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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/22 20060101AFI20241218BHJP
   F16H 48/38 20120101ALI20241218BHJP
   F16H 48/20 20120101ALI20241218BHJP
【FI】
F16H48/22
F16H48/38
F16H48/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021059013
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022155668
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏臣
(72)【発明者】
【氏名】辻 太一
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
(72)【発明者】
【氏名】双木 勝之
(72)【発明者】
【氏名】高柳 龍也
(72)【発明者】
【氏名】神 義幸
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 佑介
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-108856(JP,U)
【文献】特開平9-49557(JP,A)
【文献】特開平4-88240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/22
F16H 48/38
F16H 48/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトに設けられ、前記ピニオンシャフトの中心軸線方向に互いに離間する、第1ピニオンギヤおよび第2ピニオンギヤと、
前記ピニオンシャフトに設けられ、前記中心軸線方向において前記第1ピニオンギヤと前記第2ピニオンギヤとの間で互いに隣接する、円筒状の第1制限部材および第2制限部材と、
を備え、
前記第1制限部材および前記第2制限部材は、互いに噛み合う第1カムおよび第2カムをそれぞれ含み、
前記第1制限部材および前記第2制限部材に対して反対方向の回転トルクが加えられるときに、前記第1カムおよび前記第2カムは、前記第1制限部材および前記第2制限部材に対して、前記中心軸線に沿って反対方向のアキシャル力をそれぞれ発生させ、
前記第1制限部材は、前記第1ピニオンギヤに隣接して配置され、かつ、前記第1ピニオンギヤに対して回転方向に固定され、
前記第2制限部材と前記第2ピニオンギヤとの間には、前記第2制限部材と前記第2ピニオンギヤとの間に摩擦トルクを発生させる摩擦機構が設けられる、
差動装置。
【請求項2】
前記摩擦機構は、前記第2制限部材と前記第2ピニオンギヤとの間に配置される少なくとも1枚の摩擦シートを含み、
前記少なくとも1枚の摩擦シートは、基材と、合成樹脂からなるバインダーと、を含む、
請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記摩擦機構は、前記第2制限部材と前記第2ピニオンギヤとの間に配置される少なくとも1枚の金属製の皿バネを含む、請求項1に記載の差動装置。
【請求項4】
前記第1制限部材および前記第1ピニオンギヤの一方が、突起を含み、
前記第1制限部材および前記第1ピニオンギヤの他方が、前記突起と係合する溝を含む、
請求項1-3のいずれか1項に記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両では、例えば、左右の駆動輪の間の回転差を吸収するために差動装置が使用される。しかしながら、例えば、滑り易い道路において、駆動輪の一方が自由に回転し他方が道路と接触し続ける場合、差動装置は、自由に回転する駆動輪にトルクを伝達する。この場合、車両は、意図されたように走行することができない。したがって、車両の技術分野では、差動装置の差動動作を制限するための様々な構成が提案されている(LSD(Limited-slip differential)とも称され得る)。
【0003】
例えば、特許文献1は、このような差動動作を制限する装置を開示している。この装置は、一対のピニオンギヤの間に、一対のスリーブを備える。一対のスリーブの係合部は、互いに噛み合うカムを含む。駆動輪の間のトルク差に応じて2つのピニオンギヤに反対方向の回転トルクが加わると、2つのスリーブにも反対方向の回転トルクが加わる。スリーブに反対方向の回転トルクが加わると、一対のカムによって、スリーブに対してピニオンシャフトの軸線方向に沿って反対方向のアキシャル力がそれぞれ加えられる。これらのアキシャル力によって、各ピニオンギヤがケースに押し付けられる。このような構成によって、各ピニオンギヤの回転が制限され、それによって、差動動作が制限される。各ピニオンギヤは、ピニオンギヤとケースとの間の摺動による焼き付きを防止するために油溝を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-49557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、ピニオンギヤとケースとが摺動するため、上記のように、ピニオンギヤに(または、ケースに)油溝を設ける必要がある。また、ピニオンギヤおよびケースの接触面は、摺動を許容するように設計される必要がある。したがって、特許文献1の装置の設計は複雑になり得る。
【0006】
本発明は、上記の課題を考慮して、シンプルな構成で差動動作を制限することができる差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る差動装置は、
ピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトに設けられ、前記ピニオンシャフトの中心軸線方向に互いに離間する、第1ピニオンギヤおよび第2ピニオンギヤと、
前記ピニオンシャフトに設けられ、前記中心軸線方向において前記第1ピニオンギヤと前記第2ピニオンギヤとの間で互いに隣接する、円筒状の第1制限部材および第2制限部材と、
を備え、
前記第1制限部材および前記第2制限部材は、互いに噛み合う第1カムおよび第2カムをそれぞれ含み、
前記第1制限部材および前記第2制限部材に対して反対方向の回転トルクが加えられるときに、前記第1カムおよび前記第2カムは、前記第1制限部材および前記第2制限部材に対して、前記中心軸線に沿って反対方向のアキシャル力をそれぞれ発生させ、
前記第1制限部材は、前記第1ピニオンギヤに隣接して配置され、かつ、前記第1ピニオンギヤに対して回転方向に固定され、
前記第2制限部材と前記第2ピニオンギヤとの間には、前記第2制限部材と前記第2ピニオンギヤとの間に摩擦トルクを発生させる摩擦機構が設けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シンプルな構成で差動動作を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る差動装置を示す概略的な断面図である。
図2図2は、図1中のA部の概略的な拡大図である。
図3図3は、実施形態に係る第1制限部材、第2制限部材および摩擦部材を示す概略的な側面図である。
図4図4は、他の実施形態に係る摩擦部材を示す概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、明細書および図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る差動装置1を示す概略的な断面図であり、差動装置1を上方から示す。例えば、差動装置1は、HEV(Hybrid Electric Vehicle)、ガソリン自動車またはディーゼル自動車等の車両100に搭載される。なお、矢印Fは、車両100の前進方向を示し、矢印Bは、車両100の後進方向を示し、矢印Rは、車両100の右方向を示し、矢印Lは、車両100の左方向を示す。
【0012】
差動装置1は、ハウジング3内に設けられる。ハウジング3には、不図示の動力源(例えば、エンジンまたはモータ)に接続されるシャフト5が設けられる。シャフト5は、動力源から伝達される駆動力により回転する。シャフト5の端部には、出力ギヤ5aが設けられる。出力ギヤ5aは、シャフト5と一体回転する。
【0013】
差動装置1は、ケース10を備える。ケース10は、軸受BBを介してハウジング3に回転可能に支持される。ケース10は、本体部10aと、フランジ部10bとを含む。
【0014】
本体部10aは、概ね円筒形状を有し、LR方向に延在する中心軸線を有する。本体部10aは、ギヤ室14を画定する。
【0015】
フランジ部10bは、概ね円盤形状を有し、本体部10aと同心に配置される。すなわち、フランジ部10bは、LR方向に延在する中心軸線を有する。フランジ部10bは、本体部10aの外面から径方向外側に突出する。例えば、フランジ部10bは、本体部10aの外面に一体形成される。
【0016】
フランジ部10bには、上記の出力ギヤ5aと噛み合うリングギヤ12が取り付けられる。ケース10は、シャフト5から出力ギヤ5aおよびリングギヤ12を介して入力される回転動力によって、LR方向に延在する軸線を中心にして回転する。
【0017】
本体部10aは、一対の貫通孔10cを含む。一対の貫通孔10cの中心軸線は、互いに一致し、本体部10aの中心軸線に垂直な方向(すなわち、FB方向)に延在する。貫通孔10cには、ピニオンシャフト16が挿入される。ピニオンシャフト16の両端部は、貫通孔10cに支持される。ギヤ室14は、ピニオンシャフト16の中央部を収容する。
【0018】
本体部10aは、ピン孔10dを含む。ピン孔10dは、本体部10aの中心軸線に平行な方向(すなわち、LR方向)に延在する。ピン孔10dは、一方の貫通孔10c(図1において、上側の貫通孔10c)と交差しかつ連通する。ピン孔10dは、ギヤ室14に対して、径方向外側に形成される。
【0019】
ピニオンシャフト16は、ピン孔10dに対応する位置に、連通孔16aを含む。したがって、連通孔16aは、ピン孔10dと連続する。ピン孔10dおよび連通孔16aには、ピンPが挿入される。ピンPは、ピニオンシャフト16の軸方向および回転方向の移動を規制する。
【0020】
ピニオンシャフト16には、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bが設けられる。第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bは、ピニオンシャフト16によって回転可能に支持される。第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bは、ギヤ室14に収容される。
【0021】
第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bは、ピニオンシャフト16の中心軸線に沿って互いに離間される。ピニオンシャフト16には、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bの間に、第1制限部材23a、第2制限部材23bおよび摩擦部材24が設けられる(詳しくは後述)。
【0022】
本体部10aは、一対の貫通孔10eを含む。一対の貫通孔10eの中心軸線は、互いに一致し、かつ、本体部10aの中心軸線に一致する。すなわち、貫通孔10eの中心軸線は、LR方向に延在する。一対の貫通孔10eには、それぞれサイドギヤ20L、20Rが挿入される。サイドギヤ20L、20Rの各々は、貫通孔10eに回転可能に支持される。サイドギヤ20L、20Rは、ギヤ室14に収容される。
【0023】
サイドギヤ20Lは、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに対して、本体部10aの中心軸線方向において一方側に配置され、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bと噛み合う。サイドギヤ20Rは、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに対して、本体部10aの中心軸線方向において他方側に配置され、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bと噛み合う。
【0024】
サイドギヤ20Lには、駆動輪シャフト22Lが取り付けられる。駆動輪シャフト22Lの中心軸線は、本体部10aの中心軸線と一致する。駆動輪シャフト22Lは、サイドギヤ20Lと一体回転する。同様に、サイドギヤ20Rには、駆動輪シャフト22Rが取り付けられる。駆動輪シャフト22Rの中心軸線は、本体部10aの中心軸線と一致する。駆動輪シャフト22Rは、サイドギヤ20Rと一体回転する。駆動輪シャフト22L、22Rには、それぞれ不図示の車輪が設けられる。
【0025】
以上のような差動装置1では、動力源からの駆動力によってシャフト5および出力ギヤ5aが一体回転されると、出力ギヤ5aによってリングギヤ12が回転される。リングギヤ12が回転されると、ケース10がリングギヤ12と一体回転する。
【0026】
例えば、車両100が直線的に走行する場合には、ピニオンシャフト16、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bは、本体部10aの中心軸線周りに、ケース10と一体回転する(公転)。第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bが本体部10aの中心軸線周りに公転すると、サイドギヤ20L、20Rが、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bと一体回転する。サイドギヤ20L、20Rが互いに一体回転すると、駆動輪シャフト22L、22Rが、サイドギヤ20L、20Rと一体回転する。したがって、左右の駆動輪が同じ回転数で回転する。
【0027】
例えば、車両100が左または右に旋回する場合、左右の駆動輪(すなわち、駆動輪シャフト22L、22R)は、異なる回転数で回転する。駆動輪シャフト22L、22Rが異なる回転数で回転すると、サイドギヤ20L、20Rも異なる回転数で回転する。サイドギヤ20L、20Rが異なる回転数で回転すると、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bは、ピニオンシャフト16を中心として反対方向に回転する。このような構成によって、サイドギヤ20L、20Rの間の回転差が第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bによって吸収され、これによって、トルクが各車輪に各々の回転数に応じて分配される。
【0028】
続いて、第1制限部材23a、第2制限部材23bおよび摩擦部材(摩擦機構)24について詳細に説明する。
【0029】
図2は、図1中のA部の概略的な拡大図である。上記のように、ピニオンシャフト16には、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bの間に、第1制限部材23a、第2制限部材23bおよび摩擦部材24が設けられる。
【0030】
第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの各々は、円筒形状を有する。第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、ピニオンシャフト16の周りに同心に配置される。第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの内径は、互いに一致(または、ほぼ一致)し、ピニオンシャフト16の外径よりも僅かに大きい。第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、ピニオンシャフト16を中心に回転可能に配置される。第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの外径は、駆動輪シャフト22L,22Rと接触しないように寸法決めされる。
【0031】
ピニオンシャフト16の中心軸線方向における長さについて、例えば、第1制限部材23aは、摩擦部材24および突起23d(詳しくは後述)の長さの分だけ、第2制限部材23bよりも長い。第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの長さは、これに限定されず、例えば、第2制限部材23bが、第1制限部材23aよりも長くてもよい。ピニオンシャフト16の中心軸線方向において、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、互いに隣接して配置される。ピニオンシャフト16の中心軸線方向において、第1制限部材23aは、第1ピニオンギヤ18aに隣接して配置される。ピニオンシャフト16の中心軸線方向において、第2制限部材23bと第2ピニオンギヤ18bとの間には、摩擦部材24が配置される。ピニオンシャフト16の中心軸線方向において、第1ピニオンギヤ18a、第1制限部材23a、第2制限部材23b、摩擦部材24および第2ピニオンギヤ18bは、互いに接触するように寸法決めされる。したがって、第1制限部材23a、第2制限部材23bおよび摩擦部材24の軸線方向の移動は、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bによって制限される。
【0032】
図3は、実施形態に係る第1制限部材23a、第2制限部材23bおよび摩擦部材24を示す概略的な側面図である。第1制限部材23aは、第1ピニオンギヤ18a(図3において不図示)に対向する端面23cに、1つまたは複数の突起23dを含む。本実施形態では、第1制限部材23aは、2つの突起23dを含む。他の実施形態では、第1制限部材23aは、単一の突起23dまたは3つ以上の突起23dを含んでもよい。2つの突起23dは、第1制限部材23aの円周方向において、例えば180度、互いに離間して設けられる。
【0033】
図2を参照して、第1ピニオンギヤ18aは、上記の突起23dと対応する位置に、溝18cを含む。溝18cは、突起23dを受け入れるように構成される。したがって、第1制限部材23aは、第1ピニオンギヤ18aの回転方向において、第1ピニオンギヤ18aに対して固定される。すなわち、第1制限部材23aは、第1ピニオンギヤ18aと一体回転する。
【0034】
図3を参照して、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、互いに噛み合う第1カム23eおよび第2カム23fをそれぞれ含む。図3の右図に示されるように、第1カム23eおよび第2カム23fは、反対方向の回転トルクがそれぞれ第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して加えられるときに、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して、ピニオンシャフト16の中心軸線に沿って反対方向のアキシャル力Faをそれぞれ発生させるように、構成される。なお、図3の右図では、より良い理解のために、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの間の隙間が誇張されているが、実際の隙間はゼロであってもよい(または、極めて小さくてもよい)、何故ならば、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの軸線方向の移動は、上記のように、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18b(図3において不図示)によって制限されるからである。
【0035】
具体的には、第1カム23eは、円周方向に沿って複数の突起23gを含む。突起23gの頂点と谷とを結ぶ縁23hは、第1制限部材23aの中心軸線に対して傾斜している。例えば、縁23hは直線形状を有する。本実施形態では、縁23hの傾斜角度は45度であるが、これに限定されない。他の実施形態では、縁23hは曲線形状を有してもよい。
【0036】
第2カム23fは、第1カム23eに対して相補的な形状を有する。具体的には、第2カム23fは、円周方向に沿って複数の突起23iを含む。突起23iの頂点と谷とを結ぶ縁23jは、第2制限部材23bの中心軸線に対して傾斜しており、かつ、第1制限部材23aの縁23hに対応するように形成されている。例えば、縁23jは直線形状を有する。本実施形態では、縁23jの傾斜角度は45度であるが、これに限定されない。他の実施形態では、縁23jは曲線形状を有してもよい。
【0037】
第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、例えば鉄等の金属によって形成される。
【0038】
摩擦部材24は、上記の第1カム23eおよび第2カム23fからのアキシャル力Faに応じて、第2制限部材23bと第2ピニオンギヤ18bとの間に、摩擦トルク(摩擦力)を発生するように構成される。例えば、摩擦部材24は、円環形状または円筒形状を有し、ピニオンシャフト16の周りに同心に配置される。本実施形態では、摩擦部材24は、本体24aと、2枚の摩擦シート24bと、を含む。
【0039】
本体24aは、円環形状または円筒形状を有する。本体24aは、例えば鉄等の金属によって形成される。
【0040】
摩擦シート24bは、本体24aの両端面に貼り付けられる。例えば、摩擦シート24bは、パルプ繊維、アラミド繊維またはカーボン等を含む基材と、フェノール樹脂等の合成樹脂からなるバインダーと、を含む。例えば、摩擦シート24bは、自動車に使用される湿式のクラッチフェーシングと同様に形成されてもよい。
【0041】
例えば、摩擦部材24によってもたらされる第2制限部材23bと第2ピニオンギヤ18bとの間の最大静止摩擦トルクTmaxは、例えば、本実施形態では20N・m程度に調整される。例えば、最大静止摩擦トルクTmaxは、摩擦シート24bの種類または面積等を変えることによって、調整可能である。例えば、最大静止摩擦トルクTmaxは、左右の駆動輪(または、駆動輪シャフト22L,22R)の間のトルク差を徐々に増加させ、差動装置1が差動動作を開始するとき(すなわち、以下に示す第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bの間の相対回転の制限が解除されるとき)のトルク差を測定することによって、決定可能である。例えば、測定値が変動する場合には、最大静止摩擦トルクTmaxは、それらの平均値であってもよい。
【0042】
続いて、差動装置1の動作について説明する。
【0043】
図1を参照して、例えば、車両100が高速道路または橋等の道路を真っ直ぐ走行中に突然の横風を受ける場合、左右の駆動輪のうちの一方と地面との間の接触圧力が減少し、他方の駆動輪と地面との間の接触圧力が増加する。この場合、駆動輪シャフト22L、22Rに加わるトルク(すなわち、サイドギヤ20L、20Rに加わるトルク)は、互いに異なる。したがって、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに対して、反対方向の回転トルクが加わる。
【0044】
図2を参照して、第1ピニオンギヤ18aおよび第1制限部材23aは、突起23dおよび溝18cの係合によって、回転方向に互いに固定される。また、回転トルクが最大静止摩擦トルクTmax(本実施形態では、20N)以下である場合、第2ピニオンギヤ18bおよび第2制限部材23bも、摩擦部材24からの摩擦トルクによって、回転方向に互いに固定される。したがって、上記のように、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに対して反対方向の回転トルクが加わる場合、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して、反対方向の回転トルクがそれぞれ加えられる。
【0045】
図3を参照して、反対方向の回転トルクがそれぞれ第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して加えられると、第1カム23eおよび第2カム23fの間の反作用によって、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して、ピニオンシャフト16の中心軸線に沿って反対方向のアキシャル力Faがそれぞれ加えられる。
【0046】
図2を参照して、アキシャル力Fa(図2において不図示)は、第2制限部材23bから摩擦部材24を介して、第2ピニオンギヤ18bに加わる。したがって、アキシャル力Faに起因する摩擦部材24からの摩擦トルクによって、第2制限部材23b、摩擦部材24および第2ピニオンギヤ18bは、回転方向に互いにロックされる。また、上記のように、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bの軸線方向の移動は、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bによって制限されるため、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、第1カム23eおよび第2カム23fの係合によって回転方向に互いにロックされる。さらに、第1制限部材23aおよび第1ピニオンギヤ18aは、突起23dおよび溝18cの係合によって回転方向に互いにロックされる。すなわち、第1ピニオンギヤ18a~第2ピニオンギヤ18b間の全ての部品(第1ピニオンギヤ18a、第1制限部材23a、第2制限部材23b、摩擦部材24および第2ピニオンギヤ18b)が、回転方向に互いにロックされる。したがって、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに反対方向の回転トルクが加えられるが、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bの相対回転は、アキシャル力Faに起因する摩擦部材24からの摩擦トルクによって制限される。よって、差動動作が制限される。
【0047】
以上のように、差動装置1では、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに加わる回転トルクが最大静止摩擦トルクTmax(本実施形態では、20N・m程度)以下である場合、すなわち、左右の駆動輪の間のトルク差が比較的小さい場合に、差動動作が制限される。したがって、例えば、車両100が高速道路または橋等の道路を真っ直ぐ走行中に突然の横風を受ける等の左右の駆動輪の間のトルク差が比較的小さい状況において、差動装置1は、左右の駆動輪に対して均等にトルクを分配し続ける。したがって、走行安定性が向上される。
【0048】
第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに加わる回転トルクが最大静止摩擦トルクTmaxを超えると、第2ピニオンギヤ18bは摩擦部材24からの摩擦トルクに打ち勝って、第1ピニオンギヤ18aに対して反対方向に回転を始める。したがって、差動装置1は、差動動作を開始する。
【0049】
以上のような差動装置1は、ピニオンシャフト16と、ピニオンシャフト16に設けられ、ピニオンシャフト16の中心軸線方向に互いに離間する第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bと、ピニオンシャフト16に設けられ、中心軸線方向において第1ピニオンギヤ18aと第2ピニオンギヤ18bとの間で互いに隣接する円筒状の第1制限部材23aおよび第2制限部材23bと、を備える。第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、互いに噛み合う第1カム23eおよび第2カム23fをそれぞれ含み、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して反対方向の回転トルクが加えられるときに、第1カム23eおよび第2カム23fは、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して、ピニオンシャフト16の中心軸線に沿って反対方向のアキシャル力Faをそれぞれ発生させる。第1制限部材23aは、第1ピニオンギヤ18aに隣接して配置され、かつ、第1ピニオンギヤ18aに対して回転方向に固定される。第2制限部材23bと第2ピニオンギヤ18bとの間には、第2制限部材23bと第2ピニオンギヤ18bとの間に摩擦トルクを発生させる摩擦部材24が設けられる。このような差動装置1において、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bに反対方向の回転トルクが加わると(すなわち、左右の駆動輪の間にトルク差が生じると)、第1カム23eおよび第2カム23fによって、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bに対して、ピニオンシャフト16の中心軸線に沿って反対方向のアキシャル力Faが加えられる。このアキシャル力Faに起因する摩擦部材24からの摩擦トルクによって、第2制限部材23b、摩擦部材24および第2ピニオンギヤ18bは、回転方向に互いにロックされる。また、第1制限部材23aおよび第2制限部材23bは、第1カム23eおよび第2カム23fの係合によって、回転方向に互いにロックされる。さらに、第1制限部材23aは、第1ピニオンギヤ18aに対して回転方向に固定される。したがって、第1ピニオンギヤ18a、第1制限部材23a、第2制限部材23b、摩擦部材24および第2ピニオンギヤ18bの全てが、回転方向に互いにロックされ、差動動作が制限される。よって、第1ピニオンギヤ18aおよび第2ピニオンギヤ18bの間に第1制限部材23a、第2制限部材23bおよび摩擦部材24を挿入するというシンプルな構成によって、差動動作を制限することができる。また、差動装置1では、第1ピニオンギヤ18a~第2ピニオンギヤ18b間の部品によって、差動動作の制限が完結される。したがって、ケース10の設計変更等の複雑な設計変更を回避することができる。
【0050】
また、差動装置1では、摩擦部材24は、第2制限部材23bと第2ピニオンギヤ18bとの間に配置される少なくとも1枚の摩擦シート24bを含み、少なくとも1枚の摩擦シート24bは、基材と、合成樹脂からなるバインダーと、を含む。このような摩擦シート24bとして、例えば、自動車に使用される簡単に入手可能なクラッチフェーシングを使用することができる。また、摩擦シート24bが摩耗した場合には、摩擦シート24bを簡単に交換することができる。
【0051】
また、差動装置1では、第1制限部材23aが、突起23dを含み、第1ピニオンギヤ18aが、突起23dと係合する溝18cを含む。このような構成によれば、第1ピニオンギヤ18aおよび第1制限部材23aを別々に準備することができる。したがって、例えば、既存の車両100の第1ピニオンギヤ18aに対して、単に、溝18cを形成することによって、既存の車両100に対して、本実施形態に係る差動装置1を容易に適用することが可能である。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0053】
例えば、上記の実施形態では、摩擦機構として、摩擦シート24bを含む摩擦部材24が使用される。しかしながら、他の実施形態では、摩擦機構は、他の部品を含んでもよい。例えば、図4は、他の実施形態に係る摩擦部材25を示す概略的な側面図である。この実施形態では、摩擦機構として皿バネ25が使用される。皿バネ25は、例えば鉄等の金属によって形成される。この実施形態では、皿バネ25が金属製であることから、耐摩耗性が向上し得る。
【0054】
また、例えば、図3の実施形態では、摩擦部材24は、本体24aと、2枚の摩擦シート24bと、を含む。しかしながら、他の実施形態では、例えば、摩擦部材24は、1枚の摩擦シート24bのみを含んでもよく、この摩擦シート24bは、例えば、第2制限部材23bの端面または第2ピニオンギヤ18bの端面に直接的に貼り付けられてもよい。さらに他の実施形態では、摩擦機構は、第2制限部材23bの端面または第2ピニオンギヤ18bの端面の少なくとも一方に直接的に形成された粗い表面であってもよい。
【0055】
また、例えば、上記の実施形態では、第1制限部材23aが突起23dを含み、第1ピニオンギヤ18aが溝18cを含む。しかしながら、他の実施形態では、第1ピニオンギヤ18aが突起を含んでもよく、第1制限部材23aがこの突起を受け入れる溝を含んでもよい。さらに他の実施形態では、第1制限部材23aおよび第1ピニオンギヤ18aは、一体に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 差動装置
16 ピニオンシャフト
18a 第1ピニオンギヤ
18b 第2ピニオンギヤ
18c 溝
23a 第1制限部材
23b 第2制限部材
23d 突起
23e 第1カム
23f 第2カム
24 摩擦部材(摩擦機構)
24b 摩擦シート
25 皿バネ(摩擦機構)
Fa アキシャル力
図1
図2
図3
図4