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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】クロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/40 20160101AFI20241218BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20241218BHJP
【FI】
A23L5/40
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020199196
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086916
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】竹下 侑里
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼垣 小春
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-007212(JP,A)
【文献】ベルファーム,ベルファーム シークワーサー入り青汁,アマゾン,2019年08月,https://www.amazon.co.jp/,令和6年7月23日検索
【文献】保蔵温度がシークワシャー果汁の品質に及ぼす影響,中村学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要,2009年03月,第41号,p. 297-303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを有効成分とするクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤。
【請求項2】
メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドが、ノビレチンまたはタンゲレチンであることを特徴とする請求項1に記載のクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤。
【請求項3】
クロロフィル含有食品がケール青汁であることを特徴とする請求項1または2に記載のクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤。
【請求項4】
クロロフィル含有食品に対して、メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを、0.001~0.25質量%添加することを特徴とするクロロフィル含有食品用緑色退色抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロフィル含有食品用の緑色退色抑制剤に関する。より詳しく言うと、本発明は、メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを有効成分とし、クロロフィル含有食品が有する緑色色素の退色を抑制する抑制剤、抑制方法及び前記抑制剤を含有するクロロフィル含有食品に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロフィルは緑黄色野菜の葉などに含まれる葉緑体の緑色色素であり、葉緑素とも呼ばれる。青汁、野菜ジュースなどはクロロフィルを含有する食品である。これらの食品は、冷凍、解凍、加熱などの工程を経て製造されるが、各工程を経ることにより緑色色素が少しずつ退色し、黄褐色に変化するという問題がある。例えば、青汁の製造においては、原料の洗浄、破砕、搾汁、濃縮、冷凍、解凍等の工程が幾度も繰り返されるため、その度毎に緑色が少しずつ退色する。また、クロロフィル含有食品の長期保存によっても緑色色素の退色がみられる。
このようなクロロフィル含有食品が有する緑色の退色は商品価値に影響を与えるため、退色を抑制する方法が望まれている。
クロロフィル含有食品の緑色色素の退色抑制に関する従来技術は多岐にわたっており、ミネラル、アスコルビン酸、でんぷん、糖、脂質などの食品添加物の添加やpH調整を行うことなどが報告されている。また、添加物やpH調整以外の方法としては、製造工程の見直しが考えられるが、大掛かりな検討が必要となる上、コストもかかるなどの問題がある。
なお、緑茶抽出物にフラボン誘導体を添加することによって苦味低減効果があることを示す報告があり(特許文献1)、同文献中には色調改善も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4774002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下で、本発明は、クロロフィル含有食品が有する緑色色素の退色を抑制することができる退色抑制剤、抑制方法及び前記抑制剤を含有するクロロフィル含有食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、クロロフィル含有食品の緑色色素の退色を抑制する物質について種々の試薬や食品原料のスクリーニングを実施したところ、メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドが優れた退色抑制作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤及びそれを含有する食品を提供するものである。
(1)メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを有効成分とするクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤。
(2)メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドが、ノビレチンまたはタンゲレチンであることを特徴とする前記(1)に記載のクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤。
(3)クロロフィル含有食品がケール青汁であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のクロロフィル含有食品用緑色退色抑制剤。
(4)クロロフィル含有食品に対して、メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを、0.001~0.25質量%添加することを特徴とするクロロフィル含有食品用緑色退色抑制方法。
(5)ノビレチンまたはタンゲレチンを含有することを特徴とするケール青汁含有食品。
(6)ケール青汁含有食品に対して、ノビレチンまたはタンゲレチンを、0.001~0.25質量%含有することを特徴とする前記(5)記載のケール青汁含有食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、クロロフィル含有食品に含まれるクロロフィルが有する緑色色素の退色抑制に有効な抑制剤、抑制方法及び前記抑制剤を含有するクロロフィル含有食品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試験例1における原料1~3の試験結果を示すグラフである。
図2】試験例1における原料1~3の試験結果を示すグラフである。
図3】試験例1における試薬1~3の試験結果を示すグラフである。
図4】試験例1における試薬1~3の試験結果を示すグラフである。
図5】試験例2における原料1の試験結果を示すグラフである。
図6】試験例2における原料2の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、例を挙げながら詳しく説明する。
クロロフィルは、緑黄色野菜の葉などに含まれる葉緑体の緑色色素であり、葉緑素とも呼ばれる。
【0010】
クロロフィルを含有する食材としては、例えば、緑黄色野菜、藻類等が挙げられる。
緑黄色野菜としては、ケール、大麦若葉、桑の葉、明日葉、ほうれん草、小松菜、にら、大葉、パセリ、春菊、キャベツ、ブロッコリー、ピーマン、水菜、青梗菜、菜の花、レタス、インゲン、バジル、アサツキ、スプラウト、エゴマ、ズッキーニ、さやえんどう、枝豆、アスパラガス等が例として挙げられる。
また、藻類としては、海苔、わかめ等が例として挙げられる。
【0011】
本発明においてクロロフィルを含有する食品としては、これらに限定されないが、上記クロロフィルを含有する食材を含有する青汁や野菜ジュースが好ましい。
青汁の食材としては、特に限定されないが、ケール、明日葉、大麦若葉、桑の葉などが挙げられ、ケールは特に好ましい。
野菜ジュースの食材としては、特に限定されないが、ピーマン、パセリ、ケール、キャベツ、ブロッコリー、ほうれん草、明日葉、アスパラガスなどが挙げられる。
【0012】
本発明においては、メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを添加することにより、クロロフィル含有食品の緑色退色を抑制することができる。
メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドとしては、特に限定されないが、例えば、ノビレチンやタンゲレチン、特にノビレチンが好ましい。
これに対して、ケルセチン、ルテオリン、ミリセチンなどのメトキシ基を持たないフラボノイドは退色抑制効果が期待できない(試験例1)。
【0013】
ノビレチン及びタンゲレチンは、食品原料である柑橘抽出エキス粉末-PMF30(太陽化学社製)などに多く含まれており、クロロフィル含有食品に添加すると、目視でも顕著な緑色退色抑制効果が認められる。
【0014】
本発明においては、メトキシ基を有するポリメトキシフラボノイドを、クロロフィル含有食品に対して、0.001~0.25質量%、特に0.01~0.15質量%添加することが好ましい。
【0015】
なお、本発明の緑色退色抑制剤のクロロフィル含有食品への添加方法やクロロフィル含有食品の製造方法は、限定されない。
【0016】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。試験例及び実施例において、単に「%」と記載するものはすべて「質量%」を意味する。
(試験例1)
本試験例においては、下記表1に記載の食品原料1~3と試薬1~3を冷凍青汁製品に対して添加し、青汁における緑色色素の退色抑制効果を調べた。
【0017】
【表1】
【0018】
原料1の柑橘抽出エキス粉末-PMF30(太陽化学社製)は、ポリメトキシフラボンの1種であるノビレチンとタンゲレチンを規格成分とし、ノビレチンを18質量%以上、タンゲレチンを5質量%以上含有するものである。
原料2のブラックジンジャー抽出物の規格成分は、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、3,5,7-トリメトキシフラボン、3,5,7,4’-テトラメトキシフラボン、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン及び5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボンの6つのポリメトキシフラボンであり、それらを8~12質量%含有するものである。
【0019】
・方法
クロロフィル含有食品として、冷凍青汁製品(搾りたてケール青汁(冷凍):ファンケル社製)を用いた。添加量は、冷凍青汁製品に対して、食品原料1~3は0.5%とし、試薬1~3は0.1%とした。
添加後、30℃で3日間保管した後、色差計(色彩色差計CR-5:コニカミノルタセンシング社製)を用いて、L色空間のクロマティクネス指数(a、b)を測定した。a:値が大きいと赤色を示し、小さいと緑色を示す。また、b:値が大きいと黄色を示し、小さいと青色を示す。
【0020】
・評価基準
1)-a/bの値による比較:-a/bは1に近いほど鮮やかな緑色であることを示す。
2)緑色保持率による評価:緑色保持率=(保存後の-a/b)÷(保存前の-a/b)は、1に近いほど鮮やかな緑色であることを示す。
3)目視による比較
これらの評価基準に基づいて算出、評価した結果を、原料1~3については、表2、図1及び図2に示し、試薬1~3については、表3、図3及び図4に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
・結果
表2、図1及び図2に示される結果から、メトキシ基を有するポリメトキシフラボンを含有する原料1(柑橘抽出エキス粉末-PMF30)や原料2(ブラックジンジャー抽出物)を添加することによって、緑色色素の退色を抑制できることがわかった。特に、ノビレチンとタンゲレチンを多く含有する原料1を添加した場合には、優れた退色抑制効果が得られることがわかった。
一方、メトキシ基を持たないフラボノイドであるケルセチンを含有する原料3の添加では、緑色色素の退色を抑制することができなかった。
これらの結果から、メトキシ基を有するフラボノイドを含有する原料を用いることによって、緑色色素の退色を抑制することができることが明らかになった。
【0024】
さらに、表3、図3及び図4に示される結果から、メトキシ基を有するフラボノイドであるノビレチン(試薬1)の添加では緑色色素の退色を抑制する効果が顕著であったが、メトキシ基を持たないフラボノイドであるルテオリン(試薬2)やミリセチン(試薬3)の添加では緑色色素の退色を抑制することができなかった。
これらの結果から、メトキシ基を有するフラボノイドからなる試薬を用いることによって、青汁の緑色色素の退色を抑制することができることが明らかになった。
【0025】
(試験例2)
本試験例では、試験例1において緑色色素の退色抑制効果を示した原料1(柑橘抽出エキス粉末-PMF30)及び原料2(ブラックジンジャー抽出物)について、青汁に対する添加量を0質量%、0.06質量%、0.13質量%、0.25質量%、0.50質量%及び1.00質量%とし、緑色色素の退色抑制効果をそれぞれ調べた。
この添加量は、原料1の場合は、メトキシ基を有するフラボノイド濃度に換算すると、それぞれ0質量%、0.01質量%、0.03質量%、0.06質量%、0.12質量%、0.23質量%に相当する(表4)。また、原料2の場合は、メトキシ基を有するフラボノイド濃度に換算すると、それぞれ、0質量%、0.01質量%、0.02質量%、0.03質量%、0.06質量%、0.12質量%に相当する(表5)。
試験方法は、保管期間を2日としたこと以外は、試験例1と同じとした。原料1の結果を表4及び図5に、原料2の結果を表5及び図6に示す。
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
・結果
表4、図6に示されるように、試験例1において緑色退色効果を示した原料1(柑橘抽出エキス粉末-PMF30:ノビレチン及びタンゲレチンを含む))は、濃度依存性があり、添加量が多くなると緑色色素の退色抑制効果が大きくなった。
原料1を用いる場合は、PMF濃度が0.23質量%でも緑色色素の退色抑制効果は充分に得られたが、原料1自体の色が現れ、やや黄身がかった色となった。
【0029】
また、表5、図6に示されるように、試験例1において緑色退色効果を示した原料2(ブラックジンジャー抽出物:ノビレチンやタンゲレチンは含まない)も濃度依存性があり、添加量が多くなると緑色色素の退色抑制効果が大きくなった。
原料2を用いる場合は、PMF濃度が0.12質量%でも緑色色素の退色抑制効果は充分に得られたが、原料2自体の色が現れ、やや黒味がかった色となった。
【0030】
(実施例1)
冷凍青汁製品(搾りたてケール青汁(冷凍):ファンケル社製)に対して、ノビレチン(富士フィルム和光純薬社製)を0.10質量%添加し、クロロフィル含有食品を製造した。得られたクロロフィル含有食品は、製造過程中も保管中においても緑色色素の退色がみられず、美しい緑色を呈していた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のクロロフィル含有食品用の緑色退色抑制剤は、クロロフィル含有食品の製造過程や製造後の保管中の緑色色素の退色を抑制することができるため、青汁等の飲食品、医薬品、健康食品などへの利用が多いに期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6