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  • 特許-Liイオン伝導体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】Liイオン伝導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20241218BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241218BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241218BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01B1/08
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
C01G25/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021545541
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2020033907
(87)【国際公開番号】W WO2021049477
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019167381
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 和章
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-174659(JP,A)
【文献】特表2016-535391(JP,A)
【文献】特開2019-029353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/08
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)を有するLiイオン伝導体であって、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13.8°±1°及び2θ=15.2°±1°の少なくとも一方に回折ピークを有し、
CuKα線を用いたX線回折測定における立方晶Li 6.25 Ga 0.25 La 3 Zr 2 12 の回折ピークのうち、2θ=30.9°に相当する回折ピークが、2θ=30.5°以上、30.9°以下に観察されることを特徴とするLiイオン伝導体。
【請求項2】
CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13.8°±1°及び2θ=15.2°±1°の両方の位置に回折ピークを有する請求項1に記載のLiイオン伝導体。
【請求項3】
前記相(L)の界面が、融点600℃以下の共晶混合物で接続される請求項1または2に記載のLiイオン伝導体。
【請求項4】
前記相(L)とは異なる金属含有相(K)を有し、該相(K)はハロゲン元素及びLiを含む請求項1~3のいずれか一項に記載のLiイオン伝導体。
【請求項5】
格子定数が12.95Å超、13.15Å以下である請求項1~のいずれか一項に記載のLiイオン伝導体。
【請求項6】
インピーダンス測定による活性化エネルギーEaが0.6eV以下である請求項1~のいずれか一項に記載のLiイオン伝導体。
【請求項7】
インピーダンス測定による室温でのLiイオン伝導率σtotalが1.0×10-7S/cm以上である請求項1~のいずれか一項に記載のLiイオン伝導体。
【請求項8】
Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)を有するLiイオン伝導体の製造方法であって、
融点が600℃以下の共晶混合物と、Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物の混合物を成形し、得られた成形物を600℃以下で熱処理することによって前記ガーネット型複合金属酸化物相(L)の界面を、前記した融点が600℃以下の共晶混合物を用いて接続し、
前記共晶混合物は、ZrCl 4 、AlCl 3 、NbCl 5 もしくはTaCl 5 と、LiClとの共晶混合物であるか、又はLiFとTaF 5 との共晶混合物であることを特徴とするLiイオン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLiイオン伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
Liイオン二次電池の研究開発は、携帯機器、ハイブリット自動車、電気自動車、家庭用蓄電用途で盛んに行われている。これらの分野に用いられるLiイオン二次電池は、安全性の高さ、長期サイクル安定性、高エネルギー密度などが求められている。
【0003】
中でも、固体電解質を用いた全固体電池は、安全性の高さから注目されている。例えば、特許文献1のリチウムイオン伝導体LICは、まずイオン伝導体を作製した後に、ハロゲン化リチウムと当該イオン伝導体を混合、加熱し製造している。例えば、イオン伝導体Li7La3Zr212に対してMg及びSrの元素置換を行ったLLZ-MgSrの粉末の場合、LLZ-MgSrの各元素を含む原料(Li2CO3、MgO、La(OH)3、SrCO3、ZrO2、SrCO3,ZrO2)を15時間混合し、1000℃、10時間焼成して作製した後に、さらにハロゲン化リチウム(例えばLiI)の粉末を混合して混合粉末を得て、ステンレス集電体と共にプレス機によってプレスして圧粉体を得、80℃で17時間の熱処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-91788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガーネット型複合金属酸化物相を含み、良好なリチウムイオン伝導性を示す、特許文献1とは別のLiイオン伝導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
[1]Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)を有するLiイオン伝導体であって、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13.8°±1°及び2θ=15.2°±1°の少なくとも一方に回折ピークを有するLiイオン伝導体。
[2]前記相(L)とは異なる金属含有相(K)を有し、該相(K)はハロゲン元素及びLiを含む[1]に記載のLiイオン伝導体。
[3]CuKα線を用いたX線回折測定における立方晶Li6.25Ga0.25La3Zr212の回折ピークのうち、2θ=30.9°に相当する回折ピークが、2θ=30.5°以上、30.9°以下に観察される[1]又は[2]に記載のLiイオン伝導体。
[4]格子定数が12.95Å超、13.15Å以下である[1]~[3]のいずれかに記載のLiイオン伝導体。
[5]インピーダンス測定による活性化エネルギーEaが0.6eV以下である[1]~[4]のいずれかに記載のLiイオン伝導体。
[6]インピーダンス測定による室温でのLiイオン伝導率σtotalが1.0×10-7S/cm以上である[1]~[5]のいずれかに記載のLiイオン伝導体。
[7]Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)を有するLiイオン伝導体の製造方法であって、前記ガーネット型複合金属酸化物相(L)の界面を、融点が600℃以下の共晶混合物を用いて接続するLiイオン伝導体の製造方法。
[8]融点が600℃以下の共晶混合物と、Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物の混合物を成形し、得られた成形物を600℃以下で熱処理することによって前記相(L)の界面を接続する[7]に記載の製造方法。
[9]前記共晶混合物は、2種の金属ハロゲン化物の共晶混合物である[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10]前記共晶混合物は、LiF、ZrCl4、AlCl3、NbCl5もしくはTaCl5と、LiClとの共晶混合物であるか、又はLiFとTaF5との共晶混合物である[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のLiイオン伝導体によれば、良好なリチウムイオン伝導体を提供でき、優れた二次電池用固体電解質の部材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1におけるXRD回折チャートである。
図2】実施例及び比較例のSEM観察像を示す図面代用写真である。
図3】実施例1におけるXRD回折チャートの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
良好なリチウムイオン伝導性を示すLiイオン伝導体を得るため、本発明者が検討したところ、ガーネット型複合金属酸化物相(L)の界面を、融点が600℃以下の共晶混合物を用いて接続することで本発明の目的が達成できることが明らかとなった。より具体的には、(1)ガーネット型複合金属酸化物と融点が600℃以下の共晶混合物を混合し、熱処理してもよいし、(2)ガーネット型複合金属酸化物の原料と融点が600℃以下の共晶混合物をメカノケミカル処理してもよい。
【0010】
前記共晶混合物は、2種の金属ハロゲン化物の共晶混合物であることが好ましく、例えばLiF、ZrCl4、AlCl3、NbCl5、もしくはTaCl5と、LiClの共晶混合物であるか、又はLiFとTaF5との共晶混合物であることが好ましく、LiF、ZrCl4、AlCl3、NbCl5、又はTaCl5と、LiClとの共晶混合物であることがより好ましく、LiF、AlCl3、NbCl5、又はTaCl5と、LiClとの共晶混合物であることが更に好ましく、AlCl3、NbCl5、又はTaCl5と、LiClとの共晶混合物であることが特に好ましく、TaCl5とLiClとの共晶混合物であることが最も好ましい。
【0011】
前記(1)の、ガーネット型複合金属酸化物と融点が600℃以下の共晶混合物を混合し、熱処理する方法では、ガーネット型複合金属酸化物と融点が600℃以下の共晶混合物を混合し、得られた混合物に圧力を加えて作製したペレット等の成形体に熱処理することが好ましく、該熱処理としては、前記成形体を600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは300℃以下で、5分~600分、好ましくは10分~480分アニールすることが挙げられる。アニール温度の下限は特に制限されないが、例えば150℃であってもよいし、200℃であってもよい。また、アニール温度は、150℃以上(好ましくは200℃以上)であって、かつ、共晶混合物の(融点-10℃)以上(より好ましくは融点以上)であることが好ましい。アニールは、窒素、Ar等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。前記した成形体作製時の圧力は、例えば300MPa~450MPa程度とすることが好ましい。ガーネット型複合金属酸化物と融点が600℃以下の共晶混合物の混合、得られた混合物の成形、及びアニールは、グローブボックス内またはドライルームなど湿度を十分に低減した環境下で行うことが好ましく、例えば露点温度は-40℃~-90℃とすることが好ましい。前記(1)の方法において、ガーネット型複合金属酸化物100質量部に対する前記共晶混合物の割合は、用いる共晶混合物の種類、成形体作製時の圧力、アニール条件等に応じて適宜設定可能であるが、例えば15~60質量部とすることができ、好ましくは20~50質量部である。
【0012】
前記(1)の方法において用いるガーネット型複合金属酸化物は、該複合金属酸化物の原料を混合し、1000~1100℃で6~12時間程度焼成することによって得てもよいし、該複合金属酸化物の原料をメカノケミカル処理することで得てもよい。前記メカノケミカル処理は、前記複合金属酸化物の原料粉末を含む混合物を乾式条件で圧縮しながらせん断することによって行うことができる。
【0013】
また、前記(2)の、ガーネット型複合金属酸化物の原料と融点が600℃以下の共晶混合物をメカノケミカル処理する方法は、例えば前記複合金属酸化物の原料粉末の混合物と、融点が600℃以下の共晶混合物を含む混合物を乾式条件で圧縮しながらせん断することによって行うことができる。前記(2)のメカノケミカル処理の後、前記(1)で説明した熱処理を更に施してもよい。
【0014】
前記(1)及び(2)のいずれにおいても、ガーネット型複合金属酸化物の原料は、Li源粉末、La源粉末、及びZr源粉末、更に必要に応じて用いるAl源粉末及びGa源粉末の少なくとも1種である。Li源粉末、La源粉末、Zr源粉末、Al源粉末及びGa源粉末としては、例えば各金属(Li、La、Zr、Al、又はGa)の酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩化物、アルコキシドなどを用いることができる。
【0015】
上述の方法で得られる好ましいLiイオン伝導体は、Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)を有するLiイオン伝導体であって、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13.8°及び15.2°の少なくとも一方に回折ピークを有することが好ましい。2θ=13.8°又は2θ=15.2°の回折ピークに起因する結晶構造において、結晶を構成する原子が他の原子で置換される場合があり、その場合には回折ピークが現れる角度がいずれも±1°の範囲でシフトし得る。本発明のLiイオン伝導体は、このような場合も含み、すなわち、Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)を有するLiイオン伝導体であって、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13.8°±1°及び2θ=15.2°±1°の少なくとも一方に回折ピークを有する。2θ=13.8°±1°の範囲は、2θ=13.8°±0.5°であることが好ましく、13.8°±0.3°であることがより好ましく、13.8°であることが更に好ましい。2θ=15.2°±1°の範囲は、2θ=15.2°±0.5°であることが好ましく、15.2°±0.3°であることがより好ましく、15.2°であることが更に好ましい。
【0016】
Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)は、A32312の組成式で表される結晶のAの位置をLa3+が占め、Bの位置をZr4+が占め、Cの位置と格子間位置をLi+が占める相であり、通常、Li7La3Zr212の組成式で表すことができる。前記相(L)は立方晶であることが好ましい。また前記ガーネット型複合金属酸化物相(L)は、更にAl及び/又はGaを含むことも好ましく、この場合、Li7La3Zr212におけるLi+サイトの一部が、Al3+及び/又はGa3+で置換されていることがより好ましい。以下、Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物を、他の元素で置換されている場合も含めて、「LLZ」と呼ぶ場合がある。
【0017】
上述の通り、本発明における相(L)は、Li7La3Zr212におけるLi+サイトの一部が、Al3+及び/又はGa3+で置換されていてもよいが、Al及びGa以外の元素では置換されていないことが好ましい。
【0018】
更に、本発明のLiイオン伝導体では、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13.8°±1°及び15.2°±1°の少なくとも一方の位置にピークが観察される点に特徴を有しており、2θ=13.8°±1°及び15.2°±1°の両方の位置にピークが観察されることが好ましい。
【0019】
また、本発明のLiイオン伝導体は、CuKα線を用いたX線回折測定における立方晶Li6.25Ga0.25La3Zr212の回折ピークのうち、2θ=30.9°に相当する回折ピークが、2θ=30.5°以上、30.9°以下に観察されることが好ましい。LLZがLi、La、Zr及びOのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する元素で置換されると、2θ=30.9°に相当する回折ピークは、30.9°よりも高角度側にシフトして現れ、逆に大きいイオン半径を有する元素で置換されると2θ=30.9°に相当する回折ピークが、30.9°よりも低角度側にシフトして現れる傾向がある。2θ=30.9°に相当する回折ピークは、好ましくは2θ=30.5°以上、30.9°未満に現れる。例えば、Li、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)の一部がCl元素で置換されている場合に、2θ=30.9°に相当する回折ピークが2θ=30.5°以上、30.9°未満に現れることが考えられる。
【0020】
本発明のLiイオン伝導体は、格子定数が12.95Å超、13.15Å以下であることが好ましく、例えばLi、La、Zr及びOを含むガーネット型複合金属酸化物相(L)の一部がCl元素で置換されている場合にこのような格子定数を有することが考えられる。
【0021】
上述した通り、本発明のLiイオン伝導体は、好ましい態様において、2種の金属ハロゲン化物の共晶混合物を用いて製造することができ、好ましい態様の一例である、金属としてLiが含まれる例では、すなわち得られるLiイオン伝導体が前記相(L)とは異なる金属含有相(K)を有し、該相(K)がハロゲン元素とLiを含む。更に好ましい態様では、前記相(K)がLiとTaとハロゲン元素を含む。
【0022】
本発明のLiイオン伝導体は、特に前記ガーネット型複合金属酸化物相(L)を有する粒子の集合構造であり、前記粒子界面に前記相(K)を有することが好ましい。前記相(L)の粒子界面に前記相(K)が存在することで、相(K)を介して相(L)から相(L)へLiイオンがスムースに伝導できる。
【0023】
本発明のLiイオン伝導体は、インピーダンス測定による室温での活性化エネルギーEaを0.6eV以下とすることができ、また、室温でのLiイオン伝導率σtotalを1.0×10-7S/cm以上とすることができる。前記活性化エネルギーEaは、0.57eV以下が好ましく、より好ましくは0.55eV以下であり、更に好ましくは0.50eV以下であり、下限は特に制限されないが、例えば0.25eVである。また前記Liイオン伝導率σtotalは、2.0×10-7S/cm以上が好ましく、4.0×10-7S/cm以上がより好ましく、更に好ましくは1.0×10-6S/cm以上であり、一層好ましくは5.0×10-6S/cm以上であり、特に1.0×10-5S/cm以上が好ましく、上限は特に限定されないが、例えば7.0×10-5S/cmである。
【0024】
本願は、2019年9月13日に出願された日本国特許出願第2019-167381号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年9月13日に出願された日本国特許出願第2019-167381号の明細書の全内容が本願に参考のため援用される。
【実施例
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0026】
実施例1
株式会社豊島製作所製のLi6.25Ga0.25La3Zr212100質量部に対して、50質量部のLiCl及びTaCl5の共晶混合物(LiClとTaCl5のモル比は50:50、融点:220℃)を、乳鉢で30分間混合し、得られた混合粉末を金型に入れて375MPaの圧力を加えて、直径10mm、厚み約1mmのペレットを成形した。乳鉢での混合及びペレットの成形は、ドライルーム内で行った。ドライルーム内の露点温度は-60℃であった。成形したペレットをグローブボックス内(露点温度-90℃)の小型電気炉(アルゴン雰囲気下)で、220℃で15分間アニールし、ペレット両面にAuをスパッタして、直径8mmの電極を形成した。得られたペレット試料を、宝泉株式会社製の全固体電池評価セルにセットし、ポテンショガルバノスダットに接続し、室温~100℃の温度範囲でインピーダンス測定を行いLiイオン伝導率の評価を行った。その結果、室温でのイオン伝導率σtotalは2.2×10-5S/cmであった。また、各温度でのイオン伝導率の値を用いたアレニウスプロットから活性化エネルギーを算出した。その結果、活性化エネルギーEaは0.39eVであった。
【0027】
また、アニール後のペレットを解砕して得られた粉末試料の結晶構造をブルカー製のXRD(X-ray Diffraction analysis)装置を用いて解析した結果を図1に示す。XRD測定は、CuKα線で行い、λ=1.5418nm、θ=10~50°とした。図1によれば、立方晶のLi7La3Zr212に対応するピークが観察されるとともに、添加したLiClに対応したピークが見られる。また、2θ=13.8°及び15.2°の位置にLi7La3Zr212、LiCl、TaCl5とは異なる結晶質相が観察された。
【0028】
実施例2~10
Li6.25Ga0.25La3Zr212と混合する共晶混合物の種類、量、及びアニール条件を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にしてペレットを成形してアニールし、室温でのイオン伝導率及び活性化エネルギーを測定した。結果を表1に示す。なお、実施例4のみ、50℃での測定結果を示した。
【0029】
比較例1
LiCl及びTaCl5の共晶混合物を用いることなくLi6.25Ga0.25La3Zr212のみを成形してアニールしたこと以外は、実施例1と同様にして室温でのイオン伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
参考例1
実施例1で用いたのと同じ株式会社豊島製作所製のLi6.25Ga0.25La3Zr212を、金型に入れて375MPaの圧力を加えて、直径10mm、厚み約1mmのペレットを成形した。成形したペレットを大気中、1230℃で1200分アニールし、ペレット両面にAuをスパッタして、直径8mmの電極を形成した。その後、実施例1と同様にして室温でのLiイオン伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
共晶点が600℃以下の共晶混合物とLLZの混合物を成形し、得られた成形物を600℃以下で熱処理して得られた実施例1のイオン伝導体では、表1に示す通り良好なイオン伝導率を示していた。実施例1と同様の方法でイオン伝導体を作製した実施例2~10についても、表1に示す通り、良好なイオン伝導率を示していた。一方、LLZのみの成形体を実施例1と同様の条件でアニールした比較例1では、室温で全くイオン伝導しなかった。
【0033】
また、図2(a)に実施例1のイオン伝導体のSEM観察像、図2(b)に比較例1のイオン伝導体のSEM観察像を示す。図2に示す通り、共晶混合物を用いなかった比較例1(図2(b))ではLLZの粒集合構造が観察され、粒同士の界面が接続されていない。一方、実施例1を示す図2(a)を図2(b)と対比すると、図2(a)においてLLZの粒構造は観察されるものの、LLZの粒界面を接続する相が観察される。図1のXRDにおいてLiClのピークが観察されると共に、実施例1でのアニール温度、及び実施例1で用いた共晶混合物の融点から考えて、LLZの粒構造を接続する相はLiClとTaCl5の共晶混合物が溶融した相であると考えられる。
【0034】
更に、図1で示した実施例1のXRD解析結果の、2θ=30~40°付近の拡大図を、Li6.25Ga0.25La3Zr212のXRD回折チャートと共に図3に示す。図3に示す通り、実施例1のイオン伝導体では、2θ=30.9°に相当する回折ピークは低角度側にシフトしており、2θ=30.5°以上、30.9°未満の位置に観察された。
【0035】
また、実施例1、2について、上記したXRD測定で得られた(400)面の回折ピークを用いて下記式(1)及び(2)より面間隔d値を求め、格子定数を算出したところ、実施例1では12.99Å、実施例2では13.00Åであった。
2dsinθ=nλ (1)
1/d2=(h2+k2+l2)/a2 (2)
d:面間隔、a:格子定数、h、k及びl:ミラー指数
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のLiイオン伝導体は、二次電池用固体電解質材料として好適に用いることができる。
図1
図2
図3