(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】鉄道車両用ブレーキ制御装置、鉄道車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B61H 13/00 20060101AFI20241218BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20241218BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20241218BHJP
B60T 8/88 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B61H13/00
B60T8/00 Z
B60T8/1761
B60T8/88
(21)【出願番号】P 2021015170
(22)【出願日】2021-02-02
【審査請求日】2024-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】木上 昭吾
(72)【発明者】
【氏名】笠松 正樹
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-191448(JP,A)
【文献】特開平07-196025(JP,A)
【文献】特開平05-294237(JP,A)
【文献】特表2009-518224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61H 1/00-15/00
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両を制動するブレーキ装置を非常時に作動させるための非常用ブレーキ指令を受信する受信部と、
前記非常用ブレーキ指令に応答して、所定のブレーキ力を目標ブレーキ力とし、前記目標ブレーキ力を発生させるように前記ブレーキ装置を制御するブレーキ制御部と、
前記ブレーキ装置の制御中に、前記鉄道車両の車輪に滑走が生じているか否かを判断する滑走判断部と、
前記非常用ブレーキ指令が発令された原因が前記鉄道車両の外部の原因及び前記鉄道車両の内部の原因のいずれであるかを判断する原因判断部と、
を備え、
前記ブレーキ制御部は、前記非常用ブレーキ指令に応答して前記所定のブレーキ力を発生させた後、前記目標ブレーキ力を前記所定のブレーキ力以上に設定し、前記滑走が生じていると判断されるまで当該目標ブレーキ力を増大させ
、
前記ブレーキ制御部は、前記原因が前記外部の原因であると判断された場合には前記目標ブレーキ力を増大させ、前記原因が前記内部の原因であると判断された場合には前記目標ブレーキ力を維持又は減少させる、
鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ制御部は、前記滑走が解消された場合、前記滑走が生じる前のブレーキ力以上に前記目標ブレーキ力を増大させる、
請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ制御部は、前記鉄道車両の車軸の回転速度と所定の基準速度との速度差が所定の速度差基準値よりも小さい場合には、前記速度差が前記速度差基準値以上である場合に比べて前記目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を大きくする、
請求項1又は2に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記鉄道車両の進行方向の躍度を取得する躍度取得部を備え、
前記ブレーキ制御部は、前記躍度が閾値よりも大きい場合、前記目標ブレーキ力の増大を停止する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記ブレーキ制御部は、前記鉄道車両の進行方向の後方側に相対的に位置する前記車輪に対する前記目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を、前記進行方向の前方側に相対的に位置する前記車輪に対する前記目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量よりも大きくする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記受信部は、ブレーキ操作に応じて指定された目標ブレーキ力を発生させるように前記ブレーキ装置を作動させるための常用ブレーキ指令を受信し、
前記ブレーキ制御部は、前記常用ブレーキ指令に応答して、前記指定された目標ブレーキ力を発生させるように前記ブレーキ装置を作動させる、
請求項1から5のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記原因判断部は、前記鉄道車両の進行方向前方に障害物がある場合に前記原因が前記外部の原因であると判断する、請求項
1に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記ブレーキ制御部は、前記鉄道車両と前記障害物との間の距離が所定の距離基準値よりも小さい場合には、前記距離が前記距離基準値以上である場合に比べて前記目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を大きくする、
請求項
7に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記鉄道車両用ブレーキ制御装置が異常な状態であるか否かを判断する異常判断部を備える、請求項1から
8のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項10】
前記ブレーキ制御部は、前記非常用ブレーキ指令を受信していない状態では、前記鉄道車両の非常用電磁弁に励磁信号を供給することにより、前記非常用電磁弁を励磁させて前記非常用電磁弁において前記ブレーキ装置のブレーキシリンダへの前記鉄道車両の応荷重弁からの応荷重圧に基づくブレーキ圧の供給を遮断させ、
前記ブレーキ制御部は、前記鉄道車両用ブレーキ制御装置が異常な状態である場合には、前記非常用電磁弁に前記励磁信号を供給せずに、前記非常用電磁弁を消磁させて前記非常用電磁弁を介して前記ブレーキシリンダに前記応荷重圧に基づくブレーキ圧を供給させる、
請求項
9に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項11】
鉄道車両の車輪とレールとの間の滑走を検出する滑走検出部と、
前記鉄道車両を制動するブレーキ装置を非常時に作動させるための非常用ブレーキ指令を受信する受信部と、
前記非常用ブレーキ指令に応答して、所定のブレーキ力を目標ブレーキ力とし、前記目標ブレーキ力を発生させるように前記ブレーキ装置を制御するブレーキ制御部と、
前記ブレーキ装置の制御中に、前記鉄道車両の車輪に滑走が生じているか否かを判断する滑走判断部と、
前記非常用ブレーキ指令が発令された原因が前記鉄道車両の外部の原因及び前記鉄道車両の内部の原因のいずれであるかを判断する原因判断部と、
を含む鉄道車両用ブレーキ制御装置と、
前記ブレーキ装置と、を備え、
前記ブレーキ制御部は、前記非常用ブレーキ指令に応答して前記所定のブレーキ力を発生させた後、前記目標ブレーキ力を前記所定のブレーキ力以上に設定し、前記滑走が生じていると判断されるまで当該目標ブレーキ力を増大さ
せ、
前記ブレーキ制御部は、前記原因が前記外部の原因であると判断された場合には前記目標ブレーキ力を増大させ、前記原因が前記内部の原因であると判断された場合には前記目標ブレーキ力を維持又は減少させる、
鉄道車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用ブレーキ制御装置及び鉄道車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転台等からの非常ブレーキ指令により、一定のブレーキ力の非常ブレーキが作動される技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、鉄道車両に用いられるブレーキ制御装置について以下の認識を得た。非常時には、鉄道車両を緊急停車させるために非常用ブレーキが作動される。この非常用ブレーキでは、走行中の鉄道車両を停止させることに重点を置くため比較的大きいブレーキ力が設定される。一方で、鉄道車両のブレーキ装置としてはその発生可能なブレーキ力に余力がある場合が多い。
【0005】
ここで、事故等を抑制する上では、非常時に緊急停車する際の制動距離をより小さくすることが望ましい。この制動距離をより小さくするために、非常用ブレーキよりもブレーキ力の大きいブレーキを作動させることが考えられる。しかし、ブレーキ力を単純に大きくしすぎると、鉄道車両が滑走してしまい、その制動距離を効果的に低減できないという問題がある。そのため、本発明者らは、ブレーキ制御装置には、非常時により大きいブレーキ力のブレーキを効果的に作動させることにより、鉄道車両の制動距離をより低減できる余地があることを認識した。
【0006】
上記を鑑み、本発明の目的は、非常時に緊急停車する際に制動距離を効果的に低減可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の鉄道車両用ブレーキ制御装置は、
鉄道車両を制動するブレーキ装置を非常時に作動させるための非常用ブレーキ指令を受信する受信部と、
前記非常用ブレーキ指令に応答して、所定のブレーキ力を目標ブレーキ力とし、前記目標ブレーキ力を発生させるように前記ブレーキ装置を制御するブレーキ制御部と、
前記ブレーキ装置の制御中に、前記鉄道車両の車輪に滑走が生じているか否かを判断する滑走判断部と、
を備え、
前記ブレーキ制御部は、前記非常用ブレーキ指令に応答して前記所定のブレーキ力を発生させた後、前記目標ブレーキ力を前記所定のブレーキ力以上に設定し、前記滑走が生じていると判断されるまで当該目標ブレーキ力を増大させる。
【0008】
本発明の他の態様の鉄道車両用ブレーキ装置は、
鉄道車両の車輪とレールとの間の滑走を検出する滑走検出部と、
前記鉄道車両を制動するブレーキ装置を非常時に作動させるための非常用ブレーキ指令を受信する受信部と、
前記非常用ブレーキ指令に応答して、所定のブレーキ力を目標ブレーキ力とし、前記目標ブレーキ力を発生させるように前記ブレーキ装置を制御するブレーキ制御部と、
前記ブレーキ装置の制御中に、前記鉄道車両の車輪に滑走が生じているか否かを判断する滑走判断部と、
を含む鉄道車両用ブレーキ制御装置と、
前記ブレーキ装置と、を備え、
前記ブレーキ制御部は、前記非常用ブレーキ指令に応答して前記所定のブレーキ力を発生させた後、前記目標ブレーキ力を前記所定のブレーキ力以上に設定し、前記滑走が生じていると判断されるまで当該目標ブレーキ力を増大させる。
【0009】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非常時に緊急停車する際に制動距離を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】鉄道車両用ブレーキ装置を搭載した鉄道車両の構成を概略的に示す構成図である。
【
図2】第1実施形態のブレーキ制御装置を概略的に示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態のブレーキ制御装置の動作のフローチャートである。
【
図4】ブレーキ制御装置の滑走制御の動作のフローチャートである。
【
図5】ブレーキ制御装置の滑走制御の動作を説明する図である。
【
図6】ブレーキ制御装置のブレーキ力増大制御の動作のフローチャートである。
【
図7】ブレーキ制御装置のブレーキ力増大制御の動作を説明する図である。
【
図8】第2実施形態のブレーキ制御装置を概略的に示すブロック図である。
【
図9】第3実施形態のブレーキ制御装置を概略的に示すブロック図である。
【
図10】第3実施形態のブレーキ制御装置の動作のフローチャートである。
【
図11】第4実施形態のブレーキ制御装置を概略的に示すブロック図である。
【
図12】第4実施形態のブレーキ制御装置の動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の鉄道車両用ブレーキ装置を搭載した鉄道車両1を概略的に示す構成図である。
図2は、鉄道車両用ブレーキ装置の鉄道車両用ブレーキ制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。鉄道車両1は、車体2と、一対の台車3a及び3bと、鉄道車両用ブレーキ装置10と、を備える。鉄道車両用ブレーキ装置10は、鉄道車両用ブレーキ制御装置100(以下、ブレーキ制御装置)と、ブレーキ装置16と、を備える。
【0014】
台車3a及び3bは、車体の前後に設けられ、車体を支持する。台車3aには、車輪12a、12bと、車軸14a、14bと、ブレーキ装置16aとが設けられる。台車3bには、車輪12c、12dと、車軸14c、14dと、ブレーキ装置16bと、が設けられる。台車3a及び3bを総称するときは台車3という。車輪12a~12dを総称するときは車輪12という。車軸14a~14dを総称するときは車軸14という。ブレーキ装置16a及び16bを総称するときはブレーキ装置16という。
【0015】
車軸14は、台車3の前後にそれぞれ配置され、各車軸の両端には車輪12が取り付けられる。車軸14はギア部(不図示)を介してモータ(不図示)から伝達される駆動力により回転する。
【0016】
ブレーキ装置16は、鉄道車両1を制動する。ブレーキ装置16は、鉄道車両1を減速、停止させる制動力を車軸14に付与する。本実施形態のブレーキ装置16は、ブレーキシリンダ17と、摩耗材18と、ブレーキ圧供給装置20と、を含む空気ブレーキ装置である。ブレーキシリンダ17には、圧縮空気を供給する供給経路となる圧縮空気配管19を介してブレーキ圧供給装置20が接続される。このブレーキ圧供給装置20から圧縮空気配管19を介して供給される圧縮空気によってブレーキシリンダ圧が上昇することで、ブレーキシリンダ17が作動する。このブレーキシリンダ17の作動により、摩耗材18を車軸14の踏面に押しつけ、車軸14に制動力を生じさせる。
【0017】
ブレーキ圧供給装置20について説明する。ブレーキ圧供給装置20は、応荷重弁21と、常用電磁弁22と、非常用電磁弁23と、複式逆止弁24と、中継弁25と、滑走制御弁26と、を備える。
【0018】
応荷重弁21は、鉄道車両1を支持する空気バネ31の圧力に基づいて、空気タンク32から供給される圧縮空気圧を用いて応荷重圧を生成する。この応荷重圧は、乗客の重量を含む鉄道車両1の全重量に応じた圧力となる。
【0019】
常用電磁弁22は、後述のブレーキ信号に基づいて、後述の常用ブレーキ指令において指定された目標ブレーキ力を生成するように空気タンク32から供給される圧縮空気を用いてブレーキ指令圧を生成して複式逆止弁24に供給する。また、本実施形態では、このブレーキ指令圧は、後述のブレーキ力増大制御において増大させたブレーキ力を発生させるためにも利用される。
【0020】
非常用電磁弁23は、後述の励磁信号の供給停止に応答して、非常用ブレーキ用のブレーキ力を生成するように応荷重弁21の応荷重圧を非常用ブレーキ圧として複式逆止弁24に供給する。本実施形態の非常用電磁弁23は、電磁コイルを励磁、消磁することで、内部の空気通路を切り替える弁である。非常用電磁弁23は、通常時には後述の励磁信号に応じて励磁されており、応荷重弁21からの応荷重圧の供給を遮断している。一方で、非常用電磁弁23は、ブレーキ制御装置100から励磁信号の供給が停止されることにより消磁する。その結果、応荷重弁21の応荷重圧が非常用電磁弁23を通って非常用ブレーキ圧として複式逆止弁24に供給される。
【0021】
複式逆止弁24は、2つの入力ポートと、1つの出力ポートと、を有する弁である。複式逆止弁24は、上記2つの入力ポートのそれぞれに異なる圧力の流体が与えられた場合に、圧力の大きいほうの流体を出力ポートに供給するように構成される。複式逆止弁24の一方の入力ポートは常用電磁弁22に接続され、他方の入力ポートは非常用電磁弁23に接続される。したがって、複式逆止弁24の出力ポートは、常用電磁弁22からのブレーキ指令圧及び非常用電磁弁23からの非常用ブレーキ圧のうちの圧力の大きい方を出力する。
【0022】
中継弁25は、空気タンク32の圧縮空気を用いて、複式逆止弁24を介して供給されるブレーキ指令圧又は非常用ブレーキ圧の容量増幅を行う。これにより、容量増幅されたブレーキ指令圧又は非常用ブレーキ圧が出力される。中継弁25から出力されたブレーキ圧は、滑走制御弁26を介してブレーキシリンダ17に供給される。なお、中継弁25は、車輪12の一軸毎に設けられてもよい。本実施形態の容量増幅された非常用ブレーキ圧は、応荷重圧に基づくブレーキ圧の一例である。
【0023】
滑走制御弁26は、滑走が生じていると判断された場合に、中継弁25からブレーキシリンダ17に供給されるブレーキ圧を小さくしてブレーキ力を小さくするために用いられる。滑走制御弁26は、供給動作と、保持動作と、排気動作と、を実行するように制御される。供給動作は、ブレーキ装置16に通常のブレーキ力を生じさせるための動作である。保持動作は、ブレーキシリンダ17の内部圧力(ブレーキ装置16のブレーキ圧力)を保持してブレーキ力を維持するための動作である。排気動作は、ブレーキシリンダ17に供給される圧縮空気の一部を外部に排気してブレーキ力を小さくするための動作である。したがって、滑走制御弁26の排気動作を実行する期間を長くすることにより、ブレーキ力の減少幅を大きくすることが可能となる。
【0024】
図2を参照して、ブレーキ制御装置100を説明する。
図2に示す鉄道車両用ブレーキ制御装置100の各機能ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0025】
本実施形態のブレーキ制御装置100は、受信部101と、ブレーキ制御部102と、滑走判断部103と、記憶部104と、を備える。
【0026】
受信部101は、常用ブレーキ指令と、非常用ブレーキ指令とを受信する。常用ブレーキ指令は、ブレーキ操作に応じて指定された目標ブレーキ力を発生させるようにブレーキ装置16を作動させるための指令である。非常用ブレーキ指令は、ブレーキ装置16を非常時に作動させるための指令である。非常用ブレーキ指令は、例えば、運転士によるブレーキ操作や鉄道車両1の外部装置からの緊急停止信号の受信に応答して鉄道車両1の運転台4から受信部101に供給される。
【0027】
ブレーキ制御部102は、常用ブレーキ指令に応答して、目標ブレーキ力を設定し、その目標ブレーキ力を発生させるようにブレーキ装置16を制御する。例えば、ブレーキ制御部102は、常用ブレーキ指令において指定されたブレーキ力を目標ブレーキ力として設定し、この設定された目標ブレーキ力を発生させるためのブレーキ信号を常用電磁弁22に供給する。ブレーキ制御部102は、非常用ブレーキ指令を受信していない状態では、励磁信号を非常用電磁弁23に供給することにより、非常用電磁弁23を励磁させて非常用電磁弁23においてブレーキシリンダ17への非常用ブレーキ圧の供給を遮断させている。ブレーキ制御部102は、非常用ブレーキ指令に応答して、所定のブレーキ力を目標ブレーキ力として設定し、目標ブレーキ力を発生させるようにブレーキ装置16を制御する。例えば、ブレーキ制御部102は、非常用ブレーキ指令に応答して、非常用電磁弁23への励磁信号の供給を停止することにより、非常用電磁弁23を消磁させて非常用電磁弁23を介してブレーキシリンダ17に上記容量増幅された非常用ブレーキ圧を供給させる。これにより、非常用ブレーキ用の所定のブレーキ力が目標ブレーキ力として設定される。
【0028】
本実施形態の鉄道車両1は、車輪12とレール間の粘着力を利用する粘着ブレーキを採用している。雨天時の湿潤条件などによる粘着力の低下が制動距離に大きく影響する。粘着力が低下して車輪が滑走すると、制動距離が大きくなる。そのため、ブレーキ制御部102は、制動距離の大幅な延伸を抑制するために、滑走が生じた場合に制動力を弱めるように後述の滑走制御を実行する。
【0029】
本実施形態のブレーキ制御部102は、非常用ブレーキ指令に応答して、その制動距離をより小さくするために、ブレーキ力増大制御を実行する。このブレーキ力増大制御では、ブレーキ制御部102は、非常用ブレーキ指令に応答して所定のブレーキ力を発生させた後、目標ブレーキ力を上記所定のブレーキ力以上に設定し、滑走が生じていると判断されるまで当該目標ブレーキ力を増大させる。ブレーキ制御部102は、このブレーキ力増大制御において、その増大させた目標ブレーキ力を発生させるためのブレーキ信号を常用電磁弁22に供給する。このブレーキ力増大制御の詳細については、後述する。
【0030】
滑走判断部103は、ブレーキ装置16の制御中に、車輪12に滑走が生じているか否かを判断する。滑走判断部103は、公知の様々な方法を採用して車輪12の滑走を検知する。本実施形態の滑走判断部103は、車軸14の回転速度と鉄道車両1の並進速度(以下、「車両速度Vs」という)との比較に基づいて滑走しているか否かを判断する。車両速度Vsは、鉄道車両1に設けられたGPSや車速センサ(不図示)等から取得される。車軸14の回転速度は、車軸14の回転位置に応じたパルス信号を出力するエンコーダなどの回転センサ(不図示)の単位時間当たりのパルス数から特定できる。車軸14の回転速度に所定の係数を乗じることにより車両速度と対比可能な速度(以下、「軸速度Va」という)を算出できる。
【0031】
車輪12とレールとの間にマクロ的なすべり生じていない粘着状態では、車両速度Vsと軸速度Vaとは等しい。車輪12とレールとの間にすべりが生じると、車両速度Vsと軸速度Vaとの速度差dVが増える。滑走が発生した滑走状態では、車両速度Vsと軸速度Vaとの速度差dVが大きくなる。滑走判断部103は、速度差dVが閾値以下の場合に滑走が生じていないと判断し、速度差dVが閾値を超えている場合に、滑走が生じていると判断し、その判断結果をブレーキ制御部102に提供する。
【0032】
記憶部104は、各種データを記憶する。記憶部104は、例えば、滑走が生じる直前のブレーキ装置16におけるブレーキ圧(以下、AC圧力という)を記憶する。
【0033】
以下、
図3を参照して、ブレーキ制御装置100の動作S100を説明する。
図3は、動作S100のフローチャートである。
【0034】
S101で、ブレーキ制御部102は、受信部101を介して非常用ブレーキ指令を受信したか否かを判定する。非常用ブレーキ指令を受信していない場合(S101のN)、動作S100はS101に戻る。非常用ブレーキ指令を受信した場合(S101のY)、動作S100はS102に進む。
【0035】
S102で、ブレーキ制御部102は、非常用ブレーキを作動させる。
【0036】
S103で、滑走判断部103は、速度差dVに基づいて車輪12に滑走が所定時間生じていないか否かを判断する。滑走が生じている場合(S103のN)、滑走判断部103は滑走検出信号をブレーキ制御部102に供給し、動作S100はS104に進む。滑走が所定時間生じていない場合(S103のY)、滑走判断部103は滑走非検出信号をブレーキ制御部102に供給し、動作S100はS105に進む。
【0037】
S104で、ブレーキ制御部102は、滑走検出信号に応答して、後述する滑走制御を実行する。その後、動作S100は、S103に戻る。
【0038】
図4及び
図5を用いて、滑走制御について説明する。
図4は、滑走制御の動作S104のフローチャートである。
図5は、滑走制御の動作S104を説明する図である。
図5は、横軸の経過時間とともに、車両速度Vs、軸速度VaおよびAC圧力を示す。
【0039】
動作S104は、非常用ブレーキ指令に応じてAC圧力が高くなった状態で開始される。
図5に示すように、この状態では、ブレーキ装置16のブレーキ力により車両速度Vsおよび軸速度Vaが徐々に低下する。初期の粘着状態では車両速度Vsと軸速度Vaの速度差dVはほぼゼロであるが、すべりが生じると速度差dVは徐々に大きくなる。
【0040】
滑走が生じていると判断されると、S111で、ブレーキ制御部102は、滑走検知時点のAC圧力を記憶部104に記憶させる。本実施形態では、滑走が生じていると判断された
図5のA点におけるAC圧力が記憶される。
【0041】
S112で、ブレーキ制御部102は、滑走制御弁26に排気動作を実行させる。この滑走検知直後の排気動作では、S111で記憶したAC圧力のP
1[%]を排気する。その結果、
図5に示すように、AC圧力はそのP
1[%]分だけ下がる。
【0042】
S113で、滑走判断部103は、速度差dVに基づいて収束状態であるか否かを判断する。収束状態とは、速度差dVが変化しない状態または減少する状態をいう(例えば
図5のB点)。収束状態ではない場合(S113のN)、動作S104はステップS112に戻る。以降、収束状態であると判断されるまで、S112で、S111で記憶されたAC圧力のP
2[%]が排気される。収束状態である場合(ステップS113のY)、動作S104はS114に移行する。したがって、S112の排気動作は、収束状態であると判断されるまで所定の排気時間Tp毎に繰り返される。
【0043】
S114で、ブレーキ制御部102は、収束が検知されたときのAC圧力を保持する。収束状態になると、速度差dVは徐々に減少し、最終的には速度差dV=0となって再粘着(
図5のC点)が検知される。再粘着検知を行うまでの保持状態が長時間継続する場合は、記憶されたAC圧力のP
3[%]をTc[ms]毎に排気する。なお、この保持動作を維持する間に再滑走が検知された場合には、動作S104はS111に戻ってもよい。この場合、再滑走が検知された時のAC圧力が記憶部104に記憶されればよい。
【0044】
再粘着が検知された場合、S115で、ブレーキ制御部102は、滑走制御弁26に供給動作を実行させ、滑走制御を終了させて通常のブレーキ動作に移行する。通常のブレーキ動作に移行したら動作S104は終了する。
【0045】
図3に戻ると、S105で、ブレーキ制御部102は、供給された滑走非検出信号に応答して、後述するブレーキ力増大制御を実行する。S105の後、動作S100は終了する。
【0046】
図6を用いて、S105のブレーキ力増大制御について説明する。まず、S121で、ブレーキ制御部102は、受信部101を介してブレーキ力増大制御停止指令を受信したか否かを判定する。ブレーキ力増大制御停止指令は、例えば、鉄道車両1が停止した場合や運転士によってブレーキ力増大制御を停止するための操作入力がなされた場合等に、運転台4から受信部101に供給される。ブレーキ力増大制御停止指令を受信した場合(S121のY)、動作S105は終了する。ブレーキ力増大制御指令を受信していない場合(S121のN)、動作S105はS122に進む。
【0047】
S122で、ブレーキ制御部102は、ブレーキ力を所定の量だけ増大させるように目標ブレーキ力を設定し、その設定されたブレーキ力を発生させるようにブレーキ装置16を制御する。具体的には、ブレーキ制御部102は、増大後の目標ブレーキ力に対応するブレーキ指令圧を発生させるように、常用電磁弁22にブレーキ信号を供給する。常用電磁弁22は、このブレーキ信号に応答して、増大後の目標ブレーキ力に対応するブレーキ指令圧を生成し、このブレーキ指令圧を複式逆止弁24に供給する。
【0048】
一方で、常用電磁弁22からのブレーキ指令圧の供給に並行して、複式逆止弁24には、非常用ブレーキ指令に応答して非常用電磁弁23から非常用ブレーキ圧が供給される。上述したように、複式逆止弁24は、ブレーキ指令圧及び非常用ブレーキ圧のうち、圧力の大きい方を中継弁25に供給する。そのため、非常時には、その発生するブレーキ力が非常用ブレーキのブレーキ力未満になることはなく、すなわち非常用ブレーキ以上のブレーキ力を作用させることが可能となる。
【0049】
本実施形態のブレーキ制御部102は、速度差dVが所定の速度差基準値よりも小さい場合には、速度差dVが所定の速度差基準値以上である場合よりもS122での目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を大きくする。例えば、ブレーキ制御部102は、速度差dVが段階的に複数定められた速度差基準値を超えた場合に、その超えた速度差基準値に対応する上記増大量を設定してもよい。また、ブレーキ制御部102は、速度差dVが大きくなるにつれて、目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を段階的又は連続的に大きくしてもよい。
【0050】
S123で、ブレーキ制御部102は、ブレーキ力を増大させた後のAC圧力を記憶部104に記憶させる。
【0051】
S124で、滑走判断部103は、速度差dVに基づいて車輪12に滑走が所定時間生じていないか否かを判断する。滑走が生じている場合(S124のN)、滑走判断部113は滑走発生信号をブレーキ制御部102に供給し、動作S105はS125に進む。滑走が生じていない場合(S124のY)、S105はS121に戻る。
【0052】
S125で、ブレーキ制御部102は、滑走制御を実行する。S125の滑走制御は、S104の滑走制御と同様であるため、その説明を省略する。なお、S125の滑走制御では、S111のAC圧力の記憶動作を省略して、S123で記憶したAC圧力を用いてもよい。S125の後、S105はS126に移行する。
【0053】
S126で、ブレーキ制御部102は、目標ブレーキ力を滑走が生じる前の目標ブレーキ力に戻す。具体的には、ブレーキ制御部102は、S123で記憶されたAC圧力に対応するブレーキ力を発生させるようにブレーキ装置16を制御する。これにより、ブレーキ力増大制御では、滑走の解消後も、非常用ブレーキのブレーキ力よりも大きいブレーキ力が維持されることになる。なお、S126では、目標ブレーキ力を滑走が生じる前のブレーキ力よりも大きくなるように設定してもよい。S126の後、S105はS124に戻る。
【0054】
図7を参照して、S105のブレーキ力増大制御におけるブレーキ力について説明する。
図7は、ブレーキ力増大制御におけるブレーキ力の変化の一例を示す。まず、比較のため、非常用ブレーキにおけるブレーキ力について説明する。非常用ブレーキにおけるブレーキ力は、
図7中の実線で示される。非常用ブレーキの作動により、ブレーキ力がD点に急峻に立ち上がるように増大した後、一定のブレーキ力が維持される。K点で鉄道車両1が停止すると、非常用ブレーキの作動が終了する。このように、非常用ブレーキでは、鉄道車両1が停止するまでK点までの時間を要することとなる。
【0055】
次に、ブレーキ力増大制御におけるブレーキ力について説明する。ブレーキ力増大制御におけるブレーキ力は、
図7中の破線で示される。非常用ブレーキ指令を受信すると、非常用ブレーキが作動される(
図3のS102)。ここでは、ブレーキ力がD点に急峻に立ち上がるように増大する。その後、滑走がD点からE点までの所定時間生じていない場合(
図3のS103のY)、ブレーキ力増大制御が実行され、ブレーキ力が増大される(
図6のS122)。その後、F点で滑走が検出されると(
図6のS124のN)、滑走制御が実行される(
図6のS125)。その後、G点で再粘着が検出されると、滑走が生じる前のブレーキ力となるようにH点までブレーキ力が増大される(
図6のS125)。その後、I点までの所定時間滑走が検出されない場合(
図6のS124のY)、ブレーキ力が増大される(
図6のS122)。その後、
図6のS121~S124の制御ループを繰り返し、J点でブレーキ力増大制御停止指令を受信すると(
図6のS121のY)、ブレーキ力増大制御が終了し、ブレーキ装置16の作動が終了する。H点からJ点までのブレーキ力に示されるように、ブレーキ制御部102は、滑走が解消された場合、滑走が生じる前のブレーキ力以上に目標ブレーキ力を増大させていることが理解される。このように、ブレーキ力増大制御では、非常用ブレーキのブレーキ力よりも大きいブレーキ力を鉄道車両1に付与することができる。そのため、
図7のJ点で示すように、非常用ブレーキを作動させる場合(
図7のK点)よりも鉄道車両1が停止するまでに要する時間を低減することが可能となる。
【0056】
以下、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0057】
非常時には、鉄道車両1を緊急停車させるために運転台4から非常用ブレーキ指令が発令され、この非常用ブレーキ指令に応答して非常用ブレーキが作動される。この非常用ブレーキは、走行中の鉄道車両1を緊急停止させる観点だけでなく乗客に与える急ブレーキの衝撃の緩和等の安全性の観点も考慮して、乗客の重量を含む鉄道車両1の全重量に基づく応荷重圧に応じた一定のブレーキ力を鉄道車両1に作用させる。一方で、ブレーキ装置16では、空気タンク32から供給される圧縮空気を用いて、より大きいブレーキ力を発生させることが可能である。
【0058】
ここで、鉄道車両1の前方の障害物との衝突事故等を抑制する上では、非常時での制動距離をより小さくすることが望ましい。この制動距離をより小さくするために、非常用ブレーキよりもブレーキ力の大きいブレーキを作動させることが考えられる。しかし、ブレーキ力を単純に大きくしすぎると、鉄道車両1が滑走し、その制動距離を効果的に低減できないという問題がある。
【0059】
そこで、本実施形態のブレーキ制御部102は、非常用ブレーキ指令に応答して所定のブレーキ力を発生させた後、目標ブレーキ力を上記所定のブレーキ力以上に設定し、滑走が生じていると判断されるまで当該目標ブレーキ力を増大させる。本実施形態によると、滑走を抑制しつつ、非常用ブレーキ指令に応答して発生される所定のブレーキ力以上のブレーキ力を鉄道車両1に作用させることが可能となる。その結果、非常時に緊急停車する際に制動距離を効果的に低減することが可能となる。
【0060】
本実施形態では、ブレーキ制御部102は、滑走が解消された場合、滑走が生じる前のブレーキ力以上に目標ブレーキ力を増大させる。ここで、滑走の解消後は、滑走の発生前よりも車速が小さくなっているため、滑走の発生前よりも車輪12とレールとの粘着限界が大きくなることが知られている。本構成によると、滑走の解消後で車輪12とレールとの粘着限界が大きくなっていることを考慮して目標ブレーキ力を増大できる。そのため、制動距離をより小さくすることができる。
【0061】
本実施形態では、ブレーキ制御部102は、速度差dVが所定の速度差基準値よりも小さい場合には、速度差dVが所定の速度差基準値以上である場合に比べて目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を大きくする。本構成によると、速度差dVを考慮して目標ブレーキの単位時間当たりの増大量を調整できるため、滑走を効果的に解消することが可能となる。その結果、制動距離をより小さくすることができる。
【0062】
[変形例]
以下、変形例について説明する。
【0063】
本実施形態では、速度差dVに応じて滑走が生じているか否かを判断する例を示したが、これに限定されない。例えば、滑走判断部103は、車両速度Vsに対する速度差dVの比率(「すべり率」ともいう)に応じて、滑走の有無を判断してもよい。
【0064】
本実施形態では、ブレーキ装置16及び滑走制御弁26が台車3毎に設けられる例を示したが、これに限定されない。例えば、ブレーキ装置16及び滑走制御弁26は、車軸14毎に設けられてもよい。また、滑走制御弁26は、別々に制御されてもよいし、台車3の2つの車軸を一体的に制御してもよい。
【0065】
本実施形態では、鉄道車両1毎にブレーキ制御装置100が設けられたが、これに限定されない。例えば、ブレーキ制御装置100は、車軸14や台車3毎に設けられてもよい。また、例えば、複数の鉄道車両1によって構成される列車においては、ブレーキ制御装置100は、複数の鉄道車両1を一括で制御するようにその列車に1つだけ設けられてもよい。
【0066】
本実施形態では、速度差dVに基づいて目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を調整したが、これに限定されない。例えば、目標ブレーキの増大量は一定であってもよい。
【0067】
また、鉄道車両1の進行方向の後方側に相対的に位置する車輪12は、その進行方向の前方側に相対的に位置する車輪12よりも滑走が生じにくい。そこで、ブレーキ制御部102は、鉄道車両1の進行方向の後方側に相対的に位置する車輪12に対する目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を、その進行方向の前方側に相対的に位置する車輪12に対する目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量よりも大きくしてもよい。ここでの「進行方向の前方側又は後方側に相対的に位置する」とは、1つの鉄道車両1での前後関係のみならず、複数の鉄道車両1間での前後関係を含む。本構成によると、滑走の発生を抑制しつつ、鉄道車両全体の制動距離を効果的に小さくすることができる。
【0068】
本実施形態では、常用電磁弁22を用いてブレーキ増大制御におけるAC圧力を生成したが、これに限定されない。例えば、非常用電磁弁23を制御してブレーキ増大制御におけるAC圧力を生成してもよいし、常用電磁弁22及び非常用電磁弁23とは別に、ブレーキ増大制御におけるAC圧力の生成用の電磁弁を追加で設けてもよい。
【0069】
本実施形態では、動作S104が収束判定するステップS113を含む例を示したが、これに限定されない。例えば、滑走制御弁26は、排気時間Tpの累積時間や排気動作の作動回数によって制御されてもよい。この場合、収束判定せずに滑走制御を終了させて通常のブレーキ動作に移行してもよい。
【0070】
本実施形態では、所定の速度差基準値との比較に用いられる速度差dVを車両速度Vsと軸速度Vaとの速度差としたが、これに限定されない。例えば、回転速度が最も小さい車軸14の軸速度を基準軸速度とし、各車軸14の軸速度Vaと基準軸速度との速度差を速度差dVとしてもよい。したがって、速度差dVは、各車軸14の軸速度Vaと所定の基準速度との速度差であってもよい。
【0071】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0072】
図8を参照する。本実施形態のブレーキ制御装置100は、鉄道車両1の進行方向の躍度を取得する躍度取得部105を備える。本実施形態の躍度取得部105は、鉄道車両1に設けられた躍度センサ(不図示)の出力値から躍度を取得する。なお、躍度センサを使用せずに、加速度センサによる加速度の出力値を時間微分することにより、躍度が取得されてもよい。
【0073】
本実施形態のブレーキ制御部102は、躍度取得部105によって取得された躍度が閾値よりも大きい場合、目標ブレーキ力の増大を停止する。この閾値は、設計等に応じて適宜定められる。
【0074】
上記のブレーキ力増大制御においては、非常ブレーキよりもブレーキ力の大きいブレーキが作用する。そのため、その急ブレーキによって、非常ブレーキの場合よりも大きい衝撃を車内の乗客が受けるおそれがある。本実施形態によると、躍度が閾値を超える程度の大きな衝撃が加わる場合に目標ブレーキ力の増大を停止することが可能となる。その結果、乗客の乗り心地の悪化を抑制できる。特に1両編成の場合、ブレーキ力増大制御によって乗り心地が比較的悪化しやすくなるため、その悪化を抑制するために有効である。
【0075】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0076】
図9を参照する。本実施形態のブレーキ制御装置100は、非常用ブレーキ指令が発令された原因が鉄道車両1の外部の原因であるか否かを判断する原因判断部106をさらに備える。
【0077】
図10を参照して、本実施形態のブレーキ制御装置100の動作S200を説明する。
図10は、動作S200のフローチャートである。動作S200において、S201からS204、S206の処理は、特に言及する場合を除いて上述したS101から105と基本的に同様であるため、その説明を省略する。
【0078】
S203で、滑走が生じていないと判断された場合(S203のY)、滑走判断部103は滑走非検出信号を原因判断部106に供給し、動作S200はS205に進む。
【0079】
S205で、原因判断部106は、非常用ブレーキ指令が発令された原因が鉄道車両1の外部の原因であるか否かを判断する。ここでの「外部の原因」とは、例えば、車両前方の障害物(人、物体、土砂崩れ等)の出現、地震や強風の発生等をいう。例えば、運転士のブレーキ操作を介さずに外部装置からの緊急停止信号に応じて運転台4から非常用ブレーキ指令が発令される場合、この緊急停止信号に基づいて非常用ブレーキ指令の原因が鉄道車両1の外部の原因であると判断される。また、例えば、運転士が鉄道信号を識別し、運転士のブレーキ操作により運転台4から非常用ブレーキ指令が発令される場合、ブレーキ制御装置100が鉄道車両1を自己診断する。この場合、例えば、ブレーキ制御装置100が電源喪失や元空気管の圧力低下などの内部原因ではないと自己診断した場合、非常用ブレーキ指令の原因が鉄道車両1の外部の原因であると判断される。
【0080】
外部の原因であると判断された場合、原因判断部106は外部原因信号をブレーキ制御部102に供給して、動作S200はS206に進む。S206では、ブレーキ制御部102は、外部原因信号に応答して、上記ブレーキ力増大制御を実行する。外部の原因ではないと判断された場合、原因判断部106は内部原因信号をブレーキ制御部102に供給して、動作S200はS207に進む。
【0081】
S207で、ブレーキ制御部102は、内部原因信号に応答して、鉄道車両1が停車したか否かを判断する。鉄道車両1が停車した場合、動作S200は終了する。鉄道車両1が停車していない場合、動作S200はS207に戻る。S207では、S202で作動させた非常用ブレーキが作動した状態であるため、鉄道車両1が停止するまで目標ブレーキ力を増大させずに非常用ブレーキを作動させ続けることとなる。
【0082】
非常用ブレーキ指令が発令された原因が鉄道車両1の外部の原因である場合、障害物の衝突や鉄道車両1の転倒の危険性が高くなるため、より迅速に停車することが求められる。一方で、上記原因が鉄道車両1の内部の原因である場合、上記衝突や転倒の危険性がそれほど大きくないため、緊急停車の必要性は外部の原因の場合よりも低い。そのため、このような内部の要因であっても上記ブレーキ力増大制御を実行すると、非常ブレーキよりも大きいブレーキ力を作用させることから、乗客の乗り心地を不必要に悪化させてしまうおそれがある。本実施形態では、ブレーキ制御部102は、上記原因が外部の原因ではないと判断された場合には上記ブレーキ力増大制御を実行せずに目標ブレーキ力を増大させず、上記原因が外部の原因ではないと判断された場合にブレーキ力増大制御を実行して目標ブレーキ力を増大させる。本構成によると、必要に応じて上記ブレーキ力増大制御を実行できるため、乗客の乗り心地の悪化を抑制しつつ、制動距離を効果的に小さくすることが可能となる。
【0083】
ここで、鉄道車両1の進行方向前方に障害物があり、その障害物までの距離が小さく、その障害物との衝突の危険性が高い場合、より大きいブレーキ力を鉄道車両1に付与してその制動距離をより小さくする必要がある。一方で、その障害物までの距離が大きく、その障害物との衝突の危険性が低い場合、衝突の回避よりも乗客の乗り心地や安全を考慮して停車することが求められる。
【0084】
そこで、本実施形態では、原因判断部106が外部の原因として鉄道車両1の進行方向前方に障害物があると判断した場合、ブレーキ制御部102は、鉄道車両1と障害物との間の距離が所定の距離基準値よりも小さい場合には、上記距離が所定の距離基準値以上である場合に比べて目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を大きくしてもよい。例えば、ブレーキ制御部102は、障害物との距離が段階的に複数定められた距離基準値を下回った場合に、その下回った閾値に対応する上記増大量を設定する。また、ブレーキ制御部102は、障害物との距離が小さくなるにつれて、目標ブレーキ力の単位時間当たりの増大量を段階的又は連続的に大きくしてもよい。
【0085】
本構成によると、車両前方の障害物との距離を考慮して目標ブレーキ力の増大量を調整できる。そのため、障害物との距離が小さいときは制動距離をより小さくし、障害物との距離が大きいときはブレーキによる乗客に対する衝撃を緩和しつつ、障害物との衝突を抑制することができる。
【0086】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態の図面および説明では、第3実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第3実施形態と重複する説明を適宜省略し、第3実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0087】
図11を参照する。本実施形態のブレーキ制御装置100は、ブレーキ制御装置100が異常な状態であるか否かを判断する異常判断部107をさらに備える。
【0088】
図12を参照して、本実施形態のブレーキ制御装置100の動作S300を説明する。
図12は、動作S200のフローチャートである。動作S300において、S301からS304、S306、S307の処理は、特に言及する場合を除いて上述したS201から204、S206、S207と基本的に同様であるため、その説明を省略する。
【0089】
S303で、滑走が生じていないと判断された場合(S303のY)、滑走判断部103は滑走非検出信号を異常判断部107に供給し、動作S300はS305に進む。
【0090】
S305で、異常判断部107は、ブレーキ制御装置100が異常な状態であるか否かを判断する。ここでの「ブレーキ制御装置100が異常な状態」とは、例えば、ブレーキ制御装置100が故障した状態やブレーキ制御装置100のメモリ等に格納されたソフトウェアに不具合がある状態等である。これらの「異常な状態」は、公知の方法を適宜用いて判断される。
【0091】
異常な状態であると判断された場合、異常判断部107は異常状態信号をブレーキ制御部102に供給して、動作S300はS306に進む。異常な状態ではないと判断された場合、異常判断部107は正常状態信号をブレーキ制御部102に供給して、動作S300はS307に進む。S307で、ブレーキ制御部102は、正常状態信号に応答して、鉄道車両1が停車したか否かを判断する。
【0092】
ここで、ブレーキ制御装置100が異常な状態である場合、上記のブレーキ力増大制御が適切に実行されないことがある。その結果、例えば制動距離を効果的に小さくできずに、乗客等の安全性が阻害されるおそれがある。本実施形態によると、ブレーキ制御部102は、ブレーキ制御装置100が異常な状態であると判断された場合には、上記のブレーキ力増大制御を実行しない。そのため、ブレーキ制御部102は、ブレーキ制御装置100が異常な状態である場合には、非常用電磁弁への励磁信号を供給せずに非常用ブレーキを作用させ続けることとなる。この構成によると、乗客の安全をより適切に確保して緊急停車させることが可能となる。
【0093】
上述した各実施形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0094】
1 鉄道車両、 4 運転台、 10 鉄道車両用ブレーキ装置、 16 ブレーキ装置、 20 ブレーキ圧供給装置、 100 鉄道車両用ブレーキ制御装置、 101 受信部、 102 ブレーキ制御部、 103 滑走判断部、 104 記憶部、 105 躍度取得部、 106 原因判断部、 107 異常判断部。