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特許7606542カーボンブラック、カーボンブラックの製造方法、電極用組成物、電極及び二次電池
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  • 特許-カーボンブラック、カーボンブラックの製造方法、電極用組成物、電極及び二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】カーボンブラック、カーボンブラックの製造方法、電極用組成物、電極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20241218BHJP
   C09C 1/54 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241218BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
C09C1/48
C09C1/54
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022579444
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002251
(87)【国際公開番号】W WO2022168644
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021017669
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】田中 康介
(72)【発明者】
【氏名】永井 達也
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020130(WO,A1)
【文献】特開2002-105355(JP,A)
【文献】特開2005-220320(JP,A)
【文献】国際公開第2010/035871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が130m/g以上400m/g以下であり、
オイル吸収量が200mL/100g以上400mL/100g以下であり、
前記BET比表面積をS(m/g)、前記オイル吸収量をA(mL/100g)としたとき、比S/Aが0.3~2.5であり、
高周波誘導結合プラズマ質量分析法で測定されるニッケル含有量が50ppb以下である、カーボンブラック。
【請求項2】
前記ニッケル含有量が40ppb以下である、請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
前記比S/Aが0.4~2.5である、請求項1又は2に記載のカーボンブラック。
【請求項4】
前記比S/Aが0.5~1.5である、請求項3に記載のカーボンブラック。
【請求項5】
アセチレンブラックである、請求項1~4のいずれか一項に記載のカーボンブラック。
【請求項6】
炭化水素を含む原料ガスを円筒状分解炉で処理して、カーボンブラックを得る合成工程と、
前記カーボンブラックから、磁石により磁性異物を除去して、請求項1~5のいずれか一項に記載のカーボンブラックを得る高純度化工程と、
を含む、カーボンブラックの製造方法。
【請求項7】
前記高純度化工程が、前記合成工程で得られた前記カーボンブラックを、前記磁石に接触させて、又は、前記磁石の近傍に配置して、前記カーボンブラックから前記磁性異物を除去する工程である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記磁石の最大表面磁束密度が1000mT以上である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のカーボンブラックと、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質と、を含む、電極用組成物。
【請求項10】
請求項に記載の電極用組成物を含む、電極。
【請求項11】
請求項10に記載の電極を備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック及びその製造方法、並びに、カーボンブラックを含有する電極用組成物、電極、及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電材等としてカーボンブラックが利用されており、様々な特性値を備えるカーボンブラックの開発が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、特許文献2には特定の製造方法によって、高純度のファーネスブラックを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-035598号公報
【文献】特開2002-105355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯用電子機器の需要増加によって、二次電池の需要が増加しており、二次電池を構成する材料には、不良率を低減する工夫が求められている。
【0006】
二次電池用導電材として利用される材料として、カーボンブラックが挙げられる。しかし、特許文献2に記載の方法で製造されるカーボンブラックは、高純度ではあっても、二次電池用導電材としての特性に優れるものではなかった。
【0007】
そこで本発明は、ニッケル含有量が極めて少なく、二次電池用導電材として好適に利用可能なカーボンブラックを提供することを目的とする。また本発明は、上記カーボンブラックの製造方法を提供することを目的とする。更に本発明は、上記カーボンブラックを含有する電極用組成物、電極及び二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、オイル吸収量が150mL/100g以上400mL/100g以下であり、高周波誘導結合プラズマ質量分析法で測定されるニッケル含有量が50ppb以下である、カーボンブラックに関する。
【0009】
一態様において、上記ニッケル含有量は40ppb以下であってよい。
【0010】
一態様に係るカーボンブラックは、BET比表面積が35m/g以上400m/g以下であってよい。
【0011】
一態様に係るカーボンブラックは、BET比表面積が130m/g以上400m/g以下であってよく、オイル吸収量が200mL/100g以上400mL/100g以下であってよく、上記BET比表面積をS(m/g)、上記オイル吸収量をA(mL/100g)としたとき、比S/Aが0.3~2.5であってよい。
【0012】
一態様において、上記比S/Aは0.4~2.5であってよい。
【0013】
一態様において、上比S/Aは0.5~1.5であってよい。
【0014】
一態様に係るカーボンブラックは、アセチレンブラックであってよい。
【0015】
本発明の他の一側面は、炭化水素を含む原料ガスを円筒状分解炉で処理して、カーボンブラックを得る合成工程と、上記カーボンブラックから、磁石により磁性異物を除去して、本発明に係るカーボンブラックを得る高純度化工程と、を含む、カーボンブラックの製造方法に関する。
【0016】
一態様において、上記高純度化工程は、上記合成工程で得られた上記カーボンブラックを、上記磁石に接触させて、又は、上記磁石の近傍に配置して、上記カーボンブラックから上記磁性異物を除去する工程であってよい。
【0017】
一態様において、上記磁石の最大表面磁束密度は1000mT以上であってよい。
【0018】
本発明の更に他の一側面は、本発明に係るカーボンブラックと、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質と、を含む、電極用組成物に関する。
【0019】
本発明の更に他の一側面は、上記電極用組成物を含む、電極に関する。
【0020】
本発明の更に他の一側面は、上記電極を備える、二次電池に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ニッケル含有量が極めて少なく、二次電池用導電材として好適に利用可能なカーボンブラックが提供される。また本発明によれば、上記カーボンブラックの製造方法が提供される。更に本発明によれば、上記カーボンブラックを含有する電極用組成物、電極及び二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】円筒状分解炉の一態様を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
(カーボンブラック)
本実施形態のカーボンブラックは、オイル吸収量が150mL/100g以上400mL/100g以下、ニッケル含有量が50ppb以下のカーボンブラックである。
【0025】
このようなカーボンブラックは、ニッケル系異物の混入量が極めて少なく、ニッケル系異物に起因する不良発生を顕著に抑制できる。また、上記カーボンブラックは、十分なオイル吸収量を有するため、例えばリチウム二次電池の電極用導電材として用いた場合に、電解液を保液しやすく、活物質にリチウムイオンを効率的に供給できる。また、上記カーボンブラックは、分散性が良好であり、例えば活物質の間に均一に分散できる。このため、上記カーボンブラックによれば、不良発生が少なく、電池性能に優れる二次電池が実現できる。
【0026】
カーボンブラックのニッケル含有量は、好ましくは40ppb以下であり、より好ましくは30ppb以下であり、更に好ましくは20ppb以下である。
【0027】
本実施形態において、カーボンブラックのニッケル含有量は、高周波誘導結合プラズマ質量分析法で測定される値を示す。高周波誘導結合プラズマ質量分析法による測定は、具体的には、以下の方法で実施される。
【0028】
<高周波誘導結合プラズマ質量分析法による測定>
カーボンブラック試料約1gを石英ビーカーに精秤し、大気雰囲気中で電気炉により800℃×3hr加熱した。次いで残渣に混酸(塩酸+硝酸=7:3)10mLと超純水10mL以上を添加しホットプレート上で200℃×1hr加熱溶解した。放冷後、超純水により25mLに希釈・調整した溶液を高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(Agilent社製Agilent8800)で測定した。
【0029】
本実施形態のカーボンブラックは、直径数十nmの一次粒子が数珠状に融着したアグリゲート(1次凝集体)を有し、更にアグリゲート同士が物理的に絡まりあったアグロメレート(2次凝集体)を形成している炭素材料であってよい。
【0030】
カーボンブラックのBET比表面積は、例えば35m/g以上であり、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上、更に好ましくは130m/g以上、一層好ましくは150m/g以上、より一層好ましくは170m/g以上である。これにより、例えばリチウムイオン二次電池の電極用導電材として用いた場合に、活物質と集電体との接点がより多くなり、より良好な導電性付与効果が得られやすくなる傾向がある。また、カーボンブラックのBET比表面積は、例えば400m/g以下であってよく、好ましくは350m/g以下である。これにより、一次粒子間の相互作用、及び、アグリゲート間の絡み合いが抑制されて分散性がより向上し、例えば活物質の間へのより均一な分散が実現される。すなわち、カーボンブラックのBET比表面積は、例えば、35~400m/g、35~350m/g、50~400m/g、50~350m/g、100~400m/g、100~350m/g、130~400m/g、130~350m/g、150~400m/g、150~350m/g、170~400m/g、又は、170~350m/gであってよい。
【0031】
カーボンブラックのBET比表面積は、JIS K 6217-2に記載のB法、単点窒素吸着方法で測定される。
【0032】
カーボンブラックのオイル吸収量は、150mL/100g以上であり、好ましくは180mL/100g以上、より好ましくは220mL/100g以上、更に好ましくは260m/g以上である。これにより、例えばリチウムイオン二次電池の電極用導電材として用いた場合に、カーボンブラックが電解液をより保液しやすく、活物質にリチウムイオンがより供給されやすくなり、より良好な電池性能が得られやすくなる。また、カーボンブラックのオイル吸収量は、400mL/100g以下であり、好ましくは370mL/100g以下、より好ましくは350mL/100g以下である。これにより、アグロメレートの絡み合いが緩和されて分散性がより向上し、例えば活物質の間へのより均一な分散が実現される。すなわち、カーボンブラックのオイル吸収量は、例えば、150~400mL/100g、150~370mL/100g、150~350mL/100g、180~400mL/100g、180~370mL/100g、180~350mL/100g、220~400mL/100g、220~370mL/100g、220~350mL/100g、260~400mL/100g、260~370mL/100g、又は、260~350mL/100gであってよい。
【0033】
なお、カーボンブラックのオイル吸収量は、オイルとしてDBP(フタル酸ジブチル)を用いてJIS K6221のB法に記載の方法により測定された値を、下記式(a)により、JIS K6217-4:2008相当の値に換算した値を示す。
DBP吸収量=(A-10.974)/0.7833 …(a)
[式中、Aは、JIS K6221のB法に記載の方法により測定されたDBP吸収量の値を示す。]
【0034】
カーボンブラックのBET比表面積をS(m/g)、オイル吸収量をA(mL/100g)としたとき、比S/Aは、例えば0.2以上であってよく、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.5以上である。また、比S/Aは、例えば3.0以下であり、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下である。これにより、アグリゲートの数、大きさ及び分散性のバランスがリチウムイオン二次電池の電極用導電材としてより好適となり、活物質及び集電体の間に十分な接点を形成しながら、活物質にリチウムイオンを供給し易くなり、より良好な電池性能が得られやすくなる。すなわち、比S/Aは、例えば、0.2~3.0、0.2~2.0、0.2~1.5、0.2~1.3、0.3~3.0、0.3~2.0、0.3~1.5、0.3~1.3、0.4~3.0、0.4~2.0、0.4~1.5、0.4~1.3、0.5~3.0、0.5~2.0、0.5~1.5、又は、0.5~1.3であってよい。
【0035】
好適な一態様において、カーボンブラックは、BET比表面積が130~400m/g、オイル吸収量が200~400mL/100g、且つ、比S/Aが0.3~2.5(好ましくは0.4~2.5、より好ましくは0.5~2.5、更に好ましくは0.5~1.5)であってよい。このようなカーボンブラックは、優れた電子伝導性能、イオン伝導性能及び分散性を有するため、導電材として特に好適に用いることができる。このようなカーボンブラックは、例えば、後述の酸素ガスを噴射する方法により製造される。
【0036】
なお、本態様のBET比表面積及びオイル吸収量の範囲においては、比S/Aが大きいほど、磁性異物が除去し難い傾向がある。本態様のカーボンブラックは、敢えて比S/Aを上記範囲内としつつニッケル含有量を少なくすることで、上述の導電材としての優れた効果と磁性異物に起因する不具合低減との両立を図っている。
【0037】
本実施形態のカーボンブラックは、アセチレンブラックであることが好ましい。
【0038】
本実施形態のカーボンブラックは、以下の方法で製造することができる。
【0039】
(カーボンブラックの製造方法)
本実施形態のカーボンブラックの製造方法は、炭化水素を含む原料ガスを円筒状分解炉で処理して、カーボンブラックを得る合成工程と、合成工程で得られたカーボンブラックから磁石により磁性異物を除去して、オイル吸収量が150mL/100g以上400mL/100g以下、ニッケル含有量が50ppb以下のカーボンブラックを得る高純度化工程と、を含む。
【0040】
合成工程では、原料ガスを円筒状分解炉で処理する。円筒状分解炉は、例えば、炭化水素の熱分解反応を行う熱分解部と、熱分解反応生成物を改質する熟成部と、を備えるものであってよい。
【0041】
円筒状分解炉は、原料ガスを上記熱分解部に供給する供給口と、上記熟成部から生成したカーボンブラックを回収する回収口とを更に備えていてよい。
【0042】
円筒状分解炉は、カーボンブラックがより均質化して後述の高純度化工程での磁性異物の除去がより効率化する観点から、熟成部の直径Dに対する熱分熱部の直径Dの比(D/D)が1.2~2.2、且つ、熟成部の長さLに対する熱分解部の長さLの比(L/L)が0.4~1.0であることが好ましい。これにより、熱分解部に供給された原料ガスを滞留させて、熱分解反応の完結及びアグリゲートの発達によるカーボンエアロゾルの形成をより確実に実施できる。
【0043】
比(D/D)は、好ましくは1.3~1.8であり、比(L/L)は好ましくは0.6~0.8である。すなわち、比(D/D)は、例えば、1.2~2.2、1.3~2.2、1.2~1.8、又は、1.3~1.8であってよく、比(L/L)は、例えば、0.4~1.0、0.6~1.0、0.4~0.8、又は、0.6~0.8であってよい。
【0044】
熱分解部は、供給された原料ガスが、1900℃以上の温度で30~150秒滞留することが好ましい。滞留時間を30秒以上とすることで、熱分解反応の完結及び連鎖構造の発達によるカーボンエアロゾルの形成をより確実に実施できる。また、滞留時間を150秒以下とすることで、カーボンエアロゾルの凝集化が抑制され、後述の高純度化工程で磁性異物をより除去しやすいカーボンブラックが得られやすくなる。
【0045】
熟成部は、熱分解部から供給された熱分解反応生成物が、1700℃以上の温度で20~90秒滞留することが好ましい。滞留時間を20秒以上とすることで、カーボンエアロゾルの改質及びアグリゲートの強化によって、より高品質のカーボンブラックが得られやすくなる。また、滞留時間を90秒以下とすることで、カーボンエアロゾルの凝集化が抑制され、後述の高純度化工程で磁性異物をより除去しやすいカーボンブラックが得られやすくなる。
【0046】
熱分解部及び熟成部における滞留速度は、それぞれ、流通するガスのガス線速度を調整することで適宜調整できる。熟成部における滞留時間は、熱分解部における滞留時間より短いことが好ましい。すなわち、熟成部におけるガス線速度は、熱分解部におけるガス線速度より速いことが好ましい。
【0047】
図1は、円筒状分解炉の一態様を示す模式断面図である。図1に示す円筒状分解炉10は、熱分解部1と熟成部2とを備える。また、円筒状分解炉は、熱分解部1に原料ガスを供給するノズル(供給口)3を更に備える。
【0048】
本実施形態において、原料ガスは、第1の炭素源として、アセチレンを含むことが好ましい。原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)の含有量は、例えば10体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは30体積%以上であり、100体積%であってもよい。なお、原料ガス中の各成分の含有量は、150℃、1気圧での体積を基準として体積比を示す。
【0049】
原料ガスは、第1の炭素源(例えばアセチレン)以外に、更に1種類以上の他の炭素源を更に含んでいてもよい。他の炭素源としては、例えば、メタン、エタン、プロパン等の飽和炭化水素、エチレン、プロピレン、ブタジエン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの炭素源を組み合わせることにより、反応温度を変化させて、カーボンブラックの比表面積を増減させることができる。炭素源は、アセチレン、エチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素及びベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素からなる群より選択されることが好ましい。また、炭素源としては、ガソリン、灯油、軽油、重油などの石油留分を用いてもよい。
【0050】
原料ガスが、アセチレンと他の炭素源とを含有する場合、アセチレンに対する他の炭素源の比(他の炭素源の体積/アセチレンの体積)は、例えば0.01以上であってよい。また、アセチレンに対する他の炭素源の比(他の炭素源の体積/アセチレンの体積)は、例えば99以下であってよく、好ましくは50以下、、より好ましくは30であり、10以下又は2以下であってもよい。すなわち、アセチレンに対する他の炭化水素の比(体積比)は、例えば、0.01~99、0.01~50、0.01~30、0.01~10、又は0.01~2であってよい。
【0051】
原料ガスは、水蒸気ガス、酸素ガス、水素ガス、二酸化炭素ガス等を更に含んでいてもよい。これらのガスとしては、99.9体積%以上の高純度ガスを用いることが好ましい。このような高純度ガスを用いることで、磁性異物が少なく、BET比表面積及びオイル吸収量が安定したカーボンブラックが製造しやすくなる傾向がある。
【0052】
水蒸気ガスの含有量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば0~80体積部であってよく、好ましくは0.1~70体積部、より好ましくは1~60体積部、更に好ましくは3~55体積部である。水蒸気ガスの含有量が上記範囲であると、カーボンブラックのBET比表面積がより大きくなる傾向がある。すなわち、水蒸気ガスの含有量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば、0~80体積部、0~70体積部、0~60体積部、0~55体積部、0.1~80体積部、0.1~70体積部、0.1~60体積部、0.1~55体積部、1~80体積部、1~70体積部、1~60体積部、1~55体積部、3~80体積部、3~70体積部、3~60体積部、又は、3~55体積部であってよい。
【0053】
合成工程では、原料ガスと共に酸素ガスを熱分解部に供給することが好ましく、原料ガスを熱分解部に供給する供給口の周囲から酸素ガスを噴射することで、酸素ガスを熱分解部に供給することがより好ましい。
【0054】
円筒状分解炉は、原料ガスの供給口の近傍に酸素ガスの噴射口を有することが好ましく、供給口を取り囲むように均等間隔に設けられた複数の噴射口を有することがより好ましい。噴射口の数は、好ましくは3以上、より好ましくは3~8である。
【0055】
また、円筒状分解炉は、原料ガスの供給口とその周囲から酸素ガスを噴射する噴射口とを有する多重管構造(例えば、二重管構造、三重管構造等)のノズルを備えていてもよい。二重管構造の場合、例えば、内筒側の空隙部から原料ガスを、外筒側の空隙部から酸素ガスを噴射してよい。内管、中管及び外管からなる三重管構造の場合、例えば、中管の外壁と外管の内壁とによって形成される空隙部から酸素ガスを噴射し、残りの空隙部から原料ガスを噴射してよい。
【0056】
酸素ガスの噴射量は、カーボンブラックの生成収率を考慮しなければ特に制限はない。必要以上に多くの酸素ガスを噴射してもカーボンブラックを製造できる。上述の好適なオイル吸収量を有するカーボンブラックが得られる観点からは、酸素ガスの噴射量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば0~200体積部であってよく、好ましくは0.1~190体積部、より好ましくは0.5~180体積部、更に好ましくは1~160体積部である。すなわち、酸素ガスの噴射量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば、0~200体積部、0~190体積部、0~180体積部、0~160体積部、0.1~200体積部、0.1~190体積部、0.1~180体積部、0.1~160体積部、0.5~200体積部、0.5~190体積部、0.5~180体積部、0.5~160体積部、1~200体積部、1~190体積部、1~180体積部、又は、1~160体積部であってよい。
【0057】
合成工程では、例えば、アセチレン以外の他の炭化水素の添加率、噴射する酸素ガスの量等を調整することによって、得られるカーボンブラックのBET比表面積及びオイル吸収量を増減させることができる。
【0058】
合成工程で得られるカーボンブラック中のニッケル含有量は、例えば50ppb超であってもよく、60ppb以上であってもよく、70ppb以上であってもよく、80ppb以上であってもよい。
【0059】
高純度化工程は、合成工程で得られたカーボンブラックから、磁石により磁性異物を除去する工程である。
【0060】
高純度化工程は、例えば、合成工程で得られたカーボンブラックを、磁石に接触させて、又は、磁石の近傍に配置して(例えば、磁石の近傍を通過させて)、カーボンブラックから磁性異物を除去する工程であってよい。
【0061】
用いる磁石に特に制限はなく、例えばステンレス304の筒の中にネオジム磁石を詰めたマグネット棒を用いてよい。
【0062】
磁石の最大表面磁束密度は特に限定されないが、例えば700mT以上であってよく、好ましくは1000mT以上、より好ましくは1200mT以上である。これにより、カーボンブラックに付着した微細な磁性異物がより強力に吸着されるため、ニッケル含有量のより少ないカーボンブラックが得られやすくなる。磁石の最大表面磁束密度の上限は特に限定されず、例えば、1400mT以下であってよい。すなわち、磁石の最大表面磁束密度は、例えば、700~1400mT、1000~1400mT、又は、1200~1400mTであってよい。
【0063】
高純度化工程では、ニッケル含有量が50ppb以下(好ましくは40ppb以下、より好ましくは30ppb以下、更に好ましくは20ppb以下)となるように、カーボンブラックから磁性異物を除去する工程であってよい。ニッケル含有量の下限に特に制限はないが、カーボンブラック中のニッケル含有量は、例えば1ppb以上であってよく、コスト及び生産性の観点からは、10ppb以上であってもよく、15ppb以上であってもよい。すなわち、カーボンブラック中のニッケルの含有量は、例えば、1~50ppb、1~40ppb、1~30ppb、1~20ppb、10~50ppb、10~40ppb、10~30ppb、10~20ppb、15~50ppb、15~40ppb、15~30ppb、又は、15~20ppbであってよい。
【0064】
(用途)
本実施形態のカーボンブラックは、ニッケル系異物の含有量が顕著に少ないため、二次電池用導電材、電力ケーブルの半導電層等の用途に好適に用いることができる。また、本実施形態のカーボンブラックは、オイル吸収量が上記範囲であるため、二次電池用導電材として特に好適に用いることができる。
【0065】
本実施形態のカーボンブラックは、例えば、カーボンブラックと、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質と、を含む、電極用組成物として好適に用いることができる。電極用組成物における活物質としては、公知の活物質を特に制限無く用いることができる。
【0066】
活物質としては、例えば、
コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、層状マンガン酸リチウム(LiMnO)、複数の遷移金属を含む複合酸化物であるLiMnNiCo(x+y+z=1、0≦y<1、0≦z<1、0≦x<1)等の層状化合物;
Li1+xMn2-x(xは0~0.33を示す。)、Li1+xMn2-x-y(MはNi、Co、Cr、Cu、Fe、Al及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の金属を示し、xは0~0.33を示し、yは0~1.0を示す。但し、2-x-y>0である。)、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn2-x(MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn及びTaからなる群より選択される少なくとも1種の金属を示し、xは0.01~0.1を示す。)、LiMnMO(MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn)より選ばれた少なくとも1種の金属である)等のマンガン系化合物;
銅-リチウム酸化物(LiCuO);
鉄-リチウム酸化物(LiFe);
LiFePO、LiMnPO、LiMnFePO、LiMPOF(MはCo、Ni、Fe、Cr及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属を示す。)等のオリビン系化合物;
LiV、V、Cu等のバナジウム酸化物;
ジスルフィド化合物;
LiMSiO(MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn及びTaからなる群より選択される少なくとも1種の金属を示す。)等のケイ酸塩系化合物;
LiMO・LiMO(MはMn、Co、Ni、Fe、Cr及びZn群より選択される少なくとも1種の金属を示す。)、Fe(MoO、LiS、S等が挙げられる。
【0067】
本実施形態の二次電池は、上記電極用組成物を含む電極を備えている。本実施形態の二次電池は、正極及び/又は負極が上記電極用組成物を含んでいてよく、正極が上記電極用組成物を含むことが好ましい。
【0068】
本実施形態の二次電池において、上記電極用組成物を含まない電極、及び、電極以外の構成は特に限定されず、公知の二次電池における電極及び構成を特に制限無く用いることができる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0070】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
原料ガスの混合比をアセチレンガス86体積%及び他の炭素源(トルエンガス)14体積%とし、円筒状分解炉の炉頂に設置されたノズルから噴出速度を6.5m/sで噴霧し、アセチレンガスの熱分解および又は燃焼反応を利用してカーボンブラックを製造し、炉下部に直結されたバグフィルターからカーボンブラックを中間タンクに捕集した。(合成工程)捕集したカーボンブラックを途中に磁性異物捕集用磁石(φ20mm、長さ300mmのステンレス304の筒の中にネオジム磁石を詰めたマグネット棒、最大表面磁束密度1000mT)を装備した移送管を通過させて製品タンクに捕集し(高純度化工程)、カーボンブラック(CB1)を得た。得られたCB1を用いて、後述の方法で電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
原料ガスの混合比をアセチレンガス100体積%に変更した以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB2)を得た。得られたCB2を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
原料ガスの混合比をアセチレンガス71体積%、酸素ガス15体積%、水蒸気12体積%及び他の炭素源(トルエンガス)2体積%に変更した以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB3)を得た。得られたCB3を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例4)
原料ガスの混合比をアセチレンガス69体積%、酸素ガス8体積%、水蒸気13体積%及び他の炭素源(トルエンガス)10体積%に変更した以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB4)を得た。得られたCB4を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0075】
(実施例5)
原料ガスの混合比をアセチレンガス67体積%、酸素ガス3体積%、水蒸気15体積%及び他の炭素源(ベンゼンガス)15体積%に変更した以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB5)を得た。得られたCB5を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0076】
(実施例6)
原料ガスの混合比をアセチレンガス51体積%、酸素ガス27体積%、水蒸気20体積%及び他の炭素源(トルエンガス)2体積%に変更した以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB6)を得た。得られたCB6を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
原料ガスの混合比をアセチレンガス71体積%、酸素ガス15体積%、水蒸気12体積%及び他の炭素源(トルエンガス)2体積%に変更し、中間タンクからサンプルを採取して高純度化工程を行わなかった以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB7)を得た。得られたCB7を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
原料ガスの混合比をアセチレンガス67体積%、酸素ガス3体積%、水蒸気15体積%及び他の炭素源(ベンゼンガス)15体積%に変更し、中間タンクからサンプルを採取して高純度化工程を行わなかった以外は、実施例1と同様な方法でカーボンブラック(CB8)を得た。得られたCB8を用いて電極用導電性組成物及び電池用電極を作製し、各評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0079】
(比較例3)
比較例3のカーボンブラックとして、SUPER P Li(IMERYS Graphite&Carbon社製、商品名:SUPER P Li)を準備した。
【0080】
(比較例4)
比較例4のカーボンブラックとして、ECP(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:カーボンECP)を準備した。
【0081】
<評価方法>
(ニッケル含有量の測定)
カーボンブラック試料約1gを石英ビーカーに精秤し、大気雰囲気中で電気炉により800℃×3hr加熱した。次いで残渣に混酸(塩酸+硝酸=7:3)10mLと超純水10mL以上を添加しホットプレート上で200℃×1hr加熱溶解した。放冷後、超純水により25mLに希釈・調整した溶液を高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(Agilent社製Agilent8800)でニッケル含有量を測定した。
【0082】
(BET比表面面積の測定)
カーボンブラックのBET比表面積は、JIS K 6217-2 B法に準拠し、吸着ガスとして窒素を用い、相対圧p/p0=0.30±0.04の条件でBET一点法にて測定した。
【0083】
(オイル吸収量の測定)
カーボンブラックのオイル吸収量は、オイルとしてDBP(フタル酸ジブチル)を用いてJIS K6221のB法に記載の方法により測定された値を、下記式(a)により、JIS K6217-4:2008相当の値に換算した値を示す。
DBP吸収量=(A-10.974)/0.7833 …(a)
[式中、Aは、JIS K6221のB法に記載の方法により測定されたDBP吸収量の値を示す。]
【0084】
(電極用組成物の分散液の調製)
溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(関東化学株式会社製、以下、NMPと記載)、活物質としてLiNi0.5Mn0.3Co0.2(ユミコア社製、商品名:TX10)、結着材としてポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名:HSV900、以下、PVdFと記載)、導電材として実施例又は比較例のカーボンブラック、分散剤としてポリビニルアルコール(デンカ社製、商品名:B05、以下、ポリビニルアルコールと記載)をそれぞれ用意した。LiNi0.5Mn0.3Co0.2が固形分で98質量%、PVdFが固形分で2質量%、カーボンブラックが固形分で1質量%、ポリビニルアルコールが固形分で0.1質量%となるように秤量して混合し、この混合物に固形分含有量が68質量%になるようにNMPを添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合し、電極用組成物(正極用組成物)の分散液を得た。
【0085】
(正極の作製)
調製した電極用組成物の分散液を、厚さ15μmのアルミニウム箔(UACJ社製)上に、アプリケータにて成膜し、乾燥機内に静置して105℃、一時間で予備乾燥させた。次に、ロールプレス機にて200kg/cmの線圧でプレスし、厚さ15μmのアルミニウム箔を含んだ膜の厚さが80μmになるように調製した。揮発成分を除去するため、170℃で3時間真空乾燥して正極を得た。
【0086】
(電極評価)
作製した正極を直径14mmの円盤状に切り抜き、表裏をSUS304製平板電極によって挟んだ状態で、電気化学測定システム(ソーラトロン社製、ファンクションジェネレーター1260およびポテンショガルバノスタット1287)を用いて、振幅電圧10mV、周波数範囲0.1Hz~1MHzにて交流インピーダンスを測定し、Cole-ColeプロットのX軸との交点を抵抗値とした。
【0087】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。なお、表1中、「炭化水素ガス」の混合比は、他の炭素源の混合比を意味する。
【0088】
【表1】
【符号の説明】
【0089】
1…熱分解部、2…熟成部、3…ノズル、10…円筒状分解炉。
図1