(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】超伝導磁石装置および輻射シールド構造
(51)【国際特許分類】
H01F 6/00 20060101AFI20241218BHJP
H01F 6/04 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01F6/00 130
H01F6/04
(21)【出願番号】P 2021150843
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2024-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 潤
(72)【発明者】
【氏名】森江 孝明
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-506913(JP,A)
【文献】特開平5-175558(JP,A)
【文献】特開2008-306060(JP,A)
【文献】特開平7-22231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00
H01F 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導コイルと、
超伝導コイルを囲むように配置される複数の分割シールド片を有する輻射シールドと、
前記複数の分割シールド片を互いに熱接続し、ステンレス鋼に比べて熱伝導率が大きい高熱伝導金属で形成される熱橋部材と、
前記分割シールド片と前記熱橋部材との間に介在し、前記熱橋部材よりも電気抵抗率が大きい抵抗層と、を備えることを特徴とする超伝導磁石装置。
【請求項2】
前記抵抗層は、不動態被膜であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導磁石装置。
【請求項3】
表面に前記不動態被膜を有し、前記分割シールド片と前記熱橋部材に挟持される金属シートを備えることを特徴とする請求項2に記載の超伝導磁石装置。
【請求項4】
前記金属シートは、ステンレス鋼、アルミニウム、またはクロムで形成されることを特徴とする請求項3に記載の超伝導磁石装置。
【請求項5】
前記分割シールド片も、前記高熱伝導金属で形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超伝導磁石装置。
【請求項6】
前記高熱伝導金属は、純銅または純アルミニウムであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の超伝導磁石装置。
【請求項7】
超伝導コイルを囲むように配置される複数の分割シールド片を有する輻射シールドと、
前記複数の分割シールド片を互いに熱接続し、ステンレス鋼に比べて熱伝導率が大きい高熱伝導金属で形成される熱橋部材と、
前記分割シールド片と前記熱橋部材との間に介在し、前記熱橋部材よりも電気抵抗率が大きい抵抗層と、を備えることを特徴とする超伝導コイル用輻射シールド構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石装置および輻射シールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超伝導磁石装置は、真空容器と、真空容器内で極低温に冷却される超伝導コイルと、真空容器内で超伝導コイルを囲む輻射シールドとを有する。輻射シールドは、真空容器から超伝導コイルへの輻射による入熱を防ぐために、超伝導コイルよりも高温であるが極低温に冷却される。輻射シールドは通例、銅などの熱伝導率の良い金属材料の薄板で形成される。こうした材料はたいてい導電性にも優れるので、輻射シールドには、作用する磁場の変動により渦電流が誘起される。とくに、超伝導コイルのクエンチが起きた場合には磁場が急変するため大きな渦電流が誘起され、磁場と渦電流の相互作用により大きなローレンツ力が生じ、輻射シールドが変形、破損することが懸念される。そこで、従来、輻射シールドにスリットを設けて複数部分に分割することにより、個々の分割部分に誘起される渦電流ひいてはローレンツ力を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、分割された輻射シールドでは、非分割の輻射シールドに比べて、シールド部分間に温度差がつきやすい。極低温冷凍機などの冷却源からの伝熱経路が長い分割部分は、伝熱経路が短い分割部分に比べて冷却されにくく、温度が高まりやすいためである。相対的に高温のシールド部分が熱源となり、超伝導コイルへの入熱が増すことが懸念される。したがって、分割構造の輻射シールドは上述のようにローレンツ力の低減に有効である反面、超伝導コイルへの入熱低減という本来の役割では一体構造の輻射シールドよりも不利となりうる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超伝導コイルに入る輻射熱を低減する分割構造の輻射シールドおよびこれを有する超伝導磁石装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、超伝導磁石装置は、超伝導コイルと、超伝導コイルを囲むように配置される複数の分割シールド片を有する輻射シールドと、複数の分割シールド片を互いに熱接続し、ステンレス鋼に比べて熱伝導率が大きい高熱伝導金属で形成される熱橋部材と、分割シールド片と熱橋部材との間に介在し、熱橋部材よりも電気抵抗率が大きい抵抗層と、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、超伝導コイル用輻射シールド構造は、超伝導コイルを囲むように配置される複数の分割シールド片を有する輻射シールドと、複数の分割シールド片を互いに熱接続し、ステンレス鋼に比べて熱伝導率が大きい高熱伝導金属で形成される熱橋部材と、分割シールド片と熱橋部材との間に介在し、熱橋部材よりも電気抵抗率が大きい抵抗層と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超伝導コイルに入る輻射熱を低減する分割構造の輻射シールドおよびこれを有する超伝導磁石装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る超伝導磁石装置を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る輻射シールドの分割構造の接続部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る超伝導磁石装置10を概略的に示す図である。超伝導磁石装置10は、例えば単結晶引き上げ装置、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)システム、MRI(Magnetic Resonance Imaging)システム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。
【0012】
超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12と、真空容器14と、輻射シールド16と、極低温冷凍機18とを備える。
【0013】
超伝導コイル12は、真空容器14内に配置される。超伝導コイル12は、真空容器14に設置された例えば二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機またはその他の形式の極低温冷凍機18と熱的に結合され、超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で使用される。この実施形態では、超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12を極低温冷凍機18によって直接冷却する、いわゆる伝導冷却式として構成される。なお、他の実施形態では、超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸漬する浸漬冷却式で構成されてもよい。
【0014】
真空容器14は、超伝導コイル12を超伝導状態とするのに適する極低温真空環境を提供する断熱真空容器であり、クライオスタットとも呼ばれる。通例、真空容器14は、円柱状の形状、または中心部に中空部を有する円筒状の形状を有する。よって、真空容器14は、概ね平坦な円形状または円環状の天板14aおよび底板14bと、これらを接続する円筒状の側壁(円筒状外周壁、または同軸配置された円筒状の外周壁および内周壁)とを有する。極低温冷凍機18は真空容器14の天板14aに設置されてもよい。真空容器14は、周囲圧力(たとえば大気圧)に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。また、真空容器14には、真空容器14の外に配置されるコイル電源から超伝導コイル12に給電するための電流導入端子(図示せず)が設けられる。
【0015】
輻射シールド16は、真空容器14内で超伝導コイル12を囲むように配置される。輻射シールド16は、真空容器14の天板14aおよび底板14bそれぞれに対向する天板16aおよび底板16bを有する。輻射シールド16の天板16aおよび底板16bは、真空容器14と同様に、概ね平坦な円形状または円環状の形状をもつ。また輻射シールド16は、天板16aと底板16bを接続する円筒状の側壁(円筒状外周壁、または同軸配置された円筒状の外周壁および内周壁)を有する。輻射シールド16は、真空容器14からの輻射熱を遮蔽し、輻射シールド16の内側に配置され輻射シールド16よりも低温に冷却される超伝導コイル12などの低温部を輻射熱から熱的に保護することができる。
【0016】
極低温冷凍機18の一段冷却ステージが輻射シールド16の天板16aと熱的に結合され、極低温冷凍機18の二段冷却ステージが輻射シールド16の内側で超伝導コイル12と熱的に結合される。超伝導磁石装置10の運転中、輻射シールド16は、極低温冷凍機18の一段冷却ステージによって、第1冷却温度、例えば30K~70Kに冷却され、超伝導コイル12は、極低温冷凍機18の二段冷却ステージによって、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20K(例えば約4K)に冷却される。
【0017】
輻射シールド16は、複数、この例では2つの分割シールド片17a、17bを有し、分割シールド片17a、17bは、スリット(分割線)20により互いに分離され、超伝導コイル12を囲むように配置される。好ましくは、輻射シールド16は、超伝導コイル12が発生させる磁場が輻射シールド16に誘起する渦電流の経路を切断するように、分割される。これにより、個々の分割シールド片17a、17bに誘起される渦電流は、一体構造の輻射シールドに誘起されうる渦電流に比べて低減される。輻射シールド16が円筒状の形状を有しその中心軸に垂直な方向に磁場が作用する場合、渦電流は中心軸まわりに輻射シールド16の周方向に沿って誘起されうるので、輻射シールド16は周方向に分割されてもよい。輻射シールド16を構成する分割シールド片の数は、特に限定されない。
【0018】
輻射シールド16は、この例では、純銅(例えば、無酸素銅、タフピッチ銅など)で形成される。純銅は、例えば、99.9%以上、または99.95%以上の純度を有してもよい。あるいは、輻射シールド16は、純アルミニウム(例えば純度99.5%以上)で形成されてもよい。純アルミニウムは、100K以下の極低温でそれよりも高い温度帯に比べて高い熱伝導率を示し、温度が下がるにつれて熱伝導率が増加し、20K以下の極低温で良好な熱伝導率を示すことが知られている。あるいは、輻射シールド16は、銀、金などの高熱伝導金属、または、少なくともステンレス鋼よりも熱伝導率が大きい他の高熱伝導金属で形成されてもよい。
【0019】
複数の分割シールド片17a、17bは、熱橋部材22によって互いに熱接続される。分割シールド片17a、17bどうしは、熱橋部材22のみによって互いに熱接続され、すなわち、熱橋部材22がこれら分割シールド片17a、17bをつなぐ唯一の熱伝導の経路となっている。熱橋部材22は、複数の分割シールド片17a、17bを隔てるスリット20の一部分のみを架橋し、スリット20の残部に熱橋部材22は設けられなくてもよい。図示の例では、熱橋部材22は、分割シールド片17a、17bそれぞれの天板16aを互いに接続している。よって、底板16bのスリット20には熱橋部材22で架橋されていない。輻射シールド16の側壁のスリット20にも熱橋部材22は設けられていない。
【0020】
極低温冷凍機18が一方の分割シールド片17aの天板16aに接続される場合、熱橋部材22は、極低温冷凍機18から他方の分割シールド片17bへの実質的に最短の伝熱経路を形成しうる。これは、極低温冷凍機18から離れている他方の分割シールド片17bを効率的に冷却し、分割シールド片17a、17bの温度差を小さくし、輻射シールド16を均一に冷却することに役立つ。また、この例では天板16aは平坦であるから、円筒状の側壁に熱橋部材22を取り付ける場合に比べて、熱橋部材22の取付が容易であるという利点もある。
【0021】
なお、他の実施形態では、熱橋部材22は、分割シールド片17a、17bを底板16bで接続してもよいし、円筒状の側壁で接続してもよい。あるいは、複数の熱橋部材22が設けられ、分割シールド片17a、17bが、例えば天板16aと底板16bなど、複数箇所で接続されてもよい。あるいは、熱橋部材22は、スリット20の全長にわたって延在し、分割シールド片17a、17bを天板16a、底板16b、および側壁で接続してもよい。
【0022】
熱橋部材22は、高熱伝導金属、例えば、ステンレス鋼に比べて熱伝導率が大きい高熱伝導金属で形成される。熱橋部材22は、分割シールド片17a、17bと熱膨張率が等しく、または近似する材料、例えば、純銅または純アルミニウムなど、分割シールド片17a、17bと同じ高熱伝導金属で形成されてもよい。このようにすれば、熱橋部材22と分割シールド片17a、17bの熱膨張率を合わせることができるので、極低温冷却に伴い熱橋部材22と分割シールド片17a、17bとの間に生じうる熱応力を最小限に抑えることができる。
【0023】
図2は、実施の形態に係る輻射シールド16の分割構造の接続部を概略的に示す図である。分割構造の接続部は、分割シールド片17a、17bと熱橋部材22に挟持される金属シート24を有する。金属シート24は、その本体24aの表面が熱橋部材22よりも電気抵抗率が大きい抵抗層で覆われ、上面抵抗層24bと下面抵抗層24cを有する。上面抵抗層24bが熱橋部材22と金属シート24との接触界面を形成し、下面抵抗層24cが分割シールド片17a、17bと金属シート24との接触界面を形成する。
【0024】
この実施形態では、金属シート24は、例えば、ステンレス鋼のシートである。ステンレス鋼で形成される部材は一般に、その表面に不動態被膜を有する。金属シート24の表面は不動態被膜で覆われている。よって、上面抵抗層24bと下面抵抗層24cは、不動態被膜である。なお、金属シート24の材料はステンレス鋼には限られない。金属シート24は、例えば、アルミニウム、クロムなど、表面に不動態被膜を形成する他の金属材料で形成されてもよい。
【0025】
金属シート24には上面抵抗層24bと下面抵抗層24cがあり、一方の分割シールド片17aと熱橋部材22の間に複数(この例では2つ)の抵抗層が設けられている。分割シールド片17aから熱橋部材22に渦電流が流れようとするとき、これら抵抗層は直列接続されていることになるから、抵抗層が1つだけの場合に比べて、渦電流の抑制効果が大きくなる。
【0026】
熱橋部材22と分割シールド片17a、17bとは、間に金属シート24を挟み込んだ状態で、例えばボルトなどの締結部材を用いて機械的に固定される。適用できる場合には、溶接、接着など適宜の固定方法により、熱橋部材22と分割シールド片17a、17bが固定されてもよい。
【0027】
なお、分割シールド片17a、17bと熱橋部材22の熱接触をより良くするために、良好な熱伝導性をもつグリスが、分割シールド片17a、17bと金属シート24の間に、及び/または、熱橋部材22と金属シート24の間に、塗布されてもよい。
【0028】
分割シールド片17a、17bの厚さD1は典型的に、ミリメートルオーダーであり、天板16aおよび底板16bについては例えば5~10mm程度であり、輻射シールド16の側壁については例えば1~3mm程度であってもよい。熱橋部材22の厚さD2も、分割シールド片17a、17bの厚さD1と同程度であってもよい。
【0029】
これに対して、金属シート24の厚さD3は、分割シールド片17a、17bの厚さD1よりも小さく、及び/または、熱橋部材22の厚さD2よりも小さい。実際のところ、熱橋部材22を介した分割シールド片17a、17b間の熱伝導をよくするために、金属シート24の厚さD3は、なるべく薄いことが好ましく、厚くとも例えば200μmであり、例えば20μmから100μm程度であってもよい。上面抵抗層24bと下面抵抗層24cは、金属シート24上の不動態被膜であるため、さらに薄く、典型的にはナノメートルオーダーであり、例えば1~10nm程度でありうる。
【0030】
実施形態によると、分割シールド片17a、17bどうしが熱橋部材22を介して構造上接続されているが、上面抵抗層24bと下面抵抗層24cが分割シールド片17a、17bと熱橋部材22との間に介在する。上面抵抗層24bと下面抵抗層24cは不動態被膜であり、分割シールド片17a、17bから熱橋部材22に流れようとする渦電流を妨げる(または低減する)のに十分な電気抵抗を有する。
【0031】
本発明者によるシミュレーションによると、超伝導磁石装置10の仕様上起こりうる磁場変動によって輻射シールド16に誘起される渦電流の大きさは、本実施形態(熱橋部材22を有するシールド分割構造)と比較例(熱橋無しの従来のシールド分割構造)で同程度となることが確認されている。つまり、本実施形態は、既存の分割構造と同等の渦電流低減効果をもたらすことができる。
【0032】
よって、実施形態に係る超伝導磁石装置10は、超伝導コイルのクエンチなど磁場変動に伴い発生する渦電流およびローレンツ力を低減することができ、ローレンツ力によって生じうる輻射シールド16の変形、破損のリスクを軽減できる。
【0033】
金属シート24は十分に薄いため、分割シールド片17a、17bと熱橋部材22間の熱コンダクタンスへの影響は顕著で無いか、無視しうる。上面抵抗層24bと下面抵抗層24cの厚さは極小であり、分割シールド片17a、17bと熱橋部材22間の伝熱に実質的に影響しない。本発明者によるシミュレーションによると、極低温冷凍機18と直接結合された分割シールド片の冷却温度に対してこれに隣接する分割シールド片の温度上昇は、本実施形態(熱橋部材22を有するシールド分割構造)で、比較例(熱橋無しの従来のシールド分割構造)と比べて実用上十分に低減されることが確認されている。本実施形態は、分割構造の輻射シールド16を有するにもかかわらず、一体構造の輻射シールドと同様に全体を均一に冷却することができる。
【0034】
このように、輻射シールド16は、導電性の観点からは分割構造とみることができ、熱伝導の観点からは一体構造とみることができる。したがって、実施形態によると、渦電流対策と極低温冷却下での温度分布の均一化を両立し、超伝導コイル12への輻射入熱を抑制する分割構造の輻射シールド16およびこれを有する超伝導磁石装置10を提供できる。
【0035】
他の比較例として、シート状の絶縁樹脂(例えばポリイミドシート)を熱橋部材として利用する構成も考えられる。しかし、このような絶縁樹脂層は一般に熱抵抗が大きく、分割シールド間の温度分布の改善には寄与しない。熱橋部材をステンレス鋼で形成した場合にも、ステンレス鋼は純銅など好適な高熱伝導金属に比べて熱伝導率がかなり低く、やはり温度分布は改善されない。熱伝導率の良い絶縁材料(例えば窒化アルミニウムなど)で熱橋部材を形成することも考えられる。しかし、こうした絶縁材料は、割れやすく、取り扱いにくい。輻射シールド材料との熱収縮率のミスマッチもあるので、使いにくい。
【0036】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0037】
上述の実施の形態では、不動態被膜を有する金属シート24を例として、シールド分割構造の接続部への抵抗層の実装を説明しているが、他の構成も可能である。ある実施形態では、熱橋部材22自体の表面に抵抗層、例えば不動態被膜が形成されてもよい。例えば、熱橋部材22の本体は上述のように、純銅など高熱伝導金属で形成され、その表面に例えばステンレス鋼、アルミニウム、クロムなどの不動態被膜を形成する金属の層(例えばめっき層)が形成されてもよい。このようにすれば、熱橋部材22を分割シールド片17a、17bに固定すれば熱橋部材22と分割シールド片17a、17bの間に不動態被膜を介在させることができる。よって、熱橋部材22と分割シールド片17a、17bの間に金属シート24を挟み込むことは、必須ではない。
【0038】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0039】
10 超伝導磁石装置、 12 超伝導コイル、 16 輻射シールド、 17a、17b 分割シールド片、 22 熱橋部材、 24 金属シート、 24b 上面抵抗層、 24c 下面抵抗層。