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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】研削盤および研削盤の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 47/12 20060101AFI20241218BHJP
   B24B 5/02 20060101ALI20241218BHJP
   B24B 19/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B24B47/12
B24B5/02
B24B19/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021006493
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110834
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野間元 崇
(72)【発明者】
【氏名】高地 且好
(72)【発明者】
【氏名】祝部 将一
(72)【発明者】
【氏名】尾木 泰之
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-72797(JP,A)
【文献】特許第5443212(JP,B2)
【文献】特開平8-234822(JP,A)
【文献】特開2017-111824(JP,A)
【文献】特開平4-100121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 47/00 - 47/28
B24B 5/02
B24B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を保持する主軸によって、該工作物を連続回転させた状態および回転停止させた状態で複合加工を行う研削盤であって、
前記主軸が前記工作物を保持するための保持トルクを決定するサーボパラメータを、該工作物を連続回転させた状態または回転停止させた状態での加工方法に応じて複数記憶する記憶部と、
前記主軸を制御する主軸制御部と、
実行される加工方法に応じた前記サーボパラメータを前記記憶部から取得して前記主軸制御部に設定するパラメータ切替部と、
を有する制御装置を備え、
前記保持トルクは、前記主軸に付与されるゲインに基づいて該主軸に対して発生するトルクであり、
前記サーボパラメータは、前記主軸の応答性を変化させるゲインの値を含み、
前記パラメータ切替部は、前記工作物を回転停止させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合に、前記主軸が加工負荷に抗して前記工作物を回転停止させた状態で保持するための前記保持トルクを該主軸に与えるよう、該工作物を連続回転させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合よりも高いゲインを前記主軸に与える前記サーボパラメータへ切り替えることを特徴とする研削盤。
【請求項2】
工作物を保持する主軸によって、該工作物を連続回転させた状態および回転停止させた状態で複合加工を行う研削盤の制御方法であって、
前記工作物を連続回転させた状態または回転停止させた状態での加工方法に応じて、前記主軸が前記工作物を保持するための保持トルクを決定するサーボパラメータが複数記憶された記憶部から、実行される加工方法に応じて該サーボパラメータが取得され、取得された該サーボパラメータが、前記主軸を制御する主軸制御部に設定されるパラメータ切替ステップを含み、
前記保持トルクは、前記主軸に付与されるゲインに基づいて該主軸に対して発生するトルクであり、
前記サーボパラメータは、前記主軸の応答性を変化させるゲインの値を含み、
前記パラメータ切替ステップでは、前記工作物を回転停止させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合に、前記主軸が加工負荷に抗して前記工作物を回転停止させた状態で保持するための前記保持トルクを該主軸に与えるよう、該工作物を連続回転させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合よりも、高いゲインを前記主軸に与える前記サーボパラメータが取得されることを特徴とする研削盤の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤および研削盤の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物の表面を削り、所定の形状や寸法精度に仕上げる研削加工において、工作物を連続回転させた状態で研削を行う方法と、工作物を回転停止させた状態で研削を行う方法がある。
【0003】
工作物を連続回転させた状態で研削を行う装置として、例えば、特許文献1のように、工作物と砥石車をそれぞれ連続回転させながら、筒状の工作物の内周面を研削する研削盤が知られている。そして、工作物を回転停止させた状態で研削を行う装置として、例えば、特許文献2のように、主軸によって工作物を回転停止させた状態で保持しながら、砥石車を連続回転させ、筒状の工作物の内面に、軸方向から見て円弧状に窪んだ溝を研削する研削盤が知られている。また、これらの異なる複数の研削加工を1台で行う、複合加工可能な研削盤も知られている。
【0004】
複合加工を行う従来の研削盤では、工作物を保持する主軸の制御は、1種類のサーボパラメータを用いて行われている。つまり、工作物を連続回転させた状態で研削を行う際のサーボパラメータと同一のパラメータが、工作物を回転停止させた状態で研削を行う際にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5443212号公報
【文献】特開2019-72797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ある大きさのモータを用い、そのモータが主軸を駆動して工作物を回転または回転停止状態で保持する場合、工作物の大きさが大きくなるにつれて、モータの構成部品であるロータと工作物との慣性モーメント比は大きくなる。
【0007】
ロータに対する工作物の慣性モーメント比が、例えば、50以下のような比較的小さい値である場合、複合加工を行う従来の研削盤のように、工作物を連続回転させた状態で研削を行う際のパラメータと同一のパラメータを、工作物を回転停止させた状態で保持しながら研削を行う際に用いたとしても、回転停止時に生じる主軸の角度のずれは加工精度に影響しない程度であるため、問題にはならない。しかしながら、同じ大きさのモータを使用し、より大きな工作物を複合加工する場合には問題が生じる。ロータに対する工作物の慣性モーメント比が、例えば、50を超えるような非常に大きな値である場合、工作物を連続回転させた状態で研削を行う際のパラメータと同一のパラメータを、工作物を回転停止させた状態で保持しながら研削を行う際に用いると、モータの回転停止時の保持力が加工抵抗を下回るため、回転停止時に主軸の角度のずれが大きく、加工精度を満足することができない。この問題を解決するために、より容量の大きなモータを用い、工作物との慣性モーメント比を低減させることは容易に考えられるが、その場合、装置の大型化が避けられないという欠点がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、慣性モーメントが非常に大きな工作物であっても、小容量のモータを用いて、精度よく連続回転加工および回転停止加工をすることのできる研削盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明では、主軸を制御するサーボパラメータを加工方法に応じて複数用いられるものとした。
【0010】
具体的には、第1の発明では、工作物を保持する主軸によって、該工作物を連続回転させた状態および回転停止させた状態で複合加工を行う研削盤であって、前記主軸が前記工作物を保持するための保持トルクを決定するサーボパラメータを、該工作物を連続回転させた状態または回転停止させた状態での加工方法に応じて複数記憶する記憶部と、前記主軸を制御する主軸制御部と、実行される加工方法に応じた前記サーボパラメータを前記記憶部から取得して前記主軸制御部に設定するパラメータ切替部と、を有する制御装置を備え、前記パラメータ切替部は、前記工作物を回転停止させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合に、前記主軸が加工負荷に抗して前記工作物を回転停止させた状態で保持できるよう、該工作物を連続回転させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合よりも高い保持トルクを前記主軸に与える前記サーボパラメータへ切り替えることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によると、複数のサーボパラメータから加工方法に応じたサーボパラメータが取得されることで、加工精度を向上させることができる。特に、工作物を回転停止させた状態では、工作物を連続回転させた状態で保持しながら研削する場合よりも高い保持トルクを付与できるサーボパラメータへ切り替えられるため、主軸が加工負荷に抗して工作物を保持できるようになり、主軸の角度ズレが生じない。このような構成によって、慣性モーメントが非常に大きな工作物であっても、小容量のモータを用いて、精度よく連続回転加工および回転停止加工をすることが可能となる。
【0012】
第2の発明では、前記工作物を連続回転させた状態または回転停止させた状態での加工方法に応じて、前記主軸が前記工作物を保持するための保持トルクを決定するサーボパラメータが複数記憶された記憶部から、実行される加工方法に応じて該サーボパラメータが取得され、取得された該サーボパラメータが、前記主軸を制御する主軸制御部に設定されるパラメータ切替ステップを含み、前記パラメータ切替ステップでは、前記工作物を回転停止させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合に、前記主軸が加工負荷に抗して前記工作物を回転停止させた状態で保持できるよう、該工作物を連続回転させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合よりも、高い保持トルクを前記主軸に与える前記サーボパラメータが取得されることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によると、第1の発明と同様に、複数のサーボパラメータから加工方法に応じたサーボパラメータへ切り替えられることにより、加工精度を向上させることが可能となり、慣性モーメントが非常に大きな工作物でも、小容量のモータを用いて、精度よく連続回転加工および回転停止加工をすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、加工方法に応じたサーボパラメータによって主軸が制御されることにより、慣性モーメントが非常に大きな工作物であっても、小容量のモータを用いて、精度よく連続回転加工および回転停止加工をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る研削盤の一例を示す構成図である。
図2】主軸へ工作物が取り付けられた状態を示す断面図である。
図3】工作物とロータの慣性モーメント比を説明するための表である。
図4】工作物の溝加工の一例を示す断面図である。
図5】他の研削工具の一例を示模式図である。
図6】溝加工時の研削盤の処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施例3と比較例1において溝加工時のズレ量を示す表である。
図8】実施例3において用いたサーボパラメータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
(研削盤の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る研削盤の一例を示す構成図である。この研削盤1は、工作物Wを保持する主軸2によって、工作物Wを主軸2回りに連続回転させた状態および回転停止させた状態で複合加工を行うものである。研削盤1は、制御装置4を備え、この制御装置4によって、研削工具3による工作物Wの研削動作や主軸2による工作物Wの位置の割り出し、連続回転または回転停止等を含む研削盤1の様々な動きが統括的に制御されるようになっている。
【0018】
主軸2は、鉛直方向に延びている。主軸2の上端部にはチャック6が設けられ、主軸2はチャック6を介して工作物Wを保持している。チャック6には図示しない電磁石が取り付けられており、この電磁石に電流が供給されることによって、工作物Wが所定の保持トルクで主軸2に保持される。
【0019】
具体的には、図2に示すように、円筒状の工作物Wが、チャック6を介して主軸2に保持されている。主軸2はモータ5によって回転駆動される。主軸2は、上下の軸受9a,9bを介して、ワークテーブル10に固定された主軸ハウジング2aに回転可能に支持されている。
【0020】
モータ5は、ロータ5aとステータ5bを含む。主軸2の外周にロータ5aが固定され、ロータ5aの外周に、主軸ハウジング2a側に固定されたステータ5bが位置している。ステータ5bへ通電されると、主軸2および主軸2に保持された工作物Wが一体に回転駆動される。モータ5は、後述の制御装置4において設定されるサーボパラメータによって制御される。サーボパラメータはゲイン調整のパラメータを含む。
【0021】
なお、工作物Wの大きさによってチャック6は異なる大きさのものが取り付けられてもよい。
【0022】
図3は、小容量のモータを用いた場合において、異なる大きさの工作物Wを取り付けた際の、工作物とロータの慣性モーメント比を示す表である。小容量のモータとは、ここでは、慣性モーメント0.06kg・mのロータ5aを有するモータ5である。実施例1では、ロータ5aにより駆動される主軸2には、慣性モーメント2.9kg・mの工作物Wが取り付けられている。このロータ5aに対する工作物Wの慣性モーメント比は48であり、比較的小さい値であると言える。実施例2では、実施例1と同じ慣性モーメント0.06kg・mのロータ5aにより駆動される主軸2に、慣性モーメント16.2kg・mの工作物Wが取り付けられている。このロータ5aに対する工作物Wの慣性モーメント比は270であり、かなり大きな値であると言える。
【0023】
研削工具3は、工作物Wを研削するための工具である。研削工具3は、鉛直方向に移動可能であり、下端部には工作物Wの研削加工を行う砥石を備える。研削盤1は加工方法に応じて様々な研削工具3を備えることができる。例えば、図1に示すように、研削工具3は、工作物Wの溝加工を行うための砥石3aを有していてもよい。砥石3aは、鉛直方向に対して直交する方向に回転軸を有する砥石車である。このような研削工具3を用いれば、砥石車が回転するとともに下降し、例えば、図4に示すように、円筒状の工作物Wの内周面に対して、主軸方向から見て円弧状に窪んだ溝を研削加工することができる。
【0024】
また、研削工具3は、図5に示すように、工作物Wの円筒加工を行うための砥石3bを有していてもよい。砥石3bは、鉛直方向に回転軸を有する円筒状の砥石である。このような円筒状の砥石3bを有する研削工具3は、回転駆動されるとともに下降し、円筒状の工作物Wの内周面および外周面を所定の寸法精度に研削することができる。
【0025】
(制御装置の構成)
研削盤1を制御する制御装置4は、数値制御によって主軸2および研削工具3を制御する。制御装置4は、工作物Wを回転状態または回転停止状態とするために主軸2のゲインを制御する主軸制御部20を有する。主軸制御部20は、主軸2を駆動するモータ5を制御することにより、主軸2を制御することができる。また、制御装置4は、工作物Wに対する研削動作や位置データ、回転角データ等、研削工具3を制御する工具制御部30を有する。工具制御部30は、研削工具3の回転動作や位置移動の動作を駆動するための図示しない工具駆動用モータを制御することにより、研削工具3を制御することができる。
【0026】
制御装置4には、研削盤1を制御するために必要な様々なデータやパラメータを記憶する記憶部40が含まれている。記憶部40には、工作物Wを連続回転させた状態または回転停止させた状態で研削加工を行う種々の加工方法の動作プログラムや、主軸2が工作物Wを保持するための保持トルクを決定するサーボパラメータが記憶されている。記憶部40には、工作物Wを連続回転させた状態または回転停止させた状態での加工方法に応じて複数のサーボパラメータが記憶されている。サーボパラメータには、例えば、モデル制御ゲイン、位置制御ゲインおよび速度制御ゲインが含まれる。
【0027】
制御装置4は、研削盤1によって実行される加工方法に対応する各種パラメータを記憶部40から取得し、その取得したパラメータを主軸制御部20や工具制御部30へ設定するパラメータ切替部50を含む。例えば、パラメータ切替部50は、実行される加工方法に対応するサーボパラメータを、記憶部40から取得し、取得したサーボパラメータを主軸制御部20に設定する。
【0028】
パラメータ切替部50は、工作物Wを回転停止させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合に、主軸2が加工負荷に抗して工作物Wを回転停止させた状態で保持できるよう、工作物Wを連続回転させた状態で保持しながら研削する加工方法が実施される場合よりも高い保持トルクを主軸2に与えるサーボパラメータへ切り替えるように構成されている。パラメータ切替部50の操作は、予め記憶された動作プログラムによって自動的に切り替えられるものであってもよいが、作業者によるモニタ操作やコントローラによる操作等の手動の操作よって適宜切り替えられるものであってもよい。
【0029】
制御装置4における各構成要素や、各構成要素の接続関係は、必ずしも図1に示した構成に限られず、その接続関係も任意である。例えば、主軸制御部20および工具制御部30は、それぞれ独立した構成要素でなくてもよく、1つの制御部が有する複数の機能として各構成部品を制御するものであってもよい。記憶部40は、フラッシュメモリ、RAM(random access memory)、ROM(read only memory)等の各種メモリやHDD(hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成することができる。主軸制御部20および工具制御部30は、CPUやMPU、システムLSI、DSPや専用ハードウエア等で構成することができる。
【0030】
(研削方法と主軸制御)
主軸制御部20によってサーボパラメータが切り替えられると、ゲインが変更され、モータ5の応答性が変化する。モータ5の応答性の変化に伴い、モータ5が駆動する主軸2の応答性も変化する。主軸2は、より高いゲインが付与される場合は、制御に対する応答性が機敏になり、より低いゲインが付与される場合は鈍重だがスムーズな応答性を示す。具体的には、主軸2を制御するサーボパラメータが低ゲインである場合、主軸2に付与されるトルク感度および最大電流は低くなるように制御され、工作物Wを保持するための保持トルクは低くなる。一方、サーボパラメータが高ゲインである場合、主軸に付与されるトルク感度および最大電流は高くなるように制御され、工作物Wを保持するための保持トルクは高くなる。
【0031】
このような特性を示す主軸2によって保持される工作物Wを、連続回転状態および回転停止状態で複合加工を行う場合、その研削方法によってサーボパラメータを切り替え、主軸2に最適なゲインが付与されることで、加工精度を向上させることができる。
【0032】
例えば、自動制御がオフにされている状態、工作物Wを連続回転状態で内周面や外周面を研削する場合、または、図4に示すように、円筒状の工作物Wの内周面に対して、主軸方向から見て円弧状に窪んだ溝11を研削加工する場合であって、工作物Wを所定の角度θほど回転させて次の溝加工位置へ割り出しを行う際には、低ゲインのサーボパラメータを用いる。工作物Wを回転状態で研削する場合や位置決め動作をさせる場合は、低ゲインのサーボパラメータを用いてスムーズに動作させることで、研削加工中に振動を発生させることなく、加工精度を満足することができる。このような研削方法に対して、高ゲインのサーボパラメータを用いた場合、加工中に振動が発生してしまい、加工精度を満足することができない。
【0033】
また、例えば、工作物Wを回転停止させた状態で保持し、図4に示すように、円筒状の工作物Wの内周面に対して、主軸方向から見て円弧状に窪んだ溝11を研削加工する際には、研削加工中に発生する研削負荷に抵抗して工作物Wの位置を保持することが求められる。工作物Wを回転停止させた状態で研削加工する場合は、高ゲインのサーボパラメータを用いる。高ゲインのサーボパラメータにより、主軸2に十分な保持トルクを発生させることで、研削工具3による研削負荷によって主軸2が角度ズレを発生させることなく、加工精度を満足することができる。このような加工方法に対して、低ゲインのサーボパラメータを用いると、保持トルクが研削負荷に抵抗することができず、主軸2の角度ズレを発生させてしまい、加工精度を満足することができない。
【0034】
(溝加工時の主軸制御)
次に、図4に示すように工作物Wの内周面に対して、主軸方向から見て円弧状に窪んだ溝11を周方向に複数研削加工する時の主軸制御について図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0035】
まず、研削盤1の電源をONにする。作業者が、工作物Wをチャック6に保持させ、研削条件等を図示しない操作パネルで設定することにより、ステップS1においてプログラムが実行され溝加工が開始される。ステップS1は、作業者が設定したプログラムに従い、パラメータ切替部50によって、記憶部40に記憶されたパラメータの中から、主軸2がスムーズに動作できるよう、低い保持トルクを主軸2に与えるような第1サーボパラメータが取得されるパラメータ切替ステップである。なお、電源をONにした状態において、既に第1サーボパラメータが設定されていてもよい。
【0036】
ステップS2では、このようなより低ゲインの第1サーボパラメータが設定された状態で、主軸2が所定の角度回転し、工作物Wの加工溝位置へと割り出される。
【0037】
次いで、ステップS3では、パラメータ切替部50は、記憶部40に記憶されたパラメータの中から、主軸2が加工負荷に抗して工作物Wを回転停止させた状態で保持できるよう、高い保持トルクを主軸2に与える高ゲインの第2サーボパラメータを取得する。ステップS3はパラメータ切替ステップである。
【0038】
高ゲインの第2サーボパラメータが設定された状態で、ステップS4では、主軸2は工作物Wを回転停止させた状態で保持し、砥石3aは、回転しながら下降し、工作物Wの内面に切り込むことで溝11が形成される。
【0039】
続いて、ステップS5において、溝加工が継続されるか、または終了されるか判定がなされる。この時、砥石3aは上昇して工作物Wから一旦離れた状態である。判定がNOであり、溝加工が引き続き行われる場合、パラメータ切替ステップであるステップS6へ進む。
【0040】
ステップS6は、主軸2を次の加工溝位置へ割り出すための準備段階であり、パラメータ切替部50によって、高ゲインの第2サーボパラメータから、より低ゲインの第1サーボパラメータへ切り替えられる。
【0041】
次いで、ステップS2では、より低ゲインの第1サーボパラメータが設定された状態で、主軸2が所定の角度回転し、加工溝位置へと割り出される。
【0042】
位置への割り出しの後には、ステップS3において再びより高ゲインの第2サーボパラメータへ切り替えられ、ステップS4において溝加工が行われる。このように、ステップS2からS6が複数回繰り返され、全ての溝加工が終了すると、ステップS5においてYESの判定がなされ、ステップS7においてより低ゲインの第1サーボパラメータへ切り替えられ、工作物Wの加工は終了する。
【0043】
このように、工作物Wの内面に、主軸方向から見て円弧状に窪んだ溝を周方向に複数研削加工する場合において、主軸2を所定の角度回転させて位置を割り出す場合と、工作物Wを回転停止させた状態で研削加工を行う場合とで、2種類のサーボパラメータを使い分けることにより、研削加工精度を向上させることができる。
【0044】
図7は、サーボパラメータを1種類のみ用いて溝加工を行った場合(比較例1)と、比較例1と同じ研削盤を用い、サーボパラメータを2種類用いて溝加工を行った場合(実施例3)とで、研削加工精度を比較する表である。実施例3では慣性モーメント比が324であり、比較例1では慣性モーメント比115である。実施例3は、比較例1において加工された工作物W1よりも大きな慣性モーメント比を有する工作物W2を加工したにも関わらず、加工後の主軸2の回転方向のズレ量は0.013μm/Nであり、比較例1のズレ量4.05μm/Nよりも低かった。この結果から、工作物を連続回転させた状態または回転停止させた状態での加工方法に応じて複数のサーボパラメータを用いた場合に、1つのサーボパラメータのみを用いた場合よりも、加工精度を向上できることが実証された。このように、複数のサーボパラメータを用いることで、より大きな慣性モーメントを有する工作物を加工することが可能となり、慣性モーメントが非常に大きな工作物であっても、小容量のモータを用いて、精度よく連続回転加工および回転停止加工を行うことが可能である。
【0045】
なお、図8には、実施例3の加工において用いた低ゲインの第1サーボパラメータと高ゲインの第2サーボパラメータを示す。低ゲインの第1サーボパラメータと比較して、高ゲインの第2サーボパラメータでは、モデル制御ゲイン、位置制御ゲインおよび速度制御ゲインがそれぞれ高い値に設定されている。
【0046】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0047】
1 研削盤
2 主軸
2a 主軸ハウジング
3 研削工具
3a 砥石
3b 砥石
4 制御装置
5 モータ
5a ロータ
5b ステータ
6 チャック
10 ワークテーブル
11 溝
20 主軸制御部
30 工具制御部
40 記憶部
50 パラメータ切替部
W 工作物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8