(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】化学除染方法及び化学除染装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
G21F9/28 525D
(21)【出願番号】P 2021101778
(22)【出願日】2021-06-18
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/076431(WO,A1)
【文献】特開2018-159647(JP,A)
【文献】特開2019-191075(JP,A)
【文献】特開2001-124891(JP,A)
【文献】特開2000-105295(JP,A)
【文献】特開2015-059852(JP,A)
【文献】松原茂雄他,酸化還元電位法による鉄めっき浴のFe2+とFe3+の濃度比の定量,鉄と鋼,1989年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00- 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し、
前記水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
前記水溶液に紫外線を照射し、前記紫外線が照射された前記水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、測定された前記酸化還元電位及び前記腐食電位のいずれかに基づいて、前記紫外線を照射する紫外線照射装置よりも上流における前記水溶液及び前記紫外線照射装置内の前記水溶液の少なくとも一つの前記水溶液への酸化剤の供給量を調節
し、
前記水溶液への前記酸化剤の供給量の調節が、測定された前記酸化還元電位及び前記腐食電位のいずれかに基づいて、前記紫外線が照射された前記水溶液における、Fe
2+
に対するFe
3+
の濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかを求め、求められた前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかに基づいて、前記紫外線照射装置よりも上流における前記水溶液、及び前記紫外線照射装置内の前記水溶液のうちの少なくとも一つの前記水溶液への前記酸化剤の供給量を調節することによって行われ、
前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかに基づいて、前記紫外線が照射された前記水溶液に前記酸化剤が含まれているかを判定する、化学除染方法。
【請求項2】
求められた前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかを表示する
、請求項
1に記載の化学除染方法。
【請求項3】
前記濃度比の対数が1よりも大きいとき及び前記濃度比が10よりも大きいときのいずれかにおいて、前記紫外線が照射された前記水溶液に前記酸化剤が含まれていると判定する
、請求項
1に記載の化学除染方法。
【請求項4】
前記紫外線が照射された前記水溶液に前記酸化剤が含まれているとき、前記水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給を停止し、前記水溶液への前記酸化剤の供給量を減少させる
、請求項
1に記載の化学除染方法。
【請求項5】
前記水溶液に前記酸化剤が含まれていないと判定され、且つ前記濃度比の対数が1以下である第1設定値よりも小さいと判定されたとき、前記濃度比の対数が前記第1設定値になる、及び前記濃度比が10以下である第2設定値よりも小さいと判定されたとき、前記濃度比が前記第2設定値になる、のいずれかになるように、前記水溶液への前記酸化剤の供給量を増加させる
、請求項
1に記載の化学除染方法。
【請求項6】
前記水溶液への紫外線照射によって前記水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、触媒が存在する触媒塔内で、前記触媒及び前記触媒塔に供給される前記酸化剤によって前記還元除染剤が分解される
、請求項
1に記載の化学除染方法。
【請求項7】
前記水溶液に前記酸化剤が含まれていないと判定されたとき、前記水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給し、前記水溶液に含まれる金属陽イオンをカチオン交換樹脂塔で除去し、前記金属陽イオンが除去された前記水溶液に前記酸化剤を供給し、前記酸化剤及び前記還元除染剤を含む前記水溶液を前記触媒塔に供給する
、請求項
6に記載の化学除染方法。
【請求項8】
原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続して前記第1配管及び前記第2配管を含む閉ループを形成し、
前記第2配管から前記第1配管に還元除染剤を含む水溶液を供給して、前記第
1配管の内面に対する還元除染を実施し、
前記水溶液に含まれる前記還元除染剤を分解する工程において、
前記第2配管に連絡され、前記第1配管から前記第2配管に戻される前記水溶液に紫外線を照射し、前記紫外線が照射された前記水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、
測定された前記酸化還元電位及び前記腐食電位のいずれかに基づいて、紫外線照射装置よりも上流における前記水溶液、及び前記紫外線照射装置内の前記水溶液のうちの少なくとも一つの前記水溶液への酸化剤の供給量を調節
し、
前記水溶液への前記酸化剤の供給量の調節が、測定された前記酸化還元電位及び前記腐食電位のいずれかに基づいて、前記紫外線が照射された前記水溶液における、Fe
2+
に対するFe
3+
の濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかを求め、求められた前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかに基づいて、前記紫外線照射装置よりも上流における前記水溶液、及び前記紫外線照射装置内の前記水溶液のうちの少なくとも一つの前記水溶液への前記酸化剤の供給量を調節することによって行われ、
前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかに基づいて、前記紫外線が照射された前記水溶液に前記酸化剤が含まれているかを判定する、化学除染方法。
【請求項9】
前記水溶液への紫外線照射によって前記水溶液に含まれる前記還元除染剤を分解し、触媒が存在する触媒塔内で、前記触媒及び前記触媒塔に供給される前記酸化剤によって前記還元除染剤が分解される
、請求項
8に記載の化学除染方法。
【請求項10】
原子力プラントの構成部材である化学除染対象の配管系に還元除染剤を含む水溶液を供給する循環配管と、
紫外線が照射される、前記循環配管内の前記水溶液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定装置及び紫外線が照射される、前記循環配管内の前記水溶液の腐食電位を測定する腐食電位測定装置のいずれかと、
前記酸化還元電位測定装置で測定される前記酸化還元電位、及び前記腐食電位測定装置で測定される前記腐食電位のいずれかに基づいて、前記水溶液への酸化剤の供給量を制御する制御装置と
、
測定される前記酸化還元電位及び測定される前記腐食電位のいずれかに基づいて、前記水溶液の、Fe
2+
に対するFe
3+
の濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかを求める濃度比把握装置と、を備え
、
前記制御装置は、
前記水溶液への前記酸化剤の供給量の調節を、前記濃度比把握装置で求められる前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかに基づいて、前記水溶液への前記酸化剤の供給量を制御することによって行い、
前記濃度比の対数及び前記濃度比のいずれかに基づいて、前記紫外線が照射された前記水溶液に前記酸化剤が含まれているかを判定する、化学除染装置。
【請求項11】
前記水溶液に紫外線を照射する紫外線照射装置を
更に備えた
、請求項
10に記載の化学除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学除染方法及び化学除染装置に係り、特に、沸騰水型原子力プラントの放射性核種で汚染された構造部材の除染に適用するのに好適な化学除染方法及び化学除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、定期検査作業及びプラント廃止措置における原子力プラントの解体時等の作業者の被ばく線量を低減するために、また、原子力プラント解体時に発生する放射性廃棄物の量を低減するために、従来、放射性核種を、放射性核種に汚染された原子力プラントの構成部材(機器及び配管等)の表面から化学薬品により除去する作業(以下、化学除染と称する。)が行われている。
【0003】
化学除染は、一般に、酸化除染剤を使用する除染(酸化除染)と還元除染剤を使用する除染(還元除染)を交互に複数回繰り返して実施される。酸化除染は、酸化除染剤(例えば、過マンガン酸カリウム)によって、主に、原子力プラントの構成部材の表面のクロム(Cr)酸化皮膜を除去する。還元除染は、還元除染剤(例えば、シュウ酸等を含む有機酸)によって、主にその構成部材の表面の鉄(Fe)酸化皮膜を除去する。このとき、この構成部材への影響を考慮して、ヒドラジンの添加によって還元除染剤のpHが調整されることもある。
【0004】
化学除染剤(酸化除染剤及び還元除染剤)によって構成部材の表面から溶解された金属イオン及び放射性核種等の金属陽イオンは、化学除染水溶液を還元除染においてカチオン交換樹脂を充填したカチオン交換樹脂塔に供給することにより、カチオン交換樹脂に吸着されて除去される。酸化除染に使用された過マンガン酸カリウムは、酸化除染後に還元剤であるシュウ酸と反応してマンガンイオンに還元分解され、イオン交換樹脂塔に吸着されて除去される。還元除染に使用されたシュウ酸及びヒドラジンは、イオン交換樹脂塔の下流に配置された触媒塔(分解装置)において分解される。
【0005】
従来の化学除染方法に関する技術として、例えば、特開2000-105295号公報がある。特開2000-105295号公報には、放射性核種に汚染された、炉水と接触するその構成部材の表面に付着した放射性核種を化学的に除去する化学除染法において、少なくとも2種類以上の成分を含有する還元除染剤を用いて還元除染する工程、この工程の後に還元除染剤に含まれる少なくとも2種類以上の化学物質を分解する触媒塔を用いて還元除染剤の分解を行う工程を含む化学除染方法が開示されている。
【0006】
還元除染によって還元剤に溶解したFeイオンが、Fe酸化物として、触媒塔内の触媒に付着するため、触媒の寿命が低下する。また、触媒にFe酸化物が触媒に付着すると、シュウ酸及びヒドラジンの分解率が低下することが報告されている(K.Ishida et al,「Low Corrosive Chemial Decontamination Method Using pH Control,(II)Decomposition of Reducing Agent by Using catalyst with Hydrogen Peroxide」,Journal of Nuclear Science and Technology,Vol.39,No.9,p.941-949(September 2002))。
【0007】
したがって、還元除染後、カチオン交換樹脂における、還元除染水溶液に溶解されたFeイオンの除去効率を、より一層高めることが望まれていた。
【0008】
還元水溶液に紫外線を照射する化学除染方法が、特開2000-105295号公報
及び特開2018-159647号公報等に記載されている。
【0009】
特開2000-105295号公報は、原子力プラントの化学除染対象物(例えば、配管)の表面に対する、シュウ酸(還元除染剤)及びヒドラジンを含む還元除染液による還元除染を実施し、この還元除染に用いた還元除染液に含まれる還元除染剤を分解し、その表面に対して、酸化除染剤、例えば、過マンガン酸カリウムを含む酸化除染液を用いた酸化除染を実施することを記載する。還元除染剤の分解工程では、還元除染剤であるシュウ酸は、過酸化水素が供給される、触媒を有する分解装置で分解され、さらに、分解装置と並列に配置された紫外線照射装置における還元除染液への紫外線照射によっても分解されている。還元除染液への紫外線照射は、シュウ酸の分解と共に、還元除染液による還元除染で生じた3価の鉄錯体をFe2+に還元する。この還元により生じたFe2+はカチオン交換樹脂塔で除去されるため、分解装置内に達した、陽イオンである3価の鉄錯体が分解装置内の触媒の表面に析出し、触媒の寿命が短くなることが防止される。
【0010】
特開2018-159647号公報に記載された原子力プラントの化学除染方法では、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+をFe2+に還元するため、紫外線照射装置においてシュウ酸水溶液に紫外線が照射され、紫外線を照射されたシュウ酸水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給することにより、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+がカチオン交換樹脂塔で除去される。Fe2+を除去したシュウ酸水溶液を、過酸化水素が供給される分解装置に供給して分解装置内でシュウ酸を分解する。紫外線の照射によりFe3+がFe2+に還元されるため、カチオン交換樹脂塔内で陽イオン交換樹脂に吸着される鉄イオン(Fe2+)が増加する。なお、Fe3+は陽イオン交換樹脂に吸着されない。紫外線が照射されてカチオン交換樹脂塔を通過したシュウ酸水溶液は、内部に触媒が存在し過酸化水素が供給される分解装置に供給され、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が分解装置内で触媒及び過酸化水素の作用により分解される。
【0011】
特開2008-36591号公報に記載された廃液中の有機酸の分解方法では、過酸化水素供給部及び紫外線照射装置を有する分解装置が用いられる。廃液である、シュウ酸を含む水溶液に過酸化水素供給部から過酸化水素を供給し、シュウ酸及び過酸化水素を含む水溶液に、紫外線照射装置によって紫外線が照射される。過酸化水素がFe2+を含むシュウ酸水溶液に供給されると、Fe3+及び・OH(ヒドロキシルラジカル)がシュウ酸水溶液内に生成される。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸は、・OHによって分解され、また、紫外線の照射によっても分解される。さらに、シュウ酸水溶液に紫外線を照射することによって、Fe3+がFe2+に還元されることも記載されている。
【0012】
特開2009-109427号公報は、特開2008-36591号公報と同じことを記載している。特開2009-109427号公報は、さらに、紫外線照射装置の出口側で過酸化水素濃度が0になるように、紫外線照射装置の上流側での過酸化水素の供給量を調節することを記載する。
【0013】
特開2019-191075号公報は、
図8に、化学除染装置の循環配管の一端部を除染容器の底部に接続し、その循環配管の他端部を除染容器の上端に接続することを示している。廃止措置の対象である原子力プラントの解体によって発生した、例えば、配管系の複数の切断片(化学除染対象物)を、除染容器内に収納した後、除染容器が密封される。除染容器及び循環配管を含む閉ループ内で、化学除染水溶液を循環させ、除染容器内の複数の切断片に対する化学除染を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2000-105295号公報
【文献】特開2018-159647号公報
【文献】特開2008-36591号公報
【文献】特開2009-109427号公報
【文献】特開2019-191075号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】K.Ishida et al,「Low Corrosive Chemial Decontamination Method Using pH Control,(II)Decomposition of Reducing Agent by Using Catalyst with Hydrogen Peroxide」、Journal of Nuclear Science and Technology,Vol.39,No.9,p.941-949(September 2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
Feイオンの除去は、触媒の活性低下を抑制し、シュウ酸の分解を速やかに行うことにある。一方で、シュウ酸水溶液に含まれるFeイオンの価数を調整する紫外線照射には、過酸化水素などの酸化剤を併用することにより、フェントン反応を生じさせてシュウ酸を分解する能力がある。このため、この反応を利用できれば、シュウ酸の分解を速やかに行うという当初の目的に寄与できる。しかしながら、単に、紫外線照射前に過酸化水素を添加したのでは未反応の過酸化水素がカチオン交換樹脂塔に到達し、カチオン交換樹脂を酸化分解して還元除染廃液をイオン交換樹脂の分解成分で汚染し、排水できなくなる恐れがある。このため、酸化剤を含む還元除染水溶液に紫外線を照射したとき、紫外線照射後の還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを短時間に確認できる手法を、確立することが望まれる。
【0017】
本発明の目的は、紫外線照射後の還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを短時間に確認できる化学除染方法及び化学除染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成する本発明の化学除染方法の特徴は、還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させてその構成部材の還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
その水溶液に紫外線を照射し、その紫外線が照射されたその水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、測定されたその酸化還元電位及び腐食電位のいずれかに基づいて、その紫外線を照射する紫外線照射装置よりも上流におけるその記水溶液及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液への酸化剤の供給量を調節することにある。
【0019】
上記の特徴を有する化学除染方法によれば、紫外線が照射された還元除染水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかが測定されるため、この測定された酸化還元電位及び腐食電位のいずれかに基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを短時間に確認することができる。
【0020】
上記した目的を達成する本発明の化学除染装置の特徴は、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の配管系に還元除染剤を含む水溶液を供給する循環配管と、
紫外線が照射される、その循環配管内のその水溶液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定装置及び紫外線が照射される、循環配管内のその水溶液の腐食電位を測定する腐食電位測定装置のいずれかと、
その酸化還元電位測定装置で測定されるその酸化還元電位及びその腐食電位測定装置で測定されるその腐食電位のいずれかに基づいて、その水溶液へのその酸化剤の供給量を制御する制御装置とを備えたことにある。
【0021】
(A1)還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
その水溶液に紫外線を照射し、その紫外線が照射されたその水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その紫外線を照射する紫外線照射装置よりも上流におけるその水溶液及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液への酸化剤の供給量を調節する化学除染方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0022】
なお、上記の(A1)の構成である、「還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し」から「少なくとも一つのその水溶液への酸化剤の供給量を調節する化学除染方法」までの記載は、請求項1に記載された構成に対応する。
【0023】
(A2)好ましくは、上記の(A1)において、制御装置によって、測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、紫外線照射装置よりも上流におけるその水溶液、及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液への酸化剤の供給量が調節されることが望ましい。
【0024】
(A3)好ましくは、上記の(A1)または(A2)において、その水溶液へのその酸化剤の供給量の調節が、測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その紫外線が照射されたその水溶液における、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求め、その制御装置が、求められた濃度比の対数及び求められたその濃度比のいずれかに基づいて、紫外線照射装置よりも上流におけるその水溶液、及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液へのその酸化剤の供給量を調節することが望ましい。
【0025】
(A4)好ましくは、上記の(A1)ないし(A3)のいずれかにおいて、その制御装置が、求められた濃度比の対数及び求められたその濃度比のいずれかに基づいて、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているかを判定することが望ましい。
【0026】
(A5)好ましくは、上記の(A4)において、その制御装置が、求められた濃度比の対数が1よりも大きいとき及び求められたその濃度比が10よりも大きいときのいずれかにおいて、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれていると判定することが望ましい。
【0027】
(A6)好ましくは、上記の(A4)または(A5)において、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているとき、その制御装置が、その水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給を停止し、その水溶液へのその酸化剤の供給量を減少させることが望ましい。
【0028】
(A7)好ましくは、上記の(A4)または(A5)において、その制御装置によって、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定され、且つ求められたその濃度比の対数が1以下である第1設定値よりも小さいと判定されたとき、その濃度比の対数がその第1設定値になるように、及び求められた濃度比が10以下である第2設定値よりも小さいと判定されたとき、その濃度比がその第2設定値になるように、のいずれかで、その水溶液へのその酸化剤の供給量が増加されることが望ましい。
【0029】
(A8)好ましくは、上記の(A1)ないし(A7)のいずれか1つにおいて、その水溶液への紫外線照射によってその水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、触媒が存在する触媒塔内で、その触媒及びその触媒塔に供給されるその酸化剤によってその還元除染剤が分解されることが望ましい。
(B1)原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続してその第1配管及びその第2配管を含む閉ループを形成し、
その第2配管からその第1配管に還元除染剤を含む水溶液を供給して、その第2配管の内面に対する還元除染を実施し、
その水溶液に含まれるその還元除染剤を分解する工程において、
その第2配管に連絡され、その第1配管からその第2配管に戻されるその水溶液に紫外線を照射し、その紫外線が照射されたその水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、
測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その水溶液へのその酸化剤の供給量を調節する化学除染方法であって、
その水溶液へのその酸化剤の供給量の調節が、測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その紫外線が照射されたその水溶液における、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求め、求められた濃度比の対数及び求められたその濃度比のいずれかに基づいて、その紫外線が照射する紫外線照射装置よりも上流におけるその水溶液、及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液へのその酸化剤の供給量を調節する化学除染方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0030】
なお、上記の(B1)の構成のうち、「原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続してその第1配管及びその第2配管を含む閉ループを形成し」から「測定された酸化還元電位に基づいて、その水溶液へのその酸化剤の供給量を調節する化学除染方法」までの記載は、請求項10に記載された構成に対応する。また、上記の(B1)の構成のうち、「その水溶液へのその酸化剤の供給量の調節が、測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて」から「上流におけるその水溶液、及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液へのその酸化剤の供給量を調節する化学除染方法」までの記載は、請求項11に記載された構成に対応する。
【0031】
(B2)好ましくは、上記の(B1)において、求められた濃度比の対数及び求められたその濃度比のいずれかに基づいて、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているかを判定することが望ましい。
【0032】
(B3)好ましくは、上記の(B2)において、求められた濃度比の対数が1よりも大きいとき及び求められた濃度比が10よりも大きいときのいずれかで、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれていると判定することが望ましい。
【0033】
(B4)好ましくは、上記の(B2)または(B3)において、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているとき、その水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給を停止し、その水溶液へのその酸化剤の供給量を減少させることが望ましい。
【0034】
(B5)好ましくは、上記の(B2)または(B3)において、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定され、且つ求められたその濃度比の対数が1以下である第1設定値よりも小さいと判定されたとき、その濃度比の対数がその第1設定値にするように、及び求められた濃度比が10以下である第2設定値よりも小さいと判定されたとき、その濃度比がその第2設定値にするように、のいずれかによって、その水溶液へのその酸化剤の供給量を増加させることが望ましい。
(B6)好ましくは、上記の(B2)ないし(B5)のいずれか1つにおいて、その水溶液への紫外線照射によってその水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、触媒が存在する触媒塔内で、その触媒及びその触媒塔に供給されるその酸化剤によってその還元除染剤が分解されることが望ましい。
(B7)好ましくは、上記の(B6)において、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定されたとき、その水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給し、その水溶液に含まれる金属陽イオンをカチオン交換樹脂塔で除去し、その金属陽イオンが除去されたその水溶液にその酸化剤を供給し、その酸化剤及びその還元除染剤を含むその水溶液をその触媒塔に供給することが望ましい。
【0035】
(C1)還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し、
その水溶液に含まれる還元除染剤を分解する工程において、
その水溶液に紫外線を照射し、その紫外線が照射されたその水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その紫外線を照射する紫外線照射装置よりも上流におけるその水溶液及びその紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つのその水溶液への酸化剤の供給量を調節する化学除染方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0036】
なお、上記の(C1)の構成である、「還元除染剤の水溶液を、原子力プラントの構成部材の、炉水と接触する表面に接触させて前記構成部材の還元除染を実施し」から「少なくとも一つのその水溶液への酸化剤の供給量を調節する化学除染方法」までの記載は、請求項1に記載された構成に対応する。
(C2)好ましくは、上記の(C1)において、測定されたその酸化還元電位及び測定されたその腐食電位のいずれかに基づいて、紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているかを判定することが望ましい。
(C3)好ましくは、上記の(C2)において、測定されたその酸化還元電位が400mV vs SHEよりも大きいとき及び測定されたその腐食電位が400mV vs SHEよりも大きいときのいずれかにおいて、紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれていると判定することが望ましい。
(C4)好ましくは、上記の(C2)または(C3)において、紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているとき、その水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給を停止し、その水溶液へのその酸化剤の供給量を減少させることが望ましい。
(C5)好ましくは、上記の(C2)または(C3)において、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定され、且つ測定されたその酸化還元電位が酸化還元電位の第3設定値よりも小さいと判定されたとき、その酸化還元電位がその第3設定値になるように、及び測定されたその腐食電位が腐食電位の第4設定値よりも小さいと判定されたとき、その腐食電位がその第4設定値になるように、のいずれかで、その水溶液へのその酸化剤の供給量を増加させることが望ましい。
(C6)好ましくは、上記の(C2)ないし(C4)のいずれか1つにおいて、その水溶液への紫外線照射によってその水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、触媒が存在する触媒塔内で、その触媒及びその触媒塔に供給されるその酸化剤によってその還元除染剤が分解されることが望ましい。
(C7)好ましくは、上記の(C6)において、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定されたとき、その水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給し、その水溶液に含まれる金属陽イオンをカチオン交換樹脂塔で除去し、その金属陽イオンが除去されたその水溶液にその酸化剤を供給し、その酸化剤及びその還元除染剤を含むその水溶液をその触媒塔に供給することが望ましい。
(D1)原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続してその第1配管及びその第2配管を含む閉ループを形成し、
その第2配管からその第1配管に還元除染剤を含む水溶液を供給して、その第2配管の内面に対する還元除染を実施し、
その水溶液に含まれるその還元除染剤を分解する工程において、
その第2配管に連絡され、その第1配管からその第2配管に戻されるその水溶液に紫外線を照射し、その紫外線が照射されたその水溶液の酸化還元電位及び腐食電位のいずれかを測定し、
測定されたその酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その水溶液へのその酸化剤の供給量を調節する化学除染方法において、さらに好ましい構成を以下に説明する。
【0037】
なお、上記の(D1)の構成のうち、「原子炉圧力容器に連絡される、原子力プラントの構成部材である化学除染対象の第1配管に、この第1配管とは別の第2配管を接続してその第1配管及びその第2配管を含む閉ループを形成し」から「測定された酸化還元電位及びその腐食電位のいずれかに基づいて、その水溶液へのその酸化剤の供給量を調節する化学除染方法」までの記載は、請求項10に記載された構成に対応する。
【0038】
(D2)好ましくは、上記の(D1)において、測定された酸化還元電位及び測定された腐食電位のいずれかに基づいて、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているかを判定することが望ましい。
【0039】
(D3)好ましくは、上記の(D2)において、測定されたその酸化還元電位が400mV vs SHEよりも大きいとき及び測定されたその腐食電位が腐食電位の400mV vs SHEよりも大きいときのいずれかにおいて、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれていると判定することが望ましい。
【0040】
(D4)好ましくは、上記の(D2)または(D3)において、その紫外線が照射されたその水溶液にその酸化剤が含まれているとき、その水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給を停止し、その水溶液へのその酸化剤の供給量を減少させることが望ましい。
【0041】
(D5)好ましくは、上記の(D2)または(D3)において、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定され、且つ測定されたその酸化還元電位が酸化還元電位の第3設定値よりも小さいと判定されたとき、その酸化還元電位がその第3設定値になるように、及び測定されたその腐食電位が腐食電位の第4設定値よりも小さいと判定されたとき、その腐食電位がその第4設定値になるように、のいずれかで、その水溶液へのその酸化剤の供給量を増加させることが望ましい。
(D6)好ましくは、上記の(D2)ないし(D4)のいずれか1つにおいて、その水溶液への紫外線照射によってその水溶液に含まれる還元除染剤を分解し、触媒が存在する触媒塔内で、その触媒及びその触媒塔に供給されるその酸化剤によってその還元除染剤が分解されることが望ましい。
(D7)好ましくは、上記の(D6)において、その水溶液にその酸化剤が含まれていないと判定されたとき、その水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給し、その水溶液に含まれる金属陽イオンをカチオン交換樹脂塔で除去し、その金属陽イオンが除去されたその水溶液にその酸化剤を供給し、その酸化剤及びその還元除染剤を含むその水溶液をその触媒塔に供給することが望ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、還元除染剤の分解に要する時間を、さらに短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の好適な一実施例である、沸騰水型原子力プラS13ントに適用される実施例1の化学除染方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示された化学除染方法の手順に含まれる還元除染剤の分解工程の詳細フローチャートである。
【
図3】
図1及び
図2に示す実施例1の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置を、沸騰水型原子力プラントの再循環系配管に接続した状態を示す説明図である。
【
図4】
図3に示す化学除染装置の詳細構成図である。
【
図5】
図4に示す酸化剤供給装置の詳細構成図である。
【
図6】還元除染水溶液における、Fe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比の対数と還元除染水溶液の酸化還元電位の関係を示す特性図であり、過酸化水素の否検出領域及び過酸化水素の検出領域のそれぞれを示す説明図である。
【
図7】還元除染液におけるFe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比の対数と還元除染液の腐食電位の関係を示す特性図であり、過酸化水素の否検出領域及び過酸化水素の検出領域のそれぞれを示す説明図である。
【
図8】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例2の化学除染方法に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図9】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例3の化学除染方法に用いられる化学除染装置を、沸騰水型原子力プラントの浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。
【
図10】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例4の化学除染方法の手順に含まれる還元除染剤の分解工程の詳細フローチャートである。
【
図11】実施例4の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図12】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例5の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図13】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例6の化学除染方法の手順に含まれる還元除染剤の分解工程の詳細フローチャートである。
【
図14】実施例6の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図15】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例7の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図16】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例8の化学除染方法の手順に含まれる還元除染剤の分解工程の詳細フローチャートである。
【
図17】実施例8の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図18】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例9の化学除染方法の実施に用いられる化学除染装置の詳細構成図である。
【
図19】本発明の好適な他の実施例である、沸騰水型原子力プラントに適用される実施例10の化学除染方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明者らは、原子力プラントに適用される化学除染方法における還元除染剤の分解工程に要する時間を、さらに短縮できる、原子力プラントに適用される化学除染方法に関して、種々の検討を行った。
【0045】
これらの検討において、発明者らは、還元除染水溶液に含まれるFeイオン除去のために行う紫外線照射による3価のFeイオン(Fe3+)の2価のFeイオン(Fe2+)への還元の際に、酸化剤(例えば、過酸化水素)を還元除染水溶液に注入し、酸化剤を含む還元除染水溶液への紫外線照射により還元除染剤(例えば、シュウ酸)の分解を行い、さらに、紫外線照射の下流側で、触媒及び酸化剤の利用による還元除染剤の分解を行うことを考えた。すなわち、発明者らは、酸化剤を含む還元除染水溶液への紫外線照射による還元除染剤の分解、及び触媒及び酸化剤の利用による還元除染剤の分解の併用により、還元除染剤の分解に要する時間が、さらに短縮できると考えた。
【0046】
その際、触媒塔の上流に配置された、2価のFeイオン及び放射性核種の陽イオンを除去するカチオン交換樹脂塔に流入する還元除染水溶液に酸化剤(例えば、過酸化水素)が含まれている場合には、この酸化剤によって、カチオン交換樹脂塔内のカチオン交換樹脂が酸化されて劣化する。これにより、カチオン交換樹脂の寿命が短くなる。さらには、カチオン交換樹脂の劣化によって生じるカチオン交換樹脂の分解生成物が、還元除染水溶液に混入することになる。したがって、カチオン交換樹脂塔への酸化剤の流入を防止しなければならない。
【0047】
この課題について、発明者らは鋭意検討を行った。その検討の結果、発明者らは、還元除染水溶液への紫外線照射の位置よりも下流側での、還元除染水溶液の酸化還元電位と還元除染水溶液における過酸化水素の有無に相関関係があることを見出した。還元除染水溶液にはFeイオンが含まれており、還元除染水溶液の酸化還元電位(E)は、2価のFeイオン濃度[Fe2+]に対する3価のFeイオン濃度[Fe3+]の比を含む式(1)で表されるネルンストの式で表すことができる。
【0048】
E=E0+(RT/nF)・log([Fe3+]/[Fe2+]) …(1)
ここで、E0は標準電極電位、Rは気体定数、Tは還元除染水溶液の温度、nは価数、及びFはファラデー定数である。
【0049】
なお、式(1)の右辺におけるlog内の[Fe3+]/[Fe2+]は、Fe2+に対するFe3+の濃度比(以下、Fe3+/Fe2+濃度比という)であり、log([Fe3+]/[Fe2+])は、その濃度比の対数である。その濃度比の対数であるlog([Fe3+]/[Fe2+])及びその濃度比は、値は異なるが、どちらも[Fe3+]/[Fe2+]によって定まる実質的に同じ概念である。
【0050】
還元除染水溶液である、例えば、シュウ酸水溶液を用いた、原子力プラントの化学除染対象物の表面に対する還元除染によって、化学除染対象物(原子力プラントの構成部材)の表面に形成された、鉄及び放射性核種を含む酸化皮膜が溶解される。この酸化皮膜の溶解により、Fe3+及び放射性核種のイオンがシュウ酸水溶液に溶出される。シュウ酸((COOH)2)及びFe3+を含むシュウ酸水溶液に、前述したように、紫外線を照射すると、下記の式(2)に示す反応が生じ、Fe3+がFe2+に変化する。さらに、シュウ酸水溶液に注入された酸化剤である過酸化水素は、2価のFeイオンと鋭敏に反応して以下の式(3)によりヒドロキシルラジカル(・OH)を生成する。
【0051】
Fe3+ + (COOH)2 →
Fe2+ + CO2 + H2O(紫外線照射環境) …(2)
Fe2++H2O2 → Fe3++OH-+・OH …(3)
式(3)の反応式から分かるように、シュウ酸水溶液内に2価のFeイオンが存在すると、この2価のFeイオンが還元除染水溶液内の過酸化水素と反応することにより、その過酸化水素が消費されるため、2価のFeイオンが多量に存在する還元除染水溶液内には、過酸化水素がほとんど存在しないと考えられる。このよう状態では、前述のFe3+/Fe2+濃度比が小さくなる。逆に、2価のFeイオンがほとんど存在しない状態では、過酸化水素が還元除染水溶液内に存在できるようになる。この場合には、Fe3+/Fe2+濃度比が大きくなる。
【0052】
このような思考を巡らせた発明者らは、シュウ酸水溶液におけるFe3+/Fe2+濃度比、シュウ酸水溶液の酸化還元電位、及びシュウ酸水溶液における過酸化水素の有無の関係を実験によって調べた。
【0053】
この実験では、原子力プラント、例えば、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)における還元除染の実施に用いられる還元除染水溶液と同様な条件である、90℃の水1000gにシュウ酸二水和物2.7g及びシュウ酸鉄(II)二水和物0.16gをそれぞれ添加して生成された模擬シュウ酸水溶液を用いた。この模擬シュウ酸水溶液は、容器、例えばビーカー内に充填される。シュウ酸鉄(II)二水和物は、模擬シュウ酸水溶液内のFe3+及びFe2+の生成源となる。模擬シュウ酸水溶液内でシュウ酸鉄(II)二水和物が溶解され、Fe3+及びFe2+が生成される。標準水素電極を用いた酸化還元電位計をその模擬シュウ酸水溶液に浸漬させて、模擬シュウ酸水溶液の酸化還元電位を測定した。ビーカー内から一部の模擬シュウ酸水溶液を採取し、採取した模擬シュウ酸水溶液をフィルターでろ過する。ろ過した模擬シュウ酸水溶液におけるFe2+及びFe3+のそれぞれの濃度を測定した。続いて、模擬シュウ酸水溶液の過酸化水素濃度が12ppmになるように、過酸化水素を模擬シュウ酸水溶液に注入する。過酸化水素を含む模擬シュウ酸水溶液の酸化還元電位の測定、過酸化水素を含む模擬シュウ酸水溶液のFe2+及びFe3+のそれぞれの濃度の測定、及びその模擬シュウ酸水溶液の過酸化水素濃度の分析を行った。その過酸化水素の注入、酸化還元電位の測定、及びFe2+濃度、Fe3+濃度及び過酸化水素濃度のそれぞれの測定を繰り返し行った。
【0054】
上記の実験によって得られた、酸化還元電位の測定値、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比のlog値(log([Fe
3+]/[Fe
2+])の値)、すなわち、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比の対数、及び過酸化水素の検出の有無に基づいて、
図6の特性図を作成した。
図6において、縦軸はFe
2+に対するFe
3+の濃度比の対数を、横軸は酸化還元電位を示している。横軸の酸化還元電位は、標準水素電極を用いた酸化還元電位計で測定した値である。過酸化水素の検出の有無については、
図6において、過酸化水素が検出される、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比(Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数の領域、過酸化水素が検出されない、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数の領域のそれぞれが示されている。
図6において、過酸化水素が検出される、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数の領域は、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」を超えている領域であり、過酸化水素が検出されないFe
3+/Fe
2+濃度比の対数の領域は、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」以下の領域である。
【0055】
過酸化水素が検出される、Fe3+/Fe2+濃度比の対数の領域は、式(1)の右辺におけるlog内の[Fe3+]/[Fe2+]、すなわち、Fe3+/Fe2+濃度比で表すと、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」を超えている領域となる。また、過酸化水素が検出されないFe3+/Fe2+濃度比の対数の領域は、Fe3+/Fe2+濃度比で表すと、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」以下の領域となる。
【0056】
図6に示された特性に基づいて、測定された、シュウ酸水溶液の酸化還元電位に基づいて求められたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」を超えている場合には、発明者らは、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が残留していると判定することができると考えた。なお、測定されたその酸化還元電位に基づいて求められたFe
3+/Fe
2+濃度比が「10」を超えている場合においても、発明者らは、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が残留していると判定することができると考えた。
【0057】
上記したように、紫外線照射後における還元除染水溶液の酸化還元電位を測定することによって、還元除染水溶液における過酸化水素の有無を判定することができるのである。この結果、酸化剤である過酸化水素が、紫外線が照射された還元除染水溶液に存在しないとき、すなわち、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」以下であるとき及びFe3+/Fe2+濃度比が「10」以下であるときのいずれかにおいて、その還元除染水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給することができる。そして、カチオン交換樹脂塔から排出された還元除染水溶液に過酸化水素を注入し、過酸化水素を含む還元除染水溶液を、内部に触媒が存在する触媒塔に供給することができる。
【0058】
この結果、測定された酸化還元電位に基づいて、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求め、求められたその濃度比の対数及び求められた濃度比のいずれかに基づいて、還元除染水溶液に紫外線を照射する紫外線照射装置よりも上流におけるその水溶液、及び紫外線照射装置内のその水溶液のうちの少なくとも一つの水溶液への酸化剤の供給量を調節することができる。測定された酸化還元電位に基づいて求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数及び求められた濃度比のいずれかに基づいて、還元除染水溶液への酸化剤の供給量を調節することは、測定された酸化還元電位に基づいて還元除染水溶液への酸化剤の供給量を調節することを意味する。
【0059】
測定された酸化還元電位に基づいて求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」を超えているときまたは求められたその濃度比が「10」を超えているときには、例えば、紫外線照射装置よりも上流において、還元除染水溶液に注入する酸化剤、例えば、過酸化水素の量を減少させることにより、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数を1以下にする、または求められたその濃度比を10以下にすることができ、紫外線照射装置から排出された還元除染水溶液の過酸化水素濃度を「0」にすることができる。このため、紫外線照射装置から排出された還元除染水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給することができる。
【0060】
紫外線が照射された、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」以下の還元除染水溶液、またはその濃度比の対数が「10」以下の還元除染水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給するため、カチオン交換樹脂塔内のカチオン交換樹脂の劣化を抑制することができる。また、カチオン交換樹脂塔から排出された、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」以下である還元除染水溶液及びその濃度比が「10」以下である還元除染水溶液のいずれかに、酸化剤(例えば、過酸化水素)を注入して、この還元除染水溶液を触媒塔に供給することにより、触媒塔に流入するFeイオンの量が減少するため、触媒塔内の触媒の活性低下を抑制しながら、触媒塔内で還元除染剤(例えば、シュウ酸)の分解を行うことができる。このような方法によって、還元除染剤は、還元除染水溶液への紫外線照射、及び触媒と酸化剤の作用により、分解されるので、還元除染剤の分解効率を向上させることができる。
【0061】
以上に、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいた、酸化剤(例えば、過酸化水素)が存在する領域、及び酸化剤が存在しない領域について説明した。しかしながら、
図6の特性図に示すように、酸化還元電位によっても、還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)における酸化剤の有無を特定することができる。酸化還元電位による、還元除染水溶液における酸化剤の有無の特定について、
図6を用いて説明する。
図6において、過酸化水素が検出される酸化還元電位の領域は、酸化還元電位が「400mV vs SHE」を超えている領域であり、過酸化水素が検出されない酸化還元電位の領域は、酸化還元電位が「400mV vs SHE」以下の領域である。
【0062】
酸化還元電位が酸化還元電位の設定値である「400mV vs SHE」を超えているときには、紫外線照射装置よりも上流における還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)及び紫外線照射装置内のシュウ酸水溶液の少なくとも一つのシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させることにより、そのシュウ酸水溶液の酸化還元電位を「400mV vs SHE」以下に減少させることができる。このため、紫外線照射装置から排出されたシュウ酸水溶液には過酸化水素が含まれていなく、このシュウ酸水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給することができる。
【0063】
後述の実施例におけるシュウ酸の分解工程を明確にするため、紫外線照射、カチオン交換樹脂塔及び触媒塔のそれぞれにおけるFeイオン、過酸化水素及びシュウ酸の反応について説明する。
【0064】
還元除染水溶液、例えば、シュウ酸水溶液内で、3価のFeイオンは、下記の式(4)で表されるシュウ酸との反応により、Fe(III)シュウ酸錯体(FeIII(C2O4)3
3-)を形成する。
【0065】
Fe3++3(COOH)2 → FeIII(C2O4)3
3-+6H+ …(4)
Fe(III)シュウ酸錯体(FeIII(C2O4)3
3-)は、紫外線照射により、Feイオンの価数が3価から2価に還元され、Fe(II)シュウ酸錯体(FeII(C2O4)2
2-)及びシュウ酸アニオンラジカル(・C2O4
-)を生成する(下記の式(5)の反応参照)。さらに、式(6)に示すように、このシュウ酸アニオンラジカルはFe(III)シュウ酸錯体と反応する。なお、この式(6)の反応は公知である。式(6)の反応により、シュウ酸アニオンラジカルの電子がFe(III)シュウ酸錯体のFe(III)に引き抜かれるため、シュウ酸イオン一分子が二酸化炭素に分解される。そして、電子を引き抜いたFe(III)がFe(II)に還元されるため、式(6)の右辺に示すように、Fe(III)シュウ酸錯体がFe(II)シュウ酸錯体となり、余分なシュウ酸一個が外れてシュウ酸イオン(C2O4
2-)が生成される。
【0066】
FeIII(C2O4)3
3- → FeII(C2O4)2
2-+・C2O4
-…(5)
・C2O4
-+FeIII(C2O4)3
3- →
2CO2+FeII(C2O4)2
2-+C2O4
2- …(6)
2価の鉄イオンとのシュウ酸錯体からは飽和溶解度分の2価のFeイオンがシュウ酸水溶液に供給され、これがシュウ酸水溶液に添加した過酸化水素と前述の式(2)で示したフェントン反応を起こす。
【0067】
式(2)に示された反応により生成されたヒドロキシルラジカル(・OH)がシュウ酸イオンと反応することにより、式(7)に示すように、シュウ酸アニオンラジカル(・C2O4
2-)が形成され、式(6)に示す反応によりシュウ酸が二酸化炭素に分解される。
【0068】
・OH+C2O4
2- → ・C2O4
2-+OH- …(7)
これらの反応を通して紫外線照射によりシュウ酸の分解が進み、過酸化水素が完全に消費されると2価の鉄イオンの形成が進むので、紫外線照射装置出口の酸化還元電位は+400mV以下となり、イオン交換樹脂に通水しても過酸化水素が無いので樹脂は劣化せず、式(8)に示す反応によって、2価のFeイオンがイオン交換によって陽イオン交換樹脂に吸着される。そして、代わりに、プロトンまたはヒドラジンが陽イオン交換樹脂から放出される。
【0069】
Fe2++(R-SO3
-H+)n →
(R-SO3
-H+)n-2(SO3
-)2Fe2++2H+ …(8)
このため、シュウ酸水溶液の鉄濃度が低下し、カチオン交換樹脂塔の下流に配置された触媒塔内の触媒表面における鉄酸化物の析出が抑制され、触媒の分解活性の低下が抑制される。触媒塔の直前でシュウ酸水溶液に注入された過酸化水素が、触媒塔内の触媒の作用で分解される。その際に、生成されたヒドロキシルラジカル(・OH)が、式(7)に示す反応により、シュウ酸アニオンラジカル(・C2O4
2-)を生成する。そして、式(6)に示す反応よって、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が二酸化炭素に分解される。
【0070】
以上に説明したように、シュウ酸水溶液への紫外線照射、及び触媒と酸化剤(例えば、過酸化水素)の作用によって、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸を分解できるので、そのシュウ酸の分解効率を向上できる。
【0071】
さらに、酸化還元電位の替りに、測定された、還元除染水溶液(シュウ酸水溶液)の腐食電位を測定し、この測定された腐食電位に基づいてシュウ酸水溶液への酸化剤の供給量を調節してもよい。
図7を用いて具体的に説明する。
【0072】
過酸化水素(酸化剤)が検出される、腐食電位に基づいて求められたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数の領域は、前述の
図6に示された酸化還元電位に基づいて求められた、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比(Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数と同様に、
図7に示すように、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」を超えている領域であり、過酸化水素が検出されないFe
3+/Fe
2+濃度比の対数の領域は、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」以下の領域である。紫外線照射装置において紫外線が照射されたシュウ酸水溶液の、測定された腐食電位に基づいて求められた、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比の対数が「1」を超えたとき、紫外線照射装置よりも上流におけるシュウ酸水溶液、及び紫外線取捨装置内のシュウ酸水溶液のうち、少なくとも一つのシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を、求められた、Fe
2+に対するFe
3+の濃度比の対数に基づいて調節する。
【0073】
なお、過酸化水素(酸化剤)が検出される、腐食電位に基づいて求められたFe3+/Fe2+濃度比の領域は、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」を超えている領域であり、過酸化水素が検出されないFe3+/Fe2+濃度比の領域は、Fe3+/Fe2+濃度比が「1」以下の領域である。
【0074】
以上のことから、測定された腐食電位に基づいて求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数、及びその濃度比のいずれかに基づいて、還元除染水溶液への酸化剤の供給量を調節することは、測定された腐食電位に基づいて還元除染水溶液への酸化剤の供給量を調節することを意味する。
【0075】
測定された腐食電位に基づいて求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」を超えているとき、または測定された腐食電位に基づいて求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比が「10」を超えているときには、例えば、紫外線照射装置よりも上流において、還元除染水溶液に注入する酸化剤、例えば、過酸化水素の量を減少させることにより、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数を1以下に、またはその濃度比を「10」以下にすることができる。これにより、紫外線照射装置から排出された還元除染水溶液の過酸化水素濃度を「0」にすることができ、紫外線照射装置から排出された還元除染水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給することができる。
【0076】
腐食電位に基づいて求められたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数及び濃度比のいずれかに基づいた、酸化剤(例えば、過酸化水素)が存在する領域、及び酸化剤が存在しない領域について説明した。しかしながら、
図7の特性図に示すように、腐食電位によっても、還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)における酸化剤の有無を特定することができる。腐食電位による、還元除染水溶液における酸化剤の有無の特定について、
図7を用いて説明する。
図7において、過酸化水素が検出される腐食電位の領域は、腐食電位が「400mV vs SHE」を超えている領域であり、過酸化水素が検出されない腐食電位の領域は、腐食電位が「400mV vs SHE」以下の領域である。
【0077】
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を、以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0078】
本発明の好適な一実施例である実施例1の化学除染方法を、
図1、
図2、
図3、
図4及び
図5を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)の再循環系配管に適用される。
【0079】
このBWRプラントの概略構成を、
図3を用いて説明する。原子力プラントであるBWRプラント1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉2は、蒸気発生装置であり、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)3を有し、RPV3内で炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内に複数のジェットポンプ5を設置している。炉心4には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。
【0080】
再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6、及び再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を有する。給水系は、復水器10とRPV3を連絡する給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15及び高圧給水加熱器16を、復水器10からRPV3に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管6と給水配管11を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ21、再生熱交換器22、非再生熱交換器23及び炉水浄化装置24をこの順に設置している。浄化系配管20は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器19内に設置される。
【0081】
RPV3内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴射される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引され、ジェットポンプ5内に噴射された前述の炉水と共に炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料集合体内の燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、その一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV3内に設置された気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)で水分が除去された後、主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
【0082】
タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。この給水は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16で抽気配管17によりタービン9から抽気された抽気蒸気によって加熱されてRPV3内に導かれる。高圧給水加熱器16及び低圧給水加熱器14に接続されドレン水回収配管18が、復水器10に接続される。
【0083】
再循環系配管6内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ21の駆動によって浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器22及び非再生熱交換器23で冷却された後、炉水浄化装置24で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器22で加熱されて浄化系配管20及び給水配管11を経てRPV3内に戻される。
【0084】
本実施例の化学除染方法では、化学除染装置28が用いられ、この化学除染装置28が、
図3に示すように、再循環系配管6に接続される。
【0085】
化学除染装置28の詳細な構成を、
図4を用いて説明する。本実施例で用いられる化学除染装置28は、循環配管29、循環ポンプ30及び38、加熱器31、カチオン交換樹脂塔34、混床樹脂塔35、水位調整タンク37、化学除染剤供給装置47、pH調整剤注入装置57、冷却器32、紫外線照射装置33、触媒塔36、酸化剤供給装置39、酸化還元電位計61、濃度比把握装置62、及び表示装置63を備える。
【0086】
開閉弁64、循環ポンプ30、弁65,加熱器31、弁66、流量調節弁67、紫外線照射装置33、流量調節弁68、カチオン交換樹脂塔34、流量調節弁70、触媒塔36、水位調整タンク37、循環ポンプ38及び開閉弁71が、上流よりこの順番で循環配管29に設けられている。紫外線照射装置33の紫外線源としては、例えば、低圧水銀ランプが用いられる。触媒塔36は、内部に、例えば、0.5%のルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁65、加熱器31及び弁66をバイパスする配管72の一端が、循環ポンプ30と弁65との間で循環配管29に接続される。配管72の他端が、弁66と流量調節弁67との間で循環配管29に接続される。弁73、冷却器32及び弁74が配管72に設置される。カチオン交換樹脂塔34をバイパスする配管69Aの一端が、配管78と循環配管29との接続点と流量調節弁68との間で循環配管29に接続される。配管69Aの他端が、配管80と循環配管29との接続点とカチオン交換樹脂塔34との間で循環配管29に接続される。流量調節弁69及び混床樹脂塔35が配管69Aに設置されている。カチオン交換樹脂塔34は陽イオン交換樹脂を充填している。この陽イオン交換樹脂はH型陽イオン交換樹脂である。混床樹脂塔35は陽イオン交換樹脂であるH型陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂であるOH型陰イオン交換樹脂を混合して充填している。
【0087】
酸化剤供給装置39は、
図5に示すように、薬液タンク40、供給ポンプ41及び44、及び供給配管42及び45を有する。供給配管42の一端が薬液タンク40に接続され、供給配管42の他端が流量調節弁67と紫外線照射装置33との間で循環配管29に接続される。供給ポンプ41及び弁43が供給配管42に設置される。供給配管45の一端が薬液タンク40に接続され、供給配管45の他端が流量調節弁70と触媒塔36との間で循環配管29に接続される。供給配管45の他端は、流量調節弁70と触媒塔36との間で循環配管29に接続されるのではなく、紫外線照射装置33に、直接、接続されてもよい。薬液タンク40には、酸化剤である過酸化水素が充填される。酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。供給ポンプ44及び弁46が供給配管42に設置される。酸化還元電位計61が、配管78と循環配管29との接続点と紫外線照射装置33との間で循環配管29に接続される。
【0088】
流量調節弁67、紫外線照射装置33、流量調節弁68、カチオン交換樹脂塔34、流量調節弁70及び触媒塔36をバイパスする配管75の一端が、配管72の、弁74側の一端と循環配管29との接続点と、流量調節弁67との間で循環配管29に接続される。配管75の他端が、循環配管29と供給配管55との接続点と、触媒塔36との間で循環配管29に接続される。流量調節弁76,77A及び77が、上流よりこの順番で配管75に設置される。配管78の一端が流量調節弁76と流量調節弁77Aとの間で配管75に接続される。配管78の他端が紫外線照射装置33と流量調節弁68との間で循環配管29に接続される。その配管78の他端が流量調節弁76と流量調節弁77Aとの間で配管75に接続される。流量調節弁81を有する配管80の一端がカチオン交換樹脂塔34と流量調節弁70との間で循環配管29に接続される。その配管80の他端が流量調節弁77Aと流量調節弁77との間で配管75に接続される。
【0089】
化学除染剤供給装置47が、酸化除染剤タンク48、酸化除染剤供給配管49、還元除染剤タンク51、還元除染剤供給配管52、タンク54及び供給配管55を有する。酸化除染剤タンク48に接続された酸化除染剤供給配管49が、タンク54に接続される。弁50が酸化除染剤供給配管49に設けられる。還元除染剤タンク51に接続された還元除染剤供給配管52が、タンク54に接続される。弁53が還元除染剤供給配管52に設けられる。弁56を有してタンク54に接続された供給配管55が、触媒塔36と水位調整タンク37との間で循環配管29に接続される。
【0090】
酸化除染剤としては、過マンガン酸または過マンガン酸カリウムが用いられる。還元除染剤としては、シュウ酸、マロン酸、ギ酸、アスコルビン酸のうちの少なくとも一種が用いられる。酸化除染剤タンク48には、酸化除染剤である、例えば、過マンガン酸カリウムの水溶液が充填される。還元除染剤タンク51には、還元除染剤である、例えば、シュウ酸の水溶液が充填される。
【0091】
pH調整剤注入装置57が、薬液タンク58及び注入配管59を有する。薬液タンク58は、弁60を有する注入配管59によって、供給配管55と循環配管29との接続点と水位調整タンク37との間で循環配管29に接続される。pH調整剤であるヒドラジンの水溶液が、薬液タンク58内に充填される。
【0092】
pH計95が、水位調整タンク37と循環ポンプ38との間で循環配管29に設置されている。
【0093】
弁83を有する採水管82が、弁66と流量調節弁67との間で循環配管29に接続される。弁85を有する採水管84が、酸化還元電位計61の循環配管29への設置位置と紫外線照射装置33との間で循環配管29に接続される。弁87を有する採水管86が、循環配管29と配管80との接続点とカチオン交換樹脂塔34との間で循環配管29に接続される。弁89を有する採水管88が、循環配管29と配管75との接続点と触媒塔36との間で循環配管29に接続される。
【0094】
化学除染装置28の操作を行う操作盤(図示せず)が設けられる。この操作盤には、化学除染装置28に設けられた全ての弁及び全てのポンプを個々に操作するレバーまたはボタンが操作盤に設けられる。また、表示装置63は操作盤に設置される。
【0095】
BWRプラント1の運転は、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、炉心4に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了した後、BWRプラント1が、次の運転サイクルでの運転のために再起動される。燃料交換のためにBWRプラント1が停止されている期間を利用して、BWRプラント1の保守点検が行われる。
【0096】
上記のようにBWRプラント1の運転が停止されている期間中において、BWRプラント1におけるステンレス鋼部材の一つである、RPV3に連絡されるステンレス鋼製の配管系、例えば、再循環系配管6を対象にした、本実施例の化学除染方法が実施される。この化学方法では、鉄酸化物、クロム酸化物及び放射性核種を含む酸化皮膜が内面に形成された再循環系配管6に対して、酸化除染及び還元除染が実施される。
【0097】
BWRプラント1における再循環系配管6を対象にした、本実施例の化学除染方法を、
図1及び
図2に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の化学除染方法では、化学除染装置28が用いられ、
図1に示されるステップS1~S7及びS21~S23の各工程が実施される。ステップS7の工程は、
図2に示されるステップS8~S10及びS16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10の工程は、
図2に示すように、ステップS11~S15,S18及びS19の各工程を含んでいる。
【0098】
まず、化学除染方法が実施される配管系に、化学除染装置を接続する(ステップS1)。BWRプラント1の運転が停止された後のBWRプラント1の運転停止期間内で、仮設設備である化学除染装置28の循環配管29の両端が、ステンレス鋼製の再循環系配管(原子力プラントの構成部材)6に接続される。再循環系配管6はBWRプラントの構成部材である。その循環配管29の再循環系配管6への接続作業を具体的に説明する。BWRプラント1運転停止後に、例えば、再循環系配管6に接続された浄化系配管20に設置された弁25のボンネットを開放してこのボンネットの浄化系ポンプ21側を封鎖する。化学除染装置28の循環配管29の一端部、すなわち、循環配管29の、開閉弁71側の端部を弁25のフランジに接続する。これにより、循環配管29の一端部が再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続される。さらに、再循環ポンプ7の下流側で再循環系配管6に接続された、ドレン配管または計装配管などの枝管26に設けられた弁27のボンネットを開放してこのボンネットの、再循環系配管6とは反対側を封鎖する。循環配管29の他端部、すなわち、循環配管29の、開閉弁64側の端部を弁27のフランジに接続する。これにより、循環配管29の他端部が再循環ポンプ7の下流で再循環系配管6に接続される。
【0099】
このように、循環配管29の両端部を再循環系配管6に接続することによって、再循環系配管6及び循環配管29を含む閉ループが形成される。再循環系配管6の両端部におけるRPV3の各開口部は、化学除染水溶液がRPV12内に流入しないように、プラグ(図示せず)でそれぞれ封鎖される。
【0100】
化学除染対象物の配管系及び化学除染装置に水張し、水張り後に水を昇温する(ステップS2)。再循環系配管6、及び化学除染装置28の循環配管29内に水張りする。この水張りは、例えば、原子炉補機冷却水系(図示せず)を用いて行う。開閉弁64,弁65及び66,流量調節弁67,68及び70及び開閉弁71をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、原子炉補機冷却水系から、循環配管29及び再循環系配管6内に冷却水が供給され、それらの配管内が水で満たされる。そして、循環ポンプ30及び38が駆動され、その水が、循環配管29及び再循環系配管6を含む閉ループ内で循環される。この閉ループ内を循環する水は、加熱器31により90℃に加熱される。
【0101】
化学除染装置28に設けられた全ての弁及び全てのポンプの個々に制御指令を出力する、操作盤に設けられたレバーまたはボタンを、オペレータが手動により操作する。該当するレバーまたはボタンが操作されることによって、操作盤から前述の制御指令が出力され、この制御指令により該当する弁が開閉され、ポンプの駆動または停止が行われる。例えば、前述の流量調節弁67を開くときには、オペレータが、手動で、流量調節弁67に対応して操作盤に設けられたレバーを「開」の方向に回すことにより、操作盤から流量調節弁67を開く制御指令が出力される。この制御指令に基づいて、流量調節弁67が開く。例えば、循環ポンプ30の「駆動」及び「停止」も、オペレータによるボタン操作によって、操作盤から出力される制御指令に基づいて行われる。本出願の明細書においては、オペレータによるレバーまたはボタンの手動操作、及び操作盤からの制御指令の出力の説明を省略して、単に、操作対象機器の名称及び操作対象機器の動作、例えば、「弁を開く」、「弁を閉じる」、「ポンプを駆動する」及び「ポンプを停止する」を記述する。
【0102】
酸化除染を実施する(ステップS3)。運転を経験したBWRプラント1は、RPV3内の炉水と接触する、再循環系配管6の内面に、鉄酸化物、クロム酸化物及び放射性核種を含んでいる酸化皮膜を形成している。この酸化皮膜を溶解する化学除染が実施される。この化学除染は、酸化除染及び還元除染を含む。
【0103】
まず、酸化除染について説明する。弁50を開くことによって、酸化除染剤タンク48内の過マンガン酸カリウムの水溶液(酸化除染剤水溶液)が、酸化除染剤供給配管49を通してタンク54内に供給される。このとき、弁53は閉じている。再循環系配管6及び循環配管29を含む閉ループ内を流れる酸化除染剤水溶液(過マンガン酸カリウム水溶液)の酸化除染剤(過マンガン酸カリウム)濃度CSMn(単位:ppm)が200~500ppmとなるように、化学除染剤供給装置47のタンク54に酸化除染剤水溶液を充填する。タンク54内の酸化除染剤水溶液の量をVOMn(単位:L)とすると、タンク54内の酸化除染剤濃度COMn(単位:ppm)は式(9)によって求められる。
【0104】
COMn=CSMn×VS÷VOMn … (9)
流量調節弁67,79及び81を閉じて流量調節弁76,77A及び77を開いた状態で、弁56を開くことにより、タンク54に過マンガン酸カリウム水溶液を、供給配管55を通して循環配管29内の水に注入する。過マンガン酸カリウム水溶液の循環配管29への供給量は、弁56の開度を調節することにより制御される。タンク54からの過マンガン酸カリウム水溶液の注入により、循環配管29及び再循環系配管6内を流れる過マンガン酸カリウム水溶液の過マンガン酸カリウム濃度は、200~500ppmの範囲内で、例えば、300ppmとなる。
【0105】
90℃で過マンガン酸カリウム濃度が300ppmである過マンガン酸カリウム水溶液が、循環配管29から再循環系配管6に供給される。過マンガン酸カリウム水溶液は、再循環系配管6内で、再循環系配管6の内面に形成された、鉄酸化物、クロム酸化物及び放射性核種を含む酸化皮膜と接触し、酸化除染を実施する。この酸化除染によって、酸化皮膜に含まれたクロム酸化物が過マンガン酸カリウム水溶液に溶出する。pH計95は、再循環系配管6から循環配管29に戻った過マンガン酸カリウム水溶液のpHを測定する。このようなpH計95は、再循環系配管6から循環配管29に戻された過マンガン酸カリウム水溶液のpHを監視するために用いられる。過マンガン酸カリウム水溶液は、循環配管29及び再循環系配管6を含む閉ループ内を循環し、再循環系配管6の酸化除染を実施する。再循環系配管6に対する酸化除染時間が所定時間を経過したとき、その酸化除染が終了する。具体的には、酸化除染に必要な量の過マンガン酸カリウム水溶液が循環配管29に供給されてから2時間~6時間が経過したとき、その酸化除染が終了する。
【0106】
酸化除染液に含まれる酸化除染剤を分解する(ステップS4)。酸化除染が終了したとき、弁53を開いて還元除染剤タンク51内の還元除染剤水溶液であるシュウ酸水溶液が、還元除染剤供給配管52を通してタンク54に供給される。このとき、弁50は閉じている。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸は、ステップS4の工程では、酸化除染剤である過マンガン酸カリウムの分解剤として機能する。前述の閉ループ内に存在する過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムを分解するために必要な量のシュウ酸が循環配管29に供給されるように、弁56を開くことによって、タンク54内のシュウ酸水溶液が供給配管55を通して循環配管29に供給される。シュウ酸水溶液の循環配管29への供給量は、弁56の開度を調節することにより制御される。
【0107】
過マンガン酸カリウム濃度をCOMn(単位:ppm)及びタンク54に充填するシュウ酸溶液の容量をVROA2(単位:L)とすると、過マンガン酸カリウムを分解して水酸化マンガンを生成するために必要なシュウ酸濃度CROA2(単位:ppm)は、下記の式(10)によって求められる。
【0108】
CROA2=(5/2)×(90/158)×COMn×VS÷VROA2…(10)
タンク54内に存在する過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムは、還元除染剤タンク51からタンク54に供給されたシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸によって分解される。さらに、循環配管29及び再循環系配管6内のそれぞれに存在する過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムが、循環配管29に注入されたそのシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸によって分解される。供給配管55から循環配管29へのシュウ酸水溶液の供給は、前述の閉ループ内に存在する過マンガン酸カリウム水溶液と均等に混ざるように、過マンガン酸カリウム水溶液を閉ループ内に流しながら行われる。
【0109】
酸化除染水溶液である過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムは、注入されたシュウ酸(分解剤)と下記の式(11)示すように反応して分解され、水酸化マンガン(2Mn(OH)2)を生成する。
【0110】
2KMnO4+5(COOH)2
= 2Mn(OH)2+2KOH+5CO2+2H2O…(11)
過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムが分解されると、再循環系配管6から循環配管29に戻された過マンガン酸カリウム水溶液が紫色から無色透明になる。過マンガン酸カリウム水溶液が無色透明になったことを確認し、酸化除染剤の分解工程を終了する。過マンガン酸カリウム水溶液が無色透明になったことは、例えば、弁83を開いて採水管82により、循環配管29からサンプリングした水溶液の色を見ることによって確認することができる。過マンガン酸カリウムの分解が終了した後、前述の閉ループには、シュウ酸濃度が低いシュウ酸水溶液が循環する。
【0111】
過マンガン酸カリウム水溶液の替りに過マンガン酸水溶液を用いて再循環系配管6の内面に対する酸化除染を行ってもよい。その酸化除染を実施するとき、過マンガン酸水溶液は、酸化除染剤タンク48からタンク54を経て循環配管29に注入される。注入された過マンガン酸水溶液が、循環配管29から再循環系配管6に供給され、再循環系配管6の内面の酸化除染を実施する。過マンガン酸水溶液による酸化除染が終了した後、過マンガン酸水溶液に含まれる過マンガン酸を分解するために、還元除染剤タンク51内のシュウ酸水溶液が、タンク54を経て循環配管29に注入される。
【0112】
過マンガン酸濃度COMn2(単位:ppm)及びタンク54に充填するシュウ酸溶液の容量をVROA2(単位:L)とすると、過マンガン酸使用液に含まれる過マンガン酸を分解して水酸化マンガンを生成するために必要なシュウ酸濃度CROA2(単位:ppm)は、下記の式(12)によって求められる。
【0113】
CROA2=(5/2)×(90/120)×COMn2×VS÷VROA2 …(12)
酸化除染水溶液である過マンガン酸水溶液に含まれる過マンガン酸は、注入されたシュウ酸(分解剤)と下記の式(13)示すように反応して分解され、水酸化マンガン(2Mn(OH)2)を生成する。
【0114】
2HMnO4+5(COOH)2
= 2Mn(OH)2+5CO2+4H2O …(13)
過マンガン酸水溶液に含まれる過マンガン酸が分解されると、再循環系配管6から循環配管29に戻された過マンガン酸水溶液が紫色から薄茶色になる。過マンガン酸水溶液が薄茶色になったことを確認し、酸化除染剤、すなわち、過マンガン酸の分解工程を終了する。
【0115】
還元除染及び紫外線照射を実施する(ステップS5)。流量調節弁79及び70を閉じて流量調節弁68,81,77及び77Aを開く。弁53を開くことにより、還元除染剤タンク51内の還元除染剤水溶液であるシュウ酸水溶液が、還元除染剤供給配管52を通してタンク54に供給される。このとき、弁50は閉じている。タンク54内のシュウ酸水溶液が、弁56の開度の調節により、供給量が制御されて供給配管55を通して循環配管29に供給される。還元除染のためのシュウ酸水溶液の循環配管29への供給は、過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムの分解が終了した後に行われる。
【0116】
タンク54内のシュウ酸水溶液のシュウ酸濃CSOA(単位:ppm)が2000~3000ppmとなるように、シュウ酸水溶液がタンク54内に充填される。なお、タンク54内に充填されるシュウ酸水溶液の量をVROA(単位:L)とすると、タンク54内のシュウ酸案水溶液のシュウ酸濃度CROA(単位:mg/L)は、下記の以下の式(14)で求められる。
【0117】
CROA=CSOA×VS÷VROA …(14)
生成されたシュウ酸水溶液のpH調整のために、弁60を開いて、pH調整剤注入装置57の薬液タンク58内のpH調整剤であるヒドラジンの水溶液が、注入配管59を通して循環配管29内のシュウ酸水溶液に注入される。循環配管29内を流れるシュウ酸水溶液のpHがpH計95で計測される。この測定されたpH値に基づいて弁60の開度を制御し、循環配管29へのヒドラジン水溶液の注入量を調節する。このヒドラジン水溶液の注入量の調節により、シュウ酸水溶液のpHが2.5に調節される。
【0118】
pHが2.5で90℃のヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が、循環配管29から再循環系配管6に供給され、再循環系配管6の内面に形成されて酸化除染によりクロム酸化物が溶出された酸化皮膜の表面と接触する。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸によって、再循環系配管6の内面の還元除染が実施され、その酸化皮膜が溶解される。酸化皮膜に含まれる鉄及び放射性核種は、シュウ酸水溶液中に溶出される。再循環系配管6からシュウ酸水溶液に溶出した鉄イオンはFe3+である。このような再循環系配管6に対する還元除染は、シュウ酸水溶液を循環配管29及び再循環系配管6を含む閉ループ内で循環させながら実施される。
【0119】
再循環系配管6から循環配管29に戻されたシュウ酸水溶液は、Fe3+及び放射性核種を含んでいる。流量調節弁67及び76のそれぞれ開度を調整し、紫外線照射装置33に供給されるシュウ酸水溶液(ヒドラジンを含む)の流量を調節する。流量調節弁79及び70が閉じられて流量調節弁68,81及び77が開いているため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、カチオン交換樹脂塔34に供給され、配管80及び75内を流れ、流量調節弁77の下流で循環配管29に戻される。紫外線照射装置33及びカチオン交換樹脂塔34に供給されるシュウ酸水溶液の流量は、1時間当たり、カチオン交換樹脂塔34に充填された陽イオン交換樹脂の容量の30~60倍の容量が望ましい。
【0120】
シュウ酸水溶液が紫外線照射装置33に供給されている間、紫外線照射装置33によって紫外線がシュウ酸水溶液に照射される。シュウ酸水溶液に含まれているFe3+は、紫外線の照射によってFe2+に還元され、シュウ酸水溶液に含まれているシュウ酸が分解される(前述の式(2)参照)。ステップS5の工程(還元除染)では、後述の還元除染剤の分解工程(ステップS7)におけるように、例えば、紫外線を照射する前において、循環配管29内のシュウ酸水溶液に、供給配管42より酸化剤である過酸化水素が供給されない。このため、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計61で測定された酸化還元電位に基づいて、濃度比把握装置62で求められた、Fe3+/Fe2+濃度比の対数は、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液が過酸化水素(酸化剤)を含んでいないため、「1」以下である。
【0121】
濃度比把握装置62は、その濃度比の対数の替りに、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液の、測定された酸化還元電位に基づいて、Fe3+/Fe2+濃度比を求めることもできる。紫外線が照射されたシュウ酸水溶液が過酸化水素を含んでいないときには、Fe3+/Fe2+濃度比は「10」以下になる。
【0122】
紫外線照射装置33から排出された、Fe2+を含むシュウ酸水溶液は、過酸化水素を含んでいないため、カチオン交換樹脂塔34に供給される。このFe2+は、カチオン交換樹脂塔34内で陽イオン交換樹脂に吸着され、シュウ酸水溶液から除去される。シュウ酸水溶液に含まれるFe3+は、マイナスイオンであるシュウ酸鉄(III)錯体としてシュウ酸水溶液中に存在するため、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂に吸着されない。紫外線照射によってFe3+がFe2+に還元され、Fe2+がその陽イオン交換樹脂に吸着されて除去されるため、カチオン交換樹脂塔34から排出されたシュウ酸水溶液の鉄イオン濃度を低減することができる。このため、シュウ酸水溶液による再循環系配管6の内面に対する還元除染が促進される。
【0123】
シュウ酸水溶液への紫外線照射によってシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が分解され、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が低下する。このシュウ酸濃度の低下を補償するため、シュウ酸水溶液がタンク54から循環配管29に供給される。紫外線照射によるシュウ酸濃度の低下は、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液を、弁85を開いて採水管84を通してサンプリングし、サンプリングされたシュウ酸水溶液の分析によって知ることができる。シュウ酸水溶液のサンプリング後、弁85を閉じる。還元除染は、循環配管29及び再循環系配管6を含む閉ループ内でシュウ酸水溶液を循環させながら実施される。
【0124】
還元除染の終了を判定する(ステップS6)。還元除染を実施した配管系、具体的には、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したとき、または、還元除染の開始からの経過時間が所定時間に達したときに、還元除染工程を終了してもよい。さらに、放射性核種の金属陽イオンを吸着するカチオン交換樹脂塔34から放出される放射線を放射線検出器で測定し、この放射線検出器から出力された出力信号に基づいて求められた線量率に基づいて、還元除染工程の終了を判定してもよい。
【0125】
例えば、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したとき、ステップS6の判定が「YES」となり、再循環系配管6に対する還元除染が終了する。再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下していない場合には、ステップS6の判定が「NO」となり、ステップS6の判定が「YES」になるまで、ステップS6の工程が継続して実施される。ステップS6の判定が「YES」になったときには、還元除染剤の分解工程(ステップS7)が実施される。
【0126】
還元除染剤の分解工程(ステップS7)は、紫外線の照射工程(ステップS8)、酸化剤の供給工程(ステップS9)、酸化剤の供給量制御工程(ステップS10)、還元除染水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給工程(ステップS16)及び触媒及び酸化剤による還元除染剤の分解工程(ステップS17)を含んでいる。還元除染剤の分解工程(ステップS7)の詳細を以下に説明する。
【0127】
還元除染水溶液に紫外線を照射する(ステップS8)。ステップS5の工程と同様に、紫外線照射装置33に流入した、Fe3+及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液に紫外線を照射する。この紫外線照射によって、式(2)に示されるように、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸の一部が二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)に分解される。
【0128】
循環配管29と供給配管42の接続点よりも上流で、循環配管29に接続された採水管82に設けられた弁85を開いて、採水管82によりは紫外線が照射される前のシュウ酸水溶液をサンプリングする。サンプリングしたシュウ酸水溶液を分析し、シュウ酸水溶液の金属イオン濃度、放射能濃度及びシュウ酸濃度を求める。
【0129】
酸化剤を還元除染剤水溶液に供給する(ステップS9)。流量調節弁68及び81が閉じられて流量調節弁79,77A及び77が開いている。酸化剤、例えば、過酸化水素が酸化剤供給装置39から流量調節弁67と紫外線照射装置33の間で循環配管29に供給される。この過酸化水素の供給を具体的に説明する。弁43を開いて供給ポンプ41を駆動する。このとき、弁46が閉じている。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管42を通して、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。薬液タンク40内の過酸化水素は、供給配管42を通して、紫外線照射装置33内に供給してもよい。
【0130】
流量調節弁67よりも上流における循環配管29内に存在するシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度をCSOA(単位:ppm)とすると、当量の過酸化水素濃度CSHP(単位:ppm)は下記の式(15)で表される。
【0131】
CSHP = CSOA×(34/90) …(15)
シュウ酸水溶液の過酸化水素濃度が、例えば、0.05%の濃度となるように、紫外線照射装置33へのシュウ酸水溶液の流入流速を考慮して、酸化剤供給装置39から過酸化水素を供給する。酸化剤供給装置39の薬液タンク40には、過酸化水素の30%原液を充填する。弁43を開いて供給ポンプ41により過酸化水素の流量を調節し、薬液タンク40から循環配管29に過酸化水素を供給する。紫外線照射装置33へのシュウ酸水溶液の流入速度をFUV(単位:L/h)とすると、循環配管29への過酸化水素の供給速度FHPUV(単位:L/h)は下記の式(16)で表される。
【0132】
FHPUV = 0.05×CSHP×10-6×FUV÷0.3 …(16)
過酸化水素が供給された、少なくとも紫外線照射装置33内では、前述の式(2)の反応が生じる。すなわち、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+は紫外線の照射によりFe2+に還元される。さらに、シュウ酸水溶液に過酸化水素を供給することによって、前述の式(3)に示す反応によって、・OH及びOH-が生成され、紫外線の照射により生成されたFe2+の一部がFe3+になる。そして、前述の式(3)に示すように、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸と・OHが下記の式(17)で示されるように反応し、シュウ酸が水とに二酸化炭素に分解される。
【0133】
・OH+(COOH)2 → H2O+CO2 …(17)
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、配管78及び75を通って流量調節弁77の下流で循環配管29に戻され、再循環系配管6に供給される。流量調節弁68が閉じられているため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液はカチオン交換樹脂塔34に供給されない。
【0134】
弁85を開いて採水管84によりは紫外線を照射されたシュウ酸水溶液をサンプリングする。サンプリングしたシュウ酸水溶液を分析し、シュウ酸水溶液のFe2+及びFe3+それぞれの濃度及びシュウ酸濃度を求める。
【0135】
酸化剤の供給量を制御する(ステップS10)。この酸化剤の供給量制御は、
図2に示すように、酸化還元電位を測定するステップS11、Fe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比(Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数及びその濃度比のいずれかを求めるステップS12、酸化剤が含まれているかを判定するステップS13、カチオン交換樹脂塔をバイパスするステップS14、酸化剤の供給量を減少させるステップS15、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数が第1設定値未満である、及びその濃度比が第2設定値未満である、のいずれであるかを判定するステップS18、及び酸化剤の供給量を増加させるステップS19の各工程を含む。これらの各工程を以下に具体的に説明する。
【0136】
酸化還元電位を測定する(ステップ11)。紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液の酸化還元電位が酸化還元電位計61によって測定される。
【0137】
Fe
2+の濃度に対するFe
3+の濃度の比(Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数及びその濃度比のいずれかを求める(ステップS12)。酸化還元電位計61で測定された酸化還元電位が濃度比把握装置62に入力される。濃度比把握装置62は、入力した酸化還元電位に対応する、シュウ酸水溶液に含まれるFe
2+に対するシュウ酸水溶液に含まれるFe
3+の濃度比(Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数を
図6に示される特性に基づいて求める。
図6に示された特性のデータは濃度比把握装置62の記憶装置(図示せず)に記憶されている。また、濃度比把握装置62において、入力した酸化還元電位を式(1)のEに代入することによってFe
3+/Fe
2+濃度比の対数を求めてもよい。なお、標準電極電位E
0は、酸化還元電位計61の電極の材質に応じて定まっており、濃度比把握装置62のその記憶装置に記憶されている。例えば、式(1)の場合には、標準電極電位E
0は、Fe
2+とFe
3+の酸化還元反応の標準電極電位である。
【0138】
濃度比把握装置62では、酸化還元電位計61によって測定された、シュウ酸水溶液の酸化還元電位に基づいて、Fe3+/Fe2+濃度比を求めてもよい。式(1)のEに、測定された酸化還元電位を代入することにより、[Fe3+]/[Fe2+]、すなわち、Fe3+/Fe2+濃度比を求めることができる。
【0139】
濃度比把握装置62で求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかは、表示装置63に出力されて表示される。さらに、求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数は、濃度比把握装置62の記憶装置に記憶される。
【0140】
酸化剤が還元除染水溶液に含まれているかを判定する(ステップS13)。オペレータは、表示装置63に表示された、濃度比把握装置62で求められたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数に基づいて、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液(紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液)に酸化剤である過酸化水素が含まれているかを判定する。ステップS9において酸化剤供給装置39の薬液タンク40からシュウ酸水溶液に供給される過酸化水素の量が過剰であるとき、紫外線照射装置33から排出されるシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれている。前述したように、Fe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」よりも大きいときには、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれている(
図6参照)。濃度比把握装置62で求められたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」を超えたとき、例えば、その濃度比が「1.3」であるとき、ステップS13における判定は「YES」となる。
【0141】
Fe3+/Fe2+濃度比の対数の替りにFe3+/Fe2+濃度比を用いても、ステップS13の判定を実施することができる。Fe3+/Fe2+濃度比を用いた場合には、その濃度比が「10」よりも大きいとき、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれている。濃度比把握装置62で求められたFe3+/Fe2+濃度比が「10」を超えたとき、例えば、その濃度比が「13」であるとき、ステップS13における判定は「YES」となる。
【0142】
ステップS13の工程は、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」を超えているか否かの判定、及びFe3+/Fe2+濃度比が「10」を超えているか否かの判定のいずれかの判定を行う工程である。
【0143】
還元除染水溶液がカチオン交換樹脂塔をバイパスするように流動させる(ステップS14)。ステップS13での判定が「YES」になったとき、流量調節弁68及び81を閉じて流量調節弁79,77A及び77を開ける。もし、ステップS14の工程を実施するとき、既に、ステップS9の工程において述べた流量調節弁68及び81のそれぞれが「閉」、及び流量調節弁79,77A及び77のそれぞれが「開」の状態になっている場合には、これらの流量調節弁の開閉状態が維持される。
【0144】
流量調節弁68及び81のそれぞれが「閉」になっているため、紫外線照射装置33から流出したシュウ酸水溶液は、カチオン交換樹脂塔34には供給されず、配管78及び75を流れて流量調節弁77よりも下流で循環配管29へと導かれる。このため、過酸化水素が存在するシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される。
【0145】
還元除染水溶液への酸化剤の供給量を減少させる(ステップS15)。ステップS13の判定が「YES」であるため、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」になるように、供給ポンプ41の回転速度を減少させ、薬液タンク40から、流量調節弁67と紫外線照射装置33との間の循環配管29を流れているシュウ酸水溶液、及び紫外線照射装置33内のシュウ酸水溶液のうちの、少なくとも1つのシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる。過酸化水素の供給量の減少は、弁43の開度の減少によっても行うこともできる。ステップS13の判定が「NO」になるまで、ステップS14、S15,S11,S12及びS13の各工程が繰り返される。このような該当する工程の繰り返しにより、やがて、酸化還元電位計61の出力を入力する濃度比把握装置62で求められるFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」となり、過酸化水素が、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に含まれなくなる。この結果、供給ポンプ41の回転速度の低減が停止され、上記したシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量の減少も停止される。さらに、濃度比把握装置62から出力されるFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」であるとき、過酸化水素が供給配管42により供給されたシュウ酸水溶液内でのシュウ酸の分解効率は最も高くなる。なお、紫外線照射装置33から過酸化水素が流出しないため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液をカチオン交換樹脂塔34に供給する場合であっても、カチオン交換樹脂塔34への過酸化水素の流入はなく、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂の過酸化水素による劣化も生じない。
【0146】
ステップS13の判定が「YES」であるときには、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」になるように、Fe3+/Fe2+濃度比の対数の場合と同様に、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる。ステップS13の判定が「NO」になるまで、ステップS14、S15,S11,S12及びS13の各工程の繰り返しにより、やがて、濃度比把握装置62で求められるFe3+/Fe2+濃度比が「10」となり、過酸化水素が、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に含まれなくなる。この結果、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量の減少が停止される。さらに、求められたFe3+/Fe2+濃度比が「10」であるとき、過酸化水素が供給されたシュウ酸水溶液内でのシュウ酸の分解効率は最も高くなる。紫外線照射装置33から過酸化水素が流出しないため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液が供給されるカチオン交換樹脂塔34への過酸化水素の流入はなく、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂の過酸化水素による劣化も生じない。
【0147】
ステップS15の工程では、ステップS13の判定が「YES」になったときに、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液のFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」に低下する、及びそのシュウ酸水溶液のFe3+/Fe2+濃度比が「10」に低下する、のいずれかの状態が実現するまで、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される。
【0148】
ステップS13の判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18の各工程が実施される。まず、ステップS18及びS19の各工程について説明する。
【0149】
Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値未満である、及びFe3+/Fe2+濃度比が第2設定値未満である、のいずれであるかの判定が行われる(ステップS18)。第1設定値は、Fe3+/Fe2+濃度比の対数を用いて酸化剤の供給量の増加が必要であるかを判定するために用いられる設定値である。第2設定値は、Fe3+/Fe2+濃度比を用いて酸化剤の供給量の増加が必要であるかを判定するために用いられる設定値である。
【0150】
ステップS13の判定が「NO」であって、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が、紫外線照射装置33からの酸化剤の流出が生じない第1設定値である「1」になっているときには、ステップS18の判定が「NO」になる。また、ステップS13の判定が「NO」であって、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が、紫外線照射装置33からの酸化剤の流出が生じない第1設定値である「1」になっているときには、ステップS18の判定が「NO」になる。ステップS18の判定が「NO」であるとき、ステップS16が実施される。
【0151】
もし、ステップS18の判定が「YES」である場合には、ステップS19の工程が実施される。
【0152】
酸化剤の供給量を増加する(ステップS19)。濃度比把握装置62から表示装置63に出力されて表示されたFe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「1」よりも小さいとき、例えば、「0.9」であるとき、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「1」になるように、操作盤からの制御指令に基づいて弁43の開度を増加させ、薬液タンク40から、流量調節弁67と紫外線照射装置33との間の循環配管29を流れているシュウ酸水溶液、及び紫外線照射装置33内のシュウ酸水溶液のうちの、少なくとも1つのシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を増加させる。
【0153】
または、表示装置63に表示されたFe3+/Fe2+濃度比が第2設定値である「10」よりも小さいとき、例えば、「9」であるとき、Fe3+/Fe2+濃度比が第2設定値である「10」になるように、操作盤からの制御指令に基づいて、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」よりも小さいと同様に、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を増加させる。
【0154】
ステップS19の工程は、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値よりも小さい場合においてその対数が第1設定値になる、及びFe3+/Fe2+濃度比が第2設定値よりも小さい場合においてその濃度比が第2設定値になる、のいずれかが実現されるように、操作盤からの制御指令に基づいてシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を増加させる工程である。
【0155】
ステップS18の判定が「NO」になるまで、ステップS19,S11,S12,S13及びS18の各工程が繰り返される。やがて、酸化還元電位計61の出力を入力する濃度比把握装置62から出力されるFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」になったとき、または、濃度比把握装置62から出力されるFe3+/Fe2+濃度比が「10」になったときに、ステップS18の判定が「NO」になる。そして、ステップS16の工程が実施される。ステップS18の判定が「NO」になったときには、弁43の開度増加が停止され、上記の循環配管29への過酸化水素の供給量の増加も停止される。
【0156】
ステップS13の判定が「YES」になったときに、ステップS15の工程で実施される「酸化剤の供給量の減少」、及びステップS18の判定が「YES」になったときに、ステップS19の工程で実施される「酸化剤の供給量の増加」は、測定された、紫外線が照射された還元除染水溶液の酸化還元電位に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液における、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求め、この濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいて、紫外線照射装置33よりも上流における還元除染水溶液、及び紫外線照射装置33内の還元除染水溶液の少なくとも一つの還元除染水溶液への酸化剤の供給量を調節することを意味する。
【0157】
そのステップS15の工程で実施される「酸化剤の供給量の減少」、及びそのステップS19の工程で実施される「酸化剤の供給量の増加」は、測定された、紫外線が照射された還元除染水溶液の酸化還元電位に基づいて、紫外線照射装置33よりも上流における還元除染水溶液、及び紫外線照射装置33内の還元除染水溶液の少なくとも一つの還元除染水溶液への酸化剤の供給量を調節することも意味している。
【0158】
濃度比把握装置62から出力されたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」であるとき、ステップS13及びS18のそれぞれの判定が「NO」となるため、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」に維持されるように、弁43の開度が調節される。または、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」であるときには、ステップS13及びS18のそれぞれの判定が「NO」となるため、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」に維持されるように、弁43の開度が調節される。
【0159】
もし、ステップS19の工程での酸化剤の供給量の増加により、ステップS12の工程で求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」を超えた場合には、ステップS13の工程における判定が「YES」となり、カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給が停止され(ステップS14)、ステップS15の工程における、供給配管42からのシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される。過酸化水素の供給量の減少によってステップS13の工程における判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18の各工程が実施される。
【0160】
もし、ステップS19の工程での酸化剤の供給量の増加により、ステップS12の工程で求められたFe3+/Fe2+濃度比が「10」を超えた場合には、ステップS13の工程での判定が「YES」となり、カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給が停止され(ステップS14)、ステップS15の工程における、供給配管42からのシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される。過酸化水素の供給量の減少によってステップS13の工程における判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18の各工程が実施される。
【0161】
還元除染水溶液をカチオン交換樹脂塔に供給する(ステップS16)。ステップS13の判定が「NO」になったとき、流量調節弁68及び70が開いて流量調節弁79が閉じられる。紫外線照射装置33で紫外線が照射されたシュウ酸水溶液が、カチオン交換樹脂塔34に供給される。このシュウ酸水溶液に含まれるFe2+は、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂に吸着され、シュウ酸水溶液から除去される。なお、ステップS18の判定が「NO」になった場合においても、シュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が継続される。
【0162】
弁87を開いて採水管86によりはカチオン交換樹脂塔34から排出されたシュウ酸水溶液をサンプリングする。サンプリングしたシュウ酸水溶液を分析し、シュウ酸水溶液の、Fe2+及びFe3+を含む金属イオン濃度、放射能濃度及びシュウ酸濃度を求める。
【0163】
還元除染剤を触媒及び酸化剤によって分解する(ステップS17)。カチオン交換樹脂塔34から排出されたシュウ酸水溶液が、触媒塔36に供給される。このとき、弁46を開いて供給ポンプ44を駆動する。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管45を通して、流量調節弁70と触媒塔36の間で循環配管29に供給される。供給配管45による過酸化水素の供給によって、過酸化水素はその循環配管29内を流れるシュウ酸水溶液に注入される。触媒塔36に供給されたシュウ酸水溶液に含まれているシュウ酸及びヒドラジンは、触媒塔36内で、活性炭触媒及び注入された過酸化水素の作用によって分解される。すなわち、シュウ酸は式(18)の反応によって分解され、ヒドラジンは式(19)の反応によって分解される。シュウ酸は二酸化炭素及び水に分解され、ヒドラジンは窒素及び水に分解される。なお、供給配管45により循環配管29に供給される過酸化水素は、シュウ酸との反応当量の1~2倍にすることが望ましい。
【0164】
(COOH)2+H2O2 → 2CO2+2H2O ……(18)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(19)
薬液タンク40内の過酸化水素を、供給配管45により、カチオン交換樹脂塔34の下流であって触媒塔36の上流の位置で循環配管29に供給しているときにおいても、その薬液タンク40内の過酸化水素は、流量調節弁67の下流であって紫外線照射装置33の上流の位置で循環配管29に供給される。
【0165】
触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液は、定期的に弁89を開くことによって採水管88を通してサンプリングされる。シュウ酸水溶液のサンプリングが終了した後、弁89を閉じる。サンプリングされたシュウ酸水溶液に試験紙を接触させ、この試験紙によって、触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれているかをチェックする。試験紙によるチェックによって、触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれていることが確認されたとき、すなわち、触媒塔36からの過酸化水素の流出が確認されたとき、酸化剤供給装置39の弁46の開度を減少させ、供給配管45による触媒塔36への過酸化水素の供給量を減少させる。このような過酸化水素の供給量の減少によって、触媒塔36からの過酸化水素の流出が防止され、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される。
【0166】
弁89を開いて採水管88によりは触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液をサンプリングする。サンプリングしたシュウ酸水溶液を分析し、シュウ酸水溶液の金属イオン濃度、放射能濃度及びシュウ酸濃度を求める。
【0167】
還元除染剤の分解を終了するかを判定する(ステップS20)。ステップS17の工程で還元除染剤であるシュウ酸の分解を行っているとき、ステップS20における判定が行われる。触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液の一部を、前述したように、採水管88を通してサンプリングして分析することにより、触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度を知ることができる。そのシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が10ppm以下になったとき、ステップS20の工程における判定が「YES」となり、還元除染剤の分解工程(ステップS10)を終了する。触媒塔36から排出されたシュウ酸水溶液の導電率が1mS/m以下になった場合においても、ステップS20の工程における判定が「YES」となり、還元除染剤の分解工程を終了してもよい。なお、シュウ酸水溶液に含まれたヒドラジンは、シュウ酸よりも早く分解されるため、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が10ppmまで低下したときには、シュウ酸水溶液のヒドラジン濃度は「0」になっている。
【0168】
ステップS20の判定が「NO」になったときには、ステップS20の判定が「YES」になるまで、紫外線の照射工程(ステップS8)酸化剤の供給工程(ステップS9)、酸化剤の供給量制御工程(ステップS10)、還元除染水溶液のカチオン交換樹脂塔への供給工程(ステップS16)及び触媒及び酸化剤による還元除染剤の分解工程(ステップS17)の各工程が実施される。
【0169】
Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数の第1設定値を、0.8以上1以下の範囲内の値、例えば、「0.9」に設定した場合について説明する。酸化剤の供給量制御工程S10において、ステップS13での判定が「YES」になったとき、濃度比把握装置62から出力されたFe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「0.9」になるように、弁43の開度を減少させ、供給配管42による薬液タンク40から循環配管29への過酸化水素の供給量を減少させる(ステップS15)。過酸化水素の供給量の減少により、ステップS12で求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「0.9」になったとき、ステップS13の判定が「NO」となり、過酸化水素が紫外線照射装置33から流出しなくなる。
【0170】
しかしながら、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」になった後においても、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「0.9」に低下するまで、弁43の開度を減少させて循環配管29への過酸化水素の供給量を減少させる。Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「0.9」まで低下したとき、弁43の開度減少は停止され、過酸化水素の供給量の減少も停止される。この結果、Fe3+/Fe2+濃度比の対数を「0.9」に維持させる、弁43の開度制御が継続される。
【0171】
そして、ステップS18の判定が実施される。もし、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「0.9」よりも低下してステップS18の判定が「YES」になったとき、ステップS19の工程が実施され、弁43の開度を増加させる。このため、紫外線照射装置33に供給されるシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度も増加し、酸化還元電位計61で測定される、シュウ酸水溶液の酸化還元電位も増加する。Fe3+/Fe2+濃度比の対数も第1設定値に向かって増加する。Fe3+/Fe2+濃度比の対数がその第1設定値である「0.9」になったとき、弁43の開度増加が停止され、紫外線照射装置33への過酸化水素の供給量の増加も停止される。Fe3+/Fe2+濃度比の対数を「0.9」に維持させる弁43の開度制御が継続される。ステップS18の判定が「NO」になったとき、ステップS16の工程が継続して行われる。
【0172】
Fe2+に対するFe3+の濃度比の第2設定値を、8以上10以下の範囲内の値、例えば、「9」に設定した場合について説明する。ステップS13での判定が「YES」になったとき、Fe3+/Fe2+濃度比が第2設定値である「9」になるように、循環配管29への過酸化水素の供給量を減少させる。Fe3+/Fe2+濃度比が「9」まで低下したとき、ステップS13の判定が「NO」となり、過酸化水素が紫外線照射装置33から流出しなくなる。
【0173】
しかしながら、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」になった後においても、Fe3+/Fe2+濃度比が第2設定値である「9」に低下するまで、循環配管29への過酸化水素の供給量を減少させる。Fe3+/Fe2+濃度比が「9」まで低下したとき、過酸化水素の供給量の減少も停止される。この結果、Fe3+/Fe2+濃度比を「9」に維持させる、弁43の開度制御が継続される。
【0174】
そして、ステップS18の判定が実施される。もし、Fe3+/Fe2+濃度比が第2設定値である「9」よりも低下してステップS18の判定が「YES」になったとき、ステップS19の工程が実施され、弁43の開度を増加させる。このため、紫外線照射装置33に供給されるシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度も増加し、シュウ酸水溶液の酸化還元電位も増加する。Fe3+/Fe2+濃度比も第2設定値に向かって増加する。Fe3+/Fe2+濃度比がその第2設定値である「9」になったとき、紫外線照射装置33への過酸化水素の供給量の増加も停止される。Fe3+/Fe2+濃度比を「9」に維持させる弁43の開度制御が継続される。ステップS18の判定が「NO」になったとき、ステップS16の工程が継続して行われる。
【0175】
ステップS20の判定が「YES」になったとき、浄化を実施する(ステップS21)。流量調節弁79を開いて流量調節弁68を閉じ、カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給を停止する。弁73及び74を開けて弁65及び66を閉じることにより、そのシュウ酸水溶液を、循環配管29から冷却器32に供給して60℃以下に冷却する。このとき、流量調節弁69が開いて流量調節弁79が閉じられているため、60℃のシュウ酸水溶液が混床樹脂塔35に供給される。このシュウ酸水溶液に残留している陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔35内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されて除去される。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸も混床樹脂塔35内で除去される。このため、再循環系配管6及び循環配管29内に存在する水溶液は、シュウ酸を実質的に含んでいない。
【0176】
化学除染の終了を判定する(ステップS22)。酸化、還元除染を実施した配管系、具体的には、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したとき、ステップS22の判定が「YES」となり、再循環系配管6に対する化学除染を終了する。なお、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したことは、例えば、再循環系配管6の傍に放射線検出器(図示せず)を配置し、再循環系配管6から放出される放射線をその放射線検出器で計測する。その放射線を検出した放射線検出器から出力された出力信号に基づいて求められた線量率に基づいて、再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したかを確認することができる。
【0177】
再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下していない場合には、ステップS22の判定が「NO」となり、ステップS3~S22の各工程が繰り返される。ステップS22の判定が「YES」になったときには、排水工程(ステップS23)が実施される。
【0178】
なお、再循環系配管6の表面線量率ではなく、酸化、還元除染の繰り返し回数が所定の回数に達したときに、化学除染を終了してもよい。
【0179】
本実施例では、浄化工程(ステップ21)が終了した後に、ステップS22の判定が実施されるので、ステップS22の判定が「NO」である場合に、酸化除染工程(ステップS3)を再度実施したとしても、この酸化除染工程で循環配管29に注入される過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムを、再循環系配管の酸化除染に対して有効に利用することができる。このように、酸化除染工程を再度実施した場合において注入した過マンガン酸カリウムを有効に利用できる理由は、ステップ21の除染工程の終了時において、再循環系配管6及び循環配管29内に存在する水溶液がシュウ酸を実質的に含んでいないため、注入された過マンガン酸カリウムがシュウ酸によって分解されないからである。
【0180】
排水を実施する(ステップS23)。ステップS22の判定が「YES」になった後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により循環配管29と廃液処理装置(図示せず)を接続する。再循環系配管6及び循環配管29内に残っている水溶液は、そのポンプを駆動することにより循環配管29から高圧ホースを通して廃液処理装置(図示せず)に排出され、廃液処理装置で処理される。
【0181】
ステップS22の排水工程が終了した後、化学除染装置28の循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0182】
(1)本実施例によれば、酸化剤(例えば、過酸化水素)を含む還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)に紫外線を照射し、紫外線が照射された還元除染水溶液の酸化還元電位を測定し、この測定された酸化還元電位に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを短時間に確認することができる。
【0183】
なお、従来の手法によれば、紫外線が照射された還元除染水溶液をサンプリングし、サンプリングした還元除染水溶液を分析してその還元除染水溶液に含まれる酸化剤の濃度を求めていた。このようにして求める酸化剤濃度に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを確認するため、この確認に要する時間が長くなる。本実施例は、従来に比べて、紫外線照射後の還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを確認するために要する時間を短縮できる。
【0184】
(2)本実施例では、測定された酸化還元電位に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液におけるFe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求めるので、この濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいて、すなわち、その濃度比の対数が「1」以下及びその濃度比が「10」以下のいずれかであれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が過酸化剤を含んでいないと直ちに判定することができる。ちなみに、その濃度比の対数が「1」を超えている、及びその濃度比が「10」を超えている、のいずれかであれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいると直ちに判定することができる。
【0185】
(3)求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」を超えている、及びその濃度比が「10」を超えている、のいずれかである場合、すなわち、紫外線照射された還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)に酸化剤(例えば、過酸化水素)が含まれている場合には、酸化剤を含む還元除染水溶液のカチオン交換樹脂塔34へのその還元除染水溶液の供給を停止させることができる。このため、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂の劣化を著しく抑制することができ、その陽イオン交換樹脂の寿命を延ばすことができる。
【0186】
(4)本実施例では、還元除染対象物である再循環系配管6から排出された還元除染水溶液に紫外線を照射することにより還元除染剤(例えば、シュウ酸)が分解され、さらに、触媒塔36への酸化剤の供給により、触媒塔36内の触媒及び酸化剤の作用によっても還元除染剤を分解することができる。このため、本実施例においては、還元除染剤の分解が促進され、それの分解に要する時間も短縮される。Fe2+と過酸化水素の反応により生成される・OHの作用によっても還元除染剤が分解されるため、還元除染剤の分解に要する時間が、さらに、短縮される。
【0187】
(5)紫外線を照射された還元除染水溶液の、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」以下である、及びその濃度比が「10」以下である、いずれかであるとき、その還元除染水溶液は酸化剤を含んでいない。このため、紫外線を照射されて酸化剤を含んでいない還元除染水溶液を、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。この結果、還元除染水溶液に含まれているFe2+を、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂に吸着させて除去することができる。還元除染水溶液からのFe2+の除去は、還元除染対象である再循環系配管6の内面に対する還元除染を促進させることができる。
【0188】
(6)求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」よりも大きくなったとき、及びその濃度比が「10」よりも大きくなったときのいずれかにおいて、酸化剤供給装置39から供給配管42により循環配管29に供給される酸化剤の流量を直ちに減少させることができ、紫外線を照射された還元除染水溶液に酸化剤が含まれていない状態を素早く実現することができる。
【0189】
(7)求められた、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」以下である第1設定値よりも小さくなったとき、その濃度比が「10」以下であるその濃度比の第2設定値よりも小さくなったときのいずれかにおいて、酸化剤供給装置39から供給配管42により循環配管29に供給される酸化剤の流量を増加させることができるため、紫外線が照射された還元除染水溶液におけるその濃度比を短時間に第1設定値または第2設定値まで増加させることができる。このため、還元除染水溶液に含まれている還元除染剤の分解を促進させることができる。
【0190】
(8)紫外線が照射された還元除染水溶液における、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が第1設定値未満である、及びその濃度比が第2設定値未満であるのいずれかである(ステップS18の判定が「YES」)ときに、酸化剤の供給量を増加させ(ステップS19)、その後、「酸化剤が含まれているか」の判定が実施される(ステップS13)ので、前述の酸化剤の供給量の増加により、もし、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数が「1」を超えた場合、及びの濃度比が「10」を超えた場合のいずれかにおいて、直ちに、酸化剤の供給量を減少させる(ステップS15)ことができる。このため、紫外線が照射された還元除染水溶液に酸化剤が含まれている状態を、早期に解消することができる。
【0191】
(9)ステップS22の判定が「NO」であるとき、ステップS3の工程(酸化除染工程)が実施される。本実施例では、ステップS22の工程(化学除染終了の判定)がステップS21の工程(浄化工程)が終了した後に行われるため、再循環系配管6及び循環配管29内に存在する水溶液はシュウ酸を実質的に含んでいなく、循環配管29に注入された過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムがシュウ酸によりほとんど分解されない。酸化除染を再度実施するために注入された過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムは、再循環系配管6の酸化除染のために有効に利用することができる。
【0192】
(10)本実施例では、ステップS13の判定が「NO」になったとき、ステップS18の判定及びステップS16の工程が実施される。ステップS18の判定が「YES」となったとき、ステップS19の工程が実施されているときにおいても、ステップS16の工程が実施され、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+がカチオン交換樹脂塔34で除去される。このため、シュウ酸水溶液におけるFe2+の濃度がより早く減少し、再循環系配管6の還元除染が促進されて還元除染の終了を早めることができる。ただし、ステップS19の工程によるシュウ酸水溶液への過酸化水素の注入により、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が1を超えたまたはその濃度比が10を超えたと、ステップS13で判定された場合には、ステップS14の工程により、カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給を停止できる。
【実施例2】
【0193】
本発明の好適な他の実施例である実施例2の化学除染方法を、
図1、
図2、
図3、
図5及び
図8を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0194】
本実施例の化学除染方法においても、実施例1で実施されたステップS1~S23の各工程が実施される。このような本実施例の化学除染方法では、
図8に示す化学除染装置28Aが用いられる。化学除染装置28Aは、実施例1で用いられる化学除染装置28に制御装置90が追加された構成を有する。化学除染装置28Aの他の構成は、化学除染装置28と同じである。本実施例の化学除染方法においては、ステップS2~S23の各工程が、制御装置90による自動制御で実施される。
【0195】
化学除染装置28Aにおいて、制御装置90は濃度比把握装置62に接続されている。さらに、制御装置90は、酸化剤供給装置39における供給ポンプ41及び44、及び弁43及び46、流量調節弁67,68,69,70,76,77,77A,79及び81のそれぞれにも接続されている。化学除染装置28Aにおける、これらのポンプ及び弁以外のポンプ及び弁のそれぞれにも、制御装置90は接続されている。
【0196】
本実施例の化学除染方法では、上記した各弁及び各ポンプが制御装置90によって制御される以外は、実施例1と同様に、ステップS2~S23の各工程が実施される。
【0197】
ステップS1の工程が、実施例1と同様に実施される。ステップS2の工程において、開閉弁64,弁65及び66,流量調節弁67,68及び70及び開閉弁71をそれぞれが、制御装置90によって開けられる。他の弁は閉じられている。循環配管29及び再循環系配管6が、冷却水で満たされる。制御装置90によって循環ポンプ30及び38が駆動され、加熱器31により90℃に加熱された冷却水が循環配管29及び再循環系配管6を含む閉ループ内で循環される。
【0198】
ステップS3の工程(酸化除染の実施)では、制御装置90によって弁50及び56が開けられることにより、実施例1と同様に、酸化除染剤タンク48内の過マンガン酸カリウム水溶液が、タンク54を経由して循環配管29内の90℃の水に注入される。過マンガン酸水溶液が、循環配管29及び再循環系配管6を含む閉ループ内を循環しながら、再循環系配管6の内面に対する酸化除染を実施する。
【0199】
ステップS4の工程(酸化除染剤の分解)において、制御装置90によって弁53が開けられて弁50が閉じられる。還元除染剤タンク51内のシュウ酸水溶液がタンク54を経て循環配管29内に供給される。循環配管29及び再循環系配管6内の過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムが、実施例1と同様に、供給されるシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸によって分解される。
【0200】
ステップS5の工程(還元除染及び紫外線照射の実施)では、制御装置90によって流量調節弁68,81及び77が開けられる。流量調節弁79及び70は閉じている。制御装置90は、化学除染剤供給装置47の弁53及び56を開き、pH調整剤注入装置57の弁60を開く。実施例1と同様に、還元除染剤タンク51からシュウ酸水溶液が、pH調整剤注入装置57によってヒドラジンが循環配管29に注入される。ヒドラジンの注入によってpHが2.5に調節された、90℃でヒドラジンを含むシュウ酸水溶液が、前述の閉ループ内を循環しながら再循環系配管6の内面に接触するため、その内面に対する還元除染が実施される。
【0201】
そのシュウ酸水溶液に紫外線が、実施例1と同様に、照射され、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液が、カチオン交換樹脂塔34に供給される。シュウ酸水溶液に含まれるFe2+が、カチオン交換樹脂塔34によって除去される。紫外線照射によって、シュウ酸水溶液に含まれる一部のシュウ酸が分解される。
【0202】
再循環系配管6の表面線量率が設定線量率まで低下したとき、または還元除染時間が所定時間に達したとき、ステップS6の工程(還元除染の終了判定)における判定が「YES」となり、再循環系配管6に対する還元除染が終了する。ステップS6の工程の判定が「NO」の場合には、ステップS6の工程の判定が「YES」になるまでステップS5の判定が継続して実施される。
【0203】
その後、還元除染剤の分解工程(ステップS7)が実施される。まず、シュウ酸水溶液への紫外線の照射(ステップS8)が実施される。ステップS9の工程(酸化剤の供給)では、制御装置90によって、流量調節弁68及び81が閉じられ、流量調節弁79,77A及び77が開けられる。さらに、制御装置90によって、弁43が開けられ、供給ポンプ41が駆動される。弁46は閉じて、供給ポンプ44は停止されたままである。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管42により、例えば、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。紫外線照射装置33において、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に紫外線が照射される。紫外線照射によって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸の一部が分解される。式(3)の反応で生成された・OHによっても、シュウ酸の一部が分解される。
【0204】
ステップS10の工程(酸化剤の供給量制御)において、まず、酸化還元電位の測定(ステップS11)が実施される。濃度比把握装置62が、酸化還元電位計61で測定された酸化還元電位を用いてFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求める(ステップS12)。求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかは、制御装置90に入力される。制御装置90は、濃度比把握装置62で求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいて、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液の酸化剤である過酸化水素が含まれているかを判定する(ステップS13)。紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれている(Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」よりも大きい及びその濃度比が「10」よりも大きい、のいずれかである)と判定されたき、制御装置90は、流量調節弁68及び81を閉じて流量調節弁79,77A及び77を開ける。このため、紫外線が照射されて過酸化水素が含まれたシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される(ステップS14)。そして、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」になる、及びその濃度比が「10」になる、のいずれかになるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される(ステップS15)。制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を低減させる(または弁43の開度を減少させる)。これによって、過酸化水素の供給量が減少される。
【0205】
ステップS13の判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18の各工程が実施される。まず、ステップS18及びS19の各工程について説明する。
【0206】
制御装置90において、Fe3+/Fe2+濃度比がFe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値未満である、及びその濃度比が第2設定値未満である、のいずれかの判定が行われる(ステップS18)。制御装置90がステップS18において「YES」と判定したとき、酸化剤の供給量が増加される(ステップS19)。ステップS19において、制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を増加させ(または弁43の開度を増加させ)、過酸化水素の供給量を増加させる。
【0207】
Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数の第1設定値を、0.8以上1以下の範囲内に設定することが望ましい。第1設定値を「0,9」に設定した場合について説明する。制御装置90によるステップS13での判定が「YES」になったとき、濃度比把握装置62から出力されたFe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「0.9」になるように、制御装置90が循環配管29への過酸化水素の供給量を減少させる(ステップS15B)。過酸化水素の供給量の減少により、求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「0.9」になったとき、ステップS13の判定が「NO」となり、過酸化水素が紫外線照射装置33から流出しなくなる。
【0208】
制御装置90は、ステップS18において、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値である「0.9」未満であると判定したとき、酸化剤の供給量を増加する(ステップS19)。
【0209】
Fe3+/Fe2+濃度比の第2設定値を8以上10以下の範囲内に設定することが望ましい。第2設定値を「9」に設定した場合には、濃度比把握装置62から出力されたFe3+/Fe2+濃度比が「9」になるように、制御装置90が循環配管29への過酸化水素の供給量を減少させる(ステップS15B)。過酸化水素の供給量の減少により、求められたFe3+/Fe2+濃度比が「9」になったとき、ステップS13の判定が「NO」となり、過酸化水素が紫外線照射装置33から流出しなくなる。制御装置90は、ステップS18において、Fe3+/Fe2+濃度比が「9」未満であると判定したとき、酸化剤の供給量を増加する(ステップS19)。
【0210】
ステップS18の判定が「NO」になるまで、ステップS19,S11,S12,S13及びS18の各工程が繰り返される。やがて、酸化還元電位計61の出力を入力する濃度比把握装置62から入力されたFe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値になったとき、制御装置90がステップS18において「NO」と判定する。その濃度比が第1設定値になったときにおいても、制御装置90がステップS18において「NO」と判定する。そして、ステップS18の判定が「NO」であるとき、ステップS16の工程が実施される。ステップS18の判定が「NO」になったときには、弁43の開度増加が停止され、上記の循環配管29への過酸化水素の供給量の増加も停止される。
【0211】
Fe2+に対するFe3+の濃度比の第2設定値を、8以上10以下の範囲内の、例えば、「9」に設定した場合には、実施例1と同様に、ステップS13の判定、ステップS14及びS15の各工程、ステップS18の判定及びステップS19の工程が実施される。
【0212】
ステップS13における判定が「NO」になったとき、制御装置90が、流量調節弁68及び70を開いて流量調節弁79を閉じる。流量調節弁81は閉じられている。実施例1と同様に、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液がカチオン交換樹脂塔34に供給され(ステップS16)、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+はカチオン交換樹脂塔34で除去される。なお、ステップS18の判定が「NO」になった場合においても、シュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が継続される。
【0213】
触媒塔36内で、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が、触媒及び過酸化水素の作用により分解される(ステップS17)。制御装置90によって、弁46が開けられて供給ポンプ44が駆動される。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管45により、循環配管29に供給される。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が触媒塔36内に導かれシュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸及びヒドラジンは、活性炭触媒及び注入された過酸化水素の作用によって分解される。
【0214】
その後、還元除染剤であるシュウ酸の分解が終了したかが判定され(ステップS20)、この判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10,S16及びS17の各工程が実施される。ステップS20の判定が「YES」になったとき、浄化工程が実施され(ステップS21)、浄化工程の終了後に化学除染終了の判定が実施され(ステップS22)、さらに、排水が実施される(ステップS23)。
【0215】
ステップS22の排水工程が終了した後、化学除染装置28Aの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0216】
本実施例は実施例1で生じる(1)~(10)の各効果を得ることができる。
【0217】
また、本実施例では、(11)本実施例では、制御装置90が用いられるため、化学除染装置28Aにおける各弁及び各ポンプを自動制御することができ、さらに、Fe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを用いて、紫外線照射装置33及び触媒塔36のそれぞれへの酸化剤の供給量の制御を自動化することができる。
【実施例3】
【0218】
本発明の好適な他の実施例である実施例3の化学除染方法を、
図1、
図2、
図4、
図5及び
図9を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの、他の構成部材である原子炉浄化系の浄化系配管に適用される。
【0219】
本実施例の化学除染方法においても、
図1及び
図2に示されるステップS1~S23の各工程が実施される。
【0220】
化学除染方法が実施される配管系に、化学除染装置を接続する(ステップS1)。BWRプラント1の運転が停止された後のBWRプラント1の運転停止期間内で、仮設設備である化学除染装置28の循環配管29の両端が、原子炉浄化系の、炭素鋼製の浄化系配管20に接続される。この循環配管29の浄化系配管20への接続作業を具体的に説明する。浄化系配管20の一端は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続されている。浄化系配管20の他端は、高圧給水加熱器16の下流で給水配管11に接続される。浄化系配管20には、上流から下流に向かって、浄化系ポンプ21、再生熱交換器22、非再生熱交換器23及び炉水浄化装置24が、この順番で設置されている。
【0221】
BWRプラント1運転停止後に、例えば、浄化系配管20の、浄化系ポンプ21と再生熱交換器22の間に設置された弁93のボンネットを開放してこのボンネットの再生熱交換器22側を封鎖する。化学除染装置28の循環配管29の一端部、すなわち、循環配管29の、開閉弁64側の端部を弁93のフランジに接続する。これにより、循環配管29の一端部が再循環ポンプ7の上流で浄化系配管20に接続される。さらに、再循環系配管6と浄化系配管20の接続点付近で浄化系配管20に設けられた弁25のボンネットを開放してこのボンネットの再循環系配管6側を封鎖する。循環配管29の他端部、すなわち、循環配管29の、開閉弁71側の端部を弁25のフランジに接続する。これにより、循環配管29の他端部が浄化系配管20に接続される。
【0222】
このように、循環配管29の両端部を浄化系配管20に接続することによって、浄化系配管20及び循環配管29を含む閉ループが形成される。
【0223】
その後、浄化系配管20を化学除染の対象にした本実施例においても、水張り・昇温工程(ステップS2)、浄化系配管20に対する酸化除染の工程(ステップS3)、酸化除染剤の分解工程(ステップS4)、浄化系配管20に対する還元除染及び紫外線照射の工程(ステップS5)、還元除染の終了判定の工程(ステップS6)、還元除染剤の分解工程(ステップS7)、浄化工程(ステップS21)、化学除染の終了判定の工程(ステップS22)及び排水工程(ステップS23)の各工程が、実施例1と同様に実施される。ステップS6の還元除染の終了判定は、浄化系配管20の表面近くに配置した放射線検出器94から出力された出力信号に基づいて求められた線量率に基づいて行われる。
【0224】
ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28の循環配管29が、化学除染対象の浄化系配管20から取り外される。その後、浄化系配管20が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0225】
本実施例は、実施例1で生じる(1)~(10)の各効果を得ることができる。
【0226】
実施例3において、化学除染装置28の替りに化学除染装置28Aを浄化系配管20に接続し、化学除染装置28Aを用いて浄化系配管20の内面に対する化学除染を実施してもよい。
【0227】
前述した各実施例は、原子力プラントの構成部材、例えば、配管系に化学除染装置を接続し、その配管系の内面に対する化学除染を実施している。しかしながら、廃止措置の対象になった原子力プラントは解体される。原子力プラントの解体において、切断及び分解等によって発生した、原子力プラントの構成部材は、化学除染を行うことによって、付着している放射性核種を除去することができ、線量レベルを低減することができる。
【0228】
廃止措置対象の原子力プラントの解体作業によって発生した、原子力プラントの構成部材の切断片、例えば、配管(再循環系配管及び浄化系配管等)の切断片を例に挙げて、この切断片に対する化学除染について説明する。
【0229】
実施例1で用いられる前述の化学除染装置28の循環配管29の一端部である開閉弁64側の端部が、特開2019-191075号公報の
図8に示されるように、除染容器の底部に接続される。化学除染装置28の循環配管29の他端部である開閉弁71側の端部が、除染容器の上端に取り外し可能に取り付けられる上蓋に接続される。化学除染対象の配管の複数の切断片が、上蓋を開けて、除染容器内に収納され、その後、除染容器の上端に上蓋が取り外し可能に取り付けられる。除染容器及び循環配管を含む閉ループ内で、酸化除染水溶液(例えば、過マンガン酸カリウム水溶液)を循環させて、除染容器内に存在する配管の各切断片に対して酸化除染を実施する。さらに、その閉ループ内で還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)を循環させて、除染容器内に存在する配管の各切断片に対して還元除染を実施する。
【0230】
除染容器内に存在する配管の各切断片に対する化学除染では、実施例1におけるステップS2~S23の各工程(
図1および
図2参照)が実施される。なお、化学除染装置28の替りに化学除染装置28Aの循環配管29の両端が接続された除染容器を用いれば、実施例2の化学除染方法を、除染容器内に収納された配管の複数の切断片に対して実施することができる。
【実施例4】
【0231】
本発明の好適な他の実施例である実施例4の化学除染方法を、
図1、
図3、
図5、
図10及び
図11を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0232】
本実施例の化学除染方法に用いられる化学除染装置28B(
図11参照)は、実施例1で用いられる化学除染装置28(
図1参照)から濃度比把握装置62を削除し、酸化還元電位計61を表示装置63に接続した構成を有する。化学除染装置28Bの他の構成は、化学除染装置28の構成と同じである。
【0233】
本実施例の化学除染方法では、
図1に示されたステップS1~S6の各工程、
図10に示されたステップS7A、及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。ステップS7Aの還元除染剤の分解工程は、ステップS8,S9,S10A,S16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10Aの酸化剤の供給流量制御工程は、ステップS11,S13A,S14,S15A,S18A及びS19Aの各工程を含む。
【0234】
本実施例の化学除染方法においても、実施例1で実施されたステップS1~S6の各工程が実施される。ステップS6の判定が「YES」になった後、ステップS8の工程(還元除染水溶液への紫外線照射)及びステップS9の工程(酸化剤の供給)が実施例1と同様に実施される。
【0235】
開閉弁64、弁65及び66及び流量調節弁67が開いているため、再循環系配管6から循環配管29に戻されたシュウ酸水溶液は、紫外線照射装置33に導かれる。ステップS8の工程において、紫外線照射装置33により、紫外線がシュウ酸水溶液に照射される。さらに、ステップS9の工程において、過酸化水素が、酸化剤供給装置39から供給配管42を通して、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。紫外線が過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に照射されることによって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸の一部が二酸化炭素及び水に分解される(式(2)参照)。
【0236】
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、流量調節弁68が閉じられているため、カチオン交換樹脂塔34に供給されず、配管78及び75を通って流量調節弁77の下流で循環配管29に戻され、再循環系配管6に供給される。
【0237】
次に、酸化剤の供給量の制御(ステップS10A)が行われる。ステップS10Aの工程では、ステップS11,S13A,S14,S15A,S18A及びS19Aの各工程が実施される。
【0238】
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液の酸化還元電位が酸化還元電位計61によって測定される(ステップS11)。測定された酸化還元電位が表示装置63に表示される。ステップS13Aの工程(酸化剤が含まれているかを判定)では、オペレータが、表示装置63に表示された酸化還元電位に基づいて、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれているかを判定する。表示された酸化還元電位が「400mV vs SHE」よりも大きいとき、例えば、その酸化還元電位が450mV vs SHEであるとき、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれており(
図6参照)、ステップS13Aでの判定が「YES」となる。
【0239】
ステップS13Aでの判定が「YES」であるとき、実施例1と同様に、ステップS14の工程が実施される。すなわち、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が、カチオン交換樹脂塔34をバイパスし、カチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される。紫外線照射装置33から排出されるシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれないようにするため、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる(ステップS15A)。ステップS13Aの判定が「YES」であるため、オペレータが操作盤に設けられたレバーまたはボタンを操作し、操作盤から、過酸化水素の供給量を減少させる制御指令を出力させる。測定された酸化還元電位が「400mV vs SHE」に低下するように、その制御指令により、供給ポンプ41の回転速度を減少させ(または、弁43の開度を減少させ)、酸化剤供給装置39の薬液タンク40から、例えば、紫外線照射装置33よりも上流の部分で循環配管29に流れているシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる。
【0240】
ステップS13Aの判定が「NO」になるまで、ステップS14,S15A,S11及びS13Aの各工程が繰り返される。このような該当する工程の繰り返しにより、やがて、酸化還元電位計61で測定された酸化還元電位が、低減され、少なくとも「400mV vs SHE」になる。この結果、過酸化水素が、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に含まれなくなり、供給ポンプ41の回転速度の低減が停止される。過酸化水素を含まないシュウ酸水溶液は、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。さらに、測定された酸化還元電位が「400mV vs SHE」であるとき、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液内でのシュウ酸の分解効率が最も高くなる。
【0241】
ステップS13Aの判定が「NO」であるとき、ステップS18Aの判定(酸化還元電位が第3設定値未満であるかの判定)が実施される。第3設定値は、還元酸化電位を用いて酸化剤の供給量の増加が必要であるかを判定するために用いられる設定値である。その第3設定値は、380mV vs SHE以上400mV vs SHE以下の範囲(380mV vs SHE~400mV vs SHEの範囲)内の値にすることが望ましい。ここでは、第3設定値を、例えば、390mV vs SHEとする。
【0242】
測定された酸化還元電位が第3設定値である「390mV vs SHE」未満になっているときには、ステップS18Aの判定が「YES」になる。ステップS18Aの判定が「YES」である場合には、ステップS19Aの工程(酸化剤の供給量の増加)が実施される。紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液の酸化還元電位が「390mV vs SHE」未満の、例えば、370mV vs SHEであるとき、ステップS19Aの工程において、その酸化還元電位が390mV vs SHEになるように、オペレータにより供給ポンプ41の回転速度が増加され、例えば、紫外線照射装置33に導かれるシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が増加される。このため、そのシュウ酸水溶液の酸化還元電位が390mV vs SHEまで増加する。この390mV vs SHEは400mV vs SHE以下であるため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、過酸化水素を含んでいなく、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。
【0243】
ステップS18Aの判定が「NO」になるまで、ステップS19A,S11,S13A及びS18Aの各工程が繰り返される。ステップS13Aの判定が「NO」になったとき、実施例1と同様に、ステップS16の工程(カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給)が実施される。その後、ステップS18Aの判定が「NO」になったときにも、ステップS16の工程(カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給)が継続して実施される。さらに、実施例1と同様に、ステップS17の工程(触媒及び酸化剤による還元除染剤の分解)及びステップS20の工程(分解工程終了化の判定)が実施される。ステップS20の判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10A,S16,S17及びS20の各工程が実施される。
【0244】
ステップS20の判定が「YES」になったとき、実施例1と同様に、ステップS21の工程(浄化)、ステップ22の工程(化学除染終了の判定)及びステップS23の工程(排水)が実施される。ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28Bの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0245】
本実施例によれば、実施例1で生じる(1)及び(4)の各効果を得ることができる。さらに、本実施例によれば、以下に示す(12)~(17)の各効果を得ることができる。
【0246】
(12)本実施例では、測定された酸化還元電位に基づいて、すなわち、その酸化還元電位が400mV vs SHE以下であれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が過酸化剤を含んでいないと直ちに判定することができる。ちなみに、その酸化還元電位が400mV vs SHEを超えていれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいると直ちに判定することができる。
【0247】
(13)測定された酸化還元電位が400mV vs SHEを超える場合、すなわち、紫外線照射された還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)に酸化剤(例えば、過酸化水素)が含まれている場合には、酸化剤を含む還元除染水溶液のカチオン交換樹脂塔34へのその還元除染水溶液の供給を停止させることができる。このため、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂の劣化を著しく抑制することができ、その陽イオン交換樹脂の寿命を延ばすことができる。
【0248】
(14)紫外線を照射された還元除染水溶液の、測定された酸化還元電位が400mV vs SHE以下のとき、この還元除染水溶液は酸化剤を含んでいないため、紫外線を照射されて酸化剤を含んでいない還元除染水溶液を、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。この結果、還元除染水溶液に含まれているFe2+を、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂に吸着させて除去することができる。還元除染水溶液からのFe2+の除去は、還元除染対象である再循環系配管6の内面に対する還元除染を促進させることができる。
【0249】
(15)測定された酸化還元電位が400mV vs SHEよりも大きくなったとき、酸化剤供給装置39から供給配管42により循環配管29に供給される酸化剤の流量を直ちに減少させることができ、紫外線を照射された還元除染水溶液に酸化剤が含まれていない状態を素早く実現することができる。
【0250】
(16)測定された酸化還元電位が400mV vs SHE以下であるその酸化還元電位の第3設定値よりも小さくなったとき、酸化剤供給装置39から供給配管42により循環配管29に供給される酸化剤の流量を増加させることができるため、紫外線が照射された還元除染水溶液におけるその酸化還元電位を短時間にその第3設定値まで増加させることができる。このため、還元除染水溶液に含まれている還元除染剤の分解を促進させることができる。
【0251】
(17)紫外線が照射された還元除染水溶液における酸化還元電位が第3設定値未満である(ステップS18Aの判定が「YES」)ときに、酸化剤の供給量を増加させ(ステップS19A)、その後、「酸化剤が含まれているか」の判定が実施される(ステップS13A)ので、前述の酸化剤の供給量の増加により、もし、酸化還元電位が400mV vs SHEを超えた場合には、直ちに、酸化剤の供給量を減少させる(ステップS15A)ことができる。このため、紫外線が照射された還元除染水溶液に酸化剤が含まれている状態を、早期に解消することができる。
【実施例5】
【0252】
本発明の好適な他の実施例である実施例5の化学除染方法を、
図1、
図3、
図5、
図10及び
図12を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0253】
本実施例の化学除染方法においては、実施例1で実施されたステップS1~S6の各工程、
図10に示されたステップS7A、及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。このような本実施例の化学除染方法では、
図12に示す化学除染装置28Cが用いられる。化学除染装置28Cは、実施例4で用いられる化学除染装置28B(
図11参照)に制御装置90が追加された構成を有する。化学除染装置28Cの他の構成は、化学除染装置28Bと同じである。酸化還元電位計61が制御装置90に接続される。制御装置90は、酸化剤供給装置39における供給ポンプ41及び44、及び弁43及び46、流量調節弁67,68,69,70,76,77,77A,79及び81のそれぞれにも接続されている。化学除染装置28Cにおける、これらのポンプ及び弁以外のポンプ及び弁のそれぞれにも、制御装置90は接続されている。
【0254】
本実施例の化学除染方法においては、ステップS2~S6,S7A及びS21~S23の各工程が、制御装置90による自動制御で実施される。
【0255】
本実施例に化学除染方法では、上記した各弁及び各ポンプが制御装置90によって制御される以外は、実施例3と同様に、
図1に示されたステップS1~S6の各工程、及び
図10に示されたステップS7A及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。ステップS7Aの還元除染剤の分解工程は、ステップS8,S9,S10A,S16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10Aの酸化剤の供給流量制御工程は、ステップS11,S13A,S14,S15A,S18A及びS19Aの各工程を含む。
【0256】
実施例2と同様に、制御装置90による制御によって、該当するそれぞれの弁の開閉操作、循環ポンプ30及び38の駆動が行われ、ステップS1~S6の各工程が実施される。ステップS6の判定が「YES」になったとき、再循環系配管6の内面に対する還元除染工程が終了する。
【0257】
その後、還元除染剤の分解工程(ステップS7A)が実施される。まず、シュウ酸水溶液への紫外線の照射(ステップS8)及びステップS9の工程(酸化剤の供給)が、実施例2と同様に実施される。ステップS9の工程では、制御装置90によって、流量調節弁68及び81が閉じられ、流量調節弁79,77A及び77が開けられる。さらに、制御装置90によって、弁43が開けられ、供給ポンプ41が駆動される。弁46は閉じて、供給ポンプ44は停止されたままである。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管42により、例えば、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。その過酸化水素は、紫外線照射装置33内に、直接、供給してもよい。紫外線照射装置33において、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に紫外線が照射される。紫外線照射によって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸の一部が分解される。式(3)の反応で生成された・OHによって、さらに、シュウ酸の一部が分解される。
【0258】
ステップS10Aの工程(酸化剤の供給量制御)において、まず、酸化還元電位の測定(ステップS11)が実施される。酸化還元電位計61で測定された酸化還元電位が制御装置90に入力される。制御装置90は、入力した酸化還元電位に基づいて、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に酸化剤である過酸化水素が含まれているかを判定する(ステップS13A)。紫外線が照射されたシュウ酸水溶液の過酸化水素が含まれている(酸化還元電位が「400mV vs SHE」よりも大きい)と判定されたき、制御装置90は、流量調節弁68及び81を閉じて流量調節弁79,77A及び77を開ける。このため、紫外線が照射されて過酸化水素が含まれたシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される(ステップS14)。そして、酸化還元電位が「400mV vs SHE」になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される(ステップS15A)。制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を低減させる(または弁43の開度を減少させる)。これによって、過酸化水素の供給量が減少される。
【0259】
ステップS13Aの判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18Aの各工程が実施される。まず、ステップS18A及びS19Aの各工程について説明する。
【0260】
制御装置90において、酸化還元電位が酸化還元電位の第3設定値未満であるかが判定される(ステップS18A)。その第3設定値は、実施例4と同様に、380mV vs SHE以上400mV vs SHE以下の範囲(380mV vs SHE~400mV vs SHEの範囲)内の値にすることが望ましい。制御装置90がステップS18Aにおいて「YES」と判定したとき、酸化剤の供給量が増加される(ステップS19A)。ステップS19Aにおいて、制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を増加させ(または弁43の開度を増加させ)、過酸化水素の供給量を増加させる。
【0261】
ステップS18Aの判定が「NO」になるまで、ステップS19A,S11,S13A及びS18Aの各工程が繰り返される。やがて、酸化還元電位計61から入力した酸化還元電位がこの酸化還元電位の第3設定値になったとき、制御装置90がステップS18Aにおいて「NO」と判定する。そして、ステップS16の工程が実施される。ステップS18Aの判定が「NO」になったときには、弁43の開度増加が停止され、上記の循環配管29への過酸化水素の供給量の増加も停止される。
【0262】
ステップS13Aにおける判定が「NO」になったとき、制御装置90が、流量調節弁68及び70を開いて流量調節弁79を閉じる。流量調節弁81は閉じられている。実施例2と同様に、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液がカチオン交換樹脂塔34に供給され(ステップS16)、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+はカチオン交換樹脂塔34で除去される。なお、ステップS18Aの判定が「NO」になった場合においても、シュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が継続される。
【0263】
触媒塔36内で、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が、触媒及び過酸化水素の作用により分解される(ステップS17)。制御装置90によって、弁46が開けられて供給ポンプ44が駆動される。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管45により、循環配管29に供給される。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が触媒塔36内に導かれシュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸及びヒドラジンは、活性炭触媒及び注入された過酸化水素の作用によって分解される。
【0264】
その後、還元除染剤であるシュウ酸の分解が終了したかが判定され(ステップS20)、この判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10A,S16及びS17の各工程が実施される。ステップS20の判定が「YES」になったとき、浄化工程(ステップS21)が実施され、化学除染の終了判定の工程(ステップ22)が実施され、さらに、排水工程(ステップS23)が実施される。
【0265】
ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28Cの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0266】
本実施例は実施例1で生じる(1)及び(4)の各効果、及び実施例4で生じる(12)~(17)の各効果を得ることができる。また、(18)本実施例では、制御装置90が用いられるため、化学除染装置28Cにおける各弁及び各ポンプを自動制御することができ、さらに、測定された酸化還元電位を用いて、紫外線照射装置33及び触媒塔36のそれぞれへの酸化剤の供給量の制御を自動化することができる。
【実施例6】
【0267】
本発明の好適な他の実施例である実施例6の化学除染方法を、
図1、
図3、
図5、
図13及び
図14を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0268】
本実施例の化学除染方法に用いられる化学除染装置28D(
図14参照)は、実施例1で用いられる化学除染装置28(
図1参照)において濃度比把握装置62を濃度比把握装置62Aに替えて酸化還元電位計61を腐食電位計96に替え、腐食電位計96を濃度比把握装置62Aに接続した構成を有する。化学除染装置28Dの他の構成は、化学除染装置28の構成と同じである。
【0269】
本実施例に化学除染方法では、
図1に示されたステップS1~S6の各工程、
図13に示されたステップS7B、及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。ステップS7Bの還元除染剤の分解工程は、ステップS8,S9,S10B,S16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10Bの酸化剤の供給流量制御工程は、ステップS11A,S12A,S13B,S14,S15B,S18B及びS19Bの各工程を含んでいる。
【0270】
本実施例の化学除染方法においても、実施例1で実施されたステップS1~S6の各工程が実施される。ステップS6の判定が「YES」になった後、ステップS7Bの工程が実施される。ステップS7Bの工程においては、まず、ステップS8の工程(還元除染水溶液への紫外線照射)及びステップS9の工程(酸化剤の供給)が実施例1と同様に実施される。
【0271】
開閉弁64、弁65及び66及び流量調節弁67が開いているため、再循環系配管6から循環配管29に戻されたシュウ酸水溶液は、紫外線照射装置33に導かれる。ステップS8の工程において、紫外線照射装置33により、紫外線がシュウ酸水溶液に照射される。さらに、ステップS9の工程において、過酸化水素が、酸化剤供給装置39から供給配管42を通して、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。その過酸化水素は供給配管42により紫外線照射装置33内に直接供給してもよい。紫外線が過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に照射されることによって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸の一部が二酸化炭素及び水に分解される(式(2)参照)。
【0272】
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、流量調節弁68が閉じられているため、カチオン交換樹脂塔34に供給されず、配管78及び75を通って流量調節弁77の下流で循環配管29に戻され、再循環系配管6に供給される。
【0273】
次に、酸化剤の供給量の制御(ステップS10B)が行われる。ステップS10Bの工程では、ステップS11A,S12A,S13B,S14,S15B,S18B及びS19Bの各工程が実施される。
【0274】
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液の腐食電位が腐食電位計96によって測定される(ステップS11A)。濃度比把握装置62Aが、腐食電位計96で測定された腐食電位を用いて、シュウ酸水溶液に含まれるFe
2+に対するシュウ酸水溶液に含まれるFe
3+の濃度比(Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数及びその濃度比のいずれかを求める(ステップS12A)。Fe
3+/Fe
2+濃度比)の対数は、
図7に示される特性に基づいて求められる。求められたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数が表示装置63に表示される。また、
図7に示された特性のデータは濃度比把握装置62Aの記憶装置(図示せず)に記憶されている。
【0275】
還元除染水溶液にはFeイオンが含まれており、還元除染水溶液の腐食電位(Ee)は、2価のFeイオン濃度[Fe2+]に対する3価のFeイオン濃度[Fe3+]の比を含む式(20)で表されるネルンストの式で表すことができる。
【0276】
Ee=E0+(RT/nF)・log([Fe3+]/[Fe2+]) …(20)
ここで、E0は標準電極電位、Rは気体定数、Tは還元除染水溶液の温度、nは価数、及びFはファラデー定数である。
【0277】
濃度比把握装置62Aにおいて、入力した腐食電位を式(20)のEeに代入することによっても、Fe3+/Fe2+濃度比の対数を求めることができる。
【0278】
濃度比把握装置62では、腐食電位計96によって測定された、シュウ酸水溶液の腐食電位に基づいて、Fe3+/Fe2+濃度比を求めてもよい。式(20)のEeに、測定された腐食電位を代入することにより、[Fe3+]/[Fe2+]、すなわち、Fe3+/Fe2+濃度比を求めることができる。
【0279】
濃度比把握装置62で求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかは、表示装置63に出力されて表示される。
【0280】
ステップS13Bの工程(酸化剤が含まれているかを判定)では、オペレータが、表示装置63に表示されたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいて、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれているかを判定する(ステップS13B)。表示されたFe
3+/Fe
2+濃度比の対数が「1」よりも大きいとき、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれており(
図7参照)、ステップS13Bでの判定が「YES」となる。または、Fe
3+/Fe
2+濃度比が「10」よりも大きいときにも、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれており、ステップS13Bでの判定が「YES」となる。
【0281】
ステップS13Bでの判定が「YES」であるとき、実施例1と同様に、ステップS14の工程が実施される。すなわち、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が、前述したように、カチオン交換樹脂塔34をバイパスし、カチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される。紫外線照射装置33から排出されるシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれないようにするため、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる(ステップS15B)。ステップS13Bの判定が「YES」であるため、オペレータが操作盤に設けられたレバーまたはボタンを操作し、操作盤から、過酸化水素の供給量を減少させる制御指令を出力させる。求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が、「1」に低下するように、その制御指令により、供給ポンプ41の回転速度を減少させ(または、弁43の開度を減少させ)、酸化剤供給装置39の薬液タンク40から、例えば、紫外線照射装置33よりも上流の部分で循環配管29に流れているシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる。
【0282】
ステップS15Bの工程では、Fe3+/Fe2+濃度比の対数の替りに、Fe3+/Fe2+濃度比が「10」に低下するように、例えば、紫外線照射装置33よりも上流の部分で循環配管29に流れているシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させてもよい。
【0283】
ステップS13Bの判定が「NO」になるまで、ステップS14,S15B,S11A,S12A及びS13Bの各工程が繰り返される。このような該当する工程の繰り返しにより、やがて、濃度比把握装置62Aで求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」に、または、その濃度比が「10」になる。この結果、過酸化水素が、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に含まれなくなり、供給ポンプ41の回転速度の低減が停止される。過酸化水素を含まないシュウ酸水溶液は、流量調節弁68を開くことにより、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。さらに、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」、または、その濃度比が「10」であるとき、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液内でのシュウ酸の分解効率が最も高くなる。
【0284】
ステップS13Bの判定が「NO」であるとき、ステップS16の工程が実施され、さらに、ステップS18Bの判定(Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値未満である及びその濃度比が第2設定値未満であるのいずれかの判定)が実施される。ステップS18Bの判定について説明する。Fe3+/Fe2+濃度比の対数が、紫外線照射装置33からの酸化剤の流出が生じない「1」以下の第1設定値である、例えば、「0.9」になっているときには、ステップS18Bの判定が「NO」になる。ステップS18Bの判定が「NO」であるとき、ステップS16が実施される。
【0285】
もし、求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」以下の第1設定値、例えば、「0.9」未満になっているとき、ステップS18Bの判定が「YES」となり、ステップS19Bの工程が実施される。腐食電位計96で測定された腐食電位を用いて、濃度比把握装置62Aで求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「0.8」であるとき、ステップS19Bの工程において、そのFe3+/Fe2+濃度比の対数が「0.9」になるように、オペレータによる操作盤の操作により、供給ポンプ41の回転速度が増加され、例えば、紫外線照射装置33に導かれるシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が増加される。このため、そのシュウ酸水溶液のFe3+/Fe2+濃度比の対数が「0.9」まで増加する。このFe3+/Fe2+濃度比の対数の第1設定値は「0.9」であるため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、過酸化水素を含んでいなく、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。
【0286】
Fe3+/Fe2+濃度比の第2設定値は8以上10以下の範囲内に設定することが望ましい。第2設定値が、例えば、「9」であって、求められたFe3+/Fe2+濃度比が第2設定値である、例えば、「9」未満になっているとき、ステップS18Bの判定が「YES」となり、ステップS19Bの工程が実施される。測定された腐食電位を用いて求められたFe3+/Fe2+濃度比が「8」であるとき、ステップS19Bの工程において、そのFe3+/Fe2+濃度比が「9」になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が増加される。このため、そのシュウ酸水溶液のFe3+/Fe2+濃度比が「9」まで増加し、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液はカチオン交換樹脂塔34に供給することができる。
【0287】
ステップS18Bの判定が「NO」になるまで、ステップS19B,S11A,S12A,S13B及びS18Bの各工程が繰り返される。ステップS13Bの判定が「NO」になり、ステップS18Bの判定が「NO」になったとき、ステップS16の工程(カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給)が継続して実施される。さらに、実施例1と同様に、ステップS17の工程(触媒及び酸化剤による還元除染剤の分解)及びステップS20の工程(分解工程終了化の判定)が実施される。ステップS20の判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10B,S16,S17及びS20の各工程が実施される。
【0288】
ステップS20の判定が「YES」になったとき、実施例1と同様に、ステップS21の工程(浄化)、ステップS22(化学除染終了の判定)及びステップS23の工程(排水)が実施される。ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28Dの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0289】
本実施例によれば、実施例1で生じる(3)~(8)の各効果を得ることができる。さらに、本実施例によれば、以下に示す(19)及び(20)の各効果を得ることができる。
【0290】
(19)本実施例によれば、酸化剤(例えば、過酸化水素)を含む還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)に紫外線を照射し、紫外線が照射された還元除染水溶液の酸化還元電位を測定し、この測定された腐食電位に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを短時間に確認することができる。
【0291】
なお、従来の手法によれば、紫外線が照射された還元除染水溶液をサンプリングし、サンプリングした還元除染水溶液を分析してその還元除染水溶液に含まれる酸化剤の濃度を求めていた。このようにして求める酸化剤濃度に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを確認するため、この確認に要する時間が長くなる。本実施例は、従来に比べて、紫外線照射後の還元除染水溶液が酸化剤を含んでいないことを確認するために要する時間を短縮できる。
【0292】
(20)本実施例では、測定された腐食電位に基づいて、紫外線が照射された還元除染水溶液におけるFe2+に対するFe3+の濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求めるので、この濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいて、すなわち、その濃度比の対数が「1」以下またはその濃度比が「10」以下であれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が過酸化剤を含んでいないと直ちに判定することができる。ちなみに、その濃度比の対数が「1」を超えていればまたはその濃度比が「10」を超えていれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいると直ちに判定することができる。
【実施例7】
【0293】
本発明の好適な他の実施例である実施例7の化学除染方法を、
図1、
図3、
図5、
図13及び
図15を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0294】
本実施例の化学除染方法においては、
図1に示されたステップS1~S6の各工程、
図13に示されるステップS7B及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。このような本実施例の化学除染方法では、
図15に示される化学除染装置28Eが用いられる。化学除染装置28Eは、実施例6で用いられる化学除染装置28D(
図14参照)に制御装置90が追加された構成を有し、濃度比把握装置62Aが制御装置90に接続される。化学除染装置28Eの他の構成は、化学除染装置28Dと同じである。制御装置90は、酸化剤供給装置39における供給ポンプ41及び44、及び弁43及び46、流量調節弁67,68,69,70,76,77,77A,79及び81のそれぞれにも接続されている。化学除染装置28Eにおける、これらのポンプ及び弁以外のポンプ及び弁のそれぞれにも、制御装置90は接続されている。
【0295】
本実施例の化学除染方法においては、ステップS2~S6,S7B及びS21~S23の各工程が、制御装置90による自動制御で実施される。本実施例の化学除染方法では、上記した各弁及び各ポンプが制御装置90によって制御される。
【0296】
ステップS7Bの還元除染剤の分解工程は、ステップS8,S9,S10B,S16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10Bの酸化剤の供給流量制御工程は、ステップS11A,S12A,S13B,S14,S15B,S18B及びS19Bの各工程を含んでいる。
【0297】
実施例2と同様に、制御装置90による制御によって、該当するそれぞれの弁の開閉操作、循環ポンプ30及び38の駆動が行われ、ステップS1~S6の各工程が実施される。ステップS6の判定が「YES」になったとき、再循環系配管6の内面に対する酸化除染及び還元除染が終了する。
【0298】
その後、還元除染剤の分解工程(ステップS7B)が実施される。まず、シュウ酸水溶液への紫外線の照射(ステップS8)及びステップS9の工程(酸化剤の供給)が、実施例2と同様に実施される。ステップS9の工程では、制御装置90によって、流量調節弁68及び81が閉じられ、流量調節弁79,77A及び77が開けられる。さらに、制御装置90によって、弁43が開けられ、供給ポンプ41が駆動される。弁46は閉じて、供給ポンプ44は停止されたままである。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管42により、例えば、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。その過酸化水素は、紫外線照射装置33内に、直接、供給してもよい。紫外線照射装置33において、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に紫外線が照射される。紫外線照射によって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸の一部が分解される。式(3)の反応で生成された・OHによって、シュウ酸の一部が分解される。
【0299】
ステップS10Bの工程(酸化剤の供給量制御)において、まず、腐食電位の測定(ステップS11A)が実施される。腐食電位計96で測定された腐食電位が濃度比把握装置62Aに入力される。濃度比把握装置62Aは、入力した腐食電位に基づいてFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかを求める。求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかが制御装置90に入力される。制御装置90は、入力したFe3+/Fe2+濃度比の対数及びその濃度比のいずれかに基づいて、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に酸化剤である過酸化水素が含まれているかを判定する(ステップS13B)。紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれている(Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」よりも大きいまたはその濃度比が「10」よりも大きい)と判定されたき、制御装置90は、流量調節弁68及び81を閉じて流量調節弁79,77A及び77を開ける。このため、紫外線が照射されて過酸化水素が含まれたシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される(ステップS14)。そして、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」またはその濃度比が「10」になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される(ステップS15B)。制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を低減させる(または弁43の開度を減少させる)。これによって、過酸化水素の供給量が減少される。ステップS13Bの判定が「NO」になるまで、ステップS14,S15B,S11A,S12A及びS13Bが繰り返される。
【0300】
ステップS13Bの判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18Bの各工程が実施される。まず、ステップS18B及びS19Bの各工程について説明する。
【0301】
制御装置90において、Fe3+/Fe2+濃度比の対数が第1設定値未満である、及びFe3+/Fe2+濃度比が第2設定値未満である、のいずれであるかの判定が行われる(ステップS18B)。制御装置90は、その濃度比の対数が第1設定値である「1」未満またはその濃度比が第2設定値である「10」未満であるとき、ステップS18Bにおいて「YES」と判定し、酸化剤の供給量を増加する(ステップS19B)。そして、ステップS19Bにおいて、制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を増加させ(または弁43の開度を増加させ)、過酸化水素の供給量を増加させる。
【0302】
ステップS18Bの判定が「NO」になるまで、ステップS19B,S11A,S12A,S13B及びS18Bの各工程が繰り返される。やがて、濃度比把握装置62Aで求められたFe3+/Fe2+濃度比の対数が「1」になったとき、または、その濃度比が「10」になったとき、制御装置90がステップS18Bにおいて「NO」と判定する。そして、ステップS16の工程が実施される。ステップS18Bの判定が「NO」になったときには、弁43の開度増加が停止され、上記の循環配管29への過酸化水素の供給量の増加も停止される。
【0303】
ステップS13Bにおける判定が「NO」になったとき、制御装置90が、流量調節弁68及び70を開いて流量調節弁79を閉じる。流量調節弁81は閉じられている。実施例2と同様に、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液がカチオン交換樹脂塔34に供給され(ステップS16)、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+はカチオン交換樹脂塔34で除去される。なお、ステップS18Bの判定が「NO」になった場合においても、シュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が継続される。
【0304】
触媒塔36内で、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が、触媒及び過酸化水素の作用により分解される(ステップS17)。制御装置90によって、弁46が開けられて供給ポンプ44が駆動される。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管45により、循環配管29に供給される。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が触媒塔36内に導かれシュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸及びヒドラジンは、活性炭触媒及び注入された過酸化水素の作用によって分解される。
【0305】
その後、還元除染剤であるシュウ酸の分解が終了したかが判定され(ステップS20)、この判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10B,S16及びS17の各工程が実施される。ステップS20の判定が「YES」になったとき、浄化工程が実施され(ステップS21)、化学除染終了の判定工程(ステップS22)、さらに、排水が実施される(ステップS23)。
【0306】
ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28Eの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0307】
本実施例は実施例1で生じる実施例1で生じる(3)~(8)の各効果、及び実施例6で生じる(19)及び(20)の各効果を得ることができる。また、(21)本実施例では、制御装置90が用いられるため、化学除染装置28Eにおける各弁及び各ポンプを自動制御することができ、さらに、測定された腐食電位を用いて求められたFe3+/Fe2+濃度比に基づいて、紫外線照射装置33及び触媒塔36のそれぞれへの酸化剤の供給量の制御を自動化することができる。
【実施例8】
【0308】
本発明の好適な他の実施例である実施例4の化学除染方法を、
図1、
図3、
図5、
図16及び
図17を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0309】
本実施例の化学除染方法に用いられる化学除染装置28F(
図17参照)は、実施例1で用いられる化学除染装置28(
図1参照)から濃度比把握装置62を削除し、腐食電位計96を表示装置63に接続した構成を有する。化学除染装置28Fの他の構成は、化学除染装置28の構成と同じである。
【0310】
本実施例に化学除染方法では、
図1に示されたステップS1~S6の各工程、
図16に示されたステップS7C及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。ステップS7Cの還元除染剤の分解工程は、ステップS8,S9,S10C,S16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10Cの酸化剤の供給流量制御工程は、ステップS11A,S13C,S14,S15C,S18C及びS19Cの各工程を含む。
【0311】
本実施例の化学除染方法においても、実施例1で実施されたステップS1~S6の各工程が実施される。ステップS6の判定が「YES」になった後、ステップS7Cに含まれるステップS8の工程(還元除染水溶液への紫外線照射)及びステップS9の工程(酸化剤の供給)が実施例1と同様に実施される。
【0312】
開閉弁64、弁65及び66及び流量調節弁67が開いているため、再循環系配管6から循環配管29に戻されたシュウ酸水溶液は、紫外線照射装置33に導かれる。ステップS8の工程において、紫外線照射装置33により、紫外線がシュウ酸水溶液に照射される。さらに、ステップS9の工程において、過酸化水素が、酸化剤供給装置39から供給配管42を通して、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。紫外線が過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に照射されることによって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸の一部が二酸化炭素及び水に分解される(式(2)参照)。式(3)の反応で生成される・OHによってもシュウ酸の一部が分解される。
【0313】
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、流量調節弁68が閉じられているため、カチオン交換樹脂塔34に供給されず、配管78及び75を通って流量調節弁77の下流で循環配管29に戻され、再循環系配管6に供給される。
【0314】
次に、酸化剤の供給量の制御(ステップS10C)が行われる。ステップS10Cの工程では、ステップS11A,S13C,S14,S15C,S18C及びS19Cの各工程が実施される。
【0315】
紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液の腐食電位が腐食電位計96によって測定される(ステップS11A)。測定された腐食電位が表示装置63に表示される。ステップS13Cの工程(酸化剤が含まれているかを判定)では、オペレータが、表示装置63に表示された腐食電位に基づいて、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれているかを判定する。表示された腐食電位が「400mV vs SHE」よりも大きいとき、例えば、その腐食電位が460mV vs SHEであるとき、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれており(
図7参照)、ステップS13Cでの判定が「YES」となる。
【0316】
ステップS13Cでの判定が「YES」であるとき、実施例1と同様に、ステップS14の工程が実施される。すなわち、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が、カチオン交換樹脂塔34をバイパスし、カチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される。紫外線照射装置33から排出されるシュウ酸水溶液に過酸化水素が含まれないようにするため、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる(ステップS15C)。ステップS13Cの判定が「YES」であるため、オペレータが操作盤に設けられたレバーまたはボタンを操作し、操作盤から、過酸化水素の供給量を減少させる制御指令を出力させる。測定された腐食電位が「400mV vs SHE」に低下するように、その制御指令により、供給ポンプ41の回転速度を減少させ(または、弁43の開度を減少させ)、酸化剤供給装置39の薬液タンク40から、例えば、紫外線照射装置33よりも上流の部分で循環配管29に流れているシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量を減少させる。
【0317】
ステップS13Cの判定が「NO」になるまで、ステップS14,S15C,S11A及びS13Cの各工程が繰り返される。このような該当する工程の繰り返しにより、やがて、腐食電位計96で測定された腐食電位が、低減され、少なくとも「400mV vs SHE」になる。この結果、過酸化水素が、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液に含まれなくなり、供給ポンプ41の回転速度の低減が停止される。過酸化水素を含まないシュウ酸水溶液は、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。さらに、測定された腐食電位が「400mV vs SHE」であるとき、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液内でのシュウ酸の分解効率が最も高くなる。
【0318】
ステップS13Cの判定が「NO」であるとき、ステップS16の工程及びステップS18Cの判定(腐食電位が第4設定値未満であるかの判定)が実施される。第4設定値は、腐食電位を用いて酸化剤の供給量の増加が必要であるかを判定するために用いられる設定値である。その第4設定値は、380mV vs SHE以上400mV vs SHE以下の範囲(380mV vs SHE~400mV vs SHEの範囲)内の値にすることが望ましい。ここでは、第4設定値を、例えば、380mV vs SHEとする。測定された腐食電位が「380mV vs SHE」未満になっているときには、ステップS18Cの判定が「YES」になる。ステップS18Cの判定が「YES」である場合には、ステップS19Cの工程(酸化剤の供給量の増加)が実施される。紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液の腐食電位が例えば、360mV vs SHEであるとき、ステップS19Cの工程において、その腐食電位が380mV vs SHEになるように、オペレータにより供給ポンプ41の回転速度が増加され、例えば、紫外線照射装置33に導かれるシュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が増加される。このため、そのシュウ酸水溶液の腐食電位が380mV vs SHEまで増加する。この380mV vs SHEは400mV vs SHE以下であるため、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液は、過酸化水素を含んでいなく、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。
【0319】
ステップS18Cの判定が「NO」になるまで、ステップS19C,S11A,S13C及びS18Cの各工程が繰り返される。ステップS13Cの判定が「NO」になったとき、実施例1と同様に、ステップS16の工程(カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給)が実施される。その後、ステップS18Cの判定が「NO」になったときにも、ステップS16の工程(カチオン交換樹脂塔34へのシュウ酸水溶液の供給)が継続して実施される。さらに、実施例1と同様に、ステップS17の工程(触媒及び酸化剤による還元除染剤の分解)及びステップS20の工程(分解工程終了化の判定)が実施される。ステップS20の判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10C,S16,S17及びS20の各工程が実施される。
【0320】
ステップS20の判定が「YES」になったとき、実施例1と同様に、ステップS21の工程(浄化)、ステップS22の工程(化学除染終了の判定)及びステップS23の工程(排水)が実施される。ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28Fの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0321】
本実施例によれば、実施例1で生じる(1)及び(4)の各効果を得ることができる。さらに、本実施例によれば、以下に示す(22)~(27)の各効果を得ることができる。
【0322】
(22)本実施例では、測定された腐食電位に基づいて、すなわち、その腐食電位が400mV vs SHE以下であれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が過酸化剤を含んでいないと直ちに判定することができる。ちなみに、その腐食電位が400mV vs SHEを超えていれば、紫外線が照射された還元除染水溶液が酸化剤を含んでいると直ちに判定することができる。
【0323】
(23)測定された腐食電位が400mV vs SHEを超える場合、すなわち、紫外線照射された還元除染水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)に酸化剤(例えば、過酸化水素)が含まれている場合には、酸化剤を含む還元除染水溶液のカチオン交換樹脂塔34へのその還元除染水溶液の供給を停止させることができる。このため、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂の劣化を著しく抑制することができ、その陽イオン交換樹脂の寿命を延ばすことができる。
【0324】
(24)紫外線を照射された還元除染水溶液の、測定された腐食電位が400mV vs SHE以下のとき、この還元除染水溶液は酸化剤を含んでいないため、紫外線を照射されて酸化剤を含んでいない還元除染水溶液を、カチオン交換樹脂塔34に供給することができる。この結果、還元除染水溶液に含まれているFe2+を、カチオン交換樹脂塔34内の陽イオン交換樹脂に吸着させて除去することができる。還元除染水溶液からのFe2+の除去は、還元除染対象である再循環系配管6の内面に対する還元除染を促進させることができる。
【0325】
(25)測定された腐食電位が400mV vs SHEよりも大きくなったとき、酸化剤供給装置39から供給配管42により循環配管29に供給される酸化剤の流量を直ちに減少させることができ、紫外線を照射された還元除染水溶液に酸化剤が含まれていない状態を素早く実現することができる。
【0326】
(26)測定された腐食電位が400mV vs SHE以下である第4設定値よりも小さくなったとき、酸化剤供給装置39から供給配管42により循環配管29に供給される酸化剤の流量を増加させることができるため、紫外線が照射された還元除染水溶液におけるその腐食電位を短時間に第4設定値まで増加させることができる。このため、還元除染水溶液に含まれている還元除染剤の分解を促進させることができる。
【0327】
(27)紫外線が照射された還元除染水溶液における腐食電位が第4設定値未満である(ステップS18Cの判定が「YES」)ときに、酸化剤の供給量を増加させ(ステップS19C)、その後、「酸化剤が含まれているか」の判定が実施される(ステップS13C)ので、前述の酸化剤の供給量の増加より、もし、腐食電位が400mV vs SHEを超えた場合には、直ちに、酸化剤の供給量を減少させる(ステップS15C)ことができる。このため、紫外線が照射された還元除染水溶液に酸化剤が含まれている状態を、早期に解消することができる。
【実施例9】
【0328】
本発明の好適な他の実施例である実施例9の化学除染方法を、
図1、
図3、
図5、
図16及び
図18を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、BWRプラントの再循環系配管に適用される。
【0329】
本実施例の化学除染方法においては、
図1に示されるステップS1~S6の各工程、
図16に示されるS7C及び
図1に示されるS21~S23が実施される。このような本実施例の化学除染方法では、
図18に示す化学除染装置28Gが用いられる。化学除染装置28Gは、実施例8で用いられる化学除染装置28F(
図17参照)に制御装置90が追加された構成を有する。化学除染装置28Gの他の構成は、化学除染装置28Fと同じである。腐食電位計96が制御装置90に接続される。制御装置90は、酸化剤供給装置39における供給ポンプ41及び44、及び弁43及び46、流量調節弁67,68,69,70,76,77,77A,79及び81のそれぞれにも接続されている。化学除染装置28Gにおける、これらのポンプ及び弁以外のポンプ及び弁のそれぞれにも、制御装置90は接続されている。
【0330】
本実施例の化学除染方法においては、ステップS2~S6,S7C,及びS21~S23の各工程が、制御装置90による自動制御で実施される。
【0331】
本実施例に化学除染方法では、上記した各弁及び各ポンプが制御装置90によって制御される以外は、実施例8と同様に、
図1に示されたステップS1~S6の各工程、
図16に示されたステップS7C及び
図1に示されたS21~S23の各工程が実施される。ステップS7Cの還元除染剤の分解工程は、ステップS8,S9,S10C,S16,S17及びS20の各工程を含んでいる。さらに、ステップS10Cの酸化剤の供給流量制御工程は、ステップS11A,S13C,S14,S15C,S18C及びS19Cの各工程を含む。
【0332】
実施例2と同様に、制御装置90による制御によって、該当するそれぞれの弁の開閉操作、循環ポンプ30及び38の駆動が行われ、ステップS1~S6の各工程が実施される。ステップS6の判定が「YES」になったとき、再循環系配管6の内面に対する酸化除染及び還元除染が終了する。
【0333】
その後、還元除染剤の分解工程(ステップS7C)が実施される。まず、シュウ酸水溶液への紫外線の照射(ステップS8)及びステップS9の工程(酸化剤の供給)が、実施例2と同様に実施される。ステップS9の工程では、制御装置90によって、流量調節弁68及び81が閉じられ、流量調節弁79,77A及び77が開けられる。さらに、制御装置90によって、弁43が開けられ、供給ポンプ41が駆動される。弁46は閉じて、供給ポンプ44は停止されたままである。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管42により、例えば、紫外線照射装置33の上流において循環配管29内のシュウ酸水溶液に供給される。その過酸化水素は、紫外線照射装置33内に、直接、供給してもよい。紫外線照射装置33において、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液に紫外線が照射される。紫外線照射によって、シュウ酸水溶液に含まれるFe3+がFe2+に還元され、シュウ酸の一部が式(2)の反応で分解される。式(3)の反応で生成された・OHによっても、シュウ酸の一部が分解される。
【0334】
ステップS10Cの工程(酸化剤の供給量制御)において、まず、腐食電位の測定(ステップS11A)が実施される。腐食電位計96で測定された腐食電位が制御装置90に入力される。制御装置90は、入力した腐食電位に基づいて、紫外線が照射されたシュウ酸水溶液に酸化剤である過酸化水素が含まれているかを判定する(ステップS13C)。紫外線が照射されたシュウ酸水溶液の過酸化水素が含まれている(腐食電位が「400mV vs SHE」よりも大きい)と判定されたき、制御装置90は、流量調節弁68及び81を閉じて流量調節弁79,77A及び77を開ける。このため、紫外線が照射されて過酸化水素が含まれたシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が阻止される(ステップS14)。そして、腐食電位が「400mV vs SHE」になるように、シュウ酸水溶液への過酸化水素の供給量が減少される(ステップS15C)。制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を低減させる(または弁43の開度を減少させる)。これによって、過酸化水素の供給量が減少される。
【0335】
ステップS13Cの判定が「NO」になったとき、ステップS16及びS18Cの各工程が実施される。まず、ステップS18C及びS19Cの各工程について説明する。
【0336】
制御装置90によって、腐食電位が腐食電位の第4設定値未満であるかが判定される(ステップS18C)。その第4設定値は、実施例4と同様に、380mV vs SHE以上400mV vs SHE以下の範囲(380mV vs SHE~400mV vs SHEの範囲)内の値にすることが望ましい。制御装置90がステップS18Cにおいて「YES」と判定したとき、酸化剤の供給量が増加される(ステップS19C)。ステップS19Cにおいて、制御装置90は、供給ポンプ41の回転速度を増加させ(または弁43の開度を増加させ)、過酸化水素の供給量を増加させる。
【0337】
ステップS18Cの判定が「NO」になるまで、ステップS19C,S11A,S13C及びS18Cの各工程が繰り返される。やがて、腐食電位計96から入力した腐食電位がこの腐食電位の第4設定値になったとき、制御装置90がステップS18Cにおいて「NO」と判定する。そして、ステップS16の工程が実施される。ステップS18Cの判定が「NO」になったときには、弁43の開度増加が停止され、上記の循環配管29への過酸化水素の供給量の増加も停止される。
【0338】
ステップS13Cにおける判定が「NO」になったとき、制御装置90が、流量調節弁68及び70を開いて流量調節弁79を閉じる。流量調節弁81は閉じられている。実施例2と同様に、紫外線照射装置33から排出されたシュウ酸水溶液がカチオン交換樹脂塔34に供給され(ステップS16)、シュウ酸水溶液に含まれるFe2+はカチオン交換樹脂塔34で除去される。なお、ステップS18Cの判定が「NO」になった場合においても、シュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔34への供給が継続される。
【0339】
触媒塔36内で、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸が、触媒及び過酸化水素の作用により分解される(ステップS17)。制御装置90によって、弁46が開けられて供給ポンプ44が駆動される。薬液タンク40内の過酸化水素が、供給配管45により、循環配管29に供給される。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が触媒塔36内に導かれシュウ酸水溶液に含まれたシュウ酸及びヒドラジンは、活性炭触媒及び注入された過酸化水素の作用によって分解される。
【0340】
その後、還元除染剤であるシュウ酸の分解が終了したかが判定され(ステップS20)、この判定が「NO」であるとき、ステップS20の判定が「YES」になるまで、ステップS8,S9,S10C,S16及びS17の各工程が実施される。ステップS20の判定が「YES」になったとき、浄化工程が実施され(ステップS21)、化学除染終了の判定工程(ステップS22)、さらに、排水が実施される(ステップS23)。
【0341】
ステップS23の排水工程が終了した後、化学除染装置28Gの循環配管29が、化学除染対象の再循環系配管6から取り外される。その後、再循環系配管6が復旧される。燃料交換及びBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転を開始するために、化学除染が実施されたBWRプラント1が起動される。
【0342】
本実施例は実施例1で生じる(1)及び(4)の各効果、及び実施例8で生じる(22)~(27)の各効果を得ることができる。また、(28)本実施例では、制御装置90が用いられるため、化学除染装置28Gにおける各弁及び各ポンプを自動制御することができ、さらに、測定された腐食電位を用いて、紫外線照射装置33及び触媒塔36のそれぞれへの酸化剤の供給量の制御を自動化することができる。
【実施例10】
【0343】
本発明の好適な他の実施例である実施例10の化学除染方法を、
図19を用いて説明する。本実施例の化学除染方法は、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)の再循環系配管に適用される。
【0344】
本実施例の化学除染方法では、実施例1の化学除染方法で実施された
図1に示されるステップS1~S7及びS21~S23の各工程が実施される。しかしながら、本実施例の化学除染方法で実施されるそれらの工程の順番は、実施例1の化学除染方法ではそれらの工程が実施される順番とは異なっている。実施例1の化学除染方法では、ステップS7の工程の後にステップS21,S22及びS23の各工程がこの順番で実施されるのに対して、本実施例の化学除染方法では、
図19に示されるように、ステップS7の工程の後にステップS22,S21及びS23の各工程がこの順番で実施される。
【0345】
本実施例の化学除染方法では、ステップS7の工程において
図2に示されるステップS8~S20の各工程が実施され、
図4及び
図5に示される構造を有する化学除染装置28が
図3に示すように再循環系配管6に接続される。
【0346】
本実施例の化学除染方法は、
図19に示されるように、前述したステップS1~S7の各工程が順番に実施され、さらに、ステップS22,S21及びS23の各工程がこの順番で実施される。
【0347】
本実施例によれば、実施例1で生じる(1)~(10)の各効果を得ることができる。さらに本実施例では、還元除染剤分解工程(ステップS7)のステップS20の判定が終了した後に、ステップS22の判定を行っているので、ステップS22の判定が「NO」になって酸化除染工程(ステップS3)を再度実施したとしても、この酸化除染工程で循環配管29に注入される過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムを、再循環系配管の酸化除染に対して有効に利用することができる。ただし、本実施例では、還元除染剤分解工程(ステップS7)のステップS20の判定終了時には、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が最大で10ppmになっている可能性があるため、再度実施される酸化除染工程で循環配管29に注入された過マンガン酸カリウムは、まず、再循環系配管6及び循環配管29内に存在するシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度が0になるまでシュウ酸によって分解される。このため、実施例1に比べて、酸化除染工程の再実施における注入された過マンガン酸カリウムの有効利用の度合いは低下する。しかしながら、ステップS20の判定終了時におけるシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度は極めて低いため、再実施の酸化除染工程で注入された過マンガン酸カリウムは有効利用を図ることができる。
【0348】
本実施例では、還元除染剤の分解工程(ステップS7)の替りに、
図10に示される還元除染剤の分解工程(ステップS7A)、
図13に示される還元除染剤の分解工程(ステップS7B)及び
図16に示される還元除染剤の分解工程(ステップS7C)のいずれかを実施してもよい。さらに、還元除染剤の分解工程(ステップS7)を実施するとき、
図4に示される化学除染装置28の替りに、
図8に示される化学除染装置28Aを用いてもよい。
図10に示される還元除染剤の分解工程(ステップS7A)を実施するときには、
図11に示される化学除染装置28B及び
図12に示される化学除染装置28Cのいずれかを用いてもよい。
図13に示される還元除染剤の分解工程(ステップS7B)を実施するときには、
図14に示される化学除染装置28D及び
図15に示される化学除染装置28Eのいずれかを用いてもよい。また、
図16に示される還元除染剤の分解工程(ステップS7C)を実施するときには、
図17に示される化学除染装置28F及び
図18に示される化学除染装置28Gのいずれかを用いてもよい。
【0349】
実施例1ないし実施例10のそれぞれの化学除染方法は、加圧水型原子力プラント等の、BWRプラント以外の原子力ブラントの構成部材に対する化学除染に対しても適用することができる。また、加圧水型原子力プラント等の、BWRプラント以外の廃止措置対象の原子力ブラントの構成部材の複数の切断片を、化学除染装置28ないし28Gのいずれか1つの化学除染装置の循環配管の両端部が接続された上記の除染容器内に収納することによって、これらの切断片に対しても実施例1ないし実施例10のそれぞれの化学除染方法を実施することができる。
【符号の説明】
【0350】
1…BWRプラント、2…原子炉、3…原子炉圧力容器、6…再循環系配管、9…タービン、11…給水配管、28,28A…化学除染装置、29…循環配管、30,38…循環ポンプ、33…紫外線照射装置、34…カチオン交換樹脂塔、35…混床樹脂塔、36…触媒塔、37…水位調整タンク、39…酸化剤供給装置、47…化学除染剤供給装置、48…酸化除染剤タンク、51…還元除染剤タンク、57…pH調整剤注入装置、61…酸化還元電位計、62…濃度比把握装置、90…制御装置、96…腐食電位計。