(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】グロメット
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20241218BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20241218BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20241218BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B62D1/20
F16J15/16 D
F16J15/52 Z
F16J3/04 B
(21)【出願番号】P 2021091065
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】梶 泰久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 隼人
(72)【発明者】
【氏名】片山 浩子
(72)【発明者】
【氏名】濱本 悠也
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-055326(JP,A)
【文献】特開2011-079473(JP,A)
【文献】特開2014-125031(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146129(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014002093(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
F16J 15/16
F16J 15/52
F16J 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室とエンジンルームを隔てる車体のダッシュパネルに貫通して設けられたシャフト貫通孔を貫通するステアリングシャフトの外周側を覆う概ね円筒状の筒状基部と、
前記筒状基部の軸方向端部から前記筒状基部の径方向外側へ膨出するように軸方向に撓み変形可能な可撓部を介して設けられ、前記車体に組み付けられた状態で前記シャフト貫通孔の車外側孔縁に当接するシール部と、
を備え、
前記可撓部は、前記筒状基部の軸方向端部から前記筒状基部の径方向外側に延設された第1可撓部と、前記第1可撓部から前記シール部側に湾曲
して前記筒状基部の軸方向に延設され、
当該軸方向に屈曲可能な屈曲部を有する第2可撓部と、を有し、
前記シール部は、前記第2可撓部の先端部において前記筒状基部の径方向内側へ延設された支持部と、前記支持部の外周縁部に突設され、前記シャフト貫通孔の車外側孔縁に当接するシールリップと、を有し、
前記第1可撓部と前記支持部とを繋ぐ前記第2可撓部の外側に、前記第2可撓部を前記第1可撓部よりも厚肉に形成する肉盛り部が設けられていることを特徴とするグロメット。
【請求項2】
前記グロメットは、前記ダッシュパネルに対して前記シール部が斜めに当接するように組み付けられるものであり、
前記肉盛り部は、前記第2可撓部の周方向領域のうち、前記シール部の中心を通過し、かつ前記グロメットの組み付け方向に直交する組み付け方向直交線よりも前記グロメットの組み付け方向側の領域にのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載のグロメット。
【請求項3】
前記肉盛り部は、前記グロメットの自由状態において、前記肉盛り部の前記筒状基部側の軸方向端部が前記第1可撓部の根元側と同じ高さ、又は前記第1可撓部の根元側よりも低くなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のグロメット。
【請求項4】
前記肉盛り部は、前記グロメットの組み付け時に前記
支持部の前記第2可撓部から遠い先端側が前記ダッシュパネルから離間するように転倒しても前記肉盛り部の前記シール部側の軸方向端部が前記ダッシュパネルに当接しない位置まで延設されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のグロメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に適用され、車室とエンジンルームとを隔成する車体パネル(いわゆるダッシュパネル)に挿通するステアリングシャフトの周囲を覆うグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示す従来のグロメットGxは、所定のゴム材料からなる筒状を呈し、車両に搭載されたステアリング装置の操舵軸を構成するステアリングシャフトSHと、このステアリングシャフトSHが貫通する車体のダッシュパネルDPのシャフト貫通孔DP1と、の間に介装されている。すなわち、グロメットGxは、一端側がステアリングギヤボックスGBの上部に取り付けられ、他端側がシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に弾性的に当接することにより、シャフト貫通孔DP1を通じた雨水や塵埃当の侵入を抑制している。
【0003】
より具体的には、グロメットGxは、ステアリングシャフトSHを包囲する筒状基部100の一端側に拡径状に形成された第1シール部101が、ステアリングギヤボックスGBの上端部に設けられたギヤボックス円筒部GB1の外側に密着するように取り付けられている。一方、グロメットGxは、筒状基部100の他端側に外方へ向かって折り返し状に撓む(屈曲する)可撓部103を介して延設された第2シール部102が、可撓部103の屈曲によって発生する弾性力をもってシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に弾性的に当接している。
【0004】
なお、上記構成に類似した構成を有するグロメットについて記載されたものとしては、例えば以下の特許文献に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来のグロメットGxの組み付けは、前記第1シール部101をステアリングギヤボックスGBのギヤボックス円筒部GB1に予め外嵌した状態で、ステアリングシャフトSHをダッシュパネルDPのシャフト貫通孔DP1に貫通させ、これに伴い前記第2シール部102をシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に当接させることによって行われる。
【0007】
しかし、かかる組み付けに際して、車両のエンジンルームに搭載される他の部品との干渉を回避する関係上、グロメットGxの組み付け方向が制限される場合がある。とりわけ、第2シール部102をシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に対して垂直に当接させて組み付けることができず、第2シール部102をシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に対して斜めに当接させるかたちで組み付けなければならない場合がある。この場合、可撓部103に作用する押圧力Fは、シャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に対して斜めに作用することになる。
【0008】
そうすると、前記従来のグロメットGxの構成によれば、筒状基部100と比べて可撓部103の肉厚が相対的に小さく、筒状基部100に対する可撓部103側の剛性が相対的に低くなっているため、前記押圧力Fの多くは可撓部103が延びる外方、すなわち水平方向へと逃げてしまい、その結果、パネル垂直成分F2と比較してパネル平行成分F1が相対的に大きくなってしまう。このため、シャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に対する押圧力(パネル垂直成分F2)を十分に得ることができず、
図7に示すように、前記斜め方向からの組み付け態様により、第2シール部102が転倒してしまい、当該第2シール部102の捲れを招来してしまうおそれがあった。
【0009】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであって、斜め方向から押圧力を作用させてシール部をダッシュパネルに当接させてもシール部の捲れを抑制することができるグロメットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、その一態様として、車室とエンジンルームを隔てる車体のダッシュパネルに貫通して設けられたシャフト貫通孔を貫通するステアリングシャフトの外周側を覆う概ね円筒状の筒状基部と、前記筒状基部の軸方向端部から前記筒状基部の径方向外側へ膨出するように軸方向に撓み変形可能な可撓部を介して設けられ、前記車体に組み付けられた状態で前記シャフト貫通孔の車外側孔縁に当接するシール部と、を備え、前記可撓部は、前記筒状基部の軸方向端部から前記筒状基部の径方向外側に延設された第1可撓部と、前記第1可撓部よりも前記シール部側に湾曲状に延設され、軸方向に屈曲可能な屈曲部を有する第2可撓部と、を有し、前記第2可撓部の外側に、前記第2可撓部を前記第1可撓部よりも厚肉に形成する肉盛り部が設けられていることを特徴としている。
【0011】
かかる構成によれば、第2可撓部の外側に設けられた肉盛り部が、シール部側の可撓部である、屈曲部を含む第2可撓部の剛性を向上させることとなり、結果として、筒状基部側の可撓部である第1可撓部の剛性が相対的に低下する。これにより、筒状基部側からシール部側へと作用する押圧力のうち、ダッシュパネルに平行なパネル平行成分については、前記肉盛り部による第2可撓部の剛性の向上に伴ってシール部側へ伝達されにくくなる。一方、ダッシュパネルに垂直なパネル垂直成分については、前記第1可撓部の剛性の相対的な低下に伴ってシール部側へ伝達されやすくなる。その結果、筒状基部側からシール部側へ作用する押圧力のパネル垂直成分を十分に確保することができる。
【0012】
ここで、本発明の好ましい第1の態様として、前記グロメットは、前記ダッシュパネルに対して前記シール部が斜めに当接するように組み付けられるものであり、前記肉盛り部は、前記第2可撓部の周方向領域のうち、前記シール部の中心を通過し、かつ前記グロメットの組み付け方向に直交する組み付け方向直交線よりも前記グロメットの組み付け方向側の領域にのみ設けられていることが望ましい。
【0013】
このように、ダッシュパネルに対してグロメットを斜め方向から組み付ける場合、肉盛り部は、第2可撓部の周方向領域のうち、グロメット組み付け方向直交線よりもグロメットの組み付け方向側となる領域、すなわちグロメットの取り付け時にシール部の転倒が発生しやすい領域にのみ設けられていることが望ましい。
【0014】
かかる構成によれば、第2可撓部のうち、グロメットの取り付け時においてシール部の転倒が発生しやすい周方向領域についてのみ、第2可撓部の剛性を向上させ、当該領域におけるシール部の転倒を効果的に抑制することができる。
【0015】
換言すれば、第2可撓部のうち、グロメットの取り付け時においてシール部の転倒が発生しにくい周方向領域については、肉盛り部を設けないことにより、当該領域における第2可撓部の不要な剛性の向上を抑制し、当該第2可撓部の不要な剛性の向上に伴う不具合の発生を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の好ましい第2の態様として、前記肉盛り部は、前記グロメットの自由状態において、前記肉盛り部の前記筒状基部側の軸方向端部が前記第1可撓部の根元側と同じ高さ、又は前記第1可撓部の根元側よりも低くなるように形成されていることが好ましい。
【0017】
このように、グロメットの自由状態における肉盛り部の筒状基部側の端部が第1可撓部の根元側と同じか、当該第1可撓部の根元側よりも低い位置となるように形成されていることで、グロメットを成型する際の型割りにおいて第1可撓部の根元側がアンダーカットとなるおそれがなく、当該グロメットの成型性を向上させることができる。
【0018】
さらに、本発明の好ましい第3の態様として、前記肉盛り部は、前記グロメットの組み付け時に前記シール部の内周側が前記ダッシュパネルから離間するように転倒しても前記肉盛り部の前記シール部側の軸方向端部が前記ダッシュパネルに当接しない位置まで延設されていることが望ましい。
【0019】
このように、肉盛り部が、第2可撓部の軸方向において、グロメットの組み付け時にシール部の内周側がダッシュパネルから離間するような転倒が生じた場合であっても当該肉盛り部のシール部側の軸方向端部がダッシュパネルに当接しない構成を採用することにより、グロメットを組み付ける際、肉盛り部のシール部側の軸方向端部がダッシュパネルに当接することによって前記シール部の転倒がさらに助長される不具合を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第2可撓部の外側に肉盛り部が設けられていることにより、筒状基部側からシール部側へ作用する押圧力のうち、ダッシュパネルに平行となるパネル平行成分は伝達されにくくなる一方、ダッシュパネルに垂直となるパネル垂直成分は伝達されやすくなる。結果として、パネル垂直成分が相対的に大きくなり、シール部の転倒による捲れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るグロメットを含むステアリング装置が車体に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
【
図3】グロメットの自由状態を示す、
図2のA-A線断面の要部拡大図である。
【
図4】グロメットの組み付け状態を示す、
図2のA-A線断面の要部拡大図である。
【
図5】グロメットの組み付け時においてシール部が転倒した状態を示す、
図2のA-A線断面の要部拡大図である。
【
図6】従来のグロメットの自由状態を示す、当該グロメットの要部拡大断面図である。
【
図7】従来のグロメットの組み付け時においてシール部が転倒した状態を示す、当該グロメットの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るグロメットの実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、下記の実施形態では、本発明に係るグロメットを、従来と同様、自動車のステアリング装置に適用したものを示す。
【0023】
(グロメットの構成)
図1は、グロメットGを含むステアリング装置が車体に取り付けられた状態を示す要部断面図であって、ダッシュパネルDPのみを断面で表示したステアリング装置の概略図を示している。なお、以下では、車体の天地を基準として、鉛直方向上側に相当する
図1の上側を「上」と定義すると共に、鉛直方向下側に相当する
図1の下側を「下」と定義して説明する。
【0024】
ステアリング装置は、
図1に示すように、周知の自在継手である第1、第2自在継手J1,J2により連結された第1~第3ステアリングシャフトSH1~SH3を有するステアリングシャフトSHを備えている。このステアリングシャフトSHは、軸方向の一端側に配置される第1ステアリングシャフトSH1が車室内へ臨んでいて、ステアリングホイールSWに連結されている。また、ステアリングシャフトSHは、軸方向の他端側に配置される第3ステアリングシャフトSH3が、車体パネルであるダッシュパネルDPを貫通してエンジンルーム内に臨み、かつ、その先端側がステアリングギヤボックスGBの内部に収容される所定の操舵機構(例えばラック&ピニオン機構など)を介して図示外の車輪に連係されている。
【0025】
そして、ダッシュパネルDPを貫通するシャフト貫通孔DP1と第3ステアリングシャフトSH3との間に、車室の内外を水密に保持するグロメットGが介装されている。このグロメットGは、所定のゴム材料からなる筒状を呈し、ダッシュパネルDPを貫通する第3ステアリングシャフトSH3の外周を覆う筒状基部1と、筒状基部1の軸方向一端部(上端部)から径方向外側に湾曲状に延設され、第3ステアリングシャフトSH3の軸方向に撓み変形可能な可撓部2と、可撓部2の先端部(上端部)に設けられ、車体(ダッシュパネルDP)に組み付けられた状態でシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に当接可能なシール部3と、を有し、これらが型成型によって一体に形成されている。
【0026】
筒状基部1は、第3ステアリングシャフトSH3の外周を覆う一般部11と、この一般部11の軸方向一端側(下端側)に向かって段差状に拡径し、ステアリングギヤボックスGBの上端部に設けられた概ね円筒状のギヤボックス円筒部GB1に取り付けられる取付基部12と、一般部11の軸方向他端側(上端側)に向かって拡径状に形成され、一般部11と可撓部2を接続する接続基部13と、を有する。
【0027】
一般部11は、概ね円筒状に形成されていて、ダッシュパネルDPに対して斜向するように、第3ステアリングシャフトSH3の軸方向に沿って延設されている。換言すれば、筒状基部1は、シャフト貫通孔DP1の中心軸線CHに交差する第3ステアリングシャフトSH3の中心軸線CSに沿って延設されている。
【0028】
取付基部12は、一般部11に対して段差状に拡径して設けられ、内周側に、ギヤボックス円筒部GB1の外周面に密着可能に設けられた図示外のリップを有する。すなわち、取付基部12は、前記図示外のリップがギヤボックス円筒部GB1の外周面に密着することにより、取付基部12とギヤボックス円筒部GB1との間を液密にしている。
【0029】
接続基部13は、一般部11に対して屈折状に折れ曲がり、シャフト貫通孔DP1の中心軸線CHに沿って延設されている。また、接続基部13は、一般部11に対して拡径状に設けられていて、一般部11よりも大きく、かつ可撓部2よりも小さい外径に設定されている。具体的には、接続基部13は、一般部11の軸方向他端部(上端部)から径方向外側に斜向して延びる円錐テーパ状の第1接続基部131と、第1接続基部131の上端部から概ね中心軸線CHに沿って延びる第2接続基部132と、を有する。なお、この第1接続基部131と第2接続基部132との間には、第1、第2接続基部131,132よりも薄肉に形成されてなる曲折部133が設けられている(
図3参照)。
【0030】
可撓部2は、第2接続基部132の上端部に、当該第2接続基部132の周方向全域に亘って無端状に連続して設けられ、第3ステアリングシャフトSH3の軸方向に撓み変形可能に形成されている。そして、可撓部2の上端部には、可撓部2が撓み変形することにより発生する弾性力に基づいてシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に弾性的に接触可能なシール部3が設けられている。
【0031】
以上のような構成から、グロメットGは、ステアリングギヤボックスGBのギヤボックス円筒部GB1と、ダッシュパネルDPのシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2とによって挟持状態に配置されていて、撓み変形した可撓部2の弾性力に基づき、筒状基部1の取付基部12がステアリングギヤボックスGBのギヤボックス円筒部GB1の端面に弾性的に当接すると共に、シール部3がダッシュパネルDPのシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に弾性的に当接することにより、当該グロメットGがシール機能を発揮した状態で車体に組み付け保持される。
【0032】
なお、
図1に示す矢印Zは、前記車体(ダッシュパネルDP)に対するグロメットGの組み付け方向を示している。すなわち、グロメットGは、図示外のエンジンルームに搭載される他の部品等との干渉を回避する関係上、シール部3がダッシュパネルDPに対して垂直に当接する方向ではなく、
図1の矢印Zが示すような、シール部3がダッシュパネルDPに対して斜めに当接するように組み付けられる。
【0033】
図2は、
図1に示すグロメットGをシール部3側から見た、グロメットGの底面図を示している。
【0034】
グロメットGは、
図2に示すように、平面視において、筒状基部1の一般部11及び取付基部12が概ね真円形状に形成されていて、接続基部13、可撓部2及びシール部3が、
図2の左右方向に延びる長円(楕円)形状に形成されている。なお、
図2中に示す矢印Dは、グロメットGを車体(
図1に示すダッシュパネルDP)に組み付ける際のグロメットGの水平移動方向(以下、「グロメット組み付け方向」と略称する。)を示している。
【0035】
また、グロメットGは、可撓部2のうち、後述する第2可撓部22の外側であって
図2中にRで示す周方向領域に、第2可撓部22を後述する第1可撓部21よりも厚肉に形成する肉盛り部4が設けられている。この肉盛り部4は、グロメット組み付け方向Dを基準として、周方向の両側にそれぞれ概ね45度の範囲(周方向領域R)に延設されていることが望ましい。
【0036】
なお、肉盛り部4は、グロメット組み付け方向D側、つまり第2可撓部22の周方向領域Rのうち、可撓部2の中心Pを通過し、かつグロメット組み付け方向Dに直交するグロメット組み付け方向直交線Vよりもグロメット組み付け方向D側の領域にのみ設けられていればよい。換言すれば、肉盛り部4の形成範囲については任意に設定可能であって、必ずしも
図2に示す周方向領域Rの範囲に限定されるものではない。
【0037】
図3は、グロメットGの自由状態を示し、
図2のA-A線に沿って切断したグロメットGの縦断面の要部拡大図を示している。また、
図4は、グロメットGを車体(ダッシュパネルDP)に取り付ける際に可撓部2が撓み変形した状態を示し、
図2のA-A線に沿って切断したグロメットGの縦断面の要部拡大図を示している。
【0038】
可撓部2は、特に
図3に示すように、筒状基部1(第2接続基部132)の軸方向他端部(上端部)から筒状基部1の径方向外側に延設された第1可撓部21と、第1可撓部21よりもシール部3側に湾曲状に延設された第2可撓部22と、を有する。すなわち、可撓部2は、第1可撓部21と第2可撓部22とが、筒状基部1よりも薄肉となる概ね一定の肉厚をもって形成されていて、筒状基部1の軸方向他端部(上端部)から径方向外側へと膨出して設けられ、第3ステアリングシャフトSH3の軸方向において撓み変形可能に形成されている。
【0039】
第1可撓部21は、
図3に示すように、グロメットGの自由状態において、シールリップ32との距離が概ね一定となる水平状に、或いは第2可撓部22側へ向かってシール部3(パネル対向面311)との距離が徐々に小さくなるように形成されている。換言すれば、第1可撓部21は、
図3の図示において、接続基部13(第2接続基部132)に接続される根元部210側が最も低く、第2可撓部22側へ向かって水平状に、又は第2可撓部22側へ向かって徐々に上る傾斜状に形成されている。
【0040】
第2可撓部22は、第1可撓部21の先端部からシール部3(支持部31の根元部310に向かって径方向外側へ膨出する断面円弧状を呈し、第3ステアリングシャフトSH3(
図1参照)の軸方向の中間部に、軸方向において屈曲可能な屈曲部23を有している。すなわち、第2可撓部22は、屈曲部23を屈曲点として軸方向に撓み変形可能に設けられていて、筒状基部1側から第1可撓部21の根元部210に作用する押圧力Fに基づき軸方向に撓み変形することで、
図4に示す矢印Mのように支持部31の先端側をダッシュパネルDPに押し付けることに供する。
【0041】
シール部3は、第2可撓部22の先端部において径方向内側へと延設された支持部31と、支持部31の外周縁部に突設され、シャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に当接するシールリップ32と、を有する。すなわち、シール部3は、可撓部2が撓み変形することで発生する弾性力に基づきシールリップ32がシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に弾性的に接触することをもって、シャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2を水密にシールしている。
【0042】
支持部31は、外周側の厚さTが最も大きく、かつ当該厚さTが外周側から内周側に向かって徐々に減少する、横断面が概ね台形状となるように形成されている。具体的には、支持部31は、
図3に示すように、グロメットGの自由状態において、パネル対向面311が第1可撓部21と概ね平行をなしていて、グロメットGを車両(図示外)に組み付け状態において、パネル対向面311がダッシュパネルDPと概ね平行となるように形成されている。一方、支持部31のパネル反対向面312については、
図3に示すように、グロメットGの自由状態において、外周側から内周側へ向かって上り傾斜となるテーパ状に形成されている。
【0043】
シールリップ32は、支持部31のパネル対向面311の外周側端縁に突設されていて、支持部31のパネル対向面311の周方向全域に亘って無端状に連続して設けられている。すなわち、シールリップ32がダッシュパネルDPのシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2の全周に亘って密着することで、車外側孔縁DP2が水密にシールされ、当該車外側孔縁DP2を通じた車外から車室内への水分や塵埃等の侵入が抑制されている。
【0044】
また、第2可撓部22における所定の周方向領域R(
図2参照)には、
図3、
図4に示すように、第2可撓部22の外側に、当該第2可撓部22を第1可撓部21よりも厚肉に形成する肉盛り部4が設けられている。この肉盛り部4は、第2可撓部22の外側に沿うように概ね一定の厚みをもって第2可撓部22と一体に設けられていて、第2可撓部22の第1可撓部21との接続部から支持部31の中間位置まで延在している。
【0045】
より具体的には、肉盛り部4は、
図3に示すように、筒状基部1側の軸方向端部である下端部が、グロメットGの自由状態において、第1可撓部21の根元部210側と同じか、又は第1可撓部21の根元部210側よりも低くなる位置、すなわち第2可撓部22の第1可撓部21との接続部まで及んでいる。ここで、肉盛り部4の軸方向一端部である下端部は、第1可撓部21の外側面に沿って滑らかに連続する平坦状に形成されている(
図3参照)。
【0046】
一方、肉盛り部4は、
図3、
図4に示すように、シール部3側の軸方向端部である上端部が、シール部3における支持部31の外側の中間位置まで及んでいる。正確には、肉盛り部4の上端部は、グロメットGの組み付け時に支持部31の内周側がダッシュパネルDPから離間するように転倒(
図5参照)しても当該肉盛り部4の上端部がダッシュパネルDPに当接しない位置まで及んでいる。
【0047】
(本発明の作用効果)
以下、グロメットGの組み付け手順について説明しつつ、当該グロメットGの特徴的な作用効果について説明する。
【0048】
グロメットGを組み付けるには、まず、第3ステアリングシャフトSH3が貫通したグロメットGの一端部(筒状基部1の取付基部12)がステアリングギヤボックスGBのギヤボックス円筒部GB1に嵌着される。その後、シール部3側から外部に臨む第3ステアリングシャフトSH3がシャフト貫通孔DP1に挿入されつつ、グロメットGの他端部(シール部3のシールリップ32)がシャフト貫通孔DP1の車外側孔縁DP2に弾性的に接触される。その結果、グロメットGがステアリングギヤボックスGBとダッシュパネルDPとの間に挟持状態に保持されることにより、ステアリング装置と一緒にグロメットGが車体に組み付けられる。
【0049】
このとき、車両のエンジンルームに搭載される他の部品との干渉を回避する関係上、グロメットGの組み付け方向(例えば
図1中の矢印Z)が制限される場合がある。つまり、シール部3がダッシュパネルDPに垂直に当接するように組み付けることができず、シール部3がダッシュパネルDPに対して斜めに当接するかたちで組み付けなければならない場合がある。かかる組み付け態様では、可撓部2に作用する押圧力FがダッシュパネルDPに対して斜めに作用することになる。
【0050】
ここで、従来のグロメットGxの構成では、
図6に示すように、筒状基部100と比べて可撓部103の肉厚が相対的に小さく、筒状基部100に対する可撓部103側の剛性が相対的に低くなっている。このため、前記押圧力Fの多くは可撓部103が延びる外方、つまり水平方向へ逃げてしまい、その結果、パネル垂直成分F2と比較してパネル平行成分F1が相対的に大きくなってしまう。その結果、ダッシュパネルDPに対する押圧力(パネル垂直成分F2)を十分に得られず、前記斜め方向からの組み付け態様により、
図7に示すように、第2シール部102が転倒し、当該第2シール部102の捲れを招来してしまうおそれがあった。
【0051】
これに対して、本実施形態に係るグロメットGでは、第2可撓部22の外側に設けられた肉盛り部4が、シール部3側の可撓部である、屈曲部23を含む第2可撓部22の剛性を向上させ、結果として、筒状基部1側の可撓部である第1可撓部21の剛性が相対的に低下することとなる。これにより、筒状基部1側からシール部3側へ作用する押圧力Fのうち、ダッシュパネルDPに平行なパネル平行成分F1については、前述した肉盛り部4による第2可撓部22の剛性の向上に伴い、シール部3側へと伝達されにくくなる。一方、ダッシュパネルDPに垂直なパネル垂直成分F2については、前述した第1可撓部21の剛性の相対的な低下に伴い、シール部3側へ伝達されやすくなる。その結果、筒状基部1側からシール部3側へ作用する押圧力Fのパネル垂直成分F2を十分に確保することができる。
【0052】
このように、本実施形態に係るグロメットGによれば、第2可撓部22の外側に肉盛り部4が設けられていることにより、筒状基部1側からシール部3側へ作用する押圧力Fのうち、ダッシュパネルDPに平行となるパネル平行成分F1は伝達されにくくなる一方、ダッシュパネルDPに垂直となるパネル垂直成分F2は伝達されやすくなる。これにより、パネル垂直成分F2が相対的に大きくなり、シール部3の転倒による捲れの発生が抑制され、当該シール部3による良好な水密性を確保することができる。
【0053】
また、本実施形態に係るグロメットGでは、肉盛り部4が、第2可撓部22の周方向領域Rのうち、可撓部2(シール部3)の中心Pを通過し、かつグロメット組み付け方向Dに直交するグロメット組み付け方向直交線Vよりもグロメット組み付け方向D側の領域にのみ設けられている。
【0054】
このように、本実施形態では、肉盛り部4が、第2可撓部22の周方向領域Rのうち、グロメット組み付け方向直交線Vよりもグロメット組み付け方向D側となる領域、すなわちグロメットGの取り付け時においてシール部3の転倒が発生しやすい領域にのみ設けられている。このため、第2可撓部22のうち、グロメットGの取り付け時にシール部3の転倒が発生しやすい周方向領域Rについてのみ、第2可撓部22の剛性を向上させ、当該領域Rにおけるシール部3の転倒を効果的に抑制することができる。
【0055】
換言すれば、第2可撓部22のうち、グロメットGの取り付け時にシール部3の転倒が発生しにくい周方向領域については、肉盛り部4を設けないことにより、当該領域における第2可撓部22の不要な剛性の向上が抑制されることとなり、かかる第2可撓部22の不要な剛性の向上に伴う不具合の発生を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、肉盛り部4が、グロメットGの自由状態において、肉盛り部4の筒状基部1側の軸方向端部が第1可撓部21の根元部210側と同じ高さか、又は第1可撓部21の根元部210側よりも低くなるように形成されている。このため、グロメットGを成型する際の型割りにおいて第1可撓部21の根元部210側がアンダーカットとなるおそれがなく、グロメットGの成型性を向上させることができる。
【0057】
また、肉盛り部4がシール部3の軸方向端部まで延設されている場合には、グロメットGの組み付け時にシール部3の内周側がダッシュパネルDPから離間するように転倒した際、肉盛り部4のシール部3側の軸方向端部がダッシュパネルDPに当接することで、シール部3の転倒がさらに助長されるおそれがある。
【0058】
そこで、本実施形態に係るグロメットGでは、肉盛り部4が、グロメットGの組み付け時にシール部3の内周側がダッシュパネルDPから離間するように転倒しても肉盛り部4のシール部3側の軸方向端部がダッシュパネルDPに当接しない位置まで延設されている。これにより、グロメットGを組み付ける際にシール部3が転倒した場合であっても、肉盛り部4のシール部3側の軸方向端部がダッシュパネルDPに当接することによってシール部3の転倒がさらに助長されてしまう不具合を抑制することができる。
【0059】
本発明は、前記実施形態に開示された構成に限定されるものではなく、グロメットGの細部の構成、例えば筒状基部1やシール部3の形状など、本発明の構成と直接関係しない細部の構成は勿論、肉盛り部4など本発明の構成と直接関係する部分であっても、その形状や大きさなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適用対象であるステアリング装置や車体の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【符号の説明】
【0060】
G…グロメット
1…筒状基部
2…可撓部
21…第1可撓部
22…第2可撓部
23…屈曲部
3…シール部
4…肉盛り部
DP…ダッシュパネル
SH…ステアリングシャフト