(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/28 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
H01B7/28 Z
H01B7/28 C
(21)【出願番号】P 2022019817
(22)【出願日】2022-02-10
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】浅井 海成
(72)【発明者】
【氏名】中村 邦彦
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-016088(JP,A)
【文献】特開2004-178876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体を被覆する被覆材とを備える電線であって、
前記被覆材は、前記電線の長さ方向に直交する断面において、径方向外方に突出するように形成された複数の山部を有し、
前記断面において、
前記複数の山部は、周方向に並んでおり、
且つ該複数の山部の表面が径方向外方に突出した円弧状と径方向内方に凹入した円弧状とを交互に繰り返すように形成されており、
前記山部の数が30~48であり、且つ、前記山部の高さが0.10mm以上0.2mm以下であ
り、
前記断面において、前記山部に外接する外接円の直径が10.8~26.1mmである、電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風圧による影響を低減可能な電線が知られている。
【0003】
このような電線として、例えば、特許文献1には、導体と、該導体を被覆する被覆材とを備え、前記電線の長さ方向に直交する断面において、前記被覆材が径方向外方に突出するように形成された複数の山部を有する電線が記載されている。かかる電線によれば、被覆材に複数の山部が形成されていることによって、風が当たった場合に、該電線を介した風上側と風下側との圧力差が小さくなり、電線に加わる風圧荷重が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電線では、近年の台風の勢力の増大に伴う強い風圧(例えば60m/s以上の風速による風圧)による影響が十分に低減されず、それによって、電線自体の損傷、延いては、電柱の倒壊のおそれもある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、従来技術の電線と比較して、風圧による影響が低減された電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討したところ、従来技術の電線に対して山部の数を多く設定しつつ、山部の高さを所定の値に設定することによって、上記課題が解決され得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る電線は、
導体と、該導体を被覆する被覆材とを備える電線であって、
前記被覆材は、前記電線の長さ方向に直交する断面において、径方向外方に突出するように形成された複数の山部を有し、
前記断面において、各山部は、周方向に並んでおり、
前記山部の数が30~48であり、且つ、前記山部の高さが0.10mm以上0.2mm以下である。
【0009】
斯かる構成によれば、山部の数が30~48であり且つ山部の高さが0.10mm以上0.2mm以下であることによって、従来技術の電線と比較して、風圧による影響が低減されたものとなる。例えば、60m/s以上の風速に対して、風圧による影響を低減することができる。
【0010】
また、本発明に係る電線は、好ましくは、
前記断面において、前記山部に外接する外接円の直径が10.8~26.1mmである。
【0011】
斯かる構成によれば、前記外接円の直径が10.8~26.1mmであることによって、風圧による影響がより一層低減されたものとなる。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、従来技術と比較して、風圧による影響が低減された電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電線の断面図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態に係る電線の断面における部分拡大図である。
【
図3】
図3は、実施例における山部の数及び山部の高さの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る電線について説明する。なお、以下では、電線の長さ方向に直交する断面を単に断面と称することがある。
【0015】
本実施形態の電線1は、架空送電線として用いられるものである。
図1の断面図に示されるように、電線1は、導体10と、導体10を被覆する被覆材20とを備えている。
【0016】
導体10は、亜鉛メッキ鋼線に複数のアルミ線が撚り合わせられることによって構成された鋼心アルミ撚線(ACSR)、又は、アルミ覆鋼線に複数のアルミ線が撚り合わされることによって構成された鋼心アルミ撚線(ACSR/AC)であることが好ましい。また、導体10は、ACSRやACSR/ACに限定されるものではなく、例えば、前記アルミ線のみが複数撚り合わせられることによって構成されたアルミ撚線であってもよく、複数の銅線が撚り合わせられることによって構成された銅撚線であってもよい。
【0017】
導体10の外径は、通常、7.2~18.7mmである。導体10の外径は、電線1から被覆材20を剥離した状態としたものについて、JIS C 3005:2014(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される測定方法によってノギスを用いて測定することができる。
【0018】
被覆材20は、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ゴム等の樹脂によって構成されている。
【0019】
被覆材20は、前記断面において、径方向外方に突出するように形成された複数の山部21を有する。また、各山部21は、電線1の周方向に沿って並んでいる。これによって、本実施形態の電線1は、各山部21の間に被覆材20の存在していない複数の谷部22を有する。本実施形態の谷部22は、前記断面において、径方向内方に凹入するように形成されている。
【0020】
本実施形態の各山部21は、前記断面において、それぞれの周方向における両端211が一対の突出基端211をなしている。本実施形態では、隣り合う山部21どうしは、突出基端211を共有しつつ連続するように形成されている。言い換えれば、本実施形態の電線1では、山部21の数及び突出基端211の数は、同数である(
図1では、山部21の数が37であり、突出基端211の数が37である)。
【0021】
本実施形態の各山部21は、前記断面における表面が曲線状に形成されている。より具体的には、該表面は、径方向外方に突出した円弧状と、径方向内方に凹入した円弧状とが交互に繰り返すように形成されている。また、各山部21は、電線1の中心から径方向外方に最も離れた点である頂点を有するように形成されている。これによって、前記断面には、各山部21の頂点に外接する外接円Cを描くことができる。外接円Cの直径Rは、電線1の外径を表す。なお、外接円Cの直径R(すなわち電線1の外径)は、JIS C 3005:2014に規定される測定方法によってノギスを用いて測定することができる。
【0022】
山部21は、その数が30~48であり、且つ、高さhが0.10mm以上0.2mm以下であることが重要である。また、高さhは、0.10mm以上0.20mm以下であることが好ましく、0.10mm以上0.2mm未満であってもよい。山部の数は40~48であることが好ましく、この場合、高さhは0.10mm以上0.16mm以下であることが好ましく、0.10mm以上0.15mm以下であることがより好ましい。また、山部の数が37であり、且つ、高さhが0.15mm以上0.18mm以下であってもよい。これによって、強い風速条件(例えば60m/s以上の条件)において、電線1の風圧による影響が低減される。なお、複数の山部21のうち、80%以上の山部の高さが上記範囲内であることが好ましく、90%以上の山部の高さが上記範囲内であることがより好ましい。
【0023】
山部21の高さhは、全ての山部の高さを個々に測定し、これらを算術平均することによって求めることができる。高さの測定は、拡大顕微鏡を用いた電線1の断面観察によって行なうことができる。断面観察における一つの山部の高さの測定では、該山部の突出基端を結ぶ直線を基準とした高さを測定するものとする。言い換えれば、一つの山部の高さの測定では、該山部の頂点と前記直線との最短距離を測定するものとする。
【0024】
なお、上記では、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る電線は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る電線は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る電線は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0025】
例えば、電線1は、
図2に示されるような断面形状であってもよい。すなわち、
図2に示される第2実施形態に係る電線1は、被覆材20が、前記断面において、径方向外方に突出するように形成された複数の山部21と、各山部21の間に設けられ表面が平坦状に形成された平坦部23とを有する。前記断面において、平坦部23の表面は、外接円Cに沿って形成されている。また、第2実施形態では、各山部21の間に平坦部23が形成されているため、各山部21のそれぞれが一対の突出基端211を有する。言い換えれば、第2実施形態の電線1では、突出基端211の数が山部21の数の2倍となっている。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[山部の数及び山部の高さの評価]
表1に示すように山部の数及び山部の高さを種々変更して電線を作製し、風速60m/sの環境において下記の風洞試験を実施し、低風圧性能について評価した。具体的には、表1の各電線に対応した、断面が円形の(山部のない)電線(外径はC-h)を別途作製し、風洞試験を実施した。そして、山部を形成した電線が、円形の電線に対してどの程度の割合で風圧荷重を低減するかを示す風圧荷重低減率Re(%)を、下記式によって求め、Reを指標に低風圧性能を評価した。結果は、表1及び
図3に示した通りである。
(Reの計算式)
Re=(F
0-F)/F
0×100
Re:風圧荷重低減率(%)
F
0:断面が円形の電線の風圧荷重(N/m)
F:山部が形成された電線の風圧荷重(N/m)
【0028】
[風洞試験]
電線(風洞内に配される有効試料長:50cm)の両端に3分力計を取り付け、電線の長さ方向が風の流れ方向に直交するように風洞内に固定した。風速を60m/sに設定し、50cmあたりの荷重を測定した。なお、試験は、大気圧下(約100kPa)、22~25℃の条件で実施した。また、風速60m/sにおける風圧荷重及び抵抗係数Cdの測定値を下記計算式により算出した。
(抵抗係数の計算式)
F=PCdS・・・(1)
Fv=ρV2CdS/2・・・(2)
F:50cmあたりの荷重(N/50cm)、
P:測定した動圧(kPa)、
Cd:抵抗係数、
S:投影面積(m2)=電線外径(m)×風洞内部の有効試料長(m)、
Fv:風速Vでの風圧荷重(N/m)、
ρ:空気密度(1.1277kg/m3とした)
【0029】
【0030】
表1及び
図3に示すように、山部の数が30~48の電線は、山部の高さが0.10~0.20mmの範囲で乱流遷移が完了している。よって、これらの電線は、低風圧性能に優れるものと評価できる。さらに、山部の数が40~48であり且つ山部の高さが0.10~0.16mmの電線は、強風圧において、低風圧性能により優れることがわかった。また、これらと同等の低風圧性能を有する電線として、山部の数が37であり、且つ、高さhが0.15mm~0.18mmの電線が挙げられる。
【符号の説明】
【0031】
1:電線、10:導体、20:被覆材、21:山部、211:突出基端、22:谷部、23:平坦部、C:外接円