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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】正極材料および電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20241218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241218BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241218BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241218BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021575704
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001901
(87)【国際公開番号】W WO2021157361
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020017592
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】藤ノ木 紀仁
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/146308(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/135323(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/135322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/62
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、
硫化物固体電解質を含む第1固体電解質と、
ハロゲン化物固体電解質を含む第2固体電解質と、を含み、
前記第1固体電解質の形状および前記第2固体電解質の形状は、粒子状であり、
前記第1固体電解質の体積と前記第2固体電解質の体積との合計値に対する前記第2固体電解質の前記体積の比率xが百分率にて20≦x≦95を満たす、
正極材料。
【請求項2】
前記比率xが百分率にて35.2≦x≦76.5を満たす、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(1)により表され、
Liαβγ ・・・式(1)
α、βおよびγは、それぞれ、0より大きい値であり、
Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含み、
Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記Mは、イットリウムを含む、
請求項3に記載の正極材料。
【請求項5】
前記α、前記βおよび前記γは、2.5≦α≦3、1≦β≦1.1、およびγ=6を満たす、
請求項3または4に記載の正極材料。
【請求項6】
前記正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項7】
前記正極活物質は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の正極材料を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備える、
電池。
【請求項9】
前記電解質層は、前記第2固体電解質と同じ材料を含む、
請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記電解質層は、前記第2固体電解質に含まれる前記ハロゲン化物固体電解質とは異なるハロゲン化物固体電解質を含む、
請求項8または9に記載の電池。
【請求項11】
前記電解質層は、硫化物固体電解質を含む、
請求項8から10のいずれか一項に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用の正極材料および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫化物固体電解質を含む正極を用いた全固体リチウム電池が開示されている。
【0003】
特許文献2には、Li3YCl6、Li3YBr6などのハロゲン化物固体電解質を含む全固体リチウム電池が開示されている。
【0004】
固体電解質および正極活物質を含む正極では、固体電解質と正極活物質との界面に起因する抵抗(界面抵抗)が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/004590号
【文献】国際公開第2018/025582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、高い熱安定性と低い界面抵抗とを両立する正極を実現できる正極材料が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様における正極材料は、
正極活物質と、
硫化物固体電解質を含む第1固体電解質と、
ハロゲン化物固体電解質を含む第2固体電解質と、を含み、
前記第1固体電解質の体積と前記第2固体電解質の体積との合計値に対する前記第2固体電解質の前記体積の比率xが百分率にて20≦x≦95を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い熱安定性と低い界面抵抗とを両立する正極を実現できる正極材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態1に係る正極材料の概略構成を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態2に係る電池の概略構成を示す断面図である。
図3図3は、比較例3の電池について交流インピーダンス解析を実施することによって得られたナイキスト線図である。
図4図4は、実施例および比較例における比率x、界面抵抗、ならびに発熱量の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係る正極材料は、
正極活物質と、
硫化物固体電解質を含む第1固体電解質と、
ハロゲン化物固体電解質を含む第2固体電解質と、を含み、
前記第1固体電解質の体積と前記第2固体電解質の体積との合計値に対する前記第2固体電解質の前記体積の比率xが百分率にて20≦x≦95を満たす。
【0011】
第1態様によれば、正極材料は、高い熱安定性と低い界面抵抗とを両立する正極を実現できる。
【0012】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る正極材料では、前記比率xが百分率にて35.2≦x≦76.5を満たしていてもよい。第2態様によれば、正極の熱安定性をさらに向上させ、より低い界面抵抗を実現できる。
【0013】
本開示の第3態様において、例えば、第1または第2態様に係る正極材料では、前記ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(1)により表されてもよく、
Liαβγ ・・・式(1)
α、βおよびγは、それぞれ、0より大きい値であってもよく、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよく、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0014】
本開示の第4態様において、例えば、第3態様に係る正極材料では、前記Mは、イットリウムを含んでいてもよい。
【0015】
本開示の第5態様において、例えば、第3または第4態様に係る正極材料では、前記α、前記βおよび前記γは、2.5≦α≦3、1≦β≦1.1、およびγ=6を満たしていてもよい。
【0016】
第3から第5態様によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。
【0017】
本開示の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つに係る正極材料では、前記正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を含んでいてもよい。
【0018】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つに係る正極材料では、前記正極活物質は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを含んでいてもよい。
【0019】
第6または第7態様によれば、正極材料は、電池のエネルギー密度および電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0020】
本開示の第8態様に係る電池は、
第1から第7態様のいずれか1つに係る正極材料を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備えている。
【0021】
第8態様によれば、電池において、高い熱安定性と高い出力特性とを両立できる。
【0022】
本開示の第9態様において、例えば、第8態様に係る電池では、前記電解質層は、前記第2固体電解質と同じ材料を含んでいてもよい。第9態様によれば、電池の熱安定性をより向上させることができる。
【0023】
本開示の第10態様において、例えば、第8または第9態様に係る電池では、前記電解質層は、前記第2固体電解質に含まれる前記ハロゲン化物固体電解質とは異なるハロゲン化物固体電解質を含んでいてもよい。第10態様によれば、電池の熱安定性をより向上させることができる。
【0024】
本開示の第11態様において、例えば、第8から第10態様のいずれか1つに係る電池では、前記電解質層は、硫化物固体電解質を含んでいてもよい。第11態様によれば、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0025】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0026】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る正極材料1000の概略構成を示す断面図である。
【0027】
正極材料1000は、正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103を含む。第1固体電解質102は、硫化物固体電解質を含む。第1固体電解質102は、例えば、実質的に硫化物固体電解質のみからなる。「実質的に~からなる」は、言及された材料の本質的特徴を変更する他の成分を排除することを意味する。ただし、第1固体電解質102は、硫化物固体電解質の他に不純物を含んでいてもよい。第2固体電解質103は、ハロゲン化物固体電解質を含む。第2固体電解質103は、例えば、実質的にハロゲン化物固体電解質のみからなる。ただし、第2固体電解質103は、ハロゲン化物固体電解質の他に不純物を含んでいてもよい。正極材料1000において、第1固体電解質102の体積と第2固体電解質103の体積との合計値に対する第2固体電解質103の体積の比率xが百分率にて20≦x≦95を満たす。
【0028】
以上の構成によれば、正極材料1000において、高い熱安定性と低い界面抵抗とを両立できる。
【0029】
特許文献1には、硫化物固体電解質を含む正極を用いた全固体リチウム電池が開示されている。特許文献2には、Li3YCl6、Li3YBr6などのハロゲン化物固体電解質を含む全固体リチウム電池が開示されている。さらに、特許文献2には、イオン伝導性を向上させる目的で、正極が硫化物固体電解質を含んでいてもよいことが開示されている。しかし、特許文献1および2は、ハロゲン化物固体電解質および硫化物固体電解質の両方を含む正極について明確に開示していない。すなわち、特許文献1および2は、正極に含まれる正極材料におけるハロゲン化物固体電解質および硫化物固体電解質の混合比率について記載も示唆もしていない。
【0030】
本発明者らは、鋭意検討の結果、正極材料が、硫化物固体電解質を含む第1固体電解質と、ハロゲン化物固体電解質を含む第2固体電解質と、を含み、さらに、第1固体電解質の体積と第2固体電解質の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xが百分率にて20≦x≦95を満たす場合に、高い熱安定性と低い界面抵抗とを両立する正極を実現できることを新たに見出した。
【0031】
固体電解質を含む正極の熱安定性は、固体電解質自体の熱安定性、および、固体電解質と正極から放出された酸素との反応性から大きな影響を受ける。正極において、正極活物質が酸素を含む場合、電池を充電すると、正極活物質の構造が不安定化し、酸素が正極活物質から放出されることがある。特に、短絡などにより電池に過度な電流が流れることによって電池が発熱すると、正極活物質が加熱され、酸素が放出されやすい。正極に含まれる固体電解質が酸素と反応して酸化発熱する場合、その反応熱を熱源として正極活物質がさらに加熱される。これにより、固体電解質の酸化反応が加速度的に進行することがある。以上のとおり、正極の熱安定性を向上させるためには、高い熱安定性を有するとともに、酸化反応により生じる熱量が小さい固体電解質を用いることが考えられる。
【0032】
本発明者らが検討した結果、ハロゲン化物固体電解質は、硫化物固体電解質と比べて、固体電解質自体の熱安定性に優れるだけでなく、酸素との反応性が低く、酸化反応により生じる熱量が小さいことを新たに見出した。そのため、正極材料がハロゲン化物固体電解質および硫化物固体電解質を含む場合、ハロゲン化物固体電解質の体積比率が高ければ高いほど、正極材料を含む正極の熱安定性が向上する。正極材料において、これらの固体電解質の体積の合計値に対するハロゲン化物固体電解質の体積の比率(比率x)が20vol%以上であれば、硫化物固体電解質と正極活物質から放出された酸素との反応も十分に抑制できる。これにより、硫化物固体電解質の酸化反応により生じる熱量を十分に低下させ、正極の熱安定性を向上させることができる。以上のとおり、正極材料がハロゲン化物固体電解質および硫化物固体電解質を含む場合、比率xは、20vol%以上であってもよい。
【0033】
正極において、低い界面抵抗を実現するためには、正極材料に含まれる正極活物質と固体電解質とが密接に接合している必要がある。全固体電池において、正極を作製するときには、通常、正極活物質および固体電解質を含む正極材料に荷重が印加され、正極活物質と固体電解質とを接合させる。このとき、固体電解質のヤング率が低く、固体電解質の変形性が高い場合、固体電解質を正極活物質と密接に接合させやすい。
【0034】
本発明者らが検討した結果、硫化物固体電解質は、ハロゲン化物固体電解質に比べて、ヤング率が低く、変形性が高いことを新たに見出した。そのため、正極材料が硫化物固体電解質を含む場合、正極活物質と硫化物固体電解質とが密接に接合することによって、低い界面抵抗が実現されうる。すなわち、正極材料が硫化物固体電解質およびハロゲン化物固体電解質を含む場合、硫化物固体電解質の体積比率が高ければ高いほど、正極において低い界面抵抗が実現される。言い換えると、ハロゲン化物固体電解質の体積比率が低ければ低いほど、正極において低い界面抵抗が実現される。正極材料において、これらの固体電解質の体積の合計値に対するハロゲン化物固体電解質の体積の比率(比率x)が95vol%以下であれば、正極活物質と硫化物固体電解質とが接触する面積を十分に確保することができる。これにより、正極における界面抵抗を低減することができる。以上のとおり、正極材料がハロゲン化物固体電解質および硫化物固体電解質を含む場合、比率xは、95vol%以下であってもよい。
【0035】
正極材料1000において、上記の比率xは、百分率にて30≦x≦95を満たしていてもよく、35.2≦x≦76.5を満たしていてもよい。比率xは、百分率にて48.4≦x≦84.9を満たしていてもよい。
【0036】
以上の構成によれば、正極材料1000を含む正極の熱安定性をさらに向上させ、より低い界面抵抗を有する正極を実現できる。
【0037】
第2固体電解質103に含まれるハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(1)により表されてもよい。
【0038】
Liαβγ ・・・式(1)
【0039】
ここで、α、βおよびγは、それぞれ、0より大きい値である。
【0040】
Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含む。Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0041】
Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0042】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の出力特性をより向上させることができる。
【0043】
組成式(1)において、α、βおよびγは、2.5≦α≦3、1≦β≦1.1、およびγ=6を満たしていてもよい。以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の出力特性をより向上させることができる。
【0044】
本開示において、「半金属元素」とは、B、Si、Ge、As、SbおよびTeである。
【0045】
本開示において、「金属元素」とは、水素を除く周期表1族から12族中に含まれるすべての元素、ならびに、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、SおよびSeを除く周期表13族から16族中に含まれるすべての元素である。
【0046】
すなわち、「半金属元素」または「金属元素」とは、ハロゲン化合物と無機化合物を形成したときにカチオンとなりうる元素群である。
【0047】
組成式(1)において、Mは、Y(イットリウム)を含んでいてもよい。すなわち、ハロゲン化物固体電解質は、金属元素としてYを含んでいてもよい。
【0048】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の出力特性をより向上させることができる。
【0049】
Yを含むハロゲン化物固体電解質は、例えば、LiaMebc6の組成式で表される化合物であってもよい。ここで、a、bおよびcは、a+mb+3c=6およびc>0を満たす。Meは、LiおよびYを除く金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つである。mは、Meの価数である。Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0050】
Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0051】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。
【0052】
第2固体電解質103に含まれるハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A1)により表されてもよい。
【0053】
Li6-3dd6 ・・・式(A1)
【0054】
組成式(A1)において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである、または、当該群より選択される2種以上の元素である。
【0055】
組成式(A1)において、dは、0<d<2を満たす。
【0056】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0057】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A2)により表されてもよい。
【0058】
Li3YX6 ・・・式(A2)
【0059】
組成式(A2)において、Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである、または、当該群より選択される2種以上の元素である。
【0060】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0061】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A3)により表されてもよい。
【0062】
Li3-3δ1+δCl6 ・・・式(A3)
【0063】
組成式(A3)において、δは、0<δ≦0.15を満たす。
【0064】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0065】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A4)により表されてもよい。
【0066】
Li3-3δ1+δBr6 ・・・式(A4)
【0067】
組成式(A4)において、δは、0<δ≦0.25を満たす。
【0068】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0069】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A5)により表されてもよい。
【0070】
Li3-3δ+a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A5)
【0071】
組成式(A5)において、Meは、Mg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、Mg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0072】
組成式(A5)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。
【0073】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0074】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A6)により表されてもよい。
【0075】
Li3-3δ1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A6)
【0076】
組成式(A6)において、Meは、Al、Sc、GaおよびBiからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、Al、Sc、GaおよびBiからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0077】
組成式(A6)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。
【0078】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0079】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A7)により表されてもよい。
【0080】
Li3-3δ-a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A7)
【0081】
組成式(A7)において、Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0082】
組成式(A7)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。
【0083】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0084】
ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A8)により表されてもよい。
【0085】
Li3-3δ-2a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A8)
【0086】
組成式(A8)において、Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0087】
組成式(A8)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。
【0088】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0089】
ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、Li3YX6、Li2MgX4、Li2FeX4、Li(Al、Ga、In)X4、Li3(Al、Ga、In)X6などが用いられうる。これらの材料において、元素Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。本開示において、「(Al、Ga、In)」は、括弧内の元素群より選択される少なくとも1種の元素を示す。すなわち、「(Al、Ga、In)」は、「Al、GaおよびInからなる群より選択される少なくとも1種」と同義である。他の元素の場合でも同様である。
【0090】
ハロゲン化物固体電解質に含まれるX(アニオン)は、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含み、酸素をさらに含んでいてもよい。なお、ハロゲン化物固体電解質は、硫黄を含まなくてもよい。
【0091】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0092】
第1固体電解質102に含まれる硫化物固体電解質は、硫黄を含む固体電解質であれば特に限定されず、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-B23、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.250.754、Li10GeP212などが用いられうる。硫化物固体電解質は、Li6PS5Cl、Li6PS5Br、Li6PS5Iなどに代表されるArgyrodite構造を有する固体電解質であってもよい。これらの硫化物固体電解質には、LiX、Li2O、MOq、LipMOqなどが添加されていてもよい。ここで、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、FeおよびZnからなる群より選択される少なくとも1つである。pおよびqは、それぞれ、自然数である。
【0093】
以上の構成によれば、硫化物固体電解質のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0094】
正極活物質101は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。正極活物質101としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物などが用いられうる。特に、正極活物質101としてリチウム含有遷移金属酸化物を用いた場合には、製造コストを低下させること、および、平均放電電圧を向上させることができる。
【0095】
正極活物質101は、リチウム含有遷移金属酸化物として、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを含んでいてもよい。正極活物質101は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムであってもよい。例えば、正極活物質101は、Li(NiCoMn)O2であってもよい。電池が充電状態であるときに、Li(NiCoMn)O2などのリチウム含有遷移金属酸化物の構造は、特に不安定化しやすい。そのため、リチウム含有遷移金属酸化物は、酸素を放出しやすい。一方、本実施形態の正極材料1000は、ハロゲン化物固体電解質を含む。上述のとおり、ハロゲン化物固体電解質は、固体電解質自体の熱安定性に優れるだけでなく、酸素との反応性が低い。そのため、正極材料1000が正極活物質101としてリチウム含有遷移金属酸化物を含む場合であっても、本実施形態の正極材料1000は、正極の熱安定性を効果的に向上させることができる。
【0096】
以上の構成によれば、正極材料1000は、電池のエネルギー密度および電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0097】
正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103の形状は、特に限定されず、例えば粒子状である。本開示において、「粒子状」は、針状、鱗片状、球状および楕円球状を含む。
【0098】
第1固体電解質102および第2固体電解質103の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、第1固体電解質102および第2固体電解質103のそれぞれのメジアン径は、100μm以下であってもよい。第1固体電解質102および第2固体電解質103のメジアン径が100μm以下である場合、正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103が正極材料1000において良好な分散状態を形成しうる。これにより、電池の充放電特性が向上する。第1固体電解質102および第2固体電解質103のそれぞれのメジアン径は、10μm以下であってもよい。
【0099】
以上の構成によれば、正極材料1000において、正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103が良好な分散状態を形成できる。
【0100】
本明細書において、粒子のメジアン径は、レーザー回折散乱法によって体積基準で測定された粒度分布から求められる、体積累積50%に相当する粒径(d50)を意味する。
【0101】
第1固体電解質102および第2固体電解質103のメジアン径は、正極活物質101のメジアン径より小さくてもよい。
【0102】
以上の構成によれば、正極材料1000において、正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103がより良好な分散状態を形成できる。
【0103】
正極活物質101のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。正極活物質101のメジアン径が0.1μm以上である場合、正極材料1000において、正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103が良好な分散状態を形成しうる。これにより、電池の充放電効率が向上しうる。正極活物質101のメジアン径が100μm以下である場合、正極活物質101内でのリチウム拡散速度が増加する。これにより、電池が高出力で動作しうる。
【0104】
正極材料1000は、複数の第1固体電解質102の粒子、複数の第2固体電解質103の粒子、および複数の正極活物質101の粒子を含んでいてもよい。
【0105】
正極材料1000において、第1固体電解質102の粒子、第2固体電解質103の粒子、および正極活物質101の粒子の含有量は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。正極材料1000において、正極活物質101と、第1固体電解質102および第2固体電解質103との体積比率「v1:100-v1」について、30≦v1≦95が満たされていてもよい。v1は、正極材料1000に含まれる正極活物質101、第1固体電解質102および第2固体電解質103の合計体積を100と定義したときの正極活物質101の体積比率を表す。v1が30≦v1を満たす場合、十分な電池のエネルギー密度を確保しうる。v1がv1≦95を満たす場合、電池が高出力で動作しうる。
【0106】
正極材料1000では、低い界面抵抗を有する正極を実現することができる。正極材料1000を含む正極における界面抵抗は、60Ω以下であってもよく、50Ω以下であってもよく、40Ω以下であってもよい。界面抵抗の下限値は、特に限定されず、15Ωであってもよく、25Ωであってもよい。正極における界面抵抗は、例えば、次の方法によって測定することができる。まず、正極材料1000を含む正極を備えた電池を準備する。この電池について、正極活物質1gに対して100mAhの電気量(100mAh/g)を定電流で充電する。次に、充電後の電池に対して、交流インピーダンス解析を実施する。得られたナイキスト線図に表れる半円弧の波形を正極における界面抵抗と、負極の抵抗とに帰属させ、フィッティング解析を実施することによって界面抵抗の値を算出することができる。
【0107】
正極材料1000は、高い熱安定性を有する正極を実現することができる。正極材料1000を含む正極の熱安定性は、例えば、発熱試験で測定された発熱量によって評価することができる。発熱試験は、例えば、次の方法によって行うことができる。まず、正極材料1000に含まれる第1固体電解質102および第2固体電解質103を充電状態の正極合剤と混合し、混合物を得る。正極合剤は、例えば、正極活物質、導電助剤および結着剤を含む。正極合剤には、例えば、正極活物質1gに対して240mAhの電気量(240mAh/g)が充電されている。正極合剤に含まれる正極活物質と、固体電解質102および103との体積比率は、例えば、70.0:30.0である。次に、市販の示差走査熱量計を用いて、混合物の発熱量を測定する。発熱量の測定では、昇温速度を10℃/分に設定し、走査温度の範囲を常温(20℃)から500℃に設定する。得られた発熱量を混合物の重量で除することによって、単位重量当たりの発熱量(mJ/mg)を算出する。
【0108】
上記の発熱試験で測定された発熱量は、2000mJ/mg以下であってもよく、1800mJ/mg以下であってもよく、1500mJ/mg以下であってもよい。発熱量の下限値は、特に限定されず、例えば800mJ/mgである。
【0109】
<ハロゲン化物固体電解質の製造方法>
第2固体電解質103に含まれるハロゲン化物固体電解質は、例えば、下記の方法により製造されうる。
【0110】
まず、目的の組成に応じた配合比で、二元系ハロゲン化物の原料粉を用意する。二元系ハロゲン化物とは、ハロゲン元素を含む2種の元素からなる化合物をいう。例えば、Li3YCl6を作製する場合には、LiClの原料粉とYCl3の原料粉とを3:1のモル比で用意する。
【0111】
このとき、原料粉の種類によって、上述の組成式における「M」、「Me」、および「X」の元素が決定される。原料粉の種類、配合比および合成プロセスによって、上述の組成式における「α」、「β」、「γ」、「d」、「δ」、「a」、「x」および「y」の値が決定される。
【0112】
原料粉を十分に混合および粉砕した後、メカノケミカルミリングの方法を用いて原料粉同士を反応させる。原料粉を十分に混合および粉砕した後に、原料粉を真空中で焼結してもよい。
【0113】
これらの方法によって、上述した組成の結晶相を含むハロゲン化物固体電解質が得られる。
【0114】
なお、ハロゲン化物固体電解質における結晶相の構成(結晶構造)は、原料粉同士の反応方法および反応条件によって決定される。
【0115】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜省略される。
【0116】
図2は、実施の形態2における電池2000の概略構成を示す断面図である。
【0117】
電池2000は、正極201、電解質層202および負極203を備える。
【0118】
正極201は、上述の実施の形態1における正極材料1000を含む。
【0119】
電解質層202は、正極201と負極203との間に配置される。
【0120】
以上の構成によれば、電池2000の充放電効率を向上させることができる。
【0121】
正極201の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。正極201の厚さが10μm以上である場合、十分な電池のエネルギー密度を確保できる。正極201の厚さが500μm以下である場合、電池が高出力で動作しうる。すなわち、正極201の厚さが適切な範囲に調整されていると、電池のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池を高出力で動作させることができる。
【0122】
電解質層202は、電解質を含む層である。電解質層202に含まれる電解質は、例えば、固体電解質である。すなわち、電解質層202は、固体電解質層であってもよい。本明細書では、電解質層202に含まれる固体電解質を「第3固体電解質」と呼ぶことがある。
【0123】
電解質層202に含まれる第3固体電解質としては、例えば、実施の形態1で上述した第2固体電解質103と同じ材料が挙げられる。すなわち、電解質層202は、第2固体電解質103と同じ材料を含んでいてもよい。電解質層202は、実施の形態1で上述したハロゲン化物固体電解質を含んでいてもよい。
【0124】
以上の構成によれば、電池の熱安定性をより向上させることができる。
【0125】
電解質層202に含まれる第3固体電解質は、第2固体電解質103に含まれるハロゲン化物固体電解質とは異なる組成を有するハロゲン化物固体電解質であってもよい。すなわち、電解質層202は、第2固体電解質103に含まれるハロゲン化物固体電解質とは異なるハロゲン化物固体電解質を含んでいてもよい。
【0126】
以上の構成によれば、電池の熱安定性を向上させることができる。
【0127】
電解質層202に含まれるハロゲン化物固体電解質は、金属元素としてYを含んでいてもよい。
【0128】
以上の構成によれば、電池の出力密度および電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0129】
電解質層202に含まれる第3固体電解質として、硫化物固体電解質が用いられてもよい。すなわち、電解質層202は、硫化物固体電解質を含んでいてもよい。
【0130】
以上の構成によれば、電解質層202は、優れた還元安定性を有する硫化物固体電解質を含むため、負極材料として黒鉛、金属リチウムなどの低電位材料を用いることができる。これにより、電池の出力特性および電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0131】
電解質層202において、硫化物固体電解質は、実施の形態1で上述した硫化物固体電解質であってもよい。すなわち、電解質層202は、第1固体電解質102と同じ材料を含んでいてもよい。以上の構成によれば、電池の出力特性および電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0132】
電解質層202に含まれる第3固体電解質として、酸化物固体電解質、高分子固体電解質、錯体水素化物固体電解質などが用いられてもよい。
【0133】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiTi2(PO43およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe416、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr212およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3PO4およびそのN置換体、ならびに、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物をベースとして、Li2SO4、Li2CO3などが添加されたガラスまたはガラスセラミックスが用いられうる。
【0134】
高分子固体電解質としては、例えば、高分子化合物とリチウム塩との化合物が用いられうる。高分子化合物は、エチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有することができる。そのため、電解質層202のイオン導電率をより上昇させることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが使用されうる。例示されたリチウム塩から選択される1つのリチウム塩が単独で使用されうる。例示されたリチウム塩から選択される2つ以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0135】
錯体水素化物固体電解質としては、例えば、LiBH4-LiIおよびLiBH4-P25が用いられうる。
【0136】
電解質層202は、第3固体電解質を主成分として含んでいてもよい。すなわち、電解質層202は、第3固体電解質を、例えば、電解質層202の全体に対する重量割合で50重量%以上含んでいてもよい。
【0137】
以上の構成によれば、電池の充放電特性をより向上させることができる。
【0138】
電解質層202は、第3固体電解質を、例えば、電解質層202の全体に対する重量割合で70重量%以上含んでいてもよい。
【0139】
以上の構成によれば、電池の充放電特性をより向上させることができる。
【0140】
電解質層202は、第3固体電解質を主成分として含み、さらに、不可避的な不純物、第3固体電解質を合成するときに用いられる出発原料、副生成物、分解生成物などを含んでいてもよい。
【0141】
電解質層202は、第3固体電解質を、例えば、混入が不可避的な不純物を除いて、電解質層202の全体に対する重量割合で100重量%含んでいてもよい。
【0142】
以上の構成によれば、電池の充放電特性をより向上させることができる。
【0143】
以上のように、電解質層202は、実質的に第3固体電解質のみから構成されていてもよい。
【0144】
電解質層202は、第3固体電解質として挙げられた材料のうちの2種以上を含んでいてもよい。例えば、電解質層202は、ハロゲン化物固体電解質と硫化物固体電解質とを含んでいてもよい。
【0145】
電解質層202は、互いに異なる組成を有する2つの層が積層された多層構造を有していてもよい。例えば、電解質層202において、ハロゲン化物固体電解質を含む層と、硫化物固体電解質を含む層とが積層されていてもよい。特に、電解質層202において、ハロゲン化物固体電解質を含む層が正極201と接するように配置され、硫化物固体電解質を含む層が負極203と接するように配置されていてもよい。これにより、電池の熱安定性、出力特性およびエネルギー密度を向上させることができる。
【0146】
電解質層202の厚さは、1μm以上300μm以下であってもよい。電解質層202の厚さが1μm以上である場合、正極201と負極203とが短絡しにくい。電解質層202の厚さが300μm以下である場合、電池が高出力で動作しうる。
【0147】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。負極203は、例えば、負極活物質を含む。
【0148】
負極活物質には、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物などが使用されうる。金属材料は、単体の金属であってもよい。金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例としては、リチウム金属、リチウム合金などが挙げられる。炭素材料の例としては、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。電池の容量密度の観点から、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物および錫化合物が使用されうる。
【0149】
負極203は、固体電解質を含んでいてもよい。負極203に含まれる固体電解質として、電解質層202を構成する材料として例示した固体電解質を用いてもよい。以上の構成によれば、負極203の内部のリチウムイオン伝導性を向上させることができ、電池が高出力で動作しうる。
【0150】
負極活物質の形状は、特に限定されず、例えば粒子状である。負極活物質の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、負極活物質のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質のメジアン径が0.1μm以上である場合、負極203において、負極活物質と固体電解質とが良好な分散状態を形成しうる。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質のメジアン径が100μm以下である場合、負極活物質内でのリチウムの拡散速度が増加する。これにより、電池が高出力で動作しうる。
【0151】
負極203において、負極活物質のメジアン径は、固体電解質のメジアン径より大きくてもよい。これにより、負極活物質と固体電解質とが良好な分散状態を形成できる。
【0152】
負極203において、負極活物質と固体電解質との体積比率「v2:100-v2」について、30≦v2≦95が満たされていてもよい。v2は、負極203に含まれる負極活物質および固体電解質の合計体積を100と定義したときの負極活物質の体積比率を表す。v2が30≦v2を満たす場合、十分な電池のエネルギー密度を確保できる。v2がv2≦95を満たす場合、電池が高出力で動作しうる。
【0153】
負極203の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。負極203の厚さが10μm以上である場合、十分な電池のエネルギー密度を確保できる。負極203の厚さが500μm以下である場合、電池が高出力で動作しうる。
【0154】
正極201、電解質層202および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、粒子同士の密着性を向上させる目的で、結着剤を含んでいてもよい。結着剤は、例えば、電極を構成する材料の結着性を向上させるために用いられる。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴムおよびカルボキシメチルセルロースが挙げられる。テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸およびヘキサジエンからなる群より選択される2種以上の材料の共重合体も結着剤として用いられうる。これらの材料から選択される2種以上の混合物を結着剤として用いてもよい。
【0155】
正極201および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、電子導電性を向上させる目的で、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、および、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物などが用いられうる。導電助剤として炭素導電助剤を用いた場合、低コスト化を図ることができる。
【0156】
正極活物質101または負極活物質は、界面抵抗を低減させるために、被覆層を有していてもよい。被覆層を有する活物質は、例えば、金属イオンを吸蔵かつ放出する特性を有する材料でできた粒子Aを被覆材料によって被覆することによって作製することができる。正極活物質101において、粒子Aの表面の一部のみが被覆層によって被覆されていてもよく、粒子Aの表面の全部が被覆層によって被覆されていてもよい。同様に、負極活物質において、粒子Aの表面の一部のみが被覆層によって被覆されていてもよく、粒子Aの表面の全部が被覆層によって被覆されていてもよい。
【0157】
被覆層としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、高分子固体電解質、錯体水素化物固体電解質などの固体電解質が使用されうる。被覆層は、酸化物固体電解質を含んでいてもよい。酸化物固体電解質は、優れた高電位安定性を有する。被覆層が酸化物固体電解質を含む場合、電池の充放電効率が向上する。
【0158】
被覆層に使用できる酸化物固体電解質としては、LiNbO3などのLi-Nb-O化合物、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物、LiAlO2などのLi-Al-O化合物、Li4SiO4などのLi-Si-O化合物、Li2SO4、Li4Ti512などのLi-Ti-O化合物、Li2ZrO3などのLi-Zr-O化合物、Li2MoO3などのLi-Mo-O化合物、LiV25などのLi-V-O化合物、Li2WO4などのLi-W-O化合物、Li3PO4などのLi-P-O化合物が挙げられる。
【0159】
被覆層は、電子伝導性が比較的低いことがある。そのため、正極活物質101が被覆層を含む場合、正極活物質101において、電子に対する抵抗が増加することがある。この場合、正極201において、複数の正極活物質101を密に存在させることによって、正極活物質101における電子に対する抵抗を低減させることができる。上述の実施の形態1における正極材料1000は、硫化物固体電解質を含む。上述のとおり、硫化物固体電解質は、ヤング率が低く、変形性が高い。そのため、正極活物質101が被覆層を含む場合であっても、正極材料1000に荷重を印加して正極201を作製すると、硫化物固体電解質が十分に圧縮されて変形する。これにより、正極201において、複数の正極活物質101を密に存在させることができる。すなわち、正極201における電子に対する抵抗を低減させ、良好な電池特性を実現することができる。
【0160】
電池2000の形状としては、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型などが挙げられる。
【実施例
【0161】
以下、実施例および比較例を用いて、本開示の詳細が説明される。なお、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0162】
[第1固体電解質の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉末としてLi2SとP25とをLi2S:P25=75:25のモル比で秤量した。これらの原料粉末を乳鉢で粉砕して混合した。次に、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用いて、得られた混合物を10時間、510rpmでミリング処理した。これにより、ガラス状の固体電解質が得られた。次に、固体電解質を不活性雰囲気中、270℃で2時間熱処理した。これにより、ガラスセラミックス状の第1固体電解質であるLi2S-P25を得た。
【0163】
[第2固体電解質の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉末として、LiClとYCl3とをLiCl:YCl3=3:1のモル比で秤量した。これらの原料粉末を混合し、混合物を得た。次に、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用いて、得られた混合物を25時間、600rpmでミリング処理した。これにより、第2固体電解質であるLi3YCl6の粉末を得た。
【0164】
[充電された正極合剤の作製]
露点-40℃以下の乾燥空気内で、正極活物質であるLi(NiCoMn)O2(以下、NCMと表記する)と、導電助剤であるカーボンブラック(以下、CBと表記する)と、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと表記する)に溶解した結着剤であるポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと表記する)とをNCM:CB:PVDF=100:1.25:1の重量比で秤量した。これらの原料の混合物に適量のNMPをさらに加えた。自転公転ミキサー(THINKY社製、ARE-310)を用いて、得られた混合物を1600rpmで5分間混練することによって、正極スラリーを作製した。次に、アルミニウム箔で形成された集電体に、正極スラリーを塗布した。次に、この正極スラリーを真空下、100℃で1時間乾燥させた。得られた集電体について、ロールプレス機にて所定の圧力を印加することにより正極板を得た。
【0165】
次に、正極板、ポリエチレン製セパレータ、金属リチウムおよび電解液を用いて、ラミネートセルを作製した。電解液としては、LiPF6が溶解した炭酸エチレン-炭酸エチルメチルの混合溶媒を用いた。電解液におけるLiPF6の濃度は、1mol/Lであった。作製したラミネートセルについて、正極活物質1gに対して240mAhの電気量(240mAh/g)を充電した。次に、ラミネートセルから正極板を取り出し、正極板を炭酸ジエチル溶媒で洗浄した。次に、正極板を真空下、室温で1時間乾燥させた。乾燥後の正極板から集電体を剥離することによって、充電された正極合剤を得た。
【0166】
[被覆層を有する正極活物質の作製]
アルゴングローブボックス内で、エトキシリチウム(高純度化学研究所製)5.95gとペンタエトキシニオブ(高純度化学研究所製)36.43gとを超脱水エタノール(和光純薬社製)500mLに溶解させて、被覆材料を含む溶液を作製した。次に、転動流動造粒コーティング装置(パウレック社製、FD-MP-01E)を用いて、被覆材料を含む溶液とNCMとを混合した。このとき、NCMの投入量は、1kgであった。攪拌回転数は、400rpmであった。被覆材料を含む溶液の送液レートは、6.59g/分であった。次に、処理後のNCMの粉末をアルミナ製のるつぼに入れて、大気雰囲気下に取り出した。次に、この粉末について、大気雰囲気下、300℃で1時間の熱処理を行った。熱処理後の粉末をメノウ乳鉢にて再粉砕することによって、被覆層を有する正極活物質を得た。被覆層の組成は、LiNbO3であった。
【0167】
≪実施例1≫
[正極材料の作製]
アルゴングローブボックス内で、被覆層を有する正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25を70.0:10.6:19.4の体積比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することによって正極材料を作製した。この正極材料において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、35.2vol%であった。
【0168】
[二次電池の作製]
上記の正極材料を用いた二次電池を下記の工程により作製した。
【0169】
まず、絶縁性を有する外筒の中にLi2S-P25を80mg投入した。このLi2S-P25に対して、80MPaの圧力を印加して加圧成型を行うことにより固体電解質層を得た。次に、固体電解質層の上に正極材料を投入した。このとき、単位面積当たりの正極活物質の重量は、19.8mg/cm2であった。次に、正極材料に対して、360MPaの圧力を印加して加圧成型を行うことにより正極を得た。
【0170】
次に、固体電解質層の正極と接する表面とは反対側の表面に、金属In(厚さ200μm)を投入した。金属Inに対して、80MPaの圧力を印加して加圧成型を行うことにより、正極、固体電解質層および負極からなる積層体を作製した。次に、正極および負極のそれぞれの上にステンレス鋼でできた集電体を配置し、これらの集電体に集電リードを設けた。次に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性外筒の内部を外気雰囲気から遮断および密閉することによって実施例1の電池を作製した。
【0171】
[界面抵抗の測定]
以下の方法によって、実施例1の電池の界面抵抗を測定した。
【0172】
まず、実施例1の電池を25℃の恒温槽に配置した。この電池について、正極活物質1gに対して100mAhの電気量(100mAh/g)を定電流で充電した。充電後の電池に対して、交流インピーダンス解析を実施した。このとき、電圧振幅を±10mVとし、周波数を107Hzから10-2Hzとした。測定には、Bio-Logic社製の高性能電気化学測定システム(VSP-300)を使用した。得られたナイキスト線図に表れる半円弧の波形を界面抵抗と、負極であるInの抵抗とに帰属させ、フィッティング解析を実施することによって界面抵抗の値を算出した。
【0173】
[発熱量の測定]
充電された正極合剤を用いて、以下の方法によって発熱試験を行った。
【0174】
まず、アルゴングローブボックス内で、充電された正極合剤、Li3YCl6、およびLi2S-P25を秤量した。充電された正極合剤に含まれる正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25の体積比率は、70.0:10.6:19.4であった。次に、これらをメノウ乳鉢で混合した。この混合物において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、35.2vol%であった。次に、得られた粉末をSUS製の密閉パン内で封止した。次に、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、DSC-6200)を用いて、粉末の発熱量を測定した。このとき、昇温速度は、10℃/分であった。走査温度の範囲は、常温(20℃)から500℃であった。得られた発熱量を粉末の重量で除することによって、単位重量当たりの発熱量(mJ/mg)を算出した。
【0175】
≪実施例2≫
正極の作製および発熱量の測定において、正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25の体積比率を70.0:16.5:13.5に変更したことを除き、実施例1と同じ方法で、実施例2の電池の作製および発熱量の測定を行った。さらに、実施例1と同じ方法で、実施例2の電池について界面抵抗を測定した。なお、実施例2で用いた正極において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、55.0vol%であった。
【0176】
≪実施例3≫
正極材料の作製および発熱量の測定において、正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25の体積比率を70.0:23.0:7.0に変更したことを除き、実施例1と同じ方法で、実施例3の電池の作製および発熱量の測定を行った。さらに、実施例1と同じ方法で、実施例3の電池について界面抵抗を測定した。なお、実施例3で用いた正極材料において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、76.5vol%であった。
【0177】
≪比較例1≫
正極材料の作製および発熱量の測定において、正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25の体積比率を70.0:0:30.0に変更したことを除き、実施例1と同じ方法で、比較例1の電池の作製および発熱量の測定を行った。さらに、実施例1と同じ方法で、比較例1の電池について界面抵抗を測定した。なお、比較例1で用いた正極材料において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、0vol%であった。
【0178】
≪比較例2≫
正極材料の作製および発熱量の測定において、正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25の体積比率を70.0:5.1:24.9に変更したことを除き、実施例1と同じ方法で、比較例2の電池の作製および発熱量の測定を行った。さらに、実施例1と同じ方法で、比較例2の電池について界面抵抗を測定した。なお、比較例2で用いた正極材料において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、16.9vol%であった。
【0179】
≪比較例3≫
正極材料の作製および発熱量の測定において、正極活物質、Li3YCl6、およびLi2S-P25の体積比率を70.0:30.0:0に変更したことを除き、実施例1と同じ方法で、比較例3の電池の作製および発熱量の測定を行った。なお、比較例3で用いた正極材料において、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xは、100vol%であった。
【0180】
さらに、実施例1と同じ方法で、比較例3の電池について交流インピーダンス解析を実施した。図3は、比較例3の電池について交流インピーダンス解析を実施することによって得られたナイキスト線図である。比較例3では、3×106Hzから1×103Hzまでの周波数応答を界面抵抗に帰属させ、フィッティング解析を実施することによって界面抵抗の値を算出した。
【0181】
実施例1から3および比較例1から3において測定された界面抵抗および発熱量の結果を表1に示す。図4は、実施例および比較例における比率x、界面抵抗、ならびに発熱量の関係を示したグラフである。図4において、丸印は、界面抵抗を示している。三角印は、発熱量を示している。
【0182】
【表1】
【0183】
≪考察≫
表1および図4からわかるとおり、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xが上昇するとともに界面抵抗の値が増加する傾向がある。すなわち、硫化物固体電解質の体積比率を上昇させ、ハロゲン化物固体電解質の体積比率を低下させれば、より低い界面抵抗を実現できることがわかる。硫化物固体電解質は、ハロゲン化物固体電解質に比べて、ヤング率が低く、変形性が高い。そのため、比率xが95vol%以下である実施例1から3の電池では、正極活物質と硫化物固体電解質とが密接に接合することによって低い界面抵抗が実現されたと推定される。
【0184】
表1および図4からわかるとおり、第1固体電解質(Li2S-P25)の体積と第2固体電解質(Li3YCl6)の体積との合計値に対する第2固体電解質の体積の比率xが上昇するとともに発熱量が減少する傾向がある。すなわち、ハロゲン化物固体電解質の体積比率を上昇させることによって、正極材料を含む正極において、高い熱安定性を実現できることがわかる。ハロゲン化物固体電解質は、硫化物固体電解質と比べて、固体電解質自体の熱安定性に優れるだけでなく、酸素との反応性が小さく、酸化反応により生じる熱量が小さい。そのため、比率xが20vol%以上である実施例1から3の電池では、正極において、高い熱安定性が実現されたと推定される。
【0185】
以上より、正極材料が、正極活物質と、硫化物固体電解質を含む第1固体電解質と、ハロゲン化物固体電解質を含む第2固体電解質と、を含み、前記第1固体電解質の体積と前記第2固体電解質の体積との合計値に対する前記第2固体電解質の前記体積の比率xが百分率にて20≦x≦95を満たす場合に、高い熱安定性と低い界面抵抗とを両立する正極を実現できることが確認された。特に、比率xが百分率にて35.2≦x≦76.5を満たす場合に、正極の熱安定性を十分に向上させるとともに、界面抵抗を十分に低減させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本開示の正極材料は、例えば、全固体リチウム二次電池などに利用されうる。
図1
図2
図3
図4