(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】電源装置及び計測機器
(51)【国際特許分類】
G21D 3/04 20060101AFI20241218BHJP
H03F 3/45 20060101ALI20241218BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20241218BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G21D3/04 Q
H03F3/45
H01L27/04 H
(21)【出願番号】P 2021157839
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑名 諒
(72)【発明者】
【氏名】増永 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦三
(72)【発明者】
【氏名】原 勲
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-220888(JP,A)
【文献】特開平04-009790(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 3/00
G01C 17/00
G01T 1/00-1/16
1/167-7/12
H03F 1/00、3/00
H01L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプ
と、前記オペアンプの入力端子に接続された抵抗と、前記オペアンプの出力端子と前記入力端子との間に接続されたフィードバック抵抗とを有し、所定の電圧を出力する電源回路を備え、
前記フィードバック抵抗の抵抗値を調整することで前記オペアンプの出力
が放射線起因飽和領域の上限以下とされ、前記放射線起因飽和領域の上限は、前記オペアンプの放射線照射による劣化が収束した時点における前記オペアンプの出力値である
電源装置。
【請求項2】
前記オペアンプの出力側に、電圧増幅率が1より大きい増幅回路を備える
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記増幅回路は、前記シリコンを用いたバイポーラトランジスタか、前記シリコンよりもバンドギャップの大きい前記半導体を用いたバイポーラトランジスタか、前記半導体を用いたMOS型電界効果トランジスタか、又はこれらの組合せである
請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記シリコンよりもバンドギャップの大きい前記半導体が、炭化ケイ素である
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電源装置。
【請求項5】
シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプ
と、前記オペアンプの入力端子に接続された抵抗と、前記オペアンプの出力端子と前記入力端子との間に接続されたフィードバック抵抗とを有し、所定の電圧を出力する電源回路と、
前記電源回路が出力する前記所定の電圧を利用して計測を行う計測部と、を備え、
前記フィードバック抵抗の抵抗値を調整することで前記オペアンプの出力が放射線起因飽和領域の上限以下とされ、前記放射線起因飽和領域の上限は、前記オペアンプの放射線照射による劣化が収束した時点における前記オペアンプの出力値である
計測機器。
【請求項6】
前記計測部は、少なくとも圧力、温度、流量、水位、超音波のいずれかを測定するセンサである
請求項5に記載の計測機器。
【請求項7】
前記計測部は、電子回路が含まれないか、又は、アナログ回路若しくはシリコンよりもバンドギャップが大きい前記半導体を用いて構成される
請求項5に記載の計測機器。
【請求項8】
前記計測部の出力信号を処理する信号処理部を備える
請求項5に記載の計測機器。
【請求項9】
前記信号処理部は、電子回路で構成され、
前記電子回路は、アナログ回路、又はシリコンよりもバンドギャップが大きい前記半導体を用いて構成される
請求項8に記載の計測機器。
【請求項10】
前記シリコンよりもバンドギャップの大きい前記半導体が、炭化ケイ素である
請求項5乃至9のいずれか一項に記載の計測機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線環境で用いられる電源装置及び当該電源装置を利用した計測機器に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントなどの放射線にさらされる環境では、温度、水位、放射線などさまざまな計測が求められている。一方で、計測機器の電子回路に含まれる半導体素子が放射線の電離作用により劣化(以下「放射線劣化」と称する)するため、特に高放射線環境においては計測機器を用いることが難しい。
【0003】
これら計測機器の放射線による故障要因の一つとして、半導体素子を含む電源回路の故障がある。電源回路に一般的に増幅器として用いられるオペアンプ(オペレーショナル・アンプリファイアの略)の放射線劣化により、電源回路の出力が低下することで計測機器の性能が不良となる。通常、電源出力の減衰を防止するため、電源回路は計測機器の近くに配置するか、計測機器に内蔵される。また、オペアンプは、少なくとも2つのトランジスタで構成された差動増幅回路により入力端子間の電位差に応じて増幅動作するため、個々のトランジスタが劣化するとオペアンプとしての性能が低下(故障)しやすい。
【0004】
放射線環境で半導体素子を有する電子回路を正常動作させる方法としては、特許文献1に開示されるように、炭化ケイ素(SiC)を用いた半導体素子に放射線を事前照射し、劣化が収束したところで実機に組み込む手法が知られている。この手法により放射線耐性を向上できるが、放射線の線源を用いる手法であることから管理が煩雑となりコストがかかる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先述した電源回路を構成する半導体素子の放射線劣化の問題に対し、本願の発明者らは、電源回路の中で最も放射線に弱いオペアンプに、従来のシリコン半導体に代えてSiCのような高バンドギャップ半導体を用いることで、電源回路の放射線耐性を大幅に向上させている。
【0007】
しかし、この対策においても、半導体素子に事前に照射する放射線の積算線量がkGy~MGyオーダとなると、放射線によって半導体素子(電子回路)が劣化する可能性がある。したがって、高放射線環境においても電子回路の放射線劣化の影響を低減する必要があるが、先述したとおり、放射線の事前照射による対策ではコストが多くなり、管理も煩雑となる。
【0008】
本発明は上記の状況に鑑みてなされ、本発明の目的は、放射線耐性に優れ、簡易な運用の、かつ低コストの電源装置及び計測機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る電源装置は、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプを有し、所定の電圧を出力する電源回路を備える。当該オペアンプの出力は、放射線起因飽和領域の上限以下とされ、この放射線起因飽和領域の上限は、オペアンプの放射線照射による劣化が収束した時点におけるオペアンプの出力値である。
【0010】
また、本発明の一態様に係る計測機器は、上記電源装置と、当該電源装置の電源回路が出力する所定の電圧を利用して計測を行う計測部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の少なくとも一態様によれば、放射線耐性に優れ、簡易な運用の、かつ低コストの電源装置及び計測機器を提供できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電源装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る電源装置の使用環境の例を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るオペアンプの放射線照射量に応じた出力範囲変化を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る電源装置の構成例を示す図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る計測機器の構成例を示す図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係る計測機器の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0014】
<第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態に係る電源装置について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電源装置の構成例を示す図である。
図示する電源装置1は、半導体増幅素子を有する電源回路10を備える。半導体増幅素子は、シリコンよりもバンドギャップが大きく放射線耐性に優れる材料(例えば、炭化ケイ素(SiC))で構成されたオペアンプ11である。例えば、オペアンプ11の出力端子と一方の入力端子(例えば、反転入力端子)との間には、オペアンプ11の出力を当該入力端子に戻すフィードバック抵抗12が接続されている。オペアンプ11の他方の入力端子(例えば、非反転入力端子)は接地されている。正負の電源端子については記載を省略している。電源回路10は外部からの供給電源を受けて、計測機器の計測部等へ電源を出力する。
【0015】
図1に示す電源回路10は、当該電源回路10の一部を示したに過ぎない。例えば、オペアンプ11は反転増幅回路として構成されているが、非反転増幅回路であってもよい。
【0016】
ここで、電源装置1の使用環境について
図2を用いて説明する。
図2は、電源装置1の使用環境の例を示す図である。
計測機器30は電源装置1(電源回路10)を内蔵している。既述のとおり、電源出力の減衰を防止するため、電源回路は計測機器の近くに配置するか、計測機器に内蔵される。
図2では、低放射線環境にある元電源20(外部電源)から高放射線環境で使用される計測機器30に対して、24Vの電源電圧が供給される例が示されている。計測機器30では、電源装置1(電源回路10)により24Vの電源電圧を±4Vに変換し、オペアンプ11の駆動電源として利用する。この電圧値は一例である。
【0017】
このように、計測機器30は外部の元電源20から電源の供給を受け、計測機器30に内蔵の電源装置1(電源回路10)で電源電圧を降圧して計測に利用することで、電源回路10の電源出力の減衰を防止する。
【0018】
図1の電源装置1の説明に戻る。後述の
図3に示すように、本実施形態では、電源回路10を構成するオペアンプ11の出力を放射線起因飽和領域の上限以下で運用する。放射線起因飽和領域とは、シリコンよりもバンドギャップの大きなオペアンプ11が放射線照射により出力値上限が低下していき、その低下が収束(飽和)した時点の出力値以下の範囲である。すなわち、放射線起因飽和領域の上限は、オペアンプ11の放射線照射による劣化が収束した時点におけるオペアンプ11の出力値である。オペアンプ11の出力が放射線起因飽和領域の範囲内であれば、オペアンプ11は入力に対して線形に増幅が可能である。具体的には
図3を用いて説明する。
【0019】
本実施形態では、電源回路10(
図1)を構成する回路素子(例えば、フィードバック抵抗12)等を調整して、オペアンプ11の出力を放射線起因飽和領域の上限以下とする。例えば、オペアンプ11の一方の入力端子(例えば、反転入力端子)には不図示の抵抗が接続されており、オペアンプ11及び各抵抗を含む反転増幅回路の増幅率の大きさは、不図示の抵抗とフィードバック抵抗12との比により決まる。よって、フィードバック抵抗12の抵抗値を調整することで、当該反転増幅回路の出力電圧の大きさを設定することができる。非反転増幅回路であっても、フィードバック抵抗12の抵抗値によって出力電圧を調整するという考え方は同じである。
【0020】
回路素子の抵抗等の値は、電源回路10と同じ構成の電源回路に対して放射線を照射する実験を行い決定する。あるいは、シミュレーションにより回路素子の抵抗等の値を計算してもよい。基本的にオペアンプ11の入力電圧(外部からの供給電源)は一定であるから、必要な回路素子の抵抗等の値を調整することで対応可能である。
【0021】
オペアンプ11が実装される電源回路10をこのように構成することで、電源回路10が放射線劣化の影響を受けにくくなる。そのため、電源回路10は、高放射線環境においても、簡易な構成で正確な電源電圧を安定的に提供することが可能となる。
【0022】
図3は、オペアンプ11の放射線照射量に応じた出力範囲変化を示す図である。
図3の横軸はオペアンプ11の入力電圧、縦軸はオペアンプ11の出力電圧である。
【0023】
オペアンプ11のような半導体増幅素子は、例えば、絶縁層に放射線が照射されると、コンプトン効果により電子-正孔対が生成され、絶縁層及び半導体との界面に固定電荷や界面準位が形成される。この影響によりしきい値電圧の変動が起こり、半導体素子の特性を劣化させる。
【0024】
これに対して、本発明者らは、オペアンプ11を従来の半導体素子材料であるSi(ケイ素)から、耐放射線性能に優れるワイドバンドギャップ半導体であるSiCに変更することで、放射線照射における界面準位の生成を抑制し、半導体素子の耐放射線性能を大幅に向上している。具体的には、従来のSi製のオペアンプ(Siオペアンプ)が数kGyで故障するのに対して、SiC製のオペアンプ(SiCオペアンプ)はMGyオーダでも増幅機能が正常に動作することを確認している。
【0025】
このように、SiCオペアンプであれば放射線の影響を大幅に低減できるが、オフセット電圧と出力範囲(特に出力上限)に多少の影響が出ることが明らかになった。
【0026】
一つ目のオフセット電圧に関しては、SiCオペアンプに初期値(0Gy)からMGyオーダ(図中のXGy)まで放射線が照射されることで数mVの変動が起こる。初期値の放射線照射時における出力値は、通常線形領域の上限値Anである。これは、絶縁層及び半導体との界面に固定電荷や界面準位が形成される影響であるが、SiCオペアンプの場合、Siオペアンプと異なり界面準位の生成が限りなく少なくなるために数mVの変動で留まっている。この程度の変動であれば、電源回路10への出力影響は誤差範囲程度であり、回路全体への影響も小さい。
【0027】
一方、Siオペアンプでは、照射される放射線の量が10kGy程度であっても、Vオーダまでオフセット電圧が増加してしまい、Siオペアンプを使用した電源回路の正常動作は難しくなる。
【0028】
二つ目の出力範囲については、固定電荷の蓄積によるスループット低下などの影響により、SiCオペアンプの出力範囲が狭くなる、すなわち最大出力値(上限値)が小さくなる。これは、SiCオペアンプの最大増幅率が低下したと言い換えることもできる。
図3に示すように、SiCオペアンプにおいては、最大出力が少しずつ低下していき、ある一定の積算線量(
図3はXGy)で収束することが実験的に分かった。これは、界面での固定電荷の飽和(新たな蓄積なし)に起因しているものと考えられる。
【0029】
この収束までの積算線量は、SiCオペアンプの構造や製造プロセスで異なる値となるが、おおむね10kGy~500kGyの間である。この収束した時点のSiCオペアンプの最大出力値を放射線起因飽和領域の上限値Asと定義する。ただし、収束までの積算線量はこの範囲に限定されない。本実施形態では、オペアンプ11の出力特性が線形を維持する放射線起因飽和領域の範囲内で、オペアンプ11を動作させる。すなわち、オペアンプ11の出力が放射線の影響を受けない範囲で、オペアンプ11を電源回路に実装する。
【0030】
以上のとおり、第1の実施形態に係る電源装置は、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなる半導体増幅素子を有し、所定の電圧を出力する電源回路(電源回路10)を備える。半導体増幅素子はオペアンプ(オペアンプ11)であって、当該オペアンプの出力は、放射線起因飽和領域の上限以下となるように設定されている。この放射線起因飽和領域の上限は、オペアンプの放射線照射による劣化が収束した時点におけるオペアンプの出力値である。
【0031】
上記構成の第1の実施形態によれば、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプ11の出力を放射線起因飽和領域の上限以下とすることで、オペアンプ11が入力信号(入力電圧)に対して線形に出力できる。そのため、電源回路10は放射線照射によるオペアンプ11の劣化の影響を受けずに動作が可能となり、放射線環境においても正常な電源装置1の出力を提供できる。また、オペアンプ11に対する事前の放射線照射が不要となるため運用が簡易であり、コストも抑えられる。
【0032】
なお、オペアンプ11に、シリコンよりもバンドギャップの大きい半導体として炭化ケイ素(SiC)を用いたが、窒化ガリウム、ダイヤモンド半導体などを用いてもよい。
【0033】
また、オペアンプ11に用いられる増幅機能を有する半導体素子(トランジスタ)は、例えば、特許文献1に記載の増幅機能を有する半導体素子を用いることができる。例えば、特許文献1に記載されているように、ゲート絶縁膜及びゲート電極を有する構成の半導体としては、MOS型電界効果トランジスタ、絶縁ゲート型パイポーラトランジスタ(IGBT)、等が挙げられる。また、絶縁膜及び電極層を有する構成の半導体としては、接合型電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲートを有しないバイポーラトランジスタ、等が挙げられる。さらに、電極層と絶縁層を有する構成の半導体素子としては、接合型電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲートを有しないバイポーラトランジスタ、等が挙げられる。
【0034】
<第2の実施形態>
第2の実施形態は、第1の実施形態におけるオペアンプ11の出力側(後段)に増幅回路を設けてオペアンプ11から出力された電圧を高くする例である。
【0035】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る電源装置の構成例を示す図である。
図示する電源装置1は、電源回路10Aを備える。電源回路10Aは、基本的な構成は第1の実施形態の電源回路10と同じである。さらに、電源回路10Aは、オペアンプ11の出力端子に、抵抗17を介して増幅回路15が接続されている。増幅回路15は、半導体増幅素子としてトランジスタ16を備える。オペアンプ11の出力電圧に応じた電流が、抵抗17を介して増幅回路15が備えるトランジスタ16のベースに供給される。ここで、増幅回路15の電圧増幅率は1よりも大きい値に設定される。
【0036】
上述した第1の実施形態においては、オペアンプ11の出力電圧を放射線起因飽和領域の上限以下まで下げた場合、耐放射線性能は向上する一方で、電源回路10の出力値上限が低下するというトレードオフが存在する。
【0037】
したがって、電源回路10を用いる機器(例えば計測機器30)が高い電源電圧を必要とする場合、第1の実施形態では電源装置1の性能が不十分となる可能性がある。そのため、第2の実施形態のように、オペアンプ11の出力側(後段)に電圧増幅率>1の増幅回路15を設けることが有効となる。増幅回路15とオペアンプ11の出力端子との間には抵抗17が接続されている。
【0038】
上記構成において、オペアンプ11の出力側(後段)に設けられた増幅回路15として、放射線に比較的強いSi製のバイポーラトランジスタがより低コストのため望ましい。ただし、増幅回路15は、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体(例えばSiC)からなるバイポーラトランジスタとしてもよいし、SiC等のMOS型電界効果トランジスタとしてもよいし、これらの組合せでもよい。また、同様のワイドバンドギャップ半導体を用いた他の構造のトランジスタでもよい。
【0039】
以上のように構成された第2の実施形態に係る電源装置(電源回路)によれば、第1の実施形態と同様に、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプ11の出力を放射線起因飽和領域の上限以下とすることで、オペアンプ11が放射線劣化の影響を受けにくくなる。また、本実施形態では、オペアンプ11の出力側に電圧増幅率が1よりも大きい増幅回路15を設けることで、高放射線環境においても正常でかつ広出力範囲の電源電圧を安定的に提供することが可能となる。さらに、オペアンプ11に対する事前の放射線照射が不要となるため運用が簡易であり、コストも抑えられる。
【0040】
<第3の実施形態>
第3の実施形態は、電源装置1が組み込まれた計測機器の例である。ここでは、第1の実施形態の電源装置1を用いて説明するが、第2の実施形態の電源装置1でも同様である。
【0041】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る計測機器の構成例を示す図である。
図示する計測機器30は、計測部31と、半導体増幅素子を有する電源装置1(電源回路10)を備える。電源装置1は計測部31に電源電圧を出力する。計測部31は電源装置1から供給される電源により動作し、計測値を出力する。
【0042】
上記構成において、計測部31は、圧力、温度、流量、水位、超音波などを測定し、電源回路10の電源出力を必要とするセンシング方式であればどのようなセンサでもよい。
【0043】
また、計測部31に使用されるセンサは、電子回路が含まれないか、デジタル回路よりも放射線に比較的強いアナログ回路か、放射線耐性に優れるSiCなどのワイドバンドギャップ半導体で構成されることが望ましい。
【0044】
以上のように構成された第3の実施形態によれば、第1及び第2の実施形態と同様に、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプ11の出力を放射線起因飽和領域の上限以下とすることで、オペアンプ11が入力信号に対して線形に出力できる。そのため、電源回路は放射線照射によるオペアンプ11の劣化の影響を受けずに動作が可能となり、放射線環境においても正常な電源装置1の出力を提供できる。したがって、この電源装置1の出力を利用する計測機器30は、放射線環境においても正確な計測値を出力することができる。また、オペアンプ11に対する事前の放射線照射が不要となるため運用が簡易であり、コストも抑えられる。
【0045】
<第4の実施形態>
第4の実施形態は、第3の実施形態に係る電源装置1が組み込まれた計測機器に信号処理部を設けた例である。ここでは、第1の実施形態の電源装置1を用いて説明するが、第2の実施形態の電源装置1でも同様である。
【0046】
図6は、本発明の第4の実施形態に係る計測機器の構成例を示す図である。
図示する計測機器30Aは、計測部31と、信号処理部32と、半導体増幅素子を有する電源装置1(電源回路10)を備える。電源装置1は信号処理部32に電源電圧を出力する。計測部31は信号処理部32を通じて供給される電源により動作し、計測値を出力する。
【0047】
上記構成において、信号処理部32は、計測部31を制御すなわち計測部31の出力信号を処理するために設けられている。例えば、計測部31が圧力センサの場合、計測部31は気体や液体の圧力変化を感圧素子のひずみ(抵抗変化)によって検出し、当該感圧素子のひずみ量に基づいて電気信号を生成する。信号処理部32は、この電気信号を4-20mA又は1-5Vなどに変換(信号処理)して出力する。
【0048】
信号処理部32は、電子回路で構成される。例えば、信号処理部32は、デジタル回路よりも放射線に比較的強いアナログ回路か、放射線耐性に優れるSiCなどのワイドバンドギャップ半導体で構成されることが望ましい。なお、信号処理部32は、電子回路が含まれない構成であってもよい。
【0049】
以上のように構成された第4の実施形態によれば、第1~第3の実施形態と同様に、シリコンよりもバンドギャップが大きい半導体からなるオペアンプ11の出力を放射線起因飽和領域の上限以下とすることで、オペアンプ11が入力信号に対して線形に出力できる。そのため、電源回路は放射線照射によるオペアンプ11の劣化の影響を受けずに動作が可能となり、放射線環境においても正常な電源装置1の出力を提供できる。そして、信号処理部32において、正常な電源装置1の出力を利用して計測部31の出力信号を処理することで、計測機器30Aは正確な計測値を出力することができる。また、オペアンプ11に対する事前の放射線照射が不要となるため運用が簡易であり、コストも抑えられる。
【0050】
上記のとおり、本発明の電源装置は、放射線環境下での使用を想定した、対象物の状態を測定又は監視する計測機器に適用できる。例えば、計測機器として、圧力伝送器、イメージセンサに適用できる。さらに、原子力プラント内などの放射線利用設備、医療、宇宙計測といったシステムや分野への応用も可能である。
【0051】
なお、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために電源装置及び計測機器の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0052】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの広義のプロセッサデバイスを用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…電源装置、 10,10A…電源回路、 11…オペアンプ、 12…フィードバック抵抗、 15…増幅回路、 16…増幅素子、 17…抵抗、 20…元電源(外部電源)、 30,30A…計測機器、 31…計測部、 32…信号処理部