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特許7606460アンモニア検出アッセイにおけるNADPH又はNADHの安定化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】アンモニア検出アッセイにおけるNADPH又はNADHの安定化
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/32 20060101AFI20241218BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241218BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C12Q1/32
C12M1/34 E
G01N33/50 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021544506
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2020052251
(87)【国際公開番号】W WO2020157178
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】19154870.0
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ボッセルト-ロイター,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】ナゲル,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】レッティク,ジルビア
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-108696(JP,A)
【文献】特開平05-103697(JP,A)
【文献】特開昭50-023699(JP,A)
【文献】特開平03-091494(JP,A)
【文献】特開昭60-041500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12M
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットであって、前記キットが、2-オキソグルタレートと、補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)と、NAD(P)Hとを含有し、
前記キットが、第1及び第2の容器を備え、
前記第1の容器が、第1の量のGLDHを含む第1の水性試薬を含有し、前記第1の水性試薬が、GLDHの酵素活性を維持することができるpHを有し、該pHがpH7~pH9であ
前記第2の容器が、NAD(P)H、2-オキソグルタレート及び第2の量のGLDHを含む第2の水性試薬を含有し、そしてNAD(P)Hが該第2の水性試薬にのみ存在し、
前記第1の水性試薬の1mL当たりのGLDH酵素活性が、前記第2の水性試薬の1mL当たりのGLDH酵素活性よりも高く、並びに
前記第2の水性試薬のpHが、アンモニア、NAD(P)H及び2-オキソグルタレートを変換するために前記第2の水性試薬中でGLDHの酵素活性を維持することができ、それによって前記第2の水性試薬中でL-グルタメート、NAD(P)及びHOを形成することができ、ここで、該第2の水性試薬のpHがpH8~pH11である、
アッセイキット。
【請求項2】
前記第1の水性試薬の1mL当たりのGLDH酵素活性と前記第2の水性試薬の1mL当たりのGLDH酵素活性との比が、15:1~1.5:1である、請求項1に記載のアッセイキット。
【請求項3】
前記キットに含まれる前記第1および第2の水性試薬によって提供される総GLDH酵素活性に対して、前記第2の水性試薬が、該総GLDH酵素活性の1%~30%を提供する、請求項1または2に記載のアッセイキット。
【請求項4】
前記第1の水性試薬が、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-グリシン及びトリエタノールアミンから選択される緩衝液を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアッセイキット。
【請求項5】
前記第1の水性試薬が洗浄剤を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のアッセイキット。
【請求項6】
前記第2の水性試薬中のアンモニアの濃度が1.5μM以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアッセイキット。
【請求項7】
前記第2の水性試薬中のアンモニアの濃度が0.02μM~1.3μMである、請求項6に記載のアッセイキット。
【請求項8】
前記第2の水性試薬において、NAD(P)Hの分解によって放出されたアンモニアが、アンモニウムイオン、NAD(P)H及び2-オキソグルタレートをL-グルタメート、NAD(P)及びHOに反応させるGLDH酵素活性によって除去される、請求項6又は7に記載のアッセイキット。
【請求項9】
水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットを提供する方法であって、前記キットが、2種の異なる水性試薬を備え、
前記方法が、
補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)の酵素活性を維持できるpHを有する水溶液にGLDHを溶解することによって第1の水性試薬を調製する工程であって、該pHがpH7~pH9である、工程、
2-オキソグルタレート、GLDH、及びNAD(P)Hを水溶液に溶解し、そしてアンモニア、NAD(P)H、及び2-オキソグルタレートを変換するために第2の水性試薬中でGLDHの酵素活性を維持することを許容するように前記第2の水性試薬のpHを調整することによって前記第2の水性試薬を調製し、それにより前記第2の水性試薬中でのL-グルタメート、NAD(P)及びHOの形成を可能にする工程であって、該第2の水性試薬のpHがpH8~pH11であり、そしてNAD(P)Hが前記第2の水性試薬にのみ存在する、工程、
前記第1の水性試薬と前記第2の水性試薬とを別々の容器で提供し、そして前記容器をキットオブパーツで組み合わせる工程、
を含む、方法。
【請求項10】
前記第2の水性試薬中のアンモニアの濃度が1.5μM以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の水性試薬が、
(a)2-オキソグルタレート、GLDH、及びNAD(P)Hを水溶液に溶解し、そしてアンモニア、NAD(P)H、及び2-オキソグルタレートを変換するために前記第2の水性試薬中でGLDHの酵素活性を維持することを許容するように前記第2の水性試薬のpHを調整する工程、続いて、
(b)工程(a)から得られた水溶液を35℃で14日間インキュベートする工程
によって得られ、
前記第2の水性試薬中のアンモニアの濃度が0.02μM~1.3μMである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の水性試薬において、NAD(P)Hの分解によって放出されたアンモニアが、アンモニウムイオン、NAD(P)H及び2-オキソグルタレートをL-グルタメート、NAD(P)及びHOに反応させるGLDH酵素活性によって前記水溶液から除去される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
アンモニアを含有すると疑われる水性液体試料、及び請求項8に記載のアッセイキットの前記第2の水性試薬を含む混合物を形成することができる自動化装置であって、(i)試料容器内の水性液体試料、及び(ii)請求項1~8のいずれか一項に記載のアッセイキットと組み合わされる、自動化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体試料中のアンモニアの検出に有用な試薬の生化学を扱う。具体的には、本開示は、他の使用のなかでもとりわけ、臨床現場で患者から採取された血漿試料の分析に使用することができるアンモニアの酵素ベースの試験の技術的改善に関する。これに関して、NAD(P)Hを含有する試薬の安定性が改善され、貯蔵寿命が向上し、結果としてアンモニアが検出される。例示的な試薬では、NAD(P)H崩壊の結果として放出されたアンモニアが、GLDH(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)、NAD(P)H及び2-オキソグルタレートを使用してアンモニアを変換する酵素反応を使用して捕捉され、それにより、NAD(P)H含有試薬中にL-グルタメート、NAD(P)及びHOが形成される
【背景技術】
【0002】
高等動物、特にヒトでは、アンモニアは、窒素化合物の代謝によって主に消化管で生成される。過剰なアンモニアは、中枢神経系に対して毒性であり得る。クレブス-ヘンゼライト(Krebs-Henseleit)尿素サイクルは、肝臓においてアンモニアを尿素に代謝することによるアンモニアの廃棄手段を提供する。ヒト乳児における高アンモニア血症は、尿素サイクル酵素の遺伝的欠損によって引き起こされ得るか、又は急性(ライ症候群のように)若しくは慢性(肝硬変のように)肝疾患を介して獲得され得る。ヒト成人では、アンモニアレベルの上昇は、ウイルス性肝炎又は肝硬変等の進行性肝疾患からの肝不全又は肝性脳症の診断を補助することができる。そのため、アンモニアは重要な臨床パラメータであり、アンモニアのin vitroアッセイが技術的に望ましい。
【0003】
1963年、Kirsten et al.は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼの作用に基づくアンモニア測定用の酵素法を紹介した(Kirsten E,et al.Biochem Z 337(1963)312-319)。該酵素法は非常に特異的であることが証明され、NADHのモル吸収率に基づく直接評価を利用したが、最終反応の安定化の困難さを含むいくつかの問題に遭遇した。
【0004】
この技術的アプローチの改善は、ダフォンセカ-ウォルハイム(Da Fonseca-Wollheim)によるクリステン(Kirsten)反応の変法である。元の酵素法は、反応混合物へのADPの添加、内因性LDHと内因性ピルビン酸との反応からの干渉を排除するためのNADHに代えてNADPHの使用、及び除タンパク上清に対する血漿の置換によって改善される(Da Fonseca-Wollheim F.Z Klin Chem Klin Biochem 11(1973)421-425)。
【0005】
日本国特許第03614967号B2明細書は、2-オキソグルタレート、GLDH、グルコース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ及びNADPHを含む組合せを使用して行われる検体からのアンモニウムの除去を開示している。
【0006】
Chenault K.H&Whitesides G.M Appl Biochem Biotechnol.14(1987)147-197は、ニコチンアミド補因子の再生のための異なるアプローチを報告している。
【0007】
臨床化学及びin vitro診断の分野におけるダフォンセカ-ウォルハイムの変法の例示的な実施形態は、血漿中アンモニアの定量的測定のためのRoche/Hitachi分析装置用のcobas(登録商標)NH(アンモニア)アッセイキット(MODULAR P、cobas cプラットフォームを備える;例えば、キャリブレータとしてRocheカタログ番号20751995190、20752401190、20753009190を備える、カタログ番号11877984216)である。使用中のキットは、R1及びR2とも称される第1及び第2の水性使用液を含む試薬容器を備える。
【0008】
アッセイ原理は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)、EC1.4.1.3によって触媒される反応を利用する。水溶液中で、GLDHは、NH 及び補助基質NADPHによる2-オキソグルタレートの還元的アミノ化を触媒し、それによってグルタメート及びNADPを形成する。診断分析ワークフローの過程で、血漿試料をR1及びR2のアリコートと混合し、インキュベートする。インキュベーション後、酸化された補助基質NADPの量は、試料を添加する前後のNADPHの差分吸光度を測定することによって測光的に決定され、試料中の対応するアンモニアの量は、別々の測定で収集された較正データを使用して決定される。
【0009】
関与する反応性化合物の安定性及び貯蔵寿命を確保するために、その水溶液を適切な条件下に保つ必要がある。具体的には、GLDHは、pHが上昇するにつれて次第に不安定になる。診断アッセイの目的では、GLDHは、pH10を超えるアルカリ性条件下で保存した場合、技術的に実用的ではない。しかしながら、pH9より低いpHは、GLDHの十分な安定性、貯蔵寿命及び有用性を可能にする。したがって、例示的なcobas(登録商標)NH(アンモニア)アッセイキットでは、使用液R1は、市販のアッセイキット中のすぐに使用できる液体試薬として製造業者によって提供されるpH8.3(すなわち、pH 9未満)に緩衝された水溶液である。
【0010】
対照的に、NADPH(及び同様にNADH)は、pH10を超えるpHで溶液中で十分に安定である。しかしながら、それにもかかわらず、経時的には、NAD(P)Hは、pH10を超えるpHであっても水溶液中で崩壊を示す。この不安定性に対処するために、NADPHを含むR2の乾燥成分と共に、cobas(登録商標)NH(アンモニア)アッセイキットが出荷される。乾燥物質として維持される場合、NADPHは安定なままである。使用前に、乾燥NADPHを水性緩衝液に溶解し、それにより、試料中のNHを測定するための診断アッセイワークフローにおけるその後の(好ましくは即時の)消費の準備ができている水溶液(R2)を形成することによって、R2使用液を調製する。これは余分な手作業を必要とするので、NADPHを含む安定化された即時使用型試薬が望ましい。
【0011】
NADPH崩壊の結果として、アンモニアが生成物として形成される。この特定の理由のために、試料中のアンモニアを測定及び定量するアッセイに使用するための試薬中のNADPH崩壊を打ち消す技術的必要性が存在する。したがって、経時的に、NHはNADPH崩壊に起因してR2使用液中に蓄積し、誤って上昇した測定値を生じる危険性がある。
【0012】
本開示に記載される組成物、キット、方法及び使用は、上記の技術的必要性を考慮して改善を提供するように設計される。本明細書に詳述される教示に基づいて、液体試料中のアンモニアの測定のためのアッセイを有利に改善することができる。驚くべきことに、NAD(P)H含有水性試薬の貯蔵寿命は、過酷な条件下であっても延長され得る。
【発明の概要】
【0013】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第1の態様として、水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットであって、2-オキソグルタレート、補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)、及びNAD(P)Hを含有し、第1及び第2の容器を備え、第1の容器が第1の量のGLDHを含む第1の水性試薬を含有し、第1の試薬がGLDHの酵素活性を維持することができるpHを有し、第2の容器がNAD(P)H、2-オキソグルタレート、及び第2の量のGLDHを含む第2の水性試薬を含有し、第1の試薬の1mL当たりのGLDH酵素活性が第2の試薬における1mL当たりのGLDH酵素活性よりも高く、並びに、第2の試薬のpHが、アンモニア、NAD(P)H及び2-オキソグルタレートを変換するために第2の試薬中でGLDHの酵素活性を維持することができ、それによって第2の試薬中でL-グルタメート、NAD(P)及びHOを形成することができるキットが報告される。
【0014】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第2の態様は、水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットを提供する方法であって、該キットが2つの異なる水性試薬を含み、該試薬が、2-オキソグルタレート、補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)、及びNAD(P)Hを水溶液中に含有し、該方法が、GLDHの酵素活性を維持することができるpHを有する水溶液にGLDHを溶解することによって第1の試薬を調製する工程、2-オキソグルタレート、GLDH、及びNAD(P)Hを水溶液中に溶解し、アンモニア、NAD(P)H、及び2-オキソグルタレートへと変換するために第2の試薬中でGLDHの酵素活性を維持することを許容するように第2の試薬のpHを調整することによって第2の試薬を調整し、それにより第2の試薬中でのL-グルタメート、NAD(P)及びHOの形成を可能にする工程、第1及び第2の試薬を別々の容器に提供する工程、並びにパーツキットに容器を組み合わせて、それによって水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットを提供する工程を含む、方法が報告される。
【0015】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第3の態様として、水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するための、第1の態様によるアッセイキット又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットの使用が報告される。
【0016】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第4の態様として、第1の態様によるアッセイキット、又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットが報告され、第2の試薬中のアンモニアの濃度は、約1.5μM以下、より具体的には約0.01μM~約1.5μMである。
【0017】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第5の態様として、(i)アンモニアを含有すると疑われる水性液体試料と、(ii)第1の態様によるアッセイキット又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットを含むアッセイキットの第2の試薬とを含む混合物が報告される。
【0018】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第6の態様として、第5の態様による混合物を形成することができる自動化された装置が報告され、該装置は、(i)試料容器内の水性液体試料及び(ii)第1の態様によるアッセイキット又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットと組み合わされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】NADP及びNADPHの化学式
図2】De Ruyck J.et al.Chem Phys Lett 450(2007)119-122に報告されているNADP及びNADPHの実験的UV/visスペクトル。
図3A】本報告の教示による、アンモニア検出及び定量のための改善された診断アッセイのための実施説明書の描写。
図3B】本報告の教示による、アンモニア検出及び定量のための改善された診断アッセイのための実施説明書の描写。
図3C】本報告の教示による、アンモニア検出及び定量のための改善された診断アッセイのための実施説明書の描写。
図4-1】GLDHの補助基質の酸化形態の分子構造の描写:(A)NAD、(B)NADP、(C)3-アセチルピリジン-NAD、(D)3-アセチルピリジン-NADP、(E)3-ピリジンアルデヒド-NAD、(F)3-ピリジンアルデヒド-NADP、(G)チオニコチンアミド-NAD、(H)チオニコチンアミド-NADP
図4-2】GLDHの補助基質の酸化形態の分子構造の描写:(A)NAD、(B)NADP、(C)3-アセチルピリジン-NAD、(D)3-アセチルピリジン-NADP、(E)3-ピリジンアルデヒド-NAD、(F)3-ピリジンアルデヒド-NADP、(G)チオニコチンアミド-NAD、(H)チオニコチンアミド-NADP
図5】表1に列挙した実験の結果のグラフ表示(実施例4及び表1参照)。
図6】(i)実施例2に記載の元の第2の試薬(R3)[実線]使用液(NADPHを含有する)及び(ii)NADPHをNADH[点線]で置き換えた改変された使用液R3′(本開示による改変された第2の試薬)の比較、更なる詳細については実施例5を参照されたい。NADPH[実線]及びNADH[点線]の吸光読み取り値。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、発明を限定することを意図するものではない。
【0021】
この詳細な説明において、「一実施形態」、「実施形態」、又は「実施形態では」への言及は、言及されている特徴が、本開示によるそのすべての態様に関して本技術の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。更に、「一実施形態(one embodiment)」、「実施形態(an embodiment)」、又は「実施形態(embodiments)」への個々の言及は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。しかしながら、そのような実施形態は、特に明記しない限り、及び当業者に容易に明らかになることを除いて、相互に排他的ではない。したがって、本開示によるそのすべての態様における技術は、本明細書に記載の実施形態の任意の様々な組み合わせ及び/又は統合が包含され得る。
【0022】
用語「a」、「an」、及び「the」は、一般的には、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。本明細書で使用される場合、「複数」は、2つ以上を意味すると理解される。例えば、複数は、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上を指す。本明細書で使用される場合、特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、「又は」という用語は包括的であると理解される。
【0023】
本明細書で使用される場合、「含む(include)」及び/又は「有する(have)」という用語は、記載された特徴、項目、工程、操作、要素、及び/又は成分の存在を指定するが、少なくとも1つ他の特徴、項目、工程、捜査、要素、成分、及び/又はそれらのグループの存在又は追加を排除するものではないことが更に理解される。同様に、「有する(with)」は、記載された特徴等の存在も指定する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「含む、備える(comprising)」、「含有する、備える(contains)」、「含有する、備える(containing)」「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という用語、又はそれらの任意の他の変形は、非排他的包含を含むことを意図している。例えば、特徴のリストを含むプロセス、方法、物品、又は装置は、必ずしもそれらの特徴のみに限定されず、明示的に列挙されていない、又はそのようなプロセス、方法、物品、又は装置に固有の他の特徴を含むことができる。対照的に、「からなる(consists of)」、「からなる(consisting of)」、又はそれらの任意の他の変形は、特徴の排他的リストを指定する。特に、所与の特徴の排他的リストは、これらの特徴の非排他的リストの特定の実施形態を表すものとして理解される。
【0025】
本明細書で使用される場合、反対のことが明示的に述べられていない限り、「又は」は、排他的論理和ではなく包括的論理和を指す。例えば、条件A又はBは、以下のいずれか1つによって満たされる。Aが真(又は存在)かつ、Bが偽(又は非存在)であり、Aが偽(又は非存在)かつBが真(又は存在)であり、AとBが両方とも真(又は存在)である。
【0026】
本明細書で使用される場合、「実質的に」、「相対的に」、「一般的に」、「典型的に」、及び「およそ」は、そのように修飾された特性からの許容可能な変動を示すことを意図した相対的な修飾語である。それらは、それが修飾する絶対値又は特性に限定されることを意図するものではなく、むしろそのような物理的又は機能的特性に近づくか、又は近似することを意図している。本明細書で使用される場合、特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、「約」という用語は、当該技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均の2標準偏差以内であると理解される。約は、記載された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%以内と理解することができる。文脈から明らかでない限り、本明細書で提供されるすべての数値を、約という用語によって修飾することができる。
【0027】
「アンモニア」は、式NHを有する、窒素と水素の周知の化合物である。アンモニアは水に溶解することができ、アンモニアの水溶液はアルカリ性である。アンモニアは、4.76の塩基定数pKを有する塩基である。そのため、水溶液中では、ある量のアンモニア分子が水分子と反応して、アンモニウムイオン(=「アンモニウム」)及びヒドロキシルイオンを生じる。水溶液中にアンモニアが存在する限り、特に明記しない限り、アンモニアはアンモニウムと反応平衡にあることが理解される。
【0028】
2-オキソグルタレート(=α-ケトグルタル酸)は、グルタル酸の2つのケトン誘導体のうちの1つである。そのアニオンである2-オキソグルタレート(=α-ケトグルタレート)は、重要な生物学的化合物である。これは、グルタメートの脱アミノ化によって生成されるケト酸であり、クレブス(Krebs)サイクルの中間体である。
【0029】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)は、ほとんどの微生物及び真核生物のミトコンドリアに存在する酵素である。GLDH活性は、L-グルタメートをα-ケトグルタレートに変換することができ、逆もまた同様である。本報告のすべての態様及び実施形態は、補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるGLDH(EC 1.4.1.3)に関することが理解される。
【0030】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)は、GLDHの補助基質である。それらは、ニコチンアミドモノヌクレオチド、したがってジヌクレオチドに共有結合したAMP(アデノシン一リン酸)分子から構成される。NADPは、AMPのリボース環の炭素2上に追加のリン酸基が存在することでNADとは異なる。これらの分子は、酸化/還元(=レドックス)反応に関与する拡散性補助基質である。NAD及びNADPは、それぞれの補助基質の酸化型である。還元されると、ニコチンアミド環の炭素4は、水素化物(H)イオン、プロトン及び2個の電子を受容する。NAD+/NADP+は常に2つの電子酸化又は還元を受ける。NADH及びNADPHは、還元型の略語である。GLDH酵素活性に関して、NADH及びNADPHだけでなく、その機能的類縁体も基質として機能することができる。図4A~Hには、これらのいくつかが示されている。本報告の目的のため、使用中の特定のGLDHが、酸化還元反応においてそれぞれの官能性類縁体の還元型を2-オキソグルタレートと反応させ、それによって官能性類縁体の酸化型を生成することができることを条件として、すべての態様及び実施形態において本明細書に記載される教示は、任意の官能性類縁体を用いて有利に実施することもできることが本明細書で述べられる。
【0031】
本開示の目的のため、「アッセイキット」は、アッセイを実施する目的で組み合わされる部分の構成物として理解される。典型的には、このアッセイは、限定されるものではないが、試料中の材料としての血漿中の分析物アンモニア等の試料中の分析物の検出及び決定(定量)を含む。重要なことに、「アッセイキット」の意味は、キットに含まれる1つ以上の部分を使い果たす使用前の部分の構成物を示す。液体試薬を収容する(含有する)容器の特定の実施形態では、使用前に容器が閉じられ、必要に応じて密封されることが理解される。容器の使用前に開封し、存在する場合、シールを破る。本開示において報告される態様及び実施形態は、部分A及び部分Bの少なくとも2つの部分備えるパーツキットとしてのアッセイキットに関する。他の部分が、本開示によるアッセイキットに存在してもよい。各部分は、典型的には、1つ以上の構成要素を含む。パーツキットを提供する場合、可能であれば、特にパーツキットの保管中に、部分内の成分(互いに化学的に反応して望ましくない生成物を形成する可能性がある成分)を組み合わせることを避けるべきである。そのため、パーツキットは、典型的には、望ましくない反応を回避するために、少なくとも貯蔵中にそれらの反応性成分が互いに分離される方法で提供される。NAD(P)Hの望ましくない反応によってもたらされる技術的課題は具体的に対処されるが、本明細書に開示されるアッセイキットの部分における他のすべての成分は、適切な環境にあり、例えば、(限定するものではなく)試薬は、液体の蒸発から保護するケーシング(容器)内に封入され、酵素及び基質は、アッセイキットの目的に従って使用することを許容するように構成された溶媒、及び当該技術分野で受け入れられている他の手段で提供されることが理解される。アッセイキットはまた、典型的には、包装材料と、アッセイキットの使用目的及びキットの使用前の貯蔵の推奨条件又は必要条件に関する情報を含む文書のいずれかとを含む。包装材料に関して、その特定の実施形態は、ユーザが、既に開封されており、したがって製造後に元の状態にない可能性があるキットを、例えば、独創性のあるシールによって認識することを可能にする。
【0032】
本開示で報告された知見は、一方ではダフォンセカ-ウォルハイムによるクリステン反応の変法に関する。元の酵素法は、反応混合物へのADPの添加、内因性LDHと内因性ピルビン酸との反応からの干渉を排除するためのNADHに代えてNADPHの使用、及び除タンパク上清に対する血漿の置換によって改善される(Da Fonseca-Wollheim F.Z Klin Chem Klin Biochem 11(1973)421-425)。しかしながら、他方で、本開示の知見は、より一般的には、NADPH及びNADHの水溶液の安定化に関し、具体的にはアンモニアを決定する目的のためのものであり、関連する検出アッセイはグルタミン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性に基づく。
【0033】
典型的には、アンモニアに特異的な検出試薬は、
i) 試料中に存在するアンモニウム(したがって、アンモニアは水溶液中でアンモニウムと反応平衡にある)を定量的に反応させること、及び
ii) 反応したアンモニアの量を反映する化学量論量の検出可能な反応生成物を生成することが同時に可能となるように選択及び設計される。
【0034】
古くから確立されたアッセイ原理は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)によって触媒される以下の反応[反応1]を利用する。水溶液中で、GLDHは、NH 及びNADPHによる2-オキソグルタレートの還元的アミノ化を触媒し、それによってグルタメート及びNADPを形成する。
【0035】
[反応1]
【化1】
【0036】
[反応1]における補助基質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(CAS番号53-59-8)の還元型であるNADPHであり、対応する酸化型はNADPである。或いは、補助基質は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(CAS番号58-68-4)の還元型であるNADHであり得、対応する酸化型はNADである。代替的な酵素反応は、以下の[反応2]の通りである。
【0037】
[反応2]
【化2】
【0038】
既に上述したように、水溶液中にアンモニアが存在する限り、特に明記しない限り、アンモニアはアンモニウムと反応平衡にある。本開示の目的で、[反応1]及び[反応2]のいずれかは、単独又は組み合わせのいずれかで、「検出反応」とも称される。更に、NADPH及びNADHcのいずれかは、「還元型補助基質」とも称される。更に、NADP及びNADのいずれかは、「酸化型補助基質」とも称される。
【0039】
重要なことに、両方の検出反応は、化学量論量でそれぞれの酸化型補助基質を生じるため、反応したアンモニウムの量を反映する。補助基質は紫外線を強く吸収し、還元型補助基質と酸化型補助基質との間の差を測光的に検出することができる。そのため、補助基質の酸化形態と還元形態との間の吸収スペクトルの差は、[反応1]又は[反応2]の酵素アッセイにおいてこの変換を測定することを容易にする。
【0040】
したがって、大きな利点として、NADH及びNADPHは、酵素触媒酸化還元反応に基づく多数の定量的アッセイ、特に液体水性試料中のアンモニアの濃度を評価するためのそのようなアッセイにおける補助基質として使用される。1個のアンモニウムイオンが関与する各酵素触媒酸化還元反応について、1個のNAD(P)H分子がNAD(P)に変換されるという化学量論的関係がある。分光光度測定は、反応中に最初に存在するNADH又はNADPHの初期量の任意の変化を定量的に検出することを可能にする。[反応1]及び[反応2]に関して、それぞれの酸化形態を化学量論量で反応生成物として検出可能に形成することにより、それぞれの酸化形態の分光光度測定は、反応したアンモニウム(及びアンモニア)の量を反映する。補助基質及びアクセプター化合物2-グルタメートはモル過剰で存在し、化学平衡は生成物側にシフトする(L-グルタメート+NAD(P)+HO)。その結果、利用可能なすべてのアンモニアが最終的に変換され、すなわち定量的に反応し、それにより、それぞれ等モル量のNAD又はNADPが生じる。
【0041】
水溶液中のNAD(P)H分子は不安定であり、すなわち、崩壊することによりアンモニアを放出する傾向を示す。実施例3は、経時的なアンモニア放出が実際にNAD(P)Hの水溶液の場合であることを示す実験番号1、3、4及び5を表1に収載する。補助基質のこのようなアンモニア放出崩壊に伴う技術的課題は、試料中のアンモニアの検出における試薬としてNAD(P)Hの水溶液を使用する場合に特に明白である。試料中のアンモニア濃度が低いほど、アンモニアの誤って上昇した定量測定の可能性を考慮して、NAD(P)H含有水性試薬によってもたらされるリスクはより深刻である。
【0042】
しかしながら、本発明者らによって示され得、本開示において文書化されているように、準最適(特に9より高い、又は更に高いpH)未満の条件下であっても、2-オキソグルタレート及びNAD(P)Hの存在下で、一定割合のGLDHが活性を保持する。この知見の影響は、非限定的な形で、Roche Diagnostics cobas(登録商標)NH3診断アッセイによって例示することができる。本発明のcobas(登録商標)NH3アッセイは、アンモニアを含有すると疑われる試料と混合される2つの異なる試薬、R1及びR2を使用する。R1は、既製の液体試薬として2-オキソグルタレートを含有する。使用直前に、R2は、固体材料及び水溶液から新たに調製されるものであり、調製が完了した後、NADPH、GLDH及び2-オキソグルタレートを含有する。したがって、現在利用可能なcobas(登録商標)NH3診断アッセイキットは、2つの即時使用型のアッセイ試薬を含有せず、1つのみを含有する。キットは、使用前に手動でR2試薬を調製するための液体内容物及び固体材料を含む更なるボトルを含有する。
【0043】
したがって、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第1の態様は、水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットであって、2-オキソグルタレート、補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)、及びNAD(P)Hを含有し、第1及び第2の容器を備え、第1の容器が第1の量のGLDHを含む第1の水性試薬を含有し、第1の試薬がGLDHの酵素活性を維持することができるpHを有し、第2の容器がNAD(P)H、2-オキソグルタレート、及び第2の量のGLDHを含む第2の水性試薬を含有し、第1の試薬1mL当たりのGLDH酵素活性が第2の試薬における1mL当たりのGLDH酵素活性よりも高く、並びに第2の試薬のpHが、アンモニア、NAD(P)H及び2-オキソグルタレートを変換するために第2の試薬中でGLDHの酵素活性を維持することができ、それによって第2の試薬中でL-グルタメート、NAD(P)及びHOを形成することができる、キットである。
【0044】
ここで提供されるアッセイキット内の第2の試薬も第1の試薬も、使用前に別個の手動調製工程を必要としないことを理解することが重要である。そのため、アッセイキットの一実施形態では、キットは、2種の水溶液を含む2つの容器のみを含有する(より具体的には備える)ことができ、2つの溶液のいずれかは、NAD(P)H、GLDH及び2-オキソグルタレートから選択される1種以上の化合物を含む。一実施形態では、NAD(P)Hは第2の試薬にのみ存在する。
【0045】
一実施形態では、第1の試薬のpHは、pH7~pH9、及びより具体的にはpH8とpH9との間である。特定の実施形態は、第1の試薬のpH値であり、特定の値は8.5~8.9から選択される。
【0046】
特に第2の試薬に関しては、NAD(P)H含有試薬からアンモニアを捕捉する目的で、GLDHを技術的に使用に適さないと考えられる条件下で使用できることが本報告の根拠である中心的知見である。そのため、ほとんどがNAD(P)Hの安定性に有利である、すなわちアンモニアを放出する傾向を低下させるNAD(P)H試薬の条件を選択することができる。更に、GLDH酵素の存在は、試薬にアンモニアを含ませないようにする。これに関連して重要な因子は、実質的にアルカリ性であるように選択される試薬のpHである。したがって、実施形態では、第2の試薬のpHは、pH8~pH11、及びより具体的にはpH8とpH10との間、更により具体的にはpH9とpH10との間である。
【0047】
実施例2は、非限定的な形で、新たに開発されたcobas(登録商標)NH3L2 R1試薬が、試料中のアンモニア検出に使用されるGLDH酵素活性の大部分を提供することを示す。なお、R1試薬は、2-オキソグルタレートを含有しない。これは、2-オキソグルタレートが第2の試薬中にのみ存在する実施形態の例である。
【0048】
新たに開発された第2(R3)試薬は、GLDHのより少ない部分を含有するが、アンモニア捕捉機構を維持するのに十分である。そのため、一実施形態では、第1の試薬に存在する1mL当たりのGLDH酵素活性と第2の試薬に存在する1mL当たりのGLDH酵素活性との比は、15:1~1.5:1、より具体的には10:1~2:1、更により具体的には5:1~2:1、更により具体的には比は約3:1である。別の実施形態では、キットに含まれる試薬によって提供される総GLDH酵素活性に対して、第2の試薬は、1%~30%の量のGLDH酵素活性形態を含有し、該量は、より具体的には、2%~5%、5%~7%、7%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、及び25%~30%のいずれかから選択される。
【0049】
第1の態様に関する実施形態の上記の説明は、第2の態様及び他の態様にも等しく適用可能である。したがって、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第2の態様は、水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットを提供する方法であって、該キットが2つの異なる水性試薬を含み、該試薬が、2-オキソグルタレート、補助基質としてNAD(P)Hを反応させることができるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(=GLDH)、及びNAD(P)Hを水溶液中に含有し、該方法が、GLDHの酵素活性を維持することができるpHを有する水溶液にGLDHを溶解することによって第1の試薬を調製する工程、2-オキソグルタレート、GLDH、及びNAD(P)Hを水溶液中に溶解し、そしてアンモニア、NAD(P)H、及び2-オキソグルタレートへと変換するために第2の試薬中でGLDHの酵素活性を維持することを許容するように第2の試薬のpHを調整することによって第2の試薬を調整し、それにより第2の試薬中でのL-グルタメート、NAD(P)及びHOの形成を可能にする工程、第1及び第2の試薬を別々の容器に提供する工程、並びにパーツキットに容器を組み合わせて、それによって水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するためのアッセイキットを提供する工程を含む、方法である。
【0050】
本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第3の態様は、水性液体試料中のアンモニアの濃度を定量的に決定するための、第1の態様によるアッセイキット又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットの使用に関する。
【0051】
この報告で示される技術の別の顕著な利点は、補助基質の分解によるアンモニアの汚染を考慮して、水溶液として製造され、NAD(P)Hを含有する試薬の貯蔵寿命の増加及び安定性の向上である。そのため、本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第4の態様は、第1の態様によるアッセイキット、又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットに関し、第2の試薬中のアンモニアの濃度は、約1.5μM以下、より具体的には約0.01μM~約1.5μMである。
【0052】
本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第5の態様は、(i)アンモニアを含有すると疑われる水性液体試料と、(ii)第1の態様によるアッセイキット又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットを含むアッセイキットの第2の試薬とを含む混合物を提供する。特定の例では、試料中に存在するアンモニアの量に追加する第2の試薬からのアンモニアの量は、約1.5μM以下である。
【0053】
本明細書では、本開示の他のすべての態様及び実施形態に関連する第6の態様として、第5の態様による混合物を形成することができる自動化された装置が報告され、該装置は、(i)試料容器内の水性液体試料及び(ii)第1の態様によるアッセイキット又は第2の態様の方法を実施することから得られるアッセイキットと組み合わされる。他のすべての態様及び実施形態に関する実施形態では、アッセイキットは試薬カセットを含み、該試薬カセットは少なくとも第1及び第2の密封区画を含み、第1の区画は上記の所与の第1の態様による第1の容器であり、第2の区画はしたがって第2の容器である。そのため、本明細書で提供されるすべての態様及び実施形態に関連する実施形態では、第1及び第2の容器がホルダ、ラック及びカセットのいずれかで組み合わされ、第1及び第2の容器の開口部が閉鎖され密封される、第1の態様のアッセイキットが提供される。これにより、ユーザは、製造後に溶液が元の状態にあるか否かを認識することができる。より具体的な実施形態では、第1及び第2の容器は、Roche Diagnostics cobas(登録商標)cプラットフォームc311、c501/502、及びc701/702のいずれかに適合するcobas(登録商標)試薬カセット内で組み合わされる。この実施形態では、反応カセットは、本明細書で提供される第1及び第2の容器として機能する別個の区画を提供する。
【実施例
【0054】
以下の実施例及び図は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の要旨から逸脱することなく、記載された手順に変更を加えることができることが理解される。
【0055】
実施例1
先行技術のアッセイキット(アッセイ名称「NH」)を使用した血漿試料中のアンモニアの診断判別
Roche/Hitachi分析装置用のRoche cobas(登録商標)NH(アンモニア)アッセイキット(MODULAR Pプラットフォームを含む;ドイツ国マンハイムのRoche Diagnostics GmbH、キャリブレータとしてカタログ番号20751995190、20752401190、20753009190を備えるカタログ番号11877984216)を提供した。
【0056】
使用前に、R2を3つの工程で調製し、それによってNADPHの固体(すなわち、水を含まない)調製物を溶液に入れた:
(1)アッセイキットの一部として供給されるボトル2a及びボトル2bをそれぞれ1本ずつ提供し、続いてボトル2aから0.5mLの試薬をボトル2bに添加して混合することによりボトル2bの内容物を再構成し、続いて該混合物を時々穏やかに旋回させながら室温で10分間インキュベートし、それによりボトル2b内に第1の溶液を得る。
(2)アッセイキットの一部として供給された1本のボトル2及び工程(1)からのボトル2aを提供し、続いてボトル2aから4.5mLの試薬をボトル2に添加し、穏やかに反転させて混合することにより、ボトル2内に第2の溶液を得ることによってボトル2の内容物を再構成する。
(3)工程(1)の結果として得られた第1の溶液をボトル2bに提供し、工程(2)の結果として得られた第2の溶液をボトル2に提供し、ボトル2bからの150μlの第1の溶液をボトル2内の第2の溶液に添加し、穏やかに反転させて混合することにより、即時使用型のR2使用液を得る。
【0057】
キットの一部として提供された使用液R1は、トリエタノールアミン緩衝液:151mmol/L、pH8.6;2-オキソグルタレート:16.6mmol/L;ADP:≧1.2mmol/L;更に防腐剤を含有した。
【0058】
上記で詳述した工程(3)の結果として得られた即時使用型の使用液R2は、NADPH:458μmol/L以上;GLDH(ウシ肝臓;25℃):24.3U/mL以上;トリエタノールアミン緩衝液:151mmol/L、pH8.6;2-オキソグルタレート:16.6mmol/L;ADP:1.2mmol/L以上;更に防腐剤を含有した。
【0059】
アッセイキット、具体的にはR1及びR2を、Roche/Hitachi MODULAR Pプラットフォームで製造業者の指示に従って使用した。
【0060】
実施例2
異なる量のGLDHをR2に添加することによるアンモニアの捕捉
R2使用液を実施例1に記載のように調製した。アリコートを異なる量のGLDHと混合した。
【0061】
実施例3
NADPHの安定化が増強された新規アッセイキット(アッセイ名称「NHL2」)を使用した血漿試料中のアンモニアの診断判別
Roche/Hitachi分析装置用の新たに開発されたcobas(登録商標)NHL2(アンモニア)アッセイキット(cobas cプラットフォームc 311、c501/502を含む;キャリブレータとしてカタログ番号20751995190、20752401190、20753009190を使用する、本発明者らによって構成されたアッセイキット)を用意した。キットは、即時使用型の2つの異なる使用液、R1及びR3を含む。
【0062】
キットの一部として提供された使用液R1は、BICINE(=N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-グリシン)緩衝液:300mmol/L、pH8.3;GLDH(微生物):≧16.7μkat/L;洗浄剤;防腐剤を含有した。
【0063】
キットの一部として提供された使用液R3は、GLDH(微生物):≧5.0μkat/L;2-オキソグルタレート:78mmol/L;NADPH:≧1.3mmol/L;安定剤;非反応性緩衝液を含有した。
【0064】
アッセイキット、具体的にはR1及びR3は、Roche/Hitachi cobas cプラットフォーム上の図3A~3Cに示される説明書に従って使用した。
【0065】
実施例4
異なる量のGLDHをR2に添加することによるアンモニアの捕捉
【表1】
【0066】
水溶液を新たに調製し、該溶液は2-オキソグルタレート:78mmol/L;NADPH:≧1.3mmol/L;及び非反応性緩衝液を含有した。異なる量のGLDHを水溶液のアリコートに添加した。1つのアリコートに既知量のアンモニアを更に添加した。個々に調製した試験溶液に異なるインキュベーション条件を適用した。
【0067】
表1は、組成及び条件を要約したものである。図5は、結果のグラフ表示であり、すなわち、各実験後に検出されたアンモニア濃度(「c[NH]」とも称される)は、3D図の各個々のブロックの高さによって示されている。描かれたブロックが図5の矢印によって与えられるY軸に沿ってより多く延びるほど(すなわち、図中のそれぞれのブロックの高さが高いほど、)、それぞれの実験で検出されたアンモニア濃度はより高くなる。各ブロックは、表1の番号付けされたリストに与えられた実験を表し、図5の単一のブロックに与えられた番号表記は、表1のナンバリング[#]に対応する。
【0068】
注目すべきことに、GLDHの存在により、アンモニアの濃度を0.01μM~1.5μMの範囲で再現性よく維持することができた。図5の図中のGLDH関連ブロックは、0.02μM~1.3μMの値に対応する。
【0069】
実験番号10、15、20、25及び30(すなわち、14日間隔の終わりに、)の35℃インキュベーションの最後に、水溶液中に残存する生存GLDH活性を決定した。結果を表2に要約する。
【表2】
【0070】
適用されたインキュベーション条件は、試薬、特にその中に含まれる酵素活性に対して周囲条件(例えば室温)でより長い時間提供される株を模倣するように設計されたことに留意されたい。そのため、アンモニアのためのGLDHベースの捕捉機構の存在によって引き起こされる試薬貯蔵寿命への影響は、ここに報告されるデータによって明らかになる。
【0071】
最も少量のGLDH(実験番号10)であっても、インキュベーション期間中に形成されたアンモニアの除去に成功したことを見るのは興味深い。これを同じ溶液であるがGLDHの不在下(実験番号5)の結果と比較すると、制約下、すなわちGLDH活性及び/又は安定性に最適でない条件下であっても、酵素が補助基質の分解からアンモニアの効率的な除去を確実にするのに十分に活性である条件を見出すことが十分に可能であることが明らかとなる。
【0072】
補助基質が飽和濃度で存在するので、捕捉プロセスにおける消費は有意ではない、すなわち新たに開発されたcobas(登録商標)NHL2(アンモニア)アッセイキットの性能に無関係であることがわかった。
【0073】
実施例5
NADPHの代わりにNADHを用いた安定化された使用液
実施例2に示すような使用液R3を調製し、NADHがNADPHに置き換わった使用液R3′を調製した。各溶液をキュベットに充填し、NADH又はNADPHのUV吸収最大値又はその付近の吸光を連続的に測定した。ある時点(15分後)で、アンモニア溶液をキュベットに添加し、それぞれの使用液中のアンモニア濃度を100μMに調整した。吸光を更に記録した。両方の使用液において、吸光読み取り値を減少させることによって明らかになるように、補助基質の濃度が減少したことがわかった。これらのデータから、使用液からアンモニアを捕捉する機構(GLDH酵素活性による)は、両方の補助基質の存在下で機能すると結論付けられた。測定を10℃で行った。
【0074】
図6は、NADPH(実線)及びNADH(点線)の吸光読み取り値を示す。アンモニアの添加の時点は、吸光によって示される補助基質消費の開始を示す細い矢印によって示されている。
【0075】
ここで、添加されたアンモニアの量は非常に多く、この濃度で選択されたのは、低量のGLDHが、最適条件以下であっても、アンモニウム及び補助基質を反応させてL-グルタメート及び水を生成し、それによって溶液からアンモニアを捕捉することができることを示すことに留意されたい。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4-1】
図4-2】
図5
図6