(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】スキャンデータ作成方法及びスキャンデータ作成システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241218BHJP
【FI】
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2021042238
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 善経
(72)【発明者】
【氏名】山口 瞳
(72)【発明者】
【氏名】園木 匠
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-084995(JP,A)
【文献】特開2011-086995(JP,A)
【文献】特開2016-085661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の3次元デジタルモデルを作成するための3次元スキャンデータを取得するスキャンデータ作成方法であって、
対象物を計測する計測機器を有し、
前記対象物を計測可能な複数の計測位置を算出する計測位置算出ステップと、
前記複数の計測位置に前記計測機器を最小の移動コストで到達させる計測ルートを算出する計測ルート算出ステップと、
を行
い、
前記計測ルート算出ステップでは、前記複数の計測位置をそれぞれ最短距離で論理的に到達可能な全ての辺を設定し、前記全ての辺から算出した最小全域木において、分岐までの戻りが発生する辺のコストの総和が最小となるルートを前記計測ルートとして定めることを特徴とするスキャンデータ作成方法。
【請求項2】
前記計測ルート算出ステップでは、前記計測ルートを最も効率良く辿る移動順序を算出し、移動順序情報を含む計測ルートとして決定することを特徴とする請求項
1に記載のスキャンデータ作成方法。
【請求項3】
複数の前記計測機器により前記対象物の計測を行う場合に、前記複数の計測位置を複数のグループに分ける計測位置分類ステップと、
前記計測ルート算出ステップにおいて各グループについて前記計測ルートを算出した後に、各グループに含まれる計測位置を変更して前記計測ルートの算出を行い、最も移動コストが小さくなるグループ分けを算出する計測ルート補正ステップと、
を行うことを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載のスキャンデータ作成方法。
【請求項4】
前記計測ルート補正ステップでは、移動コストが最も大きいグループと最も小さいグループの移動コストの差が最小になるまで補正を行うことを特徴とする請求項
3に記載のスキャンデータ作成方法。
【請求項5】
前記計測機器は自律移動可能な移動体に搭載され、
前記移動体に、前記計測ルート算出ステップで算出した前記計測ルートを移動する命令を送り、前記計測ルートに含まれる前記計測位置で前記計測機器による計測を実行させることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれかに記載のスキャンデータ作成方法。
【請求項6】
対象物の3次元デジタルモデルを作成するための3次元スキャンデータを取得するスキャンデータ作成システムであって、
対象物を計測する計測機器と、
前記対象物を計測可能な複数の計測位置を算出し、前記複数の計測位置に前記計測機器を最小の移動コストで到達させる計測ルートを算出する算出手段と、
前記計測機器を搭載して自律移動可能であり、前記算出手段からの命令により、前記計測ルートを移動して前記計測位置で前記計測機器による計測を実行する移動体と、
を有
し、
前記算出手段は、前記複数の計測位置をそれぞれ最短距離で論理的に到達可能な全ての辺を設定し、前記全ての辺から算出した最小全域木において、分岐までの戻りが発生する辺のコストの総和が最小となるルートを前記計測ルートとして定めることを特徴とするスキャンデータ作成システム。
【請求項7】
複数台の前記移動体を有し、
前記算出手段は、前記計測ルートを算出するときに、複数台の前記移動体が前記複数の計測位置を最小の移動コストで移動するようにグループ分けすることを特徴とする請求項
6に記載のスキャンデータ作成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スキャンデータ作成方法及びスキャンデータ作成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築分野において、BIM(Building Information Modeling)に代表される3次元スキャンデータを用いたモデリング方法の導入が進んでいる。BIMでは、建物などの3次元デジタルモデルをコンピュータ上に作成し、管理情報や設備情報を付加して総合的な建築関連データとすることで、様々な用途で利便性を高めることができる。例えば、建設中の建物の工程進捗管理などへの適用が可能である。
【0003】
3次元スキャンデータを取得する計測機器として、計測対象に対してレーザ光を放射状に照射して、計測対象の表面形状の3次元座標を取得する3次元スキャナが知られている。計測漏れがあると不完全な3次元デジタルデータとなる。
【0004】
特許文献1には、障害物が存在する監視対象領域に配置された複数の監視カメラを、障害物の死角領域を極力低減させて配置するための配置位置評価方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
3次元スキャンデータの取得には多くの時間が必要となる。特に、モデリングする対象物が大きい又は広い場合、対象物を複数のエリアに分けて、エリアごとに3次元スキャンデータを取得してからデータ合成するので、より多くの時間と手間がかかることが課題になる。
【0007】
さらに、エリアごとに取得した3次元スキャンデータを合成する際に、それぞれのエリアの3次元スキャンデータに含まれる共通のオブジェクトを指標として、連結作業を行う。つまり、合成の対象となる複数の3次元スキャンデータが共通のオブジェクトを含むように、データの取得を行う必要がある。建設現場や工事現場では、時刻や天候の違いにより対象物の光の反射や環境光が変化することがある。また、工程の進捗によりスキャンする角度が異なると対象物の見え方が変化する課題がある。このような条件の影響を受けることで、対象のオブジェクトが同一であると判断しにくくなる課題がある。そのため、このような条件の影響を抑えるために、複数のエリアの3次元スキャンデータを効率良く取得することが望まれる。
【0008】
そして、3次元デジタルモデルを効率よく生成するために複数の3次元スキャナを用いる場合には、それぞれが担当する計測位置の割り当てや、計測の順番や、計測位置までの移動体の移動ルートなどを予め設定する必要がある。特に、3次元デジタルモデルを短時間で作成するには、複数の3次元スキャナによる計測作業の開始から終了までの時間的なばらつきを最小限にする必要がある。このような設定や管理を人間が行うには、煩雑な検討作業を要するという課題がある。
【0009】
本開示は、以上の課題を解決するためになされたものであり、複数の計測位置での計測を効率良く行うことが可能なスキャンデータ作成方法及びスキャンデータ作成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示における一態様は、対象物の3次元デジタルモデルを作成するための3次元スキャンデータを取得するスキャンデータ作成方法であって、対象物を計測する計測機器を有し、前記対象物を計測可能な複数の計測位置を算出する計測位置算出ステップと、前記複数の計測位置に前記計測機器を最小の移動コストで到達させる計測ルートを算出する計測ルート算出ステップと、を行い、前記計測ルート算出ステップでは、前記複数の計測位置をそれぞれ最短距離で論理的に到達可能な全ての辺を設定し、前記全ての辺から算出した最小全域木において、分岐までの戻りが発生する辺のコストの総和が最小となるルートを前記計測ルートとして定めることを特徴とする。
【0011】
本開示における一態様は、対象物の3次元デジタルモデルを作成するための3次元スキャンデータを取得するスキャンデータ作成システムであって、対象物を計測する計測機器と、前記対象物を計測可能な複数の計測位置を算出し、前記複数の計測位置に前記計測機器を最小の移動コストで到達させる計測ルートを算出する算出手段と、前記計測機器を搭載して自律移動可能であり、前記算出手段からの命令により、前記計測ルートを移動して前記計測位置で前記計測機器による計測を実行する移動体と、を有し、前記算出手段は、前記複数の計測位置をそれぞれ最短距離で論理的に到達可能な全ての辺を設定し、前記全ての辺から算出した最小全域木において、分岐までの戻りが発生する辺のコストの総和が最小となるルートを前記計測ルートとして定めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示のスキャンデータ作成方法及びスキャンデータ作成システムによれば、複数の計測位置での計測を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】スキャンデータ作成システムのハードウェア構成及び機能ブロックを示す図である。
【
図2】スキャンデータ作成方法の流れを示すフローチャートである。
【
図4】複数の計測位置を最短距離で移動可能な接続関係を示す図である。
【
図5】複数の計測位置をグループ分けした状態を示す図である。
【
図6】各グループの移動コスト最小の計測ルートを示す図である。
【
図7】各グループの計測ルートの移動順序を示す図である。
【
図8】グループ分けを変更して計測ルートを補正した状態を示す図である。
【
図9】計測ルートにおける移動順序の決定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態に係るスキャンデータ作成方法及びスキャンデータ作成システムについて、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。下記の実施の形態は、建設現場における建築物の内部構造の3次元スキャンデータを取得する場合に適用したものである。
【0015】
図1は、スキャンデータ作成システム1のハードウェア構成及び機能ブロックを示すブロック図である。スキャンデータ作成システム1には、命令作成部10と移動体20が含まれる。命令作成部10は、移動体20が計測を行う計測位置及び計測ルートを算出する算出手段の一例である。
【0016】
命令作成部10は、移動体20やその他の外部機器との間でネットワーク化されるローカルサーバやクラウドサーバによって構成され、データ受信部11と、データ処理部12と、自律移動操作命令部13とを有する。移動体20は、コンピュータ21と、コンピュータ21によって総合的に制御されるセンサやデバイス類とを有している。スキャンデータ作成システム1では1台又は複数台の移動体20の使用が可能であり、個々の移動体20が
図1に示す構成を備えている。
【0017】
命令作成部10は、ハードウェア構成として、演算手段であるCPU(Central Processing Unit)、読み出し専用の半導体メモリであるROM(Read Only Memory)、ランダムアクセス可能な半導体メモリであるRAM(Random Access Memory)、入力デバイス、表示デバイス、通信インターフェイス、などを備えている。命令作成部10は、通信インターフェイスを介して、移動体20を含む外部機器と通信可能である。通信の形態は有線接続と無線接続のいずれでも良く、通信の規格も限定されない。
【0018】
命令作成部10のROMには、各種のプログラムが記憶されている。命令作成部10のCPUは、入力デバイスからの操作信号に応じて、ROMからプログラムを読み出して実行処理する。命令作成部10のRAMは、CPUがプログラムを実行する際に、プログラムやデータの作業領域として使用される。命令作成部10の表示デバイスは、表示画面を有するモニタであり、処理の内容や処理の結果などの情報が表示される。命令作成部10におけるデータ処理部12の機能は、少なくともCPU、ROM、RAMによって実現される。また、命令作成部10が行う後述の各処理は、ROMに記憶したスキャンデータ作成用プログラムに基づいて実行される。
【0019】
入力デバイスの操作や通信インターフェイスを介した通信によって、命令作成部10のデータ受信部11に各種データが入力される。データ受信部11に入力されるデータには、3次元スキャンデータを取得する計測対象(対象物)である建築物の図面データと、使用が予定される移動体20の台数が含まれる。データ受信部11に入力されたこれらのデータはデータ処理部12に送られる。
【0020】
データ処理部12は、入力されたデータに基づいて、移動体20による計測を実施する複数の計測位置と、移動体20を複数台使用する場合に各移動体20が担当する計測位置の割り当て(グループ)と、移動体20が計測位置間を移動する経路である計測ルートとを算出して決定する。これらの算出処理については後述する。データ処理部12によって決定された内容は、操作命令として自律移動操作命令部13から移動体20に対して送られる。
【0021】
移動体20のコンピュータ21は、CPU、ROM、RAMなどにより構成される。コンピュータ21は、命令作成部10が発した操作命令をデータ受信部22で受信し、自律移動命令制御部23と3次元スキャナ操作部24とによって、操作命令の内容を実行する。
【0022】
移動体20は、対物センサ25と慣性計測装置26と走行駆動部27を備えている。対物センサ25は、外部の物体との距離や位置関係を測定可能な検知器である。例えば、LiDAR(Light Detection And Ranging)技術を利用したToF(Time of Flight)方式のセンサや、ステレオ画像を撮影可能なステレオカメラなどを、対物センサ25として適用可能である。慣性計測装置26は、IMU(Interial Measurement Unit)とも呼ばれ、加速度や回転角速度などの各種運動情報を検出するセンサを有している。なお、対物センサ25の代わりに、360度カメラを用いることができる。360度カメラを用いることで、一度の撮影で周囲のオブジェクトを検出することができる。走行駆動部27は、地面に接地する車輪や無限軌道、車輪や無限軌道を動作させるためのモータ及び動力伝達系、などで構成される駆動系の機構である。対物センサ25によって周囲の物体や障害物の情報を得て、慣性計測装置26によって自機の姿勢や移動状態を認識し、走行駆動部27によって走行する力を与えることで、移動体20は運転者の操作によらずに自律移動で計測位置まで移動することができる。
【0023】
移動体20は、さらに計測機器である3次元スキャナ30を備えている。3次元スキャナ30は非接触式の光学スキャナであり、計測部31がレーザ光などの光線を対象物に照射して反射の時間差や照射角度を解析することで、対象物の3次元形状を取得する。本実施の形態の3次元スキャナ30は、計測部31から放射状にレーザ光を照射して全方位の計測が可能なタイプである。計測部31によって取得された3次元スキャンデータは、データ記憶部32に記憶される。
【0024】
移動体20のデータ記憶部32に記憶された3次元スキャンデータは、命令作成部10を構成するサーバ又はその他のデータ処理装置に送られる。移動体20が複数の計測位置で取得した3次元スキャンデータにより、計測の対象物である建築物の全体を表す3次元スキャンデータとなる。もしくは、複数の移動体20が複数の計測位置で取得した3次元スキャンデータを合成(連結)することで、計測の対象物である建築物の全体を表す3次元スキャンデータを作成することができる。複数の移動体20が共通のオブジェクトを含むように3次元スキャンデータの取得を行うことで、当該共通のオブジェクトを指標としてデータ合成を行うことができる。なお、移動体20が連続的に3次元スキャンデータを取得するのではなく、複数の計測位置に分けて定点的に3次元スキャンデータを取得する分割計測方式の場合は、移動体20の数に関わりなく、複数の計測位置で取得した3次元スキャンデータを合成する処理を行う。本実施の形態は、分割計測方式に適用したものである。
【0025】
以上のようにしてスキャンデータ作成システム1を用いて作成された3次元スキャンデータは、建築物の3次元デジタルモデルの作成などに利用される。
【0026】
続いて、
図2のフローチャートと、
図3以降の説明図を参照して、命令作成部10による計測位置及び計測ルートの決定の詳細を説明する。
【0027】
図3以降の説明図は、対象物として建築物40の内部構造をスキャンする場合を示している。建築物40は、箱型の外壁41と、外壁41で囲まれる空間内に位置する複数の隔壁42とを有している。なお、説明を分かりやすくするために、
図3から
図8では建築物40を平面視で示しているが、取得する3次元スキャンデータは、高さ方向(
図3から
図8の紙面に対して垂直な方向)の情報も含むものになる。
【0028】
[ステップS1:データ入力ステップ]
ステップS1では、計測対象である建築物40の図面(設計図面)のデータが命令作成部10のデータ受信部11に入力され、入力された図面データが、座標情報などを付した状態でデータ処理部12の作業領域に展開される。また、計測に用いる移動体20の台数がデータ受信部11に入力され、台数データとしてデータ処理部12の作業領域に保持される。本実施の形態は2台の移動体20を用いる場合を例示しており、2台を示す台数データが入力される。
【0029】
[ステップS2:計測位置算出ステップ]
データ処理部12の機能ブロックである計測位置算出部12a(
図1)によってステップS2が処理される。ステップS2では、命令作成部10のデータ処理部12が、移動体20で3次元スキャンデータを取得することになる計測位置を算出する。計測位置の算出の際には、死角となる領域が少なくなるよう計測対象の全体をスキャンするという条件と、計測位置の数をできるだけ少なくするという条件と、隣り合う計測位置でスキャンする範囲に、互いの重なり領域(後のデータ合成用の指標となるオブジェクト)が含まれるという条件が付され、これらの条件を満たす複数の計測位置が決定される。ステップS2で決定された各計測位置は、座標データとして命令作成部10のRAMに記憶される。
【0030】
ステップS2における計測位置の算出には、特開2011-86995号公報(特許文献1)に記載された配置位置評価方法を用いることができる。簡潔に述べると、計測対象領域について、各母点から見た障害物の死角領域を非回折とする非回折ボロノイ図を作成し、非回折ボロノイ図を用いて、計測対象領域に配置される計測位置を評価する。
【0031】
建築物40についてステップS2での処理を行った結果を
図3に示す。算出の結果、計測位置P1から計測位置P12までの12箇所の計測位置が決定されている。これらの計測位置P1~P12でそれぞれ3次元スキャナ30による計測を行う。隔壁42などがある場合は、隔壁42の両方向から計測部31によるレーザ光を到達させて、建築物40の内部構造全体をスキャンして3次元スキャンデータを得ることができる。
【0032】
[ステップS3:移動可能情報算出ステップ]
データ処理部12の機能ブロックである移動可能情報算出部12b(
図1)によってステップS3が処理される。ステップS3では、複数の計測位置同士の移動可能情報を算出する。この算出処理では、ステップS2で求めた複数の計測位置のうち、隔壁42などの障害物で遮られずに最短距離(直進移動)で移動可能なもの同士に、暫定的な接続関係(リンク)を設定する。例えば、複数の計測位置のそれぞれを接続する直線を設定し、個々の直線を遮る障害物が図面データ上に存在するか否かを判定する。そして、障害物が存在しない直線がリンクとして成立する。このようにして、計測位置を頂点や節点(ノード)とし、リンクを辺(エッジ)としたグラフが作成される。ステップS3で作成されたリンクの情報は命令作成部10のRAMに記憶される。
【0033】
建築物40についてステップS3での処理を行った結果を
図4に示す。全ての計測位置P1~P12が、少なくとも1つのリンクLで他の計測位置と結ばれている。
図4では、計測位置P2と計測位置P5を結ぶ1つのリンクLのみに符号を付しているが、各計測位置を結んでいる実線の直線が全てリンクLである。一方、破線の直線は、隔壁42などで遮られていて最短距離で移動可能な関係ではなく、リンクが成立しないことを意味している。
【0034】
図4には、隔壁42によって遮られてリンクが成立しない箇所の例として、計測位置P1と計測位置P2の間、計測位置P3と計測位置P6の間、計測位置P9と計測位置P10の間、計測位置P11と計測位置P12の間、を示している。リンクが成立しない箇所はこれに限定されず、他にも複数の箇所がある。例えば、計測位置P1と計測位置P3は、互いを結ぶ直線上に外壁41の屈曲部分があるという理由で、リンクが成立しない。
【0035】
[ステップS4:計測位置分類ステップ]
データ処理部12の機能ブロックである計測位置割当算出部12c(
図1)によってステップS4が処理される。ステップS4では、複数の計測位置をグループ分け(分類)する算出を行う。データ受信部11に入力された移動体20の台数データに基づいて台数分のグループを作成し、各グループに含まれる計測位置を決めていく。具体的な手法として、当該台数に基づいたグラフの任意の計測位置から順に、リンクで接続した隣接関係の計測位置同士を1つずつ同じグループに含めていく。なお、最初の計測位置は異なる末端から始めると効率的である。この作業を各グループで行い、全ての計測位置がグループに含まれた段階でストップする。全ての計測位置がいずれかのグループに所属しているためグループ分けが完了する。
【0036】
なお、各グループに含まれる計測位置の数は均等に近いことが好ましいが、ステップS4での処理において、各グループに含まれる計測位置の数が均等ではない場合もある。また、計測位置の総数をグループ数(移動体20の台数)で割り切れない場合には、各グループに含まれる計測位置の数は必ず不均等になる。いずれの場合も、後述する補正処理によって、各グループでの移動コストを考慮した計測位置の数の最適化が行われる。
【0037】
建築物40についてステップS4での処理を行った結果を
図5に示す。台数データとして入力された2台に基づいて、計測位置P1~P12の所属が第1グループと第2グループの2つのグループに分けられている。
図5に示す初期のグループ分けでは、計測位置P1から計測位置P5までの5つが第1グループに含まれており、計測位置P6から計測位置P12までの7つが第2グループに含まれている。
【0038】
[ステップS5:計測ルート算出ステップ]
データ処理部12の機能ブロックである計測ルート算出部12d(
図1)によってステップS5が処理される。ステップS5では、各グループにおける計測ルート、すなわち各移動体20の移動経路を決定する。計測ルートの決定は、先に設定したリンクのうち、どのリンクを辿る経路が最も効率的であるか(移動コストが最小であるか)を判定基準として行われ、下記の2つのサブステップを含む。移動コストとは、移動距離又は移動時間である。本実施の形態では、移動体20の移動速度は一定であるものとする。
【0039】
[ステップS5の第1サブステップ]
ステップS5の第1サブステップでは、各グループの計測位置を頂点や節点とし、リンクを辺としたグラフに基づき、グラフ理論における最小全域木を求める。全域木は、グラフが連結であるという条件を保ったまま辺を消去して得られる木であり、最小全域木は、各辺のコストの総和が最小になる全域木である。最小全域木を求めるアルゴリズムとして、例えばクラスカル法を用いることができる。
【0040】
建築物40についてステップS5での第1サブステップの処理を行った結果を
図6に示す。
図6において実線で表しているリンクL1が最小全域木を構成する部分であり、当該部分が計測ルートになる。
図6において一点鎖線で表しているリンクL2は、最小全域木に該当しない部分である。
図6では、リンクL1とリンクL2を示す符号をそれぞれ1つのリンクのみに付しているが、各計測位置を結んでいる実線の直線が全てリンクL1であり、一点鎖線の直線が全てリンクL2である。
【0041】
第1グループにおいて全域木の各辺のコストの総和が最小になるのは、計測位置P4をハブ(中心)として、計測位置P1、P2、P3、P5と放射状に接続させた形にした場合である。
【0042】
第2グループにおいて全域木の各辺のコストの総和が最小になるのは、計測位置P7をハブ(中心)として計測位置P6、P8、P10に接続させ、計測位置P6から計測位置P9、P11に接続させ、計測位置P10から計測位置P12に接続させた形にした場合である。
【0043】
[ステップS5の第2サブステップ]
ステップS5の第2サブステップでは、先に設定した最小全域木の各辺をどの順番で移動するかという移動順序を決定し、最も移動コストが小さい移動順序を選択する。移動順序の決定は、グループ中でいずれかの末端(頂点)に位置する計測位置から、深さ優先探索のアルゴリズムをベースにして行われる。
【0044】
図9に、第2グループにおける計測位置の移動順序のルート例A~Fを示した。これらのルート例A~Fは、第2グループの末端である(リンクで接続された他の計測位置が1つだけである)計測位置P8、P11、P12を移動の始点とした場合の移動コストを比較したものである。いずれの場合も途中に分岐が1箇所あるので、各分岐に進んだ場合を含めて、計6パターンのルート例がある。
【0045】
基本的な考え方として、ルートに含まれる全ての辺を一筆書きで(往復せずに)移動できる場合に、移動コストが最小となる。そして、各辺の長さ(距離)が同一であると仮定した場合、往復が生じる辺の数や、特定の辺の往復回数が増えるにつれて、移動コストが大きくなる。例えば、ある分岐から末端のノード(計測位置)まで進む往路と、当該往路と同じルートを元の分岐まで戻る復路とを移動したときには、当該往復路に含まれる辺の往復が生じている。
図9の各ルート例A~Fで、アルファベットのA~Fに続く数字の変更は、分岐での選択、あるいは、戻り移動による進行方向の変化があったことを示す。
【0046】
図9のルート例Aでは、計測位置P11を始点として計測位置P7まで進み(A1)、分岐で計測位置P8側に進んで(A2)、計測位置P8から計測位置P7に戻る(A3)。このA2とA3が往復移動となる。続いて、未探索のノードである計測位置P10側へ進み、末端の計測位置P12への到達で終点となる(A4)。この場合、戻る辺の数は「1」である。
【0047】
図9のルート例Bでは、計測位置P11を始点として計測位置P7まで進むところ(B1)まではルート例Aと同じである。分岐で計測位置P10側に進んで末端の計測位置P12に達する(B2)と、計測位置P7まで戻る(B3)。このB2とB3が往復移動となる。続いて、未探索のノードである計測位置P8側へ進んで終点となる(B4)。この場合、戻る辺の数は「2」である。
【0048】
図9のルート例Cでは、計測位置P8を始点として計測位置P7まで進む(C1)。分岐で計測位置P6側に進んで末端の計測位置P11に達する(C2)と、計測位置P7まで戻る(C3)。このC2とC3が往復移動となる。続いて、未探索のノードである計測位置P10側へ進んで、末端の計測位置P12への到達で終点となる(C4)。この場合、戻る辺の数は「3」である。
【0049】
図9のルート例Dでは、計測位置P8を始点として計測位置P7まで進むところ(D1)まではルート例Cと同じである。分岐で計測位置P10側に進んで末端の計測位置P12に達する(D2)と、計測位置P7まで戻る(D3)。このD2とD3が往復移動となる。続いて、未探索のノードである計測位置P6側へ進んで、末端の計測位置P11への到達で終点となる(D4)。この場合、戻る辺の数は「2」である。
【0050】
図9のルート例Eでは、計測位置P12を始点として計測位置P7まで進む(E1)。分岐で計測位置P6側に進んで末端の計測位置P11に達する(E2)と、計測位置P7まで戻る(E3)。このE2とE3が往復移動となる。続いて、未探索のノードである計測位置P8側へ進んで終点となる(E4)。この場合、戻る辺の数は「3」である。
【0051】
図9のルート例Fでは、計測位置P12を始点として計測位置P7まで進むところ(F1)まではルート例Eと同じである。分岐で計測位置P8側に進んで(F2)、計測位置P8から計測位置P7に戻る(F3)。このF2とF3が往復移動となる。続いて、未探索のノードである計測位置P6側へ進んで、末端の計測位置P11への到達で終点となる(F4)。この場合、戻る辺の数は「1」である。
【0052】
以上のルート例A~Fで分かるように、ステップS5の第1サブステップで決定した各グループの計測ルートでは、複数の計測位置を移動する順序によって戻る辺の数が異なる場合がある。戻る辺の数が少ないルート例Aとルート例Fが、総移動距離が最も短く、短時間に移動を完了させることができるため、移動コストが最小の移動順序になる。
【0053】
図9に示すルート例Gは、幅優先探索の方式でルートを設定した場合の比較例である。計測位置P7を始点として、計測位置P6、P9、P11に進む(G1)。計測位置P11で折り返して計測位置P7まで戻る(G2)。続いて、未探索のノードのうち計測位置P10側に進んで末端の計測位置P12に達する(G3)。計測位置P12で折り返して計測位置P7まで戻る(G4)。さらに、未探索のノードである計測位置P8側へ進んで終点となる(G5)。この場合、戻る辺の数は「5」である。
【0054】
ルート例Gは、戻る辺の数が最も多くなる場合を示しているが、計測位置P7を始点とした幅優先探索でのルート設定では、戻る辺の数が少なくとも3以上になる。従って、最小の移動コストの算出には、幅優先探索ではなく、深さ優先探索の方式が適していることが分かる。
【0055】
なお、
図9では戻る辺の数に着目しているが、さらに各辺のコスト(距離)が均一ではない場合には、戻りが生じる個々の辺のコストの違いも含めて移動コストを算出する必要がある。例えば、戻る辺の数が同じでも、戻る辺のコスト(長さ)が異なる場合には、戻る辺のコストが小さい方を、移動コストが最小の移動順序として選択する。
【0056】
また、戻る辺の数が「1」の場合でも、当該1つの辺のコストが大きくて、別の2つの辺を戻る場合よりも戻りの移動距離(移動量)が大きくなるときには、別の2つの辺を戻る方がグループにおける総合的な移動コストとしては小さい。従って、第1サブステップで決定した最小全域木の各辺のコストを記憶しておき、ステップS5の第2サブステップでは、戻りが発生する辺のコストの総和が最小となるルートを、移動コスト最小のルートとして決定すると良い。
【0057】
図9では、第2グループを例示したが、第1グループについても同様にしてステップS5における第2サブステップを実行して、移動コストが最小の計測ルートを決定する。
【0058】
なお、戻りの移動量を考慮に入れた場合、最小全域木とは異なるルートの方が、総移動距離としては短くなる場合もある。例えば、
図7と
図8を参照して、第1グループに含まれる計測位置P5が、計測位置P4にリンクする場合(
図7)と、計測位置P2にリンクする場合(
図8)を考察する。計測位置P4から計測位置P5までの距離の方が、計測位置P2から計測位置P5までの距離よりも短いので、計測位置P5にリンクする辺のコストとしては
図7の形態の方が小さい。一方、計測位置P2、P4、P5の3点を辿る場合、
図7の形態では、計測位置P4と計測位置P5の間と、計測位置P2と計測位置P4の間の両方で、戻り動作(往復移動)が生じるが、
図8の形態では、三角の2辺を通る形になり、戻り動作の無い移動経路になる。そして、戻り動作を含まないことで総移動距離が短くなる場合には、
図8の形態での移動の方が時間的に有利になる可能性がある。
【0059】
ステップS5における第2サブステップでは、戻り移動を考慮に含めて、このようなグループ内でのリンク構造の変更(最小全域木からの見直し)を行っても良い。
【0060】
以上のようにして、各グループについて、複数の計測位置に移動体20を最小の移動コストで到達させるための計測ルートが決定される。建築物40についてステップS5での第2サブステップの処理を行った結果を
図7に示す。
図7で各計測位置を接続する辺(リンク)の脇に記載した矢印は、決定した計測ルートにおいて戻りが発生するか否かを示している。辺の両側に正逆方向の2つの矢印が存在する箇所は、末端に位置する計測位置から分岐までの戻りが発生することを意味する。辺の片側にだけ一方向の矢印が存在する箇所は、戻りが発生しない一筆書きのルートになっていることを意味する。
【0061】
図7に示す例では、第1グループは、計測位置P1を始点として計測ルートの移動順序が設定されている。第1グループでは、計測位置P4を中心として各計測位置P1~P3、P5への辺がスポーク状に接続しているので、始点である計測位置P1から計測位置P4までの辺を除いた全ての辺で、戻る動作が発生するという計測ルートになる。
【0062】
図7に示す例では、第2グループは、
図9を参照して説明したルート例Aを計測ルートの移動順序として採用している。計測位置P7と計測位置P8の間で戻る動作が発生し、それ以外の各辺では戻る動作を行わないという計測ルートになる。
【0063】
[ステップS6、ステップS7:計測ルート評価ステップ]
データ処理部12の機能ブロックである計算結果評価部12e(
図1)によってステップS6が処理される。ステップS6では、ステップS5で算出した計測ルートの評価を行う。この評価では、グループごとの計測ルートの移動コストを比較する。個々のグループにおける移動コストが低いほど、当該グループでのスキャンに要する時間が短くて済むことになる。また、複数のグループでスキャンを並行して実行する場合には、複数のグループ間の移動コストのばらつきが小さいほど、全体のスキャン作業の完了までの時間が短くて済む。このような観点から、各グループの移動コストが最も平均的に按分される計測ルートが作業効率や作業時間の面で最良であり、この最良の計測ルートになっているか否かが評価基準となる。最良の計測ルートではない場合には、「改善の余地有り」と判定されてステップS7でYESとなり、ステップS8に進む。最良の計測ルートになっている場合は、「改善不要」と判定されてステップS7でNOとなり、ステップS9に進む。
【0064】
[ステップS8:計測ルート補正ステップ]
データ処理部12の機能ブロックである計算結果補正部12f(
図1)によってステップS8が処理される。ステップS8では、計測位置のグルーピングを変更する。具体的には、先にステップS4で行ったグループ分けの中から、暫定的に1つの計測位置の所属を他のグループに変更する。ステップS8からステップS4に戻り、更新後の各グループについて、移動コストが最小になる計測ルートの算出をステップS5で行う。そして、ステップS6での評価を再度行う。
【0065】
つまり、1つの計測位置の所属グループを変更(ステップS8、ステップS4)した後、改めてそれぞれのグループで最小の移動コストを算出し(ステップS5)、前回の計算結果よりも移動コストの改善が見込まれるか否かを評価する(ステップS6)。評価方法としては、例えば、全グループのうち最も移動コストが大きいグループでの移動コストが最小になる(移動コストの最大値をできるだけ小さくする)ことを目指す方法や、移動コストが最も大きいグループと最も小さいグループの移動コストの差を最小にする(移動コストの差をできるだけ小さくする)ことを目指す方法を選択することができる。
【0066】
ステップS8からステップS4に戻り、ステップS7の判定結果を得るまでループする流れは、計測ルートに関する計算結果の補正処理である。従って、厳密には、計測ルート補正ステップは、ステップS8だけではなく、2回目以降のステップS4からステップS7までを含むものとなる。補正処理で行ったグループ分けの変更履歴と移動コストの算出結果は、命令作成部10のRAMに記憶される。そして、ステップS7での判定がNOになる(これ以上改善できなくなる)まで、計算結果の補正処理を繰り返す。
【0067】
計算結果の補正処理の一例を
図8に示す。
図8では、計測位置P8を第2グループから第1グループに変更して(ステップS8)、第1グループと第2グループの内容を更新している(ステップS4)。更新後の第1グループと第2グループについて、計測ルートの算出(ステップS5)と、計算結果の評価(ステップS6)を行う。このとき、第1グループと第2グループの移動コストが最も平均的に按分される経路を計測ルートとして抽出して、移動コストを確定させる。
【0068】
図7に示す補正前では、第1グループの辺の数が4、第2グループの辺の数が6であるのに対し、
図8に示す補正後では、第1グループと第2グループの辺の数がいずれも5である。そのため、
図7で移動コストが大きかった第2グループの移動コストが小さくなると共に、2つのグループの移動コストの差が小さくなっている。従って、
図7の計測ルートに対して
図8の計測ルートは改善していると言える。
【0069】
また、
図7に示す補正前では、第1グループが5箇所の計測位置(P1~P5)を含み、第2グループが7箇所の計測位置(P6~P12)を含むのに対し、
図8に示す補正後では、第1グループと第2グループがいずれも6箇所の計測位置を含むので、各グループでスキャンに要する時間が平均化される。このようなグループ間での計測位置の数の平均化を、改善の判定基準に含めても良い。
【0070】
さらに戻り動作を考察に含めると、以下のようになる。
図8に示す補正後では、計測位置P8が第2グループではなくなったことにより、第2グループは途中に分岐が存在しないルートになり、両端の計測位置P11と計測位置P12のどちらを始点にした場合でも、戻り動作を行わない最小の移動コストになる。従って、第2グループについては、グループ分けの更新による移動コストの低減効果が確実に得られる。
【0071】
第1グループについては、計測位置P8が加わることにより移動コストが増える。しかし、
図8のように、更新した第1グループの最小全域木の設定では計測位置P8が計測位置P5にリンクするため(ステップS5の第1サブステップ)、末端である計測位置P8を始点にするルート設定にすれば(ステップS5の第2サブステップ)、第1グループに計測位置P8を含めたことに起因する戻り動作の増加が生じない。
図7に示す補正前において計測位置P7と計測位置P8の間を往復する距離よりも、
図8に示す補正後において計測位置P8から計測位置P5までを片道移動する距離の方が短いため、第1グループと第2グループを合わせた総移動距離の低減効果が見込める。
【0072】
図8に示す補正例ではさらに、第1グループにおいて、計測位置P5が計測位置P4ではなく計測位置P2にリンクするように変更して、計測位置P8を始点として計測位置P5、P2、P4の順で移動するようにルート補正している。これにより、
図7に示す補正前での、計測位置P4と計測位置P5の間の戻り動作と、計測位置P2と計測位置P4の間の戻り動作が無くなっている。
図7において計測位置P2と計測位置P4の間を往復する距離と、計測位置P4と計測位置P5の間を往復する距離との合算よりも、
図8において計測位置P5から計測位置P2を経て計測位置P4までの2辺を片道移動する距離の方が短いため、第1グループと第2グループを合わせた総移動距離の低減効果が見込める。
【0073】
図8で所属グループを変更した計測位置P8以外にも、別グループへ変更可能な全ての計測位置について同様に、グループを変更した場合の計測ルートの算出とその評価を行う。別グループへ変更可能な計測位置とは、「他の2つ以上の計測位置とリンクで接続されている」、「所属グループの変更によりグループ数の増加を生じさせない(元から存在する各グループのリンク構造を分断させない)」という条件を満たす計測位置である。
【0074】
例えば、
図5に示す初期のグループ分けでは、計測位置P1、P2、P4、P5、P7、P8が、別グループへ移動可能な計測位置となる。計測位置P6、P9、P10は、第2グループから第1グループへ所属を変更すると、末端の計測位置P11や計測位置P12が第2グループから分断された新グループになってしまうため、別グループへの移動は不可となる。計測位置P3、P11、P12は、リンク先が1つだけであり、当該リンク先をスキップして他のグルーブの計測位置に接続させることができないため、別グループへの移動は不可となる。
【0075】
図8のように計測位置P8を第1グループに変更した場合の各グループの最小の移動コストの算出が完了したら、計測位置P8を第2グループに戻す。そして、次に計測位置P7を第2グループから第1グループに変更した場合の各グループの最小の移動コストを算出して、計測位置P7を第2グループに戻す。以下同様に、計測位置P1、P2、P4、P5をそれぞれ第1グループから第2グループに変更した場合の各グループの最小の移動コストを算出する。このようにして、別グループへ変更可能な計測位置を1つずつグループ変更させて、それぞれの場合の各グループの最小の移動コストを算出する。
【0076】
計測位置のグループ変更を行って算出した移動コストが、記憶されている既存の最良の移動コストよりも優れている場合(最も移動コストが大きいグループの移動コストが減少している場合や、移動コストが最も大きいグループと最も小さいグループの移動コストの差が縮小している場合)には、改善後の移動コストを更新して記憶する。計測位置のグループ変更を行って算出した移動コストよりも、記憶されている既存の最良の移動コストの方が優れている場合には、既存の移動コストの内容を保持する。
【0077】
このようにして計測位置のグループ変更と移動コストの算出を繰り返して計算結果の補正処理を行い、最終的に移動コストが最良となった状態(ステップS7での判定でNOに進んだ状態)の計測位置のグループ分けと各グループの計測ルートが確定内容となる。この確定内容が、複数の計測位置P1~P12に各移動体20を最小の移動コストで到達させる確定計測ルートとなり、確定計測ルートの情報が命令作成部10のRAMに記憶される。
【0078】
[ステップS9:移動体への命令ステップ]
ステップS9では、データ処理部12によって算出された確定計測ルート(計測位置のグループ分けと各グループの計測ルート)に基づいて、各移動体20への動作命令を自律移動操作命令部13から送信する。ステップS5の第2サプステップの処理を行っている場合は、第1サプステップで算出した計測ルートの形に、当該計測ルートを最も効率良く辿る移動順序情報を含めたものが、確定計測ルートとなる。
【0079】
例えば、
図8の内容でグループ分けが確定された場合、1台の移動体20に対して、「第1グループの計測位置(P1~P5、P8)を所定の(ステップS6及びステップS7で最良と判定された)計測ルートで移動して、各計測位置で3次元スキャナ30によるスキャンを実行する」という命令が送られる。別の1台の移動体20に対して、「第2グループの計測位置(P6、P7、P9~P12)を所定の(ステップS6及びステップS7で最良と判定された)計測ルートで移動して、各計測位置で3次元スキャナ30によるスキャンを実行する」という命令が送られる。命令の送信によって命令作成部10での一連の処理は完了して、
図2のフローチャートから抜ける。
【0080】
各移動体20は、命令作成部10から受けた命令をデータ受信部22で受信する。自律移動命令制御部23は、対物センサ25と慣性計測装置26からの信号を参照しながら走行駆動部27を動作させて、命令で指定された計測ルートに沿った移動を実行させる。計測ルート上の各計測位置に達すると、移動体20が移動を停止し、3次元スキャナ操作部24が3次元スキャナ30を制御して、対象物のスキャンを実行させる。スキャンが完了すると、計測ルートの指定に基づいて次の計測位置へ移動する。
【0081】
上述した命令作成部10のデータ処理部12での処理により、グループ間の移動コストの差を小さくしたり、最も移動コストが大きいグループで移動コストを抑えたりする内容で計測ルートが決定されているので、複数の移動体20で同時進行により3次元スキャンデータの取得を行った際に、最も移動コストが大きいグループを担当する移動体20が全ての計測作業を完了までに要する時間を短くすることができる。その結果、複数台の移動体20の利用効率を高めて、3次元スキャンデータを効率良く作成することが可能になる。また、グループ間の移動コストの差が小さく設定されていると、それぞれの移動体20の3次元スキャナ30で計測する際に、時間帯のずれや天候の相違などの経時的影響が少なくなるので、共通のオブジェクトについて計測位置ごとに共通した条件でデータ化しやすいという利点がある。その結果、各移動体20で取得した3次元スキャンデータを高精度に合成できる。
【0082】
一例として移動体20が2台である場合を説明したが、3台以上の移動体20を用いる場合にも適用が可能である。移動体20の台数に応じて、ステップS4で設定するグループ数を変更することにより、処理が可能である。
【0083】
以上に説明した通り、本開示のスキャンデータ作成方法及びスキャンデータ作成システムによれば、複数の計測位置での計測を効率良く行って、計測精度やデータの合成作業性に優れた3次元スキャンデータを取得することが可能である。
【0084】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
【0085】
例えば、上記実施の形態では、複数台の移動体20を運用する場合を示したが、移動体が1台の場合に適用しても良い。この場合、ステップS4での計測位置のグループ分けはスキップされる。また、ステップS8でのグループ間での計測位置の移動と、これに伴う計算結果の補正処理は行われない。そして、1台の移動体を移動コストが最小の計測ルートで移動させて、作業効率やデータ取得精度の向上を図るという効果を得ることができる。
【0086】
また、上記実施の形態では、使用する移動体20の台数が予め定まっている場合を示したが、使用する移動体20の台数が未定の場合に、好適な投入台数を決めるための手段として利用することも可能である。ステップS1で入力する移動体の台数を変更すれば、それに続く処理で、グループ数が異なる場合における最良の計測ルートの移動コストを知ることができる。そして、台数あたりの平均移動コストが最も優れるという基準で、使用する移動体20の台数を定めることができる。
【0087】
上記実施の形態は、自律移動可能な移動体20に3次元スキャナ30を搭載し、命令作成部10から計測ルートを含む命令を移動体20に送信するというスキャンデータ作成システム1に適用している。本発明は、このようなシステム構成において特に有用であるが、自律移動可能な移動体とは異なる手段で計測位置間の移動を行う場合にも適用が可能である。例えば、計測機器を保持した作業者(人間)が、徒歩や車両の運転などで計測位置間を移動するという態様でも成立する。この態様では、命令作成部10で算出した計測ルートを携帯情報端末や紙媒体などに表示して、それを参照しながら作業者が計測ルートに従って移動する。
【0088】
上記実施の形態では、計測機器として、全方位を計測可能な3次元スキャナ30を用いており、各計測位置での計測の作業効率に優れているが、計測機器はこれに限定されない。例えば、計測可能な画角が制限されたハンディキャナなどのデバイスを計測機器としても良い。計測機器の画角の違いに応じて、ステップS2で設定される計測位置の数や位置が異なる内容になる。
【0089】
また、レーザ光などを対象物に照射するタイプのスキャナ以外に、自機からは光線などを発さずに被写体を撮像するカメラを計測機器として用いることも可能である。カメラとしては、360度を撮影可能な全天球カメラや、これよりも画角が狭い通常のカメラを用いることができる。
【0090】
上記実施の形態では、ステップS5において、計測ルートの形(辺)を第1サブステップで算出し、さらに計測ルートを辿る際の移動順序を第2サブステップで算出している。そして、移動体20に対する命令として、第2サブステップで定めた移動順序情報を含む内容で計測ルートを送信している。これとは異なり、第2サブステップを省略して、第1サブステップで定めた計測ルートの形だけを移動体20に送信して、計測ルートを辿る際の移動順序は指定しないという変形例にすることも可能である。移動体20は、計測ルートのうち移動済みの部分を自ら記憶し、未探索の部分へ自動的に進行するように自律移動する。第1サブステップで計測ルートを最小全域木として定めているため、この変形例でも、計測ルートの形(辺の戻り動作を考慮しない場合)としての最小の移動コストを実現できる。
【0091】
あるいは、ステップS5において、第1サブステップで定めた計測ルートの形は変更せずに、第2サブステップを行うという変形例にすることも可能である。つまり、第1サブステップで定めた計測ルートを維持して、当該計測ルートを辿る移動順序のみを付加的に定めるというものである。具体的には、上記実施の形態では、計測位置P5のリンク先が計測位置P4になっている状態(
図7)から、計測位置P5のリンク先を計測位置P2にする状態(
図8)に変更しているが、このようなグループ内での経路変更は行わず、計測位置P5のリンク先が計測位置P4である状態を維持しながら、グループ内のリンクの移動順序だけを第2サブステップで定めるという処理になる。この変形例では、第1サブステップで計測ルートの形を確定させ、後からグループ内での経路変更を行わないので、算出の際の処理負担を軽減できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、複数の計測位置での計測を要するスキャンデータ作成に利用が可能であり、特に、建築物や工事現場のように広い計測対象をスキャンする場合に有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 スキャンデータ作成システム
10 命令作成部(算出手段)
11 データ受信部
12 データ処理部
12a 計測位置算出部
12b 移動可能情報算出部
12c 計測位置割当算出部
12d 計測ルート算出部
12e 計算結果評価部
12f 計算結果補正部
13 自律移動操作命令部
20 移動体
21 コンピュータ
22 データ受信部
23 自律移動命令制御部
24 3次元スキャナ操作部
25 対物センサ
26 慣性計測装置
27 走行駆動部
30 3次元スキャナ(計測機器)
31 計測部
32 データ記憶部
40 建築物(対象物)
41 外壁
42 隔壁
P1~P12 計測位置