(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】血中アミロイドβの免疫測定方法及びそのためのキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20241218BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2022512534
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013528
(87)【国際公開番号】W WO2021200940
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2020063156
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】顧 然
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-081011(JP,A)
【文献】特開2018-151162(JP,A)
【文献】特表2005-519088(JP,A)
【文献】米国特許第5164295(US,A)
【文献】特開平6-058935(JP,A)
【文献】特表2006-507488(JP,A)
【文献】国際公開第2015/052654(WO,A1)
【文献】TIMMER, N. M. et al.,Aggregation and cytotoxic properties towards cultured cerebrovascular cells of Dutch-mutated Aβ40 (DAβ1-40) are modulated by sulfate moieties of heparin,Neuroscience Research,2009年12月30日,Vol.66,pp.380-389
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体中のアミロイドβを免疫測定する方法であって、前記免疫測定を、陰イオン性ポリマーの存在下で行う、アミロイドβの免疫測定方法。
【請求項2】
前記陰イオン性ポリマーが、側鎖に硫酸基又はスルホ基を有する陰イオン性ポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記陰イオン性ポリマーが、デキストラン硫酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩、並びにヘパリン硫酸及びその塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記陰イオン性ポリマーが、デキストラン硫酸ナトリウムである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記免疫測定がサンドイッチ法であり、前記陰イオン性ポリマーの存在下で、前記血液検体中の前記アミロイドβと、固相に固相化した抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片とを接触させて、該アミロイドβを測定することを含む、請求項1~請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記アミロイドβが、アミロイドβ1-40又はアミロイドβ1-42である、請求項1~請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
血液検体中のアミロイドβを免疫測定するためのキットであって、抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片と、陰イオン性ポリマーを含むキット。
【請求項8】
前記免疫測定がサンドイッチ法であり、抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片を固相化した固相と、陰イオン性ポリマーを含む、請求項7記載のキット。
【請求項9】
前記固相が粒子であり、該粒子と前記陰イオン性ポリマーを含む粒子液を具備する、請求項8記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中アミロイドβの免疫測定方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβは、アルツハイマー病のバイオマーカーとして公知であり、免疫測定により検体中のアミロイドβを測定することが知られており(特許文献1)、そのためのキットも市販されている。市販されている多くのアミロイドβの免疫測定キットは、検体として脳脊髄液(CSF)を使用するものである。一方、アルツハイマー病患者では、血液中にもアミロイドβが存在することが知られている。CSFの採取は侵襲的であるので、血液検体中のアミロイドβを免疫学的に測定できれば有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CSF中であれ、血液中であれ、測定対象は同じアミロイドβであるから、CSFと同様にして血液中のアミロイドβを免疫測定することができると考えられた。しかしながら、血液検体中のアミロイドβを免疫測定しようとすると、CSFを検体とする場合と比較して感度が低くなるという問題があることがわかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、血液検体中のアミロイドβを高感度に測定することができる免疫測定方法及びそのためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、血液中のアミロイドβの測定に関する鋭意研究の結果、陰イオン性ポリマーの存在下で、血液検体中のアミロイドβと抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片との抗原抗体反応を行うことにより、高感度に血液検体中のアミロイドβを測定できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 血液検体中のアミロイドβを免疫測定する方法であって、前記免疫測定を、陰イオン性ポリマーの存在下で行う、アミロイドβの免疫測定方法。
(2) 前記陰イオン性ポリマーが、側鎖に硫酸基又はスルホ基を有する陰イオン性ポリマーである、(1)記載の方法。
(3) 前記陰イオン性ポリマーが、デキストラン硫酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩、並びにヘパリン硫酸及びその塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である、(2)記載の方法。
(4) 前記陰イオン性ポリマーが、デキストラン硫酸ナトリウムである、(3)記載の方法。
(5) 前記免疫測定がサンドイッチ法であり、前記陰イオン性ポリマーの存在下で、前記血液検体中の前記アミロイドβと、固相に固相化した抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片とを接触させて、該アミロイドβを測定することを含む、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記アミロイドβが、アミロイドβ1-40又はアミロイドβ1-42である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 血液検体中のアミロイドβを免疫測定するためのキットであって、抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片と、陰イオン性ポリマーを含むキット。
(8) 前記免疫測定がサンドイッチ法であり、抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片を固相化した固相と、陰イオン性ポリマーを含む、(7)記載のキット。
(9) 前記固相が粒子であり、該粒子と前記陰イオン性ポリマーを含む粒子液を具備する、(8)記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、血液検体中のアミロイドβを高感度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】下記実施例において測定した、アルツハイマー病患者と健常人における、Aβ
1-42/Aβ
1-40比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の免疫測定方法に供する検体は、血液検体である。血液検体には、全血、血清、血漿のいずれも包含される。好ましくは、血清又は血漿である。
【0012】
下記実施例に具体的に記載するように、血漿及び緩衝液中に精製アミロイドβを添加し、免疫測定を用いて、添加したアミロイドβの回収レベル(カウント値)を比較する実験により、ゲルろ過クロマトグラフィーで300~400kDaの分子量に相当するフラクションに溶出される、アミロイドβと抗アミロイドβ抗体との反応を抑制する物質(被覆物質)が存在することが見出された。さらに研究の結果、陰イオン性ポリマーの存在下で免疫測定の抗原抗体反応を行うことにより、被覆物質による結合抑制を軽減できることが見出された。本発明は、この新知見に基づいており、免疫測定を、陰イオン性ポリマーの存在下で行うことを最大の特徴とする。
【0013】
陰イオン性ポリマーとしては、デキストラン硫酸、ヘパリン硫酸、コンドロイチンA硫酸、コンドロイチンB硫酸及びコンドロイチンC硫酸並びにこれらの塩のような、側鎖に硫酸基を有するもの、ポリスチレンスルホン酸及びその塩のような、側鎖にスルホ基を有するもの、並びにポリ(メタ)アクリル酸及びその塩のような、カルボキシル基を有するものが好ましい。これらのうち、側鎖に硫酸基又はスルホ基を有するものが好ましく、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸及びヘパリン硫酸並びにこれらの塩がより好ましく、特にデキストラン硫酸及びポリスチレンスルホン酸並びにこれらの塩が好ましく、とりわけ、デキストラン硫酸及びその塩が好ましい。塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。これらの陰イオン性ポリマーは、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0014】
陰イオン性ポリマーの平均分子量は、質量平均分子量として、通常、1,000~5,000,000程度、2,000~4,000,000程度、3,000~2,000,000程度、4,000~1,000,000程度、好ましくは、5,000~700,000程度、より好ましくは、5,000~50,000程度である。
【0015】
陰イオン性ポリマーは、被覆物質によるアミロイドβと、抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片(以下、文脈上そうではないことが明らかな場合を除き、「抗体」という語は、「抗体又はその抗原結合性断片」を意味する)との抗原抗体反応の抑制を軽減するものであるから、いずれの免疫測定方法にも有効であることが明らかである。すなわち、免疫測定には、サンドイッチ法、競合法、凝集法、イムノクロマト法等が包含されるが、本発明は、これらの免疫測定のいずれをも包含する。これらの免疫測定方法自体は周知であり、ここで詳しく述べる必要はないが、それぞれ簡単に説明する。
【0016】
サンドイッチ法には例えば、化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)、酵素結合免疫吸着法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay; ELISA)、ラジオイムノアッセイ、電気化学発光免疫測定法(Electro Chemiluminescence Immunoassay; ECLIA)、蛍光免疫測定法(Fluorescence Immunoassay; FIA)等の各種の手法があり、本発明はいずれの手法をも包含する。本発明の免疫測定は、特に限定されないが、サンドイッチ法であってもよい。サンドイッチ法には例えば、1ステップサンドイッチ法と2ステップサンドイッチ法がある。
【0017】
2ステップサンドイッチ法では、例えば、まず固相に固相化された抗アミロイドβ抗体または固相に固相化される抗アミロイドβ抗体(固相抗体)と、血液検体中のアミロイドβとを接触させて、固相抗体とアミロイドβとの抗原抗体反応を行う(一次反応)。固相抗体が、固相に固相化される抗アミロイドβ抗体である場合は、一次反応後に、固相抗体を固相に固定化する。その後、B/F分離を行う。次いで、固相抗体に結合したアミロイドβと、検出のための標識物質が結合した抗アミロイドβ抗体(標識抗体)とを接触させて、アミロイドβと標識抗体との抗原抗体反応を行う(二次反応)。次いで、B/F分離を行い、固相に結合したアミロイドβに結合した標識抗体の標識由来のシグナルを検出することによって、血液検体中のアミロイドβを測定することができる。B/F分離後に洗浄を行ってもよい。
【0018】
1ステップサンドイッチ法では、固相抗体と、検体中のアミロイドβと、標識抗体とを接触させて、固相抗体とアミロイドβとの抗原抗体反応と、アミロイドβと標識抗体との抗原抗体反応とを一つの工程で行う。固相抗体が、固相に固相化される抗アミロイドβ抗体である場合は、抗原抗体反応後または抗原抗体反応と同時に、固相抗体を固相に固定化する。その後、B/F分離を行い、固相に結合したアミロイドβに結合した標識抗体の標識由来のシグナルを検出することによって、血液検体中のアミロイドβを測定することができる。
【0019】
直接競合法は、測定すべき標的抗原(本発明ではアミロイドβ)に対する抗体を固相に固定化し(固相化)、非特異吸着を防ぐためのブロッキング処理(血清アルブミン等のタンパク質溶液で固相を処理)後、この抗体と、前記標的抗原を含む被検試料と、一定量の標識した抗原とを反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。被検試料中の抗原と標識抗原とが、抗体に対して競合的に結合するので、被検試料中の抗原量が多いほど、固相に結合する標識の量が少なくなる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量(標識の性質に応じて、吸光度、発光強度、蛍光強度等、以下同じ)を測定して、抗原濃度を横軸、標識量を縦軸にとった検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。直接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、US20150166678Aに記載されている。
【0020】
間接競合法では、標的抗原(本発明ではアミロイドβ)を固相化する。次いで、固相のブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料と、一定量の抗標的抗原抗体とを混合し、前記固相化抗原と反応させる。洗浄後、固相に結合された前記抗標的抗原抗体を定量する。これは、前記抗標的抗原抗体に対する標識した二次抗体を反応させ、洗浄後、標識量を測定することにより行うことができる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化されて標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。なお、標識二次抗体を用いずに、標識した一次抗体を用いることも可能である。間接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、上記したUS20150166678Aに記載されている。
【0021】
上記した各種免疫測定のうち、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)、放射イムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)は、上記した直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等を行う際に用いる標識の種類に基づいて分類した免疫測定である。化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)は、標識として酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、AMPPD)を用いた、免疫測定である。酵素イムノアッセイ法(EIA)は、標識として酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ等)を用いる免疫測定である。各酵素の基質としては、吸光度測定等により定量可能な化合物が用いられる。例えば、ペルオキシダーゼの場合には、1,2-フェニレンジアミン(OPD)や3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(TMB)等、アルカリフォスファターゼの場合には、p-ニトロフェニルフォスフェート(pNPP)等、β-ガラクトシダーゼの場合には、MG:4-メチルウンベリフェリルガラクトシド、NG:ニトロフェニルガラクトシド等、ルシフェラーゼの場合には、ルシフェリン等が用いられる。放射イムノアッセイ(RIA)は、標識として放射性物質を用いる方法であり、放射性物質としては、3H、14C、32P、35S、125I等の放射性元素が挙げられる。蛍光イムノアッセイ(FIA)は、標識として蛍光物質または蛍光タンパク質を用いる方法であり、蛍光物質または蛍光タンパク質としては、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質等が挙げられる。これらの標識を用いる免疫測定自体はこの分野において周知であり、例えば、US8039223BやUS20150309016A1に記載されている。
【0022】
免疫比濁法(TIA)は、測定すべき標的抗原(本発明ではアミロイドβ)と、該抗原に対する抗体との結合により生成された抗原抗体複合物により濁度が増大する現象を利用した免疫測定である。抗標的抗原抗体溶液に、種々の既知濃度の抗原を添加し、それぞれ濁度を測定し、検量線を作成する。未知の被検試料について、同様に濁度を測定し、測定された濁度を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。免疫比濁法自体は周知であり、例えば、US 20140186238 A1に記載されている。ラテックス凝集法は、免疫比濁法と類似しているが、免疫比濁法における抗体溶液に代えて、表面に抗標的抗原抗体を固定化したラテックス粒子の浮遊液を用いる方法である。免疫比濁法及びラテックス凝集法自体はこの分野において周知であり、例えば、US 7,820,398 Bに記載されている。
【0023】
イムノクロマトグラフィー法は、ろ紙、セルロースメンブレン、ガラス繊維、不織布等の多孔性材料で形成された基体(マトリックスやストリップとも呼ばれる)上で上記したサンドイッチ法や競合法を行う方法である。例えば、サンドイッチ法によるイムノクロマトグラフィー法の場合、抗標的抗原抗体を固定化した検出ゾーンを上記基体上に設け、標的抗原を含む被検試料を基体に添加し、上流側から展開液を流して標的抗原を検出ゾーンまで移動させ、検出ゾーンに固定化させる。固定化された標的抗原を、標識した二次抗体でサンドイッチして、検出ゾーンに固定化された標識を検出することにより、被検試料中の標的抗原を検出する。標識二次抗体を含む標識ゾーンを検出ゾーンよりも上流側に形成しておくことにより、標的抗原と標識二次抗体との結合体が検出ゾーンに固定化される。標識が酵素の場合には、酵素の基質を含めた基質ゾーンも検出ゾーンよりも上流側に設けられる。競合法の場合には、例えば、検出ゾーンに標的抗原を固定化しておき、被検試料中の標的抗原と、検出ゾーンに固定化された標的抗原とを競合させることができる。検出ゾーンよりも上流側に標識抗体ゾーンを設けておき、被検試料中の標的抗原と標識抗体を反応させ、未反応の標識抗体を検出ゾーンに固定化して標識を検出又は定量することにより、被検試料中の標的抗原を検出又は定量することができる。イムノクロマトグラフィー法自体は、この分野において周知であり、例えばUS 6210898 Bに記載されている。
【0024】
上記した各種免疫測定のうち、検出感度及び自動化の容易性の観点から、サンドイッチ法、特に、固相として磁性粒子を用い、標識として酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD))を用いる免疫測定である化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)が好ましい。
【0025】
陰イオン性ポリマーは、血液検体中のアミロイドβと抗アミロイドβ抗体とを接触させて、血液検体中のアミロイドβと抗アミロイドβ抗体との抗原抗体反応を行う反応の系中に存在させる。
【0026】
例えば、2ステップサンドイッチ法では、陰イオン性ポリマーは、固相抗体と、検体中のアミロイドβとを接触させて、固相抗体とアミロイドβとの抗原抗体反応を行う反応系中に存在することが好ましい。1ステップサンドイッチ法では、陰イオン性ポリマーは、固相抗体と、検体中のアミロイドβと、標識抗体とを接触させて、抗原抗体反応を行う反応系に存在することが好ましい。
【0027】
固相は特に限定されず、公知の免疫測定で使用される固相を用いることができる。固相の材質の具体例としては、ポリスチレン、ポリエチレン、セファロース、ラテックス、デキストラン、アガロース、ゼラチン、ポリアクリルアミド等が挙げられるが、これらに限定されない。使用する固相は、その表面への抗体の固定化が容易で、測定中に形成される免疫複合体と未反応の成分を容易に分離できるものであることが好ましい。特に、通常の免疫測定法に使用されるプラスチックプレート、ラテックス粒子や磁性粒子が好ましい。取り扱い、保存、および分離の容易性等の観点から、前述のような材質の磁性粒子を使用することが最も好ましい。これらの固相への抗体の固相化は当業者に周知の常法によって行なうことができる。固相への抗体の固相化は、物理的吸着により行ってもよいし、共有結合を用いてもよい。固相への抗体の固相化はまた、ビオチンーストレプトアビジンのような親和性物質の一方を固相に固相化し、他方を抗体に結合し、これらを混合することで、親和性物質を介して、抗体を固相に固相化してもよい。
【0028】
標識物質も特に限定されず、公知の免疫測定で使用されている標識物質と同様のものを用いることができる。具体例としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質、染色物質、放射性物質などが挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ(ALP)、パーオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ等、公知のものを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
アミロイドβは、その前駆体から酵素による切断を受けて生成するが、切断酵素の相違により、1番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ1-42(Aβ1-42))、1番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ1-40(Aβ1-40))、5番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ5-42(Aβ5-42))、5番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ5-40(Aβ5-40))、11番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ11-42(Aβ11-42))、11番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ11-40(Aβ11-40))、16番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ16-42(Aβ16-42))、16番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ16-40(Aβ16-40))、17番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ17-42(Aβ17-42))、17番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ17-40(Aβ17-40))、20番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ20-42(Aβ20-42))、20番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ20-40(Aβ20-40))、21番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ21-42(Aβ21-42))、21番~40番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ21-40(Aβ21-40))、35番~42番のアミノ酸から成るもの(アミロイドβ35-42(Aβ35-42)と呼ばれている)と、35番~40番のアミノ酸から成るもの(「アミロイドβ35-40(Aβ35-40))、等の複数の種類が存在する。Aβ1-42、Aβ5-42、Aβ11-42、Aβ16-42、Aβ17-42、Aβ20-42、Aβ21-42、Aβ35-42をまとめてアミロイドβX-42と呼ぶ。また、Aβ1-40、Aβ5-40、Aβ11-40、Aβ16-40、Aβ17-40、Aβ20-40、Aβ21-40、Aβ35-40をまとめてアミロイドβX-40と呼ぶ。本発明は、いずれのアミロイドβの測定にも有用であり、これらのいずれを測定する場合も本発明の範囲に含まれるが、特に、アミロイドβ1-42およびアミロイドβ1-40の測定に用いることが好ましい。
【0030】
抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片は、アミロイドβに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片であればよい。抗体は、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。一般的にはモノクローナル抗体が好ましく用いられる。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の作製方法は、周知であるので、アミロイドβ抗原を免疫原として用いて抗アミロイドβ抗体を調製してもよい。「抗原結合性断片」は、もとの抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している限り、いかなる抗体断片であってもよい。具体例としては、Fab、F(ab')2、scFv等を挙げることができるが、これらに限定されない。FabやF(ab')2は、周知の通り、抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。scFv(single chain fragment of variable region、単鎖抗体)の作製方法も周知であり、周知の方法に従って作製することができる。
【0031】
抗アミロイドβ抗体又はその抗原結合性断片は、測定の対象となるアミロイドβの種類に応じて、適宜選択することができる。このような抗体及び抗体の組み合わせは公知であり、市販されているものを用いることができる。
【0032】
例えば、サンドイッチ法によりアミロイドβ1-42を測定するには、アミロイドβx-42のC末端領域に特異的に結合する抗体(抗Aβ42抗体)と、アミロイドβの1番目のアミノ酸を含むN末端領域に特異的に結合する抗体(抗AβN末端抗体)と、を用いることができる。上記の通り、このような抗体は市販されている抗体を用いてもよいし、周知の方法により製造してもよい。固相抗体として抗Aβ42抗体を、標識抗体として抗AβN末端抗体を用いてもよいし、その逆に固相抗体として抗AβN末端抗体を、標識抗体として抗Aβ42抗体を用いてもよい。
【0033】
また、サンドイッチ法によりアミロイドβ1-40を測定するには、アミロイドβx-40のC末端領域に特異的に結合する抗体(抗Aβ40抗体)と、アミロイドβの1番目のアミノ酸を含むN末端領域に特異的に結合する抗体(抗AβN末端抗体)と、を用いることができる。上記の通り、これら抗体は市販されている抗体を用いてもよいし、周知の方法により製造してもよい。固相抗体として抗Aβ40抗体を、標識抗体として抗AβN末端抗体を用いてもよいし、その逆に固相抗体として抗AβN末端抗体を、標識抗体として抗Aβ40抗体を用いてもよい。
【0034】
陰イオン性ポリマーは、抗原抗体反応系に別途添加することもできるし、抗体固相化粒子等の抗体固相化固相を含む溶液や、血液検体を希釈するための検体希釈液等の試薬類に予め添加しておくこともできる。また、血液検体に添加しておくことも可能である。
【0035】
抗原抗体反応系中の陰イオン性ポリマーの終濃度は、通常、0.01g/L~50g/L程度、0.02g/L~25g/L程度、0.03g/L~10g/L程度、0.04g/L~5g/L程度、好ましくは0.05g/L~2.5g/L程度である。
【0036】
免疫測定方法自体は周知であり、上記の通り、本発明はいずれの免疫測定方法にも適用可能である。すなわち、本発明の免疫測定方法は、抗原抗体反応を、陰イオン性ポリマーの存在下で行うこと以外は、周知の免疫測定方法をそのまま用いることができる。さらに、上記したとおり、CSFを検体とする免疫測定は既に実施されているので、この免疫測定に用いられるキットをそのまま利用することもできる。
【0037】
なお、CSF中と同様、血液中にもAβ1-42とAβ1-40の両方が含まれていることが知られており、CSF中及び血液中の何れも、これらの比、すなわち、Aβ1-42/Aβ1-40をとることで診断特異度が上昇することが知られているため、Aβ1-42とAβ1-40の両方を定量して、その比を算出することが行われている。この比が健常人よりも小さい場合、アルツハイマー病である可能性が高いと判定されている。一般に、血液検体の採取時から免疫測定までの経過時間が長くなると、免疫測定の感度が低下するが、下記実施例に具体的に記載するように、陰イオン性ポリマーの存在下で抗原抗体反応を行うことにより、検体採取時からの経過時間が長くても、感度はほとんど低下しない(すなわち、Aβ1-42/Aβ1-40が経時的にほとんど変化しない)という、予想外の効果も見出された。
【0038】
本発明のキットは、上記した本発明の免疫測定方法を行うためのキットであればよく、抗アミロイドβ抗体と、陰イオン性ポリマーを少なくとも含むものである。免疫測定がサンドイッチ法の場合、抗アミロイドβ抗体を固相化した固相も含まれる。該固相が磁性粒子のような粒子の場合、該粒子(通常、粒子液の形態にある)も含まれる。周知のアミロイドβ免疫測定用キットに陰イオン性ポリマーを含めることにより、本発明のキットとすることができる。上記のとおり、陰イオン性ポリマーは、抗アミロイドβ抗体固相化粒子液や、検体希釈液等の試薬類に含有させてもよいし、別途、単独でキットに含めてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
<固相化粒子の調製>
10mM MES緩衝液(pH5.0)中で磁性粒子0.01g/mLに、アミロイドβx-42のC末端領域に特異的に結合する、マウス抗Aβ42抗体0.2mg/mLを添加し、25℃で1時間ゆるやかに攪拌しながらインキュベートした。反応後、磁性粒子を磁石で集磁し、粒子を洗浄液(50mM トリス緩衝液、150mM NaCl、2.0% BSA、pH7.2)にて洗浄し、抗Aβ42抗体固相化粒子を得た。得られた抗Aβ42抗体固相化粒子を粒子希釈液(50mM Tris緩衝液、1mM EDTA2Na、0.1% NaN3、2.0% BSA、pH7.2)に懸濁し、抗Aβ42抗体固相化粒子溶液を得た。
【0041】
アミロイドβx-40のC末端領域に特異的に結合する、マウス抗Aβ40抗体を用いて、同様にして、抗Aβ40抗体固相化粒子及び抗Aβ40抗体固相化粒子溶液を調製した。
【0042】
<アルカリホスファターゼ標識抗体の調製>
脱塩したアルカリホスファターゼ(ALP)とN-(4-マレイミドブチリロキシ)-スクシンイミド(GMBS)(終濃度0.3 mg/mL)を混合し、30℃で1時間静置してマレイミド化を行った。次いで、カップリング用反応液(100mMリン酸緩衝液、1mM EDTA2Na、pH6.3)中で、Fab’化した、アミロイドβの1番目のアミノ酸を含むN末端領域に特異的に結合する、マウス抗AβN末端抗体と、マレイミド化ALPを1:1のモル比で混合し、25℃で1時間反応させた。Superdex200 10/300(GE社製)のカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、アルカリホスファターゼ標識抗体(ALP標識抗体)を得た。ALP標識抗体を標識体希釈液(50mM MES緩衝液、150mM NaCl、0.3mM ZnCl2、1mM MgCl2、0.1% NaN3、2.0% BSA、pH6.8)に懸濁し、ALP標識抗体溶液を得た。
【0043】
<アミロイドβ1-42(Aβ1-42)の測定方法>
サンプル50μLと抗Aβ42抗体固相化粒子溶液50μLを反応槽に分注し、攪拌した。その後、37℃で8分間インキュベートし、磁場を用いたB/F分離および洗浄を行った。この反応槽に、さらにALP標識抗体溶液50μLを分注し、攪拌後、37℃で8分間インキュベートし、磁場を用いたB/F分離および洗浄を行った。その後、化学発光基質である3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3''-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を含むルミパルス(登録商標)基質液(富士レビオ社製)200μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で4分間インキュベートした後、発光量をルミノメーターで測定した。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム(ルミパルスL2400(富士レビオ社製))にて行った。
【0044】
<アミロイドβ1-40(Aβ1-40)の測定方法>
サンプル30μLと抗Aβ40抗体固相化粒子溶液50μLを反応槽に分注し、攪拌した。その後、37℃で8分間インキュベートし、磁場を用いたB/F分離および洗浄を行った。この反応槽に、さらに酵素標識抗体溶液50μLを分注し、攪拌後、37℃で8分間インキュベートし、磁場を用いたB/F分離および洗浄を行った。その後、AMPPDを含むルミパルス基質液(富士レビオ社製)200μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で4分間インキュベートした後、発光量をルミノメーターで測定した。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム(ルミパルスL2400(富士レビオ社製))にて行った。
【0045】
実施例1
血液サンプルを用いたAβ1-42およびAβ1-40の測定におけるデキストラン硫酸ナトリウムの添加効果を検討した。
【0046】
サンプルとして、Aβ1-42およびAβ1-40が測定限界以下である血液サンプル(血清およびEDTA・2K血漿)4.5mLに、Aβ1-42抗原およびAβ1-40抗原をそれぞれ約794pg/mLの濃度および約7744pg/mLの濃度で含む脳脊髄液(CSF)500μLを添加し、抗原含有血清(Serum1、Serum2)および抗原含有血漿(EDTA2K)を調製した。また、トリス緩衝生理食塩水(TBS緩衝液、pH7.4)に、血液サンプルと同濃度のAβ1-42抗原およびAβ1-40抗原を添加して、抗原含有TBS緩衝液(Buffer)を調製した。調製したサンプルを用いて、上記の「Aβ1-42の測定方法」および「Aβ1-40の測定方法」に記載の方法に従って、Aβ1-42およびAβ1-40をそれぞれ測定した。デキストラン硫酸ナトリウムとしては、デキストラン硫酸ナトリウム(質量平均分子量5000(以下、「分子量5000」と記載、他も同様))を抗体固相化粒子溶液に、0.5g/Lになるように添加して、その添加効果を検討した。抗原抗体反応系中のデキストラン硫酸ナトリウムの終濃度は、Aβ1-42では0.25g/L、Aβ1-40では0.31g/Lである。また、ブランクとして、抗原を添加していない各サンプル(血清、EDTA・2K血漿及びTBS緩衝液)を同様に測定し、得られたカウントをブランク値とした。各抗原含有サンプルのカウントからブランク値を引いたものをカウント値とした。Aβ1-42の結果を表1に、Aβ1-40の結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表1に示されるように、デキストラン硫酸ナトリウム未添加の条件では、血清サンプルおよび血漿サンプルのAβ1-42のカウント値は、緩衝液サンプルのカウント値に比べて低い値であった。緩衝液サンプルのカウント値を100%とすると、血清サンプルであるSerum2のカウント値は56.9%と大幅に低下していた。
【0050】
一方、抗体固相化粒子溶液にデキストラン硫酸ナトリウムを添加して、Aβ1-42を測定すると、血清サンプルおよび血漿サンプル共にカウント値が上昇し、緩衝液サンプルのカウント値に対して80%以上にまでカウント値が回復した。
【0051】
また、表2に示されるように、Aβ1-40についても、デキストラン硫酸ナトリウム未添加の条件では、血漿サンプルのAβ1-40のカウント値は、緩衝液サンプルのカウント値に比べて低い値であった。緩衝液サンプルのカウント値を100%とすると、血漿サンプルEDTA2Kは36.4%と大幅に低下していた。一方、抗体固相化粒子溶液に、デキストラン硫酸ナトリウムを添加して、Aβ1-40を測定すると、血漿サンプルのカウント値が上昇し、緩衝液サンプルのカウント値に対して90%以上にまでカウント値が回復した。
【0052】
実施例2
血液中のAβ1-42の測定におけるデキストラン硫酸ナトリウムの添加濃度を検討した。実施例1に記載の方法にて、抗原含有血清(Serum1、Serum2)、抗原含有血漿(EDTA2K)および抗原含有TBS緩衝液(Buffer)のAβ1-42を測定した。デキストラン硫酸ナトリウムとしては、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5000)を抗体固相化粒子溶液に、表3の濃度(0.1g/L~5.0g/L)になるように添加して、その添加効果を検討した。抗原抗体反応系中のデキストラン硫酸ナトリウムの終濃度は、0.05g/L~2.5g/Lである。また、実施例1と同様にブランク値を取得し、カウント値を算出した。結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
表3に示されるように、検討したデキストラン硫酸ナトリウムの濃度のすべての条件で、カウント値が、未添加の条件におけるカウント値に比べて上昇した。
【0055】
実施例3~5、比較例1~3
様々な陰イオン性ポリマーの添加による血液サンプル中のAβ測定への効果を検討した。実施例1および2において、デキストラン硫酸ナトリウム未添加条件にて特にカウント値の低下が著しい血清(抗原含有血清、Serum2)と、抗原含有TBS緩衝液(Buffer)を用いて、実施例1に記載の方法にて、Aβ1-42を測定した。陰イオン性ポリマーとしては、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5,000)(実施例3)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(分子量700,000)(実施例4)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(比較例1)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)(比較例2)、ポリアクリル酸ナトリウム塩(分子量5,100)(実施例5)、N-ラウロイルサルコシンナトリウム(NLS)(比較例3)を用いた。これら陰イオン性ポリマーを、抗体固相化粒子溶液に、0.5g/Lになるように添加して、その添加効果を検討した。また、実施例1と同様にブランク値を取得し、カウント値を算出した。結果を表4に示す。
【0056】
【0057】
表4に示されるように、陰イオン性ポリマーの未添加の条件では、血清サンプル(Serum2)のカウント値は、緩衝液サンプルのカウント値に比べて、56.9%であるのに対し、陰イオン性ポリマーであるデキストラン硫酸ナトリウム(実施例3)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(実施例4)、およびポリアクリル酸ナトリウム塩(実施例5)を添加すると、それぞれ82.6%、77.4%および66.9%までカウント値が上昇した。特に側鎖に硫酸基又はスルホ基を有する陰イオン性ポリマーであるデキストラン硫酸ナトリウムおよびポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)では、カウント値の回復が大きく、特に効果があることが示された。一方で、側鎖に硫酸基を有する界面活性剤であるSDS(比較例1)、側鎖にスルホ基を有する界面活性剤であるSDBS(比較例2)、または側鎖にカルボキシル基を有するNLS(比較例3)を添加しても、カウント値は回復しなかった。
【0058】
よって、反応液への陰イオン性ポリマーの添加は、血液サンプルにおけるアミロイドβ測定時のカウント値の低下を改善する効果があることが示された。また、陰イオン性ポリマーのうち、特に側鎖に硫酸基又はスルホ基を有する陰イオン性ポリマーの改善効果が大きいことが示された。
【0059】
実施例6
陰イオン性ポリマーの添加濃度による血液サンプル中のAβ測定への効果を検討した。Aβ1-42が測定限界以下である血液サンプル(血清およびEDTA・2K血漿)5mLに、50000pg/mLの濃度の合成Aβ1-42抗原を50μL添加し、抗原含有血清(Serum1、Serum2)および抗原含有血漿(EDTA2K)を調製した。また、トリス緩衝生理食塩水(TBS緩衝液、pH7.4)に、血液サンプルと同濃度の合成Aβ1-42抗原を添加して、抗原含有TBS緩衝液(Buffer)を調製した。調製した各サンプルを用いて、実施例1に記載の方法にて、Aβ1-42を測定した。陰イオン性ポリマーとしては、デキストラン硫酸ナトリウムの代わりに、側鎖に硫酸基を有する陰イオン性ポリマーであるヘパリン硫酸ナトリウムを、抗体固相化粒子溶液に、表5の濃度(0.5g/L、5.0g/L)になるように添加して、その添加効果を検討した。抗原抗体反応系中のヘパリン硫酸ナトリウムの終濃度は、0.25g/L、2.5g/Lである。また、実施例1と同様にブランク値を取得し、カウント値を算出した。結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
表5に示されるように、検討したヘパリン硫酸ナトリウムを添加した濃度のすべての条件で、未添加の条件におけるカウント値に比べて、カウント値が上昇した。
【0062】
実施例7
分子量が異なるデキストラン硫酸ナトリウムの添加による血液サンプル中のAβ測定への効果を検討した。実施例1および2において、デキストラン硫酸ナトリウム未添加条件にて特にカウント値の低下が著しい血清(Serum2)5mLに、50000pg/mLの濃度の合成Aβ1-42抗原を50μL添加し、抗原含有血清を調製し、実施例1に記載の方法にて、Aβ1-42を測定した。また、TBS緩衝液に、血液サンプルと同濃度の合成Aβ1-42抗原を添加して、抗原含有TBS緩衝液(Buffer)を調製し、同様にAβ1-42を測定した。平均分子量が5000と50000である二種類のデキストラン硫酸を使用し、抗体固相化粒子溶液への添加濃度は7g/Lとした。抗原抗体反応系中のデキストラン硫酸ナトリウムの終濃度は、3.5g/Lである。さらに、実施例1と同様にブランク値を取得し、カウント値を算出した。結果を表6に示す。
【0063】
【0064】
表6に示されるように、デキストラン硫酸ナトリウムの未添加の条件では、血清サンプル(Serum2)のカウント値は、緩衝液サンプルのカウント値に比べて、66.7%であるのに対し、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5000)、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量50000)を添加すると、それぞれ80.9%、93.8%までカウント値が上昇した。
【0065】
よって、平均分子量5000以上のデキストラン硫酸ナトリウムをはじめとした陰イオン性ポリマーを反応液への添加することは、血液サンプルにおけるアミロイドβ測定時のカウント値の低下を改善する効果があることが示された。
【0066】
実施例8
血液サンプルにおいて、緩衝液サンプルよりもカウント値が下がる原因を検討する目的で、EDTA・2K血漿、および脳脊髄液(CSF)を、ゲルろ過カラムを用いて分画した。条件は次のとおりである。装置はAKTA FPLC(GEヘルスケア製)、カラムはSuperose6 10×300(GEヘルスケア製)、流速は0.3mL/分、バッファーはD-PBS(-)、アプライ量は1mL、各フラクションの液量は1mLである。取得した各フラクションに対してAβ1-42抗原を1000pg/mLになるように添加して、サンプルを調製した。調製したサンプルを用いて、実施例1に記載の方法でAβ1-42を測定した。抗体固相化粒子溶液に、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5000)を2.5g/Lになるように添加して、その添加効果を検討した。抗原抗体反応系中のデキストラン硫酸ナトリウムの終濃度は、1.3g/Lである。コントロールサンプルとして、Aβ1-42抗原を1000pg/mLになるように添加したTBS緩衝液を用いて、同様に測定した。結果として、コントロールサンプルのカウント値に対する各サンプルのカウント値の比率(%)を表7に示す。分子量は、分子量マーカー(バイオラッド社製)を上記条件で操作し、近似式を作成して各フラクションでの分子量を算出した。
【0067】
【0068】
表7に示されるように、EDTA2K血漿では、300-400kDa付近のフラクションにおいてデキストラン硫酸ナトリウムの未添加の条件でカウント値の比率が61%にまで低下したが、デキストラン硫酸ナトリウムを添加することでカウント値がコントロールサンプルと同程度(106%)まで回復することが確認された。一方、CSFでは、いずれのフラクションにおいてもデキストラン硫酸ナトリウムの未添加の条件でカウント値がコントロールサンプルと比較して低下せず、デキストラン硫酸ナトリウムの添加の有無によってカウント値の比率が大きく異なるフラクションもみられなかった。
【0069】
よって、カウント値を低下させる成分は血液サンプルのみに存在し、この成分による影響が、陰イオン性ポリマーを添加することによって回避できると考えられる。
【0070】
実施例9
健常人由来の血清サンプル、およびEDTA2Na血漿サンプル中のAβ1-42およびAβ1-40測定における陰イオン性ポリマーの影響を検討した。血液サンプルは、それぞれプレーン(10mL採血管、テルモ製)、およびEDTA2Na(7mL採血管、テルモ製)を使用して採血し、30分間室温で静置し、1200×gで10分間遠心分離を行い、上清を回収することにより調製した。
【0071】
サンプルの保存による影響を評価するため、サンプル調製後4℃で、0日、1日、2日、および3日間保存したサンプルを用いて、上記の「Aβ1-42の測定方法」および「Aβ1-40の測定方法」に従って、Aβ1-42およびAβ1-40を測定した。陰イオン性ポリマーとしては、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5000)を、抗体固相化粒子溶液に0.5g/Lになるように添加して、その添加効果を検討した。測定値と、各条件における保存期間0日に対する測定値の比率を表8に示す。測定値の算出方法は、合成Aβ1-42ペプチドと合成Aβ1-40ペプチドをそれぞれ0pg/mL、10pg/mL、100pg/mL、1000pg/mLとなるように調製したものをキャリブレーターとして測定した。このキャリブレーターを測定して得られたカウント値をもとに近似式を作成し、各サンプルから得られたカウント値を近似曲線に当てはめて測定値を算出した。
【0072】
【0073】
【0074】
表8に示されるように、デキストラン硫酸ナトリウムを添加した試薬では、血清検体、血漿検体ともにカウント値および測定値が上昇した。経時的に測定すると、測定値は低下する傾向がみられた。
【0075】
アミロイドβの測定では、Aβ1-42とAβ1-40の比をとって比較することが行われている。そこで、本実施例で測定した各条件におけるAβ1-40に対するAβ1-42の比を算出した。結果を表9に示す。
【0076】
【0077】
表9に示されるように、デキストラン硫酸ナトリウムを添加していない試薬で血清を測定すると経時的にAβ1-42/Aβ1-40比の値が変化することが確認された。しかし、デキストラン硫酸ナトリウムを添加した試薬で血清を測定すると、経時的にAβ1-42/Aβ1-40比の値が変化せず、保存期間に影響を受けずにAβ1-42/Aβ1-40比が得られることが確認された。
【0078】
よって、デキストラン硫酸ナトリウムのような陰イオン性ポリマーを添加すると、Aβ1-42およびAβ1-40のカウント値が上昇することに加えて、保存期間に影響を受けずに、Aβ1-42/Aβ1-40比が得られることが確認された。
【0079】
実施例10
デキストラン硫酸ナトリウム添加の試薬を用いて、アルツハイマー病(AD)患者と非AD患者の血清検体中のAβ1-42およびAβ1-40を測定した。
【0080】
AD患者(26例)と非AD患者(22例)の血清検体中のAβ
1-42およびAβ
1-40を以下の方法で測定した。まず、サンプル50μLと、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量5000)を0.5g/Lになるように添加した抗体固相化粒子溶液250μLを反応槽に分注し、攪拌した。抗原抗体反応系中のデキストラン硫酸ナトリウムの終濃度は、0.42g/Lである。その後、37℃で8分間インキュベートし、磁場を用いたB/F分離および洗浄を行った。この反応槽に、さらに酵素標識抗体溶液250μLを分注し、攪拌後、37℃で8分間インキュベートし、磁場を用いたB/F分離および洗浄を行った。その後、化学発光基質であるAMPPDを含むルミパルス(登録商標)基質液(富士レビオ社製)200μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で4分間インキュベートした後、発光量をルミノメーターで測定した。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム(ルミパルスG1200(富士レビオ社製))にて行った。結果を
図1に示す。実施例6と同様のキャリブレーターを用いて近似式を作成し、検体のカウントからAβ
1-42およびAβ
1-40の測定値を算出した。
【0081】
図1は、得られた各測定値から求めた、Aβ
1-42/Aβ
1-40比の箱ひげ図である。デキストラン硫酸ナトリウムが入った試薬を用いて測定した結果、AD患者のAβ
1-42/Aβ
1-40比が、非AD患者群間のAβ
1-42/Aβ
1-40比に対して有意に低い値となり(p値0.0022(Wilcoxon-Mann-Whitney test))、患者検体を用いたAβの測定においても、陰イオン性ポリマーの反応液への添加が有用であることが確認された。
【0082】
よって、デキストラン硫酸ナトリウムなどの陰イオン性ポリマーを添加した試薬はアルツハイマー病の診断に有用であることが示された。