IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧 ▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-保護リレーシステム 図1
  • 特許-保護リレーシステム 図2
  • 特許-保護リレーシステム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】保護リレーシステム
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/05 20060101AFI20241218BHJP
   H02H 3/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H02H3/05 F
H02H3/02 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020183195
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073301
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】西村 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬谷 稔
(72)【発明者】
【氏名】亀島 健司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹松 卓也
【審査官】山口 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-315233(JP,A)
【文献】特開2013-106456(JP,A)
【文献】特開2001-045647(JP,A)
【文献】特開2011-223647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/05
H02H 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の回線を遮断する遮断器を制御して前記回線を保護する保護リレーシステムであって、
前記回線の状態に関するアナログ情報をそれぞれ取得し、取得した前記アナログ情報をデジタル情報にそれぞれ変換する第1および第2の入力装置と、
前記デジタル情報に基づいて前記回線を保護するための所定のリレー演算処理をそれぞれ実施し、前記遮断器に対する第1の遮断指令と第2の遮断指令をそれぞれ出力する第1および第2の保護演算装置と、
前記第1の入力装置と前記第1の保護演算装置との間で入出力される前記デジタル情報および前記第1の遮断指令と、前記第2の入力装置と前記第2の保護演算装置との間で入出力される前記デジタル情報および前記第2の遮断指令と、の中継を行うネットワーク中継装置と、
前記第1の遮断指令および前記第2の遮断指令が入力され、前記遮断器に前記回線を遮断させるための遮断信号を出力するトリップ回路と、を備え、
前記第1の入力装置は、前記第1の保護演算装置から前記ネットワーク中継装置を介して伝送される前記第1の遮断指令を前記トリップ回路へ出力するとともに、前記第1の保護演算装置および前記第1の入力装置を含む第1の系列の異常を検知した場合に、第1のバイパス切替信号を前記トリップ回路へ出力し
前記第2の入力装置は、前記第2の保護演算装置から前記ネットワーク中継装置を介して伝送される前記第2の遮断指令を前記トリップ回路へ出力するとともに、前記第2の保護演算装置および前記第2の入力装置を含む第2の系列の異常を検知した場合に、第2のバイパス切替信号を前記トリップ回路へ出力し
前記トリップ回路は、
第1の接点と第2の接点が直列に接続された直列回路と、前記第1のバイパス切替信号に応じて形成され前記第1の接点をバイパスする第1のバイパス回路と、前記第2のバイパス切替信号に応じて形成され前記第2の接点をバイパスする第2のバイパス回路と、を有し、
前記第1の遮断指令に応じて前記第1の接点がオンされるか、または前記第1のバイパス切替信号に応じて前記第1のバイパス回路が形成され、かつ、前記第2の遮断指令に応じて前記第2の接点がオンされるか、または前記第2のバイパス切替信号に応じて前記第2のバイパス回路が形成されることで、前記遮断器へ前記遮断信号を出力する、
保護リレーシステム。
【請求項2】
前記ネットワーク中継装置として、第1のネットワーク中継装置および第2のネットワーク中継装置を有し、
前記第1のネットワーク中継装置および前記第2のネットワーク中継装置は、前記第1および第2の入力装置と前記第1および第2の保護演算装置との間で、前記デジタル情報、前記第1の遮断指令および前記第2の遮断指令の中継をそれぞれ実施可能であり、
前記第1のネットワーク中継装置または前記第2のネットワーク中継装置のいずれかを用いて、前記デジタル情報、前記第1の遮断指令および前記第2の遮断指令の中継を行う、
請求項1に記載の保護リレーシステム。
【請求項3】
前記アナログ情報は、前記回線の状態における所定の主検出要素に関する第1の物理量を表す第1のアナログ情報と、前記第1の物理量とは異なる、前記回線の状態における所定の故障検出要素に関する第2の物理量を表す第2のアナログ情報と、を含み、
前記第1の入力装置および前記第2の入力装置は、前記第1のアナログ情報をデジタル情報に変換した第1のデジタル情報と、前記第2のアナログ情報をデジタル情報に変換した第2のデジタル情報とを、前記ネットワーク中継装置を介して、前記第1の保護演算装置または前記第2の保護演算装置へそれぞれ伝送し、
前記第1の保護演算装置は
前記第1の入力装置から伝送された前記第1のデジタル情報に基づいて前記リレー演算処理を実施する第1の主検出要素演算部と、
前記第1の入力装置から伝送された前記第2のデジタル情報に基づいて前記リレー演算処理を実施する第1の故障検出要素演算部と、
前記第1の主検出要素演算部による演算結果と前記第1の故障検出要素演算部による演算結果との論理積に基づいて前記第1の遮断指令を出力する第1の論理積演算部と、を有し
前記第2の保護演算装置は、
前記第2の入力装置から伝送された前記第1のデジタル情報に基づいて前記リレー演算処理を実施する第2の主検出要素演算部と、
前記第2の入力装置から伝送された前記第2のデジタル情報に基づいて前記リレー演算処理を実施する第2の故障検出要素演算部と、
前記第2の主検出要素演算部による演算結果と前記第2の故障検出要素演算部による演算結果との論理積に基づいて前記第2の遮断指令を出力する第2の論理積演算部と、を有する、
請求項1に記載の保護リレーシステム。
【請求項4】
前記トリップ回路は、
前記第1の接点と並列に接続される第3の接点と、
前記第2の接点と並列に接続される第4の接点と、
前記第3の接点と直列に接続される第5の接点と、
前記第4の接点と直列に接続される第6の接点と、を有し、
前記第1の入力装置から前記第1のバイパス切替信号が入力されることで前記第3の接点がオンされるとともに、前記第2の入力装置から前記第2のバイパス切替信号が入力されないことで前記第5の接点がオンされることにより、前記第1のバイパス回路が形成され、
前記第2の入力装置から前記第2のバイパス切替信号が入力されることで前記第4の接点がオンされるとともに、前記第1の入力装置から前記第1のバイパス切替信号が入力されないことで前記第6の接点がオンされることにより、前記第2のバイパス回路が形成される、
請求項1に記載の保護リレーシステム。
【請求項5】
記第1の入力装置は、前記第1の系列が異常であるときに前記第1のバイパス切替信号を前記トリップ回路に出力することで、前記第3の接点をオンさせて前記第1のバイパス回路を形成するとともに前記第6の接点をオフさせて前記第2のバイパス回路が形成されないようにし、
前記第2の入力装置は、前記第2の系列が異常であるときに前記第2のバイパス切替信号を前記トリップ回路に出力することで、前記第4の接点をオンさせて前記第2のバイパス回路を形成するとともに前記第5の接点をオフさせて前記第1のバイパス回路が形成されないようにする
請求項4に記載の保護リレーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護リレーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、変電所のスリム化、設備工事費の削減、人件費の削減等を目的に、変電所設備のデジタル化に関する検討が急速に進んでいる。例えば、変電所においてGIS(ガス絶縁開閉装置)等の現場機器と制御盤室内にある保護リレー装置との間を接続する制御ケーブルを、従来のようなアナログ伝送用のメタル線から光ケーブルに置き換えることにより、デジタル伝送を実現することが検討されている。
【0003】
上記のようにアナログ伝送からデジタル伝送を用いたシステムへと移行する場合、保護リレー装置は、その機能に応じて、現場機器からの情報を取得するための入力装置と、保護リレー装置の動作を決定するための演算処理を実行する保護演算装置とに、ハードウェアを分けて構成する必要が生じる。そのため、従来よりも保護リレー装置のハードウェア規模が増大して、保護リレー装置を含んだ保護リレーシステム全体での故障率が増加するという課題が生じる。
【0004】
低故障率で信頼性の高い保護リレーシステムを実現するためには、保護リレー装置の冗長化が有効である。例えば特許文献1には、主系および従系の保護継電器にメインリレー演算部とフェイルセーフ演算部をそれぞれ備え、主系のメインリレー演算部から出力される開放指令と従系のフェイルセーフリレー演算部から出力される開放指令との論理積と、主系のフェイルセーフリレー演算部から出力される開放指令と従系のメインリレー演算部から出力される開放指令との論理積との論理和を、電力系統を遮断する遮断器への開放指令として生成する保護継電システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-66267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の保護継電システムでは、主系と従系のそれぞれについて、メインリレー演算部からの開放指令とフェイルセーフリレー演算部からの開放指令に応じてそれぞれ動作するトリップリレーが必要である。またこれ以外にも、開放指令の誤出力による遮断器のミストリップを防止するため、トリップリレー間の接続切替用のリレーやトリップロック用のリレーが必要になる。そのため、多数のリレーを搭載する必要があり、システム全体でのコストが増大するとともに、誤不動作率の上昇によってシステム全体での信頼性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による保護リレーシステムは、電力系統の回線を遮断する遮断器を制御して前記回線を保護するものであって、前記回線の状態に関するアナログ情報をそれぞれ取得し、取得した前記アナログ情報をデジタル情報にそれぞれ変換する第1および第2の入力装置と、前記デジタル情報に基づいて前記回線を保護するための所定のリレー演算処理をそれぞれ実施し、前記遮断器に対する第1の遮断指令と第2の遮断指令をそれぞれ出力する第1および第2の保護演算装置と、前記第1の入力装置と前記第1の保護演算装置との間で入出力される前記デジタル情報および前記第1の遮断指令と、前記第2の入力装置と前記第2の保護演算装置との間で入出力される前記デジタル情報および前記第2の遮断指令と、の中継を行うネットワーク中継装置と、前記第1の遮断指令および前記第2の遮断指令が入力され、前記遮断器に前記回線を遮断させるための遮断信号を出力するトリップ回路と、を備え、前記第1の入力装置は、前記第1の保護演算装置から前記ネットワーク中継装置を介して伝送される前記第1の遮断指令を前記トリップ回路へ出力するとともに、前記第1の保護演算装置および前記第1の入力装置を含む第1の系列の異常を検知した場合に、第1のバイパス切替信号を前記トリップ回路へ出力し、前記第2の入力装置は、前記第2の保護演算装置から前記ネットワーク中継装置を介して伝送される前記第2の遮断指令を前記トリップ回路へ出力するとともに、前記第2の保護演算装置および前記第2の入力装置を含む第2の系列の異常を検知した場合に、第2のバイパス切替信号を前記トリップ回路へ出力し、前記トリップ回路は、第1の接点と第2の接点が直列に接続された直列回路と、前記第1のバイパス切替信号に応じて形成され前記第1の接点をバイパスする第1のバイパス回路と、前記第2のバイパス切替信号に応じて形成され前記第2の接点をバイパスする第2のバイパス回路と、を有し、前記第1の遮断指令に応じて前記第1の接点がオンされるか、または前記第1のバイパス切替信号に応じて前記第1のバイパス回路が形成され、かつ、前記第2の遮断指令に応じて前記第2の接点がオンされるか、または前記第2のバイパス切替信号に応じて前記第2のバイパス回路が形成されることで、前記遮断器へ前記遮断信号を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コストの上昇を抑えつつ信頼性が高い保護リレーシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る保護リレーシステムの概略構成図の一例である。
図2】トリップ回路の概略構成図の一例である。
図3】リレー演算部の機能構成図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る保護リレーシステムの概略構成図の一例である。図1に示す保護リレーシステム100は、現場操作盤2から電力系統の回線1の状態に関する各種情報を制御ケーブル31,32,33を介して取得し、これらの情報に基づいて現場操作盤2に設けられた遮断器21,22を制御することで、異常電圧や異常電流から回線1を保護する。保護リレーシステム100は、保護演算装置5a,5bと、入力装置6a,6bと、ネットワーク中継装置120,121と、トリップ回路200と、を備えて構成されている。
【0011】
現場操作盤2において、電力系統の回線1は、リレーを介して一対の母線(甲母線および乙母線)に接続されている。遮断器21,22は、保護リレーシステム100から出力される遮断信号に応じてそれぞれ動作し、これらの母線から回線1を電気的に切り離す。遮断器21,22は直列に接続されており、いずれか一方が故障等によって動作しない場合でも、他方が動作することで回線1を保護できるようになっている。
【0012】
現場操作盤2は、回線1の電圧を検出して得られた電圧情報を、制御ケーブル31を介して入力装置6a,6bへ伝送する。また、回線1の電流を検出して得られた電流情報を、制御ケーブル32を介して入力装置6a,6bへ伝送する。さらに、遮断器21,22のON/OFF状態を示す遮断器情報(30S情報)と、遮断器21,22や現場操作盤2自身の故障状態を示す故障情報(30F情報)とを、制御ケーブル33を介して入力装置6a,6bへ伝送する。これらの情報は、いずれもアナログ情報であり、アナログ伝送路である制御ケーブル31~33を介して入力装置6a,6bへ伝送される。
【0013】
保護演算装置5aおよび入力装置6aは、遮断器21,22の制御に関する演算処理を協働して行う部分であり、保護リレーシステム100が有する2つの処理系列の一方である第1系列500aを構成する。同様に、保護演算装置5bおよび入力装置6bは、遮断器21,22の制御に関する演算処理を協働して行う部分であり、保護リレーシステム100が有する2つの処理系列の他方である第2系列500bを構成する。すなわち、保護リレーシステム100は、第1系列500aおよび第2系列500bの2つの処理系列を有することにより、演算処理の冗長性を確保している。
【0014】
保護演算装置5aと入力装置6aは、ネットワーク中継装置120,121を介して互いに接続されている。同様に、保護演算装置5bと入力装置6bは、ネットワーク中継装置120,121を介して互いに接続されている。ネットワーク中継装置120,121を介したこれらの接続は、光ケーブル等によるデジタル伝送路を用いて行われている。
【0015】
入力装置6a,6bは、入力演算部60a,60bをそれぞれ有しており、この入力演算部60a,60bを用いて、制御ケーブル31~33を介して現場操作盤2から取得した各アナログ情報、すなわち前述の電圧情報、電流情報、遮断器情報および故障情報をデジタル情報にそれぞれ変換する。入力装置6aによってアナログ情報からデジタル情報に変換されたこれらの各情報は、ネットワーク中継装置120または121を介して、入力装置6aから保護演算装置5aへ伝送される。同様に、入力装置6bによってアナログ情報からデジタル情報に変換された各情報は、ネットワーク中継装置120または121を介して、入力装置6bから保護演算装置5bへ伝送される。
【0016】
保護演算装置5a,5bは、リレー演算部50a,50bをそれぞれ有しており、このリレー演算部50a,50bにより、入力装置6a,6bから伝送された各デジタル情報に基づいて所定のリレー演算処理をそれぞれ実施する。リレー演算部50a,50bが実施するリレー演算処理とは、各デジタル情報が所定の遮断条件を満たすか否かを判断し、遮断条件を満たすと判断した場合は、遮断器21,22を開放状態として回線1を母線から切り離すことで、回線1を保護するように遮断器21,22の制御を行うための処理である。
【0017】
保護演算装置5a,5bは、リレー演算部50a,50bの処理結果に基づいて、遮断器21,22に対する遮断指令をそれぞれ出力する。保護演算装置5aが出力した遮断指令7aは、ネットワーク中継装置120または121を介して入力装置6aへ伝送される。同様に、保護演算装置5bが出力した遮断指令7bは、ネットワーク中継装置120または121を介して入力装置6bへ伝送される。
【0018】
入力装置6aは、保護演算装置5aからネットワーク中継装置120または121を介して出力された遮断指令7aをトリップ回路200へ出力する。また、入力装置6aは、第1系列500aにおいて異常や故障が発生した場合にはこれを検知し、バイパス切替指令8aをトリップ回路200へ出力する。入力装置6aは、保護演算装置5aや入力装置6a自身の動作異常を検知できる機能を有しており、この機能を用いてバイパス切替指令8aを出力することができる。なお、入力装置6aの当該機能は、任意の周知技術を利用して実現可能であり、その詳細については説明を省略する。
【0019】
入力装置6bは、保護演算装置5bからネットワーク中継装置120または121を介して出力された遮断指令7bをトリップ回路200へ出力する。また、入力装置6bは、第2系列500bにおいて異常や故障が発生した場合にはこれを検知し、バイパス切替指令8bをトリップ回路200へ出力する。入力装置6bも入力装置6aと同様に、保護演算装置5bや入力装置6b自身の動作異常を検知できる機能を有しており、この機能を用いてバイパス切替指令8bを出力することができる。
【0020】
ネットワーク中継装置120,121は、入力装置6aと保護演算装置5aとの間で入出力されるデジタル情報および遮断指令7aと、入力装置6bと保護演算装置5bとの間で入出力されるデジタル情報および遮断指令7bと、の中継をそれぞれ行う。ここで、ネットワーク中継装置120とネットワーク中継装置121とは、入力装置6a,6bと保護演算装置5a,5bとの間で、互いに異なる伝送路を経由してデジタル情報および遮断指令7a,7bの中継をそれぞれ実施可能である。そのため、保護リレーシステム100では、ネットワーク中継装置120または121のいずれかを用いて、デジタル情報および遮断指令7a,7bの中継を行うことができる。すなわち、保護リレーシステム100は、互いに異なる伝送路を介して共通の中継機能を実現するネットワーク中継装置120,121を有することにより、デジタル伝送路の冗長性を確保している。
【0021】
トリップ回路200には、入力装置6a,6bからそれぞれ出力された遮断指令7a,7bおよびバイパス切替指令8a,8bが入力される。トリップ回路200は、入力されたこれらの指令に基づいて、遮断器21,22に回線1を遮断させるための遮断信号を生成して現場操作盤2へ出力する。なお、トリップ回路200の詳細については後述する。
【0022】
トリップ回路200から遮断信号が出力されると、現場操作盤2は遮断器21,22をONからOFFに切り替えて回線1を遮断する。これにより、回線1の保護が行われる。
【0023】
次に、トリップ回路200の詳細について図2を用いて説明する。図2は、トリップ回路200の概略構成図の一例である。
【0024】
トリップ回路200は、接点210と接点211が直列に接続された直列回路と、接点210とそれぞれ並列に接続され、互いに直列に接続された接点220および230と、接点211とそれぞれ並列に接続され、互いに直列に接続された接点221および231とを有する。これらの接点は、例えばロジックICやPLD(Programmable Logic Device)等を用いて実現することができる。
【0025】
接点210は、第1系列500aの入力装置6aから出力される遮断指令7aに応じてONされる。接点211は、第2系列500bの入力装置6bから出力される遮断指令7bに応じてONされる。接点210と接点211の直列回路の一端側は、所定の電圧を出力する電源と接続されている。これにより、第1系列500aと第2系列500bが両方とも正常な場合には、これらが遮断指令7aと遮断指令7bをそれぞれ出力することで、これらの遮断指令の論理積(AND)として、トリップ回路200から遮断器21,22へ所定の電圧による遮断信号が出力される。
【0026】
接点220および接点231は、第1系列500aの入力装置6aによってそれぞれ制御され、接点221および接点230は、第2系列500bの入力装置6bによってそれぞれ制御される。接点220は、入力装置6aから出力されるバイパス切替指令8aに応じてONされ、接点231は、入力装置6aから出力されるバイパス切替指令8aに応じてOFFされる。接点221は、入力装置6bから出力されるバイパス切替指令8bに応じてONされ、接点230は、入力装置6bから出力されるバイパス切替指令8bに応じてOFFされる。
【0027】
第1系列500aの異常時には、バイパス切替指令8aが出力されることで接点220がONされる。このとき、第2系列500bが正常であれば、バイパス切替指令8bは出力されない。その結果、接点210に並列接続されている接点220および接点230がいずれもONになり、接点210のバイパス回路が形成される。一方、接点211に並列接続されている接点221および接点231は、いずれもOFFであるため、接点211のバイパス回路は形成されない。その結果、異常が発生した第1系列500aによる遮断指令7aを遮断信号の出力条件から除外し、正常な第2系列500bによる遮断指令7bのみを用いて、トリップ回路200から遮断器21,22へ遮断信号を出力することができる。したがって、第1系列500aの異常発生時においても、回線1を適切に保護することが可能となる。
【0028】
なお、第1系列500aの異常発生時において、接点231は、正常な第2系列500bに対応する接点211のバイパス回路をバイパス切替指令8aの出力に応じてロックするロック機構として作用する。これにより、誤って接点221がONになっても、接点211のバイパス回路が形成されないようにすることができる。
【0029】
また、第2系列500bの異常時には、バイパス切替指令8bが出力されることで接点221がONされる。このとき、第1系列500aが正常であれば、バイパス切替指令8aは出力されない。その結果、接点211に並列接続されている接点221および接点231がいずれもONになり、接点211のバイパス回路が形成される。一方、接点210に並列接続されている接点220および接点230は、いずれもOFFであるため、接点210のバイパス回路は形成されない。その結果、異常が発生した第2系列500bによる遮断指令7bを遮断信号の出力条件から除外し、正常な第1系列500aによる遮断指令7aのみを用いて、トリップ回路200から遮断器21,22へ遮断信号を出力することができる。したがって、第2系列500bの異常発生時においても、回線1を適切に保護することが可能となる。
【0030】
なお、第2系列500bの異常発生時において、接点230は、正常な第1系列500aに対応する接点210のバイパス回路をバイパス切替指令8bの出力に応じてロックするロック機構として作用する。これにより、誤って接点220がONになっても、接点210のバイパス回路が形成されないようにすることができる。
【0031】
さらに、第1系列500aおよび第2系列500b両方の異常時には、バイパス切替指令8a,8bが出力されることで接点230,231がOFFされる。その結果、接点210と接点211の両方についてバイパス回路がロックされるため、トリップ回路200において、接点210または接点211が誤動作によりONした場合でも、遮断信号が誤って出力されることがない。したがって、遮断器21,22のミストリップ等の不要動作を防止することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の保護リレーシステム100では、デジタル伝送路による通信範囲を第1系列500aと第2系列500bとで分離している。すなわち、第1系列500aでは、入力装置6aが現場操作盤2から取得した各情報は保護演算装置5aでのみ受信され、保護演算装置5aからの遮断指令は入力装置6aでのみ受信される。一方、第2系列500bでは、入力装置6bが現場操作盤2から取得した各情報は保護演算装置5bでのみ受信され、保護演算装置5bからの遮断指令は入力装置6bでのみ受信される。このような構成とすることで、各々の系列に属する装置の故障が生じた場合でも、正常な系列に影響を与えることなく、遮断器21,22のミストリップを防止できるようにしている。また、正常な系列により回線1の保護を継続することも可能である。
【0033】
なお、本実施形態の保護リレーシステム100において、保護演算装置5a,5bと入力装置6a,6bとの通信には、例えばPRP(Parallel Redundancy Protocol)やHSR(High-availability Seamless Redundancy)等の通信プロトコルを用いることができる。そのため、ネットワーク中継装置120または121の一方や、これらが接続されている伝送路の一方において異常が生じた場合には、他方のネットワーク中継装置や伝送路を用いて、保護演算装置5a,5bと入力装置6a,6bとの間でそれぞれ通信を行うことが可能である。したがって、トリップ回路200の接点220や接点221によるバイパス機能を使用しなくても、回線1の保護をシームレスに継続することができる。また、保護演算装置5a,5bと入力装置6a,6bとの通信には、例えばVLAN(Virtual Local Area Network)を用いてそれぞれの伝送路を区切ることにより、互いの干渉を防止することが可能となる。
【0034】
次に、保護演算装置5a,5bにおいてリレー演算部50a,50bがそれぞれ実行するリレー演算処理について図3を用いて説明する。図3は、リレー演算部50a,50bの機能構成図の一例である。なお、リレー演算部50aとリレー演算部50bとは共通の機能構成を有しており、図3ではこの共通の機能構成を示している。
【0035】
リレー演算部50a,50bは、主検出要素(M要素)に基づくリレー演算処理を実施する主検出要素演算部51と、故障検出要素(FD要素)に基づくリレー演算処理を実施する故障検出要素演算部52と、これらの演算結果の論理積(AND)を演算する論理積演算部53と、をそれぞれ備えて構成されている。リレー演算部50a,50bは、例えば所定のプログラムをマイクロコンピュータにおいて実行することで、これらの演算部をソフトウェアとして実現することができる。あるいは、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて各演算部を実現してもよい。
【0036】
主検出要素演算部51は、入力装置6a,6bから伝送された各種情報のうち所定の主検出要素に関する情報(M要素情報)に基づいて、所定の遮断条件を満たすか否かを判断するためのリレー演算処理を実施する。故障検出要素演算部52は、入力装置6a,6bから伝送された各種情報のうち上記主検出要素とは異なる所定の故障検出要素に関する情報(FD要素情報)に基づいて、所定の遮断条件を満たすか否かを判断するためのリレー演算処理を実施する。具体的には、例えば主検出要素演算部51は、電流を主検出要素として、入力装置6a,6bから送信された電流情報に基づくリレー演算処理を行う。一方、故障検出要素演算部52は、電圧を故障検出要素として、入力装置6a,6bから送信された電圧情報に基づくリレー演算処理を行う。そして、論理積演算部53により、これらの演算結果の論理積を遮断指令7a,7bとして出力する。これにより、変流器(CT)や計器用変圧器(VT)等の現場機器が故障した場合においても、遮断器21,22のミストリップを防止できるようにしている。なお、主検出要素と故障検出要素は上記のものに限らず、任意の組み合わせとすることが可能である。
【0037】
以上説明した保護リレーシステム100のように、デジタル伝送方式の保護リレーシステムでは、遮断器の制御に関する演算処理を保護演算装置と入力装置とに機能分割することで、システム全体での故障率が増加するという課題(以下、課題1と称する)がある。本実施形態の保護リレーシステム100では、第1系列500aおよび第2系列500bの2つの処理系列を用いた冗長化により、課題1を解決している。
【0038】
また、上記のような処理系列の冗長化により、一方の処理系列が異常である場合に遮断器21,22のミストリップの可能性が生じるという課題(以下、課題2と称する)がある。本実施形態の保護リレーシステム100では、デジタル伝送路による通信範囲を第1系列500aと第2系列500bとで分離し、これらの処理系列からそれぞれ出力される遮断指令の論理積を、トリップ回路200から遮断器21,22への遮断信号として出力することで、課題2を解決している。
【0039】
さらに、上記のように2つの処理系列からそれぞれ出力される遮断処理の論理積を遮断器21,22への遮断信号として出力しても、変流器(CT)や計器用変圧器(VT)等の現場機器が故障した場合には、遮断器21,22のミストリップの可能性が生じるという課題(以下、課題3と称する)がある。本実施形態の保護リレーシステム100では、リレー演算部50a,50bのそれぞれにおいて、主検出要素演算部51と故障検出要素演算部52が互いに異なる情報を用いてリレー演算処理を実施するとともに、これらの論理積を論理積演算部53で演算し、遮断指令7a,7bとして出力することで、課題3を解決している。
【0040】
加えて、前述の特許文献1のような構成では、多数のリレーを搭載する必要があり、システム全体でのコストが増大するとともに、誤不動作率の上昇によってシステム全体での信頼性が低下するという課題(以下、課題4と称する)がある。本実施形態の保護リレーシステム100では、図2で示したようなトリップ回路200の構成とすることで、課題4を解決している。
【0041】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0042】
(1)保護リレーシステム100は、電力系統の回線1を遮断する遮断器21,22を制御して回線1を保護するものである。保護リレーシステム100は、回線1の状態に関するアナログ情報をそれぞれ取得し、取得したアナログ情報をデジタル情報にそれぞれ変換する入力装置6a,6bと、このデジタル情報に基づいて回線1を保護するための所定のリレー演算処理をそれぞれ実施し、遮断器21,22に対する遮断指令7a,7bをそれぞれ出力する保護演算装置5a,5bと、ネットワーク中継装置120,121と、トリップ回路200とを備える。ネットワーク中継装置120,121は、入力装置6aと保護演算装置5aとの間で入出力されるデジタル情報および遮断指令7aと、入力装置6bと保護演算装置5bとの間で入出力されるデジタル情報および遮断指令7bと、の中継を行う。トリップ回路200は、遮断指令7a,7bが入力され、遮断器21,22に回線1を遮断させるための遮断信号を出力する。この保護リレーシステム100において、入力装置6aは、保護演算装置5aからネットワーク中継装置120または121を介して出力された遮断指令7aをトリップ回路200へ出力し、入力装置6bは、保護演算装置5bからネットワーク中継装置120または121を介して出力された遮断指令7bをトリップ回路200へ出力する。トリップ回路200は、接点210と接点211が直列に接続された直列回路を有し、遮断指令7aに応じて接点210がオンされるとともに、遮断指令7bに応じて接点211がオンされることで、遮断器21,22へ遮断信号を出力する。このようにしたので、コストの上昇を抑えつつ信頼性が高い保護リレーシステム100を提供することができる。
【0043】
(2)保護リレーシステム100は、入力装置6a,6bと保護演算装置5a,5bとの間で、デジタル情報および遮断指令7a,7bの中継をそれぞれ実施可能な2つのネットワーク中継装置120,121を有しており、ネットワーク中継装置120または121のいずれかを用いて、デジタル情報および遮断指令7a,7bの中継を行う。このようにしたので、デジタル伝送路の冗長性を確保して、システム全体での可用性を確保することができる。
【0044】
(3)保護演算装置5a,5bは、リレー演算部50a,50bにおいて、入力装置6a,6bからのデジタル情報のうち所定の主検出要素に関する情報に基づいてリレー演算処理を実施する主検出要素演算部51と、入力装置6a,6bからのデジタル情報のうち所定の故障検出要素に基づいてリレー演算処理を実施する故障検出要素演算部52と、主検出要素演算部51による演算結果と故障検出要素演算部52による演算結果との論理積に基づいて遮断指令7aまたは7bを出力する論理積演算部53と、をそれぞれ有する。このようにしたので、変流器(CT)や計器用変圧器(VT)等の現場機器が故障した場合においても、遮断器21,22のミストリップを防止することができる。
【0045】
(4)トリップ回路200は、接点210と並列に接続される接点220と、接点211と並列に接続される接点221と、接点220と直列に接続される接点230と、接点221と直列に接続される接点231と、を有する。接点220および接点231は、入力装置6aによってそれぞれ制御され、接点221および接点230は、入力装置6bによってそれぞれ制御される。具体的には、保護リレーシステム100は、入力装置6aおよび保護演算装置5aを含む第1系列500aと、入力装置6bおよび保護演算装置5bを含む第2系列500bとを有している。そして、入力装置6aは、第1系列500aが異常であるときに、バイパス切替指令8aを出力することで接点220をオンさせるとともに接点231をオフさせ、入力装置6bは、第2系列500bが異常であるときに、バイパス切替指令8bを出力することで接点221をオンさせるとともに接点230をオフさせる。このようにしたので、第1系列500aや第2系列500bにおいて異常が発生した場合でも回線1を適切に保護可能なトリップ回路200を、必要最小限のハードウェアにより低コストで実現することができる。
【0046】
なお、本発明は、上記した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の実施態様も、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1:電力系統の回線
2:現場操作盤
5a,5b:保護演算装置
6a,6b:入力装置
7a,7b:遮断指令
8a,8b:バイパス切替指令
21,22:遮断器
31,32,33:制御ケーブル
50a,50b:リレー演算部
51:主検出要素演算部51
52:故障検出要素演算部
53:論理積演算部
60a,60b:入力演算部
120,121:ネットワーク中継装置
200:トリップ回路
210,211,220,221,230,231:接点
500a:第1系列
500b:第2系列
図1
図2
図3