(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】電極合材並びにそれを用いた電極層及び固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20241218BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20241218BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241218BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241218BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2021505944
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2020034625
(87)【国際公開番号】W WO2021049665
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019167263
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 暁
(72)【発明者】
【氏名】大村 淳
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/140565(WO,A1)
【文献】特開2014-209442(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092366(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
H01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有する硫化物固体電解質と、活物質とを含む電極合材であって、
前記硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶性材料であり、
前記活物質は、一般式Ti
1±αNb
2±βO
7±γ(式中、0≦α<1、0≦β<2、0≦γ<0.3)で表され、
前記硫化物固体電解質のリン(P)含有量(モル)に対する、前記活物質のニオブ(Nb)含有量(モル)の比(Nb/P)が1以上173以下であり、
前記硫化物固体電解質のレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布による体積累積粒径が50%になる粒子径D
50
は、前記活物質のレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布による体積累積粒径が50%になる粒子径D
50
の3%以上50%以下であり、
前記活物質は、ガス吸着等温曲線から多分子層吸着理論により解析されるBET比表面積(BET)に対する、
前記粒子径D
50の比(D
50(μm)/BET(m
2/g))が0.005以上5.0以下である、電極合材。
【請求項2】
前記活物質は、前記粒径D
50が0.1μm以上8.0μm以下である、請求項1に記載の電極合材。
【請求項3】
前記活物質は、前記BET比表面積が1.0m
2/g以上20m
2/g以下である、請求項1または請求項2に記載の電極合材。
【請求項4】
前記活物質は、前記粒径D
50と、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布による体積累積粒径が90%になる粒子径D
90と、体積累積粒径が10%になる粒子径D
10との関係が
(D
90(μm)-D
10(μm))/D
50(μm)=0.8~1.5
を満足する、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電極合材。
【請求項5】
前記活物質は、走査型電子顕微鏡像内の粒子をソフトウェア解析により算出した平均粒径D
SEMに対する、前記粒径D
50の比(D
50(μm)/D
SEM(μm))が1.0以上3.5以下である、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の電極合材。
【請求項6】
前記活物質は、走査型電子顕微鏡像内の粒子をソフトウェア解析により算出した平均粒径D
SEMが0.1μm以上3.0μm以下である、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の電極合材。
【請求項7】
請求項1から
請求項6の何れか1項に記載の電極合材を含む、電極層。
【請求項8】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置される固体電解質層とを有する固体電池であって、
前記正極層又は前記負極層が、請求項1か
ら請求項6の何れか1項に記載の電極合材を含む、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば固体電池、中でも全固体リチウム二次電池などに好適に用いることができる電極合材に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウム二次電池に用いる電極は、一般的に、充電によってリチウムイオンを挿入可能な材料からなる活物質の粒子を、バインダー、導電材及び溶媒と混合し、得られた合材を集電体の表面に塗布して乾燥させて塗膜とし、更にプレス加工を施して製造されている。現在、市販されている電池の電極のほとんどが、活物質として炭素材料(「グラファイト」とも称する)を使ったものである。しかし、炭素材料を電極活物質として用いることに関しては、電極の短絡や電池変形の際に発煙や発火の事故が起きており安全性が十分に確保された材料ではない。また、容量の面で既に理論限界に至っており、新たな電極活物質の開発が必要とされている。
【0003】
近年、炭素材料に代わる活物質として金属複合酸化物の研究が進められ、中でも、チタン酸化物が注目されている。チタン酸化物を電極活物質として用いた電池は、安定的な急速充放電が可能であるという報告がなされている。中でも、リチウムチタン複合酸化物Li[Li1/3Ti5/3]O4(LTO)は、結晶格子の構造・サイズを変化させることなくリチウムイオンを吸蔵・放出できる材料として、高信頼性用途のリチウムイオン電池の電極活物質として注目され実用化もなされている。
しかしながら、LTO電極はグラファイト系電極に比べ、質量当たりおよび体積当たりの容量が小さく、さらに電極としての電極電位が高いため、電池の作動電圧が低い。そのため、安全性を確保したままエネルギー密度を高めるためには、より高容量な金属複合酸化物電極材料が求められている。
ここで、TiNb2O7に代表されるチタンニオブ複合酸化物は、質量当たりおよび体積当たりの容量でLTOの約2倍という高い理論容量を有しており、高いエネルギー密度(充放電容量)を得ることが期待できる材料として注目されている。
【0004】
チタンニオブ複合酸化物を活物質として用いた技術に関しては、例えば特許文献1において、BET比表面積が0.18m2/g以上であるTiNb2O7等のチタンニオブ複合酸化物を活物質として用いた非水電解質二次電池用負極材が開示されている。
【0005】
特許文献2には、活物質の一次粒子が凝集した二次粒子であって、前記活物質の一次粒子がチタンニオブ複合酸化物などのニオブ複合酸化物を含み、圧縮破壊強度が10MPa以上である二次粒子と、前記二次粒子の表面の少なくとも一部上に形成された炭素材料相とを含む電池用活物質材料が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ニオブチタン含有複合酸化物の粒子を含む負極活物質層を具備する負極を用いた非水電解質電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-287496号公報
【文献】特開2015-88467号公報
【文献】特開2016-219355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、チタンニオブ複合酸化物は、高い理論容量を有しており、活物質材料として注目すべき材料であるが、液系電解質を用いた際に優れた電池性能を発揮したとしても、固体電解質と組み合わせて使用した場合の特性は未知数である。液系電解質と固体電解質とでは、反応界面の状態が異なるため、期待した電池特性が得られない可能性があるばかりか、そもそも電池として機能しない可能性もある。
【0009】
そこで本発明は、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物を固体電解質と組み合わせて用いる電極合材に関し、それを用いて固体電池を構成した際に優れた電池特性、中でも優れた充放電効率を得ることができる、新たな電極合材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有する硫化物固体電解質と、活物質とを含む電極合材であって、
前記活物質は、一般式Ti1±αNb2±βO7±γ(式中、0≦α<1、0≦β<2、0≦γ<0.3)で表され、
前記活物質は、ガス吸着等温曲線から多分子層吸着理論により解析されるBET比表面積(「BET比表面積」又は「BET」ともいう)に対する、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布による体積累積粒径が50%になる粒子径D50(「D50」ともいう)の比(D50(μm)/BET(m2/g))が、0.005以上5.0以下である、電極合材を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提案する電極合材は、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物に関して、BET比表面積に対するD50の比(D50(μm)/BET(m2/g))を所定範囲に調整する一方、固体電解質に関しては、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有する硫化物固体電解質を用いて電極合材を構成したことにより、それを用いて固体電池を構成した際に優れた電池特性、中でも優れた充放電効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1~5及び比較例1で用いた固体電解質について、X線回折法で測定して得られたX線回折パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<本電極合材>
本発明の実施形態の一例に係る電極合材(「本電極合材」と称する)は、一般式Ti1±αNb2±βO7±γ(式中、0≦α<1、0≦β<2、0≦γ<0.3)で表される化合物からなる活物質(「本活物質」と称する)と、硫化物固体電解質(「本固体電解質」と称する)とを含むものである。
【0015】
(本活物質)
本活物質は、一般式(1):Ti1±αNb2±βO7±γ(式中、0≦α<1、0≦β<2、0≦γ<0.3)で表されるチタンニオブ複合酸化物からなるものであればよい。中でも、TiNb2O7の結晶構造と同じ結晶構造、つまり単斜晶型TiNb2O7の結晶構造を有するチタンニオブ複合酸化物からなるものであるのが好ましい。
【0016】
前記一般式(1)におけるαは、0以上で1より小さいことが好ましく、中でも0.3以下、その中でも0.1以下であるのがさらに好ましい。
前記一般式(1)におけるβは、0以上で2より小さいことが好ましく、中でも1以下、その中でも0.5以下であるのがさらに好ましい。
前記一般式(1)におけるγは、0以上で0.3より小さいことが好ましく、中でも0.2以下、その中でも0.1以下であるのがさらに好ましい。
【0017】
なお、本活物質には、一般式(1)のTiまたはNb元素の一部を、B、Na、Mg、Al、Si、S、P、K、Ca、Ba、Mo、W、Sr、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びPb等に置換させてもよい。
【0018】
本活物質は、BETに対するD50の比(D50(μm)/BET(m2/g))が、0.005以上5.0以下であるのが好ましい。
本活物質の前記比(D50(μm)/BET(m2/g))を0.005以上とすることにより、本固体電解質との接触抵抗が増加したり、リチウムイオン伝導(電池性能)が低下したりすることを防止できる観点から好ましい。その一方、5.0以下とすることにより、粒径がある程度大きい場合でも本固体電解質と接触する面積を適度に保ち、本固体電解質と活物質間のリチウムイオン伝導(電池性能)を確保できる観点から好ましい。
かかる観点から、本活物質の前記比(D50(μm)/BET(m2/g))は0.1以上であるのがより好ましく、その中でも0.2以上であるのがさらに好ましい。その一方で、4.0以下であるのがより好ましく、その中でも3.0以下であるのがさらに好ましい。
【0019】
本活物質は、D50が0.1μm以上8.0μm以下であるのが好ましい。
本活物質のD50が0.1μm以上であれば、比表面積が大きくなることによる本固体電解質との接点数の増加を抑制し、接触抵抗の上昇を抑えることができる。その一方、8.0μm以下であれば、膨張・収縮の影響を小さくでき、本固体電解質との接点が確保できるから、好ましい。
かかる観点から、本活物質のD50は0.5μm以上であるのがより好ましく、その中でも1.0μm以上であるのがさらに好ましい。その一方で、5.0μm以下であるのがより好ましく、その中でも4.5μm以下であるのがさらに好ましい。
本活物質のD50は、焼成条件、解砕条件及び粉砕条件を変えることにより調整することができる。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0020】
なお、D50とは、50%体積累積粒径、すなわち体積基準粒度分布のチャートにおいて体積換算した粒径測定値の累積百分率表記の細かい方から累積50%の径を意味する。
本活物質のD50は、実施例で示した方法で測定することができる。
【0021】
本活物質のBET比表面積は、1.0m2/g以上20m2/g以下であるのが好ましい。
本活物質のBET比表面積が1.0m2/g以上であれば、本活物質と本固体電解質との混合時に適度な面接触を保つことでリチウムイオン伝導(電池性能)を確保できることとなり好ましい。その一方、20m2/g以下であれば、本固体電解質と接触抵抗を抑制できることや、充放電時に固体電解質から剥離するのを防止し、リチウムイオン伝導(電池性能)を低下するのを防止できる観点から好ましい。
かかる観点から、本活物質のBET比表面積は、中でも1.1m2/g以上であるのがより好ましく、その中でも1.2m2/g以上であるのがさらに好ましい。その一方で、10m2/g以下であるのがより好ましく、その中でも5.0m2/g以下であるのがさらに好ましい。
本活物質のBET比表面積は、焼成条件、解砕条件及び粉砕条件を変えることにより調整することができる。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0022】
本活物質のBET比表面積は、ガス吸着等温曲線から多分子層吸着理論により解析されるBET比表面積であり、実施例に示した方法により測定することができる。
【0023】
本活物質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布による体積累積粒径が90%になる粒子径をD90とし、体積累積粒径が10%になる粒子径をD10とした場合、D90とD50とD10との関係が
(D90(μm)-D10(μm))/D50(μm)=0.8~1.5
を満足するがより好ましい。
【0024】
(D90(μm)-D10(μm))/D50(μm)は、粒径のバラつき具合を示すものであり、前記関係式値が0.8以上であれば、本活物質が、ある程度ばらつきのある粒径分布を備えることで、本固体電解質との混合時の面接触がより均一となり、リチウムイオン伝導(電池性能)を均一に確保できることとなるため好ましい。その一方で、前記関係式値が1.5以下であれば、本活物質の粒径の過度なバラつきを抑え、本固体電解質との混合時の面接触を保ちリチウムイオン伝導(電池性能)を維持することができる観点から好ましい。
かかる観点から、前記関係式値は0.9以上であるのがより好ましく、その中でも1.0以上であるのがさらに好ましい。その一方で、1.45以下であるのがより好ましく、その中でも1.4以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
本活物質のD90は、1.5μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることがより好ましい。一方で、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましい。
本活物質のD10は、0.1μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。一方で、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
本活物質のD90及びD10の調整方法及び測定方法は、上述のD50と同様である。
【0026】
本活物質は、走査型電子顕微鏡像内の粒子をソフトウェア解析により算出した平均粒径DSEMに対する、前記粒径D50の比(D50(μm)/DSEM(μm))が1.0以上3.5以下であるのが好ましい。
D50の値は、凝集粒子を一個の粒子(凝集粒子)として捉えた平均粒径と考えることができ、凝集状態が少なく単分散に近い程、D50の値は小さなものとなるのが通常である。一方、DSEMは、後述するようにSEM(走査型電子顕微鏡)により撮像し、その像から一次粒子を複数抽出して算出された平均粒径である。よって、前記比(D50/DSEM)を凝集度として捉えることができ、凝集塊が多くある場合、相対的にD50はDSEMよりも大きな値になり、凝集状態が少なくなると、相対的にD50はDSEMに近づき前記比(D50/DSEM)は1に近づくようになる。一方で、本活物質の前記比(D50/DSEM)は、3.0以下であるのがより好ましく、その中でも2.0以下であるのがさらに好ましい。
【0027】
本活物質は、DSEMが0.1μm以上3.0μm以下であるのが好ましい。
本活物質のDSEMが3.0μm以下であれば、膨張・収縮の影響を小さくでき、固体電池電極中における固体電解質との接点が確保できる。その一方、DSEMが0.1μm以上であれば、比表面積が大きくなることによる固体電解質との接点数の増加を抑制し、接触抵抗の上昇を抑えることができる。
かかる観点から、本活物質のDSEMは2.5μm以下であるのがより好ましく、その中でも2.2μm以下であるのがさらに好ましい。その一方、1.0μm以上であるのがより好ましく、その中でも1.4μm以上であるのがさらに好ましい。
本活物質のDSEMは、焼成温度を変化させたり、酸化チタンと酸化ニオブ原料の変更や原料の解砕条件や粉砕条件を変更したりすることによって調整することができる。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
DSEMは実施例で示した方法で測定することができる。
【0028】
(本固体電解質)
本固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有する硫化物固体電解質であるのが好ましく、リチウムイオン伝導性を有するものが好ましい。
本固体電解質は、結晶性材料、ガラスセラミックス、ガラスのいずれであってもよい。
【0029】
本固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有する化合物、すなわちArgyrodite型構造の結晶相を有する化合物であってもよい。
このような硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiHa(「Ha」は1種以上のハロゲン元素を示す。)、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li3PS4、Li4P2S6、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4、Li7-xPS6-xHax(「Ha」は1種以上のハロゲン元素を示し、0.2<x<2.0または0.2<x<1.8である。)などを挙げることができる。また、国際公開第2013/099834号パンフレットや国際公開第2015/001818号パンフレットに記載されている、Li-Si-P-S型結晶構造を有する組成物や、Li7PS6の構造骨格を有してPの一部がSiに置換されてなる組成物なども挙げることができる。
【0030】
本固体電解質は、粉末状の粒子であることが好ましく、その粒径に関しては、D50が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
本固体電解質のD50が0.1μm以上であれば、固体電解質粒子の表面が増えることによる抵抗増大や、活物質との混合が困難となることがないから好ましい。他方、本固体電解質のD50が10μm以下であれば、活物質間の隙間に本固体電解質に入りやすくなり、接触点及び接触面積が大きくなるから好ましい。
かかる観点から、本固体電解質のD50は0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、中でも0.3μm以上或いは7μm以下、その中でも特に0.5μm以上或いは5μm以下であることがさらに好ましい。
本固体電解質のD50は、実施例で示した方法で測定することができる。
本固体電解質のD50は、解砕条件や粉砕条件を変えることにより調整することができる。但し、これらの調整方法に限定されるものではない。
【0031】
本固体電解質のD50は、正極活物質のD50又は負極活物質のD50の1%以上100%以下であることが好ましい。
本固体電解質のD50が、正極活物質のD50又は負極活物質のD50の1%以上であれば、活物質間を隙間なく埋めることができるため好ましい。他方、100%以下であれば、電極内の活物質比が高くなり、電池の高エネルギー密度化の観点から好ましい。
かかる観点から、本固体電解質のD50は、正極活物質のD50又は負極活物質のD50の1%以上100%以下であることが好ましく、中でも3%以上或いは50%以下、その中でも5%以上或いは30%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
(本電極合材)
本電極合材において、本活物質と本固体電解質との混合割合に関しては、活物質と固体電解質との界面を良好に接触する観点から、固体電解質のリン(P)含有量(モル)に対する、本活物質のニオブ(Nb)含有量(モル)の比(Nb/P)が1以上173以下となるように、両者を混合するのが好ましい。
【0033】
本電極合材は、本活物質及び本固体電解質以外に、必要に応じてバインダー、導電材、別の電極活物質としてのグラファイト、その他の材料を含有していてもよい。
【0034】
前記バインダーは、電極に用いることができる材料であれば特に限定されない。例えば、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミドイミド等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせてもよい。更にこれら以外のバインダーを更に併用してもよい。
なお、バインダーの詳細については、公知のバインダーと同じとすることができるため、ここでの記載は省略する。
バインダーの含有量は、本活物質100質量部に対して1質量部以上25質量部以下であることが好ましく、中でも2質量部以上或いは20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0035】
前記導電材は、電極に用いることができる材料であれば特に限定されない。例えば、金属微粉や、アセチレンブラック等の導電性炭素材料の粉末等を挙げることができる。導電材として金属微粉を用いる場合には、Sn、Zn、Ag及びIn等のリチウムイオン伝導性を有する金属又はこれらの金属の合金等の微粉を用いることが好ましい。
導電材を配合する場合には、導電材の含有量は、本活物質100質量部に対して1~15質量部であるのが好ましく、中でも2質量部以上或いは10質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
前述のとおり、本電極合材中に、電極活物質としてのグラファイトを共存させることで、グラファイトに起因する良好なサイクル特性を得ることができる。
なお、電極活物質としてグラファイトを配合する場合には、本活物質とグラファイトとの混合質量比が50:50~95:5、特に80:20~95:5となるように調整するのが好ましい。
【0037】
(形態)
本電極合材の形態は任意である。例えば、粉状であってもよいし、また、ペレット状であってもよい。
例えば、本活物質、本固体電解質及び必要に応じてバインダー、導電材、別の電極活物質などその他の材料を混合した後、プレス成型、例えば1軸プレス成型してペレット状に成形することができる。但し、これに限定するものではない。
【0038】
<本電極>
本電極合材を用いて正極又は負極(「本電極」と称する)を形成することができる。
本電極は、例えば電極集電体上に本電極合材を塗布して形成することができる。
より具体的には、本活物質(粒子状)と、本固体電解質と、バインダーと、導電材と、溶媒と、必要に応じてグラファイトなどの他の材料とを混合して本電極合材を調製し、この本電極合材をCu等からなる集電体の表面に塗布して乾燥させることで形成し、その後、必要に応じてプレスして形成することができる。あるいは、本活物質(粒子状)と、本固体電解質と、導電材と、必要に応じてグラファイトなどの他の材料とを混合し、プレス成形した後、適宜加工して製造することもできる。
【0039】
なお、本電極合材を集電体の表面に塗布した後の乾燥は、非酸素雰囲気、例えば窒素雰囲気下やアルゴン雰囲気下において、1時間~10時間、特に1時間~7時間乾燥を行うのが好ましい。
【0040】
<本固体電池>
本電極を用いて固体電池(「本固体電池」と称する)を構成することができる。例えば、本電極以外の公知の電極からなる正極層と、本電極からなる負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置される固体電解質層とを有する本固体電池を構成することができる。
また、本電極からなる正極層と、本電極以外の公知の電極からなる負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置される固体電解質層とを有する本固体電池を構成することができる。
【0041】
本固体電池は、例えばリチウム固体電池であるのが好ましい。そして、そのリチウム固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でもリチウム二次電池に用いることが好ましい。
【0042】
ここで、「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、少量、例えば10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む固体電池も包含する。
【0043】
前記固体電解質層は、例えば固体電解質とバインダー及び溶剤から成るスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、基体とスラリーを接触させた後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で塗膜を形成し、その後加熱乾燥を経て溶剤を除去する方法などで作製することができる。又は、固体電解質の粉体をプレス等により圧粉体を作製した後、適宜加工して作製することもできる。
【0044】
本電極に対する対極層は、例えばリチウム二次電池の電極活物質として使用されている電極材を用いて形成することができる。
この際、当該対極層が正極層である場合、電極活物質としては、正極活物質として機能するものであればよく、特に限定されない。例えばリチウム金属複合酸化物を含んでいてもよい。リチウム金属複合酸化物としては、公知のリチウム金属複合酸化物を用いることができる。リチウム金属複合酸化物における金属としては、例えば遷移元素及び典型元素の双方を用いることができ、好ましくは遷移元素が用いられる。リチウム金属複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li(Ni,Co,Mn)O2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、及びニッケルマンガン酸リチウム(LiNi0.5Mn1.5O4)などのリチウム遷移金属酸化物を挙げることができる。これらの酸化物の構造は、特に制限されるものではなく、例えば層状岩塩型化合物であってもよく、あるいはスピネル型化合物であってもよい。
他方、当該対極層が負極層である場合、電極活物質としては、負極活物質として機能するものであればよく、特に限定されない。例えば、インジウムリチウム(InLi)等のリチウム合金や、黒鉛(グラファイト)、シリコン系材料などを挙げることができる。ただし、これらに限定するものではない。
【0045】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0046】
次に、実施例により本発明について更に説明する。但し、以下に説明する実施例は本発明を限定するものではない。
【0047】
<実施例1>
(活物質の作製)
D50を2μmに粒度調整した酸化チタン粉末(酸化チタン(IV)、アナターゼ型)と、D50を0.6μmに粒度調整した五酸化ニオブ粉末とを、モル比で1:1となるように秤量した。焼成の前処理としてこれらをポリプロピレン製容器に投入し、エタノールを適量添加して、五酸化ニオブ重量の10倍重量の直径10mmジルコニアボールを使用してボールミルで3時間湿式解砕した。その後、濾過にてジルコニアボールを濾別後、濾過回収された混合原料を乾燥機にて60℃乾燥し、得られた乾粉を乳鉢で解砕した。解砕した乾粉をアルミナ坩堝に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気下1250℃で24時間熱処理した。これを100℃未満まで自然放冷した後、回収した焼成粉を乳鉢中で粉砕した。焼成の後処理として、焼成粉を再びポリプロピレン製容器に投入しエタノールを適量添加して、五酸化ニオブ重量の10倍重量の直径10mmジルコニアボールを使用してボールミルで24時間湿式解砕した。その後、濾過にてジルコニアボールを濾別後、濾過回収された焼成粉を乾燥機にて60℃乾燥し、得られた乾粉を乳鉢で解砕し活物質としてのチタンニオブ複合酸化物を得た。
得られたチタンニオブ複合酸化物をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析した結果、単斜晶結晶構造を有するTiNb2O7の単一相であることが同定された。また、BET法での比表面積、D90、D50、D10及びDSEMは表1に記載のとおりであった。
【0048】
(固体電解質の用意)
組成式がLi
5.4PS
4.4Cl
0.8Br
0.8である固体電解質としての粉末状の硫化物化合物を用意した。固体電解質のD
50は0.8μmであった。
当該固体電解質のD
50は、次の手順で行った。レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(日機装株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、固体電解質粉末を含むスラリーを非水系溶媒(トルエン)に投入し、流速を50%に設定し、30Wの超音波を60秒間照射した。その後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートから累積体積が50容量%となる粒径を求め、D
50とした。
また、当該固体電解質をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析し、X線回折パターンを得て、各位置におけるピーク強度(cps)を測定した。リガク社製のXRD装置「Smart Lab」を用いて、大気非曝露で走査軸:2θ/θ、走査範囲:10°以上140°以下、ステップ幅0.01°、走査速度1°/minの条件の下で行った。X線源はヨハンソン型結晶を用いてCuKα1線とし、1次元検出器にて測定を行った。結果は、
図1に示す。
【0049】
(電極合材の作製)
前記のようにして得た活物質としてのチタンニオブ複合酸化物と、固体電解質としての硫化物化合物と、導電剤(VGCF(登録商標))粉末とを、リン(P)含有量に対するニオブ(Nb)含有量の比(Nb/P)が44となるように、質量比で47.5:47.5:5の割合で乳鉢混合することで電極合材を作製した。
【0050】
<実施例2>
実施例1において、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物の作製の際の焼成温度を1150℃に変更した以外、実施例1と同様にして、チタンニオブ複合酸化物、固体電解質及び電極合材を得た。
【0051】
<実施例3>
実施例2において、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物の作製の際、焼成の前処理として使用する直径10mmジルコニアボール重量を、五酸化ニオブ重量の20倍重量に変更した以外、実施例2と同様にして、チタンニオブ複合酸化物、固体電解質及び電極合材を得た。
【0052】
<実施例4>
実施例1において、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物の作製における、焼成の後処理として使用する直径10mmジルコニアボール重量を、五酸化ニオブ重量の20倍重量に変更し、濾過にて10mmジルコニアボールを濾別後、五酸化ニオブ重量の20倍重量の直径2mmジルコニアボールにて再度ボールミル処理を加えた以外、実施例1と同様にして、チタンニオブ複合酸化物、固体電解質及び電極合材を得た。
【0053】
<実施例5>
実施例4において、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物の作製における、焼成温度を1150℃に変更した以外、実施例4と同様にして、チタンニオブ複合酸化物、固体電解質及び電極合材を得た。
【0054】
得られた実施例2~5のチタンニオブ複合酸化物をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析した結果、単斜晶結晶構造を有するTiNb2O7の単一相であることが同定された。また、N2吸着によるBET法での比表面積、D90、D50、D10、及びDSEMは表1に記載のとおりであった。
【0055】
<比較例1>
実施例1において、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物の作製における、焼成温度を1450℃に変更に変更した以外、実施例1と同様にして、チタンニオブ複合酸化物、固体電解質及び電極合材を得た。
得られたチタンニオブ複合酸化物をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析した結果、単斜晶結晶構造を有するTiNb2O7の単一相であることが同定された。また、N2吸着によるBET法での比表面積は0.80m2/gであり、D50は8.12μmであり、DSEMは3.59μmであった。
【0056】
<各種物性値の測定方法>
実施例及び比較例で得られたチタンニオブ複合酸化物(活物質)の各種物性値を次のように測定した。
【0057】
(DSEM)
活物質としてのチタンニオブ複合酸化物について、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて1000~10000倍で観察し、撮影した画像を画像解析ソフト(株式会社日本ローパー社製Image-Pro、ver.10.0.3、Build6912)を用いて、選択した粒子の一次粒子径を求めた。この際、この粒子径は、ソフト上の測定項目名で「直径、平均」であり、この直径は粒子の重心を通る直径である。そして、任意の視野で一次粒子を選択して撮影し、合計200個以上の一次粒子を選択して粒子径(DSEM)を求めた。
【0058】
(D90、D50、D10)
前処理として、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物と水とを混合し、超音波バスを用いて1分間超音波による分散処理を行なった。次に、超音波プローブを超音波バスに導入し、15W(50kHz)の超音波を90秒間照射した。
そして、測定装置として、ベックマンコールター社製LS13 320を用いて、D90、D50、D10を測定した。この際、測定条件としては、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性条件を透過、粒子屈折率2.4、形状を球形とし、測定レンジを0.04~2000μmとして3回測定した平均値をそれぞれD90、D50、D10とした。
【0059】
(BET比表面積)
サンプル(粉体)1.0gを全自動比表面積測定装置MacSorb(株式会社マウンテック製)用のガラスセル(標準セル)に秤量し、オートサンプラ―にセットした。窒素ガスでガラス内を置換した後、前記窒素ガス雰囲気中で250℃、15分間熱処理した。その後、窒素・ヘリウム混合ガスを流しながら4分間冷却を行ない、冷却後、サンプルを、島津製作所社製Flow sorbII2300を使用して、BET一点法にてBET比表面積を測定した。
この際、冷却時及び測定時の吸着ガスは、窒素30vol%:ヘリウム70vol%の混合ガスを用いた。
【0060】
<固体電池特性の評価>
(電池の作製)
実施例及び比較例で得た電極合材を用いて全固体電池を作製した。
この際、対極としてInLi箔を、固体電解質としては組成式:Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8で示される粉末を用いた。
上下を開口したセラミック製の円筒(開口径10mm)の下側開口部を電極(SUS製)で閉塞し、0.10g固体電解質を注ぎ、上側開口部を電極で挟み、10MPaで1軸プレス成型し、電解質層を作製した。上側の電極を一度取り外し、実施例及び比較例で得た電極合材を挿入し、上側の電極を再度装着し、42MPaで1軸プレス成型し、正極(電極合材)と電解質層を圧着した。次いで、下側の電極を一度取り外し、InLi箔を挿入し、下側の電極を再度装着し、上側電極と下側電極間を6N・mのトルク圧で4か所ねじ止めし、1.2mAh相当の全固体電池を作製した。この際、上記全固体電池セルの作製においては、平均露点-60℃の乾燥アルゴンで置換されたグローブボックス内で行った。
【0061】
(充電容量及び放電容量の評価)
電池特性評価における容量確認は、25℃に保たれた環境試験機内に、実施例及び比較例の全固体電池を入れて充放電測定装置に接続して評価した。セル容量が1.2mAhであるため、1Cは1.2mAとなる。電池の充放電は0.1C、CCCV方式で0.38Vまで充電(電流値が0.01Cになった時点で充電終了)し、初回充電容量(表中の「充電容量」)を得た。
放電は0.1C、CC方式で2.38Vまで放電し、初回放電容量(表中の「放電容量」)を得た。
【0062】
(充放電効率の評価)
充放電効率は、前記で得た初回放電容量と初回充電容量を下記式に導入することにより得た。
充放電効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100
【0063】
【0064】
(考察)
上記実施例・比較例並びにこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、活物質としてのチタンニオブ複合酸化物に関しては、(D50(μm)/BET(m2/g))を0.005以上5.0以下とする一方、固体電解質に関しては、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有する硫化物固体電解質を用いて電極合材を構成することにより、それを用いて固体電池を構成すれば、固体電池として機能するばかりか、優れた充放電効率を得ることができることが分かった。