(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】積層電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
H01G4/30 201A
H01G4/30 201C
H01G4/30 201K
H01G4/30 511
(21)【出願番号】P 2020195394
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-06-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】石津谷 正英
(72)【発明者】
【氏名】芝原 豪
【審査官】相澤 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087568(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0116146(KR,A)
【文献】特開2006-210674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層された素子本体を備える積層電子部品であって、
前記誘電体層の厚みのばらつきよりも前記内部電極層の厚みのばらつきの方が大きく、
前記誘電体層の厚みと、前記誘電体層の厚みと積層方向において隣接する前記内部電極層の厚みと、の関係が負の相関を示
し、
前記内部電極層の平均厚みは0.60μm以下であり、
誘電体σ/電極σは0.48以上0.69以下であり、
前記誘電体σは前記誘電体層の厚みの標準偏差であり、
前記電極σは前記内部電極層の厚みの標準偏差であり、
前記誘電体σは0.045以上である積層電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層の厚みの分散が前記内部電極層の厚みの分散より統計的に有意に小さい請求項1記載の積層電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層の平均厚みよりも前記内部電極層の平均厚みの方が大きい請求項1
または2に記載の積層電子部品。
【請求項4】
前記内部電極層の被覆率が85%以上である請求項1~
3のいずれかに記載の積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体層と、内部電極層と、を有する積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサが薄層化すると、誘電体層の厚みのばらつきが大きくなる傾向となり、信頼性が悪化し易くなる。たとえば、特許文献1には、信頼性を向上させるために、誘電体層の厚みのばらつき(σ)が100nm以下である積層セラミック電子部品が開示されている。
【0003】
しかし、誘電体層の厚みのばらつきを抑えようとすると内部電極層と誘電体層との界面でクラックが発生し易くなるという課題があることが本発明者により見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、薄層化しても、信頼性が悪化せず、なおかつクラックの発生が抑制されている積層電子部品、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層電子部品は、
誘電体層と内部電極層とが交互に積層された素子本体を備える積層電子部品であって、
前記誘電体層の厚みのばらつきよりも前記内部電極層の厚みのばらつきの方が大きい。
【0007】
本発明者は、積層電子部品が上記の構成であることにより、積層電子部品が薄層化しても、信頼性が良好でありクラックの発生が抑制されることを見出した。その理由は下記の通りであると考えられる。本発明では、内部電極層の厚みのばらつきが大きいため誘電体層と内部電極層との接触面積が大きくなることから、クラックの発生を抑制することができる。また、誘電体層の厚みのばらつきは小さいため、信頼性を良好にすることができる。なお、信頼性が良好とは加速寿命が長いと共に、破壊電圧が高いことを意味する。
【0008】
好ましくは、前記誘電体層の厚みと、前記誘電体層の厚みと積層方向において隣接する前記内部電極層の厚みと、の関係が負の相関を示す。
【0009】
好ましくは、前記誘電体層の厚みの標準偏差よりも前記内部電極層の厚みの標準偏差の方が大きい。
【0010】
好ましくは、前記誘電体層の厚みの分散が前記内部電極層の厚みの分散より統計的に有意に小さい。
【0011】
好ましくは、前記誘電体層の平均厚みよりも前記内部電極層の平均厚みの方が大きい。
【0012】
好ましくは、前記内部電極層の被覆率が85%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に関する散布図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の比較例に関する散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
積層セラミックコンデンサの全体構成
本発明に係る積層電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、素子本体4と、第1端子電極6と、第2端子電極8とを有する。素子本体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、内部電極層12が交互に積層してある。
【0016】
本実施形態では、交互に積層される一方の内部電極層12は、素子本体4のX軸方向第1端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、素子本体4のX軸方向第2端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0017】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、X軸方向寸法は、好ましくは0.4~3.2mmである。
【0018】
積層セラミックコンデンサ2の高さ寸法(Z軸方向寸法)は、誘電体層10および内部電極層12の積層数などにより変化するが、好ましくは0.2~2.5mmである。また、積層セラミックコンデンサ2のY軸方向寸法は、好ましくは0.2~2.5mmである。
【0019】
誘電体層10の積層数は、特に限定されないが、好ましくは20以上であり、より好ましくは50以上である。
【0020】
誘電体層10の材料としては、特に限定されず、たとえば、ABO3などのペロブスカイト構造の誘電体材料で構成される。ABO3において、Aは、たとえばCa、Ba、Srから選ばれる少なくとも1つであり、Bは、TiおよびZrから選ばれる少なくとも1つである。A/Bのモル比は、特に限定されず、0.980~1.020である。また、これらの主成分にMn化合物、Mg化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物、希土類元素、Si化合物、Li化合物、B化合物などの副成分を添加したものを用いてもよい。
【0021】
内部電極層12に含有される導電材としては特に限定されない。導電材として用いられる貴金属としては、たとえばPd、Pt、Ag-Pd合金等が挙げられる。導電材として用いられる卑金属としては、たとえばNi、Ni系合金、Cu、Cu系合金等が挙げられる。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、Pおよび/またはS等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層12は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。
【0022】
第1端子電極6および第2端子電極8に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。第1端子電極6および第2端子電極8の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0023】
図2は、
図1のII部の拡大断面図である。本実施形態では、
図2に示すように、誘電体層10および内部電極層12の両方に厚みのばらつきが表れる。
【0024】
本実施形態では、誘電体層10の厚みのばらつきよりも内部電極層12の厚みのばらつきの方が大きい。
【0025】
具体的には、誘電体層10の厚みの標準偏差よりも内部電極層12の厚みの標準偏差の方が大きいことが好ましい。内部電極層12の厚みの標準偏差(電極σ)に対する誘電体層10の厚みの標準偏差(誘電体σ)を「誘電体σ/電極σ」と表したとき、「誘電体σ/電極σ」は0.4以上1.0以下であることが好ましく、0.4以上0.8以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態では、誘電体層10の厚みを100箇所以上測定することにより誘電体層10の厚みの標準偏差を求めることが好ましい。また、本実施形態では、内部電極層12の厚みを100箇所以上測定することにより内部電極層12の厚みの標準偏差を求めることが好ましい。
【0027】
なお、「標準偏差」は「分散」の正の平方根であるため、ばらつきが大きければ「分散」は大きくなり、「標準偏差」も大きくなる。逆に、ばらつきが小さければ「分散」は小さくなり、「標準偏差」も小さくなる。
【0028】
本実施形態では、誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散より統計的に有意に小さいことが好ましい。具体的には、有意水準0.05の片側F検定を行ったとき、誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さいと判断できることが好ましい。
【0029】
片側F検定ではまず、「誘電体層10の厚みの分散と、内部電極層12の厚みの分散と、の間に差がない(等分散である)」と帰無仮説をたてる。次に、「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さい」と対立仮説をたてる。次に、100箇所以上の誘電体層10の厚みの測定値と、100箇所以上の内部電極層12の厚みの測定値と、を用いて有意水準0.05の片側F検定を行って、p値を算出し、p値が0.05よりも小さければ、上記の帰無仮説を棄却できる。すなわち、「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さい」という対立仮説が採択される。そして、片側F検定により、「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さい」という対立仮説が採択されると「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散より統計的に有意に小さい」と言える。
【0030】
本実施形態では、誘電体層10の平均厚みATdよりも内部電極層12の平均厚みATeの方が大きいことが好ましく、誘電体層10の平均厚みATdに対する内部電極層12の平均厚みATeの比率(ATe/ATd)が、1.02以上1.16以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態では、誘電体層10の平均厚みATdは0.6μm以下であることが好ましい。誘電体層10の平均厚みATdの下限は特に限定されないが、たとえば0.3μmである。本実施形態では、誘電体層10の厚みのばらつきよりも内部電極層12の厚みのばらつきの方が大きいことが好ましいことから、誘電体層10を薄層化しても、クラックの発生を抑制することができ、なおかつ静電容量を大きくすることができる。
【0032】
本実施形態では、内部電極層12の平均厚みATeは0.65μm以下であることが好ましい。内部電極層12の平均厚みATeの下限は特に限定されないが、たとえば0.4μmである。
【0033】
本実施形態では、誘電体層10の厚みと、その誘電体層10の厚みと積層方向(Z軸方向)において隣接する内部電極層12の厚みと、の関係が負の相関を示すことが好ましい。この点を
図2により説明する。
【0034】
図2に示すように、積層セラミックコンデンサ2の積層方向(Z軸方向)に平行な断面を得た後、積層方向(Z軸方向)に平行な仮想線Lを複数引く。隣接する仮想線Lの距離dは0.5μm以上1μm以下であることが好ましい。また、隣接する仮想線Lの距離dは誘電体粒子の粒径よりも大きいことが好ましい。
【0035】
次に、仮想線L上の誘電体層10の厚みTdaを測定し、その誘電体層10の厚みTdaと積層方向(Z軸方向)において隣接する箇所における同じ仮想線上での内部電極層12の厚みTeaを測定する。「誘電体層10の厚みTdaと積層方向(Z軸方向)において隣接する箇所における同じ仮想線L上での内部電極層12の厚みTea」とは、言い換えると、「誘電体層10の厚みTdaと積層方向(Z軸方向)において隣接する内部電極層12の厚みTea」である。
【0036】
同様にして、他の仮想線L上の他の誘電体層10の厚みTdbを測定し、その誘電体層10の厚みTdbと積層方向(Z軸方向)において隣接する箇所における同じ仮想線上での内部電極層12の厚みTebを測定する。同様の作業を100箇所以上において行う。すなわち、「誘電体層10の厚み」は100箇所以上で測定され、「内部電極層12の厚み」も同様に100箇所以上で測定される。
【0037】
本実施形態では、誘電体層10の厚みと、その誘電体層10と積層方向において隣接する内部電極層12と、の関係が負の相関を示す。「誘電体層10の厚みと、その誘電体層10と積層方向において隣接する内部電極層12と、の関係が負の相関を示す」とは、たとえば
図3を用いて下記の通り説明できる。
【0038】
図3に示す散布図は、横軸が誘電体層10の厚みであり、縦軸がその誘電体層10の積層方向(Z軸方向)の下方で接する内部電極層12の厚みである。本実施形態では、このようにして得られた散布図が負の相関を示す。
【0039】
散布図が負の相関を示すことの確認方法は特に限定されないが、たとえば、有意水準が0.05のピアソンの積率相関係数の片側検定を行い、p値が0.05未満の場合に負の相関があると判断することが好ましい。有意水準が0.05であり、p値が0.05未満の場合には、「ピアソンの積率相関係数は0である」という帰無仮説が棄却され、「ピアソンの積率相関係数は負である」という対立仮説が採択されることから、散布図が負の相関を示すと判断できるからである。
【0040】
本実施形態では、内部電極層12の被覆率が85%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
図1および
図2に示す内部電極層12は、Y軸方向に連続して図示しているが、実際には、内部電極層12の途切れが断面において観察される。断面においての内部電極層12の途切れは、他の断面において内部電極層12が連続することで、内部電極層12の機能上の問題はない。内部電極層12の被覆率は、内部電極層12の断面において、途切れ部分を除いた電極の総和の長さを理想的に連続している電極長さで割り算した値(%表示)として算出される。
【0041】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の一実施形態としての積層セラミックコンデンサ2の製造方法について説明する。
【0042】
まず、焼成後に
図1に示す誘電体層10を構成することになるグリーンシートを製造するために、誘電体層用ペーストを準備する。
【0043】
誘電体層用ペーストは、通常、セラミック粉末と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。
【0044】
セラミック粉末の原料としては、上述した誘電体層10を構成することになる複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。セラミック粉末の原料は、本実施形態では、平均粒子径が好ましくは0.01~1μm程度の粉体として用いられる。なお、グリーンシートをきわめて薄いものとするためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
【0045】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、ブチラール、アクリル、エチルセルロース等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。
【0046】
また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、ブチルカルビトール、アルコール、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0047】
誘電体層用ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリットなどから選択される添加物が含有されていてもよい。
【0048】
可塑剤としては、フタル酸ジオクチルやフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。
【0049】
次いで、
図1に示す内部電極層12を形成するための内部電極層用ペーストを準備する。内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属または合金からなる導電材と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。導電材の代わりに、酸化物、有機金属化合物またはレジネート等も用いることができる。上記した酸化物、有機金属化合物およびレジネートは、焼成後に上記した導電材となる。なお、内部電極層用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末(たとえばチタン酸バリウム粉末)が含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0050】
上記にて調整した誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを使用して、
図4に示すように、焼成後に誘電体層10となるグリーンシート100aを形成する。グリーンシート100aを形成する方法としては、特に限定されず、たとえば、印刷法やシート法などを用いることができる。なお、本実施形態および後述の実施形態では、印刷法を用いる場合でも、焼成前の誘電体層10に対しては「グリーンシート」との語句を用いる。
【0051】
本実施形態では、PETフィルムなどの支持体140上に、グリーンシート100aを形成し、乾燥する。
【0052】
次いで、グリーンシート100a上に焼成後に内部電極層12となる内部電極パターン層120aを形成する。内部電極パターン層120aを形成する方法としては特に限定されず、たとえば、印刷法、転写法またはシート法などを用いることができる。
【0053】
グリーンシート100a上に内部電極パターン層120aを形成した後、Ta℃の雰囲気温度で乾燥し、第1シート体160aを準備する。Ta℃は、好ましくは、70℃以上100℃以下であり、より好ましくは70℃以上80℃以下である。
【0054】
次に、
図5に示すように、支持体140上に、グリーンシート100bを形成し、乾燥する。
【0055】
次に、グリーンシート100b上に内部電極パターン層120bを形成した後、Ta℃よりも低いTb℃の雰囲気温度で内部電極パターン層120bを乾燥する。
【0056】
(Ta-Tb)℃は、好ましくは、5℃以上30℃以下であり、より好ましくは5℃以上25℃以下である。
【0057】
第1シート体160aと第2シート体160bを交互に複数積層し、グリーン積層体を得る。
【0058】
本実施形態では、第1シート体160aのグリーンシート100aのヤング率を第2シート体160bのグリーンシート100bのヤング率に比べて高くすることが好ましい。また、第1シート体160aの内部電極パターン層120aのヤング率を第2シート体160bの内部電極パターン層120bのヤング率に比べて高くすることが好ましい。
【0059】
具体的には、第1シート体160aのグリーンシート100aおよび内部電極パターン層120aの乾燥温度(Ta℃)を第2シート体160bのグリーンシート100bおよび内部電極パターン層120bの乾燥温度(Tb℃)に比べて高くすることにより、第1シート体160aのグリーンシート100aのヤング率を第2シート体160bのグリーンシート100bのヤング率に比べて高くすることができる。また、第1シート体160aの内部電極パターン層120aのヤング率を第2シート体160bの内部電極パターン層120bのヤング率に比べて高くすることができる。
【0060】
本実施形態では、第1シート体160aのグリーンシート100a、内部電極パターン層120a、第2シート体160bのグリーンシート100b、内部電極パターン層120bの乾燥後のヤング率の大小関係は、下記の通りであることが好ましい。
グリーンシート100b
<グリーンシート100a
<内部電極パターン層120b
<内部電極パターン層120a
【0061】
得られたグリーン積層体は、たとえば切断線に沿って所定の寸法に切断され、グリーンチップとする。グリーンチップは、固化乾燥により可塑剤が除去され固化される。固化乾燥後のグリーンチップは、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入され、水平遠心バレル機などにより、バレル研磨される。バレル研磨後のグリーンチップは、水で洗浄され、乾燥される。
【0062】
乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、
図1に示す素子本体4が得られる。
【0063】
脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~400℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0064】
グリーンチップの焼成では、昇温速度を好ましくは10~800℃/時間、より好ましくは30~500℃/時間とする。
【0065】
焼成時の保持温度は、好ましくは1150~1350℃、より好ましくは1200~1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは2~3時間である。
【0066】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることができる。
【0067】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10-14~10-10MPaとすることが好ましい。
【0068】
還元性雰囲気中で焼成した後、素子本体4にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層10を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命(高温負荷寿命)を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0069】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10-9~10-5MPaとすることが好ましい。酸素分圧を10-9MPa以上とすることで、誘電体層10の再酸化を効率的に行い易くなる。
【0070】
アニールの際の保持温度は、950~1150℃とすることが好ましい。保持温度を950℃以上とすることで誘電体層10を十分に酸化させ易くなり、IR(絶縁抵抗)およびIR寿命を向上させ易くなる。
【0071】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0~20時間、降温速度を好ましくは50~500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したN2ガス等を用いることが好ましい。
【0072】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、N2ガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。
【0073】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0074】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、バレル研磨等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて第1端子電極6および第2端子電極8が形成される。そして、必要に応じ、第1端子電極6および第2端子電極8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0075】
このようにして製造された積層セラミックコンデンサ2は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0076】
本実施形態では、積層セラミックコンデンサ2が薄層化しても、信頼性が良好でありクラックの発生が抑制され、なおかつ静電容量を大きくすることができる。その理由は下記の通りであると考えられる。本発明では、誘電体層10の厚みのばらつきよりも内部電極層12の厚みのばらつきの方が大きいため誘電体層10と内部電極層12との接触面積が大きくなる。このため、クラックの発生を抑制することができると共に、静電容量を大きくすることができる。また、誘電体層10の厚みのばらつきは小さいため、信頼性を良好にすることができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、内部電極層12の被覆率が比較的高いため、誘電体層10と内部電極層12との接触面積が大きいことから、クラックの発生を防ぐことができ、なおかつ、静電容量を大きくできる。
【0078】
本実施形態では、第1シート体160aのグリーンシート100aおよび内部電極パターン層120aのヤング率を第2シート体160bのグリーンシート100bおよび内部電極パターン層120bのヤング率に比べて高くすることが好ましい。
【0079】
ヤング率がこのような関係であることにより、第1シート体160aを構成する内部電極パターン層120aは比較的硬いことから、内部電極パターン層120aに厚みのばらつきが生じ易くなる。また、第2シート体160bを構成するグリーンシート100bおよび内部電極パターン層120bは比較的柔らかいため、第1シート体160aを構成する内部電極パターン層120aの厚みのばらつきを吸収するような形態となる。その結果、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0080】
なお、第1シート体160aを乾燥した後、第1シート体160aを圧延してもよい。第1シート体160aを構成する内部電極パターン層120aには厚みのばらつきが生じている。グリーンシート100aは内部電極パターン層120aに比べてヤング率が低いことから、圧延することにより、内部電極パターン層120aに形成された厚みのばらつきがグリーンシート100aにも反映される。その結果、第2シート体160bのグリーンシート100bだけでなく第1シート体160aのグリーンシート100aにも所定の厚みのばらつきが形成される。
【0081】
[第2実施形態]
本実施形態は、下記に示す事項以外は第1実施形態と同様である。本実施形態では、内部電極パターン層を構成するバインダの粘度を変えることにより、内部電極パターン層のヤング率を変化させている。その結果、本実施形態では、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0082】
本実施形態では、
図6に示すように、支持体140上に、グリーンシート100cを形成し、乾燥する。次いで、グリーンシート100c上に内部電極パターン層120cを形成し、乾燥する。次いで、内部電極パターン層120c上にグリーンシート100dを形成し、乾燥する。
【0083】
次いで、内部電極パターン層100cに含まれるバインダよりも粘度が低いバインダを用いて内部電極層用ペーストを準備し、これによりグリーンシート100d上に内部電極パターン層120dを形成し、乾燥してシート体160cを得る。
【0084】
グリーンシート100c、内部電極パターン層120c、グリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dの乾燥温度は全て同じであってもよいし、異なっていてもよいが、グリーンシート100cおよび内部電極パターン層120cの乾燥温度に比べてグリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dの乾燥温度の方が低いことが好ましい。
【0085】
たとえばバインダとしてエチルセルロースを用いた場合、内部電極パターン層100cに含まれるエチルセルロースの分子量を12万~17万とし、内部電極パターン層100dに含まれるエチルセルロースの分子量を7万~12万とすることで、内部電極パターン層100cに含まれるバインダの粘度よりも内部電極パターン層100dに含まれるバインダの粘度を低くすることができる。
【0086】
本実施形態では、シート体160cを複数積層してグリーン積層体を得る。
【0087】
本実施形態では、内部電極パターン層120cのバインダの粘度を内部電極パターン層120dのバインダの粘度に比べて高くすることにより、内部電極パターン層120cのヤング率を内部電極パターン層120dのヤング率に比べて高くすることができる。
【0088】
本実施形態では、ヤング率の大小関係は下記の通りとなることが好ましい。
グリーンシート100c
≒グリーンシート100d
<内部電極パターン層120d
<内部電極パターン層120c
【0089】
ヤング率がこのような関係であることにより、内部電極パターン層120cは比較的硬いことから、内部電極パターン層120cに厚みのばらつきが生じ易くなる。また、グリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dは比較的柔らかいため、内部電極パターン層120cの厚みのばらつきを吸収するような形態となる。その結果、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0090】
なお、本実施形態では、グリーンシート100c、内部電極パターン層120c、グリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dが重ね塗りされる構成であるため、誘電体層用ペーストに用いられるバインダはアクリル樹脂であることが好ましい。これにより、誘電体層用ペーストにより形成されるグリーンシートの下層の樹脂が侵されにくくなる。
【0091】
[第3実施形態]
本実施形態は、下記に示す事項以外は第1実施形態と同様である。本実施形態では、内部電極パターン層を圧延することにより、誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0092】
図4に示すように、支持体140上に、グリーンシート100aを形成し、乾燥する。次いで、グリーンシート100a上に内部電極パターン層120aを形成し、乾燥し、第1シート体160aを準備する。次に第1シート体を圧延し、圧延された第1シート体160aを複数積層してグリーン積層体を得る。
【0093】
グリーンシート100aおよび内部電極パターン層120aの乾燥温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0094】
本実施形態では、ヤング率の大小関係は下記の通りとなることが好ましい。
グリーンシート100a
<内部電極パターン層120a
【0095】
ヤング率がこのような関係であることにより、内部電極パターン層120aは比較的硬いことから、内部電極パターン層120aに厚みのばらつきが生じ易くなる。また、グリーンシート100aは比較的柔らかいため、圧延により内部電極パターン層120aの厚みのばらつきを吸収するような形態となる。その結果、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0096】
[第4実施形態]
本実施形態は、下記に示す事項以外は第1実施形態と同様である。本実施形態では、内部電極パターン層にカーボンが含まれることにより、誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0097】
本実施形態では、
図4に示すように、支持体140上に、グリーンシート100aを形成し、乾燥する。
【0098】
本実施形態では、内部電極層用ペーストとしてカーボンが添加された内部電極層用ペーストを用いる。内部電極層用ペーストへのカーボンの添加量は内部電極層用ペーストの全量の0.1~2質量%であることが好ましく、0.3~1質量%であることがより好ましい。
【0099】
次に、グリーンシート100a上にカーボンが添加された内部電極パターン層120aを形成し、乾燥し、第1シート体160aを準備する。
【0100】
グリーンシート100aおよび内部電極パターン層120aの乾燥温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0101】
第1シート体160aを複数積層してグリーン積層体を得る。
【0102】
なお、本実施形態の焼成工程の昇温速度は、好ましくは10~800℃/時間である。焼成工程の昇温速度を比較的遅くすることにより、内部電極層12と誘電体層10の界面に低融点のBa-Ti-Ni合金が形成しやすくなり、内部電極層12のばらつきを大きくすることができる。
【0103】
本実施形態では、内部電極パターン層120aに含まれたカーボンが存在することで、内部電極層12と誘電体層10の界面に低融点のBa-Ti-Ni合金が形成しやすくなり、内部電極層12に厚みのばらつきを生じさせる。その結果、焼成後の内部電極層12に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0104】
[第5実施形態]
本実施形態は、下記に示す事項以外は第2実施形態と同様である。本実施形態では、内部電極層用ペーストの粘度を変えることにより、ヤング率を変化させている。その結果、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0105】
本実施形態では、
図6に示すように、支持体140上に、グリーンシート100cを形成し、乾燥する。次いで、グリーンシート100c上に内部電極パターン層120cを形成し、乾燥する。次いで、内部電極パターン層120c上にグリーンシート100dを形成し、乾燥する。
【0106】
次いで、内部電極パターン層100cを形成するために用いた内部電極層用ペーストよりも粘度の低い内部電極層用ペーストを用いて内部電極層用ペーストを準備し、これによりグリーンシート100d上に内部電極パターン層120dを形成し、乾燥し、シート体160cを得る。
【0107】
グリーンシート100c、内部電極パターン層120c、グリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dの乾燥温度は全て同じであってもよいし、異なっていてもよいが、グリーンシート100cおよび内部電極パターン層120cの乾燥温度に比べてグリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dの乾燥温度の方が低いことが好ましい。
【0108】
内部電極層用ペーストの粘度を調整する方法としては、溶剤およびバインダの含有量を調整したり、バインダの種類や、重合度(分子量)を変化させることによりバインダの粘度を調整する方法が挙げられる。
【0109】
なお、本実施形態では、グリーンシート100cおよびグリーンシート100dに用いられる誘電体層用ペーストの粘度は、回転数100rpmにおいて、20~100cPであることが好ましい。
【0110】
内部電極パターン層120cおよび内部電極パターン層120dに用いられる内部電極層用ペーストの粘度は、回転数100rpmにおいて、3×103~2×104cPであることが好ましい。
【0111】
本実施形態では、シート体160cを複数積層してグリーン積層体を得る。
【0112】
本実施形態では、内部電極パターン層120cを構成する内部電極層用ペーストの粘度は、内部電極パターン層120dを構成する内部電極層用ペーストの粘度に比べて高い。
【0113】
本実施形態では、粘度の大小関係は下記の通りとなることが好ましい。
グリーンシート100cを構成する誘電体層用ペースト
≒グリーンシート100dを構成する誘電体層用ペースト
<内部電極パターン層120dを構成する内部電極層用ペースト
<内部電極パターン層120cを構成する内部電極層用ペースト
【0114】
粘度がこのような関係であることにより、内部電極パターン層120cは比較的硬いことから、内部電極パターン層120cに厚みのばらつきが生じ易くなる。また、グリーンシート100dおよび内部電極パターン層120dは比較的柔らかいため、内部電極パターン層120cの厚みのばらつきを吸収するような形態となる。その結果、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0115】
[第6実施形態]
本実施形態は、下記に示す事項以外は第1実施形態と同様である。本実施形態では、内部電極パターン層に含まれる導電材として、粒度分布にばらつきのある導電材を用いることにより、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0116】
本実施形態では、内部電極層用ペーストに含まれる導電材として、粒度分布にばらつきのある導電材を用いる。具体的には、(D90-D10)が好ましくは、0.01μm以上1μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である導電材を用いる。
【0117】
本実施形態では、内部電極パターン層120aに含まれている導電材の粒度分布にばらつきがある、言い換えると、内部電極パターン層120aに含まれている導電材の粒径分布が広い。このため、内部電極パターン層120aおよび内部電極パターン層120bの厚みにばらつきを生じさせることができる。また、グリーンシート100aおよびグリーンシート100bは内部電極パターン層120aおよび内部電極パターン層120bに比べてヤング率が低いことから、内部電極パターン層120aおよび内部電極パターン層120bに生じた厚みのばらつきの影響を受けて、グリーンシート100aおよびグリーンシート100bにも厚みのばらつきが生じる。特に、第1シート体および第2シート体をそれぞれ圧延した場合に、より顕著にグリーンシート100aおよびグリーンシート100bに厚みのばらつきが生じる。その結果、焼成後の誘電体層10および内部電極層12の両方に所定の厚みのばらつきが形成される。
【0118】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0119】
たとえば、本発明の積層電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、その他の積層電子部品に適用することが可能である。その他の積層電子部品としては、誘電体層が内部電極層を介して積層される全ての電子部品であり、たとえばバンドパスフィルタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどが例示される。
【0120】
また、上記の実施形態では、乾燥温度を高くすることにより、ヤング率を上げ、乾燥温度を低くすることにより、ヤング率を下げたが、乾燥時間を長くすることにより、ヤング率を上げ、乾燥時間を短くすることにより、ヤング率を下げてもよい。
【実施例】
【0121】
以下、本発明の実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0122】
<試料番号3~5>
主原料の原料粉末としてBaTiO3粉末を準備した。次に主原料100モル部に対して、SiO2粉末を1.27モル部秤量し、MgO粉末を0.63モル部秤量し、Y2O3粉末を0.51モル部秤量し、MnCO3粉末を0.16モル部秤量し、V2O5粉末を0.05モル部秤量した。これら各粉末をボールミルで湿式混合、乾燥して、誘電体原料を得た。
【0123】
次いで、得られた誘電体原料:100質量部と、ブチラール樹脂:7質量部と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP):4質量部と、溶媒としてのメチルエチルケトン:80質量部と、分散剤としての高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩:2質量部をボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0124】
また、上記とは別に、Ni粒子:56質量部と、テルピネオール:40質量部と、エチルセルロース(分子量14万):4質量部と、ベンゾトリアゾール:1質量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0125】
そして、上記にて作成した誘電体層用ペーストを用いて、
図4に示すように、支持体140であるPETフィルム上に1層目のグリーンシート100aを形成し、乾燥した。
【0126】
次いで、1層目のグリーンシート100a上に、上記にて作製した内部電極層用ペーストを用いて、焼成後に内部電極層12となる2層目の内部電極パターン層120aを形成し、表1に記載の温度(Ta)で乾燥し、第1シート体160aを準備した。
【0127】
次に、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、
図5に示すように、支持体140上に、1層目のグリーンシート100bを形成し、乾燥した。
【0128】
次いで、1層目のグリーンシート100b上に、上記にて作製した内部電極層用ペーストを用いて、焼成後に内部電極層12となる2層目の内部電極パターン層120bを形成し、表1に記載の温度(Tb)で乾燥し、第2シート体160bを準備した。
【0129】
第1シート体160aと第2シート体160bを交互に複数積層し、グリーン積層体を得た。
【0130】
第1シート体160aの1層目のグリーンシート100a、2層目の内部電極パターン層120a、第2シート体160bの1層目のグリーンシート100b、2層目の内部電極パターン層120bの乾燥後のヤング率は表1に記載の通りであった。
【0131】
得られたグリーン積層体を切断線に沿って所定の寸法に切断し、グリーンチップとした。グリーンチップは、固化乾燥し、バレル研磨し、水で洗浄し、乾燥した。
【0132】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、焼結体(素子本体)を得た。
【0133】
脱バインダ処理条件は、昇温速度200℃/時間、保持温度:260℃、保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0134】
焼成条件は、昇温速度200℃/時間、保持温度1000℃とし、保持時間を120分とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN2+H2混合ガスとし、酸素分圧が10-9MPa以下となるようにした。
【0135】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度1000℃、保持時間:10時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN2ガス(酸素分圧:10-8MPa以下)とした。
【0136】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを使用した。
【0137】
次いで、得られた焼結体をバレル研磨した後、端子電極としてCuペーストを塗布し、還元雰囲気にて焼き付け処理を行い、試料番号3~5に係る積層セラミックコンデンサ試料(以下、単に「コンデンサ試料」と表記する場合がある)を得た。
【0138】
得られたコンデンサ試料のサイズは、0.6mm×0.3mm×0.3mmであり、内部電極層12に挟まれた誘電体層10の数は240であった。
【0139】
得られたコンデンサ試料を積層方向に平行に切断した。得られた断面を走査電子顕微鏡(SEM)により撮影し、
図2に示すように、仮想線Lを複数引いた。隣接する仮想線Lの距離dは5μmとした。
【0140】
次に、仮想線L上の誘電体層10の厚みTdaを測定し、その誘電体層10の厚みTdaの測定箇所と積層方向(Z軸方向)の下方において隣接する箇所における内部電極層12の厚みTeaを測定した。同様の作業を100箇所において行った。
【0141】
上記の通り測定した誘電体層10の厚みおよび内部電極層12の厚みに基づき、表2の各項目を算出した。「誘電体σ2が電極σ2より統計的に有意に小さい」および「負の相関が統計的に確認できる」の項目は、下記の方法により算出した。
【0142】
誘電体σ
2
が電極σ
2
より統計的に有意に小さい
上記の通り測定した100箇所の誘電体層10の厚みおよび100箇所の内部電極層12の厚みに基づき、片側F検定を行った。片側F検定ではまず、「誘電体層10の厚みの分散と、内部電極層12の厚みの分散と、の間に差がない(等分散である)」と帰無仮説をたてた。次に、「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さい」と対立仮説をたてた。次に、100箇所以上の誘電体層10の厚みの測定値と、100箇所以上の内部電極層12の厚みの測定値と、を用いて有意水準0.05の片側F検定を行って、p値を算出し、p値が0.05よりも小さければ、上記の帰無仮説を棄却できる。すなわち、「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さい」という対立仮説が採択される。そして、片側F検定により、「誘電体層10の厚みの分散が内部電極層12の厚みの分散よりも小さい」という対立仮説が採択されると「誘電体層10の厚みの分散(誘電体σ2)が内部電極層12の厚みの分散(電極σ2)より統計的に有意に小さい」と判断した。
【0143】
負の相関が統計的に確認できる
誘電体層10の厚みと、その誘電体層10の厚みと積層方向(Z軸方向)において隣接する内部電極層12の厚みと、の関係が負の相関を示すことを確認するために、上記の通り測定した100箇所の誘電体層10の厚みおよび100箇所の内部電極層12の厚みに基づき、有意水準が0.05のピアソンの積率相関係数の片側検定を行い、p値が0.05未満の場合に負の相関があると判断した。有意水準が0.05であり、p値が0.05未満の場合には、「ピアソンの積率相関係数は0である」という帰無仮説が棄却され、「ピアソンの積率相関係数は負である」という対立仮説が採択されることから、散布図が負の相関を示すと言えるからである。
【0144】
図3は試料番号3の散布図である。
図3に示す散布図は、横軸が誘電体層10の厚みであり、縦軸がその誘電体層10の積層方向(Z軸方向)の下方で隣接する内部電極層12の厚みである。試料番号3は、ピアソンの積率相関係数の片側検定からだけでなく、
図3からも、誘電体層10の厚みと、その誘電体層10の厚みと積層方向(Z軸方向)において隣接する内部電極層12の厚みと、の関係が負の相関を示すことを確認できた。
【0145】
ヤング率
グリーンシートのヤング率を測定するために、PETフィルム上に誘電体層用ペーストを塗布して乾燥させた後に、所望の大きさに切断し、乾燥した誘電体層用ペーストをPETフィルムから剥離してヤング率測定用のサンプルを作製した。
【0146】
後述の試料番号11および41~43のように、誘電体層用ペーストを重ね塗りする場合は、PETフィルム上に1層のみ塗布し、同じ熱履歴を与えて乾燥させた後に、所望の大きさに切断し、乾燥した誘電体ペーストをPETフィルムから剥離してヤング率測定用のサンプルを作製した。
【0147】
内部電極パターン層のヤング率を測定するために、PETフィルム上に内部電極ペーストを塗布した後に、印刷時と同じ熱履歴を与えて乾燥させた後に、所望の大きさに切断し、乾燥した内部電極ペーストをPETフィルムから剥離してヤング率測定用のサンプルを作製した。
【0148】
得られたヤング率測定用のサンプルをひっぱり、その時のひずみと応力からヤング率を算出した。
【0149】
さらに、得られたコンデンサ試料に対して下記の方法により加速寿命、破壊電圧およびクラック数を測定した。結果を表2に示す。
【0150】
加速寿命
各コンデンサ試料に対して、160℃にて、5V/μmの直流電界に保持し、寿命時間を測定することにより、加速寿命を評価した。本実施例においては、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を故障時間とし、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間を加速寿命と定義した。
【0151】
破壊電圧
破壊電圧測定機にて、コンデンサ試料に、10V/secの速度で昇圧する電圧を連続的に印加して、10mAの電流が流れた電圧を破壊電圧とした。各20個のコンデンサ試料にて破壊電圧を測定して、その平均値を求め、さらに、破壊電圧の平均値を、コンデンサ試料の誘電体層の平均厚みで割った値を絶縁破壊電圧[V/μm]として算出した。
【0152】
クラック数
コンデンサ試料をFR4基板(ガラスエポキシ基板) にSn-Ag-Cu半田で実装し、プレッシャークッカー槽に投入し、121℃、湿度95%の雰囲気下で100時間行う加速耐湿試験を実施した。各コンデンサ試料について、100個ずつ試験を実施した。各コンデンサ試料の不良数を「クラック数」として表1に示す。
【0153】
<試料番号1>
試料番号1では、第2シート体を準備せず、第1シート体を複数積層してグリーン積層体を得た。
【0154】
試料番号1では、焼成工程の昇温速度を表1に記載の通り変えた。
【0155】
上記以外は、試料番号3~5と同様にして、コンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表1および表2に示す。
【0156】
<試料番号2>
試料番号2では、第2シート体を準備せず、第1シート体を複数積層して
グリーン積層体を得た。
【0157】
上記以外は、試料番号3~5と同様にして、コンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表1および表2に示す。また、試料番号2の散布図を
図7に示す。
【0158】
<試料番号11>
試料番号3~5と同様にして得られた誘電体原料:100質量部と、アクリル樹脂:7質量部と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP):4質量部と、溶媒としてのメチルエチルケトン:80質量部と、分散剤としての高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩:2質量部をボールミルで混合してペースト化し、重ね塗り用誘電体層用ペーストを得た。
【0159】
また、上記とは別に、Ni粒子:56質量部と、テルピネオール:40質量部と、エチルセルロース(分子量14万):4質量部と、ベンゾトリアゾール:1質量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して2層目用内部電極層用ペーストを作製した。
【0160】
さらに、上記とは別に、Ni粒子:56質量部と、テルピネオール:40質量部と、エチルセルロース(分子量10万):4質量部と、ベンゾトリアゾール:1質量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して4層目用内部電極層用ペーストを作製した。
【0161】
上記にて作製した重ね塗り用誘電体層用ペーストを用いて、
図6に示すように、支持体140であるPETフィルム上に、1層目のグリーンシート100cを形成し、乾燥した。次いで、上記にて作製した2層目用内部電極層用ペーストを用いて、1層目のグリーンシート100c上に2層目の内部電極パターン層120cを形成し、乾燥した。次いで、上記にて作製した重ね塗り用誘電体層用ペーストを用いて、2層目の内部電極パターン層120c上に3層目のグリーンシート100dを形成し、乾燥した。
【0162】
次いで、上記にして作製した4層目用内部電極層用ペーストを用いて、3層目のグリーンシート100d上に4層目の内部電極パターン層120dを形成し、乾燥してシート体160cを得た。その後、シート体160cを複数積層してグリーン積層体を得た。
【0163】
上記以外は、試料番号3~5と同様にして、コンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表3および表4に示す。
【0164】
<試料番号21>
試料番号21では、第1シート体に対して圧延をした以外は試料番号2と同様にしてコンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表5および表6に示す。
【0165】
<試料番号31>
試料番号31では、内部電極層用ペーストの全量に対して0.5質量%のカーボンを添加した。
【0166】
上記以外は、試料番号2と同様にしてコンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表7および表8に示す。
【0167】
<試料番号41~43>
試料番号41~43では、溶剤の添加量やバインダの種類を変化させることにより、1層目のグリーンシートを構成する誘電体層用ペースト、2層目の内部電極パターン層を構成する内部電極層用ペースト、3層目のグリーンシートを構成する誘電体層用ペーストおよび4層目の内部電極パターン層を構成する内部電極層用ペーストの粘度を表9に記載の通り変化させた以外は試料番号11と同様にしてコンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表9および表10に示す。
【0168】
<試料番号51>
試料番号51では、内部電極層用ペーストにD50が0.5μmのBaTiO3粉末をニッケル粉末100質量部に対して5質量部加えた以外は、試料番号3と同様にしてコンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表11および表12に示す。
【0169】
<試料番号61、62>
試料番号61および62では、内部電極層用ペーストに含まれる導電材の粒径ばらつき(D90-D10)を表13に記載の通りに変化させた以外は試料番号3と同様にしてコンデンサ試料を作製し、各項目を評価した。結果を表13および表14に示す。なお、表14の各試料では、1000個のコンデンサ試料に対してクラック数の試験を行った。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
誘電体層の厚みのばらつきよりも内部電極層の厚みのばらつきの方が大きい場合(試料番号3~5、11、21、31、43、51、61および62)には、加速寿命が1.4時間より長くなり、破壊電圧が38Vより高くなり、試験数100におけるクラック数が0となることが確認できた。これに対して、誘電体層の厚みのばらつきよりも内部電極層の厚みのばらつきの方が小さい場合(試料番号1、2、41、42)には、加速寿命が1.4時間以下となるか、破壊電圧が38V以下となるか、または試験数100におけるクラック数が0より多くなることが確認できた。
【符号の説明】
【0185】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… 素子本体
6… 第1端子電極
8… 第2端子電極
10… 誘電体層
12… 内部電極層
100a,100b,100c,100d… グリーンシート
120a,120b,120c,120d… 内部電極パターン層
140… 支持体
160a… 第1シート体
160b… 第2シート体
160c… シート体