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  • 特許-荷電粒子線治療装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】荷電粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020195050
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083625
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽太
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02186542(EP,A1)
【文献】特表2015-519933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線治療装置であって、
前記荷電粒子線を照射する照射部と、
前記照射部を回転可能に支持する回転ガントリと、
前記被照射体と前記荷電粒子線との相対的な位置関係を調整可能な調整部と、
前記回転ガントリの回転角度に応じて設定された補正量に基づいて前記調整部の位置の補正を行う補正部と、を備え、
前記補正部は、予め取得された測定結果に基づいて作成されたデータベースと、前記回転角度とを照会することで取得された前記補正量を用いて、前記調整部の補正を行い、
前記測定結果は、ある回転角度における、設計上のアイソセンターに対する、実際に測定したアイソセンターの位置のずれ量である、荷電粒子線治療装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記荷電粒子線のアイソセンターの位置ずれを補正可能な機構によって構成される、請求項1に記載の荷電粒子線治療装置。
【請求項3】
前記回転ガントリは、片持ち構造である、請求項1又は2に記載の荷電粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の患部に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線治療装置として、例えば、特許文献1に記載された装置が知られている。特許文献1に記載の荷電粒子線照射装置では、荷電粒子線を照射部から照射し、治療台上の患者の患部の治療を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-209372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、被照射体に対して荷電粒子線を精度良く照射すると、治療の品質が向上する。従って、被照射体に対する荷電粒子線の照射精度を向上させることが求められている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、被照射体に対する荷電粒子線の照射精度を向上させることができる荷電粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の荷電粒子線治療装置は、被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線治療装置であって、荷電粒子線を照射する照射部と、照射部を回転可能に支持する回転ガントリと、被照射体と荷電粒子線との相対的な位置関係を調整可能な調整部と、回転ガントリの回転角度に応じて設定された補正量を取得し、当該補正量によって調整部の位置の補正を行う補正部と、を備える。
【0007】
本発明の荷電粒子線治療装置は、照射部を回転可能に支持する回転ガントリを有している。従って、照射部は、回転ガントリの回転角度に応じた角度から荷電粒子線を被照射体へ照射する。ここで、回転ガントリ及び照射部は、たわむ場合がある。このようなたわみが発生すると、実際の荷電粒子線のアイソセンターが設計上の位置からずれる場合がある。この場合、荷電粒子線のアイソセンターと被照射体との位置関係が設計上のものからずれる。これに対し、荷電粒子線治療装置は、被照射体と荷電粒子線との相対的な位置関係を調整可能な調整部と、回転ガントリの回転角度に応じて設定された補正量を取得し、当該補正量によって調整部の位置の補正を行う補正部と、を備える。従って、補正部が、回転角度に応じた補正量で調整部の位置を補正することで、荷電粒子線のアイソセンターと被照射体との位置関係のずれを抑制することができる。以上により、被照射体に対する荷電粒子線の照射精度を向上させることができる。
【0008】
調整部は、荷電粒子線のアイソセンターの位置ずれを補正可能な機構によって構成されてよい。これにより、補正部が調整部の位置の補正を行うことで、荷電粒子線のアイソセンターの位置ずれを補正することができる。
【0009】
補正部は、予め取得された測定結果に基づく補正量によって、補正を行ってよい。これにより、実際の測定結果に基づいて、適切な補正量を設定することが可能となる。
【0010】
回転ガントリは、片持ち構造であってよい。この場合、回転ガントリのたわみが大きくなり、荷電粒子線のアイソセンターのずれ量が大きくなるため、補正部による補正の効果がより顕著となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被照射体に対する荷電粒子線の照射精度を向上させることができる荷電粒子線治療装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置を示す概略構成図である。
図2図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。
図3図3(a)は、回転ガントリの概略側面図であり、図3(b)は、回転ガントリの概略正面図である。
図4】照射部付近における構成を示す斜視図である。
図5】アイソセンターのずれ量を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置1を示す概略構成図である。荷電粒子線治療装置1は、放射線療法によるがん治療等に利用される装置である。荷電粒子線治療装置1は、イオン源装置で生成した荷電粒子を加速して荷電粒子線として出射する加速器3と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部2と、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送するビーム輸送ライン21と、を備えている。
【0015】
照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りに回転可能とされている。ビーム輸送ライン21は、回転ガントリ5の後端側から、回転ガントリ5内に進入する。そして、ビーム輸送ライン21は、偏向電磁石22で外周側に荷電粒子線の軌道を変更した後、偏向電磁石23で荷電粒子線の軌道を大きく曲げて、外周側から照射部2に進入する。
【0016】
図2は、図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。なお、以下の説明においては、「X軸方向」、「Y軸方向」、「Z軸方向」という語を用いて説明する。「Z軸方向」とは、照射部2の基軸AXに沿った方向であり、荷電粒子線Bの照射の深さ方向である。なお、「基軸AX」の詳細については後述する。図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内における一の方向である。「Y軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内においてX軸方向と直交する方向である。
【0017】
まず、図2を参照して、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の概略構成について説明する。図2に示されている荷電粒子線治療装置1はスキャニング法に係る照射装置である。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。また、荷電粒子線治療装置1は、スキャニング法に係る照射装置に限定されず、ワブラー法、積層原体法などの各種照射方法に係る照射装置を採用可能である。図2に示されるように、荷電粒子線治療装置1は、加速器3と、照射部2と、ビーム輸送ライン21と、制御部7と、を備えている。
【0018】
加速器3は、荷電粒子を加速して予め設定されたエネルギーの荷電粒子線Bを出射する装置である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。ビーム輸送ライン21は、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送する。
【0019】
照射部2は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。具体的に、照射部2は、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射されてビーム輸送ライン21で輸送された荷電粒子線Bを腫瘍14へ照射する装置である。照射部2は、走査電磁石6、ドーズモニタ12、ポジションモニタ13a,13b、コリメータ40、及びディグレーダ30を備えている。走査電磁石6、各モニタ12,13a,13b、及びディグレーダ30は、収容体としての照射ノズル9に収容されている。このように、照射ノズル9に各主構成要素を収容することによって照射部2が構成されている。なお、上述の要素に加えて、走査電磁石6の上流側に四極電磁石及びプロファイルモニタを設けてよい。また、ドーズモニタ12、ポジションモニタ13a,13b、及びディグレーダ30は省略してもよい。走査電磁石6は、X軸方向走査電磁石6a及びY軸方向走査電磁石6bを含む。走査電磁石6は、治療計画装置100で予め計画された走査経路で荷電粒子線Bが照射されるように、荷電粒子線Bを走査する。
【0020】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、各モニタ12,13a,13bから出力された検出結果に基づいて、加速器3、走査電磁石6、及びコリメータ駆動部41を制御する。更に、制御部7は、回転ガントリ5及び治療台4も制御することができる(図3参照)。制御部7は、複数台の演算装置の組み合わせによって構成されてよい。
【0021】
また、荷電粒子線治療装置1の制御部7は、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画装置100と接続されている。治療計画装置100は、治療前に患者15の腫瘍14をCT等で測定し、腫瘍14の各位置における線量分布(照射すべき荷電粒子線の線量分布)を計画する。具体的には、治療計画装置100は、腫瘍14に対して治療計画マップを作成する。治療計画装置100は、作成した治療計画マップを制御部7へ送信する。治療計画装置100が作成した治療計画マップでは、荷電粒子線Bがどのようなスキャニングの走査経路を描くかが計画されている。
【0022】
次に、図3及び図4を参照して、荷電粒子線治療装置1の構成について更に詳細に説明する。図3(a)は、回転ガントリ5の概略側面図であり、図3(b)は、回転ガントリ5の概略正面図である。図4は、照射部2付近における構成を示す斜視図である。なお、図3に示す荷電粒子線治療装置1の各構成要素の位置関係は、各構成要素にたわみなどが発生していない、理想的な状態であるものとする。すなわち、図3は、各構成要素の設計上の位置関係を示している。
【0023】
図3(a)に示すように、回転ガントリ5は、図示されていないモーターによって回転駆動され、図示されていないブレーキ装置によって回転が停止される。なお、以下の説明において、正面とは、治療台4(図4参照)が設置されて患者の出入りが可能になるように回転ガントリ5が開放されている側の側面を意味し、背面とは、その裏側の側面を意味する。
【0024】
回転ガントリ5は、回転自在とされ、正面側から順に、第1円筒部34、コーン部35、第2円筒部36を備える。第1円筒部34、コーン部35、及び第2円筒部36は、中心線CLに対して同軸に配置され互いに固定されている。照射部2は、第1円筒部34の内面に配置され、第1円筒部34の軸心方向に向けられている。第2円筒部36は、第1円筒部34より小径とされ、コーン部35は、第1円筒部34及び第2円筒部36を連結するように円錐状に形成されている。照射部2が設けられた第1円筒部34は、背面側においてコーン部35及び第2円筒部36を介して図示されない支持機構で支持されている。一方、第1円筒部34の正面側は、開口しており、荷重を支持する支持機構が設けられていない。従って、回転ガントリ5は、背面側だけで支持された片持ち構造となっている。
【0025】
設計上の位置関係においては、荷電粒子線の基軸AXは、中心線CLと交差する。荷電粒子線の基軸AXは、照射部2がどの角度から荷電粒子線を照射する場合であっても、中心線CLと交差する(図3(b))。なお、基軸AXは、照射部2が荷電粒子線の照射を行うときの基準となる仮想的な基準線である。治療計画装置100が治療計画を行うときにスキャニングのパターンを作成する際にも、基軸AXを基準として治療計画を行う。スキャニングパターンにおける層を設定する場合、各層は、基軸AXと垂直な面となる。また、X軸方向への移動量、及びY軸方向への移動量を設定する際も、基軸AXの位置を基準にする。アイソセンターACは、荷電粒子線が最も集中して照射される部位である。設計上の位置関係においては、荷電粒子線の基軸AXと中心線CLの交点にアイソセンターACが配置される。
【0026】
図4に示すように、治療台4は、載置部4aと、支持機構4bと、を備える。載置部4aは、患者15を載置する板状の部材によって構成される。支持機構4bは、載置部4aを移動可能に支持する機構である。支持機構4bは、載置部4aを前後、左右、及び上下に移動させることができる。治療台4は、患者15と荷電粒子線との相対的な位置関係を調整可能な調整部として機能する。
【0027】
制御部7は、回転ガントリ5を制御する制御装置51と、治療台4を制御する制御装置52と、制御装置51,52を操作するコントローラ53と、各種情報を記憶する記憶部54と、を備える。コントローラ53は、治療計画装置100で作成された治療計画マップに従った治療がなされるように、制御装置51及び制御装置52に対して設定値に基づく制御信号を出力する。これにより、制御装置51は、回転ガントリ5を回転制御することで、照射部2を治療計画で定められた角度に配置する。また、制御装置52は、治療台4を駆動制御することで、載置部4aを治療計画で定められた位置に配置する。
【0028】
ここで、荷電粒子線治療装置1の各構成要素は何れも重量が重い部材であるため、たわみなどが発生する場合がある。この場合、アイソセンターACの位置が、設計上の位置からずれる。治療計画装置100は、設計上(理想上)のアイソセンター位置を基準として、治療台4の載置部4aの位置を設定する。従って、アイソセンターACの位置が設計上の位置からずれると、治療台4の載置部4aと実際のアイソセンターACとの位置関係がずれてしまう。
【0029】
具体的に、図5(a)の左側の図では、照射部2が真上に配置されているとき(回転角度=0°)の設計上のアイソセンターACXを示しているところ、右側の図では、実際のアイソセンターACの位置を示している。図5(a)の右側の図に示すように、照射部2の重みで回転ガントリ5が下側へたわむことで、実際のアイソセンターACが、設計上のアイソセンターACXの位置よりも下側へずれ量SL1だけずれる。図5(b)の左側の図では、照射部2が斜めに配置されているとき(回転角度=315°)の設計上のアイソセンターACXを示しているところ、右側の図では、実際のアイソセンターACの位置を示している。図5(b)の右側の図に示すように、回転ガントリ5のたわみと照射部2自体のたわみにより、実際のアイソセンターACが、設計上のアイソセンターACXの位置よりも斜め下側へずれ量SL2だけずれる。なお、以降の説明においては、「アイソセンターACの位置ずれ」と称した場合は、設計上のアイソセンターACXに対して実際のアイソセンターACの位置がずれていることを意味するものとする。また、設計上のアイソセンターACXに対する実際のアイソセンターACのずれの大きさを単に「ずれ量」と称する場合がある。
【0030】
上述のようなアイソセンターACの位置ずれに対して、コントローラ53は、回転ガントリ5の回転角度に応じて設定された補正量を取得し、当該補正量によって治療台4の載置部4aの位置の補正を行う補正部として機能する。このとき、治療台4は、荷電粒子線のアイソセンターACの位置ずれを補正可能な機構として機能する。
【0031】
コントローラ53は、制御装置51から回転角度の情報を取得する。そして、コントローラ53は、記憶部54から回転角度ごとの補正量のデータベースを読み出すと共に、取得した回転角度と当該データベースとを照会する。これにより、コントローラ53は、回転ガントリ5の回転角度に応じた補正量を取得する。従って、コントローラ53は、取得した補正量を制御装置52へ出力する。これによって、制御装置52は、治療計画マップに基づく設定値に加えて、補正量の分だけ治療台4の載置部4aを移動させる。
【0032】
具体的に、図5(a)の右側の図に示すように、アイソセンターACが下側へずれ量SL1だけずれるのに伴い、治療台4の載置部4aは、設計上の位置から下側へ補正量AL1だけ移動する。これにより、実際のアイソセンターACと治療台4の載置部4aとの相対的な位置関係は、図5(a)の左側の図に示す設計上のアイソセンターACXと治療台4の載置部4aとの相対的な位置関係と等しくなる。また、図5(b)の右側の図に示すように、アイソセンターACが斜め下側へずれ量SL2だけずれるのに伴い、治療台4の載置部4aは、設計上の位置から斜め下側へ補正量AL2だけ移動する。これにより、実際のアイソセンターACと治療台4の載置部4aとの相対的な位置関係は、図5(b)の左側の図に示す設計上のアイソセンターACXと治療台4の載置部4aとの相対的な位置関係と等しくなる。
【0033】
ここで、記憶部54に記憶されている回転角度ごとの補正量のデータベースは、予め取得された測定結果に基づいて作成される。補正量は、ある回転角度におけるアイソセンターACのずれ量を測定し、当該測定結果に基づいて設定される。このような補正量を各回転角度に対して測定及び設定する。これにより、回転角度ごとの補正量のデータベースが作成され、記憶部54に格納される。従って、コントローラ53は、予め取得された測定結果に基づく補正量によって、補正を行うことができる。なお、荷電粒子線治療装置1の各構成要素は、長時間の使用によってたわみ量などが変化してゆく場合がある。これにより、使用年数を経ることで、アイソセンターACのずれ量も変化する場合がある。従って、荷電粒子線治療装置1の定期検査などのタイミングで、ずれ量の測定を再度行うことで、補正量を更新してもよい。
【0034】
ここで、アイソセンターACのずれ量の測定方法の一例について説明する。当該測定では、例えばXRV-100(Logos Systems社製)などの荷電粒子線の測定機器を用いて行われる。まず、回転ガントリ5の回転角度を所定の値に設定する。測定機器のセンサを治療台4の載置部4aに載せる。次に、載置部4aを初期位置に移動させる((X、Y、Z):(0mm、-480mm、23mm))。次に、DR(DigitalRadiography)装置60で測定機器のセンサの中心位置を撮像し、撮像結果に基づき載置部4aを移動させて、測定機器のセンサの中心位置をDR中心位置に合わせる。DR中心位置は、設計上のアイソセンター位置に対応する。そして、荷電粒子線測定用ソフトを起動して、所定の測定用プラン及び設定にて荷電粒子線の照射を実施する。主な設定としては、ワブリングでの照射を190MeVのエネルギーで行う。当該照射が完了した後、測定用ソフトから荷電粒子線が最も集中して照射されるビーム位置データが出力される。このビーム位置データと設計上のアイソセンター位置データとに基づいて、所定の回転角度におけるアイソセンターACのずれ量を取得することができる。また、当該ずれ量に基づいて、載置部4aの補正量を演算する。これにより、所定の回転角度に対応する補正量が取得される。同様の測定を各回転角度に対して行うことで、回転角度ごとの補正量のデータベースを作成することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の作用・効果について説明する。
【0036】
本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1は、照射部2を回転可能に支持する回転ガントリ5を有している。従って、照射部2は、回転ガントリ5の回転角度に応じた角度から荷電粒子線を腫瘍14へ照射する。ここで、回転ガントリ5及び照射部2は、たわむ場合がある。このようなたわみが発生すると、図5(a)(b)の右側の図に示すように、実際の荷電粒子線のアイソセンターACが、設計上のアイソセンターACXの位置からずれる場合がある。この場合、荷電粒子線のアイソセンターACと腫瘍14との位置関係が、設計上のアイソセンターACXと腫瘍14ものからずれる。これに対し、荷電粒子線治療装置1は、腫瘍14と荷電粒子線との相対的な位置関係を調整可能な治療台4と、回転ガントリ5の回転角度に応じて設定された補正量を取得し、当該補正量によって治療台4の位置の補正を行うコントローラ53と、を備える。従って、コントローラ53が、回転角度に応じた補正量で治療台4の位置を補正することで、荷電粒子線のアイソセンターACと腫瘍14との位置関係のずれを抑制することができる。以上により、腫瘍14に対する荷電粒子線の照射精度を向上させることができる。
【0037】
調整部は、荷電粒子線のアイソセンターACの位置ずれを補正可能な機構である治療台によって構成されてよい。これにより、コントローラ53が治療台4の位置の補正を行うことで、荷電粒子線のアイソセンターACの位置ずれを補正することができる。
【0038】
コントローラ53は、予め取得された測定結果に基づく補正量によって、補正を行ってよい。これにより、実際の測定結果に基づいて、適切な補正量を設定することが可能となる。
【0039】
回転ガントリ5は、片持ち構造であってよい。この場合、回転ガントリ5のたわみが大きくなり、荷電粒子線のアイソセンターACのずれ量が大きくなるため、コントローラ53による補正の効果がより顕著となる。
【0040】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0041】
上述の実施形態では、調整部として、治療台4が採用されていた。しかし、調整部は、被照射体と荷電粒子線との相対的な位置関係を調整可能な機構であれば特に限定されない。例えば、照射部を調整部として採用してよい。この場合、アイソセンターACの位置ずれを解消するために、照射部2内で荷電粒子線の角度や飛程を補正してよい。
【0042】
回転ガントリとして、上述の実施形態に示すような構造を例示したが、回転ガントリの構造は特に限定されるものではなく、適宜構造を変更してもよい。また、回転ガントリは片持ち構造のものに限定されず、両持ち構造の回転ガントリが採用されてもよい。
【0043】
また、上述の実施形態において説明したアイソセンターACの位置ずれの測定方法は一例にすぎず、測定可能である限り、他の測定方法を採用してもよい。また、補正量は実際の測定に基づいていなくともよく、シミュレーション結果などを用いて補正量を設定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…荷電粒子線治療装置、2…照射部、4…治療台(調整部)、5…回転ガントリ、14…腫瘍(被照射体)、53…コントローラ(補正部)。
図1
図2
図3
図4
図5