IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミドリ安全株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-衣服用空調装置 図1
  • 特許-衣服用空調装置 図2
  • 特許-衣服用空調装置 図3
  • 特許-衣服用空調装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】衣服用空調装置
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/008 20060101AFI20241218BHJP
   A41D 13/002 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
A41D13/008
A41D13/002 105
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021097932
(22)【出願日】2021-06-11
(65)【公開番号】P2022189382
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 元
(72)【発明者】
【氏名】高橋 遼輝
(72)【発明者】
【氏名】津森 友則
(72)【発明者】
【氏名】高梨 智史
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-084562(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029697(WO,A1)
【文献】実開平02-072694(JP,U)
【文献】特開2016-165177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0270457(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/008
A41D 13/002
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のファン部と、バッテリ装置と、それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブルから成り、
必要な風量を前記複数のファン部により衣服内に送風し、可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する場合に、それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている衣服用空調装置であって、
前記バッテリ装置は、バッテリ部と、当該バッテリ部と接続する制御部と、前記ファン部の個数と同数の電流制限部とを備え、前記制御部と、前記ファン部毎に独立する前記接続ケーブルとの間に、前記電流制限部をそれぞれ配置したことを特徴とする衣服用空調装置。
【請求項2】
前記電流制限部は、制限電流値を超過しないように出力電流を制限する複数個の電流制限回路を直列に配置したことを特徴とする請求項1に記載の衣服用空調装置。
【請求項3】
前記電流制限回路は、半導体スイッチ素子を用いて出力電流を制限することを特徴とする請求項に記載の衣服用空調装置。
【請求項4】
前記制限電流値は、前記ファン部が安定して駆動しているときの定格電流値と同値、又は該定格電流値より若干高く設定されていることを特徴とする請求項3に記載の衣服用空調装置。
【請求項5】
それぞれの独立した前記接続ケーブルは、両極のケーブルそれぞれを絶縁体で被覆して1束とし、これらの全体を更に絶縁体で被覆することで複数の前記接続ケーブルを束ねて1本とすることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の衣服用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発性雰囲気内で着用する空調衣服に取り付ける衣服用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、高温環境下での作業時等に作業者が着用し、取り付けられたファンにより衣服内に外気を吸入する空調衣服が知られている。そして、この空調衣服は石油精製・石油化学・化学合成プラント等の可燃性ガスや可燃性粉じんから成る可燃性物質の蒸気が空気中に存在する雰囲気内で着用するニーズも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-65861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示すような通常の空調衣服は、上述の爆発性雰囲気内での使用に耐え得るように防爆仕様が施されておらず、ファンに接続するケーブルの短絡等による爆発性雰囲気内の可燃性物質への着火原因に対しては、無対策である。
【0005】
爆発性雰囲気内で上述の従来の空調衣服を使用した場合に、何らかの不具合が衣服用空調装置に発生し、火花等により爆発性雰囲気内の可燃性物質に着火する危険性がある。
【0006】
特に特許文献1の図16に示す途中で分岐する接続ケーブルを用いた場合に、電流が多く流れるケーブルの根本付近で短絡が生じた場合は、過電流によって瞬間的に大きな火花が発生して、爆発性雰囲気内の可燃性物質に着火する虞れが十分にある。
【0007】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、爆発性雰囲気内での使用に耐え得る防爆用の対策を施した衣服用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る衣服用空調装置は、複数のファン部と、バッテリ装置と、それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブルから成り、必要な風量を前記複数のファン部により衣服内に送風し、可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する場合に、それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている衣服用空調装置であって、前記バッテリ装置は、バッテリ部と、当該バッテリ部と接続する制御部と、前記ファン部の個数と同数の電流制限部とを備え、前記制御部と、前記ファン部毎に独立する前記接続ケーブルとの間に、前記電流制限部をそれぞれ配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る衣服用空調装置によれば、複数のファン部に対して、それぞれの過渡エネルギーが所定のエネルギー閾値以下となる風量の定格電圧、定格電流を設定すると共に、それぞれのファン部への電力供給を独立した接続ケーブル、電流制限部を配置することで、爆発性雰囲気内であっても必要な風量が得られると共に、安全に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】空調衣服の正面から見た説明図である。
図2】空調衣服の背面から見た説明図である。
図3】衣服用空調装置のブロック回路構成図である。
図4】突入電流の時間変化を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は空調衣服Wの正面から見た説明図であり、図2は背面から見た説明図である。空調衣服Wは、正面に開閉用のジッパーW1を備えた上着W2に衣服用空調装置1が取り付けられている。
【0012】
衣服用空調装置1は上着W2の背面に設けた図示しない取付孔に固定した複数、例えば2個のファン部2と、上着W2の内ポケット等に収納するバッテリ装置3と、各ファン部2及びバッテリ装置3を接続する複数の接続ケーブル4とから構成されている。
【0013】
円盤状のファン部2は、上着W2に対して左右対称になるように配置されており、ハウジング内に羽根部2aが収納されている。この羽根部2aを回転させるモータに対して接続ケーブル4を介して電力供給を行い、羽根部2aを高速に回転させることで、外気を上着W2内に吸入する。ジッパーW1を閉じた状態の上着W2内では、矢印の方向に気流Fが発生し、上着W2内の空気は首元や手首の隙間を介して、外部に排出される。
【0014】
このようにファン部2のモータの駆動により、上着W2内は涼しく保たれる。なお、ファン部2は直流で動作する軸流ファン以外に、遠心ファン等の適宜のファンを採用することも可能である。
【0015】
ファン部2のハウジングは、本体部と固定枠部とから成り、これらで上着W2の取付孔を挟持することで固定されている。ファン部2の故障時等には、本体部から固定枠部を分離することで、容易に上着W2からファン部2を取り外すことが可能である。
【0016】
バッテリ装置3は、上着W2に設けた内ポケット等に収納する箱状体である。図3のブロック回路構成図に示すように、バッテリ装置3はリチウムイオン電池等から成るバッテリ部3aと、このバッテリ部3aと接続するIC基板から成る制御部3bと、上着W2に取り付けたファン部2の個数と同数の電流制限部3cとを備えている。そして、制御部3bと、ファン部2毎に独立する接続ケーブル4との間には、電流制限部3cがそれぞれ配置されている。
【0017】
なお、バッテリ部3aとして、例えば公称電圧3.7V、定格容量1.88Ahのリチウムイオン電池を複数個、連結して使用する。バッテリ部3aは充電可能な充電池に代えて、使い捨ての乾電池を採用することも可能であり、空調衣服Wの着用時間に応じて、適宜の容量のものを採用することができる。
【0018】
バッテリ装置3は箱状のハウジングの外表面に、それぞれの電流制限部3cの先に配置され、電流制限部3cと接続する複数の被接続端部3eと、図示しないバッテリ部3aに対して商用電源等から充電可能な充電用入力部と、電源スイッチ部とが設けられている。
【0019】
なお、バッテリ部3aとして上述の乾電池を採用した場合は、充電用入力部は不要である。また、電源スイッチ部をオフからオンにすることで、それぞれの接続ケーブル4を介してファン部2に対して電力が供給される。
【0020】
ファン部2毎に独立して配置される接続ケーブル4は、一方の端部には、被接続端部3eと接続する接続端子部4aが設けられている。接続ケーブル4の他方の端部はファン部2と接続ケーブル4とは連結しているように図示しているが、被接続端部3e及び接続端子部4a同様に取り外し可能としてもよい。
【0021】
ファン部2の個数と同数個の並列に配置された電流制限部3cには、それぞれ過電流が発生しないように出力電流を制御する2個の電流制限回路3dが直列に配置されている。
【0022】
これらの電流制限回路3dは、例えばゲート部にかかるゲート電圧によってソース・ドレイン間の電流を制御する、例えば電界効果トランジスタ(FET素子)等の半導体スイッチ素子が採用され、適宜のゲート電圧を設定することで、制限電流値を超過しないように出力電流が制限される。なお、この制限電流値は、羽根部2aが安定して回転駆動しているときの定格電流値Iaと同値、又は定格電流値Iaより若干高く設定されている。
【0023】
また、電流制限回路3dを直列とする2重系にすることで、一方の電流制限回路3dが故障し、出力電流を制限できなくなったとしても、故障していない他方の電流制限回路3dにより、制限電流値を超過しないように維持するためである。
【0024】
図4はバッテリ装置3に設けた前述の電源スイッチ部により、電源をオンにした直後の電圧印加時における突入電流の時間変化を示したグラフ図である。電源をオンにすると、ファン部2に対して電流が流れ始めるが、電源投入直後の僅かな時間に流れる電流は、定格電流値Iaより大きなピーク電流値Ipに達する。この電源投入直後の僅かな時間に対しては、電流制限部3cによる電流の制御が及ばない。
【0025】
その後に、徐々に電流値は低下してゆき安定するが、定格電流値Iaに至るまでの斜線の部分の電流が突入電流となる。図示するピーク電流値Ip及び波形の大きさは、採用するファン部2の定格電流値Ia、及びファン部2を駆動させるために印加する電圧である定格電圧に基づく風量に応じて、変化することになる。
【0026】
そして、電源投入時の突入電流発生時の定格電流値Iaと波形Hとにより囲まれた領域を過渡領域Sとした場合に、可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーEnは、下式で表すことができる。
過渡エネルギーEn[J]=電圧[V]×過渡領域S[A・s] (1)
【0027】
爆発性雰囲気に放出されるエネルギーである過渡エネルギーEnによって、電流制限部3c以降に流れるエネルギーが、爆発性雰囲気内での発火の原因となるため、可燃性物質の爆発性に応じて防爆のエネルギー閾値が定められている。
【0028】
例えば、爆発性の高い可燃性物質のグループの雰囲気では、過渡エネルギーEnのエネルギー閾値は20μJとし、順に80μJ、160μJ、240μJのように物質の爆発性が低くなるにつれて、エネルギー閾値は増加する。
【0029】
例えば、定格電圧を8.7V、定格電流値Iaを0.8Aを有するファン部2を採用し、突入電流時のピーク電流値Ipとして2.0A、突入電流が発生した時間Taとして1μsを計測した場合に、過渡領域Sを簡略的に(ピーク電流値Ip-定格電流値Ia)×時間Tとして計算すると、(1)式の過渡エネルギーEnは、8.7V×1.2A・μs=10.44μJとなる。
【0030】
この算出された過渡エネルギーEnは、何れの可燃性物質のグループの前述のエネルギー閾値を下回るので、何れの可燃性物質が存在する爆発性雰囲気内でも、衣服用空調装置1を使用することが可能であると判断される。
【0031】
このように、空調衣服Wを着用する爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るような定格電圧、定格電流をバッテリ装置3で設定すると共に、これらの設定に準拠するファン部2を採用することで、電源投入時に、衣服用空調装置1の部品の瞬間的な発熱によって爆発性雰囲気内の可燃性物質に着火することを防止することができる。
【0032】
また、空調衣服Wを着用する際は、上着W2内に送風する風量が快適性を得るために所定量以上必要であるので、突入電流の発生時の過渡エネルギーEnが爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように設定されたファン部2を、上着W2に必要個数分を配置する必要がある。
【0033】
つまり、それぞれのファン部2に対して、過渡エネルギーEnが所定のエネルギー閾値以下となるように、バッテリ装置3で設定した定格電圧、定格電流で駆動させて、起動時に発火の虞れのある突入電流に達しないようにすると共に、必要な風量に達する個数の複数のファン部2を配置することで、空調衣服W内に快適な所定の風量が得られると共に、突入電流によって発火する虞れがなくなる。
【0034】
また、バッテリ装置3のファン部2の個数と同数の電流制限部3cと、それぞれのファン部2との間が、従来の1つの電流出力が独立した接続ケーブル4によって接続されているので、たとえ接続ケーブル4の両極が接触不良により短絡したとしても、電流制限部3cで設定した制限電流値以上の電流は流れないことから、爆発性雰囲気内の可燃性物質に着火するような火花が発生することもない。
【0035】
また、それぞれの独立した接続ケーブル4は、両極のケーブルそれぞれを絶縁体で被覆して1束とし、これらの全体を更に絶縁体で被覆することで複数の接続ケーブル4を束ねて1本とすることも可能である。
【0036】
このように束ねられた接続ケーブル4の両端は、それぞれ分岐し、一方の端部はそれぞれファン部2に接続し、他方の端部である接続端子部4aは、それぞれ被接続端部3eに接続することになる。
【0037】
このように、本実施例に係る衣服用空調装置1によれば、複数のファン部2に対して、それぞれの過渡エネルギーEnが所定のエネルギー閾値以下となる風量の定格電圧、定格電流を設定すると共に、ぞれぞれのファン部2への電力供給を独立した接続ケーブル4を用いることで、爆発性雰囲気内であっても必要な風量が得られると共に、安全に使用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 衣服用空調装置
2 ファン部
2a 羽根部
3 バッテリ装置
3a バッテリ部
3b 制御部
3c 電流制限部
3d 電流制限回路
4 接続ケーブル
図1
図2
図3
図4