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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】接合方法及び摩擦撹拌点接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
B23K20/12 364
B23K20/12 344
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021061059
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157051
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 章嘉
(72)【発明者】
【氏名】佐山 満
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大知
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/032142(WO,A1)
【文献】特開2006-061921(JP,A)
【文献】特開2014-050859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された前記第1材料の硬度よりも高い硬度を有する第2材料とを含む複数の材料を互いに接合するための摩擦撹拌点接合装置であって、
前記第1材料の表面に交差する中心軸線に沿って延在し、前記中心軸線回りに回転可能なプローブと、
前記プローブを少なくとも部分的に外囲するショルダとを備え、
前記ショルダは、前記プローブを間隔をおいて外囲し、かつ前記複数の材料に選択的に当接可能な当接面を備えた外筒部と、前記プローブを密接して外囲し、先端を有する内筒部とを含み、前記内筒部と前記外筒部との間に、前記複数の材料に対向する底面を有する凹部が画定され
前記プローブは、前記ショルダに対して独立して回転可能であり、
前記第1材料が、前記第2材料よりも前記ショルダの側に配置され、かつ、前記複数の材料における最も前記ショルダの側に配置された材料の表面に前記ショルダの前記当接面を当接させた状態で、前記ショルダを回転させずに、前記プローブを前記中心軸線回りに回転させながら、前記プローブの突入端面が前記第2材料の両表面の間に位置するまで、前記プローブを前記複数の材料に突入させ、その後、前記複数の材料から前記プローブを引き抜くことにより、前記複数の材料を互いに接合することを特徴とする摩擦撹拌点接合装置。
【請求項2】
前記先端は、前記当接面よりも前進していることを特徴とする請求項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項3】
板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された前記第1材料の硬度よりも高い硬度を有する第2材料とを含む複数の材料を互いに接合するための摩擦撹拌点接合装置であって、
前記第1材料の表面に交差する中心軸線に沿って延在し、前記中心軸線回りに回転可能なプローブと、
前記プローブを少なくとも部分的に外囲するショルダとを備え、
前記ショルダは、前記プローブを間隔をおいて外囲し、かつ前記複数の材料に選択的に当接可能な当接面を備えた外筒部と、前記プローブを密接して外囲し、先端を有する内筒部とを含み、前記内筒部と前記外筒部との間に、前記複数の材料に対向する底面を有する凹部が画定され、
前記先端は、前記当接面に対して後退していることを特徴とす摩擦撹拌点接合装置。
【請求項4】
前記内筒部は、前記中心軸線の周りに環状に連続して配置され、前記内筒部の前記先端は、一定の径方向幅を有することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項5】
前記内筒部は、前記中心軸線の周りに環状に連続して配置され、前記内筒部の前記先端は、周方向に沿って変化する径方向幅を有することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項6】
板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された前記第1材料の硬度よりも高い硬度を有する第2材料とを含む複数の材料を互いに接合するための摩擦撹拌点接合装置であって、
前記第1材料の表面に交差する中心軸線に沿って延在し、前記中心軸線回りに回転可能なプローブと、
前記プローブを少なくとも部分的に外囲するショルダとを備え、
前記ショルダは、前記プローブを間隔をおいて外囲し、かつ前記複数の材料に選択的に当接可能な当接面を備えた外筒部と、前記プローブを密接して外囲し、先端を有する内筒部とを含み、前記内筒部と前記外筒部との間に、前記複数の材料に対向する底面を有する凹部が画定され、
前記内筒部は、周方向に分割されて配置されたことを特徴とす摩擦撹拌点接合装置。
【請求項7】
前記凹部の前記底面が前記中心軸線に向けて前記複数の材料から離反するように傾斜していることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項8】
板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された前記第1材料の硬度よりも高い硬度を有する第2材料とを含む複数の材料を互いに接合するための摩擦撹拌点接合装置であって、
前記第1材料の表面に交差する中心軸線に沿って延在し、前記中心軸線回りに回転可能なプローブと、
前記プローブを少なくとも部分的に外囲するショルダとを備え、
前記ショルダは、前記プローブを間隔をおいて外囲し、かつ前記複数の材料に選択的に当接可能な当接面を備えた外筒部と、前記プローブを密接して外囲し、先端を有する内筒部とを含み、前記内筒部と前記外筒部との間に、前記複数の材料に対向する底面を有する凹部が画定され、
前記凹部の前記底面が前記中心軸線に向けて前記複数の材料に近接するように傾斜していることを特徴とす摩擦撹拌点接合装置。
【請求項9】
前記外筒部の内周面が、前記当接面に向かうにつれて前記中心軸線から離反することを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項10】
摩擦撹拌点接合装置を用いて、板状の第1材料と、前記第1材料の対向面に当接するように配置された前記第1材料の硬度よりも高い硬度を有する第2材料とを含む複数の材料を互いに接合する接合方法であって、
前記摩擦攪拌装置は、前記第1材料の表面に交差する中心軸線に沿って延在し、前記中心軸線回りに回転可能なプローブと、前記プローブを少なくとも部分的に外囲するショルダとを備え、
前記ショルダは、前記プローブを間隔をおいて外囲し、かつ前記複数の材料に選択的に当接可能な当接面を備えた外筒部と、前記プローブを密接して外囲し、先端を有する内筒部とを含み、前記内筒部と前記外筒部との間に、前記複数の材料に対向する底面を有する凹部が画定され、
前記プローブは、前記ショルダに対して独立して回転可能であり、
前記接合方法は、
前記第1材料を前記第2材料よりも前記ショルダの側に配置し、前記複数の材料における最も前記ショルダの側に配置された材料の表面に前記ショルダの前記当接面を当接させるステップと、
前記ショルダを回転させずに、前記プローブを前記中心軸線回りに回転させながら、前記プローブの突入端面が前記第2材料の両表面の間に位置するまで、前記プローブを前記複数の材料に突入させるステップと、
前記複数の材料から前記プローブを引き抜くステップと
を備える、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摩擦撹拌点接合によって複数の材料が互いに接合された接合構造と、摩擦撹拌点接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合とは、工具を回転させながら接合すべき複数の板状の材料に押し付け、複数の材料に於ける押し付けた部分の周辺を摩擦熱によって塑性流動させて撹拌することによって複数の材料を互いに接合する方法である。摩擦撹拌線接合は、工具を材料に押し付けた後、工具を材料の表面に沿って移動させる方法であり、摩擦撹拌点接合は、工具を材料に押し付けた後、工具を材料の表面に沿って移動させない方法である。
【0003】
摩擦撹拌点接合では、各々の材料の一部が互いにあるいは各々撹拌された領域、または、各々の材料が流動した領域によって複数の材料が互いに接合される。
【0004】
特許文献1には、フッキングと呼ばれる現象が記載されている。図12は、従来技術に係る摩擦撹拌点接合のフッキングが生じた接合構造を示す。板状の第1材料1及び板状の第2材料2は、第1及び第2材料1,2を構成する材料が互いに混合された撹拌領域3によって互いに接合されている。撹拌領域3では、第1及び第2材料1,2の界面4がなくなっている。工具(図示せず)を第1及び第2材料1,2に押し付けると、工具の近傍では、第2材料2が上方に押し上げられるが、撹拌は工具の極近傍でしか起こらないため、第1及び第2材料1,2の界面4は、撹拌領域3の外側を取り囲むように上方に伸び、フック部5が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-86175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第2材料2によって形成されたフック部5の外側は第1及び第2材料1,2の界面4であって、未接合の領域又は接合力の弱い領域となるため、フック部5は第1及び第2材料1,2間の剥離強度を弱めていた。特に、フック周囲の第1材料の肉厚が薄くなり、特に剥離強度の低下につながっていた。このような問題に鑑み、本発明は、剥離強度の高い接合方法を提供すること、及び剥離強度の高い接合構造を形成する摩擦撹拌点接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態は、板状の第1材料(11)と、前記第1材料(11)の対向面に当接するように配置された、前記第1材料(11)の硬度よりも高い硬度を有する第2材料(12)とが、前記第1材料(11)及び前記第2材料(12)が互いに接合された接合構造(10)であって、前記第1材料(11)は、径方向を有する流動領域(28)を含み、前記第2材料(12)は、前記流動領域(28)の外縁から前記第1材料(11)内に突入するフック部を(29)含み、前記フック(29)部が、基部と、前記基部よりも前記流動領域(29)の前記径方向の外方に向けて延出する頂部とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、頂部が基部よりも径方向の外方に位置するフック部によってアンカー効果が強く発現するため、第1及び第2材料間の剥離強度が向上する。
【0009】
本発明のある実施形態は、上記構成に於いて、前記フック部(29)は、前記径方向の外方に向けて反り返っていることを特徴する。
【0010】
この構成によれば、反り返ったフック部によって、単にフック部が径方向の外方に向けて傾斜して延出したものに比べて剥離強度が更に向上する。
【0011】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかに於いて、前記第1材料(11)は、前記流動領域(28)の外縁において前記第2材料(12)から離反する向きに膨出した凸部(27,27k、27m)を含み、前記フック部(29)は、前記頂部が前記凸部(27,27k、27m)に達することなく前記第1材料(11)内にて終息することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、フック部の頂部が凸部に達していないため、フック部によって有効板厚が小さくなることを抑制できる。
【0013】
本発明のある実施形態は、直上の構成に於いて、前記凸部(27,27k、27m)の外縁は、前記フック部(29)の前記頂部よりも前記径方向の外方に位置することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、フック部の頂部よりも凸部の外縁が径方向の外方に位置するため、フック部によって有効板厚が小さくなることを抑制できる。
【0015】
本発明のある実施形態は、板状の第1材料(11)と、前記第1材料(11)の対向面に当接するように配置された前記第1材料(11)の硬度よりも高い硬度を有する第2材料(12)とを含む複数の材料を互いに接合するための摩擦撹拌点接合装置(13)であって、前記第1材料の表面に交差する中心軸線に沿って延在し、前記中心軸線回りに回転可能なプローブ(18)と、前記プローブ(18)を少なくとも部分的に外囲するショルダ(15,15a~15e,15j~15m)とを備え、前記ショルダ(15,15a~15e,15j~15m)は、前記プローブ(18)を間隔をおいて外囲し、かつ前記複数の材料(11)に選択的に当接可能な当接面(24)を備えた外筒部(21,21m)と、前記プローブ(18)を密接して外囲し、先端(26,26a,26c,26e)を有する内筒部(22,22a,22c~22i)とを含み、前記内筒部(22,22a,22c~22i)と前記外筒部(15,15a~15e,15j~15m)との間に、前記複数の材料(11)に対向する底面を有する凹部(25,25j~25l)が画定されることを特徴とする。前記プローブは、前記ショルダに対して独立して回転可能であると良い。上記摩擦攪拌装置を用いて、前記第1材料が、前記第2材料よりも前記ショルダの側に配置され、かつ、前記複数の材料における最も前記ショルダの側に配置された材料の表面に前記ショルダの前記当接面を当接させた状態で、前記ショルダを回転させずに、前記プローブを前記中心軸線回りに回転させながら、前記プローブの突入端面が前記第2材料12の両表面の間に位置するまで、前記プローブを前記複数の材料に突入させ、その後、前記複数の材料から前記プローブを引き抜くことにより、前記複数の材料を互いに接合すると良い。
【0016】
この構成によれば、内筒部によってフック部が径方向の外側に誘導されるため、剥離強度の向上した接合構造を形成できる。
【0017】
本発明のある実施形態は、上記の摩擦撹拌点接合装置(13)に関する構成に於いて、前記先端(26)は、前記当接面(24)よりも前進していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1材料の板厚が厚くとも、フック部の径方向外方への誘導をプローブの第1及び第2材料への突入直後から行える。
【0019】
本発明のある実施形態は、直上の構成に代えて、前記先端(26c)は、前記当接面(24)に対して後退していることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、プローブの第1及び第2材料への突入開始時点で、内筒部の先端が第1材料から離間しているため、プローブへの負荷を抑制することができる。
【0021】
本発明のある実施形態は、上記の摩擦撹拌点接合装置(13)に関する構成の何れかに於いて、前記内筒部(22,22a,22c~e)は、前記中心軸線の周りに環状に連続して配置され、前記内筒部(22,22a,22c~e)の前記先端は、一定の径方向幅を有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、周方向全体に渡ってフック部が径方向の外方に誘導されやすくなる。
【0023】
本発明のある実施形態は、直上の構成に代えて、前記内筒部(22f~22h)は、前記中心軸線の周りに環状に連続して配置され、前記内筒部(22f~22h)の前記先端は、周方向に沿って変化する径方向幅を有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、内筒部の先端の径方向幅に応じてフック部の誘導のされ方が異なり、フック部の形状を周方向に沿って異ならせることができる。加えて、フック部を誘導する方向を制御して、隣り合うフック部が分割される場所、個数などを制御できる。
【0025】
本発明のある実施形態は、直上の構成に代えて、前記内筒部(22i)は、周方向に分割されて配置されたことを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、内筒部の存在する部分に径方向の外方を向いたフック部を形成することができる。加えて、フック部を誘導する方向を制御して、隣り合うフック部が分割される場所、個数などを制御できる。
【0027】
本発明のある実施形態は、上記の摩擦撹拌点接合装置(13)に関する構成の何れかに於いて、前記凹部(25k)の前記底面が前記中心軸線に向けて前記複数の材料から離反するように傾斜していることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、凹部の形状を補完する凸部が形成されるため、凸部を第1及び第2材料に於けるプローブの抜き後に埋め戻しやすく、その時の接合強度を向上させることができる。
【0029】
本発明のある実施形態は、直上の構成に代えて、前記凹部(25l)の前記底面が前記中心軸線に向けて前記複数の材料に近接するように傾斜していることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、凹部の底面の傾斜によって、フック部29が径方向の外方に誘導されやすい。
【0031】
本発明のある実施形態は、上記の摩擦撹拌点接合装置(13)に関する構成の何れかに於いて、前記外筒部(21m)の内周面が、前記当接面(24m)に向かうにつれて前記中心軸から離反することを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、傾斜面によって第1材料の表面に連結する凸部が形成されるため、板状の第1材料の肉厚の急激な変化が抑制されて、疲労強度が高くなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、剥離強度の高い接合方法を提供すること、及び接合力の高い接合構造を形成する摩擦撹拌点接合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置及び接合構造の説明図(上図:流動前、下図:流動後)
図2】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置及び接合構造を示す一部断面斜視図
図3】実施形態に係る摩擦撹拌点接合構造の縦断面図
図4】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの内筒部の変形例(数)を示す縦断面図
図5】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの内筒部の変形例(突出長)を示す縦断面図
図6】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの内筒部の変形例(先端形状)を示す縦断面図
図7】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの内筒部の変形例(外周形状)を示す横断面図
図8】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの凹部の底面の形状の変形例を示す縦断面図
図9】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの凹部の外周面の形状の変形例を示す縦断面図
図10】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの内筒部及び外筒部の形状の変形例を示す横断面図
図11】実施形態に係る摩擦撹拌点接合装置のショルダの内筒部の形状の変形例を示す横断面図
図12】従来技術に係る摩擦撹拌点接合構造を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0036】
図1図3に示すように、接合構造10は、板状の第1材料11と、第1材料11の対向面に当接するように配置された板状の第2材料12とが互いに接合された構造である。図示する接合構造10は、第1及び第2材料11,12の2枚の層からなるが、3層以上の材料を互いに接合する構造であってもよく、最下層の材料は板状でなくともよい。
【0037】
第2材料12の素材の硬度は、第1材料11の素材の硬度よりも高い。例えば、第1材料11の素材と第2材料12の素材との組み合わせは、アルミニウム合金と鉄合金(鋼材)との組み合わせ、低強度のアルミニウム合金と高強度のアルミニウム合金との組み合わせ、軟鋼とハイテン鋼との組み合わせ、アルミニウム合金と銅合金との組み合わせ、アルミニウム合金と炭素繊維強化プラスチックとの組み合わせ、アルミニウム合金とガラス繊維強化プラスチックとの組み合わせ、マグネシウム合金と鉄合金との組み合わせ、マグネシウム合金と銅合金との組み合わせ、マグネシウム合金と炭素繊維強化プラスチックとの組み合わせ、又は、マグネシウム合金とガラス繊維強化プラスチックとの組み合わせでもよい。
【0038】
摩擦撹拌点接合装置13は、中心軸線回りに回転する回転ツール14と、ショルダ15とを備える。以下、中心軸線が上下方向に延在し、第1材料11に対して摩擦撹拌点接合装置13が載置される側を上、第2材料12が配置される側を下として説明するが、実際の接合構造10及び摩擦撹拌点接合装置13では、上下が逆でもよく、中心軸線が横方向に延在してもよく、傾いていてもよい。また、中心軸線は、第1材料11の表面に直交しているが、90°以外の角度で交差してもよい。
【0039】
回転ツール14は、中心軸線回りに回転対称形をなしている。回転ツール14は、中心軸線を中心とする概ね円柱形状をなす本体部16と、本体部16の下端から先細になるように下方に延出するテーパー部17と、テーパー部17の下端から中心軸線を中心に下方に延出する概ね円柱形状のプローブ18とを含む。プローブ18は、本体部16よりも小径である。図示するプローブ18の下面は、平坦であるが、下方に膨出するように湾曲していてもよい。
【0040】
ショルダ15は、中心軸線回りに回転対称形をなしている。ショルダ15は、中心軸線に沿って延在する貫通孔19を有する本体部20と、本体部20の下面から下方に延出する外筒部21と、外筒部21よりも径方向(中心軸線に直交する面内で中心軸線上に中心を有する円の半径方向)の内側に於いて本体部20の下面から下方に延出する内筒部22とを含む。貫通孔19にプローブ18が挿通されることにより、ショルダ15はプローブ18を外囲する。
【0041】
本体部20は、概ね円柱形状をなすが、上端部から径方向の外側に延出するフランジ23を含む。貫通孔19の上部は回転ツール14のテーパー部17と同じ傾斜角度を有するように、上方に向かうに従って拡径している。
【0042】
外筒部21の外周面は、本体部20の外周面に滑らかに連結している。外筒部21の内周面は、中心軸線に平行に延在する。外筒部21の下面は、円環形状をなし、第1及び第2材料11,12を接合させるときに第1材料11の上面に当接する当接面24となる。
【0043】
内筒部22の内周面は、貫通孔19の内周面に滑らかに連結し、中心軸線と略平行に延在し、又は、下方に向かうに従ってわずかに径方向の内方に向かうように傾斜している。内筒部22の内周面及び貫通孔19の下部の内周面は、プローブ18がショルダ15に対して回転可能な程度にプローブ18の側周面に密接しており、プローブ18とショルダ15との最小クリアランスは0.5mm以下であることが好ましい。外筒部21の内周面、内筒部22の外周面及び本体部20の下面によって凹部25が画定される。本体部20の下面は、凹部25の底面となる。内筒部22の下面、すなわち先端26は、円環形状をなし、外筒部21の当接面24を超えて下方に延出している。内筒部22の先端26と外筒部21の当接面24との上下方向の距離の差は、第1材料11の厚さ未満である。
【0044】
摩擦撹拌点接合装置13によって、第1及び第2材料11,12を互いに接合する方法及び接合構造10について説明する。
【0045】
まず、図1(A)に示すように、第1材料11よりも高い硬度を有する第2材料12の上に第1材料11を重ねる。第2材料12は、図示しない作業台に載置されている。次に、外筒部21の当接面24と、ショルダ15の貫通孔19に挿通されたプローブ18の下面とが第1材料11の上面に当接するように、ショルダ15及びプローブ18を配置する。この時、外筒部21の当接面24よりも下方に延出する先端26を有する内筒部22の先端部は、第1材料11内に突入している。内筒部22の先端部は、第1材料11内に突入させるために、中心軸線回りにショルダ15を回転させてもよい。
【0046】
次に、図1(B)及び図2に示すように、ショルダ15を回転させずに第1材料11に押し付け、プローブ18を中心軸線回りに回転させながら、プローブ18の下面が第2材料12の上面と下面との間に位置するまで、プローブ18を第1及び第2材料11,12に突入させる。この時、プローブ18によって押し出された第1材料11の一部がショルダ15の凹部25に受容されることにより、第1材料11に上方に膨出した凸部27が形成される。また、プローブ18の近傍では、プローブ18の回転による摩擦熱によって第1材料11が塑性流動して、上方から見て円環形状又は円形状の流動領域28が形成される。さらに、摩擦熱によって第2材料12が塑性流動して、流動領域28に外縁する前記第1材料11内に突入するフック部29が形成され、フック部29によるアンカー効果により接合される。
【0047】
最後に、プローブ18を回転させながら第1及び第2材料11,12から引き抜く。
【0048】
なお、プローブ18を回転させながら第1及び第2材料11,12に突入させることにより、第2材料12に流動領域28の外縁から第1材料11内に突入するフック部29が形成される。フック部29は下端側に位置する基部と上端側に位置する頂部とを有し、頂部は、基部よりも径方向の外方に位置し、凸部27の外縁よりも径方向の内方に位置する。フック部29は、頂部が凸部27内に突入することなく第1材料11内で終息する。
【0049】
フック部29の生成メカニズムについて説明する。プローブ18を第1及び第2材料11,12に突入させると、第1材料11の一部が凹部25に向かって押し出されるとともに、第2材料12に於けるプローブ18の近傍部分が第1材料11に向かって押し出される。ショルダ15の内筒部22が存在するため、プローブ18の近傍では第2材料12の上方への押し出しへの抵抗が大きく、第2材料12に於ける押し出された部分は径方向の外方に向かう。このため、フック部29は、頂点が基部よりも径方向の外側に位置するように傾斜した形状又は反り返った形状となる。
【0050】
本実施形態によれば、フック部29が第1材料11に突入することにより、第1及び第2材料11,12の間の界面が長くなり、かつフック部29の頂部が基部よりも径方向の外側に位置するため、アンカー効果が強く発現する。このため、第1及び第2材料11,12間の剥離強度が向上する。また、フック部29が反り返っている場合、第1及び第2材料11,12の互いの界面が、フック部29が傾斜している場合に比べて長くなるため、剥離強度が更に向上する。
【0051】
フック部29の頂部から第1材料11の上面までの距離(有効板厚)が小さいと、第1材料11の引張強度及び剛性が低下し、第1及び第2材料11,12間の剥離強度が低下するため、所定値以上、例えば第1材料11の厚さ以上であることが好ましい。フック部29の頂部が凸部27に達していないため、有効板厚を確保することができる。なお、t:凸部27の高さ、d:プローブ18の直径、p:プローブ18の第1及び第2材料11,12への突入長、d':外筒部21の内周面の直径、とすると、凸部27の高さは、以下の式で求めることができる。
t=dp/(d'-d
例えば、d=10mm、p=10mm、d'=12mmの場合、t=約22.7mmとなる。第1及び第2材料11,12の合計板厚が10mm程度の場合、凸部27の高さは、この値以下であることが好ましい。
【0052】
凸部27の外縁がフック部29の頂部よりも径方向の外方に位置することにより、フック部29の頂部が凸部27の外縁よりも径方向の外方に位置する場合よりも、第1材料11の有効板厚を確保するできるため、第1材料11の引張強度及び剛性が向上し、第1及び第2材料11,12間の剥離強度が向上する。
【0053】
ショルダ15の内筒部22の先端部が、プローブ18によって上方に押し込まれる第2材料12の構成材料を径方向の外方に向かわせるため、頂部が基部よりも径方向の外方に位置するフック部29を形成して、第1及び第2材料11,12間の剥離強度を向上させることができる。
【0054】
図4図11を参照して、上記実施形態のショルダ15の変形例について説明する。上記実施形態と共通する構成は、説明を省略するが、相違点を説明する上で言及する場合には同じ符号を付して記載する。上記実施形態に類似する構成は、同一の名称で記載し、符号に添え字(a,b,c・・・)を付し、相違点のみ説明する。
【0055】
図4(A)に示すショルダ15aの内筒部22aは、本体部20からの突出長に於いて外筒部21に等しく、内筒部22aの先端26aが外筒部21の当接面24と同一平面上に位置する。第1材料11が比較的薄い場合に適した構造であり、プローブ18の第1及び第2材料11,12への突入開始直後から、フック部29(図3参照)の径方向外側への誘導効果を得ることができる。なお、図1に示すように、内筒部22の先端26が当接面24よりも下方に位置する構造は、第1材料11が比較的厚い場合に適した構造であり、プローブ18の第1及び第2材料11,12への突入開始直後から、フック部29の径方向外側への誘導効果を得ることができる。
【0056】
図4(B)に示すショルダ15bは、外筒部21と内筒部22aとの間に本体部20の下面から下方に突出する中間筒部30bを有する。中間筒部30bの本体部20からの突出長は外筒部21及び内筒部22aの突出長に等しい。中間筒部30bが存在することによって、ショルダ15bへの抜熱を最小化し、第1及び第2材料11,12に於ける塑性流動する部分の流動減衰を抑制し、フック部29(図3参照)を径方向の外方に誘導しやすくなる。
【0057】
図5に示すショルダ15cの内筒部22cは、外筒部21の突出長よりも短い突出長を有し、内筒部22cの先端26cが外筒部21の当接面24よりも上方に位置する。プローブ18の第1及び第2材料11,12への突入開始時点で、内筒部22cの先端26cが第1材料11から離間しているため、プローブ18への負荷を抑制することができる。
【0058】
図6(A)に示すショルダ15dの内筒部22dは、図5に示す内筒部22cと比べて、外周面が下方に向かうにつれて径方向の内方に向かうように傾斜している点で相違する。図6(B)に示すショルダ15eの内筒部22eは、図5に示す内筒部22cと比べて、先端26eが径方向の内方に向かうにつれて下方に向かうように傾斜又は湾曲している点で相違する。図5に示す内筒部22cは、概ね上下方向及び水平方向に延在する面によって画成されるため、形成が容易である。図6(A)に示す内筒部22dは、外周面が傾斜しているためフック部29(図3参照)を径方向の外方に誘導しやすい。図6(B)に示す内筒部22eは、先端26eが傾斜しているためフック部29(図3参照)を径方向の外方に誘導しやすい。
【0059】
図7(A)は、上記実施形態の内筒部22の横断面(先端26も横断面と同じ形状をなす)を示し、図7(B)~(E)はその変形例の横断面を示す。図7(B)~(D)に示す内筒部22f,22g,22hの内周面は、何れも横断面視で円形をなす。図7(B)に示す内筒部22fの外周面は、横断面視で楕円形をなす。図7(C)に示す内筒部22gの外周面は、横断面視で矩形をなす。図7(D)に示す内筒部22hの外周面は、横断面視で星形をなす。図7(E)に示す内筒部22iは、周方向に分割された円環形状をなす。このように、内筒部22f,22g,22hの径方向幅が周方向で変化するため、また、内筒部22iが周方向に分割された形状をなすため、フック部29(図3参照)が内筒部22iの形状に応じた位置に誘導され、フック部29の形状が周方向に沿って異なり、フック部29を誘導する方向が制御されて、互いに隣り合うフック部29が分割される場所、フック部29の個数等が制御できる。
【0060】
図8(A)~(C)に示すショルダ15j,15k,15lは、凹部25j,25k,25lの底面の形状に於いて、図5に示すショルダ15cと相違する。図5に示すショルダ15cの凹部25cの底面が中心軸線に直交する平面であるのに対し、図8(A)に示すショルダ15jの凹部25jの底面は下方に向かって凹状をなし、図8(B)に示すショルダ15kの凹部25kの底面は中心軸線に向けて第1材料11から離反するように傾斜し、図8(C)に示すショルダ15lの凹部25lの底面は中心軸線に向けて第1材料11に近接するように傾斜している。図5及び図8(A)に示す凹部25c,25jの底面が中心軸線に直交する平面や凹状をなすショルダ15c,15jは加工が容易である。図8(B)に示すように傾斜した凹部25kの底面を有するショルダ15kは、凹部25kの形状を補完する凸部27kが形成されるため、凸部27kを第1及び第2材料11,12におけるプローブ18の抜き後に埋め戻しやすく、その時の接合強度を向上させることができる。図8(C)に示すように傾斜した凹部25lの底面を有するショルダ15lは、フック部29(図3参照)を径方向の外方に誘導しやすい。
【0061】
図9に示すショルダ15mの外筒部21mは、図5に示すショルダ15cの外筒部21に対して、内周面が下方に向かうにつれて径方向の外方に向かうように傾斜している点で相違する。凹部25mの形状を補完する凸部27mが、傾斜面によって第1材料11の表面に連結するため、第1材料11の肉厚の急激な変化が抑制されるため、第1材料11の疲労強度が高くなる。
【0062】
図10(A)は、上記実施形態の外筒部21及び内筒部22の横断面を示し、この形状はショルダ15の加工が容易である。図10(B)~(D)は、図7(B)~(D)に示す内筒部22f,22g,22hと、これらに応じて変形させた外筒部21f,21g,21hとを示す。図10(B)~(D)に示す外筒部21f,21g,21hの外周面は、何れも横断面視で円形をなす。図10(B)に示す外筒部21fの内周面は、横断面視で楕円形をなす。図10(C)に示す外筒部21gの内周面は、横断面視で矩形をなし、内筒部22gの矩形の角部に当接している。図10(D)に示す外筒部21hの内周面は、横断面視で五角形の隅部を内筒部22hの外周面の延長線に沿って膨出させた形状をなし、その膨出部分が内筒部22hの星形の頂部に当接している。フック部29(図3参照)は、外筒部21の内周面と内筒部22の外周面との間に空間がある方向に誘導され易い。図10(A)及び(B)に示すように、外筒部21の内周面と内筒部22の外周面との間の幅が周方向全体に渡って略等しい場合は、周方向全体にフック部29が生じやすい。図10(C)及び(D)に示すように、外筒部21の内周面と内筒部22の外周面との間の幅が周方向に沿って変動する場合、この幅を広くした部分にてフック部29の成長を促進できる。
【0063】
図11(A)は、上記実施形態の外筒部21の横断面を示し、この形状はショルダ15の加工が容易である。図11(B)は、変形例に係る外筒部21nの横断面を示す。外筒部21nは、周方向に分割されている。周方向に分割された外筒部21nは、周方向全体に渡って延在する外筒部21に比べて、第1材料11への加圧力を上げられ、外筒部21nを介したショルダ15(図3参照)への抜熱を抑制でき、第1及び第2材料11,12に於ける塑性流動する部分の流動性を阻害しないため第1及び第2材料11,12の互いの接合の品質が向上する。
【0064】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。内筒部の突出長に関する変形例、内筒部の先端部の形状に関する変形例、凹部の形状に関する変形例、外筒部の内周面の傾斜に関する変形例、並びに、内筒部及び外筒部の先端部の形状に関する変形例の2以上の変形例を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10:接合構造
11:第1材料
12:第2材料
13:摩擦撹拌点接合装置
14:回転ツール
15:ショルダ
18:プローブ
19:貫通孔
21:外筒部
22:内筒部
24:当接面
25:凹部
26:先端
27:凸部
28:流動領域
29:フック部
図1
図2
図3
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図5
図6
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図12