(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】窒化ケイ素基板の製造方法及び窒化ケイ素基材
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20241218BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20241218BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20241218BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20241218BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
B23K26/364
C04B41/91 E
H05K1/02 G
H05K3/00 X
(21)【出願番号】P 2021507291
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010913
(87)【国際公開番号】W WO2020189526
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019048079
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】江嶋 善幸
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【合議体】
【審判長】鈴木 貴雄
【審判官】大山 健
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-44344(JP,A)
【文献】特開2009-49390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
B23K 26/364
C04B 41/91
H05K 3/00
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザによって窒化ケイ素基材の第1面にスクライブラインを形成する工程と、
前記スクライブラインに沿って前記窒化ケイ素基材を分割する工程と、
を含み、
前記スクライブラインは、前記窒化ケイ素基材の前記第1面に一列に形成された複数の凹部を含み、
前記複数の凹部の各々の開口が円形状であり、
前記複数の凹部のそれぞれの深さは、前記複数の凹部のそれぞれの開口幅の0.70倍以上1.10倍以下であり、
前記複数の凹部のそれぞれの前記開口幅は、前記複数の凹部の中心間距離の1.00倍以上1.10倍以下であり、
前記スクライブラインは、前記複数の凹部のうちの第1群の凹部を含み、第1方向に延伸する第1スクライブラインと、前記複数の凹部のうちの第2群の凹部を含み、前記第1方向に交わる第2方向に延伸する第2スクライブラインと、を含み、
前記第2群の凹部の中で最も前記第1スクライブラインの近くに位置する凹部は、前記第1群の凹部のいずれとも重なっていない、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化ケイ素基板の製造方法において、
前記スクライブラインを形成する工程は、前記複数の凹部のそれぞれの周囲に隆起を形成する、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の窒化ケイ素基板の製造方法において、
前記スクライブラインを形成した後、前記複数の凹部のそれぞれの周囲の前記隆起を除去する工程をさらに含む、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の窒化ケイ素基板の製造方法において、
前記複数の凹部のそれぞれの前記深さは、前記窒化ケイ素基材の厚さの9/64倍以上2/9倍以下である、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の窒化ケイ素基板の製造方法において、
前記複数の凹部のそれぞれの前記深さは、45μm以上90μm以下である、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項6】
請求項
1から5までのいずれか一項に記載の窒化ケイ素基板の製造方法において、
前記第2群の凹部の中で最も前記第1スクライブラインの近くに位置する前記凹部の中心は、前記第2方向において、前記第1スクライブラインの中心線から、前記第2群の凹部の中心間距離の1.50倍以下の距離だけ離れている、窒化ケイ素基板の製造方法。
【請求項7】
スクライブラインが形成された第1面を備え、
前記スクライブラインは、前記第1面に一列に形成された複数の凹部を含み、
前記複数の凹部の各々の開口が円形状であり、
前記複数の凹部のそれぞれの深さは、前記複数の凹部のそれぞれの開口幅の0.70倍以上1.10倍以下であり、
前記複数の凹部のそれぞれの前記開口幅は、前記複数の凹部の中心間距離の1.00倍以上1.10倍以下であ
り、
前記スクライブラインは、前記複数の凹部のうちの第1群の凹部を含み、第1方向に延伸する第1スクライブラインと、前記複数の凹部のうちの第2群の凹部を含み、前記第1方向に交わる第2方向に延伸する第2スクライブラインと、を含み、
前記第2群の凹部の中で最も前記第1スクライブラインの近くに位置する凹部は、前記第1群の凹部のいずれとも重なっていない、窒化ケイ素基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物セラミック基板の製造方法及び窒化物セラミック基材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品として、窒化物セラミック基板が用いられることがある。窒化物セラミック基板は、様々な観点、例えば、高熱伝導率又は高絶縁性の観点において、優れている。窒化物セラミック基板は、様々な電子装置に用いることができ、例えば、パワーモジュールに用いることができる。
【0003】
窒化物セラミック基板を含む各種セラミック基板は、例えば特許文献1~3に記載されているように、レーザスクライブによってセラミック基材を分割することで製造可能である。セラミック基材には、レーザスクライブによってスクライブラインが形成される。セラミック基材は、スクライブラインに沿って複数のセラミック基板に分割される。
【0004】
特許文献1には、窒化物セラミック基材をレーザスクライブによって複数の窒化物セラミック基板に分割することが記載されている。レーザスクライブによって形成されたスクライブラインは、窒化物セラミック基材の表面に一列に形成された複数の凹部を含んでいる。凹部の開口幅は、0.04mm~0.5mmであり、凹部の深さは、窒化物セラミック基材の厚さの1/4~1/3であり、複数の凹部の中心間距離は、0.2mm以下である。
【0005】
特許文献2には、酸化アルミニウム基材をレーザスクライブによって複数の酸化アルミニウム基板に分割することが記載されている。レーザスクライブによって形成されたスクライブラインは、窒化物セラミック基材の表面に一列に形成された複数の凹部を含んでいる。凹部は、円錐形状を有している。
【0006】
特許文献3には、窒化ケイ素基材をレーザスクライブによって複数の窒化ケイ素基板に分割することが記載されている。レーザスクライブによって形成されたスクライブラインは、一方向に連続的に延伸する溝を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-324301号公報
【文献】特開2013-175667号公報
【文献】特開2014-42066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
窒化物セラミック基材については、窒化物セラミック基材からのろう材の良好な除去、SAT(Scanning Acoustic Tomography)でのスクライブラインの写り込みの低減及び窒化物セラミック基材の良好な割れが要求される場合がある。
【0009】
本発明の目的の一例は、窒化物セラミック基材からのろう材の良好な除去、SATでのスクライブラインの写り込みの低減及び窒化物セラミック基材の良好な割れを実現することにある。本発明の他の目的は、本明細書の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、
レーザによって窒化物セラミック基材の第1面にスクライブラインを形成する工程と、
前記スクライブラインに沿って前記窒化物セラミック基材を分割する工程と、
を含み、
前記スクライブラインは、前記窒化物セラミック基材の前記第1面に一列に形成された複数の凹部を含み、
前記複数の凹部のそれぞれの深さは、前記複数の凹部のそれぞれの開口幅の0.70倍以上1.10倍以下であり、
前記複数の凹部のそれぞれの前記開口幅は、前記複数の凹部の中心間距離の1.00倍以上1.10倍以下である、窒化物セラミック基板の製造方法である。
【0011】
本発明の他の一態様は、
スクライブラインが形成された第1面を備え、
前記スクライブラインは、前記第1面に一列に形成された複数の凹部を含み、
前記複数の凹部のそれぞれの深さは、前記複数の凹部のそれぞれの開口幅の0.70倍以上1.10倍以下であり、
前記複数の凹部のそれぞれの前記開口幅は、前記複数の凹部の中心間距離の1.00倍以上1.10倍以下である、窒化物セラミック基材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、窒化物セラミック基材からのろう材の良好な除去、SATでのスクライブラインの写り込みの低減及び窒化物セラミック基材の良好な割れを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る窒化物セラミック基材の平面図である。
【
図4】窒化物セラミック基材の全体の一例の平面図である。
【
図7】実施形態においての窒化物セラミック基板(ベース板)の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図8】実施形態においての窒化物セラミック基板(ベース板)の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図9】実施形態においての窒化物セラミック基板(ベース板)の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図10】実施形態においての窒化物セラミック基板(ベース板)の製造方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る窒化物セラミック基材100の平面図である。
図2は、
図1のA-A´断面図である。
図3は、
図2に示した凹部112の拡大図である。
【0016】
図2を用いて、実施形態においての窒化物セラミック基板の製造方法の概要を説明する。まず、レーザによって、窒化物セラミック基材100の第1面102にスクライブライン110を形成する。次いで、スクライブライン110に沿って窒化物セラミック基材100を分割する。スクライブライン110は、複数の凹部112を含んでいる。複数の凹部112は、窒化物セラミック基材100の第1面102に一列に形成されている。複数の凹部112のそれぞれの深さdは、複数の凹部112のそれぞれの開口幅wの0.70倍以上1.10倍以下である。複数の凹部112のそれぞれの開口幅wは、複数の凹部112の中心間距離pの1.00倍以上1.10倍以下である。
【0017】
本実施形態によれば、窒化物セラミック基材100からのろう材の良好な除去、SAT(Scanning Acoustic Tomography)でのスクライブラインの写り込みの低減及び窒化物セラミック基材100の良好な割れを実現することができる。詳細を後述するように、本発明者は、窒化物セラミック基材100からのろう材の除去、SATでのスクライブラインの写り込み及び窒化物セラミック基材100の割れのそれぞれの特性は、各種パラメータ、特に、凹部112の深さd、凹部112の開口幅w及び複数の凹部112の中心間距離pに依存することを新規に見出した。本発明者が検討したところ、凹部112の深さd、凹部112の開口幅w及び複数の凹部112の中心間距離pが上述した関係にある場合、窒化物セラミック基材100からのろう材の良好な除去、SATでのスクライブラインの写り込みの低減及び窒化物セラミック基材100の良好な割れが実現されることが明らかとなった。
【0018】
図1及び
図2を用いて、窒化物セラミック基材100の詳細を説明する。
【0019】
窒化物セラミック基材100は、例えば、窒化ケイ素基材又は窒化アルミニウム基材、より具体的には、窒化ケイ素質焼結体基材又は窒化アルミニウム質焼結体基材にすることができる。
【0020】
窒化物セラミック基材100は、第1面102及び第2面104を有している。
図1及び
図2に示す例では、第1面102にスクライブライン110が形成されている。第2面104は、第1面102の反対側にある。窒化物セラミック基材100の厚さtは、第1面102及び第2面104の間の距離である。
【0021】
スクライブライン110は、複数の凹部112を含んでいる。
図1に示すように、各凹部112の開口は、円形状を有している。複数の凹部112は、実質的に等間隔(中心間距離p)で並んでいる。
図1におけるA-A´線は、各凹部112の中心を通過している。つまり、
図2に示す断面は、凹部112の中心を含んでいる。
図2に示す例において、凹部112の幅は、凹部112の下端に向かうほど狭まっており、凹部112の開口幅wは、凹部112の上端における幅となっている。
図2に示す例において、凹部112の深さdは、凹部112の上端及び下端の間の距離である。
【0022】
凹部112の深さdは、例えば、窒化物セラミック基材100の厚さtの9/64倍以上2/9倍以下にしてもよいし、又は45μm以上90μm以下にしてもよい。凹部112の深さdが浅すぎると、スクライブライン110に沿って窒化物セラミック基材100が良好に分割され得なくなる。一方、凹部112の深さdが深すぎると、凹部112に入り込んだろう材の除去が困難になり得る。これに対して、凹部112の深さdが上述した範囲にある場合、これらの支障を低減することができる。
【0023】
図3を用いて、窒化物セラミック基材100の詳細を説明する。
【0024】
凹部112は、先端が丸みを帯びた円錐形状を有しており、
図3に示す断面においては、丸みを帯びた底面を有している。凹部112の中心を含む断面(例えば、
図1のA-A´断面又は
図1のA-A´線に直交する方向に沿った断面)において、凹部112の両側面は、凹部112の一方の内側面の上端UE1における仮想接線l1及び凹部112のもう一方の内側面の上端UE2における仮想接線l2が角度θ(先端角度)で交わるように、傾いている。先端角度θは、例えば、30°以上にすることができる。
【0025】
窒化物セラミック基材100は、隆起114を有していてもよい。隆起114は、凹部112の周囲に位置している。隆起114は、レーザの加熱の影響によって窒化物セラミック基材100の一部分が盛り上がることによって形成される。
【0026】
隆起114は、除去されてもよい。隆起114は、例えば、ウェットブラストによって除去することができる。
【0027】
図4は、窒化物セラミック基材100の全体の一例の平面図である。
【0028】
窒化物セラミック基材100のスクライブライン110は、複数の第1スクライブライン110a及び複数の第2スクライブライン110bを含んでいる。第1スクライブライン110aは、第1方向(
図4内のX方向)に延伸している。第2スクライブライン110bは、第2方向(
図4内のY方向)に延伸している。第2方向は、第1方向に交わっており、
図4に示す例では、第2方向は、第1方向に直交している。
【0029】
複数の第1スクライブライン110a及び複数の第2スクライブライン110bによって、複数の区画領域RGが画定されている。複数の区画領域RGは、マトリクス状に配置されている。各区画領域RGは、実質的に矩形形状を有している。スクライブライン110に沿って窒化物セラミック基材100を分割することで、窒化物セラミック基材100から複数の区画領域RG(複数の窒化物セラミック基板)が切り出される。
【0030】
図5は、
図4に示した領域αの拡大図である。領域αは、第1スクライブライン110a及び第2スクライブライン110bの交差によって形成されたスクライブライン110の交差を含んでいる。
【0031】
第1スクライブライン110aは、複数の凹部112(第1群の凹部112)を含んでいる。第2スクライブライン110bは、複数の凹部112(第2群の凹部112)を含んでいる。第2群の凹部112の中で最も第1スクライブライン110aの近くに位置する凹部112は、第1群の凹部112のいずれとも重なっていない。仮に、第1スクライブライン110aに含まれる第1群の凹部112及び第2スクライブライン110bに含まれる第2群の凹部112が互いに重なっていると、窒化物セラミック基材100の分割後において凹部112同士の重なり合い部分で窒化物セラミック基材100の欠けが生じるおそれがある。これに対して、本実施形態によれば、窒化物セラミック基材100の分割後における窒化物セラミック基材100の欠けを低減することができる。
【0032】
第2スクライブライン110bに含まれる第2群の凹部112の中で最も第1スクライブライン110aの近くに位置する凹部112の中心は、第2方向(Y方向)において、第1スクライブライン110aの中心線C1から距離g2だけ離れている。距離g2は、例えば、第2群の凹部112の中心間距離p2の1.50倍以下、好ましくは、1.10倍以下である。このようにして、第2スクライブライン110bに含まれる第2群の凹部112の中で最も第1スクライブライン110aの近くに位置する凹部112は、第1スクライブライン110aの近くに配置させることができる。したがって、第1スクライブライン110a及び第2スクライブライン110bの交差における窒化物セラミック基材100の良好な割れを実現することができる。
【0033】
図6は、
図4に示した領域βの拡大図である。領域βは、第1スクライブライン110a及び第2スクライブライン110bの交差によって形成されたスクライブライン110の角を含んでいる。
【0034】
スクライブライン110の角(
図6)においても、スクライブライン110の交差(
図5)と同様にして、第2群の凹部112の中で最も第1スクライブライン110aの近くに位置する凹部112は、第1群の凹部112のいずれとも重なっておらず、第2スクライブライン110bに含まれる第2群の凹部112の中で最も第1スクライブライン110aの近くに位置する凹部112は、第1スクライブライン110aの近くに配置されている。したがって、スクライブライン110の角(
図6)においても、窒化物セラミック基材100後における窒化物セラミック基材100の欠けを低減することができ、第1スクライブライン110a及び第2スクライブライン110bの交差における窒化物セラミック基材100の良好な割れを実現することができる。
【0035】
図7~
図10は、実施形態においての窒化物セラミック基板(ベース板)の製造方法の一例を説明するための図である。
【0036】
まず、
図7に示すように、レーザによって窒化物セラミック基材100の第1面102にスクライブライン110(凹部112)を形成する。このようにして、区画領域RG(
図4も参照)が画定される。レーザは、例えば、炭酸ガスレーザ、ファイバレーザ又はYAGレーザにすることができ、特に、1kHz以上のパルス周波数及び25W以上500W以下のパワーの炭酸ガスレーザにすることができる。
【0037】
次いで、
図8に示すように、窒化物セラミック基材100の第1面102上及び第2面104上のそれぞれにろう材120及び金属層130を形成する。
【0038】
ろう材120は、活性金属ろう材にすることができる。活性金属ろう材は、例えば、金属として、Ag、Cu及びSnの少なくとも一つを含み、活性金属として、Ti及びZrの少なくとも一つを含んでいる。ろう材120は、塗布によって形成することができる。この場合、ろう材120の一部がスクライブライン110(凹部112)に入り込み得る。
【0039】
金属層130は、ろう材120を介して窒化物セラミック基材100に接合されている。
【0040】
次いで、窒化物セラミック基材100及び金属層130の接合を超音波探傷検査によって検査する。本発明者は、一定の条件下において、超音波探傷検査により得られる探傷像にスクライブライン110が写ることを見出した。探傷像へのスクライブライン110の写り込みは、窒化物セラミック基材100及び金属層130間の接合ボイドと判定され、ろう材120に起因する接合ボイドと識別ができない、もしくは、識別しにくいことから、低減されることが望ましい。詳細を後述するように、本発明者は、SATへのスクライブライン110の写り込みは、各種パラメータ、特に、凹部112の深さd、凹部112の開口幅w及び複数の凹部112の中心間距離pに依存することを新規に見出した。
【0041】
次いで、
図9に示すように、窒化物セラミック基材100の第1面102上の金属層130上にレジスト140を形成し、窒化物セラミック基材100の
第2面104上の金属層130上にレジスト140を形成する。
【0042】
次いで、
図10に示すように、
図9に示したレジスト140を残したまま、エッチング液(例えば、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液、硫酸又は過酸化水素水)によってろう材120及び金属層130を選択的にエッチングする。窒化物セラミック基材100の第1面102上の金属層130は、回路層132に形成される。窒化物セラミック基材100の第2面104上の金属層130は、放熱層134に形成される。
【0043】
図10に示すように、スクライブライン110(凹部112)内には、ろう材120が残る場合がある。スクライブライン110(凹部112)内に残ったろう材120は、溶液(例えば、ハロゲン化アンモニウム水溶液、無機酸(例えば、硫酸又は硝酸)又は過酸化水素水)によって除去することができる。詳細を後述するように、本発明者は、この溶液のスクライブライン110(凹部112)への入り込みやすさ(すなわち、窒化物セラミック基材100からのろう材120の除去の特性)は、各種パラメータ、特に、凹部112の深さd、凹部112の開口幅w及び複数の凹部112の中心間距離pに依存することを新規に見出した。
【0044】
次いで、スクライブライン110に沿って窒化物セラミック基材100を分割して、複数の窒化物セラミック基板(ベース板)を形成する。詳細を後述するように、本発明者は、窒化物セラミック基材100の割れの特性は、各種パラメータ、特に、凹部112の深さd、凹部112の開口幅w及び複数の凹部112の中心間距離pに依存することを新規に見出した。
【0045】
窒化物セラミック基材(ベース板)は、電子部品として用いることができる。例えば、窒化物セラミック基材(ベース板)の回路層132上には、はんだを介して半導体素子を実装してもよい。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
実施例1では、以下のようにして、窒化物セラミック基材100を製造した。
【0047】
窒化物セラミック基材100は、厚さ0.32mmの窒化ケイ素質焼結体基材とした。
【0048】
炭酸ガスレーザによってスクライブライン110(複数の凹部112)を形成した。凹部112の深さd(例えば、
図2)、凹部112の開口幅w(例えば、
図2)、複数の凹部112の中心間距離p(例えば、
図2)及び凹部112の先端角度θ(例えば、
図3)は、表1に示すようになった。
【0049】
(実施例2~7及び比較例1~5)
実施例2~7及び比較例1~5は、凹部112の深さd(例えば、
図2)、凹部112の開口幅w(例えば、
図2)、複数の凹部112の中心間距離p(例えば、
図2)、凹部112の先端角度θ(例えば、
図3)及びスクライブライン110の形成に用いられたレーザの種類について、表1に示すようになった。実施例2~7及び比較例1~5は、表1に示す点を除いて、実施例1と同様とした。
【0050】
(窒化物セラミック基材からのろう材の除去)
図7~
図10を用いて説明したように、レジスト140及びエッチング液を用いてろう材120及び金属層130を選択的にエッチングした。さらに、窒化物セラミック基材100に残ったろう材120(例えば、スクライブライン110(凹部112)内に残ったろう材120)を溶液によって除去した。
【0051】
実施例1~7及び比較例1~4においてのろう材120の残りは、表1に示すようになった。表1の「ろう材の除去」の列内において、「○」は、スクライブライン110(凹部112)内にろう材120の残りが確認されなかったことを示し、「×」は、スクライブライン110(凹部112)内にろう材120の残りが確認されたことを示す。
【0052】
(SATでのスクライブラインの写り込み)
窒化物セラミック基材100にろう材120を形成した後、窒化物セラミック基材100と金属層130をろう材120により接合した後に、窒化物セラミック基材100及び金属層130の接合を超音波探傷検査によって検査した。
【0053】
実施例1~7及び比較例1~4においてのSATでのスクライブライン110の写り込みは、表1に示すようになった。表1の「SAT」の列内において、「○」は、超音波探傷検査のSATでのスクライブライン110の写り込みが確認されなかったことを示し、「×」は、超音波探傷検査のSATでのスクライブライン110の写り込みが確認されたことを示す。
【0054】
(窒化物セラミック基材の割れ)
窒化物セラミック基材100に残ったろう材120を除去した後、4点曲げ試験によって窒化物セラミック基材100をスクライブライン110に沿った分割した。
【0055】
実施例1~7及び比較例1~4においての窒化物セラミック基材100が割れたときの最大曲げ応力は、表1に示すようになった。
【0056】
実施例1~7及び比較例1~4においての窒化物セラミック基材100の分割不良率は、表1に示すようになった。
【0057】
【0058】
比較例1より、比w/pが0.60以下であると、窒化物セラミック基材100の良好な割れが難しくなるといえる。
【0059】
比較例2より、比d/wが0.45以下であると、窒化物セラミック基材100の良好な割れが難しくなるといえる。
【0060】
比較例3より、比d/wが1.20以上であると、窒化物セラミック基材100からのろう材120の良好な除去が難しくなるといえる。
【0061】
比較例4より、比w/pが1.16以上であると、SATでのスクライブライン110の写り込みの低減が難しくなるといえる。
【0062】
これらの検討より、比d/wは、例えば、0.70以上1.10以下、好ましくは、0.75以上1.08以下とし、比w/pは、例えば、1.00以上1.10以下、好ましくは、1.00以上1.07以下にすることができる。
【0063】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. レーザによって窒化物セラミック基材の第1面にスクライブラインを形成する工程と、
前記スクライブラインに沿って前記窒化物セラミック基材を分割する工程と、
を含み、
前記スクライブラインは、前記窒化物セラミック基材の前記第1面に一列に形成された複数の凹部を含み、
前記複数の凹部のそれぞれの深さは、前記複数の凹部のそれぞれの開口幅の0.70倍以上1.10倍以下であり、
前記複数の凹部のそれぞれの前記開口幅は、前記複数の凹部の中心間距離の1.00倍以上1.10倍以下である、窒化物セラミック基板の製造方法。
2. 1.に記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記スクライブラインを形成する工程は、前記複数の凹部のそれぞれの周囲に隆起を形成する、窒化物セラミック基板の製造方法。
3. 2.に記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記スクライブラインを形成した後、前記複数の凹部のそれぞれの周囲の前記隆起を除去する工程をさらに含む、窒化物セラミック基板の製造方法。
4. 1.から3までのいずれか一つに記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記複数の凹部のそれぞれの前記深さは、前記窒化物セラミック基材の厚さの9/64倍以上2/9倍以下である、窒化物セラミック基板の製造方法。
5. 1.から4.までのいずれか一つに記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記複数の凹部のそれぞれの前記深さは、45μm以上90μm以下である、窒化物セラミック基板の製造方法。
6. 1.から5.までのいずれか一つに記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記スクライブラインは、前記複数の凹部のうちの第1群の凹部を含み、第1方向に延伸する第1スクライブラインと、前記複数の凹部のうちの第2群の凹部を含み、前記第1方向に交わる第2方向に延伸する第2スクライブラインと、を含み、
前記第2群の凹部の中で最も前記第1スクライブラインの近くに位置する凹部は、前記第1群の凹部のいずれとも重なっていない、窒化物セラミック基板の製造方法。
7. 6.に記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記第2群の凹部の中で最も前記第1スクライブラインの近くに位置する前記凹部の中心は、前記第2方向において、前記第1スクライブラインの中心線から、前記第2群の凹部の中心間距離の1.50倍以下の距離だけ離れている、窒化物セラミック基板の製造方法。
8. 1.から5.までのいずれか一つに記載の窒化物セラミック基板の製造方法において、
前記窒化物セラミック基材は、窒化ケイ素基材又は窒化アルミニウム基材である、窒化物セラミック基板の製造方法。
9. スクライブラインが形成された第1面を備え、
前記スクライブラインは、前記第1面に一列に形成された複数の凹部を含み、
前記複数の凹部のそれぞれの深さは、前記複数の凹部のそれぞれの開口幅の0.70倍以上1.10倍以下であり、
前記複数の凹部のそれぞれの前記開口幅は、前記複数の凹部の中心間距離の1.00倍以上1.10倍以下である、窒化物セラミック基材。
【0064】
この出願は、2019年3月15日に出願された日本出願特願2019-048079号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0065】
100 窒化物セラミック基材
102 第1面
104 第2面
110 スクライブライン
110a 第1スクライブライン
110b 第2スクライブライン
112 凹部
114 隆起
120 ろう材
130 金属層
132 回路層
134 放熱層
140 レジスト