを4.0kg/hrにて供給し、タルクを1.0kg/hrにてサイドフィードより供給することを除いて実施例1と同様に実験を行ない、外観評価、面衝撃試験、離型性を評価し、その結果を表3に示した。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(A)と脂肪族芳香族ポリエステル(B)の合計に対する、樹脂(A)と樹脂(B)の含有量と、樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100重量部とした場合の層状粘土鉱物(C)の含有量(重量部)を含む樹脂組成物に対する、各種評価結果を示した。
この結果より、実施例1~実施例5は、比較例1~10に対して、低温の衝撃強度が優れ、離型可能冷却時間が短いため生産性が高く、良好な外観を有する射出成型体が得られることが分かる。