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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241218BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241218BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01L21/304 621D
B24B37/00 H
C09K3/14 550C
C09K3/14 550Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020171487
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022063116
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三浦 穣史
(72)【発明者】
【氏名】若林 慧亮
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172733(JP,A)
【文献】特開2019-071413(JP,A)
【文献】特開2011-165909(JP,A)
【文献】特開2014-154707(JP,A)
【文献】特開2019-186346(JP,A)
【文献】特開2005-262413(JP,A)
【文献】特開2002-201462(JP,A)
【文献】特開2015-109423(JP,A)
【文献】特表2005-518091(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050260(WO,A2)
【文献】特開2019-203098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)及びアミノ基含有水溶性高分子(成分B)を含有する研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含み、
前記研磨液組成物のpHが8.5超14以下であり、
前記研磨は、成分Aのゼータ電位がマイナス、被研磨シリコン基板のゼータ電位が0mV以下、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計が80mV以下の条件で行う、研磨方法。
【請求項2】
成分Aのゼータ電位が-40mV以上0mV未満である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記被研磨シリコン基板のゼータ電位が-40mV以上0mV以下である、請求項1又は2に記載の研磨方法。
【請求項4】
成分BのpKaは5以上6.7以下である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨液組成物のpHが成分BのpKaよりも大きい、請求項1から4のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨液組成物中の成分Aの含有量が0.01質量%以上2.5質量%以下である、請求項1からのいずれかに記載の研磨方法。
【請求項7】
前記研磨液組成物中の成分Bの含有量が10質量ppm以上200質量ppm以下である、請求項1からのいずれかに記載の研磨方法。
【請求項8】
前記研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の比B/Aが0.008以上0.16以下である、請求項1からのいずれかに記載の研磨方法。
【請求項9】
成分Bは、アリルアミン及びジアリルアミンから選ばれる1種以上のモノマー由来の構成単位を含む、請求項1からのいずれかに記載の研磨方法。
【請求項10】
アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、立体遮蔽基を有する、請求項に記載の研磨方法。
【請求項11】
アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、水酸基を有する炭素数3以上11以下の炭化水素基を含む第2級アミノ基又は第3級アミノ基である、請求項又は10に記載の研磨方法。
【請求項12】
成分Bは、ポリアリルアミンとグリシドール誘導体との反応物であり、ポリアリルアミンのアミノ基数(1当量)に対するグリシドール誘導体の当量が1.7以上3以下である、請求項1から11のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項13】
前記グリシドール誘導体がグリシドールである、請求項12に記載の研磨方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の研磨方法を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、
研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコン基板の研磨方法及び半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体メモリの高記録容量化に対する要求の高まりから半導体装置のデザインルールは微細化が進んでいる。このため半導体装置の製造過程で行われるフォトリソグラフィーにおいて焦点深度は浅くなり、シリコン基板(ベアウェーハ)の欠陥低減や平滑性に対する要求はますます厳しくなっている。
【0003】
シリコン基板の品質を向上する目的で、シリコン基板の研磨は多段階で行われている。特に研磨の最終段階で行われる仕上げ研磨は、表面粗さ(ヘイズ)の抑制と研磨後のシリコン基板表面のぬれ性向上(親水化)によるパーティクルやスクラッチ、ピット等の表面欠陥(LPD:Light point defects)の抑制とを目的として行われている。
【0004】
シリコン基板表面について許容される表面欠陥のサイズは年々小さくなっており、通常この欠陥はレーザー光を基板表面に照射しそのときの散乱光を検出することで測定している。そのため、より微細な欠陥を測定するためには、シリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)を低減し、欠陥測定時のS/N比を向上させなければならない。
【0005】
仕上げ研磨に用いられる研磨液組成物としては、コロイダルシリカ、及びアルカリ化合物を用いた化学的機械研磨用の研磨液組成物が知られている(特許文献1~3)。
【0006】
特許文献1には、ヘイズレベルを改善することを目的とした研磨液組成物として、ヒドロキシエチルセルロースやポリエチレンオキサイド等の水溶性高分子化合物を含有する研磨液組成物が報告されている。
特許文献2には、表面欠陥(LPD)の数を低減することを目的とした研磨液組成物として、ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミド等の窒素含有基を有する水溶性高分子化合物を含有する研磨液組成物が報告されている。
特許文献3には、高い研磨レートと、研磨後の基板表面の面粗れ防止とを同時に満足することを目的とした研磨液組成物として、ポリエチレンイミン等の窒素含有基を有する水溶性高分子化合物を含有する研磨液が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-128089号公報
【文献】特開2008-53415号公報
【文献】特開2007-19093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表面欠陥等を低減するために、仕上げ研磨に用いられる研磨液には、より粒径の小さいコロイダルシリカが用いられ、研磨速度が遅くなる傾向にあり、研磨速度の向上に課題がある。
しかし、特許文献1~3の研磨液組成物を用いた研磨では、研磨速度が十分とはいえない。
【0009】
本開示は、研磨速度を向上できるシリコン基板の研磨方法及び半導体基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)及びアミノ基含有水溶性高分子(成分B)を含有する研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含み、前記研磨は、成分Aのゼータ電位がマイナス、被研磨シリコン基板のゼータ電位が0mV以下、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計が80mV以下の条件で行う、研磨方法に関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の研磨方法を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、研磨速度を向上できるシリコン基板の研磨方法及び半導体基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、シリカ粒子及びアミノ基含有水溶性高分子を含有する研磨液組成物を用いてシリカ粒子のゼータ電位がマイナス、被研磨シリコン基板のゼータ電位が0mV以下、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計が所定値以下の条件で研磨することにより、シリコン基板を高速研磨できるという知見に基づく。
【0014】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)及びアミノ基含有水溶性高分子(成分B)を含有する研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含み、前記研磨は、成分Aのゼータ電位がマイナス、被研磨シリコン基板のゼータ電位が0mV以下、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計が80mV以下の条件で行う、研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。
【0015】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度を向上できる。
【0016】
本開示の効果発現機構の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
研磨粒子であるシリカ粒子(成分A)のゼータ電位と被研磨シリコン基板のゼータ電位が同符号であると、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板に斥力が働き、シリカ粒子(成分A)が被研磨シリコン基板に作用する力及び/又は接触する回数が減少し、その結果、研磨速度が低下すると考えられる。したがって、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板に働く斥力を小さくすれば、すなわち、シリカ粒子(成分A)のゼータ電位と被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を小さくすれば、研磨速度は向上すると考えられる。
シリカ粒子のゼータ電位と被研磨シリコン基板のゼータ電位は一般に共にマイナスであるが、本開示では、アミノ基含有水溶性高分子化合物(成分B)をシリカ粒子(成分A)や被研磨シリコン基板に吸着させて、シリカ粒子(成分A)のゼータ電位がマイナス、かつ、被研磨シリコン基板のゼータ電位が0mV以下であっても、シリカ粒子(成分A)及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を小さくすることにより、研磨速度を向上させることが可能となると考えられる。
ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0017】
[研磨工程]
本開示の研磨方法は、シリカ粒子(成分A)及びアミノ基含有水溶性高分子(成分B)を含有する研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程(以下、「本開示の研磨工程」ともいう)を含む。
本開示の研磨工程における研磨は、成分Aのゼータ電位がマイナス、被研磨シリコン基板のゼータ電位が0mV以下、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計が80mV以下の条件で行う。
【0018】
成分Aのゼータ電位は通常マイナスであり、本開示の研磨工程では、成分Aに成分Bが吸着しても成分Aのゼータ電位はマイナスのままである。本開示の研磨工程において、本開示の研磨液組成物中の成分Aのゼータ電位は、研磨速度を向上させる観点から、-40mV以上が好ましく、-35mV以上がより好ましく、そして、成分Bによりシリカ粒子及びシリコン基板のゼータ電位を容易に調整する観点から、0mV未満が好ましく、-10mV以下がより好ましく、-20mV以下が更に好ましく、-25mV以下が更に好ましい。
【0019】
被研磨シリコン基板のゼータ電位は通常マイナスであり、本開示の研磨工程では、被研磨シリコン基板に成分Bを吸着させると、被研磨シリコン基板のゼータ電位はマイナスのまま又は0mVとなる。本開示の研磨工程において、被研磨シリコン基板のゼータ電位は、研磨速度を向上させる観点から、-40mV以上が好ましく、-30mV以上がより好ましく、-20mV以上が更に好ましく、-15mV以上が更に好ましく、-10mV以上が更に好ましく、-5mV以上が更に好ましく、そして、成分Bによりシリカ粒子及びシリコン基板のゼータ電位を容易に調整する観点から、0mV以下であって、-1mV以下が好ましい。
【0020】
本開示の研磨工程において、被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値とシリカ粒子(成分A)のゼータ電位の絶対値との合計は、成分Bによりシリカ粒子及びシリコン基板のゼータ電位を容易に調整する観点から、0mV超が好ましく、10mV以上がより好ましく、20mV以上が更に好ましく、25mV以上が更に好ましく、30mV以上が更に好ましく、そして、研磨速度を向上させる観点から、80mV以下であって、60mV以下が好ましく、50mV以下が更に好ましく、45mV以下が更に好ましく、40mV以下が更に好ましく、36mV以下が更に好ましい。
【0021】
本開示の研磨方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤に被研磨シリコン基板を押し付けて、3~20kPaの研磨圧力で被研磨シリコン基板を研磨することができる。本開示において、研磨圧力とは、研磨時に被研磨シリコン基板の被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。
【0022】
本開示の研磨方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤に被研磨シリコン基板を押し付けて、15℃以上40℃以下の研磨液組成物及び研磨パッド表面温度で被研磨シリコン基板を研磨することができる。研磨液組成物の温度及び研磨パッド表面温度としては、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減等の表面品質との両立の観点から、15℃以上又は20℃以上が好ましく、40℃以下又は30℃以下が好ましい。
【0023】
[被研磨シリコン基板]
本開示の研磨方法は、シリコン基板の研磨方法であり、例えば、半導体基板の製造方法における被研磨シリコン基板を研磨する研磨工程や、シリコン基板の研磨方法における被研磨シリコン基板を研磨する研磨工程に用いられうる。本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨シリコン基板としては、一又は複数の実施形態において、シリコン基板等が挙げられ、一又は複数の実施形態において、単結晶シリコン基板、ポリシリコン基板、ポリシリコン膜を有する基板、SiN基板等が挙げられ、本開示の研磨液組成物の効果が発揮される観点から、単結晶シリコン基板又はポリシリコン基板が好ましく、単結晶シリコン基板がより好ましい。
【0024】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、研磨材としてシリカ粒子(以下、「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、粉砕シリカ、又はそれらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面粗さ(ヘイズ)、表面欠陥及びスクラッチの低減等の表面品質の向上する観点から、コロイダルシリカが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0025】
成分Aの使用形態としては、操作性の観点から、スラリー状が好ましい。本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aがコロイダルシリカである場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属等によるシリコン基板の汚染を防止する観点から、コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解物から得たものであることが好ましい。アルコキシシランの加水分解物から得られるシリカ粒子は、従来から公知の方法によって作製できる。
【0026】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度を維持する観点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、そして、保存安定性を向上する観点、及び、表面粗さ(ヘイズ)、表面欠陥及びスクラッチの低減等の表面品質を向上する観点から、50nm以下が好ましく、45nm以下がより好ましく、40nm以下が更に好ましく、30nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均一次粒子径は、10nm以上50nm以下が好ましく、20nm以上45nm以下がより好ましく、20nm以上40nm以下が更に好ましく、20nm以上30nm以下が好ましい。
本開示において、成分Aの平均一次粒子径は、窒素吸着法(BET法)によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて算出される。平均一次粒子径の値は、実施例に記載する方法で測定される値である。
【0027】
成分Aの平均二次粒子径は、研磨速度を維持する観点から、20nm以上が好ましく30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましく、保存安定性を向上する観点、及び、表面粗さ(ヘイズ)、表面欠陥及びスクラッチの低減等の表面品質を向上する観点から、100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましく、70nm以下が更に好ましく、60nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均二次粒子径は、20nm以上100nm以下が好ましく、30nm以上90nm以下がより好ましく、30nm以上80nm以下が更に好ましく、30nm以上70nm以下が更に好ましく、40nm以上60nm以下が更に好ましい。
本開示において、平均二次粒子径は、動的光散乱(DLS)法によって測定される値であり、実施例に記載する方法で測定される値である。
【0028】
成分Aの会合度は、保存安定性を向上する観点、及び、表面品質を向上する観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面品質を向上する観点から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。
【0029】
本開示において、成分Aの会合度とは、シリカ粒子の形状を表す係数であり、下記式により算出される。
会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径
【0030】
成分Aの会合度の調整方法としては、例えば、特開平6-254383号公報、特開平11-214338号公報、特開平11-60232号公報、特開2005-060217号公報、特開2005-060219号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0031】
成分Aの形状は、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び表面品質を向上する観点から、いわゆる球型及び/又はいわゆるマユ型であることが好ましい。
【0032】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度を向上する観点から、SiO2換算で、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.07質量%以上が更に好ましく、そして、保存安定性を向上する観点、表面粗さを低減する観点、及び、シリコン基板表面上の残留物低減の観点から、2.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が更により好ましい。よって、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.01質量%以上2.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.07質量%以上0.8質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せの場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
さらに、被研磨シリコン基板が単結晶シリコン基板の場合、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、保存安定性を向上する観点、表面粗さを低減する観点、及び、シリコン基板表面上の残留物低減の観点から、0.5質量%以下が更により好ましく、0.3質量%以下が更により好ましく、0.2質量%以下が更により好ましい。よって、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.07質量%以上0.5質量%以下が更により好ましく、0.07質量%以上0.3質量%以下が更により好ましく、0.07質量%以上0.2質量%以下が更により好ましい。
さらに、被研磨シリコン基板がポリシリコン基板の場合、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度を向上する観点から、0.1質量%以上が更により好ましく、0.2質量%以上が更により好ましく、0.3質量%以上が更により好ましい。よって、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.1質量%以上0.8質量%以下が更により好ましく、0.2質量%以上0.8質量%以下が更により好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下が更により好ましい。
【0033】
[アミノ基含有水溶性高分子(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、アミノ基含有水溶性高分子(以下、「成分B」ともいう)を含有する。成分Bは、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板のゼータ電位を調整し、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板間の静電反発力を低減し、シリカ粒子の凝集を抑制できると考えられる。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。
【0034】
成分BのpKaは、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減し、研磨速度を向上させる観点から、5以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、5.8以上が更に好ましく、6以上が更に好ましく、6.2以上が更に好ましく、6.4以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、6.7以下が好ましい。
【0035】
成分Bとしては、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減し、研磨速度を向上させる観点から、アリルアミン及びジアリルアミンから選ばれる1種以上のモノマー由来の構成単位を含むことが好ましく、アリルアミン由来の構成単位を含むことがより好ましい。
【0036】
前記アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、一又は複数の実施形態において、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減し、研磨速度を向上させる観点から、立体遮蔽基を有することが好ましい。本開示において、立体遮蔽基とは、成分Bのアミノ基の窒素原子を遮蔽してカチオン化を抑制できる、すなわちpKaを低くする立体的な(嵩高い)置換基のことをいう。前記立体遮蔽基を有するアミノ基は、同様の観点から、水酸基を有する炭素数3以上11以下の炭化水素基を含む第2級アミノ基又は第3級アミノ基であることが好ましい。前記炭化水素基の炭素数は、アミノ基の遮蔽性を向上する(アミノ基の窒素原子のカチオン化を抑制する)観点、及び、研磨速度を向上させる観点から、3以上が好ましく、そして、水溶性を向上する観点、及び入手性の観点から、11以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、4以下が更により好ましい。
【0037】
前記立体遮蔽基を有するアミノ基は、一又は複数の実施形態において、アミノ基に対するグリシドール誘導体による修飾基であり、一又は複数の実施形態において、アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基とグリシドール誘導体とが反応して形成される基である。成分Bの全アミノ基のうちの少なくとも一部のアミノ基がグリシドール誘導体によって変性され、立体遮蔽基を有するアミノ基となる。前記アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基数(1当量)に対するグリシドール誘導体の当量(以下、「グリシドール変性率」ともいう)は、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減し、研磨速度を向上させる観点、及び入手性の観点から、1.7以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、そして、同様の観点から、3.0以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.4以下が更に好ましく、2.2以下が更に好ましく、2.1以下が更に好ましく、2.0以下が更に好ましく、1.9以下が更に好ましい。
【0038】
本開示において、グリシドール変性率は、13C-NMRを用いて実施例に記載の方法により測定される値である。ただし、グリシドール変性率は、以下の方法(1)又は(2)によっても測定できる。
(1)反応原料に用いたアリルアミン重合体のアミノ基当量とグリシドール誘導体のモル数から求めることができる。
(2)グリシドール誘導体とアリルアミン重合体との反応物の窒素含有量N(質量%)を測定し、下記式から求めることができる。
グリシドール変性率=A/B
ここで、A=(100-N×アリルアミン単量体の分子量/14)/グリシドール誘導体分子量であり、B=N/14である。
【0039】
前記グリシドール誘導体としては、例えば、グリシドール、アルキルグリシジルエーテル等が挙げられ、入手性の観点及び研磨速度を向上させる観点から、グリシドールが好ましい。前記アルキルグリシジルエーテルのアルキル基は、入手性の観点から、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。アルキルグリシジルエーテルとしては、メチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0040】
成分Bとしては、入手性の観点及び研磨速度を向上させる観点から、一又は複数の実施形態において、少なくとも一部のアミノ基が立体遮蔽基を有するポリアリルアミンが挙げられ、一又は複数の実施形態において、ポリアリルアミンとグリシドール誘導体との反応物が挙げられる。成分Bとしては、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減し、研磨速度を向上させる観点、及び、入手性の観点から、ポリアリルアミンとグリシドール誘導体との反応物であり、ポリアリルアミンのアミノ基数(1当量)に対するグリシドール誘導体の当量が1.7以上3以下である化合物が好ましい。
【0041】
成分Bとしては、一又は複数の実施形態において、例えば、下記式(I)の構成単位を含む化合物(グリシドール変性ポリアリルアミン)が挙げられる。
【化1】
【0042】
式(I)中、R1及びR2はそれぞれ、水素原子又は立体遮蔽基である。立体遮蔽基としては、グリシドール誘導体由来の修飾基が挙げられ、一又は複数の実施形態において、グリシドールの1モル付加体又は2モル付加体が挙げられ、一又は複数の実施形態において、-CH2CH(OH)CH2(OH)、-CH2CH(OH)CH2O-CH2CH(OH)CH2(OH)等が挙げられる。
【0043】
成分Bの重量平均分子量は、研磨速度を向上する観点から、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、5,000以上が更に好ましく、7,000以上が更に好ましく、8,000以上が更に好ましく、9,000以上が更に好ましく、そして、表面粗さ及び表面欠陥を低減する観点から、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましく、20,000以下が更に好ましく、15,000以下が更に好ましく、12,000以下が更に好ましい。本開示における成分Bの重量平均分子量は、例えば、実施例に記載する方法により測定できる。
【0044】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度を向上する観点から、10質量ppm以上が好ましく、20質量ppm以上がより好ましく、30質量ppm以上が更に好ましく、そして、表面粗さ及び表面欠陥を低減する観点から、200質量ppm以下が好ましく、150質量ppm以下がより好ましく、120質量ppm以下が更に好ましい。なお、本開示において、1質量%は10000質量ppmである(以下同じ)。
【0045】
本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の比(質量比B/A)は、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減する観点から、0.008以上が好ましく、0.016以上がより好ましく、0.025以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、0.16以下が好ましく、0.12以下がより好ましく、0.09以下が更に好ましい。
【0046】
[水]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、水を含んでいてもよい。水としては、例えば、イオン交換水や超純水等の水が挙げられる。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、例えば、成分A、成分B、及び後述する任意成分の残余とすることができる。
【0047】
[含窒素塩基性化合物(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、pHを調整する観点から、含窒素塩基性化合物(以下、「成分C」ともいう)をさらに含有することが好ましい。成分Cとしては、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面品質を向上する観点から、水溶性の含窒素塩基性化合物であることが好ましい。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。本開示において、「水溶性の含窒素塩基性」とは、水に溶解したときに塩基性を示す含窒素化合物をいう。成分Cは、一又は複数の実施形態において、アミノ基含有水溶性高分子(成分B)を含めないものとする。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0048】
成分Cとしては、一又は複数の実施形態において、アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。成分Cとしては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N一メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N一ジエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノ-ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びヒドロキシアミンから選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。なかでも、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、成分Cとしては、アンモニア、又は、アンモニアとヒドロキシアミンの混合物が好ましく、アンモニアがより好ましい。
【0049】
本開示の研磨液組成物が成分Cを含む場合、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度を向上する観点から、5質量ppm以上が好ましく、10質量ppm以上がより好ましく、20質量ppm以上が更に好ましく、保存安定性を向上する観点、表面品質を向上する観点、及びシリコン基板の腐食を抑制する観点から、500質量ppm以下が好ましく、300質量ppm以下がより好ましく、150質量ppm以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、5質量ppm以上500質量ppm以下が好ましく10質量ppm以上300質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以上150質量ppm以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せの場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0050】
本開示の研磨液組成物が成分Cを含む場合、本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比C/A(質量比C/A)は、研磨速度を向上する観点から、0.002以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.015以上が更に好ましく、そして、保存安定性を向上する観点、表面品質を向上する観点、及びシリコン基板の腐食を抑制する観点から、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.1以下が更に好ましく、0.05以下が更により好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中における質量比C/Aは、0.002以上1以下が好ましく、0.01以上0.5以下がより好ましく、0.01以上0.1以下が更に好ましく、0.015以上0.05以下が更により好ましい。
【0051】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の絶対値の合計を低減する範囲において、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、成分B以外の水溶性高分子、成分C以外のpH調整剤、防腐剤、アルコール類、キレート剤、及び酸化剤等が挙げられる。
【0052】
[pH]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、8.5超が好ましく、9以上がより好ましく、9.5以上が更に好ましく、10以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、14以下が好ましく、13以下がより好ましく、12.5以下が更に好ましく、12以下が更に好ましく、11.5以下が更に好ましく、11以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物のpHは、8.5超以上14以下が好ましく、9以上13以下がより好ましく、9.5以上12.5以下が更に好ましく、9.5以上12以下が更に好ましく、9.5以上11.5以下が更に好ましく、10以上11以下が更に好ましい。本開示の研磨液組成物のpHは、成分Cや公知のpH調整剤を用いて調整できる。本開示において、上記pHは、実施例に記載する方法で測定した値である。
【0053】
[pH-pKa]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度を向上させる観点及び保存安定性を向上させる観点から、成分BのpKaより大きいことが好ましい。pHとpKaとの差(pH-pKa)は、同様の観点から、1.8超が好ましく、2.5以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、3.5以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、7以下が好ましく、6以下がより好ましく、5.5以下が更に好ましく、5以下が更に好ましく、4.5以下が更に好ましい。
【0054】
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A及び成分Bと、さらに所望により、水、成分C及びその他の成分とを公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示の研磨液組成物は、例えば、少なくとも成分Aと成分Bとを配合することにより製造できる。したがって、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A及び成分Bを配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、並びに、必要に応じて水、成分C及びその他の成分を同時に又は任意の順に混合することを含む。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、又はビーズミル等の撹拌機等を用いて行うことができる。上記本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0055】
本開示において、「研磨液組成物中の各成分の含有量」は、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における各成分の含有量をいう。
【0056】
本開示の研磨液組成物は、貯蔵及び輸送の観点から、濃縮物として製造され、使用時に希釈されてもよい。希釈倍率としては、製造及び輸送コストの観点から、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは10倍以上、更に好ましくは30倍以上、更に好ましくは50倍以上であり、保存安定性の観点から、好ましくは180倍以下であり、より好ましくは140倍以下、更に好ましくは100倍以下、更に好ましくは70倍以下である。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に各成分の含有量が、上述した含有量(すなわち、使用時の含有量)となるように水で希釈して使用することができる。本開示において研磨液組成物の濃縮物の「使用時」とは、研磨液組成物の濃縮物が希釈された状態をいう。
【0057】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨方法を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程(以下、「研磨工程」ともいう)と、研磨されたシリコン基板を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)と、を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の半導体基板製造方法によれば、本開示の研磨方法を用いることで、研磨速度向上できるため、高品質の半導体基板を高収率で、生産性よく、安価に製造できる。
【0058】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、例えば、単結晶シリコンインゴットを薄円板状にスライスすることにより得られた単結晶シリコン基板を平面化するラッピング(粗研磨)工程と、ラッピング単結晶されたシリコン基板をエッチングした後、単結晶シリコン基板表面を鏡面化する仕上げ研磨工程とを含むことができる。本開示の研磨液組成物は、研磨速度の向上と表面品質の向上とを両立する観点から、上記仕上げ研磨工程で用いられるとより好ましい。
【0059】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、例えば、二酸化ケイ素膜及び窒化ケイ素膜を有するシリコン基板の上に化学蒸着(CVD)法によりポリシリコン膜を製膜した基板をポリシリコン膜の凹凸を除去して平坦化する工程と、直下の二酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜とポリシリコン膜とを同時に研磨し平坦化する工程とを含むことができる。本開示の研磨液組成物は、研磨速度の向上と表面品質の向上とを両立する観点から、上記ポリシリコン膜の凹凸を除去して平坦化する工程で用いられるとより好ましい。
【0060】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程では、上述した本開示の研磨方法における研磨工程と同様の条件(シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位、研磨圧力、研磨液組成物及び研磨パッドの表面温度等)で研磨を行うことができる。
【0061】
本開示の半導体基板製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記研磨工程の前に、本開示の研磨液組成物の濃縮物を希釈する希釈工程を含んでいてもよい。希釈媒には、例えば、水を用いることができる。
【0062】
本開示の半導体基板製造方法における洗浄工程では、シリコン基板表面上の残留物低減の観点から、無機物洗浄を行うことが好ましい。無機物洗浄で用いる洗浄剤としては、例えば、過酸化水素、アンモニア、塩酸、硫酸、フッ酸及びオゾン水から選ばれる少なくとも1種を含む無機物洗浄剤が挙げられる。
【0063】
本開示の半導体基板製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記洗浄工程の後に、洗浄後のシリコン基板を水でリンスし、乾燥する工程を更に含むことができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0065】
1.研磨液組成物の調製
(研磨液組成物の濃縮物)
表1~2に示すシリカ粒子(成分A)、表1~2に示す水溶性高分子(成分B又は非成分B)、アンモニア(成分C)、及び超純水を撹拌混合して、研磨液組成物の濃縮物(60倍)を得た。濃縮物の25℃におけるpHは10.6~11.0であった。
(研磨液組成物)
上記濃縮物をイオン交換水で60倍希釈して、実施例1~4及び比較例1~2の研磨液組成物を得た。表1及び表2中の各成分の含有量は、希釈後の研磨液組成物の使用時における各成分の含有量(質量%又は質量ppm、有効分)である。超純水の含有量は、成分Aと成分B又は非成分Bと成分Cとを除いた残余である。各研磨液組成物(使用時)の25℃におけるpHは10.3であった。
25℃におけるpHは、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM-30G)を用いて測定した値であり、pHメータの電極を研磨液組成物又はその濃縮物へ浸漬して1分後の数値である。
【0066】
各研磨液組成物の調製に用いた成分A、成分B、非成分B及び成分Cには下記のものを用いた。
(成分A)
コロイダルシリカ[平均一次粒子径25nm、平均二次粒子径49nm、会合度2.0]
(成分B)
グリシドール変性ポリアリルアミン(変性率:2.0)[ニットーボーメディカル社製、重量平均分子量11,000]
グリシドール変性ポリアリルアミン(変性率:1.8)[ニットーボーメディカル社製、重量平均分子量10,200]
(非成分B)
ポリグリセリン[ダイセル社製の「XPW」、重合度40、重量平均分子量2,980]
(成分C)
アンモニア[28質量%アンモニア水、キシダ化学社製、試薬特級]
【0067】
2.各種パラメータの測定方法
(1)シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径の測定
成分Aの平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0068】
成分Aの比表面積Sは、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
[前処理]
(a)スラリー状の成分Aを硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の成分Aをシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルタで濾過する。
(e)フィルタ上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルタをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(成分A)をフィルタ屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0069】
(2)シリカ粒子(成分A)の平均二次粒子径
成分Aの平均二次粒子径(nm)は、成分Aの濃度が0.25質量%となるように研磨材をイオン交換水に添加した後、得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0070】
(3)水溶性高分子の重量平均分子量の測定
水溶性高分子(成分B、非成分B)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を下記の条件で適用して得たクロマトグラム中のピークに基づき算出した。
<ポリグリセリン(非成分B)>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
<アミノ基含有水溶性高分子(成分B)>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:GS-220HQ+GS-620HQ
溶離液:0.4M NaCl
流量:1.0mL/min
カラム温度:30℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
【0071】
(4)pKaの測定
HM-41K型pHメーター(東亜DKK(株))用いて、1Mに調整した成分Bの水溶液を0.1M-塩酸により室温で電位差滴定を行った。得られた滴定曲線からpKaを算出した。
【0072】
(5)グリシドール変性率
グリシドール変性率は、13C-NMRを用いて求めた。
<測定条件>
試料:グリシドール変性ポリアリルアミン 200mgを重水0.6mLに溶解
使用装置: 400MHz 13C-NMR(アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent 400-MR DD2」)
測定条件:13C-NMR測定、パルス間隔時間5秒、テトラメチルシランを標準ピーク(σ:0.0ppm)として測定
積算回数:5000回
積分に用いる各ピーク範囲:
A:71.0~72.3ppm(アミノ基と反応したグリシドールの2級水酸基が結合したCのピークの積分値)
B:32.0~41.0ppm(アリルアミンの主鎖Cのピークの積分値)
<グリシドール変性率>
グリシドール変性率(アミノ基の当量に対するグリシドールの当量比)は以下の式で求める。
グリシドール変性率(当量比)= 2A/B
【0073】
3.実施例1~2及び比較例1の研磨液組成物の評価
(1)シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の測定
下記に示す各水分散液をキャピラリーセルDTS1070に入れ、ゼータサイザーNano ZS[Malvern社製]を用いて、以下の条件でゼータ電位の測定を行った。
試料: 屈折率:1.450 吸収率:0.010
分散媒: 粘度:0.8872cP、屈折率:1.330、誘電率:78.5
温度:25℃
(1-1)シリカ粒子のゼータ電位測定用の水分散液の調製
各実施例1~2及び比較例1の研磨液組成物(使用時)をそのままシリカ粒子のゼータ電位測定用の水分散液として使用した。
(1-2)単結晶シリコン基板のゼータ電位測定用の水分散液の調製
イオン交換水に、各実施例1~2及び比較例1記載の水溶性高分子、アンモニア水溶液を添加して、次いでビーズミルにて粉砕した単結晶シリコン基板の微粒子0.1質量%を添加し、シリンジフィルター(ザルトリウス製 ポアサイズ 1.2μm)でろ過することで単結晶シリコン基板のゼータ電位測定用の水分散液を得た。
【0074】
(2)研磨方法等
各研磨液組成物について、それぞれ研磨直前にフィルタ(コンパクトカートリッジフィルタ「MCP-LX-C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、下記の研磨条件で下記の被研磨シリコン基板に対して仕上げ研磨及び洗浄を行った。
<被研磨シリコン基板>
単結晶シリコン基板[直径200mmのシリコン片面鏡面基板、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満]
上記単結晶シリコン基板を市販の研磨液組成物(フジミインコーポレーテッド製、GLANZOX 1302)を用いて予め粗研磨を実施した。粗研磨を終了し仕上げ研磨に供した単結晶シリコン基板のヘイズは、2~3ppmであった。
【0075】
<仕上げ研磨条件>
研磨機:片面8インチ研磨機「GRIND-X SPP600s」(岡本工作製)
研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製、アスカー硬度:64、厚さ:1.37mm、ナップ長:450μm、開口径:60μm)
シリコン基板研磨圧力:100g/cm2
定盤回転速度:60rpm
研磨時間:5分
研磨液組成物の供給速度:150g/min
研磨液組成物の温度:23℃
キャリア回転速度:62rpm
【0076】
<シリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)の測定>
表面粗さ測定装置「Surfscan SP1-DLS」(KLA Tencor社製)を用いて測定される、暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値(DWOヘイズ)を用いた。
【0077】
<洗浄方法>
仕上げ研磨後、シリコン基板に対して、オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を下記のとおり行った。オゾン洗浄では、20ppmのオゾンを含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコン基板の中央に向かって3分間噴射した。このときオゾン水の温度は常温とした。次に希フッ酸洗浄を行った。希フッ酸洗浄では、0.5質量%のフッ化水素アンモニウム(特級、ナカライテクス株式会社)を含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコン基板の中央に向かって6秒間噴射した。上記オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を1セットとして計2セット行い、最後にスピン乾燥を行った。スピン乾燥では1,500rpmでシリコン基板を回転させた。
【0078】
(3)研磨速度の評価
研磨前後の各シリコン基板の重さを精密天秤(Sartorius社製「BP-210S」)を用いて測定し、得られた重量差をシリコン基板の密度、面積および研磨時間で除して、単位時間当たりの片面研磨速度を求めた。結果を表1に示す。なお、研磨後のシリコン基板の重さとは、上記仕上げ研磨及び洗浄を行った後のシリコン基板の重さである。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示されるように、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位がマイナスで、ゼータ電位の絶対値の合計が80mV以下の条件で研磨した実施例1~2の研磨液組成物は、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位がマイナスで、ゼータ電位の絶対値の合計が80mV超の条件で研磨した比較例1の研磨液組成物に比べて、研磨速度に優れることが分かった。
【0081】
4.実施例3~4及び比較例2の研磨液組成物の評価
(1)シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位の測定
シリカ粒子及び被研磨シリコン基板のゼータ電位は、下記に示す各水分散液を用いて上記3(1)と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
(1-1)シリカ粒子のゼータ電位測定用の水分散液の調製
各実施例3~4及び比較例2の研磨液組成物(使用時)をそのままシリカ粒子のゼータ電位測定用の水分散液として使用した。
(1-2)ポリシリコン基板のゼータ電位測定用の水分散液の調製
イオン交換水に、各実施例3~4及び比較例2記載の水溶性高分子、アンモニア水溶液を添加して、次いでビーズミルにて粉砕したポリシリコン(多結晶)基板の微粒子0.1質量%を添加し、シリンジフィルター(ザルトリウス製 ポアサイズ 1.2μm)でろ過することポリシリコン基板のゼータ電位測定用の水分散液を得た。
【0082】
(2)研磨方法
各研磨液組成物について、それぞれ研磨直前にフィルタ(コンパクトカートリッジフィルタ「MCP-LX-C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、上記3(2)と同様の研磨条件で下記の被研磨シリコン基板に対して研磨を行った後、上記3(2)と同様の洗浄方法により洗浄を行った。
<被研磨シリコン基板>
ポリシリコン基板[直径200mmのシリコン片面鏡面基板(伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)の上に、プラズマCVD法によりSiO2膜4400Åを堆積させ、続いてプラズマCVD法によりポリシリコン膜8000Åを堆積させた基板]
【0083】
(3)研磨速度の評価
被研磨シリコン基板としてポリシリコン基板を用いた研磨速度の評価は、上記3(3)と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示されるように、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位がマイナスで、ゼータ電位の絶対値の合計が80mV以下の条件で研磨した実施例3~4の研磨液組成物は、成分A及び被研磨シリコン基板のゼータ電位がマイナスで、ゼータ電位の絶対値の合計が80mV超の条件で研磨した比較例2の研磨液組成物に比べて、研磨速度に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示の研磨方法を用いれば、研磨速度を向上できる。よって、本開示の研磨方法は、様々な半導体基板の製造過程で用いられる研磨方法として有用であり、なかでも、シリコン基板の仕上げ研磨方法として有用である。