(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/30 201G
(21)【出願番号】P 2021036612
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2023-10-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】末田 有一郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 亮太
【審査官】相澤 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-059742(JP,A)
【文献】特開2017-028253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層と内部電極層とを含む素子本体と、
前記素子本体の端面に形成してあり、前記内部電極層の一部と電気的に接続している外部電極と、を有し、
前記セラミック層が、ABO
3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分として含み、
前記外部電極が、導体と、前記導体中に分散したガラスフリットとを含み、
前記ガラスフリットが、B、Si、Ba、Znを含み、
前記素子本体の端面において、前記外部電極と接する前記セラミック層の端部には、境界層が存在し、前記境界層には、Ba、Zn、Siを含む酸化物が含まれており、
前記境界層の平均厚み1~10μmであり、
前記境界層を含む断面において、
前記境界層に対して前記ガラスフリット
の粒子が
直に接して
いる拡散領域が前記導体に対して、アンカー効果を持つ粒子形状を有
し、アンカー形状の前記拡散領域が、前記境界層と前記外部電極との接合境界100μm中に3箇所以上存在する
セラミック電子部品。
【請求項2】
前記境界層には、さらに、前記ペロブスカイト型化合物が含まれている請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記境界層に含まれる前記酸化物において、
Baの含有量と、Znの含有量と、Siの含有量との和を1モル部とすると、
Znの含有量が、0.27モル部~0.40モル部、
Siの含有量が、0.27モル部~0.40モル部、
残部がBaである請求項1または2のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記境界層に含まれる前記酸化物が、BaZnSiO
4である請求項1~3のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記外部電極に含まれる前記ガラスフリットにおいて、
Bの含有量と、Siの含有量と、Baの含有量と、Znの含有量との和を1モル部とすると、
Siの含有量が、0.05モル部~0.20モル部、
Baの含有量が、0.05モル部~0.25モル部、
Znの含有量が、0.15モル部~0.35モル部、
残部がBである請求項1~4のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記外部電極に含まれる前記導体が、Cuを含む請求項1~5のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部電極を有するセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、セラミック成分を含む素子本体と、当該素体の外面に形成してある外部電極と、を備えるセラミック電子部品が知られている。セラミック電子部品の外部電極としては、焼付電極が広く採用されており、焼付電極は、導体粉末とガラスフリットとを含む導電ペーストを素体表面に塗布して焼き付けることで形成できる。当該焼付電極は、メッキ電極や樹脂電極を素体表面に直に形成する場合に比べて、高い接合強度が得られる。
【0003】
ただし、セラミック電子部品に熱衝撃などの負荷が加わると、焼付電極と素体表面との間の界面に応力が発生し、素体表面から焼付電極が剥離する虞がある。そのため、素体と焼付電極との接合信頼性を高める技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、素子本体と外部電極との接合信頼性が高いセラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係るセラミック電子部品は、
セラミック層と内部電極層とを含む素子本体と、
前記素子本体の端面に形成してあり、前記内部電極層の一部と電気的に接続している外部電極と、を有し、
前記セラミック層が、ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を主成分として含み、
前記外部電極が、導体と、前記導体中に分散したガラスフリットとを含み、前記ガラスフリットが、B、Si、Ba、Znを含み、
前記素子本体の前記端面において、前記外部電極と接する前記セラミック層の端部には、境界層が存在し、前記境界層には、Ba、Zn、Siを含む酸化物が含まれている。
【0007】
本発明者は、セラミック電子部品が上記の構成を有することにより、素子本体と外部電極との接合信頼性を従来よりも向上できることを見出した。すなわち、本発明のセラミック電子部品では、熱衝撃を受けたとしても、素子本体の端面から外部電極が剥離することを抑制できる。上記の効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下に示す事由が考えられる。
【0008】
まず、相互拡散現象が接合信頼性の向上に寄与していると考えられる。本発明では、外部電極と境界層との間で、Ba、Zn、およびSiが共通成分となっている。そのため、外部電極と境界層との間では、上記の共通成分が相互拡散すると考えられ、この相互拡散により、素子本体に対する外部電極の接合強度が向上すると考えられる。また、上記のように所定の元素が含まれる境界層は、素子本体と外部電極との間に生じる熱応力を緩和する働きを示すと考えられ、この応力緩和作用により、熱衝撃などに対する耐性が向上すると考えられる。
【0009】
好ましくは、前記境界層には、さらに、前記ペロブスカイト型化合物が含まれている。境界層に、素子本体のセラミック層を構成している主成分が含まれることで、境界層と素子本体との接合強度がより向上する。
【0010】
前記境界層に含まれる前記酸化物において、Baの含有量と、Znの含有量と、Siの含有量との和を1モル部とすると、好ましくは、
Znの含有量が、0.27モル部~0.40モル部、
Siの含有量が、0.27モル部~0.40モル部、
残部がBaである。
もしくは、好ましくは、前記境界層に含まれる前記酸化物が、BaZnSiO4である。境界層が上記の要件を満足することにより、素子本体と外部電極との接合信頼性がさらに向上する傾向となる。
【0011】
前記外部電極に含まれる前記ガラスフリットにおいて、Bの含有量と、Siの含有量と、Baの含有量と、Znの含有量との和を、1モル部とすると、好ましくは、
Siの含有量が、0.05モル部~0.20モル部、
Baの含有量が、0.05モル部~0.25モル部、
Znの含有量が、0.15モル部~0.35モル部、
残部がBである。外部電極が上記の要件を満足することにより、素子本体と外部電極との接合信頼性がさらに向上する傾向となる。
【0012】
好ましくは、前記外部電極に含まれる前記導体が、Cuを含む。
【0013】
また、好ましくは、前記素子本体の前記端面と前記外部電極との接合境界を含む断面において、前記境界層に対して前記ガラスフリットが直に接している拡散領域が、前記接合境界100μm中に、3箇所以上存在する。当該要件を満足することにより、素子本体と外部電極との接合信頼性がさらに向上する傾向となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す領域IIを拡大した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
本実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品の一例として、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2について説明する。積層セラミックコンデンサ2は、素子本体4と、当該素子本体4の外面に形成してある一対の外部電極6と、を有する。
【0017】
図1に示す素子本体4の形状は、通常、略直方体状であって、X軸方向で対向する2つの端面4aと、Y軸方向で対向する2つの側面4bと、Z軸方向で対向する2つの側面4bとを有する。ただし、素子本体4の形状は、特に制限されず、楕円柱状、円柱状、その他角柱状等であってもよい。また、素子本体4の外形寸法も、特に制限されず、たとえば、X軸方向の長さL0を0.4mm~5.7mm、Y軸方向の幅W0を0.2mm~5.0mm、Z軸方向の高さT0を0.2mm~3.0mmとすることができる。なお、本実施形態において、X軸、Y軸、Z軸は、相互に垂直である。
【0018】
そして、素子本体4は、X軸およびY軸を含む平面に実質的に平行なセラミック層10と内部電極層12とを有し、素子本体4の内部では、セラミック層10と内部電極層12とがZ軸方向に沿って交互に積層してある。ここで、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していてもよいことを意味し、セラミック層10と内部電極層12とは、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよい。
【0019】
セラミック層10は、主成分として、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を含む。ここで、セラミック層10の主成分とは、セラミック層10全体に対して80モル%以上含有される成分を指す。
【0020】
ペロブスカイト型化合物では、Aサイトに少なくともBaが含まれることが好ましく、ペロブスカイト型化合物の中でも、特に、チタン酸バリウム(BT)、または、チタン酸バリウムカルシウム(BCT)であることがより好ましい。チタン酸バリウムおよびチタン酸バリウムカルシウムは、一般的に、組成式(Ba1-a-b Sra Cab )m(Ti1-c-d Zrc Hfd )O3で表すことができる。
【0021】
上記組成式において、符号a、b、c、d、mは、それぞれ、元素比率を示しており、各元素比率は、特に限定されず、公知の範囲に設定することができる。たとえば、mは、Bサイトに対するAサイトの元素比率を示しており、一般的に0.9~1.1の範囲とすることができる。また、aはAサイトに占めるSrの元素比率を示し、bはAサイトに占めるCaの元素比率を示している。本実施形態では、0≦a+b<1とすることができ、0≦a+b≦0.1とすることが好ましい。また、cはBサイトに占めるZrの元素比率を示し、dはBサイトに占めるHfの元素比率を示している。本実施形態では、0≦c+d<1.0とすることができ、0≦c+d≦0.15とすることが好ましい。なお、上記組成式における酸素(O)の元素比率は、化学量論組成から若干偏倚していてもよい。
【0022】
また、セラミック層10には、上述した主成分の他に、副成分が含まれていてもよい。副成分としては、たとえば、Mn化合物、Mg化合物、Cr化合物、Ni化合物、希土類元素化合物、Si化合物、Li化合物、B化合物、V化合物などが挙げられ、副成分の種類や組み合わせ、およびその添加量は、特に限定されない。
【0023】
セラミック層10の1層当たりの平均厚みTd(層間厚み)は、特に制限されず、たとえば、100μm以下とすることができ、好ましくは30μm以下である。また、セラミック層10の積層数については、所望の特性に応じて決定すればよく、特に限定されない。たとえば、20層以上、より好ましくは50層以上とすることができる。
【0024】
一方、内部電極層12は、各セラミック層10の間に積層され、その積層数は、セラミック層10の積層数に応じて決定される。そして、内部電極層12の1層当たりの平均厚みTeは、特に制限されず、たとえば、3.0μm以下とすることができる。
【0025】
さらに、複数の内部電極層12については、一方の端部が、素子本体4のX軸方向で対向する2つの端面4aに交互に露出するように、積層してある。そして、一対の外部電極6が、それぞれ、素子本体4の一方の端面4aに形成され、交互に配置された内部電極層12の露出端に電気的に接続してある。このように外部電極6を形成することで、外部電極6と内部電極層12とで、コンデンサ回路が構成される。
【0026】
つまり、内部電極層12は、コンデンサ回路の一部として、各セラミック層10に電圧を印加する機能を果たす。そのため、内部電極層12の材質は、導電材を含んで構成される。具体的な材質としては、たとえば、Cu、Ni、Ag、Pd、Au、Pt、またはこれらの金属元素のうち少なくとも1種を含む合金を用いることができる。より好ましくは、内部電極層12に含まれる導電材は、セラミック層10の構成材料が耐還元性を有するため、NiまたはNi系合金である。また、NiまたはNi系合金を主成分とする場合には、Mn、Cu、Crなどから選択された1種類以上の内部電極用副成分が含有していてもよい。
【0027】
なお、内部電極層12には、上記の導電材の他に、セラミック層10に含まれるセラミック成分が共材として含まれていてもよく、SやP等の非金属成分が微量に(たとえば、0.1質量%以下程度)含まれていてもよい。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の外部電極6は、素子本体4のX軸方向の端面4aに形成される端面部と、素子本体4の4つの側面4bにおいてX軸方向の端部に形成された延長部と、を一体的に有する。すなわち、一対の外部電極6は、それぞれ、素子本体4の端面4aから側面4bに回り込むように形成されている。なお、一対の外部電極6は、X軸方向で互いに接触しないように絶縁されている。
【0029】
上述したように、本実施形態では、外部電極6の延長部が、素子本体4の4つの側面4bにそれぞれ形成してある。ただし、外部電極6の延長部は、必須ではなく、外部電極6が端面部のみで構成してあってもよい。もしくは、積層セラミックコンデンサ2を基板に面実装する場合には、外部電極6の延長部は、少なくとも基板の実装面と対向する側面4bに形成されていればよく、実装面とは反対側の側面4bには形成しなくともよい。
【0030】
図2は、外部電極6と素子本体4との接合境界46を拡大した概略断面図である。なお、
図2では、一対の外部電極6のうち一方を示しているが、他方の外部電極6も
図2と同様の特徴を有している。以下、
図2に基づいて、本実施形態における外部電極6の詳細な特徴、および、外部電極6と素子本体4との接合状態について説明する。
【0031】
図2に示すように、外部電極6は、導体61とガラスフリット62とを含む焼付電極6aを有しており、当該焼付電極6aは、素子本体4の外面(端面4a)に接している。なお、外部電極6は、単一の電極層で構成してあってもよいし、複数の電極層を積層して構成してあってもよい。複数の電極層で外部電極6を構成する場合は、素子本体4の外面と接するように上記の焼付電極を形成し、その焼付電極のうえに、他の焼付電極や樹脂電極、もしくはメッキ電極などを形成する。たとえば、外部電極6は、焼付電極-Niメッキ層-Snメッキ層の三層構造(記載の順番に積層する)とすることができ、この場合、外部電極6の最表面にSnメッキ層が位置するため、外部電極6のハンダ濡れ性が良好となる。
【0032】
端面4aと接する焼付電極6aの平均厚みは、5μm~200μmとすることができ、50μm以下とすることが好ましい。また、外部電極6が複数層で構成される場合は、外部電極6の平均厚みは、5μm~300μm程度とすることができ、100μm以下であることが好ましい。
【0033】
焼付電極6aに含まれる導体61は、導電性の金属であり、たとえば、Cu、Ni、Ag、Pd、Au、Pt、またはこれらの金属元素のうち少なくとも1種を含む合金とすることができ、CuまたはCu合金であることが好ましい。導体61をCu合金とする場合、導体61には、Cu以外にAl、Ni、Ag、Pd、Sn、Zn、P、Fe、Mnなどの元素が含まれ得る。Cu以外の元素は、Cu100モル部に対して、5モル部以下とするのが好ましい。
【0034】
一方、ガラスフリット62は、B、Si、Ba、Znを含む非晶質ガラスであり、導体61中に分散して存在している。ガラスフリット62の組成は、以下の条件を満たすことが好ましい。すなわち、Bの含有量と、Siの含有量と、Baの含有量と、Znの含有量との和を1モル部とすると、Siの含有量が0.05モル部~0.20モル部であることが好ましく、Baの含有量が0.05モル部~0.25モル部であることが好ましく、Znの含有量が0.15モル部~0.35モル部であることが好ましく、残部がB(好ましくはBの含有量が0.20モル部~0.60モル部)である。
【0035】
なお、ガラスフリット62の化合物構造は、特に限定されず、複数のガラス成分が混在することで上記の組成比を実現していてもよい。たとえば、ガラスフリット62は、SiO2からなるガラス成分と、B2O3-BaO-ZnOからなるガラス成分(好ましくはBa3Zn(BO3)2)との混合物であってもよい。また、ガラスフリット62は、上述した主要元素(B、Si、Ba、Zn、O)の他に、微量元素が含まれていてもよい。微量元素としては、たとえば、Al、希土類元素、Zr、Mn、Ca、Mg、Ti、K、Naなどが挙げられ、微量元素の合計含有量は、Oを除く主要元素の合計含有量1.0モル部に対して、0.20モル部以下であることが好ましい。
【0036】
上記のとおり、焼付電極6aには、導体61とガラスフリット62とが含まれ、その他に、図示しない空隙や酸化物副成分などが含まれ得る。また、焼付電極6aにおける導体61とガラスフリット62との含有比は、特に限定されない。たとえば、焼付電極6aの断面に占める導体61の平均面積割合は、30%~90%とすることができ、70%~90%であることが好ましい。
【0037】
なお、外部電極6は、SEM(走査型電子顕微鏡)またはSTEM(走査透過型電子顕微鏡)などによる断面観察で解析することができる。たとえば、導体61やガラスフリット62の組成は、断面観察の際に、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による成分分析を行うことで測定できる。成分分析は、少なくとも3箇所以上で実施し、測定結果の平均値により各要素(61,62)の組成を算出することが好ましい。本実施形態において、EPMAで成分分析等を行う場合、X線分光器として、EDS(エネルギー分散型分光器)、もしくはWDS(波長分散型分光器)を使用することができる。
【0038】
また、導体61の面積割合は、SEMやSTEMなどの断面観察により得られた断面写真を画像解析することで測定できる。SEMの反射電子像やSTEMのHAADF像などで焼付電極6aの断面を観察した場合、金属結合を有する導体61は、コントラストの明るい部分として認識でき、ガラスフリット62などの非金属成分(その他、空隙や酸化物も含む)はコントラストの暗い部分として認識できる。そのため、焼付電極6aの断面に占める導体61の面積割合は、断面写真を二値化するなどして、測定視野全体の面積に対するコントラストが明るい部分の面積の比率として算出できる。なお、当該測定は、少なくとも5視野以上で実施し、その平均値を算出することが好ましい。
【0039】
図2に示すように、外部電極6と素子本体4のセラミック層10との間には、境界層14が介在している。この境界層14は、セラミック層10のX軸方向の端部に存在しており、素子本体4における端面4aの最表面の一部を構成している。外部電極6が、端面4aから側面4bの一部に跨って形成してある場合は、境界層14は、端面4a以外に、側面4bの最表面にも存在することが好ましい。
【0040】
なお、
図2に示す断面では、内部電極層12が、境界層14を貫通して端面4aに露出しており、この露出した内部電極層12の端部が、外部電極6の焼付電極6a(特に導体61)と電気的に接合している。ただし、X-Z断面を観察した場合、端面4aでは、境界層14が一部の内部電極層12の端部(X軸方向の端部)を覆っている箇所が存在していてもよい。各内部電極層12は、Y軸方向に沿って存在しており、各内部電極層12の端部が、一部でも境界層14を貫通し焼付電極6aと直に接していれば、端部が部分的に境界層14で覆われていたとしても、各内部電極層12と外部電極6との電気的接合は確保できる。また、外部電極6の一部が境界層14の内部に入り込んでいてもよく、外部電極6と素子本体4の端面4a(境界層14や内部電極層12)との接合境界46は、不明瞭であってもよい。
【0041】
また、境界層14のX軸方向の平均長さLr(平均厚み)は、1μm~10μmであることが好ましく、3μm~8μmであることがより好ましい。
【0042】
境界層14は、Ba、Zn、Si、Oを含む酸化物を主成分として含む。なお、境界層14の主成分とは、境界層14全体に対して、50モル%以上含有される成分を指す。当該酸化物は、ガラス化していない結晶質の酸化物であることが好ましく、具体的に以下の組成を満たすことが好ましい。
【0043】
すなわち、境界層14に含まれる酸化物において、Baの含有量と、Znの含有量と、Siの含有量との和(Oを除く主要元素の含有量の和)を1モル部とすると、Znの含有量が0.27モル部~0.40モル部であることが好ましく、Siの含有量が0.27モル部~0.40モル部であることが好ましく、残部がBaである(好ましくは、Baの含有量が0.28モル部~0.39モル部)。上記組成比を満たす酸化物の中でも、特に、BaZnSiO4が境界層14に含まれていることがより好ましい。
【0044】
また、境界層14には、上述した酸化物の他に、セラミック層10の主成分であるペロブスカイト型化合物が含まれることが好ましい。当該ペロブスカイト型化合物は、境界層14を形成するための原料ペースト中に意図的に添加することで、境界層14中に含まれ得る。ただし、ペロブスカイト型化合物は、セラミック層10から拡散して、境界層14に侵入することも考えられ、境界層14におけるペロブスカイト型化合物の含有量は、特に限定されない。境界層14にセラミック層10の主成分が含まれることで、セラミック層10に対する境界層14の接合強度がより向上すると考えられる。
【0045】
なお、境界層14には、上述した酸化物およびペロブスカイト型化合物の他に、Al、Ti、Ca、Bなどを含む微量化合物が含まれていてもよい。また、境界層14には、CuやNiなどの導電性の金属成分が含まれていてもよい。微量化合物や金属成分の含有量は特に限定されない。
【0046】
上記の特徴を有する境界層14は、素子本体4のセラミック層10と焼付電極6aとの接合強度を向上させる機能を有する。特に、焼付電極6aに含まれるガラスフリット62の一部が、境界層14の一部に、直に接することで、端面4aに対する焼付電極6aの接合強度がより向上する。ガラスフリット62と境界層14は、いずれも、Ba、Zn、Siを含んでおり、これら共通要素が、ガラスフリット62と境界層14との間で相互拡散することで、焼付電極6aの接合強度が向上すると考えられる。本実施形態では、ガラスフリット62の一部が、境界層14の一部に直に接している箇所を、拡散領域46aと称する(
図2参照)。
【0047】
この拡散領域46aは、Z軸方向における接合境界46の所定長さLz中に、所定の数以上存在することが好ましい。具体的に、
図2に示すような端面4aと外部電極6との接合境界46を含む断面(X-Z断面)において、所定長さLzを100μmとすると、拡散領域46aが3箇所以上存在することが好ましく、7箇所以上存在することがより好ましい。拡散領域46aの個数の上限値は、特に制限されないが、内部電極層12と焼付電極6aとの電気的接合を確保する観点から、15箇所以下であることが好ましい。
【0048】
なお、接合境界46は、
図2に示すような断面において、蛇行していたり、部分的に不明瞭となっていたりする場合がある。拡散領域46aの個数を測定する際には、接合境界46の蛇行箇所や不明瞭箇所などを正確に測定して所定長さLzを算出する必要はなく、断面写真の幅を、接合境界46の所定長さLzと見なせばよい。たとえば、
図2に示すように接合境界46と断面写真の1辺が実質的に平行となるように、断面写真を撮影し、断面写真のZ軸方向の幅を接合境界46の所定長さLzと見なす。
【0049】
また、境界層14に直に接しているガラスフリット62の粒子(すなわち、拡散領域46aを構成しているガラスフリット62の粒子)は、アンカー効果が得られる形状であることが好ましい。「アンカー効果が得られる粒子形状」とは、粒子が境界層14の外面(Y-Z面)に沿って薄く広がるのではなく、
図2に示すように、粒子が、境界層14の外面から焼付電極6aの内側に向かって(すなわちX軸方向の外側に向かって)、3次元的に広がることを意味する。すなわち、接合境界46に位置するガラスフリット62の粒子が、接合境界46から導体61の隙間に向かって入り込むことで、フックの返しが食い込むようにアンカー効果が得られ、素子本体4に対する外部電極6の接合強度がより向上する。なお、当該アンカー効果は、たとえば、焼付電極6aの原料ペーストに添加するガラスフリットの粒子形状を制御することにより実現できる。
【0050】
なお、境界層14は、焼付電極6aと同様に、SEMやSTEMなどによる断面観察により解析することができる。たとえば、境界層14の平均長さLr、および、拡散領域46aの個数は、断面写真を画像解析することで測定できる。また、境界層14の組成は、EPMAによる成分分析により測定できる。
【0051】
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0052】
まず、素子本体4の製造工程について、説明する。素子本体4の製造工程では、焼成後にセラミック層10となる誘電体用ペーストと、焼成後に内部電極層12となる内部電極用ペーストとを準備する。
【0053】
誘電体用ペーストは、たとえば以下のような方法で製造される。まず、誘電体原料を湿式混合等の手段によって均一に混合し、乾燥させる。その後、所定の条件で熱処理することで、仮焼粉を得る。次に、得られた仮焼粉に、公知の有機ビヒクルまたは公知の水系ビヒクルを加えて混練し、誘電体用ペーストを調製する。こうして得られた誘電体用ペーストを、ドクターブレード法などの手法によりシート化することで、セラミックグリーンシートを得る。なお、誘電体用ペーストには、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリットなどから選択される添加物が含有されていてもよい。
【0054】
一方、内部電極用ペーストは、導電性金属またはその合金からなる導電性粉末と、公知のバインダや溶剤とを、混練して調製する。なお、内部電極用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末(たとえばチタン酸バリウム粉末)が含まれていてもよい。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0055】
次に、セラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷等の各種印刷法や転写法により、内部電極用ペーストを所定のパターンで塗布する。そして、内部電極パターンを形成したグリーンシートを複数層に渡って積層した後、積層方向にプレスすることでマザー積層体を得る。なお、この際、マザー積層体の積層方向の上面および下面には、セラミックグリーンシートが位置するように、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとを積層する。
【0056】
上記の工程により得られたマザー積層体を、ダイシングや押切りにより所定の寸法に切断し、複数のグリーンチップを得る。グリーンチップは、必要に応じて、可塑剤などを除去するために固化乾燥をしてもよく、固化乾燥後に水平遠心バレル機などを用いてバレル研磨してもよい。バレル研磨では、グリーンチップを、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入し、当該バレル容器に対して回転運動や振動などを与えることで、切断時に生じたバリなどの不要箇所を研磨する。なお、バレル研磨後のグリーンチップは、水などの洗浄液で洗浄し乾燥させる。
【0057】
次に、上記で得られたグリーンチップに対して、脱バインダ処理および焼成処理を施し、素子本体4を得る。
【0058】
脱バインダ処理の条件は、セラミック層10の主成分組成や内部電極層12の主成分組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~400℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0059】
焼成処理の条件は、セラミック層10の主成分組成や内部電極層12の主成分組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、焼成時の保持温度は、好ましくは1200~1350℃、より好ましくは1220~1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは1~3時間である。また、焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることができる。さらに、内部電極層12をNiやNi合金等の卑金属で構成する場合には、焼成雰囲気中の酸素分圧を、1.0×10-14~1.0×10-10MPaとすることが好ましい。
【0060】
なお、焼成処理後には、必要に応じてアニールを施してもよい。アニールは、セラミック層10を再酸化するための処理であり、焼成処理を還元性雰囲気で実施した場合には、アニールを実施することが好ましい。アニール処理の条件もセラミック層10の主成分組成などに応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。たとえば、保持温度を950~1150℃とすることが好ましく、温度保持時間を0~20時間とすることが好ましく、昇温速度および降温速度を50~500℃/時間とすることが好ましい。また、雰囲気ガスとして加湿したN2ガス等を用いることが好ましく、アニール雰囲気中の酸素分圧は、1.0×10-9~1.0×10-5MPaとすることが好ましい。
【0061】
上記した脱バインダ処理、焼成処理およびアニール処理において、N2ガスや混合ガス等を加湿するためには、たとえばウェッター等を使用すればよく、この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。また、脱バインダ処理、焼成処理およびアニール処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0062】
次に、上記で得られた素子本体4の外面に、境界層用ペーストを塗布し、その後焼き付けることで、境界層14を形成する。なお、境界層14は、ペーストを用いずに、各種蒸着法によるセラミックコーティングにより形成してもよい。
【0063】
ペーストにより境界層14を形成する場合、境界層用ペーストには、境界層用原料粉末と、バインダ、溶剤が含まれ、その他必要に応じて、分散剤、可塑剤などを添加してもよい。境界層用原料粉末としては、ZnO粉末と、SiO2粉末と、BaCO3粉末との混合粉末を用いることができる。もしくは、ZnO粉末と、SiO2粉末と、BaCO3粉末とを所定の比率で混合した後に、仮焼きし粉砕した粉末を用いることができる。また、境界層用原料粉末として、BaZnSiO4粉末などの複合酸化物の粉末を用いてもよい。境界層用原料粉末には、上記の他に、セラミック層10の主成分である誘電体化合物の粉末、Al2O3などの微量化合物の粉末、Cu粉末、Ni粉末またはCuやNiなどを含む合金粉末などを添加してもよい。
【0064】
また、境界層用ペーストに用いるバインダや溶剤、分散剤は、特に限定されず誘電体用ペーストと同様の材質を使用することができる。たとえば、バインダは、エチルセルロース、アクリル、ブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択することができ、溶剤は、ターピネオール、ブチルカルビトール、アルコール、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤や水系溶剤から適宜選択することができる。
【0065】
素子本体4への境界層用ペーストの塗布方法としては、ディップ法、スクリーン印刷などの各種印刷法、ディスペンサーなどを用いた塗布法、スプレーを用いた噴霧法などを適用することができる。また、境界層用ペーストは、少なくとも素子本体4の端面4aに塗布し、その他、外部電極6を形成する側面4bの一部に塗布してもよい。この際、境界層用ペーストの塗布量を制御することで、境界層14の平均長さLr(平均厚み)を調整することができる。
【0066】
次に、境界層用ペーストを塗布した素子本体4を乾燥させ、700℃~1000℃の温度で、0.1時間~3時間、焼き付け処理し、境界層14を形成する。境界層14の平均長さLrは、焼き付け処理の条件にも影響される。焼き付け処理時の温度を低く設定したり、保持時間を短くしたりすると、平均長さLrが小さくなる(平均厚みが薄くなる)傾向となる。
【0067】
境界層14を形成した後は、素子本体4の端面4aに対して、サンドブラスト処理、レーザ照射、バレル研磨などの表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理を施すことにより、端面4aの最表面に内部電極層12の端部が露出しやすくなり、外部電極6に対する内部電極層12の電気的接合が良好となる。
【0068】
境界層14を形成した後、ディップ法や印刷法などにより、焼付電極6a用の導電性ペーストを、素子本体4の端面4a、もしくは、端面4aから側面4bの一部に跨るように塗布する。この際に使用する導電性ペーストは、焼き付け処理後に導体61となる導電性金属粒子とガラスフリット62とを含み、その他適宜、バインダ、溶剤、分散剤、可塑剤、酸化物粉末などの副成分原料などが含まれ得る。拡散領域46aの個数は、導電性ペースト中のガラスフリット62の添加量に影響され、ガラスフリット62の添加量を増やすほど、拡散領域46aの個数が増加する傾向となる。
【0069】
その後、導電性ペーストを塗布した素子本体4を、700℃~1000℃の温度で、0.1時間~3時間保持することで、焼付電極6aを形成することができる。
【0070】
焼付電極6aの上にメッキ電極層を形成する場合には、焼付電極6aを形成した後の素子本体4に、電界メッキや無電解メッキなどのメッキ処理を施せばよい。また、焼付電極6aの上に樹脂電極を形成する場合には、ディップ法や印刷法などにより、熱硬化性樹脂を含む樹脂電極用導電性ペーストを、焼付電極6aを覆うように塗布し、その後、硬化処理を施せばよい。この場合、樹脂電極の上にさらにメッキ電極層を形成してもよい。また、焼付電極6aの上に、他の焼付電極を積層してもよく、この場合、焼付電極6aとその他の焼付電極とを同時に焼き付け処理してもよい。
【0071】
上記の工程により、外部電極6を有する積層セラミックコンデンサ2が得られる。
【0072】
なお、上述した製造工程では、グリーンチップを焼成した後に、境界層14を形成したが、焼成前のグリーンチップに対して境界層用ペーストを塗布し、グリーンチップの焼成と同時に境界層14を焼き付けてもよい。
【0073】
また、素子本体4の焼成後に境界層14を形成する場合には、前処理として、素子本体4に対して、サンドブラスト処理、レーザ照射、バレル研磨などの表面処理を施すことが好ましい。この場合、素子本体4の端面4aでは、表面処理により内部電極層12の端部よりもセラミック層10の端部が選択的に研磨される。そのため、当該表面処理後に境界層用ペーストを塗布すると、セラミック層10が選択的に除去された箇所に、境界層用ペーストが塗り込まれ、内部電極層12の端部が境界層14で覆われずに端面4aに露出しやすくなる。その結果、内部電極層12の端部と外部電極6との電気的接合がより良好となる。また、セラミック層10が選択的に除去された箇所に、境界層用ペーストが塗り込まれることで、セラミック層10に対する境界層14の接合強度がより向上する。
【0074】
得られた積層セラミックコンデンサ2は、ハンダ(溶融ハンダ、ハンダクリーム、ハンダペーストを含む)または導電性接着剤を用いて、プリント配線板などの基板に面実装することができ、各種電子機器等に使用される。もしくは、積層セラミックコンデンサ2は、ワイヤ状のリード端子や板状の金属端子を介して、基板に実装することも可能である。
【0075】
(実施形態のまとめ)
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2では、素子本体4のセラミック層10が、ペロブスカイト型化合物(BTやBCTなど)を主成分として含み、外部電極6(焼付電極6a)が、導体61と、B、Si、Ba、Znを含むガラスフリット62とで構成してある。そして、外部電極6(焼付電極6a)と接するセラミック層10のX軸方向の端部には、境界層14が存在し、当該境界層14が、Ba、Zn、Siを含む酸化物を含む。
【0076】
本発明者は、積層セラミックコンデンサ2が上記の構成を有することにより、素子本体4と外部電極6との接合信頼性が向上することを見出した。すなわち、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2は、熱衝撃を受けたとしても、素子本体4の端面4aから外部電極6が剥離することを抑制できる。当該効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下に示す事由が考えられる。
【0077】
まず、相互拡散現象が接合信頼性の向上に寄与していると考えられる。仮に、境界層14が存在しない場合は、素子本体4と外部電極6との共通要素は、Baのみである。一方、本実施形態の積層セラミックコンデンサ2では、境界層14が外部電極6との接合部に介在していることにより、素子本体4と外部電極6との間においてBa、Zn、Siが共通要素となる。このように、複数の共通要素が存在することにより、焼付電極6aと境界層14との間では、複数の共通要素が相互拡散すると考えられる。その結果、素子本体4に対する外部電極6の接合強度が向上する。
【0078】
特に、焼付電極6aのガラスフリット62が、境界層14に対して直に接している箇所が多いほど、上記の相互拡散が活発になると考えられる。本実施形態では、接合境界46の所定長さLz(Lz=100μm)に存在する拡散領域46aの個数が、3箇所以上であり、当該要件を満足することにより、素子本体4に対する外部電極6の接合強度がより向上する。
【0079】
また、境界層14は、素子本体4と外部電極6との間に生じる熱応力を緩和する働きを示すと考えられ、この応力緩和作用により、熱衝撃などに対する耐性が向上すると考えられる。
【0080】
仮に、境界層14が存在しない場合、非晶質のガラスフリットを含む焼付電極と、結晶質のセラミック層とでは、線膨張係数に差がある。この場合、積層セラミックコンデンサに熱衝撃が加わると、焼付電極とセラミック層との間に熱応力が生じ、焼付電極が剥離する要因になると考えられる。一方、本実施形態では、境界層14が所定の元素を含む酸化物で構成してあることで、外部電極6と素子本体4との線膨張係数差が小さくなる。すなわち、境界層14の線膨張係数が、セラミック層10の線膨張係数に近い値を示す。これにより、線膨張係数差に基づく熱応力の発生を抑制することができると考えられ、熱衝撃に対する耐性がより向上する。
【0081】
特に、本実施形態では、境界層14の主成分(酸化物)において、Znの含有量が0.27モル部~0.40モル部、Siの含有量が0.27モル部~0.40モル部、残部がBaである。もしくは、境界層14の主成分(酸化物)がBaZnSiO4である。境界層14の組成が上記の要件を満たすことで、焼付電極6aと素子本体4の端面4aとの線膨張係数差がより小さくなると考えられ、熱衝撃に対する耐性がさらに向上する。また、焼付電極6aと境界層14との間における相互拡散がより活発化すると考えられ、素子本体4に対する外部電極6の接合強度がより向上する。
【0082】
加えて、本実施形態では、焼付電極6aに含まれるガラスフリット62において、Siの含有量が、0.05モル部~0.20モル部、Baの含有量が、0.05モル部~0.25モル部、Znの含有量が、0.15モル部~0.35モル部、残部がBである。ガラスフリット62の組成が上記の要件を満たすことで、焼付電極6aと境界層14との間における相互拡散がより活発化すると考えられ、素子本体4に対する外部電極6の接合強度がより向上する。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0084】
たとえば、本実施形態では、セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサ2を例示したが、本発明のセラミック電子部品は、たとえば、バンドパスフィルタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどであってもよい。
【0085】
また、本実施形態では、セラミック層10と内部電極層12とをZ軸方向に積層したが、積層方向は、X軸方向もしくはY軸方向であってもよい。その場合、内部電極層12の露出面に合わせて外部電極6を形成すればよい。また、素子本体4は、必ずしも積層体である必要はなく、単層であってもよい。さらに、内部電極層12は、スルーホール電極を介して、素子本体4の外面に引き出されていてもよく、この場合、スルーホール電極と外部電極6とが電気的に接合する。
【実施例】
【0086】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0087】
(実験1)
実験1では、以下に示す手順で、実施例1~3に係る積層セラミックコンデンサ2を作製した。まず、誘電体用ペーストと内部電極用ペーストを作製し、これらペーストを用いて、シート法によりグリーンチップを製造した。この際、セラミック層10の主成分となる誘電体原料として、実施例1および実施例2では、チタン酸バリウム(BT)を用い、実施例3では、チタン酸バリウムカルシウム(BCT)を用いた。また、各実施例では、いずれも、セラミック層10の副成分として、MgCO3、MnCO3、Y2O3、SiO2などを添加し、内部電極層12の主成分はNiとした。
【0088】
次いで、上記で得られたグリーンチップに対して、実施形態で述べた条件で脱バインダ処理を施し、その後、グリーンチップの外面(端面)に境界層用ペーストを、ディップ法で塗布し、乾燥させた。なお、実施例1~3で使用した境界層用ペーストには、いずれも、境界層14の主成分として、BaZnSiO4粉末を添加した。また、実施例2の境界層用ペーストには、BaZnSiO4粉末の他に、BaTiO3粉末を添加し、実施例3の境界層用ペーストには、(Ba,Ca)TiO3粉末を添加した。
【0089】
次いで、境界層用ペーストを塗布したグリーンチップに対して、焼成処理を施し、端面4aに境界層14が形成された素子本体4を得た。焼成処理の条件は、保持温度:1250℃、保持時間:2時間、雰囲気ガス:加湿したN2+H2混合ガスとした。その後、上記の素子本体4に対して、実施形態で述べた条件でアニール処理を施した。また、素子本体4にバレル研磨を施し、端面4aに内部電極層12の端部を露出させた。
【0090】
次に、焼付電極用の導電性ペーストを準備し、当該導電性ペーストを、ディップ法により素子本体4の外面(端面4aおよび側面4bの一部)に塗布し、乾燥させた。実施例1~3で使用した導電性ペーストには、いずれも、導体粉末として、Cuを添加し、ガラスフリット62としてB、Si、Ba、Zn系ガラスフリットを添加した。その後、導電性ペーストを塗布した素子本体4を、800℃で、0.5時間保持して、導電性ペーストを焼き付け、素子本体4の外面に焼付電極6aを形成した。また、焼付電極6aの上には、Niメッキ電極層およびSnメッキ電極層を形成した。このようにして、外部電極6が形成されたコンデンサ試料(積層セラミックコンデンサ2)を得た。なお、コンデンサ試料は、各実施例1~3につき400個以上、製造した。
【0091】
実験1の各実施例1~3では、いずれも、コンデンサ試料における素子本体4の寸法が、L0×W0×T0=2.0mm×1.25mm×1.25mmであった。また、内部電極層12に挟まれたセラミック層10の積層数は、80とした。
【0092】
また、各実施例1~3に係るコンデンサ試料から破壊検査用のサンプルを抽出し、当該サンプルを用いてSEMによる断面観察を行った。具体的に、抽出したサンプルをX-Z面に沿って切断し、当該断面を鏡面研磨した後、SEMによりセラミック層10の平均厚みTd、内部電極層12の平均厚みTe、境界層14の平均長さLr、焼付電極層の平均厚みを測定した。実施例1~3の測定結果は、いずれも下記のとおりであった。
【0093】
セラミック層10の平均厚みTd:10μm
内部電極層12の平均厚みTe:1.5μm
境界層14の平均長さLr:5μm
焼付電極層の平均厚み:25μm
【0094】
また、上記の断面観察では、EPMAにより境界層14および焼付電極6aの成分分析を実施した。その結果、いずれの実施例でも、原料ペースト(境界層用ペーストおよび焼付電極用導電性ペースト)に添加した原料粉末の組成と、測定結果が概ね一致していることが確認できた。なお、断面観察では、すべての実施例で、セラミック層10のX軸方向の端部に境界層14が形成されていることが確認できた。
【0095】
実験1では、作製したコンデンサ試料における外部電極6の接合信頼性を評価するために、2種類の熱衝撃試験(冷熱サイクル試験)を行った。以下、詳細を説明する。
【0096】
気槽式熱衝撃試験
気槽式熱衝撃試験では、1サイクルあたり、試験サンプル(コンデンサ試料)を、-55℃の気槽で30分保持した後、150℃の気槽で30分保持することとし、これを1000サイクル繰り返した。当該試験では、静電容量の減衰率に基づいて合否を判断することとし、試験前の静電容量Cαに対する試験後の静電容量Cβの比率(Cβ/Cα)が、0.9(90%)以上であるサンプルを合格、0.9未満であるサンプルを不合格とした。実験1では、各実施例につき、80個のサンプルに対して上記の試験を行い、不合格となったサンプルの比率(NG比率)を算出した。評価結果を表1に示す。
【0097】
液槽式熱衝撃試験
液槽式熱衝撃試験では、冷熱サイクルを気槽ではなく液槽で行う。液槽を使用する場合、気槽を使用する場合に比べて、試験サンプルに対して急峻な温度変化が加わるため、気槽式試験よりもより過酷な条件で試験サンプルの接合信頼性を評価できる。具体的に、本実施例では、1サイクルあたり、試験サンプルを、-55℃の液槽で30分保持した後、150℃の液槽で30分保持することとし、これを1000サイクル繰り返した。なお、液槽式熱衝撃試験の合否は、気槽式熱衝撃試験と同様に、静電容量の減衰率に基づいて判断した。実験1では、各実施例につき、80個のサンプルに対して上記の試験を行い、不合格となったサンプルの比率(NG比率)を算出した。評価結果を表1に示す。
【0098】
比較例1
実験1では、境界層14を形成した実施例1~3の優位性を確認するために、境界層を形成していない比較例1に係るコンデンサ試料(積層セラミックコンデンサ)を製造した。具体的に、比較例1では、境界層用ペーストを使用することなく、焼成後の素子本体4の外面に、外部電極を直に形成した。比較例1において、境界層14を形成しないこと以外の製造条件は、上述した実施例1と同様であり、比較例1についても実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
表1に示すように、比較例1では、気槽式熱衝撃試験のNG比率が5/80であった。一方、所定の成分を含む境界層14を形成した実施例1~3では、気槽式熱衝撃試験のNG比率が0/80であり、境界層14を形成することにより、外部電極6の接合信頼性が向上することが確認できた。
【0101】
また、実施例2および実施例3では、液槽式熱衝撃試験のNG比率が0/80となった。この結果から、境界層14にセラミック層10の主成分が含まれることで、外部電極6の接合信頼性がより向上することが確認できた。
【0102】
(実験2)
実験2では、境界層14の形成方法を変えて実施例4~6に係るコンデンサ試料を製造した。以下、各実施例における境界層14の形成方法について説明する。
【0103】
実施例4
実施例4では、実験1の実施例1と同様に、焼成前のグリーンチップに境界層用ペーストを塗布し、グリーンチップの焼成と同時に境界層用ペーストを焼き付け、境界層14を形成した。本実施例では、上記の形成方法を製法1と称する。なお、実施例4の製造条件は、実施例1と共通とした。
【0104】
実施例5
実施例5では、焼成-アニール処理した後の素子本体4の外面に対して、ディップ法により境界層用ペーストを塗布し、乾燥させた。その後、境界層用ペーストを塗布した素子本体4を、800℃で0.5時間保持することで焼き付け処理し、境界層14を形成した。本実施例では、上記の形成方法を製法2と称する。なお、実施例5の上記以外の製造条件は、実施例1と共通とした。
【0105】
実施例6
実施例6では、境界層14を形成する前に、焼成-アニール処理した後の素子本体4に対して、バレル研磨を施した。そして、湿式バレル研磨後の素子本体4の外面に対して、ディップ法により境界層用ペーストを塗布し、乾燥させた。その後、境界層用ペーストを塗布した素子本体4を、800℃で0.5時間保持することで焼き付け処理し、境界層14を形成した。本実施例では、上記の形成方法を製法3と称する。なお、実施例6の上記以外の製造条件は、実施例1と共通とした。
【0106】
実験2でも、各実施例4~6のコンデンサ試料に対して、実験1と同様に熱衝撃試験を実施した。加えて、実験2では、評価サンプル数(n数)を80から200に増やした液槽式熱衝撃試験も実施した。評価結果を表2に示す。
【0107】
【0108】
表2に示すように、グリーンチップに対して境界層用ペーストを塗布した実施例4よりも、焼成後の素子本体4に対して境界層用ペーストを塗布した実施例5および6のほうが、外部電極6の接合信頼性がより向上することが確認できた。また、実施例6では、n数を増やした液槽式熱衝撃試験においてもNG比率が0/200となった。この結果から、境界層14の形成に際して、前処理としてバレル研磨を実施することで、外部電極6の接合信頼性がより向上することがわかった。
【0109】
(実験3)
実験3では、境界層14の組成比を変更した実施例11~14に係るコンデンサ試料と、ガラスフリット62の組成比を変更した実施例15~20に係るコンデンサ試料とを製造した。
【0110】
具体的に、実施例11~14では、BaCO3粉末とZnO粉末とSiO2粉末とを所定の比率で混合した後、この混合粉末を仮焼きし粉砕することで、境界層用ペーストの原料粉末を作製した。そして、この境界層用ペーストを用いて、実施例1と同じ方法(製法1)で境界層14を形成し、コンデンサ試料を得た。実施例11~14における上記以外の実験条件は、実施例1と同様であり、実験1と同様の評価を実施した。評価結果を表3に示す。なお、表3に示す境界層14の組成は、SEM-EPMAによる成分分析の測定結果であり、Baの含有量、Znの含有量、Siの含有量の合計を1.0モル部として、各元素の含有量を示した。
【0111】
一方、実施例15~20では、実施例1と同じ方法(製法1)で境界層14を形成し、この境界層14の上に、所定の組成比に調製したガラスフリット62を含む導電性ペーストを塗布した。ここで、導電性ペーストに添加するガラスフリット62は、BaCO3粉末と、ZnO粉末と、SiO2粉末と、B2O3粉末とを、所定の比率で混合した後、仮焼きし粉砕することで得た。なお、導電性ペーストは、ディップ法により塗布し、その後、焼き付け処理することで、焼付電極6aを有するコンデンサ試料を得た。実施例15~20における上記以外の実験条件は、実施例1と同様であり、実験1と同様の評価を実施した。評価結果を表4に示す。なお、表4に示すガラスフリット62の組成は、SEM-EPMAによる成分分析の測定結果であり、Baの含有量、Znの含有量、Siの含有量、Bの含有量の合計を1.0モル部として、各元素の含有量を示した。
【0112】
【0113】
【0114】
表3に示すように、実施例11~14では、気槽式熱衝撃試験および液槽式熱衝撃試験のNG比率が、いずれも0%となった。この結果から、境界層14の組成が実施例11~14の範囲内である場合には、外部電極6の接合信頼性をより向上できることがわかった。
【0115】
表4に示すように、実施例15~20では、気槽式熱衝撃試験および液槽式熱衝撃試験のNG比率が、いずれも0%となった。この結果から、ガラスフリット62の組成が実施例15~20の範囲内である場合には、外部電極6の接合信頼性をより向上できることがわかった。
【0116】
(実験4)
実験4では、拡散領域46aの個数を変更した実施例21~23に係るコンデンサ試料を製造した。拡散領域46aの個数は、焼付電極用の導電性ペーストに添加したガラスフリット62の含有量により制御した。実施例21~23における上記以外の実験条件は、実施例1(すなわち境界層14の形成方法は製法1)と同様にして、実験1と同様の評価を実施した。評価結果を表5に示す。
【0117】
なお、拡散領域46aの個数は、製造した複数のコンデンサ試料から破壊試験用のサンプルを5個抽出し、当該抽出サンプルの断面を少なくとも5視野以上観察することで、平均値として算出した。
【0118】
【0119】
表5の結果から、接合境界100μm中に存在する拡散領域46aの個数が3箇所以上である場合、外部電極6の接合信頼性がより向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0120】
2 … 積層セラミックコンデンサ
4 … 素子本体
4a … 端面
4b … 側面
10 … セラミック層
12 … 内部電極層
14 … 境界層
6 … 外部電極
6a … 焼付電極
61 … 導体
62 … ガラスフリット
46 … 接合境界
46a … 拡散領域