(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】複合材構造およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B64F 5/10 20170101AFI20241218BHJP
【FI】
B64F5/10
(21)【出願番号】P 2021053287
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健佑
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0025022(US,A1)
【文献】国際公開第2021/006725(WO,A1)
【文献】米国特許第05817269(US,A)
【文献】特表2010-527303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0353181(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64F 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキンと補強材とを備える航空機の複合材構造の製造方法であって、
治具のうち前記補強材を保持する保持部と隣り合う領域に、未硬化の複合材シートを積層することにより、前記スキンのうち、前記補強材のフランジの幅方向の両端部を係止する係止部を含むスキン内側層を形成する第1積層工程と、
前記補強材の前記フランジの両端部を前記スキン内側層の前記係止部に当接させるようにして、前記補強材を前記治具の前記保持部に装着する装着工程と、
前記補強材の前記フランジの外面および前記スキン内側層の外面上に、未硬化の複合材シートを積層することにより、前記スキンのうちスキン外側層を形成する第2積層工程と、
前記スキン内側層および前記スキン外側層を硬化させる硬化工程と、
を含
み、
前記スキンは、前記スキン内側層が形成されない箇所に窪み部を備え、
前記フランジの内面は、前記スキンの前記窪み部外に位置し、前記スキン内側層に覆われていない、複合材構造の製造方法。
【請求項2】
スキンと補強材とから構成される航空機の複合材構造であって、
前記スキンは、
前記補強材のフランジの幅方向の両端部に当接して係止する係止部を含むスキン内側層と、
前記補強材の前記フランジの外面および前記スキン内側層の外面上に積層され、前記補強材の前記フランジの外面に接着されたスキン外側層と、
を備え
、
前記スキンは、前記スキン内側層が形成されない箇所に窪み部を備え、
前記フランジの内面は、前記スキンの前記窪み部外に位置し、前記スキン内側層に覆われていない、複合材構造。
【請求項3】
前記スキンの前記窪み部に前記補強材の前記フランジが埋め込まれた状態で、前記スキン内側層の前記係止部により前記フランジの幅方向の両端部が係止される、請求項2に記載の複合材構造。
【請求項4】
前記フランジの幅方向の端面は、第1テーパ面を有し、
前記スキン内側層の前記係止部は、前記第1テーパ面と当接する第2テーパ面を有する、請求項2または3に記載の複合材構造。
【請求項5】
前記スキンの前記スキン外側層と前記補強材の前記フランジとを接着する接着層をさらに備え、
前記接着層により前記スキンと前記補強材を接着する接着構造の剛性は、前記係止部により前記スキンと前記補強材を結合する機械的結合構造の剛性よりも高い、請求項2~4のいずれか1項に記載の複合材構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材構造およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の航空機構造は、燃費改善の要求によって、軽量化が求められている。軽量化の手段として炭素繊維複合材の適用と各部材の結合部には従来のボルト結合ではなく接着結合の適用が進んでいる。しかし、現状の複合材構造組立においては、接着への信頼度が不充分であることからフェイルセーフ性を考慮し、従来の金属部材と同様に、部材同士をボルト締結(チキンファスナ、アレスティングファスナ)で補強することが義務づけられている。そのため、機体全体で数十万本のボルトが締結されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、航空機の翼の外板を形成し得る複合材構造が開示されている。特許文献1の複合材構造は、パネル(外板)と、該パネルの表面に結合されたストリンガ(補強材)とを備えている。パネルには、凹部が形成され、ストリンガのランアウト(長手方向の一対の端部)には、凹部に係合可能なパッドが形成される。ストリンガのパッドは、パネルの凹部に係合している。ストリンガとパネルとの間には、接着剤が設けられる。また、ストリンガのパッドとパネルの凹部とは、ファスナにより締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のようにファスナを締結するためには、ストリンガのパッドとパネルの凹部に対し、穿孔やボルト締結作業が発生し、膨大な組立時間を要する。また、ボルト締結により複合材構造の重量が増加する。
【0006】
そこで、本発明は、組立時間の短縮および軽量化を達成することが可能な複合材構造およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の複合材構造の製造方法は、スキンと補強材とを備える航空機の複合材構造の製造方法であって、治具のうち補強材を保持する保持部と隣り合う領域に、未硬化の複合材シートを積層することにより、スキンのうち、補強材のフランジの幅方向の両端部を係止する係止部を含むスキン内側層を形成する第1積層工程と、補強材のフランジの両端部をスキン内側層の係止部に当接させるようにして、補強材を治具の保持部に装着する装着工程と、補強材のフランジの外面およびスキン内側層の外面上に、未硬化の複合材シートを積層することにより、スキンのうちスキン外側層を形成する第2積層工程と、スキン内側層およびスキン外側層を硬化させる硬化工程と、を含み、スキンは、スキン内側層が形成されない箇所に窪み部を備え、フランジの内面は、スキンの窪み部外に位置し、スキン内側層に覆われていない。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の複合材構造は、スキンと補強材とから構成される航空機の複合材構造であって、スキンは、補強材のフランジの幅方向の両端部に当接して係止する係止部を含むスキン内側層と、補強材のフランジの外面およびスキン内側層の外面上に積層され、補強材のフランジの外面に接着されたスキン外側層とを備え、スキンは、スキン内側層が形成されない箇所に窪み部を備え、フランジの内面は、スキンの窪み部外に位置し、スキン内側層に覆われていない。
【0009】
スキンの窪み部に補強材のフランジが埋め込まれた状態で、スキン内側層の係止部によりフランジの幅方向の両端部が係止されてもよい。
【0010】
フランジの幅方向の端面は、第1テーパ面を有し、スキン内側層の係止部は、第1テーパ面と当接する第2テーパ面を有してもよい。
【0011】
スキンのスキン外側層と補強材のフランジとを接着する接着層をさらに備え、接着層によりスキンと補強材を接着する接着構造の剛性は、係止部によりスキンと補強材を結合する機械的結合構造の剛性よりも高くてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複合材構造の組立時間の短縮および軽量化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る航空機の概略斜視図である。
【
図2】同実施形態に係る胴体の構造部材の一部を示す概略斜視図である。
【
図3】同実施形態に係るスキンとストリンガの接合構造を示す概略断面図である。
【
図4】同実施形態に係る複合材構造の荷重-変位線図である。
【
図5】同実施形態に係るスキン内側層を形成する第1積層工程を示す断面図である。
【
図6】同実施形態に係る治具にストリンガを装着する装着工程を示す断面図である。
【
図7】同実施形態に係るストリンガのフランジの外面に接着層を取り付ける貼付工程を示す断面図である。
【
図8】同実施形態に係るスキン外側層を形成する第2積層工程を示す断面図である。
【
図9】同実施形態に係るスキン外側層の積層後のスキンの硬化工程を示す断面図である。
【
図10】同実施形態に係る複合材構造の製造方法を示すフローチャートである。
【
図11】変形例に係る複合材構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[1.航空機の全体構成]
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る航空機1の全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る航空機1の概略斜視図である。
【0016】
図1に示すように、航空機1は、胴体3と、主翼5と、水平尾翼7と、垂直尾翼9とを備える。以下では、主翼5と、水平尾翼7と、垂直尾翼9を単に翼ともいう。
【0017】
胴体3は、航空機1の機体の中心構造部材であり、前後方向(ロール軸方向)の長さが左右方向(ピッチ軸方向)および上下方向(ヨー軸方向)の長さよりも長い。胴体3の内部には、搭乗者が搭乗可能な搭乗スペースが形成されるとともに、エンジン等の駆動源、燃料タンク、運転装置、計測器等の各種装置が搭載される。
【0018】
胴体3の中央部の左右両側に、一対の主翼5、5が設けられる。一対の主翼5、5は、胴体3の中央部から左右方向に張り出すように配置される。主翼5は、航空機1に上向きの揚力を発生させる。
【0019】
胴体3の後部の左右両側に、一対の水平尾翼7、7が設けられる。一対の水平尾翼7、7は、胴体3の後部から左右方向に張り出すように配置される。水平尾翼7は、航空機1のピッチ軸回りの安定性を保つ機能を有する。
【0020】
胴体3の後部の上側に、垂直尾翼9が設けられる。垂直尾翼9は、胴体3の後部から上方向に張り出すように配置される。垂直尾翼9は、航空機1のヨー軸回りの安定性を保つ機能を有する。
【0021】
本実施形態に係る航空機1の複合材構造は、例えば、胴体3の構造部材に好適に適用されるため、以下では胴体3の構造部材の例ついて詳述する。しかし、本発明の航空機の複合材構造は、胴体3以外にも、翼(例えば、主翼5)などに適用されてもよい。
【0022】
[2.胴体の内部構成]
図2は、本実施形態に係る航空機1の複合材構造の一例として、胴体3の構造部材の一部を示す概略斜視図である。
図2に示すように、胴体3は、スキン11(外板)と、複数のストリンガ13(補強材)と、複数のフレーム15と、複数のフロアビーム17とを含む。ここで、ストリンガ13は、胴体3の複合材構造を構成する補強材の一例である。
【0023】
スキン11は、大凡円筒形状である。スキン11は、胴体3の外皮を形成する。スキン11の外面は、胴体3の外部空間に露出し、内面は、胴体3の内部空間を形成する。
【0024】
複数のストリンガ13は、スキン11の内面に取り付けられ、航空機1の機体の前後方向(ロール軸方向)に延びるように配置される。複数のストリンガ13は、スキン11の内周面の周方向に間隔をあけて配置される。複数のストリンガ13は、スキン11の内周面の周方向に等間隔に配置されてもよいし、不等間隔に配置されてもよい。
【0025】
複数のストリンガ13は、胴体3のスキン11を補強する補強材であり、本発明のスキンを補強する補強材の一例である。本実施形態では、航空機1の複合材構造として、胴体3のスキン11の内面に複数のストリンガ13(補強材)が取り付けられる構造例について説明するが、本発明の航空機の複合材構造は、かかる例に限定されない。例えば、本発明のスキンは、上記胴体3のスキン11以外にも、航空機1の翼(主翼5、水平尾翼7、垂直尾翼9)の外皮、またはその他の各部のスキン(外板、内板等)であってもよい。また、本発明の補強材は、上記の胴体3のストリンガ13以外にも、航空機1の翼(主翼5、水平尾翼7、垂直尾翼9)、またはその他の各部のスキンを補強する補強材であってもよい。
【0026】
複数のフレーム15は、スキン11の内面に取り付けられ、複数のストリンガ13と交差(直交)する方向に延びるように配置される。本実施形態では、複数のフレーム15は、スキン11の内周面の周方向に延びるように配置される。フレーム15は、胴体3のスキン11を補強する補強材の一例である。
【0027】
複数のフロアビーム17は、それぞれ複数のフレーム15に1つずつ取り付けられる。複数のフロアビーム17は、胴体3の上下方向の下部に配置される。複数のフロアビーム17は、搭乗者が搭乗可能な搭乗スペースの床の一部を構成する。複数のフロアビーム17は、床にかかる荷重を受ける役割を有する。
【0028】
胴体3のうち、少なくともスキン11およびストリンガ13は、複合材、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)により構成される。ただし、スキン11およびストリンガ13は、GFRP(Glass-Fiber-Reinforced Plastics)またはAFRP(Aramid-Fiber-Reinforced Plastics)などの他の繊維強化プラスチックにより構成されてもよい。これにより、スキン11およびストリンガ13が金属材料で構成される場合よりも、比強度を大きくすることができ、また軽量化が可能となる。
【0029】
本実施形態に係る航空機1の複合材構造は、航空機の構造体のうち、このような繊維強化プラスチック等の複合材で構成される構造体を意味する。かかる航空機1の複合材構造では、近年、燃費改善の要求によって、軽量化が求められている。その解決手段として、スキン、補強材等の構造材として、CFRP等の複合材を適用することと、当該構造材同士の結合部には、従来のボルト結合ではなく、接着剤を用いた接着結合を適用することが進んでいる。
【0030】
本実施形態に係る航空機1の複合材構造では、接着剤を用いた接着結合に加えて、構造材同士の結合部の成形方法を工夫して機械的な結合を併用する。これにより、接着構造にアレスティングファスナを用いていたものから、フェイルセーフ性を維持したまま、複合材構造の軽量化、部品点数、ファスナ、治具等の削減によるコスト低減、および、組立工数の削減を図ることができる。以下に本実施形態に係る航空機1の複合材構造とその製造方法について詳述する。
【0031】
[3.スキンおよびストリンガの接合構造]
図3は、本実施形態に係るスキン11とストリンガ13の接合構造を示す概略断面図である。
図3に示すように、スキン11は、スキン内側層19と、スキン外側層21とを含む。スキン内側層19は、スキン11のうち胴体3の内面側に位置し、スキン外側層21は、スキン11のうち胴体3の外面側に位置する。スキン内側層19の外面19aに、スキン外側層21の内面21bが接合される。これにより、スキン内側層19とスキン外側層21とが一体化されて、スキン11が構成される。このように、スキン11は、スキン内側層19とスキン外側層21とからなる2層の積層構造を有する。
【0032】
スキン外側層21は、スキン11の外面全体に渡って形成される。一方、スキン内側層19は、スキン11の内面全体に渡って形成されず、スキン11の内面側には部分的にスキン内側層19が形成されていない領域が存在する。このように、スキン11は、胴体3の内面側において、スキン内側層19が形成されない箇所に窪み部23を有し、ストリンガ13のフランジ25を埋設するためのスペースを構成する。ストリンガ13のフランジ25は、スキン11の窪み部23に埋め込まれるように配置され、窪み部23に係合可能である。
【0033】
ストリンガ13は、
図3に示すように、例えば、T字型の断面形状を有する構造材である。ストリンガ13は、フランジ25と、ウェブ27とを有する。フランジ25は、平板帯状の長尺部材であり、ウェブ27に対して垂直に接合される。
図3に示すように、フランジ25の少なくとも一部は、スキン11の窪み部23内に配置される。フランジ25は、外面25aと、内面25bと、幅方向の一対の端部25cとを含む。なお、フランジ25の幅方向は、
図3の左右方向(両矢印Rで示す方向)である。
【0034】
ウェブ27は、平板帯状の長尺部材である。本実施形態では、ストリンガ13は、T型の断面形状を有し、フランジ25とウェブ27がT字状に接合された構造部材である。ただし、ストリンガ13の断面形状は、この例に限定されず、H型、I型、L型、コの字型、など他の形状を有してもよい。また、本実施形態では、ストリンガ13は、複数の複合材パーツを接合することで構成される。ただし、これに限定されず、ストリンガ13は、単一の複合材パーツにより構成されてもよい。本実施形態の複合材構造は、スキン11、ストリンガ13、および、接着層29により構成される。
【0035】
フランジ25の外面25aは、スキン11の窪み部23内に位置する。窪み部23内において、フランジ25の外面25aとスキン外側層21の内面21bとの間には、接着層29が設けられる。接着層29は、フランジ25の外面25aとスキン外側層21の内面21bとを接着する。つまり、接着層29は、ストリンガ13のフランジ25とスキン11のスキン外側層21との間に介在して、ストリンガ13とスキン11とを接着する。ただし、フランジ25の外面25aとスキン外側層21の内面21bとの間には、接着層29が設けられなくてもよく、例えば、硬化済みのフランジ25の外面25aと未硬化のスキン外側層21の内面21bとが、コボンド接着等により直接的に接合されてもよい。
【0036】
フランジ25の内面25bは、外面25aと反対側の面であり、スキン11の窪み部23外に位置する。ただし、フランジ25の内面25bは、スキン11の窪み部23内に位置してもよい。フランジ25の内面25bの幅方向中央位置には、ウェブ27が接合される。ウェブ27は、フランジ25の内面25bに対し直交する方向に立設される。
【0037】
フランジ25の幅方向の端部25cの一部は、スキン11の窪み部23内に配置され、当該端部25cの残部は窪み部23外に配置される。フランジ25の端部25cの端面25dは、テーパ面となっている。本実施形態では、フランジ25の厚み方向(
図3の上下方向)の位置によってフランジ25の幅(
図3の左右方向R)が異なり、フランジ25の幅は、外面25aから内面25bにかけて漸減する。そのため、フランジ25の端面25dは、外面25aから内面25bにかけて、ウェブ27に近づくように傾斜するテーパ面(第1テーパ面)である。
【0038】
ここで、スキン内側層19は、窪み部23に面する位置に係止部19cを備える。スキン内側層19の係止部19cは、窪み部23内に位置するフランジ25の端部25cと当接する。係止部19cは、フランジ25が窪み部23内から離脱しないように、フランジ25の端部25cを係止する。
【0039】
係止部19cの
図3の左右方向Rの端面19dは、テーパ面となっている。本実施形態では、係止部19cの端面19dは、スキン内側層19の外面19aから内面19bにかけて、ウェブ27に近づくように傾斜するテーパ面(第2テーパ面)である。
【0040】
スキン内側層19の一対の係止部19cの端面19d(第2テーパ面)は、フランジ25の一対の端面25d(第1テーパ面)の少なくとも一部と当接している。このとき、係止部19cの端面19dが、フランジ25の端部25cの端面25dに覆いかぶさるように配置されるため、一対の係止部19cによりフランジ25の両端部25cが係止される。これにより、フランジ25がスキン11(接着層29)から離隔する方向(
図3の上下方向)に移動することが制限される。このようにして、ストリンガ13のフランジ25がスキン11の窪み部23と係合し、かつ、フランジ25の両端部25cがスキン内側層19の係止部19cに当接して係止される。この結果、ストリンガ13のフランジ25がスキン11と機械的に結合される。
【0041】
本実施形態によれば、スキン11から離隔する方向への荷重がストリンガ13に加えられ、接着層29によるストリンガ13のフランジ25とスキン11との接着構造が剥がれた場合でも、上記スキン11の係止部19cによりストリンガ13のフランジ25がスキン11と機械的に結合されている。このように、本実施形態では、スキン11とストリンガ13の接着構造が剥離した際のフェイルセーフ構造として機能する機械的結合構造(係止部19c、窪み部23等)が設けられている。これにより、従来、フェイルセーフ構造として使用されていた、構造部材同士のボルト締結構造(チキンファスナ、アレスティングファスナ等)を不要とすることができる。その結果、ボルト締結構造のための穿孔やボルト締結作業等が不要となるので、組立時間を大幅に短縮できる。また、大量のボルトが不要となるので、航空機1の複合材構造を軽量化することができる。
【0042】
次に、
図4を参照して、本実施形態に係るスキン11とストリンガ13の接合構造の強度について説明する。
図4は、本実施形態に係る複合材構造の荷重-変位線図である。
【0043】
図4中、縦軸は、スキン11とストリンガ13とが離隔する方向に加えられる荷重を表し、横軸は、スキン11に対するストリンガ13の変位を表す。また、
図4中、破線は、スキン11とストリンガ13が接着構造のみにより接合された場合の荷重変位曲線である。一点鎖線は、スキン11とストリンガ13が係止部19cによる機械的結合構造のみにより接合された場合の荷重変位曲線である。実線は、スキン11とストリンガ13が接着構造と機械的結合構造の双方により接合された場合の荷重変位曲線である。
【0044】
図4中、破線で示されるように、スキン11とストリンガ13が接着構造のみにより接合された場合、スキン11とストリンガ13とが離隔する方向に荷重F1が加えられ、変位X1となったときに、接着層29による接着構造が破壊される。また、
図4中、一点鎖線で示されるように、スキン11とストリンガ13が係止部19cによる機械的結合構造のみにより接合された場合、スキン11とストリンガ13とが離隔する方向に荷重F2が加えられ、変位X2となったときに、係止部19cによる機械的結合構造が破壊される。ここで、荷重F1は、荷重F2よりも大きく、変位X1は、変位X2よりも小さい。
【0045】
これに対し、本実施形態の複合材構造によれば、
図4中、実線で示されるように、スキン11とストリンガ13とが離隔する方向に荷重F1が加えられ、変位X1となったときに、接着層29による接着構造が破壊される。しかし、本実施形態の複合材構造は、接着構造に加え、係止部19cによる機械的結合構造も備えている。そのため、接着構造が破壊された後も、機械的結合構造の係止部19cにより荷重を分担して、スキン11とストリンガ13の接合部における亀裂の進展を抑制でき、スキン11とストリンガ13とが即座に破断することを抑制できる。例えば、
図4に示すように、荷重F1により接着構造が破壊された後も、スキン11とストリンガ13の接合部に対して作用する荷重が荷重F2まで増加し、かつ、変位が変位X2まで増加するまでは、ストリンガ13のフランジ25はスキン11の窪み部23から脱離せず、スキン11とストリンガ13の接合が維持される。
【0046】
本実施形態の複合材構造では、接着層29による接着構造の剛性と係止部19cによる機械的結合構造の剛性との間に差(剛性差)が設けられている。ここで、接着構造の剛性は機械的結合構造の剛性よりも高い。そのため、接着構造が破壊されるまでの間、接着構造は、スキン11とストリンガ13との間の荷重伝達を良好に行うことができる。一方、接着構造の破壊が開始した後、接着構造が完全に破断するまでの間は、係止部19cによる機械的結合構造によって、荷重の一部を分担し、接着構造と機械的結合構造の双方で荷重を受け持つことができる。よって、接着構造の破壊開始箇所からのき裂の進展を抑制でき、即座の破断を防止することができる。
【0047】
ここで、もし仮に、接着構造の剛性が機械的結合構造の剛性より低い場合、機械的結合構造が破壊されると、接着構造も即座に破壊されてしまう。即ち、接着構造において亀裂が即座に進展し、スキン11とストリンガ13が即座に破断してしまう。そのため、本実施形態では、接着層29による接着構造の剛性を、係止部19cによる機械的結合構造の剛性より高く設定している。これにより、構造部材の接合部における亀裂の進展を抑制できる航空機1の複合材構造を提供できる。したがって、万が一、構造部材の接着構造に不具合があり、剥離等が発生したとても、機械的結合構造がフェイルセーフ構造となり、航空機1の複合材構造が早期破壊に至ることを防止できる。
【0048】
[4.複合材構造の製造方法]
次に、
図5~
図10を参照して、本実施形態に係る航空機1の複合材構造の製造方法について説明する。ここで、
図10は、本実施形態に係る複合材構造の製造方法を示すフローチャートである。
【0049】
(1)第1積層工程
図5は、本実施形態に係る複合材構造の製造方法において、スキン内側層19を形成する第1積層工程を示す断面図である。
図5に示すように、スキン内側層19は、治具50の表面に、積層機60により未硬化の複合材シートS(プリプレグ)が積層されることで形成される。
【0050】
積層機60は、治具50の表面のうち、ストリンガ13を保持するための保持部50aと異なる領域50b(非保持領域)に、複合材シートSを積層し、スキン内側層19を形成する(
図10の第1積層工程:ステップS100)。保持部50aは、非保持領域50bに対し、治具50の内側に窪んだ位置に形成される。領域50bは、治具50の表面のうち、保持部50aと隣り合う領域である。
【0051】
ここで、積層機60は、スキン内側層19の各層ごとに、胴体3の周方向Rにおいて長さの異なる複合材シートSを積層する。積層機60は、治具50の表面(非保持領域50b)に近いほど、長さの長い複合材シートSを積層する。その結果、スキン内側層19に上述した係止部19cおよび端面19d(テーパ面)が形成される。
【0052】
(2)装着工程
図6は、治具50にストリンガ13を装着する装着工程を示す断面図である。
図6に示すように、スキン内側層19の形成後、ストリンガ13は、非保持領域50bよりも治具50の内側に窪んだ保持部50aに装着される(
図10の装着工程:ステップS200)。ここで、保持部50aには、例えば、硬化済みのストリンガ13が装着される。ただし、これに限定されず、保持部50aには、未硬化状態のストリンガ13が装着されてもよい。
【0053】
ストリンガ13は、保持部50a内に位置した状態で、不図示の保持具により保持される。このとき、フランジ25の両端部25c(端面25d)は、フランジ25の厚さ方向において、スキン内側層19の係止部19c(端面19d)と重なるように配置され、フランジ25の端面25dは、係止部19cの端面19dと当接する(
図7参照)。フランジ25の端面25dの一部は、フランジ25の厚さ方向において、スキン内側層19の端面19dと重複している。
【0054】
(3)貼付工程
図7は、ストリンガ13のフランジ25の外面25aに接着層29を取り付ける貼付工程を示す断面図である。
図7に示すように、本実施形態の接着層29は、接着フィルムにより構成され、フランジ25の外面25aに貼付される(
図10の貼付工程:ステップS300)。ただし、これに限定されず、接着層29は、液状の接着剤により構成されてもよく、フランジ25の外面25aに塗布されてもよい。接着層29がフランジ25の外面25aに貼付されると、スキン内側層19の外面19aと接着層29の外面29aとは、大凡面一になる。
【0055】
(4)第2積層工程
図8は、スキン外側層21を形成する第2積層工程を示す断面図である。
図8に示すように、スキン外側層21は、スキン内側層19の外面19aおよび接着層29の外面29aに、積層機60により未硬化の複合材シートS(プリプレグ)が積層されることで形成される(
図10の第2積層工程:ステップS400)。ただし、これに限定されず、スキン外側層21は、接着層29が設けられない場合、スキン外側層21は、スキン内側層19の外面19aおよびフランジ25の外面25aに形成(積層)されてもよい。
【0056】
スキン内側層19の外面19aと接着層29の外面29aとが大凡面一であるため、スキン外側層21の外面21a(胴体3の外面)に窪み部や突出部が形成され難い(
図9参照)。なお、スキン外側層21を構成する複合材シートSの材質は、スキン内側層19を構成する複合材シートSの材質と同じである。ただし、これに限定されず、スキン外側層21を構成する複合材シートSの材質は、スキン内側層19を構成する複合材シートSの材質と異なっていてもよい。
【0057】
(5)硬化工程
図9は、スキン外側層21の積層後のスキン11の硬化工程を示す断面図である。スキン外側層21の積層後、スキン11(スキン内側層19、スキン外側層21)と、ストリンガ13と、接着層29とは、治具50に保持された状態で、不図示のオートクレーブ内に導入され、加熱される。このとき、オートクレーブ内で加熱されたスキン11(スキン内側層19、スキン外側層21)は、硬化する(
図10の硬化工程:ステップS500)。スキン11が硬化することで、
図3に示す本実施形態に係る複合材構造が形成される。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
上記実施形態では、スキン内側層19の係止部19cの端面19dおよびフランジ25の端面25dがテーパ面である例について説明した。しかし、これに限定されず、端面19d、25dは、テーパ面に代えて、段差面を有してもよい。
【0060】
図11は、本実施形態の変形例に係る複合材構造の概略断面図である。上記実施形態の複合材構造と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
図11に示すように、フランジ25の幅方向における端面125dは、段差面(第1段差面)を有する。また、係止部19cの左右方向Rにおける端面119dは、段差面(第2段差面)を有する。フランジ25の端面125d(第1段差面)は、係止部19cの端面(第2段差面)119dと当接し、係止部19cの一部は、フランジ25の端部25cの一部に覆いかぶさるように配置される。本変形例によれば、上記実施形態と同様に複合材構造の組立時間の短縮および軽量化を達成できるという効果を奏する。また、本変形例の端面119d、125dは、段差面により構成される。そのため、上記実施形態のように端面19d、25dがテーパ面により構成される場合よりも、係止部19cの厚さを大きくすることができ、係止部19cの強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0061】
S 複合材シート
1 航空機
3 胴体
11 スキン
13 ストリンガ
15 フレーム
17 フロアビーム
19 スキン内側層
19a 外面
19b 内面
19c 係止部
19d 端面(第2テーパ面)
21 スキン外側層
21a 外面
21b 内面
23 窪み部
25 フランジ
25a 外面
25b 内面
25c 端部
25d 端面(第1テーパ面)
27 ウェブ
29 接着層
50 治具
60 積層機